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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165039
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】芳香族炭化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/393 20060101AFI20221024BHJP
   B01J 29/44 20060101ALI20221024BHJP
   C07C 15/04 20060101ALI20221024BHJP
   C07C 15/06 20060101ALI20221024BHJP
   C07C 15/08 20060101ALI20221024BHJP
   C07C 15/073 20060101ALI20221024BHJP
   C07C 15/46 20060101ALI20221024BHJP
   C07C 5/367 20060101ALI20221024BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221024BHJP
【FI】
C07C5/393
B01J29/44 Z
C07C15/04
C07C15/06
C07C15/08
C07C15/073
C07C15/46
C07C5/367
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070214
(22)【出願日】2021-04-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度経済産業省「革新的石油精製技術のシーズ発掘」委託技術、産業技術力強化法第17条(平成12年法律第44号)の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100189865
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 正寛
(74)【代理人】
【識別番号】100094215
【弁理士】
【氏名又は名称】安倍 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】今井 裕之
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BA44A
4G169BA47A
4G169BC29A
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CB38
4G169CB66
4G169DA06
4G169EC25
4G169EC27
4G169ZA11A
4G169ZA11B
4G169ZD05
4G169ZF05A
4G169ZF05B
4H006AA02
4H006AC12
4H006AC28
4H006BA07
4H006BA26
4H006BA71
4H006BC32
4H006BJ50
4H039CA41
4H039CH40
(57)【要約】
【課題】低級アルカンまたはそれを含有する石油由来の原料アルカンから、効率良く長期にわたり持続し、目的生成物の選択率の高いゼオライト触媒を製造し、BTX収率高い芳香族炭化水素の製造方法を確立する。
【解決手段】 炭素数6~8のアルカンを含む原料組成物をMFI構造のゼオライト触媒に接触させることにより、脱水素環化反応を促進し、環状不飽和炭化水素を得る。ゼオライト触媒は、ゼオライト骨格中に遷移金属またはポスト遷移金属から選ばれる少なくとも1種の金属原子を含みルイス酸性と強い固体塩基性を有するゼオライト担体を用いる。ゼオライト担体には、白金原子が担持されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数6~8のアルカンを含む原料組成物をゼオライト触媒に接触させることにより、環状不飽和炭化水素を得る脱水素環化工程を備えた芳香族炭化水素の製造方法であって、
前記ゼオライト触媒は、ゼオライト骨格中に遷移金属またはポスト遷移金属から選ばれる少なくとも1種の金属原子を含むとともに、ルイス酸性と強い固体塩基性を有するMFI構造のゼオライト担体に、白金が担持されたものである芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項2】
前記金属原子は、亜鉛原子であり、
前記亜鉛原子の含有量は、ケイ素原子に対して1~15atom%である請求項1に記載の芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項3】
前記白金の担持量は、ゼオライト触媒の全量基準で通常0.05~2.5wt%である請求項1又は請求項2に記載の芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項4】
前記アルカンは、n-ヘキサン、nーヘプタン、n-オクタン、1,2-ジメチルシクロヘキサン、1-オクテン、2-オクテンの中から少なくとも1つが選択される請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の芳香族炭化水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒を用いて低級アルカンを脱水素環化し、価値の高い芳香族炭化水素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成ゴム等の高分子製品の世界市場は今後も拡大が見込まれている。その一方、化学工業において重要な原料である石油の世界需要についてみてみると、燃料としての石油需要は低迷しているが、化成品原料としての需要は逓増傾向にある。
その背景には、石炭等の原料に代替可能な用途(例えば発電等)に、貴重な資源である石油を大量に消費することを避け、石油でなければならない付加価値の高い用途(例えば石油化学の原料)に限定して使用することにより浪費を防ぐべきだという考え方、つまり、石油のノーブル・ユースが広がっていることが挙げられる。石油のノーブル・ユースが求められる中、BTX収率の高いFCC/RFCC触媒やバイオマスからのBTX製造方法が開発の大きな課題となっている。
【0003】
このような状況下において、特許文献1に記載のn-ブタンの直接脱水素反応による1,3-ブタジエンの製造技術などが提案されている。
また、芳香族化合物の製造技術としては、従来からある残油を原料とする水素化分解による製造方法、原油を原料とする水素化分解による製造方法に加え、近年ではバイオマスからの芳香族化合物の製造も注目されている。
たとえば、特許文献2には、炭素数6~8のパラフィン系炭化水素を芳香族炭化水素に変換する方法が、特許文献3には、炭素数8留分からエチルベンゼンの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-193921号公報
【特許文献2】特開平5-117176号公報
【特許文献3】特開平8-34750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、n-ブタンのような直鎖化合物から水素を引き抜く(脱水素反応)では、有用であるものの、付加価値の高い芳香族化合物を合成する場合には、炭素-炭素を結合させる(環化反応)必要がある。特許文献1に記載の反応では、環化反応はできなかった。
特許文献2、特許文献3に記載の技術においては、触媒として、L型ゼオライト(アルミノシリケート)と白金とハロゲンからなる触媒が用いられている。しかし、未だ満足のいく高効率変換触媒は得られていないのが現状である。
【0006】
ところで、環化反応に使用される触媒は、アルミニウム、ガリウムが主に選択され、白金は用いずに、亜鉛は助剤的な役割を果たすように設計されることが一般的である。この触媒であれば、確かに芳香族化合物は合成されるものの、副生成物も多量に生成され、場合によっては芳香族化合物と同量程度生成されることもある。
そこで、低級アルカンまたはそれを含有する石油由来の原料アルカンから、効率良く長期にわたり持続し、目的生成物の選択率の高いゼオライト触媒を製造し、近年の重要性が高まるBTXへの需要増に答えられる芳香族炭化水素の製造方法を開発することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、MFI構造を持つゼオライト担体の微小空間に亜鉛を中心とする遷移金属またはポスト遷移金属を配置し、さらに、このゼオライト担体に白金を担持させることによって、製造される分子の構造制御が可能であり、選択的な芳香族化反応に有用な触媒を開発した。
【0008】
請求項1に記載の発明は、炭素数6~8のアルカンを含む原料組成物をゼオライト触媒に接触させることにより、環状不飽和炭化水素を得る脱水素環化工程を備えた芳香族炭化水素の製造方法であって、前記ゼオライト触媒は、ゼオライト骨格中に遷移金属またはポスト遷移金属から選ばれる少なくとも1種の金属原子を含むとともに、ルイス酸性と強い固体塩基性を有するMFI構造のゼオライト担体に、白金が担持されたものである芳香族炭化水素の製造方法である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記金属原子は、亜鉛原子であり、前記亜鉛原子の含有量は、ケイ素原子に対して1~15atom%である請求項1に記載の芳香族炭化水素の製造方法である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記白金の担持量は、ゼオライト触媒の全量基準で通常0.05~2.5wt%である請求項1又は請求項2に記載の芳香族炭化水素の製造方法である。
【0011】
請求項4に記載の発明は、前記アルカンは、n-ヘキサン、nーヘプタン、n-オクタン、1,2-ジメチルシクロヘキサン、1-オクテン、2-オクテンの中から少なくとも1つが選択される請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の芳香族炭化水素の製造方法である。
【0012】
本発明によれば、ゼオライト骨格中に遷移金属またはポスト遷移金属から選ばれる少なくとも1種の金属原子を含むとともに、白金原子が担持されたMFI構造のゼオライト担体からなるゼオライト触媒を芳香族炭化水素の製造に用いることで、芳香族炭化水素を高収率で製造することができる。
【0013】
また、本発明に係るゼオライト触媒にはブレンステッド酸はほとんど存在しておらず、ルイス酸のみが存在している。一般的に、脱水素反応の副生成物はブレンステッド酸の存在により生成量が増減することが知られている。本発明に係るゼオライト触媒ではブレンステッド酸がほとんど存在していないことから、副反応の制御が可能であり、副生成物の発生を抑制することができる。
このため、本発明に係るゼオライト触媒を芳香族炭化水素の製造に用いることで、例えば副反応が抑制され芳香族炭化水素選択率が向上する、分解副生成物の重合によるコークの発生が抑制されること等が考えられ、これにより長時間に亘って安定的に芳香族炭化水素を製造することができる。
【0014】
ゼオライト触媒は、前処理として還元処理が行われたものを用いてもよい。還元処理は、例えば、還元性ガスの雰囲気下、400~600℃でゼオライト触媒を保持することで行うことができる。保持時間は、例えば0.5~5時間であってよい。還元性ガスは、例えば、水素等を含むものであってよい。還元処理を行ったゼオライト触媒を用いることで、脱水素反応の初期の誘導期を短くすることができる。脱水素反応の初期の誘導期とは、ゼオライト触媒中の担持金属のうち、還元されて活性状態にあるものが非常に少なく、触媒の活性が低い状態を意味する。
【0015】
MFI型構造のゼオライトは、一般的に熱安定性、酸性質を持ったゼオライトであるが、本発明に係るMFI型構造のゼオライト担体は、酸性質が異なるものである。つまり、ゼオライト骨格中に亜鉛などの金属原子を導入することにより、ルイス酸のみが存在し、強い固体塩基性を示す、基本構造はMFI型構造のゼオライト(本発明におけるゼオライト担体)を得ることができる。
固体塩基性とは、ゼオライト担体の表面が塩基性を示すことをいい、固体塩基性が強いとは、ゼオライト担体の表面の塩基性が強いことをいう。
【0016】
遷移金属とは、周期表上の3族元素から11族元素に属する金属をいい、ポスト遷移金属とは、周期表上の第4周期、第5周期、第6周期の遷移金属よりも後の原子番号の卑金属をいう。
金属原子は、遷移金属原子、ポスト遷移金属原子であればよいが、特に、アルカンの脱水素環化反応の反応性に優れる点で、亜鉛原子が好ましい。
金属原子の含有量は、Si原子に対して1~15atom%とし、2~10atom%の範囲内であればより好ましい。金属原子の含有量が、Si原子に対して1atom%未満の場合、ゼオライト担体の固体塩基性が少なくなり、アルカンの脱水素環化反応の反応性が劣る。また、金属原子の含有量がSi原子に対して15atom%を超える場合、ゼオライト骨格中に導入されない金属原子が多くなり、金属含有量に対するアルカンの脱水素環化反応の反応効率が低下するため好ましくない。なお、金属原子の他にその他の金属原子として、たとえば、銅、鉄、ニッケル、スズ、コバルト、インジウム等が含まれていてもよい。
また、ゼオライト担体に含まれるアルカリ金属の含有量は、Si原子に対して1atom%以下であることが好ましい。アルカリ金属が添加されるとゼオライトの結晶化が促進されるものの、Si原子に対して1atom%を超えるとアルカンの脱水素環化反応の反応性が劣るため、好ましくない。アルカンの脱水素反応の反応性の面からゼオライト担体に含まれるアルカリ金属の含有量は、Si原子に対して0.1atom%以下であることが特に好ましい。
シリカ源としては、例えば、シリコンアルコラート、シラン、四塩化ケイ素等の加水分解するシリコン化合物を使用することができる。
有機構造規定剤としては、MFI構造のゼオライトが得られれば特に制限されず、例えば、4級アルキルアンモニウム塩、アミン等を用いることができる。有機構造規定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
本発明に係るゼオライト触媒において、ゼオライト担体には、白金(Pt)源を用いて、白金が担持されている。白金源としては、例えば、テトラアンミン白金(II)酸、テトラアンミン白金(II)酸塩(例えば、硝酸塩等)、テトラアンミン白金(II)酸水酸化物溶液、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硝酸溶液、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸エタノールアミン溶液等が挙げられる。白金源としては、塩素原子を含まない金属源を用いることが好ましい。塩素原子を含まない金属源を用いることで、装置の腐食を抑制でき、より効率的に原料アルカンの脱水素を行うことができる。
ゼオライト担体に白金を担持させた場合の、ゼオライト担体における白金の担持量は、ゼオライト担体の全量基準で通常0.05~2.5wt%、好ましくは0.1~2.0wt%以下である。このような担持量であると、単位白金重量あたりの白金表面積が大きくなるため、より効率的な反応系が実現できる。
ゼオライト担体に白金を担持させる担持方法は特に限定されず、例えば、含浸法、沈着法、共沈法、混練法、イオン交換法、ポアフィリング法等を用いることができる。
【0018】
原料組成物としては、少なくとも炭素数6~8の炭化水素化合物を含有していればよい。たとえば、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、1,2-ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1-オクテン、2-オクテン等を含んでいてよい。原料アルカンとしては、このうち1種単独であってよく、2種以上を含む混合物であってもよい。
原料アルカンの製造由来は特に限定されない。例えば、ナフサ熱分解炉等で得られる炭素数6~8の炭化水素を主成分とするC6~C8留分を含むものであってよい。ナフサ熱分解炉又はナフサ接触分解炉で得られるC6~C8留分からこのとき、製造方法に起因する芳香族炭化水素以外の化合物が任意に混合した状態のものをそのまま用いてもよいし、精製したものを用いてもよい。
原料組成物は、原料アルカン以外に不純物が含有していてもよいが、白金の被毒により活性が低下することが予想されるため、原料アルカンの純度を高めておくことが好ましい。
【0019】
脱水素環化工程では、例えば、ゼオライト触媒が充填された反応器を用い、当該反応器に原料組成物を流通させることにより脱水素環化反応を実施してよい。反応器としては、固体触媒による気相反応に用いられる種々の反応器を用いることができる。反応器としては、例えば、固定床断熱型反応器、ラジアルフロー型反応器、管型反応器等が挙げられる。
脱水素環化反応の反応形式は、例えば、固定床式、移動床式又は流動床式であってよい。これらのうち、設備コストの観点から固定床式が好ましい。
原料組成物をゼオライト触媒に接触させる際の温度(脱水素環化反応の反応温度、又は、反応器内の温度ということもできる。)は、反応効率の観点から、例えば350~800℃であってよく、好ましくは400~700℃であってよく、より好ましくは450~650℃であってよい。反応温度が350℃以上であれば、原料アルカンの平衡転化率が低くなりすぎないため、芳香族炭化水素の収率が一層向上する傾向がある。反応温度が800℃以下であれば、コークの生成速度が抑制され、ゼオライト触媒の高い活性をより長期にわたって維持することができる。
原料組成物をゼオライト触媒に接触させる際の圧力や、質量空間速度(WHSV)、ゼオライト触媒の質量Wに対する原料の供給速度の比(W/F)などの反応条件、原料及び触媒の使用量は、反応装置、触媒の活性、反応状態、原料・生成物の物性等に応じて設計すればよい。
以上説明したように、本発明に係る製造方法によれば、特定のゼオライト触媒を用いることで、原料アルカンを含む原料組成物から高い収率で長時間に亘って安定的に芳香族炭化水素を製造することができる。これにより、芳香族炭化水素を製造する際に必要となる触媒再生の回数を減少し、生産効率を向上させることができるため、工業的に非常に有用である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ゼオライト骨格中に遷移金属またはポスト遷移金属から選ばれる少なくとも1種の金属原子を含むMFI構造のゼオライト担体に、白金原子が担持されたゼオライト触媒を芳香族炭化水素の製造に用いることで、原料アルカンを含む原料組成物から高い収率で長時間に亘って安定的に芳香族炭化水素を製造することができる。これにより、芳香族炭化水素を製造する際に必要となる触媒再生の回数を減少し、生産効率を向上させることができるため、工業的に非常に有用である。
【0021】
また、本発明に係るゼオライト触媒にはブレンステッド酸はほとんど存在しておらず、ルイス酸のみが存在している。一般的に、脱水素反応の副生成物はブレンステッド酸の存在により生成量が増減することが知られている。本発明に係るゼオライト触媒ではブレンステッド酸がほとんど存在していないことから、副反応の制御が可能であり、副生成物の発生を抑制することができる。
このため、本発明に係るゼオライト触媒を芳香族炭化水素の製造に用いることで、例えば副反応が抑制され芳香族炭化水素選択率が向上する、分解副生成物の重合によるコークの発生が抑制されること等が考えられ、これにより長時間に亘って安定的に芳香族炭化水素を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例に係るゼオライト担体およびZn含浸ゼオライト担体(金属が導入されていないMFI型ゼオライトにZnを含侵担持したゼオライト担体をいう。)のシンクロトロンXRD分析の結果を示す図である。
図2】本発明の実施例に係るゼオライト担体の29Si CP-MAS NMR測定の結果を示す図である。
図3】本発明の実施例に係るゼオライト、ZnO結晶、およびZn含浸担持ゼオライト担体のFT-IR分析の結果を示す図である。
図4】本発明の実施例に係るゼオライト、ZnO結晶、およびZn含浸担持ゼオライト担体にピリジンを吸着させたもののFT-IR分析の結果を示す図である。
図5】本発明の実施例に係るゼオライトおよびZn含浸担持ゼオライト担体のCO-TPD分析の結果を示す図である。
図6】本発明の実施例に係るゼオライトおよびZn含浸担持ゼオライト担体のNH-TPD分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施態様としての一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0024】
[ゼオライト担体の調製]
本実施形態に係るゼオライト担体は、シリカゲルの熟成工程、水熱合成工程、焼成工程を組み合わせて処理することにより調製した。ここでは金属原子として亜鉛を用いて説明しているが、ガリウムの場合も同様である。なお、ガリウムの場合は導入試薬として、硝酸ガリウムn水和物を用いた。
(1)熟成工程
ステンレス製耐圧容器の内部に、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)4.0g、20~25wt%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液(TPAOH、有機構造規定剤)4.6gを加え、密閉し、80℃にて24時間撹拌(熟成)を行った。撹拌後の混合物の状態は液状であった。TPAOHは、ゼオライト構造を構築する規定剤として、また、水溶液を塩基性とするために加えられている。これにより、塩基性水溶液中でTEOSが縮重合された。
(2)水熱合成工程
硝酸亜鉛6水和物をイオン交換水0.5gに溶解した。
その後、(1)熟成工程で得られた混合物に加え、室温(25~30℃)で均一化するまで撹拌を行った。これにより、シリカと亜鉛イオンが共存するゲルが得られた。ゲル化した混合物をオーブンに投入し、20rpmで回転させながら175℃で24時間水熱合成を行った。
(3)焼成工程
水熱合成工程後の混合物を遠沈管に投入し、遠心分離によりゲル状のサンプルを得た。その後、このゲル状のサンプルを、イオン交換水を用いて洗浄した。
洗浄は、ゲル状のサンプルにイオン交換水を加えて洗浄した後、遠心分離を行う。遠心分離後の上澄み液のpHを測定し、pHが7~8の範囲に属するまで洗浄・遠心分離を繰り返した。
洗浄後のゲル状のサンプルを90℃のオーブンにて乾燥させた。
乾燥後のサンプルは、マッフル炉に投入され、550℃で8時間、空気環境下で焼成を行い、ゼオライト担体を得た。これにより、ゼオライト中の有機物であるテトラプロピルアンモニウムイオン(カチオン)が除去されたことになる。
【0025】
このようにして得られたゼオライト担体について、次の測定を行った。
(a)シンクロトロンXRD分析
シンクロトロンXRD装置にてXRD分析を行った。
シンクロトロンXRD分析の結果(図1)、Zn含浸担持ゼオライト担体(金属が導入されていないMFI型ゼオライトにZnを含浸担持したゼオライト担体をいう。)では、ZnO結晶に起因するピークが見られるものの、本実施例におけるゼオライト担体では、ZnO結晶に由来するピークは見られなかった。
(b)固体NMR分析
NMR(日本電子株式会社製、ECA-600)にて29Si CP-MAS NMR測定を行った。
Si、O、Znで構成されるゼオライトを29Si CP-MAS NMRで測定すると、Si原子の4つの結合が-O-Siのみの場合には-110~-120ppmにピークが現れ、Si原子の4つの結合のうち少なくとも1つの結合が-O-Znである場合には-100ppm付近にピークが現れる(「Synthesis and Characterization of Zincosilicates with the SOD Topology」M.A. Camblor, R.F.Lobe, H.Koller, M.E. Davis, Chemistry of materials, 6, P.2193-2199(1994))。本実施例におけるゼオライト担体では、図2に示すように、この-100ppmのピークが見られた。
(c)FT-IR分析
FT-IR(日本分光株式会社製、FT/IR-4600)にて構造解析を行った。このとき、前処理として、450℃で1時間真空排気を行った。
図3に示すように、450℃で1時間真空排気して前処理を行った後の室温でのFT-IR分析の結果、ZnのZn-OH振動に由来する3640cm-1付近の吸収バンドが見られ、Znはゼオライト骨格内に取り込まれて、Zn同士は孤立しているとみられることを確認した。
また、前処理後に150℃まで冷却し、ピリジンを導入し、真空排気しながら250℃まで昇温させた後にFT-IR分析を行った。その結果(図4)、1560cm-1付近のCN-Hの振動に由来する吸収バンドは見られなかった。
その一方、ルイス酸が存在する場合に見られる1450cm-1付近の吸収バンドについては、本実施例におけるゼオライト担体では、確認することができた。このことから、本実施例におけるゼオライト担体には、ブレンステッド酸を有さず、ルイス酸のみを有することが判明した。
(d)CO-TPD分析
TPD分析装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、BELCAT II)にてCO-TPD分析を行った。ゼオライト担体約30mgを、ヘリウムガスを流量50mL/minで流通させながら500℃1時間の前処理を行った。その後、40℃未満まで冷却し、1%CO/Heガスを流量50mL/minで流通させてゼオライト担体にCOを吸着させた後、ヘリウムガスを流量50mL/minにて5分間流通させた。その後、ヘリウムガスを30mL/minにて流通させながら、800℃まで昇温速度10℃/minにて昇温させ、COの離脱をTCDとMASSにて分析を行った。MASSは、マイクロトラック・ベル株式会社製、BELMassを用いた。
塩基量の測定は、CO-TPDによるピーク面積から算出した。
CO-TPD分析の結果(図5)、100℃付近および500℃以上の高温域においてもピークが見られ、このゼオライト担体の固体塩基性が強いことが確認した。なお、CO-TPDによる500℃以上の高温域のピーク面積から算出した固体塩基量は、0~0.035mmol/gであった。
(e)NH-TPD分析
TPD分析装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、BELCAT II)にてNH-TPD分析を行った。ゼオライト担体約30mgを、ヘリウムガスを流量50mL/minで流通させながら500℃1時間の前処理を行った。その後、100℃まで冷却し、1%NH/Heガスを流量50mL/minで流通させてゼオライト担体にNHを吸着させた後、ヘリウムガスを流量50mL/minにて15分間流通させた。その後、ヘリウムガスを30mL/minにて流通させながら、700℃まで昇温速度10℃/minにて昇温させ、NHの離脱をTCDとMASSにて分析を行った。MASSは、マイクロトラック・ベル株式会社製、BELMassを用いた。
ルイス酸量の測定は、NH-TPDによるピーク面積から算出した。
NH-TPD分析の結果(図6)、150℃~500℃までの大きいブロードのピークが見られた。FT-IR分析において、本実施例におけるゼオライト担体には、ブレンステッド酸を有さず、ルイス酸のみを有することが確認されているため、このピークはルイス酸に吸着したNHの離脱に由来すると考えられる。また、ピーク面積から算出した酸量は、0.01~0.2mmol/gであった。
【0026】
[白金の担持(ゼオライト触媒の製造)]
次に、焼成工程後のゼオライト担体に、白金を担持させる方法について説明する。
焼成後のゼオライト担体1gに対して、白金含有量4.557wt%のジニトロジアミン白金硝酸溶液0.22gを添加して、含浸法にて白金イオンを担持した。その後、550℃で8時間、空気中で焼成し、ゼオライト担体に白金を担持させたゼオライト触媒を得た。
【0027】
[芳香族炭化水素の製造]
固定床流通式反応器(以下、「反応器」という。)を用いて、芳香族炭化水素の製造を行った。具体的には、反応器内に触媒100mgを投入した。
【実施例0028】
(n-ヘキサンを原料とするベンゼンの製造)
常圧のもと、不活性ガス雰囲気中において、出発原料として、n-ヘキサンを使用して、ベンゼンの製造を行った。このときに使用した触媒は、ゼオライト担体に含まれる金属原子をZn原子とし、Si原子数/Zn原子数を10となるように調整した担体で、その担体に白金を1wt%担持させたゼオライト触媒である。また、触媒の質量/n-ヘキサンの流量(W/F)は、15.7g・h・mol-1、触媒質量とn-ヘキサン供給速度との比(つまり、質量空間速度)が5.5h-1となるようになるように、n-ヘキサンの供給量を調整した。反応温度は450~600℃まで、50℃ごとに振り分けて製造を行った。得られた生成物はガスクロマトグラフ(島津製作所株式会社製、GC-2014)にてガス分析を行った。
このようにして製造したときの、温度と生成組成との関係を表1に示す。ベンゼンが高収率にて得られていることが明らかとなった。
【0029】
【表1】
【0030】
加えて、温度を600℃に固定するとともに、反応時間を1時間から6時間まで1時間ごとに区切って、製造を行った。得られた生成物はガスクロマトグラフ(島津製作所株式会社製、GC-2014)にてガス分析を行った。このようにして製造したときの、反応時間と生成組成との関係を表2に示す。
【0031】
【表2】
【実施例0032】
(n-ヘプタンを原料とするトルエンの製造)
常圧のもと、不活性ガス雰囲気中において、出発原料として、n-ヘプタンを使用して、トルエンの製造を行った。このときに使用した触媒は、ゼオライト担体に含まれる金属原子をZn原子とし、Si原子数/Zn原子数を10となるように調整した担体で、その担体に白金を1wt%担持させたゼオライト触媒である。また、W/Fは、17.4g・h・mol-1、質量空間速度が5.7h-1となるようになるように、n-ヘプタンの供給量を調整した。反応温度を600℃に固定するとともに、反応時間を1時間から6時間まで1時間ごとに区切って、製造を行った。得られた生成物はガスクロマトグラフ(島津製作所株式会社製、GC-2014)にてガス分析を行った。
このようにして製造したときの、反応時間と生成組成との関係を表3に示す。トルエンの収率がおおむね40%以上ととても高いことが明らかとなった。
【0033】
【表3】
【実施例0034】
(n-オクタンを原料とするキシレンの製造)
常圧のもと、不活性ガス雰囲気中において、出発原料として、n-オクタンを使用して、キシレンの製造を行った。このときに使用した触媒は、ゼオライト担体に含まれる金属原子をZn原子とし、Si原子数/Zn原子数を10となるように調整した担体で、その担体に白金を1wt%担持させたゼオライト触媒である。また、W/Fは、19.3g・h・mol-1、質量空間速度が6h-1となるようになるように、n-オクタンの供給量を調整した。反応温度を600℃に固定するとともに、反応時間を1時間から5時間まで1時間ごとに区切って、製造を行った。得られた生成物はガスクロマトグラフ(島津製作所株式会社製、GC-2014)にてガス分析を行った。
このようにして製造したときの、反応時間と生成組成との関係を表4示す。o-キシレンがm-キシレン、p-キシレンより収率が高いことが明らかとなった。
【0035】
【表4】
【実施例0036】
また、反応温度を600℃から550℃に変更してn-オクタンからのキシレンを製造した。その他は実施例3と同条件である。
このようにして製造したときの、反応時間と生成組成との関係を表5に示す。o-キシレンがm-キシレン、p-キシレンより収率が高いが、実施例3場合と比較して収率が低下することが明らかとなった。
【0037】
【表5】
【実施例0038】
(n-オクタンを原料とするキシレンの製造)
常圧のもと、不活性ガス雰囲気中において、出発原料として、n-オクタンを使用して、キシレンの製造を行った。このときに使用した触媒は、ゼオライト担体に含まれる金属原子をGa原子とし、Si原子数/Ga原子数を20となるように調整した担体で、その担体に白金を1wt%担持させたゼオライト触媒である。また、W/Fは、19.3g・h・mol-1、質量空間速度が6h-1となるようになるように、n-オクタンの供給量を調整した。反応温度を600℃に固定するとともに、反応時間を1時間から6時間まで1時間ごとに区切って、製造を行った。得られた生成物はガスクロマトグラフ(島津製作所株式会社製、GC-2014)にてガス分析を行った。
このようにして製造したときの、反応時間と生成組成との関係を表6に示す。o-キシレンがm-キシレン、p-キシレンより収率が高いが、実施例3と比較して、収率が低下することは明らかとなった。
【0039】
【表6】
【比較例1】
【0040】
比較例1として、常圧のもと、不活性ガス雰囲気中において、出発原料として、n-オクタンを使用して、キシレンの製造を行った。このときに使用した触媒は、ゼオライト担体に含まれる金属原子をAl原子とし、Si原子数/Al原子数を12.5となるように調整した担体で、その担体に白金を1wt%担持させたゼオライト触媒である。また、W/Fは、19.3g・h・mol-1、質量空間速度が6h-1となるようになるように、n-オクタンの供給量を調整した。反応温度を600℃に固定するとともに、反応時間を2時間から5時間まで1時間ごとに区切って、製造を行った。得られた生成物はガスクロマトグラフ(島津製作所株式会社製、GC-2014)にてガス分析を行った。
このようにして製造したときの、反応時間と生成組成との関係を表7に示す。ゼオライト担体に含まれる金属原子を亜鉛原子としたときよりも、圧倒的に収率が低下することが明らかとなった。
【0041】
【表7】
【比較例2】
【0042】
比較例2として、常圧のもと、不活性ガス雰囲気中において、出発原料として、n-オクタンを使用して、キシレンの製造を行った。このときに使用した触媒は、ゼオライト担体に含まれる金属原子をNi原子とし、Si原子数/Ni原子数を10となるように調整した担体で、その担体に白金を1wt%担持させたゼオライト触媒である。また、W/Fは、19.3g・h・mol-1、質量空間速度が6h-1となるようになるように、n-オクタンの供給量を調整した。反応温度を550℃に固定するとともに、反応時間を1時間から4時間まで1時間ごとに区切って、製造を行った。得られた生成物はガスクロマトグラフ(島津製作所株式会社製、GC-2014)にてガス分析を行った。
このようにして製造したときの、反応時間と生成組成との関係を表8に示す。ゼオライト担体に含まれる金属原子を亜鉛原子としたときよりも、圧倒的に収率が低下することが明らかとなった。
【0043】
【表8】
【比較例3】
【0044】
比較例3として、常圧のもと、不活性ガス雰囲気中において、出発原料として、n-オクタンを使用して、キシレンの製造を行った。このときに使用した触媒は、ゼオライト担体に含まれる金属原子をCo原子とし、Si原子数/Co原子数を10となるように調整した担体で、その担体に白金を1wt%担持させたゼオライト触媒である。また、W/Fは、19.3g・h・mol-1、質量空間速度が6h-1となるようになるように、n-オクタンの供給量を調整した。反応温度を550℃に固定するとともに、反応時間を1時間から5時間まで1時間ごとに区切って、製造を行った。得られた生成物はガスクロマトグラフ(島津製作所株式会社製、GC-2014)にてガス分析を行った。
このようにして製造したときの、反応時間と生成組成との関係を表9に示す。ゼオライト担体に含まれる金属原子を亜鉛原子としたときよりも、圧倒的に収率が低下することが明らかとなった。
【0045】
【表9】
【比較例4】
【0046】
比較例4として、常圧のもと、不活性ガス雰囲気中において、出発原料として、n-オクタンを使用して、キシレンの製造を行った。このときに使用した触媒は、金属原子が含まれていないゼオライト担体に白金を1wt%担持させたゼオライト触媒である。また、W/Fは、19.3g・h・mol-1、質量空間速度が6h-1となるようになるように、n-オクタンの供給量を調整した。反応温度を600℃に固定するとともに、反応時間を1時間から5時間まで1時間ごとに区切って、製造を行った。得られた生成物はガスクロマトグラフ(島津製作所株式会社製、GC-2014)にてガス分析を行った。
このようにして製造したときの、反応時間と生成組成との関係を表10に示す。ゼオライト担体に含まれる金属原子がなければ、圧倒的にキシレンの収率が低下することが明らかとなった。
【0047】
【表10】
【比較例5】
【0048】
比較例5として、常圧のもと、不活性ガス雰囲気中において、出発原料として、n-オクタンを使用して、キシレンの製造を行った。このときに使用した触媒は、金属原子が含まれていないゼオライト担体に亜鉛および白金を担持させたゼオライト触媒である。亜鉛の担持量は10wt%、白金の担持量は1wt%とした。また、W/Fは、19.3g・h・mol-1、質量空間速度が6h-1となるようになるように、n-オクタンの供給量を調整した。反応温度を600℃に固定するとともに、反応時間を1時間から5時間まで1時間ごとに区切って、製造を行った。得られた生成物はガスクロマトグラフ(島津製作所株式会社製、GC-2014)にてガス分析を行った。
このようにして製造したときの、反応時間と生成組成との関係を表11に示す。ゼオライト担体に金属原子が含まれなければ、キシレンの収率が低下することが明らかとなった。
【0049】
【表11】
【実施例0050】
(各種炭化水素化合物からの芳香族炭化水素の製造)
出発原料をとして、n-オクタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、1,2-ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1-オクテン、2-オクテンを使用してキシレンの製造を行った。反応条件は、実施例3と同様である。
このようにして製造したときの、出発原料と生成組成との関係を表12に示す。n-オクタン、1,2-ジメチルシクロヘキサン、1-オクテン、2-オクテンを出発原料としたとき、キシレンの収率が極めて高いことが明らかとなった。
【0051】
【表12】
図1
図2
図3
図4
図5
図6