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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164434
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20221020BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20221020BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/06
F16C33/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069923
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠山 護
(72)【発明者】
【氏名】大宮 康裕
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 範和
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 みちる
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 高晃
(72)【発明者】
【氏名】立石 佳男
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 賢一
(72)【発明者】
【氏名】戸田 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】西村 駒次
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐也
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA49
3J701CA08
3J701FA32
3J701FA33
3J701GA01
3J701GA31
3J701XB03
3J701XB11
3J701XB14
3J701XB19
3J701XB24
(57)【要約】
【課題】高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる玉軸受を提供する。
【解決手段】径方向内側の面に外側軌道が形成された外輪21と、径方向外側の面に内側軌道が形成された内輪22と、外側軌道と内側軌道との間に配置された複数の転動体23と、転動体23を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する複数のポケット24が形成された円環状の保持器25とを備え、保持器25は、ポケット24に保持された転動体23に対して軸方向の反対側の側面25aから軸方向の当該反対側に向けて突出する突起部26を備え、保持器25には、側面25aから軸方向の転動体23の側表面25bまで保持器25を貫通する給油穴27が形成されており、保持器25の回転によって突起部26がオイルを給油穴27の中へ誘導し、保持器25の側面25aから表面25bへオイルを流し込む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向内側の面に外側軌道が形成された外輪と、径方向外側の面に内側軌道が形成された内輪と、前記外側軌道と前記内側軌道との間に配置された複数の転動体と、前記転動体を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する複数のポケットが形成された円環状の保持器と、を備えた玉軸受であって、
前記保持器は、前記ポケットに保持された前記転動体に対して軸方向の反対側の側面から軸方向の当該反対側に向けて突出する突起部を備え、
前記保持器には、前記側面から軸方向の前記転動体の側の表面まで前記保持器を貫通する給油穴が形成されており、
前記保持器の回転によって前記突起部がオイルを前記給油穴の中へ誘導し、前記側面から前記表面へ前記オイルを流し込むことを特徴とする玉軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の玉軸受であって、
前記給油穴は、周方向に隣り合う前記ポケットと前記ポケットとの間に配置され、
前記保持器が回転して進む方向を周方向前側として逆方向を周方向後側として、
前記突起部は、前記給油穴のオイル吸入口の周方向後側の端部から周方向前側に向けて突出し、
前記突起部の周方向前側には、前記側面から軸方向の前記反対側に離れるほど周方向前側へ向かうように傾斜した油誘導面が設けられていることを特徴とする玉軸受。
【請求項3】
請求項2に記載の玉軸受であって、
前記突起部の軸方向の高さが1mm以上10mm以下であり、
前記側面と前記油誘導面のなす角の角度が10度以上80度以下であり、
前記突起部の周方向の幅が1mm以上であり、
前記転動体の数をn個とした場合、前記突起部の周方向の幅角度が2π/2n以下であり、
前記突起部の径方向の厚さが、前記保持器の径方向の最大厚さの0.5倍以上1倍以下であることを特徴とする玉軸受。
【請求項4】
請求項1に記載の玉軸受であって、
前記保持器が回転して進む方向を周方向前側として逆方向を周方向後側として、
前記給油穴のオイル吸入口は、周方向前側へ向かう開口となるように前記突起部の周方向前側の面に設けられており、
前記給油穴のオイル吐出口は、前記転動体の周方向前側の半球部に前記オイルを吐き出す位置に設けられていることを特徴とする玉軸受。
【請求項5】
請求項4に記載の玉軸受であって、
前記給油穴は、前記オイル吸入口から前記オイル吐出口へ向かうほど通路の面積が小さくなるように形成されていることを特徴とする玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、玉軸受の転動体を転動可能に保持する保持器を樹脂組成物で形成し、転動体が摺接する保持器の摺接面にディンプルを散在するように形成して保油性を持たせた玉軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-144777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、転動体が摺接する保持器の摺接面にディンプルにより油だまりを設けることによって保油性を向上して、高速回転時の油膜切れを抑制する方策が提示されている。しかしながら、そもそも軸受を高速で回転させることによって、転動体が外輪や内輪の軌道面に転がり接触する転動面へのオイルの流入が極めて少なくなれば、特許文献1に提示されている方策により保持器の摺接面の保油性を向上しても、転動面における油量不足を抑制できなくなる可能性がある。
【0005】
そこで、高速で回転する玉軸受の内部の潤滑状態を可視化できる試験機を製作し、従来技術の玉軸受を高速で回転させた場合の玉軸受内部の潤滑状態を観察した。評価試験に用いた玉軸受1は、型式6808に相当する形状で、外輪2のみ石英製とした可視化軸受である。玉軸受1の全体の構成を図7及び図8に示す。図7及び図8に示すように、玉軸受1は、透明な石英製の外輪2と、鋼材製の内輪3と、転動体である鋼球4と、鋼球4を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する保持器5とを備える。
【0006】
保持器5の形状を、図9図10及び図11に示す。なお、保持器5の形状を明確に示すために、図10では、保持器5のみの断面と鋼球4を示している。保持器5には、鋼球4を転動可能に保持するポケット6が軸方向一方側に形成されており、ポケット6は片側が開放した形状となっている。そして、保持器5の軸方向他方側の側面7は平坦となっている。なお、保持器の側面7には、軸方向に貫通する油通穴は形成されていない。
【0007】
評価試験に用いた試験機の概略を図12に示す。水平方向に延びる回転軸8は2つの軸支持軸受9によって回転可能に支持され、モータ10によって回転される。回転軸8は玉軸受1の内輪3の内側に挿入されて固定されており、内輪3は回転軸8と一体となって回転する。玉軸受1の外輪2はハウジング11の内部に固定されている。玉軸受1の上方にはカメラ12が配置され、ハウジング11には玉軸受1の上方に観察用穴13が形成されているため、カメラ12は外輪2の最頂部を上方から撮影することができる。
【0008】
給油ノズル14は外輪2の最頂部と内輪3の間にオイルを供給し、玉軸受1より下方でハウジング11内に貯まったオイルは、オイルポンプ15によって回収されて循環する。オイルには、市販のATF(Automatic Transmission Fluid)であるトヨタオートフルードWSに蛍光剤であるクマリン-6を混入させたものを用いて、蛍光法によって油量分布を観察した。励起光には、波長405nmのLEDフラッシュ照明を用いた。
【0009】
図13は玉軸受1の上面図である。外輪2が透明な石英製であるため、玉軸受1を上方から見ると、内輪3の軌道面3aや鋼球4の位置も確認することができる。図13の破線で囲まれた領域がカメラ12による観察領域である。観察領域は視野23.6mm×17.7mmである。LEDフラッシュ照明の1回発光あたりの時間を3μsecとして、その発光をカメラ12のフレームノート40fpsに合わせて照射することで、回転している玉軸受1の内部のオイル分布を観察した。玉軸受1への供給油量を100ml/minで一定として、玉軸受1に上方から付与したラジアル荷重も300Nで一定として、軸回転速度を約2000rpmと約20000rpmに変えて観察した。
【0010】
転動面周辺の油量分布の観察結果を模式的に図14及び図15に示す。図14が軸回転速度を約2000rpm(厳密には1910rpm)とした場合の観察結果であり、図15が軸回転速度を約20000rpm(厳密には20200rpm)とした場合の観察結果である。図14及び図15は、鋼球4の位置を実線で、鋼球4の中心線を一点鎖線で、保持器5の位置を二点鎖線で記載している。鋼球4は、図14及び図15の右側に向かって公転している。図14及び図15には、給油ノズル14も描かれている。図14及び図15では、オイルが多く存在する領域ほど濃い灰色で示しており、白い部分にはオイルがほとんど存在していなかったことを示す。
【0011】
図14に示すように、軸回転速度が約2000rpmの低回転条件では、鋼球4の出口側(図14における鋼球4より左側)の付近を除いて全般的にオイルが充満していた。鋼球4の出口側ではオイルの少ない領域が認められているが、これは鋼球4の公転によって、オイルが排除されていることや、キャビテーションの発生によるものと推察される。
【0012】
図15に示すように、軸回転速度が約20000rpmの高回転条件では、鋼球4及び保持器5の公転軌道部にはオイルが充満しておらず、オイルは公転軌道部の軸方向外側と境界付近に分布していた。これは高速では鋼球4の公転や保持器5の回転によってオイルが排除される速さがオイルの流入速度に対して過度に増大していることや、鋼球4の公転速度の増大に伴い、鋼球4の出口側(図15における鋼球4より左側)のキャビテーション領域が拡大していることの両者に起因するものと考えられる。なお、鋼球4の入口側(図15における鋼球4より右側)では、三角状にオイルの多い部分が存在していた。これは保持器5のU字状のポケット6の開口部において、内輪3側からオイルが供給されているものと考えられる。ただし、いずれにしても、低速度条件と比較して、高速度条件では、鋼球4の入口側や、外輪2との転がり面となる鋼球4の頂点部分のオイルが少なくなっており、油量不足が生じているものと判断される。摩擦トルク低減の観点では、転動面の油量が少ないほど良好な傾向であるが、摩耗や焼き付き防止の観点では、過度な油量不足を抑制することが必要となる。
【0013】
このように、玉軸受1の内部の油量分布観察の結果、高速回転時には、高速回転する鋼球4や保持器5によってオイルがかき分けられると共に、それらの公転軌道部にオイルが流入する量が極めて少ないことが判明した。この場合、短時間の使用では、特許文献1に開示されている方策による保油性の向上で焼き付きや摩耗を抑制できるとしても、長時間にわたる使用条件では、いずれオイルが枯渇するため、焼き付きや摩耗を抑制できなくなるものと考えられる。したがって、高速回転の玉軸受で長時間の使用にわたって焼き付きや摩耗を抑制するには、鋼球4の入口側へのオイル流入を促進する必要があり、特許文献1に開示されているディンプルの付与だけでは対応が困難である。
【0014】
そこで、本発明は、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る玉軸受は、径方向内側の面に外側軌道が形成された外輪と、径方向外側の面に内側軌道が形成された内輪と、前記外側軌道と前記内側軌道との間に配置された複数の転動体と、前記転動体を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する複数のポケットが形成された円環状の保持器と、を備えた玉軸受であって、前記保持器は、前記ポケットに保持された前記転動体に対して軸方向の反対側の側面から軸方向の当該反対側に向けて突出する突起部を備え、前記保持器には、前記側面から軸方向の前記転動体の側の表面まで前記保持器を貫通する給油穴が形成されており、前記保持器の回転によって前記突起部がオイルを前記給油穴の中へ誘導し、前記側面から前記表面へ前記オイルを流し込むことを特徴とする。
【0016】
本発明は、保持器の回転によって転動体の公転領域の外側から転動体の入口側へオイルが流し込まれるため、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる玉軸受を提供することができる。
【0017】
本発明に係る玉軸受の一態様において、前記給油穴は、周方向に隣り合う前記ポケットと前記ポケットとの間に配置され、前記保持器が回転して進む方向を周方向前側として逆方向を周方向後側として、前記突起部は、前記給油穴のオイル吸入口の周方向後側の端部から周方向前側に向けて突出し、前記突起部の周方向前側には、前記側面から軸方向の前記反対側に離れるほど周方向前側へ向かうように傾斜した油誘導面が設けられていてもよい。
【0018】
この態様によれば、保持器の回転によって、突起部の油誘導面が隣接するオイル吸入口から給油穴へオイルを流し込むため、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる玉軸受を提供することができる。
【0019】
本発明に係る玉軸受の一態様において、前記突起部の軸方向の高さが1mm以上10mm以下であり、前記側面と前記油誘導面のなす角の角度が10度以上80度以下であり、前記突起部の周方向の幅が1mm以上であり、前記転動体の数をn個とした場合、前記突起部の周方向の幅角度が2π/2n以下であり、前記突起部の径方向の厚さが、前記保持器の径方向の最大厚さの0.5倍以上1倍以下であってもよい。
【0020】
この態様によれば、突起部によるオイルのかき分けや、突起部の抵抗の増大を抑制しつつ、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる玉軸受を提供することができる。
【0021】
本発明に係る玉軸受の一態様において、前記保持器が回転して進む方向を周方向前側として逆方向を周方向後側として、前記給油穴のオイル吸入口は、周方向前側へ向かう開口となるように前記突起部の周方向前側の面に設けられており、前記給油穴のオイル吐出口は、前記転動体の周方向前側の半球部に前記オイルを吐き出す位置に設けられていてもよい。
【0022】
この態様によれば、保持器の回転によって、周方向前側へ向かう開口となるオイル吸入口からオイルを吸入して、転動体の周方向前側の半球部にオイルを流し込むため、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる玉軸受を提供することができる。
【0023】
本発明に係る玉軸受の一態様において、前記給油穴は、前記オイル吸入口から前記オイル吐出口へ向かうほど通路の面積が小さくなるように形成されていてもよい。
【0024】
この態様によれば、給油穴がオイル吸入口からオイル吐出口へ向かうほど通路の面積が小さくなるように形成されているため、オイル吐出口のオイル流速を速くすることができ、高速回転時における遠心力によるオイル飛散も低減できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる玉軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1の実施形態の玉軸受の側面の一部を拡大して示した図である。
図2】保持器の図1におけるD-D線断面を示す図である。
図3図1におけるE-E線断面図である。
図4】第2の実施形態の玉軸受の側面の一部を拡大して示した図である。
図5】保持器の図4におけるF-F線断面を示す図である。
図6図4におけるG-G線断面図である。
図7】内部の潤滑状態を観察する評価試験に用いた玉軸受の側面図である。
図8図7におけるA-A線断面図である。
図9】評価試験に用いた玉軸受の側面の一部を拡大して示した図である。
図10】保持器の図9におけるB-B線断面を示す図である。
図11図9におけるC-C線断面図である。
図12】玉軸受の内部の潤滑状態を観察する評価試験に用いた試験機の概略を示す図である。
図13】玉軸受の内部の潤滑状態を観察する評価試験における観察領域を示す図である。
図14】軸回転速度を約2000rpmとした場合の転動面周辺の油量分布の観察結果を模式的に示す図である。
図15】軸回転速度を約20000rpmとした場合の転動面周辺の油量分布の観察結果を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1の実施形態>
以下、図1図3を参照しながら、第1の実施形態の玉軸受20について説明する。図1は、円環状の玉軸受20の部分図である。図2は、図1におけるD-D線断面図であり、玉軸受20に設けられた保持器25の形状を明確に示すために保持器25の断面と転動体23を示した図である。図3は、図1におけるE-E線断面を示す図である。図1図2及び図3に示すように、玉軸受20は、径方向内側の面に外側軌道が形成された外輪21と、径方向外側の面に内側軌道が形成された内輪22と、外側軌道と内側軌道との間に配置された複数の転動体23と、転動体23を周方向に間隔を空けて転動可能に保持するポケット24が形成された円環状の保持器25とを備える。外輪21を固定して、内輪22を回転させると、内輪22の回転方向と同じ方向に転動体23が公転し、転動体23の公転と共に保持器25も回転する。
【0028】
玉軸受20は、例えば、自動車用の駆動系ユニットや工作機械など、主に使用される回転方向が一方向に定まる用途に用いられる。玉軸受20で主に使用される回転方向で内輪22を回転させると、転動体23が図2の右側へ向かって公転する。以下、この回転により保持器25が回転して進む方向を周方向前側(図2の右側)として、逆方向を周方向後側(図2の左側)とする。
【0029】
保持器25には、ポケット24に保持された転動体23に対して軸方向の反対側(外側)の側面25aから転動体23の側(内側)の表面25bまで保持器25を貫通する給油穴27が形成されている。給油穴27は、周方向に隣り合うポケット24とポケット24との間に配置されている。
【0030】
また、保持器25は、側面25aから軸方向の外側にむけて突出する突起部26を備える。突起部26は、給油穴27の軸方向外側のオイル吸入口27aの周方向後側の端部から周方向前側に向けて突出する。そして、突起部26の周方向前側には、側面25aから軸方向に離れるほど周方向前側へ向かうように傾斜した油誘導面26aが設けられている。側面25aと油誘導面26aのなす角度θは、10度以上80度以下とすることが好適である。
【0031】
このように保持器25の側面25aに突起部26が設けられ、保持器25を軸方向に貫通する給油穴27が形成されているため、玉軸受20は、保持器25の回転によって、突起部26がオイルを給油穴27の中へ誘導する。したがって、転動体23の周方向前側において給油穴27を通じて保持器25の側面25aから表面25bへとオイルを流し込むことができる。すなわち、玉軸受20では、保持器25の回転によって側面25aから転動体23の周方向前側へとオイルを効果的に流し込むことができる。その結果、高回転条件での転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0032】
なお、突起部26の軸方向の高さH1は1mm以上10mm以下とすることが好適である。突起部26によってオイルを給油穴27の中へ誘導するためには、高さHが1mm以上とすることが好適である。一方、高さHが高すぎるとオイルのかき分けが促進され、保持器25を回転させるための抵抗が増大してしまう。したがって、高さHを10mm以下とすることが好適である。また、同様の理由により、突起部26の径方向の厚さT1は、保持器25の径方向の最大厚さT2の0.5倍以上1倍以下とすることが好適である。更に、突起部26の周方向の幅Wは1mm以上とすることが好適である。そして、転動体23の数をn個とすると、突起部26の周方向の幅角度φは2π/2n以下とすることが好適である。
【0033】
このように突起部26の寸法を制約することにより、本実施形態の玉軸受20は、突起部26によるオイルのかき分けや、突起部26の抵抗の増大を抑制しつつ、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0034】
<第2の実施形態>
次に、図4図6を参照しながら、第2の実施形態の玉軸受30について説明する。図4は、円環状の玉軸受30の部分図である。図5は、図4におけるF-F線断面図であり、玉軸受30に設けられた保持器35の形状を明確に示すために保持器35の断面と転動体23を示した図である。図6は、図4におけるG-G線断面図である。第2の実施形態の玉軸受30は、保持器35の形状が異なる点を除き、第1の実施形態の玉軸受20と同一の構成を有している。そのため、第1の実施形態の玉軸受20と同一の構成には同一の符号を付して、説明を省略する。
【0035】
玉軸受30も、例えば、自動車用の駆動系ユニットや工作機械など、主に使用される回転方向が一方向に定まる用途に用いられる。玉軸受30で主に使用される回転方向で内輪22を回転させると、転動体23が図5の右側へ向かって公転する。この回転により保持器35が回転して進む方向を周方向前側(図5の右側)として、逆方向を周方向後側(図5の左側)とする。
【0036】
図4図5及び図6に示すように、玉軸受30の保持器35には、第1の実施形態の玉軸受20の保持器25と同様に、転動体23を周方向に間隔を空けて転動可能に保持するポケット34が軸方向の内側に向けて形成されている。そして、保持器35は、周方向に沿って側面35aから軸方向に突出する突起部36を備える。また、保持器35には、各ポケット34に対して周方向前側から周方向後側に向けて側面35aからポケット内面35bまで保持器35を貫通する給油穴37が形成されている。すなわち、給油穴37のオイル吸入口37aよりも周方向後側にオイル吐出口37bが設けられ、給油穴37はオイル吸入口37aからポケット内面35bに向かって側面35aに対して斜めに延設される。
【0037】
給油穴37のオイル吸入口37aは、周方向前側へ向いた開口となるように突起部36の周方向前側の面に設けられる。特に、オイル吸入口37aは、周方向前側へ向けて側面35aに対して略垂直な面を開口とすることが好適である。給油穴37のオイル吐出口37bは、転動体23の周方向前側の半球部にオイルを吐き出す位置に設けられている。なお、オイル吸入口37aの軸方向の高さH2は、2mm以上5mm以下とすることが好適である。
【0038】
このように保持器35の側面35aに突起部36が設けられ、給油穴37のオイル吸入口37aが周方向前側へ向いた開口となるように突起部36の前側の面に設けられているため、保持器35の回転によって、転動体23の公転領域の外側のオイルが給油穴37の中へ誘導され、オイル吸入口37aからポケット内面35bに設けられたオイル吐出口37bへオイルを流し込むことができる。そして、転動体23の周方向前側へオイルを供給することができる。すなわち、玉軸受30は、保持器35の回転によって側面35aから転動体23の周方向前側へとオイルを効果的に流し込むことができる。その結果、高回転条件での転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0039】
更に、給油穴37は、オイル吸入口37aからオイル吐出口37bへ向かうほど通路が狭くなるようにすることが好適である。このような給油穴37とすることによって、玉軸受30は、オイル吐出口37b付近のオイル流速を速くすることができ、高速回転時における遠心力によるオイル飛散も低減できる。
【符号の説明】
【0040】
1 玉軸受、2 外輪、3 内輪、3a 軌道面、4 鋼球、5 保持器、6 ポケット、7 側面、8 回転軸、9 軸支持軸受、10 モータ、11 ハウジング、12 カメラ、13 観察用穴、14 給油ノズル、15 オイルポンプ、20,30 玉軸受、21 外輪、22 内輪、23 転動体、24,34 ポケット、25,35 保持器、25a,35a 側面、25b 表面、26,36 突起部、26a 油誘導面、27,37 給油穴、27a,37a オイル吸入口、35b ポケット内面、37b オイル吐出口。
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