(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164535
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】酸化マグネシウム配合組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/744 20150101AFI20221020BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20221020BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20221020BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
A61K35/744
A61K47/02
A61K35/747
A61P1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133847
(22)【出願日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2021069995
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391015351
【氏名又は名称】ビオフェルミン製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】上本 泰生
(72)【発明者】
【氏名】堀木 雅文
(72)【発明者】
【氏名】巽 理穂
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸悟
(72)【発明者】
【氏名】田中 良紀
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 徹
【テーマコード(参考)】
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4C076BB01
4C076BB29
4C076CC16
4C076DD26Z
4C076DD29Q
4C076FF63
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087BC57
4C087BC58
4C087BC62
4C087MA52
4C087MA60
4C087NA03
4C087ZA66
(57)【要約】
【課題】本発明は、(1)酸化マグネシウム製剤による菌叢の変化を抑制することを課題とする。さらに、本発明は、(2)酸化マグネシウムと乳酸菌とが一定の期間共存して、乳酸菌の生残率等の安定性が低下する場合に、乳酸菌の生残率等の安定性を改善すること、及び(3)酸化マグネシウムと乳酸菌とが共存して、乳酸菌の生残率等の安定性が低下する場合に、乳酸菌の生残率を改善して正確に乳酸菌の生菌数を測定することの出来る方法を提供することを課題とする。
【解決手段】(1)ラクトバチルス アシドフィルス又はラクトバチルス ガッセリ、ビフィズス菌等の乳酸菌、(2)リン酸塩(好ましくは、無水リン酸水素カルシウムなど)及び(3)1種又は2種以上のリン酸塩の混合物(好ましくは、リン酸二水素カリウム及び無水リン酸一水素ナトリウムの混合物など)により上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウム及び乳酸菌を含むことを特徴とする、菌叢変化抑制用組成物。
【請求項2】
乳酸菌が、ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス ガッセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトコッカス フェシウム(Streptococcus faecium)及びストレプトコッカス フェーカリス(Streptococcus faecalis)からなる群より選択される1種以上の菌であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
乳酸菌が、ラクトバチルス アシドフィルス KS-13(Lactobacillus acidophilus KS-13、受託番号:NITE BP-819)であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
乳酸菌が、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム インファンティス(Bifidobacterium infantis)及びビフィドバクテリウム ブレーベ(Bifidobacterium breve)からなる群から選択される1種以上の菌であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
乳酸菌が、ビフィドバクテリウム ビフィダム G9-1(Bifidobacterium bifidum G9-1、受託番号:NITE BP-817)であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
組成物が液体である場合、乳酸菌が、組成物全体に対して、104~1010cfu/mL含まれること、または
組成物が固体である場合、乳酸菌が、組成物全体に対して、105~1010cfu/g含まれることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
無水リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、無水リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム2水塩、及びリン酸2水素カルシウム1水塩からなる群より選択される1種以上のリン酸塩をさらに含有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
リン酸塩が無水リン酸水素カルシウムであることを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
酸化マグネシウムに対するリン酸塩の質量比率が100:1~1:100であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
酸化マグネシウムが組成物全体に対して94.3質量%以下含まれることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
賦形剤をさらに含有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
乾燥剤をさらに含有することを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
さらに、乳酸菌の安定性が改善されることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
さらに、便通が改善されることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
乳酸菌及び酸化マグネシウムの共在下において、リン酸二水素カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸一ナトリウム(一水塩)、リン酸一ナトリウム(無水)、無水リン酸一水素ナトリウム、リン酸ニナトリウム(二水塩)、リン酸ニナトリウム(七水塩)及びリン酸三ナトリウム(無水)からなる群から選択される1種又は2種以上のリン酸塩の混合物を、0.0001~1g/mLの範囲で含む希釈液又は緩衝液の存在下に測定することを特徴とする、乳酸菌の生菌数測定方法。
【請求項16】
前記リン酸塩の混合物に、リン酸二水素カリウム及び無水リン酸一水素ナトリウムが含まれることを特徴とする、請求項15に記載の乳酸菌の生菌数測定方法。
【請求項17】
前記リン酸塩の混合物中において、リン酸二水素カリウムと無水リン酸一水素ナトリウムの質量比率が0.1:100~100:0.1であることを特徴とする、請求項16に記載の乳酸菌の生菌数測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(1)酸化マグネシウムによる菌叢変化の抑制用組成物に関する。また、(2)酸化マグネシウムと乳酸菌とが一定の期間共存する場合に低下する乳酸菌の生残率等の安定性が改善される組成物又はその方法、及び(3)乳酸菌の生残率等を改善することにより、乳酸菌の生菌数を正確に測定することが出来る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化マグネシウムは、体内に投与されると、難吸収性の炭酸塩となり、腸壁から水分を奪う。そして、腸壁を刺激して蠕動運動を亢進させ、腸管の内容物を軟化させる作用があり、酸化マグネシウム製剤は便秘改善薬として利用されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、酸化マグネシウム製剤によって、腸内の菌叢が変化することは知られていないし、酸化マグネシウム製剤による菌叢の変化を、ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)やラクトバチルス ガッセリ(Lactobacillus gasseri)等の乳酸菌が抑制出来ることは全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、(1)酸化マグネシウム製剤による体内(好ましくは、腸内)の菌叢の変化を抑制(特に、菌叢の乱れを改善)することを課題とする。また、本願発明者らは、(1)の検討過程において、酸化マグネシウムと乳酸菌とを共存させたときに、乳酸菌の生残率等の安定性が低下することを見出し、当該新規な課題について、検討を行った。すなわち、本発明は、(2)酸化マグネシウムと乳酸菌とが一定の期間共存して、乳酸菌の生残率等の安定性が低下する場合に、当該安定性を改善すること、及び(3)酸化マグネシウムと乳酸菌とが共存する場合に、乳酸菌の生残率を改善し、正確に乳酸菌の生菌数を測定することの出来る方法を提供することも課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、(1)ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)又はラクトバチルス ガッセリ(Lactobacillus gasseri)等の乳酸菌が、驚くべきことに、酸化マグネシウム製剤による菌叢の変化を抑制(菌叢の乱れを改善)出来ることを見出した。さらに、(2)酸化マグネシウムと乳酸菌とが一定の期間共存した場合に、低下する乳酸菌の生残率等の安定性が、賦形剤又はリン酸塩(好ましくは、無水リン酸水素カルシウムなど)により改善出来ること、及び(3)酸化マグネシウムと乳酸菌とが共存する場合に、2種以上のリン酸塩の混合物(好ましくは、リン酸二水素カリウム及び無水リン酸一水素ナトリウムの混合物など)により、乳酸菌の生残率を改善し、乳酸菌の生菌数を正確に測定することの出来る方法を見出し、研究を続け、発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]酸化マグネシウム及び乳酸菌を含むことを特徴とする、菌叢変化抑制用組成物。
[2]乳酸菌が、ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス ガッセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトコッカス フェシウム(Streptococcus faecium)及びストレプトコッカス フェーカリス(Streptococcus faecalis)からなる群より選択される1種以上の菌であることを特徴とする、[1]に記載の組成物。
[3]乳酸菌が、ラクトバチルス アシドフィルス KS-13(Lactobacillus acidophilus KS-13、受託番号:NITE BP-819)であることを特徴とする、[1]に記載の組成物。
[4]乳酸菌が、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム インファンティス(Bifidobacterium infantis)及びビフィドバクテリウム ブレーベ(Bifidobacterium breve)からなる群から選択される1種以上の菌であることを特徴とする、[1]に記載の組成物。
[5]乳酸菌が、ビフィドバクテリウム ビフィダム G9-1(Bifidobacterium bifidum G9-1、受託番号:NITE BP-817)であることを特徴とする、[1]に記載の組成物。
[6]組成物が液体である場合、乳酸菌が、組成物全体に対して、104~1010cfu/mL含まれること、または
組成物が固体である場合、乳酸菌が、組成物全体に対して、105~1010cfu/g含まれることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]無水リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、無水リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム2水塩、及びリン酸2水素カルシウム1水塩からなる群より選択される1種以上のリン酸塩をさらに含有することを特徴とする、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]リン酸塩が無水リン酸水素カルシウムであることを特徴とする、[7]に記載の組成物。
[9]酸化マグネシウムに対するリン酸塩の質量比率が100:1~1:100であることを特徴とする、[7]又は[8]に記載の組成物。
[10]酸化マグネシウムが組成物全体に対して94.3質量%以下含まれることを特徴とする、[1]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11]賦形剤をさらに含有することを特徴とする、[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
[12]乾燥剤をさらに含有することを特徴とする、[1]~[11]のいずれかに記載の組成物。
[13]さらに、乳酸菌の安定性が改善されることを特徴とする、[1]~[12]のいずれかに記載の組成物。
[14]さらに、便通が改善されることを特徴とする、[1]~[13]のいずれかに記載の組成物。
[15]乳酸菌及び酸化マグネシウムの共在下において、リン酸二水素カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸一ナトリウム(一水塩)、リン酸一ナトリウム(無水)、無水リン酸一水素ナトリウム、リン酸ニナトリウム(二水塩)、リン酸ニナトリウム(七水塩)及びリン酸三ナトリウム(無水)からなる群から選択される1種又は2種以上のリン酸塩の混合物を、0.0001~1g/mLの範囲で含む希釈液又は緩衝液の存在下に測定することを特徴とする、乳酸菌の生菌数測定方法。
[16]前記リン酸塩の混合物に、リン酸二水素カリウム及び無水リン酸一水素ナトリウムが含まれることを特徴とする、[15]に記載の乳酸菌の生菌数測定方法。
[17]前記リン酸塩の混合物中において、リン酸二水素カリウムと無水リン酸一水素ナトリウムの質量比率が0.1:100~100:0.1であることを特徴とする、[16]に記載の乳酸菌の生菌数測定方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、(1)酸化マグネシウムによる菌叢の変化を抑制することの出来る組成物(以下、「菌叢変化抑制用組成物」ともいう)を提供することが出来る。さらに、(2)酸化マグネシウムと乳酸菌とが一定の期間共存する場合に、低下する乳酸菌の生残率等の安定性を改善する方法、及び(3)酸化マグネシウムと乳酸菌とが共存する場合に、乳酸菌の生菌数を正確に測定することのできる方法などを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、噴霧乾燥装置の概略を示す図である。
【
図2】
図2は、Day0時点からのDay2における総排便湿重量の変化率を示す。* p<0.05 vs Control by Steel
【
図3】
図3は、腸内菌叢組成におけるNormal群との距離を、数値化したグラフを示す。* p<0.05 vs N-N by Student’s t-test, ## p<0.01 vs N-C by Tukey-Kramer, †† p<0.01 vs N-M by Tukey-Kramer.
【
図4】
図4は、Firmicutes占有率(n=7、mean S.E.)を示す。
【
図5】
図5は、Bacteroidetes占有率(n=7、mean S.E.)を示す。* p<0.05 vs Control by Student’s t-test, ## p<0.01 vs Control by Dunnett.
【
図6】
図6は、酸化マグネシウム:リン酸塩の配合比率とビフィズス菌(ビフィドバクテリウム ビフィダム G9-1)の1か月保管時の生菌数との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、酸化マグネシウム:リン酸塩の配合比率とビフィズス菌(ビフィドバクテリウム ビフィダム G9-1)の1か月保管時の生菌数との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、乾燥剤の有無による酸化マグネシウム組成物(製剤)による乳酸菌(ラクトバチルス アシドフィルス KS-1)の生残率の保管月数による変化を示すグラフである。
【
図9】
図9は、乾燥剤の有無による酸化マグネシウム組成物(製剤)中の水分量の保管月数による変化を示すグラフである。
【
図10】
図10は、希釈液及び緩衝液の相違による酸化マグネシウム濃度と乳酸菌(ラクトバチルス アシドフィルス KS-13)の生菌数への影響と、酸化マグネシウム濃度との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、希釈液及び緩衝液の相違によるビフィズス菌(ビフィドバクテリウム ビフィダム G9-1)の生菌数への影響と、酸化マグネシウム濃度との関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、賦形剤(ブドウ糖)の添加量と、乳酸菌(ラクトバチルス アシドフィルス KS-13)含有酸化マグネシウム組成物の生残率との関係を示すグラフである。エラーバーは標準誤差であり、* = p<0.05(Dunnettの検定による)。
【
図13】
図13は、賦形剤(乳糖水和物)の添加量と、乳酸菌(ラクトバチルス アシドフィルス KS-13)含有酸化マグネシウム組成物の生残率との関係を示すグラフである。エラーバーは標準誤差であり、* = p<0.05(Dunnettの検定による)。
【
図14】
図14は、賦形剤(乾燥コーンスターチ)の添加量と、乳酸菌(ラクトバチルス アシドフィルス KS-13)含有酸化マグネシウム組成物の生残率との関係を示すグラフである。エラーバーは標準誤差であり、* = p<0.05(Dunnettの検定による)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[菌叢変化抑制用組成物]
本発明において、「菌叢変化の抑制」とは、通常、酸化マグネシウム又は酸化マグネシウムを含有する製剤によって、動物体内(腸内)の菌叢が変化した場合に、そのような菌叢の変化を抑制(特に、菌叢の乱れを改善)出来ること、好ましくは、当該菌叢の変化が、乳酸菌により抑制されること、より好ましくは、当該菌叢の変化を、ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)やラクトバチルス ガッセリ(Lactobacillus gasseri)等の乳酸菌、あるいは、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)等の乳酸菌(ビフィズス菌)が抑制出来ることを指す。
【0011】
菌叢変化の抑制(菌叢改善)として、具体的には、例えば、後述する実施例でも説明するが、腸内細菌叢組成(unweighted Unifrac Distance)に基づく解析において、組成上で便秘誘発群と通常の群(便秘非誘発群)とがあり、これらが一定の距離を有する場合に、何も投与されない便秘誘発群に比べ、本願発明の組成物を投与された便秘誘発群が、より通常の群に近い位置となる(距離が小さい)こと等が挙げられるが、これに限定されない。
また、本発明の菌叢改善の別の好ましい一例として、健康維持、肥満予防等の観点から、いわゆる「デブ菌」として知られる、Firmicutes門に属する菌の菌数が減少することや、いわゆる「やせ菌」として知られる、Bacteroidetes門に属する菌の菌数が増加することが含まれてもよいが、これらに限定されない。
【0012】
また、本明細書において、「腸内」とは、通常、動物体内の盲腸、大腸、小腸、空腸、回腸、十二指腸、結腸などの腸管内部又はその表面を指し、好ましくは、大腸、小腸又は盲腸であるが、これらに限定されない。また、腸(腸管)を有する動物としては、好ましくは、哺乳動物であり、このような哺乳動物としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等が挙げられ、ヒト、マウス、ラットがより好ましく、さらに好ましくはヒトであるが、これらの動物に限定されない。
【0013】
〔酸化マグネシウム]
本発明の組成物に含まれる、又は、本発明の方法で用いられる酸化マグネシウムは、市販品を使用することが出来、酸化マグネシウムそのものを用いてもよいし、市販品の酸化マグネシウム製剤を用いてもよい。
好ましくは、本発明の組成物において、酸化マグネシウムは、組成物全体に対して、例えば、0質量%を超え、0.01質量%を超え、1質量%を超え、10質量%を超え、又は25質量%を超えて含まれるが、これらに限定されない。また、本発明の組成物において、酸化マグネシウムは、組成物全体に対して、好ましくは、94.3質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、又は80質量%以下含まれ、より好ましくは、50~94.3質量%、特に好ましくは、50~80質量%含まれるが、これらの範囲に限定されない。酸化マグネシウム製剤を用いる場合は、組成物(製剤)中の酸化マグネシウムの量が、上記割合以下で含まれることが好ましい。酸化マグネシウムの含量が上記の範囲内である場合に、本発明の菌叢変化の抑制効果が好ましく得られる。
【0014】
[乳酸菌の安定性改善]
本発明において、「乳酸菌の安定性が改善される」とは、通常、酸化マグネシウムと乳酸菌とが、一定の期間、共存する場合に低下することがある乳酸菌の、保存期間中の乳酸菌の生残率等の安定性が、本発明の組成物により、改善されることを指す。ここでの、「一定の期間」とは、特に限定されないが、例えば、酸化マグネシウムと乳酸菌とが、1週間~3年間、好ましくは、1か月~半年間、より好ましくは、1か月~3か月間共存した状態で、病院、薬局等で保管される場合等が挙げられる。保管時の温度は、通常、室温(例えば、約1~30度(℃)等)や常温(例えば、約15~25度(℃)等)であるが、保管環境によって変化してよく、例えば、夏季、温暖期にはこれよりも高温であってよく、冬季、寒冷期にはこれよりも低温であってよい。別の好ましい態様としては、一定の期間は、1分~10日間等であり、さらなる別の好ましい態様としては、1時間以下等であってもよい。
【0015】
[便通の改善]
本発明において、「便通が改善される」とは、通常、本発明の酸化マグネシウムと乳酸菌とを含む組成物が対象に投与される場合に、対象の便通が、酸化マグネシウム単独投与及び乳酸菌単独投与よりも有意に、好ましくは相乗的に改善されることを指す。便通改善の具体的な指標としては、例えば、排糞便重量(湿重量)が、非対象投与群に比べ、増加することが挙げられる。便通が改善される対象は、上記した腸を有する動物が好ましく挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
好ましくは、本発明の組成物に、さらに、無水リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、無水リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム2水塩、及びリン酸2水素カルシウム1水塩からなる群から選択される1種以上のリン酸塩が含まれること、より好ましくは、無水リン酸水素カルシウムが含まれることにより、乳酸菌の当該生残率等の安定性が改善されることを指す。
【0017】
本発明の組成物において、乳酸菌の生残率等の安定性が改善される場合、好ましくは、無水リン酸水素カルシウムが含まれる。無水リン酸水素カルシウムは、市販品(例えば、フジカリン(富士化学工業)など)を用いることが出来、例えば、無水リン酸水素カルシウムを噴霧乾燥(スプレードライ)して得られた球形造粒物などであってもよいが、これらに限定されない。好ましくは、本発明において、組成物中の、酸化マグネシウムに対する無水リン酸水素カルシウムの質量比率が、100:1~1:100であることが好ましく、20:1~1:20であることがより好ましいが、これらに限定されない。別の好ましい例としては、本発明において、組成物中の、酸化マグネシウムに対する無水リン酸水素カルシウムの質量比率が、5:0.25~5:5であることが好ましく、5:0.5~5:5であることがより好ましく、5:1~5:3であることが特に好ましいが、これらに限定されない。あるいは、好ましくは、本発明において、組成物中の、乳酸菌に対する無水リン酸水素カルシウムの質量比率が1:5~1:100であることが好ましく、1:10~1:100であることがより好ましく、1:5~1:100であることが特に好ましいが、これらに限定されない。なお、酸化マグネシウムに対する上記した他の1種以上のリン酸塩(合計量)の質量比率は、上記した無水リン酸水素カルシウムのものと同じであってよい。
なお、酸化マグネシウム製剤と共存する場合に乳酸菌の生残率等の安定性が低下する理由としては、詳細は不明であるが、酸化マグネシウム製剤の存在により、組成物(製剤)の一部がアルカリ性となることによって、乳酸菌が影響を受ける可能性が考えられる。
【0018】
[賦形剤]
本発明の組成物において、好ましくは、さらに、賦形剤が含まれる。賦形剤が含まれる場合、製剤又は組成物中の酸化マグネシウム量を低減することが出来るため、好ましい。好ましい賦形剤として、例えば、果糖、ブドウ糖、ブドウ糖水和物、乳糖、無水乳糖、乳糖水和物、白糖、粉糖、プルラン、ペクチン、デキストリン、アルギン酸、カラギナン、アラビアゴム等の糖類又は多糖類;マンニトール、イソマルト、イノシトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール等の糖アルコール;コーンスターチ(トウモロコシデンプン)、バレイショデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ等のデンプン類;粉末セルロース、結晶セルロース、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム等のセルロース類;無水リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム水和物、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、第三リン酸カルシウム等のリン酸塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩;クエン酸カルシウム、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、クエン酸二ナトリウム、無水クエン酸等のクエン酸類;ポピドン;クロスポピドン;軽質無水ケイ酸、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等のケイ酸又はその塩;アスパラギン酸、グリシン、グルタミン等のアミノ酸;酢酸カリウム、酢酸カルシウム等の酢酸塩;酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物;ケイソウ土;ケイヒ末;トラガント;カゼイン;カンテン;シクロデキストリン;パラフィン;セッコウ;タルク;レシチン;ゼラチン;セラック;ゼイン;粉末還元麦芽糖水アメ;塩化ナトリウム;硫酸塩;乳酸塩;酒石酸又はその塩;ステアリン酸又はその塩等が挙げられるが、これらに限定されない。また、上記した他に、医薬品添加物辞典2016(日本医薬品添加剤協会編)に記載の賦形剤を適宜用いることが出来る。
本発明においては、上記のうち、例えば、糖類、多糖類、デンプン類、セルロース類を好ましく用いることが出来、特に、コーンスターチ(トウモロコシデンプン)、結晶セルロース、ブドウ糖、乳糖水和物、を好ましく用いることが出来るが、これらに限定されない。なお、賦形剤は、固体でも液体でもよいが、固体が好ましい。
【0019】
本発明の組成物において、好ましくは、賦形剤が、組成物全体に対して、0~50質量%含まれ、より好ましくは、0~20質量%含まれるが、これらの範囲に限定されない。例えば、賦形剤の含量が上記の範囲内である場合に、組成物中の酸化マグネシウム含量を低減することが出来ることにより、本発明の乳酸菌の生残率改善、保存時の安定性改善又は投与した場合の腸内の菌叢変化抑制効果などが好ましく得られる。
【0020】
水分活性値(water activity, Aw)は、ある物質の表面水分の持つ水蒸気圧(水分のエネルギー状態)を表す。一般的に、水分活性値が小さいほど組成物中の生菌の安定性が高い。
本発明においては、特に限定されることなく、種々の水分活性値を有する賦形剤を用いることが出来るが、例えば、水分活性値が酸化マグネシウムより大きい賦形剤を用いる場合、組成物全体に対して、賦形剤が、好ましくは、0~50質量%、より好ましくは、0~20質量%含まれる。また、例えば、水分活性値が酸化マグネシウムより小さい賦形剤を用いる場合、組成物全体に対して、賦形剤が、好ましくは、0~50質量%、より好ましくは、0~20質量%含まれるが、これらの範囲に限定されない。
水分活性の測定は、例えば、日本薬局方 3.05 執着-脱着等温線測定法及び水分活性測定法に従って行うことが好ましく、水分活性を測定するための機器として、例えば、ノバシーナ社製 LabMaster-aw NEOを好適に用いることが出来る。
【0021】
[乾燥剤]
本発明の組成物において、好ましくは、さらに、乾燥剤が含まれる。好ましい乾燥剤の例としては、シリカゲル(SiO2を主成分とする乾燥剤)や、シブレット(Al2O3・SiO2・nH2Oを主成分とする多孔質の非晶質物質)、塩化カルシウム等を好適に用いることが出来、具体例としては、株式会社東海化学工業所製のシブレット(AS-W1510)などを好ましく用いることが出来るが、これらに限定されない。
【0022】
好ましくは、本発明の組成物において、乾燥剤は、組成物全体に対して、0.1~20質量%含まれ、より好ましくは、1~10質量%含まれ、さらに好ましくは、4~5質量%含まれるが、これらに限定されない。乾燥剤の含量が上記の範囲内である場合に、本発明の好ましい乳酸菌の保存時の生残率改善効果又は投与した場合の腸内の菌叢改善効果が得られる。
【0023】
以下、本発明の組成物におけるその他の成分や、製造方法及び乳酸菌等について詳しく説明する。
〔ラクトバチルス属、ビフィズス菌等の乳酸菌〕
本発明の組成物に含まれる、又は、本発明の方法で用いられる乳酸菌は、ビフィズス菌であっても、ビフィズス菌以外であってもよく、例えば、Lactobacillus acidophilus、L. casei、L. gasseri、L. plantarum、L. delbrueckii subsp bulgaricus、L. delbrueckii subsp lactis、L. fermentum、L. helveticus、L. johnsonii、L. paracasei subsp. paracasei、L. reuteri、L. rhamnosus、L. salivarius、L. brevis等のラクトバチルス(Lactobacillus)属の乳酸桿菌;例えば、Leuconostoc mesenteroides等のリューコノストック属、Streptococcus (Enterococcus) faecalis、Streptococcus (Enterococcus) faecium、Streptococcus (Enterococcus) hirae、Streptococcus thermophilus等のストレプトコッカス(Streptococcus)属(現在の分類学上、エンテロコッカス (Enterococcus)属に分類される)、Lactococcus lactis、L. cremoris等のラクトコッカス(Lactococcus)属、Tetragenococcus halophilus等のテトラジェノコッカス(Tetragenococcus)属、Pediococcus acidilactici、P. pentosaceus等のペディオコッカス(Pediococcus)属、Oenococcus oeni等のオエノコッカス(Oenococcus)属の乳酸球菌等であるが、これらに限定されない。
なお、本明細書中においては、特に記載がない限り、現在の分類学に従い菌の分類をしているが、旧分類に従い、ストレプトコッカス(Streptococcus)属は、ストレプトコッカス(Streptococcus)属及びエンテロコッカス(Enterococcus)属を包含してよい。
【0024】
本発明において、乳酸菌が、ビフィズス菌以外の乳酸菌である場合、例えば、ラクトバチルス属が好ましく、さらに、ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス ガッセリ(L. gasseri)、ラクトバチルス ジョンソニイ(L. johnsonii)、ラクトバチルス パラカゼイ サブスピーシーズ パラカゼイ(L. paracasei subsp. paracasei)、ラクトバチルス ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、又はラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)であることが好ましく、特に、ラクトバチルス アシドフィルス KS-13(Lactobacillus acidophilus KS-13)等であることが好ましいが、これらに限定されない。
なお、ラクトバチルス アシドフィルス KS-13(Lactobacillus acidophilus)は旧分類であり、現在の分類及び受託証上は、ラクトバチルス ガッセリ KS-13(Lactobacillus gasseri KS-13)であるが、本明細書では便宜上、長らく使用されてきた呼称である旧分類を使用することもある。
【0025】
また、本発明において、乳酸菌が、ビフィズス菌である場合、好ましいビフィズス菌としては、例えば、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム シュードロンガム(Bifidobacterium pseudolongum)、及びビフィドバクテリウム サーモフィルム(Bifidobacterium thermophilum)等が挙げられ、より好ましくは、ビフィドバクテリウム ビフィダム、ビフィドバクテリウム ビフィダムを用いることが好ましく、特に、ビフィドバクテリウム ビフィダム G9-1(Bifidobacterium bifidum G9-1、受託番号:NITE BP-817)であることが好ましいが、これらに限定されない。
【0026】
ラクトバチルス属又はビフィズス菌以外の乳酸菌の別の好ましい例としては、例えば、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、特に、ストレプトコッカス フェーカリスが好ましく、ストレプトコッカス フェーカリス 129 BIO3B(Streptococcus faecalis 129 BIO3B)、クロストリジウム(Clostridium)属を用いることがより好ましいが、これに限定されない。
【0027】
上記した乳酸菌は単独であってもよく、複数の乳酸菌の混合物であってもよい。本発明において、好ましくは、組成物に乳酸菌が1~5種含まれる。より好ましくは、乳酸菌が1~3種含まれる。特に好ましくは、組成物に乳酸菌が1種又は2種含まれ、最も好ましくは、乳酸菌が1種含まれる。
【0028】
本発明の組成物において、乳酸菌の割合は、例えば、組成物が液体である場合は、例えば、約104~1010cfu/mL、好ましくは、約106~109cfu/mL等であってよく、組成物が固体である場合は、例えば、組成物全体に対して、乳酸菌が105~1010cfu/g、好ましくは、組成物全体に対して、106~109cfu/g等含まれてよいが、これらに限定されない。
【0029】
なお、本発明の組成物には、上記した乳酸菌以外の菌がさらに含まれていてもよく、このような乳酸菌以外の菌の好ましい例としては、例えば、クロストリジウム ブチリカム(Clostridium butyricum)等の酪酸産生性の桿菌等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
〔菌体の取得方法〕
上記したラクトバチルス属、ビフィズス菌等の乳酸菌の菌体は、例えばATCC(登録商標)又はIFO等の機関や財団法人 日本ビフィズス菌センター、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター等などから容易に入手することができる。また、市販されているものを適宜使用することもできる。なお、培養前の菌体は凍結状態保存されたものであってもよい。
【0031】
例えば、ラクトバチルス ガッセリ KS-13(Lactobacillus gasseri KS-13)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(住所:郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、2009年9月17日(原寄託日:2009年9月17日)付で、受託番号NITE BP-819として、国際受託されている。
なお、本願明細書では、便宜上、上記ラクトバチルス ガッセリ KS-13(Lactobacillus gasseri KS-13、受託番号NITE BP-819)の代わりに、旧分類のラクトバチルス アシドフィルス KS-13(Lactobacillus acidophilus KS-13)で記載されていることもあるが、両者は同じ菌である。
【0032】
また、例えば、ビフィドバクテリウム ビフィダム G9-1(Bifidobacterium bifidum G9-1)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(住所:郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、2009年9月30日(原寄託日:2009年9月17日)付で、受託番号NITE BP-817として、国際受託されている。
【0033】
〔ラクトバチルス属、ビフィズス菌等の乳酸菌の培養〕
通常、乳酸菌を培地に接種し培養する。これらの菌を培養するために用いる培地の基本組成は、例えば、栄養性の高い汎用増殖培地である、MRS培地、LBS培地、ロガサ培地等の公知の乳酸菌又はビフィズス菌培養用培地を参考にしてよい。
また、嫌気性菌用の培地も好ましく用いることが出来る。例えば、GAMブイヨンや変法GAMブイヨン等のGAM液体培地等を好ましく用いることが出来るが、これらに限定されない。
【0034】
本発明で使用される培地は、炭素源、窒素源、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、動植物タンパク質又はそのエキス並びに分解物、無機塩類、緩衝剤、界面活性剤、抗生物質、安定化剤、水又はそれらの任意の組み合わせ等を含有していてもよいが、これらに限定されない。培地中の各成分については、市販品を入手して適宜使用することができる。
【0035】
窒素源としては、例えば、動物性又は植物性のペプトンや硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニウム塩及びこれらの水和物、アンモニア等が挙げられる。ペプトンは、例えば、大豆ペプトンやプロテオーゼペプトン、カゼインペプトン、心筋ペプトン、獣肉ペプトン等を好ましく用いることが出来るがこれらに限定されない。培地中の窒素源の含有割合は、培地全体に対して、例えば、0.1~1質量%であってもよく、0.1~0.5質量%であってもよいが、これらに限定されない。
【0036】
炭素源としては、例えば、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、オリゴ糖、又は多糖等が挙げられる。単糖類としては、グルコース、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトース又はそれらの任意の組み合わせが例示される。また、二糖類としては、マルトース、セロビオース、トレハロース、スクロース、ラクツロース、ラクトース又はそれらの任意の組み合わせが例示される。培地中の炭素源の含有割合は、培地全体に対して、例えば、0.1~1質量%であってもよく、0.1~0.5質量%であってもよいが、これらに限定されない。
【0037】
本発明で使用される培地においては、生育因子として、アミノ酸やビタミン等の成分を含むことが好ましい。アミノ酸としては、アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、ピロリシン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、セレノシステイン、バリン、トリプトファン、チロシン又はこれらの任意の組み合わせ又はこれらの塩等が例示されるが、これらに限定されない。これらのアミノ酸は、通常はL型である。培地中のアミノ酸の含有割合は、培地全体に対して、例えば、0.01~0.1質量%であってよく、0.01~0.05質量%であってもよいが、これらに限定されない。
【0038】
ビタミンとしては、ビタミンA、B、C、D、E、K等のビタミン類又はそれらの誘導体、若しくはそれらの塩類、ビオチン、リボフラビン、チアミン又はこれらの任意の組み合わせが好ましく用いられるが、これらに限定されない。培地中のビタミンの含有割合は、培地全体に対して、例えば、0.01~0.1質量%であってもよく、0.01~0.05質量%であってもよいが、これらに限定されない。
【0039】
また、ミネラルとしては、マグネシウム、カリウム、カルシウム、リン、亜鉛、鉄等を好ましく用いることが出来るが、これらに限定されない。培地中のミネラルの含有割合は、培地全体に対して、例えば、0.01~0.1質量%であってもよく、0.01~0.05質量%であってもよいが、これらに限定されない。
【0040】
動植物タンパク質又はそのエキス並びにその分解物として、例えば、植物エキス、肉エキス、肝臓エキス又は酵母エキスを好ましく用いることが出来る。培地中のこのようなエキス又はその分解物の含有割合は、培地全体に対して、例えば、0.1~1質量%であってもよく、0.1~0.5質量%であってもよいが、これらに限定されない。
【0041】
無機塩類は、例えば、リン酸塩や、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸マンガン水和物、硫酸マグネシウム水和物等が挙げられるが、これらに限定されない。培地中の無機塩類の含有割合は、培地全体に対して、例えば、0.01~0.1質量%であってもよく、0.01~0.05質量%であってもよいが、これらに限定されない。
【0042】
緩衝剤は、例えば、PBS、HBSS、HEPES、HANKS等が挙げられるが、これらに限定されない。界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80等のポリソルベート類や、マクロゴール、ラウリル硫酸ナトリウム等を好ましく用いることが出来るが、これらに限定されない。抗生物質としては、例えば、ペニシリンや、ストレプトマイシン、カナマイシン等のマイシン系抗生物質等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
その他の培地成分又は添加剤としては、炭酸塩、炭酸水素塩、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレニウム、ホルモン、サイトカイン、L-システイン塩酸塩、チオグリコール酸ナトリウム、ヘミン、溶性デンプン、消化血清末、ビタミン類、短鎖脂肪酸類等を含んでもよいが、これらに限定されない。
上記例示した各成分を混合して、高圧蒸気滅菌器を用いて加熱滅菌して、培地を調製することができる。
【0044】
培地の液性は中性(例えば、pH6~8、pH7~8)であることが好ましく、中性にするために、公知のpH調整剤や上記した緩衝剤を使用してもよい。
【0045】
乳酸菌及び/又はビフィズス菌を培地に接種する際の、培地に対する菌の割合は、例えば、101~108cfu/mLであってもよく、105~108cfu/mLであってもよいが、これらに限定されない。なお、接種用(種培養用)培地と増殖用(本培養用)培地は同じでもよく、異なっていてもよい。
【0046】
上記培養の温度は、例えば、25~45℃であることが好ましく、36~38℃であることがより好ましい。また、上記培養の時間は、例えば、4~72時間であることが好ましく、12~24時間であることがより好ましい。これら培養の温度又は培養の時間の範囲内であれば、乳酸菌及び/又はビフィズス菌が増殖しやすくなる。
なお、嫌気下で乳酸菌及び/又はビフィズス菌を培養するために、嫌気ボックス又は嫌気チャンバーを使用してもよい。嫌気ボックス又は嫌気チャンバーは、市販されているものを用いてよい。
【0047】
本発明において使用される菌体の形態は、特に制限されず、生菌体、湿菌体、乾燥菌等、任意の形態のものを用いることができる。また、生菌体、湿菌体、乾燥菌等をさらに処理した菌の処理物を用いてもよい。菌の処理物とは、乳酸菌に何らかの処理を加えたものをいい、その処理は特に限定されない。該処理物として具体的には、該菌体の超音波などによる破砕液、該菌体の培養液又は培養上清、それらを濾過又は遠心分離など固液分離手段によって分離した固体残渣などが挙げられる。また、細胞壁を酵素又は機械的手段により除去した処理液、トリクロロ酢酸処理又は塩析処理などして得られるタンパク質複合体(タンパク質、リポタンパク質、糖タンパク質など)又はペプチド複合体(ペプチド、糖ペプチド等)なども該処理物として挙げられる。さらに、これらの濃縮物、これらの希釈物又はこれらの乾燥物なども該処理物に含まれる。培養液から菌体を摂取して、菌体からどのようにして非処理物を得るのかは、本技術分野において、従来充分に確立されているので、本発明において、それらに従ってよい。また、該菌体の超音波などによる破砕液、該細胞の培養液又は培養上清などに対し、例えば各種クロマトグラフィーによる分離などの処理をさらに加えたものも、本発明における処理物に含まれる。
【0048】
なお、死菌体も本発明における菌の処理物に含まれる。死菌体は、例えば、酵素処理、加熱処理、抗生物質などの薬物による処理、ホルマリンなどの化学物質による処理、γ線などの放射線による処理などにより、得ることができる。これらの技術は従来充分に確立されていて、本発明において、そのような技術に従ってよい。
【0049】
さらに、乾燥菌や湿菌体の好ましい製造方法について説明する。上記菌体を溶媒に分散して菌体液とする。菌体を分散して菌体液とする溶媒は、当分野で用いられる公知の溶媒を用いてよいが、水やPBS等の緩衝液が好ましい。また、所望により、エタノールなどを加えてもよい。さらに、菌体液は、懸濁液であってもよく、溶媒は上記で示したものと同じでよい。また、懸濁させる際、懸濁剤、例えばアルギン酸ナトリウム等を使用してもよい。
【0050】
また、上記菌体液には、公知技術に従ってさらに、静電気防止剤など当技術分野で一般に用いられている添加剤を通常の配合割合で添加してもよい。
静電気防止剤としては、例えば微粉又は非微粉タルク、コロイド状シリカ、加工シリカ、沈降シリカ等が挙げられる。
【0051】
さらに、滅菌されてもよく、滅菌は、例えば、フィルター濾過により行うことが好ましいが、その他の公知の滅菌方法、例えば、湿熱滅菌法、乾熱滅菌法、高周波滅菌法等の加熱法、酸化エチレンガス滅菌法、過酸化水素による滅菌法等のガス法、ガンマ線照射滅菌法、電子線照射滅菌法等の放射線法等により滅菌を行ってもよい。
【0052】
上記菌体液を、菌体乾燥物を製造するために噴霧乾燥装置による乾燥操作に付することにより、乾燥菌を得ることが出来る。噴霧乾燥装置は、シングルミクロンの噴霧液滴を形成できる微粒化装置を備えた噴霧乾燥装置が好ましい。非常に粒径の小さな噴霧液滴にすると、噴霧液滴の単位質量あたりの表面積が大きくなり、乾燥温風との接触が効率よく行われるため、生産性が向上する。
ここでシングルミクロンの液滴とは、好ましくは噴霧液滴の粒径が小数第1位を四捨五入して1~10μmであるものをいう。
【0053】
噴霧乾燥装置には、微粒化装置が、例えばロータリーアトマイザー(回転円盤)、加圧ノズル、又は圧縮気体の力を利用した2流体ノズルや4流体ノズルである噴霧乾燥装置が挙げられる。噴霧乾燥装置は、シングルミクロンの噴霧液滴を形成できるものであれば、上記形式のいずれの噴霧乾燥装置であってもよいが、4流体ノズルを有する噴霧乾燥装置を使用するのが好ましい。
【0054】
4流体ノズルを有する噴霧乾燥装置では、例えば4流体ノズルの構造としては、好ましくは気体流路と液体流路とを1系統として、これを2系統ノズルエッジにおいて対称に設けたもので、ノズルエッジに流体流動面となる斜面を構成している。また、ノズルエッジの先端の衝突焦点に向かって、両サイドから圧縮気体と液体を一点に集合させる外部混合方式の装置がよい。この方式であれば、ノズル詰まりがなく長時間噴霧することが可能となる。
【0055】
4流路ノズルを有する噴霧乾燥装置について
図1を用いてさらに詳しく説明する。4流路ノズルのノズルエッジにおいて、液体流路3又は4から湧き出るように出た菌体液が、気体流路1又は2から出た圧縮気体の高速気体流により流体流動面5で薄く引き伸ばされ、引き伸ばされた液体はノズルエッジ先端の衝突焦点6で発生する衝撃波で微粒化させることにより、シングルミクロンの噴霧液滴7を形成する。
【0056】
圧縮気体としては、例えば、空気、炭酸ガス、窒素ガス又はアルゴンガス等の不活性ガス等を用いることができる。とくに、酸化されやすいもの等を噴霧乾燥させる場合は、炭酸ガス、窒素ガス又はアルゴンガス等の不活性ガスを用いるのが好ましい。
圧縮気体の圧力としては、通常約1~15kg重/cm2、好ましくは約3~8kg重/cm2である。ノズルにおける気体量は、ノズルエッジ1mmあたり、通常約1~100L/分、好ましくは約10~20L/分である。
【0057】
通常、その後、乾燥室において、その噴霧液滴に乾燥温風を接触させることで水分を蒸発させ菌体乾燥物を得る。乾燥室の入り口温度は、通常約2~400℃、好ましくは約5~250℃、より好ましくは約5~150℃である。入り口温度が約200~400℃の高温であっても、水分の蒸発による気化熱により乾燥室内の温度はそれほど高くならず、また、乾燥室内の滞留時間を短くすることにより、生菌の死滅や損傷をある程度抑えることができる。出口温度は、通常約0~120℃、好ましくは約5~90℃、より好ましくは約5~70℃である。
【0058】
上記のように菌体乾燥物の粒径を小さくすることにより、生菌率が上がり、生菌率の多い組成物(製剤)を提供できるという利点がある。すなわち、シングルミクロンの菌体乾燥物を得るためにはシングルミクロンの噴霧液滴を噴霧するのが好ましい。噴霧液滴の粒径を小さくすると、噴霧液滴の単位質量あたりの表面積が大きくなるので、乾燥温風との接触が効率よく行われ、乾燥温風の熱による菌体の死滅又は損傷を極力抑えることができる。その結果として、生菌率が上がり生菌数の多い菌体乾燥物が得られる。
【0059】
湿菌体は、培養液から遠心処理により菌体を採取し、リン酸緩衝液等により洗浄し、再度遠心処理により得られた菌体を凍結保存する方法等、当分野で公知の方法により、得ることができる。
【0060】
[組成物]
本発明の組成物は、通常、当分野で公知の方法により、酸化マグネシウムと、乳酸菌と、その他の成分を混合することにより容易に製造され得る。他の成分は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されない。本発明の組成物は、医薬品、医薬部外品、飲食品、飼料等の形態として用いることができる。このような、本発明の剤を含む医薬品も、本発明の好ましい実施態様の1つである。
【0061】
本発明の組成物には当分野で通常用いられる公知の添加剤を用いることができ、例えば、水、溶剤、pH調整剤、保湿剤、着香剤、甘味剤、増粘剤、矯味剤、ゲル化剤、溶解剤、着色剤、防腐剤、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤及び安定化剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
好ましい結合剤の例としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム等が挙げられるが、これらに限定されない。また、好ましい崩壊剤の例としては、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、部分アルファー化デンプン、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、カルボキシメチルスターチ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
なお、乳酸菌は、一般に嫌気性で乾燥状態では空気又は酸素に対して弱く、また、高温と湿気に弱いため、組成物の製剤化に際しては出来るだけ、不活性ガスの存在下又は真空、低温下で、処理することが好ましい。
【0063】
本発明の組成物は、ヒト又は非ヒト動物に投与されてもよい。本発明の投与形態は特に限定されないが、経口投与、非経口投与(静脈内投与、経皮投与、眼局所投与等)などが挙げられる。本発明の投与剤型としては、経口剤の場合、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等が挙げられ、非経口剤としては、浣腸剤、座薬等の挿入剤等が挙げられる。投与量は、剤型、患者の症状、年齢、体重等に応じて適宜選択できる。例えば、経口投与の場合、体重1kg当たりかつ1日当たり0.05~5000mg、好ましくは0.1~2000mg、特に好ましくは1~1000mgを1日1回~数回に分けて投与することができるが、これらに限定されない。
【0064】
[乳酸菌の生菌数測定方法]
本発明は、乳酸菌と酸化マグネシウムとが共存する場合、すなわち、両者の存在下において、リン酸二水素カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸一ナトリウム(一水塩)、リン酸一ナトリウム(無水)、無水リン酸一水素ナトリウム、リン酸ニナトリウム(二水塩)、リン酸ニナトリウム(七水塩)及びリン酸三ナトリウム(無水)からなる群からなる1種又は2種以上のリン酸塩の混合物を、合計で、0.0001~10g/mLの範囲、好ましくは、0.001~1g/mLの範囲、より好ましくは、0.002~0.5g/mLの範囲、さらに好ましくは、0.0348~0.1389g/mLの範囲で含む希釈液又は緩衝液の存在下に測定することを特徴とする乳酸菌の生菌数測定方法を含む。本発明において、1種又は2種以上のリン酸塩の混合物が、上記の範囲内であると、乳酸菌の生残率がより改善され、乳酸菌の生菌数をより正確に測定することが出来る。
【0065】
上記方法において、上記希釈液又は緩衝液中の1種又は2種以上のリン酸塩の混合物に、リン酸二水素カリウム及び無水リン酸一水素ナトリウムが含まれることが好ましく、リン酸二水素カリウム及び無水リン酸一水素ナトリウムが、合計で、0.0001~1g/mLの範囲で含まれること、より好ましくは、リン酸二水素カリウム及び無水リン酸一水素ナトリウムが、合計で0.001~0.5g/mLの範囲、より好ましくは、0.002~0.3g/mLの範囲で含まれること、さらに好ましくは、リン酸二水素カリウム及び無水リン酸一水素ナトリウムが、合計で0.0348~0.1389g/mLの範囲で含まれることであるが、これらの範囲に限定されない。本発明において、リン酸二水素カリウム及び無水リン酸一水素ナトリウムの混合物が、上記の範囲内であると、乳酸菌の生残率がより改善され、乳酸菌の生菌数をより正確に測定することが出来る。
【0066】
さらに、上記希釈液又は緩衝液中のリン酸塩の混合物において、リン酸二水素カリウムと無水リン酸一水素ナトリウムが両方含まれる場合に、リン酸二水素カリウムと無水リン酸一水素ナトリウムの質量比率が、例えば、0.1:100~100:0.1であることが好ましく、当該質量比率が、1:10~10:1であることがより好ましく、当該質量比率が、1:2~2:1であることがさらに好ましく、当該質量比率が、16.0:18.8であることが特に好ましい。本発明において、リン酸二水素カリウム及び無水リン酸一水素ナトリウムの質量比率が、上記の範囲内であると、乳酸菌の生残率がより改善され、乳酸菌の生菌数をより正確に測定することが出来るため、好ましい。
【0067】
本発明の乳酸菌の生菌数の測定方法において、好ましく用いられる乳酸菌としては、上記した、本発明の組成物に用いることの出来る乳酸菌等が挙げられるが、好ましくは、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)である。別の好ましい乳酸菌としては、ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)又はラクトバチルス ガッセリ(Lactobacillus gasseri)であるが、これらの乳酸菌に限定されない。
なお、乳酸菌の生菌数の測定方法は、例えば、日本薬局方外医薬品規格(局外規)のビフィズス菌又はラクトミンの項に記載されている方法(定量法)等、公知の方法に従って行われる。
【実施例0068】
次に、試験例、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0069】
なお、本発明に使用する試験例、実施例の化合物は市販されたものを容易に入手することができ、それを使用することができる。
以下では、下記の略称を用いることがある。
MgO:酸化マグネシウム
LAまたはLac:乳酸菌ラクトバチルス アシドフィルス KS-13(Lactobacillus Acidophilus KS-13(これは、旧分類の呼び方であり、新分類上では、ラクトバチルス ガッセリ KS-13(Lactobacillus gasseri KS-13、受託番号NITE BP-819。両者は同じ菌である)
Bif:ビフィドバクテリウム ビフィダム G9-1(Bifidobacterium bifidum G9-1、受託番号:NITE BP-817)
CE-2粉末飼料:CE-2
CaHPO4:無水リン酸水素カルシウム
【0070】
[実施例1]本発明の組成物による菌叢変化の抑制効果の確認
試験方法:試験動物として、雄性6週齢のSlc:SDラット32匹を日本SLC(株)より購入した。32匹全てのラットは、馴化期間より、飼料は日本クレア(株)製のガンマ線滅菌(30kGy)されたCE-2粉末飼料(Lot No:E2020-FU)と、給水瓶(日本クレア(株)製)を用いて飲料水として水道水とを、それぞれ自由摂取させた。
5日間の馴化飼育後、群間の体重が均一になるように、Normal群、Control群、MgO群及びMgO+LA群の4群に群分けを行った(各群は8匹ずつである)。
試験期間中、MgO群及びMgO+LA群にはCE-2に、酸化マグネシウム(マグミット細粒83%、協和化学工業(株)製)を400mg/kgの用量となるように混餌して投与した。また、Normal群以外の3群のラットには、Loperamide(SIGMA-Aldrich製)を投与1回当たり5.0mg/kgの用量で1日2回、Day0~Day3の4日間皮下投与し与え、便秘を誘発した。
【0071】
そして、Normal群にはvehicleとして、同容量のSaline((株)大塚製薬工場製)を1日2回、Day0~Day3の4日間皮下投与した。
また、MgO+LA群には1回当たり3.3×10
8cfu/mL/headのLAを1日3回、Day0~Day3の4日間経口投与した。そして、MgO+LA群以外の3群にはvehicleとして同容量の緩衝液PBS(ナカライテスク製)を1日3回、Day0~Day3の4日間経口投与した。
試験期間中は毎日、便性の評価として、1日の総糞便重量を測定した。総糞便重量としては、試験期間中、9時から翌日9時の24時間の間に排泄された総糞便の重量を測定した(
図1)。また、試験最終日(Day4)の朝に菌叢解析用の新鮮糞便を採取し、採取後すぐに液体窒素で瞬間凍結した後、測定に用いるまで-80℃で保存した。
【0072】
菌叢解析の方法:菌叢解析は、NGSを用いた網羅的16SrRNA配列解析を行った。すなわち、糞便からDNAをビーズ-フェノール法によって抽出し、Miseqプラットホームを用いた16SrRNA遺伝子のV3-V4領域の配列解析をFadrosh DW et al., Microbiome 2014, 2: 6に記載の方法に従って実施した。次いで、Miseqより得られたシークエンスリードデータの解析はQIIMEパイプラインを用いて行った。すなわち、リードの合成はFastq-joinを用いて行い、クオリティフィルタリング(QV≧25)は、USEARCHv6.1を用いて行った。フィルタリングを通過したリードデータに対してキメラリードを除去して得られたリードデータを菌叢解析に用いた。1検体当たり5000リードをランダムに抽出し、USEARCHを用いて相動性97%を異基地としたOperational taxonomic unit(以下、OTU)を作成した。OTUの代表配列に対して、UCLUSTを用いた相同性検索を行い、各リードの菌の門レベルまでの同定を行った。
各サンプルの腸内細菌叢組成(unweighted unifrac distance)の非類似度の計算は、統計分析ソフトウェアR(https://www.r-project.org/)を使用して行い、得られた値に基づいた主座標分析(Principal Coordinate Analysis: PCoA)にてプロットした。なお、主座標分析は、p個の要素(個体、変数、オブジェクトなど)の間の類似行列をグラフィカルに表現したものであり、本発明においては、菌叢の変化や改善具合を確認するために用いる。
【0073】
試験結果(総排便湿重量):試験開始後2日目(Day2)での総排便湿重量の変化率は、Control群に比して、MgO群及びLA群において増加傾向が認められた。一方、MgO+LA群においては、Control群に比して有意に高値であり、より早いタイミングで糞便重量の有意な増加、すなわち、MgO及びLAによる相乗的な便通の改善が認められた(
図2)。
【0074】
試験結果(菌叢の改善(1):腸内細菌叢組成)
腸内菌叢プロファイルに対する腸内細菌叢組成(unweighted unifrac distance)に基づいた解析を行った。そして、腸内細菌叢組成の主座標分析におけるNormal群と各群との距離(非類似度)を、数値化してグラフで示したところ、
図3の通りとなった。すなわち、腸内細菌叢組成の主座標分析における、Normal群とControl群の距離(非類似度)と比較して、Normal群とMgO群との距離及びNormal群とMgO+LA群との距離は有意に小さくなっていた。よって、便秘の誘発により乱れた菌叢が、MgO群及びMgO+LA群において改善されている。特に、腸内細菌叢組成において、Normal群とMgO+LA群との距離が、Normal群とMgO群との距離に比べて有意に小さくなっていることから、酸化マグネシウムのみを投与したMgO群よりも、酸化マグネシウムと乳酸菌とを投与したMgO+LA群のほうが、菌叢変化をより抑制出来ている、つまり、菌叢の乱れが改善されていることが示された(
図3)。
【0075】
試験結果(菌叢の改善(2):菌の種類)
健康維持、肥満予防等の観点から、腸内の菌叢変化を考える場合、Firmicutes門の菌は、いわゆる、「デブ菌」として知られ、増加が抑制されることが好ましい。また、Bacteroidetes門の菌は、いわゆる、「やせ菌」としても知られ減少が抑制されることが好ましい。菌種(門)間の比較を行ったところ、Firmicutes門の菌について、Normal群と比較してControl群において増加傾向を示したが、MgO群、MgO+LA群において、その増加は抑制された(
図4)。
一方、Bacteroidetes門の菌について、Control群(便秘誘発群)で有意に減少していたところ、MgO群がControlに対して減少抑制傾向を示し、MgO+LA群ではMgO群に対してさらに、有意に減少が抑制された(
図5)。
従って、本発明の酸化マグネシウムと乳酸菌の組み合わせにより、腸内の菌叢変化が抑制された(菌叢の乱れが改善された)と言える。
【0076】
[実施例2]一定期間保存時の乳酸菌(ビフィズス菌)の生残率
表1に示す配合比率のビフィズス菌(ビフィドバクテリウム ビフィダム G9-1(Bifidobacterium bifidum G9-1)菌末と酸化マグネシウム及び無水リン酸水素カルシウムを含む4種類の混合末を作製し、ガラス瓶に混合末をそれぞれ45gずつ充填した後、40℃、75%(相対湿度)で2箇月間保管した。その後、保管開始時と1箇月、2箇月保管時の混合末中の生菌数を測定した。開始時生菌数に対する1箇月保存時の菌の生残率の結果を
図6に示す。乳酸菌の生菌数の測定方法は、日本薬局方外医薬品規格(局外規)のビフィズス菌の項に記載されている方法(定量法)に従って行った。
ビフィズス菌は、酸化マグネシウム及び無水リン酸水素カルシウムの配合比率(MgO:CaHPO
4)が5:1の場合(表1のB)が最も高い生残率を示したが、同配合比率(MgO:CaHPO
4)が5:3の場合(表1のC)及び5:5の場合(表1のD)にも、ビフィズス菌は、無水リン酸水素カルシウムを含まない場合(表1のA)に比べると、高い生残率を示した。
すなわち、酸化マグネシウムと乳酸菌の組み合わせにより、乳酸菌の生残率が低下する場合にも、リン酸塩(例えば、無水リン酸水素カルシウム)を併用することで、乳酸菌の生残率の低下を抑制することが出来る。
【0077】
【0078】
さらに、上記した
図6の結果等を考慮し、酸化マグネシウムを含まない場合(表1のA)と酸化マグネシウム及び無水リン酸水素カルシウムの配合比率(MgO:CaHPO
4)が5:1の場合(表1のB)の間について、検討を行った。表2に示すように、無水リン酸水素カルシウム量を変更した配合比率で3種類の混合末を作製し、ガラス瓶に混合末をそれぞれ45gずつ充填した後、40℃、75%(相対湿度)で1箇月間保管した。その後、保管開始時と1箇月保管時の混合末中の生菌数を測定した。開始時生菌数に対する保存箇月時の菌の生残率の結果を
図7に示す。
ビフィズス菌は、酸化マグネシウム及び無水リン酸水素カルシウムの配合比率(MgO:CaHPO
4)が5:0.25の場合(表2のE)及び同配合比率(MgO:CaHPO
4)が5:0.5の場合(表2のF)のいずれも、高い生残率を示した。
【0079】
【0080】
結果、ビフィズス菌(ビフィドバクテリウム ビフィダム G9-1(Bifidobacterium bifidum G9-1)と酸化マグネシウムを含む混合末に、さらに、無水リン酸水素カルシウムを加えた場合、無水リン酸水素カルシウムを加えなかった場合に比べ、保管1箇月後のビフィズス菌の生残率が増加した。特に、酸化マグネシウム:無水リン酸水素カルシウムの比が5:1~5:3の場合に、より大きな生残率向上効果が認められた。また、酸化マグネシウム:無水リン酸水素カルシウムの比が5:0.25~5:0.5の場合にもビフィズス菌の生残率向上効果が認められた。
【0081】
[実施例3]さらに、乾燥剤を加えることによる生残率への影響の検討
乳酸菌ラクトバチルス アシドフィルス K-13(Lactobacillus acidophilus KS-13)菌末1%及び酸化マグネシウム99%の混合末を作製し、ガラス瓶に45gずつ充填した。さらに、乾燥剤(株式会社東海化学工業所 シブレット:AS-W1510)を加えたものと加えなかったものを作製し、40℃、75%(相対湿度)で2箇月間保管した。保管開始時と1箇月、2箇月後の混合末中の各保存箇月の生菌数を測定し、保存開始時に対する生残率を算出した。また、日本薬局方 一般試験法 乾燥減量試験法(1g、105℃、4時間)に準じて水分量を測定した。生残率の結果を
図8に、組成物(製剤)中の水分量の結果を
図9に示す。なお、乳酸菌の生菌数の測定方法は、日本薬局方外医薬品規格(局外規)のラクトミンに記載されている方法(定量法)に従って行った。
【0082】
結果として、乾燥剤を瓶中に加えることで乳酸菌の生残率が大幅に向上した。通常、乾燥剤と製剤又は組成物中の水分量とは関係があるが、今回の実験においては、水分量は乾燥剤を加えるものと加えないものとで大きな差はなかった。そのため、乾燥剤を加えた場合にみられた乳酸菌の生残率の向上には、製剤又は組成物中の水分量以外の要因が寄与したものと考えられる。
【0083】
[実施例4]本発明の生菌数測定方法による酸化マグネシウムと乳酸菌の生菌数の測定
試験方法:乳酸菌ラクトバチルス アシドフィルス KS-13(Lactobacillus acidophilus KS-13)を含む菌末(生菌)を1g、酸化マグネシウム(協和化学社製、細粒状)1g、2gあるいは3gを均一に混合したものに緩衝液(表3に記載の組成)を加えて50mLとし、十分に懸濁して試料原液とした。
試料原液1mLを正確に量り、別に正確に分注した希釈液9mL(リン酸塩二水素カリウム:4.5g、無水リン酸一水素ナトリウム:6.0g、ポリソルベート80:0.5g、L-システイン塩酸塩一水和物:0.5g、寒天:1.0g)中に加える操作(10倍希釈法)を繰り返し、1mL中に生菌を20~300個前後含む濃度に希釈し、試料溶液とした。
試料溶液1mLを約50℃に保った生菌数測定用寒天培地(牛肉・肝臓浸出液:1000mL、カゼイン製ペプトン:10g、ブドウ糖:10g、ポリソルベート80:1g、L-シスチン:0.5g、寒天:15g)10mLと混釈してシャーレに撒き、固化した後、37℃で24~72時間嫌気培養を行い、コロニー数を計数し、菌数を求め、対象に対する回収率を求めた。なお、比較対照として酸化マグネシウムを0gとしたものを希釈液(リン酸塩二水素カリウム:4.5g、無水リン酸一水素ナトリウム:6.0g、ポリソルベート80:0.5g、L-システイン塩酸塩一水和物:0.5g、寒天:1.0g)を加えて50mLとして同様に操作した場合の菌数を測定した。
なお、乳酸菌の生菌数の測定方法は、日本薬局方外医薬品規格(局外規)のラクトミンの項に記載されている方法(定量法)に従って行った。
【0084】
【0085】
(結果)
図10に示すように、従来の希釈液(表3に記載)では、酸化マグネシウムの終濃度が高くなるにつれて、ラクトバチルス アシドフィルス KS-13(Lactobacillus acidophilus KS-13)の生菌数が低下したが(Lac+MgO(希釈液))、表3に示す、本発明の緩衝液1~3を用いることで、酸化マグネシウムによる乳酸菌の生菌数の低下を抑制できた(Lac+MgO(緩衝液1~3))。特に、酸化マグネシウム濃度が4%を超えた場合に、生菌率の低下を有意に抑制出来た(Lac+MgO(緩衝液1~3))。
【0086】
以上より、(i)酸化マグネシウムにより低下する、乳酸菌の生残率等の安定性を、特定の1種又は2種以上のリン酸塩(好ましくは、リン酸二水素カリウム及び無水リン酸一水素ナトリウムの混合物)により、改善できること、及び(ii)溶液中の1種又は2種以上のリン酸塩(好ましくは、リン酸二水素カリウム及び無水リン酸一水素ナトリウムの混合物)の濃度を高めることで、さらに、酸化マグネシウムによる乳酸菌への影響を軽減出来ることも明らかとなった。
【0087】
[実施例5]本発明の方法による酸化マグネシウムとビフィズス菌の生菌数の測定
(試験方法)ビフィズス菌であるビフィドバクテリウム ビフィダム G9-1(Bifidobacterium bifidum G9-1)を含む菌末を1g、酸化マグネシウム(協和化学社製、細粒状)1g、2gあるいは3gを均一に混合したものに緩衝液(表4に記載の組成)を加えて50mLとし、十分に懸濁して試料原液とした。
試料原液1mLを正確に量り、別に正確に分注した希釈液9mL(リン酸塩二水素カリウム:4.5g、無水リン酸一水素ナトリウム:6.0g、ポリソルベート80:0.5g、L-システイン塩酸塩一水和物:0.5g、寒天:1.0g)中に加える操作(10倍希釈法)を繰り返し、1mL中に生菌を20~300個前後含む濃度に希釈し、試料溶液とした。
試料溶液1mLを約50℃に保ったビフィズス菌試験用寒天培地(牛肉・肝臓浸出液:1000mL、カゼイン製ペプトン:10g、ブドウ糖:10g、ポリソルベート80:1g、L-シスチン:0.5g、寒天:15g)10mLと混釈してシャーレに撒き、固化した後、37℃で24~72時間嫌気培養を行い、コロニー数を計数し、菌数を求め、対照に対する回収率を求めた。
対照としては、酸化マグネシウムを0gとしたものを、希釈液(リン酸塩二水素カリウム:4.5g、無水リン酸一水素ナトリウム:6.0g、ポリソルベート80:0.5g、L-システイン塩酸塩一水和物:0.5g、寒天:1.0g)を加えて50mLとして同様に操作した場合の菌数を測定した。
なお、乳酸菌の生菌数の測定方法は、日本薬局方外医薬品規格(局外規)のビフィズス菌の項に記載されている方法(定量法)に従って行った。
【0088】
【0089】
(結果)
図11に示すように、従来の希釈液(表4に記載)では、酸化マグネシウムの終濃度が高くなるにつれて、ビフィズス菌(ビフィドバクテリウム ビフィダム G9-1(Bifidobacterium bifidum G9-1)の生菌数の低下が認められたが(Bif+MgO(希釈液))、表4に示す緩衝液2、3を用いることで、酸化マグネシウムによるビフィズス菌の生菌数の低下を抑制できることを確認した(Bif+MgO(緩衝液2、3))。特に、酸化マグネシウム濃度が4%を超えた場合に、生菌率の低下を有意に抑制出来た(Bif+MgO(緩衝液2、3))。
【0090】
以上より、(i)酸化マグネシウムにより低下する、ビフィズス菌の生残率等の安定性を、特定の1種又は2種以上のリン酸塩(好ましくは、リン酸二水素カリウム及び無水リン酸一水素ナトリウムの混合物)により、改善できること、及び(ii)溶液中の1種又は2種以上のリン酸塩(好ましくは、リン酸二水素カリウム及び無水リン酸一水素ナトリウムの混合物)の濃度を高めることで、さらに、酸化マグネシウムによるビフィズス菌の生菌率への影響を軽減出来ることも明らかとなった。
【0091】
[実施例6]賦形剤を加えることによる生残率への影響の検討
本発明の酸化マグネシウム組成物に賦形剤を添加して、組成物中の酸化マグネシウム含有量を低減させることによる、乳酸菌(生菌)の生残率及び組成物全体の水分活性値への影響などを検討した。
実験例1、2で用いたブドウ糖及び乳糖水和物は、酸化マグネシウム(水分活性値:0.116)よりも、水分活性値が大きい(水分活性値:0.397、0.284)。そのため、賦形剤を組成物に添加すると、添加しない場合と比べ、組成物全体としての水分活性値は大きくなる。
実験例3で用いた乾燥コーンスターチは、酸化マグネシウム(水分活性値:0.116)よりも、水分活性値が小さい(水分活性値:0.026)。そのため、賦形剤を組成物に添加すると、添加しない場合と比べ、組成物全体としての水分活性値は小さくなる。
【0092】
実験例1:賦形剤がブドウ糖(水分活性:0.397)である場合
表5に示す組成の乳酸菌ラクトバチルス アシドフィルス KS-13(Lactobacillus acidophilus KS-13)の菌末と酸化マグネシウム及び賦形剤であるブドウ糖(日本食品化工(株)製、製品名:日食メディカロース)を含む4種類の混合末を作製し、ガラス瓶に45gずつ充填した後、40℃、75%(相対湿度)で2箇月間保管し、保管開始時と2箇月保管後の混合末中の生菌数を測定した。2箇月後の生菌数についての、開始時の生菌数に対する比率(生残率)を算出し、
図12及び下記の表5に示した。
【0093】
【0094】
結果は、乳酸菌ラクトバチルス アシドフィルス KS-13(Lactobacillus acidophilus KS-13)と酸化マグネシウムを含む混合末に賦形剤を加えた組成物(組成Nos.2-4)では、賦形剤を加えなかった組成物(組成No.1)に比べ、保管2箇月後の乳酸菌(生菌)の生残率が約17.9~約30.1%向上した。すなわち、賦形剤を用いることにより、酸化マグネシウムの組成物中の配合率を約94.3%以下とした場合に、乳酸菌(生菌)の生残率が向上した。
【0095】
さらに、日本薬局方 3.05 執着-脱着等温線測定法及び水分活性測定法に従って25℃で水分活性値を測定した結果を上記の表5に示した(測定に用いた機器:水分活性測定装置(ノバシーナ社製 LabMaster-aw NEO))。
通常、水分活性値が高い組成物のほうが、安定性が低くなることが予想されるが、本発明において、賦形剤としてブドウ糖を用いた場合には、組成物中の水分活性値が高いほうが、菌の生残率等の安定性が高かった。
【0096】
実験例2:賦形剤が乳糖水和物(水分活性:0.284)である場合
下記の表6に示す組成の乳酸菌ラクトバチルス アシドフィルス KS-13(Lactobacillus acidophilus KS-13)の菌末と酸化マグネシウム及び賦形剤である乳糖水和物(DFE Pharma製、製品名:Pharmatose 200M)を含む4種類の混合末を作製し、ガラス瓶に45gずつ充填した後、40℃、75%(相対湿度)で2箇月間保管し、保管開始時と2箇月保管後の混合末中の生菌数を測定した。2箇月後の生菌数についての、開始時の生菌数に対する比率(生残率)を算出し、
図13及び下記の表6に示した。
【0097】
【0098】
結果は、乳酸菌ラクトバチルス アシドフィルス KS-13(Lactobacillus acidophilus KS-13)と酸化マグネシウムを含む混合末に賦形剤を加えた組成物(組成Nos.6-8)では、賦形剤を加えなかった組成物(組成No.5)と比べ、保管2箇月後の乳酸菌(生菌)の生残率が約13.0~約22.9%向上した。すなわち、賦形剤を用いることにより、酸化マグネシウムの組成物中の配合率を約94.3%以下とした場合に、乳酸菌(生菌)の生残率が向上した。
【0099】
さらに、実験例1と同様の方法で水分活性値を測定した結果を上記の表6に示した。通常、水分活性値が高い組成物のほうが、安定性が低くなることが予想される。本発明において、賦形剤として乳糖水和物を用いた場合には、組成物中の酸化マグネシウムの配合率を94.3%とした場合は、賦形剤を加えない場合と比較して生残率が向上し、予想通りの傾向であった。組成物中の酸化マグネシウムの配合率を84.3%以下とした場合は賦形剤を加えない場合と比較して水分活性が増加したにもかかわらず、生残率が向上した。
つまり、賦形剤の水分活性値に関わらず、本発明においては、組成物中の酸化マグネシウム量を一定量以下(好ましくは、約94.3%以下)とすること、好ましくは、賦形剤を組成物に用いることにより、乳酸菌(生菌)の生残率を改善出来ることがわかった。
【0100】
実験例3:賦形剤が乾燥コーンスターチ(水分活性:0.026)である場合
実験例1、2では、酸化マグネシウムよりも、水分活性値が大きい賦形剤を用いたが、実験例3では、酸化マグネシウムよりも、水分活性値が小さい賦形剤を用いた。
下記の表7に示す組成の乳酸菌ラクトバチルス アシドフィルス KS-13(Lactobacillus acidophilus KS-13)の菌末と酸化マグネシウム及び賦形剤である局方松谷乾燥コーンスターチ(松谷化学工業製)を含む4種類の混合末を作製し、ガラス瓶に45gずつ充填した後、40℃、75%(相対湿度)で2箇月間保管し、保管開始時と2箇月保管後の混合末中の生菌数を測定した。2箇月後の生菌数についての、開始時の生菌数に対する比率(生残率)を算出し、
図14及び下記の表7に示した。
【0101】
【0102】
結果は、乳酸菌ラクトバチルス アシドフィルス KS-13(Lactobacillus acidophilus KS-13)と酸化マグネシウムを含む混合末に、賦形剤を加えた組成物(組成Nos.10-12)では、賦形剤を加えなかった組成物(組成No.9)と比べ、保管2箇月後の乳酸菌(生菌)の生残率が約14.4~約24.2%向上した。すなわち、賦形剤を用いることにより、酸化マグネシウムの組成物中の配合率を約94.3%以下とした場合に、乳酸菌(生菌)の生残率が向上した。
【0103】
さらに、実験例1、2と同様の方法で測定した水分活性値を上記の表7に示した。通常、水分活性値が低い組成物のほうが、安定性が高くなることが予想されるが、本発明において、賦形剤として乾燥コーンスターチを用いた場合においても、組成物中の水分活性値が低い(賦形剤の添加量が多い)ほうが、菌の生残率を改善出来ることがわかった。
【0104】
試験例6(実験例1~3)のまとめ:
上記実験例1~3の結果から、組成物中の酸化マグネシウム量を一定量以下(好ましくは、約94.3%以下)とすること、好ましくは、賦形剤を組成物に用いることにより、菌の生残率を改善出来ることがわかった。さらに、このような菌の生残率の改善効果は、賦形剤の水分活性値及び組成物全体の水分活性値には特に影響されないことがわかった。
本発明によれば、(1)酸化マグネシウム製剤による菌叢の変化を抑制出来る。また、(2)酸化マグネシウムと乳酸菌とが一定の期間共存して、乳酸菌の生残率等の安定性が低下する場合に、乳酸菌の生残率等の安定性を改善出来る。さらに、(3)酸化マグネシウムと乳酸菌とが共存して、乳酸菌の生残率等の安定性が低下する場合に、乳酸菌の生残率を改善して、正確に乳酸菌の生菌数を測定することが出来る。そのため、本発明の組成物又は方法は、医薬品や食品等の分野において有用である。