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▶ 和気 道江の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164517
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】空間除菌剤の担体
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/12 20060101AFI20221020BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20221020BHJP
   C01B 11/02 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
A61L9/12
A61L9/01 F
C01B11/02 F
C01B11/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021093276
(22)【出願日】2021-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】521239082
【氏名又は名称】和気 道江
(72)【発明者】
【氏名】和気 清弘
【テーマコード(参考)】
4C180
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180CA07
4C180EA23X
4C180EA57X
4C180EB22Y
4C180EB24Y
4C180EB30Y
4C180EB34Y
(57)【要約】
【課題】包装素材および薬剤の担体を全て生分解性素材とした使い捨て空間除菌剤を提供する。
【解決手段】使用後に廃棄しても容易に自然界の微生物により二酸化炭素と水に分解され自然に帰ることのできるセルロースを主成分とする紙を包装素材および薬剤の担体として使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間に二酸化塩素ガスを蒸散させるために二酸化塩素ガスを保持する担体の素材として紙を使用することを特徴とする空間除菌方法。
【請求項2】
空間に二酸化塩素ガスを蒸散させるために二酸化塩素ガスを発生する亜塩素酸ナトリウムを保持する担体として紙を使用することを特徴とする請求項1に記載の空間除菌方法。
【請求項3】
空間に二酸化塩素ガスを蒸散させるための二酸化塩素ガスを保持する担体として使用する紙を厚紙化または粒形にしたことを特徴とする請求項1に記載の空間除菌方法。
【請求項4】
空間に二酸化塩素ガスを蒸散させるための二酸化塩素ガスを保持する担体を封入する袋として紙を使用することを特徴とする請求項1に記載の空間除菌方法。
【請求項5】
使用後に自然界中で容易に分解され消滅することを特徴とする請求項1に記載の空間除菌剤の保持担体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間除菌に使用される亜塩素酸ナトリウムが保管中に蒸散することを抑える担体及びその担体素材を全て生分解性素材とすることにより環境に優しい製品を開発する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
感染症の予防処置として二酸化塩素ガスを用いた空間除菌という方法が開発されて久しい(特許文献1)。
【0003】
亜塩素酸ナトリウムは塩酸酸性下では以下のような反応が進み二酸化塩素ガスを発生する。
5NaClO+4HCl→4ClO+5NaCl+2H
亜塩素酸ナトリウムは空気中の水分や二酸化炭素と反応しても二酸化塩素ガスを発生する。
発生した二酸化塩素ガスは強力な酸化力を示し、微生物やウイルスの表面に結合してたんぱく質の構造を変性させてその生物活性を阻害する働き、つまり殺菌性能がある。
【0004】
当発明者らは二酸化塩素ガスの殺菌性能に着目し、セピオライトやゼオライト等の粘土鉱物に二酸化塩素ガスを吸着し、徐々に二酸化塩素ガスを蒸散させる器具を開発した(特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように亜塩素酸ナトリウムは空気中の水分や二酸化炭素と反応しても二酸化塩素ガスを発生する。従って空間除菌用に処方される亜塩素酸ナトリウムは、使用するまではアルミパウチ等により空気と遮断されておかないと、保管中に分解が進み袋や容器の中で高濃度の二酸化塩素ガスを発生してしまう。
【0006】
空間除菌剤を処方するときには当然のことに亜塩素酸ナトリウムは空気中の水分や二酸化炭素と接触しており、分解反応が進んでしまう。このように処方した空間除菌剤のアルミパウチを開封すると、開封した人は高濃度の二酸化塩素ガスに暴露される危険性がある。また保管中に分解反応が進みアルミパウチがガスで膨らみ破裂する危険性もある。またアルミパウチの素材であるアルミニウムは二酸化塩素と反応して萎縮したり脆くなったりする。製品の外袋を開封したときにアルミパウチにしわが寄っていたり、またぼろぼろになることもある。
【0007】
保管中に分解反応が進まないようにするためには亜塩素酸ナトリウムをアルカリ性の環境中に置くと良いことが知られている。しかしながらアルミパウチの中にアルカリ製剤を封入しておくとアルミパウチの切断面や袋状にするために溶接した時のプラスチック被包部分に露出したアルミニウム箔とアルカリ成分が反応してアルミパウチにしわが寄ったり穴を開けてしまう危険性が非常に高い。
【0008】
また、亜塩素酸ナトリウム粉末を直接多孔性無機質担体に含浸することも考案されている(特許文献2)が、このものを肌近くで使用すると使用者が汗をかき高濃度の亜塩素酸溶液が漏れだすことによって化学熱傷を起こす危険性が高い。
【0009】
亜塩素酸ナトリウムを酸と反応させて二酸化塩素ガスを発生させ、そのガスをセピオライトやゼオライト等の粘土担体に吸着させる方法も考案されている(特許文献3)。この方法では二酸化塩素ガスの発生量は非常に少ないので化学熱傷を起こす心配はない。しかしながらその粘土担体は使用後に廃棄物となり焼却処分されてもそのまま残ってしまう。また、保管中には粘土担体に吸着固定した二酸化塩素ガスを製品内に密封するためにはアルミ蒸着した袋を使用しなければならない。これら粘土担体やアルミパウチは使用され廃棄されたときに環境に与える負荷は非常に大きいと考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015-93811
【特許文献2】特開昭60-161307
【特許文献3】特開平6-233985
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は鋭意研究開発に励み、包装した二酸化塩素ガスを安定的に袋中に保存する方法を考案した。
【0012】
亜塩素酸ナトリウムより発生させた二酸化塩素ガスを固定させる基材として紙でできた基材を考案した。紙素材としては、木材から製造されセルロースを主成分とする一般的な紙以外にレーヨン、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリルニトリル、ポリスチレン等の化学製品を原料として作成された紙様のシートであることも可能である。
【0013】
特にセルロースを主成分とする一般的な紙を使用すれば使用後に廃棄しても容易に微生物により分解されて二酸化炭素と水に分解され自然に帰ることができる。
【0014】
紙は成形されると紙繊維同士の間に間隙が出来、その空間中に二酸化塩素ガスが封入される。また紙には水素結合する化学的性質があるので二酸化塩素ガスと水素結合により紙表面とが結合し、紙素材自身が二酸化塩素ガスを保持することを助けている。
【0015】
紙は厚く板状に伸ばし圧着し厚紙化したものを使用してもよい。
【0016】
厚紙状に伸ばして圧着する時は厚さを0.01mmから20mm、好ましくは1.0mmから5mmであることを特徴とする。
【0017】
また紙は造粒してもよい。造粒する時の直径は0.1mmから10mm、好ましくは0.5mmから2.0mm程度であることを特徴とする。
【0018】
二酸化塩素ガスは紙素材と直接水素結合するので、紙素材を圧着又は造粒した時の硬さ及び密度は吸着効果に特に影響はしない。従って紙の硬さ及び密度は特に規定する必要はない。
つまり一枚の紙片であっても良く、圧着又は造粒した時の硬さは鋳鉄やステンレスの硬さと同等(ビッカース硬度180程度)になるほど硬く成形されていても良い。(以下紙素材を用いて厚紙化、造粒化した素材を「紙担体」という。)
【発明の効果】
【0019】
このようにして二酸化塩素ガス又は亜塩素酸ナトリウム粉末を保持する担体を紙素材にすることにより長期間二酸化塩素ガスを蒸散させ、かつ廃棄後には容易に自然に帰る環境に優しい空間除菌装置を開発することができた。
また封入する袋をアルミパウチではなく紙基材とすることにより袋成分とアルカリ剤又は二酸化塩素ガスが反応することがない様にすることができた。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、実施例はその1例であって、本発明をこれに限定するものではない。
【実施例0021】
約1Lの容量の密閉できるガラス容器内に圧着して球状に成形した紙担体28gを入れた。次いで亜塩素酸ナトリウム粉末1gを不織布に封入し、1.0モル/リットルに調整したクエン酸をスプレーした。不織布内から黄色いガスが発生しだしたことを確認してからガラス製密閉容器内に入れ1時間ごとに天地を逆さにする方法で球状に成形した紙担体と亜塩素酸ナトリウムを封入した不織布をよく撹拌した。
【0022】
一昼夜放置して不織布内から発生した二酸化塩素ガスを球状に成形した紙担体に吸着させた後、紙担体をガラス容器から取り出し環境中に3時間放置した後に紙担体から発生する二酸化塩素ガス濃度を測定した。測定は二酸化塩素濃度測定器(RAE社製トキシレイプロ)を紙担体の上方からゆっくりと近づけてゆき、上方3cm、1cm、0.5cmの地点で濃度を記録した。
【0023】
球状に成形した紙担体を入れたガラス容器は室温条件として25℃のインキュベーターにいれた。
【0024】
ガラス容器を温度25℃に設定したインキュベーターに保存した時の測定結果(室温放置に相当)
【実施例0025】
上記実施例1と同様に球状に成形した紙担体と亜塩素酸ナトリウムを反応させたものを封入したガラス容器を温度55℃に設定したインキュベーターに保存し、時間経過に従って発生する二酸化塩素ガスの濃度を測定した。反応温度が10℃上昇するたびに反応時間は2倍になるというアーレニウスの式に従うと室温(25℃)放置に比較して8倍の時間経過に相当する(加速試験)。
ガラス容器を温度55℃に設定したインキュベーターに保存した時の測定結果(加速試験)
55℃で4週間保存した後でも0.03ppmのガスが検知された。これは常温保管で8か月に相当する。
【実施例0026】
JISP8251に準拠して磁器るつぼとマッフル炉を用いて10gの紙粒子を525℃±25℃で1時間強熱した後の残差の重量を測定した。
紙粒子の強熱灰分
強熱したのちの紙粒子の残差は4.1%から5.4%であった。
紙粒子は焼却されるとその重量のほぼ6%以下に減少することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0027】
実施例2(加速試験)に示したように当該球状に成形した紙担体は二酸化塩素ガスを吸着後、約8か月間二酸化塩素ガスを放出し続けることが示された。当該空間除菌装置は通常冬場の風邪やインフルエンザ感染への予防措置として使用されることが多い。したがって夏から秋に掛けて製造を開始し販売すればその有効期限内(翌年の春から夏)まで二酸化塩素の殺菌、殺ウイルスに対する有効濃度を蒸散し続けることが出来る。
【0028】
有効期限を過ぎたものは焼却処分や自然放置しても二酸化塩素ガスを発生することはなく、焼却設備に対する負荷も従来の空間除菌装置に比較して著しく減少される。
また、自然環境に放置又は廃棄されたときも環境中の微生物により容易に分解されるため、安全でありかつ安心な製品となる。
【0029】
実施例3に示した通り強熱したのちの紙粒子の残差(灰分)は4.1%から5.4%であった。
使用した紙粒子は焼却されるとその重量の6%以下に減少することが示され、使用後に廃棄され、焼却処分された時も環境保全に役立つことが示された。