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特開2022-164955把持爪、把持装置、把持システム、把持システムの制御方法および記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164955
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】把持爪、把持装置、把持システム、把持システムの制御方法および記録媒体
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/12 20060101AFI20221024BHJP
【FI】
B25J15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070076
(22)【出願日】2021-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】見上 慧
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707BS12
3C707ES03
3C707ES10
3C707ET08
3C707EV12
3C707EW01
3C707FS01
3C707FT06
3C707FT07
3C707FT08
3C707KS33
3C707KT01
3C707KV06
3C707KV15
3C707LV10
(57)【要約】
【課題】様々な形状のワークを把持しつつ、高い把持力を確保することでより多くの種類のワークを安定した状態で把持することが可能な把持爪、把持装置、把持システム、把持システムの制御方法および記録媒体を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明の把持爪の構成は、ロボットハンド150で開閉駆動されてワーク102を保持する把持爪300であって、少なくともワークと対向する対向面310が可撓性を有する三角形を含む枠体と、対向面310に形成された吸着開口312と、吸着開口312から気体を吸引する流路(チューブ340)と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットハンドで開閉駆動されてワークを保持する把持爪であって、
少なくとも前記ワークと対向する対向面が可撓性を有する三角形を含む枠体と、
前記対向面に形成された吸着開口と、
前記吸着開口から気体を吸引する流路と、
を備えることを特徴とする把持爪。
【請求項2】
前記対向面内には、前記吸着開口に連通するチャンバが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の把持爪。
【請求項3】
前記吸着開口の周囲に半球形状の窪みが形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の把持爪。
【請求項4】
前記対向面は、エラストマ材料からなることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の把持爪。
【請求項5】
前記流路は、チューブまたは前記枠体内に形成された孔であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の把持爪。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の把持爪と、
前記把持爪を複数備えたロボットハンドと、
前記把持爪の把持力を計測する把持力計測手段と、
を備えることを特徴とする把持装置。
【請求項7】
請求項6に記載の把持装置と、
前記把持装置を所定の位置に移動させるロボットアームと、
気体を吸引する負圧装置と、
前記把持装置と前記ロボットアームと前記負圧装置とを動作制御するロボット制御装置と、
を備えることを特徴とする把持システム。
【請求項8】
前記吸着開口が複数設けられていて、
前記負圧装置は前記複数の吸着開口から選択的に吸引可能であることを特徴とする請求項7に記載の把持システム。
【請求項9】
請求項8に記載の把持システムを動作制御する把持システムの制御方法において、
前記把持爪を前記ワークに向かって移動させ、
前記把持爪を前記ワークに当接させ変形させながら把持し、
前記把持力と前記流路の圧力を計測して前記把持爪の前記吸着開口と前記ワークとの間に密閉空間が形成されたことを判定し、
前記吸着開口から吸引して吸着を開始し、
前記流路の圧力を計測して吸着完了を判定し、
前記ワークを搬送して吸着状態と把持状態を解除する
ことを特徴とする把持システムの制御方法。
【請求項10】
密閉空間の形成または吸着が完了しなかった場合に、前記把持装置が前記ワークを把持する位置を変更することを特徴とする請求項9に記載の把持システムの制御方法。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の把持システムの制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したことを特徴とする記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットハンドで開閉駆動されてワークを保持する把持爪、把持装置、把持システム、把持システムの制御方法および記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
工場等の生産現場において、ワークの把持や移載を目的として、把持装置およびロボットアームやその制御装置から構成される把持システムが利用されている。ロボットアームの把持装置(ハンドとも称される)としては主に吸着ハンドやグリッパが用いられている。把持装置は、特定のワークの形や種類に合わせて専用設計されることが多い。このため、個々の把持装置において安定的に把持できるワーク形状は設計時に想定したものに限られ、異なる形状のワークを把持する場合は把持装置を交換することで対応している。
【0003】
生産性を高める観点から、把持装置の交換頻度は低い方が好ましい。そこで従来から、任意の形状のワークを安定に把持するためロボットハンドの指部を柔軟部材で構成した技術が提案されている。例えば特許文献1では、柔軟な弾性素材で形成された長尺なチューブと、このチューブの長手方向に所定の間隔に並べた複数の骨部材と、これら骨部材の並びを保持する弾性復元可能な心材とを備えたフレキシブルアクチュエータが開示されている。特許文献1によれば、大きく屈曲することが可能な構造とすることで、人間の指のように柔らかいものを把持したり、生き物のような精巧な動きを行ったりすることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-184820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているフレキシブルアクチュエータは、人間の指のように柔らかいものを把持したり、生き物のような精巧な動きを行ったりすることを目的としている。すなわち特許文献1のフレキシブルアクチュエータは、生産現場においてワークを把持することを目的として開発されたものではない。このため、ワークがロボットハンドから滑り落ちることを防ぐだけの十分な把持力を確保することができず、把持できるワークが軽量なものや滑りにくいものに限られる可能性がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、様々な形状のワークを把持しつつ、高い把持力を確保することでより多くの種類のワークを安定した状態で把持することが可能な把持爪、把持装置、把持システム、把持システムの制御方法および記録媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の把持爪の代表的な構成は、ロボットハンドで開閉駆動されてワークを保持する把持爪であって、少なくとも前記ワークと対向する対向面が可撓性を有する三角形を含む枠体と、対向面に形成された吸着開口と、吸着開口から気体を吸引する流路と、を備えることを特徴とする。なお「三角形を含む」とは、三角形の枠体はもちろんのこと、ブレース(斜材)を備えた四角形の枠体(2つの三角形)であってもよく、さらには3つ以上の三角形を有するトラス構造であってもよい。すなわち、ワークと対向する対向面の両端が他の枠材で支持されていればよい。
【0008】
上記構成では、枠体状の把持爪のうち、ワークと対向する対向面は可撓性を有する。これにより、ワークに押し付けられると、把持爪の対向面はワークの形状に追従して変形する。これにより、様々な形状のワークに対応し、且つワークの凹凸や寸法、傾きなどの誤差を吸収することができる。そして、対向面には吸着開口が形成されていて、かかる吸着開口を通じて気体が吸引される。これにより、流路が負圧となるため、ワークと対向面とが密着した状態となる。したがって、把持爪において高い把持力を得ることができ、多くの種類のワークを安定した状態で把持することが可能となる。
【0009】
上記対向面内には、吸着開口に連通するチャンバが形成されているとよい。
【0010】
上記吸着開口の周囲に半球形状の窪みが形成されているとよい。
【0011】
上記対向面は、エラストマ材料からなるとよい。
【0012】
上記流路は、チューブまたは枠体内に形成された孔であるとよい。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の把持装置の代表的な構成は、上述した把持爪と、把持爪を複数備えたロボットハンドと、把持爪の把持力を計測する把持力計測手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の把持システムの代表的な構成は、上述した把持装置と、把持装置を所定の位置に移動させるロボットアームと、気体を吸引する負圧装置と、把持装置とロボットアームと負圧装置とを動作制御するロボット制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0015】
上記吸着開口が複数設けられていて、負圧装置は複数の吸着開口から選択的に吸引可能であるとよい。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の把持システムの制御方法の代表的な構成は、把持爪をワークに向かって移動させ、把持爪をワークに当接させ変形させながら把持し、把持力と流路の圧力を計測して把持爪の吸着開口とワークとの間に密閉空間が形成されたことを判定し、吸着開口から吸引して吸着を開始し、流路の圧力を計測して吸着完了を判定し、ワークを搬送して吸着状態と把持状態を解除することを特徴とする。
【0017】
上記密閉空間の形成または吸着が完了しなかった場合に、把持装置がワークを把持する位置を変更するとよい。
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の記録媒体の代表的な構成は、上述した把持システムの制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、様々な形状のワークを把持しつつ、高い把持力を確保することでより多くの種類のワークを安定した状態で把持することが可能な把持爪、把持装置、把持システム、把持システムの制御方法および記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態にかかる把持システムの概略構成を説明する図である。
図2】本実施形態にかかる把持システムの機能ブロック図である。
図3】ロボットハンド近傍の拡大図である。
図4】把持爪の全体図である。
図5】本実施形態の把持爪の変形例を説明する図である。
図6】本実施形態の把持爪の変形例を説明する図である。
図7】本実施形態の把持システムの制御方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0022】
(把持システム100)
図1は、本実施形態にかかる把持システム100の概略構成を説明する図である。以下の説明では、把持システム100について詳述しながら、それに含まれる把持装置140および把持爪300についても併せて説明する。図1に示すように本実施形態の把持システム100では、ロボットアーム130の先端に把持装置140が保持されていて、把持装置140はロボットアーム130によって所定の位置に移動する。またロボットアーム130には、その動作を制御するロボット制御装置110が接続されている。
【0023】
図2は、本実施形態にかかる把持システム100の機能ブロック図である。図2に示すように、把持システム100は、ロボット制御装置110、ロボットアーム130、把持装置140および負圧装置160を含んで構成される。ロボット制御装置110は内蔵するコンピュータで各種プログラムを実行することによって、ロボットアーム130、把持装置140および負圧装置160を制御し、各種の機能をロボットアーム130および把持装置140に実行させる。
【0024】
(ロボット制御装置110)
ロボット制御装置110は、CPU112、信号の入出力を行う入出力部114、ROM116aやRAM116bを有するメモリ116を備えている。CPU112、入出力部114およびメモリ116は、バス118を介して相互に信号を伝達可能に接続されている。
【0025】
CPU112は、演算処理装置として機能し、ROM116aやRAM116b、外部記憶装置等に格納された各種プログラムを読み出して実行する。ROM116aおよびRAM116bは、ロボットハンド150の制御方法を実行させるためのプログラムを記録していて、コンピュータで読み取り可能な記録媒体である。ROM116aは、CPU112が使用するプログラムや装置定数等を記憶する。RAM116bは、CPU112が使用するプログラムやプログラム実行中に逐次変化する変数等を一次記憶する。
【0026】
なお、本実施形態においては一連の処理を実行するための各種プログラムが記憶された記憶装置を、ロボット制御装置110に組み込まれたメモリ116として説明しているが、これに限るものではない。本実施形態の把持システム100を実行するためのプログラムはコンピュータが読み取り可能であれば、ロボット制御装置110とは別に、ユーザにプログラムを提供するために頒布されるストレージ装置に記録されていてもよい。ストレージ装置は、例えば、磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス又は光磁気記憶デバイス等により構成される。また、ネットワークからダウンロードされてインストールまたは更新されてもよい。
【0027】
入出力部114は、インターフェイスを介し外部機器やアクチュエータ、エンコーダなどの各種センサとロボット制御装置110とを接続するため、通信装置、D/A変換器、モータ駆動回路、A/D変換器などを備えている(不図示)。
【0028】
通信装置における具体的な通信手法としては、例えば、RS232C/485などのシリアル通信規格や、USB規格に対応したデータ通信であったり、一般的なネットワークプロトコルであるEtherNET(登録商標)や、産業用ネットワークプロトコルとして用いられるEtherCAT(登録商標)やEtherNet/IP(登録商標)等を例示することができる。
【0029】
また入出力部114には、上位制御システム122、状態通知装置124、入力装置126および画像センサ128が接続されている。上位制御システム122は、例えばシーケンサ(PLC)や監視制御システム(SCADA)、プロセスコンピュータ(プロコン)、パーソナルコンピュータ、各種サーバもしくはこれらの組み合わせからなり、ロボット制御装置110と有線または無線で接続されている。
【0030】
上位制御システム122は、ロボット制御装置110を含む生産ラインを構成する各装置の動作状況に基づいて指示を出力して生産ラインを統括的に管理する。例えば、把持システム100に備えられた画像センサ128による画像認識やIDタグ等の検出手段によりワークを特定し、把持動作前に把持パターン指示をロボット制御装置110に送信することで品目に応じた適切な把持パターンでロボットアーム130およびロボットハンド150を動作させることができる。
【0031】
また上位制御システム122はワークのサイズや把持完了までの時間、把持状態の情報などをロボット制御装置110から受信して収集することで、不良率やサイクルタイムの監視に用いることもできる。さらには、把持状態の情報などによって、ロボットアーム130をホームポジションに戻したり各装置をストップさせたりするなどの動作を行わせてもよい。
【0032】
状態通知装置124は、ロボット制御装置110からロボットハンド150やロボットアーム130の動作状態やワークの把持状態の情報を受信し表示することで、これらの情報をユーザに視覚的かつ直観的に認識させる。状態通知装置124は、液晶パネルやティーチングペンダント、点灯ランプなどの表示装置でもよいし、警告音や音声等によって情報を通知する通知装置でもよい。
【0033】
例えば、状態通知装置124は、接触位置が閾値を超えた場合に警告を発するように設定することができる。また、パーソナルコンピュータやティーチングペンダントの画面などが状態通知装置を兼ねていても良く、入力や状態通知を行うアプリケーションを備えていてもよい。
【0034】
入力装置126は、キーボードやマウス、タッチパネル、ボタン、スイッチ、レバー、ペダル、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段、もしくはこれらを備えたパーソナルコンピュータ、ティーチングペンダント等のユーザが操作する操作手段を備えている。かかる入力装置126を介して、ユーザによる入力や設定が行われ、入出力部114に対してコマンドが入力される。なお、装置に各種の機能を実行させるプログラムを入力装置126で作成してもよい。プログラムは機械語などの低級言語、ロボット言語などの高級言語で記述されていてもよい。
【0035】
画像センサ128は、カラー画像またはモノクロ画像を取得するカメラ装置であってもよいし、赤外線ドットパターン投影方式カメラのような三次元位置計測可能なカメラ装置であってもよい。
【0036】
上記説明したロボット制御装置110は、入出力部114を介してデータ格納用装置であるストレージ装置や記録媒体用リーダライタであるドライブ装置と接続した構成であってもよい。また本実施形態では把持システム100は、ロボットアーム130と把持装置140とを動作制御する構成としているが、ロボットアーム用と把持装置用で別個に制御装置を構成し、互いに有線または無線で接続してもよい。さらに、本実施形態ではロボット制御装置110をロボットアーム130およびロボットハンド150の外部に設けているが、これをロボットアーム130およびロボットハンド150の内部に設けてもよい。
【0037】
また、ロボット制御装置110は専用のハードウェアを組み込んだ制御装置に限らず、各種プログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のパーソナルコンピュータであってもよい。加えて、ロボット制御装置110の機能の一部又は全部をハードウェア回路、ASIC又はFPGA等の特定の用途向けに構築した専用集積回路で実現してもよい。また本実施形態においてプログラムを実行させる計算機の数は特に限定されない。例えばプログラムを、上位制御システム122等を含めた複数の計算機が互いに連携して実行してもよい。
【0038】
(ロボットアーム130)
ロボットアーム130は、把持装置140を所定の位置に移動させる。ロボットアーム130は、位置検出手段132およびアクチュエータ134を有している。本実施形態としては、ロボットアーム130として6軸垂直多関節型ロボットを想定するが、これに限定するものではなく、6軸以外の垂直多関節型ロボットや水平多関節型ロボットを用いることも可能である。
【0039】
(把持装置140)
把持装置140は、ロボットハンド150および把持爪300を含んで構成される。ロボットハンド150は、位置検出手段152としてのエンコーダと、把持爪300にかかる反力および把持力を計測する把持力計測手段154として力センサとを具備する。それらの検出結果および計測結果は電気的信号に変換してロボット制御装置110に出力される。なお、把持爪300にかかる反力および把持力はモータ電流などロボットハンド150の状態量から推定しても良く、ロボットハンド150は小さな力を高い精度で制御可能とすることが望ましい。
【0040】
把持爪300は、ロボットハンド150のアクチュエータ156によって駆動される。なお、把持爪300の構成については、後に詳細に説明する。
【0041】
(負圧装置160)
負圧装置160は、把持爪300を通じて気体を吸引する装置である。負圧装置160は、負圧流体供給源162、切替バルブ164、および圧力計測手段166である圧力センサを有する。負圧流体供給源162としては、例えば真空ポンプやエジェクタ等を用いることができる。
【0042】
負圧流体供給源162は、把持爪300の流路に接続され、把持爪300の内側がワークに当接した状態で負圧流体を供給する。これにより略密閉空間の内部圧力を低下させ、把持装置140がワークを吸着保持することができる。また負圧流体供給源162は、流路に接続された切替バルブ164を通じて略密閉空間に連通している。そして、切替バルブ164の動作により略密閉空間の圧力を変化させることで、ワークを吸着したり、解放したりする。
【0043】
圧力計測手段166は、圧力センサであり、上述した流路内の圧力を計測する。計測結果は電気的信号に変換して後述するロボット制御装置110に出力される。
【0044】
なお、説明の便宜上、図2では切替バルブ164および圧力計測手段166が負圧装置160に含まれる構成を例示しているが、切替バルブ164および圧力計測手段166はロボットアーム130に内蔵されていてもよい。また、このような構成に限定するものではなく、負圧装置160の構成要素は、ロボットハンド150等の装置に内蔵されていてもよいし、ロボットアーム130やロボットアーム130等の装置とは別体として設けられていてもよい。また負圧装置160は、ロボット制御装置110によって制御されてもよいし、上位制御システム122によって制御されてもよい。
【0045】
(把持爪300)
図3はロボットハンド150近傍の拡大図である。図4は、把持爪300の全体図である。図4(a)は把持爪300の全体斜視図であり、図4(b)は把持爪300の断面図である。
【0046】
図3に示すように、ロボットハンド150には複数の把持爪300が接続されている。把持爪300は、ロボットハンド150のアクチュエータによって開閉駆動されてワーク102を保持する部材である。
【0047】
なお本実施形態では、ロボットハンド150に対して2つの把持爪300が取り付けられているが、これに限定するものではない。ロボットハンド150に取り付ける把持爪300の数は、ワーク102の重量や形状に応じて適宜変更してもよい。また本実施形態では2つの把持爪300は同一形状であるが、これにおいても限定されず、複数の把持爪300は異なる形状であってもよい。
【0048】
図4(a)および(b)に示すように、把持爪300は、対向面310、取付面320および傾斜面330からなる三角形の枠体を有する。
【0049】
対向面310は、ワーク102(図3参照)と対向する面であり、可撓性を有する。対向面310は、硬化性エラストマや熱可塑性エラストマ等のエラストマ材料からなるとよい。これにより、対向面310の変形性を好適に確保しつつ、高い耐久性を得ることが可能となる。
【0050】
取付面320は、対向面310の上端からワーク102から離れる方向に延びた面であり、かかる取付面320において把持爪300がロボットハンド150に連結される。傾斜面330は、対向面310の下端と取付面320の端部とを連結している。また対向面310には、吸着開口312が形成されている。この吸着開口312には、吸着開口312から気体を吸引する流路としてのチューブ340が接続されている。
【0051】
ワーク102を保持する際には、まず図3(a)に示すようにワーク102の両側に一対(複数)の把持爪300を位置させる。そして図3(b)に示すように、一対の把持爪300をワーク102に向かって移動させ、把持爪300をワーク102に当接する。
【0052】
このとき、ワーク102からの反力および把持爪300の把持力を計測しながら把持爪300をワーク102に押し当てる。このようにワーク102からの反力および把持爪300の把持力を計測しながら把持動作を行うことにより、過度な力をワーク102に与えることがない。したがって、脆性材料からなるワーク102も好適に把持することが可能である。
【0053】
このとき重要な要素として、把持爪300の対向面310はワーク102の形状に沿って変形する。これは、把持爪300が三角形を含む枠体であり、対向面310が可撓性を有しているためである。対向面310が三角形の一辺であるため、対向面310の両端が支持されているから、ワーク102が当接する位置である対向面310の中途部が容易にたわむことができる。
【0054】
なお本実施形態においては把持爪300を三角形の枠体として説明しているが、本発明はこれに限定するものではなく、三角形を含む枠体であればよい。「三角形を含む」とは、三角形の枠体はもちろんのこと、ブレース(斜材)を備えた四角形の枠体(2つの三角形)であってもよく、さらには3つ以上の三角形を有するトラス構造であってもよい。すなわち、ワークと対向する対向面310の両端が他の枠材(梁またはブレース)で支持されていればよい。
【0055】
また本実施形態では、対向面310が可撓性を有する構成を例示したが、これにおいても限定されず、少なくとも対向面310が可撓性を有すればよく、取付面320や傾斜面330が可撓性を有していてもよい。
【0056】
図3(b)に示すように一対の把持爪300がワーク102を挟持したら、図3(c)に示すように、負圧装置160によって流路であるチューブ340を通じて気体を吸引する。これにより、流路内の圧力が低下して負圧状態となり、ワーク102が把持爪300の対向面310に吸着された状態となる。
【0057】
なお、仮に吸着開口312から外れた箇所でワーク102が把持爪300に当接していた場合、把持力が検出されても流路内の圧力低下が検出されない。したがって、把持力と流路の圧力を計測することで、把持および押し付けの状態を精度良く検出することができる。
【0058】
上記説明したように、本実施形態の把持爪300によれば、ワーク102と対向する対向面310が可撓性を有することにより、ワーク102に押し付けられると、対向面310はワーク102の形状に追従して変形する。これにより、様々な形状のワーク102に対応し、且つワーク102の凹凸や寸法、傾きなどの誤差を吸収することができる。
【0059】
そして、把持爪300の対向面310をワーク102に押し付けた後に、吸着開口312を通じて気体を吸引することにより、流路が負圧となってワーク102と対向面310とが密着した状態となる。したがって、把持爪300において高い把持力を得ることができ、多くの種類のワーク102を安定した状態で把持することが可能となる。
【0060】
また図4(a)および(b)に示すように、本実施形態の把持爪300では、対向面310内には、吸着開口312に連通するチャンバ314が形成されている。これにより、図3(b)に示すように一対の把持爪300によってワーク102を挟持して対向面310が変形すると、チャンバ314も変形する。すると、チャンバ314内の気体が流路に排出され、流路の圧力が大きく上昇する。これにより、負圧装置160の圧力計測手段166において流路の圧力上昇が計測され、把持爪300とワーク102とが密着したことが検出される。このように、チャンバ314を設けることで、流路が長くなって流路容積が大きくなっても変形による容積変化を大きくできるため、圧力変化を計測しやすくなる。
【0061】
なお、本実施形態では圧力計測手段166として圧力センサを例示し、チャンバ314の変形を圧力センサで計測している。ただし、これに限定するものではなく、チャンバ314の変形を計測できる歪ゲージ等を圧力計測手段に代えて用いることも可能である。
【0062】
さらに本実施形態では、吸着開口312の周囲に半球形状ないしラッパ状の窪み316が形成されている。これにより、ワーク102において負圧装置160によって吸着される面積が増え、窪み316において略密閉空間が形成される。このため、把持装置140の把持力を高めることが可能となる。なお、本実施形態では窪み316を半球形状ないしラッパ状としたが、これに限定するものではなく、開口面積が広がるような他の形状としてもよい。
【0063】
(把持爪の変形例)
図5および図6は、本実施形態の把持爪の変形例を説明する図である。なお、図5図7に示す把持爪において、先に説明した図4の把持爪300と共通する構成要素については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0064】
図5(a)および(b)に示す把持爪300aでは、把持爪300のチューブ340に替えて、枠体を構成している対向面310および取付面320の内部に吸着開口312およびチャンバ314と連通する孔342を流路として形成している。かかる構成によっても、流路である孔342を通じて吸着開口312から気体を吸引することができる。またチューブ340が不要となるため、その取り回し作業に要する手間を削減することができる。
【0065】
なお、本実施形態では、対向面310および取付面320を加工してその内部に流路となる孔342を形成することを想定しているが、これに限定するものではない。例えば把持爪300aを、流路が形成される部位(取付面320)と、それ以外の部位(対向面310、傾斜面330)とを別々の部材とし、それらを組み立てる構成としてもよい。かかる構成によれば、流路が形成される部位のみを剛性が高い材料で成形し、圧力変化による変形に対する強度を高めることが可能となる。
【0066】
図6(a)に示す把持爪300bでは、対向面310において、高さ方向に複数の吸着開口(第1吸着開口352および第2吸着開口354)が形成されている。かかる構成によれば、例えば切替バルブ164(図2参照)を複数備えることで、負圧装置160は、把持形態に応じて複数の吸着開口(第1吸着開口352および第2吸着開口354)から選択的にワーク102を吸着可能となる。これにより、より多くの形状のワーク102に適した把持状態を選択可能となる。
【0067】
例えば、図6(b)に示すように小さなワーク102を把持する場合、把持爪300bにおいて把持力が検出されつつ、第1吸着開口352に接続されている流路においては圧力上昇が生じず、第2吸着開口354に接続されている流路において圧力上昇が生じる。このような場合、ロボット制御装置110は、ワーク102と当接している第2吸着開口354から気体を吸引し、第1吸着開口352からは気体を吸引しないように負圧装置160を制御する。
【0068】
図6(c)に示すように大きなワーク102aを把持する場合、把持爪300bにおいて把持力が検出され、且つ第1吸着開口352に接続されている流路、および第2吸着開口354に接続されている流路の両方において圧力上昇が生じる。この場合、ロボット制御装置110は、第1吸着開口352および第2吸着開口354の両方から気体を吸引するよう負圧装置160を制御する。
【0069】
(把持システムの制御方法)
図7は、本実施形態の把持システム100の制御方法を説明するフローチャートである。図7のフローチャートは、把持装置140におけるワーク102の把持動作開始から把持完了までの動作を例示している。なお、ワーク102の位置や種類は、例えば画像センサ128により把持システム100にあらかじめ認識されていて、ロボットハンド150は把持動作開始位置に移動しているものとする。
【0070】
本実施形態の把持システム100の制御方法では、図7に示すように、まずロボット制御装置110は、ワーク102に応じたロボットハンド150を動かす速度パターンを生成する。そして、ロボット制御装置110は、生成された速度パターンに従って把持爪300をワーク102に向かって移動させ、把持爪300をワーク102に当接させ、把持爪300を変形させながらワーク102を把持する(S402:押しつけステップ)。
【0071】
次にロボット制御装置110は、把持力と流路の圧力を計測し、一対の把持爪300が目標とする位置でワーク102と当接し、所定の把持力とチャンバ314の圧力変化が検出されたか否かにより、吸着開口312とワーク102との間に略密閉空間が形成されているか否かを判定する(S404:押し付け状態判定ステップ)。
【0072】
把持爪300の把持力と流路およびチャンバ314の圧力変化が適正な範囲で検出された場合(S404のYES)、ロボット制御装置110は、切替バルブ164を動作させ吸着開口312からの気体の吸引を開始することで、把持爪300によるワーク102の吸着動作を開始する(S406:吸着開始ステップ)。一方、所定の把持力と流路およびチャンバ314の圧力変化が検出されなかった場合(S404のNO)、ロボット制御装置110は、押し付けが適切ではないと判断し、一対の把持爪300をワーク102から離すようにロボットハンド150を駆動する(S414:離間ステップ)。
【0073】
気体の吸引を開始したら(S406)、ロボット制御装置110は、圧力計測手段166の計測結果に基づき、略密閉空間(流路およびチャンバ314)の内部圧力が所定圧力以下に低下したかによって、ワーク102の吸着が完了したか否かを判定する(S408:吸着完了判定ステップ)。このとき、略密閉空間(流路およびチャンバ314)の内部圧力が所望圧力以下に低下しない場合、吸着が完了できていないと判定する(S408のNO)。
【0074】
吸着が完了できていない場合(S408のNO)、ロボット制御装置110は、切替バルブ164を動作させ、流路およびチャンバ314からなる略密閉空間の圧力を大気圧に戻す(S412:吸着停止ステップ)。そして、ロボット制御装置110は、一対の把持爪300をワーク102から離すようにロボットハンド150を駆動する(S414:離間ステップ)。
【0075】
一対の把持爪300をワーク102から離したら(S414:離間ステップ)、ロボット制御装置110は、把持装置140がワーク102を把持する位置を変更する(S416:押し付け箇所変更ステップ)。すなわち、把持システム100においては、把持爪300のワーク102への押し付けが完了しなかった場合(S404のNO)、および把持爪300のワーク102への吸着が完了しなかった場合(S408のNO)に把持装置140がワーク102を把持する位置(把持爪300の姿勢等)を変更する。そして、把持位置を変更(把持爪300を異なる把持動作開始位置に移動)した後に、再度、押しつけステップ(S402)からの処理を繰り返す。
【0076】
ここで、例えば押し付け箇所変更ステップ(S416)を所定回数繰り返しても把持完了状態にならない場合は、ワーク102が本来の位置になかったり、ワーク102が意図しない姿勢で把持されたりしたことが考えられる。このような場合には、ロボット制御装置110は、上位制御システム122に異常発生を通知してもよいし、状態通知装置124を通じてユーザに異常発生を通知してもよい。また通常の搬送工程を中断して、ワーク102が適切に把持されていないことをユーザに通知するなどの処置を行ってもよい。
【0077】
一方、略密閉空間(流路およびチャンバ314)の内部圧力が所定圧力以下に低下していた場合、ロボット制御装置110は、把持爪300によるワーク102の吸着が完了したと判定する(S408のYES)。そして、ロボット制御装置110は、ロボットアーム130によってワーク102を搬送した後に負圧装置160による気体の吸引を停止し、吸着状態を解除する。その後、ロボット制御装置110は、吸着を解除した後に把持爪300を離間させ、把持状態を解除することで、ワーク102は目標位置に載置された状態となる(S410:搬送ステップ)。
【0078】
また本実施形態の把持システム100の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録媒体に記録し、かかる記録媒体を用いて把持システムの制御方法をコンピュータに実行させることも可能である。
【0079】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、ロボットハンドで開閉駆動されてワークを保持する把持爪、把持装置、把持システム、把持システムの制御方法および記録媒体として利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
100…把持システム、102…ワーク、102a…ワーク、102b…ワーク、110…ロボット制御装置、112…CPU、114…入出力部、116…メモリ、116a…ROM、116b…RAM、118…バス、122…上位制御システム、124…状態通知装置、126…入力装置、128…画像センサ、130…ロボットアーム、132…位置検出手段、134…アクチュエータ、140…把持装置、150…ロボットハンド、152 …位置検出手段、154…把持力計測手段、156…アクチュエータ、160…負圧装置、162…負圧流体供給源、164…切替バルブ、166…圧力計測手段、300…把持爪、300a…把持爪、300b…把持爪、310…対向面、312…吸着開口、314…チャンバ、316…窪み、320…取付面、330…傾斜面、340…チューブ、342…孔、352…第1吸着開口、354…第2吸着開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7