(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164641
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】板状のガラスまたはガラスセラミック要素、ならびにその製造方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
C03C 17/36 20060101AFI20221020BHJP
C03C 17/09 20060101ALI20221020BHJP
C03C 17/245 20060101ALI20221020BHJP
F24C 15/10 20060101ALI20221020BHJP
H05B 6/12 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C03C17/36
C03C17/09
C03C17/245 A
F24C15/10 B
H05B6/12 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022067738
(22)【出願日】2022-04-15
(31)【優先権主張番号】10 2021 109 572.7
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ヘン
(72)【発明者】
【氏名】アシッシュ レプチャ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ハーン
(72)【発明者】
【氏名】エラ ルール
(72)【発明者】
【氏名】クン チェン
【テーマコード(参考)】
3K151
4G059
【Fターム(参考)】
3K151BA62
4G059AA01
4G059AC08
4G059AC16
4G059AC19
4G059DA05
4G059DB02
4G059EA05
4G059EA12
4G059EB04
4G059GA01
4G059GA02
4G059GA04
4G059GA14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】板状のガラスまたはガラスセラミック要素、特に家庭用電化製品および/または加熱器具に使用可能なガラスまたはガラスセラミック要素、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】板状のガラスまたはガラスセラミック要素1は、板状のガラスまたはガラスセラミック基材10と、前記ガラスまたはガラスセラミック基材の少なくとも1つの主面11,12上に少なくとも部分的に配置されたコーティング2とを含む。前記コーティングは、金属成分と半金属成分とを含み、前記ガラスまたはガラスセラミック基材は、透明に形成されており、前記コーティングは、1MΩ超の表面抵抗を有し、前記ガラスまたはガラスセラミック要素は、少なくとも前記コーティングが配置された領域101において、0.5%~10%、好ましくは0.5%~5%の光透過率τvisを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のガラスまたはガラスセラミック基材(10)と、前記ガラスまたはガラスセラミック基材(10)の少なくとも1つの主面(11,12)上に少なくとも部分的に配置されたコーティング(2)とを含む板状のガラスまたはガラスセラミック要素(1)であって、
前記コーティング(2)は、金属成分と半金属成分とを含み、
前記ガラスまたはガラスセラミック基材(10)は、透明に形成されており、
前記コーティング(2)は、1MΩ超の表面抵抗を有し、
前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)は、少なくとも前記コーティング(2)が配置された領域(101)において、0.5%~10%、好ましくは0.5%~5%の光透過率τvisを有する、ガラスまたはガラスセラミック要素(1)。
【請求項2】
前記コーティング(2)は、反射性を有するように形成されており、ここで、特に、前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)が前記少なくとも1つの領域(101)において以下の特性を有する場合のコーティング(2)は反射性であると理解される、請求項1記載のガラスまたはガラスセラミック要素(1):
- 可視スペクトル領域、すなわち380nm~780nmでの平均反射率が10%~30%であり、これは特に、単層として形成されたコーティング(2)について達成されるものである、または
- 可視スペクトル領域、すなわち380nm~780nmでの平均反射率が20%~70%であり、これは特に、層系(20)、特に少なくとも3つの部分層(2a,2b,2c)を含むものとして形成されたコーティング(2)について達成されるものであり、
特に、前記値は、前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)が、前記コーティング(2)を配置する前記主面(11,12)において平滑となるように形成されている場合に達成され、ここで特に、非構造化ロールを用いた圧延によって得られた主面(11,12)、および/または粗さ、特に粗さRaが1μm未満である主面(11,12)も平滑であると理解され、
あるいは、前記コーティング(2)を配置する前記主面(11,12)は、1μm~5μmの粗さを有し、かつ好ましくは構造化されており、前記領域(101)において前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)は、少なくとも2%~最大で20%の、可視スペクトル領域、すなわち380nm~780nmでの平均反射率を有するか、または
光沢度、好ましくは光沢計Rhopoint Qsを用いて測定された光沢度であって、特に20°の測定角度では少なくとも87GU、好ましくは少なくとも100GUであり、特に好ましくは60°の測定角度では少なくとも93GU、好ましくは少なくとも100GUであり、特に好ましくは85°の測定角度では少なくとも97GUであり、前記コーティングを配置する前記主面または面は、1μm~5μmの粗さ、特に粗さRaを有し、好ましくは構造化されているか、
または
光沢度、好ましくは光沢計Rhopoint Qsを用いて測定された光沢度であって、特に20°の測定角度では少なくとも500GU、好ましくは少なくとも700GUであり、特に好ましくは60°の測定角度では少なくとも200GU、好ましくは少なくとも250GU、特に好ましくは少なくとも270GU、非常に特に好ましくは少なくとも300GUであり、殊に好ましくは85°の測定角度では少なくとも99GUであり、特に、前記値は、前記ガラスまたはガラスセラミック要素が、前記コーティングを配置する前記主面または面において平滑となるように形成されている場合に達成され、ここで特に、非構造化ロールを用いた圧延によって得られたプレートの主面もしくは面、例えば上面もしくは下面、および/または粗さ、特に粗さRaが1μm未満である主面(もしくは面、例えば上面もしくは下面)も平滑であると理解される。
【請求項3】
前記コーティング(2)は、タッチ操作可能であると同時に反射性をも有するように形成されている、請求項1または2記載のガラスまたはガラスセラミック要素(1)。
【請求項4】
前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)は、少なくとも前記コーティング(2)が配置された領域(101)において、CIEL*a*b*系における色度点であって、L*が55より大きく、a*、b*が-12~+12、好ましくは-10~+10、特に好ましくは-5~+5の範囲にある色度点を有し、前記色度点は、好ましくは、色度計による色度測定において測定されるかまたは測定可能であり、好ましくは、黒色トラップに対する測定で、特に好ましくはKonica-Minolta社製分光光度計CM-700dを使用して測定され、前記コーティング(2)は、前記ガラスまたはガラスセラミック基材(10)の、前記色度計と反対側の主面(11,12)上に配置されている、請求項1から3までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミック要素(1)。
【請求項5】
前記コーティング(2)は、1000nm未満でかつ好ましくは少なくとも20nmの厚さを有する、請求項1から4までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミック要素(1)。
【請求項6】
前記コーティング(2)は、一定の厚さを有する、請求項1から5までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミック要素(1)。
【請求項7】
- 前記コーティング(2)は、金属で形成されており、
好ましくは、前記コーティング(2)のOおよび/またはNの元素の含有量は、それぞれ4重量%未満であり、好ましくはそれぞれ2重量%未満であり、
好ましくは、前記半金属成分はSiを含み、前記金属成分はAlを含み、
特に好ましくは、前記コーティング(2)は、70重量%超のSiの含有量と30重量%未満のAlの含有量とを有する、請求項1から6までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミック要素(1)。
【請求項8】
- 前記コーティング(2)は、非金属で形成されており、
好ましくは、前記半金属成分はSiを含み、前記金属成分はAlを含み、
前記コーティング(2)は、特に好ましくはOおよび/またはNの元素を含み、前記コーティング(2)のN含有量は、好ましくは少なくとも4重量%であり、好ましくは4重量%超であり、かつ/または前記コーティング(2)のO含有量は、好ましくは10重量%超である、請求項1から6までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミック要素(1)。
【請求項9】
前記コーティング(2)のSi含有量は、40重量%超であり、前記コーティング(2)のAl含有量は、60重量%未満である、請求項8記載のガラスまたはガラスセラミック要素(1)。
【請求項10】
以下の特徴のうち少なくとも1つを有する、請求項1から9までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミック要素(1):
- 前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)は、さらなるコーティング(3)を含み、前記さらなるコーティング(3)は、前記少なくとも1つの主面(11,12)上に、前記ガラスまたはガラスセラミック基材(10)と前記コーティング(2)との間に少なくとも部分的に配置されている、
- 前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)は、カバー層(4)を含み、前記カバー層(4)は、前記コーティング(2)上に少なくとも部分的に配置されている、
- 前記コーティング(2)は、550nmの波長で、少なくとも2以上の屈折率値nおよび/または少なくとも0.1以上の吸収係数を有する、
- 前記コーティング(2)は、非晶質となるように形成されている、
- 前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)は、少なくとも1つの主面(11,12)上に構造化層(5)を含み、前記構造化層(5)は、好ましくは前記コーティング(2)と前記ガラスまたは前記ガラスセラミック基材(10)との間に、特に好ましくは前記ガラスセラミック基材(10)に隣接して配置されている、
- 前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)は、ガラス要素として形成されており、前記コーティング(2)が配置された領域(101)において、0.5%~5%、好ましくは0.5~3.5%、特に好ましくは0.5~1.5%の光透過率τvisを有する、
- 前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)は、ガラス要素として形成されており、前記コーティング(2)が配置された領域(101)において、0.5%~10%、好ましくは0.5%~5%、好ましくは2%~5%の光透過率τvisを有する。
【請求項11】
耐熱性、特に以下のような光学特性の安定性を有する、請求項1から10までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミック要素(1):
- 前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)に390℃で80時間熱負荷をかけた後、熱負荷後と熱負荷前の前記領域(101)における前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)の光透過率の差は、絶対値で最大5%、好ましくは絶対値で最大3%であり、かつ/または
- 前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)に390℃で80時間熱負荷をかけた後、前記領域(101)における前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)の色度点の差ΔEは、最大で20、好ましくは最大で10、特に好ましくは最大で5、非常に特に好ましくは最大で2であり、ここで、ΔEは、以下:
【数1】
のように求められ、ここで、色度点E
vTは、熱負荷前の前記領域(101)における前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)の色度点を指し、色度座標a
*
vT、b
*
vT、L
*
vTによって与えられ、色度点E
nTは、熱負荷後の前記領域(101)における前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)の色度点であり、色度座標a
*
nT、b
*
nT、L
*
nTによって与えられ、好ましくはそれぞれ、黒色トラップに対する測定で、特にKonica-Minolta社製分光光度計CM-700dを使用して測定される。
【請求項12】
前記コーティング(2)は、部分層(2a,2b,2c)を含む層系(20)として、好ましくは3つの部分層を含む層系(20)として形成されており、少なくとも2つの部分層(2a,2c)は、少なくとも1つの金属成分と少なくとも1つの半金属成分とを含み、かつ少なくとも1つの中間層(2b)を包囲し、前記少なくとも1つの中間層(2b)は、誘電体材料を含み、好ましくは、前記少なくとも1つの中間層(2b)の550nmでの屈折率値nは、前記少なくとも2つの他の部分層(2a,2c)の550nmでの屈折率値nよりも小さく、さらに好ましくは、前記中間層(2b)の550nmでの吸収係数kは、前記少なくとも2つの他の部分層(2a,2c)の550nmでの吸収係数kよりも小さい、請求項1から11までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミック要素(1)。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミック要素(1)を含む、家庭用電化製品および/または加熱器具(60)。
【請求項14】
少なくとも1つの表示および/もしくは操作要素(70)ならびに/またはセンサ(80)を含む、請求項13記載の家庭用電化製品および/または加熱器具(60)。
【請求項15】
ガラスまたはガラスセラミック要素(1)の、好ましくは請求項1から12までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミック要素(1)の製造方法であって、前記方法は、
- 透明に形成された板状のガラスまたはガラスセラミック基材(1)を提供するステップと、
- 前記ガラスまたはガラスセラミック基材(1)をコーティングチャンバに導入するステップと、
- 前記コーティングチャンバ内で、少なくとも1つの半金属成分および/または少なくとも1つの金属成分を含むターゲットを提供するステップと、
- 前記コーティングチャンバ内の圧力を調整し、その際、前記圧力は、少なくとも5×10-4mbar~最大で5×10-2mbarであるものとするステップと、
- スパッタリングによりコーティングを行い、その際、前記スパッタリングは、DCスパッタリング、またはACスパッタリング、例えば中周波スパッタリングまたは高周波スパッタリングとして行うことができるものとするステップと
を含み、それにより、板状のガラスまたはガラスセラミック基材(10)と、前記ガラスまたはガラスセラミック基材(10)の少なくとも1つの主面(11,12)上に少なくとも部分的に配置されたコーティング(2)とを含む板状のガラスまたはガラスセラミック要素(1)が得られ、
ここで、前記コーティング(2)は、金属成分と半金属成分とを含み、かつ1MΩ超の表面抵抗を有し、前記ガラスまたはガラスセラミック要素(1)は、少なくとも前記コーティング(2)が配置された領域(101)において、好ましくは前記ガラスまたはガラスセラミック基材(10)の厚さ4mmに対して、0.5%~10%、好ましくは0.5%~5%の光透過率τvisを有する、方法。
【請求項16】
ガラスセラミック要素(1)であって、好ましくは、請求項15記載の方法で製造されたまたは製造可能である、請求項1から12までのいずれか1項記載のガラスまたはガラスセラミック要素(1)。
【請求項17】
家庭用電化製品および/もしくは加熱器具(60)のカバープレートとしての、特に調理用機器のカバープレートとしての、またはオーブンの窓としての、または暖炉の覗き窓としての、または冷蔵庫の覗き窓としての、または電子レンジの覗き窓としての、または操作要素、特にコーヒーマシンの操作要素のもしくはオーブンの前面窓としての、または例えば棚もしくはテーブルなどの台所用具もしくは実験室用具の天板としての、または例えばスマートフォンなどの家電機器の操作面としての、請求項1から12までもしくは請求項16のいずれか1項記載のおよび/または請求項15記載の方法で製造されたもしくは製造可能であるガラスまたはガラスセラミック要素の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、板状のガラスまたはガラスセラミック要素、特に家庭用電化製品および/または加熱器具に使用可能なガラスまたはガラスセラミック要素に関する。特に本発明は、板状のガラスまたはガラスセラミック基材と、該基材の少なくとも片面に少なくとも部分的に配置されたコーティングとを含む板状のガラスまたはガラスセラミック要素に関する。本発明のさらなる態様は、該ガラスまたはセラミック要素の製造方法およびその使用に関する。
【0002】
発明の背景
板状のガラスまたはガラスセラミック要素は、例えば高温用途のカバープレートや仕切板として、例えばいわゆるクックプレートとして、またはオーブンの平面もしくは曲面の覗き窓として使用される。この場合、板状のガラスまたはガラスセラミック要素を通る電磁放射線の透過性を可能な限り狙いどおりに調整する必要がある。例えば、熱放射線がガラスまたはガラスセラミック要素を可能な限り支障なく通れるように、特定の波長域、例えば赤外領域での高い透過性を可能にすることが必要な場合がある。ただし、透過性が高すぎないことも必要となり得る。このことは特に、可視光領域について該当する。可視光領域では、機器の操作者や使用者から見てガラスまたはガラスセラミック要素の奥側にある領域について、狙いどおりにシェーディングを生じさせる必要がある場合が多い。その場合、特に安全上の理由から、ガラスまたはガラスセラミック要素によって、このようなガラスまたはガラスセラミック要素を備えた機器のスイッチオフ状態では、均質な、特にいわゆる「デッドフロント効果」が得られ、スイッチオン状態では、例えばディスプレイや警告灯などの電気光学的表示要素がその要素を通してはっきりとそのままの色調で知覚できることが必要となり得る。これにより、特にこうした機器の使用者の安全性を大幅に向上させることができる。
【0003】
例えば、上方から見たときに黒色に近い濃い色感を与える重厚感のある色のガラスセラミックを含むガラスセラミックプレートが知られている。
【0004】
また、ガラスまたはガラスセラミック要素が、板状のガラスまたはガラスセラミック基材の主面上にシェーディング用のコーティングを有する透明なガラスまたはガラスセラミック基材を含むことも可能である。例えば、独国特許出願公開第102007030503号明細書は、コーティングされたガラスセラミック生成物に関するものであり、コーティングは反射性を有するように設計されており、遮光効果を有する。そのために、ガラスセラミックプレートにシリコンコーティングが施される。これは、高温領域と低温領域とでは層厚が異なり、すなわち高温領域の方が低温領域より厚い。こうした措置は、層薄では、可視光領域での透過率が十分に高いため、例えばこの層薄を通して表示要素が容易に透けて見えてしまい、また温度安定性が十分でないという理由から必要となる。一方で、独国特許出願公開第102007030503号明細書により高温領域で使用されるような層厚のより大きな層は、確かに温度安定性は高いものの、それと同時に可視光領域での透過率が不十分である。いわゆるディスプレイ機能は、これらの層では限られた範囲でしか与えられない。したがって、独国特許出願公開第102007030503号明細書によるガラスセラミックプレートは、例えば、一方では表示要素の、そして他方では高温領域の、完全にフレキシブルな分離が可能な調理用機器(いわゆる「どこでも調理可能な」調理用機器)の新規の設計には適していない。
【0005】
独国特許出願公開第102013104702号明細書も、コーティングされたガラスセラミックプレートに関する。独国特許出願公開第102013104702号明細書に記載のガラスセラミッククックプレートのコーティングは、クロム、鉄、ニッケルおよびケイ素を含む合金の金属層と、クロム、鉄、ニッケルおよびケイ素を含む合金の酸化物の形態のバリア層とを含む多層膜コーティングである。これらの層は、メタリックで鏡面性の優美さと高い耐熱性とを併せ持つという利点がある。このコーティングは、確かに適切な層厚を選択することで半透明となるように調整することができるが、タッチ操作に対応しておらず、またIR透過率も不十分である。
【0006】
独国特許出願公開第102013104702号明細書に記載の層は、その金属特性ゆえに導電性を有する。したがって、いわゆる静電容量方式のタッチセンサは、このコーティングでは使用できない。そのため、これらの層はタッチ操作に対応していないか、あるいは非常に限られた範囲でのタッチ操作にしか対応していない。
【0007】
そのため、メタリックな優美さを有し、耐熱性が高く、それと同時にフレキシブルなタッチおよびディスプレイ機能を有するガラスまたはガラスセラミック要素が求められている。
【0008】
発明の課題
本発明の課題は、従来技術の弱点を少なくとも部分的に緩和するガラスまたはガラスセラミック要素を提供することである。本発明のさらなる態様は、そのようなガラスおよびガラスセラミック要素の製造方法およびその使用に関する。
【0009】
発明の概要
本発明の課題は、独立請求項の主題によって解決される。好ましい実施形態および特別な実施形態、ならびにさらなる実施形態は、本開示の従属請求項、明細書および図面に見出すことができる。
【0010】
したがって、本開示は、板状のガラスまたはガラスセラミック基材と、該ガラスまたはガラスセラミック基材の少なくとも1つの主面上に少なくとも部分的に配置されたコーティングとを含む板状のガラスまたはガラスセラミック要素に関する。コーティングは、金属成分と半金属成分とを含み、かつ1MΩ超の表面抵抗を有する。ガラスまたはガラスセラミック基材は、透明に形成されている。ガラスまたはガラスセラミック要素は、少なくともコーティングが配置された領域において、0.5%~10%、好ましくは0.5%~5%の光透過率τvisを有する。
【0011】
本開示において、光透過率とは、例えばDIN EN 410に準拠して算出および定義されるとおり、380nm~780nmの波長域における透過率を指す。これは、τvisと表記されることもある。通常、これは標準光源D65に関するものである。
【0012】
分光透過率とは、ある波長に対する透過率値を意味する。
【0013】
ガラスまたはガラスセラミック要素のこうした設計は、特に家庭用電化製品および/または加熱器具における使用に非常に有利である。
【0014】
ガラスまたはガラスセラミック基材自体は、透明に形成されている。ガラスまたはガラスセラミック基材を透明に形成するとは、ここでは特に、ガラスまたはガラスセラミック基材が、少なくとも20%、好ましくは少なくとも40%の可視光線透過率τvis(または光透過率)を有することを意味する。また、これより高い値、例えば少なくとも80%とすることも可能である。このような透過率は、例えば、ガラスまたはガラスセラミック基材が着色されていないこと、あるいはガラスまたはガラスセラミック基材中の吸収成分、例えば着色イオンの割合が制限されていることにより達成可能である。しかし、ガラスまたはガラスセラミック基材の透明度を、吸収による着色に加えて、またはそれに代えて、散乱によって低下させることも可能である。散乱が強いほど透明度は低くなる。したがって、本開示では、透明なガラスまたはガラスセラミック基材とは特に、低濁度であるガラスまたはガラスセラミック基材をも意味する。
【0015】
特に、ガラスまたはガラスセラミック基材が吸収によって着色されておらず、それと同時に低濁度であることが可能である。
【0016】
このように、ガラスまたはガラスセラミック基材自体は、観察者や操作者から見てガラスまたはガラスセラミック基材の奥側に配置された表示要素、例えばディスプレイや照明を十分に知覚できるようにするのに非常に良好に適している。しかし一方でその欠点は、こうすることで、例えば安全上重要となる表示の知覚を妨げるおそれのある他のコンポーネントも視認可能となってしまうことにある。したがって、概して、コーティングをガラスまたはガラスセラミック基材に少なくとも部分的に施与することで、少なくともコーティングが配置された領域において、支障のあるコンポーネントが相応してシェーディングされるようにすることが有利である。したがって、実施形態によるコーティングは、遮光コーティングをも意味し、またはそのように呼ぶこともできる。
【0017】
よって、ガラスまたはガラスセラミック要素は、例えばコーティングがないままの無コーティング部または無コーティング領域を含むことができる。
【0018】
しかしこれは、実施形態によるガラスまたはガラスセラミック要素において必須ではない。シェーディングまたは遮光コーティングを有する既知の板状のガラスまたはガラスセラミック要素は、コーティングの一部を省略する必要がある場合が多い。なぜならば、こうした遮光コーティングはほぼ完全なシェーディングを生じるため、コーティングを通して表示要素および/または照明を視認することができなくなってしまうためである。その結果、この無コーティング領域に、半透明に形成されたさらなるコーティングを適宜施与する必要がでてくる。そのため、このようなガラスまたはガラスセラミック要素の製造には、例えば遮光コートを有しない領域に半透明の特殊なスクリーン印刷用ペーストを施与するといった、異なるコーティング薬剤やコーティング材を用いた異なるコーティングステップが含まれ、それに応じてコストがかかる。
【0019】
実施形態によるコーティングの場合には、このことは不要である。なぜならば、少なくともコーティングが配置された領域において、好ましくはガラスまたはガラスセラミック基材の厚さ4mmに対して、ガラスまたはガラスセラミック要素が0.5%~10%、好ましくは0.5%~5%の光透過率τvisを有するように、コーティングが形成されているためである。これは、このようなガラスまたはガラスセラミック要素を備えた機器、例えば家庭用電化製品および/または加熱器具の観察者または使用者が表示要素を良好に知覚できることを保証しつつ、十分なシェーディングを可能にする光透過率である。それと同時にこれは、特に家庭用電化製品および/または加熱器具のスイッチオフ状態において、ガラスまたはガラスセラミック要素の非常に均質な優美さをも可能にするものである。なぜならば、無コーティング部および/またはガラスもしくはガラスセラミック要素の均質かつ均一な印象を損ないかねないさらなるコーティングの施与は、もはや必須でなくなったためである。
【0020】
したがって、一実施形態によれば、コーティングは、ガラスまたはガラスセラミック基材の少なくとも1つの主面の実質的に全面に施与されている。これは特に、コーティングが少なくとも1つの主面の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%を覆っていることを意味する。特に、コーティングは、少なくとも1つの主面の100%を覆っていることもできる。したがって、一実施形態によれば、ガラスまたはガラスセラミック要素は、非常に単純な様式でかつ非常に有利なことに、審美的に優美な非常に均質な外観と操作者の安全性の向上とを兼ね備えるように形成されている。この非常に均質で視覚的に均一な外観は「デッドフロント」とも呼ばれ、その結果得られる非常に均質で視覚的に均一な見た目の優美さは「デッドフロント効果」とも呼ばれる。
【0021】
このことが可能となるもう1つの理由は特に、コーティングが総じて少なくとも1つの主面の被覆度合いに制限されることなく1MΩ超の表面抵抗を有するように設計されていることである。なぜならば、このようにコーティングの導電率を低くすることで、静電容量方式のタッチセンサも使用できるようになるためである。つまり、このコーティングの設計が、コーティングをタッチ操作可能なものとするための重要な前提条件である。
【0022】
静電容量方式のタッチセンサの機能には、すなわちタッチ操作可能なコーティングとしてのコーティング設計にも、2つの基準が重要となる。第一には、隣接する2つの個々のボタンが別々に読み取れるように、容量的に短絡していないことが必要である。このことは、隣接して配置され、異なるスイッチング機能を記憶している個々のボタンだけでなく、個々のボタンで構成されるスライディングスイッチ(スライダー)にとっても重要である。容量性短絡は、個々のボタンの双方のスイッチング面(センサ面)を覆う容量性または電気的に結合した導電層によって引き起こされ得る。
【0023】
第二には、個々のスイッチにおいて、いわゆる浮遊容量と呼ばれる接地環境の容量結合により引き起こされる干渉的なグラウンド信号が大きくなりすぎないようにすることが必要である。この不利な効果は、導電層が個々のボタンのスイッチング面に容量結合している場合に増幅される可能性がある。これにより、個々のボタンの有効なスイッチング面積が増加し、接地環境(例えば室内空気)との結合がより強くなる。これにより、個々のボタンが持続的に作動してスイッチング機能に使用できなくなるおそれがある。これらの不利な効果はいずれも、少なくとも典型的な容量性制御インターフェースでは、層の表面抵抗が1MΩ超、好ましくは5MΩ超、特に好ましくはさらには10MΩ超またはそれを上回る場合に、導電性層と組み合わせて回避することができる。
【0024】
表面抵抗が大きいほど、隣接して配置された個々のボタンの配置を近づけることができる。同時に、表面抵抗の増加により操作安全性が向上する。表面抵抗が高いほど浮遊容量との結合が少なくなるため、検出感度が高くなり、センサからの入力を誤検出する確率が低くなる。
【0025】
所定の領域のコーティング特性を調整する必要はない。特に、特別な「表示領域」や「センサ領域」が得られるようにガラスまたはガラスセラミック要素の所定の領域のコーティングの層厚を調整することは不要である。ガラスまたはガラスセラミック領域を請求項1に記載のとおりに設計することにより、いわゆる「どこでも調理可能な」調理用機器のように、高温領域と表示要素とセンサとをフレキシブルに配置する用途でも機能する均質なコーティングを、驚くほど簡単に施与することができる。
【0026】
好適なセンサとしては、例えば、既に述べたタッチセンサ(静電容量方式のタッチセンサまたはタッチ)が挙げられる。また、例えば調理用機器などの家庭用電化製品および/または加熱器具のカバープレートの下方や裏側にセンサが設置されることも多い。そのため、コーティングがこれらのセンサに対して透過性であることも必要であり、その際、これらのセンサは通常、近赤外領域で発光する。制御や通信、例えば調理用機器の場合には換気フードとの通信に使用されるセンサや温度センサが主なものである。
【0027】
本開示では、以下の定義が適用される:
板状の物品または生成物とは、総じて、該物品あるいは生成物が、直交座標系の第1の空間方向における横方向の寸法が、第1の空間方向に直交する直交座標系の2つのさらなる空間方向における横方向の寸法の最大5分の1である形状を有することを意味する。つまり、板状の物品(または板ガラスやプレートやストリップ)の厚さは、その長さおよび幅の最大5分の1である。板状の物品、例えば板状の要素は、平面、すなわち平坦であってもよいし、反っており、例えば湾曲したまたは曲面の板ガラスであってもよい。さらに、プレートまたは板ガラスが、例えば機械的回転制御のフィードスルーのための、または特に板状の物品もしくは板状の要素もしくはプレートがコンロとして使用される場合には例えば換気フードのガスバーナーの導管のための無コーティング部を有することも総じて可能である。本開示では、板ガラスとプレートという用語は同義的に用いられる。特に、板状の設計は、板ガラス状の設計を指す場合もある。
【0028】
さらに、板状の物品または板状の要素が、コーティングが配置された面が平滑となるように設計されていることも総じて可能であるが、この面が隆起部を有する形状であることも総じて可能である。これは、例えば特に、板状の要素がクックプレートとして適切であるかまたはクックプレートとして使用することが想定されており、例えばガラスセラミックを含むかまたはガラスセラミックから形成されている場合に該当し得る。しかし、コーティングが配置される面に隆起部を有する設計は、クックプレートとして使用するのに適し、かつ/またはそれが想定された板状の要素に限定されず、他の使用目的または用途での他の板状の要素でも存在し得るものである。
【0029】
基材とは、未コーティングの物品を意味する。要素は、基材とコーティングとを含む。要素は、コーティングされた基材を意味することもあり、その際、相応して、基材は、未コーティングの要素を意味することもある。
【0030】
本発明において、ガラスまたはガラスセラミック要素の厚さに言及する場合、これは総じて、ガラスまたはガラスセラミック基材の厚さを意味する。なぜならば、ガラスまたはガラスセラミック要素を得るべくガラスまたはガラスセラミック基材に堆積させるコーティングは非常に薄く、せいぜい数マイクロメートル以下の範囲であるため、測定精度の観点から、要素の厚さは基材の厚さと一致するためである。
【0031】
要素や基材といった板状の物品の主面とは、本発明では、合わせて物品の総表面積の50%超を占める面を意味する。主面は面と呼ばれることもあり、特に厳密な空間的配置に応じて板ガラスやプレートの前面や裏面、あるいは上面や下面と呼ばれることもある。したがって、主面は、例えば板ガラスあるいは板状の物品または生成物の端面としての面ではない。主面は、特に互いに平行に配置されていてよい。ここで、平行な配置とは特に、主面の法線が互いに最大5°の角度を成す配置を意味する。
【0032】
金属でのコーティングの形成とは、本発明では、コーティングが非金属を限られた範囲でしか含まないこと、特にコーティング中の非金属の含有量が4重量%未満であることを意味する。このように、金属での形成は、コーティングが少なくとも4重量%、好ましくは4重量%超、特に10重量%超の非金属を含む非金属での形成とは対照的である。特に、非金属での形成とは、セラミックまたは部分セラミックでの形成を意味し、またそのように呼ぶこともでき、例えば、コーティング材料は、酸化物および/または窒化物であってよい。
【0033】
本明細書では、金属と非金属との中間の性質を持つ元素を半金属(メタロイドとも呼ぶ)と呼ぶ。本明細書では、半金属のグループには以下のものが含まれる:ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、ビスマス、セレン、テルル、ポロニウム。半金属成分とは、半金属を含む成分を意味する。特に、半金属成分は、ケイ素および/またはゲルマニウムを含む。
【0034】
タッチ操作可能なコーティングとは特に、コーティングが1MΩ超の十分に高い表面抵抗を有することを意味する。
【0035】
一実施形態によれば、コーティングは反射性を有するように形成されている。言い換えれば、コーティングは、可視光領域、すなわち380nm~780nmの範囲の電磁放射線を反射するように設計されている。一実施形態によれば、コーティングは、鏡面効果を有することができ、すなわちメタリックな優美さを生じることができる。特に、このような反射性の構造は、ガラスまたはガラスセラミック要素の全体的な印象を非常に均質なものとすることに有利に寄与することができ、これは特に安全性の観点から重要である場合がある。なぜならば、このようにして、例えばこうしたガラスまたはガラスセラミック要素を備えた家庭用電化製品および/または加熱器具の正常な状態からの逸脱を、例えば故障の際に点滅する視覚的表示によって非常に容易に知覚することができるためであり、なぜならば、こうした視覚的表示は、要素の全般的に均質な全体的印象の中で視覚的に非常に目立つためである。
【0036】
例えば実施形態によるコーティングなどのコーティングの反射特性は、総じて、それぞれコーティングを施与する表面の厳密な設計に依存する。例えば、一般的には、基材表面が非常に平滑であれば反射率は高くなる。ここで例えば、平滑な表面を有する基材に施与した場合に以下の反射特性を有するコーティングも、本開示の趣意において反射性であると理解される:可視スペクトル領域、すなわち380nm~780nmでの平均反射率が、特に単層として形成される実施形態によるコーティングについて達成される10%~30%であるか、または特に多層系、特に3層を含むものとして形成される実施形態によるコーティングについて達成される20%~70%である。これらの値は特に、基材が平滑に形成されており、すなわち構造化されておらず、例えば、隆起部を有しておらず粗面化もされていない実施形態で達成される。また特に、非構造化ロールで圧延して得られた基材表面も平滑であると理解される。特に、粗さ、特に粗さRaが1μm未満である基材表面も、非構造化または平滑な基材表面と理解され得る。
【0037】
構造化された基材表面では、反射率値あるいは反射率レベルがより低くなり、指向性測定では可視スペクトル領域については2%~20%であり、粗さRaについては1μm~5μmである。
【0038】
すなわち、本実施形態によるガラスまたはガラスセラミック要素は、コーティングが反射性を有するように形成されるように設計されていてよい。ここで、ガラスまたはガラスセラミック要素が少なくとも1つの領域において以下の反射特性を有する場合のコーティングは反射性であると理解され、または反射性であると呼ばれる:
- 可視スペクトル領域、すなわち380nm~780nmでの平均反射率が10%~30%であり、これは特に、単層として形成された実施形態によるコーティングについて達成されるものである、または
- 可視スペクトル領域、すなわち380nm~780nmでの平均反射率が20%~70%であり、これは特に、層系、特に少なくとも3つの部分層を含むものとして形成されたコーティングについて達成されるものであり、
特に、前述のこれらの値は、ガラスまたはガラスセラミック要素が、コーティングを配置する主面または面において平滑となるように形成されている場合に達成され、ここで特に、非構造化ロールを用いた圧延によって得られたプレートの主面もしくは面、例えば上面もしくは下面、および/または粗さ、特に粗さRaが1μm未満である主面(もしくは面、例えば上面もしくは下面)も平滑であると理解され、
あるいは、コーティングを配置する主面または面は、1μm~5μmの粗さを有し、かつ好ましくは構造化されており、この領域においてガラスまたはガラスセラミック要素は、少なくとも2%~最大で20%の、可視スペクトル領域、すなわち380nm~780nmでの平均反射率を有するか、または
光沢度、好ましくは光沢計Rhopoint Qsを用いて測定された光沢度であって、特に20°の測定角度では少なくとも87GU、好ましくは少なくとも100GUであり、特に好ましくは60°の測定角度では少なくとも93GU、好ましくは少なくとも100GUであり、特に好ましくは85°の測定角度では少なくとも97GUであり、コーティングを配置する主面または面は、1μm~5μmの粗さ、特に粗さRaを有し、好ましくは構造化されているか、
または
光沢度、好ましくは光沢計Rhopoint Qsを用いて測定された光沢度であって、特に20°の測定角度では少なくとも500GU、好ましくは少なくとも700GUであり、特に好ましくは60°の測定角度では少なくとも200GU、好ましくは少なくとも250GU、特に好ましくは少なくとも270GU、非常に特に好ましくは少なくとも300GUであり、殊に好ましくは85°の測定角度では少なくとも99GUであり、特に、前述のこれらの値は、ガラスまたはガラスセラミック要素が、コーティングを配置する主面または面において平滑となるように形成されている場合に達成され、ここで特に、非構造化ロールを用いた圧延によって得られたプレートの主面もしくは面、例えば上面もしくは下面、および/または粗さ、特に粗さRaが1μm未満である主面(もしくは面、例えば上面もしくは下面)も平滑であると理解される。
【0039】
平均反射率とは、ある波長域における反射率値の算術平均を意味する。
【0040】
反射率測定は、明示的に別段の記載がない限り、本開示では、板状のガラスまたはガラスセラミック要素の視認面あるいは操作者面で行われる。すなわち、反射率測定の測定値は、視認面あるいは操作者面に関するものである。したがって、反射率測定は、常に基材を通して、すなわちガラスセラミック材料またはガラス材料を通して行われる。これは、コーティングが常に「動作裏面/背面/下面」に配置されているためである。
【0041】
ここで、光沢度はいわゆる光沢度単位GU(GU、gloss units)で規定される。上記のような測定器を用いて、特に光沢度の測定を当該の国際規格に準拠して行うことができる。
【0042】
得られる光沢度の値は、例えば、その領域が構造化されているか否かに依存する。測定値の一例を以下の表に示す:
【表1】
【0043】
測定時には、試料をそれぞれ黒色の下敷の上に載置した。測定を、ガラスまたはガラスセラミック要素を通して行った。
【0044】
ここで、試料番号1はガラス要素であり、コーティングは、窒化ケイ素層を含む4層コーティングであり、コーティングの領域、すなわち測定領域における主面は構造化されている。ガラス基材を通して見たときのコーティングの視覚的な印象は、灰銀色である。
【0045】
試料番号2もガラス要素であり、コーティングは、窒化ケイ素層を含む2層コーティングであり、コーティングの領域、すなわち測定領域における主面は構造化されている。この場合も、ガラス基材を通して見たときのコーティングの視覚的な印象は、灰銀色である。
【0046】
比較例1あるいは参考例1では、コーティングを含まないが測定領域では構造化されているガラス基材あるいは要素を測定する。
【0047】
試料番号3~5はそれぞれ、コーティングの領域、すなわち測定領域における主面または面がそれぞれ構造化されておらず、すなわち平滑であるガラスセラミック要素である。
【0048】
試料番号3は、SiO2を含む4層コーティングであり、上方から、すなわちガラスセラミックを通して見たときのこのコーティングの視覚的な印象は、銀色である。
【0049】
試料番号4は、窒化ケイ素層を含む4層コーティングであり、同様にガラスセラミックを通して見たときに銀色の印象を有する。
【0050】
最後に、試料番号5は窒化ケイ素層を含む2層コーティングであり、この場合も、ガラスセラミックを通して見たときの視覚的な印象は、銀色である。
【0051】
比較例あるいは参考例2は、コーティングされていないガラスセラミック基材である。
【0052】
しかし、コーティング自体を見たときの視覚的な印象は、これらの印象とは全く異なることができ、試料1、2、4および5では、直接見たときのコーティングは、金色となるように形成されている。
【0053】
測定値から、コーティングによって、特に20°および60°の視野角で、コーティングされていない基材と比較して、基材あるいは要素の少なくとも1つの領域で光沢度が増加することがわかる。これは、例示的に試料3~5に見られるように、少なくとも1つの領域において表面が平滑である場合に特に顕著である。
【0054】
角度によるガラスのグレードの分類は、以下のとおりである:
20度:0~2000GU(ここで、0は、完全に艶消しであり、2000は、完全な鏡面体である)
60度:0~1000GU(ここで、0は、完全に艶消しであり、1000は、完全な鏡面体である)
85度:0~199GU(ここで、0は、完全に艶消しであり、199は、完全な鏡面体である)
【0055】
つまり、上記の測定値から、特に基材主面が平滑な場合、少なくとも1つの領域で非常に鏡面性の強い表面が得られることがわかる。よって、コーティングはこの領域において、ほぼメタリックな鏡面性となるように形成されているか、または十分な不透明度と、反射における好ましくはニュートラルな色の印象(しばしば「銀色」とも呼ばれる)と、総じて高い反射度とを伴ういわゆる「メタリックな優美さ」を有する。
【0056】
しかし、コーティングが配置された少なくとも1つの領域における主面が構造化された構造を有する場合にも、メタリックな優美さ、すなわち、制御パネルや他の面、例えばステンレス鋼製のカバー要素などのステンレス鋼表面から得られる印象と同様の印象が得られる。このような構造化により、特にブラッシュステンレス鋼などのブラッシュメタル表面の印象を生じさせることができる。
【0057】
そのため、作業環境の均質な優美さを得るためには、このような要素が特に好ましい場合がある。なぜならば、このようにして、例えば、視覚的にほとんど目立たない、あるいは通常の金属表面とほとんど差異がないように形成されたカバープレートが得られるためである。
【0058】
このことは、図面の
図10の写真の図で例示される。これは、ガラス要素を写真で示したものである。ここでは、ガラス基材を通して観察する。コーティングには無コーティング部があり、ここでは写真画像の右下領域の暗い部分である。ここで、右方から左方へ延びる縞模様が得られるように構造化されており、これは、写真画像ではコーティングの輝度の局所的な差として現れている。しかし、光学的な優美さの全体的にメタリックな特性がはっきりと認識できる。
【0059】
よって、驚くべきことに、本開示に従って、反射性であると同時にタッチ操作も可能であるように形成されているカバープレートを得ることができる。そのため、このカバープレートは、本発明で扱う用途では不利となる、コーティングの金属特性、特に高い導電性を伴うことなくメタリック効果を発揮する。
【0060】
一実施形態によれば、ガラスまたはガラスセラミック要素は、少なくともコーティングが配置された領域において、CIEL*a*b*系における色度点であって、L*が55より大きく、a*、b*が-12~+12、好ましくは-10~+10、特に好ましくは-5~+5の範囲にある色度点を有する。色度点は、色度計による色度測定において測定されるかまたは測定可能であることが好ましく、その際、コーティングは、ガラスまたはガラスセラミック基材の、色度計と反対側の主面上に配置されている。要素の、コーティングされた面と反対側の面にさらなるコーティングが配置されている場合には、これを、測定前に例えば研磨やレーザアブレーションで除去して、ガラスまたはガラスセラミック基材の、色度計と反対側の主面上にコーティングが配置された状態で測定できるようにすることが可能である。特に、このような研磨工程は通常は、コーティングの色度点の測定結果に全くあるいはせいぜい無視できる程度にしか影響を与えない。好ましくは、L*は、60より大きく、好ましくは62より大きい。本願において、総じて、色度値あるいは色度点はそれぞれ好ましくは、黒色トラップに対する測定で、特に好ましくはKonica-Minolta社製分光光度計CM-700dを使用して測定される。
【0061】
よって、本実施形態によれば、コーティングは、透過におけるニュートラルな色度点を有する反射コーティングとして形成されている。透過におけるニュートラルな色度点が特に有利であるのは、それにより、表示要素および/または発光要素を、コーティングを通して可能な限りそのままの色調で知覚することが可能となるためである。例えば、色度値a*、b*がそれぞれ-30~+30の範囲にある場合、透過におけるニュートラルな色度点を既に与えることができる。例えば、単層として形成されたコーティングについて、a*が108でありb*が22.4である値を実現することができ、また、層系(特に少なくとも3つの部分層を含む層系)として形成されたコーティングについて、a*が46でありb*が8.1である値を実現することができる。これらの色度値a*、b*により、透過においてニュートラルな色度点が可能となる。
【0062】
そのため、コーティングおよび/または要素の厳密な設計次第では、明色の印象を設定することが可能である。例えば、55または60、あるいは62よりも有意に大きいL*の値を得ることができる。
【0063】
一実施形態によれば、コーティングは、1000nm未満、例えば500nm未満、またはさらには200nm未満の厚さを有する。コーティングの厚さが大きいと、コーティングのクラックや剥離の影響も生じ得るため、好ましくない。また、製造上の理由から、可能な限り小さい厚さを選択することが望ましい場合もある。なぜならば、例えばPVDプロセスでは、厚いコーティングよりも薄いコーティングの方が短時間で成膜することができるためである。また、コーティングの厚さ(または層厚)が1000nmを超えて非常に大きい場合には、透過率が低すぎるため好ましくないことがある。
【0064】
しかし、コーティングのシェーディング効果を保証するためには、コーティングの所定の最小厚さを好ましくは少なくとも20nmとすることが有利になり得る。この最小層厚は、好ましくは20nmであるが、この値は、コーティングの厳密な組成によって変化し得る。例えば、純粋に金属で形成されたコーティングは、所定の非金属(またはセラミック)状に形成されたコーティングよりも小さい層厚で、既に十分なシェーディングを生じさせることができる。
【0065】
ガラスまたはガラスセラミック要素の特別な利点の1つに、コーティングが、いわゆる高温領域にもいわゆる低温領域または表示領域にも適しているという点がある。ガラスまたはガラスセラミック要素の対応する領域を高温領域として使用するか低温領域または表示領域として使用するかに応じてコーティングの厚さを特に調整することは、不要である。したがって特に、一実施形態によれば、コーティングが一定の厚さを有することが提供される。
【0066】
一定の厚さとは、ここでは、コーティングが配置されたガラスまたはガラスセラミック要素の少なくとも1つの領域におけるコーティングの厚さが、この領域におけるコーティングの平均厚さに対して最大で40%、好ましくは最大で20%、特に好ましくは最大で10%、非常に特に好ましくは最大で5%変動することを意味する。平均厚さは、コーティングの最大厚さとコーティングの最小厚さとの平均値として定義される。
【0067】
さらに、コーティングが一方ではタッチ操作可能となるように設計されており、他方ではそれと同時に反射性をも有するように形成されていることが可能であることによって、コーティングの特別な利点が提供される。そのため、一実施形態によれば、コーティングは、タッチ操作可能であると同時に反射性をも有するように形成されるように設計されている。特に、本実施形態によれば、コーティングは、CIEL*a*b*系における色度点であって、L*値が55より大きく、好ましくは60より大きく、特に好ましくは62より大きく、さらにはそれよりも大きい色度点を有するように形成されていてよい。特に、本実施形態によるコーティングによって、明色の鏡面反射性の設計が可能であり、その際、ガラスまたはガラスセラミック要素は同時に、コーティングが配置された領域においてもタッチ操作可能である。
【0068】
実施形態によるコーティングあるいは板状のガラスまたはガラスセラミック要素のような反射率値および/または色度値、特にL*値を有すると同時にさらにタッチ操作も可能であるコーティングあるいは板状のガラスまたはガラスセラミック要素のこのような設計は、以前には不可能であった。非構造化基材あるいは非構造化基材表面について得られるようなこのような高い反射率値は、これまでは通常は純金属コーティングによってのみ可能であったが、こうしたコーティングは導電性であるため、タッチ操作が可能となるようには形成されていない。
【0069】
コーティングの一実施形態によれば、コーティングは、コーティングまたはコーティングの少なくとも一部、特にコーティングが単層としてではなく層系として、例えば3層を含むものとして形成されている場合には例えば下層または部分層が、550nmの波長で0.1より大きい吸収係数kを有するように設計されている。kの値が大きいことが有利であり、kは、例えば1より大きくてもよく、例えば約2であってもよいし、さらには2より大きくてもよい。550nmでの屈折率値nは、例えば2より大きくてもよい。例えば金属で形成されたコーティングでは、550nmでのnが2未満であり、kが2より大きい場合に有利である。非金属または(部分的に)セラミックコーティングの実施形態によれば、550nmでのnが2より大きく、kが0.1より大きく3未満であると有利である場合がある。このような場合、吸収性であると同時に高い表面抵抗をも有するコーティングを有利に得ることができるため、少なくともコーティングが配置された領域において0.5%~5%の調整可能な光透過率を有するガラスまたはガラスセラミック要素が得られる。
【0070】
さらなる実施形態によれば、コーティングは、10重量%未満、好ましくは5重量%未満、特に好ましくは2重量%未満の水素を含む。一般に、水素はコーティングの耐熱性を低下させるため、これは有利なことである。したがって、コーティングの水素含有量は制限されるべきであり、上述のとおり10重量%未満であることが好ましい。したがって、好ましくは、水素の意図的な添加は行われない。
【0071】
本開示のさらなる態様はまた、ガラスまたはガラスセラミック要素、好ましくは本開示の一実施形態によるガラスまたはガラスセラミック要素の製造方法に関する。この方法は、
- 透明に形成された板状のガラスまたはガラスセラミック基材を提供するステップと、
- ガラスまたはガラスセラミック基材をコーティングチャンバに導入するステップと、
- コーティングチャンバ内で、少なくとも1つの半金属成分および/または少なくとも1つの金属成分を含むターゲットを提供するステップと、
- コーティングチャンバ内の圧力を調整し、その際、圧力は、少なくとも5×10-4mbar~最大で5×10-2mbarであるものとするステップと、
- スパッタリングによりコーティングを行い、その際、スパッタリングは、DCスパッタリング、またはACスパッタリング、例えば中周波スパッタリングまたは高周波スパッタリングとして行うことができるものとするステップと
を含み、それにより、板状のガラスまたはガラスセラミック基材と、該ガラスまたはガラスセラミック基材の少なくとも1つの主面上に少なくとも部分的に配置されたコーティングとを含む板状のガラスまたはガラスセラミック要素が得られ、
ここで、コーティングは、金属成分と半金属成分とを含み、かつ1MΩ超の表面抵抗を有し、ガラスまたはガラスセラミック要素は、少なくともコーティングが配置された領域において、好ましくはガラスまたはガラスセラミック基材の厚さ4mmに対して、0.5%~10%、好ましくは0.5%~5%の光透過率τvisを有する。
【0072】
総じて、ガラスまたはガラスセラミック基材は、本方法を実施する前に既に少なくとも1つのコーティングを含むことができ、すなわち、例えば上面または下面にいわゆるクッキングゾーンマーキングの形態でコーティングを有することができる。しかし、スパッタリング後に初めて、もう1つのコーティング、または場合によってはさらなる複数のコーティングを施与することも可能である。
【0073】
本方法によれば、少なくとも1つのターゲットがコーティングチャンバ内で提供される。例えば、少なくとも1つの半金属成分と少なくとも1つの金属成分とを含むターゲットを1つだけ提供することが可能である。しかし、半金属成分を含むターゲットと、金属成分を含むもう1つのターゲットとを提供することも可能である。これは、例えばいわゆる同時スパッタリングの場合に該当する。
【0074】
一実施形態によるコーティングは、例えば、不可避の不純物を除いてアルミニウムおよびシリコンのみを含む金属コーティングとして形成され、例えば、いわゆる同時スパッタリングプロセスで製造することができる。このプロセスでは、第1のマグネトロンに純アルミニウムターゲットが、第2のマグネトロンにシリコンターゲットが備えられ、スパッタリングを容易にするための技術的理由から、このターゲットには一定量のアルミニウム、例えば最大で20重量%のアルミニウム安定化が含まれることがある。両ターゲットは、スパッタリングローブ同士の主方向が基材の一平面上に向くように互いに割り当てられる。この面では、選択されたプロセスパラメータに従って得られるコーティングの調整された組成が予想されるが、しかし、基材面ではアルミニウムの方またはシリコンの方にシフトしている。スパッタリングプロセスは、アルミニウムターゲットへのスパッタリング電力が、シリコンターゲットへの電力の約2倍となるように運転される。
【0075】
反応ガスを添加することで、例えば金属で形成されたコーティングよりもアルミニウム含有量の高い組成物を得ることができる。例えば、この場合、アルミニウムとシリコンとの比率が(重量で)1:1の組成物を得ることもできる。コーティングにおけるアルミニウムの比率が高すぎると、シリコンの安定化特性によりコーティングの耐熱性および/または耐薬品性に不利になることがある。いわゆる(部分的に)セラミックコーティングの製造における課題は特に、正しい動作点を確立し、さらに制御することにある。これは特に、正しい反応ガス分圧の確立に関する。ここで、反応性スパッタリングのいわゆるS字曲線の金属部分に位置する動作点を調整する必要がある。この点は、反応ガス制御と部分的にセラミック化したターゲットの使用とによって安定的に確立および維持することが可能であり、その際、装置内の所定の残留ガス量が絶対的に必要である。この特定の動作点の目的は、吸収性のある非化学量論的なコーティングであって、光学的印象に関するその金属特性が可能な限り保持されるにもかかわらず、可能な限り高い表面抵抗を有するコーティングを確立することにある。このようなコーティングは、例えば、550nmの波長での吸収係数kが少なくとも0.1以上であり、かつ/または550nmの波長での屈折率値が2以上であると表すこともできる。
【0076】
さらに、本開示は、ガラスまたはガラスセラミック要素、特に本開示の実施形態によるガラスまたはガラスセラミック要素であって、本開示による方法で製造されたまたは少なくとも製造可能なガラスまたはガラスセラミック要素にも関する。
【0077】
本開示のさらに別の態様は、ガラスまたはガラスセラミック要素、特に、実施形態によるおよび/または本開示の実施形態による方法で製造されたもしくは少なくとも製造可能なガラスまたはガラスセラミック要素の、例えば、家庭用電化製品および/もしくは加熱器具のカバープレートとしての、特に調理用機器、特にガスもしくは誘導調理用機器のカバープレートとしての、またはオーブンの窓としての、または暖炉の覗き窓としての、または冷蔵庫の覗き窓としての、または電子レンジの覗き窓としての、または操作要素、特にコーヒーマシンの操作要素のもしくはオーブンの前面窓としての、または例えば棚もしくはテーブルなどの台所用具もしくは実験室用具の天板としての、または例えばスマートフォンなどの家電機器の操作面としての使用にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【
図1】ガラスまたはガラスセラミック要素1の概略側面図。
【
図2】ガラスまたはガラスセラミック要素1の上面図。
【
図3】ガラスまたはガラスセラミック要素1の概略斜視図。
【
図4】さらなるコーティング3を含むガラスまたはガラスセラミック要素1の概略側面図。
【
図5】ガラスまたはガラスセラミック要素1の概略断面図。
【
図6】ガラスまたはガラスセラミック要素1のさらなる実施形態を示す図。
【
図7】例示的な家庭用電化製品および/または加熱器具60を示す図。
【
図8】センサ80を含むガラスまたはガラスセラミック要素1を示す図。
【
図9】ガラスまたはガラスセラミック要素1のさらなる好ましい実施形態を示す図。
【
図11】ガラスまたはガラスセラミック要素の屈折率値nを示す図。
【
図12】ガラスまたはガラスセラミック要素の吸収係数kを示す図。
【0079】
以下に、図面を参照しながら本発明をより詳細に説明する。
【0080】
図1は、一実施形態によるガラスまたはガラスセラミック要素1の、正確な縮尺によらない概略側面図である。ガラスまたはガラスセラミック要素1は、ガラスまたはガラスセラミック基材10を含み、この基材10は、ここでは板状でかつ平面状に形成されている。総じて、
図1に示した平面の板状のガラスまたはガラスセラミック要素1あるいはガラスまたはガラスセラミック基材10の例に限定されず、要素1あるいは基材10は、反るようにまたは湾曲するように形成されていてもよい。
【0081】
板状のガラスまたはガラスセラミック基材10は、2つの主面11,12を含む。これらの主面11,12は総じて、面11,12と呼ばれることもあり、特に基材10の厳密な空間的配置に応じて、例えば上面や下面あるいは前面や裏面と呼ばれることもある。基材10の面11,12と、コーティングされた基材あるいは要素1の面11,12とは互いに対応しているため、基材10の主面または面11,12に関する説明は、総じて、要素1の面または主面にも相応して該当する。
【0082】
原則として、このような基材10あるいは要素1を備えた機器、例えば家庭用電化製品および/または加熱器具の動作使用において最上面または最前面として存在する面を、上面あるいは前面と呼ぶ。
【0083】
ガラスまたはガラスセラミック基材10は、例えば、ガラス基材として設計されていてよい。この場合、ガラス基材は、ソーダライムガラス、アルミノケイ酸ガラスまたはホウケイ酸ガラスを含むことができ、特に、ソーダライム板ガラスまたはホウケイ酸板ガラスとして設計されていてよい。その場合、ソーダライムガラスは安価に製造および加工できるため有利である。特に、基材10は、強化された、好ましくは熱強化されたソーダライム板ガラスとして存在することができる。このようにすると、基材10の機械的耐久性が向上するため有利である。しかし、ガラス基材10の特定の設計では、基材10がホウケイ酸ガラスを含み、例えばホウケイ酸板ガラスとして形成されていることが好ましい場合がある。なぜならば、ホウケイ酸ガラスはソーダライムガラスに比べて耐薬品性が向上しており、また、既にもともと耐熱性も向上していることから、必ずしもそうしたホウケイ酸板ガラスを改めて強化する必要がないためである。ただし、ホウケイ酸板ガラスについても、強化、例えば熱強化を行うことは排除されない。したがって、家庭用電化製品および/または熱分解炉の覗き窓のような例えば500℃に及ぶ高い使用温度を有する加熱器具でガラス基材10を使用するには、ガラス基材10をホウケイ酸板ガラスとして、または例えばアルミニウムシリケートガラスまたはリチウムアルミニウムシリケートガラスを含む化学強化板ガラスとして設計すると有利である場合がある。
【0084】
一実施形態によれば、ガラスまたはガラスセラミック基材10は、ガラスセラミック基材として存在する。この場合、ガラスセラミックは、好ましくは透明に形成されており、すなわち吸収によって暗色にならず、それと同時に好ましくは澄明であり、すなわち散乱をわずかにしか示さない。このようなガラスセラミック基材10、およびそれに相応してガラスセラミック要素1は、特定の動作負荷、特に高い熱機械的応力にさらされる用途で、例えばいわゆるクックプレートとしての調理用機器において、特にガスバーナーまたは発熱用誘導コイルと組み合わせて特に有利に使用することが可能である。
【0085】
図1の正確な縮尺によらない概略側面図からわかるように、ガラスまたはガラスセラミック基材10の少なくとも1つの主面11,12に少なくとも部分的にコーティング2が配置されており、この場合、ここでは下面として形成されている主面12に配置されている。すなわち、ガラスまたはガラスセラミック要素1は、ガラスまたはガラスセラミック基材10およびコーティング2が配置された領域101を有する。また、コーティング2は、総じて、遮光コーティング、または遮光もしくはシェーディング効果を有するコーティング2と理解および/または呼ばれることもある。
【0086】
ガラスまたはガラスセラミック基材10の少なくとも1つの面11,12でのコーティング2の部分的な配置について、ここではさらに、ガラスまたはガラスセラミック要素1の上面図である
図2において説明する。ここでは、
図1と同様に、ガラスまたはガラスセラミック基材10の下面にコーティング2が配置されている。説明したように、ガラスまたはガラスセラミック基材10は、観察者がガラスまたはガラスセラミック基材10を通してもコーティング2を知覚できるように、好ましくはガラスまたはガラスセラミック基材10の厚さ3mm~4.5mm、特に好ましくは4mmに対して、ガラスまたはガラスセラミック基材10が少なくとも20%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも80%の光透過率を有するように形成されている。したがって、ガラスまたはガラスセラミック要素1は、ここでは、コーティング2が配置された領域101と、コーティング2を含まない領域100とを含む。
図2の例示的な図示では、領域100は、ガラスまたはガラスセラミック基材10あるいはこれに相応してガラスまたはガラスセラミック要素1のエッジ領域、すなわちコーティング2の周囲に形成されている。総じて、
図1および2の例示的な図示に限定されることなく、ガラスまたはガラスセラミック基材10の実質的に全面にコーティングが施与されていてもよい。実質的に全面に施与されたコーティングとは、少なくとも1つの主面を少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%覆うコーティングを意味する。特に、コーティング2は、少なくとも1つの主面11または12を100%覆うこともできる。
【0087】
総じて、
図1および
図2に示すガラスまたはガラスセラミック要素1の実施形態に限定されることなく、ガラスまたはガラスセラミック要素1あるいはガラスまたはガラスセラミック基材10は、0.03mm~10mmまたはそれ以上、好ましくは0.03mm~6mm、特に0.7mm~5mm、特に好ましくは3mm~5mmの厚さを有することができる。例えば、基材10は、0.03mm~1mmの範囲の厚さを有する薄板ガラスまたは薄板ガラスセラミックとして形成されていてもよいし、1mm~10mmまたはさらにはそれ以上の範囲の厚さを有する厚板ガラス基材またはガラスセラミック基材として形成されていてもよい。
【0088】
少なくとも1つの領域101における要素1の光透過率は、好ましくは総じて
図1の要素1の例示的な図示に限定されず、基材の厚さ3.0mm~4.5mm、特に好ましくは4mmについて測定される。基材の厚さあるいは要素の厚さが異なる要素1の光透過率を互いに比較することで、保護範囲内であるか否かを判断することができる。
【0089】
例えば、より厚い要素1あるいは基材10は、4mmの厚さにまで薄くすることができる。
【0090】
より薄い要素1あるいは基材10も、積層および場合によっては必要な薄型化によって4mmの厚さにすることで、透過率の物理的測定および対応する光透過率の測定も実施して、これらのより薄い基材10あるいは要素1が保護周囲内にあるかどうかを判断することができる。ここで、この薄型化あるいは積層は、単に基材の厚さ、すなわちガラスまたはガラスセラミック材料の厚さを調整することのみを目的としており、場合によって行われる薄型化あるいは積層によりコーティング2の厚さを変更してはならないことに留意されたい。
【0091】
少なくとも90%以上、または少なくとも95%以上、またはさらには100%という高い被覆度合いを有するコーティング2の設計が特に有利であり、なぜならば、このようにすると、例えば下に表示要素または操作要素を配置することができる覗き窓を組み込むための複雑な構造化プロセスを省略することができるためである。したがって、このようなコーティング2は、例えばPVDプロセス、例えばスパッタリングプロセスでも非常に容易に製造することができる。また、コーティング2は、ガラスまたはガラスセラミック要素1の異なる領域で異なる厚さで形成されている必要はない。
図1に概略的にかつ正確な縮尺によらずに示されている実施形態によれば、コーティング2が一定の厚さを有することが可能である。これは、領域101におけるコーティング2の最大厚さに対して、コーティング2の厚さが最大で40%変動することを意味する。
【0092】
ガラスまたはガラスセラミック要素1のこれらの非常に有利な設計は、ガラスまたはガラスセラミック要素1が、総じて、
図1および
図2に例示されかつ説明されるガラスまたはガラスセラミック要素1の実施形態に限定されることなく、コーティング2が、金属成分と半金属成分とを含み、かつ1MΩ超の表面抵抗を有し、ガラスまたはガラスセラミック要素が、少なくともコーティング2が配置された領域101において、好ましくはガラスまたはガラスセラミック基材10の厚さ4mmに対して0.5%~5%の光透過率を有するように設計されていることによって可能となる。実施形態によれば、表面抵抗は、5MΩ超、またはさらには10MΩ超であってよく、その際、GΩ範囲の非常に高い表面抵抗も可能である。しかし、好ましくは、表面抵抗は制限され、25GΩ以下、好ましくは10GΩ以下、特に好ましくは1GΩ以下、非常に特に好ましくは100MΩ以下である。
【0093】
金属成分として、コーティングは総じて、アルミニウム、チタン、モリブデン、マグネシウム、銀または亜鉛を含むことができる。好ましくは、コーティングは、アルミニウム、チタン、マグネシウム、モリブデン、銀または亜鉛を含み、特に好ましくは、アルミニウム、銀、マグネシウムまたは亜鉛、最も好ましくはアルミニウムを含む。これらの金属は反射率の高い金属であり、組み合わせたり合金化したりしても高い反射率を生じるため好ましい。コーティング2の半金属成分は、ケイ素またはゲルマニウム、好ましくはケイ素であってよい。
【0094】
ガラスまたはガラスセラミック要素1の構造としては、
図1に例示するように、ガラスまたはガラスセラミック基材10の下面(ここでは面12)にコーティングが配置されていることが好ましい。なぜならば、こうすることで、一実施形態によれば1000nm未満の厚さを有する非常に薄いコーティング2が機械的攻撃から保護されるためである。これは、例えば、特にガラスまたはガラスセラミック要素1をいわゆるクックトップとして使用する場合に有利である。なぜならば、この場合、ガラスまたはガラスセラミック要素1の上面は、例えば調理器具との接触によってますます機械的攻撃にさらされるためである。非常に薄いコーティング2は、このように少なくとも部分的に迅速に摩耗し、その結果シェーディング効果を失うおそれがある。好ましくは、コーティング2は、1000nmよりもさらに薄く、例えば、500nm未満の厚さを有する。さらに小さな、例えば200nmまたはさらにはそれよりも小さな層厚も可能であり、これらが好ましい場合もある。なぜならば、このような非常に薄い層は、製造時のプロセス時間の短縮を意味すると同時に、コーティングの厳密な設計によっては、領域101における例えばわずか0.5%という低い光透過率や例えば5%という高い光透過率を可能にするためである。つまり、非常に高解像度の表示要素、例えば高解像度ディスプレイを、適切に設計された非常に薄いコーティング2の下方で、特に高い光透過率で有利に使用することができる。しかし、有利には、コーティングは少なくとも20nmの厚さであることが望ましい。
【0095】
一実施形態によれば、コーティング2は、550nmの波長で0.1より大きい吸収係数kを有するように設計されている。kの値が大きいことが有利であり、kは、例えば1より大きくてもよく、例えば約2であってもよいし、さらには2より大きくてもよい。550nmでの屈折率値nは、例えば2より大きくてもよい。例えば金属で形成されたコーティング2では、550nmでのnが2未満であり、kが2より大きい場合に有利である。非金属または(部分的に)セラミックコーティング2の実施形態によれば、550nmでのnが2より大きく、kが0.1より大きく3未満であると有利である場合がある。このような場合、吸収性であると同時に高い表面抵抗をも有するコーティング2を有利に得ることができるため、コーティング2が配置された少なくとも1つの領域101において0.5%~5%の調整可能な光透過率を有するガラスまたはガラスセラミック要素1が得られる。
【0096】
さらなる実施形態によれば、コーティング2は、反射性、特に鏡面性となるように形成されている。すなわち、本実施形態によれば、コーティング2は、反射性、特に高反射性のメタリック調のコーティングとして設計形成されていてよい。
【0097】
さらなる実施形態によれば、ガラスまたはガラスセラミック要素1は、少なくともコーティング2が配置された領域101において、CIEL
*a
*b
*系における色度点であって、L
*が55より大きい値を有し、a
*、b
*がそれぞれ-12~+12、好ましくは-10~+10、特に好ましくは-5~+5の範囲にある色度点を有する。L
*の値は、例えば60以上、特にさらには62
*以上であってもよい。色度点は、色度計による色度測定において、ガラスまたはガラスセラミック基材10の、色度計と反対側の主面上にコーティング2が配置された状態で測定されることが好ましい。言い換えれば、色度測定は、ガラスまたはガラスセラミック要素1を通して行われることが好ましく、したがって、
図1に例示される要素1の実施形態では、色度計は主面11上に配置されている。測定は、黒色トラップに対する反射で行われる。
【0098】
有利な実施形態によれば、コーティング2は、タッチ操作が可能であり、なおかつ反射性を有するように形成されている。特に、本実施形態によれば、コーティング2は、コーティング2が鏡面反射性であると同時にタッチ操作も可能であるように設計されていてよい。こうすることで、メタリックな優美さとタッチ操作可能性とを兼ね備えることができる。このことは、従来では不可能であった。例えば、反射コーティングは、独国特許出願公開第102013104702号明細書に記載されているように、従来では金属材料を用いてのみ可能であった。しかし、独国特許出願公開第102013104702号明細書による金属材料は導電性であり、いわゆる静電容量方式のタッチ操作を用いるには表面抵抗が低すぎるため、これはタッチ操作可能なものではなかった。
【0099】
さらなる実施形態によれば、コーティング2は、10重量%未満、好ましくは5重量%未満、特に好ましくは2重量%未満の水素を含む。一般に、水素はコーティング2の耐熱性を低下させるため、これは有利なことである。したがって、コーティング2の水素含有量は制限されるべきであり、上述のとおり10重量%未満であることが好ましい。
【0100】
一実施形態によれば、コーティング2は、金属で形成されていてよい。金属での形成とは、総じて、コーティングの非金属の含有量が限られており、好ましくは合計で4重量%未満であることを意味する。好ましくは、コーティング2の酸素Oおよび/または窒素Nの元素の含有量は、合計で4重量%未満であり、好ましくはそれぞれ2重量%未満である。
【0101】
総じて、上述の実施形態に限定されることなく、コーティングは、例えば組成AxByを有することができ、ここで、Aは、例えばアルミニウム、チタン、モリブデン、マグネシウム、銀または亜鉛、好ましくはアルミニウム、チタン、マグネシウム、モリブデン、銀または亜鉛、特に好ましくはアルミニウム、銀、マグネシウムまたは亜鉛、最も好ましくはアルミニウムなどの高反射率の少なくとも1つの金属であり、Bは、例えばケイ素またはゲルマニウムなどの少なくとも1つの半金属である。
【0102】
本実施形態によれば、コーティング2は、好ましくは、半金属成分としてケイ素Siを含む。金属成分あるいは金属は、好ましくはアルミニウムAlであるかまたはこれを含む。非常に特に好ましくは、本実施形態によるコーティングは、コーティング中の金属成分および半金属成分の総含有量に対して70重量%超のケイ素の含有量と30重量%未満のAlの含有量とを有する。
【0103】
例えば、コーティング2は、AlSi系コーティングとして形成されていてよい。このようなコーティングは、(それぞれ金属および半金属成分の総重量に対して)少なくとも約70重量%、好ましくは最大で99重量%のケイ素含有量から1MΩ超の表面抵抗を有し、これで商業的に使用されている大半のタッチセンサを動作させることができる。ここでは、表面抵抗を高く設定するためにケイ素の半導体特性あるいは半金属特性が有利であるため、コーティング2は、可能な限り電気絶縁性を有するように形成されている。しかし、純ケイ素のコーティングは、様々な理由から有用ではない。なぜならば、一方では、こうすると反射で十分に高い輝度を得ることができず、他方では、ケイ素の半導体特性あるいは半金属特性により、このような系は、強度のアーキングなどのプロセスの欠点を伴うスパッタリングなどのプロセスで製造することができるためである。したがって、ここではアルミニウムの含有量が可能な限り高くなるように調整することが有利である。これは、例えば、アルミニウムおよびケイ素を含むスパッタリングターゲットを提供することで実現できる。驚くべきことに、このようなターゲットや相応してそれから得られるコーティングにおけるアルミニウム含有量が、例えば最大でほぼ30重量%と高いにもかかわらず、なおも十分に高い表面抵抗を達成することが可能であることが判明した。従来は、例えば独国特許出願公開第102007030503号明細書では、例えばケイ素ターゲットにホウ素をドープすることで、アルミニウムの含有量を可能な限り低く抑えるか、または必要に応じてさらには回避すべきであることが前提とされていた。
【0104】
さらなる実施形態によれば、コーティング2は、非金属で形成されていてよい。非金属での形成とは、コーティングの(部分的に)セラミックまたはセラミックでの形成をも意味し得る。コーティングまたは材料の非金属または(部分的に)セラミックでの形成は、この場合、少なくとも4重量%の非金属を含むコーティングの場合について想定されている。コーティング2が非金属で形成されている場合、好ましくは、半金属成分はケイ素であるかあるいはケイ素を含み、金属成分はアルミニウムであるかあるいはアルミニウムを含む。特に好ましくは、コーティングは、酸素および/または窒素の元素を含み、例えば窒素混和物の場合、コーティング2の窒素含有量は、好ましくは4重量%超であり、かつ/または例えば酸素混和物の場合、コーティングの酸素含有量は、好ましくは10重量%超である。非金属で形成されたコーティング2の非常に特に好ましい変形例によれば、コーティング2のケイ素含有量は40重量%超であり、コーティング2のアルミニウム含有量は60重量%未満である。
【0105】
どちらの場合も、それぞれの他のガスの残留物が層内に存在する可能性がある。これは、基材および/または輸送媒体を通じてこれらのガスが随伴するためである。しかし典型的には、それぞれの他のガスの割合は、コーティング2に対して4重量%未満、好ましくは2重量%未満の範囲である。
【0106】
このような非金属によるコーティング2の形成は、例えば、マグネトロンスパッタリングプロセスでの製造時に追加の反応ガス、例えば酸素O2または窒素N2を反応ガスとして使用することによって達成することができる。これにより、一般式AwBxOyNzの窒化物もしくは酸化物、または総じて酸窒化物の化合物が形成される。この場合も、Aは、アルミニウム、チタン、モリブデン、マグネシウム、銀または亜鉛、好ましくはアルミニウム、チタン、マグネシウム、モリブデン、銀または亜鉛、特に好ましくはアルミニウム、銀、マグネシウムまたは亜鉛、最も好ましくはアルミニウムなどの高反射率の少なくとも1つの金属である、Bは、例えばケイ素またはゲルマニウムなどの少なくとも1つの半金属である。しかし、重量での、窒素Nもしくは酸素Oの含有量、または酸素Oと窒素Nの含有量の合計は、これらのコーティング材料において、成分Aおよび/またはBの含有量の合計よりも常に低い。コーティングは、例えば窒化アルミニウムケイ素AlSiNxもしくは酸化アルミニウムケイ素AlSiOyとして、または総じては酸窒化アルミニウムケイ素AlSizOyNxとして形成されていてよく、コーティングにおけるアルミニウムおよびケイ素の正確な含有量は、それぞれ可変であり得る。特に、コーティング2が、重量または物質量にかかわらず等しい割合でアルミニウムおよびケイ素を含むことのみが想定されているわけではない。厳密な設計によっては、コーティング2は総じて、窒化物としての形成においても、酸化物としての形成においても、酸窒化物としての形成においても、ケイ素よりもアルミニウムを多く含んでもよいし、その逆であってもよい。したがって、可能な限り高い反射率を達成するために、コーティング2のアルミニウム含有量を増加させることが有利である場合がある。一方で、コーティング2のタッチ操作可能性は、コーティング2のケイ素含有量を増加させることによって有利に向上させることができる。
【0107】
一実施形態によれば、サブストイキオメトリの酸化物、窒化物または酸窒化物が形成されるように、プロセスが運転される。ここで、サブストイキオメトリの窒化物系が特に有利である。これは、窒素を若干加えることで、アルミニウムおよびケイ素がコーティング組織により強固に組み込まれ、熱負荷下でのコーティングの劣化が起こりにくくなるためである。特に、こうすることで、熱負荷時または熱負荷後でも表面抵抗(あるいは導電率)が規定限度値内に収まる。
【0108】
サブストイキオメトリの化合物、例えば酸化物、窒化物または酸窒化物とは、本明細書では、非金属が金属および/または半金属成分に対して過少量で添加されているため、金属および/または半金属成分が完全に酸化せず、かつ/または1つ以上の成分のすべての原子が同じ酸化数で存在しているわけではなく、または存在する必要がないことを意味する。
【0109】
サブストイキオメトリの酸化物、窒化物または酸窒化物とは、本明細書では特に、それぞれ重量割合で、窒化物中の窒素Nの含有量、あるいは酸化物中の酸素Oの含有量、あるいは酸窒化物中の酸素Oおよび窒素Nの含有量の合計が、コーティング2の半金属および/または金属成分の割合よりも常に小さいことを意味する。
【0110】
窒化物コーティング2として、あるいは少なくとも大部分が窒化物コーティング2として形成されているコーティング2におけるケイ素とアルミニウムとの重量比が1:1である場合、コーティング2における窒素の含有量が5重量%以上で、少なくとも1MΩ、好ましくは少なくとも5MΩ、特に好ましくは少なくとも10MΩの十分に高い表面抵抗が達成された。ここで、コーティング2の組成は、好ましくは5keVの加速電圧でEDXによって求めることができ、その際、好ましくは数回の測定、例えば5回の測定が行われ、得られた測定点の平均値が示される。コーティング2の残留酸素量は約1重量%であり、この値はそれぞれの装置条件に依存するため、正確に設定し定義することは困難である。したがって、本開示において、窒化物のまたは窒化物となるように形成された、あるいは少なくとも大部分が窒化物である(または大部分が窒化物となるように形成された)コーティング2とは、その製造時に酸素が不可避の微量でのみ存在するコーティング2を意味する。スパッタリングなどのPVDプロセスでコーティング2が得られた場合、これは、例えば、反応ガスとして酸素を添加しないプロセスや、酸化性(部分的に)セラミックターゲットを使用しないプロセスである。ここで、不可避の微量の酸素とは、上記で説明したように製造プロセスによって異なり、通常は4重量%を超えることはない。
【0111】
酸化物となるように形成されたコーティング2の場合、コーティング2中のアルミニウムとケイ素との厳密な比に応じて、酸素の最小含有量を10重量%以上とすることによって十分に高い表面抵抗を得ることができる。窒化物のまたは大部分が窒化物であるコーティングの場合にも、コーティング2中のアルミニウム対ケイ素の比により、窒素あるいは酸素の異なる限界含有量が、十分な表面抵抗を得るために十分であるかまたは必要になる場合がある。
【0112】
ここで、金属でのコーティング2の形成と、非金属または(部分的に)セラミックでのコーティング2の形成との双方により、ガラスまたはガラスセラミック要素1の有利な特性を実現することができる。したがって特に、主面(または面)11,12のうちの少なくとも一方に少なくとも部分的にコーティング2を有し、少なくともコーティング2を有する領域101において、好ましくはガラスまたはガラスセラミック要素1の厚さ4mmに対して0.5%~5%の光透過率を有し、かつコーティングが1MΩ超、好ましくは5MΩ超、特に好ましくはさらに10MΩ超の表面抵抗を有するガラスまたはガラスセラミック要素1を提供することが可能である。
【0113】
図3は、一実施形態によるガラスまたはガラスセラミック要素1の、正確な縮尺によらない概略斜視図であり、ここでは、ガラスまたはガラスセラミック要素1は、コーティング2が上向きになるように配置されている。しかし、総じて、例示的な実施形態に限定されることなく、コーティングが、ガラスまたはガラスセラミック要素1あるいはガラスまたはガラスセラミック基材10の主面(または面)に配置されており、この主面(または面)が、動作上、ガラスまたはガラスセラミック要素1の下面または裏面として形成されていると有利である場合がある。なぜならば、こうすることでコーティング2は、例えばクックトップとして使用されるガラスまたはガラスセラミック要素1の上面での調理器具の動きによる機械的攻撃から、基材10によって保護されるためである。コーティング2は、ここでは、ガラスまたはガラスセラミック基材10の主面あるいは面の全面に施与されている。
【0114】
一実施形態によれば、
図4に概略的にかつ正確な縮尺によらずに示されているように、ガラスまたはガラスセラミック要素1がさらなるコーティング3を含むことが提供され得る。このさらなるコーティング3は、少なくとも1つの主面11,12、ここでは主面12上に、ガラスまたはガラスセラミック基材10とコーティング2との間に少なくとも部分的に配置されている。
図4の概略図では、ガラスまたはガラスセラミック要素1あるいはガラスまたはガラスセラミック基材10の主面12は下向きであり、すなわち下面として形成されている。さらなるコーティング3は、主面12上に、ここでは基材10上に直接、さらにはコーティング2が配置されたガラスまたはガラスセラミック要素1の領域101内に配置されている。ただし、ここではさらなるコーティング3とコーティング2とは完全に重なってはいない。しかし、総じて、
図4に示す実施形態に限定されることなく、さらなるコーティング3とコーティング2とが完全に重なるように配置されていること、すなわち、さらなるコーティング3も、基材10の少なくとも1つの主面(ここでは、主面あるいは面12)とコーティング2との間で、領域101全体に配置されていることも可能である。コーティングのうちの一方、例えばコーティング2またはさらなるコーティング3における無コーティング部は、例えばマスキングによって、特にいわゆるマスキングシートによって実施し、または得ることが可能である。これは特に、物理的または化学的気相成長法により得られるコーティングの場合に該当する。しかし、無コーティング部を例えば印刷プロセスによって得ることも可能であり、これは例えば、さらなるコーティング3などのコーティングが、顔料入りエナメル層の形態で実施されている場合に可能である。なぜならば、印刷プロセスを用いることで、施与プロセスにおいて直接、無コーティング領域とコーティングされた領域との形態でコーティングの横方向の構造化を得ることができるためである。このさらなるコーティング3が少なくとも1つの主面11上に配置されている場合、それは例えば、特に顔料入りエナメルをベースとする上面装飾として、または特にスパッタリングされたAl
xSi
yN
z層をベースとする引掻傷防止層として、またはこれらの2つの組み合わせとして機能することができる。
【0115】
さらなるコーティング3の厳密な種類および設計によって、これは異なる機能を発揮することができる。また、基材10とコーティング2との間に複数のさらなるコーティング3を配置することも可能である。
【0116】
例えば、さらなるコーティング3は、SiO2を含むかまたはそれから構成される、あるいは総じて酸化ケイ素から構成される単層として設計されていてよい。このように単層とすることで鏡面効果を高めることができるため、これによりL*値をさらに大きくすることができる。有利には、この場合、さらなるコーティング3は、コーティング2と完全に互いに覆うように設計されており、すなわち、さらなるコーティング3も、さらなるコーティング2が設けられたガラスまたはガラスセラミック要素1の全領域に配置されている。このようにして、必要に応じてガラスまたはガラスセラミック要素1の色度点を変更することも可能である。特に、このようにして、ガラスまたはガラスセラミック基材10の起こり得る色かぶりを補正または補償することさえ可能である。このことは、ガラスセラミック基材では特に重要であり得る。なぜならば、ガラスセラミック基材は、工業的にはバッチ中の不純物に起因する微量の鉄分によって若干の黄色かぶりを示すことがしばしばあるためである。これは、色調整層として設計されたさらなるコーティング3によって補償することができる。特に、さらなるコーティング3が層系として、例えば複数の材料層を含む光学層系として設計されていることも総じて可能である。しかし、経済的な理由から、コーティング3が単層として設計されていると有利である場合がある。
【0117】
代替的または追加的に、さらなるコーティング3は、ガラスまたはガラスセラミックからの元素の拡散を防ぐように設計されていてよい。すなわち、上記のような色調整および/または反射率の増加の代替として、さらなるコーティング3は、拡散バリアとして機能するように設計されていてもよい。特に、一実施形態によれば、さらなるコーティング3は、基材からのアルカリ金属あるいはアルカリ金属イオンの溶出に対する拡散バリアとして機能するように設計されていてもよい。これにより、ガラスまたはガラスセラミック基材10および相応してガラスまたはガラスセラミック要素1の耐用年数を有利に延長させることができる。
【0118】
上記のようなさらなるコーティング3に対して代替的または追加的に、ガラスまたはガラスセラミック要素1は、カバー層4を含むことができる。これは、
図5のガラスまたはガラスセラミック要素1の正確な縮尺によらない概略断面図に例示的に示されている。ここで、
図3のガラスまたはガラスセラミック要素1はさらに、コーティング2上に少なくとも部分的に配置されるカバー層4を含む。
【0119】
図5に概略的に示すように、カバー層4は、コーティング2を完全に覆わないように設計されていてよい。さらに、
図5にも概略的に示すように、カバー層4およびさらなるコーティング3も同様に、ガラスまたはガラスセラミック基材10の主面(または面)の部分的に重なる領域にのみ施与されていることも可能である。しかし、総じて、
図5に示す特定の実施形態に限定されることなく、カバー層4がコーティング2を完全に覆うことも可能である。さらに、総じて、
図5の特定の実施形態に限定されることなく、さらなるコーティング3およびカバー層4も完全に重なる領域で施与されていることも可能である。特に、さらなるコーティング(または、適切な場合には、複数のさらなるコーティング)3、コーティング2およびカバー層4が、基材10の1つの面(例えば、主面12)の全面に施与されている設計も考えられる。
【0120】
ここで、カバー層4がコーティング2を完全に覆っていると、特に有利である場合がある。例えば、このような層4は、コーティング2の酸化または腐食に対する保護として機能することができる。特に、コーティング2がセラミックで、ただしサブイキオメトリでかつ/もしくは窒化物で形成されている場合、コーティング2が金属で形成されている場合、および/または総じてガラスまたはガラスセラミック要素1を調理用途で、特に、特別に高い温度が生じ得る用途で用いる場合には、酸素バリアとしてのコーティング層の形成が特に有利となり得る。さらに、コーティング2は半透明コーティングとして形成されているため、カバー層4は、領域101におけるガラスまたはガラスセラミック要素1の色度点をわずかに変更あるいは調整する役割も果たすことができる。
【0121】
総じて、さらなるコーティング3および/またはカバー層4は、SiO2、SiOx、SiON、SiNx、AlOx、TiOx、SnOx、MgOx、ZnO、ZrOx、YOx、MoOx、HfOxおよび/またはこれらの物質の混合物を含むかまたはそれからなることができる。さらに、多孔質コーティングも代替的または追加的に考えられ、かつ/またはさらなるコーティング3および/もしくはカバー層4は、フッ化物、例えばMgF2を含むことができる。
【0122】
好ましくは、コーティング2は、総じて非晶質となるように形成されている。非晶質、特にX線非晶質コーティングとしてのコーティング2のこのような形成は、コーティング2の高い耐久性が望まれる場合に特に有利であり得る。したがって、特にガラスまたはガラスセラミック要素1が動作上高温にさらされる用途では、コーティング2のこのような非晶質の形成は有利であり得るが、コーティングが腐食性環境にさらされる可能性がある用途にも有利である。したがって、このような非晶質の設計は、特にガラスまたはガラスセラミック要素1を家庭用電化製品および/または加熱器具に使用する場合に有利であり得る。なぜならば、このような非晶質となるように形成されたコーティングには特に、コーティング2への腐食性物質の移動が起こり得る結晶面の形態の界面が存在しないためである。このように、コーティング2によって、基材10の腐食を少なくとも低減することもできる。一実施形態によれば、コーティング2は、非晶質となるように形成されており、特に無構造および/またはX線非晶質のモルフォロジーを有する。無構造のモルフォロジーとは、コーティング2が粒界および/または例えば成長構造などの他の構造を含まず、均質に形成されていることを意味する。本開示では、非晶質とは特に、X線非晶質をも意味する。換言すれば、一実施形態によるコーティング2は、結晶質となるようには形成されていない。
【0123】
さらなる好ましい実施形態によれば、ガラスまたはガラスセラミック要素1は、高い耐熱性を有する。ガラスまたはガラスセラミック要素1の高い耐熱性は、特に光学特性の安定性、特に光透過率および/または色度点の安定性において示され、これは以下のように定義される:
- ガラスまたはガラスセラミック要素1に390℃で80時間熱負荷をかけた後、熱負荷後と熱負荷前の領域101におけるガラスまたはガラスセラミック要素1の光透過率の差は、絶対値で最大5%、好ましくは絶対値で最大3%であり、かつ/または
- ガラスまたはガラスセラミック要素1に390℃で80時間熱負荷をかけた後、領域101におけるガラスまたはガラスセラミック要素1の色度点の差ΔEは、最大で20、好ましくは最大で10、特に好ましくは最大で5、非常に特に好ましくは最大で2であり、ここで、ΔEは、以下:
【数1】
のように求められ、ここで、色度点E
vTは、熱負荷前の領域101におけるガラスまたはガラスセラミック要素1の色度点を指し、色度座標a
*
vT、b
*
vT、L
*
vTによって与えられ、色度点E
nTは、熱負荷後の領域101におけるガラスまたはガラスセラミック要素1の色度点であり、色度座標a
*
nT、b
*
nT、L
*
nTによって与えられ、好ましくはそれぞれ、黒色トラップに対する測定で、特にKonica-Minolta社製分光光度計CM-700dを使用して測定される。
【0124】
領域101におけるガラスまたはガラスセラミック要素1の光透過率の差が絶対値で最大5%であることは、ここでは、光透過率が最大5%変動し得ることを意味する。つまりこれは、熱負荷前の領域101における光透過率が5%であれば、熱負荷後は0%~10%となり得ることを意味する。ただし、好ましくは、この差は5%未満であり、最大で3%である。
【0125】
さらなる実施形態によれば、コーティング2は、550nmの波長で、少なくとも2以上の屈折率値nおよび/または少なくとも0.1以上の吸収係数を有する。
【0126】
一実施形態によれば、ガラスまたはガラスセラミック要素1は、ガラス要素として形成されており、コーティング2が配置された領域101において、0.5%~10%、好ましくは0.5%~5%、好ましくは0.5~3.5%、特に好ましくは0.5~1.5%の光透過率を有する。
【0127】
さらなる実施形態によれば、ガラスまたはガラスセラミック要素1は、ガラスセラミック要素として形成されており、コーティング2が配置された領域101において、0.5%~10%、好ましくは0.5%~5%、特に好ましくは2%~5%の光透過率を有する。
【0128】
図6は、さらなる実施形態を、概略的にかつ正確な縮尺によらずに示す。ガラスまたはガラスセラミック要素1は、ここでは、コーティング2に加えて、少なくとも1つの主面、ここではガラスまたはガラスセラミック基材10の下面として設計されている主面(または面)12上に構造化層5を含むように設計されている。この構造化層5は、例えば、構造化層5が主面、ここでは主面12の領域501において少なくとも部分的に施与されるように、スクリーン印刷またはインクジェット印刷によって横方向に構造的に施与することができるセラミックコーティングとすることができる。
【0129】
例えば、構造化層5は、
図6に例として示すように、領域501においてグリッドの形態で施与されていてよい。この構造化層5は、特に、スクリーン印刷またはインクジェット印刷などの印刷プロセスによって施与することができる、澄明ないしごくわずかに拡散性である無色のコーティング、例えばガラス融液ベースのコーティングであってよい。無色のコーティングは、顔料や染料を含まないゾル-ゲルコーティングであってもよく、同様に、印刷、吹付け、または浸漬などの従来のコーティングプロセスによって、例えばスクリーン印刷やインクジェット印刷によって施与可能であり得る。しかし、構造化層5は、所望の光学的印象を得るために、顔料、特に効果顔料および/または染料を含有することもできる。顔料および/または染料を添加することで、反射および光散乱の挙動に加え、コーティングの透過率にも狙いどおりに影響を与えることができる。
【0130】
ここで、
図6に概略的に示されているものとは異なり、領域501におけるコーティング2の表面が平滑でなく、構造化層5の凸部に相当するレリーフを有し、すなわち、構造化層5の凸部に少なくとも部分的に従うこともできる。総じて、
図6に示すガラスまたはガラスセラミック要素1の例に限定されることなく、このような構造化層5を1つ以上のコーティング3および/またはカバー層4と組み合わせることが可能である。特に、構造化層5は、基材10あるいは基材10の少なくとも1つの主面または面とコーティング2との間に配置されており、好ましくは基材に直接隣接して配置されている。特に、1つ以上の任意のさらなるコーティング3が存在する場合であっても、構造化層5は、基材10に直接隣接する最下コーティングとして形成されていてよい。その場合、1つ以上のさらなるコーティング3およびコーティング2、ならびに任意のカバー層4は、構造化層5の上方に配置されている。
【0131】
しかし、
図6の概略的でかつ正確な縮尺によらない図から逸脱して、構造化層5が、ガラスまたはガラスセラミック基材10の、コーティング2と反対側の面11に配置されていることも可能であり、またさらに好ましい場合がある。このようにして、観察者の視覚的知覚において、構造化層5がコーティング2上で鏡面化することにより生じる3D効果が得られる。このようにすると、ガラスまたはガラスセラミック基材10の表面欠陥が隠蔽されるため、この効果は有利になり得る。したがって、ガラスまたはガラスセラミック基材10上のコーティングをこのように配置することで、プロセスステップの特に好ましいシーケンスの選択が可能となる。例えば、最初に構造化層5の印刷を行い、次いで基材10をセラミック化し、したがってガラスセラミックに変換するか、あるいは基材10を熱強化に供することができ、その際、構造化層5の焼成を前述の熱ステップ中に行うことができる。最後に、さらなるステップでスパッタリングによりコーティング2を施与することができる。
【0132】
さらに、構造化層5が基材10の両面に存在し、その際、例えば、構造化層が一方の面に他方の面とは異なるパターンで施与されていることも総じて可能であり、好ましい場合がある。構造化層5が基材10の下面に存在する場合、さらに上面にもさらなる層、例えば、装飾、調理ゾーンマーク、ドットパターン、ロゴなどが施与されていてよい。
【0133】
このような構造化層5は、例えば安全上の理由からガラスまたはガラスセラミック要素1を備えた機器の操作者または使用者の過度の眩惑を防止するために、コーティング2の過度の鏡面効果を防止したい場合に特に有利であり得る。
【0134】
このような構造化層5は、例えば、このように設計されたガラスまたはガラスセラミック要素1がブラッシュステンレス鋼表面のような印象を与えるように、追加で審美的効果を有することも可能である。
【0135】
図7は、例示的な家庭用電化製品および/または加熱器具60を概略的にかつ正確な縮尺によらずに示しており、これは、ここでは例示的にオーブンおよび調理用機器(コンロまたはクックトップとも呼ばれる)を含むレンジとして形成されている。調理用機器は、特にガスまたは誘導調理用機器であってよい。このような家庭用電化製品および/または加熱器具60は、総じて、実施形態によるガラスまたはガラスセラミック要素1を含む。総じて、一実施形態による家庭用電化製品および/または加熱器具60は、少なくとも1つの表示および/もしくは操作要素70ならびに/またはセンサ80をさらに含むように設計されていてよい。調理用機器の場合、これは、例えばガスバーナーまたは誘導コイルをさらに含むことができる。ここで、例示的な機器60は、実施形態による2つのガラスまたはガラスセラミック要素1を含み、すなわち、一方では例えば調理用機器におけるカバープレートとして、またオーブンの覗き窓として含む。コーティング2(ここでは図示せず)はそれぞれ、設置状態でガラスまたはガラスセラミック要素1の、機器60の使用者または操作者と反対側の面に配置されており、すなわち、調理用機器のカバープレートとして設計された上方の要素1の場合には下面に、また覗き窓として設計された要素1の場合には裏面に配置されている。
【0136】
例示的に、
図7a)には、スイッチオン状態の第1の表示要素70を示す。これにより、ガラスまたはガラスセラミック要素を通して表示が視認できる。また、この要素1の左下の領域には操作要素70が示されており、これは、例えば機器60を操作するためのタッチエリアとして設計されていてよい。しかし、ここで注目すべきことは、これらの操作要素70がここでは視認でき、例えば上面の装飾によっても識別できることである。しかし、
図2a)においてこれらの操作要素70が明確に視認できるのは、特に例示の目的によるものである。なんといってもガラスまたはガラスセラミック要素1の設計の利点の1つはまさに、こうした操作および/または表示要素70が特に邪魔な状態で知覚可能である必要がなく、それにより特にいわゆる「デッドフロント効果」を奏することができることにある。
【0137】
このことは、
図7b)に概略的にかつ正確な縮尺によらずに示されている。ここでは、表示要素70はスイッチオフ、すなわち要素1に覆われて視認できない状態であり、上方の要素1の左下の領域にあるさらなる表示要素70も知覚できない状態である。特に、このようにして要素1を、それらが機器60の他の構成要素と視覚的な一体性を生じるように、すなわち、その優美さの点で互いに調和しているように設計することも可能である。これは、視覚的に魅力的であるだけでなく、他方では、例えば機器60の故障時に表示要素70の視認性を高め、また操作者の安全性をも高めるものである。
【0138】
最後に、
図8は、その下面12にセンサ80を含むガラスまたはガラスセラミック要素1の設計を、概略的にかつ正確な縮尺によらずに示す。例えば、これは、
図7による機器60の、カバープレートとして設計されたガラスまたはガラスセラミック要素1であってよく、これは、分かりやすくするためにここでは図示していない表示要素あるいは操作要素70に加えて、例えば温度センサのようなセンサ80をさらに有している。
【0139】
一実施形態によれば、コーティング2は、無構造および/またはX線非晶質のモルフォロジーを有する。無構造のモルフォロジーとは、コーティング2が粒界および/または例えば成長構造などの他の構造を含まず、均質に形成されていることを意味する。
【0140】
一実施形態によれば、要素1は、コーティング2およびガラスまたはガラスセラミック要素1全体が、特に領域101において近赤外線の光透過性を有するように設計されているため、センサとの通信を行うことができる。つまり、本実施形態によれば、特に領域101におけるガラスまたはガラスセラミック要素1の分光透過率は、850nm~2500nmの波長域で少なくとも3%(つまり0.03)である。すなわち、この波長域で測定された透過率値は、特に領域101において各波長について常に3%超である。
【0141】
総じて、図に示す実施形態のいずれにも限定されずに、コーティング2は、単層として存在してもよいし、層系の形態で存在してもよい。コーティング2は、複数の層を含む場合には層系であると理解される。層系としてのコーティング2の実施形態を、例示的に、概略的にかつ正確な縮尺によらない
図9に示す。
【0142】
図9は、ガラスまたはガラスセラミック要素1のさらなる好ましい実施形態を示す。この特定の実施形態によれば、コーティング2は、層系20の形態である。特に、層系20あるいはコーティング2は3層系として形成されていてよく、すなわち、3層を含むかまたは3層からなることができる。
【0143】
したがって、この特定の実施形態によれば、コーティング2を誘電体層によって中断することができ、それにより、層2a,2bおよび2cを含む3層系が得られる。ここで、コーティング2の層2aおよび2cは、総じて、少なくとも1つの金属成分と少なくとも1つの半金属成分とを含むように形成されている。したがって、層2a,2cは、金属で形成されている場合には一般組成AxByを、また(部分的に)セラミックで形成されている場合には組成ABxOyNzを有することができ、ここで、Aは、総じて金属成分として、またBは、総じて半金属成分として存在する。特に、層2aおよび2cが、本開示において上述したような実施形態に従って、金属または非金属あるいは(部分的に)セラミックで形成されていることが可能である。ここで、層2a,2cの組成は、通常の製造公差の範囲内で同一であってもよいし、異なっていてもよい。特に、層2a,2cのうちの一方が(部分的に)セラミックで形成されていて一方が金属で形成されていることも、層2a,2cの双方が金属または(部分的に)セラミックで形成されているが、組成が異なることも可能である。ただし、通常は、層2a,2cの組成が製造公差内で同一であることが製造上の理由から好ましい場合がある。層2b(中間層ともいう)は、総じて誘電体材料を含むことができ、誘電体層または中間層とも呼ぶことができ、その際、さらに層2bは、層2bの550nmでの屈折率値nが層2a,2cの550nmでの屈折率値nよりも小さく、層2bの550nmでの吸収係数kが層2a,2cの550nmでの吸収係数kより小さくなるように構成されていることが好ましい。好ましくは、中間層2bは、SiO2を含むかまたはSiO2から構成されていてよい。説明された層系20としてのコーティング2の層構造によって、すなわち層2a,2bおよび2cから構成されるまたはこれらを含む層構造によって、驚くほど増加したL*値を非常に有利に達成することができ、その際、コーティング2のその他の特性、すなわち特に高い表面抵抗や、可視光および近赤外光における狙いどおりに調整された透過率は維持される。特にこのようにして、L*値を最大で70以上という非常に高い値にすることが可能である。さらに、さらなる細分化を行うことができ、すなわち、層系20は、さらなる層を含むこともでき、例えば、4層または5層系として設計されていてよい。
【0144】
したがって、総じて、実施形態によるガラスまたはガラスセラミック要素1は、コーティング2が、部分層を含む、好ましくは3つの部分層2a,2b,2cを含む層系20として形成されており、その際、少なくとも2つの部分層2a,2cが、少なくとも1つの金属成分と少なくとも1つの半金属成分とを含むように設計されていてよい。これらは、少なくとも1つの中間層2bを包囲する。少なくとも1つの中間層2bは、誘電体材料を含む。好ましくは、少なくとも1つの中間層2bの550nmでの屈折率値nは、少なくとも2つの他の部分層(2a,2c)の550nmでの屈折率値nよりも小さい。さらに好ましくは、中間層2bの550nmでの吸収係数kは、少なくとも2つの他の部分層(2a,2c)の550nmでの吸収係数kよりも小さい。
【0145】
このような設計では、表面抵抗を1MΩ超、光透過率を0.5%~5%に維持しつつ、非常に高いL*値をこのように達成することができるため、特に有利である。
【0146】
さらにこうすることで、透けて見えたときに限りなくニュートラルに近い色度点を達成することが驚くほど容易に可能となる。例えば、単層として形成され、ケイ素の割合が高いコーティング2の場合、特に金属で形成されたコーティング2の場合には、領域101におけるコーティングあるいはガラスまたはガラスセラミック要素1の色度点は、しばしば黄色味を帯びている。これは、色度点がずれてしまうため、ディスプレイや例えばLEDなどのその他の表示要素を組み込む場合には不利である。驚くべきことに、この色度点のずれは、コーティング2を上記のように層系20として実現すること、すなわち層2a,2cの間に誘電体層2bを含んで形成することによって回避できることが判明した。
【0147】
層系20として実現されるコーティング2を有するこの実施形態によれば、特に、それぞれ+15~-15の範囲、それぞれ好ましくは+10~10の範囲のa*値およびb*値を達成することが可能である。
【0148】
層系20として実現されるコーティング2の具体例によれば、a*値4.6およびb*値8.6を達成することができた。
【0149】
層2a,2b,2cの層厚は、同じでも異なっていてもよい。層2a,2b,2cの層厚は、好ましくは、合計で少なくとも50nmの範囲である。この場合、個々の層2a,2b,2cの厚さは、20nm未満とすることができる。層2aは、10nm~200nmが好ましく、層2bは、20nm~300nmが好ましく、層2cは、10nm~200nmが好ましい。
【0150】
最後に、
図11および
図12は、実施形態によるガラスまたはガラスセラミック要素の4つの選択された(部分的に)セラミックの試料6~9について、屈折率値n(
図11)および吸収係数k(
図12)を波長に対して示す。
【0151】
これら4つの試料の層構成は、それぞれアルミニウムとケイ素との重量比であった。これらの試料について得られた表面抵抗、光透過率τvis、および色度値の測定値を以下の2つの表にまとめた。表2は、コーティング後に得られた対応する値を示し、表3は、この場合は390℃で80時間の熱負荷後に得られた値を示す。
【0152】
【0153】
【0154】
さらに、これらの試料の層厚を以下に示す:
試料6:176nm
試料7:117nm
試料8:100nm
試料9:110nm
【0155】
試料6~9は、対応するΔE値で示されているように、温度負荷後も色度点の不変性を良好に示すことがわかる。可視光線領域での低い透過率、明色でかつ反射性のメタリックな色の印象、および低い導電性が、これらのコーティングあるいはこれらのコーティングを含むガラスまたはガラスセラミック要素の全体的な印象あるいはプロファイルを完成させている。
【0156】
最後に、以下の2つの表は、金属で形成されたコーティングを含む実施形態によるガラスまたはガラスセラミック要素の例示的な値を示している。ここでも、コーティング後(「蒸着後」)の値と、ここでも同様に390℃で80時間の熱負荷後の値とが示されている。
【0157】
試料10は、ここでは、Alを23重量部、ケイ素を77重量部含むコーティングである。試料11および12のコーティングは、コーティング系であり、コーティング2として、金属成分と半金属成分とを含むコーティングとして、AlSi、および例えば酸化に対するバリアとして作用し得るさらなるコーティングを含む。
【0158】
【0159】
【符号の説明】
【0160】
1 ガラスまたはガラスセラミック要素
10 ガラスまたはガラスセラミック基材
11,12 要素あるいは基材の面あるいは主面
100 要素あるいは基材の、コーティング2でコーティングされていない領域
101 要素あるいは基材の、コーティング2を備えた領域
2 コーティング、遮光コーティング
2a,2b,2c 層系の各層
20 層系
3 さらなるコーティング
4 カバー層
5 構造化層
501 構造化層が少なくとも部分的に施与された領域
60 家庭用電化製品および/または加熱器具
70 表示および/または操作要素
80 センサ
【外国語明細書】