(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164536
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】カッサ用具およびカッサ用具の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61H 7/00 20060101AFI20221020BHJP
C04B 33/04 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
A61H7/00 300A
C04B33/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136927
(22)【出願日】2021-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2021069679
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521165459
【氏名又は名称】有限会社B.A.R.
(71)【出願人】
【識別番号】521165460
【氏名又は名称】赤嶺 肇幸
(74)【代理人】
【識別番号】100076082
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 康文
(74)【代理人】
【識別番号】100192496
【弁理士】
【氏名又は名称】西平 守秀
(72)【発明者】
【氏名】下山 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】宮城 一子
【テーマコード(参考)】
4C100
【Fターム(参考)】
4C100AA40
4C100AF03
4C100BB01
4C100CA01
4C100DA02
4C100DA08
4C100EB01
(57)【要約】
【課題】泥パックよりも取り扱い容易であり、かつカッサ療法での血流促進、並びにクチャ粘土の皮膚の化学的吸着性および研磨性があいまって美容・美肌効果を高めることができるカッサ用具を提供する。
【解決手段】身体の対象部位の表面を押圧しながら擦って対象部位の血行をよくするために用いられるカッサ用具10であって、沖縄の粘土であるクチャ粘土を焼成してなる陶磁器であり、その用具本体10Aは、長尺の扁平状に形成されており、平面視において略半円弧部11と、略半円弧部11に隣接して連結する先細部12と、を有して略滴状に形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体の対象部位の表面を押圧しながら擦って前記対象部位の血行をよくするために用いられるカッサ用具であって、
沖縄の粘土であるクチャ粘土を焼成してなる陶磁器であり、
その用具本体は、長尺の扁平状に形成されており、平面視において略半円弧部と、前記略半円弧部に隣接して連結する先細部と、を有して略滴状に形成される、
カッサ用具。
【請求項2】
前記先細部は、前記用具本体の幅方向一方側に片寄って形成され、
前記用具本体の幅方向両側面において、その一方側の側面は凸曲面に、その他方側の側面は凹曲面に形成される、
請求項1に記載のカッサ用具。
【請求項3】
前記用具本体の厚さは、10mm以下に設定される、
請求項1または2に記載のカッサ用具。
【請求項4】
身体の対象部位の表面を押圧しながら擦って前記対象部位の血行をよくするために用いられるカッサ用具の製造方法であって、
採取されたクチャ粘土を精製して不純物を除去する第1の工程と、
前記第1の工程によって精製された前記クチャ粘土を、板状の珪藻土の上に載置して前記クチャ粘土に含まれる所定の水分を除去して乾燥させる第2の工程と、
前記第2の工程によって乾燥された前記クチャ粘土をペースト板状に成型する第3の工程と、
前記第3の工程によって成型された前記クチャ粘土を略勾玉状の型を用いて型抜して複数の用具型抜体を得る第4の工程と、
前記第4の工程によって型抜きされた前記複数の用具型抜体のそれぞれを、焼成窯の内部の載置面に対し斜め方向にずらして、少なくとも末端に位置する前記用具型抜体以外において隣接する前記用具型抜体のそれぞれがその厚さ方向で一部分同士で重なり支持し合った状態で並べて載置する第5の工程と、
前記第5の工程によって載置された前記複数の用具型抜体を800度以下の温度範囲で焼成する第6の工程と、を含む、
カッサ用具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の皮膚表面などを擦って血行をよくする、いわゆるカッサ療法の際に用いられるカッサ用具およびカッサ用具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沖縄本島にはいわゆるクチャ粘土が大量に賦存しており、古くから赤瓦または壺屋(つぼや)焼の焼き物などの陶磁器(セラミック製品)として利用されている。
【0003】
クチャ粘土は、たとえば沖縄本島の北部地域における標高数百メートルの山地を形成する古期岩類と、それが侵食された丘陵地形の土壌で形成された地層と、によりなり、この地層においてより純度の高い粘土層から採取される。この地層は、旧・新期火山岩帯で、霧島火山帯の延長線上に存在する古い地層であり、これは沖縄本島中南部の新しい地層とは異なって侵食・風化の度合いもより高度とされる。沖縄本島であれば、その北部地域に限らず中南部でも採掘場などで採取可能である。
【0004】
このクチャ粘土の色調は、淡い黄褐色を示す、粒状性の細かい酸性の粘土層で、保水性も高い。また、このクチャ粘土には独特の粘りがあり、粒子が細かく均一性を有する。粒子径は100μm以下である。そのため、前述したように、陶磁器にしたときの割れ(クラック)が発生し難くかつ耐熱性がよいことから、焼き物など(セラミック製品)の素材として重宝されてきた(ただ、精製または取扱性の難しさから近年では陶磁器の素材として使用されなくなってきている。)。
なお、クチャ粘土は耐熱性が高く、1400℃でも溶けない。
【0005】
近年では、その性質を活用した新規な用途がさまざまに検討されており、特に美肌用または化粧用の泥パックとして広く普及されるようになった。クチャ粘土は、前述したように100μm以下の微粒子を主な成分として構成されており、その微粒子の高い化学的吸着性および研磨性を有する。そのため、泥パックとして人間の皮膚表面に用いられる場合、その角質などの皮膚の汚れを除去することが可能とされる。また、頭皮に用いられる場合、頭皮の余分な油脂成分またはタンパク質を除去し、抜け毛を防止して毛髪にしっとりとした潤いを持たせることも可能とされる。
【0006】
また、泥パックは、クチャ粘土に限らず、火山灰が堆積して固まった吸着性泥岩を粉砕して粉末にしたものに対し含水させてペースト状にしたパック剤が知られる(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の特許文献1のものは、泥パックとしてクリーム状のものであり、使用者がその使用のたびにその泥パックを手に取り、それを対象部位に薄く伸ばして広げて使用するものである。そのため、使用の際の取り扱い性が悪く、改善の余地があったといえる。
【0009】
ところで、美容業界では前述のクチャ粘土を利用した泥パック以外にも、カッサ療法という健康療法も広く知られている。
【0010】
カッサ療法に関して日本かっさ協会(https://j-kassa.jp/)によれば、カッサの「かっさ」とは、2500年前から中国で行われてきた民間療法であるかっさ療法が原点とされ、「かつ」はけずるという意味で「さ)」は動けなくなって滞っている血液のことを指すと説明している。また、日本かっさ協会は、『専用の板を使って皮膚の経絡や反射区を擦って刺激することで、毛細血管に圧を加えて血液の毒を肌表面に押し出し、経絡の流れをよくするというもの。』としてカッサ療法で専用の用具(以下「カッサ用具」)が使用されることも説明している。
【0011】
発明者は、鋭意検討の結果、前述のクチャ粘土およびカッサ療法に着想を得て本発明を発想し、従来のカッサ用具よりも有利な効果を有することを確認したのである。
【0012】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、泥パックよりも取り扱い容易であり、かつカッサ療法での血流促進、並びにクチャ粘土の皮膚の化学的吸着性および研磨性があいまって美容・美肌効果を高めることができるカッサ用具およびカッサ用具の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の前述した目的は、後記の構成により達成される。
(1)身体の対象部位の表面を押圧しながら擦って前記対象部位の血行をよくするために用いられるカッサ用具であって、沖縄の粘土であるクチャ粘土を焼成してなる陶磁器であり、その用具本体は、長尺の扁平状に形成されており、平面視において略半円弧部と、前記略半円弧部に隣接して連結する先細部と、を有して略滴状に形成される、カッサ用具。
(2)前記先細部は、前記用具本体の幅方向一方側に片寄って形成され、前記用具本体の幅方向両側面において、その一方側の側面は凸曲面に、その他方側の側面は凹曲面に形成される、(1)に記載のカッサ用具。
(3)前記用具本体の厚さは、10mm以下に設定される、(1)または(2)に記載のカッサ用具。
(4)身体の対象部位の表面を押圧しながら擦って前記対象部位の血行をよくするために用いられるカッサ用具の製造方法であって、採取されたクチャ粘土を精製して不純物を除去する第1の工程と、前記第1の工程によって精製された前記クチャ粘土を、板状の珪藻土の上に載置して前記クチャ粘土に含まれる所定の水分を除去して乾燥させる第2の工程と、前記第2の工程によって乾燥された前記クチャ粘土をペースト板状に成型する第3の工程と、前記第3の工程によって成型された前記クチャ粘土を略勾玉状の型を用いて型抜して複数の用具型抜体を得る第4の工程と、前記第4の工程によって型抜きされた前記複数の用具型抜体のそれぞれを、焼成窯の内部の載置面に対し斜め方向にずらして、少なくとも末端に位置する前記用具型抜体以外において隣接する前記用具型抜体のそれぞれがその厚さ方向で一部分同士で重なり支持し合った状態で並べて載置する第5の工程と、前記第5の工程によって載置された前記複数の用具型抜体を800度以下の温度範囲で焼成する第6の工程と、を含む、カッサ用具の製造方法。
【0014】
前記(1)の構成によれば、クチャ粘土の素材からなるカッサ用具であり、また固形物として使用者に把持されて使用されるため、泥パックよりも取り扱い容易である。また、その用具本体は、長尺の扁平状に形成されており、平面視において略半円弧部と、前記略半円弧部に隣接して連結する先細部と、を有して略滴状に形成される。このため、使用者がその用具本体を把持してその顔または腕などの表面に適度な圧力で押しながらマッサージすることができ、カッサ療法での血行促進の効果を高めることができる。また、クチャ粘土の皮膚の化学的吸着性および研磨性があいまって美容・美肌効果を高めることができる。
前記(2)の構成によれば、使用者はその顔または腕などの表面の形状に対応して用具本体の当てる部分を適宜変えることができ、取り扱い性をさらに高めて、その結果、表面の汚れを隅々まで取ることができ、美容・美肌効果を一層高めることができる。
前記(3)の構成によれば、用具本体の厚さを10mm以下に設定することで、使用者の取り扱い性をより一層高めることができる。
前記(4)の構成によれば、泥パックよりも取り扱い容易であり、かつカッサ療法での血流促進、並びにクチャ粘土の皮膚の化学的吸着性および研磨性があいまって美容・美肌効果を高めることができるカッサ用具を品質良くかつ効率的に提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、泥パックよりも取り扱い容易であり、かつカッサ療法での血行促進、並びにクチャ粘土の皮膚の化学的吸着性および研磨性があいまって美容・美肌効果を高めることができる。
【0016】
以上、本発明について簡潔に説明した。さらに、以下に説明される本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細はさらに明確化されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るカッサ用具の外観を例示する平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すカッサ用具の一例と一般的な美容石けん(固形石けん)とをともに写した写真である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係るカッサ用具の製造工程を例示する工程図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す粘土乾燥工程を例示する写真である。
【
図6】
図6は、
図3に示す型抜体乾燥工程を例示する写真である。
【
図9】
図9は、カッサ用具の使用前後の美肌効果を例示する写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るカッサ用具およびカッサ用具の製造方法に関する実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0019】
ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。たとえば、すでによく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。また、添付図面のそれぞれは符号の向きに従って参照するものとする。
【0020】
[・カッサ用具の構成について]
図1および
図2を参照して、本実施形態に係るカッサ用具10の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係るカッサ用具10の外観を例示する平面図である。
図2は、
図1に示すカッサ用具10の一例と一般的な美容石けん(固形石けん)とをともに写した写真である。
なお、本実施形態に係るカッサ用具10は後述するようにその用具本体10Aは長尺の扁平状に形成される。そのため、以下の説明ではそのカッサ用具10が所定の載置面に載置された状態でその載置面に対し平行でありかつその長手方向に対し垂直に交差する方向を「幅方向」ともいう。また、一般的にカッサ用具10とは、身体の対象部位の表面を押圧しながら擦ってその対象部位の血行をよくするために用いられるものである。
【0021】
図1および
図2に示すように、本実施形態に係るカッサ用具10は、長尺の扁平状に形成されており、たとえば「やちむん」壺屋(つぼや)焼の窯元で陶磁器として手作りされる、いわゆる美顔器である。本実施形態の場合、カッサ用具10の素材は沖縄の粘土であるクチャ粘土のみからなり、そのクチャ粘土を焼成してなる陶磁器である。
なお、「やちむん」とは、沖縄の方言であり焼き物や陶器を意味する言葉である。「やちむん」としてぽってりと厚い形状に力強い絵付けがなされた器や壺(つぼ)、シーサーの置物や赤瓦などさまざまなものが琉球王朝時代から製作されている。
【0022】
クチャ粘土は、沖縄県で最も多く見かける土壌でありその粘土が100%含まれる、セメント状の堅い土壌である。また、クチャ粘土は、長年沖縄の海に堆積して設けられたものであり、目が細かく粘着質で、地中海や死海との粘土と同様の性質があることが研究で解明されている。琉球王朝時代から女性たちはクチャ粘土を乾燥させて髪洗粉として使用したり、そのまま顔に塗りパックしたりと、沖縄では馴染(なじ)みのある美容品でもある。また、クチャ粘土はその粒子の細かさから皮膚表面の汚れの吸着性に優れており、毛穴の黒ずみにも効果的である。さらに、クチャ粘土は、ミネラルを豊富に含み、顔のくすみなどを明るくする美白効果も有する。
【0023】
この沖縄の粘土であるクチャ粘土を100%使用して美顔器用の陶磁器として製造したのが、本実施形態のカッサ用具10である。
ただし、本実施形態では、カッサ用具10の素材としてクチャ粘土のみを用いるが、これに限定されない。他の素材、たとえば赤土などのほかの粘土素材を多少混合して製造してもよい。しかしながら、カッサ用具10の素材としてはやはりクチャ粘土のみを用いる方が美容・美肌効果の点で好適である。
【0024】
そして、本実施形態のカッサ用具10は長尺の扁平状に形成されており、その用具本体10Aは、平面視において略半円弧部11と、この略半円弧部11に連続的に連結する先細部12と、を有する。先細部12はその頂部が用具本体10Aの幅方向で一方側に傾いて(片寄って)形成される。そのため、幅方向両側面13,14において、その一方の側面13が凸曲面に形成されるとともにその他方の側面14が凹曲面に形成される。つまり、本実施形態のカッサ用具10は、この略半円弧部11および先細部12により、全体的に勾玉または滴のような形状を呈して形成される。また、その用具本体10Aの厚さは、後述するように10mm以下、より好ましくは8mmから9mmの範囲に設定される。
【0025】
このように構成されるカッサ用具10を使用者が洗顔などで使用することで、皮脂を吸着または古い角質を落として汚れを除去しつつ、皮膚表面を前述のカッサ用具10本体の両方の側面13,14のうち一方の凸曲面または凹曲面を用いて押圧することでカッサ療法の効果を得ることが可能となる。洗顔時に本実施形態のカッサ用具10を使用することで、時間短縮しながら毎日行える美容法であるといえる。また、後述するように、クチャ粘土のカッサ用具10は、陶磁器として製造されその陶磁器としての独特の程よい硬さが、表情筋をマッサージしむくみやたるみを抑制することが可能である。
【0026】
[・カッサ用具の製造方法について]
図3~
図8を参照して、本実施形態に係るカッサ用具10の製造方法について説明する。
図3は、
図3は、本発明の実施形態に係るカッサ用具10の製造工程を例示する工程図である。
図4は、
図3に示す粘土乾燥工程S2を例示する写真である。
図5は、
図3に示す型抜工程S5を例示する写真である。
図6は、
図3に示す型抜体乾燥工程S6を例示する写真である。
図7は、
図3に示す焼成工程S7を例示する写真である。
図8は、
図3に示す冷却工程S8を例示する写真である。
なお、
図7に示す焼成窯の写真は本実施形態のカッサ用具10以外の陶磁器も合わせて焼成される様子を撮影しており、本実施形態のカッサ用具10以外の陶磁器が最上段に配置されている。
【0027】
図3に示すように、本実施形態に係るカッサ用具10の製造方法(製造工程)は、精製工程S1(第1の工程の一例)と、粘土乾燥工程S2(第2の工程の一例)と、真空土練工程S3と、圧延工程S4(第3の工程の一例)と、型抜工程S5(第4の工程の一例)と、型抜体乾燥工程S6と、焼成工程S7(第5の工程、第6の工程の一例)と、冷却工程S8と、を含んで構成される。これら工程はこの記載の順で実行される。
【0028】
精製工程S1では、採取されたクチャ粘土が精製され不純物が除去される。具体的には、沖縄県の北部または中南部などの地域において土壌の採掘場などで採取され運搬されたクチャ粘土が原土として数日程度(たとえば2、3日)乾燥される。そして、乾燥された原土のクチャ粘土は、たとえばハンマーなどの打撃具によって砕かれ、たとえば樹脂バケツなどの容器に所定量の水とともに入れられ、その上澄み液が排水される。その結果、原土のクチャ粘土に含まれる不純物が除去される。さらに、水が加えられたクチャ粘土は攪拌(かくはん)機などによって攪拌されて所定の粘度を有したコロイド状にされる。コロイド状のクチャ粘土は、網に通されて濾(こ)される。クチャ粘土の粒径は非常に小さいため、その粒径に応じてその網の目は細かく設定され、さらに不純物が除去される。このようにして、精製工程S1を通じてクチャ粘土は精製される。
【0029】
粘土乾燥工程S2では、精製工程S1で精製されたクチャ粘土は、板状の珪藻土の上に載置させて天日干しによって乾燥される(
図4参照)。このとき、板状の珪藻土は、多数用意されており所定の面上に隙間なく広く敷設される。このようにして、クチャ粘土は、数時間から数日の間乾燥され、適度に水分が抜かれる。粘土乾燥工程S2の後、乾燥されたクチャ粘土は真空式土練装置に投入されて真空にされ、内部に含まれる空気が除去される(空気抜きがされる)。また、それと同時に真空式土練装置によってクチャ粘土は土練されて円筒状に成形されて放出される。この成形により、後工程でクチャ粘土が取り扱い容易となる。
【0030】
圧延工程S4は、たとえばタタラ板製作機などの円筒状の圧延ローラを有する装置が用いられてクチャ粘土はペースト板状に成型されてその厚さが均一にされる。このとき、その厚さは10mm以下、より好ましくは8mmから9mmの範囲に設定される。この厚さにより、最終製品のカッサ用具10の用具本体10Aの厚さは、10mm以下に設定される。
【0031】
型抜工程S5では、このペースト板状のクチャ粘土が型(型枠)によって型抜され、複数の用具型抜体10Bが得られる(
図5参照)。用具型抜体10Bは、その表裏の周縁がたとえば水を固く絞られたスポンジなどによって面取りされる。この面取りにより、用具型抜体10Bの周縁は、たとえばR曲面などのように外方に突出するなだらかな曲面を描いて形成される。
なお、この型枠は、前述したように用具型抜体10Bのそれぞれが略滴状の形状を有するようにその形状に対応して形成される。
【0032】
型抜体乾燥工程S6では、面取りされた用具型抜体10Bのそれぞれがたとえば木板の上に並べられて乾燥される(
図6参照)。このとき、これら用具型抜体10Bは、表裏逆転されたり、その木板での配置が変更されたりして可能な限り全体的に均一に乾燥されるようにされる。
【0033】
このようにして型抜され乾燥された用具型抜体10Bのそれぞれは、焼成工程S7で焼成窯の内部に配置される載置台の載置面に対し斜め方向にずらして1つの円を描くように並べられる。つまり、複数の用具型抜体10Bは、その載置面において隣接する用具型抜体10Bがその厚さ方向で一部分同士で重なり支持し合った状態で並べられて載置される。このとき、複数の用具型抜体10Bは、1つの円を1層とした場合、複数の層(本実施形態では2層)を有して鉛直方向で積載される。また、載置台が複数用意されており、複数の層で積載された用具型抜体10Bのそれぞれは載置台のそれぞれに配置される。この配置により、複数の用具型抜体10Bは、焼成窯内でさらに鉛直方向で多段に配置される。
なお、本実施形態では焼成窯として電気窯が用いられるがこれに限定されない。たとえば薪(まき)窯などが適宜用いられてもよい。
【0034】
また、焼成工程S7では、前述したように焼成窯に多段に配置された複数の用具型抜体10Bは、焼成窯によって加熱され焼成される(
図7参照)。本実施形態では、その加熱は、常温から560度まで上昇され、この560度で420分実行され、さらにこの560度から800度に上昇されてこの800度で90分実行される。このような温度管理によって、複数の用具型抜体10Bは、焼成され陶磁器となり本実施形態のカッサ用具10となる。この焼成後の冷却工程S8では、たとえば数日間(本実施形態では2日間)、焼成窯の内部で複数のカッサ用具10は放置されて冷却される(
図8参照)。カッサ用具10は冷却された状態で焼成窯から取り出され、ヤスリなどが用いられてその表面または周縁などのバリが削られて研磨される。
【0035】
このような工程を経ることで、沖縄の粘土であるクチャ粘土を焼成してなる陶磁器として本実施形態のカッサ用具10を品質良くかつ効率的に得ることが可能となる。
【0036】
[・本実施形態のカッサ用具の使用方法について]
本実施形態のカッサ用具10の使用方法について説明する。
【0037】
石けんまたは洗顔フォームをよく泡立て、対象部位(たとえば顔)に対し全体的に塗布する。次に、本実施形態に係るカッサ用具10を把持して、そのカッサ用具10の好みの場所を利用して対象部位を全体的にマッサージする。このようにマッサージすることによりカッサ療法での血行促進が得られる。
なお、本発明に係るカッサ用具10を用いてその表面でマッサージする際は略半円弧部11で、鼻筋またはそのきわ部分にはカッサ用具10の用具本体10Aの凸曲面または先細部12でマッサージするとより効果的である。
【0038】
[・本実施形態の利点について]
以上説明したように本実施形態によれば、身体の対象部位の表面を押圧しながら擦って対象部位の血行をよくするために用いられるカッサ用具10であって、沖縄の粘土であるクチャ粘土を焼成してなる陶磁器であり、その用具本体10Aは、長尺の扁平状に形成されており、平面視において略半円弧部11と、略半円弧部11に隣接して連結する先細部12と、を有して略滴状に形成される。
【0039】
このため、クチャ粘土の素材からなるカッサ用具10であり、また固形物として使用者に把持されて使用されるため、泥パックよりも取り扱い容易である。また、その用具本体10Aは、長尺の扁平状に形成されており、平面視において略半円弧部11と、略半円弧部11に隣接して連結する先細部12と、を有して略滴状に形成される。これにより、使用者がその用具本体10Aを把持してその顔または腕などの表面に適度な圧力で押しながらマッサージすることができ、カッサ療法での血行促進の効果を高めることができる。また、クチャ粘土の皮膚の化学的吸着性および研磨性があいまって美容・美肌効果を高めることができる。
【0040】
また、本実施形態によれば、先細部12は、用具本体10Aの幅方向一方側に片寄って形成され、用具本体10Aの幅方向両側面13,14において、その一方側の側面13は凸曲面に、その他方側の側面14は凹曲面に形成される。このため、使用者はその顔または腕などの表面の形状に対応して用具本体10Aの当てる部分を適宜変えることができ、取り扱い性をさらに高めて、その結果、表面の汚れを隅々まで取ることができ、美容・美肌効果を一層高めることができる。
【0041】
また、本実施形態によれば、用具本体10Aの厚さを10mm以下に設定することで、使用者の取り扱い性をより一層高めることができる。
【0042】
また、本実施形態によれば、身体の対象部位の表面を押圧しながら擦って対象部位の血行をよくするために用いられるカッサ用具10の製造方法であって、採取されたクチャ粘土を精製して不純物を除去する精製工程S1(第1の工程の一例)と、この精製工程S1によって精製されたクチャ粘土を、板状の珪藻土の上に載置してクチャ粘土に含まれる所定の水分を除去して乾燥させる粘土乾燥工程S2(第2の工程の一例)と、この粘土乾燥工程S2によって乾燥されたクチャ粘土をペースト板状に成型する圧延工程S4(第3の工程の一例)と、この圧延工程S4によって成型されたクチャ粘土を略勾玉状の型を用いて型抜して複数の用具型抜体10Bを得る型抜工程S5(第4の工程の一例)と、この型抜工程S5によって型抜きされた複数の用具型抜体10Bのそれぞれを、焼成窯の内部の載置面に対し斜め方向にずらして、少なくとも末端に位置する用具型抜体10B以外において隣接する用具型抜体10Bのそれぞれがその厚さ方向で一部分同士で重なり支持し合った状態で並べて載置し、その後、その載置された複数の用具型抜体10Bを800度以下の温度範囲で焼成する焼成工程S7(第5の工程、第6の工程の一例)と、を含む。
【0043】
このため、泥パックよりも取り扱い容易であり、かつカッサ療法での血流促進、並びにクチャ粘土の皮膚の化学的吸着性および研磨性があいまって美容・美肌効果を高めることができるカッサ用具10を品質良くかつ効率的に提供することができる。
【0044】
つまり、本実施形態によれば、泥パックよりも取り扱い容易であり、かつカッサ療法での血流促進、並びにクチャ粘土の皮膚の化学的吸着性および研磨性があいまって美容・美肌効果を高めることができるカッサ用具10およびカッサ用具10の製造方法を提供することができる。
【0045】
次に本発明に係る複数の実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明する。
ただし、複数の実施例は発明の一例として詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の内容はこの実施例の説明によって特許請求の範囲に記載の主題が限定されることは意図されない。また、以下に説明されていない内容は、この技術分野に属する熟練した者であれば十分に技術的に類推可能なものであるので、その記載を省略する。
【実施例0046】
[・本発明に係る第1実施例について]
図9を参照して、本発明に係る第1実施例について説明する。
図9は、カッサ用具10の使用前後の美肌効果を例示する写真である。
【0047】
本実施例では、本発明の有効性(美肌効果)を確認するための試験を行った。本試験では、前述した本実施形態に係るカッサ用具10を製造して、このカッサ用具10を被験者(男性、49歳、試験当時)に毎朝、洗顔として本発明に係るカッサ用具10を使用させた。使用期間は2か月間であった。その使用前後の顔表面の変化を
図9に示す。
図9中、左側の写真は使用前のものであり、右側は使用後のものである。
【0048】
図9に示すように、毎朝の洗顔時に本発明に係るカッサ用具10を使用することが顔表面のしわまたはシミの改善が確認された。つまり、本発明は美肌効果を有することが確認された。
【0049】
[・本発明に係る第2実施例について]
さらに本発明に係る第2実施例について説明する。本実施例では、本発明の有効性を確認するため、複数の被験者(評価者)に対して使用試験(官能試験)を行った。
【0050】
より具体的には、本発明に係るカッサ用具(10)の製品(以下「本発明例」ともいう。)および従来品(以下「比較例」ともいう。)を用意し、比較例を基準とした、本発明例に対する5段階評価のアンケートを行った。アンケートは複数の評価項目で評価され、その評価項目は、「皮脂が良くとれる」、「汚れが良くとれる」、「マッサージがしやすい」、「簡単に使える」、「毎日行える」気持ちが良い」、「コリが取れる」、「持ちやすい」、「しわが薄くなった」、「肌が明るくなった」、「スッキリした」および総合評価の12項目とした。また、それぞれの評価項目の評価尺度は「1」から「5」までのスケール値(リッカート尺度法)とし、「3」を比較例と同等とする基準として設定し、「1」を最も悪い評価、「5」を最もよい評価と定義した。
【0051】
前述の評価項目のそれぞれは、20名の評価者によって評価された。被験者は、たとえば美容・エステに興味があり、日常的に美顔器を使用している者である。年齢層については、20歳代が7名、30歳代が6名、40歳代が4名、50歳代が3名であった。評価者のそれぞれによって評価されたスケール(評価尺度)を表1に示す。
【0052】
【0053】
表1に示す結果に基づいて、評価者によって選択された評価尺度の平均値を評価項目ごとに算出した。この算出した平均値を評価項目のそれぞれに基づいて、その当該平均値が0以上3.0以下の範囲であれば“不可”を意味する「×」、3.0より大きく4.0未満であれば“良”を意味する「○」、4.0より大きければ“優秀”を意味する「◎」としてランク付けの最終評価を行った。その評価結果を表2に示す。
【0054】
【0055】
表2に示すように、いずれの評価項目でも比較例より優れていることがわかる。特に、「簡単に使える」および「スッキリした」の項目で高い評価を得ていることがわかる。
【0056】
このように本実施例によれば、本発明は泥パックよりも取り扱い容易であり、かつカッサ療法での血行促進、並びにクチャ粘土の皮膚の化学的吸着性および研磨性があいまって美容・美肌効果を高めることができることが使用試験からも明らかにされた。
【0057】
以上、図面を参照しながら具体的実施形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことはいうまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前述した実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
本発明は、泥パックよりも取り扱い容易であり、かつカッサ療法での血流促進、並びにクチャ粘土の皮膚の化学的吸着性および研磨性があいまって美容・美肌効果を高めることができるカッサ用具およびカッサ用具の製造方法として有用である。