(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165033
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】ガラス母材の支持方法及び支持ピン
(51)【国際特許分類】
C03B 35/26 20060101AFI20221024BHJP
C03B 23/045 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
C03B35/26
C03B23/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070207
(22)【出願日】2021-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志村 昌則
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智哉
【テーマコード(参考)】
4G015
【Fターム(参考)】
4G015BB02
4G015GD00
(57)【要約】
【課題】ガラス母材がさらに大型化されても、ガラス母材の上端に位置する種棒のクラックや破損の発生率をさらに低くできる、ガラス母材の支持方法、及び、さらに、耐久性に優れ、交換頻度が少ない支持ピンを提供することを目的とする。
【解決手段】ガラス母材の上端に位置する種棒に設けたピン挿通孔に支持ピンを挿入し、支持ピンにより前記ガラス母材を支持する方法である。支持ピンは金属の基材と当該基材の表面を被覆する合成樹脂層とを有し、合成樹脂層は少なくともピン挿通孔と接触する箇所に設けられており、基材と合成樹脂層とがその界面で固着している。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス母材の上端に位置する種棒に設けたピン挿通孔に支持ピンを挿入し、前記支持ピンにより前記ガラス母材を支持する方法であって、
前記支持ピンは金属の基材と前記基材の表面を被覆する合成樹脂層とを有し、前記合成樹脂層は少なくとも前記ピン挿通孔と接触する箇所に設けられており、前記基材と前記合成樹脂層とがその界面で固着している、ガラス母材の支持方法。
【請求項2】
前記合成樹脂層の厚みが0.1mm以上0.4mm以下である、請求項1に記載のガラス母材の支持方法。
【請求項3】
前記合成樹脂層がフッ素樹脂から形成されている、請求項1又は請求項2に記載のガラス母材の支持方法。
【請求項4】
前記合成樹脂層がポリイミド樹脂から形成されている、請求項1又は請求項2に記載のガラス母材の支持方法。
【請求項5】
ガラス母材の上端に位置する種棒に設けたピン挿通孔に挿入し、前記ガラス母材を支持するための支持ピンであって、
金属の基材と前記基材の表面を被覆する合成樹脂層とを有し、前記合成樹脂層は、少なくとも前記ピン挿通孔と接触する箇所に設けられており、前記基材と前記合成樹脂層とがその界面で固着していて、前記合成樹脂層の厚みが0.1mm以上0.4mm以下である、支持ピン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラス母材の支持方法及び支持ピンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ガラス母材の上端に位置する種棒にクラックや破損が生じない、ガラス母材の支持方法とそのための支持ピンとして、ピン挿入孔との接触部分の表面に合成樹脂を被覆したものを用いることが記載されている。この技術において、合成樹脂層を被覆するための具体的方法は、熱収縮性の合成樹脂チューブ内に、金属製の支持ピン基材を挿入後、加熱して当該チューブを収縮させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、製造されるガラス母材がさらに大型化され、特許文献1に開示の技術よりも、種棒のクラックや破損の発生率をさらに低くできる技術が求められていた。
そこで、本開示は、ガラス母材がさらに大型化されても、ガラス母材の上端に位置する種棒のクラックや破損の発生率をさらに低くできる、ガラス母材の支持方法、及び、それに加えて、耐久性に優れ、交換頻度が少ない支持ピンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のガラス母材の支持方法は、
ガラス母材の上端に位置する種棒に設けたピン挿通孔に支持ピンを挿入し、前記支持ピンにより前記ガラス母材を支持する方法であって、
前記支持ピンは金属の基材と前記基材の表面を被覆する合成樹脂層とを有し、前記合成樹脂層は少なくとも前記ピン挿通孔と接触する箇所に設けられており、前記基材と前記合成樹脂層とがその界面で固着している。
【0006】
また、本開示の支持ピンは、
ガラス母材の上端に位置する種棒に設けたピン挿通孔に挿入し、前記ガラス母材を支持するための支持ピンであって、
金属の基材と前記基材の表面を被覆する合成樹脂層とを有し、前記合成樹脂層は、少なくとも前記ピン挿通孔と接触する箇所に設けられており、前記基材と前記合成樹脂層とがその界面で固着していて、前記合成樹脂層の厚みが0.1mm以上0.4mm以下である。
【発明の効果】
【0007】
本開示のガラス母材の支持方法によれば、ガラス母材がさらに大型化しても、ガラス母材の種棒のクラックや破損の発生率をより低くすることができる。
本開示の支持ピンによれば、上記の効果に加え、合成樹脂層の耐久性が高く支持ピン自体の交換頻度を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示のガラス母材の支持方法及び支持ピンの、検査装置における適用例の概略図である。
【
図2】本開示のガラス母材の支持方法及び支持ピンを適用する際の、ガラス母材の上端に位置する種棒の概略図である。
【
図3】検査装置における吊り下げ棒の下端部の概略図である。
【
図4】検査装置における吊り下げ棒の連結部内の断面概略図である。
【
図5】本開示のガラス母材の支持方法及び支持ピンの、保管具における適用例の正面概略図である。
【
図6】本開示のガラス母材の支持方法及び支持ピンの、保管具における適用例の側面概略図である。
【
図7】本開示の支持ピンの軸方向の断面概略図である。
【
図8】本開示の支持ピンの直径方向の断面概略図である。
【
図9】本開示のガラス母材の支持方法及び支持ピンを適用した際の、種棒及び支持ピン等における荷重の状態を示す概略図である。
【
図10】合成樹脂層を有さない支持ピンを使用した場合における、ピン挿入孔内面への応力集中とクラック発生を示す概略図である。
【
図11】本開示の支持ピンを使用した場合における、ピン挿入孔内面への応力集中状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示のガラス母材の支持方法は、
(1)ガラス母材の上端に位置する種棒に設けたピン挿通孔に支持ピンを挿入し、前記支持ピンにより前記ガラス母材を支持する方法であって、
前記支持ピンは金属の基材と前記基材の表面を被覆する合成樹脂層とを有し、前記合成樹脂層は少なくとも前記ピン挿通孔と接触する箇所に設けられており、前記基材と前記合成樹脂層とがその界面で固着している。
この構成によれば、基材と合成樹脂層とがその界面で固着していることにより、長期の使用に亘っても合成樹脂層が基材の表面から剥離することなく、支持ピン表面のクッション性が保持される。その結果、支持ピン挿入孔における支持ピンとの接触部分にかかる荷重応力が緩和され、種棒のクラックや破損の発生率をより低くすることができる。
【0010】
(2)前記合成樹脂層の厚みが0.1mm以上0.4mm以下であることが好ましい。
この構成によれば、合成樹脂層が十分なクッション性と耐久性とを有しつつ、基材として、直径が比較的大きいものを使用できる。直径が比較的大きい基材が使用できることにより、使用時に支持ピンの撓みを減少させることができる。支持ピンの撓みが減少することにより、ピン挿通孔内面への応力の集中と、それに伴うクラック発生をより効果的に抑制することができる。
(3)前記合成樹脂層がフッ素樹脂から形成されていることが好ましい。
この構成によれば、合成樹脂層が、より高強度で、耐久性、耐熱性、耐薬品性及び絶縁性に優れ、さらに高度なクッション性と滑り性を有するものとなる。
(4)また、前記合成樹脂がポリイミド樹脂から形成されていることが好ましい。
この構成によれば、合成樹脂層が、より高強度で、クッション性、耐久性、耐熱性、耐薬品性及び絶縁性に優れ、さらに高度な耐熱性を有するものとなる。
【0011】
本開示の支持ピンは、
(5)ガラス母材の上端に位置する種棒に設けたピン挿通孔に挿入し、前記ガラス母材を支持するための支持ピンであって、
金属の基材と前記基材の表面を被覆する合成樹脂層とを有し、前記合成樹脂層は、少なくとも前記ピン挿通孔と接触する箇所に設けられており、前記基材と前記合成樹脂層とがその界面で固着していて、前記合成樹脂層の厚みが0.1mm以上0.4mm以下である。
この構成によれば、基材と合成樹脂層とがその界面で固着していることにより、長期の使用に亘っても、合成樹脂層が基材の表面から剥離することなく、支持ピンのクッション性が保持される。その結果、支持ピン挿入孔における支持ピンとの接触部分にかかる荷重応力が緩和され、種棒のクラックや破損の発生率をより低くすることができる。さらに、合成樹脂層の耐久性が高く支持ピン自体の交換頻度を少なくすることができる。
【0012】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係るガラス母材の支持方法及び支持ピンの例を添付図面に基づいて説明する。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0013】
〔支持方法の適用例〕
本開示のガラス母材の支持方法及び支持ピンの適用例としては、ガラス母材の保管、搬送、検査時等が挙げられる。
(検査装置での適用例)
ガラス母材の検査時における検査装置での適用例について、
図1から
図4を参照して説明する。
図1に示す検査装置100において検査されるガラス母材Aは、種棒1の上端部を吊り下げ棒2の下端部に支持ピン10を介して連結し吊り下げることによって支持される。昇降回転装置3は、吊り下げ棒2を例えば矢印Bに示す鉛直の軸Dの回りに回転させつつ矢印Cに示す上下方向に移動させることで、種棒1及びガラス母材Aを同様に回転させつつ移動させる。ガラス母材Aは、回転及び上下方向に移動されながら、外径測定器等の検査機器4によって検査される。
【0014】
種棒1を吊り下げ棒2に支持させる構造について説明する。
図2に示すように、種棒1の上端部には、軸D方向と直交する水平方向にピン挿入孔1aが形成されている。ピン挿入孔1aは、種棒1を吊り下げ棒2に支持させるための孔であり、ピン挿入孔1aには支持ピン10が挿通される。ピン挿入孔1aの端部1bの内周面は、欠け防止などを目的として面取りされるため、外部に向かってテーパ状に広がっている。なお、ピン挿入孔1aの端部1bは、面取りされていない形状であってもよい。
【0015】
図3に示すように、吊り下げ棒2の下端部には、吊り下げ棒2と一体に構成される連結部2aが設けられている。また、
図4に示すように、連結部2a内には、種棒1が挿入される凹部2bが形成されている。連結部2aの側壁には、対向する位置に、支持ピン10が挿通される挿通孔2cが形成されている。連結部2aの外周部には、凹部2bに挿入された種棒1を補助的に支持する押さえ板6が設けられている。
【0016】
種棒1が、吊り下げ棒2の凹部2bに、吊り下げ棒2の挿通孔2cと種棒1のピン挿入孔1aとの位置が揃うように挿入される。そして、吊り下げ棒2に一方の挿通孔2cから支持ピン10が挿通される。支持ピン10は、ピン挿入孔1aと他方の挿通孔2cにも挿通されて、その両端が両挿通孔2cからそれぞれ僅かに突出される。これにより、種棒1は、支持ピン10の両端部10aがそれぞれ吊り下げ棒2の挿通孔2cに支持されて、吊り下げ棒2に吊り下げられる。また、押さえ板6をボルト7で締め付けることにより、種棒1の連結部1aが、押さえ板6と凹部2bの内壁とで締め付けられて固定される。
【0017】
(保管具での適用例)
ガラス母材の保管時における保管具での適用例について、
図5及び
図6を参照して説明する。
本適用例は、ガラス母材Aを保管する施設等で使用される保管具に、本開示の支持方法及び支持ピン10を用いた例である。なお、上記実施形態と共通する部分は、同じ符号を付けてその詳細な説明は省略する。
図5及び
図6に示すように、保管具40は、支持部41と、支持ピン10とを備えている。支持部41は、施設等の壁面42から略水平方向に突設された2本の棒で構成されている。さらに、この2本の棒にはそれぞれ凹部41aが設けられている。
【0018】
次に、保管具40に種棒1およびガラス母材Aを吊り下げる方法について説明する。
前述の
図2で示した種棒1のピン挿入孔1aに、支持ピン10を挿入する。続いて、ピン挿入孔1aから孔外に突出している支持ピン10の両端部をそれぞれ保管具40の支持部41(2本の棒)における凹部41aに載置する。これにより、
図5及び
図6に示すように、支持部41で支持されるようにして、種棒1と一体のガラス母材Aが吊り下げられて保管される。
【0019】
(支持ピン10)
支持ピン10は、一例として
図7および
図8に示す支持ピン10のように、金属の基材11と、基材11の表面を被覆する合成樹脂層12とを有する。そして、支持ピン10は、基材11と合成樹脂層12とがその界面で固着しているものである。なお、
図7および
図8に示す支持ピン10では、基材11の全表面に合成樹脂層12を有するが、合成樹脂層12は少なくとも前記の種棒1のピン挿通孔1aと接触する箇所に設けられていれば良く、必ずしも、基材11の全表面が合成樹脂層12で被覆されている必要はない。
【0020】
支持ピン10が有する合成樹脂層12としては、本開示の支持ピン10としての使用に耐え得るものであれば特に限定されないが、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ゴム弾性体等が挙げられる。ゴム弾性体は、具体的には、スチレンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、またはシリコーンゴムなどのゴム弾性を有する合成樹脂をいう。
その中でも、本開示の支持ピンとしての使用において、合成樹脂層12の材質は、適度な強度、クッション性、耐久性、耐熱性、耐薬品性及び絶縁性を有する点で、フッ素樹脂及びポリイミド樹脂が好ましい。
【0021】
また、合成樹脂層12の材質は、よりクッション性がさらに高く、滑り性が高いことから、ピン挿通孔1aとの接触部での摩耗又は擦過等が軽減できるという点で、フッ素樹脂が好ましい。また、耐熱性がさらに高いという点においては、ポリイミド樹脂が好ましい。
合成樹脂層12の厚みとしては、支持するガラス母材Aの重量、ピン挿通孔1aの内径及び基材11の外径等を考慮して適宜選択される。合成樹脂層12の厚みは、例えば、0.1mm以上0.4mm以下であることが好ましく、0.1mm以上0.3mm以下であることがより好ましい。厚みが0.1mm以上であれば、十分なクッション性が得られる。また、厚みが0.4mm以下であれば、その分、基材11の外径を大きくすることが可能で、それにより、支持ピン10自体の機械的強度を高くすることが可能である。支持ピン10自体の機械的強度が高くなれば、後で詳述するように、荷重がかかった場合でも、支持ピン10の撓みが小さくなり、その分、ピン挿通孔1aの内壁における応力の集中も少なくなる。
【0022】
支持ピン10の基材11の材質としては、本開示の支持ピンとしての使用に耐え得る金属製のものであれば特に限定されないが、ステンレス鋼、黄銅、鋼、アルミ合金及びチタン等が挙げられる。
基材11の外径としては、支持するガラス母材Aの重量、ピン挿通孔1aの内径、及び、合成樹脂層12の層厚等を考慮して適宜選択される。基材11の外径は、例えば、3mm以上10mm以下であることが好ましく、4mm以上8mm以下であることがより好ましい。
【0023】
また、合成樹脂層12は、基材11と、その界面で固着している必要がある。
なお、本開示において、基材11と合成樹脂層12との界面での「固着」とは、基材11と合成樹脂層12とを機械的又は物理的に、その界面で分離又は剥離しようとした場合に、完全な分離又は剥離が不可能又は著しく困難であるものを意味する。補足的に説明するならば、この「固着」とは、基材11と合成樹脂層12とを機械的又は物理的に分離又は剥離しようとした場合に、基材11の表面に合成樹脂層12の一部が残存するか基材1の表面に著しく損傷を与えるものであることも意味する。
これに対して、特許文献1に開示された、熱収縮性の合成樹脂チューブ内に、金属製の支持ピンの基材を挿入後、加熱して前記チューブを収縮させる技術で得られた支持ピンは、基材と合成樹脂とをその界面で機械的に分離等しようとした場合に、前記界面で完全な分離等がなされる。
なお、本開示における前記「固着」の状態であったとしても、基材11の表面からの合成樹脂層12の完全な除去が、溶剤または薬剤による合成樹脂層12の溶解、又は、高温加熱による合成樹脂層12の焼失によってなされる場合もある。
【0024】
合成樹脂層12の基材11との界面での固着を達成するための技術的手法としては、合成樹脂層12を構成する樹脂の種類等によって態様が違う場合があるので、一概に規定できない。以下に、各合成樹脂種のうち、代表的なものを用いた場合の例について説明する。
【0025】
合成樹脂層12を構成する樹脂として、フッ素樹脂を用いる場合には、基材11との界面での固着は、フッ素樹脂の焼付コーティングによって達成される。
フッ素樹脂の金属基材への焼付コーティングとしては、公知の如何なる技術を適用することが可能である。
フッ素樹脂の金属基材への焼付コーティングとしては、例えば、以下の工程で行われる。
【0026】
1)基材の表面の脱脂処理
基材の表面の付着物や油脂を取り除くために、基材を所定の温度(400℃以上)で空焼きする。
2)基材の表面の粗面化処理
研磨剤やエッチング液等による処理により基材の表面に適度な粗さの凹凸、又は、適度な大きさ、数の細孔を形成する。
3)基材の表面へのプライマー塗装
基材の表面へプライマーを塗装する。
プライマーは非粘着性の高いフッ素樹脂と基材とを接着させるための接着材である。
後述のフッ素樹脂塗料として、自己接着性のあるものを用いる場合は、本プライマー塗装処理を省くことができる。
4)フッ素樹脂の塗装、及び、塗装膜の焼成
フッ素樹脂の塗料をエアースプレーまたは静電粉体塗装し、所定温度、所定条件にて焼成する。必要に応じて、上記の塗装及び焼成処理を複数回反復して行うことが好ましい。
【0027】
なお、上記2)及び3)の処理のうち、場合によっては、いずれか1方の処理を省くことも可能であるが、双方の処理を行うことが好ましい。また、上記2)及び3)のいずれか1方の処理を省く場合には、3)の処理を省き、2)の処理を行うことが好ましい。
本開示の支持ピン10において、基材11と合成樹脂層12とのその界面での固着は、上記(2)の処理で粗面化された基材表面の凹部または細孔内に、プライマー塗膜又はフッ素樹脂塗膜の1部が入り込むアンカー効果が、多いに寄与しているものと推測される。
【0028】
また、上記4)の処理により、基材11と合成樹脂層12との界面での「固着」のみではなく、塗装膜間又は塗装膜に含まれる樹脂分子間等での重合が生じ、合成樹脂層12自体が強固に硬化し、強度が高くなる。
【0029】
フッ素樹脂の焼付コーティングに使用される、フッ素樹脂の種類としては、支持するガラス母材Aの重量及びピン挿通孔1aの内径等を考慮して適宜選択される。使用されるフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ素化樹脂、略号:PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(三フッ素化樹脂、略号:PCTFE、CTFE)、ポリフッ化ビニリデン(略号:PVDF)、ポリフッ化ビニル(略号:PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(略号:PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(略号:FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(略号:ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(略号:ECTFE)等が挙げられる。
【0030】
次いで、合成樹脂層12を構成する樹脂として、ポリイミド樹脂を用いる場合について説明する。
金属基材の表面にポリイミド樹脂のコーティング層を形成する場合には、公知の如何なる技術を適用することが可能であるが、主に、以下の2つの方法を挙げることができる。
(A)ポリアミド酸の溶液をコーティング剤として用い、基材の表面に塗布乾燥後、熱処理して、ポリアミド酸をイミド化させる。
(B)ポリイミド溶液を電着液として用いて電着塗装を行う。
なお、ポリイミド樹脂のコーティング層の形成に、いずれの方法を採用する場合であっても、前記のフッ素樹脂の焼付コーティングと同様に、基材表面の脱脂処理、粗面化処理、プライマー塗装を行うことが好ましい。またそれらの処理の、優先的な選択序列、作用効果等も、フッ素樹脂の焼付コーティングの場合と同様である。
【0031】
次いで、合成樹脂層12を構成する樹脂として、ウレタン樹脂を用いる場合について説明する。
金属基材の表面にウレタン樹脂のコーティング層を形成する場合には、公知の如何なる技術を適用することが可能であるが、主に、ウレタン樹脂溶液中への基材の浸漬、基材表面へのウレタン樹脂溶液の吹付、刷毛、バーコート、ナイフコート等の方法を挙げることができる。
なお、ウレタン樹脂のコーティング層の形成においても、前記のフッ素樹脂の焼付コーティングと同様に、基材表面の脱脂処理、粗面化処理、プライマー塗装を行うことが好ましい。またそれらの処理の、優先的な選択序列、作用効果等も、フッ素樹脂の焼付コーティングの場合と同様である。
【0032】
次いで、合成樹脂層12を構成する樹脂として、塩化ビニル樹脂を用いる場合について説明する。
金属基材の表面に塩化ビニル樹脂のコーティング層を形成する場合には、公知の如何なる技術を適用することが可能であるが、主に、加熱により溶融した塩化ビニル樹脂中への基材の浸漬、または押出法による基材表面への被覆等の方法を挙げることができる。
なお、塩化ビニル樹脂のコーティング層の形成においても、前記のフッ素樹脂の焼付コーティングと同様に、基材表面の脱脂処理、粗面化処理、プライマー塗装を行うことが好ましい。またそれらの処理の、優先的な選択序列、作用効果等も、フッ素樹脂の焼付コーティングの場合と同様である。
【0033】
次いで、合成樹脂層12を構成する樹脂として、ゴム弾性体を用いる場合について説明する。
金属基材の表面にゴム弾性体のコーティング層を形成する場合には、公知の如何なる技術を適用することが可能であるが、主に、有機溶剤で希釈したコーティング剤を塗布、スプレー、及び浸漬等の方法で基材表面に塗工した後、加熱して乾燥させる。
なお、ゴム弾性体のコーティング層の形成においても、前記のフッ素樹脂の焼付コーティングと同様に、基材表面の脱脂処理、粗面化処理、プライマー塗装を行うことが好ましい。またそれらの処理の、優先的な選択序列、作用効果等も、フッ素樹脂の焼付コーティングの場合と同様である。
【0034】
(支持ピン使用時の荷重及び応力状態)
以下に、本開示のガラス母材の支持方法及び支持ピンを適用した際の、種棒1及び支持ピン10における、荷重及び応力状態について説明する。
図9に、吊り下げ棒2の連結部2aにおいて、支持ピン10を吊り下げ棒2の挿通孔2cおよび種棒1のピン挿入孔1aに通した縦断面を示す。種棒1の下部に位置するガラス母材の重量によって支持構造部に荷重Mがかかっている。
図9に示すように、荷重Mがかかると、支持ピン10は端部側が上側に反るように曲がってしまう。
このように曲がった支持ピン10が、本開示における合成樹脂層12を有さないものである場合には、支持ピン10は、鎖線円H1内に示される支持ピン10の上面でピン挿入孔1aの例えば角の部分と点接触あるいは線接触する。また、鎖線円H2内に示される支持ピン10の下面では、支持ピン10は、連結部2aの例えば角の部分と点接触あるいは線接触する。
【0035】
このため、例えば鎖線円H1内に示される支持ピン10の上面では、
図10に示すように、ピン挿入孔1aと支持ピン10との接触部分Jに応力が集中する。また、図示は省略するが、支持ピン10の下面では連結部2aと支持ピン10との接触部分に応力が集中する。
このように、支持ピン10の上面の特定箇所に応力が集中した場合、
図10に示すように、その集中箇所を起点として、ピン挿入孔1aの内壁にクラック1cが生じ易くなる。また、支持ピン10の下面では連結部2aにクラックが生じ易くなる。
【0036】
しかしながら、本開示の合成樹脂層12を有する支持ピン10は、
図11に示すように、クッション性を有する合成樹脂層12により、ピン挿入孔1aと支持ピン10の接触領域Rが広くなる。ピン挿入孔1aと支持ピン10の接触領域Rが広くなることにより、接触領域Rに応力が集中することがなく、ピン挿入孔1aの内壁や連結部2aにクラックが生じ難くなる。
【0037】
ガラスファイバ等の製造に用いるガラス母材は、そのガラス母材の製造後、次の加工工程までの間、検査、保管、搬送のため、ガラス母材の上端に位置する種棒等に設けた孔に支持ピンを挿入し、前記支持ピンの端部を他の吊り下げ可能な部材に吊り下げ保持される。支持ピンの素材としては、主にSUSが使用されていた。
近年、ガラス母材の大型化により種棒等の吊下げ部に掛かる荷重が増大し、種棒等のピン挿入孔にクラックが発生する。さらにクラックが成長すると、種棒等に破断が生じ、ガラス母材が落下することにもつながる。
吊り下げ構造そのものを見直すことで問題を解決することも考えられるが、ガラス母材側及び吊下げ装置側をともに改造する場合は、対象範囲が膨大となり大規模な設備投資が必要となる。
【0038】
本開示のガラス母材の支持方法によれば、支持ピン10の基材11と合成樹脂層12とがその界面で固着していることにより、長期の使用に亘っても合成樹脂層12が基材11の表面から剥離することなく、合成樹脂層12のクッション性が保持される。その結果、支持ピン挿入孔1aにおける支持ピン10との接触部分にかかる荷重応力が緩和され、種棒1のクラックや破損の発生率をより低くすることができる。
本開示の支持ピン10によれば、前記の支持方法の作用効果に加え、合成樹脂層12の耐久性が高く劣化しにくいため、支持ピン10自体の交換頻度を少なくすることができる。
また、本開示のガラス母材の支持方法及び支持ピン10によれば、吊り下げ構造における大規模な改造も不要となる。
【0039】
〔実験例〕
支持ピン10の合成樹脂層12を構成する樹脂種として各種のものを用いた場合の評価を行った。また、合成樹脂層12のないものと、合成樹脂層として、熱収縮性の合成樹脂チューブ内に、支持ピン基材を挿入後、加熱して前記チューブを収縮させて形成したものを比較例として評価した。
基材11としては、SUS製のものを使用した。いずれの試験例においても 外径が全て同じものを使用した。
合成樹脂層12としては、各々、フッ素樹脂の焼付けコーティング層(試験例No.1)、ポリイミド樹脂(電着コーティング)層(試験例No.2)、ウレタン樹脂層(試験例No.3)、塩化ビニル樹脂層(試験例No.4)、ゴム弾性体(シリコーンゴム)層(試験例No.5)を用いた。また、合成樹脂層として、熱収縮性の合成樹脂チューブ内に、支持ピン基材11を挿入後、加熱して前記チューブを収縮させて形成したものを試験例No.6、合成樹脂層12のないものを試験例No.7とした。試験例No.1から5は実施例であり、試験例No.6及び7は比較例である。
なお、試験例No.1から5においては、合成樹脂層12の形成前に、基材11を400℃以上で空焼きし、基材の表面の付着物や油脂を取り除き、次いで、基材11の表面の粗面化処理を行い、基材11の表面に微小な凹凸を形成した。
【0040】
試験例No.1から7の各支持ピンについて、クッション性、耐熱性及び密着性についての評価を行った。
クッション性、耐熱性及び密着性の各評価方法は下記の通り行った。
【0041】
〔クッション性〕
支持ピン表面の硬度を硬度計で測定し、各実験例の相対評価を行った。優れているものから順に、AからGのランク付けとした。結果を下記表1に示す。
【0042】
各合成樹脂層について公知の耐熱温度を相対評価し、優れているものから順に、AからGのランク付けとした。結果を下記表1に示す。
【0043】
〔密着性〕
支持ピンの表面を細い針で引っ掻いて合成樹脂層を剥離させる方法により、相対評価を行った。最も剥離しにくい(すなわち密着力が大きい)ものから順に、AからFのランク付けとした。結果を下記表1に示す。
【0044】
【0045】
(使用における種棒1のクラック発生評価)
1か月間で製造された分のガラス母材に対し、試験例1から7の各支持ピンを使用して、それぞれ複数のガラス母材を支持し、検査、保管、及び搬送等を行った。その後、種棒1のピン挿入孔1aの内壁におけるクラック発生率を評価した。支持時間はすべての評価において同じとした。
なお、クラック発生率とは、1種の支持ピンで支持したガラス母材の数量に対する、種棒1のピン挿入孔1aの内壁にクラックが発生したものの数量を百分率で示した値である。
また、クラックの発生の有無は、種棒1の上部より光を照射し、肉眼で発生の有無を確認した。
結果を下記表2に示す。
【0046】
【0047】
上記の表2より、試験例No.1から5の支持ピンを使用した場合は、クラック発生率は、0.1%以下であった。試験例No.6の支持ピンを使用した場合は、クッション性は良好だが密着性が悪いため、樹脂層が劣化したためにクラックが発生したと考えられる。
【符号の説明】
【0048】
1 種棒
1a ピン挿入孔
1b 端部
1c クラック
2 吊り下げ棒
2a 連結部
2b 凹部
2c 挿通孔
3 昇降回転装置
4 検査機器
6 押さえ板
7 ボルト
10 支持ピン
10a 両端部
11 基材
12 合成樹脂層
40 保管具
41 支持部
41a 凹部
42 壁面
100 検査装置
A ガラス母材