IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 安形 雄三の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164897
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】鉄道の軌道構造
(51)【国際特許分類】
   E01B 26/00 20060101AFI20221020BHJP
【FI】
E01B26/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2022139911
(22)【出願日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2022118528
(32)【優先日】2022-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501204868
【氏名又は名称】安形 雄三
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(74)【代理人】
【識別番号】100121887
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 好章
(72)【発明者】
【氏名】安形 雄三
(57)【要約】
【課題】電車の走行時に、電車走行エネルギーには全く影響を与えることなく、また、天候などの環境の影響を受けることなく、クリーンエネルギーとして自動的に発電して、発電電力を蓄電したり、送電したりすることが可能な鉄道の軌道構造を提供する。
【解決手段】電車が走行するレールを固定する枕木の下方に、レールの振動を伝達する伝達手段を介して複数の振動発電機(圧電式振動発電機、電磁誘導式振動発電機、磁歪式振動発電機)が配設されており、振動発電機に印加される振動を電力に変換して出力するようになっている鉄道の軌道構造である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電車が走行するレールを固定する枕木の下方に、前記レールの振動を伝達する伝達手段を介して複数の振動発電機が配設されており、前記振動発電機に印加される振動を電力に変換して出力するようになっていることを特徴とする鉄道の軌道構造。
【請求項2】
前記複数の振動発電機が圧電式振動発電機である請求項1に記載の鉄道の軌道構造。
【請求項3】
前記複数の振動発電機が電磁誘導式振動発電機である請求項1に記載の鉄道の軌道構造。
【請求項4】
前記複数の振動発電機が磁歪式振動発電機である請求項1に記載の鉄道の軌道構造。
【請求項5】
前記複数の振動発電機が、圧電式振動発電機、電磁誘導式振動発電機及び磁歪式振動発電機の混合形態である請求項1に記載の鉄道の軌道構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新幹線、JRや私鉄の電車(列車)、地下鉄、路面電車などの、レール上を走行する鉄道車両(以下、単に「電車」とする)の軌道構造に関し、特に電車の走行に起因するレール若しくは枕木の振動や圧力変動、撓みなど(以下、単に「振動」とする)で、電車の走行エネルギーには全く影響を与えることなく、また、天候などの環境の影響を受けることなく、自動的にクリーンエネルギーの電力を発生して利用することができる鉄道の軌道構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の世界的な潮流として、地球温暖化を抑制するために、カーボンニュートラル(炭素中立)の社会を構築し、再生可能エネルギーの活用と相俟って、脱炭素社会を実現することが重要なテーマとなっている。
【0003】
地球温暖化の要因となっている温室効果ガスを排出しない発電方式として、水力発電や原子力発電が知られている。しかしながら、水力発電は、降雨量や貯水量によって発電電力が影響を受けると共に、ダム建設の費用や環境保全などの問題がある。また、原子力発電は建設コストの問題と共に、放射能漏れなどの危険事故対策の問題があり、更には使用済み核燃料の処理・廃棄といった重大な問題がある。
【0004】
一方、風力発電や太陽光発電も温室効果ガスを排出せずに発電できるが、風力発電は風がないと発電できない問題があり、太陽光発電は夜間或いは太陽光が射していない雨天などの場合には、発電できない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-169965号公報
【特許文献2】特開2019-143443号公報
【特許文献3】特開2021-17063号公報
【特許文献4】特開平5-125701号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】群馬大学大学院 理工学府 理工学専攻 平成26年度修士論文(淡路創介)「圧電デバイスを用いた振動発電システム実用化に関する研究」
【非特許文献2】精密工学会誌 Vol.179, No.4, 2013 「磁歪材料を用いた振動発電とアクチュエータの実用化、現状と展望」(上野敏幸)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図1及び図2に示すように、電車1はレール2,3の上を車輪6,7の回転で走行し、電車1の走行時には、レール2,3に電車1や乗客の重量がかかり、電車1が通り過ぎると圧力のない元の状態に戻ることを繰り返し、レール2及び3が上下方向に振動する。また、図3は新幹線車両4を示しており、新幹線車両4はレール5上を高速度で走行し、新幹線車両4の走行時には、同様にレール5が上下方向に振動する。
【0008】
図4は一般的な鉄道の軌道構造の断面を示しており、電車の線路を形成する路盤10の上方に砕石、砂利などが一定の厚さに堆積された道床11が形成されており、道床11の地表面に多数の枕木12が整列して敷設される。そして、枕木12の上にレール13及び14がボルト・ナット等で締結されて線路が形成され、レール13,14、枕木12及び道床11で鉄道の軌道を形成している。枕木12は一般的には木製であるが、コンクリートで形成されるケースも多い。しかしながら、従来の鉄道の軌道構造は、レール13,14上を電車が安全に走行するものであり、軌道構造で自動的に発電するように工夫されたものは存在していない。
【0009】
鉄道の線路上に、レールに沿って太陽光パネルを設置して発電する太陽光発電システムは存在するが、夜間や太陽光が射していない雨天などの場合には、発電できない問題がある。地下鉄や長いトンネル内では、太陽光発電はできない。
【0010】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、電車の走行時に、電車の走行エネルギーには全く影響を与えることなく、また、天候などの環境の影響を受けることなく、クリーンエネルギーとして自動的に発電して、発電電力を蓄電したり、送電したりして利用することが可能な鉄道の軌道構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、レール上を電車が走行する鉄道の軌道構造に関し、本発明の上記目的は、電車が走行するレールを固定する枕木の下方に、前記レールの振動を伝達する伝達手段を介して複数の振動発電機(圧電式振動発電機、電磁誘導式振動発電機、磁歪式振動発電機)が配設されており、前記振動発電機に印加される振動を電力に変換して出力することにより達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る鉄道の軌道構造によれば、電車が走行するレールの下方に、レール若しくは枕木の振動を受けて、全く電力を要することなく発電することが可能な振動発電機が配設されているので、電車の走行に伴って生じる振動によって、クリーンエネルギーとしての電力を自動的に発生することができる。しかも、電車の走行エネルギーには全く影響を与えることなく、また、天候などの環境の影響を受けることなく常時安定的に発電でき、発電した電力を蓄電したり、他の電力需要に送電して利用することが可能である。振動発電機には電力を要しないので、発電電力による節電及び蓄電の効果は大きく、カーボンニュートラルを実現する上で、環境にも優しく、その社会的、経済的なメリットは大きい。
【0013】
地下鉄やトンネル内は暗いので、センサや表示灯などが多く使用されるが、本発明によれば電車の走行で自動的に発電できるので、その発電電力をこれらセンサや表示灯などの電源として利用するメリットは非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】レール上を走行する電車の一例を示す模式的な斜視図である。
図2】レール上を走行する電車の一例を示す模式的な一部断面の正面図である。
図3】レール上を走行する新幹線の一例を示す模式的な側面図である。
図4】一般的な鉄道の軌道構造例を示す断面構造図である。
図5】本発明に係る鉄道の軌道構造例を示す平面図である。
図6図5のX-X’線の断面図である。
図7図6の一部詳細図である。
図8】保護部材の他の例を示す図である。
図9】本発明で使用する圧電素子アレイの構造例を示す断面図である。
図10】圧電式振動発電機の配設例(全数式)を示す平面図である。
図11】圧電式振動発電機の他の配設例(区画式)を示す平面図である。
図12】圧電式振動発電機の他の配設例(交互式)を示す平面図である。
図13】圧電式振動発電機による発電と蓄電の原理的な構成例(全数式)を示す結線図である。
図14】圧電式振動発電機の出力電力の一例を示す特性図である。
図15】圧電式振動発電機による発電と蓄電の実際的な構成例(区画式)を示す結線図である。
図16】圧電式振動発電機の配設構造の他の例を示す断面構造図である。
図17】電磁誘導式振動発電機の一例を示す模式的構造図である。
図18】電磁誘導式振動発電機の他の例を示す模式的構造図である。
図19】電磁誘導式振動発電機の配設構造例を示す断面構造図である。
図20】電磁誘導式振動発電機の配設構造の他の例を示す断面構造図である。
図21】一般的な磁歪式振動発電機の一例を示す模式的構造図である。
図22】本発明で使用する磁歪式振動発電機の一例を示す模式的構造図である。
図23】磁歪式振動発電機の配設構造例を示す断面構造図である。
図24】磁歪式振動発電機の動作例を示す機構図である。
図25】磁歪式振動発電機の配設構造の他の例を示す断面構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、電車が走行する鉄道の軌道構造に関するものであり、電車がレール上を走行するときに生じる振動に基づき、電車の走行エネルギーに全く影響することなく、また、天候などの環境の影響を受けることなく、自動的にクリーンエネルギーの電力を発電することが可能な鉄道の軌道構造である。発電には、電車がレール上を走行する時に生じる上下方向の振動を、自動的に電力に変換する原理及び構造の振動発電機を使用する。振動発電機はレールの下方、レールを敷設する枕木の下方に配設され、電車走行時の振動が振動発電機に機構的に伝達されるようになっている。振動発電機は道床に埋設されるので、軌道の外観乃至美観を損なうこともなく、環境保全でも優れている。本発明によって発電される電力は、CO排出のないクリーンエネルギーであり、環境にも優しく、カーボンニュートラルの要請にも大きく貢献し得るものである。
【0016】
振動発電の素子には、圧電素子を用いた圧電式、磁石とコイルの電磁誘導作用による電磁誘導式、2枚の対向電極(電荷)板を用いた静電式、磁歪材料と、コイル、磁石とを用いた磁歪式、摩擦駆動振動による摩擦式の5種類が知られている。これら振動発電機は電力発生の原理及び構造が大きく相違しているが、本発明では比較的出力電力が大きく、配設の便宜性が良い電磁誘導式、若しくは圧電式、若しくは磁歪式、若しくはそれらを組み合わせたハイブリッド式を用いる。電磁誘導式、圧電式及び磁歪式を組み合わせたハイブリッド式を用いる場合には、いずれかの系統が故障したとしても、他の系統で自動的な発電を継続できるので、特に安定的にクリーンな電力を確保することができる。
【0017】
本発明の鉄道軌道は、振動発電機を道床に埋設可能で、レールの振動が伝達され得る構造であれば良く、砕石や砂利を一定の厚さに敷き詰めた構造のバラスト軌道、コンクリート製の道床を用いた構造で、地下鉄などに採用されている直結軌道、道床にコンクリートの平板を用いた構造のスラブ軌道、コンクリート道床にゴムなどの弾性材を介して枕木を敷設した弾性枕木直結軌道、バラストと枕木を充填材で一体化した構造のTC型省力化軌道、バラスト軌道のうち、枕木にラダー枕木を用いた構造のバラストラダー軌道、弾性を有する防振材で、剛性を持たせたラダー枕木を支持することにより、振動と騒音を低減させた構造のフローティングラダー軌道、コンクリート道床にゴムなどの弾性材を介して枕木を敷設して消音バラストを敷いた構造の弾性バラスト軌道などに適用可能である。
【0018】
また、本発明では、多くの振動発電機をレール(枕木)の下方の道床に設置するが、それによって電車の安全性が損なわれるものではなく、従来同様な安全運行を確保できる。
【0019】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
先ず、振動発電機として圧電式振動発電機を使用する第1実施形態を説明する。
【0021】
図5は、第1実施形態に係る鉄道の軌道構造例の一部平面図であり、図6図5のX-X’線の断面図である。本発明では、レール13,14と枕木12(12-1~12-3)の交叉位置の下方の、枕木12(12-1~12-3)と道床11との間に圧電式振動発電機110-1~110-3及び120-1~120-3を配設している。図5では鉄道の軌道の一部を示しているが、実際は電車が走行する軌道であるので、レール13,14の長さは始発から終点の全走行路の軌道の長さと、操車場などの付加的な走行路の軌道の長さとの総計である。本発明は、操車場などの付加的な走行路についても適用でき、第2実施形態及び第3実施形態についても同様である。
【0022】
図6図5のX-X’線の断面図であり、その一部詳細は図7である。図7(A)は断面の一部であり、図7(B)はその平面図である。圧電式振動発電機110-1~110-3及び120-1~120-3は全て同一構成であり、方形状若しくは矩形状の薄型板状である。枕木12(12-1~12-3)と道床11との間の配設関係も、全ての圧電式振動発電機について同一であるので、本例では便宜的に圧電式振動発電機110-1のみについて説明する。
【0023】
本発明で使用する圧電式振動発電機110-1は防水性であり、雨が降っても発電動作に影響しないようになっている。また、圧電式振動発電機110-1は、図7(A)に示すように枕木12と道床11との間に、ゴム、布などの弾力性を有する袋状の保護部材130内に囲繞乃至挟持されている。保護部材130は図7(B)に示すように、圧電式振動発電機110-1の全体を内部に取り込んで覆う方形状となっている。電車は重量があり、振動も激しいので、直接枕木12の底面と接触した配設関係では、圧電式振動発電機110-1が破損したり、損傷してしまう恐れがある。このため、保護部材130を、圧電式振動発電機110-1の上下方向のバッファとして利用すると共に、振動の伝達手段としての機能を有している。即ち、保護部材130の弾力乃至厚さは、レール(枕木)にかかる荷重変化を一部吸収し、レール(枕木)にかかる荷重変化を減衰させて圧電式振動発電機110-1に伝達するように調整されている。圧電式振動発電機110-1の底面と道床11との間にも、保護部材130が存在しているので、レール(枕木)にかかる荷重変化によって、圧電式振動発電機110-1が破損若しくは損傷することはない。従って、電車の走行でレールに生じる振動は、枕木12及び保護部材130を経て圧電式振動発電機110-1に伝達される。
【0024】
図8は保護部材の他の構成例を示しており、本例では、分離された2枚の方形状の保護部材131及び132で、圧電式振動発電機110-1を挟持した構成となっている。保護部材131及び132は同一構成であるので、製造が容易で安価であると共に、圧電式振動発電機110-1の設置やメンテナンスが容易となる。
【0025】
図9は、圧電式振動発電機110A-1の断面構造を模式的に示しており、平面方形状の上部電極板110A-11及び下部電極板110A-13の間に圧電材110A-12が挟持された構造であり、上部電極板110A-11に圧力が印加されると、圧電材110A-12を介して上部電極板110A-11及び下部電極板110A-13の間に電力(電流i1)が発生される。従って、上部電極板110A-11に印加される圧力が振動すれば、出力電力(電流i1)も振動に応じた交流となる。
【0026】
図10図12はそれぞれ、図9で示すような圧電式振動発電機を鉄道軌道に配設した一例を平面構成で示している。図10の配設例は全数式であり、レール13及び14と、枕木12-1~12-(n+2)の全ての交叉位置に圧電式振動発電機110-1~110-(n+2)及び120-1~120-(n+2)が配設されている。また、図11の配設例は区画式であり、複数の領域に区画して、区画毎に圧電式振動発電機を配設している。即ち、枕木3本毎の区画12-1~12-3、12-4~12-6、12-7~12-9・・・12-(n-4)~12-(n-2)、12-(n-1)~12-(n+1)・・・とし、1区画おきに圧電式振動発電機110-1~110-3及び120-1~120-3、110-7~110-9及び120-7~120-9・・・110-(n-1)~110-(n+1)及び120-(n-1)~120-(n+1)を配設している。なお、図11の配設例では3個ずつの区画としているが、1区画を形成する振動発電機の個数は適宜変更可能である。
【0027】
更に、図12の配設例は交互式であり、枕木12-1~12-n・・・の1本おきに左右交互に圧電式振動発電機110-1、110-3,110-5・・・及び120-2,120-4,120-6・・・を配設した例を示している。なお、図12の配設例では、1個ずつ交互に配設しているが、2個ずつ、3個ずつなどの任意の個数を交互に配設しても良い。また、区画式配設で、交互式を取り入れた混合式でも良いし、全くランダムに圧電式振動発電機を配設したランダム式でも良い。
【0028】
図13は、図10に示す全数式の圧電式振動発電機110-1~110-n・・・及び120-1~120-n・・・による発電と、その処理の結線の構成例を示しており、レール13側の圧電式振動発電機110-1~110-n・・・及びレール14側の圧電式振動発電機120-1~120-n・・・からの発生交流電力(AC)110-1W~110-nW・・・及び120-1W~120-nW・・・は、それぞれ全波整流を行う整流回路210-1~210-n・・・及び220-1~220-n・・・で直流(DC)に変換される。整流回路210-1~210-n・・・及び220-1~220-n・・・からの直流電力110-1R~110-nR・・・及び120-1R~120-nR・・・は、相互に干渉しないように合成回路201及び202に入力され、合成された直流電力110SR及び120SRが蓄電部200に蓄電される。蓄電部200に蓄電された電力が外部に供給されたり、電車運行で使用されているセンサや表示等に利用される。
【0029】
なお、全波の整流回路は4個のダイオードのブリッジ構成であり、合成回路もダイオードで構成できるので、いずれも外部から電源(電力)を要しない。
【0030】
図14は、圧電式振動発電機110-1の出力電力110-1Wの一例を示しており、電車が当該発電機の上のレールを通過するときに、大きな圧力変化(振動)が生じるので、出力電力110-1Wも圧力変化(振動)に応じた電力を出力する。電車の通過の時に生じる振幅の大きな交流波形(相対的に低周波)は電車の重量に基づくものであり、その波形中の振幅の小さな交流波形(相対的に高周波)は電車の車輪の通過に基づくものである。このような電車の通過に応じた電力(交流)が、各圧電式振動発電機110-1~110-n・・・及び120-1~120-n・・・から出力される。相対的に低周波の電車の通過時に生じる振動を電車通過振動とし、相対的に高周波の車輪の走行で生じる振動を車輪走行振動とする。
【0031】
電車の通過時には図14で示されるような電車通過振動及び車輪走行振動が生じるが、本発明では、これら振動が正確にまた即時的に、圧電式振動発電機110-1に伝達される必要はない。圧電式振動発電機110-1は電車通過時の振動を受け、それに基づいて振動発電できれば充分であり、タイムラグがあっても良い。
【0032】
このような圧電式振動発電機110-1~110-n・・・からの交流電力(AC)110-1W~110-nW・・・は、それぞれ図13に示されるように整流回路210-1~210-n・・・に入力されて直流電力110-1R~110-nR・・・に変換され、直流電力110-1R~110-nR・・・は相互に干渉しないように合成回路201を経て、蓄電部200に蓄電される。同様に、圧電式振動発電機120-1~120-n・・・からの交流電力(AC)120-1W~120-nW・・・は、それぞれ図13に示されるように整流回路220-1~220-n・・・に入力されて直流電力120-1R~120-nR・・・に変換され、直流電力120-1R~120-nR・・・は相互に干渉しないように合成回路202を経て、蓄電部200に蓄電される。
【0033】
また、図15は、図11に示す区画式配設の場合の、圧電式振動発電機110-1~110-3・・・110-(n-1)、110-n、110-(n+1)・・・及び120-1~120-3・・・120-(n-1)、120-n、120-(n+1)・・・による発電と、その処理の結線の構成例を示しており、圧電式振動発電機110-1~110-3・・・110-(n-1)、110-n、110-(n+1)・・・及び120-1~120-3・・・120-(n-1)、120-n、120-(n+1)・・・からの発生交流電力110-1W~110-3W・・・110-(n-1)W、110-nW、110-(n+1)W・・・及び120-1W~120-3W・・・120-(n-1)W、120-nW、120-(n+1)W・・・は、それぞれ全波整流の整流回路210-1~210-3・・・210-(n-1)、210-n、210-(n+1)・・・及び220-1~220-3・・・220-(n-1)、220-n、220-(n+1)・・・で直流(DC)に変換される。整流回路210-1~210-3・・・210-(n-1)、210-n、210-(n+1)・・・及び220-1~220-3・・・220-(n-1)、220-n、220-(n+1)・・・の全波整流で得られた直流電力210-1R~210-3R・・・210-(n-1)R、210-nR、210-(n+1)R・・・及び220-1R~220-3R・・・220-(n-1)R、220-nR、220-(n+1)R・・・は、相互に干渉しないように合成回路201-1・・・201-k・・・及び202-1・・・202-k・・・に入力され、合成された直流電力201-1S・・・201-kS・・・及び202-1S・・・202-kS・・・が中継蓄電部203-1・・・203-k・・・及び204-1・・・204-k・・・に蓄電され、中継蓄電部203-1・・・203-k・・・及び204-1・・・204-k・・・に蓄電された直流電力が蓄電部200に統括して蓄電される。蓄電部200に蓄電された電力が外部に供給されたり、電車走行上のセンサ等に利用されるが、中継蓄電部203-1・・・203-k・・・及び204-1・・・204-k・・・の電力を利用することも可能である。
【0034】
上述では圧電式振動発電機の破壊・損傷防止を図ると共に、電車通過の衝撃的な電車通過振動を減衰させて電力に変換するために、図7又は図8に示すように弾力性ある保護部材を伝達手段として用いているが、図16に示すようなスプリング式構造であっても良い。即ち、圧電式振動発電機110-1は枕木12の下方に配設されると共に、道床11にほぼ水平に保持されている平板状の支持板133上に載置されている。支持板133は道床11の砂利等で一定位置に保持されており、上方から圧力が印加されても、下方には移動しない状態となっている。そして、圧電式振動発電機110-1の上面には、周縁に壁部134Aを設けられたすり鉢状の移動部材134が載置され、移動部材134の上面には枕木12の底面に固定されたスプリング135,136が取り付けられている。移動部材134とスプリング135,136とで、伝達手段を構成している。壁部134Aの上部と枕木12の底面との間の間隔H1は、道床11の砂利等が内側に流れ込まず、しかも電車通過時であっても、枕木12の底面が壁部134Aの上部に接触しない高さに調整されている。スプリング135,136は常時移動部材134を下方に押圧しており、枕木12が振動するとスプリング135,136を経て移動部材134に伝達される構造である。
【0035】
このような構造により、電車が通過しない平常時には、スプリング135,136の押圧力によって、移動部材134は下方、つまり圧電式振動発電機110-1を押圧しているが、この押圧力によっては、圧電式振動発電機110-1は殆ど電力を出力していない。しかしながら、電車通過時には衝撃的な電車通過振動が印加されると共に、車輪の走行に基づく車輪走行振動が生じるので、スプリング135,136を介してその振動が移動部材134に伝達され、更に圧電式振動発電機110-1に伝達されるので、圧電式振動発電機110-1は印加される振動に応じた電力を出力する。その際、枕木13の底面が壁部134Aの上部に接触することはないので、圧電式振動発電機110-1が破損したり、破壊されることもない。
【0036】
なお、図16の例では、2本のスプリング135,136で押圧するようにしているが、弾性力に応じてその本数は適宜調整される。
【0037】
上述の第1実施形態では、振動発電機として圧電式振動発電機を用いているが、次に、振動発電機として電磁誘導式振動発電機を用いる第2実施形態について説明する。
【0038】
電磁誘導式振動発電機を用いる場合も、軌道内の配設位置(平面)は圧電式振動発電機と同様であり、図5に示されるように、図10の全数式、図11の区画式、図12の交互式、或いは混合式若しくはランダム式で配設される。電磁誘導式振動発電機の発電後の処理に関しても、発生電力の蓄電処理に関しても、図13及び図15に示される結線関係をそのまま適用することができる。しかしながら、以下に説明するように、電磁誘導式振動発電機は圧電式振動発電機と発電原理が相違すると共に、構造も相違するので、レール(枕木)からの振動伝達の機構は相違する。
【0039】
図17は、本発明で使用し得る電磁誘導式振動発電機140の構造を模式的に示しており、同心円の2つの円形状の永久磁石140-1及び140-2、即ち中心に配設された円柱状のN極永久磁石140-1と、このN極永久磁石140-1の周りに配設されたドーナツ状同心円の円筒状のS極永久磁石140-2とを具備し、永久磁石140-1及び140-2の間を自在に移動可能な薄型円筒状の磁性体で成る移動体140-4が配設され、移動体140-4は弾性体のスプリング140-5で上部を保持され、外部振動によって上下(Z方向)に振動するようになっている。移動体140-4の外周にはコイル140-3が巻回されており、振動によって移動体140-4が永久磁石140-1及び140-2の間の磁界領域を往復動するので、コイル140-3と磁石140-1,140-2の電磁誘導作用に基づいて電力(交流の電流i2)を発生する。つまり、電磁誘導式振動発電機140の振動(Z方向)により移動体140-4も振動し、コイル140-3に交流電流i2が流れる。
【0040】
図17は、電磁誘導式振動発電機140を模式的に示しているが、永久磁石140-1及び140-2の高さ(長さ)は十分な高さ(長さ)となっていると共に、外側は強固な筐体となっていると共に、防水性となっている。また、当然に、永久磁石140-1及び140-2の磁界が強いほど、コイル140-3の巻き数が多いほど発生電力は大きくなる。更に、図17の例とは逆に、円柱状永久磁石140-1がS極で、円筒状永久磁石140-2がN極であっても良い。
【0041】
図17に示す電磁誘導式振動発電機140は、外形や磁石が断面円形となっているが、図18に示すように、外形や磁石を断面矩形とした構造であっても良い。即ち、中心に配設された矩形台状のN極永久磁石150-1と、この極永久磁石150-1の周りに配設された矩形筒状のS極永久磁石150-2とを具備し、永久磁石150-1及び150-2の間を自在に移動可能な矩形板状の磁性体で成る移動体150-4が配設され、移動体150-4は弾性体のバネ150-5で上部を保持され、外部振動によって上下(Z方向)に振動するようになっている。移動体150-4の外周にはコイル150-3が巻回されており、振動によって移動体150-4が永久磁石150-1及び150-2の間を往復動するので、コイル150-3と磁石150-1,150-2の電磁誘導作用に基づいて電力(交流の電流i3)を発生する。
【0042】
第2実施形態では、図17若しくは図18に示すような電磁誘導式振動発電機140(150)を、前述した第1実施形態と同様な位置に配設して電力を得る。位置は同じであるが、配設構造は第1実施形態と相違している。即ち、図19は、枕木12の下方の道床11に電磁誘導式振動発電機140を配設した構造例を示しており、上蓋のない、水平方向断面が円形若しくは矩形の筐体141が道床11に埋設され、筐体141の内部底面上にスプリング143A及び143Bを介して電磁誘導式振動発電機140が載置されると共に、電磁誘導式振動発電機140の上面はスプリング142A及び142Bを介して枕木12の底面部に垂下されている。スプリング142A及び142Bと、スプリング143A及び143Bとで伝達手段を構成している。
【0043】
なお、電磁誘導式振動発電機が図17に示す断面円形の場合、筐体141も断面円形であり、図18に示す断面矩形の場合、筐体141も断面矩形となっている。筐体141の上面と枕木12の底面との間の間隔H2は、道床11の砂利等が内側に流れ込まず、しかも電車通過時であっても、枕木12の底面が筐体141の上面に接触しない高さに調整されている。
【0044】
このような構造において、電車が通過しない通常時には、スプリング142A及び142Bと、スプリング143A及び143Bとのバランスで電磁誘導式振動発電機140はほぼ静止状態で保持されている。従って、このような通常時には振動が電磁誘導式振動発電機140に伝達されないので、電磁誘導式振動発電機140は電力を発生しない。そして、レール上を電車が通過すると、枕木12が上下に振動し、これがスプリング142A及び142Bを経て電磁誘導式振動発電機140に伝達される。電磁誘導式振動発電機140はスプリング142A及び142Bで保持されているので、スプリング142A及び142Bへの振動の伝達によって電磁誘導式振動発電機140も振動し、上述した原理で電力を発生する。電磁誘導式振動発電機140が発生する電力は、図13図15で説明したような処理を施されて蓄電部や中継蓄電部に蓄電されて利用される。
【0045】
図20は電磁誘導式振動発電機140の他の配設構造例を示しており、筐体141に代えて、円形若しくは矩形の底板145と、その周縁に配置された断面円形若しくは矩形の遮蔽筒144とを道床11内に埋設した構造である。電磁誘導式振動発電機140は上述と同様に、底面をスプリング143A及び143Bで底板145に接続され、上面はスプリング142A及び142Bで枕木12の底部に接続されている。従って、電磁誘導式振動発電機140の動作は、上述の図19の場合と全く同一である。
【0046】
次に、磁歪式振動発電機を用いる第3実施形態を説明する。
【0047】
図21は、本発明で使用し得る磁歪式振動発電機160の原理的構造を模式的に示しており、図21(A)は側面図であり、図21(B)は平面図である。立体形状の固定部160-1に連接されたヨーク160-2の先端部には、図示D方向に可動する立体形状の可動部160-3が設けられており、ヨーク160-2と可動部156-3との間に、矩形板状の磁歪材料(Galfenol)160-4が懸架されると共に、コイル160-5が巻回されている。磁歪材料160-5の側面には、逆極性となるように1対の永久磁石160-6(本例ではS極)及び180-7(本例ではN極)が配設されている。可動部160-3が方向Dに往復動することにより、磁歪材料160-5もD方向に往復動、つまり振動して永久磁石160-6及び160-7の間の磁束が変化し、コイル160-5の電磁誘導により電力(交流の電流i4)が発生される。
【0048】
このような一般的な磁歪式振動発電機160に対して、本発明では鉄道軌道(レール)の振動を確実にかつ正確に検出するために、図22に示すような構造とする。即ち、側面から見て、固定部160-1の高さをh1としたとき、固定部160-1の中途部にヨーク160-2を設け、ヨーク160-2の先端部の可動部160-3の高さをh2(<h1)とすると共に、固定部160-1の上面と可動部160-3の上面との間隔をh3、固定部160-1の底面と可動部160-3の底面との間隔をh4としている。即ち、下記数1の関係になっている。
(数1)
h1=h2+h3+h4

このような構造の磁歪式振動発電機160を、鉄道の軌道に配設した例を図23に示す。即ち、上蓋のない、水平方向断面が矩形の筐体161が道床11に埋設され、筐体161の内部底面上に磁歪式振動発電機160の固定部160-1が載置されて固定されると共に、ヨーク先端の可動部160-30の上面はスプリング162を介して枕木12の底面部に接続されている。筐体161の上面と枕木12の底面との間の間隔H4は、道床11の砂利等が内側に流れ込まず、しかも電車通過時であっても、枕木12の底面が筐体161の上面に接触しない高さに調整されている。
【0049】
このような構造において、電車が通過していない通常時は、磁歪式振動発電機160は図22に示すような平衡状態であり、可動部160-3が振動することはなく、電力も発生されない。そして、レール上を電車が走行すると、枕木12が振動し、その振動はスプリング162を経て可動部160-3に伝達される。この振動の伝達により、可動部160-3は図24に示すように図示矢印で振動し、磁歪材料160-4が反復して歪むので、上述の原理で磁歪式振動発電機160は交流電力を発生する。
【0050】
図25は磁歪式振動発電機160の他の配設構造例を示しており、筐体161に代えて、矩形の底板164と、その周縁に配置された断面矩形の遮蔽筒163とを道床11内に埋設した構造である。磁歪式振動発電機160は上述と同様に、可動部160-3の上面はスプリング162で枕木12の底部に接続されている。従って、磁歪式振動発電機160の動作は、上述と全く同一である。
【0051】
なお、上述では、圧電式振動発電機、電磁誘導式振動発電機、磁歪式振動発電機を別個に配設して構成した例を挙げて説明したが、これら振動発電機を適宜に組み合わせたハイブリッド式の構成であっても良い(第4実施形態)。
【符号の説明】
【0052】
1 電車
2,3、5 レール
4 新幹線車両
6,7 車輪
10 路盤
11 道床
12(12-1~12-3) 枕木
13,14 レール
110-1~110-n、120-1~120-n 圧電式振動発電機
110A-1 圧電式振動発電機
110A-11 上部電極板
110A-12 圧電材
110A-13 下部電極板
130、131、132 保護部材
133 支持板
134 移動部材
136,136 スプリング
140、150 電磁誘導式振動発電機
140-1、150-1 N極永久磁石
140-2、150-2 S極永久磁石
140-3、150-3 コイル
140-4、150-4 移動体
140-5,150-5 スプリング
141 筐体
142A,143A、142B、143B スプリング
143 遮蔽筒
144 底板
160 磁歪式振動発電機
160-1 固定部
160-2 ヨーク
160-3 可動部
160-4 磁歪材料
160-5 コイル
160-6、150-7 永久磁石
161 筐体
162 スプリング
163 遮蔽筒
164 底板
200 蓄電部
201,202 合成回路
210-1~210n、220-1~220-n 整流回路
203-1、203-k、204-1、204-k 中継蓄電部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25