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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164378
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20221020BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221020BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20221020BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20221020BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20221020BHJP
   C08G 18/36 20060101ALI20221020BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/013
C08L75/04
C08L15/00
C08L7/00
C08G18/36
B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069831
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】清水 克典
(72)【発明者】
【氏名】木村 和資
(72)【発明者】
【氏名】影山 裕一
(72)【発明者】
【氏名】進藤 涼平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 拓志
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
4J034
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131BA05
3D131BA08
3D131BB11
3D131BC07
3D131BC12
3D131BC18
3D131BC19
4J002AC011
4J002AC023
4J002AC031
4J002CK032
4J002DA036
4J002DE136
4J002DE146
4J002DE236
4J002DG056
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002GN01
4J034BA06
4J034CA04
4J034CA05
4J034CA15
4J034CB03
4J034CB04
4J034CC12
4J034CC61
4J034CC65
4J034CD08
4J034DA05
4J034DB04
4J034DB05
4J034DF02
4J034DP19
4J034EA12
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC06
4J034HC12
4J034HC64
4J034HC65
4J034HC67
4J034HC71
4J034JA01
4J034JA32
4J034JA42
4J034MA22
(57)【要約】
【課題】氷上性能およびウェット性能を向上し、更に良好な破断伸びを確保することを可能にしたタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラックおよび/または白色充填剤30質量部~100質量部と、ポリウレタン系微粒子を10質量%~60質量%含む粒子分散体0.1質量部~30質量部とを配合し、ポリウレタン系微粒子として、ヒドロキシ基を含む植物系脂肪酸エステル由来の合成物であり、平均粒子径が1μm~100μmであるものを使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラックおよび/または白色充填剤30質量部~100質量部と、ポリウレタン系微粒子を10質量%~60質量%含む粒子分散体0.1質量部~30質量部とが配合されてなり、前記ポリウレタン系微粒子が、ヒドロキシ基を含む植物系脂肪酸エステル由来の合成物であり、その平均粒子径が1μm~100μmであることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記粒子分散体が、数平均分子量が1,000~100,000である液状ジエン系ポリマーであることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ポリウレタン系微粒子が、酸無水物基またはカルボン酸基を有するジエン系共重合体により表面修飾されてなることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記植物系脂肪酸エステルがヒマシ油系ポリオールであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記ジエン系ゴムが天然ゴムおよびポリブタジエンゴムを含み、前記ジエン系ゴム中に占める前記ポリブタジエンゴムの割合が30質量%以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いたことを特徴とするスタッドレスタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として冬用タイヤのトレッド部に使用されることを意図したタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面を走行することが想定される冬用タイヤ(例えばスタッドレスタイヤ等)のトレッド部に使用されるゴム組成物においては、氷雪路面における走行性能(氷上性能)を向上することが求められる。例えば、特許文献1は、スタッドレスタイヤのトレッド部に用いるゴム組成物に、ウレタンフォームを粉砕して得られた粉末を配合することを提案している。即ち、ウレタンフォームの粉末は、ウレタンフォームの持つ圧縮抵抗や反発弾性などの弾性特性をゴム組成物内で維持するので、これをゴム中に分散させることでゴム組成物の弾性特性を改善し、且つ、ゴム組成物の柔軟性を確保して、氷雪路面に対する接地性を向上することで氷上性能の向上を図っている。また、氷雪路面には、雪や氷が溶けて生じた水が存在する場合もあるため、前述の性能に加えて、更にウェット性能を向上することも求められる。このような性能(氷上性能、ウェット性能、破断伸び)を両立するために、ゴム組成物に各種材料(例えば、前述の特許文献1が提案するウレタンフォームの粉末など)を配合することが検討されており、特に、近年、石油資源の枯渇や二酸化炭素の排出規制などの環境問題の観点から、天然由来の成分を用いることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007‐31521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、氷上性能およびウェット性能を向上し、更に良好な破断伸びを確保することを可能にしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラックおよび/または白色充填剤30質量部~100質量部と、ポリウレタン系微粒子を10質量%~60質量%含む粒子分散体0.1質量部~30質量部とが配合されてなり、前記ポリウレタン系微粒子が、ヒドロキシ基を含む植物系脂肪酸エステル由来の合成物であり、その平均粒子径が1μm~100μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の発明者は、タイヤ用ゴム組成物に優れた氷上性能を付与するための配合剤について鋭意研究した結果、ポリウレタン系微粒子(特に、ヒドロキシ基を含む植物系脂肪酸エステル由来の合成物であり、その平均粒子径が1μm~100μmであるもの)を含む粒子分散体を用いることで、氷上性能およびウェット性能を向上し、更に良好な破断伸びを確保できることを知見した。本発明は、この知見に基づいて、タイヤ用ゴム組成物は上述の配合で構成し、粒子分散体の配合量や、粒子分散体中のポリウレタン系微粒子の割合を特定の範囲に設定しているので、氷上性能およびウェット性能を向上し、更に良好な破断伸びを確保し、これら性能をバランスよく高度に両立することができる。
【0007】
本発明においては、粒子分散体が、数平均分子量が1,000~100,000である液状ジエン系ポリマーであることが好ましい。また、ポリウレタン系微粒子が、酸無水物基またはカルボン酸基を有するジエン系共重合体により表面修飾されてなることが好ましい。更に、植物系脂肪酸エステルがヒマシ油系ポリオールであることが好ましい。これにより、氷上性能およびウェット性能を向上し、更に良好な破断伸びを確保するには有利になる。
【0008】
本発明においては、ジエン系ゴムが天然ゴムおよびポリブタジエンゴムを含み、ジエン系ゴム中に占めるポリブタジエンゴムの割合が30質量%以上であることが好ましい。このように適度な量のポリブタジエンゴムを含むジエン系ゴムを用いることで、ゴム物性が良好になり、氷上性能を向上するには有利になる。
【0009】
上述の本発明のタイヤ用ゴム組成物は、スタッドレスタイヤのトレッド部に好適に用いることができる。本発明のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いたタイヤは、上述の優れたゴム物性によって、氷上性能およびウェット性能を向上し、更に良好な破断伸びを確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムである。ジエン系ゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物(特に、冬用のタイヤ用ゴム組成物)に一般的に用いられるゴムを使用することができる。本発明では、特に、ジエン系ゴムとして、天然ゴムおよびポリブタジエンゴムを含むことが好ましい。ジエン系ゴムが天然ゴムおよびポリブタジエンゴムを含む場合、ポリブタジエンゴムの配合量は、ジエン系ゴム100質量%中に好ましくは30質量%以上、より好ましくは30質量%~70質量%である。また、天然ゴムの配合量は、ジエン系ゴム100質量%中に好ましくは30質量%以上、より好ましくは30質量%~70質量%である。ポリブタジエンゴムの配合量が30質量%未満であると、低温時の柔軟性に悪影響を及ぼす虞がある。尚、本発明のゴム組成物として、天然ゴムおよびポリブタジエンゴム以外の他のジエン系ゴムを配合することもできる。他のジエン系ゴムとしては、イソプレンゴム、スチレン‐ブタジエンゴム等のタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられるゴムを使用することができる。これら他のジエン系ゴムは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。
【0011】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30質量部~100質量部、好ましくは35質量部~90質量部配合する。このように適度な量のカーボンブラックや白色充填剤を配合することで、ゴム組成物のしなやかさを確保して氷上性能を良好にすることができる。カーボンブラックおよび/または白色充填剤の配合量が30質量部未満であると、ゴム組成物の機械的特性を十分に確保できず、基本的なタイヤ性能(例えば、硬度や耐摩耗性)が低下する虞がある。カーボンブラックおよび/または白色充填剤の配合量が100質量部を超えると、ゴム組成物のしなやかさが低下して良好な氷上性能を確保することが難しくなる。尚、カーボンブラックおよび白色充填剤を併用する場合、上述の配合量はこれら2種の合計量である。
【0012】
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、HMF、SRF等のファーネスカーボンブラックが挙げられ、これらを単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2 SAは、特に制限されるものではないが、好ましくは40m2 /g~200m2 /g、より好ましくは50m2 /g~150m2 /gであるとよい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積を40m2 /g以上にすることにより、ゴム組成物の機械的特性および耐摩耗性を確保することができる。またカーボンブラックの窒素吸着比表面積を200m2 /g以下にすることにより、氷上性能を良好にすることができる。本明細書において、カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2 SAは、JIS K6217‐2に準拠して測定するものとする。
【0013】
白色充填剤として、例えばシリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウムを挙げることができる。これらを単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。なかでもシリカが好ましく氷上性能をより優れたものにすることができる。
【0014】
シリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。シリカのCTAB吸着比表面積は、特に制限されるものではないが、好ましくは80m2 /g~260m2 /g、より好ましくは140m2 /g~200m2 /gであるとよい。シリカのCTAB吸着比表面積を80m2 /g以上にすることにより、ゴム組成物の耐摩耗性を確保することができる。またシリカのCTAB吸着比表面積を200m2 /g以下にすることにより、ウェット性能および低転がり抵抗性を良好にすることができる。本明細書において、シリカのCTAB比表面積は、ISO 5794により測定された値とする。
【0015】
本発明においては、シリカと共にシランカップリング剤を配合することが好ましい。シランカップリング剤を配合することにより、ジエン系ゴムに対するシリカの分散性を向上し、耐摩耗性および氷上性能のバランスをより高くすることができる。シランカップリング剤の種類は、シリカ配合のゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカの重量に対し、好ましくは3質量%~15質量%にすると良く、より好ましくは5質量%~10質量%にすると良い。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の3質量%未満であるとシリカの分散を十分に改良することができない虞がある。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の15質量%を超えるとシランカップリング剤同士が縮合し、ゴム組成物における所望の硬度や強度を得ることができない。
【0016】
本発明のゴム組成物には、後述のようにポリウレタン系微粒子を含む粒子分散体が配合される。本発明の発明者は、タイヤ用ゴム組成物に優れた氷上性能を付与するための配合剤について鋭意研究した結果、後述の特性を有するポリウレタン系微粒子を含む粒子分散体を用いることで、氷上性能およびウェット性能を向上し、更に良好な破断伸びを確保できることを知見した。
【0017】
本発明で使用されるポリウレタン系微粒子は、ヒドロキシ基を含む植物系脂肪酸エステル由来の合成物である。ヒドロキシ基を含む植物系脂肪酸エステルとしては、ヒマシ油系ポリオール、パームヤシ油系ポリオール、ピーナッツ油系ポリオール等を例示することができる。これらの中では、特に、ヒマシ油系ポリオールを好適に使用することができる。上述のような天然由来のポリウレタン系微粒子を含有することで、ゴム組成物は適度な柔軟性や吸水性を確保することができ、良好な破断伸びを確保しながら、氷上性能およびウェット性能を向上するには有利になる。尚、「ポリウレタン系」とは、イソシアネート基の反応により生じる、例えば、ウレア結合、ウレタン結合等の結合を有する化合物を指す。
【0018】
本発明で使用されるポリウレタン系微粒子は、酸無水物基またはカルボン酸基を有するジエン系共重合体により表面修飾されていることが好ましい。このように表面修飾を施すことで、分子中の二重結合が多くなり、ゴムとの架橋性を向上し、ポリウレタン系微粒子の脱落を防止することができる。酸無水物基またはカルボン酸基を有するジエン系共重合体としては、例えば、無水マレイン酸変性ポリイソプレン、無水マレイン酸変性ポリブタジエン、無水マレイン酸変性ポリスチレンブタジエン等を例示することができる。
【0019】
本発明で使用されるポリウレタン系微粒子は、平均粒子径が1μm~100μm、好ましくは10μm~50μmである。このように適度な平均粒子径を有することで、氷上性能およびウェット性能を向上し、更に良好な破断伸びを確保するには有利になる。平均粒子径が1μm未満であると氷上摩擦向上効果がなく、平均粒子径が100μmを超えると破断伸びが低下する。
【0020】
本発明で使用される粒子分散体としては、例えば、液状ジエン系ポリマーを用いることができる。特に、前述のポリウレタン系微粒子を、本発明のゴム組成物の主成分となるジエン系ゴムと相溶するものであるとよい。言い換えると、粒子分散体(液状ジエン系ポリマー)は、本発明のゴム組成物の主成分となるジエン系ゴムに近い溶解度パラメーター(SP値)を有するものであるとよい。特に、本発明のゴム組成物の主成分となるジエン系ゴムと同一の成分からなる液状ジエン系ポリマーを使用することが好ましい。
【0021】
粒子分散体として液状ジエン系ポリマーを用いる場合、その数平均分子量は好ましくは1,000~100,000、より好ましくは10,000~60,000であるとよい。これにより、氷上性能およびウェット性能を向上し、更に良好な破断伸びを確保するには有利になる。数平均分子量が1,000未満であると、微粒子を保持できず、氷上摩擦向上効果が得られない。数平均分子量が100,000を超えると微粒子を分散できず、氷上摩擦向上効果が低下する。数平均分子量が1,000~100,000である液状ジエン系ポリマーとしては、例えば、液状イソプレン重合体、液状ブタジエン重合体、液状スチレンブタジエン重合体等を例示することができる。
【0022】
本発明においては、上述の粒子分散体中に上述のポリウレタン系微粒子が分散される。その際、粒子分散体中に含まれるポリウレタン系微粒子の割合は、10質量%~60質量%、好ましくは20質量%~50質量%であるとよい。このように、粒子分散体中に適度な量のポリウレタン系微粒子が含有されるようにすることで、氷上性能およびウェット性能を向上し、更に良好な破断伸びを確保するには有利になる。粒子分散体中に含まれるポリウレタン系微粒子の割合が10質量%未満であると氷上摩擦向上効果が得られない。粒子分散体中に含まれるポリウレタン系微粒子の割合が60質量%を超えると微粒子が凝集し、破断物性が低下する。
【0023】
本発明では、ゴム組成物の主成分となるジエン系ゴムに対して、上述のポリウレタン系微粒子を含む上述の粒子分散体を配合するが、その際、ジエン系ゴム100質量部に対する粒子分散体の配合量は0.1質量部~30質量部、好ましくは5質量部~20質量部である。このように粒子分散体を配合することで、氷上性能およびウェット性能を向上し、更に良好な破断伸びを確保するには有利になる。粒子分散体の配合量が0.1質量部未満であると、粒子分散体(ポリウレタン系微粒子)が微量すぎるため、これを配合することによる効果が十分に得られない。粒子分散体の配合量が30質量部を超えると、ゴム組成物の破断伸びが低下する。
【0024】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、加硫または架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、液状ポリマー、テルペン系樹脂、熱硬化性樹脂などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で配合することができる。またこれら添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫または架橋するのに使用することができる。これら添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。タイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0025】
上述の本発明のタイヤ用ゴム組成物は、空気入りタイヤ(特に氷雪路面での走行が想定されるスタッドレスタイヤ等の冬用タイヤ)のトレッド部に好適に用いることができる。本発明のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いた空気入りタイヤは、その優れた物性によって、氷上性能、ウェット性能、および破断伸びを従来レベル以上に向上し、これら性能をバランスよく両立することができる。
【0026】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0027】
表3に示す配合剤を共通配合とし、表1~2に示す配合からなるタイヤ用ゴム組成物(標準例1、比較例1~6、実施例1~14)を調製するにあたり、硫黄および加硫促進剤を除く成分を1.7Lのバンバリーミキサーで5分間混練し、145℃に達したとき放出しマスターバッチとした。得られたマスターバッチに、硫黄および加硫促進剤を加えて70℃のオープンロールで混練することにより、21種類のタイヤ用ゴム組成物を得た。
【0028】
得られたタイヤ用ゴム組成物について、下記に示す方法により、ウェット性能、氷上性能、および破断伸びの評価を行った。
【0029】
ウェット性能
得られたタイヤ用ゴム組成物を、所定形状の金型(内寸:長さ150mm、幅150mm、厚さ2mm)を用いて170℃、10分間加硫し、加硫ゴム試験片を作成した。その加硫ゴム試験片の動的粘弾性を、岩本製作所(株)製の粘弾性スペクトロメーターを用い、伸張変形歪率10±2%、振動数20Hz、温度0℃の条件にて測定し、tanδ(0℃)を求めた。得られた結果は、標準例1の値を100とする指数として表1,2の「ウェット性能」の欄に記載した。この指数が大きいほどtanδ(0℃)が大きくウェットグリップ性能が優れることを意味する。
【0030】
氷上性能
得られたタイヤ用ゴム組成物を、所定形状の金型(内寸:長さ150mm、幅150mm、厚さ2mm)を用いて170℃、10分間加硫し、加硫ゴム試験片を作成した。その加硫ゴム試験片を偏平円柱状の台ゴムに貼り付け、インサイドドラム型氷上摩擦試験機を用いて、測定温度-3.0℃、荷重5.5kg/cm2 、ドラム回転速度25km/hの条件で氷上摩擦係数を測定した。得られた結果は、標準例1の値を100とする指数として、表1,2の「氷上性能」の欄に示した。この指数が大きいほど氷上摩擦力が大きく氷上性能に優れることを意味する。尚、指数値が「105」以下では、氷上性能の改善効果が不十分である。
【0031】
破断伸び
得られたタイヤ用ゴム組成物を、所定形状の金型(内寸:長さ150mm、幅150mm、厚さ2mm)を用いて170℃、10分間加硫し、加硫ゴム試験片を作成した。その加硫ゴム試験片を使用し、JIS K6251に準拠してダンベルJIS3号形試験片を作製し、室温(20℃)で500mm/分の引張り速度で引張り試験を行い、破断したときの引張り破断伸びを測定した。得られた結果は、標準例1の値を100とする指数として、表1,2の「破断伸び」の欄に示した。この指数値が大きいほど引張破断伸びが大きい(引張特性が良好である)ことを意味する。尚、指数値が「110」以下では、破断伸びの改善効果が不十分である。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
表1~2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、ボンバンディット社製STR20(ガラス転移温度:-65℃)
・BR:ポリブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR1220(ガラス転移温度:-110℃)
・CB:カーボンブラック、キャボットジャパン社製ショウブラックN339
・シリカ:エボニック・デグッサ社製ULTRASIL VN3
・シランカップリング剤:エボニック・デグッサ社製Si69、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド
・粒子分散体1~9:後述の製造方法で製造したもの
・ウレタン微粒子:大日精化工業社製ダイミックビーズ(平均粒子径:200μm)
【0035】
【表3】
【0036】
表3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・酸化亜鉛:正同化学社製酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日本油脂社製ビーズステアリン酸YR
・老化防止剤:アミン系老化防止剤、フレクシス社製サントフレックス6PPD
・ワックス:大内新興化学社製パラフィンワックス
・オイル:アロマオイル、昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
・硫黄:細井化学社製油処理硫黄
・加硫促進剤:スルフェンアミド系加硫促進剤、三新化学社製サンセラーCM‐G
【0037】
粒子分散体1の製造方法
ヒマシ油系ポリオールA(伊藤製油社製HF‐2009、水酸基価が43.1mgKOH/g)55.0gと、ジメチルチオトルエンジアミン(クミアイ化学社製ハートキュア30)14.5gと、液状イソプレン重合体(クラレ社製LIR-30、数平均分子量28000)79.5gと、ソルビタン酸系界面活性剤(花王社製TW‐O320V)1.1gとを自転公転攪拌機で2分間攪拌した。次いでこれに、ポリメリックMDI(東ソー社製コロネート1331、NCO%が32.4%)11.0gを投入し、2分間攪拌した。次いでこれに、無水マレイン酸変性ポリイソプレン(クラレ社製LIR‐403、数平均分子量34000、1分子当たりの官能基数3個)を加え、1時間攪拌を続けることで、粒子分散体1を得た。得られた粒子分散体1について、レーザー回折式粒子径分布測定装置で測定したところ、平均粒子径が10μmの粒子が生成していることが確認された。また、粒子分散体1に含まれる粒子の含有率は50質量%であった。
【0038】
粒子分散体2の製造方法
ヒマシ油ポリオールA(伊藤製油社製HF‐2009、水酸基価が43.1mgKOH/g)40.0gと、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー社製ミリオネートMT、数平均分子量が250)9.6gとを、80℃で5時間反応させ、末端イソシアネートヒマシ油ウレタンプレポリマー(末端にイソシアネート基を有するヒマシ油系のウレタンプレポリマー。ウレタン結合を有する。)を得た。前記のとおり調製された末端イソシアネートヒマシ油ウレタンプレポリマーに、液状イソプレン重合体(クラレ社製LIR‐30、数平均分子量28000)76.2gと、ソルビタン酸系界面活性剤(花王社製TW‐O320V)1.2gを投入し、自転公転攪拌機で2分間攪拌した。次いでこれに、ジメチルチオトルエンジアミン(クミアイ化学社製ハートキュア30)2.0gと、ポリカーボネートジオール(旭化成社製、デュラノールT5650J、水酸基価が139.6mgKOH/g)7.4gを投入し、2分間攪拌した。次いでこれに、無水マレイン酸変性ポリイソプレン(クラレ社製LIR‐403、数平均分子量34000、1分子当たりの官能基数3個)16.0gを加え、1時間攪拌を続けることで、粒子分散体2を得た。得られた粒子分散体2について、レーザー回折式粒子径分布測定装置で測定したところ、平均粒子径が30μmの粒子が生成していることが確認された。また、粒子分散体2に含まれる粒子の含有率は50質量%であった。
【0039】
粒子分散体3の製造方法
前述のヒマシ油系ポリオールAの代わりにヒマシ油系ポリオールB(伊藤製油社製H‐57、水酸基価が92.9mgKOH/g)を50.0g使用し、ジメチルチオトルエンジアミンを2.2g、液状イソプレン重合体を80.1g、ソルビタン酸系界面活性剤を1.0g、ポリメリックMDIを16.9g、無水マレイン酸変性ポリイソプレンを10.0g使用した以外は、前述の「粒子分散体1の製造方法」と同様の手順に従って粒子分散体3を得た。得られた粒子分散体3について、レーザー回折式粒子径分布測定装置で測定したところ、平均粒子径が30μmの粒子が生成していることが確認された。また、粒子分散体3に含まれる粒子の含有率は50質量%であった。
【0040】
粒子分散体4の製造方法
前述のヒマシ油系ポリオールAの代わりにヒマシ油系ポリオールB(伊藤製油社製H‐57、水酸基価が92.9mgKOH/g)を30.0g使用し、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネートを18.6g、液状イソプレン重合体を81.8g、ソルビタン酸系界面活性剤を0.9g、ジメチルチオトルエンジアミンを4.3g、ポリカーボネートジオールを16.0g、無水マレイン酸変性ポリイソプレンを12.0g使用した以外は、前述の「粒子分散体2の製造方法」と同様の手順に従って粒子分散体4を得た。得られた粒子分散体4について、レーザー回折式粒子径分布測定装置で測定したところ、平均粒子径が40μmの粒子が生成していることが確認された。また、粒子分散体4に含まれる粒子の含有率は50質量%であった。
【0041】
粒子分散体5の製造方法
前述のヒマシ油系ポリオールAの代わりにヒマシ油系ポリオールB(伊藤製油社製AC‐009、水酸基価が223.0mgKOH/g)を37.0g使用し、ジメチルチオトルエンジアミンを3.9g、液状イソプレン重合体を79.0g、ソルビタン酸系界面活性剤を0.7g、ポリメリックMDIを30.0g、無水マレイン酸変性ポリイソプレンを7.4g使用した以外は、前述の「粒子分散体1の製造方法」と同様の手順に従って粒子分散体5を得た。得られた粒子分散体5について、レーザー回折式粒子径分布測定装置で測定したところ、平均粒子径が30μmの粒子が生成していることが確認された。また、粒子分散体5に含まれる粒子の含有率は50質量%であった。
【0042】
粒子分散体6の製造方法
前述のヒマシ油系ポリオールAの代わりにポリカーボネートジオール(旭化成社製デュラノール T4692、水酸基価が56.1mgKOH/g)を35.0g使用し、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネートを13.1g、液状イソプレン重合体を77.4g、ソルビタン酸系界面活性剤を1.1g、ジメチルチオトルエンジアミンを3.0g、無水マレイン酸変性ポリイソプレンを14.0g使用した以外は、前述の「粒子分散体2の製造方法」と同様の手順に従って粒子分散体6を得た。得られた粒子分散体6について、レーザー回折式粒子径分布測定装置で測定したところ、平均粒子径が150μmの粒子が生成していることが確認された。また、粒子分散体6に含まれる粒子の含有率は50質量%であった。
【0043】
粒子分散体7の製造方法
前述のヒマシ油系ポリオールAを11.0g使用し、ジメチルチオトルエンジアミンを0.2g、液状イソプレン重合体を138.3g、ソルビタン酸系界面活性剤を0.2g、ポリメリックMDIを1.7g、無水マレイン酸変性ポリイソプレンを2.2g使用した以外は、前述の「粒子分散体1の製造方法」と同様の手順に従って粒子分散体7を得た。得られた粒子分散体7について、レーザー回折式粒子径分布測定装置で測定したところ、平均粒子径が20μmの粒子が生成していることが確認された。また、粒子分散体7に含まれる粒子の含有率は10質量%であった。
【0044】
粒子分散体8の製造方法
前述のヒマシ油系ポリオールAを33.0g使用し、ジメチルチオトルエンジアミンを0.7g、液状イソプレン重合体を107.6g、ソルビタン酸系界面活性剤を0.7g、ポリメリックMDIを5.2g、無水マレイン酸変性ポリイソプレンを6.6g使用した以外は、前述の「粒子分散体1の製造方法」と同様の手順に従って粒子分散体8を得た。得られた粒子分散体8について、レーザー回折式粒子径分布測定装置で測定したところ、平均粒子径が20μmの粒子が生成していることが確認された。また、粒子分散体8に含まれる粒子の含有率は30質量%であった。
【0045】
粒子分散体9の製造方法
前述のヒマシ油系ポリオールAの代わりにポリカーボネートジオール(旭化成社製デュラノールT5651、水酸基価が112mgKOH/g)を33.0g使用し、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネートを24.7g、液状イソプレン重合体を88.7g、ソルビタン酸系界面活性剤を0.9g、ジメチルチオトルエンジアミンを9.9g、無水マレイン酸変性ポリイソプレンを19.4g使用した以外は、前述の「粒子分散体2の製造方法」と同様の手順に従って粒子分散体6を得た。得られた粒子分散体9について、レーザー回折式粒子径分布測定装置で測定したところ、平均粒子径が50μmの粒子が生成していることが確認された。また、粒子分散体9に含まれる粒子の含有率は50質量%であった。
【0046】
粒子分散体10の製造方法
前述の液状イソプレン重合体Aの代わりに液状イソプレン重合体B(クラレ社製LIR‐50、数平均分子量54000)を使用した以外は、前述の「粒子分散体1の製造方法」と同様の手順に従って粒子分散体10を得た。得られた粒子分散体11について、レーザー回折式粒子径分布測定装置で測定したところ、平均粒子径が50μmの粒子が生成していることが確認された。また、粒子分散体10に含まれる粒子の含有率は50質量%であった。
【0047】
表1から明らかなように、実施例1~14(粒子分散体1~5,7,8,10のいずれかを使用)のタイヤ用ゴム組成物は、標準例1に対して、ウェット性能、氷上性能、および破断伸びを改善し、これらを高度に両立した。一方、比較例1(粒子分散体6を使用)は、粒子分散体に含まれる粒子がヒドロキシ基を含む植物系脂肪酸エステル由来の合成物でなく、且つ、その平均粒子径が大きすぎるため、破断伸びが悪化した。比較例2(粒子分散体9を使用)は、粒子分散体に含まれる粒子が、ヒドロキシ基を含む植物系脂肪酸エステル由来の合成物でないため、氷上性能および破断伸びを十分に改善することができなかった。比較例3は、粒子分散体ではなくウレタン微粒子を含むため、破断伸びが悪化した。比較例4(粒子分散体1を使用)は、粒子分散体の配合量が多すぎるため、破断伸びが悪化した。比較例5(粒子分散体1を使用)は、シリカおよびカーボンブラックの配合量(充填剤の合計)が少ないため、ウェット性能が低下した。比較例6(粒子分散体1を使用)は、シリカおよびカーボンブラックの配合量(充填剤の合計)が多いため、氷上性能および破断伸びが低下した。