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特開2022-164443超音波診断装置及び医用画像処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164443
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】超音波診断装置及び医用画像処理装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069938
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武史
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601BB03
4C601EE04
4C601JB12
4C601JB24
4C601JB28
4C601JB49
4C601LL21
(57)【要約】
【課題】効果的にノイズ低減を図ること。
【解決手段】実施形態の超音波診断装置は、受信回路と処理回路とを備える。受信回路は、アナログ形式の受信信号に対して深さに応じてゲインを変化させつつゲインを掛ける第1の処理を行い、第1の処理が行われた前記受信信号をデジタル形式の受信信号に変換する第2の処理を行う。処理回路は、前記デジタル形式の受信信号に対して、当該デジタル形式の受信信号に含まれるノイズのレベルを一定にさせる第3の処理を行い、前記第3の処理が行われた前記デジタル形式の受信信号に対して、当該受信信号に含まれるノイズを低減させる第4の処理を行う。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ形式の受信信号に対して深さに応じてゲインを変化させつつゲインを掛ける第1の処理を行い、第1の処理が行われた前記受信信号をデジタル形式の受信信号に変換する第2の処理を行う受信回路と、
前記デジタル形式の受信信号に対して、当該デジタル形式の受信信号に含まれるノイズのレベルを一定にさせる第3の処理を行い、前記第3の処理が行われた前記デジタル形式の受信信号に対して、当該受信信号に含まれるノイズを低減させる第4の処理を行う処理回路と、
を備える、超音波診断装置。
【請求項2】
前記処理回路は、前記第3の処理として、前記第1の処理において前記深さに応じて変化される前記ゲインとは逆のゲインを前記デジタル形式の受信信号に対して掛けるか、又は、前記デジタル形式の受信信号に含まれるホワイトノイズと前記第2の処理が行われる際に発生する量子化雑音との和を全ての深さで一定にさせる処理を行う、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記処理回路は、更に、前記第3の処理として、チャンネル間の感度のばらつきに基づいて、前記デジタル形式の受信信号に含まれるノイズのレベルを全てのチャンネル及び全ての深さで一定にさせる処理を行う、請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記処理回路は、前記第4の処理として、入力された信号に含まれるノイズを出力するニューラルネットワークに対して、前記第3の処理が行われた前記デジタル形式の受信信号を入力し、前記ニューラルネットワークに当該受信信号に含まれるノイズを出力させ、当該受信信号から前記ニューラルネットワークから出力されたノイズを減算することにより、当該受信信号に含まれるノイズを低減させる処理を行う、請求項1~3のいずれか1つに記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記第4の処理によりノイズが低減された前記受信信号に対してビームフォーミングを行うビームフォーマを更に備える、請求項1~4のいずれか1つに記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記第2の処理により変換された前記デジタル形式の受信信号に対して、深さに応じて加算されるチャンネル数を変更するビームフォーミングを行うビームフォーマを備え、
前記処理回路は、前記第3の処理として、前記ビームフォーマによる前記ビームフォーミングにより得られたデータに対して、前記深さに応じて変更される前記加算されるチャンネル数に基づいて、前記ビームフォーミングにより得られたデータに含まれるノイズのレベルを一定にさせる処理を行う、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記処理回路は、前記第4の処理として、前記第3の処理が行われた前記デジタル形式の受信信号を複数の領域に分割し、前記複数の領域のそれぞれに対して、主成分分析、カルーネンレーベ変換、固有値分解又は特異値分解を行って、前記ノイズを低減させる、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記処理回路は、前記第4の処理として、所定の直交変換及び前記所定の直交変換の逆変換を行って、前記ノイズを低減させる、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記処理回路は、前記第4の処理として、前記第3の処理が行われた前記デジタル形式の受信信号を複数の領域に分割し、前記複数の領域のそれぞれに対して所定の直交変換を行って前記複数の領域のそれぞれに対応する複数の周波数を取得し、前記複数の領域のそれぞれに対応する前記複数の周波数をニューラルネットワークに入力されるデータの奥行データとし、前記ニューラルネットワークの出力に前記所定の直交変換の逆変換を行う、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
深さに応じてゲインを変化させつつゲインを掛ける処理が行われたアナログ形式の受信信号から変換されたデジタル形式の受信信号を取得する取得部と、
前記デジタル形式の受信信号に対して、当該デジタル形式の受信信号に含まれるノイズのレベルを一定にさせる処理を行い、前記ノイズのレベルを一定にさせる処理が行われた前記デジタル形式の受信信号に対して、当該受信信号に含まれるノイズを低減させる処理を行うノイズ低減処理部と、
を備える、医用画像処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、超音波診断装置及び医用画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は生体を伝播する際に減衰する。超音波の減衰係数は、軟部組織では、0.6dB/cm(往復距離)/MHz程度である。例えば、深さ5cmの深さにある物体からのエコー信号(受信信号)が10MHzの超音波である場合、減衰は、-60dB(-0.6[dB/cm/MHz]*(5[cm]*2)*10[MHz])になる。物体が深さ10cmにある場合は、減衰は、-120dBになる。ここで超音波診断装置の1素子からの受信信号に含まれる振動子や電子回路で発生する熱雑音、すなわちホワイトノイズのレベルが-60dBであるとすると、各深さでの受信信号とノイズの関係は図1に示すようになる。図1は、ホワイトノイズのレベルが-60dBである場合の各深さでの受信信号とノイズの関係の一例を示す図である。図1において「signal」は、受信信号を示し、「noise」は、ノイズを示す。他の図面においても同様である。例えば、超音波診断装置が備えるADC(Analog to Digital Convertor)が「14bit ADC」である場合、ダイナミックレンジは84dBである。このため、このままでは、超音波診断装置は、浅部から深部までの受信信号を、ADCのダイナミックレンジの範囲内でADCに入力させることができない。そのため、超音波診断装置は、アナログ信号である受信信号に対して深さに応じてゲインを変えていく処理を行う。この処理は、ATGC(Analog Time Gain Compensation)と呼ばれる。
【0003】
図2は、超音波診断装置が、ATGCにおいて受信信号に対して6dB/cm(片側距離換算(横軸のdepth=1cmは、往復で2cmの伝播長である)のゲインを掛けた場合の受信信号とノイズの関係の一例を示す図である。ここで、深さ10cmまでの物体を観測することが可能な条件を考える。先の図1より1素子からの受信信号において、深さ10cmでは受信信号よりもノイズの方が60dB高い。プローブ(超音波プローブ)の素子数が256個である場合、受信ビームフォーミングにおいて深部では全素子からの全受信信号を加算することにより、24dBのS/N(signal to noise ratio)の改善が図られる。これは、受信信号をN回加算すると、S/Nは、Nの平方根だけ改善するからである。そのため、受信ビームフォーミング後のノイズレベルは-36dB(=(-60+24)dB)である。よって、深さ10cmの信号が観測できるためには、S/Nをあと36dB改善する必要がある。深さで言うと、従来はビームフォーミング後に深さ7cmまでの信号しか観測できなかったものを、深さ10cmまでの信号を観測できるようにするために、S/Nをあと36dB改善する必要がある。
【0004】
この問題を解決する、すなわちペネトレーションを改善する1番目の方法としては、同一位置に対して超音波を複数回送信することにより得られた同一位置の複数の受信信号を加算する方法が知られている。信号は一定でノイズはランダムに変化するとすると、信号をN回加算することでS/NはNの平方根だけ改善する。上述した例では、36dBのS/Nの改善を図るためには3981回の加算が必要になる。すべての地点で加算を行うためには3981フレーム必要になるので、フレームレートを60fpsとすると66秒(=3981/60)の時間が必要となる。ただしこの計算の前提として生体からのエコー信号は一定である必要があるが、拍動や呼吸の動きを含めて66秒もの間、生体を全く動かさなくすることは不可能である。このため、上述した1番目の方法を使用することは、現実的に不可能である。
【0005】
ペネトレーションを改善する2番目の方法としては、長い波連長のパルスを送信して大きなエネルギーを投入し、受信時にパルス圧縮を行う方法が知られている。しかしながら、36dBのS/Nの改善を行うためには長さが3981倍のパルスを送信する必要がある。このため、10MHzの超音波の1波長の周期の3981倍は、398μsとなりパルス長だけで30cmの伝播距離になる。このため、上述した2番目の方法を使用することは、現実的に不可能である。
【0006】
ペネトレーションを改善する3番目の方法としては、受信信号に空間的なローパスフィルタを掛けることである。ノイズは空間的にランダムなので、空間的なローパスフィルタによりノイズを低減できる。かかるローパスフィルタとして単純な加算平均のフィルタが用いられる場合、36dBのS/Nの改善を行うために、63×63(略3981)の幅の2次元フィルタが必要である。しかしながら、このような比較的広い幅の2次元フィルタを受信信号に掛けた場合、2次元フィルタが掛けられた受信信号のボケが比較的大きくなる。したがって、上述した3番目の方法を使用することは、現実的に不可能である。
【0007】
ペネトレーションを改善する4番目の方法としては、近年応用が進んでいるDeep Neural Network(DNN)を使用してノイズを低減する方法がある。特に画像処理の分野ではConvolutional Neural Network(CNN)の有効性が示されている。このCNNは、ノイズ低減にも利用されている。CNNを用いて、様々な反射体があった場合の理想的な受信信号を学習し、その理想的な受信信号の性質からはずれたものをノイズとして除去することができる。ただし、CNNが用いられる場合、カーネルがすべての領域で同じある。このため、受信信号の統計的性質が全領域で同一である必要がある。しかしながら、超音波信号(超音波診断装置により得られる受信信号)の場合は、深さ方向(超音波の伝播方向)及び方位方向(超音波の伝播に直交する方向)のそれぞれの方向における位置によって超音波信号の性質が大きく変化する。
【0008】
図3は、分解能の一例を説明するための図である。図3に示すように、送信フォーカス点付近は方位方向の分解能(方位分解能)が高いが、浅い部位や深い部位では方位方向に横流れが大きくなって方位分解能が悪い。また、プローブの中央付近に比べてプローブの端部は横流れが大きくなって方位分解能が悪い。このような条件下では、CNNの学習を進めてもノイズの低減効果は小さく、更に信号を劣化させる場合があるので適さない。
【0009】
CNNの中には、信号を出力するのではなく残差を出力するものも報告されている。これは、ノイズのある入力画像とノイズのない教師画像から残差つまりノイズを出力するものである。原画像(入力画像)から残差画像を減算すればノイズが低減した画像となる。なお、このようなCNNは、Denoising Convolutional Neural Network(DnCNN)と呼ばれている。例えば、画像のエッジを維持したまま32dB程度のPSNR(Peak Signal to Noise Ratio)の改善があると報告されている。
【0010】
DnCNNの場合、カーネルがすべての領域で同じために、ノイズは領域全体で統計的性質が同一である必要がある。しかし、図2を参照して説明したように、超音波診断装置のデジタル入力信号(デジタルの受信信号)におけるノイズ振幅は深さによって変化する。そのため、かかるデジタル入力信号に対して、空間的にノイズが一様であることを仮定しているDnCNNを適用することはできない。
【0011】
学習時のノイズと使用時(運用時)のノイズとが異なる場合の対策としては、使用時にニューラルネットワークの内部パラメータを調整する方法がある。しかし、この方法では、ノイズは空間的に一様であることが仮定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2018-206382号公報
【特許文献2】特開2020-114295号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】K.Zhang et al, “Beyond a Gaussian Denoiser: Residual Learning of Deep CNN for Image Denoising”, IEEE Transactions on Image Processing, Vol.26, No.7, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、効果的にノイズ低減を図ることである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置付けることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
実施形態の超音波診断装置は、受信回路と処理回路とを備える。受信回路は、アナログ形式の受信信号に対して深さに応じてゲインを変化させつつゲインを掛ける第1の処理を行い、第1の処理が行われた前記受信信号をデジタル形式の受信信号に変換する第2の処理を行う。処理回路は、前記デジタル形式の受信信号に対して、当該デジタル形式の受信信号に含まれるノイズのレベルを一定にさせる第3の処理を行い、前記第3の処理が行われた前記デジタル形式の受信信号に対して、当該受信信号に含まれるノイズを低減させる第4の処理を行う。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、ホワイトノイズのレベルが-60dBである場合の各深さでの受信信号とノイズの関係の一例を示す図である。
図2図2は、超音波診断装置が、ATGCにおいて受信信号に対して6dB/cm(片側距離換算)のゲインを掛けた場合の受信信号とノイズの関係の一例を示す図である。
図3図3は、分解能の一例を説明するための図である。
図4図4は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。
図5図5は、第1の実施形態に係る受信回路及びノイズ低減処理回路の構成の一例を示す図である。
図6A図6Aは、第1の実施形態に係るLNAにより受信される受信信号とノイズのレベルとの関係の一例を示す図である。
図6B図6Bは、第1の実施形態に係るATGC処理回路が、ATGCにおいて受信信号に対して6dB/cm(片側距離換算)のゲインを掛けた場合の受信信号とノイズの関係の一例を示す図である。
図6C図6Cは、第1の実施形態に係る逆ゲイン実行機能によりゲインが掛けられたIQ信号とノイズの関係の一例を示す図である。
図6D図6Dは、第1の実施形態に係る減算器により出力されたIQ信号とノイズの関係の一例を示す図である。
図6E図6Eは、第1の実施形態に係るゲイン実行機能により送信されたIQ信号とノイズの関係の一例を示す図である。
図7図7は、第1の実施形態に係るノイズ低減処理回路が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図8図8は、第2の実施形態に係る超音波診断装置の一部の構成の一例を示す図である。
図9図9は、第2の実施形態に係るノイズ低減処理回路の構成の一例を示す図である。
図10図10は、第3の実施形態に係るDnCNN処理機能が実行する処理の一例を説明するための図である。
図11図11は、第3の実施形態に係るDnCNN処理機能が実行する処理の一例を説明するための図である。
図12図12は、第4の実施形態に係るノイズ低減処理回路の構成の一例を示す図である。
図13図13は、第4の実施形態に係るノイズ低減処理機能が実行する処理の一例を説明するための図である。
図14図14は、第5の実施形態に係る医用画像処理装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、実施形態に係る超音波診断装置及び医用画像処理装置を説明する。なお、実施形態は、内容に矛盾が生じない範囲で従来技術、他の実施形態又は他の変形例との組み合わせが可能である。同様に、変形例は、内容に矛盾が生じない範囲で従来技術、他の実施形態又は他の変形例との組み合わせが可能である。また、以下の説明において、同様の構成要素には共通の符号を付与するとともに、重複する説明を省略する場合がある。
【0018】
(第1の実施形態)
図4は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1の構成例を示すブロック図である。図4に例示するように、第1の実施形態に係る超音波診断装置1は、装置本体100と、超音波プローブ101と、入力装置102と、ディスプレイ103とを有する。
【0019】
超音波プローブ101は、例えば、複数の振動子(圧電素子)を有する。これら複数の振動子は、装置本体100が有する送受信回路110の送信回路111から供給される駆動信号に基づき超音波を発生する。具体的には、複数の振動子は、送信回路111により電圧(送信駆動電圧)が印可されることにより送信駆動電圧に応じた波形の超音波を発生する。また、超音波プローブ101は、被検体Pからの反射波を受信し、反射波を電気信号である反射波信号(受信信号)に変換し、反射波信号を装置本体100に出力(送信)する。また、超音波プローブ101は、例えば、振動子に設けられる整合層と、振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有する。なお、超音波プローブ101は、装置本体100と着脱自在に接続される。
【0020】
超音波プローブ101から被検体Pに超音波が送信されると、送信された超音波は、被検体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波として超音波プローブ101が有する複数の振動子にて受信される。受信される反射波の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。なお、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁等の表面で反射された場合の反射波は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向に対する速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。そして、超音波プローブ101は、反射波信号を後述する送受信回路110の受信回路112に送信する。
【0021】
超音波プローブ101は、装置本体100と着脱可能に設けられる。被検体P内の2次元領域の走査(2次元走査)を行なう場合、操作者は、例えば、複数の振動子が一列で配置された1Dアレイプローブを超音波プローブ101として装置本体100に接続する。1Dアレイプローブの種類としては、リニア型超音波プローブ、コンベックス型超音波プローブ、セクタ型超音波プローブ等が挙げられる。また、被検体P内の3次元領域の走査(3次元走査)を行なう場合、操作者は、例えば、メカニカル4Dプローブや2Dアレイプローブを超音波プローブ101として装置本体100と接続する。メカニカル4Dプローブは、1Dアレイプローブのように一列で配列された複数の振動子を用いて2次元走査が可能であるとともに、複数の振動子を所定の角度(揺動角度)で揺動させることで3次元走査が可能である。また、2Dアレイプローブは、マトリックス状に配置された複数の振動子により3次元走査が可能であるとともに、超音波を集束して送信することで2次元走査が可能である。
【0022】
入力装置102は、例えば、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボール、ジョイスティック等の入力手段により実現される。入力装置102は、超音波診断装置1の操作者からの各種設定要求を受け付け、受け付けた各種設定要求を装置本体100に転送する。
【0023】
ディスプレイ103は、例えば、超音波診断装置1の操作者が入力装置102を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体100において生成された超音波画像データに基づく超音波画像等を表示したりする。ディスプレイ103は、液晶モニタやCRT(Cathode Ray Tube)モニタ等によって実現される。
【0024】
装置本体100は、超音波プローブ101から送信された反射波信号に基づいて超音波画像データを生成する。なお、超音波画像データは、画像データの一例である。装置本体100は、超音波プローブ101から送信された被検体Pの2次元領域に対応する反射波信号に基づいて2次元の超音波画像データを生成可能である。また、装置本体100は、超音波プローブ101から送信された被検体Pの3次元領域に対応する反射波信号に基づいて3次元の超音波画像データを生成可能である。図1に示すように、装置本体100は、送受信回路110と、ノイズ低減処理回路120と、ビームフォーマ130と、信号処理回路140と、画像生成回路150と、画像メモリ160と、記憶回路170と、制御回路180とを有する。
【0025】
送受信回路110は、制御回路180による制御を受けて、超音波プローブ101に超音波を送信させるとともに、超音波プローブ101に超音波の反射波を受信させる。すなわち、送受信回路110は、超音波プローブ101を介して走査を実行する。なお、走査は、スキャン、超音波スキャン又は超音波走査とも称される。送受信回路110は、送受信部の一例である。送受信回路110は、送信回路111と受信回路112とを有する。
【0026】
送信回路111は、制御回路180による制御を受けて、超音波プローブ101に駆動信号を供給し、超音波プローブ101から超音波を送信させる。送信回路111は、レートパルサ発生回路と、送信遅延回路と、送信パルサとを有する。送信回路111は、被検体P内の2次元領域を走査する場合、超音波プローブ101から2次元領域を走査するための超音波ビームを送信させる。また、送信回路111は、被検体P内の3次元領域を走査する場合、超音波プローブ101から3次元領域を走査するための超音波ビームを送信させる。
【0027】
レートパルサ発生回路は、制御回路180による制御を受けて、所定のレート周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)で、送信超音波(送信ビーム)を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。レートパルスが送信遅延回路を経由することで、異なる送信遅延時間を有した状態で送信パルサに電圧が印加される。例えば、送信遅延回路は、超音波プローブ101から発生される超音波をビーム状に集束して送信指向性を決定するために必要な振動子ごとの送信遅延時間を、レートパルサ発生回路により発生される各レートパルスに対して与える。送信パルサは、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ101に駆動信号(駆動パルス)を供給する。なお、送信遅延回路は、各レートパルスに与える送信遅延時間を変化させることで、振動子面からの超音波の送信方向を任意に調整する。
【0028】
駆動パルスが送信パルサからケーブルを介して超音波プローブ101内の振動子まで伝達した後に、振動子において電気信号から機械的振動に変換される。すなわち、振動子に電圧が印可されることによって、振動子は機械的に振動する。この機械的振動によって発生した超音波は、生体内部に送信される。ここで、振動子ごとに異なる送信遅延時間を持った超音波は、集束されて、所定方向に伝搬していく。
【0029】
なお、送信回路111は、制御回路180による制御を受けて、所定の走査シーケンスを実行するために、送信周波数、送信駆動電圧等を瞬時に変更可能な機能を有する。特に、送信駆動電圧の変更は、瞬間に送信駆動電圧の値を切り替え可能なリニアアンプ型の発信回路、または、複数の電源ユニットを電気的に切り替える機構によって実現される。
【0030】
超音波プローブ101により送信された超音波の反射波は、超音波プローブ101内部の振動子まで到達した後、振動子において、機械的振動から電気的信号(反射波信号)に変換され、受信回路112に入力される。すなわち、受信回路112に、アナログ形式の反射波信号が入力される。受信回路112は、LNA(Low Noise Amplifier(低雑音増幅器))と、ATGC(Analog Time Gain Compensation)処理回路と、ADC(Analog to Digital Convertor)と、復調器等を有し、超音波プローブ101から送信された反射波信号に対して各種処理を行ない、デジタル形式の反射波信号として、ベースバンド帯域の同相信号(I信号、I:In-phase)及び直交信号(Q信号、Q:Quadrature-phase)を生成する。I信号及びQ信号は、IQ信号と呼ばれる。そして、受信回路112は、生成したIQ信号をノイズ低減処理回路120に送信する。受信回路112の詳細については後述する。
【0031】
ノイズ低減処理回路120は、受信回路112により送信されたIQ信号をチャンネル毎に受信する。そして、ノイズ低減処理回路120は、受信されたIQ信号に含まれるノイズを低減し、ノイズが低減されたIQ信号をビームフォーマ130に送信する。なお、1つのチャンネルは、1つの振動子又は複数の振動子に対応する。以下、1つのチャンネルが1つの振動子に対応する場合を例に挙げて説明する。ノイズ低減処理回路120は、例えば、プロセッサにより実現される。ノイズ低減処理回路120の詳細については後述する。
【0032】
ビームフォーマ130は、ノイズ低減処理回路120により送信されたIQ信号に対して整相加算処理(遅延加算処理)を行うことにより、反射波データを生成する。例えば、ビームフォーマ130は、チャンネル毎のIQ信号に対して受信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与える。そして、ビームフォーマ130は、遅延時間が与えられたIQ信号を加算することにより、反射波データを生成する。ビームフォーマ130は、生成された反射波データを信号処理回路140に送信する。
【0033】
信号処理回路140は、ビームフォーマ130により送信された反射波データを受信し、受信された反射波データに対して各種の信号処理を施し、各種の信号処理が施された反射波データをBモードデータ又はドプラデータとして画像生成回路150に送信する。信号処理回路140は、例えば、プロセッサにより実現される。信号処理回路140は、信号処理部の一例である。以下、信号処理回路140実行する各種の信号処理の一例を説明する。
【0034】
例えば、信号処理回路140は、反射波データに対して、包絡線検波処理及び対数圧縮等の各種の処理を施して、サンプル点ごとの信号強度(振幅強度)が輝度の明るさで表現されるBモードデータを生成する。例えば、信号処理回路140は、包絡線検波器及び対数圧縮機器等を備える。例えば、包絡線検波器は、反射波データを包絡線検波し、対数圧縮器は、包絡線検波により得られた包絡線に関するデータ(例えば、振幅を示すデータ等)を対数圧縮する。信号処理回路140は、生成したBモードデータを画像生成回路150に送信する。
【0035】
また、信号処理回路140は、高調波成分を映像化するハーモニックイメージングを行うための信号処理を実行する。ハーモニックイメージングとしては、コントラストハーモニックイメージング(CHI:Contrast Harmonic Imaging)や組織ハーモニックイメージング(THI:Tissue Harmonic Imaging)が挙げられる。また、コントラストハーモニックイメージングや組織ハーモニックイメージングでは、スキャン方式として、以下の方式が知られている。例えば、かかるスキャン方式として、振幅変調(AM:Amplitude Modulation)、パルスサブトラクション法(Pulse Subtraction法)又はパルスインバージョン法(Pulse Inversion法)と呼ばれる位相変調(PM:Phase Modulation)、及び、AMとPMとを組み合わせることで、AMの効果及びPMの効果の双方が得られるAMPM等が知られている。
【0036】
また、信号処理回路140は、反射波データを周波数解析することで、ドプラ効果に基づく移動体(血流や組織、造影剤エコー成分等)の運動情報を反射波データから抽出し、抽出した運動情報を示すドプラデータを生成する。例えば、信号処理回路140は、移動体の運動情報として、平均速度、平均分散値及び平均パワー値等を多点に渡り抽出し、抽出した移動体の運動情報を示すドプラデータを生成する。信号処理回路140は、生成したドプラデータを画像生成回路150に送信する。
【0037】
上記の信号処理回路140の機能を用いて、実施形態に係る超音波診断装置1は、カラーフローマッピング(CFM:Color Flow Mapping)法とも呼ばれるカラードプラ法を実行可能である。カラーフローマッピング法では、超音波の送受信が複数の走査線上で複数回行なわれる。そして、カラーフローマッピング法では、同一位置のデータ列に対してMTI(Moving Target Indicator)フィルタを掛けることで、同一位置のデータ列から、静止している組織、或いは、動きの遅い組織に由来する信号(クラッタ信号)を抑制して、血流に由来する信号(血流信号)を抽出する。そして、カラーフローマッピング法では、この血流信号から血流の速度、血流の分散、血流のパワー等の血流情報を推定する。信号処理回路140は、カラーフローマッピング法により推定された血流情報を示すカラー画像データを画像生成回路150に送信する。なお、カラー画像データは、ドプラデータの一例である。
【0038】
信号処理回路140は、2次元の反射波データ及び3次元の反射波データの両方の反射波データを処理可能である。
【0039】
画像生成回路150は、信号処理回路140により送信されたBモードデータ又はドプラデータから超音波画像データを生成する。画像生成回路150は、プロセッサにより実現される。
【0040】
例えば、画像生成回路150は、信号処理回路140が生成した2次元のBモードデータから反射波の強度を輝度で表した2次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成回路150は、信号処理回路140が生成した2次元のドプラデータから運動情報又は血流情報が映像化された2次元ドプラ画像データを生成する。なお、運動情報が映像化された2次元ドプラ画像データは、速度画像データ、分散画像データ、パワー画像データ、又は、これらを組み合わせた画像データである。
【0041】
ここで、画像生成回路150は、一般的には、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(走査コンバート)し、表示用の超音波画像データを生成する。例えば、画像生成回路150は、信号処理回路140により送信されたデータに対して、超音波プローブ101による超音波の走査形態に応じて座標変換を行なうことで、表示用の超音波画像データを生成する。また、画像生成回路150は、走査コンバート以外に種々の画像処理として、例えば、走査コンバート後の複数の画像フレームを用いて、輝度の平均値画像を再生成する画像処理(平滑化処理)や、画像内で微分フィルタを用いる画像処理(エッジ強調処理)等を行なう。また、画像生成回路150は、超音波画像データに、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディーマーク等を合成する。
【0042】
更に、画像生成回路150は、信号処理回路140により生成された3次元のBモードデータに対して座標変換を行なうことで、3次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成回路150は、信号処理回路140により生成された3次元のドプラデータに対して座標変換を行なうことで、3次元ドプラ画像データを生成する。すなわち、画像生成回路150は、「3次元のBモード画像データ及び3次元ドプラ画像データ」を「3次元超音波画像データ(ボリュームデータ)」として生成する。そして、画像生成回路150は、ボリュームデータをディスプレイ103にて表示するための各種の2次元画像データを生成するために、ボリュームデータに対して様々なレンダリング処理を行なう。
【0043】
画像生成回路150が行なうレンダリング処理としては、例えば、断面再構成法(MPR:Multi Planer Reconstruction)を用いてボリュームデータからMPR画像データを生成する処理がある。また、画像生成回路150が行なうレンダリング処理としては、例えば、3次元の情報を反映した2次元画像データを生成するボリュームレンダリング(VR:Volume Rendering)処理がある。画像生成回路150は、画像生成部の一例である。
【0044】
Bモードデータ及びドプラデータは、走査コンバート処理前の超音波画像データであり、画像生成回路150が生成するデータは、走査コンバート処理後の表示用の超音波画像データである。なお、Bモードデータ及びドプラデータは、生データ(Raw Data)とも呼ばれる。
【0045】
画像メモリ160は、画像生成回路150により生成された各種の画像データを記憶するメモリである。また、画像メモリ160は、信号処理回路140により生成されたデータも記憶する。画像メモリ160が記憶するBモードデータやドプラデータは、例えば、診断の後に操作者が呼び出すことが可能となっており、画像生成回路150を経由して表示用の超音波画像データとなる。例えば、画像メモリ160は、RAM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク又は光ディスクによって実現される。
【0046】
記憶回路170は、走査(超音波の送受信)、画像処理及び表示処理を行なうための制御プログラムや、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)や、診断プロトコルや各種ボディーマーク等の各種データを記憶する。また、記憶回路170は、必要に応じて、画像メモリ160が記憶するデータの保管等にも使用される。例えば、記憶回路170は、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク又は光ディスクによって実現される。
【0047】
制御回路180は、超音波診断装置1の処理全体を制御する。具体的には、制御回路180は、入力装置102を介して操作者から入力された各種設定要求や、記憶回路170から読込んだ各種制御プログラム及び各種データに基づき、送受信回路110、ノイズ低減処理回路120、ビームフォーマ130、信号処理回路140及び画像生成回路150の処理を制御する。また、制御回路180は、画像メモリ160に記憶された表示用の超音波画像データに基づく超音波画像を表示するようにディスプレイ103を制御する。例えば、制御回路180は、Bモード画像データに基づくBモード画像又はカラー画像データに基づくカラー画像を表示するようにディスプレイ103を制御する。また、制御回路180は、Bモード画像にカラー画像を重畳させて表示するようにディスプレイ103を制御する。制御回路180は、表示制御部又は制御部の一例である。制御回路180は、例えば、プロセッサにより実現される。超音波画像は、画像の一例である。
【0048】
また、制御回路180は、送受信回路110を介して超音波プローブ101を制御することで、超音波走査の制御を行なう。
【0049】
以上、第1の実施形態に係る超音波診断装置1の全体構成について説明した。次に、受信回路112及びノイズ低減処理回路120の構成の一例について説明する。図5は、第1の実施形態に係る受信回路112及びノイズ低減処理回路120の構成の一例を示す図である。
【0050】
図5に示すように、受信回路112は、複数のLNA112aと、複数のATGC処理回路112bと、複数のADC(Analog to Digital Convertor)112cと、複数の復調器112dとを備える。例えば、LNA112a、ATGC処理回路112b、ADC112c及び復調器112dは、1つのチャンネル毎に設けられる。例えば、1つのチャンネルが1つの振動子に対応する場合、1つの振動子(1つのチャンネル)に対して、1つのLNA112a、1つのATGC処理回路112b、1つのADC112c及び1つの復調器112dが設けられる。以下、ある1つのチャンネルに対応する1つのLNA112a、1つのATGC処理回路112b、1つのADC112c及び1つの復調器112dが実行する処理(動作)の一例について説明するが、他のチャンネルに対応するLNA112a、ATGC処理回路112b、ADC112c及び復調器112dが実行する処理についても同様である。
【0051】
LNA112aは、このLNA112aに対応する振動子により送信された受信信号を受信し、受信された受信信号を予め設定されたゲインによって増幅し、増幅された受信信号をATGC処理回路112bへ送信する。
【0052】
図6Aは、第1の実施形態に係るLNA112aにより受信される受信信号とノイズのレベルとの関係の一例を示す図である。例えば、図6Aには、各深さでの信号とノイズとの関係が示されている。超音波の減衰係数は、軟部組織では、0.6dB/cm(往復距離)/MHz程度である。例えば、深さ5cmの深さにある物体からのエコー信号(受信信号)が10MHzの超音波である場合、図6Aに示すように、減衰は、-60dBになる。また、物体が深さ10cmにある場合は、減衰は、-120dBになる。ここで超音波診断装置1の1つの振動子からの受信信号に含まれる振動子や各種の電子回路で発生する熱雑音、すなわちホワイトノイズのレベルが-60dBであるとすると、各深さでの受信信号とノイズの関係は図6Aに示すようになる。例えば、ADC112cが「14bit ADC」である場合、ダイナミックレンジは84dBである。このため、このままでは、超音波診断装置1は、浅部から深部までの受信信号を、ADC112cのダイナミックレンジの範囲内でADC112cに入力させることができない。
【0053】
そこで、ATGC処理回路112bは、アナログ信号である受信信号に対して深さに応じてゲインを変えていく処理(ATGC)を行う。具体的には、ATGC処理回路112bは、LNA112aにより送信された受信信号に対して、深さに応じて異なる量のアッテネータを掛ける。すなわち、ATGC処理回路112bは、深さに応じて異なるゲイン値を用いて、LNA112aにより送信された受信信号に対して、ゲインを掛ける。このように、ATGC処理回路112bは、超音波を送信してからの経過時間に応じてゲイン値を変化させつつ、受信信号を増幅する。そして、ATGC処理回路112bは、ゲインが掛けられた受信信号をADC112cに送信する。
【0054】
図6Bは、第1の実施形態に係るATGC処理回路112bが、ATGCにおいて受信信号に対して6dB/cm(片側距離換算)のゲインを掛けた場合の受信信号とノイズの関係の一例を示す図である。図6Bに示すように、受信信号に対してATGCが行われたため、ノイズは、空間的に一様ではない。
【0055】
ADC112cは、ATGC処理回路112bにより送信されたアナログ形式の受信信号をデジタル形式の受信信号に変換する。例えば、このような変換後のデジタル形式の受信信号は、radio frequency(RF)信号である。そして、ADC112cは、デジタル形式の受信信号であるRF信号を復調器112dに送信する。
【0056】
復調器112dは、ADC112cにより送信されたRF信号を受信する。そして、復調器112dは、受信されたRF信号を復調することで、RF信号をベースバンド帯域のI信号とQ信号とに変換する。そして、復調器112dは、IQ信号をノイズ低減処理回路120に送信する。なお、IQ信号は、デジタル形式の信号である。
【0057】
上述したように、第1の実施形態に係る受信回路112は、アナログ形式の受信信号に対して深さに応じてゲインを変化させつつゲインを掛けるATGCを行うATGC処理回路112bと、ATGCが行われた受信信号をデジタル形式の受信信号に変換する処理を行うADC112cとを備える。ここで、ATGCは、第1の処理の一例である。また、ATGCが行われた受信信号をデジタル形式の受信信号に変換する処理は、第2の処理の一例である。
【0058】
図5に示すように、ノイズ低減処理回路120は、複数の逆ゲイン実行機能120aと、メモリ120bと、DnCNN処理機能120cと、減算器120eと、ゲイン実行機能120fを備える。例えば、逆ゲイン実行機能120aは、1つのチャンネル毎に設けられる。例えば、1つのチャンネルが1つの振動子に対応する場合、1つの振動子(1つのチャンネル)に対して、1つの逆ゲイン実行機能120aが設けられる。
【0059】
ここで、例えば、図5に示すノイズ低減処理回路120の構成要素である複数の逆ゲイン実行機能120a、DnCNN処理機能120c及びゲイン実行機能120fが実行する各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路170内に記録されている。ノイズ低減処理回路120は、例えば、プロセッサであり、記憶回路170から各プログラムを読み出し、読み出された各プログラムを実行することで各プログラムに対応する機能を実現する。換言すると、各プログラムを読み出した状態のノイズ低減処理回路120は、図5のノイズ低減処理回路120内に示された各機能を有することとなる。
【0060】
なお、図5においては、複数の逆ゲイン実行機能120a、DnCNN処理機能120c及びゲイン実行機能120fの各処理機能が単一の処理回路(ノイズ低減処理回路120)によって実現される場合を示したが、実施形態はこれに限られるものではない。例えば、ノイズ低減処理回路120は、複数の独立したプロセッサを組み合わせて構成され、各プロセッサが各プログラムを実行することにより各処理機能を実現するものとしても構わない。また、ノイズ低減処理回路120が有する各処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。
【0061】
複数の逆ゲイン実行機能120aのそれぞれは、対応する復調器112dにより送信されたIQ信号を受信し、受信されたIQ信号に対してATGC処理回路112bにより掛けられたゲイン(ゲイン値)とは逆のゲインを掛ける。例えば、逆ゲイン実行機能120aは、1つのチャンネル毎に、IQ信号に対してATGC処理回路112bにより掛けられたゲイン(ゲイン値)の逆数をゲイン値として用いてゲインを掛ける。このように、逆ゲイン実行機能120aは、デジタル形式の受信信号の一例であるIQ信号に対して、当該IQ信号に含まれるノイズのレベルを全ての深さで一定にさせる処理を行う。
【0062】
図6Cは、第1の実施形態に係る逆ゲイン実行機能120aによりゲインが掛けられたIQ信号とノイズの関係の一例を示す図である。図6Cに示すように、ノイズは、深さによって変化せず、空間的に一様となる。したがって、逆ゲイン実行機能120aによりゲインが掛けられたIQ信号は、ノイズを推定するDnCNN120dに適用することができる。
【0063】
なお、ADC112cでは量子化雑音というノイズが発生する。しかしながら、量子化雑音は、深さによって変化することはない。このため、逆ゲイン実行機能120aは、ATGC処理回路112bにより実行されるATGCによる深さによって変化する熱雑音と、深さによって変化しない量子化雑音との和が、全ての深さで一定になるようなゲインをIQ信号に掛けると更に良い。ただし、例えば、ADC112cが「14bit ADC」である場合、ADC112cのS/Nは86dB(6.02*14+1.76)程度である。このため、図6Bの場合、深さが0cmである深さにおいて、量子化雑音は、熱雑音より下にあるため、無視しても良い。これにより、ノイズは全ての深さ及び全てのチャンネルで一定のレベルとなる。
【0064】
そして、逆ゲイン実行機能120aは、ゲインが掛けられたIQ信号をメモリ120bに記憶させる。具体的には、メモリ120bは、チャンネルの軸(チャンネル方向)及び深さの軸(深さ方向)により構成される2次元の記憶領域を備える。そして、複数の逆ゲイン実行機能120aのそれぞれは、ゲインが掛けられたIQ信号をメモリ120bが備える記憶領域の対応する位置に記憶させる。これにより、メモリ120bが備える記憶領域には、チャンネル及び深さの2次元のIQ信号(2次元データ)が記憶される。
【0065】
DnCNN処理機能120cは、DnCNN120dを備える。例えば、DnCNN120dは、ノイズ低減処理回路120の内部メモリに記憶されている。DnCNN処理機能120cは、メモリ120bが備える記憶領域に記憶された2次元のIQ信号を読み出し、読み出された2次元のIQ信号をDnCNN120dに入力する。このようにして、DnCNN処理機能120cは、DnCNN120dにノイズ(残差)を推定させる。また、DnCNN処理機能120cは、読み出された2次元のIQ信号を減算器120eに送信する。
【0066】
DnCNN120dは、入力された2次元のIQ信号に含まれるノイズ(ノイズ成分)を推定し、推定されたノイズを減算器120eに出力する。例えば、DnCNN120dは、2次元のDeep Convolutional Neural Network(DCNN)である。このようなDnCNN120dの係数等の各種の内部パラメータは、例えば、事前に以下で説明するような学習によって決定される。例えば、学習を行う学習装置は、「Field II」([令和3年4月2日検索],インターネット<http://field-ii.dk/>)のような超音波シミュレータによってノイズのない超音波信号(例えば、上述したIQ信号)を作成する。そして、学習装置は、この超音波信号に超音波診断装置1のノイズレベルに相当するホワイトノイズを加算する。学習装置は、このホワイトノイズが加算された超音波信号をDCNNに入力して、DCNNからの出力が、超音波信号に加算されたホワイトノイズになるように、DCNNを学習する。このような学習は、DnCNNと呼ばれる残差学習である。また、DnCNN120dを学習する方法は、非特許文献1や特許文献1において残差(ノイズ)を推定するニューラルネットワークを学習する方法と同様である。
【0067】
ここで、DnCNN120dの入力は複素数のIQ信号であるが、一般的なディープラーニング(Deep Learning)のフレームワークは複素数には対応してない。しかしながら、第1の実施形態において、着目されるのはホワイトノイズである。ホワイトノイズは実部と虚部で独立である。このため、DnCNN処理機能120cは、IQ信号の実部と虚部を独立な信号としてDnCNN120dに入力すればよい。例えば、DnCNN処理機能120cは、実部と虚部とを別々にDnCNN120dに入力すればよい。
【0068】
なお、超音波プローブ101や装置条件(超音波診断装置1の条件)によって超音波診断装置1のノイズレベルは変化する。このため、学習装置は、複数のノイズレベルのそれぞれでDnCNN120dを学習させて、複数のノイズレベルのそれぞれに対応する内部パラメータを備えるDnCNN120dをノイズレベル毎に生成してもよい。すなわち、学習装置は、複数のノイズレベルに対応する複数のDnCNN120dを生成してもよい。そして、ノイズ低減処理回路120は、学習装置により生成された複数のDnCNN120dを保持し、複数のDnCNN120dの中から超音波プローブ101や装置条件に対応するノイズレベルに合致するDnCNN120dを選択し、選択されたDnCNN120dを用いて、2次元のIQ信号に含まれるノイズを推定してもよい。
【0069】
なお、ノイズ低減処理回路120は、特許文献1で開示されているようなSNR関連データをDnCNN120dの内部パラメータを調整する指標として保持し、特許文献1で開示されているような方法と同様の方法により、ノイズを推定する際に、DnCNN120dの内部パラメータを調整してもよい。
【0070】
減算器120eは、DnCNN処理機能120cにより送信された2次元のIQ信号(原信号)から、DnCNN120dにより推定されて出力されたノイズを減算する。これにより、減算器120eは、ノイズが低減された2次元のIQ信号を得る。2次元のIQ信号は、チャンネルの軸(チャンネル方向)及び深さの軸(深さ方向)により構成される2次元のデータである。そして、減算器120eは、ノイズが低減された2次元のIQ信号をゲイン実行機能120fに送信する。
【0071】
図6Dは、第1の実施形態に係る減算器120eにより出力されたIQ信号とノイズの関係の一例を示す図である。図6Dは、深さ方向の応答の一例を示す。図6C図6Dとを比較すると分かるように、IQ信号に含まれるノイズが減算器120eにより低減されている。
【0072】
ゲイン実行機能120fは、減算器120eにより送信されたIQ信号に対して、逆ゲイン実行機能120aによりIQ信号に対して掛けられたゲイン(ゲイン値)とは逆のゲインを掛ける。すなわち、ゲイン実行機能120fは、ゲインを元に戻す。これにより、IQ信号のレベルが全ての深さで一定又は略一定となる。そして、ゲイン実行機能120fは、ゲインが掛けられたIQ信号をビームフォーマ130に送信する。
【0073】
図6Eは、第1の実施形態に係るゲイン実行機能120fにより送信されたIQ信号とノイズの関係の一例を示す図である。図6Eは、深さ方向の応答の一例を示す。図6D及び図6Eから分かるように、DnCNN120dによるノイズ低減効果は高く、例えば、非特許文献1によれば、PSNR(Peak Signal to Noise Ratio)は、32dB程度改善する。また、図6Eから分かるように、IQ信号のレベルが全ての深さで一定又は略一定となる。そして、画像のエッジのボケはほとんど見られない。
【0074】
上述したように、第1の実施形態に係るノイズ低減処理回路120は、デジタル形式のIQ信号に対して、当該デジタル形式のIQ信号に含まれるノイズのレベルを一定にさせる処理を行う逆ゲイン実行機能120aと、ノイズのレベルを一定にさせる処理が行われたデジタル形式のIQ信号に対して、当該IQ信号に含まれるノイズを低減させる処理を行うDnCNN処理機能120c及びDnCNN120dとを備える。IQ信号に含まれるノイズのレベルを一定にさせる処理は、第3の処理の一例である。IQ信号に含まれるノイズを低減させる処理は、第4の処理の一例である。ノイズ低減処理回路120は、処理回路の一例である。
【0075】
また、逆ゲイン実行機能120aは、IQ信号に含まれるノイズのレベルを一定にさせる処理として、ATGCにおいて深さに応じて変化されるゲインとは逆のゲインをIQ信号に対して掛けるか、又は、IQ信号に含まれるホワイトノイズとATGCが行われた受信信号をデジタル形式の受信信号に変換する処理が行われる際に発生する量子化雑音との和を全ての深さで一定にさせる処理を行う。
【0076】
また、DnCNN処理機能120cは、IQ信号に含まれるノイズを低減させる処理として、入力された信号に含まれるノイズを出力するニューラルネットワークであるDnCNN120dに対して、IQ信号に含まれるノイズのレベルを一定にさせる処理が行われたIQ信号を入力し、DnCNN120dに当該IQ信号に含まれるノイズを出力させる。そして、減算器120eは、IQ信号に含まれるノイズを低減させる処理として、IQ信号からDnCNN120dから出力されたノイズを減算することにより、当該IQ信号に含まれるノイズを低減させる処理を行う。
【0077】
また、上述したように、第1の実施形態に係るビームフォーマ130は、IQ信号に含まれるノイズを低減させる処理によりノイズが低減されたIQ信号に対してビームフォーミングを行う。
【0078】
なお、上記では1回の超音波の送信毎に行われる処理の対象として、チャンネル方向と深さ方向の2次元データ(2次元のIQ信号)を例に挙げて説明した。しかしながら、DnCNN処理機能120cは、複数回の超音波の送信により得られるIQ信号を用いて、超音波の送信回数の軸(送信回数方向)とチャンネルの軸(チャンネル方向)と深さの軸(深さ方向)により構成される3次元のIQ信号(3次元データ)をDnCNN120dに入力してもよい。すなわち、DnCNN120dを3次元対応(3次元構成)としてもよい。これにより、DnCNN120dは、ノイズを推定し、推定されたノイズを減算器120eに出力する。
【0079】
また、チャンネル間で感度のばらつきがある場合、空間的にノイズレベルが一定にならない。この場合、超音波診断装置1は、事前に感度測定を行い、ノイズが一定になるようにゲイン補正を行う。例えば、逆ゲイン実行機能120aは、まず、超音波の送信が行われていない状態で各チャンネルの受信信号を観測することで感度測定を行う。具体的には、逆ゲイン実行機能120aは、チャンネル間の感度のばらつきを測定し、チャンネル毎に、全ての深さのrms(root mean square)を算出する。そして、逆ゲイン実行機能120aは、IQ信号に対して、同じ深さのrms値が全てのチャンネルで同一になるようなゲイン補正を掛ける。この後、逆ゲイン実行機能120aは、かかるゲイン補正が掛けられたIQ信号に対してATGC処理回路112bにより掛けられたゲイン(ゲイン値)とは逆のゲインを掛ける。このように、逆ゲイン実行機能120aは、IQ信号に含まれるノイズのレベルを一定にさせる処理として、チャンネル間の感度のばらつきに基づいて、IQ信号に含まれるノイズのレベルを全てのチャンネル及び全ての深さで一定にさせる処理を行う。
【0080】
図7は、第1の実施形態に係るノイズ低減処理回路120が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0081】
(ステップS101)
図7に示すように、ステップS101では、複数の逆ゲイン実行機能120aのそれぞれは、対応する復調器112dにより送信されたIQ信号に対してATGC処理回路112bにより掛けられたゲイン(ゲイン値)とは逆のゲインを掛ける。
【0082】
(ステップS102)
ステップS102では、複数の逆ゲイン実行機能120aは、ゲインが掛けられた2次元のIQ信号をメモリ120bに記憶させる。
【0083】
(ステップS103)
ステップS103では、DnCNN処理機能120cは、メモリ120bに記憶された2次元のIQ信号を読み出し、読み出された2次元のIQ信号をDnCNN120dに入力する。これにより、DnCNN120dは、ノイズを推定し、推定されたノイズを減算器120eに出力する。
【0084】
(ステップS104)
ステップS104では、減算器120eは、DnCNN処理機能120cにより送信された2次元のIQ信号から、DnCNN120dにより推定されて出力されたノイズを減算する。これにより、減算器120eは、ノイズが低減された2次元のIQ信号を得る。そして、減算器120eは、ノイズが低減された2次元のIQ信号をゲイン実行機能120fに送信する。
【0085】
(ステップS105)
ステップS105では、ゲイン実行機能120fは、減算器120eにより送信されたIQ信号に対して、逆ゲイン実行機能120aによりIQ信号に対して掛けられたゲイン(ゲイン値)とは逆のゲインを掛ける。すなわち、ゲイン実行機能120fは、ゲインを元に戻す。IQ信号のレベルが全ての深さで一定又は略一定となるような適切なゲインを掛ける。そして、ゲイン実行機能120fは、ゲインが掛けられたIQ信号をビームフォーマ130に送信する。
【0086】
以上、第1の実施形態に係る超音波診断装置1について説明した。従来の超音波診断装置では、DnCNNに入力される信号のノイズレベルは場所によって一定でないために効果的にノイズ低減が図れない。一方、第1の実施形態に係る超音波診断装置1では、DnCNN120dに入力される信号のノイズレベルは全ての場所で一定であり、ノイズレベルがすべての場所で一定となった状態でノイズ低減を図ることができる。このため、超音波診断装置1によれば、ニューラルネットワークを使用した方法で効率的にノイズ低減を図ることができる。また、このようなDnCNNを使用したノイズを低減させる方法では、信号をぼかすことなくノイズ低減が可能である。以上のことから、第1の実施形態に係る超音波診断装置1によれば、超音波のペネトレーションを大きく改善することが可能になる。
【0087】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、超音波診断装置1が、ビームフォーミング前にノイズを低減する処理を行う場合について説明した。しかしながら、超音波診断装置1は、ビームフォーミング後にノイズを低減する処理を行ってもよい。そこで、このような実施形態を第2の実施形態として説明する。なお、第2の実施形態の説明では、主に、第1の実施形態と異なる点について説明し、第1の実施形態と同様の構成の説明については省略する場合がある。
【0088】
図8は、第2の実施形態に係る超音波診断装置1の一部の構成の一例を示す図である。第2の実施形態に係るノイズ低減処理回路121は、ビームフォーマ130よりも後段に設けられている点が、第1の実施形態に係るノイズ低減処理回路120と異なる。例えば、信号処理回路140は、包絡線検波器140aと対数圧縮器140bとを備える。第2の実施形態では、ノイズ低減処理回路121は、包絡線検波器140aと対数圧縮器140bの間に設けられる。すなわち、ノイズ低減処理回路121は、包絡線検波器140aの後段に設けられるとともに、対数圧縮器140bの前段に設けられる。ノイズ低減処理回路121は、処理回路の一例である。
【0089】
例えば、第2の実施形態では、包絡線検波器140aが反射波データを包絡線検波し、ノイズ低減処理回路121が包絡線検波により得られた包絡線に関するデータ(例えば、反射波データの振幅を示すデータ等)に含まれるノイズを低減させる処理を行い、対数圧縮器140bがノイズが低減された包絡線に関するデータを対数圧縮することにより、信号処理回路140内でBモードデータが生成される。このように、ノイズ低減処理回路121に入力されるデータ及びノイズ低減処理回路121から出力されるデータは、実数のデータである。また、ノイズ低減処理回路121に入力されるデータ、ノイズ低減処理回路121内で扱われるデータ及びノイズ低減処理回路121から出力されるデータは、受信信号の一例である。
【0090】
第2の実施形態では、ビームフォーマ130は、受信回路112により送信されたIQ信号に対して整相加算処理(遅延加算処理)を行うことにより、反射波データを生成する。例えば、ビームフォーマ130は、チャンネル毎のIQ信号に対して受信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与える。そして、ビームフォーマ130は、遅延時間が与えられたIQ信号を加算することにより、反射波データを生成する。ビームフォーマ130は、生成された反射波データを信号処理回路140に送信する。ここで、第2の実施形態に係るビームフォーマ130は、深さに応じて加算されるチャンネル数を変更するという可変口径を行う。すなわち、第2の実施形態では、ビームフォーマ130は、IQ信号に対して、深さに応じて加算されるチャンネル数を変更するビームフォーミングを行う。
【0091】
図9は、第2の実施形態に係るノイズ低減処理回路121の構成の一例を示す図である。図9に示すように、ノイズ低減処理回路121は、逆ゲイン実行機能121aと、メモリ121bと、DnCNN処理機能121cと、減算器121eと、ゲイン実行機能121fを備える。
【0092】
ここで、例えば、図9に示すノイズ低減処理回路121の構成要素である逆ゲイン実行機能121a、DnCNN処理機能121c及びゲイン実行機能121fが実行する各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路170内に記録されている。ノイズ低減処理回路121は、例えば、プロセッサであり、記憶回路170から各プログラムを読み出し、読み出された各プログラムを実行することで各プログラムに対応する機能を実現する。換言すると、各プログラムを読み出した状態のノイズ低減処理回路121は、図9のノイズ低減処理回路121内に示された各機能を有することとなる。
【0093】
なお、図9においては、逆ゲイン実行機能121a、DnCNN処理機能121c及びゲイン実行機能121fの各処理機能が単一の処理回路(ノイズ低減処理回路121)によって実現される場合を示したが、実施形態はこれに限られるものではない。例えば、ノイズ低減処理回路121は、複数の独立したプロセッサを組み合わせて構成され、各プロセッサが各プログラムを実行することにより各処理機能を実現するものとしても構わない。また、ノイズ低減処理回路121が有する各処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。
【0094】
ここで、上述したように、第2の実施形態に係るビームフォーマ130は、深さに応じて加算されるチャンネル数を変更するという可変口径を行う。そこで、第2の実施形態に係る逆ゲイン実行機能121aは、包絡線検波器140aにより送信された包絡線に関するデータを受信する。そして、逆ゲイン実行機能121aは、受信された包絡線に関するデータに対して、IQ信号に対してATGC処理回路112bにより掛けられたゲイン(ゲイン値)及び可変口径において深さに応じて変更される加算されるチャンネル数に基づくゲインを掛ける。
【0095】
例えば、逆ゲイン実行機能121aは、包絡線に関するデータに対して、以下の式(1)により得られるゲインGainComp(x,z)を掛ける。
【0096】
【数1】
【0097】
なお、式(1)において、ATGC(x,z)は、受信ラスタ番号xで、深さzにおいて、IQ信号に対してATGC処理回路112bにより掛けられたゲイン(リニアスケール)を示す。また、M(x,z)は、深さzにおいて加算されるチャンネル数を示す。
【0098】
逆ゲイン実行機能121aは、式(1)にしたがって、包絡線に関するデータに対して、ATGC処理回路112bにより掛けられたゲイン(ゲイン値)の逆数と、深さzにおいて加算されるチャンネル数の正の平方向の逆数との積を掛ける。このように、逆ゲイン実行機能121aは、包絡線に関するデータに対して、当該包絡線に関するデータに含まれるノイズのレベルを全ての深さで一定にさせる処理を行う。これにより、ノイズは、深さによって変化せず、空間的に一様となる。したがって、逆ゲイン実行機能121aによりゲインが掛けられたデータは、ノイズを推定するDnCNN121dに適用することができる。上述したように、第2の実施形態では、逆ゲイン実行機能121aは、包絡線に関するデータに含まれるノイズのレベルを一定にさせる処理として、ビームフォーマ130によるビームフォーミングにより得られたデータに対して、深さに応じて変更される加算されるチャンネル数に基づいて、ビームフォーミングにより得られたデータに含まれるノイズのレベルを一定にさせる処理を行う。
【0099】
そして、逆ゲイン実行機能121aは、ゲインが掛けられたデータをメモリ121bに記憶させる。具体的には、メモリ121bは、受信ラスタの軸(受信ラスタ方向)及び深さの軸(深さ方向)により構成される2次元の記憶領域を備える。そして、逆ゲイン実行機能121aは、ゲインが掛けられたデータをメモリ121bが備える記憶領域の対応する位置に記憶させる。これにより、メモリ121bが備える記憶領域には、受信ラスタ及び深さの2次元データが記憶される。
【0100】
DnCNN処理機能121cは、DnCNN121dを備える。例えば、DnCNN121dは、ノイズ低減処理回路121の内部メモリに記憶されている。DnCNN処理機能121cは、メモリ121bが備える記憶領域に記憶された2次元データを読み出し、読み出された2次元データをDnCNN121dに入力する。このようにして、DnCNN処理機能121cは、DnCNN121dにノイズ(残差)を推定させる。また、DnCNN処理機能121cは、読み出された2次元データを減算器121eに送信する。
【0101】
DnCNN121dは、入力された2次元データに含まれるノイズ(ノイズ成分)を推定し、推定されたノイズを減算器121eに出力する。例えば、DnCNN121dは、2次元のDCNNである。このようなDnCNN121dの係数等の各種の内部パラメータは、例えば、上述したDnCNN120dに対して行われる学習と同様の学習によって決定される。
【0102】
なお、超音波プローブ101や装置条件(超音波診断装置1の条件)によって超音波診断装置1のノイズレベルは変化する。このため、学習装置は、複数のノイズレベルのそれぞれでDnCNN121dを学習させて、複数のノイズレベルのそれぞれに対応する内部パラメータを備えるDnCNN121dをノイズレベル毎に生成してもよい。すなわち、学習装置は、複数のノイズレベルに対応する複数のDnCNN121dを生成してもよい。そして、ノイズ低減処理回路121は、学習装置により生成された複数のDnCNN121dを保持し、複数のDnCNN121dの中から超音波プローブ101や装置条件に対応するノイズレベルに合致するDnCNN121dを選択し、選択されたDnCNN121dを用いて、2次元データに含まれるノイズを推定してもよい。
【0103】
なお、ノイズ低減処理回路121は、特許文献1で開示されているようなSNR関連データをDnCNN121dの内部パラメータを調整する指標として保持し、特許文献1で開示されているような方法と同様の方法により、ノイズを推定する際に、DnCNN121dの内部パラメータを調整してもよい。
【0104】
減算器121eは、DnCNN処理機能121cにより送信された2次元データ(原信号)から、DnCNN121dにより推定されて出力されたノイズを減算する。これにより、減算器121eは、ノイズが低減された2次元データを得る。2次元データは、受信ラスタの軸(受信ラスタ方向)及び深さの軸(深さ方向)により構成される2次元のデータである。そして、減算器121eは、ノイズが低減された2次元データをゲイン実行機能121fに送信する。
【0105】
ゲイン実行機能121fは、減算器121eにより送信された2次元データに対して、逆ゲイン実行機能121aによりIQ信号に対して掛けられたゲイン(ゲイン値)とは逆のゲインを掛ける。すなわち、ゲイン実行機能121fは、ゲインを元に戻す。そして、ゲイン実行機能121fは、ゲインが掛けられた2次元データをビームフォーマ130に送信する。
【0106】
第1の実施形態では、DnCNN120dに入力されるデータは、チャンネルと深さの2次元データ(2次元のIQ信号)である。このため、第1の実施形態では、1回の超音波の送信毎にDnCNN120dを動作させてノイズ低減を図るので動きの影響は受けない。これに対して、第2の実施形態では、1フレーム分の超音波の送信を行って全反射波信号を得た後にDnCNN121dを動作させるので生体に動きがある場合、生体の動きの影響を受ける。しかしながら、通常の信号に対するCNNと異なり、ノイズを出力するDnCNN121dにおいては、生体の動きの影響は小さい。
【0107】
なお、上記では1回の1フレーム毎に行われる処理の対象として、受信ラスタ方向と深さ方向の2次元データを例に挙げて説明した。しかしながら、DnCNN処理機能121cは、複数フレームのデータを用いて、フレーム方向と受信ラスタ方向と深さ方向により構成される3次元のデータをDnCNN121dに入力してもよい。すなわち、DnCNN121dを3次元対応(3次元構成)としてもよい。これにより、DnCNN121dは、ノイズを推定し、推定されたノイズを減算器121eに出力する。また、DnCNN処理機能121cは、複数フレームの同一場所を加算することでS/Nの改善を図るための処理を行ってもよい。
【0108】
また、ノイズ低減処理回路121は、ビームフォーマ130と包絡線検波器140aと
の間に設けられてもよい。この場合、ノイズ低減処理回路121に入力されるデータ、及びノイズ低減処理回路121から出力されるデータであってノイズが低減されたデータは、複素数のデータである。
【0109】
また、ノイズ低減処理回路121は、対数圧縮器140bよりも後段に設けられてもよい。その場合、ノイズ低減処理回路121の逆ゲイン実行機能121a又はDnCNN処理機能121cは、入力されたデータに対して、対数圧縮器140bにより行われた対数圧縮の逆変換を行う。そして、DnCNN処理機能121cは、逆変換が行われたデータをDnCNN121dに入力し、DnCNN121dにノイズを推定させて出力させる。そして、ゲイン実行機能121fは、ノイズが低減されたデータに対して再度対数圧縮を行う。なお、DnCNN処理機能121cは、対数圧縮が行われたデータをそのままDnCNN121dに入力してもよい。
【0110】
以上、第2の実施形態に係る超音波診断装置1について説明した。第2の実施形態に係る超音波診断装置1によれば、第1の実施形態に係る超音波診断装置1と同様の効果を奏する。
【0111】
(第3の実施形態)
第1の実施形態では、DnCNN処理機能120cが、メモリ120bに記憶された2次元のIQ信号を読み出し、読み出された2次元のIQ信号を加工せずにDnCNN120dに入力する場合について説明した。しかしながら、DnCNN処理機能120cは、2次元のIQ信号を加工し、DnCNN120dに入力してもよい。そこで、このような実施形態を第3の実施形態として説明する。なお、第3の実施形態の説明では、主に、第1の実施形態と異なる点について説明し、第1の実施形態と同様の構成の説明については省略する場合がある。
【0112】
図10及び図11は、第3の実施形態に係るDnCNN処理機能120cが実行する処理の一例を説明するための図である。第3の実施形態において、DnCNN処理機能120cは、図10に示す2次元のIQ信号(2次元データ)20をメモリ120bから読み出す。以下、2次元のIQ信号20は、チャンネル方向にIQ信号が「CH0」個配列され、深さ方向にIQ信号が「D0」個配列されたデータであり、「CH0」×「D0」個のIQ信号により構成されるデータである場合を例に挙げて説明する。
【0113】
そして、DnCNN処理機能120cは、読み出された2次元のIQ信号20を減算器120eに送信する。
【0114】
また、DnCNN処理機能120cは、読み出された2次元のIQ信号20を複数の領域21に分割する。以下、領域21は、チャンネル方向にIQ信号が「CH1」個配列され、深さ方向にIQ信号が「D1」個配列されたデータであり、「CH1」×「D1」個のIQ信号により構成されるデータである場合を例に挙げて説明する。この場合、DnCNN処理機能120cは、2次元のIQ信号20を「CHn」×「Dn」個の複数の領域21に分割する。なお、「CHn」=「CH0」/「CH1」であり、「Dn」=「D0」/「D1」である。
【0115】
そして、DnCNN処理機能120cは、複数の領域21のそれぞれに対して2次元離散コサイン変換(DCT(discrete cosine transform))を行い、複数の領域21のそれぞれを周波数22(図11参照)に変換する。なお、1つの領域21は、2次元離散コサイン変換により「CH1」×「D1」個の周波数22に変換される。
【0116】
DnCNN処理機能120cは、1つの領域21に対応する「CH1」×「D1」個の周波数22を、DnCNN120dに入力されるデータ(入力データ)の奥行データとする。例えば、DnCNN処理機能120cは、図11に示すように、各領域21に対応する「CH1」×「D1」個の周波数22を奥行方向に配列する。すなわち、図11の例では、奥行き方向に配列された「CH1」×「D1」個の周波数22の集合が、チャンネル方向に「CHn」個配列され、深さ方向に「Dn」個配列されている。
【0117】
なお、CNNの分野では、奥行という呼び方ではなくチャンネルという呼び方が一般的であるが、超音波診断装置1における上述したチャンネルと区別するために、ここでは入力データ又は特徴マップの奥行と呼ぶ。
【0118】
DnCNN処理機能120cは、各領域21に対応する奥行き方向に配列された「CH1」×「D1」個の周波数22の集合をDnCNN120dに入力する。このようにして、DnCNN処理機能120cは、DnCNN120dにノイズ(残差)を推定させる。また、DnCNN処理機能120cは、各領域21に対応する奥行き方向に配列された「CH1」×「D1」個の周波数22の集合を減算器120eに送信する。
【0119】
DnCNN120dは、入力された「CH1」×「D1」個の周波数22の集合に含まれるノイズ(ノイズ成分)を推定し、推定されたノイズを出力する。すなわち、DnCNN120dは、各領域21に対応するノイズを出力する。第3の実施形態に係るDnCNN120dの係数等の各種の内部パラメータは、例えば、上述した第1の実施形態に係るDnCNN120dに対して行われる学習と同様の学習によって決定される。
【0120】
DnCNN処理機能120cは、DnCNN120dにより出力された各領域21に対応するノイズを取得する。そして、DnCNN処理機能120cは、取得された各領域21に対応するノイズに対して2次元離散逆コサイン変換を行い、各領域21に対応するノイズを「CH1」×「D1」個の信号に変換する。例えば、このような変換後の信号は、各領域21に対応するIQ信号に含まれるノイズである。
【0121】
DnCNN処理機能120cは、このような処理を「CHn」×「Dn」個の全ての領域21について行う。これにより、DnCNN処理機能120cは、全ての領域21に対応する「CH0」×「D0」個の2次元の信号を取得する。ここで、このような「CH0」×「D0」個の2次元の信号は、2次元のIQ信号20に含まれるノイズである。そして、DnCNN処理機能120cは、取得された「CH0」×「D0」個の2次元の信号を減算器120eに送信する。
【0122】
減算器120eは、DnCNN処理機能120cにより送信された2次元のIQ信号(原信号)20から、DnCNN処理機能120cにより送信された「CH0」×「D0」個の2次元の信号(ノイズ)を減算する。これにより、減算器120eは、ノイズが低減された2次元のIQ信号を得る。そして、減算器120eは、ノイズが低減された2次元のIQ信号をゲイン実行機能120fに送信する。第3の実施形態に係るゲイン実行機能120fは、第1の実施形態に係るゲイン実行機能120fが実行する処理と同様の処理を行う。
【0123】
上述したように、第3の実施形態では、DnCNN処理機能120cは、IQ信号20に含まれるノイズを低減させる処理として、ノイズのレベルを一定にさせる処理が行われたIQ信号20を複数の領域21に分割する。そして、DnCNN処理機能120cは、複数の領域21のそれぞれに対して所定の直交変換を行って複数の領域21のそれぞれに対応する複数の周波数22を取得する。そして、DnCNN処理機能120cは、複数の領域21のそれぞれに対応する複数の周波数22をニューラルネットワークに入力されるデータの奥行データとし、ニューラルネットワークの出力に所定の直交変換の逆変換を行う。
【0124】
以上、第3の実施形態に係る超音波診断装置1について説明した。第3の実施形態に係る超音波診断装置1によれば、第1の実施形態に係る超音波診断装置1と同様の効果を奏する。
【0125】
第3の実施形態に係るノイズ低減処理回路120は、2次元のIQ信号20を複数の領域21に分割して離散コサイン変換を行うことにより信号の統計的性質をより強くDnCNN120dに伝えて、DnCNN120dに信号成分とノイズ成分とを分離しやすくさせる。なお、ノイズ低減処理回路120は、離散コサイン変換の替わりにカルーネンレーベ(Karhunen-Loeve)変換を行ってもよい。カルーネンレーベ変換は低次にエネルギーをできるだけ集中させる直交変換であり、離散コサイン変換はそれに近い性質を持つ。ノイズ低減処理回路120は、このような直交変換を行うことで、DnCNN120dが残差(ノイズ)を効率的に抽出しやすくなる。なお、ノイズ低減処理回路120は、それ以外にも離散フーリエ変換や離散ウェーブレット変換等の他の直交変換も使用可能である。
【0126】
なお、第3の実施形態に係るノイズ低減処理回路120は、逆変換後の出力が残差ではなくノイズ低減された信号となるような学習をして、出力を原信号から減算することなくそのまま出力する方法も可能である。
【0127】
(第4の実施形態)
第1の実施形態~第3の実施形態では、ノイズ低減処理回路120,121が、ニューラルネットワークを用いてノイズを低減する場合について説明した。しかしながら、ノイズ低減処理回路120,121は、ニューラルネットワークを用いずに、ノイズを低減してもよい。そこで、このような実施形態を第4の実施形態として説明する。なお、第4の実施形態の説明では、主に、第1の実施形態と異なる点について説明し、第1の実施形態と同様の構成の説明については省略する場合がある。
【0128】
図12は、第4の実施形態に係るノイズ低減処理回路122の構成の一例を示す図である。第4の実施形態に係る超音波診断装置1は、図5に示すノイズ低減処理回路120に代えて、図12に示すノイズ低減処理回路122を備える点が、第1の実施形態に係る超音波診断装置1と異なる。また、第4の実施形態に係るノイズ低減処理回路122は、DnCNN処理機能120c、DnCNN120d及び減算器120eに代えて、ノイズ低減処理機能122aを備える点が、第1の実施形態に係るノイズ低減処理回路120と異なる。また、第4の実施形態に係るノイズ低減処理回路122は、ゲイン実行機能120fに代えて、ゲイン実行機能122bを備える点が、第1の実施形態に係るノイズ低減処理回路120と異なる。ノイズ低減処理回路122は、処理回路の一例である。
【0129】
ここで、例えば、図12に示すノイズ低減処理回路122の構成要素である逆ゲイン実行機能120a、ノイズ低減処理機能122a及びゲイン実行機能122bが実行する各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路170内に記録されている。ノイズ低減処理回路122は、例えば、プロセッサであり、記憶回路170から各プログラムを読み出し、読み出された各プログラムを実行することで各プログラムに対応する機能を実現する。換言すると、各プログラムを読み出した状態のノイズ低減処理回路122は、図12のノイズ低減処理回路122内に示された各機能を有することとなる。
【0130】
なお、図12においては、逆ゲイン実行機能120a、ノイズ低減処理機能122a及びゲイン実行機能122bの各処理機能が単一の処理回路(ノイズ低減処理回路122)によって実現される場合を示したが、実施形態はこれに限られるものではない。例えば、ノイズ低減処理回路122は、複数の独立したプロセッサを組み合わせて構成され、各プロセッサが各プログラムを実行することにより各処理機能を実現するものとしても構わない。また、ノイズ低減処理回路122が有する各処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。
【0131】
図13は、第4の実施形態に係るノイズ低減処理機能122aが実行する処理の一例を説明するための図である。ノイズ低減処理機能122aは、メモリ120bから図13に示す2次元のIQ信号20を読み出し、読み出された2次元のIQ信号20を複数の領域25に分割する。
【0132】
そして、ノイズ低減処理機能122aは、領域25毎に、領域25から共分散行列を計算する。これにより、全ての領域25に対応する複数の共分散行列が計算される。そして、ノイズ低減処理機能122aは、全ての領域25に対応する複数の共分散行列を加算する。これにより、1つの行列が得られる。
【0133】
そして、ノイズ低減処理機能122aは、複数の共分散行列を加算することにより得られた1つの行列を固有値分解して、上位の所定数の固有値(主成分)のみを出力するフィルタ行列を計算する。
【0134】
そして、ノイズ低減処理機能122aは、フィルタ行列を各領域25に作用させて主成分のみを取得する。そして、ノイズ低減処理機能122aは、全ての領域25に対応する全ての主成分を統合して全体としての主成分信号を取得する。この主成分信号は、主成分でない信号が除去された信号、すなわち、残差(ノイズ)信号が除去又は低減された信号である。この手法は、カルーネンレーベの直交変換を行って周波数軸上でフィルタを掛けて逆変換を行ったのと同じものである。つまり、先の第3の実施形態において、超音波診断装置1が、離散コサイン変換の替わりにカルーネンレーベ変換を行い、DnCNN120dの替わりに周波数軸上でフィルタを掛けて、離散コサイン逆変換の替わりにカルーネンレーベ逆変換を行ったものと同じである。直交変換としては入力データに適応的に変化するカルーネンレーベ変換以外に、固定の直交変換である離散フーリエ変換、離散コサイン変換、離散ウェーブレット変換等が使用可能である。また、これらの逆変換も使用可能である。すなわち、ノイズ低減処理機能122aは、所定の直交変換及び所定の直交変換の逆変換を用いてノイズを低減させる。
【0135】
第4の実施形態に係るノイズ低減処理機能122aは、ノイズを低減させる処理として、ノイズのレベルを一定にさせる処理が行われたIQ信号20を複数の領域21に分割する。そして、ノイズ低減処理機能122aは、複数の領域21のそれぞれに対して、主成分分析、カルーネンレーベ変換又は固有値分解を行って、ノイズを低減させる。なお、ノイズ低減処理機能122aは、複数の領域21のそれぞれに対して、特異値分解を行ってノイズを低減させてもよい。また、ノイズ低減処理機能122aは、複数の領域21のそれぞれに対して、数学的に、主成分分析、カルーネンレーベ変換、固有値分解及び特異値分解のうちの少なくとも1つと等価な処理を行ってノイズを低減させてもよい。また、また、ノイズ低減処理機能122aは、統計的性質を利用して複数の領域21のそれぞれに含まれるノイズを低減させてもよい。
【0136】
以上、第4の実施形態に係る超音波診断装置1について説明した。第4の実施形態に係る超音波診断装置1によれば、第1の実施形態に係る超音波診断装置1と同様の効果を奏する。
【0137】
(第5の実施形態)
第1の実施形態~第4の実施形態では、超音波診断装置1が各種の処理を実行する場合について説明したが、医用画像処理装置が、超音波診断装置1が実行した各種の処理と同様の処理を実行してもよい。そこで、このような実施形態を第5の実施形態として説明する。なお、第5の実施形態の説明では、主に、第1の実施形態と異なる点について説明し、第1の実施形態と同様の構成の説明については省略する場合がある。
【0138】
図14は、第5の実施形態に係る医用画像処理装置10の構成の一例を示す図である。医用画像処理装置10は、ネットワークを介して、超音波診断装置1から、復調器112dによりRF信号から変換されたデジタル形式のIQ信号を取得する。このIQ信号は、深さに応じてゲインを変化させつつゲインを掛ける処理が行われたアナログ形式の受信信号から変換されたデジタル形式の受信信号である。そして、医用画像処理装置10は、取得されたIQ信号に対して、超音波診断装置1が実行した処理と同様の処理を実行する。
【0139】
図14に示すように、医用画像処理装置10は、ネットワーク(NetWork:NW)インタフェース11と、記憶回路12と、入力インタフェース13と、ディスプレイ14と、処理回路15とを備える。
【0140】
NWインタフェース11は、医用画像処理装置10と超音波診断装置1との間で送受信される各種情報及び各種データの伝送及び通信を制御する。NWインタフェース11は、処理回路15に接続されている。NWインタフェース11は、ネットワークを介して、超音波診断装置1により送信されたIQ信号を受信する。この場合、NWインタフェース11は、受信されたIQ信号を処理回路15に送信する。例えば、NWインタフェース11は、ネットワークカードやネットワークアダプタ、NIC(Network Interface Controller)等によって実現される。
【0141】
記憶回路12は、処理回路15に接続され、各種データを記憶する。例えば、記憶回路12は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク又は光ディスクによって実現される。記憶回路12は、記憶部の一例である。
【0142】
また、記憶回路12は、処理回路15の処理に用いられる種々の情報や、処理回路15による処理結果等を記憶する。
【0143】
入力インタフェース13は、処理回路15に接続され、操作者から受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路15に出力する。なお、本明細書において入力インタフェース13は、マウス、キーボードなどの物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路15へ出力する処理回路も入力インタフェースの例に含まれる。
【0144】
例えば、入力インタフェース13は、種々の設定などを行うためのトラックボール、スイッチ・ボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力インタフェース、又は、音声入力インタフェースによって実現される。
【0145】
ディスプレイ14は、処理回路15に接続され、処理回路15から出力される各種情報及び各種画像を表示する。例えば、ディスプレイ14は、液晶モニタやCRT(Cathode Ray Tube)モニタ、又は、タッチパネルによって実現される。例えば、ディスプレイ14は、操作者の指示を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)や、種々の表示用の画像、処理回路15による種々の処理結果を表示する。ディスプレイ14は、表示部の一例である。
【0146】
処理回路15は、プロセッサにより実現される。処理回路15は、取得機能15a、ノイズ低減処理機能15b及び画像生成機能15cを実行する。ここで、例えば、図14に示す処理回路15の構成要素である取得機能15a、ノイズ低減処理機能15b及び画像生成機能15cの各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路12内に記録されている。処理回路15は、記憶回路12から各プログラムを読み出し、読み出した各プログラムを実行することで各プログラムに対応する機能を実現する。換言すると、各制御プログラムを読み出した状態の処理回路15は、図14の処理回路15内に示された各機能を有することとなる。
【0147】
なお、図14においては、取得機能15a、ノイズ低減処理機能15b及び画像生成機能15cの各処理機能が単一の処理回路15によって実現される場合を示したが、実施形態はこれに限られるものではない。例えば、処理回路15は、複数の独立したプロセッサを組み合わせて構成され、各プロセッサが各プログラムを実行することにより各処理機能を実現するものとしても構わない。また、処理回路15が有する各処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。
【0148】
取得機能15aは、NWインタフェース11を介して超音波診断装置1からIQ信号を取得する。そして、取得機能15aは、取得されたIQ信号を記憶回路12に記憶させる。取得機能15aは、取得部の一例である。
【0149】
ノイズ低減処理機能15bは、ノイズ低減処理回路120、ノイズ低減処理回路121又はノイズ低減処理回路122が実行する処理と同様の処理を実行する。例えば、ノイズ低減処理機能15bは、記憶回路12に記憶されたIQ信号を読み出し、読み出されたIQ信号に対して、ノイズ低減処理回路120、ノイズ低減処理回路121又はノイズ低減処理回路122が実行する処理と同様の処理を実行する。一例を挙げて説明すると、ノイズ低減処理機能15bは、IQ信号に対して、IQ信号に含まれるノイズのレベルを一定にさせる処理を行い、ノイズのレベルを一定にさせる処理が行われたIQ信号に対して、当該IQ信号に含まれるノイズを低減させる処理を行う。ノイズ低減処理機能15bは、ノイズ低減処理部の一例である。
【0150】
画像生成機能15cは、第1の実施形態に係るビームフォーマ130、信号処理回路140、画像生成回路150及び制御回路180が実行する少なくとも一部の処理と同様の処理を実行する。
【0151】
ただし、第5の実施形態では、ノイズ低減処理機能15b及び画像生成機能15cが処理を実行する際に、第1の実施形態に係る入力装置102、ディスプレイ103、画像メモリ160及び記憶回路170に代えて、入力インタフェース13、ディスプレイ14及び記憶回路12が用いられる。
【0152】
以上、第5の実施形態に係る医用画像処理装置10について説明した。第5の実施形態に係る医用画像処理装置10よれば、第1の実施形態~第4の実施形態のうちのいずれかの実施形態に係る超音波診断装置1と同様の効果が得られる。
【0153】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、若しくは、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、又は、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサは、記憶回路170に保存されたプログラムを読み出し、読み出されたプログラムを実行することで機能を実現する。なお、記憶回路170にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。更に、図4及び図5における複数の回路を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0154】
なお、制御プログラムは、コンピュータにインストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disk)-ROM、FD(Flexible Disk)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記録されて提供されてもよい。また、この制御プログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納され、ネットワーク経由でダウンロードされることによって提供又は配布されてもよい。例えば、この制御プログラムは、上述した各処理機能を含むモジュールで構成される。実際のハードウェアとしては、プロセッサが、ROM等の記憶媒体からプログラムを読み出して実行することにより、各モジュールが主記憶装置上にロードされて、主記憶装置上に生成される。
【0155】
以上説明した少なくとも一つの実施形態又は変形例によれば、効果的にノイズ低減を図ることができる。
【0156】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0157】
1 超音波診断装置
112 受信回路
120,121,122 ノイズ低減処理回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14