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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164439
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】地盤振動の到来方向の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20221020BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20221020BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069934
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 秀史
(72)【発明者】
【氏名】権藤 徹
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024CA13
2G024FA04
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC42
(57)【要約】
【課題】アレイ測定を行う際に生じる測定用地による制約が少ないうえに、各種の高分解能アレイ解析を適用することが可能な地盤振動の到来方向の推定方法を提供する。
【解決手段】地盤に複数のセンサを配置したアレイ測定の結果に基づいて行われる地盤振動の到来方向の推定方法である。
そして、直線状の主アレイ、及び主アレイに交差する副アレイを設けるステップS2,S3と、副アレイの測定結果のみに基づいて解析を行うステップS5と、主アレイの測定結果のみに基づいて解析を行うステップS7と、主アレイ及び副アレイから求められた見かけの伝播速度と平面位置との関係に基づいて波動伝播速度と到来方向の詳細解候補を求めるステップS8と、主アレイと副アレイとを一体の2次元アレイとして解析を行うことで概算解候補を求めるステップS9と、詳細解候補と概算解候補とを比較することで推定精度の確認を行うステップS10とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に複数のセンサを配置したアレイ測定の結果に基づいて行われる地盤振動の到来方向の推定方法であって、
振動源と想定される検証領域と評価位置との間に、直線状に所定の間隔で複数のセンサを配置することによって構成される主アレイを設けるステップと、
前記主アレイに交差するように、直線状に所定の間隔で複数のセンサを配置することによって構成される副アレイを設けるステップと、
前記副アレイの測定結果のみに基づいて解析を行うことで、前記副アレイに到達した波動のうち前記副アレイの延伸方向成分の見かけの伝播速度を周波数ごとに求めるステップと、
前記主アレイの測定結果のみに基づいて解析を行うことで、前記主アレイに到達した波動のうち前記主アレイの延伸方向成分の見かけの伝播速度を周波数ごとに求めるステップと、
前記主アレイ及び前記副アレイから求められた見かけの伝播速度と平面位置との関係に基づいて波動伝播速度と到来方向の詳細解候補を求めるステップと、
前記主アレイと前記副アレイとを一体の2次元アレイとして解析を行うことで、周波数ごとの波動伝播速度と到来方向の概算解候補を求めるステップと、
前記詳細解候補と前記概算解候補とを比較することで推定精度の確認を行うステップとを備えたことを特徴とする地盤振動の到来方向の推定方法。
【請求項2】
前記検証領域は直線状に延伸される領域であって、前記主アレイは前記検証領域と略平行となるように設けられるとともに、前記主アレイに略直交するように前記副アレイが設けられることを特徴とする請求項1に記載の地盤振動の到来方向の推定方法。
【請求項3】
前記副アレイの測定結果のみに基づいた解析結果から、前記検証領域から伝播された振動であるか否かを判定するステップを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の地盤振動の到来方向の推定方法。
【請求項4】
前記検証領域が線路であって、列車通過時の振動を測定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地盤振動の到来方向の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤に複数のセンサを配置したアレイ測定の結果に基づいて行われる地盤振動の到来方向の推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や列車などの走行時に発生する交通振動、工場において大型機械の稼働時に発生する機械振動、建物内部で発生する床振動など、地盤や建物を介して感じる環境振動の振動源を探査することが行われている。
【0003】
例えば非特許文献1には、音源探査の分野におけるセンサアレイによる信号の到来方向の推定技術が概説されている。また、非特許文献2には、地盤上に展開した1次元と2次元のセンサアレイによる自動車走行振動の計測結果について記載がされている。
【0004】
ここで、音源探査と異なり地盤振動測定では、到来方向に加えて波動伝播速度も未知のため、最低でも2次元にセンサを配置したアレイ測定が必須である。このため、人工地震や交通振動などの振源探査に対する既往の研究例では、多重三角形アレイやグリッドアレイ、十字形配置アレイなど、一般的な左右対称となる2次元アレイが用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】浅野太、「音のアレイ信号処理」、コロナ社、2011
【非特許文献2】新井洋、「単一走行自動車による地盤振動のモデル化に関する一検討」、地盤工学会関西支部 地盤の環境・計測技術に関するシンポジウム2005論文集、pp.61-66、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このうち、地震の震源探査や地盤の微動探査などでは、数十mから数百mの波長の波動を対象とするため、家屋等を避けたセンサの配置が可能である。しかしながら、振動対策で測定する波長数m程度の波動では、センサを密に配置する必要がある。ところが振動対策の現場では、用地や道路使用の制約があるため、例えば苦情箇所を中心としたセンサアレイの平面展開や道路を横断するセンサ配置を前提とした測定技術は適用できない場合が多い。
【0007】
また、鉄道振動では、列車が通過する際に、線路延伸方向に配置された多数の橋脚から相関が極めて高い波動が出力される。このような相関性干渉波が存在する場で高精度な方向推定を行うためには、前処理として同一構成のアレイを複数設置して、それぞれの入力を平均する空間平均法が一般的に行われるが、振動対策の現場に条件を満たす2次元アレイを展開することは困難な場合が多い。
【0008】
そこで、本発明は、2次元アレイを前提としたアレイ測定を行う際に生じる測定用地による制約が少ないうえに、空間平均法などを併用した各種の高分解能アレイ解析を適用することが可能な地盤振動の到来方向の推定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の地盤振動の到来方向の推定方法は、地盤に複数のセンサを配置したアレイ測定の結果に基づいて行われる地盤振動の到来方向の推定方法であって、振動源と想定される検証領域と評価位置との間に、直線状に所定の間隔で複数のセンサを配置することによって構成される主アレイを設けるステップと、前記主アレイに交差するように、直線状に所定の間隔で複数のセンサを配置することによって構成される副アレイを設けるステップと、前記副アレイの測定結果のみに基づいて解析を行うことで、前記副アレイに到達した波動のうち前記副アレイの延伸方向成分の見かけの伝播速度を周波数ごとに求めるステップと、前記主アレイの測定結果のみに基づいて解析を行うことで、前記主アレイに到達した波動のうち前記主アレイの延伸方向成分の見かけの伝播速度を周波数ごとに求めるステップと、前記主アレイ及び前記副アレイから求められた見かけの伝播速度と平面位置との関係に基づいて波動伝播速度と到来方向の詳細解候補を求めるステップと、前記主アレイと前記副アレイとを一体の2次元アレイとして解析を行うことで、周波数ごとの波動伝播速度と到来方向の概算解候補を求めるステップと、前記詳細解候補と前記概算解候補とを比較することで推定精度の確認を行うステップとを備えたことを特徴とする。
【0010】
ここで、前記検証領域は直線状に延伸される領域であって、前記主アレイは前記検証領域と略平行となるように設けられるとともに、前記主アレイに略直交するように前記副アレイが設けられる構成とすることができる。
【0011】
また、前記副アレイの測定結果のみに基づいた解析結果から、前記検証領域から伝播された振動であるか否かを判定するステップを備えた構成とすることもできる。さらに、前記検証領域が線路であって、列車通過時の振動を測定する構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
このように構成された本発明の地盤振動の到来方向の推定方法は、主アレイとそれに交差する副アレイとによって構成される2次元アレイによりアレイ測定を行ったうえで、主アレイ及び副アレイのそれぞれの測定結果に基づいて波動伝播速度と到来方向の詳細解候補を求める。
【0013】
さらに、主アレイと副アレイとを一体の2次元アレイとして解析を行うことで、周波数ごとの波動伝播速度と到来方向の概算解候補も求める。そして、詳細解候補と概算解候補とを比較することで推定精度の確認を行う。
【0014】
このような主アレイとそれに交差する副アレイとによって構成される2次元アレイであれば、測定用地による制約を少なくすることができる。また、直線状に配置された主アレイと副アレイによるそれぞれの測定結果であれば、空間平均法などを併用した各種の高分解能アレイ解析を適用することもできる。そして、求められた詳細解候補は、2次元アレイの解析から求められる概算解候補と比較することで、推定精度の確認を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施の形態の地盤振動の到来方向の推定方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
図2】振動源と想定される線路及び評価位置と、主アレイ及び副アレイの位置関係を示した説明図である。
図3】副アレイの測定結果に基づいて行われる解析に関する説明図である。
図4】主アレイの測定結果に基づいて行われる解析に関する説明図である。
図5】詳細解候補を求める処理に関する説明図である。
図6】L字形の2次元アレイ解析により概算解候補を求める処理に関する説明図である。
図7】2次元アレイ解析の一例を示した説明図である。
図8】詳細解候補と概算解候補とを比較する一例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の地盤振動の到来方向の推定方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
【0017】
地震や風揺れなどの自然発生する振動ではなく、評価位置において感じる環境振動に起因する振動の発生源(振動源)を調べることがある。環境振動には、自動車や列車などの交通振動、工場において発生する機械振動、建物で発生する床振動などがある。
【0018】
本実施の形態の地盤振動の到来方向の推定方法では、環境振動の振動源と想定される領域を検証領域として、その検証領域に評価位置まで到来する振動の振動源が存在するかを判定するとともに、振動源が存在する場合は検証領域のどの位置にあるかを推定する。
【0019】
以下では、図2に示すように、検証領域を鉄道の線路に設定する場合について説明する。すなわち、線路を列車が走行することによって発生した振動が、評価位置となる住宅やビルなどの建物に到達しているかを推定する。
【0020】
本実施の形態の地盤振動の到来方向の推定方法では、地盤に複数のセンサを2次元に配置したアレイ測定を行う。すなわち、直線状に所定の間隔で複数のセンサを配置した主アレイと、その主アレイに交差するように、直線状に所定の間隔で複数のセンサを配置した副アレイとを設ける。センサには、振動ピックアップなどの振動計が使用できる。
【0021】
例えば、線路が検証領域になる場合は、線路にほぼ平行となるように複数のセンサを等間隔で配置することで、主アレイを構成する。主アレイは、評価位置に近接した用地や道路で、所望する長さの直線が確保できる設置しやすい位置に設けることができる。
【0022】
検証領域の線路が、高架橋に敷設されている場合は、高架橋と地盤をつなぐ橋脚などが振動源となる可能性がある。主アレイの正方向は任意に設定することができるが、例えば線路が複線の場合、評価位置に近い方の線路の走行方向を正方向に設定することができる。
【0023】
一方、副アレイは、主アレイと交差していればよいが、できるだけ直角に近い角度で交差させるのが好ましい。例えば、主アレイと副アレイによって評価位置の線路側の隅角部が囲まれるように複数のセンサを等間隔で配置することで、副アレイを構成する。
【0024】
副アレイについても、評価位置に近接した用地や道路で、所望する長さの直線が確保できる設置しやすい位置に設けることができる。また、副アレイの正方向も任意に設定することができるが、例えば線路から遠ざかる方向を正方向に設定することができる。
【0025】
以下では、図1のフローチャートに示した手順に従って、本実施の形態の地盤振動の到来方向の推定方法の具体例について説明する。
まず、ステップS1では、評価位置と検証領域とを設定する。
【0026】
評価位置は、例えば列車の騒音などの相談が寄せられた住宅などに設定される。そして、図2に示すように、評価位置の周辺に線路などが敷設されていれば、その線路を、振動源となっているか否かの検証を行うための検証領域に設定する。
【0027】
ここで、線路が高架橋の上に敷設されている場合は、橋脚の設置位置が検証領域に含まれるようにする。図2の線路上に図示した2つの正方形は、橋脚の位置を模式的に示している。主アレイは、この橋脚を含む細長い検証領域と評価位置との間に設けられる。
【0028】
すなわちステップS2では、検証領域となる線路となるべく平行となるように、複数のセンサを等間隔に配置することで、主アレイを設ける。この主アレイを設ける位置は、厳密に規定されるものではないので、敷地や道路などの使用が許可される範囲を測定用地とすることができる。主アレイは、評価位置の線路側の隅角部の頂点付近に端点が設けられるように配置する。
【0029】
続いてステップS3では、主アレイの端点付近を始点として、検証領域である線路から遠ざかる方向に複数のセンサを等間隔に配置することで、副アレイを設ける。この副アレイを設ける位置も、厳密に規定されるものではないので、敷地や道路などの使用が許可される範囲を測定用地とすればよい。
【0030】
このように主アレイと、それに直交する副アレイを設けることで、評価位置の近傍にL字形の2次元アレイが配置されたことになる。計測を行う際には、主アレイと副アレイの時刻は、完全に同期させる。
【0031】
ステップS4では、線路を列車が通過する時間に合わせて、主アレイと副アレイによって振動の測定を行う。ここで列車の通過時間は、主アレイの正方向を合わせた走行方向の列車が通過する時刻に合わせる。
【0032】
ここで、主アレイと副アレイの各センサによって計測される振動は、列車の通過時間に合わせた測定を行った場合であっても、列車の走行に起因するものだけが測定されるわけではない。主アレイ及び副アレイのセンサでは、その時間にセンサ位置に到達するあらゆる地盤振動が測定される。
【0033】
続いてステップS5では、まずは副アレイの測定結果の解析を行う。上述したように、列車通過時間の計測データが、主アレイと副アレイのそれぞれで得られているので、副アレイの計測データから、列車通過時の測定データの切り出しを行う。
【0034】
そして、切り出された計測データに対して、等間隔直線アレイの解析を行い、副アレイに到達した波動のうち、センサ列方向成分の伝播速度を、周波数ごとに求める。ここで、このステップにおける「センサ列方向」とは、副アレイの延伸方向をいう。また、このステップで求める伝播速度を、「見かけの伝播速度」と呼ぶこととする。
【0035】
このように直線状のアレイを単独で解析する場合は、ビームフォーマ法(BFM法:Beam Forming Method)やCapon法(Caponの最尤法(略称MLM))などのビーム走査法の他に、空間平均法を併用した高精度推定法など、均等配置のアレイに対する各種の解析法を適用することが可能となる。
【0036】
例えば、BFM法やCapon法などの周波数-波数スペクトル法によって高解像度のF-Kスペクトルを算出し、そのF-Kスペクトルのピークに対応する波数kと周波数fとから、各周波数fにおける伝播速度Ci(f)を求める。伝播速度Ci(f)は、2πf/kによって算出することができる。
【0037】
図3は、副アレイの測定結果に基づいて行われる解析に関する説明図である。副アレイは、線路から遠ざかる方向が正方向となるように設定されているので、算定された伝播速度の符号が正の場合は、波動が線路側から伝播してきたことを意味する。これに対して、伝播速度の符号が負の場合には、波動が線路と反対側から伝播してきたことを意味する。
【0038】
この副アレイの解析結果から、顕著な振動源を抽出することになる。図3には、線路上に、一点鎖線の「〇印」で示した振動源と、破線の「〇印」で示した振動源とを、顕著な振動源として示している。これらの振動源と副アレイの位置関係に対応して、複数の伝播速度が求められる。
【0039】
そこで、ステップS6では、ステップS5で副アレイの測定結果のみから算定された見かけの伝播速度の符号に基づいて、検証領域が振動源となる可能性があるか否かを判定する。ここで、観測された波形に鉄道振動の特徴がみられないうえに、伝播速度の符号が負であった場合は、線路が振動源とはならないので、線路を検証領域と想定した検証は、この時点で終了することができる。
【0040】
これに対して、伝播速度の符号が正であった場合は、線路が振動源となる可能性があるので、ステップS7に移行して、検証を進める。このステップでは、主アレイの測定結果だけを使って、見かけの伝播速度を周波数ごとに算定する。この見かけの伝播速度の算定方法は、上述した副アレイの場合と同じにできる。
【0041】
すなわち主アレイの計測データから、ステップS5の副アレイの解析と同一時刻のデータを切り出して、等間隔直線アレイとして解析し、主アレイに到達した波動のうち、センサ列方向成分の伝播速度を周波数ごとに求める。このステップにおける「センサ列方向」とは、主アレイの延伸方向をいう。
【0042】
図4は、主アレイの測定結果に基づいて行われる解析に関する説明図である。主アレイは、列車の走行方向が正方向となるように設定されているので、算定された伝播速度の符号が正の場合は、波動がアレイ中心よりも線路に向かって右側から伝播してきたことを意味する。すなわち、図4の線路上に一点鎖線の「〇印」で示した位置が振動源となる場合は、正の伝播速度が算定される。
【0043】
これに対して、伝播速度の符号が負の場合は、波動がアレイ中心よりも線路に向かって左側から伝播してきたことを意味するので、例えば図4の線路上に破線の「〇印」で示した位置が、振動源として推定されている。このように、主要な振動源については、この段階でも、大まかな位置が推定できている。
【0044】
続いてステップS8では、主アレイと副アレイのそれぞれの解析結果に基づいて、波動伝播速度と到来方向の詳細解候補を算定する。すなわち、このステップでは、ステップS5で副アレイの測定結果から算定した周波数ごとの見かけの伝播速度と、ステップS7で主アレイの測定結果から算定した周波数ごとの見かけの伝播速度とを利用して、詳細解を求める。
【0045】
センサアレイによる地盤振動の測定で得られる波動伝播速度は、真の波動伝播速度と、センサアレイを構成する各センサの設置位置と応答特性で決定されるセンサアレイの特性関数とのたたみ込みである。このため、測定結果からアレイ特性の影響を除去した真の波動伝播速度を推定することが望まれる。そこでステップS8では、真の波動伝播速度を詳細解として求める。
【0046】
図5は、詳細解候補を求める処理に関する説明図である。詳細解は、主アレイ及び副アレイの周波数ごとの見かけの伝播速度と、2次元アレイの平面位置の関係とに基づいて求める。2次元アレイの平面位置の関係は、主アレイと副アレイとが交差する角度θaにより設定される。
【0047】
図5に示した算定式には、主アレイ及び副アレイの周波数ごとの見かけの伝播速度と、真の波動伝播速度とが現れる。そこで、主アレイの周波数fごとの見かけの伝播速度をCi主(f)、副アレイの周波数fごとの見かけの伝播速度をCi副(f)、真の波動伝播速度をCi(f)として示す。一方、アレイへの到来方向は、主アレイに対する入射角θiとしてあらわす。
【0048】
そして、図5に示した算定式を解くことで、真の波動伝播速度Ci(f)と、アレイへの到来方向θi(f)の候補を求める。要するに、周波数ごとに、真の波動伝播速度と、主アレイに対する入射角とが、主要な振動源として抽出された数iだけ算定される。
【0049】
さらにステップS9では、主アレイと副アレイによるL字形の2次元アレイを使って、概算解候補を算定する。すなわち、ステップS8で算定した詳細解となる伝播速度と到来方向の候補の推定精度を確認するために、比較用の概算解を算定する。
【0050】
図6は、L字形の2次元アレイ解析により概算解候補を求める処理に関する説明図である。L字形の2次元アレイ解析では、主アレイと副アレイとを一体にするので、入射方向などの基準は2次元アレイの重心となる。すなわち、主アレイや副アレイのそれぞれの直線アレイ解析では、アレイ中心を基準に正負の判断をしたが、2次元アレイ解析では、2次元アレイの重心を基準に伝播速度の符号から波動の入射方向を判断する。
【0051】
そして、2次元アレイとしてアレイ解析を行った結果、周波数fごとの波動伝播速度Ci(f)と、アレイへの到来方向θi(f)の候補が、このステップでも求められることになる。このステップS9で算定された周波数ごとの波動伝播速度とアレイへの到来方向の候補を、概算解候補とする。
【0052】
図7は、概算解候補を求める2次元アレイ解析の一例を示した説明図である。この図は、2次元アレイの解析結果のイメージを示すもので、xを線路と平行する方向、yをxと直交する方向に取った直交座標系に、解析結果をプロットしている。
【0053】
F-Kスペクトルのピークは、2次元アレイの重心を中心として真の波数kを半径とする円の上に分布している。そして、アレイ重心からの角度が、求められる到来方向となる。実際には、分解能の制約があるため、図7の例の場合、2つの波が充分に分離されず、少しゆがんだ形で2山が合成された形となる。
【0054】
ステップS10では、ステップS8で算定した詳細解候補と、ステップS9で算定した概算解候補とを比較することで、詳細解候補の推定精度を確認する。2次元アレイ解析による概算解候補と詳細解候補との間で、伝播速度の大きさや到来方向の整合性が取れていれば、詳細解候補の推定精度は高いことが確認できる。
【0055】
以下では、概算解候補と詳細解候補とを比較する別の例について、図8を参照しながら説明する。まず、上記ステップS8に該当する処理では、線路延伸方向と平行に延伸される主アレイと、線路直交方向に延伸される副アレイとのそれぞれの直線アレイに対して、高分解能法を適用してピークを求める。この高分解能法を適用して算定されるピークが、図8で説明する例では詳細解候補となる。
【0056】
続いて、高分解能法を適用して求めたピークを、2次元アレイ解析結果の各ピークの線路延伸方向成分及び線路直交方向成分と比較して、結果の整合性を確認する。この比較に際しては、高分解能法を適用して求めた解析結果に2次元アレイのアレイ応答関数をたたみ込んで、2次元アレイを模擬した観測スペクトルを作成し、これを2次元アレイ解析で直接求めたものと比較する方法により、確認精度を高めることが可能となる。
【0057】
具体的には、線路延伸方向成分(主アレイの延伸方向成分)について示した図8を参照しながら説明する。高分解能法を適用して求めたピークの波数は、図8の主アレイの線上に山なりに突出させたように図示された高解像度のF-Kスペクトルのピークから求めることができる。ここで、直線アレイ解析で求めた詳細解候補となる2つの波数をkx1,kx2とする。
【0058】
一方、2次元アレイ解析結果(概算解候補)の各ピークの線路延伸方向成分(主アレイの延伸方向成分)は、相対的に低解像度な2次元のF-Kスペクトルから、図8に示すように波数k x1,k x2として表される。そこで、詳細解候補である波数kx1,kx2と、概算解候補である波数k x1,k x2とを比較して、推定結果の整合性を確認する。
【0059】
例えば、2次元アレイで求めた2次元F-Kスペクトルは、高分解能法によるものよりも幅広でぼやけたイメージとなる。高分解能法で正しく答えが求められていれば、2次元アレイでもとめた「ぼやけた」F-Kスペクトルの範囲にピークが現れるはずであり、詳細解候補の強いピークが2次元の概算解候補とかけ離れた位置に現れた場合は、分析誤差による誤ったピークと想定できる。こうした比較は、線路直交方向成分(副アレイの延伸方向成分)についても、同様に検証が行われる。
【0060】
次に、本実施の形態の地盤振動の到来方向の推定方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の地盤振動の到来方向の推定方法は、主アレイとそれに交差する副アレイとによって構成される2次元アレイによりアレイ測定を行ったうえで、主アレイ及び副アレイのそれぞれの測定結果に基づいて波動伝播速度と到来方向の詳細解候補を求める。
【0061】
さらに、主アレイと副アレイとを一体の2次元アレイとして解析を行うことで、周波数ごとの波動伝播速度と到来方向の概算解候補も求める。そして、詳細解候補と概算解候補とを比較することで推定精度の確認を行う。
【0062】
このような主アレイとそれに交差する副アレイとによって構成される2次元アレイであれば、測定用地による制約を少なくすることができる。また、直線状に配置された主アレイと副アレイによるそれぞれの測定結果であれば、空間平均法などを併用した各種の高分解能アレイ解析を適用することもできる。
【0063】
そして、その詳細解候補は、2次元アレイの解析から求められる概算解候補と比較することで、推定精度の確認を行うことができる。ここで、鉄道振動に対しては、L字形の2次元アレイでF-Kスペクトル解析を適用した既往の例も存在している。しかしながら、単純なF-Kスペクトル解析の解像度は、アレイサイズの制約があるため向上が難しい。
【0064】
また、高解像度の解析法は、いくつか提案されて実用化もされているが、いずれも複数の波が互いに独立であることを前提としている。しかしながら、鉄道振動の振動源を推定するには、高架橋の複数の柱から放射された「ほぼ同一の波動」のうち、評価位置にもっとも影響が大きいものを分離する必要があり、独立性を前提とすることはできない。
【0065】
さらに、複数の波動の相関性を除去する前処理法として、空間平均法がある。しかし、この方法は同一形状のサブアレイの構成が必須で、L字形の2次元アレイの解像度の向上には適用することができない。
【0066】
このような現状の技術に対して本実施の形態の地盤振動の到来方向の推定方法では、2次元アレイではなく、同一の波動を受信する複数の均等配置の直線アレイ群として処理することで、空間平均法などの各種の高分解能アレイ解析を適用することができる。
【0067】
そして、その直線状の各アレイ(主アレイ及び副アレイ)でそれぞれ解像度の高い詳細解候補を求めるとともに、2次元アレイの解析から求められる概算解候補と比較することで、推定精度の確認を行うことができるようにした。
【0068】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0069】
例えば前記実施の形態では、一方向に直線状に延びる線路を検証領域とする場合について説明したが、これに限定されるものではなく、検証領域は、機械振動を発生させる工場や床振動を発生させる建物など、点状や面状の領域であってもよい。例えば、工場の敷地境界線と平行となるように主アレイを配置することで、工場を検証領域とすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8