(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164467
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】電着塗装用塗料、電着塗装用塗料の製造方法、及び絶縁材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 179/08 20060101AFI20221020BHJP
C09D 5/44 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C09D179/08
C09D5/44 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069970
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】518314464
【氏名又は名称】合同会社Hide Technology
(71)【出願人】
【識別番号】521166319
【氏名又は名称】株式会社リグノマテリア
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 俊
(72)【発明者】
【氏名】小林 亜由美
(72)【発明者】
【氏名】菊池 英行
(72)【発明者】
【氏名】見正 大祐
(72)【発明者】
【氏名】桝田 剛
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DJ021
4J038JB01
4J038MA02
4J038MA07
4J038MA10
4J038NA14
4J038NA26
4J038PA04
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】保存安定性に優れ、かつ得られる塗膜の耐熱性に優れる電着塗装用塗料、電着塗装用塗料の製造方法、フィルム、及びフィルムの製造方法の提供。
【解決手段】有機溶剤、樹脂粒子、及びアミン化合物を含有し、前記樹脂粒子が、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を含有し、塗料全体に対する、水の含有量が3質量%未満である電着塗装用塗料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤と、
ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方と、を含有し、
塗料全体に対する、水の含有量が3質量%未満である電着塗装用塗料。
【請求項2】
前記ポリイミド前駆体系化合物が、ポリイミド前駆体、ポリエステルイミド前駆体、ポリエーテルイミド前駆体、及びポリアミドイミド前駆体からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の電着塗装用塗料。
【請求項3】
前記ポリイミド系化合物が、ポリエステルイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は請求項2に記載の電着塗装用塗料。
【請求項4】
前記ポリイミド前駆体系化合物を粒子として含む請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の電着塗装用塗料。
【請求項5】
前記ポリイミド前駆体系化合物、及び前記ポリイミド系化合物の少なくとも一方並びに有機溶剤Aを含有する溶液と、有機溶剤Bと、を混合して、前記ポリイミド前駆体系化合物、及び前記ポリイミド系化合物の少なくとも一方を含有する樹脂粒子、有機溶剤A、並びに有機溶剤Bを含有する粒子分散液を得る工程と、
前記粒子分散液と、アミン化合物と、を混合する工程と、を含む請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の電着塗装用塗料の製造方法。
【請求項6】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の電着塗装用塗料を電着塗装して塗膜を形成する第1の工程と、
前記塗膜を焼成する第2の工程と、を有する絶縁材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗装用塗料、電着塗装用塗料の製造方法、及び絶縁材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータなどの電気機器に用いられる電線としては、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの樹脂又は当該樹脂の前駆体を有機溶剤に溶解させた絶縁塗料を、導体表面に塗布し、焼付けすることによって絶縁層が形成されている絶縁電線が用いられている。
【0003】
一般的なモータには、コイル作製時の作業容易性の観点から丸エナメル線が用いられている。一方、電気自動車及びハイブリット車の駆動モータのように、高効率、高出力、及び小型化が求められるモータには、コイルに占める導体占有率の高い平角エナメル線が用いられている。そして、平角エナメル線に用いられる導体の角部の面取りが小さいほど、導体占有率が高く、高性能化することができる。
また、インバータ駆動させるシステムに使用されるコイルにおいては、駆動周波数が高くなるため、表皮効果などに伴う高周波に伴う抵抗の増加による損失を抑制する観点から、アスペクト比が大きい(つまり、薄く幅広な形状)平角エナメル線が求められている。
【0004】
上記導体の角部の面取りが小さい平角エナメル線、及びアスペクト比が大きい平角エナメル線は、絶縁塗料を導体表面に塗布した後に焼付けすることによって絶縁層を形成する方法による塗装では、絶縁塗料の表面張力の関係上、絶縁層を均一に形成しにくい傾向にある。
また、絶縁塗料の塗布する対象となる導体は、コイル状であったり、コイルを繋ぐ動力線を有しているなど、複雑な形状をしていることが多い。そのため、絶縁層を予め形成したエナメル線をこのような複雑な形状に成形すると、エナメル皮膜が加工ストレスに耐えられず、亀裂が発生するなどの絶縁欠陥を生じてしまうことがある。よって、導体を所望の形状に加工した後に、絶縁層を形成する方法が求められている。
上述のことから、角部の面取りが小さい平角状の導体、アスペクト比が大きい平角状の導体、及び複雑な形状の導体に対して均一に絶縁層を形成できる方法が求められている。
【0005】
このような背景から、角部の面取りが小さい平角状の導体、アスペクト比が大きい平角状の導体、及び複雑な形状の導体に対して均一に絶縁層を形成する技術として、電着塗装法が用いられている。さらに絶縁や耐熱性の向上を目的として、電着塗装及び樹脂溶液の浸漬塗布焼付け(エナメル焼付け)塗装を組み合わせた塗装方法、電着塗装及び粉体塗装を組み合わせた塗装方法、特殊な架橋樹脂粒子などを混合させた電着塗料を用いた電着塗装法なども開示されている(例えば、特許文献1~5を参照)。
【0006】
しかし、これらに用いられる電着塗装用塗料は、水系のアクリル樹脂、水系のエポキシ樹脂およびそれらの変性樹脂であり、耐熱性が求められる分野においては、塗膜の耐熱性を要求される程度まで向上することが困難であった。
【0007】
耐熱性の向上という点においては、ポリイミド前駆体を含有する溶液に、ポリイミド前駆体の貧溶媒及び水を添加して得られた水系電着塗装用塗料を用いて電着塗装を行うことで塗膜を形成し、前記塗膜を焼成することでポリイミド膜とする方法が開示されている。(例えば、特許文献6~8を参照)。
【0008】
また、例えば、ポリイミド前駆体に代えて、シロキサン結合を有するアニオン性のポリイミドなどを含有する電着塗装用塗料を用いた方法が開示されている(例えば、特許文献9~11を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第1127047号公報
【特許文献2】特公昭54-41617号公報
【特許文献3】特許第2098020号公報
【特許文献4】特許第475189号公報
【特許文献5】特許第1311182号公報
【特許文献6】特開昭49-52252号公報
【特許文献7】特開昭52-032943号公報
【特許文献8】特許第2037962号公報
【特許文献9】特許第3089195号公報
【特許文献10】特開2005-162954号公報
【特許文献11】特許第5555063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、例えば、特許文献6~8のような、水系電着塗装用塗料は、含まれる水によってポリイミド前駆体が容易に加水分解するため、保存安定性が著しく悪い傾向にある。更にポリイミド前駆体の加水分解は形成されたポリイミド膜の電気的特性、及び機械的特性を著しく低下させる。
また、例えば、特許文献9~11のような、ポリイミドを含有する電着塗装用塗料は、上記水系電着塗装用塗料と比較して保存安定性は向上しているが、ポリイミドを「シロキサン結合を有するアニオン性のポリイミド」などとすることで、ポリイミドの合成に用いる原料が特殊なものに限られるため、電着塗装用塗料が高価なものになりやすい。また、塗料に対するポリイミドの溶解性を上げるために、ポリイミドを「シロキサン結合を有するアニオン性のポリイミド」などとすることで、耐熱性等も低下する傾向にある。
【0011】
そこで本発明の課題は、保存安定性に優れ、かつ得られる塗膜の耐熱性に優れる電着塗装用塗料、及び電着塗装用塗料の製造方法、並びに当該電着塗装用塗料を用いて得られるフィルム、及び当該電着塗装用塗料を用いるフィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち
<1> 有機溶剤と、
ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方と、を含有し、
塗料全体に対する、水の含有量が3質量%未満である電着塗装用塗料。
<2> 前記ポリイミド前駆体系化合物が、ポリイミド前駆体、ポリエステルイミド前駆体、ポリエーテルイミド前駆体、及びポリアミドイミド前駆体からなる群から選択される少なくとも1種である前記<1>に記載の電着塗装用塗料。
<3> 前記ポリイミド系化合物が、ポリエステルイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも1種である前記<1>又は<2>に記載の電着塗装用塗料。
<4> 前記ポリイミド前駆体系化合物を粒子として含む前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の電着塗装用塗料。
<5> 前記ポリイミド前駆体系化合物、及び前記ポリイミド系化合物の少なくとも一方並びに有機溶剤Aを含有する溶液と、有機溶剤Bと、を混合して、前記ポリイミド前駆体系化合物、及び前記ポリイミド系化合物の少なくとも一方を含有する樹脂粒子、有機溶剤A、並びに有機溶剤Bを含有する粒子分散液を得る工程と、
前記粒子分散液と、アミン化合物と、を混合する工程と、を含む前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の電着塗装用塗料の製造方法。
<6> 前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の電着塗装用塗料を電着塗装して塗膜を形成する第1の工程と、
前記塗膜を焼成する第2の工程と、を有する絶縁材の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保存安定性に優れ、かつ得られる塗膜の耐熱性に優れる電着塗装用塗料、及び電着塗装用塗料の製造方法、並びに当該電着塗装用塗料を用いる絶縁材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例の形態に係る絶縁電線の一例を示す模式的断面図である。
【
図2】参考例の形態に係る絶縁電線の一例を示す模式的断面図である。
【
図3】本発明の実施例及び比較例に使用した電着装置例を示す模式的図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0016】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
「工程」とは、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0017】
<電着塗装用塗料>
本実施形態に係る電着塗装用塗料(以下、「本実施形態に係る塗料」ともいう)は、有機溶剤と、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方と、を含有する。
そして、塗料全体に対する、水の含有量が3質量%未満である。
【0018】
本実施形態に係る塗料は、上記構成により、保存安定性に優れた電着塗装用塗料となる。その理由は、次の通り推測される。
【0019】
従来、電着塗装技術は、水を含む水分散電着液中において直流電圧を印加し、帯電した樹脂や樹脂前駆体微粒子を電気泳動させて、塗装対象の電極付近では、水の電気分解に伴い発生する水素イオンあるいは水酸基イオンが微粒子の電荷を奪い、塗装対象の電極上に凝集固着し、塗膜が形成されていく。すなわち、水の存在が必須であった。
一方、本実施形態に係る塗料は、有機溶剤と、ポリイミド前駆体系化合物及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を含有する。ポリイミド前駆体系化合物及びポリイミド系化合物は電気的に陰性となりやすい。具体的には、例えば、ポリイミド前駆体系化合物が含有するカルボキシ基が、プロトンを失うことでポリイミド前駆体化合物は負電荷を帯びる。そのため、電着塗装の際、ポリイミド前駆体系化合物及びポリイミド系化合物は正極に向かって電気泳動する。そして、ポリイミド前駆体系化合物及びポリイミド系化合物が正極で酸化されることで電荷を失うと、正極上でポリイミド前駆体系化合物及びポリイミド系化合物の凝集が起こり、塗膜が形成される。よって、本実施形態に係る塗料は、塗料中に水を含有させることなく、電着塗装を行うことができる。
また、本実施形態に係る塗料は、塗料全体に対する、水の含有量が3質量%未満である。つまり、塗料中の水の含有量が少ない。そのため、樹脂粒子に含有されるポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物は加水分解されにくい。
【0020】
そのため、本実施形態に係る電着塗装用塗料は保存安定性に優れると推測される。
【0021】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、非プロトン系極性溶剤等が挙げられる。
【0022】
エーテル系溶剤は、一分子中にエーテル結合を持つ溶剤である。
エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、トリオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0023】
ケトン系溶剤は、一分子中にケトン基を持つ溶剤である。
ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0024】
アルコール系溶剤は、一分子中にアルコール性水酸基を持つ溶剤である。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールのモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールのモノアルキルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールのモノアルキルエーテル、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、グリセリン、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール等が挙げられる。
【0025】
非プロトン性極性溶剤は、極性が高く酸性水素をもたない溶媒のことである。
非プロトン性極性溶剤として、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチレンホスホルアミド(HMPA)、N-メチルカプロラクタム、N-アセチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。
【0026】
有機溶媒としては、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
有機溶剤の含有量は、電着塗装用塗料全体に対して、50質量%以上98質量%以下であることが好ましく、60質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上85質量%以下であることが更に好ましい。
【0028】
有機溶剤は、2種以上を混合した混合溶液であることが好ましい。
有機溶剤は、後述する、有機溶剤Aと、有機溶剤Bと、の混合溶液であることが好ましい。
有機溶剤中の、有機溶剤Aに対する有機溶剤Bの比(有機溶剤B/有機溶剤A)は、質量基準で、1.0以上4.0以下であることが好ましく、2.0以上4.0以下であることがより好ましく、3.0以上3.75以下であることが更に好ましい。
【0029】
(ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物)
塗料は、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を含有する。
ここで、ポリイミド前駆体系化合物とは、-CO-NH-結合および-COOH基を有する構成単位を含み、熱イミド化又は化学イミド化することにより、-CO-NH-結合および-COOH基を閉環してポリイミドとすることができる重合体をいう。テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して得られる。
また、ポリイミド系化合物とは、構成単位にイミド結合を有する重合体をいう。
【0030】
-ポリイミド前駆体系化合物-
ポリイミド前駆体系化合物は、具体的には、ポリイミド前駆体、ポリエステルイミド前駆体、ポリエーテルイミド前駆体、及びポリアミドイミド前駆体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
ここで、ポリエステルイミド前駆体とは、ポリイミド前駆体系化合物のうち、-CO-NH-結合および-COOH基を有する構成単位にエステル基を含むものをいう。
ポリエーテルイミド前駆体とは、ポリイミド前駆体系化合物のうち、-CO-NH-結合および-COOH基を有する構成単位にエーテル基を含むものをいう。
ポリアミドイミド前駆体とは、ポリイミド前駆体系化合物のうち、-CO-NH-結合および-COOH基を有する構成単位にアミド基を含むものをいう。
【0031】
・ポリイミド前駆体
ポリイミド前駆体について説明する。
ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して得られる。
【0032】
テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。
芳香族系テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’-パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルメタン二無水物等を挙げられる。
【0033】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボナン-2-酢酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸二無水物;1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン等の芳香環を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0034】
ジアミン化合物は、分子構造中に2つのアミノ基を有するジアミン化合物である。ジアミン化合物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。
【0035】
ジアミン化合物としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4
’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、1,5-ジアミノナフタレン、3,3-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、5-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、6-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,5-ジアミノ-3’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,5-ジアミノ-4’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,7-ジアミノフルオレン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)、2,2’,5,5’-テトラクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジクロロ-4,4’-ジアミノ-5,5’-ジメトキシビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)-ビフェニル、1,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-(p-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(m-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチル)フェノキシ]-オクタフルオロビフェニル等の芳香族ジアミン;ジアミノテトラフェニルチオフェン等の芳香環に結合された2個のアミノ基と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;1,1-メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4-ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]-ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族ジアミン及び脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0036】
テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。
【0037】
・ポリエステルイミド前駆体
ポリエステルイミド前駆体について説明する。
ポリエステルイミド前駆体は、エステル基を有するテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して得られる。
テトラカルボン酸二無水物が含有するエステル基の数は、特に限定されないが、1つ以上4つ以下であることが好ましく、2つ以上3つ以下であることがより好ましく、2つであることが更に好ましい。
【0038】
エステル基を有するテトラカルボン酸二無水物は、トリカルボン酸無水物及びジオールを反応させて得たものであることが好ましい。
具体的には、例えば、下記式(1)で示されるものであることが好ましい。
【0039】
【0040】
(式(1)中、Xはそれぞれ独立に3価の有機基を示し、Yは2価の有機基を示す。)
【0041】
式中、Xはトリカルボン酸無水物よりカルボキシ基、及び1,3-オキソ-2-オキサプロピレン(-CO-O-CO-)基を除いたその残基であり、Yはジオールから2つのヒドロキシル基を除いたその残基である。
【0042】
エステル基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられる、トリカルボン酸無水物としては、例えば、ベンゼントリカルボン酸無水物(1,2,3-ベンゼントリカルボン酸無水物、トリメリット酸無水物[1,2,4-ベンゼントリカルボン酸無水物]等)、ナフタレントリカルボン酸無水物(1,2,4-ナフタレントリカルボン酸無水物、1,4,5-ナフタレントリカルボン酸無水物、2,3,6-ナフタレントリカルボン酸無水物、1,2,8-ナフタレントリカルボン酸無水物等)、3,4,4’-ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、3,4,4’-ビフェニルエーテルトリカルボン酸無水物、3,4,4’-ビフェニルトリカルボン酸無水物、2,3,2’-ビフェニルトリカルボン酸無水物、3,4,4’-ビフェニルメタントリカルボン酸無水物、3,4,4’-ビフェニルスルホントリカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0043】
エステル基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられる、ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオールなどの脂肪族ジオール;シクロヘキサンジオール、水添キシリレングリコール、等の脂環式ジオール;キシリレングリコール等の芳香族ジオール;2価のアルコールにアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等)を付加重合させたポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0044】
エステル基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられる、ジアミン化合物の例示は、既述のものと同一である。
【0045】
・ポリエーテルイミド前駆体
ポリエーテルイミド前駆体について説明する。
ポリエーテルイミド前駆体は、エーテル結合を有するテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して得られる。
テトラカルボン酸二無水物が含有するエーテル基の数は、特に限定されないが、1つ以上4つ以下であることが好ましく、2つ以上3つ以下であることがより好ましく、2つであることが更に好ましい。
エーテル結合を有するテトラカルボン酸二無水物は、例えば、下記式(2)で示されるものであることが好ましい。
【0046】
【0047】
(式(2)中、Zは-O-又は式-O-A-O-であり、-O-または-O-A-O-は、3,3’、3,4’、4,3’、または4,4’位置にある。Aは下記式(3-1)~(3-3)で示されるもののうちいずれか1つである。)
【0048】
【0049】
(式(3-1)~(3-3)中、R1~R16は、水素原子、ハロゲノ基、又は炭素数1以上4以下の直鎖若しくは分枝の炭化水素基であり、Dは-O-、-S-、-C(O)-、-SO2-、-SO-、又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分枝鎖アルキレン基であり、*は結合を示す。)
【0050】
エーテル結合を有するテトラカルボン酸二無水物としては、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、2,2-ビス[4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4’-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニル-2,2-プロパン二無水物、4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4’-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4’-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4’-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物および4-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)-4’-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物等が挙げられる。
【0051】
エーテル結合を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられる、ジアミン化合物の例示は、既述のものと同一である。
【0052】
・ポリアミドイミド前駆体
ポリアミドイミド前駆体について説明する。
ポリアミドイミド前駆体は、アミド結合を有するテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して得られる。
テトラカルボン酸二無水物が含有するアミド基の数は、特に限定されないが、1つ以上4つ以下であることが好ましく、2つ以上3つ以下であることがより好ましく、2つであることが更に好ましい。
【0053】
アミド基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられる、ジアミン化合物としては、既述のものと同一であることが好ましい。
アミド基を有するテトラカルボン酸二無水物は、(1)トリメリット酸無水物等のトリカルボン酸無水物とジイソシアネートとを反応、又は(2)トリメリット酸無水物クロライド等のトリカルボン酸無水物の酸塩化物とジアミン化合物とを反応させて得たものであることが好ましい。
具体的には、例えば、下記式(4)で示されるものであることが好ましい。
【0054】
【0055】
(式(4)中、X2はそれぞれ独立に3価の有機基を示し、Y2は2価の有機基を示す。)
【0056】
式中、X2はトリカルボン酸無水物よりカルボキシ基、及び1,3-オキソ-2-オキサプロピレン(-CO-O-CO-)基を除いたその残基、又はトリカルボン酸無水物の酸塩化物より-COOCl基、及び1,3-オキソ-2-オキサプロピレン(-CO-O-CO-)基を除いたその残基であり、Yはジイソシアネートから2つのイソシアネート基を除いたその残基、又はジアミン化合物から2つのアミノ基を除いたその残基である。
【0057】
アミド基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられる、トリカルボン酸無水物としては、例えば、上述のエステル基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられるトリカルボン酸無水物と同様のものが挙げられる。
また、トリカルボン酸無水物の酸塩化物としては、例えば、上述のエステル基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられるトリカルボン酸無水物の酸塩化物が挙げられる。
【0058】
アミド基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられる、ジイソシアネートとしては、例えば、メタフェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、o-トリジンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、4,4’-オキシビス(フェニルイソシアネート)、4,4’-ジイソシアネートジフェニルメタン、ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2′-ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジエチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
アミド基を有するテトラカルボン酸二無水物の合成に用いられるジアミン化合物としては、例えば、上述のポリイミド前駆体の合成に用いられるジアミン化合物と同一のものが挙げられる。
【0059】
-ポリイミド系化合物-
ポリイミド系化合物は、ポリエステルイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
ポリイミド系化合物としては、上記ポリイミド前駆体系化合物をイミド化させて得られるポリイミドが挙げられる。
【0060】
-ポリイミド前駆体系化合物及びポリイミド系化合物の分子量-
ポリイミド前駆体系化合物及びポリイミド系化合物の数平均分子量は、5000以上100000以下であることがよく、より好ましくは10000以上70000以下、更に好ましくは20000以上50000以下である。
ポリイミド前駆体系化合物及びポリイミド系化合物の数平均分子量を5000以上とすることで、形成された皮膜の強度が向上しやすい。一方ポリイミド前駆体系化合物及びポリイミド系化合物の数平均分子量を100000以下とすると塗料の高粘度化が抑制される。上記範囲とすると、柔軟性などの機械的物性が向上し、絶縁電線、絶縁部品の加工がしやすく、塗料化も容易である。
【0061】
ポリイミド前駆体系化合物及びポリイミド系化合物の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法で測定される値である。
【0062】
ポリイミド前駆体系化合物又はポリイミド系化合物の含有量は、電着塗装用塗料全体に対して、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、1質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。
【0063】
塗料は、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を粒子として含むことが好ましく、ポリイミド前駆体系化合物を粒子(以下、「粒子」を「樹脂粒子」とも称する)として含むことがより好ましい。
塗料を、上記構成とすることで、水の含有量が少ない塗料であっても電着塗装を行うことがより容易になる。
【0064】
-樹脂粒子中におけるポリイミド前駆体系化合物又はポリイミド系化合物の含有量-
樹脂粒子に含有されるポリイミド前駆体系化合物又はポリイミド系化合物の含有量(濃度)は、樹脂粒子全体に対して、50質量%以上100質量%以下であることがよく、好ましくは60質量%以上98質量%以下、より好ましくは70質量%以上99質量%以下である。
【0065】
-樹脂粒子の粒径及び形状-
樹脂粒子の粒径としては、特に限定されないが、より保存安定性に優れた電着塗装用塗料とする観点から、0.001μm以上10μm以下であることが好ましく、0.005μm以上1.0μm以下であることがより好ましく、0.02μm以上0.6μm以下であることが更に好ましく、0.02μm以上0.3μm以下であることが特に好ましく、0.02μm以上0.2μm以下であることが最も好ましい。
樹脂粒子の形状については、特に限定されない。球状であっても、平板状であっても良い。
【0066】
樹脂粒子の粒径は株式会社堀場製作所製 nano Partica SZ-100を用いて測定したメジアン径(D50)である。
【0067】
-樹脂粒子の含有量-
樹脂粒子の含有量は、電着塗装用塗料全体に対して、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、1質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。
【0068】
(アミン化合物)
塗料はアミン化合物を含有してもよい。
アミン化合物としては、1級アミン化合物、2級アミン化合物、3級アミン化合物が挙げられる。
【0069】
1級アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、2-エタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、などが挙げられる。
2級アミン化合物としては、例えば、ジメチルアミン、2-(メチルアミノ)エタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、モルホリンなどが挙げられる。
3級アミン化合物としては、例えば、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノプロパノール、ピリジン、トリエチルアミン、ピコリン、メチルモルホリン、エチルモルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0070】
アミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0071】
アミン化合物は、電着塗装の効率向上の観点から、電着塗装用塗料に含有される樹脂粒子全体に対して、0.2質量%以上40質量%以下であることがよく、好ましくは0.5質量%以上20質量%以下である。
【0072】
アミン化合物は、電着塗装用塗料全体に対して、0.05質量%以上1000質量%以下であることがよく、好ましくは1質量%以上200質量%以下である。
【0073】
(その他の成分)
本実施形態に係る塗料は、本願発明の効果を妨げない範囲で、公知慣用の種々の塗料用添加剤を含有することができる。塗料用添加剤としては、例えば、増粘剤、レベリング剤、チクソ化剤、消泡剤、凍結安定剤、艶消し剤、架橋反応触媒、皮張り防止剤、分散剤、湿潤剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、可塑剤、潤滑剤、還元剤、防腐剤、防黴剤、消臭剤、黄変防止剤、静電防止剤又は帯電調整剤等が挙げられる。
【0074】
ここで、充填剤としては、例えば、無機質充填剤及び有機質充填剤が挙げられる。無機質充填剤としては例えば、炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、コロイド炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、酸化チタン、焼成カオリン、アミノシランで表面処理した焼成カオリン、けいそう土、水酸化アルミニウム、微粒状アルミナ、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、ベンガラ、酸化鉄、煙霧状金属酸化物、石英粉末、タルク、ゼオライト、ベントナイト、ガラス繊維、炭素繊維、微粉マイカ、溶融シリカ粉末、シリカ微粉末、煙霧状シリカ、沈降性シリカ、湿式シリカ、乾式シリカあるいはこれらをメチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクラメチルシクロテトラシロキサン等の有機ケイ素化合物で表面処理した疎水性フュームドシリカ、フタロシアニンブルー、カーボンブラック等が挙げられる。有機質充填剤としては例えば、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリルシリコーンなどの合成樹脂粉末等が挙げられる。
【0075】
(水の含有量)
本実施形態に係る塗料は、塗料全体に対する、水の含有量が3質量%未満である。
より保存安定性に優れた電着塗装用塗料とする観点から、塗料全体に対する、水の含有量は、2質量%未満であることが好ましく、1.5質量%未満であることがより好ましく、1質量%未満であることが更に好ましく、0.5質量%未満であることが最も好ましい。
塗料中に水は含有しないことが好ましいが、使用する有機溶剤の種類によっては、吸水作用を有することから、塗料全体に対する、水の含有量は0.1質量%以上であってもよい。
【0076】
水の含有量は、カールフィッシャー水分計を用いて測定される値である。
水の含有量の測定は、例えば、以下の条件で測定される。
カールフィシャー水分計:品名AQ-300、平沼産業株式会社製
カールフィッシャー気化装置:品名EV-2000、平沼産業株式会社製
カールフィッシャー試薬(発生液):品名アクアライト RS-A、平沼産業株式会社製
カールフィッシャー試薬(対極液):品名アクアライト CN、平沼産業株式会社製
測定サンプル投入量:1g
測定温度:23℃
測定時間:5分
【0077】
<電着塗装用塗料の製造方法>
本実施形態に係る塗料の製造方法は、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方並びに有機溶剤Aを含有する溶液と、有機溶剤Bと、を混合して、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を含有する樹脂粒子、有機溶剤A、及び有機溶剤Bを含有する粒子分散液を得る工程(以下、粒子分散工程とも称する)と、前記粒子分散液と、アミン化合物と、を混合する工程(以下、アミン添加工程とも称する)と、を含むことが好ましい。
【0078】
ここで、粒子分散工程の前に、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方並びに有機溶剤Aを含有する溶液を調製する工程(以下、原料溶液調製工程とも称する)を含んでもよい。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0079】
(原料溶液調製工程)
原料溶液調製工程は、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方並びに有機溶剤Aを含有する溶液(以下、「原料溶液」とも称する)を調製する工程である。
ここで、ポリイミド前駆体系化合物及びポリイミド系化合物は、既述のものと同一である。
有機溶剤Aは、ポリイミド前駆体系化合物を含有する樹脂粒子を製造する場合、ポリイミド前駆体系化合物を溶解する溶媒であることが好ましく、ポリイミド系化合物を含有する樹脂粒子を製造する場合、ポリイミド系化合物を溶解する溶媒であることが好ましく、ポリイミド前駆体系化合物及びポリイミド系化合物の両方を溶解する溶媒であることがより好ましい。
ここで、本実施形態において、「溶解する」とは、25℃において、ポリイミド前駆体系化合物又はポリイミド系化合物が有機溶剤Aに対して90質量%以上の範囲内で溶解することをいう。
有機溶剤Aは、具体的には、例えば、既述の非プロトン性極性溶剤が挙げられる。
【0080】
原料溶液中における、ポリイミド前駆体系化合物及びポリイミド系化合物の含有量は、原料溶液全体に対して、5質量%以上45質量%以下とすることが好ましく、10質量%以上40質量%以下とすることがより好ましく、15質量%以上35質量%以下とすることが更に好ましい。
【0081】
原料溶液調製工程の具体的な方法としては、例えば、下記(1)又は(2)が挙げられる。
(1)有機溶剤A中において、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を合成する。
(2)有機溶剤A、別途調製されたポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を混合する。
【0082】
先ず、(1)有機溶剤A中において、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を合成する方法について説明する。
有機溶媒Aに対して、テトラカルボン酸二無水物誘導体(本実施形態において、既述の「テトラカルボン酸二無水物」、「エステル基を有するテトラカルボン酸二無水物」、「エーテル結合を有するテトラカルボン酸二無水物」、「アミド結合を有するテトラカルボン酸二無水物」を指す)及びジアミン化合物を加え、撹拌しながら反応させることでポリイミド前駆体系化合物を合成する。ポリイミド系化合物を合成する場合、上記手順で得られたポリイミド前駆体系化合物を撹拌しながらイミド化させることでポリイミド系化合物を合成する。そして、反応後の溶液を原料溶液とする。
【0083】
つづいて、(2)有機溶剤A、別途調製されたポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を混合する方法について説明する。
例えば、有機溶剤Aに対して、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を、所望の含有量となる様に添加し、撹拌することで原料溶液を調製してもよい。
【0084】
(粒子分散工程)
粒子分散工程は、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方並びに有機溶剤Aを含有する溶液と、有機溶剤Bと、を混合して、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を含有する樹脂粒子、有機溶剤A、及び有機溶剤Bを含有する粒子分散液を得る工程である。
粒子分散工程は、原料溶液に対し、有機溶剤Bを添加して、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を含有する樹脂粒子、有機溶剤A、及び有機溶剤Bを含有する粒子分散液を得る工程であることが好ましい。
【0085】
有機溶剤Bは、ポリイミド前駆体系化合物及びポリイミド系化合物を溶解しない溶剤であることが好ましい。
ここで本発明において「溶解しない」とは、25℃において、ポリイミド前駆体系化合物及びポリイミド系化合物が有機溶剤Bに対して3質量%以下の範囲内で溶解することも含む。
有機溶剤Bとしては、例えば、既述のエーテル系溶剤、既述のケトン系溶剤、既述のアルコール系溶剤等が挙げられる。
【0086】
以下、粒子分散工程についてより詳細に説明する。
原料溶液(又は、必要に応じて、原料溶液に対して有機溶剤Aを添加して希釈した原料溶液。以下同様とする。)を0℃以上50℃以下の温度条件下で撹拌しながら、原料溶液に対し、有機溶剤Bを添加する。原料溶液中に溶解している、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方が、溶液中で析出し粒状となることでポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を含有する樹脂粒子となる。これにより、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を含有する樹脂粒子、有機溶剤A、及び有機溶剤Bを含有する粒子分散液を得る。
【0087】
原料溶液の撹拌方法としては、特に限定されず、公知の撹拌装置等を用いて行うことができる。撹拌装置としては、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディゾルバー等を用いることができる。
原料溶液の撹拌条件としては、例えば、撹拌装置としてマグネチックスターラー(例えば、KPI社製、Mighty Magnetic Stirrer UM-24G)を用いた場合、回転数を120rpm以上、撹拌時間を30分以上とすることが好ましい。また、例えば、撹拌装置としてホモジナイザー(例えば、IKA社製T18 Ultra TurraX)を用いた場合、回転数を2000rpm以上、攪拌時間を10分以上とすることが望ましい。
【0088】
有機溶剤Bの添加量は、樹脂粒子が得られる量であれば特に限定されないが、例えば、粒子分散液中全体に対し、50質量%以上90質量%以下となる様に添加することが好ましく、55質量%以上85質量%以下となる様に添加することがより好ましく、60質量%以上80質量%以下となる様に添加することが更に好ましい。
【0089】
(アミン添加工程)
アミン添加工程は、粒子分散液と、アミン化合物と、を混合する工程である。これにより、塗料が含有する樹脂粒子が電気的に陰性となりやすくなる。そのため、本実施形態に係る塗料は、塗料中に水を含有させることなく、電着塗装を行うことができる。
粒子分散液と、アミン化合物と、を混合する方法は特に限定されず、例えば、粒子分散液を撹拌しながらアミン化合物を添加する方法が挙げられる。
ここでアミン化合物は、既述のアミン化合物と同一である。
【0090】
アミン化合物は、電着塗装用塗料全体に対するアミン化合物の含有量及び樹脂粒子全体に対するアミン化合物の含有量が、既述の量となる様に添加することが好ましい。
【0091】
ここで、本実施形態に係る塗料の製造方法は、上述の方法以外の方法でもよい。
例えば、単に、有機溶剤、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を含有する樹脂粒子、並びにアミン化合物を混合する方法でもよい。
ただし、より保存安定性に優れた電着塗装用塗料とする観点から、本実施形態に係る塗料の製造方法は、上述の通り、粒子分散工程と、アミン添加工程と、を含む製造方法であることが好ましい。
【0092】
つまり、本実施形態に係る塗料は、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方並びに有機溶剤Aを含有する溶液に対し、有機溶剤Bを添加して、ポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方を含有する樹脂粒子、有機溶剤A、並びに有機溶剤Bを含有する粒子分散液を得た後、粒子分散液に対してアミン化合物を添加して得られた塗料であることが好ましい。
【0093】
<絶縁材の製造方法>
本実施形態に係る絶縁材の製造方法は、電着塗装用塗料を電着塗装して塗膜を形成する第1の工程と、前記塗膜を焼成する第2の工程と、を有することが好ましい。
以下に各工程の詳細について説明する。
【0094】
(第1の工程)
第1の工程は、電着塗装用塗料を電着塗装して塗膜を形成する工程である。
電着塗装の方法は、特に限定されず、公知の電着塗装方法を用いることができる。例えば、被塗物を陽極とし、陰極との間に、1V以上400V以下の電圧を印加して行なうことが好ましい。電着塗装時の塗料の温度は、例えば、10℃以上45℃であることが好ましい。
【0095】
被塗物については、特に限定されないが、例えば、板状の導体、棒状の導体、コイル状の導体、不定形の導体等が挙げられる。
被塗物の材質については、電気を通じるものであれば特に限定されないが、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、チタン、ビスマス等の金属、前記金属の合金、カーボン、などが挙げられる。
また、被塗物は、導体の表面にニッケル等のめっきを有するものでもよい。
【0096】
形成される電着塗膜の膜厚は特に限定されるものではなく、用途や被塗装物の種類に応じて5μm以上100μm以下等の範囲で適宜決定することができる。
【0097】
図3に、電着塗装に用いられる電着装置100の一例を示す。
ステンレス製容器10は、塗料11を収容する。
ステンレス製容器10の上部には、ガラス製容器蓋12が備えられている。
ガラス製容器蓋12を介して、ステンレス製容器10内に管16及び管17が通されており、管16から、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴンなど)が吹き込まれ、管17からステンレス製容器10の外へ流出する。
直流電源13は、負極14及び正極15に接続され、各電極の間に電圧を印加する。
【0098】
各電極の間に電圧を印加することで、塗料11に含有されるポリイミド前駆体系化合物、及びポリイミド系化合物の少なくとも一方(以下、樹脂成分とも称する)が電気泳動し正極15に向かう。樹脂成分が正極15で酸化されることで電荷を失うと、正極15表面で樹脂成分の凝集が起こり、塗膜が形成される。
【0099】
(第2の工程)
第2工程は、塗膜の焼成前に、塗膜を乾燥させることが好ましい。
第2の工程は、第1の工程を経て得られた塗膜を焼成する工程である。
【0100】
塗膜の乾燥は、例えば、加熱乾燥、自然乾燥、真空乾燥等の方法により乾燥させる方法が挙げられ、製造効率化の観点から、加熱乾燥が好ましい。
加熱乾燥の条件は、塗膜の膜厚等に応じて適宜変更することが好ましいが、例えば、70℃以上120℃以下で、20分間以上300分間以下の条件で乾燥させることが好ましく、20分間以上120分間以下の条件で乾燥させることがより好ましい。
【0101】
乾燥後の塗膜の焼成は、150℃以上400℃以下(好ましくは300℃付近以下)で、20分間以上120分間以下焼成することが挙げられる。
ポリイミド前駆体系化合物を含有する電着塗装用塗料を用いて塗膜を得た場合、当該焼成によりイミド化を進行させることが好ましい。
焼成は、段階的に昇温させて行ってもよい。
焼成における加熱方法は、ヒーター加熱、熱風加熱、誘電加熱などが挙げられる。
【0102】
以上の工程を経て、絶縁材が製造されることが好ましい。
つまり、本実施形態に係る絶縁材は、本実施形態に係る電着塗装用塗料の硬化膜を含む絶縁材であることが好ましい。
【0103】
上記製造方法で得られる絶縁材は、例えば、絶縁電線、絶縁部品、移動通信機器(第5世代(5G)を含む)、フィルムなどの用途に適用できる。
【実施例0104】
以下に実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0105】
<実施例1>
(原料溶液調製工程)
撹拌機と温度計を備えた0.3Lの3つ口セパラブルフラスコに、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)0.100モル(20.0g)と有機溶剤AとしてN-メチルピロリドン(NMP)167gを仕込み、窒素を流入させ撹拌しながら溶解させた。次に、無水ピロメリット酸(PMDA)0.1モル(21.8g)を徐々に添加しながら撹拌を行い、20.0質量%のポリイミド前駆体溶液を得た。合成は室温(25℃)で行った。
【0106】
(粒子分散工程、及びアミン添加工程)
先に得られたポリイミド前駆体溶液20gに有機溶剤AとしてNMP160gを入れ希釈し、次いで、激しく撹拌しながら有機溶剤Bとしてテトラヒドロフラン(THF)530gを滴下してポリイミド前駆体粒子(樹脂粒子)を形成した。その後、アミン化合物としてトリエチルアミン1.0gを添加し、塗料を得た。
【0107】
(電着及び乾燥・焼成)
図3の電着装置を使用し、得られた塗料を用いて、電着を施した。被塗物(陽極電極)には幅10mm、厚さ1mm、角部Rが0.1mmの無酸素銅を用いた。窒素を流入させながらDC50Vを20分印加し、電着膜を形成した。被塗物を恒温槽によって80℃前後で溶媒を乾燥させた後、段階的に昇温させ、最終的に300℃で45分間焼成を行い、電着サンプルを作製した。
【0108】
<実施例2>
(原料溶液調製工程)
撹拌機と温度計を備えた0.3Lの3つ口セパラブルフラスコに、ODA0.08モル(16.0g)、4,4’-ジアミノジフェニルメタン(DAM)0.02モル(4.0g)および有機溶剤AとしてNMP182gを仕込み、窒素を流入させ撹拌しながら溶解させた。次に、PMDA0.05モル(10.9g)及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)0.05モル(14.7g)を徐々に添加しながら撹拌を行い、20.0質量%のポリイミド前駆体溶液を得た。合成は室温(25℃)で行った。
【0109】
(粒子分散工程、及びアミン添加工程)
先に得られたポリイミド前駆体溶液20gに有機溶剤AとしてNMP160gを入れ希釈し、次いで、激しく撹拌しながら有機溶剤BとしてTHF530gを滴下してポリイミド前駆体粒子(樹脂粒子)を形成した。その後、アミン化合物としてトリプロピルアミン1.0gを添加し、塗料を得た。
【0110】
(電着及び乾燥・焼成)
実施例1と同様の手順にて電着サンプルを作製した。
【0111】
<実施例3>
(原料溶液調製工程)
撹拌機と温度計を備えた0.3Lの3つ口セパラブルフラスコに、ODA0.05モル(10.0g)、DAM0.02モル(4.0g)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)0.03モル(11.0g)および有機溶剤AとしてNMP187gを仕込み、窒素を流入させ撹拌しながら溶解させた。次に、PMDA0.1モル(21.8g)を徐々に添加しながら撹拌を行い、20.0質量%のポリイミド前駆体溶液を得た。合成は室温(25℃)で行った。
【0112】
(粒子分散工程、及びアミン添加工程)
先に得られたポリイミド前駆体溶液20gに有機溶剤AとしてNMP160gを入れ希釈し、次いで、激しく撹拌しながら有機溶剤Bとしてメチルエチルケトン(MEK)530gを滴下してポリイミド前駆体粒子(樹脂粒子)を形成した。その後、アミン化合物としてトリエチルアミン1.0gを添加し、塗料を得た。
【0113】
(電着及び乾燥・焼成)
実施例1と同様の手順にて電着サンプルを作製した。
【0114】
<実施例4>
(原料溶液調製工程)
撹拌機と温度計を備えた0.3Lの3つ口セパラブルフラスコに、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)0.05モル(12.5g)、トリメリット酸(TMA)0.1モル(19.2g)および有機溶剤AとしてNMP74gを仕込み、窒素を流入させ撹拌しながら約1時間で110℃まで昇温し、この温度で約3時間反応させた。その後窒素雰囲気を維持したまま30℃まで冷却し、次にODA0.05モル(10.0g)および有機溶剤AとしてNMP93gを添加しながら室温で撹拌を行い、20.0質量%のポリイミド前駆体溶液を得た。
【0115】
(粒子分散工程、及びアミン添加工程)
先に得られたポリイミド前駆体溶液20gに有機溶剤AとしてNMP160gを入れ希釈し、次いで、超音波で撹拌しながら有機溶剤BとしてTHF530gを滴下してポリイミド前駆体粒子(樹脂粒子)を形成した。その後、アミン化合物としてトリエチルアミン1.0gを添加し、塗料を得た。
【0116】
(電着及び乾燥・焼成)
実施例1と同様の手順にて電着サンプルを作製した。
【0117】
<実施例5>
(原料溶液調製工程)
撹拌機と温度計を備えた0.3Lの3つ口セパラブルフラスコに、メタ-フェニレンジアミン(PDA)0.100モル(10.8g)及び有機溶剤AとしてNMP215gを仕込み、窒素を流入させ撹拌しながら溶解させた。次に、PMDA0.03モル(6.5g)及び4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)(BIS-DA)0.07モル(36.4g)を徐々に添加しながら撹拌を行い、20.0質量%のポリイミド前駆体溶液を得た。合成は室温(25℃)で行った。
【0118】
(粒子分散工程、及びアミン添加工程)
先に得られたポリイミド前駆体溶液20gに有機溶剤AとしてNMP160gを入れ希釈し、次いで、超音波で撹拌しながら有機溶剤BとしてMEK530gを滴下してポリイミド前駆体粒子(樹脂粒子)を形成した。その後、アミン化合物としてトリエチルアミン1.0gを添加し、塗料を得た。
【0119】
(電着及び乾燥・焼成)
実施例1と同様の手順にて電着サンプルを作製した。
【0120】
<実施例6>
粒子分散工程、及びアミン添加工程において、塗料を得た後、平均粒径20nmのシリカ粒子を樹脂粒子に対し、5phr添加したこと以外は、実施例1と同様の手順で塗料及び電着サンプルを得た。
【0121】
<比較例1>
(原料溶液調製工程、粒子分散工程、及びアミン添加工程)
実施例1の粒子分散工程、及びアミン添加工程において、有機溶剤Bであるテトラヒドロフラン530gを滴下することに代えて、水105gを滴下すること以外は、実施例1と同様の手順で塗料及び電着サンプルを得た。
(電着及び乾燥・焼成)
印加する電圧をDC50Vから、DC10Vに変えたこと以外は、実施例1と同様の手順にて電着サンプルを得た。
【0122】
<比較例2>
(原料溶液調製工程)
撹拌機と温度計を備えた0.3Lの3つ口セパラブルフラスコに、ODA0.050モル(10.0g)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)0.025モル(10.8g)、2,4-ジアミノトルエン(DAT)0.025モル(3.1g)及び有機溶剤AとしてNMP221gを仕込み、窒素を流入させ撹拌しながら溶解させた。次に、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)0.050モル(17.9g)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)0.025モル(8.1g)、PMDA0.025モル(5.5g)を徐々に添加し撹拌、ポリイミド前駆体溶液を得た。次いでトルエン50gを加え、徐々に昇温し、180℃で3時間トルエンと水分を系外に取り出しながら合成(熱イミド化反応)を行い、20.0質量%のポリイミド溶液を得た。
【0123】
(粒子分散工程、及びアミン添加工程)
先に得られたポリイミド溶液20gに有機溶剤AとしてNMP160gを入れ希釈し、次いで、激しく撹拌しながら水105gを滴下してポリイミド粒子(樹脂粒子)を形成した。その後、アミン化合物としてトリエチルアミン1.0gを添加し、塗料を得た。
【0124】
(電着及び乾燥・焼成)
比較例1と同様の手順にて電着サンプルを得た。
【0125】
<比較例3>
(原料溶液調製工程)
撹拌機と温度計を備えた0.3Lの3つ口セパラブルフラスコに、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)0.100モル(20.0g)と有機溶剤AとしてN-メチルピロリドン(NMP)167gを仕込み、窒素を流入させ撹拌しながら溶解させた。次に、無水ピロメリット酸(PMDA)0.1モル(21.8g)を徐々に添加しながら撹拌を行い、20.0質量%のポリイミド前駆体溶液を得た。合成は室温(25℃)で行った。
【0126】
(粒子分散工程、及びアミン添加工程)
先に得られたポリイミド前駆体溶液20gに有機溶剤AとしてNMP160gを入れ希釈し、次いで、激しく撹拌しながら有機溶剤Bとしてテトラヒドロフラン(THF)530gを滴下してポリイミド前駆体粒子(樹脂粒子)を形成した。その後、アミン化合物としてトリエチルアミン1.0gを添加し、塗料を得た。ここで得られた塗料を40℃-95%RHの恒温恒湿槽に入れて吸湿させた。
【0127】
(電着及び乾燥・焼成)
実施例1と同様の手順にて電着サンプルを作製した。
<参考例>
実施例1と同様の手順で調製したポリアミド前駆体溶液、及び長尺の幅10mm、厚さ1mm、角部Rが0.1mmの無酸素銅を、エナメル線製造に十分な量を用意し、熱風乾燥炉を備えたエナメル線製造装置を用いて、ポリアミド酸溶液を18パスの塗布・焼付けを繰り返して、ポリイミド平角エナメル線を作製した。
【0128】
各例で得られた電着サンプル又はエナメル線について、特性評価を実施した。その結果を表1及び表2に示す。
【0129】
以下に評価方法を示す。
【0130】
<塗膜寸法>
各例で得られた電着サンプルの塗膜の寸法を下記の通り測定した。
塗膜の幅を任意に3点測定し、その算術平均値を算出した(表中「幅」と記載する)。また、塗膜の膜厚を任意に3点測定し、その算術平均値を算出した(表中「厚さ」と記載する)。
また、塗膜の膜厚の算術平均を算出する際に測定して得られた塗膜の膜厚のうち、最も小さい値を最薄部厚さとした。
ここで、塗膜の幅及び膜厚の測定はマイクロメータを用いて行った。
【0131】
<可とう性評価>
直径2mmの円筒形マンドレルに沿って、180度曲げを行い、拡大鏡にて塗膜の亀裂の有無を確認した。180度曲げに耐えられない場合は、塗膜に亀裂が発生した角度を測定した。
【0132】
<耐電圧試験>
10mm幅の金属箔を、電着サンプル又はエナメル線に密着させて巻き、電着サンプル又はエナメル線と金属箔との間にAC2000Vrms,50Hzの電圧を10秒間印加し、漏れ電流が5mA未満で合格とした。
【0133】
<絶縁破壊試験>
10mm幅の金属箔を電着サンプル又はエナメル線に密着させて巻き、電着サンプル又はエナメル線と金属箔との間に正弦波(50Hz)の電圧を印加、約500V/秒で昇圧し、漏れ電流が5mA以上になった時の電圧を破壊電圧とした。
【0134】
<耐軟化試験>
JIS C 3216-6附属書JA.4c)耐軟化の鋼球法(昇温法)に従って、塗膜の耐軟化温度を測定した。
【0135】
<フィルム伸び試験>
電着サンプル又はエナメル線の塗膜に鋭利な刃で幅5mmの切込みを入れ、端面からピンセットで引き剥がして、約100mmのフィルム片として切り出した。チャック長50mmで引張試験を実施した。
【0136】
<電着液の保存性の評価>
塗料を5℃で保管し、保存経過時間毎に塗料を取り出して、各例ごとに同一の電着及び乾燥・焼成条件で塗膜を形成し、塗膜の伸びを計測、塗膜の伸び値が初期値の50%以下になった時点の保管時間を測定した。
【0137】
【0138】
【0139】
電着液の保存性について、非水系の塗料である実施例1から6は、いずれも5℃での保存では、1000時間以上、特性の低下は認められなかった。一方、水系の塗料である比較例1は、72時間で形成した塗膜の靱性が著しく低下し、塗膜の伸びは測定できないレベルまで悪化した。この原因はポリイミド前駆体が系内に存在する水によって分解され、機械的物性を維持できないくらいまで、低分子量化したためと考えられる。一方イミド化が完了している塗料である比較例2の保存性は良好である。水が存在しても分解しないことを示唆している。
【0140】
塗膜厚さについては、電着塗装によって塗膜形成した実施例1から6、及び比較例1、2は、
図1に示す様に導体1に均一な厚みの塗膜2が形成されている。それに対し、エナメル塗装プロセスで形成した参考例は、塗膜の最薄部は0.009mmと非常に薄くなっている。塗膜2は銅導体1の角部が最も薄く、次いでフラット面の中央部が薄い(
図2を参照)。これは塗料の表面張力によって付着が不均一になることが原因と考えられる。
充填剤の入った実施例6は、他の実施例1から5に比べ、皮膜厚が増加している。
【0141】
可とう性については、非水系塗料である実施例1から6、及びエナメル塗装の参考例は、いずれも良好であり、樹脂(ポリイミド)本来の性能が発揮されていると考えられる。一方比較例1、2は不合格であった。比較例1は前記のポリイミド前駆体の加水分解による特性低下が原因であると考えられる。比較例2は樹脂(ポリイミド)の性能自体の不足、および電着液中の樹脂粒子自体の融点が高い、または溶融しても溶融粘度が高いために、樹脂粒子が完全に平滑化せず、皮膜内に空隙が存在し、そこが起点となって亀裂が発生することが原因と考えられる。
【0142】
耐電圧試験、絶縁破壊電圧試験については、非水系塗料である実施例1から6は、いずれも耐電圧試験は合格、破壊電圧は約200V/皮膜厚1μmと良好である。比較例1は、耐電圧は合格であったが、破壊電圧は約120V/皮膜厚1μmと低くなり、前記のポリイミド前駆体の加水分解による特性低下が原因であると考えられる。比較例2は耐電圧が不合格であり、破壊電圧も2.2kVと低くなった。これは前記の樹脂粒子の平滑化不足が原因と考えられる。参考例は最薄皮膜厚の影響で、耐電圧、破壊電圧共に悪化したと考えられる。
【0143】
耐軟化温度は、樹脂の分子構造が反映される。非常に耐熱性の高い化学構造である実施例1、2、3、6及び比較例1、3は、470℃以上の極めて高い温度を示した。ポリアミドイミド構造、ポリエーテルイミド構造の実施例4及び5は、400℃以上と非常に高い温度を示した。一方、比較例2はポリイミド構造ではあるものの、溶媒への可溶化の弊害により、熱可塑性となり、耐軟化温度は298℃とポリイミドとしては非常に低い水準であった。
【0144】
伸びについては、可とう性と同等の傾向で、比較例1及び2は非常に劣る結果となった。原因は前記同様、比較例1はポリイミド前駆体の加水分解、比較例2は樹脂(ポリイミド)自体の伸び不足、又は樹脂粒子の平滑化不足が原因と考えられる。
【0145】
これらの結果から、水系であることに起因する特性上の弊害(具体的には、塗料の保存安定し得の低下)を、本発明では解消することができることが分かる。また、本発明に係る塗料を用いて電着塗装することで得られる塗膜は耐熱性にも優れることが分かる。