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特開2022-165021シス型ルテインを含む機能性食品用組成物及び機能性食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165021
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】シス型ルテインを含む機能性食品用組成物及び機能性食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20221024BHJP
   A61K 31/047 20060101ALI20221024BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20221024BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20221024BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20221024BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20221024BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K31/047
A61P1/16
A61K8/34
A61Q17/04
A61Q19/02
A61Q19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070190
(22)【出願日】2021-04-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 真己
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD08
4B018ME14
4B018MF04
4C083AC111
4C083AC112
4C083CC02
4C083CC19
4C083EE12
4C083EE16
4C083EE17
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA09
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZC52
(57)【要約】
【課題】機能性食品として有用な組成物を提供する。
【解決手段】シス型ルテインを含む機能性食品用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シス型ルテインを含む機能性食品用組成物。
【請求項2】
組成物に含まれるルテイン全体の質量を100%とした場合にシス型ルテインを30%以上含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
以下のシス型ルテイン投与群の対象組織におけるルテインの蓄積量が、以下のトランス型ルテイン投与群の対象組織におけるルテインの蓄積量に対して1.2倍以上である請求項2に記載の組成物。
<トランス型ルテイン投与群>
所定量のルテインを含有するとともに、含有するルテイン全体の質量を100%とした場合にシス型ルテインが5%以下である組成物を、経口投与して14日後のラット。
<シス型ルテイン投与群>
トランス型ルテイン投与群で用いた組成物と同量のルテインを含有するとともに、含有するルテイン全体の質量を100%とした場合にシス型ルテインが30%以上である組成物を、経口投与して14日後のラット。
【請求項4】
対象組織に蓄積されたルテイン全体の質量を100%とした場合にシス型ルテインが40%以上である請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
対象組織に蓄積された13シス型ルテインと13′シス型ルテインの合計量よりも、9シス型ルテインと9′シス型ルテインの合計量の方が多い請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記対象組織が、肝臓、肺、腎臓、前立腺、精巣、及び皮膚からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3から請求項5までのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
肝臓疾患の予防又は肝機能の改善のために使用される請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
日焼け止め又は美白、又はしわの予防のために使用される請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の組成物を含む機能性食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シス型ルテインを含む機能性食品用組成物及び機能性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界に広く存在するカロテノイド類は強力な抗酸化作用を有し、カラーバリエーションが多様であることから、健康食品や化粧品、食用色素など幅広い用途で利用されている。カロテノイドの中で、トウモロコシやマリーゴールド、卵黄に含まれる黄色色素であるルテインは特に強力な抗酸化作用を示すため、近年注目を浴びている。
【0003】
一般に、天然のカロテノイドは二重結合がすべてトランス体のオールトランス型として存在する。近年、一部のカロテノイド(リコピン、アスタキサンチン)において、トランス型よりシス型の方が高い体内吸収性を示すことが報告されている。
【0004】
他方、非特許文献1では、ルテインにおいて、細胞試験によりトランス型とシス型の吸収性の差異が評価され、シス型ルテインよりもトランス型ルテインの方が高い体内吸収性を示すと結論付けられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cheng Yang, Maike Fischer, Chris Kirby, Ronghua Liu, Honghui Zhu, Hua Zhang, Yuhuan Chen, Yong Sun, Lianfu Zhang, Rong Tsao. Bioaccessibility, cellular uptake and transport of luteins and assessment of their antioxidant activities. Food Chemistry 2018, 249 , 66-76.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで肝臓、肺、腎臓、前立腺、精巣、及び皮膚へのルテインの蓄積性については、評価されていないのが実情である。
【0007】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであって、肝臓、肺、腎臓、前立腺、精巣、及び皮膚への蓄積性に優れ、機能性食品として有用なルテインを含む機能性食品用組成物、及びそのような組成物を含む機能性食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の機能性食品用組成物は、シス型ルテインを含む。
【0009】
この機能性食品用組成物によれば、機能性食品の経口摂取による、肝臓、肺、腎臓、前立腺、精巣、及び皮膚へのルテインの蓄積性に優れる。
【0010】
本発明の機能性食品は、上記の組成物を含む。
【0011】
この機能性食品によれば、経口摂取による、肝臓、肺、腎臓、前立腺、精巣、及び皮膚へのルテインの蓄積性に優れる。
【0012】
したがって、本発明によれば、機能性食品として有用なルテインを含む機能性食品用組成物、及びそのような組成物を含む機能性食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】上段はトランス型ルテイン組成物のクロマトグラムであり、下段はシス型ルテイン組成物のクロマトグラムである。
図2】ルテインの血漿への蓄積量と異性体比率を示す図である。
図3】ルテインの肝臓への蓄積量と異性体比率を示す図である。
図4】ルテインの肺への蓄積量と異性体比率を示す図である。
図5】ルテインの腎臓への蓄積量と異性体比率を示す図である。
図6】ルテインの前立腺への蓄積量と異性体比率を示す図である。
図7】ルテインの精巣への蓄積量と異性体比率を示す図である。
図8】ルテインの皮膚への蓄積量と異性体比率を示す図である。
図9】シス型ルテイン及びトランス型ルテインの紫外線に対する吸収スペクトルを示す図である。
図10】血漿中のルテインのシス型比率を示すグラフである。
図11】対象組織中のルテインのシス型比率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
上記組成物は、組成物に含まれるルテイン全体の質量を100%とした場合にシス型ルテインを30%以上含んでいるとよい。この構成によれば、肝臓、肺、腎臓、前立腺、精巣、及び皮膚へのルテインの蓄積量を十分に確保できる。
【0015】
上記組成物において、以下のシス型ルテイン投与群の対象組織におけるルテインの蓄積量が、以下のトランス型ルテイン投与群の対象組織におけるルテインの蓄積量に対して1.2倍以上であるとよい。
<トランス型ルテイン投与群>
所定量のルテインを含有するとともに、含有するルテイン全体の質量を100%とした場合にシス型ルテインが5%以下である組成物を、経口投与して14日後のラット。
<シス型ルテイン投与群>
トランス型ルテイン投与群で用いた組成物と同量のルテインを含有するとともに、含有するルテイン全体の質量を100%とした場合にシス型ルテインが30%以上である組成物を、経口投与して14日後のラット。
【0016】
上記組成物において、対象組織に蓄積されたルテイン全体の質量を100%とした場合にシス型ルテインが40%以上であるとよい。シス型ルテインはトランス型ルテインに比して抗酸化作用が高いといわれており、上記構成によれば、対象組織における疾患の予防及び改善が期待できる。
【0017】
上記組成物において、対象組織に蓄積された13シス型ルテインと13′シス型ルテインの合計量よりも、9シス型ルテインと9′シス型ルテインの合計量の方が多くてもよい。
【0018】
前記対象組織が、肝臓、肺、腎臓、前立腺、精巣、及び皮膚からなる群から選ばれる少なくとも1種であり得る。上記組成物は、肝臓疾患の予防又は改善、又は肝機能の改善のために使用されてもよい。上記組成物は、日焼け止め又は美白、又はしわの予防のために使用されてもよい。これらの構成によれば、肝臓、肺、腎臓、前立腺、精巣、又は皮膚における、疾患の予防及び改善、又は皮膚における美肌作用に寄与でき、有用である。
【0019】
以下、本発明を具体化した実施形態について説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0020】
本発明の機能性食品用組成物は、シス型ルテインを含んでいる。
動物におけるルテインの体内動態は、その異性体によって異なることが知られている。今回、異性体比率の異なるルテインを哺乳動物に投与し、体内吸収性と蓄積性を評価した結果、トランス型ルテインよりもシス型ルテインの方が肝臓、肺、腎臓、前立腺、精巣、及び皮膚への蓄積性が有意に高いことが明らかとなった。ルテインの効能は、肝機能の改善や皮膚の健康維持(美肌作用)等が特に注目されており、シス型ルテインはそれらに関与する部位に高い蓄積性を示すことを見出した。
【0021】
ルテインは、化学式C4056(分子量568.871)で表されるカロテノイドの1種である。ルテインは10個の共役二重結合を有するため、様々なシス異性体が存在する。本願においては、ルテインの共役二重結合のうち1個でもシス型を含む異性体をシス型ルテインと称し、すべてがトランス型である異性体をオールトランス型ルテインと称する。単に「ルテイン」という場合には、シス型ルテインとオールトランス型ルテインの双方を含むものとする。本願においては、炭素骨格の配置がトランス型のときをEとして表し、シス型のときをZとしてその位置を番号で表す。例えば、(all-E)-ルテインは、二重結合がすべてトランス型であるトランス型ルテインを表す。(13Z)-ルテインは、13位の炭素がシス型である13シス型ルテインを表す。(13’Z)-ルテインは、13’位の炭素がシス型である13シス型ルテインを表す。(9Z)-ルテインは、9位の炭素がシス型である9シス型ルテインを表す。(9’Z)-ルテインは、9’位の炭素がシス型である9シス型ルテインを表す。
【0022】
本発明の組成物は、組成物に含まれるルテイン全体の質量を100%とした場合にシス型ルテインを30%以上含むことが好ましい。シス型ルテインの上記含有率は、対象組織へのルテインの蓄積量向上の観点から、より好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上である。また、シス型ルテインの上記含有率は、製造性の観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは70%以下である。シス型ルテインの上記含有率の下限値及び上限値は任意に組み合わせることができる。例えば、シス型ルテインの上記含有率は、30%以上90%以下であることが好ましい。なお、組成物の総ルテイン中、シス型ルテインの含有率の残部がトランス型ルテインの含有率である。
以下、ルテインの質量(100%)を基準としたシス型ルテインの含有率を単に「シス型ルテイン含有率」ともいう。
【0023】
組成物は、組成物に含まれるルテイン全体の質量を100%とした場合に9シス型ルテインを10%以上含むことが好ましい。組成物は、組成物に含まれるルテイン全体の質量を100%とした場合に9’シス型ルテインを10%以上含むことが好ましい。組成物は、組成物に含まれるルテイン全体の質量を100%とした場合に13シス型ルテインを10%以上含むことが好ましい。組成物は、組成物に含まれるルテイン全体の質量を100%とした場合に13’シス型ルテインを8%以上含むことが好ましい。これらの各異性体の含有率は、特に限定されないが、製造性の観点から、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。その理由は定かではないが、これらの異性体を所定量含む組成物を用いた場合には、従来の知見に反して、ルテインの体内吸収性が高く、更には体内蓄積性が高い組成物を得ることができる可能性がある。
このようなシス型異性体比率の組成物は、オールトランス型ルテインに熱処理を施すことで、好適に得ることができる。
【0024】
本発明の組成物は、ルテイン以外の任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分の含有量は組成物全体を100質量%とした場合に、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることが更に好ましい。また、ルテイン精製物を組成物とした場合等において、組成物全体の質量を100%とした場合のシス型ルテインの含有量は、上述した組成物中ルテインの質量(100%)を基準としたシス型ルテイン含有率と同じであってもよい。すなわち、組成物全体の質量を100%とした場合のシス型ルテインの下限値及び上限値は、上述のシス型ルテイン含有率と同じとすることができる。
【0025】
本発明の組成物は、市販品を用いることができ、あるいは従来の化学合成法により製造することができる。また、化学合成又は天然由来のルテインを上記組成の範囲内で混合することにより製造されたものであってもよい。ヒトに摂食させる場合には、安全性の観点から、天然物由来のルテインであることがより好ましい。
【0026】
ルテインを含む天然物としては、マリーゴールド、トウモロコシ、ケール、卵黄、藻類などを例示することができ、マリーゴールドを好適に用いることができる。しかし、天然物由来のルテインは、一般的に、シス型ルテイン含有率が十分ではない(例えば、10質量%以下)。組成物に含まれるルテインが天然物由来のルテインである場合には、シス型ルテイン含有率を増加させるための処理を施してもよい。シス型ルテイン含有率を増加させるための処理は、例えば、簡便な手法として熱処理を例示することができる。なお、シス型ルテイン含有率を増加させるための処理は、熱処理に限られず、マイクロ波照射や、光照射処理、ルテインのシス異性化反応を促進する所定の触媒を用いた処理等であってもよい。さらに、シス型ルテイン含有率を高度に高める手法としては、トランス型ルテインとシス型ルテインの溶解度の差を利用した分離法等を例示することができる。このような方法によれば、組成物中のシス型ルテインの含有率が50%以上であるシス型ルテインが高度に濃縮された組成物を得ることができる。
【0027】
また、本発明の組成物は、エタノールで抽出された抽出物であることが好ましい。シス型ルテインは、オールトランス型ルテインよりもエタノールへの溶解度が高い。シス型ルテインをエタノールで抽出することによって、人体への安全性の高い溶媒を用いて、より多くのシス型ルテインを含む組成物を得ることができる。
本発明の組成物において、ルテイン含有量及びルテインがシス型であることの確認は、例えばHPLC(高速液体クロマトグラフィー)等により行うことができる。
【0028】
本発明の組成物は、錠剤、カプセル、顆粒、粉末、タブレット、ゼリー、グミ、ガム、ドリンク、ペットボトル等の任意の形態に添加または封入するか、あるいは任意の飲食品に添加することで、食品組成物とすることができる。本発明において、「食品組成物」には、固形組成物のほか、飲用のための液体組成物が含まれる。
【0029】
食品組成物の種類は特に限定されない。
食品組成物は、例えば、菓子類(ゼリー、ヨーグルト、プリン、ビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム)、レトルト食品、スープ、ジュース類、お茶類、ゼリー飲料、粉末飲料、乳製品等の食品又は飲料に含めることができる。
【0030】
また、食品組成物は、加工性、保存性等の観点から、植物油にシス型ルテインを溶解又は分散させたものであってもよい。植物油としては、常温で液体のものが好適である。植物油は、大豆油、コーン油、ごま油、からし油、オリーブ油、及びひまわり油から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。この食品組成物における総ルテイン濃度は、特に限定されないが、0.1mg/mL~100mg/mLであることが好ましく、1mg/mL~50mg/mLであることがより好ましく5mg/mL~20mg/mLであることが更に好ましい。この食品組成物は、野菜スープ、ドレッシング等、各種の食品の着色料としても使用できる。
【0031】
本発明の組成物は、上記食品又は飲料の形態で、機能性食品(健康食品、サプリメントを含む)として使用することができる。
シス型ルテインの機能性食品中の配合量は、食品の種類により異なるが、食品の味を損なわず、且つ十分な体内蓄積性を得る観点から、機能性食品全体の質量を100%とした場合に、0.01%~10%であることが好ましく、0.1%~5%であることがより好ましい。
【0032】
また、本発明の組成物には、必要に応じて甘味剤、調味料、乳化剤、懸濁化剤、防腐剤等を添加することができる。
本発明の組成物の用量は、摂取者の年齢、体重、性別、状態等の要因によって適宜変更することができる。例えば、本発明の組成物の1日当たりの摂取量は、シス型ルテイン換算で体重60kgの成人1日当たり、0.001mg~100mg、好ましくは0.005mg~70mg、より好ましくは0.01mg~50mg、更に好ましくは0.1mg~20mgであるが、この範囲に限定されるものではない。必要に応じて、上記摂取量を1日あたり1回又は数回、例えば2~3回に分けて分割摂取することもできる。
【0033】
本発明の組成物は、肝臓、肺、腎臓、前立腺、精巣、及び皮膚などの対象組織に対して高い蓄積性を示す。特に、精巣、及び皮膚に対しては、特に高い蓄積性を示す。
上記組成物は、後述するシス型ルテイン投与群の対象組織におけるルテインの蓄積量が、後述するトランス型ルテイン投与群の対象組織におけるルテインの蓄積量に対して2倍以上であることが好ましい。トランス型ルテイン投与群の対象組織におけるルテイン濃度(pmol/g)をAとし、シス型ルテイン投与群の対象組織におけるルテイン濃度(pmol/g)をBとすると、トランス型ルテイン投与群の対象組織におけるルテインの蓄積量に対するシス型ルテイン投与群の対象組織におけるルテインの蓄積量はB/Aとして算出できる。B/Aは、好ましくは1.2以上であり、より好ましくは1.3以上であり、更に好ましくは1.5以上、2以上、3以上、3.5以上である。B/Aの上限値は特に限定されない。B/Aの上限値は、通常10以下であり、トランス型ルテイン投与群の対象組織におけるルテイン濃度(pmol/g)が検出限界以下の場合には規定されない。
【0034】
上記組成物は、経口摂取を開始して14日後のラットにおいて、対象組織に蓄積されたルテイン全体の質量を100%とした場合にシス型ルテインが40%以上であることが好ましい。対象組織に蓄積されたルテインの総量を100%とした場合のシス型ルテインの割合を「対象組織の総シス型比率」とも称する。対象組織の総シス型比率は、より好ましくは50%以上であり、更に好ましくは60%以上、更に好ましくは65%以上である。これらの対象組織の総シス型比率の上限値は特に限定されないが、例えば90%以下である。
【0035】
従って、本発明の組成物は、上記対象組織における疾患の予防又は改善に有用である。例えば、文献「Food Chem., 249, 66-76, 2018」では、オールトランス型ルテインよりもシス型ルテインの方が、抗酸化能(FRAPアッセイ)が高いことが示されている。文献「Clinics in Dermatology (2009) 27, 195?201」では、動物の研究において、ルテインが光によって誘発される皮膚の損傷、特に紫外線の波長に対して有意な効果を有することが示されている。文献「J. Funct. Foods, 1, 88-97, 2009」では、カロテノイドの1種であるフコキサンチンにおいて、オールトランス型よりシス型の方が前立腺がん細胞の抗増殖作用に優れることが示されている。
【0036】
例えば、本発明の組成物の各組織における用途として以下のものが挙げられる。
血液:動脈硬化、血流改善など
肝臓:肝臓疾患の予防又は改善、肝機能の改善
肺:肺気腫の予防又は改善など
腎臓:腎症の予防又は改善など
前立腺:前立腺がん、前立腺肥大症の予防又は改善など
精巣:男性不妊症の予防又は改善、精子数改善など
皮膚:日焼け止め又は美白のため、しわの予防又は改善など
【実施例0037】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
[製造例]
実施例に使用するシス型ルテイン含有組成物は以下の方法により製造した。
まず、文献「Eur. J. Lipid Sci. Technol., 120, 1800191, 2018」に記載の方法に準じて、トランス型ルテイン標準品(AstaTech社製)を、ジクロロメタンに2mg/mLの濃度で溶解し、80℃で5時間、熱処理した。得られたルテイン溶液を減圧下で蒸発乾固させ、残留物を4℃に保持したエタノールに1時間懸濁した。その後、得られたエタノール溶液の不溶性物質(主に(all-E)-ルテイン)を、0.22μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)メンブレンフィルターを用いて除去した。次に、減圧下でエタノールを除去して、シス型ルテインを得た。
【0038】
製造されたシス型ルテインは大豆油に懸濁させてシス型ルテイン組成物(濃度10mg/mL)とし、使用まで暗所で冷凍保存した(-60℃)。以下、シス型ルテイン組成物を単に「シス型ルテイン」ともいう。
なお、トランス型ルテイン組成物(濃度10mg/mL、単に「トランス型ルテイン」ともいう)は、トランス型ルテイン標準品(AstaTech社製)を大豆油に懸濁させて得た。
【0039】
図1の上段はトランス型ルテイン組成物のクロマトグラムであり、下段はシス型ルテイン組成物のクロマトグラムである。トランス型ルテイン組成物は、シス型ルテイン含有率が2.2%であった。シス型ルテイン組成物は、シス型ルテイン含有率が57.4%であった。シス型ルテイン組成物の各異性体の比率は、トランス型ルテイン含有率42.5%、9シス型ルテイン含有率16.7%、9’シス型ルテイン含有率15.6%、13シス型ルテイン含有率14.8%、13’シス型ルテイン含有率10.4%であった。
【0040】
[方法]
ラット(SDラット、オス、7週齢、n=5)に対して、トランス型ルテイン(シス型ルテインの含有率3.1%)又はシス型ルテイン(シス型ルテインの含有率57.4%)を投与量10mg/kg 体重/dayで14日間連続経口投与した。
最終投与後に各種組織(肝臓、肺、腎臓、前立腺、精巣、及び皮膚)を採取し、それぞれの組織におけるルテイン蓄積量を分析した。
【0041】
[測定結果]
図2は、ルテインの血漿への蓄積量と異性体比率(14日後)を示す。
シス型ルテイン投与群の血漿中ルテイン濃度は、2.50pmol/gであった。トランス型ルテイン投与群の血漿中ルテイン濃度は、0.66pmol/gであった。シス型ルテイン投与群の血漿中ルテイン濃度は、トランス型ルテイン投与群の3.8倍である。シス型ルテイン投与群は、血漿中にルテインが高濃度で蓄積することが示された。
なお、ルテイン濃度は、平均値で表している。各グラフにおいて、エラーバーは標準偏差を表している。2群間の比較のために、スチューデントのt検定を用いて統計分析を行った。p<0.05、p<0.01の値を統計学的に有意と見なし「*」、「**」を付した。本実施例において、以下、同様に表記する。
【0042】
シス型ルテイン投与群及びトランス型ルテイン投与群の血漿における、ルテインの各異性体の比率を表1に示す。シス型ルテイン投与群において、総シス型比率は80.9%であった。
【0043】
【表1】
【0044】
表1において、「Diet」は投与したルテイン(LUT)の種類を表す。「(all-E)-LUT」はトランス型ルテイン、「(Z)-LUT」はシス型ルテインを表す。異性体のうち、「all-E」はトランス型、「9Z」は9シス型、「9’Z」は9’シス型、「13Z」は13シス型、「13’Z」は13’シス型を表す。本実施例において、以下、同様に表記する。
【0045】
図3は、ルテインの肝臓への蓄積量と異性体比率(14日後)を示す。
シス型ルテイン投与群の肝臓中ルテイン濃度は、0.18pmol/gであった。トランス型ルテイン投与群の肝臓中ルテイン濃度は、0.09pmol/gであった。シス型ルテイン投与群の肝臓中ルテイン濃度は、トランス型ルテイン投与群の2.0倍である。シス型ルテイン投与群は、肝臓中にルテインが高濃度で蓄積することが示された。
シス型ルテイン投与群及びトランス型ルテイン投与群の肝臓における、ルテインの各異性体の比率を表2に示す。シス型ルテイン投与群において、総シス型比率は66.9%であった。
【0046】
【表2】
【0047】
図4は、ルテインの肺への蓄積量と異性体比率(14日後)を示す。
シス型ルテイン投与群の肺中ルテイン濃度は、5.82pmol/gであった。トランス型ルテイン投与群の肺中ルテイン濃度は、3.69pmol/gであった。シス型ルテイン投与群の肺中ルテイン濃度は、トランス型ルテイン投与群の1.6倍である。シス型ルテイン投与群は、肺中にルテインが高濃度で蓄積することが示された。
シス型ルテイン投与群及びトランス型ルテイン投与群の肺における、ルテインの各異性体の比率を表3に示す。シス型ルテイン投与群において、総シス型比率は67.7%であった。
【0048】
【表3】
【0049】
図5は、ルテインの腎臓への蓄積量と異性体比率(14日後)を示す。
シス型ルテイン投与群の腎臓中ルテイン濃度は、1.96pmol/gであった。トランス型ルテイン投与群の腎臓中ルテイン濃度は、0.92pmol/gであった。シス型ルテイン投与群の腎臓中ルテイン濃度は、トランス型ルテイン投与群の2.1倍である。シス型ルテイン投与群は、腎臓中にルテインが高濃度で蓄積することが示された。
シス型ルテイン投与群及びトランス型ルテイン投与群の腎臓における、ルテインの各異性体の比率を表4に示す。シス型ルテイン投与群において、総シス型比率は60.4%であった。
【0050】
【表4】
【0051】
図6は、ルテインの前立腺への蓄積量と異性体比率(14日後)を示す。
シス型ルテイン投与群の前立腺中ルテイン濃度は、2.58pmol/gであった。トランス型ルテイン投与群の前立腺中ルテイン濃度は、1.14pmol/gであった。シス型ルテイン投与群の前立腺中ルテイン濃度は、トランス型ルテイン投与群の2.3倍である。シス型ルテイン投与群は、前立腺中にルテインが高濃度で蓄積することが示された。
シス型ルテイン投与群及びトランス型ルテイン投与群の前立腺における、ルテインの各異性体の比率を表5に示す。シス型ルテイン投与群において、総シス型比率は52.2%であった。
【0052】
【表5】
【0053】
図7は、ルテインの精巣への蓄積量と異性体比率(14日後)を示す。
シス型ルテイン投与群の精巣中ルテイン濃度は、1.21pmol/gであった。トランス型ルテイン投与群の精巣中ルテイン濃度は、0.29pmol/gであった。シス型ルテイン投与群の精巣中ルテイン濃度は、トランス型ルテイン投与群の4.2倍である。シス型ルテイン投与群は、精巣中にルテインが高濃度で蓄積することが示された。
シス型ルテイン投与群及びトランス型ルテイン投与群の精巣における、ルテインの各異性体の比率を表6に示す。シス型ルテイン投与群において、総シス型比率は79.1%であった。
【0054】
【表6】
【0055】
図8は、ルテインの皮膚への蓄積量と異性体比率(14日後)を示す。
シス型ルテイン投与群の皮膚中ルテイン濃度は、0.84pmol/gであった。トランス型ルテイン投与群の皮膚中ルテイン濃度は、0.22pmol/gであった。シス型ルテイン投与群の皮膚中ルテイン濃度は、トランス型ルテイン投与群の3.8倍である。シス型ルテイン投与群は、皮膚中にルテインが高濃度で蓄積することが示された。
シス型ルテイン投与群及びトランス型ルテイン投与群の皮膚における、ルテインの各異性体の比率を表7に示す。シス型ルテイン投与群において、総シス型比率は54.1%であった。
【0056】
【表7】
【0057】
図10は、血漿中のルテインのシス型比率を示すグラフである。横軸の「E-LUT-D」はトランス型ルテイン投与群を表し、「Z-LUT-D」はシス型ルテイン投与群を表す。縦軸はルテイン異性体の比率(%、質量比)を表す。「Diet」のラベルが付されたグラフは、餌に含まれるルテイン組成物の異性体比率である。「6h-PL」のラベルが付されたグラフは、初めてルテイン組成物を含む餌を投与してから6時間後の血漿中の異性体比率である。「2wk-PL」のラベルが付されたグラフは、ルテイン組成物を含む餌を投与してから14日後の血漿中の異性体比率である。
【0058】
図11は、対象組織中のルテインのシス型比率を示すグラフである。横軸の「E-LUT-D」はトランス型ルテイン投与群を表し、「Z-LUT-D」はシス型ルテイン投与群を表す。縦軸はルテイン異性体の比率(%、質量比)を表す。「Diet」のラベルが付されたグラフは、餌に含まれるルテイン組成物の異性体比率である。その他のグラフは、ルテイン組成物を含む餌を投与してから14日後の対象組織中の異性体比率のグラフである。各ラベルは以下対象組織を表す。
「Liver」:肝臓
「Lung」:肺
「Kidney」:腎臓
「Prostate」:前立腺
「Testis」:精巣
「Skin」:皮膚
【0059】
[まとめ]
ルテインの体内蓄積性は、トランス型ルテイン投与群よりもシス型ルテイン投与群の方が高かった。具体的には、肝臓、肺、腎臓、前立腺、精巣、及び皮膚への蓄積優位性が確認され(トランス型ルテイン投与群の1.2倍以上)、特に、精巣及び皮膚への蓄積優位性が確認された(トランス型ルテイン投与群の3.5倍以上)。
肝臓、肺、腎臓、前立腺、精巣、及び皮膚の総シス型比率は40%以上であった。シス型ルテインは、肝臓、肺、腎臓、前立腺、精巣、及び皮膚に蓄積して抗酸化作用を奏することが期待される。
【0060】
ルテインは、肝機能改善や日焼け止め又は美白(美肌作用)等が知られている。シス型ルテイン組成物を投与した場合、ルテインの肝臓及び皮膚への蓄積性が高いことが示されたことから、本発明の組成物は、肝臓疾患の予防又は改善、又は肝機能の改善、日焼け止め又は美白、又はしわの予防のために有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11