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特開2022-164940有刻印ダイヤモンド結晶体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164940
(43)【公開日】2022-10-28
(54)【発明の名称】有刻印ダイヤモンド結晶体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20221021BHJP
   A44C 17/00 20060101ALI20221021BHJP
   C30B 33/00 20060101ALI20221021BHJP
【FI】
C30B29/04 V
A44C17/00
C30B33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070057
(22)【出願日】2021-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】509308953
【氏名又は名称】株式会社シンテック
(72)【発明者】
【氏名】山崎 進
(72)【発明者】
【氏名】干場 元祐
【テーマコード(参考)】
3B114
4G077
【Fターム(参考)】
3B114AA21
3B114CC03
3B114JA00
4G077AA02
4G077BA03
4G077FE16
4G077FH08
4G077HA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ダイヤモンド表面に文字等の持久的紋様を記録する方法、およびユニーク性の増した装飾性素材を提供する。
【解決手段】(1)研磨操作により形成された複数のファセットを有するルース状態のカットダイヤモンド粒子において、刻印ファセット表面に、周囲との構造的差異に基づいて視覚的に認識可能な文字、記号又は有意の図形から選ばれる紋様を形成記録した有刻印ダイヤモンド。
(2)[1]ダイヤモンド結晶の表面に研磨操作によって複数のファセットを形成し、[2]上記複数ファセットのうちの一又は複数個のファセットを選び出して刻印ファセットとし、[3]上記刻印ファセットにおけるダイヤモンド表面への選択集中的熱処理によってダイヤモンド表面の結晶構造に部分的かつ視覚的に認識可能な変化を生ぜしめることによって、単独又は組み合わされた文字、記号又は有意の図形から選ばれる紋様を形成記録せしめることを特徴とする方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨操作により形成された複数のファセットを有するルース状態のカットダイヤモンド粒子において、刻印ファセット表面に、周囲との構造的差異に基づいて視覚的に認識可能な文字、記号又は有意の図形から選ばれる一又は複数種の組合わせを含む紋様を形成記録したことを特徴とする有刻印ダイヤモンド体。
【請求項2】
前記紋様が単一又は複数個の欧文字及び/又は算用数字を含む請求項1に記載の有刻印ダイヤモンド体。
【請求項3】
前記紋様が単一又は複数個の漢字及び/又は仮名文字を含む請求項1又は2に記載の有刻印ダイヤモンド体。
【請求項4】
前記刻印ファセットがクラウン部分にある、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有刻印ダイヤモンド体。
【請求項5】
前記刻印ファセットがテーブルファセットである、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の有刻印ダイヤモンド体。
【請求項6】
前記ダイヤモンド結晶がブリリアンカットされている、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のダイヤモンド体。
【請求項7】
前記刻印がエネルギーの選択的集中照射によるダイヤモンドのグラファイトへの相変化によって作成されている、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有刻印ダイヤモンド体。
【請求項8】
前記相変化の深さが2μm以上である、請求項7に記載の有刻印ダイヤモンド体。
【請求項9】
(1) ダイヤモンド結晶の表面に研磨操作によって複数のファセットを形成し、
(2) 上記複数ファセットのうちの一又は複数個のファセットを選び出して刻印ファセットとし、
(3) 上記刻印ファセットにおけるダイヤモンド表面への選択集中的熱処理によってダイヤモンド表面の結晶構造に部分的かつ視覚的に認識可能な変化を生ぜしめることによって、単独又は組み合わされた文字、記号又は有意の図形から選ばれる紋様を形成記録せしめることを特徴とする、有刻印ダイヤモンド体の製造方法。
【請求項10】
前記物理操作がプログラムされたレーザービームの照射によるダイヤモンドの非ダイヤモンドへの相転移である、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶表面に有意の刻印を施したダイヤモンド結晶体、特にファセット加工されたカットダイヤモンドにおいて一又は複数のファセットに、顕著で持久的な文字や記号、或いは図形などの記録処理を施したダイヤモンド体に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱物界では比類ない硬さ及び化学的安定性を示すダイヤモンドは卓越した硬さと化学的安定性を示す優れた研磨材であると同時に、宝飾品としてのダイヤモンドはその輝きと利用環境の華やかさにおいて宝石界の王座を占めている。
【0003】
ダイヤモンドは炭素の同素体の一つであり、高純度の結晶は無色透明で、紀元前から宝石として使用されていたことが知られているが、当時のダイヤモンドはファセット加工されず、カボションと称される丸い宝石として使用されていたことも知られている。
【0004】
時代が下って欧州でもダイヤモンドが宝石として使用されるようになり、さらに中世に研磨法が開発され、高屈折率に基づく輝きを活かす形状および加工法が知られるようになると宝石としての利用が普及した。特に入射光を結晶内面で効果的に反射させることによって最高度の輝きを発揮させるブリリアンカットが開発されて以来、ダイヤモンドは限られた産出量もあって宝石の王座を占めるようになった。
【0005】
一方、歴史的な経緯は省くが、天然のダイヤモンドは地下深く超高圧高温下で地球物理学的過程によって生成し地殻の活動によって地表近くに運ばれたものであることが理解されるに到り、炭素材に超高圧高温条件を負荷することによってダイヤモンドの合成を試みる研究が多くの研究者たちによって実施された。試みの多くは失敗したが、ゼネラル・エレクトリック社(米国)は論理的な考察及び必要な装置類の開発に成功し、世界最初の工業的な合成に成功した(特許文献1)。
【0006】
前記合成ダイヤモンドは研磨材としての用途を目的とするもので、比較的低い圧力・温度条件で製造可能であるが、製品は比較的細かい粒子であり、結晶面は顕著でなく、不純物の混入により着色したりしていて、宝飾品としての用途には適さない。しかし近年、圧力温度条件の細かな制御により不純物の混入を避けて結晶を大きく成長させる技術が確立され、宝飾品として利用可能なダイヤモンドも工業的に製造されるに至っている(特許文献2)。
【0007】
宝飾品ダイヤモンドの原料、特に多くを占める天然ダイヤモンドの原石品は形状や性質が様々であるため原石に応じた利用形態を設計して、ブリリアント、プリンセス、その他の各種の形状に研磨加工(カット)される。カットされたダイヤモンド(ルース、裸石)は金属の台座に固定され、単一の独立した宝石として、或いは複数個組み合わせた各種のデザイン装飾品として利用される。
【0008】
上記研磨加工は、いずれもダイヤモンドの劈開を利用した、外形を整えると同時に表面にファセットを形成する工程であるが、反射性の良好な平滑な表面とともに、ダイヤモンド固有の高い屈折率を活かす形状設計及び研磨加工が行われることは共通である。この際、入射光屈折率が波長の違いによって変化することを利用して、分光した固有波長(色)の光をダイヤモンド結晶内で煌めかせる美的な演出も行われる。
【0009】
上述のように、宝飾用ダイヤモンド本体乃至ルースの構成において、表面のファセットは美的価値創成上重要な要素である。即ち美的な外観は全体的な形状とともに、生成された各ファセットの反射性によってもたらされるので、各ファセット面は高度の平面性が要求され、面の凹凸や不規則性は欠陥・不具合として矯正の対象である。従って美的価値増強のための研磨以外の処理を施すことは経済的・装飾的にマイナスな作業として意識されがちである。
【0010】
宝飾ダイヤモンド本体に顧客の求めに応じて何らかの情報を刻印するサービスも提供されている(非特許文献1)。この場合は例えばダイヤモンドの同一性確認を容易にするための情報等を、比較的目立たない部位、例えばブリリアンカットのガードルに細かい英数字で刻印することが行われている。
【0011】
また直接ダイヤモンドの表面を加工せず、ファセットの一部にフォトレジストを仲介してMo等の金属を蒸着し、当該ダイヤモンドに関する鑑定書のデータを記録する提案もなされている(特許文献2)。
【0012】

上記の従来手法はそれぞれカットダイヤモンドのファセット、特に主要なファセットを避け目立たない部位への細かな刻印であり、或いはファセットへの直接加工を避けて、ファセットの一部に蒸着した金属コートへの記録するものである。ダイヤモンドの様々な装飾品その他の用途において、煌びやかで微細な構成要素としての使用はあっても、ダイヤモンド自体の表面に彫刻その他の処理によって文字や記号を表示させた例は稀有である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公昭37-04407号公報
【特許文献2】特公昭58-12234号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】https://www.cgl.co.jp/cgl/inscription.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者はカットされた宝飾ダイヤモンドは同時に装飾的な構成要素としても大きな応用可能性を有していることに思い至った。従来の手法は確かに宝石の外観を大きく損なうものではないが、一方、記録されたデータの視認性や顕著性は必ずしも高くない。本発明は、比較的簡易な操作により、その装飾的構成要素としての可能性を展開し実現するものである。
【0016】
本発明においては、所要の情報を文字、記号、図形などの紋様として、カットダイヤモンドのファセットに直接記録表示することによって、前記課題に解決策を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の要旨とするところは、研磨操作により形成された複数のファセットを有するルース状態のカットダイヤモンド粒子において、刻印ファセット表面に、周囲との構造的差異に基づいて視覚的に認識可能な文字、記号又は有意の図形から選ばれる一又は複数種の組合わせを含む紋様を形成記録したことを特徴とする有刻印ダイヤモンド体に存する。
【0018】
本発明の有刻印ダイヤモンド体は、下記方法によって効果的に生成される。即ち:
(1) ダイヤモンド結晶の表面に研磨操作によって複数のファセットを形成し、
(2) 上記複数ファセットのうちの一又は複数個のファセットを選び出して刻印ファセットとし、
(3) 上記刻印ファセットにおけるダイヤモンド表面への選択集中的熱処理によってダイヤモンド表面の結晶構造に部分的かつ視覚的に検知可能な変化を生ぜしめることによって、単独又は組み合わされた文字、記号又は有意の図形から選ばれる紋様を形成記録せしめることを特徴とする、有刻印ダイヤモンド体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の刻印加工によって、当該ファセットにおける表面反射は幾分低下するが、刻印された文字や記号などによる情報、ファセットに刻印された紋様が与えるインパクトによる実利は、これを補って余りあると見積もられる。特に刻印される文字や図形などの紋様を装飾化・デザイン文字とすることによって、新たな美的効果を創成することも可能である。例えばイニシャルやロゴ等の欧文字などを刻印し腕時計文字盤への配置利用等により、高い装飾的な価値を付加することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1はカットされたダイヤモンドの形状例(ブリリアント)を示す平面図である。
図2図2図1のダイヤモンドの立面図である。
図3図3図1及び2の形状のダイヤモンド体に刻印を施した例である。(実施例1)
図4図4図1及び2の形状のダイヤモンド体に別種の刻印を施した例である。(実施例2)
図5図5はカットされたダイヤモンドの別の形状例(プリンセス)を示す平面図である。
図6図6図5の形状のダイヤモンド体に刻印を施した例である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明において、ダイヤモンドへの刻印はダイヤモンド結晶表層の非ダイヤモンド炭素、典型的にはグラファイトへの相転移によるのが効率的である。また相転移はレーザー光(ビーム)によって行うのが効果的である。即ち焦点に集光したレーザー光を対象ダイヤモンドルースの刻印ファセット上で走査し、入力された紋様に応じてレーザーのパルスエネルギー出力を制御、選択的に集中して照射する。
【0022】
レーザー光はパルスとして走査線上の各点を照射する。照射されたダイヤモンド結の各点ではエネルギーが注入されることによって表層部が非ダイヤモンドへの相転移を生じ、さらに照射点が移っていくことでレーザー光の軌跡が黒色の線としてダイヤモンド表面に刻印される。刻印の深さは照射されるレーザー光の出力及び焦点深度によるが、本発明においては紋様が真上から視覚的に認識できれば十分でそれ以上深くする必要はなく、20~80μmあれば十分である。
【0023】
本発明において利用可能な紋様の種類・範囲は使用するレーザ―加工機の仕様に依存し、刻印可能な紋様全体の構成は対象となるカットダイヤモンド体の刻印ファセットの有効面積及び熱照射を行うレーザー光の集光径によって制約を受ける。
【0024】
紋様を構成する要素としては文字類、記号、さらに文字類については各種フォントの漢字、かな文字、欧字、数字が利用可能である。いずれも単純な形状のものがより滑らかな仕上がりが得られるので、より好ましい。
【0025】
形成可能な紋様の解像度乃至最小サイズは使用する照射光の集光径に依存し、また紋様の全体的なデザインは刻印ファセットの有効な面積の制約を受けるので、目的に応じて刻印ファセットを選択する。宝飾用のカットダイヤモンドは頂部にテーブルと呼ばれる最大の面積を持つファセットがあるのでこの部分への刻印は最大の効果を発揮するが、目的に応じて、刻印が可能な面積を持つその他のファセットも本発明の刻印ファセットとして利用可能である。
【0026】
本発明のカットダイヤモンドのファセットへの紋様の刻印は、局所へのエネルギー投入、特に限定された部位への選択集中的熱照射によって実施されるが、かかる目的に現時点で最も適しているものはレーザー光であり、比較的低出力で足りるので、比較的小型の多くのレーザー加工機が利用可能である。
【0027】
最終的には人為的な作業 (カット)によって決定づけられるといわれるダイヤモンド原石から宝飾用製品への加工工程については本発明の範囲外なので記載しない。また本発明における宝飾用ダイヤモンドはファセット加工されたダイヤモンド本体(ルース)であって、天然産、合成品を問わない。
【実施例0028】
汎用レーザー加工機(森精機製Lasertech45 Shape)のYbファイバーレーザー(波長1064nm、出力0.3W)を用いてダイヤモンドに刻印した。
【0029】
ワークのダイヤモンドは図1及び2に示すブリリアンカットされたルース1(ガードル3の部分の直径約2.5mm、高さ1.6mm)で、テーブルファセット2は八角形、対角線長1.2mmであった。このダイヤモンドを、平らな底面を有する約30mm、厚さ2mmのアクリル材の小片を台座とし、テーブルファセットと台座底面との平行を確保して接着剤で固定した。
【0030】
レーザー加工機の処理室に、一様な厚さのプラスチック板を敷き、その上に、前記の台座に固定のワークダイヤモンドを載置した。レーザーヘッドのモニター画面で刻印ファセット表面の処理域を確認し、レーザービームの焦点に高さを合わせて処理を開始した。
【0031】
レーザーの操作条件は次の通り:
パルス 持続時間100ns、周波数40KHz
走査 速度40mm/s、 間隔0.001mm
【0032】
プログラムされたレーザー照射終了後ダイヤモンド体を回収し、テーブルファセットの頂角に垂直に、設計どおり「PAX」の文字が刻印されているのを確認した。
【実施例0033】
実施例1の操作を繰り返し、別のブリリアントカットのダイヤモンドルースに、漢字と数字の組み合わせを刻印した。
「夢」と「2021」の文字をレーザー加工機に登録し前記の条件でレーザー照射走査した。操作終了後、図4に示すように、八角形のテーブルファセットの底辺に平行に大小の文字で2行に刻印されたダイヤモンド体を回収した。
【実施例0034】
レーザー加工機を用い、図記号と欧文字の刻印を行った。
ダイヤモンド体5はプリンセスカットで八角形のテーブルファセット6は対角線長3mm、前記各実施例と同様の操作でダイヤモンドレーザー加工機に装填し、刻印域の選択、焦点合わせを経てレーザー照射を開始した。
【0035】
前記実施例と同一の操作条件でレーザー照射走査を繰り返した。工程終了後回収したダイヤモンドのテーブルファセットにテニスプレーヤーの図記号と「SYNTEK」の文字が刻印されているのを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の刻印されたダイヤモンドは、微小な装身具、腕時計等の文字盤その他の器具に適用されて美麗効果をもたらすものである。
【符号の説明】
【0037】
1 ダイヤモンド体(ブリリアントカット)
2 テーブルファセット
3 ガードル
5 ダイヤモンド体(プリンセスカット)
6 テーブルファセット
図1
図2
図3
図4
図5
図6