(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165020
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】シス型環状カロテンを含む機能性食品用組成物及び機能性食品
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20221024BHJP
【FI】
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070189
(22)【出願日】2021-04-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 真己
【テーマコード(参考)】
4B018
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD07
4B018ME14
4B018MF10
4B018MF14
(57)【要約】
【課題】機能性食品として有用な組成物を提供する。
【解決手段】シス型環状カロテンを含む機能性食品用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シス型環状カロテンを含む機能性食品用組成物。
【請求項2】
組成物に含まれる環状カロテン全体の質量を100%とした場合にシス型環状カロテンを30%以上含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
環状カロテンとしてβ-カロテンを含み、
組成物に含まれるβ-カロテン全体の質量を100%とした場合に13シス型β-カロテンを15%以上含む請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
トランス型環状カロテンを熱処理して得られたシス型環状カロテンを含む請求項1から請求項3までのいずれ一項に記載の組成物。
【請求項5】
以下のシス型環状カロテン投与群の対象組織における環状カロテンの蓄積量が、以下のトランス型環状カロテン投与群の対象組織における環状カロテンの蓄積量に対して1.2倍以上である請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の組成物。
<トランス型環状カロテン投与群>
所定量の環状カロテンを含有するとともに、含有する環状カロテン全体の質量を100%とした場合にシス型環状カロテンが5%以下である組成物を、経口投与して14日後のラット。
<シス型環状カロテン投与群>
トランス型環状カロテン投与群で用いた組成物と同量の環状カロテンを含有するとともに、含有する環状カロテン全体の質量を100%とした場合にシス型環状カロテンが30%以上である組成物を、経口投与して14日後のラット。
【請求項6】
対象組織に蓄積された環状カロテン全体の質量を100%とした場合にシス型環状カロテンが25%以上である請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記対象組織が、肝臓、肺、腎臓、副腎、前立腺、及び精巣からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5又は請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
肝臓疾患の予防又は改善、又は肝機能の改善のために使用される請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
男性不妊症の予防又は改善のために使用される請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の組成物を含む機能性食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シス型環状カロテンを含む機能性食品用組成物及び機能性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界に広く存在するカロテノイド類は強力な抗酸化作用を有し、カラーバリエーションが多様であることから、健康食品や化粧品、食用色素など幅広い用途で利用されている。カロテノイドの中で、ニンジンやホウレンソウに含まれる橙色色素であるβ-カロテンは特に強力な抗酸化作用を示すため、近年注目を浴びている。
【0003】
一般に、天然のカロテノイドは二重結合がすべてトランス体のオールトランス型として存在する。近年、一部のカロテノイド(リコピン、アスタキサンチン)において、トランス型よりシス型の方が高い体内吸収性を示すことが報告されている。
【0004】
他方、非特許文献1及び非特許文献2では、β-カロテンにおいて、動物及びヒトに対する試験で微生物由来の9シス型の体内吸収性が評価され、シス型β-カロテンよりもトランス型β-カロテンの方が高い体内吸収性を示すと結論付けられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Erdman Jr., J.W.; Thatcher, A.J.; Hofmann, N.E.; Lederman, J.D.; Block, S.S.; Lee, C.M.; Mokady, S. All-trans β-carotene is absorbed preferentially to 9-cis β-carotene, but the latter accumulates in the tissues of domestic ferrets (Mustela putorius puro). J. Nutr. 128, 2009-2013 (1998).
【非特許文献2】Stahl, W.; Schwarz, W.; von Laar, J.; Sies, H. All-trans β-carotene preferentially accumulates in human chylomicrons and very low density lipoproteins compared with the 9-cis geometrical isomer. J. Nutr. 125, 2128-2133 (1995).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで肝臓、肺、腎臓、副腎、前立腺、及び精巣へのβ-カロテン等の環状カロテンの蓄積性については、評価されていないのが実情である。
【0007】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであって、肝臓、肺、腎臓、副腎、前立腺、及び精巣への蓄積性に優れ、機能性食品として有用な環状カロテンを含む機能性食品用組成物、及びそのような組成物を含む機能性食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の機能性食品用組成物は、シス型環状カロテンを含む。
【0009】
この機能性食品用組成物によれば、機能性食品の経口摂取による、肝臓、肺、腎臓、副腎、前立腺、及び精巣への環状カロテンの蓄積性に優れる。
【0010】
本発明の機能性食品は、上記の組成物を含む。
【0011】
この機能性食品によれば、経口摂取による、肝臓、肺、腎臓、副腎、前立腺、及び精巣への環状カロテンの蓄積性に優れる。
【0012】
したがって、本発明によれば、機能性食品として有用な環状カロテンを含む機能性食品用組成物、及びそのような組成物を含む機能性食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】上段はトランス型β-カロテン組成物のクロマトグラムであり、下段はシス型β-カロテン組成物のクロマトグラムである。
【
図2】β-カロテンの血漿への蓄積量と異性体比率を示す図である。
【
図3】β-カロテンの肝臓への蓄積量と異性体比率を示す図である。
【
図4】β-カロテンの肺への蓄積量と異性体比率を示す図である。
【
図5】β-カロテンの腎臓への蓄積量と異性体比率を示す図である。
【
図6】β-カロテンの副腎への蓄積量と異性体比率を示す図である。
【
図7】β-カロテンの前立腺への蓄積量と異性体比率を示す図である。
【
図8】β-カロテンの精巣への蓄積量と異性体比率を示す図である。
【
図9】血漿中のβ-カロテンのシス型比率を示すグラフである。
【
図10】対象組織中のβ-カロテンのシス型比率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
上記組成物は、組成物に含まれる環状カロテン全体の質量を100%とした場合にシス型環状カロテンを30%以上含んでいるとよい。この構成によれば、肝臓、肺、腎臓、副腎、前立腺、及び精巣への環状カロテンの蓄積量を十分に確保できる。
【0015】
上記組成物において、環状カロテンとしてβ-カロテンを含み、組成物に含まれるβ-カロテン全体の質量を100%とした場合に13シス型β-カロテンを15%以上含んでいるとよい。上記組成物において、トランス型環状カロテンを熱処理して得られたシス型環状カロテンを含んでいるとよい。この構成によれば、肝臓、肺、腎臓、副腎、前立腺、及び精巣への環状カロテンの蓄積量を十分に確保できる。
【0016】
上記組成物において、以下のシス型環状カロテン投与群の対象組織における環状カロテンの蓄積量が、以下のトランス型環状カロテン投与群の対象組織における環状カロテンの蓄積量に対して1.2倍以上であるとよい。
<トランス型環状カロテン投与群>
所定量の環状カロテンを含有するとともに、含有する環状カロテン全体の質量を100%とした場合にシス型環状カロテンが5%以下である組成物を、経口投与して14日後のラット。
<シス型環状カロテン投与群>
トランス型環状カロテン投与群で用いた組成物と同量の環状カロテンを含有するとともに、含有する環状カロテン全体の質量を100%とした場合にシス型環状カロテンが30%以上である組成物を、経口投与して14日後のラット。
【0017】
上記組成物において、対象組織に蓄積された環状カロテン全体の質量を100%とした場合にシス型環状カロテンが25%以上であるとよい。シス型環状カロテンはトランス型環状カロテンに比して抗酸化作用が高いといわれており、上記構成によれば、対象組織における疾患の予防及び改善が期待できる。
【0018】
前記対象組織が、肝臓、肺、腎臓、副腎、前立腺、及び精巣からなる群から選ばれる少なくとも1種であり得る。上記組成物は、肝臓疾患の予防又は改善、又は肝機能の改善のために使用されてもよい。上記組成物は、男性不妊症の予防又は改善のために使用されてもよい。これらの構成によれば、肝臓、肺、腎臓、副腎、前立腺、又は精巣における、疾患の予防及び改善に寄与でき、有用である。
【0019】
以下、本発明を具体化した実施形態について説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0020】
本発明の機能性食品用組成物は、シス型環状カロテンを含んでいる。
動物における環状カロテンの体内動態は、その異性体によって異なることが知られている。今回、異性体比率の異なる環状カロテンを哺乳動物に投与し、体内吸収性と蓄積性を評価した結果、トランス型環状カロテンよりもシス型環状カロテンの方が、肝臓、肺、腎臓、副腎、前立腺、及び精巣への蓄積性が有意に高いことが明らかとなった。環状カロテンの効能は、肝機能の改善や精子の質の改善等が特に注目されており、シス型環状カロテンはそれらに関与する部位に高い蓄積性を示すことを見出した。
【0021】
環状カロテンは、化学式C40H56(分子量536.87)で表されるカロテノイドの1種であり、少なくとも一方の末端にβ環構造又はε環構造を有するカロテンである。自然界においては、環状カロテンはリコピンの末端の環化により生合成される。環状カロテンとしては、例えば、β-カロテン(β,β-カロテン)、α-カロテン(β,ε-カロテン)等が挙げられる。これらの中でも、コストの面、供給量の面、更にプロビタミンA活性の高さの観点から、組成物は、環状カロテンとしてβ-カロテンを含むことが好ましい。
【0022】
環状カロテンは11個の共役二重結合を有するため、様々なシス異性体が存在する。本願においては、環状カロテン(β-カロテン)の共役二重結合のうち1個でもシス型を含む異性体をシス型環状カロテン(シス型β-カロテン)と称し、すべてがトランス型である異性体をオールトランス型環状カロテン(オールトランス型β-カロテン)と称する。単に「環状カロテン(β-カロテン)」という場合には、シス型環状カロテン(シス型β-カロテン)とオールトランス型環状カロテン(オールトランス型β-カロテン)の双方を含むものとする。本願においては、炭素骨格の配置がトランス型のときをEとして表し、シス型のときをZとしてその位置を番号で表す。例えば、(all-E)-β-カロテンは、二重結合がすべてトランス型であるトランス型β-カロテンを表す。(13Z)-β-カロテンは、13位の炭素がシス型である13シス型β-カロテンを表す。(9Z)-β-カロテンは、9位の炭素がシス型である9シス型β-カロテンを表す。
【0023】
本発明の組成物は、組成物に含まれる環状カロテン全体の質量を100%とした場合にシス型環状カロテンを30%以上含むことが好ましい。シス型環状カロテンの上記含有率は、対象組織への環状カロテンの蓄積量向上の観点から、より好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上、更に好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上、更に好ましくは75%以上である。また、シス型環状カロテンの上記含有率は、製造性の観点から、好ましくは98%以下、より好ましくは95%以下、更に好ましくは90%以下である。シス型環状カロテンの上記含有率の下限値及び上限値は任意に組み合わせることができる。例えば、シス型環状カロテンの上記含有率は、30%以上98%以下であることが好ましい。なお、組成物の総環状カロテン中、シス型環状カロテンの含有率の残部がトランス型環状カロテンの含有率である。
以下、環状カロテンの質量(100%)を基準としたシス型環状カロテンの含有率を単に「シス型環状カロテン含有率」ともいう。
【0024】
環状カロテンとしてβ-カロテンを含む場合において、組成物は、組成物に含まれるβ-カロテン全体の質量を100%とした場合に13シス型β-カロテンを15%以上含むことが好ましい。13シス型β-カロテンの上記含有率は、対象組織への環状カロテンの蓄積量向上の観点から、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上、更に好ましくは45%以上である。13シス型β-カロテンの上記含有率の上限は特に限定されないが、製造性の観点から、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下、更に好ましくは55%以下である。組成物は、β-カロテンのすべての異性体中13シス型β-カロテンが最も多いこと、すなわち13シス型β-カロテンを主成分とすることがより好ましい。その理由は定かではないが、13シス型β-カロテンを多く含む組成物を用いた場合には、従来の知見に反して、β-カロテンの体内吸収性が高く、更には体内蓄積性が高い組成物を得ることができる可能性がある。
このようなシス型異性体比率の組成物は、オールトランス型β-カロテンに熱処理を施すことで、好適に得ることができる。
【0025】
本発明の組成物は、環状カロテン以外の任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分の含有量は組成物全体を100質量%とした場合に、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることが更に好ましい。また、環状カロテン精製物を組成物とした場合等において、組成物全体の質量を100%とした場合のシス型環状カロテンの含有量は、上述した組成物中環状カロテンの質量(100%)を基準としたシス型環状カロテン含有率と同じであってもよい。すなわち、組成物全体の質量を100%とした場合のシス型環状カロテンの下限値及び上限値は、上述のシス型環状カロテン含有率と同じとすることができる。
【0026】
本発明の組成物は、市販品を用いることができ、あるいは従来の化学合成法により製造することができる。また、化学合成又は天然由来の環状カロテンを上記組成の範囲内で混合することにより製造されたものであってもよい。ヒトに摂食させる場合には、安全性の観点から、天然物由来の環状カロテンであることがより好ましい。
【0027】
β-カロテンを含む天然物としては、ニンジン、ホウレンソウ、トマト、カボチャ、パーム、藻類(デュナリエラ)などを例示することができ、パームとデュナリエラを好適に用いることができる。α-カロテンを含む天然物としては、ニンジン、インゲン、カボチャなどを例示することができる。しかし、天然物由来の環状カロテンは、一般的に、シス型環状カロテン含有率が十分ではない(例えば、10質量%以下)。組成物に含まれる環状カロテンが天然物由来の環状カロテンである場合には、シス型環状カロテン含有率を増加させるための処理を施してもよい。シス型環状カロテン含有率を増加させるための処理は、例えば、簡便な手法として熱処理を例示することができる。なお、シス型環状カロテン含有率を増加させるための処理は、熱処理に限られず、マイクロ波照射、光照射処理、環状カロテンのシス異性化反応を促進する所定の触媒を用いた処理等であってもよい。さらに、シス型環状カロテン含有率を高度に高める手法としては、トランス型環状カロテンとシス型環状カロテンの溶解度の差を利用した分離法等を例示することができる。このような方法によれば、組成物中のシス型環状カロテンの含有率が75%以上であるシス型環状カロテンが高度に濃縮された組成物を得ることができる。
【0028】
また、本発明の組成物は、エタノールや超臨界二酸化炭素で抽出された抽出物であることが好ましい。シス型環状カロテンは、オールトランス型環状カロテンよりもエタノールや超臨界二酸化炭素への溶解度が高い。シス型環状カロテンをエタノールや超臨界二酸化炭素で抽出することによって、人体への安全性の高い溶媒を用いて、より多くのシス型環状カロテンを含む組成物を得ることができる。
本発明の組成物において、環状カロテン含有量及び環状カロテンがシス型であることの確認は、例えばHPLC(高速液体クロマトグラフィー)等により行うことができる。
【0029】
本発明の組成物は、錠剤、カプセル、顆粒、粉末、タブレット、ゼリー、グミ、ガム、ドリンク、ペットボトル等の任意の形態に添加または封入するか、あるいは任意の飲食品に添加することで、食品組成物とすることができる。本発明において、「食品組成物」には、固形組成物のほか、飲用のための液体組成物が含まれる。
【0030】
食品組成物の種類は特に限定されない。
食品組成物は、例えば、菓子類(ゼリー、ヨーグルト、プリン、ビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム)、レトルト食品、スープ、ジュース類、お茶類、ゼリー飲料、粉末飲料、乳製品等の食品又は飲料に含めることができる。
【0031】
また、食品組成物は、加工性、保存性等の観点から、植物油にシス型環状カロテンを溶解又は分散させたものであってもよい。植物油としては、常温で液体のものが好適である。植物油は、大豆油、コーン油、ごま油、からし油、オリーブ油、及びひまわり油から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。この食品組成物における総環状カロテン濃度は、特に限定されないが、0.1mg/mL~100mg/mLであることが好ましく、1mg/mL~50mg/mLであることがより好ましく5mg/mL~20mg/mLであることが更に好ましい。この食品組成物は、野菜スープ、ドレッシング等、各種の食品の着色料としても使用できる。
【0032】
本発明の組成物は、上記食品又は飲料の形態で、機能性食品(健康食品、サプリメントを含む)として使用することができる。
シス型環状カロテンの機能性食品中の配合量は、食品の種類により異なるが、食品の味を損なわず、且つ十分な体内蓄積性を得る観点から、機能性食品全体の質量を100%とした場合に、0.01%~10%であることが好ましく、0.1%~5%であることがより好ましい。
【0033】
また、本発明の組成物には、必要に応じて甘味剤、調味料、乳化剤、懸濁化剤、防腐剤等を添加することができる。
本発明の組成物の用量は、摂取者の年齢、体重、性別、状態等の要因によって適宜変更することができる。例えば、本発明の組成物の1日当たりの摂取量は、シス型環状カロテン換算で体重60kgの成人1日当たり、0.001mg~100mg、好ましくは0.005mg~70mg、より好ましくは0.01mg~50mg、更に好ましくは0.1mg~20mgであるが、この範囲に限定されるものではない。必要に応じて、上記摂取量を1日あたり1回又は数回、例えば2~3回に分けて分割摂取することもできる。
【0034】
本発明の組成物は、肝臓、肺、腎臓、副腎、前立腺、及び精巣などの対象組織に対して高い蓄積性を示す。特に、肝臓、副腎、及び精巣に対しては、特に高い蓄積性を示す。
上記組成物は、後述するシス型環状カロテン投与群の対象組織における環状カロテンの蓄積量が、後述するトランス型環状カロテン投与群の対象組織における環状カロテンの蓄積量に対して2倍以上であることが好ましい。トランス型環状カロテン投与群の対象組織における環状カロテン濃度(pmol/g)をAとし、シス型環状カロテン投与群の対象組織における環状カロテン濃度(pmol/g)をBとすると、トランス型環状カロテン投与群の対象組織における環状カロテンの蓄積量に対するシス型環状カロテン投与群の対象組織における環状カロテンの蓄積量はB/Aとして算出できる。B/Aは、好ましくは1.2以上であり、より好ましくは1.3以上であり、更に好ましくは1.5以上、2以上、3以上、4以上、6以上、8以上、10以上である。B/Aの上限値は特に限定されない。B/Aの上限値は、通常20以下であり、トランス型環状カロテン投与群の対象組織における環状カロテン濃度(pmol/g)が検出限界以下の場合には規定されない。
【0035】
上記組成物は、経口摂取を開始して14日後のラットにおいて、対象組織に蓄積された環状カロテン全体の質量を100%とした場合にシス型環状カロテンが25%以上であることが好ましい。対象組織に蓄積された環状カロテンの総量を100%とした場合のシス型環状カロテンの割合を「対象組織の総シス型比率」とも称する。対象組織の総シス型比率は、より好ましくは30%以上であり、更に好ましくは35%以上、40%以上である。これらの対象組織の総シス型比率の上限値は特に限定されないが、例えば60%以下である。
【0036】
従って、本発明の組成物は、上記対象組織における疾患の予防又は改善に有用である。例えば、文献「Free Radic. Biol. Med., 17, 77-82, 1994」では、オールトランス型β-カロテンよりもシス型β-カロテンの方が抗酸化能が高いことが示されている。文献「J. Funct. Foods, 1, 88-97, 2009」では、カロテノイドの1種であるフコキサンチンにおいて、オールトランス型よりシス型の方が前立腺がん細胞の抗増殖作用に優れることが示されている。
【0037】
例えば、本発明の組成物の各組織における用途として以下のものが挙げられる。
血液:動脈硬化、血流改善など
肝臓:肝臓疾患の予防又は改善、肝機能の改善
肺:肺気腫の予防又は改善など
腎臓:腎症の予防又は改善など
副腎:副腎疲労の予防又は改善など
前立腺:前立腺がん、前立腺肥大症の予防又は改善など
精巣:男性不妊症の予防又は改善、精子数改善など
【実施例0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
[製造例]
実施例に使用するシス型β-カロテン含有組成物は以下の方法により製造した。
まず、文献「Eur. J. Lipid Sci. Technol., 120, 1800191, 2018」に記載の方法に準じて、トランス型β-カロテン標準品(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、ジクロロメタンに2mg/mLの濃度で溶解し、80℃で5時間、熱処理した。得られたβ-カロテン溶液を減圧下で蒸発乾固させ、残留物を4℃に保持したエタノールに1時間懸濁した。その後、得られたエタノール溶液の不溶性物質(主に(all-E)-β-カロテン)を、0.22μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)メンブレンフィルターを用いて除去した。次に、減圧下でエタノールを除去して、シス型β-カロテンを得た。
【0039】
製造されたシス型β-カロテンは大豆油に懸濁させてシス型β-カロテン組成物(濃度10mg/mL)とし、使用まで暗所で冷凍保存した(-60℃)。以下、シス型β-カロテン組成物を単に「シス型β-カロテン」ともいう。
なお、トランス型β-カロテン組成物(濃度10mg/mL、単に「トランス型β-カロテン」ともいう)は、トランス型β-カロテン標準品(富士フイルム和光純薬株式会社製)を大豆油に懸濁させて得た。
【0040】
図1の上段はトランス型β-カロテン組成物のクロマトグラムであり、下段はシス型β-カロテン組成物のクロマトグラムである。トランス型β-カロテン組成物は、シス型β-カロテン含有率が3.1%であった。シス型β-カロテン組成物は、シス型β-カロテン含有率が83.6%、13シス型β-カロテン含有率が49.6%であった。
【0041】
[方法]
ラット(SDラット、オス、7週齢、n=5)に対して、トランス型β-カロテン(シス型β-カロテンの含有率3.1%)又はシス型β-カロテン(シス型β-カロテンの含有率83.6%、13シス型β-カロテン含有率49.6%)を投与量10mg/kg 体重/dayで14日間連続経口投与した。
最終投与後に各種組織(肝臓、肺、腎臓、副腎、前立腺、及び精巣)を採取し、それぞれの組織におけるβ-カロテン蓄積量を分析した。
【0042】
[測定結果]
図2は、β-カロテンの血漿への蓄積量と異性体比率(14日後)を示す。
シス型β-カロテン投与群の血漿中β-カロテン濃度は、6.63pmol/gであった。トランス型β-カロテン投与群の血漿中β-カロテン濃度は、1.27pmol/gであった。シス型β-カロテン投与群の血漿中β-カロテン濃度は、トランス型β-カロテン投与群の5.2倍である。シス型β-カロテン投与群は、血漿中にβ-カロテンが高濃度で蓄積することが示された。
なお、β-カロテン濃度は、平均値で表している。各グラフにおいて、エラーバーは標準偏差を表している。2群間の比較のために、スチューデントのt検定を用いて統計分析を行った。p<0.05、p<0.01の値を統計学的に有意と見なし、それぞれ「*」、「**」を付した。本実施例において、以下、同様に表記する。
【0043】
シス型β-カロテン投与群及びトランス型β-カロテン投与群の血漿における、β-カロテンの各異性体の比率を表1に示す。シス型β-カロテン投与群において、総シス型比率は46.4%であった。
【0044】
【0045】
表1において、「Diet」は投与したβ-カロテン(BC)の種類を表す。「(all-E)-BC」はトランス型β-カロテン、「(Z)-BC」はシス型β-カロテンを表す。異性体のうち、「all-E」はトランス型、「9Z」は9シス型、「13Z」は13シス型を表す。「Other Z」は、9Z及び13Z以外の他のシス型を表す。本実施例において、以下、同様に表記する。
【0046】
図3は、β-カロテンの肝臓への蓄積量と異性体比率(14日後)を示す。
シス型β-カロテン投与群の肝臓中β-カロテン濃度は、0.42pmol/gであった。トランス型β-カロテン投与群の肝臓中β-カロテン濃度は、0.05pmol/gであった。シス型β-カロテン投与群の肝臓中β-カロテン濃度は、トランス型β-カロテン投与群の8.4倍である。シス型β-カロテン投与群は、肝臓中にβ-カロテンが高濃度で蓄積することが示された。
シス型β-カロテン投与群及びトランス型β-カロテン投与群の肝臓における、β-カロテンの各異性体の比率を表2に示す。シス型β-カロテン投与群において、総シス型比率は44.3%であった。
【0047】
【0048】
図4は、β-カロテンの肺への蓄積量と異性体比率(14日後)を示す。
シス型β-カロテン投与群の肺中β-カロテン濃度は、4.73pmol/gであった。トランス型β-カロテン投与群の肺中β-カロテン濃度は、2.12pmol/gであった。シス型β-カロテン投与群の肺中β-カロテン濃度は、トランス型β-カロテン投与群の2.2倍である。シス型β-カロテン投与群は、肺中にβ-カロテンが高濃度で蓄積することが示された。
シス型β-カロテン投与群及びトランス型β-カロテン投与群の肺における、β-カロテンの各異性体の比率を表3に示す。シス型β-カロテン投与群において、総シス型比率は43.3%であった。
【0049】
【0050】
図5は、β-カロテンの腎臓への蓄積量と異性体比率(14日後)を示す。
シス型β-カロテン投与群の腎臓中β-カロテン濃度は、0.62pmol/gであった。トランス型β-カロテン投与群の腎臓中β-カロテン濃度は、0.33pmol/gであった。シス型β-カロテン投与群の腎臓中β-カロテン濃度は、トランス型β-カロテン投与群の1.9倍である。シス型β-カロテン投与群は、腎臓中にβ-カロテンが高濃度で蓄積することが示された。
シス型β-カロテン投与群及びトランス型β-カロテン投与群の腎臓における、β-カロテンの各異性体の比率を表4に示す。シス型β-カロテン投与群において、総シス型比率は29.0%であった。
【0051】
【0052】
図6は、β-カロテンの副腎への蓄積量と異性体比率(14日後)を示す。
シス型β-カロテン投与群の副腎中β-カロテン濃度は、0.11pmol/gであった。トランス型β-カロテン投与群の副腎中β-カロテン濃度は、0.01pmol/gであった。シス型β-カロテン投与群の副腎中β-カロテン濃度は、トランス型β-カロテン投与群の11倍である。シス型β-カロテン投与群は、副腎中にβ-カロテンが高濃度で蓄積することが示された。
シス型β-カロテン投与群及びトランス型β-カロテン投与群の副腎における、β-カロテンの各異性体の比率を表5に示す。シス型β-カロテン投与群において、総シス型比率は44.2%であった。
【0053】
【0054】
図7は、β-カロテンの前立腺への蓄積量と異性体比率(14日後)を示す。
シス型β-カロテン投与群の前立腺中β-カロテン濃度は、2.13pmol/gであった。トランス型β-カロテン投与群の前立腺中β-カロテン濃度は、0.67pmol/gであった。シス型β-カロテン投与群の前立腺中β-カロテン濃度は、トランス型β-カロテン投与群の3.2倍である。シス型β-カロテン投与群は、前立腺中にβ-カロテンが高濃度で蓄積することが示された。
シス型β-カロテン投与群及びトランス型β-カロテン投与群の前立腺における、β-カロテンの各異性体の比率を表6に示す。シス型β-カロテン投与群において、総シス型比率は17.1%であった。
【0055】
【0056】
図8は、β-カロテンの精巣への蓄積量と異性体比率(14日後)を示す。
シス型β-カロテン投与群の精巣中β-カロテン濃度は、1.28pmol/gであった。トランス型β-カロテン投与群の精巣中β-カロテン濃度は、0.21pmol/gであった。シス型β-カロテン投与群の精巣中β-カロテン濃度は、トランス型β-カロテン投与群の6.1倍である。シス型β-カロテン投与群は、精巣中にβ-カロテンが高濃度で蓄積することが示された。
シス型β-カロテン投与群及びトランス型β-カロテン投与群の精巣における、β-カロテンの各異性体の比率を表7に示す。シス型β-カロテン投与群において、総シス型比率は37.4%であった。
【0057】
【0058】
図9は、血漿中のβ-カロテンのシス型比率を示すグラフである。横軸の「E-BC-D」はトランス型β-カロテン投与群を表し、「Z-BC-D」はシス型β-カロテン投与群を表す。縦軸はβ-カロテン異性体の比率(%、質量比)を表す。「Diet」のラベルが付されたグラフは、餌に含まれるβ-カロテン組成物の異性体比率である。「6h-PL」のラベルが付されたグラフは、初めてβ-カロテン組成物を含む餌を投与してから6時間後の血漿中の異性体比率である。「2wk-PL」のラベルが付されたグラフは、β-カロテン組成物を含む餌を投与してから14日後の血漿中の異性体比率である。
【0059】
図10は、対象組織中のβ-カロテンのシス型比率を示すグラフである。横軸の「E-BC-D」はトランス型β-カロテン投与群を表し、「Z-BC-D」はシス型β-カロテン投与群を表す。縦軸はβ-カロテン異性体の比率(%、質量比)を表す。「Diet」のラベルが付されたグラフは、餌に含まれるβ-カロテン組成物の異性体比率である。その他のグラフは、β-カロテン組成物を含む餌を投与してから14日後の対象組織中の異性体比率のグラフである。各ラベルは以下対象組織を表す。
「Liver」:肝臓
「Lung」:肺
「Kidney」:腎臓
「Adrenal」:副腎
「Prostate」:前立腺
「Testis」:精巣
【0060】
[まとめ]
β-カロテンの体内蓄積性は、トランス型β-カロテン投与群よりもシス型β-カロテン投与群の方が高かった。具体的には、肝臓、肺、腎臓、副腎、前立腺、及び精巣への蓄積優位性が確認され(トランス型β-カロテン投与群の1.2倍以上)、特に、肝臓、腎臓、及び精巣への蓄積優位性が確認された(トランス型β-カロテン投与群の5倍以上)。
肝臓、肺、腎臓、副腎、及び精巣の総シス型比率は25%以上であった。シス型β-カロテンは、肝臓、肺、腎臓、副腎、及び精巣に蓄積して抗酸化作用を奏することが期待される。
【0061】
β-カロテンは、肝機能改善や精子の質を改善すること等が知られている。シス型β-カロテン組成物を投与した場合、β-カロテンの肝臓及び精巣への蓄積性が高いことが示されたことから、本発明の組成物は、肝臓疾患の予防又は改善、又は肝機能の改善、男性不妊症の予防又は改善に有用である。