(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164711
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20221020BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20221020BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/04
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129648
(22)【出願日】2022-08-16
(62)【分割の表示】P 2022535922の分割
【原出願日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2021009386
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021009387
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021104364
(32)【優先日】2021-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390033112
【氏名又は名称】積水テクノ成型株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末永 祐介
(72)【発明者】
【氏名】松村 龍志
(72)【発明者】
【氏名】桝田 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】中島 奈未
(72)【発明者】
【氏名】篠原 貴道
(57)【要約】
【課題】電磁波シールド性に優れる、樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂(A)と、黒鉛(B)と、2種以上のカーボンブラック(C)とを含み、前記カーボンブラック(C)は、BET比表面積が600m2/g以上の第1のカーボンブラック(C-1)と、BET比表面積が600m2/g未満の第2のカーボンブラック(C-2)とを含有する、樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)と、黒鉛(B)と、2種以上のカーボンブラック(C)とを含み、
前記カーボンブラック(C)は、BET比表面積が600m2/g以上の第1のカーボンブラック(C-1)と、BET比表面積が600m2/g未満の第2のカーボンブラック(C-2)とを含有する、樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、
前記第1のカーボンブラック(C-1)の含有量が、5重量部以上、50重量部以下であり、
前記第2のカーボンブラック(C-2)の含有量が、5重量部以上、50重量部以下であり、
前記カーボンブラック(C)全体の含有量が、15重量部以上、90重量部以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記第1のカーボンブラック(C-1)のDBP吸油量が、250ml/100g以上であり、
前記第2のカーボンブラック(C-2)のDBP吸油量が、250ml/100g未満である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記カーボンブラック(C)の灰分が、1%以下である、請求項1~3のいずれか1項に1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記黒鉛(B)が、板状黒鉛である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記黒鉛(B)の体積平均粒子径が、5μm以上、500μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、前記黒鉛(B)の含有量が、50重量部以上、300重量部以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂(A)が、オレフィン系樹脂及びナイロン系樹脂のうち、少なくとも一方の樹脂である、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
体積固有抵抗率が1.0×105Ω・cm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
熱可塑性樹脂(A)と、黒鉛(B)と、カーボンブラック(D)とを含む、樹脂組成物であって、
金型内に溶融状態の前記樹脂組成物を得られる樹脂成形体の厚み方向に直交する方向から充填させて成形し、縦100mm×横100mm×厚み2mmの樹脂成形体を得たときに、
パルスNMRを用いて125℃でHahn Echo法により前記樹脂成形体を測定することによって得られる1Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を、最小二乗法により緩和時間の短い順にS成分、M成分、及びL成分の3成分にそれぞれ由来する3つの曲線に波形分離したときに、前記L成分の緩和時間が1.3msec以下である、樹脂組成物。
【請求項11】
前記S成分、前記M成分、及び前記L成分の合計に対する前記L成分の比(L成分/(S成分+M成分+L成分))が10%以下である、請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記S成分、前記M成分、及び前記L成分の合計に対する前記L成分の比(L成分/(S成分+M成分+L成分))が、4%以上である、請求項10又は11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記黒鉛(B)が、板状黒鉛である、請求項10~12のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記熱可塑性樹脂(A)が、オレフィン系樹脂を含む、請求項10~13のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
金型内に溶融状態の前記樹脂組成物を得られる樹脂成形体の厚み方向に直交する方向から充填させて成形し、縦100mm×横100mm×厚み2mmの樹脂成形体を得たときに、
3GHz、25GHz、50GHz、及び75GHzのうちいずれかの周波数における前記樹脂成形体の電磁波シールド効果が、20dB以上である、請求項1~14のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
金型内に溶融状態の前記樹脂組成物を得られる樹脂成形体の厚み方向に直交する方向から充填させて成形し、縦100mm×横100mm×厚み2mmの樹脂成形体を得たときに、
前記樹脂成形体の面内方向の熱伝導率が、1W/(m・K)以上である、請求項1~15のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の樹脂組成物の成形体である、樹脂成形体。
【請求項18】
繊維を含む、請求項17に記載の樹脂成形体。
【請求項19】
体積固有抵抗率が1.0×105Ω・cm以下である、請求項17又は18に記載の樹脂成形体。
【請求項20】
請求項1~16のいずれか1項に記載の樹脂組成物と、熱可塑性樹脂及び繊維を含む複合体(E)とを混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を成形することにより、樹脂成形体を得る工程と、
を備える、樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、並びに該樹脂組成物を用いた樹脂成形体及び該樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屋内外で使用する通信機器や、防犯カメラ又はスマートメータなどの電子機器の筐体、カーナビ、スマートメータなどのマルチインフォメーションディスプレイ、車載カメラの放熱シャーシ、LED放熱ヒートシンク、SoC、あるいはGDC等の放熱板には、金属板や、熱伝導性を有する樹脂成形体などが用いられている。なお、SoCとは「System-on-a-chip」のことをいい、GDCとは「Graphics Display Controller」のことをいう。
【0003】
下記の特許文献1には、熱可塑性樹脂と、グラファイトと、カーボンブラックとを含有する樹脂コンパウンドを成型することにより得られた成型物が開示されている。特許文献1では、樹脂コンパウンド全体に対し、グラファイトを20~80重量%含有することが好ましいと記載されている。また、樹脂コンパウンド全体に対し、カーボンブラックを1~30重量%含有することが好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、CPUの高速化に伴い、従来よりも高い電磁波シールド性を有する樹脂成形体が求められている。
【0006】
しかしながら、特許文献1のような樹脂成形体の製造に際して、導電性を高めるためにカーボンブラックなどの導電性フィラーの充填量を増やすと、一方で製造時の射出成形などによる成形工程における流動性が低下し、ひいては成形性が低下するという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、電磁波シールド性に優れる、樹脂組成物、並びに該樹脂組成物を用いた樹脂成形体及び該樹脂成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の第1の発明に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、黒鉛(B)と、2種以上のカーボンブラック(C)とを含み、前記カーボンブラック(C)は、BET比表面積が600m2/g以上の第1のカーボンブラック(C-1)と、BET比表面積が600m2/g未満の第2のカーボンブラック(C-2)とを含有する。
【0009】
本願の第1の発明に係る樹脂組成物のある特定の局面では、前記熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、前記第1のカーボンブラック(C-1)の含有量が、5重量部以上、50重量部以下であり、前記第2のカーボンブラック(C-2)の含有量が、5重量部以上、50重量部以下であり、前記カーボンブラック(C)全体の含有量が、15重量部以上、90重量部以下である。
【0010】
本願の第1の発明に係る樹脂組成物の他の特定の局面では、前記第1のカーボンブラック(C-1)のDBP吸油量が、250ml/100g以上であり、前記第2のカーボンブラック(C-2)のDBP吸油量が、250ml/100g未満である。
【0011】
本願の第1の発明に係る樹脂組成物のさらに他の特定の局面では、前記カーボンブラック(C)の灰分が、1%以下である。
【0012】
本願の第1の発明に係る樹脂組成物のさらに他の特定の局面では、前記黒鉛(B)が、板状黒鉛である。
【0013】
本願の第1の発明に係る樹脂組成物のさらに他の特定の局面では、前記黒鉛(B)の体積平均粒子径が、5μm以上、500μm以下である。
【0014】
本願の第1の発明に係る樹脂組成物のさらに他の特定の局面では、前記熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、前記黒鉛(B)の含有量が、50重量部以上、300重量部以下である。
【0015】
本願の第1の発明に係る樹脂組成物のさらに他の特定の局面では、前記熱可塑性樹脂(A)が、オレフィン系樹脂及びナイロン系樹脂のうち、少なくとも一方の樹脂である。
【0016】
本願の第1の発明に係る樹脂組成物のさらに他の特定の局面では、体積固有抵抗率が1.0×105Ω・cm以下である。
【0017】
本願の第2の発明に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、黒鉛(B)と、カーボンブラック(D)とを含む、樹脂組成物であって、金型内に溶融状態の前記樹脂組成物を得られる樹脂成形体の厚み方向に直交する方向から充填させて成形し、縦100mm×横100mm×厚み2mmの樹脂成形体を得たときに、パルスNMRを用いて125℃でHahn Echo法により前記樹脂成形体を測定することによって得られる1Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を、最小二乗法により緩和時間の短い順にS成分、M成分、及びL成分の3成分にそれぞれ由来する3つの曲線に波形分離したときに、前記L成分の緩和時間が1.3msec以下である。
【0018】
本願の第2の発明に係る樹脂組成物のある特定の局面では、前記S成分、前記M成分、及び前記L成分の合計に対する前記L成分の比(L成分/(S成分+M成分+L成分))が10%以下である。
【0019】
本願の第2の発明に係る樹脂組成物の他の特定の局面では、前記S成分、前記M成分、及び前記L成分の合計に対する前記L成分の比(L成分/(S成分+M成分+L成分))が、4%以上である。
【0020】
本願の第2の発明に係る樹脂組成物のさらに他の特定の局面では、前記黒鉛(B)が、板状黒鉛である。
【0021】
本願の第2の発明に係る樹脂組成物のさらに他の特定の局面では、前記熱可塑性樹脂(A)が、オレフィン系樹脂を含む。
【0022】
以下、本願の第1の発明及び第2の発明を総称して本発明と称する場合があるものとする。
【0023】
本発明に係る樹脂組成物のさらに他の特定の局面では、金型内に溶融状態の前記樹脂組成物を得られる樹脂成形体の厚み方向に直交する方向から充填させて成形し、縦100mm×横100mm×厚み2mmの樹脂成形体を得たときに、3GHz、25GHz、50GHz、及び75GHzのうちいずれかの周波数における前記樹脂成形体の電磁波シールド効果が、20dB以上である。
【0024】
本発明に係る樹脂組成物のさらに他の特定の局面では、金型内に溶融状態の前記樹脂組成物を得られる樹脂成形体の厚み方向に直交する方向から充填させて成形し、縦100mm×横100mm×厚み2mmの樹脂成形体を得たときに、前記樹脂成形体の面内方向の熱伝導率が、1W/(m・K)以上である。
【0025】
本発明に係る樹脂成形体は、本発明に従って構成される樹脂組成物の成形体である。
【0026】
本発明に係る樹脂成形体のある特定の局面では、前記樹脂成形体が繊維を含む。
【0027】
本発明に係る樹脂成形体の他の特定の局面では、体積固有抵抗率が1.0×105Ω・cm以下である。
【0028】
本発明に係る樹脂成形体の製造方法は、本発明に従って構成される樹脂組成物と、熱可塑性樹脂及び繊維を含む複合体(E)とを混合して混合物を得る工程と、前記混合物を成形することにより、樹脂成形体を得る工程と、を備える。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、電磁波シールド性に優れる、樹脂組成物、並びに該樹脂組成物を用いた樹脂成形体及び該樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、放熱シャーシを示す模式的斜視図である。
【
図2】
図2は、放熱筐体を示す模式的斜視図である。
【
図3】
図3は、ヒートシンク形状を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0032】
[第1の発明の樹脂組成物]
本願の第1の発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、黒鉛(B)と、2種以上のカーボンブラック(C)とを含む。上記カーボンブラック(C)は、BET比表面積が600m2/g以上の第1のカーボンブラック(C-1)と、BET比表面積が600m2/g未満の第2のカーボンブラック(C-2)とを含有する。
【0033】
BET比表面積は、BET法に準拠して、窒素の吸着等温線から測定することができる。測定装置としては、例えば、アントンパール社製、品番「NOVAtouchLX2」を用いることができる。
【0034】
第1の発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、黒鉛(B)と、2種以上の特定のカーボンブラック(C)とを含むので、電磁波シールド性及び成形性の双方に優れている。
【0035】
従来、樹脂成形体の製造に際し、導電性を高めるためにカーボンブラックなどの導電性フィラーの充填量を増やすと、一方で製造時の射出成形などによる成形工程における流動性が低下し、ひいては成形性が低下するという問題がある。
【0036】
本発明者らは、熱可塑性樹脂(A)と、黒鉛(B)と、2種以上のカーボンブラック(C)とを含む、樹脂組成物において、第1のカーボンブラック(C-1)及び第2のカーボンブラック(C-2)のBET比表面積に着目した。特に、本発明者らは、BET比表面積が600m2/g以上の第1のカーボンブラック(C-1)と、BET比表面積が600m2/g未満の第2のカーボンブラック(C-2)とを含有する、カーボンブラック(C)を用いることで、樹脂組成物の電磁波シールド性及び成形性の双方を高め得ることを見出した。
【0037】
以下、樹脂組成物の各成分について、詳細に説明する。
【0038】
(熱可塑性樹脂(A))
熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート、又はこれらのうち少なくとも2種を含む共重合体などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。なお、熱可塑性樹脂としては、弾性率の高い樹脂であることが好ましい。安価であり、加熱下での成形が容易であることから、ポリオレフィン(オレフィン系樹脂)及びポリアミド(ナイロン系樹脂)がより好ましい。
【0039】
ポリオレフィンとしては、特に限定されず、公知のポリオレフィンを用いることができる。ポリオレフィンの具体例としては、エチレン単独重合体であるポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのポリエチレン系樹脂が挙げられる。また、ポリオレフィンは、プロピレン単独重合体であるポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂、ブテン単独重合体であるポリブテン、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンの単独重合体又は共重合体などであってもよい。これらのポリオレフィンは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。耐熱性や弾性率をより一層高める観点から、ポリオレフィンとしては、ポリプロピレンであることが好ましい。
【0040】
また、ポリオレフィン(オレフィン系樹脂)は、エチレン成分を含有していることが好ましい。エチレン成分の含有量は、5質量%~40質量%であることが好ましい。エチレン成分の含有量が、上記範囲内にある場合、樹脂成形体の耐衝撃性をより一層高めつつ、耐熱性をより一層高めることができる。
【0041】
熱可塑性樹脂のJIS K7210に準拠して測定されたMFRは、好ましくは10g/10分以上、より好ましくは30g/10分以上、好ましくは200g/10分以下、より好ましくは150g/10分以下である。MFRが上記範囲内にある場合、熱可塑性樹脂の流動性をより一層高めることができる。
【0042】
樹脂組成物中における熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上、好ましくは65重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。熱可塑性樹脂の含有量が上記範囲内にある場合、樹脂組成物の成形性をより一層高めることができる。
【0043】
(黒鉛(B))
黒鉛としては、特に限定されないが、板状黒鉛であることが好ましい。板状黒鉛としては、板状の黒鉛である限りにおいて特に限定されないが、例えば、黒鉛、薄片化黒鉛、又はグラフェンなどを用いることができる。熱伝導性及び難燃性をより一層高める観点から、好ましくは黒鉛又は薄片化黒鉛である。これらは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。なお、第1の発明において、板状黒鉛としては、例えば、鱗片状黒鉛を用いることができる。難燃性をより一層高める観点から、膨張黒鉛であってもよい。
【0044】
薄片化黒鉛とは、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体をいう。薄片化黒鉛にするための剥離処理としては、特に限定されず、超臨界流体などを用いた機械的剥離法、あるいは酸を用いた化学的剥離法のいずれを用いてもよい。薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、元の黒鉛より少なければよいが、1000層以下であることが好ましく、500層以下であることがより好ましく、200層以下であることがさらに好ましい。
【0045】
第1の発明において、板状黒鉛の体積平均粒子径は、好ましくは5μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは60μm以上、好ましくは500μm以下、より好ましくは350μm以下、さらに好ましくは300μm以下である。板状黒鉛の体積平均粒子径が、上記下限値以上である場合、電磁波シールド性及び放熱性をより一層高めることができる。他方、板状黒鉛の体積平均粒子径が、上記上限値以下である場合、樹脂成形体の耐衝撃性をより一層高めることができる。また、第1の発明の樹脂組成物に含まれる板状黒鉛の体積平均粒子径が上記の範囲内であれば、異なる粒径の黒鉛粒子を2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0046】
なお、第1の発明において、体積平均粒子径とは、JIS Z 8825:2013に準拠し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折法により、体積基準分布で算出した値をいう。
【0047】
例えば、板状黒鉛をその濃度が2重量%となるように石鹸水溶液(中性洗剤:0.01%含有)に投入し、超音波ホモジナイザーを用いて300Wの出力で超音波を1分間照射し、懸濁液を得る。次に、懸濁液についてレーザー回折・散乱式の粒度分析測定装置(日機装社製、製品名「マイクロトラックMT3300」)により板状黒鉛の体積粒子径分布を測定する。この体積粒子径分布の累積50%の値を板状黒鉛の体積平均粒子径として算出することができる。
【0048】
板状黒鉛の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは50重量部以上、より好ましくは70重量部以上、さらに好ましくは100重量部以上であり、好ましくは300重量部以下、より好ましくは250重量部以下、さらに好ましくは200重量部以下である。板状黒鉛の含有量が上記下限値以上である場合、電磁波シールド性及び放熱性をより一層高めることができる。また、板状黒鉛の含有量が多すぎると破壊の起点となる界面の面積が大きくなることから、板状黒鉛の含有量が上記上限値以下である場合、耐衝撃性をより一層高めることができる。
【0049】
板状黒鉛のアスペクト比は、好ましくは5以上、より好ましくは21以上、好ましくは2000未満、より好ましくは1000未満、さらに好ましくは100未満である。板状黒鉛のアスペクト比が、上記下限値以上である場合、面方向における放熱性をより一層高めることができる。また、板状黒鉛のアスペクト比が上記上限値未満である場合、例えば射出成形時に黒鉛粒子自身が熱可塑性樹脂中でより折れ曲がり難い。そのため、電磁波シールド性能をより一層高めることができる。なお、本明細書において、アスペクト比とは、板状黒鉛の厚みに対する板状黒鉛の積層面方向における最大寸法の比をいう。
【0050】
なお、板状黒鉛の厚みは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。より一層観察し易くする観点から、樹脂組成物又は樹脂成形体から切り出した試験片を600℃で加熱することで樹脂を飛ばして透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することが望ましい。なお、試験片は、樹脂を飛ばして板状黒鉛の厚みを測定できる限り、樹脂成形体の主面に沿う方向に沿って切り出してもよく、樹脂成形体の主面に直交する方向に沿って切り出してもよい。
【0051】
(カーボンブラック(C))
第1のカーボンブラック(C-1);
第1のカーボンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラックなどのオイルファーネスブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラックなどを用いることができる。なかでも、得られる樹脂成形体の導電性をより一層高める観点から、オイルファーネスブラックであることが好ましい。なお、カーボンブラックの灰分は、1%以下であることが好ましい。また、カーボンブラックは、Fe、Niなどの金属不純物を含有していてもよい。
【0052】
第1のカーボンブラックのBET比表面積は、600m2/g以上、好ましくは700m2/g以上、より好ましくは800m2/g以上である。第1のカーボンブラックのBET比表面積が上記下限値以上である場合、導電性をより一層高めることができる。なお、第1のカーボンブラックのBET比表面積の上限値は、例えば、1800m2/gとすることができ、好ましくは1600m2/g以下、より好ましくは1200m2/g以下である。
【0053】
第1のカーボンブラックのDBP吸油量は、特に限定されないが、好ましくは250ml/100g以上、より好ましくは270ml/100g以上、さらに好ましくは300ml/100g以上である。第1のカーボンブラックのDBP吸油量が上記下限値以上である場合、導電性をより一層高めることができる。なお、第1のカーボンブラックのDBP吸油量の上限値は、例えば、600ml/100gとすることができる。
【0054】
本明細書において、カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K 6217-4に準拠して最大トルクの70%でDBP滴下量を算出することにより得ることができる。DBP吸油量は、例えば、吸収量測定器(あさひ総研社製、品番「S-500」)を用いて測定することができる。
【0055】
第1のカーボンブラックの一次粒子径は、特に限定されないが、好ましくは15nm以上、より好ましくは20nm以上、好ましくは60nm以下、より好ましくは50nm以下である。第1のカーボンブラックの一次粒子径が上記範囲内にある場合、より一層低濃度の第1のカーボンブラック含有量でより一層高い導電性を得ることができる。
【0056】
なお、本明細書において、カーボンブラックの一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡により得られたカーボンブラックの画像データを用いて求めた平均一次粒子径である。透過型電子顕微鏡としては、例えば、日本電子社製、製品名「JEM-2200FS」を用いることができる。
【0057】
第1のカーボンブラックの含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上、好ましくは50重量部以下、より好ましくは40重量部以下である。第1のカーボンブラックの含有量が上記下限値以上である場合、導電性をより一層高めることができる。また、第1のカーボンブラックの含有量が上記上限値以下である場合、成形時における流動性をより一層向上させ、成形性をより一層高めることができる。
【0058】
第2のカーボンブラック(C-2);
第2のカーボンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラックなどのオイルファーネスブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラックなどを用いることができる。なかでも、得られる樹脂成形体の導電性をより一層高める観点から、オイルファーネスブラックであることが好ましい。特に、第1のカーボンブラック及び第2のカーボンブラックの双方が、オイルファーネスブラックであることがより好ましい。なお、カーボンブラックの灰分は、1%以下であることが好ましい。また、カーボンブラックは、Fe、Niなどの金属不純物を含有していてもよい。
【0059】
第2のカーボンブラックのBET比表面積は、600m2/g未満、好ましくは400m2/g以下、より好ましくは300m2/g以下である。第2のカーボンブラックのBET比表面積が上記上限値未満又は上限値以下である場合、成形時における流動性をより一層向上させ、成形性をより一層高めることができる。なお、第2のカーボンブラックのBET比表面積の下限値は、例えば、30m2/gとすることができ、好ましくは100m2/g以上、より好ましくは150m2/g以上である。
【0060】
第2のカーボンブラックのDBP吸油量は、特に限定されないが、好ましくは250ml/100g未満、より好ましくは200ml/100g以下である。第2のカーボンブラックのDBP吸油量が上記上限値未満又は上記上限値以下である場合、成形時における流動性をより一層向上させ、成形性をより一層高めることができる。なお、第2のカーボンブラックのDBP吸油量の下限値は、例えば、30ml/100gとすることができる。
【0061】
第2のカーボンブラックの一次粒子径は、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは15nm以上、好ましくは80nm以下、より好ましくは70nm以下、さらに好ましくは60nm以下、特に好ましくは50nm以下である。第2のカーボンブラックの一次粒子径が上記範囲内にある場合、より一層低濃度の第2のカーボンブラック含有量でより一層高い導電性を得ることができる。
【0062】
第2のカーボンブラックの含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上、好ましくは50重量部以下、より好ましくは40重量部以下である。第2のカーボンブラックの含有量が上記下限値以上である場合、成形時における流動性をより一層向上させ、成形性をより一層高めることができる。また、第2のカーボンブラックの含有量が上記上限値以下である場合、導電性をより一層高めることができる。
【0063】
第1のカーボンブラックの第2のカーボンブラックに対する割合(C-1)/(C-2)は、重量比で、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上であり、さらに好ましくは0.5以上、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは2以下である。(C-1)/(C-2)が上記下限値以上である場合、導電性をより一層高めることができる。また、(C-1)/(C-2)が上記上限値以下である場合、成形時における流動性をより一層向上させ、成形性をより一層高めることができる。
【0064】
なお、カーボンブラック全体の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは15重量部以上、より好ましくは25重量部以上、好ましくは90重量部以下、より好ましくは70重量部以下である。カーボンブラック全体の含有量が上記下限値以上である場合、導電性をより一層高めることができる。また、カーボンブラック全体の含有量が上記上限値以下である場合、成形時における流動性をより一層向上させ、成形性をより一層高めることができる。
【0065】
なお、カーボンブラックは、第1のカーボンブラック及び第2のカーボンブラック以外の他のカーボンブラックをさらに含んでいてもよい。他のカーボンブラックとしては、第1のカーボンブラック及び第2のカーボンブラックの欄で説明したカーボンブラックを適宜用いることができる。
【0066】
(その他添加剤)
第1の発明の樹脂組成物には、第1の発明の効果を阻害しない範囲において、任意成分として様々なその他添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、例えば、フェノール系、リン系、アミン系、イオウ系などの酸化防止剤;ベンゾトリアゾール系、ヒドロキシフェニルトリアジン系などの紫外線吸収剤;金属害防止剤;各種充填剤;帯電防止剤;安定剤;顔料などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0067】
(樹脂組成物の製造方法)
上述した樹脂組成物は、まず、熱可塑性樹脂(A)と、黒鉛(B)と、BET比表面積が600m2/g以上の第1のカーボンブラック(C-1)と、BET比表面積が600m2/g未満の第2のカーボンブラック(C-2)と、必要に応じてその他添加剤とを溶融混錬することにより得ることができる。
【0068】
溶融混練の方法については、特に限定されないが、例えば、プラストミルなどの二軸スクリュー混練機、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロール、加圧式ニーダーなどの混練装置を用いて、加熱下において混練する方法などが挙げられる。これらのなかでも、押出機を用いて溶融混練する方法が好ましい。なお、第1の発明の樹脂組成物の形態としては、特に限定されないが、例えば、ペレットとすることができる。
【0069】
ペレットとする場合、その形状は特に限定されないが、球形、円柱形、角柱形などが挙げられる。これらの中でもペレット形状の安定性の観点から円柱形が好ましい。また、ペレットのサイズは例えば円柱形の場合は、その直径は、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上であり、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。その長さは、好ましくは1mm以上、より好ましくは3mm以上であり、好ましくは10mm以下、より好ましくは7mm以下である。ペレットのサイズは、試料からペレット100粒をランダムに採取し、ノギスを用いて測定することができる。
【0070】
なお、円柱形以外の樹脂組成物のペレットの直径(ペレット径)は、1mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましく、15mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましい。ペレット径は、試料からペレット100粒をランダムに採取し、ノギスを用いて最長箇所での直径を測定することで求めることができる。
【0071】
第1の発明の樹脂組成物は、体積固有抵抗率が、好ましくは1.0×105Ω・cm以下、より好ましくは1.0×102Ω・cm以下である。なお、体積固有抵抗率の下限値は、特に限定されないが、例えば、1.0×10-4Ω・cmである。また、体積固有抵抗率は、低抵抗の抵抗率計を用いて、抵抗値を測定し、抵抗率補正係数と樹脂組成物の厚みより算出することができる。例えば、四探針法抵抗率測定装置(ロレスタAX MCP-T370、三菱ケミカルアナリテック社製)により室温、大気中にて測定することができる。
【0072】
[第2の発明]
本願の第2の発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、黒鉛(B)と、カーボンブラック(D)とを含む。また、第2の発明の樹脂組成物は、パルスNMRを用いて以下の測定をしたときに、L成分の緩和時間が1.3msec以下である。
【0073】
なお、上述したパルスNMRによる測定は、例えば、以下のようにして行うことができる。下記成形条件で得られた樹脂成形体のサンプルを直径10mmのガラス製のサンプル管(BRUKER製、品番1824511、10mm径、長さ180mm、フラットボトム)に700mg導入する。次いで、サンプル管をパルスNMR装置(BRUKER製「the minispe mq20」)に設置し、125℃で10分間保持する。しかる後、125℃でHahn Echo法を行い、得られた1Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を、最小二乗法により緩和時間の短い順にS成分、M成分、L成分の3成分にそれぞれ由来する3つの曲線に波形分離する。
【0074】
<成形条件>
金型内に溶融状態の上記第2の発明の樹脂組成物を得られる樹脂成形体の厚み方向に直交する方向から充填させて成形し、縦100mm×横100mm×厚み2mmの樹脂成形体を得る。得られた樹脂成形体の平板を5mm角にカットすることで樹脂成形体のサンプルを得る。
【0075】
波形分離は、エクスポーネンシャル型を用いて、フィッティングさせることで行う。なお、BRUKER社製の解析ソフトウェア「TD-NMRA(Version 4.3 Rev 0.8)」を用い製品マニュアルに従ってフィッティングを行う。
【0076】
フィッティングには以下の式を用いる。
【0077】
Y=A1×exp(-1÷w1×(t÷T2A)w1)+B1×exp(-1÷w2×(t÷T2B)w2)+C1×exp(-1÷w3×(t÷T2C)w3)
【0078】
ここで、w1~w3はワイブル係数であり、w1、w2及びw3は1の値を取る。A1はS成分の、B1はM成分の、C1はL成分のそれぞれ成分比であり、T2AはS成分の、T2BはM成分の、T2CはL成分のそれぞれ緩和時間を示す。tは時間である。
【0079】
更に、Hahn Echo法では下記の設定を行う。
Scans:16times
Recycle Deray:1sec
First 90-180 Pluse Separation:0.0082msec
Final Pluse Separation:5msec
Number of Points for Fitting:100
【0080】
上記測定条件は一例であり、Final Pluse Separationは規格化した緩和曲線の強度が0.02msec以下となるように設定することが望ましく、Recycle Derayは縦緩和時間T1の5倍の値となるように設定することが望ましい。
【0081】
一般的にパルスNMRにより測定すると、1Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線が得られる。得られた自由誘導減衰曲線は、緩和時間の短い順にS成分、M成分、L成分の3成分に由来する3つの曲線に波形分離することができる。すなわち、実測された自由誘導減衰曲線は、S成分、M成分、L成分の3成分に由来する自由誘導減衰曲線を重畳したものである。このようなパルスNMRを用いて3成分に分離して解析する手法は、公知であり、当該手法が記載された文献の例としては、特開2018-2983号公報等が挙げられる。
【0082】
S成分は、パルスNMR測定における緩和時間の短い成分であり、分子運動性が低く、硬い成分を意味する。一方、L成分は、パルスNMR測定における緩和時間の長い成分であり、分子運動性が高く、柔らかい成分を意味する。M成分は、S成分とL成分の間のパルスNMR測定における緩和時間を有し、そのため分子運動性もS成分及びL成分の間となる。
【0083】
第2の発明の樹脂組成物は、L成分の緩和時間が1.3msec以下であることにより、長期耐熱性を向上させることができる。上記L成分の緩和時間は、好ましくは1.2msec以下、より好ましくは1.0msec以下である。なお、L成分の緩和時間の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.5msecとすることができる。
【0084】
また、第2の発明の樹脂組成物では、S成分、M成分、及びL成分の合計に対するL成分の比(L成分/(S成分+M成分+L成分))が好ましくは4%以上、より好ましくは5%以上、好ましくは10%以下、より好ましくは9%以下である。比(L成分/(S成分+M成分+L成分))が、上記範囲内にある場合、長期耐熱性をより一層向上させることができる。
【0085】
なお、第2の発明の樹脂組成物におけるL成分の緩和時間や成分比は、樹脂組成物を構成する各成分の種類及び含有割合を調整することにより上述した範囲とすることができる。分子運動性が高く、柔らかい成分であるL成分は、樹脂組成物とフィラーとの親和性や分子運動性を阻害するフィラー同士の分散性によって制御することができる。そのため、樹脂組成物にカーボンブラック(D)を2種以上含有させたり、あるいは後述のドライブレンドによる製造方法で製造したりすることにより、L成分の緩和時間をより短くすることができる。
【0086】
以下、樹脂組成物の各成分について、詳細に説明する。
【0087】
(熱可塑性樹脂(A))
熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート、又はこれらのうち少なくとも2種を含む共重合体などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。なお、熱可塑性樹脂としては、弾性率の高い樹脂であることが好ましい。安価であり、加熱下での成形が容易であることから、ポリオレフィン(オレフィン系樹脂)及びポリアミド(ナイロン系樹脂)がより好ましく、ポリオレフィンがさらに好ましい。
【0088】
ポリオレフィンとしては、特に限定されず、公知のポリオレフィンを用いることができる。ポリオレフィンの具体例としては、エチレン単独重合体であるポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのポリエチレン系樹脂が挙げられる。また、ポリオレフィンは、プロピレン単独重合体であるポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂、ブテン単独重合体であるポリブテン、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンの単独重合体又は共重合体などであってもよい。これらのポリオレフィンは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。耐熱性や弾性率をより一層高める観点から、ポリオレフィンとしては、ポリプロピレンであることが好ましい。
【0089】
また、ポリオレフィン(オレフィン系樹脂)は、エチレン成分を含有していることが好ましい。エチレン成分の含有量は、5質量%~40質量%であることが好ましい。エチレン成分の含有量が、上記範囲内にある場合、樹脂成形体の耐衝撃性をより一層高めつつ、耐熱性をより一層高めることができる。
【0090】
熱可塑性樹脂のJIS K7210に準拠して測定されたMFRは、好ましくは10g/10分以上、より好ましくは30g/10分以上、好ましくは200g/10分以下、より好ましくは150g/10分以下である。MFRが上記範囲内にある場合、熱可塑性樹脂の流動性をより一層高めることができる。
【0091】
樹脂組成物中における熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは25重量%以上、好ましくは65重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。熱可塑性樹脂の含有量が上記範囲内にある場合、樹脂組成物の成形性をより一層高めることができる。
【0092】
(黒鉛(B))
黒鉛としては、特に限定されないが、板状黒鉛であることが好ましい。板状黒鉛としては、板状の黒鉛である限りにおいて特に限定されないが、例えば、黒鉛、薄片化黒鉛、又はグラフェンなどを用いることができる。熱伝導性及び難燃性をより一層高める観点から、好ましくは黒鉛又は薄片化黒鉛である。これらは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。なお、第2の発明において、板状黒鉛としては、例えば、鱗片状黒鉛を用いることができる。難燃性をより一層高める観点から、膨張黒鉛であってもよい。
【0093】
薄片化黒鉛とは、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体をいう。薄片化黒鉛にするための剥離処理としては、特に限定されず、超臨界流体などを用いた機械的剥離法、あるいは酸を用いた化学的剥離法のいずれを用いてもよい。薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、元の黒鉛より少なければよいが、1000層以下であることが好ましく、500層以下であることがより好ましく、200層以下であることがさらに好ましい。
【0094】
第2の発明において、板状黒鉛の体積平均粒子径は、好ましくは5μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは60μm以上、好ましくは500μm以下、より好ましくは350μm以下、さらに好ましくは300μm以下である。板状黒鉛の体積平均粒子径が、上記下限値以上である場合、電磁波シールド性及び放熱性をより一層高めることができる。他方、板状黒鉛の体積平均粒子径が、上記上限値以下である場合、樹脂成形体の耐衝撃性をより一層高めることができる。また、第2の発明の樹脂組成物に含まれる板状黒鉛の体積平均粒子径が上記の範囲内であれば、異なる粒径の黒鉛粒子を2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0095】
なお、第2の発明において、体積平均粒子径とは、JIS Z 8825:2013に準拠し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折法により、体積基準分布で算出した値をいう。
【0096】
例えば、板状黒鉛をその濃度が2重量%となるように石鹸水溶液(中性洗剤:0.01%含有)に投入し、超音波ホモジナイザーを用いて300Wの出力で超音波を1分間照射し、懸濁液を得る。次に、懸濁液についてレーザー回折・散乱式の粒度分析測定装置(日機装社製、製品名「マイクロトラックMT3300」)により板状黒鉛の体積粒子径分布を測定する。この体積粒子径分布の累積50%の値を板状黒鉛の体積平均粒子径として算出することができる。
【0097】
板状黒鉛の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは50重量部以上、より好ましくは70重量部以上、さらに好ましくは100重量部以上であり、好ましくは300重量部以下、より好ましくは250重量部以下、さらに好ましくは200重量部以下である。板状黒鉛の含有量が上記下限値以上である場合、電磁波シールド性及び放熱性をより一層高めることができる。また、板状黒鉛の含有量が多すぎると破壊の起点となる界面の面積が大きくなることから、板状黒鉛の含有量が上記上限値以下である場合、耐衝撃性をより一層高めることができる。
【0098】
板状黒鉛のアスペクト比は、好ましくは5以上、より好ましくは21以上、好ましくは2000未満、より好ましくは1000未満、さらに好ましくは100未満である。板状黒鉛のアスペクト比が、上記下限値以上である場合、面方向における放熱性をより一層高めることができる。また、板状黒鉛のアスペクト比が上記上限値未満である場合、例えば射出成形時に黒鉛粒子自身が熱可塑性樹脂中でより折れ曲がり難い。そのため、電磁波シールド性能をより一層高めることができる。なお、本明細書において、アスペクト比とは、板状黒鉛の厚みに対する板状黒鉛の積層面方向における最大寸法の比をいう。
【0099】
なお、板状黒鉛の厚みは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。より一層観察し易くする観点から、樹脂組成物又は樹脂成形体から切り出した試験片を600℃で加熱することで樹脂を飛ばして透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することが望ましい。なお、試験片は、樹脂を飛ばして板状黒鉛の厚みを測定できる限り、樹脂成形体の主面に沿う方向に沿って切り出してもよく、樹脂成形体の主面に直交する方向に沿って切り出してもよい。
【0100】
(カーボンブラック(D))
カーボンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラックなどのオイルファーネスブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラックなどを用いることができる。なかでも、得られる樹脂成形体の導電性をより一層高める観点から、オイルファーネスブラックであることが好ましい。なお、カーボンブラックの灰分は、1%以下であることが好ましい。また、カーボンブラックは、Fe、Niなどの金属不純物を含有していてもよい。
【0101】
カーボンブラックのBET比表面積は、好ましくは30m2/g以上、より好ましくは50m2/g以上、好ましくは2000m2/g以下、より好ましくは1500m2/g以下である。カーボンブラックのBET比表面積が上記範囲内である場合、導電性をより一層向上させることができる。
【0102】
BET比表面積は、BET法に準拠して、窒素の吸着等温線から測定することができる。測定装置としては、例えば、アントンパール社製、品番「NOVAtouchLX2」を用いることができる。
【0103】
カーボンブラックのDBP吸油量は、特に限定されないが、好ましくは50ml/100g以上、より好ましくは100ml/100g以上、好ましくは450ml/100g以下、より好ましくは400ml/100g以下である。カーボンブラックのDBP吸油量が上記範囲内である場合、導電性をより一層向上させることができる。
【0104】
本明細書において、カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K 6217-4に準拠して最大トルクの70%でDBP滴下量を算出することにより得ることができる。DBP吸油量は、例えば、吸収量測定器(あさひ総研社製、品番「S-500」)を用いて測定することができる。
【0105】
カーボンブラックの一次粒子径は、特に限定されないが、好ましくは30nm以上、より好ましくは35nm以上、好ましくは50nm以下、より好ましくは45nm以下である。カーボンブラックの一次粒子径が上記範囲内にある場合、より一層低濃度のカーボンブラック含有量でより一層高い導電性を得ることができる。
【0106】
なお、本明細書において、カーボンブラックの一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡により得られたカーボンブラックの画像データを用いて求めた平均一次粒子径である。透過型電子顕微鏡としては、例えば、日本電子社製、製品名「JEM-2200FS」を用いることができる。
【0107】
カーボンブラックの含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは3重量部以上、より好ましくは5重量部以上、好ましくは200重量部以下、より好ましくは150重量部以下である。カーボンブラックの含有量が上記範囲内である場合、導電性や長期耐熱性をより一層高めることができる。
【0108】
なお、カーボンブラックとして、2種以上のカーボンブラックを用いてもよい。例えば、カーボンブラックとして、第1の発明の第1のカーボンブラック(C-1)及び第2のカーボンブラック(C-2)を用いてもよい。その含有量、含有比の好ましい範囲は第1の発明の樹脂組成物と同様である。この場合、パルスNMR測定におけるL成分の緩和時間をより一層短くすることができる。
【0109】
(その他添加剤)
第2の発明の樹脂組成物には、第2の発明の効果を阻害しない範囲において、任意成分として様々なその他添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、例えば、フェノール系、リン系、アミン系、イオウ系などの酸化防止剤;ベンゾトリアゾール系、ヒドロキシフェニルトリアジン系などの紫外線吸収剤;金属害防止剤;各種充填剤;帯電防止剤;安定剤;顔料などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0110】
(樹脂組成物の製造方法)
上述した樹脂組成物は、まず、熱可塑性樹脂(A)と、黒鉛(B)と、カーボンブラック(D)と、必要に応じてその他添加剤とを溶融混錬することにより得ることができる。
【0111】
溶融混練の方法については、特に限定されないが、例えば、プラストミルなどの二軸スクリュー混練機、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロール、加圧式ニーダーなどの混練装置を用いて、加熱下において混練する方法などが挙げられる。これらのなかでも、押出機を用いて溶融混練する方法が好ましい。なお、第2の発明の樹脂組成物の形態としては、特に限定されないが、例えば、ペレットとすることができる。
【0112】
第2の発明の樹脂組成物は、体積固有抵抗率が、好ましくは1.0×105Ω・cm以下、より好ましくは1.0×102Ω・cm以下である。なお、体積固有抵抗率の下限値は、特に限定されないが、例えば、1.0×10-4Ω・cmである。また、体積固有抵抗率は、低抵抗の抵抗率計を用いて、抵抗値を測定し、抵抗率補正係数と樹脂組成物の厚みより算出することができる。例えば、四探針法抵抗率測定装置(ロレスタAX MCP-T370、三菱ケミカルアナリテック社製)により室温、大気中にて測定することができる。
【0113】
以下、第1の発明及び第2の発明を総称して本発明と称する場合があるものとする。なお、第1の発明及び第2の発明それぞれを単独で実施してもよいし、第1の発明及び第2発明を組み合わせて実施してもよい。
【0114】
本発明の樹脂組成物は、以下の条件で樹脂成形体を得たときに、3GHz、25GHz、50GHz、及び75GHzのうちいずれかの周波数における該樹脂成形体の電磁波シールド効果が、好ましくは20dB以上、より好ましくは20dB以上、さらに好ましくは41dB以上である。上記樹脂成形体の電磁波シールド効果の上限値は、特に限定されないが、例えば、80dBとすることができる。
【0115】
<成形条件>
金型内に溶融状態の樹脂組成物を得られる樹脂成形体の厚み方向に直交する方向から充填させて成形し、縦100mm×横100mm×厚み2mmの樹脂成形体を得る。
【0116】
本発明の樹脂組成物は、以下の条件で樹脂成形体を得たときに、該樹脂成形体の面内方向の熱伝導率が、好ましくは1W/(m・K)以上、より好ましくは3W/(m・K)以上、さらに好ましくは5W/(m・K)以上である。なお、樹脂成形体の面内方向の熱伝導率の上限値は、例えば、50W/(m・K)とすることができる。
【0117】
<成形条件>
金型内に溶融状態の樹脂組成物を得られる樹脂成形体の厚み方向に直交する方向から充填させて成形し、縦100mm×横100mm×厚み2mmの樹脂成形体を得る。
【0118】
[樹脂成形体の製造方法]
本発明に係る樹脂成形体は、上述した本発明に係る樹脂組成物の成形体である。従って、本発明の樹脂成形体は、上述した樹脂組成物を成形することにより得ることができる。
【0119】
成形方法としては、特に限定されないが、例えば、プレス加工、押出加工、押出ラミ加工、又は射出成形などの方法が挙げられる。なかでも、混合物を射出成形により成形することが好ましい。この場合、得られる樹脂成形体の機械的強度をより一層高めることができる。
【0120】
本発明においては、上述した本発明に係る樹脂組成物と、熱可塑性樹脂及び繊維を含む複合体(E)とを混合して混合物を得た後、該混合物を成形することにより、樹脂成形体を得てもよい。
【0121】
なお、第2の発明においては、上述した樹脂組成物と上記複合体(E)との混合物を第2の発明の樹脂組成物とすることが望ましい。従って、パルスNMRにおける測定に際しても、上述した樹脂組成物と上記複合体の混合物を測定に供することが望ましい。このような混合物とすることにより、パルスNMR測定におけるL成分の緩和時間をより一層短くすることができる。
【0122】
混合物を得るに際しては、樹脂組成物と、複合体(E)とをドライブレンドにより混合することが好ましい。この場合、機械的強度により一層優れた樹脂成形体を得ることができる。
【0123】
なお、本明細書において、ドライブレンドとは、溶融や溶剤の添加をせずに、混合することをいう。このようなドライブレンドの方法としては、特に限定されず、例えば、単に樹脂組成物と複合体(E)とを手で混合することにより行なうことができる。また、小型タンブラーなどを用いて混合してもよい。
【0124】
複合体(E)に含まれる熱可塑性樹脂としては、上述した樹脂組成物の欄で説明した熱可塑性樹脂を用いることができる。なお、複合体(E)に含まれる熱可塑性樹脂は、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂と同じ樹脂であることが望ましいが異なる樹脂であってもよい。
【0125】
繊維としては、無機繊維であってもよいし、有機繊維であってもよい。また、無機繊維と有機繊維を併用してもよい。
【0126】
繊維としては、例えば、金属繊維、炭素繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、又はガラス繊維等を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0127】
炭素繊維としては、特に限定されないが、PAN系若しくはピッチ系の炭素繊維などを用いることができる。
【0128】
繊維は、熱可塑性樹脂中において、配向していることが好ましい。なかでも、一軸配向していることが好ましい。このような複合体(E)は、繊維を引き揃え、溶融した熱可塑性樹脂と接触させることにより製造することができる。特に、プルトリューション法により製造する場合、繊維に熱可塑性樹脂が含浸した複合体(E)を得ることができる。また、複合体(E)の形態としては、特に限定されないが、例えば、ペレットとすることができる。
【0129】
繊維の長さは、特に限定されないが、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上、好ましくは20mm以下、より好ましくは15mm以下である。繊維の長さが上記範囲内にある場合、得られる樹脂成形体の機械的強度をより一層高めることができる。
【0130】
また、繊維の繊維径は、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。繊維の繊維径が上記範囲内にある場合、得られる樹脂成形体の機械的強度をより一層高めることができる。
【0131】
なお、繊維の長さ及び繊維径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した100個の平均値とすることができる。より一層観察し易くする観点から、複合体(E)又は樹脂成形体から切り出した試験片を600℃で加熱することで樹脂を飛ばして透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することが望ましい。
【0132】
繊維の含有量は、特に限定されないが、複合体(E)に含まれる熱可塑性樹脂100重量部に対し、50重量部以上、200重量部以下であることが好ましい。繊維の含有量が上記範囲内にある場合、得られる樹脂成形体の機械的強度をより一層高めることができる。
【0133】
[樹脂成形体]
本発明の樹脂成形体は、上述した樹脂成形体の製造方法により得ることができる。上述した樹脂成形体の製造方法では、本発明の樹脂組成物を用いているので、導電性に優れ、ひいては電磁波シールド性に優れている。
【0134】
本発明の樹脂成形体は、体積固有抵抗率が、好ましくは1.0×105Ω・cm以下、より好ましくは1.0×103Ω・cm以下である。この場合、樹脂成形体の電磁波シールド性をより一層高めることができる。なお、体積固有抵抗率の下限値としては、特に限定されないが、例えば、1.0×10-4Ω・cmとすることができる。
【0135】
なお、体積固有抵抗率は、低抵抗の抵抗率計を用いて、抵抗値を測定し、抵抗率補正係数と樹脂成形体の厚みより算出することができる。例えば、四探針法抵抗率測定装置(ロレスタAX MCP-T370、三菱ケミカルアナリテック社製)により室温、大気中にて測定することができる。
【0136】
本発明の樹脂成形体は、周波数3GHzにおける電磁波シールド効果が、好ましくは20dB以上、より好ましくは25dB以上、さらに好ましくは30dB以上である。電磁波シールド効果の上限値は、特に限定されないが、例えば、80dBである。
【0137】
周波数3GHzにおける電磁波シールド効果(電磁波遮蔽性能)は、例えば、2焦点型扁平空洞(Dual-Focus Flat Cavity:DFFC)法を用いて測定することができる。
【0138】
本発明において、樹脂成形体の主面における面内方向の熱伝導率は、好ましくは2W/(m・K)以上、より好ましくは5W/(m・K)以上、さらに好ましくは10W/(m・K)以上である。この場合、樹脂成形体の放熱性をより一層高めることができる。また、面内方向の熱伝導率の上限値は、特に限定されないが、例えば、50W/(m・K)とすることができる。
【0139】
なお、上記主面は、平面であってもよく、曲面であってもよい。また、本発明において主面とは、樹脂成形体の外表面における複数の面のうち最も面積の大きい面であり、連なっている面をいうものとする。
【0140】
面内方向の熱伝導率は、下記式(1)を用いて計算することができる。
【0141】
熱伝導率(W/(m・K))=比重(g/cm3)×比熱(J/g・K)×熱拡散率(mm2/s)…式(1)
【0142】
熱拡散率は、例えば、ネッチジャパン社製、品番「キセノンフラッシュレーザーアナライザ LFA467 HyperFlash」を用いて測定することができる。
【0143】
本発明の樹脂成形体は、電磁波シールド性に優れているので、電磁波シールド性が要求される通信機器や、スマートメータあるいは車載ECUなどの電子機器の筐体に好適に用いることができる。
【0144】
本発明の樹脂成形体は、放熱シャーシ、放熱筐体、又はヒートシンク形状であってもよい。以下、
図1~
図3を参照して、放熱シャーシ、放熱筐体、及びヒートシンク形状の具体例について説明する。
【0145】
図1は、放熱シャーシの模式的斜視図である。樹脂成形体が放熱シャーシである場合、
図1の矢印Aで示す部分が主面である。
【0146】
図2は、放熱筐体の模式的斜視図である。樹脂成形体が放熱筐体である場合、
図2の矢印Bで示す部分が主面である。なお、
図1及び
図2に示すように、主面は凹凸を有していてもよい。
【0147】
図3は、ヒートシンク形状の模式的斜視図である。樹脂成形体がヒートシンク形状である場合、
図3の矢印Cで示す部分が主面である。具体的には、底板部の一方側の主面とフィン部の表面が主面である。このように、複数の主面が存在していてもよい。
【0148】
なお、このような樹脂成形体の表面には、回路形成されていてもよい。
【0149】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明の効果を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0150】
(実施例1)
熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(PP)100重量部と、板状の黒鉛粒子としての鱗片状黒鉛粒子150重量部と、第1のカーボンブラックとしてのオイルファーネスブラック20重量部と、第2のカーボンブラックとしてのオイルファーネスブラック20重量部とを、ラボプラストミル(東洋精機社製、品番「R100」)を用いて、200℃で溶融混練することにより樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、樹脂組成物の温度230℃、金型の温度40℃にて射出成形することで、縦300mm×横300mm×厚み2mmの樹脂成形体を得た。なお、ポリプロピレンとしては、日本ポリプロ社製、商品名「BC08F」(MFR:70g/10min(230℃))を用いた。鱗片状黒鉛粒子としては、中越黒鉛工業所社製、商品名「CPB-100B」(体積平均粒子径:80μm)を用いた。第1のカーボンブラックのオイルファーネスブラックとしては、ライオン社製、商品名「EC300J」(BET比表面積:800m2/g、DBP吸油量:365ml/100g、一次粒子径:40nm)を用いた。第2のカーボンブラックのオイルファーネスブラックとしては、キャボット社製、商品名「VulcanXC72」(BET比表面積:254m2/g、DBP吸油量:174ml/100g、一次粒子径:30nm)を用いた。
【0151】
なお、実施例及び比較例における熱可塑性樹脂のMFRは、JIS K7210に準拠して測定した。黒鉛の体積平均粒子径は、JIS Z 8825:2013に準拠し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(日機装社製、製品名「マイクロトラックMT3300」)を用いて、レーザー回折法により、体積基準分布で算出した。第1及び第2のカーボンブラックのBET比表面積は、BET法に準拠して、窒素の吸着等温線から測定した。測定装置としては、アントンパール社製、品番「NOVAtouchLX2」を用いた。第1及び第2のカーボンブラックのDBP吸油量は、吸収量測定器(あさひ総研社製、品番「S-500」)を用いて測定し、JIS K 6217-4に準拠して最大トルクの70%でDBP滴下量を算出することにより得た。第1及び第2のカーボンブラックの一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、製品名「JEM-2200FS」)により得られた画像データにおける1000個のカーボンブラックの平均値から求めた。
【0152】
(実施例2)
第1のカーボンブラックとしてのオイルファーネスブラックを、ライオン社製、商品名「ライオナイトCB」(BET比表面積:1052m2/g、DBP吸油量:280ml/100g、一次粒子径:41nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及び樹脂成形体を得た。
【0153】
(実施例3)
第1のカーボンブラックとしてのオイルファーネスブラックを、キャボット社製、商品名「BlackPearls2000」(BET比表面積:1475m2/g、DBP吸油量:330ml/100g、一次粒子径:15nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及び樹脂成形体を得た。
【0154】
(実施例4)
第2のカーボンブラックとしてのオイルファーネスブラックを、旭カーボン社製、商品名「F-200GS」(BET比表面積:55m2/g、DBP吸油量:55ml/100g、一次粒子径:38nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及び樹脂成形体を得た。
【0155】
(実施例5)
板状の黒鉛粒子としての鱗片状黒鉛粒子を、中越黒鉛工業所社製、商品名「CPB-300」(体積平均粒子径:300μm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及び樹脂成形体を得た。
【0156】
(実施例6)
板状の黒鉛粒子としての鱗片状黒鉛粒子を、日本黒鉛工業社製、商品名「F#2」(体積平均粒子径:140μm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及び樹脂成形体を得た。
【0157】
(実施例7)
熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(PP)を、日本ポリプロ社製、商品名「SA06GA」(MFR:60g/10min(230℃))に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及び樹脂成形体を得た。
【0158】
(実施例8)
熱可塑性樹脂を、東レ社製、6ナイロン、商品名「CM1007」(MFR:62g/10min(260℃))に変更し、溶融混練温度を230℃、射出成形温度を260℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及び樹脂成形体を得た。
【0159】
(実施例9)
樹脂組成物(A-1)の製造;
熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(PP)100重量部と、板状黒鉛としての鱗片状黒鉛160重量部と、第1のカーボンブラックとしてのオイルファーネスブラック20重量部と、第2のカーボンブラックとしてのオイルファーネスブラック20重量部とを用いた。これらをラボプラストミル(東洋精機社製、品番「R100」)を用いて、200℃で溶融混練することにより樹脂組成物(A-1)を得た。
【0160】
なお、得られた樹脂組成物(A-1)は、ペレット状であり、ペレット径は、3mmであった。ペレット径は、試料からペレット100粒をランダムに採取し、ノギスを用いて最長箇所での直径を測定することで求めた。また、ポリプロピレンとしては、日本ポリプロ社製、商品名「MA04A」(MFR:40g/10分(230℃))を用いた。鱗片状黒鉛としては、中越黒鉛工業所社製、商品名「CPB-300」(平均粒子径:300μm、アスペクト比:10)を用いた。第1のカーボンブラックのオイルファーネスブラックとしては、ライオン社製、商品名「EC300J」(BET比表面積:800m2/g、DBP吸油量:365ml/100g、一次粒子径:40nm)を用いた。第2のカーボンブラックのオイルファーネスブラックとしては、キャボット社製、商品名「VulcanXC72」(BET比表面積:254m2/g、DBP吸油量:174ml/100g、一次粒子径:30nm)を用いた。
【0161】
樹脂組成物(B-1)の製造;
熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(PP)60重量部と、長さ7mmのガラス繊維40重量部とを用い、プルトルージョン法に従い樹脂組成物(B-1)を得た。なお、得られた樹脂組成物(B-1)は、ペレット状であり、ペレット径は、7mmであった。また、ポリプロピレンとしては、日本ポリプロ社製、商品名「MA04A」(MFR:40g/10分(230℃))を用いた。ロービング繊維(ガラス繊維)としては、日本電気硝子社製、商品名「TUFROV4520」(繊維径:16μm)を用いた。
【0162】
得られた樹脂組成物(A-1)と樹脂組成物(B-1)とを、85:15の割合で小型タンブラーを用いて、回転数30rpmで、5分間ドライブレンドすることにより、樹脂組成物を得た。その他の点は、実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。
【0163】
(比較例1)
板状の黒鉛粒子の含有量を200重量部に変更し、第1及び第2のカーボンブラックを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及び樹脂成形体を得た。
【0164】
(比較例2)
第1のカーボンブラックの含有量を40重量部に変更し、第2のカーボンブラックを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及び樹脂成形体を得た。
【0165】
(比較例3)
第2のカーボンブラックの含有量を40重量部に変更し、第1のカーボンブラックを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及び樹脂成形体を得た。
【0166】
[評価]
<体積抵抗率>
実施例1~9及び比較例1~3で得られた樹脂成形体の体積抵抗率は、四探針法抵抗率測定装置(三菱ケミカルアナリテック社製、品番「ロレスタAX MCP-T370」)を用いて測定した。
【0167】
<周波数3GHzにおける電磁波シールド効果(dB)>
実施例1~9及び比較例1~3で得られた樹脂成形体の周波数3GHzにおける電磁波シールド効果(電磁波遮蔽性能、単位:dB)は、シールド特性測定用冶具2焦点型扁平空洞(Dual-Focus Flat Cavity:DFFC)(サンケン社製)を用いて測定した。具体的には、送信側の焦点から電磁波を放射し、受信側の焦点に収束した電磁波の強度を受信電圧として測定した。サンプル未挿入時の受信電圧V0及びサンプル挿入時の受信電圧Vを測定し、以下の式(2)に従って電磁波シールド効果を算出した。
【0168】
電磁波シールド効果=20×log10(V0/V)…式(2)
【0169】
測定周波数範囲は、1GHz~15GHzとし、計測機器としては、アジレントテクノロジー社製、品番「コンポーネントアナライザ N4375D」を用いた。樹脂成形体のサンプル寸法は、300mm×20mm×2.0mmとした。
【0170】
<スパイラルフロー流動長>
実施例1~9及び比較例1~3で得られた樹脂組成物の流動性はスパイラルフロー流動長として評価した。具体的には、幅20mm×厚さ2mmのアルキメデス螺旋スパイラル状の流路を持つ樹脂流動長測定用金型を用いて、シリンダー温度230℃、金型温度40℃、射出圧力150MPaにて射出成形を行ったときの流動長を測定した。
【0171】
結果を下記の表1及び表2に示す。
【0172】
【0173】
【0174】
表1及び表2より、実施例1~9では、電磁波シールド性及び成形性の双方に優れていることがわかる。一方、比較例1,3では、電磁波シールド性が十分ではなく、比較例2では、成形性が十分ではなかった。
【0175】
(実施例10)
第1のカーボンブラック及び第2のカーボンブラックの代わりに、カーボンブラックとしてのオイルファーネスブラック(ライオン社製、商品名「ライオナイトCB」、BET比表面積:1052m2/g、DBP吸油量:280ml/100g、一次粒子径:41nm)40重量部を用いた。その他の点は、実施例9と同様にして樹脂組成物を得た。
【0176】
(実施例11)
熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(PP)100重量部と、板状の黒鉛粒子としての鱗片状黒鉛160重量部と、カーボンブラックとしてのオイルファーネスブラック40重量部とを、ラボプラストミル(東洋精機社製、品番「R100」)を用いて、200℃で溶融混練することにより樹脂組成物を得た。なお、ポリプロピレンとしては、日本ポリプロ社製、商品名「MA04A」(MFR:40g/10min(230℃))を用いた。鱗片状黒鉛としては、中越黒鉛工業所社製、商品名「CPB-300」(平均粒子径:300μm、アスペクト比:10)を用いた。オイルファーネスブラックとしては、ライオン社製、商品名「ライオナイトCB」(BET比表面積:1052m2/g、DBP吸油量:280ml/100g、一次粒子径:41nm)を用いた。
【0177】
(実施例12)
樹脂組成物(A-2)の製造;
熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(PP)100重量部と、板状黒鉛としての鱗片状黒鉛70重量部と、カーボンブラックとしてのオイルファーネスブラック30重量部とを用いた。これらをラボプラストミル(東洋精機社製、品番「R100」)を用いて、200℃で溶融混練することにより樹脂組成物(A-2)を得た。
【0178】
なお、得られた樹脂組成物(A-2)は、ペレット状であり、ペレット径は、3mmであった。ペレット径は、試料からペレット100粒をランダムに採取し、ノギスを用いて最長箇所での直径を測定することで求めた。また、ポリプロピレンとしては、日本ポリプロ社製、商品名「MA04A」(MFR:40g/10分(230℃))を用いた。鱗片状黒鉛としては、中越黒鉛工業所社製、商品名「CPB-300」(平均粒子径:300μm、アスペクト比:10)を用いた。オイルファーネスブラックとしては、旭カーボン社製、商品名「F-200GS」(BET比表面積:55m2/g、DBP吸油量:55ml/100g、一次粒子径:38nm)を用いた。
【0179】
得られた樹脂組成物(A-2)と実施例9と同じ樹脂組成物(B-1)とを、70:30の割合で小型タンブラーを用いて、回転数30rpmで、5分間ドライブレンドすることにより、樹脂組成物を得た。
【0180】
[評価]
(パルスNMR)
実施例4,9~12及び比較例1で得られた樹脂組成物について、パルスNMRを用いて125℃でHahn Echo法を行い、得られた1Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を、最小二乗法により緩和時間の短い順にS成分、M成分、L成分の3成分にそれぞれ由来する3つの曲線に波形分離した。そして、L成分の緩和時間、並びにS成分、M成分、及びL成分の合計に対するL成分の比(L成分/(S成分+M成分+L成分))を算出し、以下の評価基準で評価した。
【0181】
<評価基準>
L成分の緩和時間;
〇…1.3msec以下
×…1.3msecを超える
【0182】
比(L成分/(S成分+M成分+L成分))(1);
〇…10%以下
×…10%を超える
【0183】
比(L成分/(S成分+M成分+L成分))(2);
〇…4%以上
×…4%未満
【0184】
なお、上記パルスNMRを用いたHahn Echo法による測定は、以下の方法により行った。
【0185】
実施例4,9~12及び比較例1で得られた樹脂組成物を射出成形し、縦100mm×横100mm×厚み2mmの樹脂成形体を得た。また。得られた樹脂成形体の平板を5mm角にカットすることで樹脂成形体のサンプルを得た。なお、射出成形は、樹脂温度230℃、金型温度50℃、射出速度30mm/sの条件で行った。
【0186】
得られた樹脂成形体のサンプルを直径10mmのガラス製のサンプル管(BRUKER製、品番1824511、10mm径、長さ180mm、フラットボトム)に700mg導入した。次いで、サンプル管をパルスNMR装置(BRUKER製「the minispe mq20」)に設置し、125℃で10分間保持した。しかる後、125℃でHahn Echo法を行い、得られた1Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を、最小二乗法により緩和時間の短い順にS成分、M成分、L成分の3成分にそれぞれ由来する3つの曲線に波形分離した。
【0187】
波形分離は、エクスポーネンシャル型を用いて、フィッティングさせることで行った。なお、BRUKER社製の解析ソフトウェア「TD-NMRA(Version 4.3 Rev 0.8)」を用い製品マニュアルに従ってフィッティングを行った。
【0188】
フィッティングには以下の式を用いた。
【0189】
Y=A1×exp(-1÷w1×(t÷T2A)w1)+B1×exp(-1÷w2×(t÷T2B)w2)+C1×exp(-1÷w3×(t÷T2C)w3)
【0190】
ここで、w1~w3はワイブル係数であり、w1、w2及びw3は1の値を取った。A1はS成分の、B1はM成分の、C1はL成分のそれぞれ成分比であり、T2AはS成分の、T2BはM成分の、T2CはL成分のそれぞれ緩和時間である。tは時間である。
【0191】
さらに、Hahn Echo法では下記の設定を行った。
【0192】
Scans:16times
Recycle Deray:1sec
First 90-180 Pluse Separation:0.0082msec
Final Pluse Separation:5msec
Number of Points for Fitting:100
【0193】
電磁波シールド性;
実施例4,9~12及び比較例1で得られた樹脂組成物を射出成形し、縦100mm×横100mm×厚み2mmの樹脂成形体を得て、測定サンプルとした。なお、射出成形は、樹脂温度230℃、金型温度50℃、射出速度30mm/sの条件で行った。
【0194】
得られた樹脂成形体の周波数3GHzにおける電磁波シールド効果(電磁波遮蔽性能、単位:dB)は、シールド特性測定用冶具2焦点型扁平空洞(Dual-Focus Flat Cavity:DFFC)(サンケン社製)を用いて測定した。具体的には、送信側の焦点から電磁波を放射し、受信側の焦点に収束した電磁波の強度を受信電圧として測定した。サンプル未挿入時の受信電圧V0及びサンプル挿入時の受信電圧Vを測定し、以下の式(2)に従って電磁波シールド効果を算出した。
【0195】
電磁波シールド効果=20×log10(V0/V)…式(2)
【0196】
測定周波数範囲は、1GHz~15GHzとし、計測機器としては、アジレントテクノロジー社製、品番「コンポーネントアナライザ N4375D」を用いた。樹脂成形体のサンプル寸法は、100mm×100mm×2mmとした。
【0197】
熱伝導率;
実施例4,9~12及び比較例1で得られた樹脂組成物を射出成形し、縦100mm×横100mm×厚み2mmの樹脂成形体を得て、測定サンプルとした。なお、射出成形は、樹脂温度230℃、金型温度50℃、射出速度30mm/sの条件で行った。
【0198】
得られた測定サンプルの熱伝導率(面内方向及び厚み方向熱伝導率)は、ネッチジャパン社製、品番「キセノンフラッシュレーザーアナライザ LFA467 HyperFlash」を用いて測定した。具体的には、熱伝導率が測定できる向きで測定サンプルをホルダにはめ込み、30℃における熱拡散率を測定し、以下の式(1)に従って熱伝導率を算出した。
【0199】
熱伝導率(W/(m・K))=比重(g/cm3)×比熱(J/g・K)×熱拡散率(mm2/s)…式(1)
【0200】
長期耐熱性;
実施例4,9~12及び比較例1で得られた樹脂組成物を射出成形し、ISO 527に準拠したダンベル形状の試験片を得た。なお、射出成形は、樹脂温度230℃、金型温度50℃、射出速度30mm/sの条件で行った。
【0201】
得られた試験片を23℃及び125℃の雰囲気下の恒温槽にそれぞれ3000時間晒し、23℃雰囲気下で放置した試験片を耐熱劣化前とし、125℃雰囲気下で放置した試験片を耐熱劣化後として測定サンプルとした。ISO 527に準拠して引張試験を行い、引張強度を測定した。下記の式(2)に従って長期耐熱性を算出した。
【0202】
長期耐熱性(%)=耐熱劣化後の引張強度(MPa)/耐熱劣化前の引張強度(MPa)…式(2)
【0203】
結果を下記の表3に示す。
【0204】