(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165002
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】液晶レンズ
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20221024BHJP
G02F 1/1343 20060101ALI20221024BHJP
G02B 3/14 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1343
G02B3/14
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070151
(22)【出願日】2021-04-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】391035038
【氏名又は名称】佐藤 進
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 進
【テーマコード(参考)】
2H088
2H092
【Fターム(参考)】
2H088EA42
2H088HA02
2H088HA03
2H088HA04
2H088HA07
2H088HA14
2H088JA10
2H088JA11
2H088KA06
2H088KA14
2H088LA07
2H092GA13
2H092GA15
2H092GA17
2H092GA32
2H092PA02
2H092PA06
2H092PA09
2H092RA03
(57)【要約】
【課題】少ない電極数や駆動電源により、高い液晶層の利用効率でレンズパワーの可変範囲が広く、かつ優れた光学特性を有する液晶レンズを実現する。
【解決手段】透明な第1の電極を有する第1の基板、開口孔を有する第2の電極、及び前記第1の基板と前記第2の電極を有する第2の基板の間に、前記第1の電極と対向するように収容された、液晶分子を配向させた液晶層を備え、前記開口孔内にスリットを介して第3の電極が配置され、前記第2の電極及び第3の電極と液晶層に面する側に透明な絶縁層と透明な高抵抗層を積層し、前記第3の電極を同一の中心を有し円帯を形成するようにスリットを介して2分割し、分割された
内側の円形状の電極を円形電極とし、外側の
円帯状の電極を
円帯電極として第1の電極との間に前記第2の電極及び
円形電極に加える第1の電圧及び第2の電圧に対して位相が反転した第3の電圧を加えることで動作する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な第1の電極を有する第1の基板、開口孔を有する第2の電極、及び前記第1の基板と前記第2の電極を有する第2の基板の間に、前記第1の電極と対向するように収容された、液晶分子を配向させた液晶層を備え、
前記第2の電極の前記開口孔内にスリットを介して第3の透明な電極が配置され、前記第2の電極及び第3の電極の液晶層に面する側に透明な絶縁層と透明な高抵抗層を積層し、前記第1と前記第2の電極との間に第1の電圧を加え、また第3の電極に前記第1の電圧とは独立した第2の電圧を加えて前記液晶層の実効的な屈折率の分布を調整することで動作する液晶レンズであって、
前記第3の電極を同一の中心を有する円帯を形成するようにスリットを介して2分割し、分割された外側の電極を第4の電極として第1の電極との間に第1の電圧及び第2の電圧に対して位相が反転した第3の電圧を加えて動作することを特徴とする液晶レンズ。
【請求項2】
請求項1に記載の液晶レンズにおいて、第2の電極を透明な同心円帯状の形状とし、前記同心円帯状の第2の電極の外部に複数の同心円帯状の透明な電極群を一組として少なくとも一組以上の複数の電極群を配置し、前記透明な電極群の液晶層に面する側に透明な絶縁層と透明な高抵抗層を積層した液晶レンズにおいて、隣接する各組における光学位相差の分布特性が第2の電極と第3の電極及び第4の電極から構成される中央部の液晶レンズの光学位相差分布特性を概略外挿した特性となるような電圧を加えて動作することを特徴とする液晶レンズ。
【請求項3】
請求項2に記載の液晶レンズにおいて、前記同心円帯状の第2の電極の外部に配置した複数の同心円帯状の透明な電極群から構成される各組の前記透明な電極群に、前記中央部の液晶レンズの電極群に加える電圧の周波数より高い周波数の電圧を加えて動作することを特徴とする液晶レンズ。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の液晶レンズにおいて、前記同心円帯状の第2の電極の外部に配置した複数の同心円帯状の透明な電極群から構成される各組の前記透明な電極群の液晶層に面する側に積層した透明な高抵抗層の抵抗値が前記中央部の液晶レンズにおける透明な高抵抗膜の抵抗値よりも高い抵抗値であることを特徴とする液晶レンズ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までに記載のいずれかの液晶レンズにおいて、前記第2の電極の開口孔内にスリットを介して配置された第3の電極を同一の中心を有する円帯を形成するように2分割する半径方向の割合が10%から70%の範囲内であることを特徴とする液晶レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少ない駆動電源により液晶層の利用効率が高く、滑らかな屈折率分布特性を有し、焦点距離の可変範囲が広い低電圧駆動の液晶レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶は誘電異方性及び光学異方性を示し、比較的低い電圧印加により実効的な屈折率を概異常光に対する値から常光に対する値まで連続的に可変調整できるという特徴を持っており、例えば、第1の透明電極及び第2の透明電極の間に液晶層を設け、電極間の電圧によって液晶層の実効的な屈折率分布を制御することで動作する電圧可変型の液晶レンズが報告されている。
【0003】
液晶を使用した可変焦点レンズとして、平板状の第1の電極と円形の開口孔部を有するパターン電極と前記円形の開口孔部内に設けられた円形状の中心電極によって構成された第2の透明電極との間に液晶層を挿入し、第2の透明電極と液晶層との間に透明絶縁層を挿入して第2の透明電極を液晶層からある一定の距離を置くように配置することで、軸対称の不均一電界が開口孔部の中心付近すなわち円形状の中心電極の中心付近まで広がるようになって入射光に対する液晶の実効的な屈折率を可変することで良好なレンズ効果を発揮する方法が報告されている。
【0004】
しかし、前記液晶レンズでは第2の透明電極と液晶層との間に比較的厚い透明絶縁層を挿入しているので駆動電圧が非常に高くなり、口径が大きくなると数100V以上の高電圧を必要とするという難点があった。この難点を解消するものとして、円形の開口孔部を有するパターン電極と開口孔部内に設けられた円形状の中心電極によって構成された前記第2の透明電極と液晶層の間に透明な絶縁層と透明な高抵抗層からなる二重層を設けることで、透明絶縁層の厚みを薄くしても軸対称の不均一電界が高抵抗膜面の電位分布によって円形状の中心電極の中心部まで生じるようにすることが可能となり、透明絶縁層を薄くできることから低電圧で駆動できる液晶レンズとして特許文献1及び特許文献2に報告されている。
【0005】
前記特許文献1及び特許文献2で開示されている液晶レンズは、円形の開口孔部内に広がる不均一電界の空間分布を利用するもので、電位分布に対応する屈折率分布特性がなめらかで、且つ駆動電圧が低く、また独立した2電圧だけで広範囲にわたって焦点距離の逆数に対応するレンズパワーを可変制御できるという利点が有るが、良好なレンズ特性が得られる条件では液晶層の利用効率が40%以下程度と低いことが難点であった。
【0006】
一方、円形状の中心電極と、中心電極の周囲に設けられた同心円状に間隔を空けて配置された複数の円帯状の電極パターンとによって上記の第2の透明電極(同心円状のパターン電極群)を構成し、平板状の第1の電極との間に液晶層を挿入し、前記円形状の中心電極と複数の円帯状電極に電圧を加えて中心電極と複数の円帯電極と前記第1の基板の前記透明な電極とが対向している各々の領域で前記液晶層の実効的な屈折率の分布を調整することで半径方向に屈折率分布を生じさせることができ、低電圧で動作する液晶レンズが報告されている。さらに、前記第2の透明電極と液晶層の間に透明な絶縁層と透明な高抵抗層からなる二重層を設けることで、段差等が無い滑らかな光学位相差分布特性を有し、且つ液晶層の利用効率が高い液晶レンズが特許文献3及び特許文献4に開示されている。
【0007】
前記の複数の円帯状のパターン電極を用いる液晶レンズでは、中心対称の任意の光学位相差分布特性を実現することができるが、良好な光学位相差分布特性を得るためには円帯電極の数を増やさなければならないため引き出し線が多くなり、結果として駆動電源数も増加するという問題が有った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-17742号公報
【特許文献2】特開2011-180373号公報
【特許文献3】特開2012-137682号公報
【特許文献4】特開2018-36483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1及び特許文献2で開示されている液晶レンズは、2電圧で焦点距離を可変できるという利点が有るが、良好な光学特性を保持した状態で焦点距離又は焦点距離の逆数に対応するレンズパワーを可変する場合には、液晶層の利用効率が半分以下と低いことが難点であり、さらなる可変範囲の拡大、すなわち液晶層の利用効率の改善が課題であった。一方、特許文献3及び特許文献4に開示されている複数の円帯状のパターン電極を用いる液晶レンズでは、良好な光学位相差分布特性を得るためには円帯電極の数を増やさなければならないため引き出し線が多くなり、且つ駆動電源数も増加するという問題が有った。
【0010】
そこでこの発明の目的は、上記課題や問題を解決するために、電極数すなわち引き出し線や駆動電源の数を少なくすると共に、液晶層の利用効率を高くすることでレンズパワーの可変範囲が広い液晶レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願は、上記課題を解決するために、透明な第1の電極を有する第1の基板、開口孔を有する第2の電極、及び前記第1の基板と前記第2の電極を有する第2の基板の間に、前記第1の電極と対向するように収容された、液晶分子を配向させた液晶層を備え、前記第2の電極の前記開口孔内にスリットを介して第3の透明な電極が配置され、前記第2の電極及び第3の電極の液晶層に面する側に透明な絶縁層と透明な高抵抗層を積層し、前記第1と前記第2の電極との間に第1の電圧を加え、また第3の電極に前記第1の電圧とは独立した第2の電圧を加えて前記液晶層の実効的な屈折率の分布を調整することで動作する液晶レンズであって、前記第3の電極を同一の中心を有する円帯を形成するようにスリットを介して2分割し、分割された外側の電極を第4の電極として第1の電極との間に第1の電圧及び第2の電圧に対して位相が反転した第3の電圧を加えて動作することができる。
【0012】
また、前記液晶レンズにおいて、第2の電極を透明な同心円帯状の形状とし、前記同心円帯状の第2の電極の外部に複数の同心円帯状の透明な電極群を一組として少なくとも一組以上の複数の電極群を配置し、前記透明な電極群の液晶層に面する側に透明な絶縁層と透明な高抵抗層を積層した液晶レンズにおいて、隣接する各組における光学位相差の分布特性が第2の電極と第3の電極及び第4の電極から構成される中央部の液晶レンズの光学位相差分布特性を概略外挿した特性となるような電圧を加えて動作することができる。
【0013】
さらに、中央部の液晶レンズの光学位相差分布特性を概略外挿した特性となるような電圧を加えて動作する前記の液晶レンズにおいて、前記同心円帯状の第2の電極の外部に配置した複数の同心円帯状の透明な電極群から構成される各組の前記透明な電極群に、前記中央部の液晶レンズの電極群に加える電圧の周波数より高い周波数の電圧を加えて動作することができ、またさらに前記各組の前記透明な電極群の液晶層に面する側に積層した透明な高抵抗層の抵抗値が前記中央部の液晶レンズにおける透明な高抵抗膜の抵抗値よりも高い抵抗値とすることもできる。
【0014】
前記第2の電極の開口孔内にスリットを介して配置された第3の電極を同一の中心を有する円帯を形成するように2分割する半径方向の割合が10%から70%の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、平板状の透明な電極に対向する円形の開口孔部を有する電極及び開口孔部内にスリットを介して絶縁された円形の電極を更にスリットを介して二分割し、円形開口孔部を有する電極側の電極及び開口孔部内に配置された円形電極に加える電圧に対して位相が反転した電圧を加えて、液晶層に誘起された光学位相差分布特性の断面が2次曲線である放物面の分布からのずれを補正することで液晶層の利用効率及び光学特性を大幅に改善し、レンズパワーの可変範囲を拡大すると共に、少ない引き出し線及び駆動電圧で動作する液晶レンズを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1(A)は、本発明に係る液晶レンズの一実施の形態を示す構成説明図であり、
図1(B)は
図1(A)の第2の基板及び各電極22~24の平面図である。
【
図2】
図2は、実施例1に係る口径が2mmの液晶レンズの開口孔内における光学位相差分布特性のV1電圧依存性を示す。
【
図3】
図3は、口径が2mmの液晶レンズにV1=5Vの電圧を加え、V2=V3とした補正無しの場合、及びV3として位相が反転した3Vの電圧を加えて補正を行った場合の開口孔内の液晶層に生じる光学位相差分布特性の断面図である。
【
図4】
図4は、実施例2に係るフレネル構造の液晶光学デバイスにおける(A)液晶層に生じる光学位相差分布特性の断面図、及び(B)中心部の光学位相差分布特性を外挿した光学位相差分布特性の断面図であり、図中の点線は2次関数による近似曲線を示している。
【
図5】
図5は、実施例3に係るフレネル構造の液晶光学デバイスにおける(A)液晶層に生じる光学位相差分布特性の断面図、及び(B)中心部の光学位相差分布特性を外挿した光学位相差分布特性の断面図であり、図中の点線は2次関数による近似曲線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、従来の技術における種々の課題について解決することを目的として案出されたものである。すなわち、特許文献1及び特許文献2の技術では、液晶層の利用効率を高くすることが課題であり、特許文献3及び特許文献4では、良好な特性を得るためには多数の円帯電極や引き出し及び駆動電源が必要であるため、簡単な構成により駆動を行うことが課題であった。
【0018】
本発明では、上記の課題を踏まえて、少ない電極や引き出し線及び駆動電源数により、液晶層の利用効率が高く、すぐれた光学特性を有する液晶レンズを開示する。
【0019】
以下この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1において、その基本構成を述べる。
【実施例0020】
図1(A)は、この発明の一実施の形態による液晶レンズの基本構成を断面から見た構成を示している。透明な第1の電極21は第1の基板11の上に形成され、第2の基板12を所定の厚みを保つための図示されていないスペーサを介して重ね合わせることで液晶セルを構成する。第1の基板11と前記第2の基板12の間には、第1の電極21と対向するように収容された、液晶分子を一方向に配向させた液晶層31を備える。
【0021】
前記第1の基板11の前記液晶層31に接する面には液晶分子を一方向に配向させる効果を有する図示されていない配向膜が配置されている。
【0022】
また、第2の基板12の液晶層に面する側には電極群22~24が形成されており、さらに透明な絶縁層41と透明な高抵抗層としての高抵抗膜51、及び図示されていない配向膜がそれぞれ積層されている。なお、この高抵抗膜51には直接電圧を印加していない。
【0023】
前記透明な電極21及び透明な高抵抗膜51の液晶層に接する面に形成された前記図示されていない配向膜にはアンチパラレルと呼ばれる互いに逆の方向にラビング処理を行うことで、液晶分子の長軸方向に対応するダイレクタがプレティルト角と呼ばれる基板面から1~2度程度傾いたプレティルト角と呼ばれる角度をなして配向するような状態となっている。
【0024】
図1(B)は、
図1(A)の液晶レンズを平面的に見た図であり、前記第2の基板12は、第2の電極22を有し、前記第2の電極22には円形の開口孔22-1が形成されている。前記第1の電極21と第2の電極22の間には第1の電源81から第1の電圧V1を加える。また、前記円形の開口孔22-1の中にはスリットにより電気的に絶縁された同一の中心をもつ円形の透明な第3の電極23及び円帯状の透明な第4の電極24が形成されている。この円形の透明な第3の電極23及び円帯状の透明な第4の電極24に、図示されていないスリットで第2の電極から絶縁された図示されていない引き出し部を通して外部から第2の電源82から第2の電圧V2及び第3の電源83から第3の電圧V3を印加することができるように配置されている。
【0025】
初めに、
図1に示した構成から第3の電極23及び第4の電極24を取り除いた円形の開口孔部だけの液晶レンズについて説明する。電圧が加えられていない初期状態として、液晶分子の長軸方向に対応するダイレクタが電極面上の配向膜面に対してプレティルト角である1度程度傾いてラビングの方向に配向しているホモジニアス配向になっている場合を考える。第1の電極21と第2の電極22の間にしきい値よりも高い第1の電圧V1を加えると、液晶層31に軸対称の不均一電界が加わり、液晶分子が配向膜面による配向規制力と軸対称の不均一電界の配向効果が弾性的に釣り合った状態に配向し、実効的な屈折率が開口孔の周辺から中心に向かって次第に大きくなるような分布が形成され、主として凸レンズ効果を示す液晶レンズAが構成される。しかし、液晶レンズAでは外部印加電圧V1の増加に対する液晶レンズの焦点距離の変化特性が、一度最短となった後増加に転ずるという複雑な特性を示し、また凹レンズ特性を得ることが難しいという問題があった。
【0026】
次に、
図1に示した構成において、第3の電極23及び第4の電極24に同じ電圧を加えた場合(V2=V3)について説明する。このような構成は、円形の開口孔の中に第2の電極から絶縁され独立した電極を設けた場合と同じ電極構成となる。前記開口孔の中に設けた電極に第1の電圧V1とは独立した第2の電圧V2を加えると、第1の電圧V1に基づく第1段階の光学特性、前記第2の電圧V2に基づく第2段階の光学特性が得られ液晶レンズBが構成される。前記液晶レンズBの動作原理の詳細については特許文献1及び特許文献2において説明されている。この液晶レンズによると、凸レンズ及び凹レンズとしての機能が得られる。
【0027】
特に、この液晶レンズでは、透明絶縁層41と液晶層31の間に透明な高抵抗層として高抵抗膜51を配置しているため、開口孔を有する第2の電極22(円形パターン電極)と液晶層31との間に高抵抗膜51を仲介して誘電結合が生じる結果としての電位分布の中継効果により、透明絶縁層の厚みが薄くなっても軸対称の不均一電界が液晶層中で円形の開口孔の中心部に対応する位置まで生じるようになるため、駆動電圧を低下することができる。なお透明絶縁層の中に高抵抗層を挿入した構造において駆動電圧を低下する効果についても特許文献1及び特許文献2において説明されている。
【0028】
次に、具体的な実施例について説明する。
図1において、第1の基板11は300μm厚の透明ガラス板であり、第1の液晶層31に接する内面側に、インジウム・スズ系の酸化物(ITO)からなる透明な第1の電極21が形成されている。第2の基板12は300μm厚のガラス基板であり、通常のフォトリソグラフィ法によって第2の基板12の液晶層31に接する側には口径が2mmの円形状の開口孔22-1を有するITO電極22、及び中心のITO電極23及び円帯状の電極24が同心円状に形成されている。ここで、前記開口孔22-1の中に配置されている電極23及び電極24を分離するスリットの幅は20μmとし、円帯状の電極24の幅は200μmとしているが、この値に限定されるものではない。
【0029】
本発明における液晶レンズでは、開口孔を有する電極22と中心の円形電極23及び同心円状の円帯電極24を有する第2の基板12と液晶層31の間に透明絶縁層41及び高抵抗膜51を積層している。また、液晶層31の液晶材料としてはRDP85475(DIC社製)を使用した。この液晶の複屈折Δnは波長(λ)が589nmにおいて0.298である。液晶層を挟む電極21及び高抵抗膜51の面には図示しない配向膜としてポリイミド膜を100nm程度の厚みに塗布し、熱処理を行い安定化させた後に、対向する基板上の配向膜に対するラビングの方向をそれぞれアンチパラレルと呼ばれる逆向きとなるようにラビング処理が施されている。
【0030】
なお、液晶層31を所定の厚みに保つために図示していないが直径が30μmの球状スペーサを接着剤に分散したものを用い、また図示していないが各基板の周辺部等は接着剤を用いて液晶が封止されている。
【0031】
透明絶縁膜41としては、高周波スパッタリング法により1μm厚に成膜した石英膜を使用したが、透明な高分子膜など他の有機系・無機系の膜も使用することができる。
【0032】
透明な高抵抗膜51としては、酸化亜鉛に亜酸化銅を添加した材料を高周波スパッタリング法により厚みが約50nmに製膜した抵抗膜を使用した。本実施例で使用した高抵抗膜は面積抵抗値として10MΩ/m2~200MΩ/m2程度であった。他の無機系薄膜、たとえば抵抗値を最適な値に設定したITOや酸化亜鉛、酸化チタン、硫化亜鉛、又はこれらの材料の混合系などの透明な薄膜を使うこともできる。
【0033】
口径が2mmの液晶レンズにおいて、第2の電極及び開口孔内に設けた第3及び第4の電極にそれぞれV1,V2,V3の電圧を印加した場合に液晶層に生じる光学位相差分布特性について、直径方向の断面での位相差分布特性のV1電圧依存性を
図2に示した。ここで、高抵抗膜51の抵抗率は1.5Ωmであり、印加電圧の周波数は1kHzとした。さらに、V2電圧とV3電圧は同じ値とし、光学位相差分布特性の最大値が液晶層の複屈折と液晶層厚の積の値の85%となるようにV2=V3の電圧を調整している。
図2から分るように、電圧V1=3Vとした場合にレンズパワーが8.35ジオプトリと比較的大きく、且つ放物線状の2次関数特性に対する回帰分析における指標としての決定係数が0.9991と、比較的良好な特性が得られている。また、V1電圧が高くなると共にレンズパワーの可変範囲が広くなり、V1=5Vではレンズパワーが11.2ジオプトリと大きくなるが、光学位相差分布特性が理想的なレンズ特性を示す2次関数特性から内側に入ることで特性が劣化することが示されている。
【0034】
前記の口径が2mmの液晶レンズにV1=5Vの電圧を加えた補正無しの場合、及びV3としてV1及びV2に対して位相が反転した3Vの電圧を加えて補正を行った場合の開口孔内における液晶層に生じる光学位相差分布特性を
図3に示した。第4の電極に位相が反転した3Vの電圧を加えることで、光学位相差分布特性が2次関数特性から内側に入る効果が補正された良好な2次関数特性となり、決定係数が補正前の0.9805から0.9992へと改善され、レンズパワーが11.4ジオプトリと大きく、光学特性がすぐれた凸レンズ特性を有する液晶レンズを得ることができた。ここで、開口孔内における液晶層に生じる光学位相差分布特性の最大値が液晶層の複屈折と液晶層厚の積の値の85%となるようにV2電圧を調整している。
【0035】
図1に示した構造の液晶レンズにおいて、第1の電圧V1と第2の電圧V2の大小関係を逆にすること、すなわち中心に向かって電圧が次第に高くなるような電圧分布となるような電圧を印加すると、実効的な屈折率が中心から周辺部に向かって次第に大きくなるような屈折率分布特性となり、半径方向で液晶層は液晶のダイレクタの方向に偏光した入射光に対して発散する凹レンズ機能が得られる。この場合においても、第4の電極に印加する位相が反転した電圧V3を調整することでレンズ特性の改善を図ることができる。
次に、口径がより大きな液晶レンズを作製した。中心の円形電極23の径を9.28mm,第4の電極24の幅を1.36mmとし、それぞれの間は幅が80μmのスリットで分割されている。第2の電極22を外径が12.8mm、幅が0.16mmの円帯状電極とし、その外部にスリットを介して同じ中心を有し、各々の幅が0.16mm,2mm,0.16mmの3個の円帯電極からなる領域を構成し、内側から順にV4,V5,V6の電圧を印加する。ここで、第2の電極である円帯電極22の外部に同心円状の円帯電極からなる電極群を設けた部分をフレネル部と呼ぶことにすると、前記の第2の円帯電極の外部に設けた3個の円帯電極群からなる領域は第1のフレネル部となる。
さらにスリットを介して同様にそれぞれ3個の円帯電極群からなる第2及び第3のフレネル部を構成した。各フレネル部の半径は順に9.05mm,11.09mm,12・8mmであり、概ね中心の液晶レンズの半径の2,3,4の平方根倍となるようにした。また、各フレネル部の内側及び外側の円帯電極の幅はすべて同一の値である0.16mmとしているが、各フレネル部の中央の円帯電極の幅は第1フレネル部から順に2mm,1.52mm,1.12mmとなり、外側になるにしたがって幅が狭くなっている。第1、第2及び第3のフレネル部における内側、中央、外側の各円帯電極にはそれぞれV4,V5,V6の電圧を印加している。
上記のような構造寸法で、液晶材料としてはRDP85475を使用し、液晶層厚が60μmで、透明な高抵抗膜51の抵抗率を0.12Ωmとして、口径が約25mmのフレネル構造の液晶レンズを作製した。なお、中心の液晶レンズと第1のフレネル部、及び各フレネル部間では、透明高抵抗膜にはそれぞれ幅が240μmのスリットを入れることで各領域が電気的に分離されている。