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特開2022-164938カーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜またはフィルムを形成する方法
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  • 特開-カーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜またはフィルムを形成する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164938
(43)【公開日】2022-10-28
(54)【発明の名称】カーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜またはフィルムを形成する方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20221021BHJP
   C09C 1/62 20060101ALI20221021BHJP
   C09C 1/48 20060101ALI20221021BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20221021BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20221021BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
C09D1/00
C09C1/62
C09C1/48
C09D7/61
C09D17/00
H01B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070055
(22)【出願日】2021-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037AA02
4J037AA04
4J037BB22
4J037CA03
4J037DD08
4J037EE28
4J037EE29
4J038AA011
4J038HA021
4J038HA066
4J038LA03
4J038NA19
4J038NA20
4J038PA21
4J038PB08
4J038PB09
4J038PC02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】全光線透過率が0%で、熱放射率が1.0に近く、優れた遮光性と優れた熱放射率を兼備する薄膜およびフィルムを、安価な原料を用い、安価な加工費で形成する方法を提供する。形成した薄膜およびフィルムは、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備する。
【解決手段】カーボンブラックの集まりをアルコールに浸漬し、ホモジナイザー装置をアルコール中で稼働させ、アグロメレートにおけるアグリゲート同士の絡み合いを解除し、アグリゲートの集まりをアルコールに分散したペーストを作成する。該ペーストを、スピンコーターに固定したステージ上に滴下し、スピンコーターの回転で、アグリゲート同士が絡み合った集まりからなる薄膜をステージの表面に形成する。また、前記ペーストを押し出し機に充填し、さらに、Tダイに押し出し、フィルムの幅とフィルムの厚みを有するTダイのリップからフィルムを押し出し、フィルムを形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックのアグリゲートの集まりをアルコールに分散したペーストを作成し、該ペーストを用いて、前記アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する方法は、
カーボンブラックの集まりと、該カーボンブラックの集まりの重量より多い重量からなるアルコールを、容器に充填し、前記カーボンブラックの集まりを攪拌し、該カーボンブラックの集まりを前記アルコール中に浸漬させる、この後、前記容器内にホモジナイザー装置を配置させ、該ホモジナイザー装置を前記アルコール中で稼働させ、該アルコールを介して、前記カーボンブラックの集まりに衝撃を繰り返し加え、該カーボンブラックの集まりにおけるアグリゲート同士の絡み合いを分離させ、該アグリゲートの集まりが前記アルコールに分散したペーストを作成する、この後、該ペーストの予め決めた量を、スピンコーターに固定したステージの上に滴下し、さらに、該ステージを予め決めた回転速度と予め決めた回転時間で回転させ、該ステージの表面に、前記アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する、この後、前記スピンコーターから前記ステージを外し、該ステージを前記アルコールの沸点に昇温し、さらに、前記薄膜の表面全体に圧縮荷重を加えて該薄膜を圧縮する、この後、該ステージの裏面の複数個所に上下方向の衝撃加速度を繰り返し加え、該ステージから前記薄膜を引き剥がし、該ステージの表面から前記薄膜を取り出す、カーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する方法である。
【請求項2】
請求項1に記載したカーボンブラックのアグリゲートの集まりをアルコールに分散したペーストを用い、カーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムを形成する方法は、
請求項1に記載した方法に従って、カーボンブラックのアグリゲートの集まりがアルコールに分散したペーストを作成し、該ペーストを押出機に充填し、さらに、該押出機から前記ペーストをTダイに押出し、作成するフィルムの幅からなる幅を有し、作成するフィルムの厚みからなる間隙を有する前記Tダイのリップから、前記ペーストをフィルムとして押し出し、さらに、離間して設置された2つのロールが、前記ペーストを構成するアルコールの沸点に昇温され、該2つのロールのそれぞれの下面と上面とに順番に前記フィルムが接触して該ロールの表面を前記フィルムが通過し、さらに、該フィルムを引き取り機で引き取り、さらに、該フィルムを巻き取り機で巻き取る、カーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムを形成する方法である。
【請求項3】
請求項1に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜が、アセチレンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜であり、該薄膜を形成する方法は、請求項1に記載したカーボンブラックとしてアセチレンブラックを用い、請求項1に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する方法に従って、該薄膜を形成する方法であり、
または、
請求項2に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムが、アセチレンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムであり、該フィルムを形成する方法は、請求項2に記載したカーボンブラックとしてアセチレンブラックを用い、請求項2に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムを形成する方法に従って、該フィルムを形成する方法である。
【請求項4】
請求項1に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜が、ケッチェンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜であり、該薄膜を形成する方法は、請求項1に記載したカーボンブラックとしてケッチェンブラックを用い、請求項1に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する方法に従って、該薄膜を形成する方法であり、
または、
請求項2に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムが、ケッチェンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムであり、該フィルムを形成する方法は、請求項2に記載したカーボンブラックとしてケッチェンブラックを用い、請求項2に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムを形成する方法に従って、該フィルムを形成する方法である。
【請求項5】
請求項1に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する方法は、請求項1に記載したアルコールとして、20℃において2-5mPa・秒の粘度を有するアルコールを用いて前記薄膜を形成する方法であり、該薄膜を形成する方法は、
前記粘度を有するアルコールを、請求項1に記載したアルコールとして用い、請求項1に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する方法に従って、該薄膜を形成する方法である。
【請求項6】
請求項2に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムを形成する方法は、請求項2に記載したペーストを構成するアルコールとして、20℃において6-12mPa・秒の粘度を有するアルコールを用いて前記フィルムを形成する方法であり、該フィルムを形成する方法は、
前記粘度を有するアルコールを、請求項2に記載したペーストを構成するアルコールとして用い、請求項2に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムを形成する方法に従って、該フィルムを形成する方法である。
【請求項7】
請求項1に記載した方法で形成した薄膜を、または、請求項2に記載した方法で形成したフィルムを、基材または部品に接合する方法は、
請求項1に記載した方法で形成した薄膜を、または、該薄膜を所定の形状に切断した該薄膜を、または、請求項2に記載した方法で形成したフィルムを、または、該フィルムを所定の形状に切断した該フィルムを、基材または部品の予め決めた位置に配置し、該薄膜または該フィルムの表面の全体に圧縮荷重を加えて、該薄膜または該フィルムを圧縮し、該薄膜または該フィルムが前記基材または前記部品と接触する部位に摩擦熱を発生させ、該摩擦熱によって、前記薄膜または前記フィルムが前記基材または前記部品に接合する、請求項1に記載した方法で形成した薄膜を、または、請求項2に記載した方法で形成したフィルムを、基材または部品に接合する方法である。
【請求項8】
請求項4に記載した方法で形成したフィルムに、ガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する方法は、
熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合して懸濁液を作成し、該懸濁液に請求項4に記載した方法で形成したフィルムを浸漬し、該懸濁液を前記アルコールの粘度に応じた厚みで前記フィルムに吸着させ、該フィルムを前記懸濁液から引き上げる、この後、該フィルムを前記金属化合物が熱分解する温度に昇温し、該金属化合物を熱分解させる、これによって、金属のナノ粒子の集まりが前記フィルムの表面全体に一斉に析出し、該金属のナノ粒子同士が互いに接触する部位で金属結合するとともに、該金属のナノ粒子の集まりが前記フィルムの表面全体に積層し、該積層した金属のナノ粒子の集まりからなる被膜で前記フィルムが覆われ、該金属のナノ粒子の集まりからなる被膜が、前記フィルムにガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する、請求項4に記載した方法で形成したフィルムに、ガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する方法である。
【請求項9】
請求項8に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法は、
メタノールに分散するが、メタノールに溶解しない第一の性質と、熱分解で金属を析出する第二の性質を兼備する金属化合物をメタノールに分散し、該金属化合物のメタノール分散液を作成し、さらに、該金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させ、該金属化合物の微細結晶の集まりを析出させる、この後、該金属化合物の微細結晶の集まりを容器に充填し、該容器内の前記金属化合物の微細結晶の集まりの表面全体を覆う板材を、該金属化合物の微細結晶の集まりの上に被せる、さらに、該板材の表面全体に圧縮荷重を加え、前記容器内の前記金属化合物の微細結晶の集まりを破砕する、さらに、前記容器に前後、左右、上下の3方向の衝撃加速度を繰り返し加え、該容器内の前記破砕された金属化合物の微細結晶の集まりを再配列させる、この後、前記板材の表面全体に再度前記圧縮荷重を加え、さらに、前記容器に前記3方向の衝撃加速度を再度繰り返し加える、こうした前記圧縮荷重を加える処理と前記衝撃加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、前記板材に前記圧縮荷重を加えた際に、該板材からの反発力が増加した時点で、前記一対の処理を停止し、前記容器内に前記金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりを作成する、この後、前記板材を前記容器から取り出し、さらに、前記容器に、20℃における粘度が4-7mPa・秒であるアルコールを、前記容器内の前記金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりの重量より多い重量として充填し、該アルコールを攪拌し、前記容器内に、前記金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりを前記アルコールに混合した懸濁液を作成する、請求項8に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法である。
【請求項10】
請求項8に記載した請求項4に記載した方法で形成したフィルムにガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する方法は、請求項8に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、無機物の分子ないしは無機物のイオンが金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物であり、該無機金属化合物を、請求項8に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、請求項8に記載した請求項4に記載した方法で形成したフィルムにガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する方法に従って、該フィルムにガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する方法であり、
または、
請求項9に記載した記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法は、請求項9に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、無機物の分子ないしは無機物のイオンが金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物であり、該無機金属化合物を、請求項9に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、請求項9に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法に従って、該懸濁液を作成する、請求項9に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法である。
【請求項11】
請求項8に記載した請求項4に記載した方法で形成したフィルムにガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する方法は、請求項8に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、オクチル酸金属化合物であり、該オクチル酸金属化合物を、請求項8に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、請求項8に記載した請求項4に記載した方法で形成したフィルムにガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する方法に従って、該フィルムにガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する方法であり、
または、
請求項9に記載した記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法は、請求項9に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、オクチル酸金属化合物であり、該オクチル酸金属化合物を、請求項9に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、請求項9に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法に従って、該懸濁液を作成する、請求項9に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜またはフィルムを形成する方法に係る。作成した薄膜およびフィルムは、いずれもアグリゲートの集まりで構成されるため、カーボンブラックの性質を持つ。すなわち、カーボンブラックの全光線透過率が0%と小さく、薄膜およびフィルムは優れた遮光性を持つ。従って、薄膜およびフィルムに、紫外線が連続して照射しても、薄膜およびフィルムは劣化しない。また、カーボンブラックは、黒体の熱放射との比率である熱放射率が0.95-0.97と高く、薄膜およびフィルムは、放熱薄膜または放熱フィルムとして作用する。さらに、カーボンブラックの比抵抗は、金属の比抵抗より6桁大きいが、合成樹脂の比抵抗より13桁小さく、カーボンブラックの導電性に基づき、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備する薄膜およびフィルムとしても作用する。
最初に、薄膜およびフィルムを形成する際に用いるペーストを作成する。すなわち、カーボンブラックの集まりとアルコールとの混合物中で、ホモジナイザー装置を稼働させ、アルコールを介して、カーボンブラックの集まりに衝撃を繰り返し加え、カーボンブラックにおけるアグリゲートの絡み合いを分離させ、アルコールを介してアグリゲートが分散した該アグリゲートの集まりからなるペーストを作成する。
次に、ペーストをスピンコーターのステージに滴下し、スピンコーターを高速回転させ、アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を、ステージの表面に形成する。
また、ペーストを押出機に充填し、さらに、ペーストを押出機からTダイに押出し、作成するフィルムの幅からなる幅を有し、作成するフィルムの厚みからなる間隙を有するTダイのリップから、ペーストをフィルムとして押し出し、アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムを形成し、さらに、フィルムを引き取り機で引き取った後に、巻き取り機でフィルムを巻き取る。
なお、本発明では、ペーストをスピンコーターに滴下し、スピンコーターの高速回転で、膜厚が薄い膜を形成するため、膜厚が薄い膜を薄膜と記述した。いっぽう、ペーストを押出機に充填し、さらに、ペーストを押出機からTダイに押し出し、さらに、Tダイのリップから幅が広く厚みが薄い膜として押し出すため、幅が広く膜厚が薄い膜をフィルムと記述した。
【背景技術】
【0002】
本発明に近い技術に、遮光性薄膜および遮光性フィルムと、放熱薄膜および放熱フィルムとがある。
例えば、遮光性フィルムの従来技術として特許文献1がある。つまり、液体飲料の容器の外側を遮光性シュリンクフィルムで覆い、液体飲料に対する光線の入射を防ぎ、光線の照射による液体飲料の機能性成分の劣化を抑制する。しかしながら、遮光性シュリンクフィルムの全光線透過率は、最も高いフィルムであっても92%台であり、紫外線が継続してフィルムに照射すると、液体飲料の劣化が緩やかに進む。
【0003】
また、放熱フィルムの従来技術として特許文献2がある。つまり、赤外線放射による放熱性に優れる熱放射層を、水不溶性無機化合物と耐熱性合成樹脂とを、伝熱性に優れる金属フィルム上に積層した。しかしながら、水不溶性無機化合物と耐熱性合成樹脂とからなる熱放射層の放射率は、0.8-0.9と低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-201569号公報
【特許文献2】特開2014-193529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、全光線透過率が0%で、熱放射率が1.0に近い、優れた遮光性と優れた熱放射率を兼備する薄膜およびフィルムを、安価な原料を用い、安価な加工費で形成することにある。さらに、形成する薄膜およびフィルムは、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
カーボンブラックのアグリゲートの集まりをアルコールに分散したペーストを作成し、該ペーストを用いて、前記アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する方法は、
カーボンブラックの集まりと、該カーボンブラックの集まりの重量より多い重量のアルコールを、容器に充填し、前記カーボンブラックの集まりを攪拌し、該カーボンブラックの集まりを前記アルコール中に浸漬させる、この後、前記容器内にホモジナイザー装置を配置させ、該ホモジナイザー装置を前記アルコール中で稼働させ、該アルコールを介して、前記カーボンブラックの集まりに衝撃を繰り返し加え、該カーボンブラックの集まりにおけるアグリゲート同士の絡み合いを分離させ、該アグリゲートの集まりが前記アルコールに分散したペーストを作成する、この後、該ペーストの予め決めた量を、スピンコーターに固定されたステージの上に滴下し、さらに、該ステージを予め決めた回転速度と予め決めた回転時間で回転させ、該ステージの表面に、前記アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する、この後、前記スピンコーターから前記ステージを外し、該ステージを前記アルコールの沸点に昇温し、さらに、前記薄膜の表面全体に圧縮荷重を加えて該薄膜を圧縮する、この後、該ステージの裏面の複数個所に上下方向の衝撃加速度を繰り返し加え、該ステージから前記薄膜を引き剥がし、該ステージの表面から前記薄膜を取り出す、カーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する方法。
【0007】
つまり、以下に説明する極めて簡単な5つの処理を連続して実施すると、アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜が得られる。該薄膜は、全光線透過率が0%である優れた遮光性と、熱放射率が0.95-0.97からなる優れた熱放射率を兼備する。また、該薄膜は、カーボンブラックの導電性に基づく導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備する。
いっぽう、ステージの表面に形成される薄膜の大きさは、ステージの大きさで自在に変えられる。また、ステージの表面に形成される薄膜の膜厚は、滴下したペーストの量と、ステージの大きさで、自在に変えられる。また、ステージの回転時間を長くすると、ステージの表面に形成される薄膜の膜厚が均一になる。なお、ステージの回転時間は最大でも30秒程度である。さらに、該薄膜はアグリゲートの集まりで構成され、アグリゲートにおける一次粒子同士の結合力が大きくないため、アグリゲートが切断でき、様々な大きさと様々な形状の薄膜に切断できる。
なお、カーボンブラックは、油やガスを酸素が多い状態で大きな炉の中で燃やして生成する安価な工業用素材である。さらに、アルコールは、最も汎用的な有機溶剤である。また、5つの処理は極めて簡単な処理で、スピンコーターによる薄膜の形成も、極めて簡単な処理である。
第一の処理は、カーボンブラックの集まりとアルコールを容器に充填し、カーボンブラックの集まりを攪拌し、カーボンブラックの集まりをアルコール中に浸漬させるだけの処理である。第二の処理は、容器内でホモジナイザー装置を稼働させ、カーボンブラックにおけるアグリゲートの絡み合いを分離させるだけの処理である。第三の処理は、スピンコーターのステージの上に、ペーストを滴下し、ステージを回転させ、ステージの表面に、アグリゲートの集まりからなる薄膜を形成するだけの処理である。第四の処理は、スピンコーターからステージを取り外し、ステージをアルコールの沸点に昇温し、さらに、ステージの表面に形成された薄膜の全体に圧縮応力を加えるだけの処理である。第五の処理は、ステージの表面から薄膜を引きはがすだけの処理である。これら5つの処理によって、安価な材料を用い、簡単な処理で、アグリゲートの集まりからなる薄膜が形成できる。
次に、各々の処理で起こる現象と、各々の処理がもたらす作用効果とを説明する。
第一の処理において、カーボンブラックの集まりをアルコール中に浸漬させる。
第二の処理において、容器内でホモジナイザー装置を稼働させ、カーボンブラックにおけるアグリゲート同士の絡み合いを分離させる。
つまり、カーボンブラックが分解できない最小単位は、炭素粒子の1次凝集体であるアグリゲートである。アグリゲートは、10-100nmの大きさからなる炭素粒子同士が、不規則で複雑な形状で数珠つなぎした構造(これをストラクチャーと呼ぶ)で結合した炭素粒子の集まりである。アグリゲートの大きさは100-500nmからなり、炭素粒子の数は100-1000個からなる。このアグリゲートは、ストラクチャーによって容易に絡み合い、炭素粒子の2次凝集体であり、アグリゲートの凝集塊であるアグロメレートを形成する。従って、カーボンブラックは、その多くがアグロメレートで構成されるため、大きなものは1mm近くまで及ぶ粉体になる。このため、アグロメレートの集まりをアルコールに分散したペーストを作成することは困難で、また、アグロメレートの集まりからなる薄膜を形成することはさらに困難である。この理由から、アグロメレートにおけるアグリゲートの絡み合いを、アルコール中で分離させた。これによって、極めて微細で、極めて軽量なアグリゲートが、アルコールを介して分散した該アグリゲートの集まりからなるペーストが形成される。該ペーストをスピンコーターのステージに滴下し、ステージを高速回転させ、ペーストを遠心力で膜状に均一に引き伸ばすと薄膜が形成される。
つまり、ホモジナイザー装置による衝撃を、アルコールを介して、凝集塊であるアグロメレートに繰り返し与え、アグロメレートにおけるアグリゲートの絡み合いを分離した。アグリゲートが100-500nmの大きさからなる極めて軽量で微細な物質であるため、衝撃がアグロメレートに加わると、アグリゲート同士の絡み合いが徐々に解離し、絡み合っていたアグリゲートの部位に、アルコールが吸着する。これによって、全てのアグリゲートの表面にアルコールが吸着し、アグリゲートがアルコールで覆われ、アグリゲートの集まりがアルコールに分散したペーストが作成される。
すなわち、ホモジナイザー装置の稼働によって発生した衝撃を、カーボンブラックの集まりが浸漬したアルコールに加え続けると、衝撃がアルコールの全体に広がり、アルコールを介して、衝撃が効率よくアグロメレートの細部に伝わり、絡み合ったアグリゲートの部位にも衝撃が繰り返し加わる。これによって、アグリゲートが極めて軽量で微細な物質であるため、絡み合いが徐々に解除する。アグロメレートがアルコールに浸漬しているため、絡み合いが解除したアグリゲートの部位に、アルコールが吸着し、アグリゲートがアルコールで覆われる。この結果、アルコールを介してアグリゲートが分散した該アグリゲートの集まりからなるペーストが作成される。なお、アルコールとアグリゲートとの吸着力は、アルコールの粘度に依存する。
なお、ホモジナイザー装置として、超音波方式のホモジナイザー装置を用いると、アグリゲートの大きさに近い大きさの気泡が、莫大な数からなる気泡として同時に発生し、この後、気泡が殆ど同時に消滅する。この気泡の発生と消滅とが、超音波の発生周期に応じて起こり、アルコール中で、気泡の発生と消滅とが繰り返される(この現象をキャビテーションという)。この気泡がはじける際の衝撃波が、アルコール中に継続して発生し、衝撃波がアグロメレートの細部にも継続して加えられ、アグリゲート同士の絡み合いが分離する。従って、超音波方式のホモジナイザー装置は、超音波の発生周期に応じて、気泡の発生と消滅とを繰り返すため、短時間でアグリゲート同士の絡み合いが分離される。
第三の処理において、スピンコーターのステージの上にペーストを滴下し、ステージを回転させ、ステージの表面にアグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する。
つまり、最初に、ステージを真空チャックでスピンコーターに固定する。次に、第二の処理で作成したペーストの予め決めた量を、ステージの中心から周辺にペーストが広がるように、ピペットを用いてステージの全面に滴下する。つまり、ステージの大きさと、滴下するペーストの量とによって、ステージの表面に形成されるアグリゲートの集まりからなる薄膜の膜厚が決まる。このため、作成する薄膜の厚みを予め決め、これに基づいて、用いるステージの大きさと、滴下するペーストの量を予め決める。次に、予め決めた回転速度のパターンで、ステージを最初は遅く、徐々に回転速度を上げてステージを高速回転させ、ステージを予め決めた時間回転させ、ペーストがステージの上で均一な膜厚になるように、ステージを連続して回転する。この際、ペーストに遠心力が作用し、ペーストからアルコールが徐々に分離して除去され、ペーストの粘度が徐々に増大し、次第にペーストが動きにくくなり、ステージの上にアグリゲートの集まりからなる薄膜が形成される。
第四の処理において、最初に、真空チャックを解除し、スピンコーターからステージを取り出す。さらに、ステージをアルコールの沸点に昇温し、薄膜に含まれる僅かなアルコールを完全に除去する。この後、ステージの上に形成された薄膜の全体を圧縮する。これによって、アグリゲート同士が複雑に絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜が形成される。
第五の処理において、ステージの大きさに応じて、ステージの裏面の複数個所に上下方向の0.2-0.3Gの衝撃加速度を繰り返し加え、ステージから薄膜を引き剥がし、アグリゲートの集まりからなる薄膜を得る。
なお、ペーストから排出されたアルコールと薄膜から気化したアルコールは、回収機で回収し再利用する。また、ステージからはみ出たペーストは、回収して再利用する。
ところで、ステージが回転すると、ステージ上のペーストに遠心力が作用し、ペーストからアルコールが徐々に分離して除去されるとともに、アグリゲートの集まりにも遠心力が作用し、アグリゲートが極めて微細で、極めて軽量であるため、アグリゲートが遠心力で移動し、アグリゲート同士がアルコールを介して再び絡み合う。さらに、ステージの回転速度が上昇すると、ペーストからのアルコールの分離と除去とが進むとともに、アグリゲートの移動がアグリゲートの全体に及び、アグリゲート同士の絡み合いが、アグリゲートの全体で進む。絡み合ったアグリゲートの集まりは、ステージの表面全体に薄い膜として形成されるため、絡み合ったアグリゲートの集まりは、遠心力でステージから飛散しない。いっぽう、アグリゲートが10-100nmの大きさからなる炭素粒子同士が、不規則で複雑な形状で数珠つなぎした構造を持ち、さらに、アグリゲートのストラクチャーの形状と長さが、個々のアグリゲートで異なる。このため、ステージの回転速度が上昇すると、アグリゲート同士の絡み合いが急速に進む。いっぽう、アグリゲート同士の絡み合いの分離は、ホモジナイザー装置による衝撃を加える手段によって可能であるが、それ以外の手段ではアグリゲート同士の絡み合いは分離されにくい。従って、ステージの回転と共に、アグリゲート同士の絡み合いが継続して進む。なお、ステージの回転速度は、最大で5000rpmに及ぶ。アグリゲート同士の絡み合いが進むと、アグリゲートに直接吸着しているアルコールは、遠心力を受けても、アグリゲートから分離しにくい。このため、ペーストからアルコールの除去が進み、ペーストの粘性が低下し、ペーストがステージの上で動きにくくなっても、ステージの上に形成された薄膜には、僅かなアルコールが残存する。
この後、真空チャックを解除し、スピンコーターからステージを取り出す。さらに、ステージをアルコールの沸点に昇温し、薄膜に含まれる僅かなアルコールを完全に除去する。この後、ステージの上に形成された薄膜の表面全体を均一な圧力で圧縮する。この際に、アグリゲートが僅かに弾性変形し、アグリゲート同士がさらに複雑に絡み合い、絡み合ったアグリゲートの集まりの機械的強度が増大する。いっぽう、炭素粒子同士の結合は、圧縮応力によって破壊しない。この結果、アグリゲート同士が複雑に絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜が形成される。この後、ステージの大きさに応じて、ステージの裏面の複数個所に上下方向の0.2-0.3Gの衝撃加速度を繰り返し加え、ステージから薄膜を引き剥がし、薄膜を得る。
こうして作成したアグリゲートの集まりからなる薄膜は、次の作用効果を持つ。
第一に、薄膜がアグリゲートの集まりで構成されるため、薄膜は全光線透過率が0%と小さく、優れた遮光性を持つ。従って、紫外線が薄膜に連続照射されても薄膜は劣化しない。また、カーボンブラックの熱放射率が0.95―0.97と高く、薄膜は放熱薄膜として作用する。また、カーボンブラックの導電性に基づき、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備する薄膜としても作用する。
第二に、薄膜の大きさは、ステージの大きさで自在に変えられる。
第三に、薄膜の膜厚は、滴下したペーストの量と、ステージの大きさで、自在に変えられる。なお、スピンコーターによる薄膜の形成は、0.1μm以上の膜厚からなる薄膜の形成が可能である。
第四に、アグリゲートが、10-100nmの大きさからなる炭素粒子同士が数珠つなぎした炭素粒子の集まりで、炭素粒子同士の結合力が大きくないため、炭素粒子同士の結合が切断でき、作成した薄膜を、様々な大きさと様々な形状の薄膜に切断できる。
第五に、カーボンブラックは安価な工業用素材で、アルコールは最も汎用的な有機溶剤である。さらに、薄膜を形成する5つの処理は、極めて簡単な処理である。このため、安価な原料を用い、安価な加工費で安価な薄膜が形成できる。
第六に、アグリゲートの集まりからなる薄膜を安全に作成できる。つまり、カーボンブラックをアルコール中で処理するため、カーボンブラックが粉塵として飛散しない。また、熱処理はアルコールを気化するだけで、処理温度がカーボンブラックの大気中での発火温度より350℃以上低いため、カーボンブラックは発火しない。
この結果、本発明の薄膜は、5段落に記載した課題を全て解決する薄膜である。
【0008】
6段落に記載したカーボンブラックのアグリゲートの集まりをアルコールに分散したペーストを用い、カーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムを形成する方法は、
6段落に記載した方法に従って、カーボンブラックのアグリゲートがアルコールに分散したペーストを作成し、該ペーストを押出機に充填し、該押出機から前記ペーストをTダイに押出し、作成するフィルムの幅からなる幅を有し、作成するフィルムの厚みからなる間隙を有する前記Tダイのリップから、前記ペーストをフィルムとして押し出し、さらに、離間して設置された2つのロールが、前記ペーストを構成するアルコールの沸点に昇温され、該2つのロールのそれぞれの下面と上面とに順番に前記フィルムを接触させて該ロールの表面を通過させ、さらに、該フィルムを引き取り機で引き取り、さらに、該フィルムを巻き取り機で巻き取る、カーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムを形成する方法である。
【0009】
つまり、6段落に記載した方法で作成したペーストを用いて、Tダイ法でフィルムを形成する。最初に、ペーストを押出機に充填する。この後、ペーストを押出機からTダイに押出す。Tダイは、衣装用のハンガーに似た形状を持つ金型で、3つの部分から構成される。最初に、押出機から押し出されたペーストは、狭い間隙からなる一定の長さを持つ導入部に押し出され、圧縮応力を受けながら導入部を進み、この後、マニホールドと呼ばれる扇形に広がった領域に押し出される。次に、マニホールドに押し出されたペーストは、マニホールドでフィルム形状の幅に引き伸ばされるとともに、フィルムの長さ方向に引き伸ばされ、ペーストがフィルムに近い形状に形成される。この後、フィルムの厚みからなる間隙を有し、フィルムの幅を有するリップと呼ばれる一定の長さを持つ領域に押し出される。最後に、リップに押し出されたフィルムは、圧縮応力を受けながらリップからTダイの外に押し出される。なお、フィルムの厚みは、予め設定したリップの間隙で決定され、また、フィルムの幅は、予め設定したリップの幅でフィルムの幅が決まる。この後、リップから押し出されたフィルムは、引き取り機で引き取られる。引き取られるフィルムは、フィルムに僅かに残存したアルコールを完全に取り除くため、離間して設置された2つのロールが、前記ペーストを構成するアルコールの沸点に昇温され、該2つのロールのそれぞれの下面と上面とに順番にフィルムが接触して該ロールの表面を通過し、フィルムに残存したアルコールが気化する。この後、フィルムは巻き取り機で巻き取られる。
次に、Tダイにおけるペーストとフィルムの挙動を説明する。ペーストがTダイに押し出されると、間隙が狭くなったTダイの導入部で、ペーストは継続して圧縮される。ペーストに圧縮応力が加わると、液体のアルコールがペーストの表面から滲み出る。このアルコールの移動に伴って、ペーストを構成するアグリゲートも移動し、アグリゲート同士が絡み合う。滲み出たアルコールは、ペーストが継続して圧縮されるため、ペーストの表面から排出される。いっぽう、ペーストを構成するアグリゲートの集まりも継続して圧縮され、アグリゲート同士の絡み合いが進む。この後、ペーストはマニホールドに入り込む。マニホールドに入り込んだペーストは、フィルム形状の幅に引き伸ばされるが、マニホールドの体積が導入部の体積より大きいため、ペーストは負圧状態になり、再度、液体のアルコールがペーストの表面から滲み出る。このアルコールの移動に伴って、アグリゲートも移動し、アグリゲート同士の絡み合いがさらに進む。いっぽう、ペーストを構成するアグリゲートの集まりは、ペーストがマニホールドでフィルム形状の幅に引き伸ばされる際に、アグリゲートが移動し、アグリゲート同士の絡み合いがさらに進む。次に、フィルムがリップで継続して圧縮され、再々度、液体のアルコールがフィルムの表面から滲み出る。滲み出たアルコールは、フィルムがリップを移動する際に、フィルムが継続して圧縮されているため、フィルムから排出される。いっぽう、フィルムがリップを移動する際に、フィルムが継続して圧縮されているため、フィルムを構成するアグリゲートの集まりは、複雑に絡み合う。こうして、リップから押し出されたフィルムは、殆どのアルコールが排出され、複雑に絡み合ったアグリゲートの集まりで構成される。なお、排出されたアルコールは、回収機で回収し、再利用する。
この結果、一定の機械的強度で絡み合ったアグリゲートの集まりが、膜厚が1μm以上のフィルムとして形成される。なお、ペーストまたはフィルムが圧縮されるが、アグリゲートの一次粒子が極めて微細であるため、圧縮応力でアグリゲートは破壊しない。
この後、引き伸ばされたフィルムを巻き取り機で巻き取り、アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムを得る。
フィルムが、アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりで形成されるため、フィルムは、全光線透過率が0%である優れた遮光性と、熱放射率が0.95-0.97からなる優れた熱放射率を兼備する。また、フィルムは、カーボンブラックの導電性に基づく導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備する。
アグリゲートの集まりからなるフィルムは、次の作用効果を持つ。
第一に、アグリゲートの集まりがフィルムを構成するため、フィルムは全光線透過率が0%と小さく、優れた遮光性を持つ。従って、紫外線がフィルムに連続照射されてもフィルムは劣化しない。また、カーボンブラックの熱放射率が0.95―0.97と高く、フィルムは放熱薄膜として作用する。また、カーボンブラックの導電性に基づき、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備するフィルムとしても作用する。
第二に、フィルムの幅は、Tダイのマニホールドの形状とリップの形状で自在に変えられる。
第三に、フィルムの膜厚は、Tダイにおけるリップの間隙で自在に変えられる。
第四に、アグリゲートにおける一次粒子同士の結合力が大きくないため、アグリゲートが切断でき、作成したフィルムを、様々な大きさと様々な形状のフィルムに切断できる。
第五に、カーボンブラックは安価な工業用素材で、アルコールは最も汎用的な有機溶剤である。さらに、Tダイにおける処理は、押出形成の簡単な処理である。従って、安価な原料を用い、安価な加工費で安価なフィルムが形成できる。
第六に、アグリゲートの集まりからなるフィルムを安全に作成できる。つまり、Tダイでペーストを押出しするだけ処理で、カーボンブラックが粉塵として飛散せず、アルコールが気化する温度が、カーボンブラックの大気中での発火温度より350℃以上低いため、カーボンブラックは発火しない。
この結果、本発明のフィルムは、5段落に記載した課題を全て解決するフィルムである。
【0010】
6段落に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜が、アセチレンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜であり、該薄膜を形成する方法は、6段落に記載したカーボンブラックとしてアセチレンブラックを用い、6段落に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する方法に従って、該薄膜を形成する方法であり、
または、
8段落に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムが、アセチレンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムであり、該フィルムを形成する方法は、8段落に記載したカーボンブラックとしてアセチレンブラックを用い、8段落に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムを形成する方法に従って、該フィルムを形成する方法である。
【0011】
つまり、カーボンブラックは、カーボンブラックの製造方法によって、カーボンブラックの特徴が大きく変わり、製造方法の名称でカーボンブラックが分類されている。この製造方法によって、カーボンブラックの導電性が変わる。
ファーネスブラックは、油やガスを高温ガス中で不完全燃焼させて製造したカーボンブラックであり、燃焼させる原料により、オイルファーネスとガスファーネスとに細分化される。ファーネスブラックの中で、ケッチェンブラックは、原料として炭化水素からなるオイルを用い、オイルの不完全燃焼で、カーボンブラックを生成する。このケッチェンブラックは、カーボンブラックの中で、比表面積とDPB(ジブチルフタレート)の吸収量が最も大きく、導電性がアセチレンブラックに次いで高い。つまり、ケッチェンブラックは、ストラクチャーが円弧を描いて形成した中空体が存在するため、円弧状のストラクチャーを電子が移動することで、ケッチェンブラックの導電性が増える。
その他のカーボンブラックに、天然ガスを燃焼させ、チャンネル鋼に析出させたものを掻き集めたチャンネルブラックと、アセチレンガスを熱分解して得たアセチレンブラックと、蓄熱した炉の中でガスの燃焼と分解を繰り返して製造するサーマルブラックがある。
アセチレンブラックは、カーボンブラックの原料の中で、純度が最も高いアセチレンガスを使ってアセチレンブラックを生成するため、カーボンブラックの中で不純物が最も少なく、また、ストラクチャーと1次粒子とが最も発達している。このため、カーボンブラックの中で最も導電性が優れ、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の性能が、他のカーボンブラックより優れる。また、ストラクチャーと1次粒子とが最も発達しているため、アセチレンブラックのアグリゲートが絡まりやすく、一旦絡まったアグリゲートは、分離しにくい。従って、アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜は、一定の機械的強度を持つ。このため、アセチレンブラックは、6段落に記載した薄膜を構成するカーボンブラックに、また、8段落に記載したフィルムを構成するカーボンブラックに適している。なお、アセチレンブラックとして、例えば、嵩密度が0.04g/cmで、電気抵抗率が0.21Ω・cmからなる粉状品がある。
従って、カーボンブラックとしてアセチレンブラックを用い、6段落に記載した方法に従って、アセチレンブラックのアグリゲートの集まりからなる薄膜を形成すると、アセチレンブラックのアグリゲート同士が絡み合い、一定の機械的強度を持つ膜が形成できる。この薄膜は、アセチレンブラックの導電性に基づく導電性、電磁波シールド性、帯電防止、遮光性の機能を兼備する。
また、カーボンブラックとしてアセチレンブラックを用い、8段落に記載した方法に従って、アセチレンブラックのアグリゲートの集まりからなるフィルムを形成すると、アセチレンブラックのアグリゲート同士が絡み合い、一定の機械的強度を持つフィルムが形成できる。このフィルムは、アセチレンブラックの導電性に基づく導電性、電磁波シールド性、帯電防止、遮光性の機能を兼備する。
なお、銅の比抵抗は1.68×10―6Ω・cmであり、アセチレンブックの比抵抗を前記した0.21Ω・cmとし、銅の比導電率を1.0とした場合、アセチレンブラックの比導電率は、8×10―6になる。また、アセチレンブラックの比透磁率は1.0である。いっぽう、電磁波の反射損失の度合いは比導電率/比透磁率になり、電磁波の吸収損失の度合いは比導電率・比透磁率になる。従って、アセチレンブラックの電磁波の反射損失の度合いと電磁波の吸収損失の度合いとは、いずれも8×10―6になる。いっぽう、鉄の比導電率は0.17で、比透磁率は100である。このため、鉄の電磁波の反射損失の度合いは1.7×10―3で、電磁波の吸収損失の度合いは17である。従って、アセチレンブラックは、金属の電磁波のシールド性能に及ばない。
さらに、帯電防止の性能は、表面抵抗で表わせられる。アセチレンブラックからなる薄膜またはフィルムにおいて、試料の厚みが1μmである場合は、表面固有抵抗が2.1×10Ω/□である。また、試料の厚みが0.1μmである場合は、表面固有抵抗が2.1×10Ω/□である。従って、いずれの膜厚も帯電しにくいが、膜厚が薄いフィルムのほうが静電気を速やかに消散することができる。
【0012】
6段落に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜が、ケッチェンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜であり、該薄膜を形成する方法は、6段落に記載したカーボンブラックとしてケッチェンブラックを用い、6段落に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する方法に従って該薄膜を形成する方法であり、
または、
8段落に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムが、ケッチェンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムであり、該フィルムを形成する方法は、8段落に記載したカーボンブラックとしてケッチェンブラックを用い、8段落に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムを形成する方法に従って該フィルムを形成する方法である。
【0013】
つまり、カーボンブラックの中で、ケッチェンブラックは、一次粒子が最も小さく、単位質量当たりの一次粒子の数が最も多く、BET表面積が最も大きいため、カーボンブラックの中で、最も優れた遮光性を持つ。このため、カーボンブラックとしてケッチェンブラックを用いると、6段落に記載したアグリゲートの集まりからなる薄膜は、紫外線劣化防止の優れた薄膜として作用し、8段落に記載したアグリゲートの集まりからなるフィルムは、紫外線劣化防止の優れたフィルムとして作用する。さらに、ケッチェンブラックの熱放射率が0.97と高く、優れた放熱薄膜または放熱フィルムとして作用する。
すなわち、ケッチェンブラックは、一次粒子径が30-40nmからなり、このため、単位質量当たりの一次粒子の数は1×10個/gに及び、BET表面積が1270m/gにも及ぶ。従って、ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりからなる薄膜またはフィルムは、他のカーボンブラックのアグリゲートの集まりからなる薄膜またはフィルムより遮光性が優れる。
【0014】
6段落に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する方法が、6段落に記載したアルコールとして、20℃において2-5mPa・秒の粘度を有するアルコールを用いて前記薄膜を形成する方法であり、該薄膜を形成する方法は、
前記粘度を有するアルコールを6段落に記載したアルコール用い、6段落に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する方法に従って、該薄膜を形成する方法である。
【0015】
つまり、6段落に記載したアルコールとして、20℃において2-5mPa・秒の粘度を有するアルコールを用いると、アルコールが比較的低粘度であるため、アグリゲートの集まりにおけるアグリゲートとアルコールとの吸着力が弱い。このため、ステージを回転させると、アグリゲートの集まりが遠心力で膜状に引き伸ばされやすく、膜厚が薄い膜が容易に形成される。従って、ステージの大きさに応じて、ステージの回転速度を3000-5000rpmに速め、遠心力でアグリゲートの集まりを短時間で引き伸ばし、また、ステージの回転時間を20-30秒と長くすると、膜厚が0.1μm以上で、膜厚が均一なアグリゲートの集まりからなる薄膜を形成することができる。なお、2-5mPa・秒の粘度を有するアルコールの中で、低粘度のアルコールほど、膜厚が薄い薄膜の形成に適する。いっぽう、アルコールの粘度が2mPa・秒より低くなると、アグリゲートとアルコールとの吸着力が弱すぎるため、ステージを高速で回転させると、ステージから飛散するアグリゲートの量が増える。これに対し、アルコールの粘度が5mPa・秒より高くなると、アグリゲートとアルコールとの吸着力が強すぎるため、膜厚が均一な薄膜を形成することが難しくなる。従って、スピンコーターによって薄膜を形成するには、6段落に記載したアルコールとして、20℃において2-5mPa・秒の粘度を有するアルコールを用いるのが望ましい。
こうしたアルコールとして、20℃の粘度が1.9mPa・秒である1-プロパノールと、20℃の粘度が1.8mPa・秒である構造異性体の2-プロパノールがある。
また、20℃の粘度が3.0mPa・秒である1-ブタノールと、1-ブタノールの構造異性体がある。すなわち、20℃の粘度が3.9mPa・秒である2-ブタノールと、20℃の粘度が4.0mPa・秒である2-メチル-1-プロパノールと、20℃の粘度が3.4mPa・秒である2-メチル-2-プロパノールとがある。
さらに、20℃の粘度が3.3mPa・秒である1-ペンタノールと、1-ペンタノールの構造異性体がある。すなわち、20℃の粘度が3.5mPa・秒である2-ペンタノールと、20℃の粘度が3.8mPa・秒である2-メチル―2-ブタノールと、20℃の粘度が3.7mPa・秒である3-メチル―1-ブタノールと、20℃の粘度が5.1mPa・秒である2-メチル-1-ブタノールと、20℃の粘度が5.2mPa・秒である3-メチル-2-ブタノールと、20℃の粘度が3.8mPa・秒である2-メチル-2-ブタノールなどがある。
【0016】
8段落に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムを形成する方法が、8段落に記載したペーストを構成するアルコールとして、20℃において6-12mPa・秒の粘度を有するアルコールを用いて前記フィルムを形成する方法であり、該フィルムを形成する方法は、
前記粘度を有するアルコールを8段落に記載したペーストを構成するアルコールとして用い、8段落に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるフィルムを形成する方法に従って、該フィルムを形成する方法である。
【0017】
つまり、8段落に記載したペーストを構成するアルコールとして、20℃において6-12mPa・秒の粘度を有するアルコールを用いると、アルコールが一定の粘度を持つため、アルコールを介して、アグリゲート同士が一定の吸着力で吸着し、該アグリゲートの集まりがペーストを構成する。このため、ペーストをTダイに供給することができ、さらに、アグリゲート同士が一定の吸着力で吸着しているため、マニホールドに押し出されたペーストが切れることなく、フィルムの幅に引き延ばされる。これによって、膜厚が薄いフィルムが形成できる。すなわち、Tダイのリップにおける間隙を調整することで、膜厚が1μm以上で、膜厚が均一なアグリゲートの集まりからなるフィルムが形成できる。いっぽう、アルコールの粘度が6mPa・秒より低くなると、アグリゲートとアルコールとの吸着力が弱すぎるため、ペーストがTダイのマニホールドに押し出された際に、ペーストが切れやすくなり、フィルムの幅に引き延ばされにくくなる。これに対し、アルコールの粘度が12mPa・秒より高くなると、アグリゲートとアルコールとの吸着力が強すぎるため、ペーストは、マニホールドでフィルム形状の幅に引き伸ばされにくくなり、また、フィルムの長さ方向に引き伸ばされにくくなり、膜厚が薄いフィルムの形成が困難になる。
こうしたアルコールとして、20℃の粘度が6.5mPa・秒である3-ペンタノールと、20℃の粘度が7.3mPa・秒である1-オクタノールと、20℃の粘度が6.2mPa・秒である2-オクタノールと、20℃の粘度が10.6mPa・秒であるイソオクチルアルコールと、20℃の粘度が10.8mPa・秒である1-ノナノールと、20℃の粘度が9.8mPa・秒である2-エチルヘキサノールなどがある。
【0018】
6段落に記載した方法で形成した薄膜を用いて、または、8段落に記載した方法で形成したフィルムを用いて、基材または部品に前記薄膜または前記フィルムを接合する方法は、
6段落に記載した方法で形成した薄膜を、または、該薄膜を所定の形状に切断した該薄膜を、または、8段落に記載した方法で形成したフィルムを、または、該フィルムを所定の形状に切断した該フィルムを、基材または部品の予め決めた位置に配置し、該薄膜または該フィルムの表面の全体に圧縮荷重を加えて、該薄膜または該フィルムを圧縮し、該薄膜または該フィルムが前記基材または前記部品と接触する部位に摩擦熱を発生させ、該摩擦熱によって、前記薄膜または前記フィルムが前記基材または前記部品に接合する、6段落に記載した方法で形成した薄膜を、または、8段落に記載した方法で形成したフィルムを、基材または部品に接合する方法である。
【0019】
6段落に記載した方法で形成したアグリゲートの集まりからなる薄膜を、または、該薄膜を所定の形状に切断した薄膜を、基材または部品の予め決めた位置に配置させ、薄膜の全体に圧縮荷重を加えて圧縮すると、薄膜はアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるため、薄膜は僅かに弾性変形して、基材または部品の表面の凹凸の凸部と接触し、該接触部位に過大な摩擦熱が発生する。該摩擦熱によって、薄膜が基材または部品の表面に接合する。
同様に、8段落に記載した方法で形成したアグリゲートの集まりからなるフィルムを、または、該フィルムを所定の形状に切断したフィルムを、基材または部品の予め決めた位置に配置させ、フィルムの全体に圧縮荷重を加えて圧縮すると、フィルムはアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるため、フィルムは僅かに弾性変形して、基材または部品の表面の凹凸の凸部と接触し、接触部位に過大な摩擦熱が発生する。該摩擦熱によって、フィルムが基材または部品の表面に接合する。
つまり、基材または部品の表面の凹凸は、大きさがサブミクロンと小さいが、莫大な数からなる。これに対し、薄膜またはフィルムは、アグリゲートの集まりからなる薄膜またはフィルムであり、薄膜の膜厚またはフィルムの厚みは薄い。このため、基材または部品の表面に配置した薄膜またはフィルムを圧縮すると、薄膜またはフィルムを構成するアグリゲートの集まりが僅かに弾性変形し、薄膜またはフィルムが、基材または部品の表面の凹凸の凸部と接触する。この際、接触部位に過大な摩擦熱が瞬間的に発生する。この摩擦熱で、接触部位における薄膜またはフィルムが、基材または部品の表面の凹凸の凸部に接合する。接触部位の数が莫大な数で、接触部位の間隔が僅かな距離で、さらに、アグリゲートの集まりからなる薄膜またはフィルムが軽量であるため、薄膜またはフィルムが、基材または部品の表面に強固に接合する。なお、カーボンブラックの大気中での発火温度は500℃を超える。いっぽう、過大な摩擦熱は1秒より短い短時間で発生し、また、接触部位は極めて僅かな体積であるため、過大な摩擦熱は瞬間的に冷却する。このため、接触部位におけるアグリゲートの温度は、カーボンブラックの発火温度までは上昇しない。
また、瞬間的に発生する摩擦熱で、薄膜またはフィルムを、基材または部品の表面に接合するため、基材または部品が耐熱性の低い合成樹脂であっても、薄膜またはフィルムが、基材または部品の表面に接合する。
なお、薄膜またはフィルムは、アグリゲートの集まりで構成された、膜厚が薄い膜または厚みは薄いフィルムである。アグリゲートが10-100nmの大きさからなる炭素粒子同士が数珠状に結合した炭素粒子の集まりであり、炭素粒子同士の結合力が大きくないため、アグリゲートが切断でき、薄膜またはフィルムは任意の形状に切断できる。
この結果、優れた遮光性を持つ薄膜またはフィルムが、基材または部品の表面に形成される。また、優れた熱放射率を持つ薄膜またはフィルムが、基材または部品の表面に形成される。さらに、カーボンブラックの導電性に基づき、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備する薄膜およびフィルムが、基材または部品の表面に形成される。
【0020】
12段落に記載した方法で形成したフィルムに、ガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する方法は、
熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合して懸濁液を作成し、該懸濁液に12段落に記載した方法で形成したフィルムを浸漬し、該懸濁液を前記アルコールの粘度に応じた厚みで前記フィルムに吸着させ、該フィルムを前記懸濁液から引き上げる、この後、該懸濁液が吸着したフィルムを、前記金属化合物が熱分解する温度に昇温し、該金属化合物を熱分解させる、これによって、金属のナノ粒子の集まりが前記フィルムの表面全体に一斉に析出し、該金属のナノ粒子同士が互いに接触する部位で金属結合するとともに、該金属のナノ粒子の集まりが前記フィルムの表面全体に積層し、該積層した金属のナノ粒子の集まりからなる被膜が前記フィルムを覆い、該金属のナノ粒子の集まりからなる被膜が、前記フィルムにガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する、12段落に記載した方法で形成したフィルムに、ガスバリアー性金属の光沢性とを付与する方法。
【0021】
つまり、12段落に記載した方法で形成したフィルムは、アグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりで構成されるため、フィルムにガスバリアー性はない。すなわち、気体や水蒸気の大きさが0.3-0.5nmであるのに対し、アグリゲートは、10-100nmの大きさからなる炭素粒子同士が、不規則で複雑な形状で数珠つなぎした構造からなる。従って、アグリゲート同士が複雑に絡み合ったアグリゲートの集まりにおいては、大きさが0.3-0.5nm以上の孔が多数存在する。このため、12段落に記載した方法で形成したフィルムにガスバリアー性はない。
いっぽう、12段落に記載した方法で形成したフィルムに、ガスバリアー性が付与できれば、遮光性と熱放射性とガスバリアー性とを兼備するフィルムになる。また、12段落に記載した方法で形成したフィルムは、カーボンブラックの色彩が反映され、黒みがかったフィルムであり、見栄えが良くない。このため、積層した金属のナノ粒子の集まりで、フィルムの表面全体を覆えば、金属のナノ粒子の集まりが、フィルムにガスバリアー性をもたらすとともに、金属の光沢をもたらす。この結果、12段落に記載した方法で形成したフィルムは、金属の光沢を持つとともに、遮光性と熱放射性とガスバリアー性とを兼備するフィルムになる。
こうした考えを、以下の方法で実現させた。すなわち、熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm程度の大きさからなる微細結晶を、アルコールに混合した懸濁液を作成する。該懸濁液にフィルムを浸漬すると、懸濁液を構成するアルコールの粘度に応じた厚みで、懸濁液がフィルムに吸着する。この後、フィルムを懸濁液から取り上げ、フィルムを金属化合物が熱分解する温度に昇温する。これによって、金属化合物の20nm程度の大きさからなる微細結晶が熱分解し、10nm程度の大きさからなる粒状の金属のナノ粒子の集まりが、フィルムの表面に一斉に析出する。金属のナノ粒子の集まりが一斉に析出する際に、金属のナノ粒子は不純物を含まず、活性状態で析出するため、互いに接触する部位で金属のナノ粒子が金属結合するとともに、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、フィルムの表面全体に積層し、フィルムの表面全体を覆う。この結果、金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、ガスバリアー性と金属の光沢性をフィルムに付与する。
つまり、10nm程度の大きさからなる粒状の金属のナノ粒子の集まりが、互いに接触する部位で金属結合した金属のナノ粒子の集まりは、隣接する金属のナノ粒子に、1-2nmの空隙を多数形成する。いっぽう、金属化合物が熱分解すると、金属のナノ粒子の集まりが一斉に析出し、金属のナノ粒子がランダムに積層するとともに、互いに接触する部位で金属のナノ粒子同士が金属結合する。従って、金属結合した金属のナノ粒子の集まりにおける空隙は、金属結合した金属のナノ粒子の集まりの積層数が増えると、金属結合した金属のナノ粒子の集まりを貫通する空隙は、ランダムに積層した金属のナノ粒子の集まりで塞がれる。実験によれば、金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、20層近くまでランダムに積層すると、金属結合した金属のナノ粒子の集まりを、大気、窒素ガス、水蒸気が透過しないことが分かった。このため、10nm程度の大きさからなる粒状の金属のナノ粒子の集まりを、20層近くまで積層した金属のナノ粒子の集まりで、12段落に記載した方法で形成したフィルムの表面全体を覆った。これによって、12段落に記載した方法で形成したフィルムは、金属の光沢を持つとともに、遮光性と熱放射性とガスバリアー性とを兼備する。
【0022】
20段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法は、
メタノールに分散するが、メタノールに溶解しない第一の性質と、熱分解で金属を析出する第二の性質を兼備する金属化合物をメタノールに分散し、該金属化合物のメタノール分散液を作成し、さらに、該金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化させ、該金属化合物の微細結晶の集まりを析出させる、この後、該金属化合物の微細結晶の集まりを容器に充填し、該容器内の金属化合物の微細結晶の集まりの表面全体を覆う板材を、該金属化合物の微細結晶の集まりの上に被せる、さらに、該板材の表面全体に圧縮荷重を加え、前記容器内の金属化合物の微細結晶の集まりを破砕する、さらに、前記容器に前後、左右、上下の3方向の衝撃加速度を繰り返し加え、該容器内の前記破砕された金属化合物の微細結晶の集まりを再配列させる、この後、前記板材の表面全体に再度前記圧縮荷重を加え、さらに、前記容器に前記3方向の衝撃加速度を再度くり返し加える、こうした前記圧縮荷重を加える処理と前記衝撃加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、前記板材に前記圧縮荷重を加えた際に、該板材からの反発力が増加した時点で、前記一対の処理を停止し、前記容器内に前記金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりを作成する、この後、前記板材を前記容器から取り出し、さらに、前記容器に、20℃における粘度が4-7mPa・秒であるアルコールを、前記容器内の前記金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりの重量より多い重量として充填し、該アルコールを攪拌し、前記容器内に前記金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりを前記アルコールに混合した懸濁液を作成する、20段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法。
【0023】
次の4つの極めて簡単な処理を連続して実施すると、容器内に、金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりを、20℃における粘度が4-7mPa・秒であるアルコールに混合した懸濁液が作成される。
第一に、熱分解で金属を析出する金属化合物をメタノールに分散させ、金属化合物が分子状態となってメタノールに分散する。なお、金属化合物がメタノールに溶解すると、金属化合物を構成する金属が金属イオンとなってメタノール中に溶出し、溶解した金属化合物は、溶解前の金属化合物に戻ることができない。このため、メタノール溶解液からメタノールを気化させると、溶解前の金属化合物の結晶が析出しない。従って、メタノールに溶解せず分散する金属化合物を用いる。
第二に、金属化合物のメタノール分散液からメタノールを気化し、100nmより小さい金属化合物の微細結晶の集まりを析出させる。つまり、金属化合物のメタノール分散液において、金属化合物が分子状態となってメタノールに均一に分散しため、メタノールを気化させると、分散前の金属化合物が、100nmより小さい粒状の微細結晶として析出する。この微細結晶は、分子状態でメタノール中に分散した金属化合物が、微細結晶として析出したため、金属化合物の単分子が形成する結晶が集積した結晶の集まりからなる。従って、微細結晶に応力を加えると、微細結晶が容易に破砕し、さらに微細な結晶になる。しかし、結晶が微細になるほど、結晶に応力を加えることが難しくなり、結晶の微細化には限界がある。なお、気化したメタノールは回収機で回収し、再利用する。
第三に、20nm前後の大きさからなる金属化合物の微細結晶の集まりを作成する。このため、容器内に、第二の処理で作成した粒状の微細結晶の集まりを充填し、板材を容器内の粒状の金属化合物の微細結晶の集まりに被せ、板材を介して圧縮荷重を加える。この際、微細結晶の大きさが相対的に大きい微細結晶ほど破砕されやすい。このため、相対的に大きい微細結晶が優先して破砕され、圧縮荷重が加えられている間は、微細結晶の破砕が進む。いっぽう、微細結晶の破砕によって空隙が形成され、圧縮荷重が加えられている間は、空隙を埋めるように微細結晶が移動する。微細結晶が均一な微細結晶に微細化されるように、印加する圧縮荷重を停止し、この後、容器に前後、左右、上下の3方向の衝撃加速度を繰り返し加える。これによって、微細結晶は、板材で容器内に拘束されているため飛散せず、空隙を埋めるように微細結晶が移動するとともに、微細結晶の集まりが容器内で再配列する。微細結晶が再配列すると、空隙が微細結晶で埋められ、こうした微細結晶の集まりを破砕すると、微細結晶の均一な微細化が進む。このため、印加する衝撃加速度を停止した後に、再度、板材を介して微細結晶の集まりに圧縮荷重を加える。この際、より微細になった結晶の集まりに対し、微細結晶の破砕が進む。この後、再度、容器に3方向の衝撃加速度を繰り返し加え、微細になった結晶の集まりの再配列を進める。こうした圧縮荷重を加える処理と、3方向の衝撃加速度を繰り返し加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、微細結晶の均一な微細化を進める。いっぽう、結晶が微細になるほど、圧縮荷重を加えも、結晶に応力を加えることが難しくなり、結晶の微細化には限界がある。結晶の微細化が限界になると、板材に圧縮荷重を加えても、結晶の破砕が行われず、板材に反発力が増加する。この時点で、一対の処理を停止する。この結果、微細結晶の大きさは、析出した時点の大きさに比べ、1/5に近い20nm前後まで小さくなる。なお、板材に加える圧縮荷重は、容器の大きさに応じて、1-10kg重に相当する圧縮荷重を加える。また、容器に加える衝撃加速度は、容器の大きさに応じて、0.3-0.5Gの衝撃加速度を加える。
第四に、20℃における粘度が4-7mPa・秒であるアルコールを、容器内の金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりの重量より多い重量として容器に充填し、該アルコールを攪拌すると、20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりをアルコールに混合した懸濁液が、容器内に作成される。なお、前記粘度を有するアルコールの重量を、微細結晶の集まりの重量より多い重量とし加え、懸濁液における微細結晶の混合性を高めた。
すなわち、20℃における粘度が4-7mPa・秒であるアルコールとして、炭素原子の数が5個からなるペンチルアルコールがあり、8種類の構造異性体のうち、下記5種類のペンチルアルコールが、20℃における粘度が4-7mPa・秒である。3-メチル-1-ブタノールは、示性式が(CHCH(CHOHからなり、沸点が131℃で20℃での粘度が4.3mPa・秒である。2-ペンタノールは、示性式がCH(CHCHOHCHからなり、沸点が119℃で、20℃での粘度が4.1mPa・秒である。3-ペンタノールは、示性式がCHCHCH(OH)CHCHからなり、沸点が115℃で20℃での粘度が6.5mPa・秒である。2-メチル-1-ブタノールは、示性式がCHCHCH(CH)CHOHからなり、沸点が128℃で、20℃での粘度が5.1mPa・秒である。2-メチル-2-ブタノールは、示性式がCHCHC(CHOHからなり、沸点が103℃で、20℃での粘度が4.3mPa・秒である。
また、イソブチルアルコールは、示性式が(CHCHCHOHであり、沸点が107℃で、20℃での粘度が4.0mPa・秒である。2-ブタノールは、示性式がCHCHCH(OH)CHからなり、沸点が100℃で、20℃での粘度が3.9mPa・秒である。さらに、4-メチル-2-ペンタノールは、示性式が(CHCHCHCH(OH)CHからなり、沸点が132℃で、20℃における粘度が5.2mPa・秒である。
これら20℃における粘度が4-7mPa・秒であるアルコールは、次の3つの性質を持ち、これら3つの性質が、懸濁液に優れた作用効果をもたらす。
第一の性質は、熱分解で金属を析出する金属化合物は、アルコールに分散せず、溶解もしない。つまり、金属化合物は、炭素原子数が1個のメタノールに対し10重量%近くの割合で分散し、金属化合物が分子状態になって、メタノールに分散する。いっぽう、アルコールの鎖が長くなるほど、つまり、炭素原子の数が増えるほど、金属化合物のアルコールへの分散割合が減り、前記した粘度を有するアルコールに、金属化合物は分散しない。また、金属化合物は、前記した粘度を有するアルコールに溶解しない。このため、金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりに、前記した粘度を有するアルコールを混合し、さらに、該アルコールを攪拌すると、金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりが、微細結晶の状態で前記した粘度を有するアルコールに混合した懸濁液が作成される。
第二の性質は、沸点が103-132℃であり、金属化合物の熱分解温度より低い。このため、懸濁液を昇温し、アルコールの沸点に到達すると、アルコールが気化し、金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶の集まりが積層して析出する。さらに、金属化合物が熱分解する温度に到達すると、20nm前後の大きさからなる微細結晶が、無機物の分子ないしは有機物の分子と金属分子とに分解し、無機物の分子ないしは有機物の分子が気化熱を奪って気化し、気化が完了すると、金属分子の集まりが10nm前後の大きさからなる金属微粒子を形成し、該金属微粒子が一斉に析出し、金属微粒子の集まりが積層する。金属微粒子は不純物を含まず、活性状態で析出するため、隣接する金属微粒子同士が互いに接触し、隣接する金属微粒子同士が接触部で金属結合し、金属結合した金属微粒子の集まりが積層する。
第三の性質は、メタノールの粘度の6.6-11.0倍に相当する3.9-6.5mPa・秒の粘度を持つ。いっぽう、20nm前後の大きさからなる結晶は、微細で質量を殆ど持たない。このため、懸濁液の性質は、液体であるアルコールの性質が優勢になる。従って、懸濁液においては、アルコールの粘度によって、20nm前後の大きさからなる結晶にアルコールが吸着する。このため、12段落に記載した方法で形成したフィルムを懸濁液に浸漬し、フィルムを懸濁液から取り上げると、アルコールの粘度に応じた厚みでフィルムに懸濁液が吸着する。従って、アルコールの粘度に応じて、懸濁液におけるアルコールの混合割合を変えると、1μm前後の厚みの懸濁液からなる吸着膜がフィルムに形成される。この吸着膜は、微細結晶がアルコールから分離せず、作成時の懸濁液と同様の微細結晶がアルコールに分散した構成からなる。
いっぽう、12段落に記載した方法で形成したフィルムに、1μm前後の厚みの懸濁液が吸着した該フィルムを、金属化合物の熱分解温度に昇温すると、フィルムの表面に、10nm前後の大きさからなる粒状の金属のナノ粒子の集まりが一斉に析出し、互いに接触する部位で金属のナノ粒子同士が金属結合し、該金属結合した金属のナノ粒子の集まりが、20層近く積層した金属のナノ粒子の集まりからなる被膜でフィルムが覆われる。これによって、フィルムにガスバリアー性と金属の光沢性が付与される。
以上に説明したように、20℃における粘度が4-7mPa・秒であるアルコールは、優れた3つの性質を発揮して、熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶が、アルコールに分散した懸濁液を形成する。
また、懸濁液は、前記した極めて簡単な4つの処理を連続して実施することで作成される。さらに、金属化合物とアルコールとは汎用的な工業用の薬品である。このため、安価な費用で安価な懸濁液が作成される。
【0024】
20段落に記載した12段落に記載した方法で形成したフィルムにガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する方法は、20段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、無機物の分子ないしは無機物のイオンが金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物であり、該無機金属化合物を、20段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、20段落に記載した12段落に記載した方法で形成したフィルムにガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する方法に従って、該フィルムにガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する方法であり、
または、
22段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法は、22段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、無機物の分子ないしは無機物のイオンが金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物であり、該無機金属化合物を、20段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、22段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法に従って、該懸濁液を作成する、22段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法である。
【0025】
つまり、無機物からなる分子ないしは無機物からなるイオンが配位子となって、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物を、還元雰囲気で熱処理すると、最初に配位結合部が分断され、無機物と金属とに分解する。さらに昇温すると、無機物が気化熱を奪って気化し、180-220℃の温度範囲で無機物の気化が完了して金属が析出する。
つまり、無機金属化合物を構成するイオンの中で、分子の中央に位置する金属イオンが最も大きく、金属イオンと配位子との距離が最も長い。この無機金属化合物を還元雰囲気で熱処理すると、金属イオンが配位子と結合する配位結合部が最初に分断され、金属と無機物とに分解する。さらに温度が上がると、無機物が気化熱を奪って気化し、無機物の気化が完了すると金属が析出し、熱分解を終える。金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解で金属が析出する温度の中で最も低い。また、金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物は、メタノールに10重量%近く分散し、メタノールに溶解しない。このため、金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物は、20段落および22段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用いることができる。
すなわち、無機物からなる分子ないしは無機物からなるイオンが配位子になって、金属イオンに配位結合する金属錯イオンは、他の金属錯イオンに比べて合成が容易である。このような金属錯イオンとして、アンモニアNHが配位子となって金属イオンに配位結合するアンミン金属錯イオン、水HOが配位子となって金属イオンに配位結合するアクア金属錯イオン、水酸基OHが配位子となって金属イオンに配位結合するヒドロキソ金属錯イオン、塩素イオンClが、ないしは塩素イオンClとアンモニアNHとが配位子となって金属イオンに配位結合するクロロ金属錯イオンなどがある。さらに、このような金属錯イオンを有する塩化物、硫酸塩、硝酸塩などの無機塩からなる無機金属化合物は、合成が容易で、無機塩の分子量が小さいため、180-220℃の温度範囲で無機物の気化が完了し金属を析出する。この金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解で金属を析出する温度の中で最も低い。こうした無機金属化合物は、汎用的な工業用の薬品である。
【0026】
20段落に記載した12段落に記載した方法で形成したフィルムにガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する方法は、20段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、オクチル酸金属化合物であり、該オクチル酸金属化合物を、20段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、20段落に記載した12段落に記載した方法で形成したフィルムにガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する方法に従って、該フィルムにガスバリアー性と金属の光沢性とを付与する方法であり、
または、
22段落に記載した記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法は、22段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、オクチル酸金属化合物であり、該オクチル酸金属化合物を、22段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、22段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法に従って、該懸濁液を作成する、22段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物の20nm前後の大きさからなる微細結晶をアルコールに混合した懸濁液を作成する方法である。
【0027】
つまり、オクチル酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合するオクチル酸金属化合物は、金属イオンが最も大きいイオンであり、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの距離が、他のイオン同士の距離より長い。こうした分子構造上の特徴を持つオクチル酸金属化合物を、大気雰囲気で熱処理すると、オクチル酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が最初に分断され、オクチル酸と金属とに分離する。オクチル酸が飽和脂肪酸から構成され、炭素原子が水素原子に対して過剰となる不飽和構造を持たないため、オクチル酸が気化熱を奪って気化し、気化が完了すると金属が析出する。また、オクチル酸金属化合物は、メタノールに10重量%前後まで分散し、メタノールに溶解しない。このため、オクチル酸金属化合物は、20段落および22段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用いることができる。
なお、オクチル酸金属化合物は、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物に属する有機金属化合物である。これら2つの特徴を兼備するカルボン酸金属化合物である。いっぽう、オクチル酸が分岐構造からなり、直鎖が短く、オクチル酸の沸点は228℃と最も低い。このため、大気雰囲気の290℃で熱分解が完了し、金属を析出する。いっぽう、2つの特徴を兼備するカルボン酸金属化合物として、オクチル酸金属化合物の他に、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物などがある。ラウリン酸とステアリン酸とは何れも直鎖構造であるため、ラウリン酸の沸点は296℃で、ステアリン酸の沸点は376℃であり、オクチル酸の沸点より高い。このため、熱分解が完了して金属を析出する温度は、オクチル酸金属化合物より高い。従って、オクチル酸金属化合物は、有機金属化合物の中で最も低い熱分解温度で金属を析出する。
つまり、オクチル酸は、分岐構造の飽和脂肪酸であり、示性式がCH(CHCH(C)COOHで示され、CHでCH(CHとCとのアルカンに分岐され、CHにカルボキシル基COOHが結合する。分岐構造の飽和脂肪酸は、直鎖構造の飽和脂肪酸より鎖の長さが短く、沸点が228℃と低い。これに対し、ラウリン酸とステアリン酸は、直鎖構造の飽和脂肪酸であり、沸点が分岐構造の飽和脂肪酸より高い。
なお、オクチル酸とカプリル酸(オクタン酸とも言う)とは、同一の分子式C16であるが、分子構造が異なる異性体である。つまり、オクチル酸は前記したように分岐構造を持つ脂肪酸である。いっぽう、カプリル酸は直鎖構造を持つ脂肪酸で、示性式はCH(CHCOOHである。従って、オクチル酸金属化合物とカプリル酸金属化合物とは、同一の分子式であるが、オクチル酸とカプリル酸とが分子構造が異なるため、オクチル酸金属化合物とカプリル酸金属化合物とは分子構造が異なる。すなわち、カプリル酸金属化合物は、カプリル酸が電離して生じるアニオンであるカルボキシラートアニオンに、金属イオンが配位結合する。このため、カプリル酸金属化合物は、大気雰囲気での熱分解で金属酸化物を析出する。つまり、カプリル酸金属化合物は、最も大きいイオンである金属イオンにカルボキシラートイオンが近づいて配位結合するため、金属イオンと、カルボキシラートイオンを構成する酸素イオンとの距離は短くなる。これによって、酸素イオンが金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの距離が最も長くなる。こうした分子構造を持つカプリル酸金属化合物は、カプリル酸の沸点を超えると、酸素イオンが金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの結合部が分断され、金属イオンと酸素イオンとの化合物である金属酸化物とカプリル酸とに分解する。さらに昇温すると、カプリル酸が気化熱を奪って気化し、カプリル酸の気化が完了した直後に、金属酸化物が析出する。
また、オクチル酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、最も汎用的な有機酸であるオクチル酸を、強アルカリと反応させるとオクチル酸アルカリ金属化合物が生成され、オクチル酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、様々な金属からなるオクチル酸金属化合物が合成される。従って、オクチル酸金属化合物は、最も安価な有機金属化合物である。このため、24-25段落で説明した無機金属化合物より熱処理温度が高いが、無機金属化合物より安価な有機金属化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】フィルムの切断面を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
実施例1
実施例1では、カーボンブラックとしてアセチレンブラックを用い、アセチレンブラックのアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりからなる薄膜を形成する。
最初に、アセチレンブラック(デンカ株式会社の製品Li-100)の20gと、1-プロパノール(林純薬工業株式会社の製品)の25gを容器に充填し、1-プロパノールを攪拌して、アセチレンブラックを1-プロパノールに浸漬させた。なお、アセチレンブラックは、平均粒径が35nmで、比表面積が68m/gで、ヨウ素吸着量が92mg/gからなる一次粒子で構成される。また、アセチレンブラックは、嵩密度が0.04g/mlで、電気抵抗率が0.21Ω・cmで、カーボンブラックの中で導電性が最も優れる。いっぽう、1-プロパノールは、沸点が97℃で、20℃の粘度が1.9mPa・秒である。
この後、容器に超音波ホモジナイザー(ヤマト科学株式会社の製品LUH150)を容器内の1-プロパノール中で稼働し、20kHzの超音波信号を5分間加え、アグリゲートの集まりが1-プロパノールに分散したペーストを作成した。
さらに、作成したペーストの1mgを、スピンコーター(株式会社あすみ技研の製品ASC200)に固定したステージの上に滴下し、スピンコーターの回転速度を3500rpmまで上げ、15秒間回転させた。この後、スピンコーターからステージを取り外し、ステージを100℃まで昇温し、ステージに形成された薄膜から1-プロパノールを気化させた。さらに、ステージの上にアルミニウムの板を被せ、アルミニウムの板に1kgの重りを載せた。この後、ステージの裏面の3か所に、上下方向の0.2Gから衝撃加速度を3回繰り返し加え、ステージから黒みがかった薄膜を引きはがした。この際、薄膜は破損しなかったため、薄膜は一定の機械的強度を持つ。
なお、用いるステージの大きさと、ステージに滴下するペーストの量によって、薄膜の大きさと膜厚が自在に変えられる。
この後、作成した薄膜を、10cm×10cmの大きさに切断した。
次に、切断した試料を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社が所有する極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100ボルトからの極低加速電圧による表面観察が可能で、導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる。
最初に、試料の切断面の観測結果から、試料の厚みは1μmであった。さらに、試料の表面の複数個所からの反射電子線について、900-1000ボルトの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡で黒みがかった物質の材質を分析した。濃淡が認められなかったので、単一原子から構成されていることが分かった。さらに、表面の複数個所からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、黒みがかった物質を構成する元素の種類を分析した。黒みがかった物質は炭素原子のみで構成されていた。
以上の観察結果から、作成した薄膜は、アセチレンブラックのアグリゲートの集まりが1μm前後の厚みで薄膜を形成した。従って、作成した薄膜は、アセチレンブラックの性質に基づく優れた遮光性と優れた熱放射性とを兼備する。
次に、作成した薄膜の表面の複数個所の表面抵抗を、表面抵抗計によって測定した(例えば、シムコジャパン株式会社の表面抵抗計ST-4)。表面抵抗率は1.0Ωであったため、板はアセチレンブラックの抵抗率0.21Ω・cmに近い抵抗を有した。このため、
作成した薄膜は、アセチレンブラックの抵抗率に基づき、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備する薄膜としても作用する。
【0030】
実施例2
実施例2では、カーボンブラックとしてケッチェンブラックを用い、ケッチェンブラックのアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりからなるフィルムを形成する。
最初に、ケッチェンブラック(ライオン株式会社の製品EC600JD)の20gと、2-エチルヘキサノール(三菱ケミカル株式会社の製品)の25gを容器に充填し、2-エチルヘキサノールを攪拌して、ケッチェンブラックを2-エチルヘキサノールに浸漬させた。
なお、ケッチェンブラックは、平均粒子径が34nmと小さく、比表面積が1270m/gと大きく、優れた遮光性を示す。また、ケチェンブラックの粒子間の空隙を満たすに要するフタル酸ジブチルの量が495cm/100gと大きく、粒子の繋がりと粒子の凝集の程度が大きく、これによって、ケッチェンブラックのアグリゲートの絡み合いが進み、フィルムの機械的強度が増える。いっぽう、2-エチルヘキサノールは、沸点が184℃で、20℃の粘度が9.8mPa・秒である。
この後、容器に超音波ホモジナイザー(ヤマト科学株式会社の製品LUH150)を容器内の2-エチルヘキサノール中で稼働し、20kHzの超音波信号を5分間加え、アグリゲートの集まりが2-エチルヘキサノールに分散したペーストを作成した。
さらに、作成したペーストを、Tダイ(Bax株式会社が所有する設備)を用いて、150mmの幅で、10μmの厚みのフィルムを成形した。
次に、作成したフィルムを切断し、切断した試料を実施例1で用いた電子顕微鏡で観察した。試料の厚みは10μmであった。試料の表面の複数個所からの反射電子線について、900-1000ボルトの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡で黒みがかった物質の材質を分析した。濃淡が認められなかったので、単一原子から構成されていることが分かった。さらに、表面の複数個所からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、黒みがかった物質を構成する元素の種類を分析した。黒みがかった物質は炭素原子のみで構成されていた。
以上の観察結果から、ケチェンブラックのアグリゲートの集まりが、10μm前後の厚みでフィルムを形成した。従って、作成したフィルムは、ケチェンブラックの性質に基づく優れた遮光性と優れた熱放射性とを兼備する。
なお、フィルムの幅と厚みとは、Tダイにおけるリップの設定幅と設定間隙によって自在に変えられる。
さらに、切断したフィルムの遮光性を、JIS-L-1055A法に基づいて測定した結果、99.99%の遮光率であり、優れた遮光フィルムであることが分かった。
また、切断したフィルムの熱放射率を、フーリエ変換赤外分光光度計と放射測定ユニットからなる分析器(株式会社コベルコ科研が所有する設備)で測定した結果、熱放射率が0.97と高く、優れた放熱フィルムであることが分かった。
【0031】
実施例3
実施例3では、銀のナノ粒子の集まりが積層した被膜で、実施例2で作成したフィルムを覆う。
熱分解で銀を析出する金属化合物として、アンモニアが銀イオンに配位結合した銀錯イオンを有する無機金属化合物であるジアンミン銀塩化物[Ag(NH]Cl(田中貴金属工業株式会社の製品)を用いた。また、ジアンミン銀塩化物の微細結晶を混合させるアルコールとして、2-メチル-1-ブタノール(林純薬工業株式会社の製品)を用いた。2-メチル-1-ブタノールは、沸点が128℃で、20℃での粘度が5.1mPa・秒である。
最初に、ジアンミン銀塩化物の18g(0.1モルに相当する)と、180gのメタノールを容器に充填し、メタノールを攪拌し、ジアンミン銀塩化物をメタノールに分散させた。この後、容器を65℃に昇温し、メタノールを気化させ、ジアンミン銀塩化物の結晶を析出させた。さらに、容器内のジアンミン銀塩化物の結晶の全体を覆う板材を、ジアンミン銀塩化物の結晶の集まりに被せ、板材に1kgの重りを載せた。重りを取り除いた後に、容器の底面と側面とに、上下、前後、左右の3方向の0.3Gからなる衝撃加速度を3回ずつ加えた。こうして、圧縮荷重と衝撃加速度とを、ジアンミン銀塩化物の結晶の集まりに各々5回ずつ加えた。この後、再度、板材に重りを載せたが、板材に動きが全く見られなかったため、ジアンミン銀塩化物の結晶の破砕が完了したと考えた。この後、板材を取り出し、容器に20gの2-メチル-1-ブタノールを充填し、2-メチル-1-ブタノールを攪拌し、2-メチル-1-ブタノールに、ジアンミン銀塩化物の微細結晶の集まりを混合した。
さらに、実施例2で作成したフィルムを3枚の小片に切断し、ジアンミン銀塩化物の微細結晶の集まりが2-メチル-1-ブタノールに混合した混合液に、切断した3枚のフィルムを浸漬させ、この後、切断した3枚のフィルムを取り出した。
切断した3枚のフィルムを、水素雰囲気の熱処理装置に配置し、180℃に5分間放置して、切断した3枚のフィルムを熱処理装置から取り出した。さらに、1枚のフィルムを切断した。
この後、実施例1で用いた電子顕微鏡によって、フィルムの表面と切断面とを観察した。最初に、フィルムの表面からの反射電子線について、900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。フィルムの表面は、10nm前後の大きさからなる粒状の微粒子の集まりで覆われていた。さらに、フィルムの表面からの反射電子線の900-1000ボルトの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡で粒状微粒子の材質を分析した。濃淡が認められなかったので、単一原子から構成されていることが分かった。さらに、表面の複数個所からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒状微粒子を構成する元素の種類を分析した。粒状微粒子は銀原子のみで構成されていた。以上の結果から、フィルムは、10nm前後の大きさからなる銀のナノ粒子で覆われた。
さらに、フィルムの切断面を顕微鏡で観察した。フィルムは、炭素原子のみからなる物質の上に、銀のナノ粒子が20層前後積み重なっていた。この結果から、フィルムは、実施例2において、ケチェンブラックのアグリゲートの集まりが10μm前後の厚みで形成したフィルムに、10nm前後の大きさからなる銀のナノ粒子が、20層前後積み重なってフィルムを覆った。図1に、フィルムの切断面を模式的に示す。1はケチェンブラックのアグリゲートの集まりで、2は10nm前後の大きさからなる銀のナノ粒子の集まりである。
次に、銀のナノ粒子の集まりで覆ったフィルムのガスバリアー性を、JIS K 7126-1に記載されたガス透過度試験方法に基づき、差圧式ガスクロマトグラフ法で測定した(株式会社DJKが所有する分析装置)。20℃、湿度が65%の環境下において、二酸化炭素ガスにかかわるガス透過度は110(ml/md・MPa)であり、酸素ガスにかかわるガス透過度は60(ml/md・MPa)であり、窒素ガスにかかわるガス透過度は10(ml/md・MPa)であった。また、水蒸気透過度は2-3(g/m・d)であった。
これらの結果は、プラスチックフィルとして最もガスの遮断性能が優れる、二軸延伸ポリプロピレンフィルムにポリ塩化ビニリデンをコーティングしたフィルムより、ガスの遮断性能が優れる。従って、10nm前後の大きさからなる銀のナノ粒子が20層前後積み重なって、フィルムを覆うと、優れたガスバリアー性がフィルムに付与される。また、フィルムの表面は銀の光沢をもった。
なお、金属のナノ粒子は、銀に限定されることはない。25段落で説明したように、無機物の分子ないしは無機物のイオンが金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物を用いることで、様々な材質からなる金属のナノ粒子の集まりによって、フィルムを覆うことができる。
【0032】
実施例4
実施例4では、アルミニウムのナノ粒子の集まりが積層した被膜で、実施例2で作成したフィルムを覆う。
熱分解でアルミニウムを析出する金属化合物として、オクチル酸アルミニウムAl(C15COO)(富士フィルム和光純薬株式会社の製品)を用いた。オクチル酸アルミニウムの微細結晶を混合させるアルコールは、実施例3で用いた2-メチル-1-ブタノールである。
最初に、オクチル酸アルミニウムの33g(0.1モルに相当する)と、330gのメタノールを容器に充填し、メタノールを攪拌し、オクチル酸アルミニウムをメタノールに分散させた。この後、容器を65℃に昇温し、メタノールを気化させ、オクチル酸アルミニウムの結晶を析出させた。さらに、容器内のオクチル酸アルミニウムの結晶の全体を覆う板材を、オクチル酸アルミニウムの結晶の集まりに被せ、板材に1kgの重りを載せた。重りを取り除いた後に、容器の底面と側面とに、上下、前後、左右の3方向の0.3Gからなる衝撃加速度を3回ずつ加えた。こうして、圧縮荷重と衝撃加速度とを、オクチル酸アルミニウムの結晶の集まりに各々5回ずつ加えた。この後、再度、板材に重りを載せたが、板材に動きが全く見られなかったため、オクチル酸アルミニウムの結晶の破砕が完了したと考えた。この後、板材を取り出し、容器に35gの2-メチル-1-ブタノールを充填し、2-メチル-1-ブタノールを攪拌し、2-メチル-1-ブタノールに、オクチル酸アルミニウムの微細結晶の集まりを混合した。
さらに、実施例2で作成したフィルムを3枚の小片に切断し、オクチル酸アルミニウムの微細結晶の集まりが2-メチル-1-ブタノールに混合した混合液に、切断した3枚のフィルムを浸漬させ、この後、切断した3枚のフィルムを取り出した。
切断した3枚のフィルムを、大気雰囲気の熱処理装置に配置し、290℃に1分間放置し、切断した3枚のフィルムを熱処理装置から取り出した。さらに、1枚のフィルムを切断した。
この後、実施例3と同様に、電子顕微鏡によって、フィルムの表面と切断面とを観察した。フィルムは、実施例2において、ケチェンブラックのアグリゲートの集まりが10μm前後の厚みで形成したフィルムに、10nm前後の大きさからなるアルミニウムのナノ粒子が20層前後積み重なってフィルムを覆っていた。
次に、アルミニウムのナノ粒子の集まりで覆ったフィルムのガスバリアー性を、実施例3と同様に、JIS K 7126-1に記載されたガス透過度試験方法に基づき、差圧式ガスクロマトグラフ法で測定した。20℃、湿度が65%の環境下において、二酸化炭素ガスにかかわるガス透過度は100(ml/md・MPa)であり、酸素ガスにかかわるガス透過度は50(ml/md・MPa)であり、窒素ガスにかかわるガス透過度は10(ml/md・MPa)であった。また、水蒸気透過度は2-3(g/m・d)であった。
これらの結果は、実施例3と同様に、二軸延伸ポリプロピレンフィルムにポリ塩化ビニリデンをコーティングしたフィルムより、ガスの遮断性能が優れる。従って、10nm前後の大きさからなるアルミニウムのナノ粒子が20層前後積み重なって、フィルムを覆うと、優れたガスバリアー性がフィルムに付与される。また、フィルムの表面はアルミニウムの光沢をもった。
なお、金属のナノ粒子は、アルミニウムに限定されることはない。27段落で説明したように、オクチル酸金属化合物を用いることで、様々な材質からなる金属のナノ粒子の集まりによって、フィルムを覆うことができる。
【符号の説明】
【0033】
1 ケチェンブラックのアグリゲートの集まり 2 銀のナノ粒子の集まり
図1