(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164447
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/58 20060101AFI20221020BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20221020BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20221020BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/06
F16C33/66 Z
F16C33/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069944
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠山 譲
(72)【発明者】
【氏名】大宮 康裕
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 範和
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 みちる
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 高晃
(72)【発明者】
【氏名】立石 佳男
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 賢一
(72)【発明者】
【氏名】戸田 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】西村 駒次
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐也
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA56
3J701CA08
3J701CA14
3J701DA20
3J701FA32
3J701FA33
3J701XB03
3J701XB24
(57)【要約】
【課題】高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる玉軸受を提供する。
【解決手段】内周面に外側軌道21aが形成された外輪21と、外周面に内側軌道22aが形成された内輪22と、外側軌道21aと内側軌道22aとの間に配置された複数の転動体23と、転動体23を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する複数のポケットが形成された円環状の保持器25と、を備えた玉軸受20であって、外側軌道21aと外輪21の側面21cとの間に、側面21cへ向かうほど径方向に内輪22へ近づくように傾斜した外側傾斜面21bが設けられており、内側軌道22と内輪22の側面22cとの間に、側面22cへ向かうほど径方向に外輪21へ近づくように傾斜した内側傾斜面22bが設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外側軌道が形成された外輪と、外周面に内側軌道が形成された内輪と、前記外側軌道と前記内側軌道との間に配置された複数の転動体と、前記転動体を転動可能に保持する円環状の保持器と、を備える玉軸受であって、
前記外側軌道と前記外輪の側面との間に、前記外輪の側面へ向かうほど径方向に前記内輪へ近づくように傾斜した外側傾斜面が設けられており、
前記内側軌道と前記内輪の側面との間に、前記内輪の側面へ向かうほど径方向に前記外輪へ近づくように傾斜した内側傾斜面が設けられていることを特徴とする玉軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の玉軸受であって、
前記外輪の前記内周面に前記外側傾斜面が設けられ、前記内輪の前記外周面に前記内側傾斜面が設けられていることを特徴とする玉軸受。
【請求項3】
請求項1に記載の玉軸受であって、
前記外輪と前記内輪との間に挿入されて、前記外輪又は前記内輪のいずれか一方に固定される環状の油誘導ガイドを備え、
前記外側傾斜面及び前記内側傾斜面が前記油誘導ガイドに設けられており、
前記油誘導ガイドには、軸方向に貫通する油通穴が形成されていることを特徴とする玉軸受。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の玉軸受であって、
中心軸が水平となるように配置した状態で、前記中心軸を含む平面で鉛直方向に切断した断面図における前記外側傾斜面と水平面のなす角の角度を前記外側傾斜面の傾斜角とすると、前記外側傾斜面の傾斜角の最大値は10度以上であって、
前記断面図における前記内側傾斜面と水平面のなす角の角度を前記内側傾斜面の傾斜角とすると、前記外側傾斜面の傾斜角の最大値は10度以上であることを特徴とする玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、玉軸受の転動体を転動可能に保持する保持器を樹脂組成物で形成し、転動体が摺接する保持器の摺接面にディンプルを散在するように形成して保油性を持たせた玉軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、転動体が摺接する保持器の摺接面にディンプルにより油だまりを設けることによって保油性を向上して、高速回転時の油膜切れを抑制する方策が提示されている。しかしながら、そもそも軸受を高速で回転させることによって、転動体が外輪や内輪の軌道面に転がり接触する転動面へのオイルの流入が極めて少なくなれば、特許文献1に提示されている方策により保持器の摺接面の保油性を向上しても、転動面における油量不足を抑制できなくなる可能性がある。
【0005】
そこで、高速で回転する玉軸受の内部の潤滑状態を可視化できる試験機を製作し、従来技術の玉軸受を高速で回転させた場合の玉軸受内部の潤滑状態を観察した。評価試験に用いた玉軸受1は、型式6808に相当する形状で、外輪2のみ石英製とした可視化軸受である。玉軸受1の全体の構成を
図3及び
図4に示す。
図3及び
図4に示すように、玉軸受1は、透明な石英製の外輪2と、鋼材製の内輪3と、転動体である鋼球4と、鋼球4を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する保持器5とを備える。
【0006】
保持器5の形状を、
図5、
図6及び
図7に示す。なお、保持器5の形状を明確にするために、
図6では、保持器5のみの断面と鋼球4を示している。保持器5には、鋼球4を転動可能に保持するポケット6が軸方向一方側に形成されており、ポケット6は片側が開放した形状となっている。そして、保持器5の軸方向他方側の側面7は平坦となっている。なお、保持器の側面7には、軸方向に貫通する油通穴は形成されていない。
【0007】
評価試験に用いた試験機の概略を
図8に示す。水平方向に延びる回転軸8は2つの軸支持軸受9によって回転可能に支持され、モータ10によって回転される。回転軸8は玉軸受1の内輪3の内側に挿入されて固定されており、内輪3は回転軸8と一体となって回転する。玉軸受1の外輪2はハウジング11の内部に固定されている。玉軸受1の上方にはカメラ12が配置され、ハウジング11には玉軸受1の上方に観察用穴13が形成されているため、カメラ12は外輪2の最頂部を上方から撮影することができる。
【0008】
給油ノズル14は外輪2の最頂部と内輪3の間にオイルを供給し、玉軸受1より下方でハウジング11内に貯まったオイルは、オイルポンプ15によって回収されて循環する。オイルには、市販のATF(Automatic Transmission Fluid)であるトヨタオートフルードWSに蛍光剤であるクマリン-6を混入させたものを用いて、蛍光法によって油量分布を観察した。励起光には、波長405nmのLEDフラッシュ照明を用いた。
【0009】
図9は玉軸受1の上面図である。外輪2が透明な石英製であるため、玉軸受1を上方から見ると、内輪3の軌道面3aや鋼球4の位置も確認することができる。
図9の破線で囲まれた領域がカメラ12による観察領域である。観察領域は視野23.6mm×17.7mmである。LEDフラッシュ照明の1回発光あたりの時間を3μsecとして、その発光をカメラ12のフレームノート40fpsに合わせて照射することで、回転している玉軸受1の内部のオイル分布を観察した。玉軸受1への供給油量を100ml/minで一定として、玉軸受1に上方から付与したラジアル荷重も300Nで一定として、軸回転速度を約2000rpmと約20000rpmに変えて観察した。
【0010】
転動面周辺の油量分布の観察結果を模式的に
図10及び
図11に示す。
図10が軸回転速度を約2000rpm(厳密には1910rpm)とした場合の観察結果であり、
図11が軸回転速度を約20000rpm(厳密には20200rpm)とした場合の観察結果である。
図10及び
図11は、鋼球4の位置を実線で、鋼球4の中心線を一点鎖線で、保持器5の位置を二点鎖線で記載している。鋼球4は、
図10及び
図11の右側に向かって公転している。
図10及び
図11には、給油ノズル14も描かれている。
図10及び
図11では、オイルが多く存在する領域ほど濃い灰色で示しており、白い部分にはオイルがほとんど存在していなかったことを示す。
【0011】
図10に示すように、軸回転速度が約2000rpmの低回転条件では、鋼球4の出口側(
図10における鋼球4より左側)の付近を除いて全般的にオイルが充満していた。鋼球4の出口側ではオイルの少ない領域が認められているが、これは鋼球4の公転によって、オイルが排除されていることや、キャビテーションの発生によるものと推察される。
【0012】
図11に示すように、軸回転速度が約20000rpmの高回転条件では、鋼球4及び保持器5の公転軌道部にはオイルが充満しておらず、オイルは公転軌道部の軸方向外側と境界付近に分布していた。これは高速では鋼球4の公転や保持器5の回転によってオイルが排除される速さがオイルの流入速度に対して過度に増大していることや、鋼球4の公転速度の増大に伴い、鋼球4の出口側(
図11における鋼球4より左側)のキャビテーション領域が拡大していることの両者に起因するものと考えられる。なお、鋼球4の入口側(
図11における鋼球4より右側)では、三角状にオイルの多い部分が存在していた。これは保持器5のU字状のポケット6の開口部において、内輪3側からオイルが供給されているものと考えられる。ただし、いずれにしても、低速度条件と比較して、高速度条件では、鋼球4の入口側や、外輪2との転がり面となる鋼球4の頂点部分のオイルが少なくなっており、油量不足が生じているものと判断される。摩擦トルク低減の観点では、転動面の油量が少ないほど良好な傾向であるが、摩耗や焼き付き防止の観点では、過度な油量不足を抑制することが必要となる。
【0013】
このように、玉軸受1の内部の油量分布観察の結果、高速回転時には、高速回転する鋼球4や保持器5によってオイルがかき分けられると共に、それらの公転軌道部にオイルが流入する量が極めて少ないことが判明した。この場合、短時間の使用では、特許文献1に開示されている方策による保油性の向上で焼き付きや摩耗を抑制できるとしても、長時間にわたる使用条件では、いずれオイルが枯渇するため、焼き付きや摩耗を抑制できなくなるものと考えられる。したがって、高速回転の玉軸受で長時間の使用にわたって焼き付きや摩耗を抑制するには、外輪2及び内輪3の軌道内へのオイル流入を促進する必要があり、特許文献1に開示されているディンプルの付与だけでは対応が困難である。
【0014】
そこで、本発明は、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る玉軸受は、内周面に外側軌道が形成された外輪と、外周面に内側軌道が形成された内輪と、前記外側軌道と前記内側軌道との間に配置された複数の転動体と、前記転動体を転動可能に保持する円環状の保持器と、を備える玉軸受であって、前記外側軌道と前記外輪の側面との間に、前記外輪の側面へ向かうほど径方向に前記内輪へ近づくように傾斜した外側傾斜面が設けられており、前記内側軌道と前記内輪の側面との間に、前記内輪の側面へ向かうほど径方向に前記外輪へ近づくように傾斜した内側傾斜面が設けられていることを特徴とする。
【0016】
本発明は、外側傾斜面及び内側傾斜面が設けられていることによって、軸方向端部から玉軸受の外部へのオイルの流出を抑制できる上、外輪と内輪との間の空間において軌道の軸方向端部と玉軸受の側面との間に存在するオイルを、重力や遠心力で軌道内に誘導できるため、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる玉軸受を提供することができる。
【0017】
本発明に係る玉軸受の一態様において、前記外輪の前記内周面に前記外側傾斜面が設けられ、前記内輪の前記外周面に前記内側傾斜面が設けられていてもよい。
【0018】
この態様によれば、外輪に外側傾斜面を設けて内輪に内側傾斜面を設けることによって、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制する玉軸受を提供することができる。
【0019】
本発明に係る玉軸受の一態様において、前記外輪と前記内輪との間に挿入されて、前記外輪又は前記内輪のいずれか一方に固定される環状の油誘導ガイドを備え、前記外側傾斜面及び前記内側傾斜面が前記油誘導ガイドに設けられており、前記油誘導ガイドには、軸方向に貫通する油通穴が形成されていてもよい。
【0020】
この態様によれば、外側傾斜面と内側傾斜面が設けられた油誘導ガイドを玉軸受に追加することによって、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0021】
本発明に係る玉軸受の一態様において、中心軸が水平となるように配置した状態で、前記中心軸を含む平面で鉛直方向に切断した断面図における前記外側傾斜面と水平面のなす角の角度を前記外側傾斜面の傾斜角とすると、前記外側傾斜面の傾斜角の最大値は10度以上であって、前記断面図における前記内側傾斜面と水平面のなす角の角度を前記内側傾斜面の傾斜角とすると、前記外側傾斜面の傾斜角の最大値は10度以上であってもよい。
【0022】
この態様によれば、外側傾斜面と内側傾斜面の傾斜角の最大値を10度以上とすることによって、重力や遠心力によりオイルを軌道内に誘導する効果を向上することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる玉軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1の実施形態の玉軸受を、中心軸を含む平面で切断した断面図である。
【
図2】第2の実施形態の玉軸受を、中心軸を含む平面で切断した断面図である。
【
図3】内部の潤滑状態を観察する評価試験に用いた玉軸受の側面図である。
【
図5】評価試験に用いた玉軸受の側面の一部を拡大して示した図である。
【
図6】保持器の
図5におけるB-B線断面を示した図である。
【
図8】玉軸受の内部の潤滑状態を観察する評価試験に用いた試験機の概略を示す図である。
【
図9】玉軸受の内部の潤滑状態を観察する評価試験における観察領域を示す図である。
【
図10】軸回転速度を約2000rpmとした場合の転動面周辺の油量分布の観察結果を模式的に示す図である。
【
図11】軸回転速度を約20000rpmとした場合の転動面周辺の油量分布の観察結果を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1の実施形態>
以下、
図1を参照しながら、第1の実施形態の玉軸受20について説明する。
図1は、玉軸受20を中心軸が水平となるように配置した状態で、中心軸を含む平面で鉛直方向に切断した断面図である。
図1に示すように、玉軸受20は、外輪21、内輪22、転動体23及び保持器25を備える。外輪21の内周面には、球状の転動体23の表面に沿うような形状の外側軌道21aが形成される。内輪22の外周面には、転動体23の表面に沿うような形状の内側軌道22aが形成される。外輪21の外側軌道21a及び内輪22の内側軌道22aは、円環状の玉軸受20の周方向に沿って所定の間隔で設けられる。転動体23は、外輪21の外側軌道21aと内輪22の内側軌道22aとで形成される空間内に転動可能な状態で保持される。また、保持器25は、外輪21と内輪22との間に配置され、複数の転動体23を周方向に所定の間隔で転動可能に保持する。玉軸受20は、外輪21と内輪22との間で転動体23が転動することによって、外輪21と内輪22とが相対的に回転可能な構成とされている。
【0026】
外輪21の内周面において、外側軌道21aから外輪21の軸方向外側の側面21cへ向かう外側傾斜面21bが形成される。外側傾斜面21bは、外側軌道21aから側面21cへ向かうほど径方向に内輪22へ近づくように、すなわち円環状の玉軸受20の中心軸に近づくように傾斜させられている。
【0027】
また、内輪22の外周面において、内側軌道22aから内輪22の軸方向外側の側面22cへ向かう内側傾斜面22bが形成される。内側傾斜面22bは、内側軌道22aから側面22cへ向かうほど径方向に外輪21へ近づくよう、すなわち円環状の玉軸受20の中心軸から離れるように傾斜させられている。
【0028】
ここで、外側傾斜面21bは、外側軌道21aから側面21cへ近づくほど内輪22へ向かう傾斜が大きくなるように形成することが好適である。すなわち、外側傾斜面21bと向かい合う内輪22の内側傾斜面22bとの間に形成される空間の拡がり方が側面21cから外側軌道21aへ向かうにしたがって緩やかになるように外側傾斜面21bを形成することが好適である。
図1に示すように、玉軸受20を中心軸が水平となるように配置した状態で、中心軸を含む平面で鉛直方向に切断した断面図における外側傾斜面21bと水平面のなす角の角度θを、外側傾斜面21bの傾斜角とすると、外側傾斜面21bの傾斜角の最大値を10度以上とすることが好適である。ただし、外側傾斜面21bは、外側軌道21aから側面21cへ亘って傾斜角を一様としてもよい。
【0029】
また、内側傾斜面22bは、内側軌道22aから側面22cへ近づくほど外輪21へ向かう傾斜が大きくなるように形成することが好適である。すなわち、内側傾斜面22bと向かい合う外輪21の外側傾斜面21bとの間に形成される空間の拡がり方が側面22cから内側軌道22aへ向かうにしたがって緩やかになるように内側傾斜面22bを形成することが好適である。
図1に示すように、玉軸受20を中心軸が水平となるように配置した状態で、中心軸を含む平面で鉛直方向に切断した断面図における内側傾斜面22bと水平面のなす角の角度φを、内側傾斜面22bの傾斜角とすると、内側傾斜面22bの傾斜角の最大値を10度以上とすることが好適である。ただし、内側傾斜面22bは、内側軌道22aから側面22cへ亘って傾斜角を一様としてもよい。
【0030】
このように外輪21の内周面に外側傾斜面21bを設け、内輪22の外周面に内側傾斜面22bを設けることによって、外輪21と内輪22との間の空間に存在するオイルが軸方向両端部から玉軸受20の外部へ流出することを抑制することができる。
【0031】
また、転動体23と保持器25が回転すると、外輪21と内輪22の間においてオイルにも保持器25と同方向に回転する流れが生じる。したがって、円環状の玉軸受20の中心軸から外側に向かう遠心力がオイルに作用する。このとき、外側傾斜面21bが設けられていることによって、遠心力によってオイルを外側軌道21a内に誘導することができる。オイルを外側軌道21a内に誘導する作用は、オイルに加わる遠心力が重力を下回らない限りにおいて、玉軸受20をどのように配置した状態であっても得られる作用である。
【0032】
なお、玉軸受20の中心軸が略水平となるように玉軸受20を配置して使用した場合、中心軸より下側では、回転に伴う遠心力に加えて重力によってオイルを外側軌道21a内に誘導することができる。なお、この場合、中心軸より上側においてオイルに作用する重力が遠心力を上回れば、オイルを外側軌道21a内に誘導することはできない。しかしながら、内側傾斜面22bによってオイルを内側軌道22a内に誘導することができる。
【0033】
以上のように、本実施形態の玉軸受20では、外側傾斜面21b及び内側傾斜面22bが設けられていることにより、軸方向端部から玉軸受20の外部へのオイルの流出を抑制できる。更に、外輪21と内輪22との間の空間において外側傾斜面21bと内側傾斜面22bとの間の空間に存在するオイルを、遠心力や重力によって外側軌道21a内や内側軌道22a内に誘導できる。その結果、転動体23にオイルが効果的に供給され、高速回転時においても転動体23の転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【0034】
なお、本実施形態における玉軸受20では、外輪21の内周面に外側傾斜面21bを設け、内輪22の外周面に内側傾斜面22bを設けた構成を示したが、外側傾斜面21b及び内側傾斜面22bの少なくとも一方を設けることによって上記作用の一部を享受することができる。
【0035】
<第2の実施形態>
次に、
図2を参照しながら、第2の実施形態の玉軸受30について説明する。
図2は、玉軸受30を中心軸が水平となるように配置した状態で、中心軸を含む平面で鉛直方向に切断した断面図である。
図2に示すように、玉軸受30は、第1の実施形態の玉軸受20と同様に、内周面に外側軌道31aが形成された外輪31と、外周面に内側軌道32aが形成された内輪32と、外側軌道31aと内側軌道32aとの間に配置された複数の転動体33と、転動体33を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する円環状の保持器35とを備える。
【0036】
玉軸受30では、軸方向両端から外輪31と内輪32との間の空間に挿入された油誘導ガイド37を備える。油誘導ガイド37は、玉軸受30の軸方向に貫通する油通穴38が空けられた円環状の部材である。油誘導ガイド37は、外輪31又は内輪32のいずれか一方に固定される。玉軸受30では、玉軸受30の両側に設けられた油誘導ガイド37の一方の油通穴38を通して玉軸受30の外部から外輪31と内輪32との間の空間へオイルを流入させ、他方の油誘導ガイド37の油通穴38を通して外輪31と内輪32との間の空間から玉軸受30の外部へオイルを排出する。
【0037】
また、油誘導ガイド37には、外側軌道31aから外輪31の軸方向外側の側面31cへ向かう外側傾斜面37aが形成される。外側傾斜面37aは、外側軌道31aから側面31cへ向かうほど径方向に内輪32へ近づくように、すなわち玉軸受30の中心軸に近づくように傾斜させられている。また、油誘導ガイド37には、内側軌道32aから内輪32の軸方向外側の側面32cへ向かう内側傾斜面37bが形成される。内側傾斜面37bは、内側軌道32aから側面32cへ向かうほど径方向に外輪31へ近づくように、すなわち玉軸受30の中心軸から離れるように傾斜させられている。
【0038】
ここで、外側傾斜面37aは、外側軌道31aから側面31cへ近づくほど内輪32へ向かう傾斜が大きくなるように形成することが好適である。すなわち、外側傾斜面37aと向かい合う内側傾斜面37bとの間に形成される空間の拡がり方が側面31cから外側軌道31aへ向かうにしたがって緩やかになるように外側傾斜面37aを形成することが好適である。更に、外側傾斜面37aは、外側傾斜面37aの傾斜角の最大値が10度以上となるように形成することが好適である。ただし、外側傾斜面37aは、外側軌道31aから側面31cへ亘って傾斜角を一様としてもよい。
【0039】
また、内側傾斜面37bは、内側軌道32aから側面32cへ近づくほど外輪31へ向かう傾斜が大きくなるように形成することが好適である。すなわち、内側傾斜面37bと向かい合う外側傾斜面37aとの間に形成される空間の拡がり方が側面32cから内側軌道32aへ向かうにしたがって緩やかになるように内側傾斜面37bを形成することが好適である。更に、内側傾斜面37bは、内側傾斜面37bの傾斜角の最大値を10度以上となるように形成することが好適である。ただし、内側傾斜面37bは、内側軌道32aから側面32cへ亘って傾斜角を一様としてもよい。
【0040】
このように外側傾斜面37a及び内側傾斜面37bが設けられた油誘導ガイド37を備えることによって、外輪31と内輪32との間の空間に存在するオイルが軸方向両端部から玉軸受20の外部へ流出することを抑制することができる。
【0041】
また、油誘導ガイド37に外側傾斜面37aが設けられていることによって、遠心力によってオイルを外側軌道31a内に誘導することができる。オイルを外側軌道31a内に誘導する作用は、オイルに加わる遠心力が重力を下回らない限りにおいて、玉軸受30をどのように配置した状態で使用しても得られる作用である。
【0042】
なお、玉軸受30の中心軸が略水平となるように玉軸受30を配置して使用した場合、中心軸より下側では、回転に伴う遠心力に加えて重力によってオイルを外側軌道31a内に誘導することができる。なお、この場合、中心軸より上側においてオイルに作用する重力が遠心力を上回れば、オイルを外側軌道31a内に誘導することはできない。しかしながら、内側傾斜面37bによってオイルを内側軌道32a内に誘導することができる。
【0043】
以上のように、本実施形態の玉軸受30では、油誘導ガイド37に外側傾斜面37a及び内側傾斜面37bが設けられていることにより、軸方向端部から玉軸受30の外部へのオイルの流出を抑制できる。更に、外輪31と内輪32との間の空間において外側傾斜面37aと内側傾斜面37bとの間に存在するオイルを、遠心力や重力によって外側軌道31a内又は内側軌道32a内に誘導できる。その結果、転動体33にオイルが効果的に供給され、高速回転時においても転動体33の転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 玉軸受、2 外輪、3 内輪、3a 軌道面、4 鋼球、5 保持器、6 ポケット、7 側面、8 回転軸、9 軸支持軸受、10 モータ、11 ハウジング、12 カメラ、13 観察用穴、14 給油ノズル、15 オイルポンプ、20,30 玉軸受、21,31 外輪、21a,31a 外側軌道、21b,37a 外側傾斜面、21c,22c,31c,32c 側面、22,32 内輪、22a,32a 内側軌道、22b,37b 内側傾斜面、23,33 転動体、25,35 保持器、37 油誘導ガイド、38 油通穴。