(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164557
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】鍛造用TiAl合金、TiAl合金材及びTiAl合金材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 14/00 20060101AFI20221020BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20221020BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20221020BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
C22F1/00 624
C22F1/00 630K
C22F1/00 640B
C22F1/00 650A
C22F1/00 651B
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008171
(22)【出願日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2021070003
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮村 剛夫
(72)【発明者】
【氏名】竹山 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】中島 広豊
(57)【要約】
【課題】優れた耐酸化性及び高温クリープ強度を有するTiAl合金材を得ることができるとともに、熱間鍛造性に優れ、型鍛造が可能である鍛造用TiAl合金を提供する。
【解決手段】鍛造用TiAl合金は、Al:42.0原子%以上43.6原子%以下、Cu:0.5原子%以上2.0原子%以下、及びNb:3.0原子%以上7.0原子%以下、を含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al:42.0原子%以上43.6原子%以下、
Cu:0.5原子%以上2.0原子%以下、及び
Nb:3.0原子%以上7.0原子%以下、を含有し、
残部がTi及び不可避的不純物からなることを特徴とする鍛造用TiAl合金。
【請求項2】
Al:42.0原子%以上43.6原子%以下、
Cu:0.5原子%以上2.0原子%以下、及び
Nb:3.0原子%以上7.0原子%以下、を含有し、
残部がTi及び不可避的不純物からなり、
β相の面積率が0.5%以上15.0%以下であることを特徴とするTiAl合金材。
【請求項3】
Al:42.0原子%以上43.6原子%以下、
Cu:0.5原子%以上2.0原子%以下、及び
Nb:3.0原子%以上7.0原子%以下、を含有し、
残部がTi及び不可避的不純物からなる鍛造用TiAl合金を鍛造し、鍛造材を得る工程と、
前記鍛造材を熱処理する工程と、を有し、
前記鍛造材を熱処理する工程は、
1200℃以上1350℃以下の温度で熱処理する第1熱処理工程と、
前記第1熱処理工程の後に、850℃以上1000℃以下の温度で熱処理する第2熱処理工程と、を有することを特徴とするTiAl合金材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造用TiAl合金、TiAl合金材及びTiAl合金材の製造方法に関し、特に、優れた耐酸化性及びクリープ強度を有するTiAl合金材と、このようなTiAl合金材を得ることができるとともに、熱間鍛造性に優れ、型鍛造が可能である鍛造用TiAl合金及びTiAl合金材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
輸送機及び産業機械等のエンジンには、高い燃焼エネルギーを得るための過給機が採用されている。近時、エンジンの燃費を向上させるとともに、応答速度を向上させるため、過給機用部材として、高温耐性に優れ、軽量なTiAl合金の使用が実用化されている。
【0003】
種々のTiAl合金のうち、鋳造用TiAl合金等のような従来のTiAl合金は、結晶構造が面心立方格子(FCC:Face Centered Cubic lattice)構造のγ相と、六方最密格子(HCP:Hexagonal Close-Packed lattice)構造のα相から構成されている。このようなTiAl合金の材料組織は、熱処理後の冷却過程において、α相に薄い板状のγ相が析出し、ラメラ相を形成することが特徴である。
【0004】
ところで、熱間鍛造品は、鋳造品と比較して、強度及び靱性がともに優れているため、特に、これらの特性が要求される部材に適用することを目的として、熱間鍛造用TiAl合金の開発が進められている。熱間鍛造用TiAl合金には、高温変形しやすい体心立方格子(BCC:Body Centered Cubic lattice)構造のβ相を安定化する成分が添加されており、β相が変形の大部分を担っているため、熱間鍛造加工を可能としている。
【0005】
熱間鍛造が可能であるTiAl合金として、例えば、特許文献1には、Ti及びAlに、Nb、V及びBが添加され、硼化物の粒径が規定された鍛造用のTiAl合金が開示されている。また、特許文献2には、Al及びNbを含有し、添加成分の相対的な量が調整されたTiAl基合金、及びTi及びAlに、Nb、V、Cr及びMoが共添加されたTiAl基合金が開示されている。
さらに、特許文献3には、Ti、Al、Nb、Mo及び/又はMn、ならびにB及び/又はC及び/又はSiを含有し、β/B2-Ti相の割合が規定されたチタン-アルミニウム系合金材料が開示されている。また、特許文献4には、チタンとアルミニウムとニオブから組成され、所定のラメラ組織が形成されたチタンアルミナイド合金が開示されている。
【0006】
特許文献1~4に示すように、NbはTiAl合金の耐酸化性を向上させる重要な元素であり、多くの熱間鍛造用TiAl合金にはNbが添加されている。しかし、ラメラ相を含めたγ相の形成を前提として、高いAl濃度に設定された材料に、Nbを単独添加すると、1300℃未満の実用的な鍛造加熱温度域において、β相を十分に安定化させることはできない。そこで、多くの従来技術では、製造性の低い加工プロセスである「恒温鍛造」を用いるか、又はNbと他のβ安定化元素とを「共添加」して、鍛造加熱温度域で十分なβ相を形成させ、良好な熱間鍛造性を確保している。
【0007】
また、鍛造用TiAl合金は、鍛造後に材料組織を調整するための熱処理が必要である。このような熱処理としては、例えば、鍛造材のα相を再結晶させて、α単相化を促進する高温熱処理と、その後、α相内にγ板を析出させ、ラメラ組織を導入するための、より低温な熱処理との2回の熱処理が挙げられる。そして、2回目の熱処理後の材料組織がTiAl製品の材料組織となる。
【0008】
なお、α相は、高温ではα相を維持するものの、室温付近では規則化が進み、「α2相」と表記されることがある。また、β相は室温付近では「B2構造」となる。ただし、本願明細書におけるα相、β相の記載は、特に温度を限定するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6687118号公報
【特許文献2】特開2009-215631号公報
【特許文献3】特許第5926886号公報
【特許文献4】特許第5512964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述のように、Nbと他のβ安定化元素とを共添加すると、TiAl合金の熱処理後においても、多量のβ相が残留してしまい、機械特性の1つである高温クリープ強度が低下するという問題が生じる。
また、熱処理後にβ相が残留しないように、β安定化元素の少ない成分を選択すると、高温でのβ相が不足して熱間鍛造性が不足してしまうという問題が生じる。
このように、熱間鍛造性と高温クリープ強度とは、トレードオフの関係にあるともいえる。
【0011】
なお、TiAl合金の熱間鍛造としては、金型を室温又は数百度程度の予熱に留める通常の型鍛造と、金型を鍛造素材と同じ1200℃などの温度に加熱して、例えば、10-3/secのような、歪速度が遅い条件で、時間をかけて鍛造する恒温鍛造とが挙げられる。このような熱間鍛造方法のうち、恒温鍛造を用いた場合は、β相が不足しても加工可能な場合が多いが、恒温鍛造は1ストローク当りの時間が極めて長くなるため、生産性が低下する。
【0012】
すなわち、TiAl合金に対して、恒温鍛造ではなく、通常の型鍛造を用いて、優れた耐酸化性を確保する場合に、β安定化元素であり耐酸化性改善に寄与するNbと、別のβ安定化元素とを共添加する必要がある。
しかし、上記特許文献1~4に記載の方法を用いて、Nbと他のβ安定化元素とを共添加しても、熱処理後にβ相が残留して高温クリープ強度が不足する。
一方、β安定化元素の添加量を減らして、熱処理後のβ相を減少させると、高温でのβ相が不足して熱間鍛造性が劣ってしまう。
【0013】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、熱間鍛造性に優れ、型鍛造が可能である鍛造用TiAl合金、該鍛造用TiAl合金を用いて得られ、Nbの添加による優れた耐酸化性と高温クリープ強度とを有するTiAl合金材、及び該TiAl合金材を得るためのTiAl合金材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、鍛造用TiAl合金に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] Al:42.0原子%以上43.6原子%以下、
Cu:0.5原子%以上2.0原子%以下、及び
Nb:3.0原子%以上7.0原子%以下、を含有し、
残部がTi及び不可避的不純物からなることを特徴とする鍛造用TiAl合金。
【0015】
また、本発明の上記目的は、TiAl合金材に係る下記[2]の構成により達成される。
[2] Al:42.0原子%以上43.6原子%以下、
Cu:0.5原子%以上2.0原子%以下、及び
Nb:3.0原子%以上7.0原子%以下、を含有し、
残部がTi及び不可避的不純物からなり、
β相の面積率が0.5%以上15.0%以下であることを特徴とするTiAl合金材。
【0016】
さらに、本発明の上記目的は、TiAl合金材の製造方法に係る下記[3]の構成により達成される。
[3] Al:42.0原子%以上43.6原子%以下、
Cu:0.5原子%以上2.0原子%以下、及び
Nb:3.0原子%以上7.0原子%以下、を含有し、
残部がTi及び不可避的不純物からなる鍛造用TiAl合金を鍛造し、鍛造材を得る工程と、
前記鍛造材を熱処理する工程と、を有し、
前記鍛造材を熱処理する工程は、
1200℃以上1350℃以下の温度で熱処理する第1熱処理工程と、
前記第1熱処理工程の後に、850℃以上1000℃以下の温度で熱処理する第2熱処理工程と、を有することを特徴とするTiAl合金材の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱間鍛造性に優れ、型鍛造が可能である鍛造用TiAl合金、該鍛造用TiAl合金を鍛造することにより得られ、優れた耐酸化性及び高温クリープ強度を有するTiAl合金材、及び該TiAl合金材を得るためのTiAl合金材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、縦軸をCu濃度とし、横軸をAl濃度とした場合の、発明例及び比較例の関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、縦軸を最小クリープ速度とし、横軸をβ相分率とした場合の、発明例及び比較例の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0020】
[1.鍛造用TiAl合金]
従来のTiAl合金においては、熱間鍛造性向上のために、高温でのβ相の形成を促進すると、熱処理後もβ相が残留して高温クリープ強度が減少するという問題があった。
そこで、本発明者らは、Nb及びCuを規定の濃度で共添加することにより、熱間鍛造時のα相の変形能を向上させ、鍛造中はβ相を十分に確保しながら、熱処理後のβ相を低減することができることを見出した。
これにより、良好な高温クリープ強度を得ることができ、その結果、熱間鍛造性と高温クリープ強度とを両立することができる。
【0021】
以下、本発明に係る鍛造用TiAl合金に含有される成分と、その濃度の上限値及び下限値の限定理由について、更に詳細に説明する。
【0022】
<Al:42.0原子%以上43.6原子%以下>
Alは、TiAl合金の表面へのAl2O3保護膜の形成を促進する元素である。合金中に所定量のAlを含有させることにより、耐酸化性のベースを向上させるとともに、γ相を安定化し、α相へ多量のγ板を形成させて、ラメラ組織を形成することにより、TiAl合金のクリープ強度を向上させることができる。
TiAl合金におけるAl濃度が42.0原子%未満であると、所望のクリープ強度を得ることができない。したがって、Al濃度は42.0原子%以上とし、42.5原子%以上であることが好ましい。
一方、TiAl合金におけるAl濃度が43.6原子%を超えると、γ相が過度に安定化し、γ粒が形成されるため、所望のクリープ強度を得ることができず、また、熱間鍛造性も低下する。したがって、Al濃度は43.6原子%以下とし、43.5原子%以下であることが好ましい。
【0023】
<Cu:0.5原子%以上2.0原子%以下>
Cuは、高温においてβ相を安定化させる効果を有する元素であり、TiAl合金中のCu含有量を適切に制御することは、本実施形態において、最も重要な要件である。また、Cuは、熱間鍛造時のα相の変形能を向上させ、熱間鍛造温度でのみβ相を形成させる作用を有する元素でもある。
TiAl合金におけるCu濃度が0.5原子%未満であると、所望の熱間鍛造性を得ることができない。したがってCu濃度は0.5原子%以上とし、0.7原子%以上であることが好ましい。
一方、TiAl合金におけるCu濃度が2.0原子%を超えると、熱処理後にβ相が残留し、所望のクリープ強度を得ることができない。したがって、Cu濃度は2.0原子%以下とし、1.2原子%以下であることが好ましい。
【0024】
<Nb:3.0原子%以上7.0原子%以下>
Nbは、TiAl合金の耐酸化性を向上させる効果を有する元素である。
TiAl合金中におけるNb濃度が3.0原子%未満であると、得られる合金材の耐酸化性が低下する。したがって、Nb濃度は3.0原子%以上とし、4.5原子%以上であることが好ましい。
一方、TiAl合金におけるNb濃度が7.0原子%を超えると、α相が不安定となり、ラメラ粒の形成を確保することができず、高温クリープ強度が低下する。したがって、Nb濃度は7.0原子%以下とし、6.0原子%以下であることが好ましい。
【0025】
<残部>
本実施形態に係る鍛造用TiAl合金の上記成分を除く残部は、Ti及び不可避的不純物である。不可避的不純物としては、C、N、O、H、Cl、Fe、Si、Mg、Ca、Mn、Cr、V、Sn、Bi、Ni、Zr、Na、Be、Zn等が挙げられる。
【0026】
[2.TiAl合金材]
本実施形態に係るTiAl合金材は、上記[1.鍛造用TiAl合金]を鍛造し、所定の熱処理を施すことにより得られる。TiAl合金材の組成は、上記鍛造用TiAl合金の組成と同様である。以下、本実施形態に係るTiAl合金材の特徴について、詳細に説明する。
【0027】
<β相分率(β相の面積率):0.5%以上15.0%以下>
本発明に係るTiAl合金材は、β相分率が所定の範囲に制御されている。β相分率が0.5%未満であると、α相の粗大化による粒界割れが発生する。したがって、β相分率は、0.5%以上とし、1.0%以上であることが好ましい。
一方、β相分率が15.0%を超えると、所望の高温クリープ強度を確保することができない。したがって、β相分率は15.0%以下とし、10.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましい。
【0028】
なお、β相分率は、例えば、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて、TiAl材の断面の反射電子像を撮影し、視野全体に対するβ相の領域の面積率を算出することにより得ることができる。なお、反射電子像の撮影は、任意の複数箇所の断面において撮影し、それぞれの断面におけるβ相の面積率を求めることが好ましく、β相分率としては、これらの面積率を平均した平均面積率を採用することが好ましい。
【0029】
[3.TiAl合金材の製造方法]
本実施形態に係るTiAl合金材の製造方法は、上記[1.鍛造用TiAl合金]で説明した本実施形態に係る鍛造用TiAl合金を鍛造し、鍛造材を得る工程と、この鍛造材を所定の温度で熱処理する工程と、を有する。以下、本実施形態に係るTiAl合金材の製造方法について、詳細に説明する。
【0030】
<鍛造用TiAl合金を鍛造する工程>
本実施形態において、鍛造用TiAl合金を鍛造する際の鍛造条件は特に限定されない。鍛造する工程としては、例えば、鍛造用TiAl合金の鋳塊を所定の温度に加熱する工程と、加熱された鋳塊に圧力を印加する工程とを有する。
加熱温度及び加圧力等は、目的とする形状等によって、適切な範囲を選択することが好ましい。
【0031】
<鍛造材を熱処理する工程>
本実施形態においては、上記鍛造する工程により得られた鍛造材に対して、2回の熱処理を実施する。
1回目の熱処理工程(第1熱処理工程)では、金属組織をα単相組織に近づけることを目的とする。第1熱処理工程における温度が1200℃未満であると、金属組織をα相単相に近づけられないことがある。したがって、第1熱処理工程の温度は、1200℃以上とし、1250℃以上とすることが好ましい。
一方、第1熱処理工程における温度が1350℃を超えると、得られるTiAl合金材のβ相が増加し、上記β相分率が15.0%を超えるため、クリープ強度が低下する。したがって、第1熱処理工程の温度は、1350℃以下とし、1300℃以下とすることが好ましい。
【0032】
第1熱処理工程後の2回目の熱処理工程(第2熱処理工程)では、γ相を形成させて、[α2+γ]のラメラ組織を形成させることを目的としている。第2熱処理工程における温度が850℃未満であると、γ相の形成が十分でないか、熱処理時間が長くなり工業生産性が劣る。したがって、第2熱処理工程の温度は、850℃以上とし、875℃以上とすることが好ましい。
一方、第2熱処理工程における温度が1000℃を超えると、γ相の形成量が減少してしまい、強度を担うために必要な所望のラメラ組織が得られない。したがって、第2熱処理工程の温度は、1000℃以下とし、975℃以下とすることが好ましい。
このように、本実施形態においては、上記[1.鍛造用TiAl合金]において規定した組成を有するTiAl合金を鍛造し、得られた鍛造材に対して、上記第1熱処理工程及び第2熱処理工程を実施することにより、上記[2.TiAl合金材]において記載した、β相分率を有するTiAl合金材を得ることができる。
【0033】
なお、本実施形態に係るTiAl合金材は、型鍛造が可能であり、優れた熱間鍛造性を有する鍛造用TiAl合金から得られるものであり、高温耐性に優れ、軽量であるとともに、優れたクリープ強度を有するため、このような材料特性が要求される部材として使用されることが好ましい。したがって、本実施形態に係るTiAl合金材は、例えば、輸送機及び産業機械等のタービン等の内燃機関用部材として、好適に使用することができる。
【実施例0034】
以下、本実施形態に係る鍛造用TiAl合金の発明例及び比較例について説明する。
【0035】
[熱間鍛造性の評価]
(鍛造材の作製)
まず、下記表1に示す組成を有する原料を準備し、コールドクルーシブル誘導溶解(CCIM:Cold Crucible Induction Melting)法により、重量が約9kgであるTiAl合金鋳塊を作製した。TiAl合金鋳塊は、テーパを有する円柱形状であり、軸方向の一端面の直径を110mm、他端面の直径を85mmとし、軸方向の長さを300mmとした。
次に、得られたTiAl合金鋳塊から、直径が80mmm、軸方向の長さが120mmである円柱形状の試験片を作製し、1250℃以上の温度で0.5時間以上保持した後、上記試験片の軸方向に対して、プレス機を使用し、圧下率を70~80%として1軸圧縮加工を行うことにより、円盤状の鍛造材を作製した。なお、圧下率を約10%変化させた場合であっても、熱間鍛造性及びクリープ強度の評価結果には大きく影響しないと考えられる。
【0036】
(熱間鍛造性の評価試験)
その後、得られた鍛造材を、円盤状の径方向の略中央位置で切断し、2つの半月状の鍛造材に分断した後、各部材に対して、径方向の少なくとも120mmの長さの断面領域における亀裂を観察し、深さが2mm以上である亀裂の本数をカウントした。そして、亀裂の本数を、切断により得た2つの鍛造材の断面における長手方向の長さの合計(24~26cm)で除することにより、亀裂数密度を算出した。
熱間鍛造性の評価基準としては、上記亀裂数密度が0.45(本/cm)以下であったものを、熱間鍛造性が良好なものとして合格とし、亀裂数密度が0.45(本/cm)を超えたものを不合格とした。
【0037】
[クリープ強度の評価]
(試験材の作製)
上記のようにして得た円盤状の鍛造材において、径方向の略中央位置から、幅が14mm、長さが130mm、厚さが24mmの角材を6本採取し、このうち任意の1本を、クリープ強度の評価試験用試験材とした。
【0038】
(熱処理)
上記試験材に対して、下記表1に併せて示す種々の条件で2回の熱処理を行った。なお、1回目の熱処理は、α単相組織に近づけることを目的としており、2回目の熱処理は、γ相を形成させて、[α2+γ]のラメラ組織を形成させることを目的としている。
1回目の熱処理条件は、約30℃毎に熱処後温度を変化させて熱処理を実施して、全ての試験片について材料組織を観察し、α単相化が進行していた試験片のうち、最も低い温度を採用した。
2回目の熱処理は、950℃の温度で1時間、又は900℃の温度で3時間の条件で実施し、熱処理材を得た。
【0039】
(クリープ強度の評価試験)
得られた熱処理材から、全長が80mm、平行部の直径が6mm、長さが30mmであり、ねじ部(試験片の長手方向両端部)がM12であるつば付きクリープ試験片を作製し、シングル式クリープ試験機でクリープレート試験を実施した。試験条件は、温度を800℃、応力を150MPaとし、試験データから、最小クリープ速度を求めた。なお、最小クリープ速度は、高温でどれだけ変形が生じるかの指標であり、クリープ強度の指標の1つとして一般的に用いられている値である。
クリープ強度の評価基準としては、最小クリープ速度が3.0×10-7(sec-1)以下であったものを合格とし、最小クリープ速度が3.0×10-7(sec-1)を超えたものを不合格とした。
【0040】
[TiAl合金材の組織の観察]
(試験片の作成)
上記熱処理により得られた熱処理材から、クリープ試験片を採取した後の、長手方向端部の残材の表面を、機械化学研磨で鏡面化させ、組織観察用試験片を作製した。
【0041】
(β相の面積率の測定)
走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて、倍率を400倍として、上記試験片の反射電子像を撮影した。なお、撮影は、上記試験片の板厚の中央付近に対して実施し、各試験片について3枚ずつ写真を得た。そして、各SEM写真に対して、β相特有の明るいコントラスト(組成情報を反映したZコントラスト)から、β相の存在を識別し、画像処理ソフトを用いてβ相の領域を塗り分けた。その後、画像解析ソフト「Image Pro Plus」(Media Cybernetics社製)を用いて、視野全体に対するβ相の面積率を求め、3枚の写真におけるβ相の平均面積率を算出した。
【0042】
β相の平均面積率及び評価結果を下記表1に併せて示す。
【0043】
【0044】
上記表1に示すように、発明例No.1~5は、TiAl合金の組成が、本発明において規定する要件を満たすとともに、TiAl合金材のβ相の面積率も本発明において規定する要件を満たしているため、良好な熱間鍛造性と高温クリープ強度との両立を実現できた。
【0045】
一方、比較例No.6は、Al濃度が本発明範囲の上限を超えているため、熱間鍛造性が低下した。比較例No.7は、Al濃度が本発明範囲の上限を超えているため、熱間鍛造性が劣り、また、高温にて脆性的な破壊を呈したため、クリープ試験直後に脆性的に破断して、クリープ強度が著しく低下した。比較例No.8は、Al濃度及びNb濃度が本発明範囲の下限未満であり、Cu濃度が本発明範囲の上限を超えているため、クリープ強度が低下した。比較例No.9は、Nb濃度が本発明範囲の下限未満であるとともに、Cu濃度が本発明範囲の上限を超えているため、クリープ強度が低下した。比較例No.10は、Cu濃度が本発明範囲の上限を超えているため、第1及び第2熱処理工程後にβ相が残留し、β相の平均面積率が本発明で規定する範囲を超え、その結果、クリープ強度が低下した。
【0046】
図1は、縦軸をCu濃度とし、横軸をAl濃度とした場合の、発明例及び比較例の関係を示すグラフである。
図1中において、白抜きは、クリープ強度が良好であり、黒塗は、クリープ強度が不良であったことを表す。また、「○」は、熱間鍛造性が良好であり、「◇」は、熱間鍛造性が不良であったことを表す。すなわち、「○」は、熱間鍛造性及びクリープ強度が良好であったものであり、発明例No.1~5を表す。「●」は、熱間鍛造性は良好であったが、クリープ強度が低下したものであり、比較例No.8、9及び10を表す。また、「◇」は、クリープ強度が良好であったが、熱間鍛造性が低下したものであり、比較例No.6を表す。「◆」は、熱間鍛造性及びクリープ強度が低下したものであり、比較例No.7を表す。なお、図中に破線で示す範囲は、Cu濃度及びAl濃度が本発明の範囲内となる領域である。
図1に示すように、TiAl合金におけるCu濃度及びAl濃度が、本発明において規定する範囲内であると、熱間鍛造性に優れ、特に優れたクリープ強度を有するTiAl合金材を得ることができることが示された。
【0047】
図2は、縦軸を最小クリープ速度とし、横軸をβ相分率とした場合の、発明例及び比較例の関係を示すグラフである。
図2中において、「○」、「●」、「◇」及び「◆」は、
図1と同様である。なお、「◆」で示される比較例No.7は、試験開始直後に瞬間的に破断したため、図中に「↑」を記載し、クリープ速度が極めて早いことを示している。また、図中に破線で示す範囲は、β相分率が本発明の範囲内であり、最小クリープ速度が合格となる領域である。
図2に示すように、本発明に係る鍛造用TiAl合金を用いて、本発明に係る製造方法により得られたTiAl合金材は、残留β相分率が小さいほど、良好な最小クリープ速度が得られる傾向が示された。β相分率が5%以下であれば、本発明の中でもさらに良好な最小クリープ速度が得られた。なお、β相分率が0.5%未満であると、最小クリープ速度が上昇(悪化)するか、鍛造性が低下することが示された。