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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164523
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】船舶の電化システム
(51)【国際特許分類】
   B63J 99/00 20090101AFI20221020BHJP
   B63H 21/17 20060101ALI20221020BHJP
   H01M 8/18 20060101ALI20221020BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20221020BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
B63J99/00 A
B63H21/17
H01M8/18
H01M8/04 Z
H01M8/04 J
H01M12/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021093921
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】521240000
【氏名又は名称】市場 靖悦
(72)【発明者】
【氏名】市場 靖悦
【テーマコード(参考)】
5H032
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H032AA04
5H032AS03
5H032AS07
5H032CC21
5H032CC22
5H032CC25
5H032HH01
5H032HH10
5H126BB10
5H126RR01
5H127AA10
5H127AB04
5H127AB27
5H127BA21
5H127BA28
5H127BA57
5H127BB06
5H127BB13
5H127EE04
(57)【要約】
【課題】船舶の安全運航対策に相応しつつ、船舶の電化のために、十分な量の電力を供給可能な船舶の電化システムを提供する。
【解決手段】船舶の電化システムは、船内で使うフローバッテリーにおいて、セルスタック1と、配管4,5,8,9を介して、セルスタック1に接続され、電解液を収容する主タンク2,3と、を備え、主タンク2,3は、船内のバラスト水を収納する場所及びその近傍に設置され、主タンク2,3を、バラスト水を収納する場所に設置する場合、バラスト水の量を主タンク2,3に収容されている電解液が占める重量分だけ減量するか、バラスト水の全量を電解液で置き換えることによって、電解液を喫水調整用に使用する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船内で使うフローバッテリーにおいて、
セルスタックと、
配管を介して、前記セルスタックに接続され、電解液を収容する主タンクと、を備え、
前記主タンクは、前記船内のバラスト水を収納する場所及びその近傍に設置されることを特徴とする船舶の電化システム。
【請求項2】
前記主タンクを、バラスト水を収納する場所に設置する場合、バラスト水の量を前記主タンクに収容されている電解液が占める重量分だけ減量するか、バラスト水の全量を電解液で置き換えることによって、電解液を喫水調整用に使用することを特徴とする請求項1に記載の船舶の電化システム。
【請求項3】
前記セルスタックと前記主タンクとの間に設けられ、配管を介して、前記セルスタックと前記主タンクに接続される緩衝タンクと、
前記主タンクから前記緩衝タンクに電解液を送るポンプと、を更に備え、
前記ポンプにより、前記主タンクから前記緩衝タンクに電解液を送り、前記セルスタックに送る電解液の流速を抑えることを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶の電化システム。
【請求項4】
前記主タンクから前記セルスタックに向かう電解液の流れを制御する第1流体制御部と、
前記前記セルスタックから前記主タンクに向かう電解液の流れを制御する第2流体制御部と、を更に備える請求項1から3のいずれかに記載の船舶の電化システム。
【請求項5】
前記緩衝タンクは、電解液収容容積が、前記主タンクの1/10以下であることを特徴とする請求項3に記載の船舶の電化システム。
【請求項6】
前記セルスタックと前記主タンクとの間に設けられ、配管を介して、前記セルスタックと前記主タンクに接続されるCタンクを、更に備え、
前記第2流体制御部は、前記セルスタックから排出された電解液を前記Cタンクに送り、前記Cタンクに収容された電解液を前記主タンクに送ることを特徴とする請求項4に記載の船舶の電化システム。
【請求項7】
前記船の喫水及びトリムの調整を電解液で行う場合、前記第2流体制御部は、前記船の喫水及びトリムの調整のための電解液を移動させるポンプの制御を行うことを特徴とする請求項4に記載の船舶の電化システム。
【請求項8】
前記船外で充電された充電済み電解液を利用可能であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の船舶の電化システム。
【請求項9】
電解液の比重は、0.8以上1.8以下であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の船舶の電化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の電化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の電化とは、主推進力(以下M/Eと称する。)と、船内のその他の電力(以下D/Gと称する。)を含め2酸化炭素及び空気汚染物質や有毒物質を出さない方法による、例えば、再生可能エネルギーまたはその他の方法で電力を得て電池を経由するか、直接負荷に通電して使う手段と定義される。船舶の電化のその他の目的は、海洋生態系保全と海水汚染防止、再生可能エネルギーの促進、さらに電子工学の発達に伴う近未来の船舶のあり方に関する基礎インフラを構築する。
【0003】
そのため現在は、電解液または電解質とセルスタックが一体となり分離することが出来ない電池(以下一体型と称する。)、例えば、リチウムを主剤とする電池などを船内に搭載して用いている。しかし、この手段では、船舶の航続距離によって搭載すべく電池の重量、体積、コストが大きい負担となっている。例えば、2千トンのコンテナー船で1000kmを運航するには、1MW出力の電池で、1MWhの電力を消費する(以下、「船舶例1」と称する。)。搭載される一体型電池は、体積が20フィートコンテナ7~8個分体積で重さが60~90トンと見積もられ、船舶本来の目的、本来の業務に支障をもたらす、したがって、この一体型電池による船舶の電化は前記一体型の小さい電池で済むように近海航行に使い頻繁に充電を行う方法か、全部を電化せず船内のD/Gに相当する部分に電力供給することに限定されている。
【0004】
最近は、水素系燃料電池(以下、「燃料電池」と称する。)を利用する研究が行われている。燃料電池は、一体型ではなく、セルスッタクに外部から水素が供給され、それを電気に変換する(以下、「分離型」と称する。)が、この時のエネルギー効率が50%程度と低い。前記船舶例1の場合は、重量が前記一体型にくらべ10分の1以下の5トン程度で済み船内搭載には問題ないが、電力を生産するためには水素ガスを980Kリトル供給しないといけない。これほどの大きな体積を搭載することが出来ない零下253℃の液化水素は、500分の1以下の低体積化の方法があるが、船内に低体積化した安全性の高い容器及びそこからガス状の水素をセルスタックに送り込むシステムの開発が十分ではない。そのためより安全とされる液体化の手段としてメチルシクロヘキサン(MCH)化すれば、ガソリンのように常温液体となるが、これから水素を取り出すためには船内でMCHから水素を製造しないといけないが、それには船内に水素製造システムが必要となり現在は不可能である。
【0005】
水素系燃料電池のもう一つの欠点は、今後、船体上部または甲板を利用して、太陽光及び風力などの再生可能エネルギーを生産して、これを船舶の電化に利用する場合、独立的に充電放電が出来ない。または、発電した再生可能エネルギーを使い、水の電気分解などから水素ガスを得る工程を船上に設置しないといけない。その設備に係るコストを別にしても、例えば、電気分解して水素を製造する場合、船上で発電して得た電力の7割を消費し、水素を電気に変換するセルスタックの効率が50%程度であるため、全体として得た電力の15%しか使えない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように船舶の電化技術における現状を鑑みると、船舶の排水量区分によるトン数、船舶運航の目的、航続距離に関係なく船の運航中のため駆動系M/E及びD/G系を含む全電化を実現するためフローバッテリーを用いて船舶の電化を完成する技術が求められている。
【0007】
フローバッテリーとは、セルスタックの中で、充電によって電解液のイオン化状態を変えながら電気を化学エネルギーに変換するバッテリーである。そして、フローバッテリーは、一体型電池と違い化学エネルギーに変換された電解液を、一旦セルスタックの外にあるタンクに貯めて置き、セルスタックの中には電解液を貯蔵しない分離型電池である。
【0008】
一般のフローバッテリーでは、セルスタックと電解液タンクの間を配管で連接し、ポンプを使って電解液をセルスタックに流入させ、セルスタックから排出させる循環を行いながら、充電と放電を行う。フローバッテリーの充放電を決められた性能通り安全に運用するためには、セルスタックと電解液のタンクとを、同じ箱または容器に収納するか商用のコンテナーなどを利用してその中に収納する必要がある。また、更に大きい電池で屋外などに設置する場合は、できるだけセルスタックの電解液タンクを近距離にして配置する必要がある。その理由は、全体の電池の充放電に係る要因を、電池マネジメントシステム(以下BMSと称する。)で制御するためである。BMSは、セルスタックの電気的なデータの管理・制御の他、電解液の温度、流量、充電深度および充電残量などを監視しながら電解液のポンプ循環条件を調整する。したがって、船内の場合は、従来の運用方法と違い電池システム自体だけでなく、電池を搭載する船舶にも様々な影響を及ぼす、以下にこれらの課題を述べる。
【0009】

電池の性能は、エネルギー密度で示され、電池が蓄電できる電力量を単位リッターあたりまたは単位kgあたりで表現する。例えば、一体型電池の一例であるリチウムイオン電池は電種によるが250Wh/L.に対して、フローバッテリーは20-100Wh/L.程度が多い。そして、このエネルギー密度は、同じ電力容量に対して、電池全体の大きさと体積の目安となる。したがって、一体型電池は、フローバッテリーより軽く軽量となる。上記の船舶例1.では、1000キロメーター航行するための電力量1MWhを出すためのフローバッテリーの重さは、概ね100トンから400トンとなり船の搭載するのは困難であった。
【0010】
他方、船舶の運航には、揺れに起因するトリム調整、喫水調整が船の安全に重要である。これらは、それぞれ別の事柄でなく相互関係する要因で、そのため積み荷などと、バラスト水などを加減しながら調整する。船舶の電化のために搭載するバッテリーは、このような船舶の安全運航対策に相応する方法が要求される。
【0011】
本発明は、船舶の安全運航対策に相応しつつ、船舶の電化のために、十分な量の電力を供給可能な船舶の電化システムを提供することを目的とする。
【問題を解決するための手段】
【0012】
(1) 船内で使うフローバッテリーにおいて、
セルスタックと、
配管を介して、前記セルスタックに接続され、電解液を収容する主タンクと、を備え、
前記主タンクは、前記船内のバラスト水を収納する場所及びその近傍に設置されることを特徴とする船舶の電化システム。
【0013】
(2) 前記主タンクを、バラスト水を収納する場所に設置する場合、バラスト水の量を前記主タンクに収容されている電解液が占める重量分だけ減量するか、バラスト水の全量を電解液で置き換えることによって、電解液を喫水調整用に使用することを特徴とする(1)に記載の船舶の電化システム。
【0014】
(3) 前記セルスタックと前記主タンクとの間に設けられ、配管を介して、前記セルスタックと前記主タンクに接続される緩衝タンクと、
前記主タンクから前記緩衝タンクに電解液を送るポンプと、を更に備え、
前記ポンプにより、前記主タンクから前記緩衝タンクに電解液を送り、前記セルスタックに送る電解液の流速を抑えることを特徴とする(1)又は(2)に記載の船舶の電化システム。
【0015】
(4) 前記主タンクから前記セルスタックに向かう電解液の流れを制御する第1流体制御部と、
前記前記セルスタックから前記主タンクに向かう電解液の流れを制御する第2流体制御部と、を更に備える(1)から(3)のいずれかに記載の船舶の電化システム。
【0016】
(5) 前記緩衝タンクは、電解液収容容積が、前記主タンクの1/10以下であることを特徴とする(3)に記載の船舶の電化システム。
【0017】
(6) 前記セルスタックと前記主タンクとの間に設けられ、配管を介して、前記セルスタックと前記主タンクに接続されるCタンクを、更に備え、
前記第2流体制御部は、前記セルスタックから排出された電解液を前記Cタンクに送り、前記Cタンクに収容された電解液を前記主タンクに送ることを特徴とする(4)に記載の船舶の電化システム。
【0018】
(7) 前記船の喫水及びトリムの調整を電解液で行う場合、前記第2流体制御部は、前記船の喫水及びトリムの調整のための電解液を移動させるポンプの制御を行うことを特徴とする(4)に記載の船舶の電化システム。
【0019】
(8) 前記船外で充電された充電済み電解液を利用可能であることを特徴とする(1)から(7)のいずれかに記載の船舶の電化システム。
【0020】
(9) 電解液の比重は、0.8以上1.8以下であることを特徴とする(1)から(8)のいずれかに記載の船舶の電化システム。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、船舶の安全運航対策に相応しつつ、船舶の電化のために、十分な量の電力を供給可能な船舶の電化システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本電池の電解液タンクの配置を示す図である。
図2】バラスト水領域に電解液タンクを設置するときの新しい電池システムを示す図である。
図3】MW級の電池システムの場合における緩衝タンクを詳細に説明するための図である。
図4】出力が1MWの時の電池システムを示す図である。
図5】Cタンクを設定した電池システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明において、同一又は類似の構成には同一の符号を付し、その説明を省略又は簡略化する。
【0024】
まず、フローバッテリーの概要について説明する。
フローバッテリーは、最も代表的なものとしてバナジウムレドクッスフローバッテリー(以下VRFBと称する。)、亜鉛を基材にしてレドクッス反応を起こす相手物質としてペアーを組む形のフローバッテリーが数多く開発中または製品化されている。例えば、亜鉛―ボロン電池(ZBBと称する。)、亜鉛-臭素電池(ZIFBと称する。)、亜鉛―鉄(Fe)電池、そのほか相手物質として、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などのフローバッテリーがあり、船舶の電化に用いる場合はそれぞれの電解液の比重、その化学成分が異なる。本実施形態においては、VRFBを例に説明する。
【0025】
前述の種々のフローバッテリーの電解液の比重が、1.0以上1.8以下の範囲のものとして、これを代表してバナジウムフローバッテリー(以下、本電池と称する。)をもって以下説明する。
【0026】
本実施形態では、本電池のセルスタックから電解液タンク間の距離を特定せずまた配管の材料、形状、寸法などを特定せず電解液タンクを、船内のバラスト水タンクを収納する空間に設置することとした。バラスト水は、特に船が空荷時に大量に入れ、喫水対策をとる。
また、例えば、2千トンのコンテナー船で1000kmを運航するには、1MW出力の電池で、1MWhの電力を消費する(以下、「船舶例1」と称する。)。
【0027】
船舶例1の場合は、バラスト水が700トンと決まっている。航続距離が1,000Kmに必要な電解液は50KL(重量65トン)となる。電解液は、希硫酸成分として化学物質分類に毒性物質ではなく船内でバラスト水の役割を果たすことができる。電解液を搭載した時は、バラスト水を700-65=635トンにする。
【0028】
図1は、本電池の電解液タンクの配置を示す図である。
セルスタック1には、主タンクの一例である電解液タンクとして、一つは負の電解液タンク2、もう一つは正の電解液タンク3で、それぞれのタンクから各セルの負の側と正の側に、電解液を配管4,5(以下、「送液配管」と称する。)を経由して、ポンプ6,7で電解液を流入する。電解液は、セルスタックを通り、出口からそれぞれのタンク2,3に戻る。電解液は、それぞれ戻る時には、配管8,9(以下、「戻り配管」と称する。)を経由する。この戻り配管にはポンプをつけない。
【0029】
電池全体の運転には、セルスタックの電圧、電流、出力を検知するため、電解液充電の度合い(以下、「充電深度」と称する。)、電解液の温度、を検知して制御する制御キットとして電池制御システム(以下、「BMS」と称する。)が取りつけられている。BMSは、電解液をポンプ6,7の回転を増減して制御する。BMSは、ポンプ6,7を制御することで、電解液が、セルスタック1の中で穏やかで均一な流となる様に流速、流量を設定し、全体をまとめて制御する。
【0030】
電解液のタンクを船体下部などに設置する場合、セルスタックの設置場所は、垂直方向(以下、「Y軸」と称する。)から見て、上部が必然であり、そのY軸の高さは、第2デックでも第3デックの位置でも構わない。セルスタックからの電気配線を通じ、どの位置のコンロール室でも構わないが、セルスタックと電解液の循環系は、Y軸の高さで短いほど良いが、10メーター以内が望ましい。一方、電解液タンクは、喫水およびトリム調整のため、ある程度、その量と位置を変動できるが、セルスタックは、一旦設置が完了すると位置変更が出来ない。このセルスタックと電解液の重さ比は、船舶の航続距離が長くなるほど電解液の方が大きくなる。例えば、船舶例1では、1MWの出力が可能なセルスタックを設置する場合、航続距離に関係なく、電解液の重さは5~6トン程度となる。航続距離が1,000キロメーターの場合、1MWh分の電解液50KL必要だが、7,000キロメーターとなると350KL必要となる。即ち、電解液は、従来のバラスト水の喫水基準で計算すればよいが、新たに設置するセルスタックに関しては、船舶の喫水及びトリム調整の影響を考慮して設置する。
【0031】
図2は、バラスト水領域に電解液タンクを設置するときの新しい電池システムを示す図である。
新しい電池システムは、セルスタック1と電解液タンク間の送液配管4,5を、同じ内径などの大きさの配管で連結せず、途中で電解液を一旦受けて貯めるタンク(以下、「緩衝タンク」と称する。)10,11を設け、その下の電解液タンク2,3(以下、「主タンク」と称する。)に接続される別の送液配管12、13と、ポンプ14,15と戻り配管16,17を備える。新しい電池システムにおいて、主タンク2,3の送りポンプ14,15の制御は、BMS18で行う。主タンク2,3は、空間または周辺温度が0度~35度以下の水もしくは他の液体中に設置することができる。
【0032】
緩衝タンク10,11とポンプ14,15は、ある高さ位置に設置し、そこで電解液の流速をゼロに落し、その上部の内径の小さい送液配管4,5につないでセルスタックに電解液の流れを層流化してセルスタックへ送液するものである。
【0033】
図3は、MW級の電池システムの場合における緩衝タンクを詳細に説明するための図である。
図3に示す例では、主タンク2から登ってくる電解液が、緩衝タンク19で一旦止まって、セルスタックに送液される配管を説明するために、負の電解液だけを図示している。また、図3の図の概念は、船内で、主タンクを、バラスト水タンクの位置にし、セルスタックなどは、垂直方向で、主タンクの真上または第2または第3デックの場所に置くという想定である。電解液は、主タンク2から、配管12とポンプ14によってくみ上げられ緩衝タンク19に来るが、配管12では設計値によるがレイノルド数がかなり高い乱流となる。電解液は、緩衝タンク19からセルスタックへ向かう配管20において、その流速ではなく、複数の分枝送液配管を経由して、低速化されてセルスタックに入流する。緩衝タンク19のもう一つの目的は、船体の重心が出来るだけ低くなるようにすることである。したがって、緩衝タンクは、低い位置に設けられ、重量が軽いほうがよい。
【0034】
図3に示す例において、負の電解液緩衝タンク及び正の電解液緩衝タンクの大きさは、合わせて、船舶において電池システムが稼働する時に、5分間に必要な流量に相当する流量の体積と同程度に設計する。例えば、船舶例1の船が航行する時の電解液流量は、一分間に800Lである。したがって、緩衝タンクに5分間に負及び正の電解液をくみ上げる量は、負が2,000L,同じく正が2,000Lとなる。緩衝タンクの大きさは、3~6分の流量相当の範囲で決めることができる。
【0035】
図3に示す緩衝タンク19から上に延びる配管20上端の二重丸は、図4に示す同じ配管20の二重丸に続く。また、配管20のような電解液送り配管は、断面積が小さい複数の配管にしても構わないが、全体の電解液送り量は変更しない。
【0036】
図4は、出力が1MWの時の電池システムを示す図である。
図4に示す例では、出力250kWにまとめたセルスタックを、4組配列して負の電解液を、配管20からポンプ21で、セルスタック組22,23と、同時に右側のセルスタック組24,25にもポンプ26で送液する。一方、正の電解液は、図3に示す緩衝タンク19から配管27を通って上がてくる。この上がってきた電解液を、ポンプ28,29で4組の全部のセルスタック22,23,24,25(4組)に送液する。
【0037】
主タンクを、バラスト水が貯留される位置に設置する場合について説明する。
図5は、Cタンクを設定した電池システムを示す図である。
バラスト水が貯留される位置に、電解液タンクを設置した場合、場所によってはその設置可能な大きさ、形が様々でまた同じ平面ではなく段差なども考えられる。そこで、一つの主タンクで対応できない場合のために、ある程度の大きさを持つ複数のタンクを決め、負と正の電解液タンクに分けたCタンクを設定する。なお、図5に示す例でも、セルスタックへ、電解液を送液する役割は主タンクから行うことはかわらない。図5に示す例では、負の電解液の主タンク30をもって説明し、正の電解液の送液の主タンクは図示を省略した。
【0038】
1MW級に関する図4に示す例のような場合にもおいても、セルスタックを通過した戻り電解液は、主タンクと、Cタンク31,32に、ポンプなしでまっすぐ落流する。ここで、Cタンク31,32は、セルスタックからの戻り配管35,36で電解液を受け、再び主タンク30へ移動させる。なお、主タンク30へ電解液を戻す時、Cタンク31,32には、ポンプ33,34と逆流防止バルブ37,38をつけている。その理由は、戻って来た電解液と、これから送液される電解液のイオン濃度に不均一がないようにするためである、その理由は下記の通りである。
放電時に負の電解液は、バナジウムイオンの
2+→V3+の反応で、2価イオンは減り、
正の電解液は、V5+→V4+の反応で、5価イオンが減る。
充電時は、両方とも逆の反応が起こる。この反応は、セルスタックを通る度に、例えば、負極では、2価と3価のイオン比率が変化するので、送液前にイオン比率が変化したものと、まだ変化してないものを均等に混ぜる必要がある。図5で示す今まで例のない場合に参考にする電解液の中で均等化する試験研究報告はない。例えば、一分間に送る電解液の20倍以上の主タンクであれば、特に撹拌などを行う必要はない。
【0039】
電解液を貯留するタンクを、船内のバラスト水タンクの位置に設置し電力を供給するために使うのが主な目的であるが、多くの船舶において、空荷の時に決められたバラスト水の半分以下相当の電解液(体積計算)で、航続距離7,000キロメートルの航行が出来る。その場合、バラスト水の残り全量を本電解液に置き換えることができる。
【0040】
電解液は、その比重が0.5~1.5の範囲であればよく、例えば、比重が1.0の時は、同量の体積のバラスト水に置き替えられ、その目的の電解液は廃棄や浄化、交換、充電などを必要としない。バラスト水の置き換え電解液は、充電しないままが望ましい(以下、「無充電電解液」と称する。)。船舶の積み荷が満載であり、喫水重量が不要な場合は、無充電電解液を、港湾に保管し、別の空荷の船舶に使うことが可能である。
【0041】
船内における電池は、船内で発電しない限り、出航する前に充電して置く。
その方法は2通りある。一つは、出航港で通常の方法の充電、もう一つは、あらかじめ陸地のどこかで、別のセルスタックを使って充電した電解液(以下、「充電済電解液」と称する。)だけを、船内の電解液タンクに注入する方法である。充電済み電解液は、密閉した容器に入れ、陸運搬や港で、送液用のチュウブ管などを用いて、船内のタンクに注入搭載できる。充電済み電解液(同じ船内で充電してないもの)の場合は、必ず、充電条件、例えば、少なくとも充電電流、充電時間、充電深度を記録して、放電して利用する時のデータ(以下、「充電記録」と称する。)として、船の管理者等に提供することが望ましい。船が出航する時、充電済み電解液と、充電記録を元に放電することで、動力を得ることができる。船が寄港してからは、放電が終わった電解液を、船内の電池を稼働して通常の方法で再充電するか、陸地で充電した充電済みの電解液と、航行中に放電して使いきった電解液(以下、「放電済み電解液」と称する。)と交換する。放電済み電解液の放電深度が90%以上の時は、無充電電解液と同等の扱いをしてよい。
【0042】
船上で太陽光などの発電を行う場合は、本電池を用い船上で発電電力を充電することができる。船上で太陽光などの発電を行う前例は一体型電池を用いる例が数件認められる。しかし、船舶の推進系(M/E)にも適用するために一体型及び本電池の利用報告はない。
【0043】
本電池の場合、再生可能エネルギー又はその他の船上発電(以下、「船上発電」と称する。)を行い、これを蓄電するために用いられる。特に、再生可能エネルギー(以下、「RE」と称する。)に対しては、発電した全電力を蓄電せず、一部を蓄電し、残りは電気制御技術で直接使用できる。
【0044】
REの中で、今後、太陽光(以下、「PV」と称する。)を用いたいもので本格的に船上発電が可能と推測される。PVの発電効率が30%に達すると、船舶例1では、PVパネルまたはPVシートを取り付ける面積が500平米メーター以上あれば、日照時間が日本の関東並みの条件で、1MWhの電力が得られる。これを蓄電する場合、電解液は、空荷時のバラスト水700KLの1/7の50KLで、充電と放電を常時行うことができる。船上での日照時間で、PV発電力を直接使用する場合、必要な電解液は50KL以下でも構わない。このようは方法が船舶の電化において最も望ましい。
【0045】
フローバッテリーの一つであるバナジウムフローバッテリーは、セルスタックの中における電解液の流れは、例えば、A4サイズの紙表面を全面均等に直角に通りぬけるように流速などを調整する。上述の例えである紙表面は、セルスタックでは電極を意味する。電極は、黒鉛材のスポンジ形の板状で、その厚さは数ミリメーターである。電解液がこの中を通ると、イオン反応が起き、その中の特定反応物質が、イオン交換膜に拡散する構造である。故に、船内では、近海での横揺れ、沖合での縦揺れが絶えず起きるため、セルスタックの中の電解液の流れを検証する必要がある。
【0046】
このため、船舶の電池による電化において、もう一つの課題が船舶の揺れに電池の機能がどう変化するかである。以下の実験と検証では、船舶の揺れ周期を1分以下の短周期、1分以上の長周期、何らかの事情で、船舶が長時間傾斜したままの3つの場合を想定して実験を行い、運用に支障のない条件を導いた。ただし揺れなどのよる船の重心軸の傾斜を35度以内とした。
【0047】
「実験と検証」
試験条件;
(1)セルスタック;イオン化反応断面積が493平米センチメーター セルを40セル積層した商用スタック
(2)平地における仕様は、電解液流量が一分間の3Lから6Lまで
(3)傾斜35度にして20時間連続して充放電試験を、
流量が一分間に7L,4L,2Lに対して試験
但し、試験初期短周期揺れ、長周期間揺れを2回ずつ行い、セルスタックを揺らし試験記録に異常がないときはそのまま継続した。
(4)試験温度;常温
(5)電解液;バナジウム金属―1.6モール、硫酸濃度2.0モール。
(6)43A充電、64Vでカットオフ,定格電圧は60V.
【0048】
結果;各試験毎に、蓄電容量のAhで計算
但し、電解液の理論値は
26.8Ah/mole,L.試験には15L(負、正合わせ30L)の電解液使用
(1)7L/分の場合;215Ah
(2)4L/分の場合:430Ah
(3)2L/分の場合;399Ah
なお、短周期及び長周期揺れ2分では、異常が認められなかった。
【0049】
考察、検証;
傾斜35度の場合、電解液送液ヘッドに係るセルスタックの高さは23センチメーターで、4センチ低くなる。これを流速ヘッド比にすると1.01倍早くなる。
同セルスタックの平地における仕様が一分間に3L~6Lであるので、試験条件を考えると一分間に7Lは多すぎるが、2Lの場合は傾斜分を考えても流量が不足するにもかかわらず、充電容量が大きく悪化してない理由は、セル内での電解液の速度が1秒間に1.7ミリセンチで多孔性の電極中を移動するため、初めの試験で、多めに送液された滞留電解液の影響と考えられる。
同じ理由で、短周期の揺れ及び2分程度の長周期揺れも影響がないと思われる。
【0050】
結論;
船舶内では、揺れなどに対して、電解液の送液流量を、次のようにその仕様を決める。
流量;一分間に3Lから5.5Lとし電池の稼働時間を制限しない。
【0051】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0052】
1,22,23,24,25 セルスタック
2,3,30 主タンク(電解液タンク)
4,5,12,13 送液配管
6,7,14,15,21,26,28,29,33,34 ポンプ
8,9,16,17,20,27,35,36 配管
10,11,19 緩衝タンク
31,32 Cタンク
37,38 逆流防止バルブ
図1
図2
図3
図4
図5