(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164918
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】電力需要制御システム、電力需要制御方法、及び電力需要制御プログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 13/00 20060101AFI20221020BHJP
H02J 3/14 20060101ALI20221020BHJP
【FI】
H02J13/00 311T
H02J3/14
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140672
(22)【出願日】2022-09-05
(62)【分割の表示】P 2020092647の分割
【原出願日】2016-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】302064762
【氏名又は名称】株式会社日本総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 努
(57)【要約】
【課題】従来の電力の供給量に合わせて需要を抑制的に調整することに加えて、供給量に合わせて需要を促進するダブルデマンドレスポンスの仕組みを提供する。
【解決手段】電力需要制御システム100は、電力需要の実測値と気象データとから、所定時間後の電力需要を予測する需要予測手段101と、需要家の実際の電力使用量を計測する実測値計測手段102とを備える。そして、需要予測手段101が予測した予測値と実測値計測手段102が計測した実測値との変動値を検知し、実測値が予測値より下回ると検知した場合に、需要家に電力の使用を促す要請を発信する非即時需要要請手段104を備え、その要請に対する需要家の応答を受信し、需要予測に反映させる。また、要請に対する応答の情報に基づいて、需要家を評価する需要家評価手段106を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管轄内の需要家の電力需要を制御する電力需要制御システムであって、
少なくとも前記電力需要の実測値を記録した実測値DBと気象データとから、所定時間後の電力需要を予測する需要予測手段と、
電力の使用要請である非即時使用要請に対する応答の可否、及び前記需要家が保持する需要対象の機器又は設備ごとの予想需要量(Kw/hr)を、前記需要家の機器又は設備ごとに登録する非即時需要リストと、
前記需要家の実際の電力使用量を計測する実測値計測手段と、
前記需要予測手段が予測した予測値と前記実測値計測手段が計測した実測値との変動値を検知する変動検知手段と、
前記変動検知手段によって前記実測値が前記予測値を下回ると検知された場合、前記非即時需要リストに応答可として登録された前記需要家に前記非即時使用要請を発信する非即時需要要請手段と、
を備えることを特徴とする電力需要制御システム。
【請求項2】
前記非即時需要要請手段は、前記変動検知手段によって前記実測値が前記予測値を上回ると検知された場合に、前記需要家に電力の節電要請である非即時抑制要請を発信することを特徴とする請求項1に記載の電力需要制御システム。
【請求項3】
前記非即時需要リストは、前記管轄内の需要家を、大口需要家と一般家庭の需要家とに分けて構成され、
前記需要家が大口需要家の場合の需要対象の機器又は設備は、セントラル暖房又は冷房のための蓄電設備、データセンタの制御設備、広告のため照明設備、工場の稼働率の制御設備、水力発電所の揚水設備、原子力廃棄物の再処理設備、のうち、少なくとも一つを含み、
前記需要家が一般家庭の場合の需要対象の機器又は設備は、補助電池の充電、エアコンの出力の復帰、給湯設備、食洗機、乾燥機、電気自動車の充電、炊飯器、融雪機のうち、少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の電力需要制御システム。
【請求項4】
管轄内の需要家の電力需要を制御する電力需要制御方法であって、
コンピュータが、
少なくとも前記電力需要の実測値を記録した実測値DBと気象データとから、所定時間後の電力需要を予測するステップと、
電力の使用要請である非即時使用要請に対する応答の可否、及び前記需要家が保持する需要対象の機器又は設備ごとの予想需要量(Kw/hr)を、前記需要家の機器又は設備ごとに非即時需要リストに登録するステップと、
前記需要家の実際の電力使用量を計測するステップと、
前記予測するステップで予測した予測値と前記計測するステップで計測した実測値との変動値を検知するステップと、
前記検知するステップによって前記実測値が前記予測値を下回ると検知された場合、前記非即時需要リストに応答可として登録された前記需要家に前記非即時使用要請を発信するステップと、
を実行することを特徴とする電力需要制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とする電力需要制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電量に応じて電力需要を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、電力自由化に向けての動きが活発化している。これまでは、「発電」と「送配電」を地域の大手電力会社が担ってきたが、電力自由化後は、
図8に示すように、送電・配電を行う送配電部門を独立させる「発送電分離」という考えに基づいて電力が供給される。したがって、従来のように発電側が需要に合わせて発電計画を作るのではなく、送配電側から発電側に対し、需要に合わせて給電指示が出されることになる。
【0003】
一方、従来から、原子力発電所の稼働停止以来、電力削減を目的とする装置や、電力会社のピーク時の発電能力に合わせて、需要者に節電を促すことが数多く提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、デマンドレスポンス(各需要家への消費電力の削減要求に応じて、電力需要を削減する仕組み)における電力削減目標量を満たすように、制御ルールを適用して演算した場合の制御結果を、あらかじめ提示することができる電力管理支援装置が開示されている。この発明によれば、建物のフロア内における備品の配置を示すフロアレイアウトと、電力消費機器の位置を示す機器レイアウトとを結び付けた機器マッピング情報を生成し、機器マッピング情報に基づいて、各フロアを複数に区切ったエリアに属する電力消費機器を決定し、電力消費機器の制御優先度を算出する制御ルール及びパラメータに基づいて、制御結果を求め、電力消費機器のスペック、制御区分、演算ルール、電力削減目標量、フロア内の状況を示すセンシング情報に基づいて、制御結果をシミュレートし、出力することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、全体の電力状況に応じた節電の具体的な案内を提供して、人々の連帯による効果的な節電を実現する節電情報提供装置が開示されている。この発明によれば、電力使用率等の電力状況値の範囲に応じ、電気製品ごとの節電必要度をいくつかのレベルで表す等したデータとして用意し、それを用い、電力会社からの電力使用状況データ等として提供される地域や社会全体の電力状況に応じた節電の具体的な案内として、電力状況値に応じた節電必要度を電気製品のアイコン表示態様で具体的に表示する。これにより、ユーザは、多種類の電器製品を用いていても容易に節電が実行できるとしている。
【0006】
また、本出願の発明者らも、特許文献3において、節電行動を促すために、ユーザのクレジットカード等の利用履歴からユーザの行動履歴を記録し、カード会社のサーバがユーザの家庭の節電量とユーザの取ったカードでの購入行動とを評価し、当該評価に応じてユーザに付与するインセンティブを決定する節電行動誘発システムを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-236520号公報
【特許文献2】特開2013-3864号公報
【特許文献3】特開2014-191579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献に記載の方法は、いずれも節電を促すもので、電力需要を抑制方向に制御する技術であるが、この電力需要の制御においては、電力需要予測が必要である。
図7は、電力需要予測のイメージを表したものである。例えば、夏場においては、
図7(a)に示すように、日の出5時頃から人々の活動の開始とともに電力の使用が増え、気温の上昇とともに14~15時頃に冷房等の電力使用のピークを迎える。一方、冬場においては、
図7(b)に示すように、日の出6時頃から人々の活動の開始とともに電力の使用が増え、日の入り・気温の低下とともに照明や暖房等の電気の使用が増えてくる。特に、冬場は、夏場に比べて日の入りが早いので、帰宅時間帯と家庭での使用が重なる17~19時頃に電力使用のピークを迎えることが多い。冬場は夏場に比べて、昼と夜で電力使用の差が小さいため、電力需要は、1日を通じて比較的フラットなカーブとなる。
【0009】
このように、電力需要の制御においては、季節や時間帯ごとの電力需要予測に合わせた供給と需要の調整が必要となる。しかし、電力需要の予測に合わせて発電量(給電量)を指示するとしても、実際の需要と乖離することがある。
図7では、例えば14時の時点で、予定した給電指示量(一点鎖線で示す)と最新需要予測(点線で占めす)とを比較すると、夏場・冬場ともハッチングで示す領域が需要不足となり、逆に、夏場で黒塗りの領域が給電不足となることを示している。したがって、給電指示量(発電指示量)と需要予測とのギャップをできるかぎり小さくすることが必要となる。
【0010】
このギャップを極小化する仕組みとして「実同時同量」の考え方に基づいて、各電力事業者に対応義務を課してきた。実同時同量の考え方は、実際に供給(発電)した量と自社の顧客が実際に消費した量の一致を求めるものである。各電力事業者は事前の需要予測に基づいて発電計画を立てているが、時々刻々の実需要の変化に合わせて、発電側の運転を調整することで実同時同量を達成する努力を行ってきた。すなわち、発電と小売が一体となって同時同量を達成してきた。
【0011】
一方、電力自由化に関する制度改革の中で、需給制御の考え方が「実同時同量」から「計画値同時同量」に改められることとなった。計画値同時同量では、発電側と小売側のそれぞれが、送配電事業者に提出する事前に計画した量と実際の量の一致が求められることとなる。つまり、発電側の同時同量は「事前に計画した発電量どおりに発電できたか」を問われ、小売側の同時同量は「事前に計画した需要量どおりの需要であったか」が問われる。なお、実際の量と計画値とのギャップについては、送配電事業者が責任を持って調整することとなる。計画値同時同量では、発電側と小売側は別々に同時同量義務を負うことから、小売事業者は予測値と実際の量とのギャップを発電機の運転で調整することはできず、需要のみによって調整することが求められる。すなわち、小売事業者は「精度の高い需要予測を行うこと」と「予測どおりに顧客に電力を消費させること」が求められることとなる。
【0012】
したがって、本発明では、上記のような課題に鑑み、従来の電力の予測需要量に合わせて需要を抑制的に調整することに加えて、予測需要量に合わせて需要を促進する仕組みも提供し、抑制と促進のダブルで電力需要を制御する、ダブルデマンドレスポンスの制御を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、以下のような解決手段を提供する。
(1)本発明の第1の態様は、管轄内の需要家の電力需要を制御する電力需要制御システムであって、少なくとも前記電力需要の実測値を記録した実測値DBと気象データとから、所定時間後の電力需要を予測する需要予測手段と、電力の使用要請である非即時使用要請に対する応答の可否、及び前記需要家が保持する需要対象の機器又は設備ごとの予想需要量(Kw/hr)を、前記需要家の機器又は設備ごとに登録する非即時需要リストと、前記需要家の実際の電力使用量を計測する実測値計測手段と、前記需要予測手段が予測した予測値と前記実測値計測手段が計測した実測値との変動値を検知する変動検知手段と、前記変動検知手段によって前記実測値が前記予測値を上回るか下回ると検知された場合、前記非即時需要リストに応答可として登録された前記需要家に前記非即時使用要請を発信する非即時需要要請手段と、を備える。
【0014】
(2)上記(1)の構成において、前記非即時需要要請手段は、前記変動検知手段によって前記実測値が前記予測値を上回ると検知された場合に、前記需要家に電力の節電要請である非即時抑制要請を発信する。
【0015】
(3)上記(1)の構成において、前記非即時需要リストは、前記管轄内の需要家を、大口需要家と一般家庭の需要家とに分けて構成され、前記需要家が大口需要家の場合の需要対象の機器又は設備は、セントラル暖房又は冷房のための蓄電設備、データセンタの制御設備、広告のため照明設備、工場の稼働率の制御設備、水力発電所の揚水設備、原子力廃棄物の再処理設備、のうち、少なくとも一つを含み、前記需要家が一般家庭の場合の需要対象の機器又は設備は、補助電池の充電、エアコンの出力の復帰、給湯設備、食洗機、乾燥機、電気自動車の充電、炊飯器、融雪機のうち、少なくとも一つを含む。
【0016】
(4)本発明の第2の態様は、管轄内の需要家の電力需要を制御する電力需要制御方法であって、コンピュータが、少なくとも前記電力需要の実測値を記録した実測値DBと気象データとから、所定時間後の電力需要を予測するステップと、電力の使用要請である非即時使用要請に対する応答の可否、及び前記需要家が保持する需要対象の機器又は設備ごとの予想需要量(Kw/hr)を、前記需要家の機器又は設備ごとに非即時需要リストに登録するステップと、前記需要家の実際の電力使用量を計測するステップと、前記予測するステップで予測した予測値と前記計測するステップで計測した実測値との変動値を検知するステップと、前記検知するステップによって前記実測値が前記予測値を上回るか下回ると検知された場合、前記非即時需要リストに応答可として登録された前記需要家に前記非即時使用要請を発信するステップと、を実行する。
【0017】
(5)本発明の第3の態様は、上記(4)に記載の各ステップをコンピュータに実行させるプログラムである。
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、従来の電力の供給量に合わせて需要を抑制的に調整することに加えて、供給量に合わせて需要を促進する仕組みを提供し、抑制と促進のダブルで電力需要を制御するダブルデマンドレスポンスの制御を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る電力需要制御システムの機能構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る非即時需要リスト(一般家庭)の一例を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る非即時需要リスト(大口需要家)の一例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る非即時需要要請処理のフローを示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る需要家ランクテーブルの一例を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る需要家評価テーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。以降の図においては、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号又は符号を付している。また、機能構成の図において、機能ブロック間の矢印は、データの流れ方向、又は処理の流れ方向を表す。
【0025】
(機能構成)
図1は、本発明の実施形態に係る電力需要制御システムの機能構成を示す図である。図示するように、電力需要制御システム100(以下、本システムと呼ぶ)は、新電力会社又は送配電事業者のシステムであって、需要家のシステム又は制御機器(以下、需要家200と呼ぶ)と接続され、以下の機能部を備えている。すなわち、本システムは、機能部として、需要予測手段101と、実測値計測手段102と、変動検知手段103と、非即時需要要請手段104と、需要家応答受信手段105と、需要家評価手段106とを備え、また、その機能を実現するために必要なデータベース(DB)として、実測値DB10と、需要予測DB111と、需要家情報DB112とを備える。
【0026】
本システムは、需要家の需要を「即時電力需要」と「非即時電力需要」に分けて管理し、送配電事業者は、管轄する電力需要が計画需要量に満たない場合に、管内の需要家に対して電力消費を要請し(消費を促し)、要請を受けた需要家に電力消費要請に対して、準備していた「非即時電力需要」を基にその要請に応えてもらい、要請に応えてくれた需要家にはインセンティブを与えるものである。「非即時電力需要」(「非即時需要」ともいう)とは、即時に電力は必要としないが、いずれ、例えば30分から数時間以内といった近々の時間に、電力が必要となることが分かっている電力需要、又は電力が節約できることが期待できる電力需要のことである。非即時需要要請には、電力需要が給電量を下回ると予測される場合に電力消費を促す要請と、電力需要が給電量を上回ると予測される場合に電力消費を抑制する要請とがある。
【0027】
非即時電力需要には、例えば、一般家庭では、食洗機や洗濯機の運転、お風呂の湯沸し等の他、今後普及する家庭用蓄電池への蓄電等も考えられる。大口需要家の非即時電力需要には、例えば、セントラル暖房・冷房のための蓄電、データセンタにおける保留ジョブの実行の制御、広告事業者における照明設備(プロジェクションマッピングによる広告投影等)、工場の稼働率の制御(工場での在庫用部品の製造等)が考えられる。
【0028】
需要予測手段101は、所定時間後の電力需要を予測する。すなわち、少なくとも、過去の電力需要の実績を日ごと時間帯ごとに格納した実測値DB110と、外部から取得する温度、湿度等の気象データとから、当日の時間帯ごとの電力需要を予測する。更に必要であれば、カレンダー情報や電力を多量に消費するイベントのデータを加えて、当日の時間帯ごとの電力需要を予測する。予測された結果は、需要予測DB111に格納される。
実測値DB110には、実測値計測手段102が需要家200から取得し、計測した実際の電力使用量が常に格納される。
【0029】
変動検知手段103は、需要予測手段101が予測した予測値と、実測値計測手段102が計測した実測値との変動値を検知する。具体的には、実測値DB110に格納された最新の実測値と需要予測DB111の最新の予測値とを常に比較し、予測値と実測値の変動を検知する。変動検知手段103は、予測値に対して実測値が下回ると判断したときは、非即時需要要請手段104を介して、電力の使用要請(非即時使用要請)を需要家200(需要家のシステム)に発信する。逆に、予測値に対して需要が上回ると判断したときは、需要家200に対して節電要請(非即時抑制要請)を発信したり、給電量増加指示を発信したりする。ここで、非即時使用要請と非即時抑制要請を合わせて非即時需要要請と呼ぶが、非即時抑制要請に応えるための節電方法については、既存の技術を利用するものとし、ここでは説明を省略する。
【0030】
非即時需要要請手段104は、非即時需要要請に応えることが可能な需要家の情報を格納した需要家情報DB112から、需要家のシステムのあて先やその他必要な情報を取得し、使用要請又は抑制要請を送信する。需要家のシステムは、企業等の事業者においては、事業者内の装置の電力制御システムであり、一般家庭においては、HEMS(Home Energy Management System)等の住宅用エネルギー管理機器である。なお、需要家側になんらかの方法で使用要請又は抑制要請を受信する手段を備えていれば、HEMSがなくとも需要家が手動で機器を操作してもよい。非即時需要要請処理の詳細については後述する。
【0031】
需要家応答受信手段105は、非即時需要要請に対する需要家200からの応答を受信し、その応答に含まれる需要の増加量又は減少量を需要予測手段101に入力するとともに、その応答(レスポンス)に対する評価を行う需要家評価手段106を実行させる。需要予測手段101は入力された情報を基に需要予測を更新する。なお、HEMSで増減量を取得して通知するなど、需要家の応答は需要の増減結果を通知するだけであってもよい。
【0032】
需要家評価手段106は、非即時需要要請に対する応答を、需要家ごとに評価する。この評価は、要請に対する応答時間、貢献量等に基づいて、貢献ポイントを算出することで行われる。算出された貢献ポイントに基づいて、需要家にインセンティブ(例えば、電気料金の割引等)が提供される。評価方法の詳細については後述する。
【0033】
(非即時需要リスト)
図2、
図3は、本発明の実施形態に係る非即時需要リストを示す図である。非即時需要リストとは、各需要家の電力を必要とする機器(需要対象の機器)ごとに、その機器や設
備を保有しているか否かの情報(省略可)と、非即時使用要請に応えることが可能か否かを示す情報と、要請に応えることが可能な場合はその機器の予想需要量(Kw/hr)とを含むテーブルである。非即時需要リストには、一般家庭向けと大口需要家向けとがある。
【0034】
図2は、一般家庭向けの非即時需要リストの一例を示す図である。この図で示すように、例えば、家庭内に蓄電可能な補助電池がある場合は、その蓄電池を要請のあった時間帯に充電することで、非即時使用要請に応えることができる。また、エアコンが省エネモード等で出力を抑制している場合は、その出力を要請の時間帯だけ復帰させることで要請に応えることができる。また、電気自動車(EV)の充電も非即時使用要請に応えることができる好適な機器である。その他の機器(例えば、給湯設備、食洗機、乾燥機、炊飯器、融雪機)も、時と場合によっては要請に応えることが可能なので、非即時需要リストに加え、HEMS等の制御において利用可能とする。なお、図では省略しているが、可否の情報には、対応可能な時間帯の情報も含まれるものとする。
【0035】
図3は、大口需要家向けの非即時需要リストの一例を示す図である。この図では、需要家ごとに、需要対象となる設備を保有しているか否かの情報と、保有している場合は非即時使用要請に応えることが可能か否かの情報と、要請に応えることが可能な場合は、その予想需要量(Kw/hr)とがリストに含まれることを示している。要請に対する可否の情報には、対応可能な時間帯の情報も含まれるものは同様である。非即時需要リストは、需要家のシステムはもちろん、本システムの需要家情報DB112にも登録される。
【0036】
需要対象には、例えば、セントラル暖房・冷房のための蓄電設備、データセンタの制御設備(コンピュータによる計算に多くの電力を消費するデータセンタにおける保留ジョブの実行の制御)、広告のための照明設備(照明に多くの電力を消費する広告事業者におけるプロジェクションマッピングによる広告投影等)、工場の稼働率の制御設備(工場での在庫用部品の製造等の制御)が考えられる。また、水力発電のための揚水設備にも多量の電力を使用するので、水力発電所も広い意味で大口需要家と考えることができる。また、水力発電以外の発電所であってもその他発電用に電力を必要とする設備(例えば、原子力廃棄物の再処理施設、メタンハイドレートの採取設備等)であれば、需要対象に含めることができる。すなわち、発電所やその関連施設も需要家として機能させることができる。
なお、原子力発電所も発電量の調整のために揚水発電を用いているが、そのこととは逆である。
【0037】
一般家庭では様々な電気機器があり、変動も激しいため、非即時需要リストの個別の機器の情報の需要家情報DB112への登録は省略してもよい。しかし、大口需要家の設備は、貢献量への影響が大きく、対象設備も限られ、あらかじめ電力使用契約で知ることができるため、需要家情報DB112の登録に設備の情報を含めることが好ましい。また、図示は省略するが、節電要請である非即時抑制要請が発せられたときのための「非即時抑制リスト」も作成してもよい。
【0038】
(非即時需要要請処理)
図4は、本発明の実施形態に係る非即時需要要請処理のフローを示す図である。この処理は、非即時需要要請手段104が行う処理である。以下では、電力需要を促進するための非即時使用要請の場合について説明するが、電力需要を抑制(節電)するための非即時抑制要請の場合も基本的には同様である。
【0039】
非即時使用要請では、まずステップS10において、所定時間後(例えば30分後)に需要不足の見込みがあるかどうかを常に判断する。需要不足の見込みが発生した場合は、ステップS11に移り、需要不足量に応じて、現時点で要請に応えてくれそうな需要家を選択する。このとき、需要家情報DB112の非即時需要リストが参照される。必要に応じて、過去の実績からみて応答率が高い需要家を優先して要請を送信するようにしてもよい。また、現時点では要請に応えてくれそうもない需要家であっても予備候補として選択するようにしてもよい。要請を受けられるか否かは実際には刻々と変化するからである。
予備候補は、需要家情報の内容によって順位付けされ、要請に応えてくれた需要家だけでは需要が不足する場合に、その順位付けに従って、非即時需要要請が発信される。また、上記の所定時間以上前に調整が必要であることが判明した場合は、需要家に対して「非即時需要」の応答準備要請を通知してもよい。そのようにすることで、必要な時にタイミングよく要請に応じてもらうことが可能となる。
【0040】
次に、非即時使用要請のステップS12では、選択した需要家のシステムに使用要請(電力消費要請)を発信し、需要家からのレスポンス(応答)を待つ。需要家のシステムからレスポンスがあった場合は(ステップS13:Y)、ステップS14において、その需要家のレスポンス情報を記録する。レスポンス情報には応答時間、レスポンス回数、使用要請に対する貢献量(Kw/hr)の見込みが含まれる。ここでステップS13,S14の処理は、ステップS15において、使用要請を発した時間から所定時間が経過するまで(例えばステップS10の所定時間の10分前まで)続けられる。なお、所定時間内であれば、同じ需要家から何度でもレスポンスを受け取ってもよいし、前回のレスポンスの更新や取り消しも受け付けてもよい。
【0041】
最後に、非即時使用要請のステップS16では、レスポンスのあった需要家の要請に対する貢献量の合計を算出し、需要予測手段101に入力し、需要予測に反映させる。その後は、ステップS10に戻り、以後同様の処理を繰り返す。
【0042】
(需要家評価)
図5は、本発明の実施形態に係る需要家ランクテーブルの一例を示す図である。需要家ランクテーブルとは、需要家評価手段106が行う需要家を評価するためのテーブルであり、月別又は季節ごとに定義される。需要家ランクテーブルには、図示するように、応答時間、応答時間ランク、対応可能時間帯、難易度ランクが含まれる。例えば、要請があってから5分以内に応答があった場合は、応答時間ランクは最も高い1となる。
【0043】
また、難易度ランクは、要請に対応可能な時間が一般的に難しい時間であればあるほど高くなる。例えば、22時~6時等の時間帯は、比較的対応がしやすいと考えられるので難易度ランクは低いが、10~18時等の時間帯は、対応が難しいと考えられるので難易度ランクを高く設定する。もちろん、難易度ランクは、時期によって変動するので、需要家ランクテーブルは時期ごとに設定される。すなわち、同じ対応可能時間帯でも時期によって難易度ランクは変動する。
図5では、夏場と冬場の例を示している。なお、対応可能
時間帯の代わりに、実際に要請に対応した時間帯を使って、難易度ランクを決定してもよい。応答時間、応答時間ランク、対応可能時間帯、難易度ランクを総合的に判断して需要家の貢献ポイントが算出される。
【0044】
図6は、本発明の実施形態に係る需要家評価テーブルの一例を示す図である。需要家評価テーブルは、前述した需要家ランクテーブルに基づいて、需要家評価手段106が需要家を評価したテーブルである。需要家評価テーブルは、需要家情報DB112に格納され、需要家IDごとに、需要家応答受信手段105が受信した、要請に対する貢献回数(又は応答回数)、実際の貢献量(Kw/hr)、平均応答時間(秒)含まれ、これらの値から所定のルールで貢献ポイントが算出される。貢献ポイントは、その値によって高・中・低などで分類してもよい。需要家評価手段106によって、一定期間の間で算出された貢献ポイントに基づいて、各需要家に対するインセンティブが決定される。なお、需要家評価テーブルは、図示するように、大口需要家と一般家庭を分けて管理し、別々の評価基準を用いてもよい。
【0045】
このようにすることで、要請に対する貢献回数、貢献量及び平均応答時間に基づいて、
貢献ポイントを算出するので、要請に対してより実効性のある応答をした需要家ほどイン
センティブが高くなる。また、大口需要家と一般家庭で需要対象となる設備又は機器を登
録することで、より有用性、実効性が高くなる。
【0046】
以上説明した本システムの機能構成やデータ構成は、あくまで一例であり、一つの機能ブロック(データベース及び機能処理部)を分割したり、複数の機能ブロックをまとめて一つの機能ブロックとして構成したりしてもよい。各機能処理部は、サーバ装置等に内蔵されたCPU(Central Processing Unit)が、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、SSD(Solid State Drive)、ハードディスク等の記憶装置に格納されたコンピュータ・プログラムを読み出し、CPUにより実行されたコンピュータ・プログラムによって実現される。すなわち、各機能処理部は、このコンピュータ・プログラムが、記憶装置に格納されたデータベース(DB;Data Base)やメモリ上の記憶領域からテーブル等の必要なデータを読み書きし、場合によっては、関連するハードウェア(例えば、入出力装置、表示装置、通信インターフェース装置)を制御することによって実現される。また、本発明の実施形態におけるデータベース(DB)は、商用データベースであってよいが、単なるテーブルやファイルの集合体をも意味し、データベースの内部構造自体は問わないものとする。
【0047】
(実施形態の効果)
本システムによれば、従来のように、電力の供給量に合わせて需要を抑制的に調整すること(非即時抑制要請)に加えて、供給量に合わせて需要を促進する仕組み(非即時使用要請)を提供することができる。こうすることで、電力需要のダブルデマンドレスポンスの制御が可能となり、同時同量の計画が可能となる。
【0048】
また、需要家評価手段を備え、要請に応えてくれた需要家にインセンティブを与えることで、上記の要請の実効性を高めることができる。また、需要家評価手段は、需要家が保有する設備ごとの要請に対する応答の可否と予測需要量を格納する非即時需要リストを備え、要請に対する貢献回数、貢献量及び平均応答時間に基づいて、貢献ポイントを算出するので、要請に対してより実効性のある応答をした需要家ほどインセンティブが高くなる。また、大口需要家と一般家庭で需要対象となる設備又は機器を登録することで、より有用性、実効性が高くなる。また、発電所やその関連施設も、その設備を登録することで、電力を使う側の大口需要家として含めることができる。
【0049】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲に限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。なお、上記の実施形態では、本発明を物の発明として、について説明したが、本発明は、方法の発明(電力需要制御方法)又は本システムのサーバにおけるコンピュータ・プログラムの発明(電力需要制御プログラム)としても捉えることもできる。
【符号の説明】
【0050】
100 電力需要制御システム
101 需要予測手段
102 実測値計測手段
103 変動検知手段
104 非即時需要要請手段
105 需要家応答受信手段
106 需要家評価手段
110 実測値DB
111 需要予測DB
112 需要家情報DB
200 需要家(需要家側のシステム)