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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164607
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/739 20060101AFI20221020BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20221020BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20221020BHJP
   H01L 21/8234 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
H01L29/78 655A
H01L29/78 652Q
H01L29/78 657D
H01L29/78 655G
H01L29/78 652K
H01L29/78 652J
H01L29/78 652C
H01L29/78 653A
H01L29/78 652D
H01L29/91 C
H01L27/06 102A
H01L27/088 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065741
(22)【出願日】2022-04-12
(31)【優先権主張番号】17/231,666
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 尚
【テーマコード(参考)】
5F048
【Fターム(参考)】
5F048AC06
5F048AC10
5F048BA01
5F048BB02
5F048BB05
5F048BB19
5F048BC02
5F048BC03
5F048BC07
5F048BC12
5F048BD07
(57)【要約】
【課題】RC-IGBTにおいて、FWDのVF低減と、リカバリー損失低減を可能とする。
【解決手段】第1面と第2面を有する半導体基板と、半導体基板に形成される絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)とダイオードとを備え、ダイオードは、半導体基板内で、第1面側に第1領域を有するように形成される第1導電型のドリフト層と、ドリフト層の上部で、第1領域と隣接する第2領域を有するように形成される第2導電型の第1のボディ層と、ドリフト層の上部で、第1領域と隣接する第3領域を有するように形成される第2導電型の第1のフローティング層と、ドリフト層の上部で、第1のフローティング層に隣接する領域に形成される第1のトレンチ電極と、第1領域の上部に形成される第1の制御ゲートと、を備える半導体装置。
【選択図】図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と第2面を有する半導体基板と、
前記半導体基板に形成される絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)とダイオードとを備え、
前記ダイオードは、
前記半導体基板内で、前記第1面側に第1領域を有するように形成される第1導電型のドリフト層と、
前記第1導電型のドリフト層の上部で、前記第1領域と隣接する第2領域を有するように形成される第2導電型の第1のボディ層と、
前記第1導電型のドリフト層の上部で、前記第1領域と隣接する第3領域を有するように形成される前記第2導電型の第1のフローティング層と、
前記第1導電型のドリフト層の上部で、前記第2導電型の第1のフローティング層に隣接する領域に形成される第1のトレンチ電極と、
前記第1領域の上部に形成される第1の制御ゲートと、を備える、
半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記IGBTは、
前記第1導電型のドリフト層の上部で、前記第1面側に形成される第2と第3のトレンチ電極と、
前記第1導電型のドリフト層の上部で、前記第2と第3のトレンチ電極の間に形成される前記第1導電型のホールバリア層と、
前記第1導電型のホールバリア層の上部に形成される前記第2導電型の第2のボディ層と、
前記第2導電型の第2のボディ層の上部で、前記第1面側に形成される前記第1導電型のエミッタ層と、を備える、
半導体装置。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体装置において、
前記第1面に形成される第1の電極と、
前記第2面に形成される第2の電極と、を更に有し、
前記第2導電型の第1と第2のボディ層と前記第1導電型のエミッタ層は、前記第1の電極に電気的に接続される、
半導体装置。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体装置において、
前記ダイオードは、更に、前記第1領域を挟むように形成される第4のトレンチ電極を備える、
半導体装置。
【請求項5】
請求項3に記載の半導体装置において、
前記第1、第2、第3のトレンチ電極は、平面視で第1の方向に伸び、
前記ダイオードと前記IGBTは、平面視で第2の方向に隣接するように形成される、
半導体装置。
【請求項6】
請求項3に記載の半導体装置において、
前記IGBTは、更に、前記第2導電型の第2のフローティング層と、第2の制御ゲートとを備え、
前記第1導電型のドリフト層は、前記第1面側に第4領域を有するように形成され、
前記第2導電型の第2のボディ層は、前記第4領域と隣接する第5領域を有するように形成され、
前記第2導電型の第2のフローティング層は、前記第4領域と隣接する第6領域を有するように形成され、
前記第2の制御ゲートは、前記第4領域の上部に形成される、
半導体装置。
【請求項7】
請求項6に記載の半導体装置において、
前記第2のトレンチ電極は、前記第4領域を挟む部分を有する、
半導体装置。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体装置において、
前記第1面に形成される第3の電極を更に有し、
前記第2と第4のトレンチ電極と、前記第1と第2の制御ゲートは、前記第3の電極に電気的に接続される、
半導体装置。
【請求項9】
請求項3に記載の半導体装置において、
前記第1の制御ゲートに負電圧が印加されたとき、前記第2導電型の第1のフローティング層がアノードとして動作する、
半導体装置。
【請求項10】
請求項9に記載の半導体装置において、
前記第1の制御ゲートに正電圧が印加されたとき、前記第2導電型の第1のフローティング層はアノードとして機能しない、
半導体装置。
【請求項11】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記IGBTは、
前記第1導電型のドリフト層の上部で、前記第1面側に形成される第2のトレンチ電極と、
前記第1導電型のドリフト層の上部で、前記第1と第2のトレンチ電極の間に形成される前記第1導電型のホールバリア層と、
前記第1導電型のエミッタ層と、を備え、
前記第2導電型の第1のボディ層は、前記第1導電型のホールバリア層の上部にも形成され、
前記第1導電型のエミッタ層は、前記第2導電型の第1のボディ層の上部で、前記第1面側に形成される、
半導体装置。
【請求項12】
請求項11に記載の半導体装置において、
前記第1面に形成される第1の電極と、
前記第2面に形成される第2の電極と、を更に有し、
前記第2導電型の第1のボディ層と前記第1導電型のエミッタ層は、前記第1の電極に電気的に接続される、
半導体装置。
【請求項13】
請求項12に記載の半導体装置において、
前記第2のトレンチ電極は、前記第1領域を挟むような部分を有する、
半導体装置。
【請求項14】
請求項13に記載の半導体装置において、
前記第1のトレンチ電極は、平面視で第1の方向に伸び、
前記ダイオードと前記IGBTは、平面視で前記第1の方向に隣接するように形成される、
半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置に関し、特に絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)を備えた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オン抵抗の低いIGBT、すなわち、順方向飽和電圧Vce(sat)の低いIGBTとしてトレンチゲート型IGBTが広く使用されている。また、IGBTとFWD(Free Wheeling Diode)を1チップ化したRC-IGBT(Reverse-Conducting IGBT)が開発されている。
【0003】
RC-IGBTには、1チップ化によるメリットはあるものの、FWDの高性能化には限界があるという課題がある。具体的には、FWDのリカバリー損失やVF(順方向降下電圧)の悪化などである。FWDのリカバリー損失低減のために、ライフタイムキラーの導入が考えられる。しかしながら、ライフタイムキラーを導入すると、VFが悪化してしまう。また、ライフタイムキラーの導入により、IGBTの性能も悪化してしまう。ライフタイムキラー以外の改善策が必要である。
【0004】
特許文献1には、第2のFWDを設けることで、FWDのVFが高くなる現象を抑制し、スイッチング損失の増加を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-182254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
RC-IGBTにおいて、ライフタイムキラーを必要とせず、VF低減とリカバリー損失低減の両立が求められる。
【0007】
その他の課題および新規な特徴は、本明細書および図面の記載から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態に係る半導体装置は、第1面と第2面を有する半導体基板と、半導体基板に形成される絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)とダイオードとを備え、ダイオードは、半導体基板内で、第1面側に第1領域を有するように形成される第1導電型のドリフト層と、ドリフト層の上部で、第1領域と隣接する第2領域を有するように形成される第2導電型の第1のボディ層と、ドリフト層の上部で、第1領域と隣接する第3領域を有するように形成される第2導電型の第1のフローティング層と、ドリフト層の上部で、第1のフローティング層に隣接する領域に形成される第1のトレンチ電極と、第1領域の上部に形成される第1の制御ゲートと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
一実施の形態に係る半導体装置では、FWDのVF低減と、リカバリー損失低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は実施の形態1に係る半導体チップの平面図である。
図2図2は実施の形態1に係る半導体チップの平面図である。
図3A図3Aは実施の形態1に係る半導体チップのIGBT領域の平面図である。
図3B図3Bは実施の形態1に係る半導体チップのIGBT領域の断面図である。
図4A図4Aは実施の形態1に係る半導体チップのダイオード領域の平面図である。
図4B図4Bは実施の形態1に係る半導体チップのダイオード領域の断面図である。
【0011】

図5図5は実施の形態1の係る半導体チップの動作を説明するための回路図である。
図6図6は実施の形態1の係る半導体チップの動作を説明するためのタイミングチャートである。
図7図7は実施の形態1の係る半導体チップの動作を説明するための図である。
図8図8は実施の形態1の係る半導体チップのダイオード領域の断面図である。
図9図9は実施の形態1の係る半導体チップの動作を説明するためのタイミングチャートである。
図10図10は実施の形態1の係る半導体チップのダイオード領域の断面図である。
図11図11は実施の形態2に係る半導体チップの動作を説明するためのタイミングチャートである。
図12図12は実施の形態2に係る半導体チップの動作を説明するためのタイミングチャートである。
図13図13は実施の形態3に係る半導体チップの動作を説明するためのタイミングチャートである。
図14図14は実施の形態3に係る半導体チップの動作を説明するためのタイミングチャートである。
図15図15は実施の形態4に係る半導体チップのダイオード領域の平面図である。
図16図16は実施の形態5に係る半導体チップのダイオード領域の平面図である。
図17図17は実施の形態6に係る半導体チップのダイオード領域の平面図である。
図18図18は実施の形態7に係る半導体チップの平面図である。
図19図19は実施の形態7に係る半導体チップの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、一実施の形態に係る半導体装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、明細書および図面において、同一の構成要件または対応する構成要件には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面では、説明の便宜上、構成を省略または簡略化している場合もある。また、各実施の形態の少なくとも一部は、互いに任意に組み合わされてもよい。
【0013】
[実施の形態1]
(半導体装置の構成)
図1は、本実施の形態1に係る半導体装置である半導体チップ(RC-IGBT)100の平面図である。図1では、理解を簡単にするために絶縁膜を透過にした状態としている。図1で示される通り、半導体チップ100の表面(第1面)の大部分はエミッタ電極1で覆われており、エミッタ電極1の外周には、ゲート電極2が形成されている。また、半導体チップ100の裏面(第2面)にはコレクタ電極(カソード電極と共用)3が形成されている。エミッタ電極1にはエミッタ電位が供給され、ゲート電極2にはゲート電位が供給される。
【0014】
図2は、図1の領域4を拡大した図である。領域5は、IGBTが形成される領域である。領域6は、ダイオード(FWD)が形成される領域である。
【0015】
図3Aは、IGBT領域(領域5)の拡大図である。図3Bは、図3AのA-A’線に沿った断面図である。本実施の形態1のIGBTは、IE型のIGBTの一種であるGE-S型(GE型のシュリンク構造)である。図3A、3Bで示される通り、IGBT領域は、半導体基板に、エミッタ電極1、コレクタ電極(カソード電極)3、p++型のコレクタ層15、n+型のフィールドストップ層16、n-型のドリフト層11が形成される。IGBT領域は更に、ゲート電位が供給されるゲート電位トレンチ電極(ゲート電位のトレンチゲートとも呼ぶ)7、エミッタ電位が供給されるエミッタ電位トレンチ電極(エミッタ電位のトレンチゲートとも呼ぶ)9を有する。ゲート電位トレンチ電極7とエミッタ電位トレンチ電極9の間には、n+型のホールバリア層17が形成される。ゲート電位トレンチ電極7、エミッタ電位トレンチ電極9、ホールバリア層17で形成される領域がアクティブセル領域である。2つのアクティブセル領域の間には、p+型のフローティング層8(ノンアクティブセル領域)が形成される。
【0016】
エミッタ電位トレンチ電極9は、コンタクトホールを介してエミッタ電極1に接続される。エミッタ電極1は、コンタクトホールとボディコンタクトを介してp+型のラッチアップ防止層21に接続される。ゲート電位トレンチ電極7とエミッタ電極1のコンタクトホールとの間には、n+型のエミッタ層14とp+型のボディ層20が形成される。エミッタ層14とボディ層20は、コンタクトホールを介してエミッタ電極1に接続される。なお、図3Aの10はボディコンタクトSi(Silicon)溝、12はp+型の不純物層、13はFC-GATE(Floating layer Control GATE)である。図3Bの18はゲート絶縁膜、19は層間絶縁膜である。
【0017】
図3Aで示される通り、ゲート電位トレンチ電極7は、Y軸方向(第1の方向)に伸びる直線部分と、X軸方向(第2の方向)に伸びる折れ曲がり部分を持つ形状、端的に言えばL字形状(第1の形状、または第1のゲート電位トレンチ電極と呼ぶ)を有している。更に、ゲート電位トレンチ7は、第1の形状とX軸に平行な線で線対称な形状(第2の形状、または第2のゲート電位トレンチ電極と呼ぶ)を有している。第1と第2の形状で挟まれる領域には、n-型のドリフト層11とp+型の不純物層12が形成される。また、第1と第2の形状で挟まれる領域のn-型のドリフト層11とp+型の不純物層12の上部にFC-GATE13が形成される。FC-GATE13は、Poly-Si(Polycrystalline Silicon)であり、ゲート電極2に接続される。
【0018】
図4Aは、ダイオード領域(領域6)の拡大図である。図4Bは、図4AのC-C’線に沿った断面図である。図4A、4Bで示される通り、ダイオード領域は、半導体基板に、エミッタ電極1、カソード電極(コレクタ電極と共用)3、n++型のカソード層22、n+型のフィールドストップ層16、n-型のドリフト層11が形成される。ダイオード領域は更に、IGBT領域と同様に、ゲート電位トレンチ電極7、エミッタ電位トレンチ電極9、ボディコンタクトSi溝10、p+型のフローティング層8、n+型のホールバリア層17、ゲート絶縁膜18、層間絶縁膜19、p+型のボディ層20、p+型のラッチアップ防止層21、FC-GATE13、p+型の不純物層12が形成される。
【0019】
(半導体装置の動作)
次に本実施の形態1に係る半導体チップ100(RC-IGBT)の動作について、図5~10を用いて説明する。
【0020】
本実施の形態1の特徴であるダイオード(ダイオード領域)の動作を説明する前に、まず、IGBT(IGBT領域)の動作について説明する。IGBTをターンオフする時、ゲートには負電圧(例:-15V)が印加される。ゲートに負電圧が印加されると、FC-GATE13にも負電圧が印加される。図7の上図は、図3AのB-B’線に沿った断面図である。なお、図7の上図は、図4AのD-D’線に沿った断面図も兼ねている。図7で示される通り、n-型のドリフト層11は、半導体基板の表面の領域(第4領域)にも形成される。不純物層12とボディ層20は、同じp+型であるため、合わせてボディ層とも呼ぶ。p+型のボディ層は、半導体基板の表面において、ドリフト層11の表面の領域(第4領域)に隣接する領域(第5領域)に形成される。p+型のフローティング層8は、半導体基板の表面において、ドリフト層11の表面の領域(第4領域)に隣接する領域(第6領域)に形成される。
【0021】
FC-GATE13に負電圧が印加されると、図7の上図で示される通り、n-型のドリフト層11の表面にホールが集まることにより、p+型のフローティング層8からp+型のボディ層20までにホール経路が形成される。ホール経路が形成されると、フローティング層8のキャリア(ホール)は、エミッタ電極1に排出される。従って、ターンオフ時には、キャリアの排出が促進されることにより、高速なターンオフが可能となる。
【0022】
一方、IGBTをターンオンする時、ゲートには正電圧(例:+15V)が印加される。ゲートに正電圧が印加されると、FC-GATE13にも正電圧が印加される。FC-GATE13に正電圧が印加された場合は、上述したホール経路は形成されない。従って、フローティング層8によるキャリア排出抑制機能(キャリア蓄積機能)が機能し、IE効果を得ることができる。IE効果により、IGBTのターンオン時のスイッチング損失が改善される。
【0023】
次に、本実施の形態1の特徴であるダイオード(ダイオード領域)の動作について説明する。図7で示される通り、ダイオード領域においても、n-型のドリフト層11は、半導体基板の表面の領域(第1領域)にも形成される。p+型のボディ層は、半導体基板の表面において、ドリフト層11の表面の領域(第1領域)に隣接する領域(第2領域)に形成される。p+型のフローティング層8は、半導体基板の表面において、ドリフト層11の表面の領域(第1領域)に隣接する領域(第3領域)に形成される。
【0024】
図5は、RC-IGBTの動作を説明するための回路図である。図5で示される通り、ハイサイド側にRC-IGBT1が、ローサイド側にRC-IGBT2が配置されている。RC-IGBT1とRC-IGBT2は、上述したRC-IGBTの構造を有する。
【0025】
まず、RC-IGBT2をオン状態からオフ状態にする場合を説明する。図6は、RC-IGBT1とRC-IGBT2の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【0026】
RC-IGBT2がオン状態の時、RC-IGBT2のゲートには正電圧(+15V)が印加される。この時、RC-IGBT1はオフ状態であり、RC-IGBT1のゲートには0Vが印加されている。コイルLには、RC-IGBT2を介して電流が流れる。次に、RC-IGBT2のゲートに負電圧を印加すると、RC-IGBT2がオフ状態になる。RC-IGBT2がオフ状態になると、コイルLからRC-IGBT1のFWDであるDiode 1に電流が流れる。本実施の形態1では、RC-IGBT2がオフ状態になる直前に、RC-IGBT1のゲートに負電圧を印加する。RC-IGBT1のゲートに負電圧が印加されると、RC-IGBT1のFC-GATE13にも負電圧が印加される。FC-GATE13に負電圧が印加されると、RC-IGBT1のIGBTはターンオフする。FC-GATE13に負電圧が印加された時のDiode 1の動作は次の通りである。図7の上図で示される通り、ダイオード領域のドリフト層11の表面(第1領域)にホールが集まり、p型の反転層が形成される。p型の反転層が形成されると、ダイオード領域のp+型のフローティング層8、p+型の不純物層12、p+型のボディ層20が接続されて、フローティング層8がアノード層として機能する。従って、ダイオード領域のp+型のフローティング層8(アノード層)とn-型のドリフト層(カソード層)がダイオード(FWD)として機能する(図4Bのダイオード)。フローティング層8全体がアノード層として機能することにより、ダイオードの面積が大きくなり、電流が流れるときのVF低減につながる。p+型のボディ層20もアノードとして機能するが、ボディ層20の下部にはn+型のホールバリア層17が形成されている。フローティング層8の下部にはホールバリア層は形成されていないため、ボディ層20と比べ、キャリア注入量を高めることができる(VF低減に寄与)。従って、フローティング層8によって形成されるダイオードの方により多くの電流が流れる(図7の下図、図8)。
【0027】
次に、RC-IGBT2をオフ状態からオン状態にする場合を説明する。図9は、RC-IGBT1とRC-IGBT2の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【0028】
RC-IGBT2のゲート電圧を負電圧から正電圧にすると、RC-IGBT2がオフ状態からオン状態となる。RC-IGBT2がオン状態となると、コイルLには、RC-IGBT2を介して電流が流れる。また、Diode1に電流が流れなくなる。本実施の形態1では、RC-IGBT2がオン状態になる前に、RC-IGBT1のゲート電圧を負電圧から0Vにする。RC-IGBT1のゲート電圧が0Vになると、RC-IGBT1のFC-GATE13も0Vになる。FC-GATE13が0Vになると、ダイオード領域のドリフト層11の表面に形成された反転層が消滅する。ダイオード領域のフローティング層8はアノード層として機能しなくなり、ダイオード領域のボディ層20がアノード層として機能する(図10)。従って、フローティング層8に起因するキャリア蓄積量が減少し、ダイオードのリカバリー損失を低減することが可能となる。
【0029】
(効果)
以上のように、本実施の形態1に係る半導体チップ(RC-IGBT)100では、ダイオード領域にFC-GATE13を設け、フローティング層8をアノード層として機能させるかどうかを制御可能とした。これにより、FWDのVF低減と、リカバリー損失低減が可能となる。
【0030】
[実施の形態2]
(半導体装置の構成)
本実施の形態2係る半導体チップ(RC-IGBT)の構成は、実施の形態1と同様である。RC-IGBTの制御方法が異なる。
【0031】
(半導体装置の動作)
本実施の形態2に係るRC-IGBTの動作について、図11図12を用いて説明する。図11は、RC-IGBT2をオン状態からオフ状態にする場合を示している。実施の形態1との違いは、RC-IGBT2がオフ状態になる直前にRC-IGBT1のFC-GATE13に印加する電圧である。実施の形態1よりも、FC-GATE13に印加する負電圧を大きくする(例:-15V)。これにより、FC-GATE13に囲まれるダイオード領域のドリフト層11の表面が強反転状態となる。ダイオード領域のフローティング層8とボディ層20の接続が強くなり、実施の形態1よりも更にVF低減が可能となる。
【0032】
図12は、RC-IGBT2をオフ状態からオン状態にする場合を示している。実施の形態1との違いは、RC-IGBT2がオン状態になる直前にRC-IGBT1のFC-GATE13に正電圧のパルスを印加することである。これにより、ダイオード領域のフローティング層8とボディ層20の接続遮断能力が向上し、実施の形態1よりも更にリカバリー損失低減が可能となる。
【0033】
(効果)
以上のように、本実施の形態2に係る半導体チップ(RC-IGBT)では、実施の形態1よりも更にFWDのVF低減とリカバリー損失の低減が可能となる。
【0034】
[実施の形態3]
(半導体装置の構成)
実施の形態1、2では、FC-GATE13はゲート電極に接続されているが、本実施の形態3では、FC-GATE13は、ゲート電極とは独立した電極に接続する。
【0035】
(半導体装置の動作)
本実施の形態3に係るRC-IGBTの動作について、図13図14を用いて説明する。図13は、RC-IGBT2をオン状態からオフ状態にする場合を示している。実施の形態1、2との違いは、RC-IGBT1のFC-GATE13に印加する電圧である。実施の形態2よりも、FC-GATE13に印加する負電圧を大きくする(例:-20V)。これにより、ダイオード領域のフローティング層8とボディ層20の接続が更に強くなり、実施の形態2よりも更にVF低減が可能となる。
【0036】
図14は、RC-IGBT2をオフ状態からオン状態にする場合を示している。実施の形態1、2との違いは、RC-IGBT2がオン状態になる直前にRC-IGBT1のFC-GATE13に印加する電圧である。実施の形態1、2よりもFC-GATE13に印加する電圧を大きくする(例:+20V)。これにより、ダイオード領域のフローティング層8とボディ層20の接続遮断能力が更に向上し、実施の形態1、2よりも更にリカバリー損失低減が可能となる。なお、FC-GATE13はゲート電極と独立しているため、FC-GATE13に+20Vを印加しても、RC-IGBT1がオン状態になることはない。
【0037】
FC-GATE13に印加する電圧は、ゲート構造上の保証電圧に依存する。保証電圧が高ければ(例:±30V)、更にVF低減とリカバリー損失低減が可能となる。
【0038】
(効果)
以上のように、本実施の形態3に係る半導体チップ(RC-IGBT)では、FC-GATE13をゲート電極とは独立して制御可能とした。これにより、実施の形態1、2よりも更にFWDのVF低減とリカバリー損失の低減が可能となる。
【0039】
[実施の形態4]
(半導体装置の構成)
図15は、本実施の形態4に係る半導体チップのダイオード領域(領域6)の拡大図である。実施の形態1との違いは、ゲート電位トレンチ電極7とFC-GATE13である。実施の形態1と比べ、ゲート電位トレンチ電極7の第1と第2の形状の間隔Eが広くなっている。間隔Eを広くすることにより、ダイオード領域のフローティング層8がアノード層として動作するときのキャリア導通量が増加し、FWDのVFが低減される。
【0040】
(効果)
以上のように、本実施の形態4に係る半導体チップ(RC-IGBT)では、実施の形態1よりも更にFWDのVF低減が可能となる。
【0041】
[実施の形態5]
(半導体装置の構成)
図16は、本実施の形態5に係る半導体チップのダイオード領域(領域6)の拡大図である。図16で示される通り、複数のゲート電位トレンチ電極7がX軸方向に伸びるように形成されている。FC-GATE13は、複数のゲート電位トレンチ電極7と、ゲート電位トレンチ電極7間のドリフト層11の上部に形成される。
【0042】
(半導体装置の動作)
本実施の形態5に係る半導体チップの動作は、ゲート電位トレンチ電極7間に複数のホール経路が生成される以外は、実施の形態1~4と同様である。
【0043】
なお、本実施の形態5では、IGBT領域とダイオード領域とで、FC-GATE13のゲート容量が異なることになる。ゲート容量が異なると、IGBTとダイオードのスイッチングのタイミングが想定したものとは異なってしまう可能性がある。この対策として、FC-GATE13をゲート電極とは独立して制御可能にすることが望ましい(実施の形態3)。
【0044】
(効果)
以上のように、本実施の形態5に係る半導体チップ(RC-IGBT)では、実施の形態1と同様に、FWDのVF低減と、リカバリー損失低減が可能となる。
【0045】
[実施の形態6]
(半導体装置の構成)
図17は、本実施の形態6に係る半導体チップのダイオード領域(領域6)の拡大図である。図17で示される通り、本実施の形態6では、ダイオード領域にゲート電位トレンチ電極7は形成されない。FC-GATE13は、フローティング層8とp+型の不純物層12の間にあるドリフト層11の上部に形成される。ダイオード領域にゲート電位トレンチ電極が形成されない以外は、実施の形態1と同様の構造である。
【0046】
(半導体装置の動作)
本実施の形態6に係る半導体チップの動作は、FC-GATE13で囲まれているダイオード領域のドリフト層11の表面全体にホール経路が形成される以外は、実施の形態1~5と同様である。
【0047】
(効果)
以上のように、本実施の形態6に係る半導体チップ(RC-IGBT)では、実施の形態1と同様に、FWDのVF低減と、リカバリー損失低減が可能となる。
【0048】
[実施の形態7]
(半導体装置の構成)
実施の形態1~6では、半導体チップのX軸方向において、IGBT領域とダイオード領域を分けていた。本実施の形態7では、半導体チップのY軸方向において、IGBT領域とダイオード領域を分ける。図18は、本実施の形態7に係る半導体チップ表面の拡大図である。図19は、図18のF-F’線に沿った断面図である。図18、19で示される通り、半導体チップのY軸方向において、IGBT領域とダイオード領域が交互に形成される。
【0049】
IGBT領域は、図18で示される通り、ゲート電位トレンチ電極7のY軸方向の直線部分に形成される。また、IGBT領域には、FC-GATE13は形成されない。IGBTを構成する各要素は、実施の形態1と同様であるため、詳細は省略する。
【0050】
ダイオード領域は、図18で示される通り、ゲート電位トレンチ電極7のX軸方向の折れ曲がり部分に形成される。また、ダイオード領域に、実施の形態1と同様のFC-GATE13が形成される。ダイオードを形成する各要素は、実施の形態1と同様であるため、詳細は省略する。
【0051】
(半導体装置の動作)
次に、本実施の形態7に係る半導体チップ(RC-IGBT)の動作について説明する。本実施の形態7では、IGBT領域にはFC-GATE13が形成されない。従って、本実施の形態7のIGBT領域は一般的なIGBTと同じ動作となる。
【0052】
本実施の形態7のダイオード領域には、実施の形態1と同様のFC-GATE13が形成される。従って、ダイオード領域は実施の形態1と同様の動作となる。
【0053】
(効果)
以上のように、本実施の形態7に係る半導体チップ(RC-IGBT)では、実施の形態1と同様に、FWDのVF低減と、リカバリー損失低減が可能となる。
【0054】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更され得る。例えば、実施の形態1は、IGBTとしてGE-S型を用いたが、これに限られない。GGEE型やEGE型なども使用可能である。また、例えば、ゲート電位トレンチ電極7をL字状としていたが、P字状のループ形状を持つようにしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
100 半導体チップ(RC-IGBT)
1 エミッタ電極
2 ゲート電極
3 コレクタ電極(カソード電極)
5 IGBT領域
6 ダイオード領域
7 ゲート電位トレンチ
8 p+型のフローティング層
9 エミッタ電位トレンチ電極
10 ボディコンタクトSi溝
11 n-型のドリフト層
12 p+型の不純物層
13 FC-GATE
14 n+型のエミッタ層
15 p++型のコレクタ層
16 n+型のフィールドストップ層
17 n+型のホールバリア層
18 ゲート絶縁膜
19 層間絶縁膜
20 p+型のボディ層
21 p+型のラッチアップ防止層
22 n++型のカソード層
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19