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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164588
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】コンタクトレンズ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
G02C7/04
【審査請求】有
【請求項の数】32
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022059811
(22)【出願日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】63/175,567
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】111109096
(32)【優先日】2022-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】512020327
【氏名又は名称】ペガヴィジョン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】PEGAVISION CORPORATION
【住所又は居所原語表記】2F-1,No.5,SHING YEH ST.,GUISHAN DIST.,TAOYUAN CITY 333,TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】クン,シアン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】コ,イエン-チュン
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BB03
2H006BB05
2H006BB08
2H006BB10
2H006BC07
(57)【要約】
【課題】コンタクトレンズを提供する。
【解決手段】反応性官能基を有する反応性添加剤を含むレンズ組成物により形成され、表面に反応性官能基を有するレンズ体と、反応性官能基と共有結合してレンズ体の表面に付着される改質層、及び親水性化合物が改質層と共有結合することで改質層に形成される親水層を含む親水性表面改質層と、を備えるコンタクトレンズ。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性官能基を有する反応性添加剤を含むレンズ組成物により形成され、表面に前記反応性官能基を有するレンズ体と、
前記反応性官能基と共有結合して前記レンズ体の前記表面に付着される改質層、及び第1の親水性化合物が前記改質層と共有結合することで前記改質層に形成される第1の親水層を含む親水性表面改質層と、
を備えるコンタクトレンズ。
【請求項2】
前記親水性表面改質層は、前記レンズ体の前記表面の第1の部分に分散している複数の親水性樹脂構造を含み、前記レンズ体の前記表面の第2の部分は露出することを特徴とする、請求項1に記載のコンタクトレンズ。
【請求項3】
前記改質層は、アゼチジニウム基、エポキシ基、ビニル基又はそれらの組み合わせを含有する化合物が前記反応性官能基と共有結合することで前記レンズ体の前記表面に形成されることを特徴とする、請求項1~請求項2の何れか一項に記載のコンタクトレンズ。
【請求項4】
アゼチジニウム基を含有する前記化合物は、アゼチジニウム基を含有するエピクロロヒドリン官能化ポリアミン、アゼチジニウム基を含有するエピクロロヒドリン官能化ポリアミドアミン又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項3に記載のコンタクトレンズ。
【請求項5】
前記反応性官能基は、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、ヒドロキシ基又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項1~請求項4の何れか一項に記載のコンタクトレンズ。
【請求項6】
前記反応性添加剤は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アンゲリカ酸、アリルアミン、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項1~請求項5の何れか一項に記載のコンタクトレンズ。
【請求項7】
前記レンズ組成物において、前記反応性添加剤の含有量は0.1wt%~10wt%であることを特徴とする、請求項1~請求項6の何れか一項に記載のコンタクトレンズ。
【請求項8】
前記第1の親水性化合物は、カルボキシル基又はアミノ基を有する単糖、カルボキシル基又はアミノ基を有する二糖、カルボキシル基又はアミノ基を有するオリゴ糖、カルボキシル基又はアミノ基を有する多糖又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項1~請求項7の何れか一項に記載のコンタクトレンズ。
【請求項9】
前記第1の親水性化合物は、ヒアルロン酸、アルギン酸、コンドロイチン硫酸、ポリグルタミン酸、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、ニコチンアミド、上記化合物の誘導体、上記酸の塩類又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項8に記載のコンタクトレンズ。
【請求項10】
前記第1の親水性化合物は、カルボキシル基又はアミノ基を含有する反応性ビニル系単量体である少なくとも1つの第1の単量体と、非反応性ビニル系単量体である少なくとも1つの第2の単量体とが共重合した共重合体であることを特徴とする、請求項1~請求項9の何れか一項に記載のコンタクトレンズ。
【請求項11】
前記反応性ビニル系単量体は、アクリル酸、ビニル官能化アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アンゲリカ酸、アリルアミン、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項10に記載のコンタクトレンズ。
【請求項12】
前記非反応性ビニル系単量体は、アクリルアミド、ホスホコリン、ポリエチレングリコール、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩、N-ビニル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアクリルアミド又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項10~請求項11の何れか一項に記載のコンタクトレンズ。
【請求項13】
前記少なくとも1つの第1の単量体と前記少なくとも1つの第2の単量体において、前記非反応性ビニル系単量体は少なくとも55wt%以上であることを特徴とする、請求項10~請求項12の何れか一項に記載のコンタクトレンズ。
【請求項14】
前記親水性表面改質層は、第2の親水性化合物が前記第1の親水層と共有結合することで前記第1の親水層に形成される第2の親水層を更に含むことを特徴とする、請求項1~請求項13の何れか一項に記載のコンタクトレンズ。
【請求項15】
前記親水性表面改質層は、厚さが100nm以下であることを特徴とする、請求項1~請求項14の何れか一項に記載のコンタクトレンズ。
【請求項16】
前記コンタクトレンズは、接触角ヒステリシスが30度以下であることを特徴とする、請求項1~請求項15の何れか一項に記載のコンタクトレンズ。
【請求項17】
反応性官能基を有する反応性添加剤を含むレンズ組成物を硬化反応させることで、表面に前記反応性官能基を有するレンズ体を形成する工程と、
前記反応性官能基と共有結合して前記レンズ体の前記表面に付着される改質層を、前記レンズ体に形成すること、及び
前記改質層を有する前記レンズ体を第1の親水性化合物に接触させ、前記第1の親水性化合物と前記改質層が反応して共有結合を形成することで、第1の親水層を前記改質層に形成することを含む前記レンズ体に表面改質を行う工程と、
が含まれるコンタクトレンズの製造方法。
【請求項18】
前記レンズ体に前記表面改質を行う工程は、抽出及び濡れのプロセスで行われることを特徴とする、請求項17に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項19】
前記改質層を前記レンズ体に形成することは、前記レンズ体をアゼチジニウム基、エポキシ基、ビニル基又はそれらの組み合わせを含有する化合物に接触させ、前記化合物と前記反応性官能基が反応して共有結合を形成することで、前記改質層を形成することを含むことを特徴とする、請求項17~請求項18の何れか一項に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項20】
前記化合物と前記反応性官能基との第1の反応時間は、10分間~12時間であり、前記第1の親水性化合物と前記改質層との第2の反応時間は、10分間~12時間であることを特徴とする、請求項19に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項21】
前記レンズ体をアゼチジニウム基、エポキシ基、ビニル基又はそれらの組み合わせを含有する前記化合物に接触させることは、20℃~140℃の第1の反応温度で行われることを特徴とする、請求項19~請求項20の何れか一項に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項22】
前記第1の反応温度は、20℃~40℃であることを特徴とする、請求項21に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項23】
アゼチジニウム基を含有する前記化合物は、アゼチジニウム基を含有するエピクロロヒドリン官能化ポリアミン、アゼチジニウム基を含有するエピクロロヒドリン官能化ポリアミドアミン又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項19~請求項22の何れか一項に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項24】
前記レンズ体に前記表面改質を行う前に、プラズマ処理により前記レンズ体を処理しないことを特徴とする、請求項17~請求項23の何れか一項に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項25】
前記反応性官能基は、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、ヒドロキシ基又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項17~請求項24の何れか一項に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項26】
前記反応性添加剤は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アンゲリカ酸、アリルアミン、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項17~請求項25の何れか一項に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項27】
前記レンズ組成物において、前記反応性添加剤の含有量は0.1wt%~10wt%であることを特徴とする、請求項17~請求項26の何れか一項に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項28】
前記第1の親水性化合物は、カルボキシル基又はアミノ基を有する単糖、カルボキシル基又はアミノ基を有する二糖、カルボキシル基又はアミノ基を有するオリゴ糖、カルボキシル基又はアミノ基を有する多糖又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項17~請求項27の何れか一項に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項29】
前記第1の親水性化合物は、カルボキシル基又はアミノ基を含有する反応性ビニル系単量体である少なくとも1つの第1の単量体と、非反応性ビニル系単量体である少なくとも1つの第2の単量体とが共重合した共重合体であることを特徴とする請求項17~請求項28の何れか一項に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項30】
前記反応性ビニル系単量体は、アクリル酸、ビニル官能化アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アンゲリカ酸、アリルアミン、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項29に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項31】
前記非反応性ビニル系単量体は、アクリルアミド、ホスホコリン、ポリエチレングリコール、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩、N-ビニル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアクリルアミド又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項29~請求項30の何れか一項に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【請求項32】
前記改質層及び前記第1の親水層を有する前記レンズ体を第2の親水性化合物に接触させ、前記第2の親水性化合物と前記第1の親水層が反応して共有結合を形成することで、第2の親水層を前記第1の親水層に形成する工程を更に含むことを特徴とする請求項17~請求項31の何れか一項に記載のコンタクトレンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の内容は、コンタクトレンズ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズが益々流行しているにつれて、コンタクトレンズの快適さ、潤滑度及び酸素透過率は、益々着用者に重視されるようになってきた。コンタクトレンズを製造する際に、高通気性材料を使用する傾向があり、これはまた製造業者がシロキサン系材料を使用してシリコンハイドロゲルレンズを製造するように促した。しかしながら、シリコンハイドロゲルレンズは、疎水性質を有するため、良好な濡れ性を備えていない。従って、製造業者が皆プラズマでレンズ表面を処理するなどのレンズ表面を処理する技術の開発に専念してきたが、プラズマ処理に製造コストが高いという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記に鑑みて、レンズ表面を処理する新規な技術を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の内容は、反応性官能基を有する反応性添加剤を含むレンズ組成物により形成され、表面に反応性官能基を有するレンズ体と、反応性官能基と共有結合してレンズ体の表面に付着される改質層、及び第1の親水性化合物が改質層と共有結合することで改質層に形成される第1の親水層を含む親水性表面改質層と、を備えるコンタクトレンズを提供する。
【0005】
いくつかの実施形態において、親水性表面改質層は、レンズ体の表面の第1の部分に分散している複数の親水性樹脂構造を含み、レンズ体の表面の第2の部分は露出する。
【0006】
いくつかの実施形態において、改質層は、アゼチジニウム基(azetidinium group)、エポキシ基、ビニル基又はそれらの組み合わせを含有する化合物が反応性官能基と共有結合することでレンズ体の前記表面に形成される。
【0007】
いくつかの実施形態において、アゼチジニウム基を含有する化合物は、アゼチジニウム基を含有するエピクロロヒドリン官能化ポリアミン(epichlorohydrin-functioalized polyamine)、アゼチジニウム基を含有するエピクロロヒドリン官能化ポリアミドアミン(epichlorohydrin-functioalize polyamidoamine)又はそれらの組み合わせを含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、反応性官能基は、カルボキシル基(carboxyl group)、アミノ基(amino group)、チオール基(thiol group)、ヒドロキシ基(hydroxy group)又はそれらの組み合わせを含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、反応性添加剤は、アクリル酸(acrylic acid)、メタクリル酸(methacrylic acid)、マレイン酸(maleic acid)、フマル酸(fumaric acid)、アコニット酸(aconitic acid)、メサコン酸(mesaconic acid)、シトラコン酸(citraconic acid)、イタコン酸(itaconic acid)、アンゲリカ酸(angelic acid)、アリルアミン(allylamine)、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸又はそれらの組み合わせを含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、レンズ組成物における反応性添加剤の含有量は0.1wt%~10wt%である。
【0011】
いくつかの実施形態において、第1の親水性化合物は、カルボキシル基又はアミノ基を有する単糖(monosaccharide)、カルボキシル基又はアミノ基を有する二糖(disaccharide)、カルボキシル基又はアミノ基を有するオリゴ糖(oligosaccharide)、カルボキシル基又はアミノ基を有する多糖(polysaccharide)又はそれらの組み合わせを含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、第1の親水性化合物は、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、アルギン酸(alginic acid)、コンドロイチン硫酸(chondroitin sulfate)、ポリグルタミン酸(polyglutamic acid)、ピロリドンカルボン酸ナトリウム(sodium pyrrolidone carboxylate;sodium PCA)、ニコチンアミド(nicotinamide)、上記化合物の誘導体、上記酸の塩類又はそれらの組み合わせを含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、第1の親水性化合物は、カルボキシル基又はアミノ基を含有する反応性ビニル系単量体である少なくとも1つの第1の単量体と、非反応性ビニル系単量体である少なくとも1つの第2の単量体とが共重合した共重合体である。
【0014】
いくつかの実施形態において、反応性ビニル系単量体は、アクリル酸、ビニル官能化アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アンゲリカ酸、アリルアミン、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸又はそれらの組み合わせを含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、非反応性ビニル系単量体は、アクリルアミド(acrylamide)、ホスホコリン(phosphocholine)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol)、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩(2-aminoethyl methacrylate hydrochloride)、N-ビニル-2-ピロリドン(N-vinylpyrrolidone)、N,N-ジメチルアクリルアミド(N,N-dimethacrylamide)又はそれらの組み合わせを含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの第1の単量体と少なくとも1つの第2の単量体における非反応性ビニル系単量体は少なくとも55wt%以上である。
【0017】
いくつかの実施形態において、親水性表面改質層は、第2の親水性化合物が第1の親水層と共有結合することで第1の親水層に形成される第2の親水層を更に含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、親水性表面改質層は、厚さが100nm以下である。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記何れか1つの実施形態のコンタクトレンズは、接触角ヒステリシス(hysteresis)が30度以下である。
【0020】
本開示の内容は、反応性官能基を有する反応性添加剤を含むレンズ組成物を硬化反応させることで、表面に反応性官能基を有するレンズ体を形成する工程(i)と、反応性官能基と共有結合してレンズ体の表面に付着される改質層を、レンズ体に形成すること、及び改質層を有するレンズ体を第1の親水性化合物に接触させ、第1の親水性化合物と改質層が反応して共有結合を形成することで、第1の親水層を改質層に形成すること、を含むレンズ体に表面改質を行う工程(ii)とが含まれる、コンタクトレンズの製造方法を提供する。
【0021】
いくつかの実施形態において、レンズ体に表面改質を行う工程は、抽出及び濡れのプロセス(process of extraction and wetting)で行われる。
【0022】
いくつかの実施形態において、改質層をレンズ体に形成することは、レンズ体をアゼチジニウム基、エポキシ基、ビニル基又はそれらの組み合わせを含有する化合物に接触させ、化合物と反応性官能基が反応して共有結合を形成することで、改質層を形成することを含む。
【0023】
いくつかの実施形態において、化合物と反応性官能基との第1の反応時間は、10分間~12時間であり、第1の親水性化合物と改質層との第2の反応時間は、10分間~12時間である。
【0024】
いくつかの実施形態において、レンズ体をアゼチジニウム基、エポキシ基、ビニル基又はそれらの組み合わせを含有する化合物に接触させることは、20℃~140℃の第1の反応温度で行われる。
【0025】
いくつかの実施形態において、第1の反応温度は、20℃~40℃である。
【0026】
いくつかの実施形態において、アゼチジニウム基を含有する化合物は、アゼチジニウム基を含有するエピクロロヒドリン官能化ポリアミン、アゼチジニウム基を含有するエピクロロヒドリン官能化ポリアミドアミン又はそれらの組み合わせを含む。
【0027】
いくつかの実施形態において、レンズ体に表面改質を行う前に、プラズマ処理によりレンズ体を処理しない。
【0028】
いくつかの実施形態において、反応性官能基は、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、ヒドロキシ基又はそれらの組み合わせを含む。
【0029】
いくつかの実施形態において、反応性添加剤は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アンゲリカ酸、アリルアミン、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸又はそれらの組み合わせを含む。
【0030】
いくつかの実施形態において、レンズ組成物における反応性添加剤の含有量は0.1wt%~10wt%である。
【0031】
いくつかの実施形態において、第1の親水性化合物は、カルボキシル基又はアミノ基を有する単糖、カルボキシル基又はアミノ基を有する二糖、カルボキシル基又はアミノ基を有するオリゴ糖、カルボキシル基又はアミノ基を有する多糖又はそれらの組み合わせを含む。
【0032】
いくつかの実施形態において、第1の親水性化合物は、カルボキシル基又はアミノ基を含有する反応性ビニル系単量体である少なくとも1つの第1の単量体と、非反応性ビニル系単量体である少なくとも1つの第2の単量体とが共重合した共重合体である。
【0033】
いくつかの実施形態において、反応性ビニル系単量体は、アクリル酸、ビニル官能化アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アンゲリカ酸、アリルアミン、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸又はそれらの組み合わせを含む。
【0034】
いくつかの実施形態において、非反応性ビニル系単量体は、アクリルアミド、ホスホコリン、ポリエチレングリコール、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩、N-ビニル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアクリルアミド又はそれらの組み合わせを含む。
【0035】
いくつかの実施形態において、コンタクトレンズの製造方法は、改質層及び第1の親水層を有するレンズ体を第2の親水性化合物に接触させ、第2の親水性化合物と第1の親水層が反応して共有結合を形成することで、第2の親水層を第1の親水層に形成することを更に含む。
【0036】
前記一般的な記述及び以下の具体的な説明は、例示的且つ説明的なものに過ぎず、請求される本開示の内容の更なる説明を提供する旨であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本開示の内容の上記及び他の態様、特徴及び他のメリットは、明細書の内容を参照しながら添付される図面に合わせてより明瞭に理解されるであろう。
図1】実施例1の高酸素透過率のシリコンハイドロゲルレンズ体を原子間力顕微鏡で撮影した相図である。
図2】実施例2の表面処理された高酸素透過率のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズを原子間力顕微鏡(atomic force microscope;AFM)で撮影した相図である。
図3】アルコン(Alcon)のDailies Total 1レンズをAFMで撮影した相図である。
図4】シリコンハイドロゲルコンタクトレンズの接触角ヒステリシスの実験図である。
図5】染色後のシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの透過率の実験図である。
図6】シリコンハイドロゲルコンタクトレンズの接触角ヒステリシスの実験図である。
図7】同上
図8A】同上
図8B】同上
図9A】染色後のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの透過率の実験図である。
図9B】同上
図10】シリコンハイドロゲルコンタクトレンズの接触角ヒステリシスの実験図である。
図11】同上
図12】異なる実施例及び比較例のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの押し込みの実験図である。
図13】同上
図14】同上
図15】同上
図16】同上
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面で本開示の内容の複数の実施形態を開示し、明確に説明するために、多くの実際的な細部を以下の記述で合わせて説明する。しかしながら、理解すべきなのは、これらの実際的な細部が、本開示の内容を制限するように適用されるものではない。つまり、本開示の内容の一部の実施形態において、これらの実際的な細部は必ずしも必要なものではない。また、図面を簡略化するために、一部の従来慣用の構造と素子は、図面において簡単で模式的に示される。
【0039】
本文では、「ある数値~別の数値」に表される範囲は、明細書において前記範囲内の全ての数値を一々列挙することを回避するための概要的な表現形式である。従って、ある特定の数値範囲の記載は、明細書において前記任意の数値及び前記より小さい数値範囲を明確に記載されるように、前記数値範囲内の任意の数値及び前記数値範囲内の任意の数値によって規定されたより小さい数値範囲が含まれる。
【0040】
下記の一連の工程又はステップを用いてここで開示される方法を説明するが、これらの工程又はステップに示す順序は、本開示の内容を制限するものとして解釈すべきではない。例えば、一部の工程又はステップは、異なる順序で行われるか、及び/又は他のステップと同時に行われてよい。また、必ず図示される工程、ステップ及び/又は特徴の全てを実行してこそ本開示の内容の実施形態を実現できるとは限らない。また、ここに記載の各工程又はステップは、複数のサブステップ又は動作を含んでよい。
【0041】
本開示の内容は、レンズ体と、親水性表面改質層と、を備えるコンタクトレンズを提供する。レンズ体は、反応性官能基を有する反応性添加剤を含むレンズ組成物により形成され、表面に反応性官能基を有する。いくつかの実施形態において、反応性官能基は、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、ヒドロキシ基又はそれらの組み合わせを含む。親水性表面改質層は、反応性官能基と共有結合してレンズ体の表面に付着される改質層、及び第1の親水性化合物が改質層と共有結合することで改質層に形成される第1の親水層を含む。いくつかの実施形態において、改質層は、アゼチジニウム基、エポキシ基、ビニル基又はそれらの組み合わせを含有する化合物が反応性官能基と共有結合することでレンズ体の表面に形成される。いくつかの実施形態において、親水性表面改質層は、複数の改質層及び複数の第1の親水層を含み、レンズ体の表面には改質層、第1の親水層、改質層、第1の親水層等が順に覆われている。設計要求に応じて、改質層及び第1の親水層の数を調整してよい。いくつかの実施形態において、親水性表面改質層は、厚さが100nm以下であり、例えば、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、70、80、90又は100nmである。アゼチジニウム基は、電気陽性基であり、以下の式(1)に示す構造を有する。
【化1】
【0042】
本開示の内容では、反応性添加剤を含むレンズ組成物によりレンズ体を形成することで、レンズ体の表面が、アゼチジニウム基、エポキシ基、ビニル基又はそれらの組み合わせを含有する化合物と共有結合できる反応性官能基を有するようになる。まずレンズ体を形成してから、プラズマによりレンズ体を処理するプロセスに比べて、本開示の内容は、コンタクトレンズの製造フローがより簡略化されているため、プロセスの複雑性を低減することができ、製造コストを削減することができる。
【0043】
いくつかの実施形態において、親水性表面改質層は、レンズ体の表面の第1の部分に分散している複数の親水性樹脂構造を含み、レンズ体の表面の第2の部分は露出する。以下、原子間力顕微鏡(AFM)で撮影された相図について更に説明する。
【0044】
いくつかの実施形態において、コンタクトレンズは、接触角ヒステリシスが30度以下である。一例として、接触角ヒステリシスは、1度~30度の範囲内にあり、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25又は30度である。以上から分かるように、本開示の内容のコンタクトレンズは、優れた親水性を有する。
【0045】
いくつかの実施形態において、親水性表面改質層は、第2の親水性化合物が第1の親水層と共有結合することで第1の親水層に形成される第2の親水層を更に含む。製造業者の設計要求に応じて、コンタクトレンズが所望の性質を有するように、第2の親水性化合物の種類を選択してよい。
【0046】
本開示の内容は、以下の工程を含むコンタクトレンズの製造方法を提供する。工程(i)は、反応性官能基を有する反応性添加剤を含むレンズ組成物を硬化反応させることで、表面に反応性官能基を有するレンズ体を形成する。いくつかの実施形態において、反応性官能基は、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、ヒドロキシ基又はそれらの組み合わせを含む。工程(ii)は、レンズ体に表面改質を行い、反応性官能基と共有結合してレンズ体の表面に付着される改質層を、レンズ体に形成すること、及び改質層を有するレンズ体を第1の親水性化合物に接触させ、第1の親水性化合物と改質層が反応して共有結合を形成することで、第1の親水層を改質層に形成することを含む。
【0047】
いくつかの実施形態において、改質層をレンズ体に形成することは、レンズ体をアゼチジニウム基、エポキシ基、ビニル基又はそれらの組み合わせを含有する化合物に接触させ、化合物と反応性官能基が反応して共有結合を形成することで、改質層を形成することを含む。レンズ体に表面改質を行う工程では、低温環境だけで、アゼチジニウム基、エポキシ基、ビニル基又はそれらの組み合わせを含有する化合物と反応性官能基とを反応させ、十分な共有結合を形成し、レンズ体の表面に良好な付着力を有する改質層を形成することができる。本開示の内容の製造方法は、低温で優れた親水性を有するコンタクトレンズを製造することができる。いくつかの実施形態において、レンズ体をアゼチジニウム基、エポキシ基、ビニル基又はそれらの組み合わせを含有する化合物に接触させることは、20℃~140℃の第1の反応温度で行われる。いくつかの実施形態において、第1の反応温度は、20℃~40℃である。
【0048】
上記のステップから分かるように、改質層と第1の親水層は、2つの異なるステップで形成される。改質層は、レンズ体と第1の親水層の間に介在することが分かる。いくつかの実施形態において、化合物と第1の親水性化合物は架橋構造を形成してレンズ体の表面を覆う。
【0049】
いくつかの実施形態において、レンズ体に表面改質を行うことは、抽出及び濡れのプロセスで行われる。換言すれば、本開示の内容の表面改質工程は、従来のコンタクトレンズの製造における抽出及び濡れプロセスに統合可能であり、従来のプロセス及び装置を大幅に調整することなく、レンズ体に表面改質を行うことができる。
【0050】
いくつかの実施形態において、コンタクトレンズの製造方法は、改質層及び第1の親水層を有するレンズ体を第2の親水性化合物に接触させ、第2の親水性化合物と第1の親水層が反応して共有結合を形成することで、第2の親水層を第1の親水層に形成することを更に含む。製造業者の設計要求に応じて、コンタクトレンズが所望の性質を有するように、第2の親水性化合物の種類を選択してよい。
【0051】
いくつかの実施形態において、化合物と反応性官能基との第1の反応時間は、10分間~12時間であり、第1の親水性化合物と改質層との第2の反応時間は、10分間~12時間である。
【0052】
いくつかの実施形態において、レンズ体に表面改質を行う前に、プラズマ処理によりレンズ体を処理しない。いくつかの実施形態において、レンズ体に表面改質を行う前に、ポリイオン材料(polyionic material)をレンズ体の表面に堆積しない。従って、まずレンズ体を形成してから、プラズマによりレンズ体を処理するプロセスに比べて、本開示の内容の製造方法はより簡略化されているため、プロセスの複雑性を低減することができる。
【0053】
いくつかの実施形態において、レンズ体をアゼチジニウム基、エポキシ基、ビニル基又はそれらの組み合わせを含有する化合物に接触させる工程は、レンズ体をこの化合物を含有する溶液に浸漬することを含み、化合物の含有量は0.005wt%~5wt%であり、例えば0.005、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.1、0.5、1、2、3、4又は5wt%である。
【0054】
いくつかの実施形態において、改質層を有するレンズ体を第1の親水性化合物に接触させる工程は、改質層を有するレンズ体を第1の親水性化合物を含有する溶液に浸漬することを含み、第1の親水性化合物の含有量は0.005wt%~2.5wt%であり、例えば0.005、0.01、0.05、0.1、0.5、1、1.5、2又は2.5wt%である。
【0055】
いくつかの実施形態において、コンタクトレンズの製造方法は、改質層及び第1の親水層を有するレンズ体に高圧滅菌処理を行うことを更に含む。高圧滅菌処理によれば、コンタクトレンズの親水性を更に向上させ、コンタクトレンズの接触角ヒステリシスを低減することができる。
【0056】
次に、前記したコンタクトレンズ及びコンタクトレンズの製造方法について、各種の実施形態においてレンズ組成物、反応性添加剤、第1の親水性化合物、第2の親水性化合物及びアゼチジニウム基、エポキシ基、ビニル基又はそれらの組み合わせを含有する化合物の材料と含有量を更に例を挙げて説明する。
【0057】
いくつかの実施形態において、レンズ組成物は、以下の式(2)に示す構造を有するシリコン高重合体を含む。
【化2】
ただし、Xは第二級アミノ基(-NH-)又は酸素であり、Yは第二級アミノ基(-NH-)又は酸素であり、且つXとYの少なくとも1つが第二級アミノ基(-NH-)であり、Rは水素又はメチル基であり、RはC1~C10アルキル基であり、mは2~4の整数であり、nは2~4の整数であり、pは0~4の整数であり、qは2~4の整数であり、kはシリコン高重合体の平均分子量を600~3000の範囲内にする整数である。いくつかの実施形態において、ケイ素と窒素の原子数の比は、20:1~5:1である。いくつかの実施形態において、レンズ組成物100重量百分率で、シリコン高重合体の含有量は5~50重量百分率である。
【0058】
いくつかの実施形態において、式(2)のXが第二級アミノ基(-NH-)であり、Yが酸素であり、mが2であり、nが2であり、pが1であり、qが3である場合、シリコン高重合体は、以下の式(3)に示す構造を有する。
【化3】
ただし、kはシリコン高重合体の平均分子量を600~3000の範囲内にする整数であり、pは0~4の整数であり、RはC1~C10アルキル基である。
【0059】
別の実施形態において、レンズ組成物は、以下の式(4)に示す構造を有するシリコン高重合体を含む。
【化4】
ただし、ZはO又はNHであり、Lは(CH、(CH-[O(CH又は(CH(CHOH)-[O(CHであり、Rはアルキル基であり、RはOH、CH又はOSi(CHであり、RはCH又はOSi(CHであり、fは1~30の整数であり、e及びaは2~5の整数であり、bは1~5の整数である。
【0060】
別の実施形態において、レンズ組成物は、シリコン高重合体であるα-アクリルアミドプロピル-ω-ブチルポリジメチルシロキサンを含む。しかしながら、本開示の内容は、範囲を例示的な説明のために挙げられた上記シリコン高重合体に制限することを意図するものではない。
【0061】
いくつかの実施形態において、レンズ組成物は、親水性単量体、架橋剤又はそれらの組み合わせを更に含む。いくつかの実施形態において、親水性単量体は、N-ビニル-2-ピロリドン(N-vinyl-2-pyrrolidone;NVP)、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(2-hydroxyethyl methacrylate;HEMA)、グリセロールメタクリレート(glycerol methacrylate;GMA)、メタクリル酸2-ヒドロキシブチル(2-bydroxy-butyl methacrylate)、アクリル酸(acrylic acid)、メタクリル酸(methacrylic acid;MAA)、N,N-ジメチルアクリルアミド(N,N-dimethylacrylamide;DMA)、N,N-ジメチルメタクリルアミド(N,N-dimethyl methacrylamide)、N-ビニル-N-メチルアセトアミド(N-vinyl-N-methyl acetamide)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、架橋剤は、1,3,5-トリアリルイソシアヌレート(triallyl isocyanurate;TAIC)、ジアクリル酸エチレングリコール(ethylene diacrylate)、ジメタクリル酸エチレングリコール(ethylene glycol di(meth)acrylate;EGDA)、ジメタクリル酸トリエチレングリコール(triethylene glycol di(meth)acrylate)、ジメタクリル酸テトラメチレングリコール(tetramethylene glycol di(meth)acrylae)、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン(trimethylolpropane tri(meth)acrylate;TRIM)、テトラメタクリル酸ペンタエリトリトール(pentaerythritol tetra(meth)acrylate)、ビスフェノールAジメタクリレート(bisphenol A di(meth)acrylate)、メチレンビスメタクリルアミド(methylenebis(meth)acrylamide)、ジビニルエーテル(divinyl ether)、ジビニルスルホン(divinyl sulfone)、ジビニルベンゼン(divinyl benzene)、トリビニルベンゼン(trivinyl benzene)、イソシアヌル酸トリアリル(triallyl isocyanurate)、フタル酸トリアリル(triallyl phthalate)、フタル酸ジアリル(diallyl phthalate)、メタクリル酸アリル(allyl methacrylate)又はそれらの組み合わせを含む。
【0062】
いくつかの実施形態において、反応性添加剤は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アンゲリカ酸、アリルアミン、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、レンズ組成物における反応性添加剤の含有量は0.1wt%~10wt%であり、例えば0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10wt%である。反応性添加剤の含有量が上記数値範囲内にある場合、このレンズ組成物で形成されたレンズ体は、アゼチジニウム基、エポキシ基、ビニル基又はそれらの組み合わせを含有する化合物と反応するのに十分な反応性官能基を有することができるため、この化合物で形成された改質層は良好な付着力を備えるようになる。
【0063】
いくつかの実施形態において、第1の親水性化合物は、カルボキシル基又はアミノ基を有する単糖、カルボキシル基又はアミノ基を有する二糖、カルボキシル基又はアミノ基を有するオリゴ糖、カルボキシル基又はアミノ基を有する多糖又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、第1の親水性化合物は、ヒアルロン酸、アルギン酸、コンドロイチン硫酸、ポリグルタミン酸、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、ニコチンアミド、上記化合物の誘導体、上記酸の塩類又はそれらの組み合わせを含む。上記酸の塩類は、例えばヒアルロン酸塩、アルギン酸塩、又はポリグルタミン酸塩である。アルギン酸塩は、例えばアルギン酸ナトリウム塩である。
【0064】
いくつかの実施形態において、第1の親水性化合物は、カルボキシル基又はアミノ基を含有する反応性ビニル系単量体である少なくとも1つの第1の単量体と、非反応性ビニル系単量体である少なくとも1つの第2の単量体とが共重合した共重合体である。一例として、第1の親水性化合物は、反応性ビニル系単量体と2種類の非反応性ビニル系単量体とが共重合した共重合体である。
【0065】
いくつかの実施形態において、反応性ビニル系単量体は、アクリル酸、ビニル官能化アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アンゲリカ酸、アリルアミン、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、ビニル官能化アクリル酸は、ビニル官能化試薬とアクリル酸が反応して得られ、ビニル官能化試薬は、α-シアノアクリレート、ジアクリル酸エチレングリコール、ジビニルスルホン又は当技術分野で既知の任意の他のビニル官能化試薬を含んでよい。
【0066】
いくつかの実施形態において、非反応性ビニル系単量体は、アクリルアミド、ホスホコリン、ポリエチレングリコール、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩、N-ビニル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアクリルアミド又はそれらの組み合わせを含む。ホスホコリンは、例えばメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンである。
【0067】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの第1の単量体と少なくとも1つの第2の単量体において、非反応性ビニル系単量体は少なくとも55wt%以上である。いくつかの実施形態において、反応性ビニル系単量体は55wt%~90wt%であり、例えば、55、60、65、70、75、80、85又は90wt%である。製造業者の設計要求に応じて、所望の性質を有するコンタクトレンズを得るように、非反応性ビニル系単量体の含有量を調整してよい。
【0068】
いくつかの実施形態において、第1の親水性化合物は、アクリルアミドとビニル官能化アクリル酸の共重合体、又はアクリルアミド、メタクリル酸とメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの共重合体を含む。
【0069】
いくつかの実施形態において、第2の親水性化合物は、少なくとも1つの非反応性ビニル系単量体が共重合した共重合体である。いくつかの実施形態において、非反応性ビニル系単量体は、アクリルアミド、ホスホコリン、ポリエチレングリコール、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩、N-ビニル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアクリルアミド又はそれらの組み合わせを含む。ホスホコリンは、例えばメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンである。一例として、第2の親水性化合物は、アクリルアミドとメタクリル酸2-アミノエチル塩酸塩の共重合体である。しかしながら、本開示の内容は、上記化合物に限定されず、分子設計により、第1の官能基を有するように第1の親水性化合物を改質し、第2の官能基を有するように第2の親水性化合物を改質し、第1の官能基と第2の官能基が反応して共有結合を生成できるようにしてよい。製造業者の設計要求に応じて、コンタクトレンズが所望の性質を有するように、第2の親水性化合物の種類を選択してよい。
【0070】
いくつかの実施形態において、アゼチジニウム基を含有する化合物は、アゼチジニウム基を含有するエピクロロヒドリン官能化ポリアミン、アゼチジニウム基を含有するエピクロロヒドリン官能化ポリアミドアミン又はそれらの組み合わせを含む。一例として、エピクロロヒドリン官能化ポリアミンは、ポリアミドエピクロロヒドリン(Polyamide epichlorohydrin;PAE)である。ポリアミドエピクロロヒドリンは、例えばポリアミノアミド-エピクロロヒドリン、ポリアミド-ポリアミン-エピクロロヒドリン、ポリアミド-エピクロロヒドリン又はポリアミドポリアミンエピクロルヒドリンといった別称もある。
【0071】
以下、実施例1~12を参照しながら、本開示の内容の特徴をより具体的に記述する。以下の実施例を記述するが、本開示の内容の範囲を逸脱しない限り、使用される材料、その量及び比率、処理の細部及びプロセスフローなどを適切に変えてよい。従って、以下に記載の実施例によって本開示の内容を限定的に解釈すべきではない。
【0072】
実施例1:高酸素透過率のシリコンハイドロゲルレンズ体の製造
【0073】
実施例1は以下の工程を含む。工程(i)は、シリコンハイドロゲル組成物を形成するように、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMA)、メタクリル酸(MAA)、(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)プロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、平均分子量が1500であるシリコン高重合体(前記式(3)に示すシリコン高重合体を参照)、ジメタクリル酸エチレングリコール、1,3,5-トリアリルイソシアヌレート(triallyl isocyanurate;TAIC)、2-(2-ヒドロキシ-5-メタクリロイルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、光開始剤であるIrgacure 819、リアクティブブルー19、及びtert-アミルアルコールを混合した。工程(ii)は、シリコンハイドロゲル組成物をポリプロピレン型のキャビティに充填し、紫外線照射で12分間硬化することで、レンズ体を形成した。工程(iii)は、レンズ体を乾燥して取り出した後、イソプロパノールにて40℃で1時間抽出し、50/50(v/v)イソプロパノール/水にて40℃で1時間抽出し、脱イオン水に加え、40℃で1時間撹拌し、最後にpHが7.3~7.4であるホウ酸塩緩衝食塩水に入れ、高圧滅菌で高酸素透過率のシリコンハイドロゲルレンズ体であるコンタクトレンズを製造した。
【0074】
実施例2:高酸素透過率のシリコンハイドロゲルレンズ体の表面処理
【0075】
実施例2は以下の工程を含む。工程(i)は、実施例1の高酸素透過率のシリコンハイドロゲルレンズ体を、アゼチジニウム基を含有するポリアミドエピクロロヒドリン(PAE)の0.2%溶液に入れ、35℃で30分間加熱した。その後、レンズ体をアクリルアミドとビニル官能化アクリル酸との共重合体の0.01%溶液に入れて半時間反応させ、続いてレンズ体をアクリルアミドとタクリル酸2-アミノエチル塩酸塩との共重合体の0.02%溶液に入れて半時間反応させた。工程(ii)は、脱イオン水でレンズ体を洗い流してから、レンズ体をpH7.4のホウ酸塩緩衝溶液に入れて高圧滅菌を行い、優れた親水性表面を有するコンタクトレンズを得た。
【0076】
実施例3:高酸素透過率のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの原子間力顕微鏡による相図
【0077】
原子間力顕微鏡(AFM)でシリコンハイドロゲルレンズ体表面の相図を撮影した。AFMは、タッピングモード(Tapping mode)で作動した。図1及び図2を参照されたく、図1は、実施例1の高酸素透過率のシリコンハイドロゲルレンズ体を原子間力顕微鏡で撮影した相図であり、図2は、実施例2の表面処理された高酸素透過率のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズをAFMで撮影した相図である。
【0078】
図1に示すように、シリコンハイドロゲルレンズ体の表面は、均一な弾性率を有する。図2に示すように、シリコンハイドロゲルレンズ体は、表面改質された後、レンズ体の表面に分散している複数の塊状の親水性樹脂構造が形成された。これらの親水性樹脂構造は網状構造である。より詳しくは、親水性樹脂構造は、シリコンハイドロゲルレンズ体の表面の一部に分散しており、シリコンハイドロゲルレンズ体の表面の他の部分は露出している。図2における暗色箇所はレンズ体表面であり、淡色箇所は親水性樹脂構造である。図1図2を比較すれば、実施例1のレンズ体と実施例2のコンタクトレンズの表面構造に確かに差異があることが分かった。
【0079】
図3を参照されたく、図3は、アルコン(Alcon)のDailies Total 1レンズをAFMで撮影した相図である。本開示の内容の実施例2の表面処理されたシリコンハイドロゲルレンズ体にある親水性樹脂構造は、複数の工程によって形成された。Dailies Total 1レンズの表面は、親水性層を有する。図2図3を比較すれば、Alcon Dailies Total 1レンズの表面構造と本開示の内容の実施例2のコンタクトレンズの表面構造に差異があることを明らかに識別することができる。
【0080】
実施例4:高酸素透過率のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの性質試験
【0081】
複数の実施例1のシリコンハイドロゲルレンズ体及び実施例2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズに対して、動的接触角(Dynamic Contact Angle;DCA)を試験した。図4を参照されたく、図4は、シリコンハイドロゲルコンタクトレンズの接触角ヒステリシスの実験図である。実施例1のシリコンハイドロゲルレンズ体の平均接触角ヒステリシスは約104°であり、実施例2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの平均接触角ヒステリシスは<30°であり、ひいては<5°であった。接触角ヒステリシスが小さいほど、レンズの親水性及び濡れ性が高いことを示す。実施例1のシリコンハイドロゲルレンズ体と実施例2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズとは、親水性に有意差があり、本開示の内容の表面処理を経たコンタクトレンズは非常に優れた親水性を備えることができることが分かった。
【0082】
複数の実施例1のシリコンハイドロゲルレンズ体及び実施例2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズに対して、スダンブラック(Sudan Black)染料により染色された後のレンズの透過率を試験し、平均透過率を算出した。図5を参照されたく、図5は、染色後のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの透過率の実験図である。スダンブラック染料が疎水性物質に吸着しやすいが、親水表面に粘着しにくい。実施例1のシリコンハイドロゲルレンズ体は、処理されておらず、親水性が良くないため、スダンブラック染料がその上に吸着しやすい。従って、染色後の実施例1のシリコンハイドロゲルレンズ体の光透過率が低い。実施例2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズは、処理されたため、親水性が良好であり、スダンブラック染料がその上に吸着しにくい。従って、染色後の実施例2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズは、光透過率が高く、透過率が80%以上に達することができる。本開示の内容では、低温で表面処理を行うことでコンタクトレンズの親水性を効果的に向上させ得ることが分かった。
【0083】
実施例5:高酸素透過率のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの耐久性試験(イソプロパノール浸漬実験)
【0084】
複数の実施例2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズをイソプロパノール(isopropanol;IPA)水溶液に入れて3時間経った後、シリコンハイドロゲルコンタクトレンズが30%拡大し、レンズ体との架橋性が高くない物質が溶液に入る。その後、シリコンハイドロゲルコンタクトレンズを水に入れて洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液に移して動的接触角を再度測定した。平均表面接触角ヒステリシスが5°より小さいと測定した。図6を参照されたく、図6は、シリコンハイドロゲルコンタクトレンズの接触角ヒステリシスの実験図である。図6から分かるように、イソプロパノール溶液に3時間浸漬された後の実施例2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの平均接触角ヒステリシスと、浸漬されていない実施例2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの平均接触角ヒステリシスとは、有意差がなく、実施例2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズは、イソプロパノールに浸漬された後にも良好な親水性が維持され、且つ優れた耐久性を有することが分かった。
【0085】
実施例6:高酸素透過率のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの耐久性試験(摩擦試験)
【0086】
複数の実施例2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズに対して、指腹で300回摩擦した後、動的接触角を測定した。平均表面接触角ヒステリシスが5°よりも小さいと測定した。図7を参照されたく、図7は、シリコンハイドロゲルコンタクトレンズの接触角ヒステリシスの実験図である。図7から分かるように、300回摩擦された実施例2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの平均接触角ヒステリシスと、摩擦されていない実施例2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの平均接触角ヒステリシスとは、有意差がなく、実施例2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズは、摩擦された後にも良好な親水性が維持され、且つ優れた耐久性を有することが分かった。
【0087】
実施例7:中等酸素透過率のシリコンハイドロゲルレンズ体の製造
【0088】
実施例7は以下の工程を含む。工程(i)は、シリコンハイドロゲル組成物を形成するように、α-アクリルアミドプロピル-ω-ブチルポリジメチルシロキサン、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMA)、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)、ジアクリル酸エチレングリコール(ethylene diacrylate)、アクリル酸、1,3,5-トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、光開始剤であるジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(diphenyl(2,4,6-trimethylbenzoyl)phosphine oxide;TPO)、青色着色剤(RB-19)、及びtert-アミルアルコールを混合した。工程(ii)は、シリコンハイドロゲル組成物をポリプロピレン型のキャビティに充填し、レンズ製造装置を使用して光硬化反応させた。レンズ製造装置は、レンズ体を形成するために、順に30ミリジュール/cmの紫外光を4分間、225ミリジュール/cmの紫外光を4分間、300ミリジュール/cmの紫外光を2分間、及び470ミリジュール/cmの紫外光を2分間照射するように設定された。工程(iii)は、水でレンズ体を抽出した後、レンズ体をpHが7.3~7.4であるホウ酸塩緩衝溶液又はリン酸塩緩衝溶液に浸漬して、121℃で30分間高圧滅菌することで、コンタクトレンズを製造した。
【0089】
実施例8:中等酸素透過率のシリコンハイドロゲルレンズ体の表面処理
【0090】
実施例8は以下の工程を含む。工程(i)は、実施例7の中等酸素透過率のシリコンハイドロゲルレンズ体をアゼチジニウム基を含有するポリアミドエピクロロヒドリン(PAE)の0.2%溶液に入れ、31℃で2時間加熱した。レンズ体をアルギン酸ナトリウム塩の0.05%溶液に入れ、30℃で1時間加熱した。実施例8-1のコンタクトレンズを得て、それをpH7.4のホウ酸塩緩衝溶液に入れて保存した。工程(ii)は、脱イオン水でコンタクトレンズを洗い流してから、コンタクトレンズをpH7.4のホウ酸塩緩衝溶液に入れて高圧滅菌を行い、優れた親水性を有する実施例8-2のコンタクトレンズを得た。
【0091】
実施例9:中等酸素透過率のシリコンハイドロゲルレンズ体の表面処理
【0092】
実施例9は以下の工程を含む。工程(i)は、実施例7の中等酸素透過率のシリコンハイドロゲルレンズ体をアゼチジニウム基を含有するポリアミドエピクロロヒドリン(PAE)の0.2%溶液に入れ、30℃で2時間加熱した。レンズ体をアクリルアミドとメタクリル酸とメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとの共重合体の0.04%溶液に入れ、30℃で1時間加熱し、実施例9-1のコンタクトレンズを得て、それをpH7.4のホウ酸塩緩衝溶液に入れて保存した。工程(ii)は、脱イオン水でコンタクトレンズを洗い流してから、コンタクトレンズをpH7.4のホウ酸塩緩衝溶液に入れて高圧滅菌を行い、優れた親水性を有する実施例9-2のコンタクトレンズを得た。
【0093】
実施例10:中等酸素透過率のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの性質試験
【0094】
複数の実施例7、実施例8-1及び実施例8-2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズに対して、動的接触角を試験した。図8Aを参照されたく、図8Aは、シリコンハイドロゲルコンタクトレンズの接触角ヒステリシスの実験図である。実施例7のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの平均接触角ヒステリシスは約59°であり、実施例8-1及び実施例8-2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの平均接触角ヒステリシスは<30°であり、ひいては<15°であった。接触角ヒステリシスが小さいほど、レンズの親水性及び濡れ性が高いことを示す。実施例7と実施例8-1及び8-2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの親水性とは、有意差があり、本開示の内容の表面処理を経たコンタクトレンズは非常に優れた親水性を備えることができることが分かり、且つ、高圧滅菌工程によりコンタクトレンズの親水性を更に向上させ得ることが分かった。
【0095】
前記した実施例8-1及び実施例8-2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの製造フローを繰り返し、レンズ体と処理液(即ち、アルギン酸ナトリウム塩溶液)との有効接触を更に改善する。詳しくは、網状穴を有する容器で処理液を収容することで、加熱過程でレンズ体がより均一に処理液に接触することができ、実施例8-1-1及び実施例8-2-1のコンタクトレンズを製造した。複数の実施例8-1-1及び実施例8-2-1のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズに対して、動的接触角を試験した。図8Bを参照されたく、図8Bは、シリコンハイドロゲルコンタクトレンズの接触角ヒステリシスの実験図である。実施例8-1-1及び実施例8-2-1のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの平均接触角ヒステリシスは<30°であり、ひいては<15°であった。図8Aに比べて、図8Bのデータはより集中しており、実験の安定性がより良いことを示す。また、界面活性剤の添加によりレンズの表面エネルギーを低下させることができ、レンズと処理液との有効接触を増やし、実験の安定性を向上させることができる。
【0096】
複数の実施例7、実施例8-1及び実施例8-2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズに対して、スダンブラック(Sudan Black)染料により染色されたレンズの透過率を試験し、平均透過率を算出した。図9Aを参照されたく、図9Aは、染色後のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの透過率の実験図である。スダンブラック染料が疎水性物質に吸着しやすいが、親水表面に粘着しにくい。実施例7のシリコンハイドロゲルレンズ体は、処理されておらず、親水性が良くないため、スダンブラック染料がその上に吸着しやすい。従って、染色後の実施例7のシリコンハイドロゲルレンズ体の光透過率は低い。実施例8-1及び8-2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズは、処理されたため、親水性が良好であり、スダンブラック染料がその上に吸着しにくい。従って、染色後の実施例8-1及び8-2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズは、光透過率が高く、透過率が60%以上に達することができる。
【0097】
図9Bを参照されたく、図9Bは、染色後のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの透過率の実験図である。実施例8-1-1及び8-2-1のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズは、処理されたため、親水性が良好であり、スダンブラック染料がその上に吸着しにくい。製造中で、レンズ体と処理液(即ち、アルギン酸ナトリウム塩溶液)との有効接触を改善したため、染色後の実施例8-1-1及び8-2-1のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズは、光透過率が高く、透過率が80%以上に達することができる。図9A及び図9Bから分かるように、同様な反応条件下で、収容容器の構造を調整し、即ち処理液がレンズ体に接触するように促進するために網状穴を有する容器で処理液を収容することで、レンズ体の表面処理の安定性及び効果を増やすことができる。
【0098】
上記の実験によると、本開示の内容は、低温で表面処理を行うことでコンタクトレンズの親水性を効果的に向上可能であることが分かり、且つ、高圧滅菌ステップによりコンタクトレンズの親水性を更に向上させ得ることが分かった。
【0099】
実施例11:中等酸素透過率のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの性質試験
【0100】
複数の実施例7及び実施例9-1のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズに対して、動的接触角を試験した。図10を参照されたく、図10は、シリコンハイドロゲルコンタクトレンズの接触角ヒステリシスの実験図である。実施例7のシリコンハイドロゲルレンズ体の平均接触角ヒステリシスは約54°であり、実施例9-1のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの平均接触角ヒステリシスは<30°であり、ひいては<15°であった。接触角ヒステリシスが小さいほど、レンズの親水性及び濡れ性が高いことを示す。実施例7のシリコンハイドロゲルレンズ体と実施例9-1のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの親水性とは、有意差があり、本開示の内容の表面処理を経たコンタクトレンズは非常に優れた親水性を備えることができることが分かった。
【0101】
実施例12:中等酸素透過率のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの耐久性試験(摩擦試験)
【0102】
複数の実施例8-2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズに対して、指腹で300回摩擦した後、動的接触角を測定し、平均表面接触角ヒステリシスが5°より小さいと測定した。図11を参照されたく、図11は、シリコンハイドロゲルコンタクトレンズの接触角ヒステリシスの実験図である。図11から分かるように、300回摩擦された実施例8-2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの平均接触角ヒステリシスと、摩擦されていない実施例8-2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの平均接触角ヒステリシスとは、有意差がなく、実施例8-2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズは、摩擦された後にも良好な親水性が維持され、且つ優れた耐久性を有することが分かった。また、異なる複数回の実験で得られた実施例8-2のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズに対してそれぞれ図8Aの実施例8-2(滅菌された)と図11の実施例8-2(摩擦されていない)の実験数値を算出したため、2つの図面における実験数値がやや異なる。
【0103】
実施例13:原子間力顕微鏡(AFM)による押し込みの実験(indentation experiment)
【0104】
AFMを用いて水相でコンタクトレンズ表面に押し込みの実験を行い、押し込み深さとプローブカンチレバーの受けた力の実験データを得た。図12図16を参照されたく、図12図16は、異なる実施例のシリコンハイドロゲルコンタクトレンズの押し込みの実験図である。図12は、実施例1の高酸素透過率のコンタクトレンズ(表面処理されていない)の押し込みの実験図である。図13は、実施例2の高酸素透過率のコンタクトレンズ(表面処理された)の押し込みの実験図である。図14は、実施例2-1の高酸素透過率のコンタクトレンズ(表面処理された)の押し込みの実験図であり、実施例2-1のコンタクトレンズの製造過程は、前記した実施例2の表面プロセスフローを参照されたく、工程(i)において、実施例1の高酸素透過率のシリコンハイドロゲルレンズ体をアクリルアミドとビニル官能化アクリル酸との共重合体の0.01%溶液のみに入れて半時間反応させ、シリコンハイドロゲルレンズ体の表面に単層の親水性表面改質層を形成した後、工程(ii)を行い、実施例2-1のコンタクトレンズを得た。図15は、実施例8-2の中等酸素透過率のコンタクトレンズ(表面処理された)の押し込みの実験図である。図16は、比較例であるアルコンのDailies Total 1レンズの押し込みの実験図である。
【0105】
図12図16において、縦軸は、AFMプローブがレンズ体の表面から内部へ押し込まれた深さを表し、横軸は、AFMプローブのカンチレバーの受けた力を表す。図12を参照されたく、コンタクトレンズが表面処理されていないため、コンタクトレンズの材質は均一である。従って、押し込み深さと受けた力とは線的に関係している。図13図16を参照されたく、これらのコンタクトレンズは、全て表面処理されたため、レンズ体と親水性表面改質層という2種類の異なる材質を含有する。従って、図面における曲線は、異なる傾きの線分を含む。曲線の前半と後半との傾き交点から、親水性表面改質層の厚さを推定することができる。図13図16は、それぞれ1回の実験の結果を示しているが、それぞれ実験を複数回繰り返した後、親水性表面改質層の厚さの範囲を以下の表1に纏めた。本開示の内容の親水性表面改質層は、厚さが100nm以下で優れた親水性を維持できることが分かった。
【0106】
【表1】
【0107】
要するに、本開示の内容は、コンタクトレンズ及びコンタクトレンズの製造方法を提供する。上記実施例から分かるように、本開示の内容のコンタクトレンズは、優れた親水性及び耐久性を有する。製造方法において、レンズ体に表面改質を行う際に、低温環境だけで、アゼチジニウム基、エポキシ基、ビニル基又はそれらの組み合わせを含有する化合物とレンズ体表面の反応性官能基とを反応させ、良好な付着力を有する改質層をレンズ体に形成することができる。且つ、製造方法は、反応性添加剤を含むレンズ組成物によりレンズ体を形成するため、製作フローがより簡略化され、プロセスの複雑性を低減することができる。レンズ体を浸漬するための溶液(例えばアゼチジニウム基を含有する化合物又は親水性化合物を含む)内の成分の消耗速度が遅く、且つ繰り返して使用可能であるため、製造コストを削減することができる。
【0108】
いくつかの実施形態を参照しながら本開示の内容を相当に詳しく記述したが、他の実施形態も可能である。従って、添付される特許請求の範囲の精神と範囲は、ここに含まれる実施形態の記述に限定されるものではない。
【0109】
当業者にとって、本開示の内容の範囲又は精神から逸脱しない限り、本開示の内容の構造に様々な修正と変更を行えることが明らかである。前記した内容に鑑み、本開示の内容は、添付される特許請求の範囲内にある本開示の内容の修正と変更を包含することを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【外国語明細書】