(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165046
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】銅/セラミックス接合体、および、絶縁回路基板
(51)【国際特許分類】
C04B 37/02 20060101AFI20221024BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20221024BHJP
H05K 3/38 20060101ALI20221024BHJP
B23K 1/19 20060101ALN20221024BHJP
【FI】
C04B37/02 B
H01L23/12 C
H05K3/38 B
B23K1/19 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070221
(22)【出願日】2021-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 伸幸
【テーマコード(参考)】
4G026
5E343
【Fターム(参考)】
4G026BA03
4G026BA16
4G026BA17
4G026BB22
4G026BF16
4G026BF44
4G026BG06
4G026BH07
5E343AA02
5E343AA23
5E343BB24
5E343BB52
5E343BB67
5E343DD54
5E343GG16
(57)【要約】
【課題】厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス部材における割れの発生を抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れた銅/セラミックス接合体を提供する。
【解決手段】セラミックス部材11の一方の面および他方の面にそれぞれ銅部材12,13が接合されており、セラミックス部材11と銅部材12,13との接合界面において、活性金属化合物層21,31の銅部材12,13との界面から銅部材12,13側へ10μmから50μmまでの領域におけるインデンテーション硬さの最大値が120mgf/μm
2以上200mgf/μm
2以下の範囲内とされ、一方の面側に接合された銅部材12におけるインデンテーション硬さの最大値H1と、他方の面側に接合された銅部材13におけるインデンテーション硬さの最大値H2との差が50mgf/μm
2以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅部材と、セラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、
前記セラミックス部材の一方の面および他方の面にそれぞれ前記銅部材が接合されており、
前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面において、前記セラミックス部材側には活性金属化合物層が形成されており、
前記活性金属化合物層の前記銅部材との界面から前記銅部材側へ20μmから50μmまでの領域におけるインデンテーション硬さの最大値が120mgf/μm2以上200mgf/μm2以下の範囲内とされ、
前記一方の面側に接合された前記銅部材における前記インデンテーション硬さの最大値H1と、前記他方の面側に接合された前記銅部材における前記インデンテーション硬さの最大値H2との差が50mgf/μm2以下であることを特徴とする銅/セラミックス接合体。
【請求項2】
前記セラミックス部材の前記一方の面側に形成された前記活性金属化合物層の厚さta1、および、前記セラミックス部材の前記他方の面側に形成された前記活性金属化合物層の厚さta2が、0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされ、厚さ比ta1/ta2が0.7以上1.4以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項3】
前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面において、前記銅部材側にはAg-Cu合金層が形成されており、
前記セラミックス部材の前記一方の面側に形成された前記Ag-Cu合金層の厚さtb1と、前記セラミックス部材の前記他方の面側に形成された前記Ag-Cu合金層の厚さtb2との比tb1/tb2が、0.7以上1.4以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項4】
前記セラミックス部材の一方の面および他方の面にそれぞれ接合された前記銅部材の前記セラミックス部材とは反対側の表面から10μm以上30μm以下の領域におけるインデンテーション硬さの平均値が70mgf/μm2以上90mgf/μm2以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項5】
セラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、
前記セラミックス基板の一方の面および他方の面にそれぞれ前記銅板が接合されており、
前記セラミックス基板と前記銅板との接合界面において、前記セラミックス基板側には活性金属化合物層が形成されており、
前記活性金属化合物層の前記銅板との界面から前記銅板側へ20μmから50μmまでの領域におけるインデンテーション硬さの最大値が120mgf/μm2以上200mgf/μm2以下の範囲内とされ、
前記一方の面側に接合された前記銅板における前記インデンテーション硬さの最大値H1と、前記他方の面側に接合された前記銅板における前記インデンテーション硬さの最大値H2との差が50mgf/μm2以下であることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項6】
前記セラミックス基板の前記一方の面側に形成された活性金属化合物層の厚さta1、および、前記セラミックス基板の前記他方の面側に形成された活性金属化合物層の厚さta2が、0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされ、厚さ比ta1/ta2が0.7以上1.4以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項5に記載の絶縁回路基板。
【請求項7】
前記セラミックス基板と前記銅板との接合界面において、前記板側にはAg-Cu合金層が形成されており、
前記セラミックス基板の前記一方の面側に形成された前記Ag-Cu合金層の厚さtb1と、前記セラミックス基板の前記他方の面側に形成された前記Ag-Cu合金層の厚さtb2との比tb1/tb2が、0.7以上1.4以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の絶縁回路基板。
【請求項8】
前記セラミックス基板の一方の面および他方の面にそれぞれ接合された前記銅板の前記セラミックス基板とは反対側の表面から10μm以上30μm以下の領域におけるインデンテーション硬さの平均値が70mgf/μm2以上90mgf/μm2以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の絶縁回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、銅又は銅合金からなる銅部材と、セラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体、および、セラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュールおよび熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子および熱電素子が接合された構造とされている。
例えば、風力発電、電気自動車、ハイブリッド自動車等を制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子は、動作時の発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、セラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、セラミックス基板の他方の面に金属板を接合して形成した放熱用の金属層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミックス基板の一方の面および他方の面に、銅板を接合することにより回路層および金属層を形成した絶縁回路基板が提案されている。この特許文献1においては、セラミックス基板の一方の面および他方の面に、Ag-Cu-Ti系ろう材を介在させて銅板を配置し、加熱処理を行うことにより銅板が接合されている(いわゆる活性金属ろう付け法)。
【0004】
また、特許文献2においては、銅又は銅合金からなる銅板と、AlN又はAl2O3からなるセラミックス基板とが、AgおよびTiを含む接合材を用いて接合されたパワーモジュール用基板が提案されている。
さらに、特許文献3には、銅又は銅合金からなる銅板と、窒化ケイ素からなるセラミックス基板とが、AgおよびTiを含む接合材を用いて接合されたパワーモジュール用基板が提案されている。
前述のように、Tiを含む接合材を用いて銅板とセラミックス基板とを接合した場合には、活性金属であるTiがセラミックス基板と反応することにより、接合材の濡れ性が向上し、銅板とセラミックス基板との接合強度が向上することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3211856号公報
【特許文献2】特許第5757359号公報
【特許文献3】特開2018-008869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近では、絶縁回路基板に搭載される半導体素子の発熱温度が高くなる傾向にあり、絶縁回路基板には、従来にも増して、厳しい冷熱サイクルに耐えることができる冷熱サイクル信頼性が求められている。
ここで、前述のように、Tiを含む接合材を用いて銅板とセラミックス基板とを接合した場合には、銅板側に活性金属であるTiが拡散し、CuとTiを含む金属間化合物が析出することで、接合界面近傍が硬くなり、冷熱サイクル負荷時にセラミックス部材に割れが生じ、冷熱サイクル信頼性が低下するおそれがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス部材における割れの発生を抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れた銅/セラミックス接合体、および、この銅/セラミックス接合体からなる絶縁回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、セラミックス部材の一方の面と他方の面にそれぞれ接合される銅部材の形状、接合材の塗布状況、接合時の液相発生状況等によって、セラミックス部材の一方の面に接合された銅板との接合界面と、セラミックス部材の他方の面に接合された銅板との接合界面と、で構造が異なることが分かった。
そして、セラミックス部材の一方の面と他方の面にそれぞれ接合された銅部材との接合界面の硬さが異なる場合には、冷熱サイクル負荷時にセラミックス部材に加わる熱応力のバランスが崩れ、セラミックス部材に割れが生じやすくなるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、前述の知見を基になされたものであって、本発明の銅/セラミックス接合体は、銅又は銅合金からなる銅部材と、セラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、前記セラミックス部材の一方の面および他方の面にそれぞれ前記銅部材が接合されており、前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面において、前記セラミックス部材側には活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層の前記銅部材との界面から前記銅部材側へ20μmから50μmまでの領域におけるインデンテーション硬さの最大値が120mgf/μm2以上200mgf/μm2以下の範囲内とされ、前記一方の面側に接合された前記銅部材における前記インデンテーション硬さの最大値H1と、前記他方の面側に接合された前記銅部材における前記インデンテーション硬さの最大値H2との差が50mgf/μm2以下であることを特徴としている。
【0010】
なお、本発明におけるインデンテーション硬度Hとは、バーコビッチ圧子と呼ばれる稜間角が114.8°以上115.1°以下の三角錐ダイヤモンド圧子を用いて試験荷重を5000mgfとして負荷をかけた際の荷重―変位の相関を計測し、以下の式より算出される。
hc=ht-0.75×P/S
(ht:押し込み深さ、P:荷重、S:接触剛性(=dP/ dh|Pmax)、hc:接触深さ)
接触面積A=24.56×hc2
インデンテーション硬さH=P/A
【0011】
本発明の銅/セラミックス接合体によれば、前記セラミックス部材の一方の面および他方の面に接合された銅部材との接合界面において、前記セラミックス部材側には活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層の前記銅部材との界面から前記銅部材側へ20μmから50μmまでの領域におけるインデンテーション硬さの最大値が120mgf/μm2以上200mgf/μm2以下の範囲内とされているので、活性金属によってセラミックス部材と銅部材とが強固に接合されているとともに、接合界面が必要以上に硬くなることが抑制される。
そして、前前記一方の面側に接合された前記銅部材における前記インデンテーション硬さの最大値H1と、前記他方の面側に接合された前記銅部材における前記インデンテーション硬さの最大値H2との差が50mgf/μm2以下とされているので、セラミックス部材の一方の面と他方の面にそれぞれ接合された銅部材との接合界面の硬さに大きな差が生じず、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス部材の割れの発生を抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れている。
【0012】
ここで、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面において、前記セラミックス部材の前記一方の面側に形成された前記活性金属化合物層の厚さta1、および、前記セラミックス部材の前記他方の面側に形成された前記活性金属化合物層の厚さta2が、0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされ、厚さ比ta1/ta2が0.7以上1.4以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記セラミックス部材の前記一方の面側に形成された前記活性金属化合物層の厚さta1、および、前記セラミックス部材の前記他方の面側に形成された前記活性金属化合物層の厚さta2が、0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされているので、活性金属によってセラミックス部材と銅部材とが確実に強固に接合されているとともに、接合界面が硬くなることがさらに抑制される。
そして、厚さ比ta1/ta2が0.7以上1.4以下の範囲内とされているので、セラミックス部材の一方の面と他方の面にそれぞれ接合された銅部材との接合界面の硬さに大きな差が生じず、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス部材の割れの発生をさらに抑制することができる。
【0013】
また、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面において、前記銅部材側にはAg-Cu合金層が形成されており、前記セラミックス部材の前記一方の面側に形成された前記Ag-Cu合金層の厚さtb1と、前記セラミックス部材の前記他方の面側に形成された前記Ag-Cu合金層の厚さtb2との比tb1/tb2が、0.7以上1.4以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記セラミックス部材の前記一方の面側に形成された前記Ag-Cu合金層の厚さtb1と、前記セラミックス部材の前記他方の面側に形成された前記Ag-Cu合金層の厚さtb2との比tb1/tb2が、0.7以上1.4以下の範囲内とされているので、セラミックス部材の一方の面と他方の面にそれぞれ接合された銅部材との接合界面の硬さに大きな差が生じず、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス部材の割れの発生をさらに抑制することができる。
【0014】
さらに、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記セラミックス部材の一方の面および他方の面にそれぞれ接合された前記銅部材の前記セラミックス部材とは反対側の表面から10μm以上30μm以下の領域におけるインデンテーション硬さの平均値が70mgf/μm2以上90mgf/μm2以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記銅部材の前記セラミックス部材とは反対側の表面から10μm以上30μm以下の領域におけるインデンテーション硬さの平均値が70mgf/μm2以上90mgf/μm2以下の範囲内とされているので、銅部材全体が硬くなっておらず、この銅部材の表面に他の部材を接合した際に、これらの他の部材との接合信頼性を向上させることができる。
【0015】
本発明の絶縁回路基板は、セラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、前記セラミックス基板の一方の面および他方の面にそれぞれ前記銅板が接合されており、前記セラミックス基板と前記銅板との接合界面において、前記セラミックス基板側には活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層の前記銅板との界面から前記銅板側へ20μmから50μmまでの領域におけるインデンテーション硬さの最大値が120mgf/μm2以上200mgf/μm2以下の範囲内とされ、前記一方の面側に接合された前記銅板における前記インデンテーション硬さの最大値H1と、前記他方の面側に接合された前記銅板における前記インデンテーション硬さの最大値H2との差が50mgf/μm2以下であることを特徴としている。
【0016】
本発明の絶縁回路基板によれば、前記セラミックス基板の一方の面および他方の面に接合された銅板との接合界面において、前記セラミックス基板側には活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層の前記銅板との界面から前記銅板側へ20μmから50μmまでの領域におけるインデンテーション硬さの最大値が120mgf/μm2以上200mgf/μm2以下の範囲内とされているので、活性金属によってセラミックス基板と銅板とが強固に接合されているとともに、接合界面が硬くなることが抑制される。
そして、前記一方の面側に接合された前記銅板における前記インデンテーション硬さの最大値H1と、前記他方の面側に接合された前記銅板における前記インデンテーション硬さの最大値H2との差が50mgf/μm2以下とされているので、セラミックス基板の一方の面と他方の面にそれぞれ接合された銅板との接合界面の硬さに大きな差が生じず、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板の割れの発生を抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れている。
【0017】
ここで、本発明の絶縁回路基板においては、前記セラミックス基板と前記銅板との接合界面において、前記セラミックス基板の前記一方の面側に形成された活性金属化合物層の厚さta1、および、前記セラミックス基板の前記他方の面側に形成された活性金属化合物層の厚さta2が、0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされ、厚さ比ta1/ta2が0.7以上1.4以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記セラミックス基板の前記一方の面側に形成された前記活性金属化合物層の厚さta1、および、前記セラミックス基板の前記他方の面側に形成された前記活性金属化合物層の厚さta2が、0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされているので、活性金属によってセラミックス基板と銅板とが確実に強固に接合されているとともに、接合界面が硬くなることがさらに抑制される。
そして、厚さ比ta1/ta2が0.7以上1.4以下の範囲内とされているので、セラミックス基板の一方の面と他方の面にそれぞれ接合された銅板との接合界面の硬さに大きな差が生じず、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板の割れの発生をさらに抑制することができる。
【0018】
また、本発明の絶縁回路基板においては、前記セラミックス基板と前記銅板との接合界面において、前記板側にはAg-Cu合金層が形成されており、前記セラミックス部材の前記一方の面側に形成された前記Ag-Cu合金層の厚さtb1と、前記セラミックス部材の前記他方の面側に形成された前記Ag-Cu合金層の厚さtb2との比tb1/tb2が、0.7以上1.4以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記セラミックス基板の前記一方の面側に形成された前記Ag-Cu合金層の厚さtb1と、前記セラミックス基板の前記他方の面側に形成された前記Ag-Cu合金層の厚さtb2との比tb1/tb2が、0.7以上1.4以下の範囲内とされているので、セラミックス基板の一方の面と他方の面にそれぞれ接合された銅板との接合界面の硬さに大きな差が生じず、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板の割れの発生をさらに抑制することができる。
【0019】
さらに、本発明の絶縁回路基板においては、前記セラミックス基板の一方の面および他方の面にそれぞれ接合された前記銅板の前記セラミックス基板とは反対側の表面から10μm以上30μm以下の領域におけるインデンテーション硬さの平均値が70mgf/μm2以上90mgf/μm2以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記銅板の前記セラミックス基板とは反対側の表面から10μm以上30μm以下の領域におけるインデンテーション硬さの平均値が70mgf/μm2以上90mgf/μm2以下の範囲内とされているので、銅板全体が硬くなっておらず、この銅板の表面に他の部材を接合した際に、これらの他の部材との接合信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス部材における割れの発生を抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れた銅/セラミックス接合体、および、この銅/セラミックス接合体からなる絶縁回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の回路層とセラミックス基板との接合界面、および、金属層とセラミックス基板との接合界面の拡大説明図である。(a)が回路層との接合界面、(b)が金属層との接合界面である。
【
図3】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法のフロー図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態に係る銅/セラミックス接合体は、セラミックスからなるセラミックス部材としてのセラミックス基板11と、銅又は銅合金からなる銅部材としての銅板42(回路層12)および銅板43(金属層13)とが接合されてなる絶縁回路基板10である。
図1に、本実施形態である絶縁回路基板10を備えたパワーモジュール1を示す。
【0023】
このパワーモジュール1は、回路層12および金属層13が配設された絶縁回路基板10と、回路層12の一方の面(
図1において上面)に接合層2を介して接合された半導体素子3と、金属層13の他方側(
図1において下側)に配置されたヒートシンク5と、を備えている。
【0024】
半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。この半導体素子3と回路層12は、接合層2を介して接合されている。
接合層2は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材で構成されている。
【0025】
ヒートシンク5は、前述の絶縁回路基板10からの熱を放散するためのものである。このヒートシンク5は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態ではりん脱酸銅で構成されている。このヒートシンク5には、冷却用の流体が流れるための流路が設けられている。
なお、本実施形態においては、ヒートシンク5と金属層13とが、はんだ材からなるはんだ層7によって接合されている。このはんだ層7は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材で構成されている。
【0026】
そして、本実施形態である絶縁回路基板10は、
図1に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13と、を備えている。
【0027】
セラミックス基板11は、絶縁性および放熱性に優れた窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)等のセラミックスで構成されている。本実施形態では、セラミックス基板11は、特に放熱性の優れた窒化アルミニウム(AlN)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0028】
回路層12は、
図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面(
図4において上面)に、銅又は銅合金からなる銅板42が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、回路層12は、無酸素銅の圧延板を打ち抜いたものが回路パターン状に配置された状態でセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、回路層12となる銅板42の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0029】
金属層13は、
図4に示すように、セラミックス基板11の他方の面(
図4において下面)に、銅又は銅合金からなる銅板43が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、金属層13は、無酸素銅の圧延板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、金属層13となる銅板43の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0030】
セラミックス基板11と回路層12との接合界面においては、
図2に示すように、セラミックス基板11側から順に、活性金属化合物層21、Ag-Cu合金層22が形成されている。
また、回路層12においては、活性金属化合物層21の回路層12との界面から回路層12側へ20μmから50μmまでの領域E1におけるインデンテーション硬さの最大値H1が120mgf/μm
2以上200mgf/μm
2以下の範囲内とされている。
【0031】
セラミックス基板11と金属層13との接合界面においては、
図3に示すように、セラミックス基板11側から順に、活性金属化合物層31、Ag-Cu合金層32が形成されている。
また、金属層13においては、活性金属化合物層31の金属層13との界面から金属層13側へ20μmから50μmまでの領域E2におけるインデンテーション硬さの最大値H2が120mgf/μm
2以上200mgf/μm
2以下の範囲内とされている。
【0032】
そして、本実施形態においては、セラミックス基板11の一方の面に形成された回路層12における前記インデンテーション硬さの最大値H1と、セラミックス基板11の他方の面に形成された金属層13における前記インデンテーション硬さの最大値H2との差が50mgf/μm2以下とされている。
【0033】
また、本実施形態においては、セラミックス基板11の一方の面側に形成された活性金属化合物層21の厚さta1、および、セラミックス基板11の他方の面側に形成された活性金属化合物層31の厚さta2が、0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされ、これらの厚さ比ta1/ta2が0.7以上1.4以下の範囲内とされていることが好ましい。
なお、本実施形態では、接合材45が活性金属としてTiを含有し、セラミックス基板11が窒化アルミニウムで構成されているため、活性金属化合物層21,31は、窒化チタン(TiN)で構成される。
【0034】
さらに、本実施形態においては、セラミックス基板11の一方の面側に形成されたAg-Cu合金層22の厚さtb1と、セラミックス基板11の他方の面側に形成されたAg-Cu合金層32の厚さtb2との比tb1/tb2が、0.7以上1.4以下の範囲内とされていることが好ましい。また、Ag-Cu合金層22(Ag-Cu合金層32)の厚さは、1μm以上30μm以下とすることが好ましい。
【0035】
また、本実施形態においては、セラミックス基板11の一方の面に形成された回路層12およびセラミックス基板11の他方の面に形成された金属層13のセラミックス基板11とは反対側の表面から10μm以上30μm以下の領域E3,E4におけるインデンテーション硬さの平均値が70mgf/μm2以上90mgf/μm2以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0036】
以下に、本実施形態に係る絶縁回路基板10の製造方法について、
図3および
図4を参照して説明する。
【0037】
(接合材配設工程S01)
回路層12となる銅板42と、金属層13となる銅板43とを準備する。ここで、回路層12となる銅板42は、回路パターン状に配設されたプレス片とされている。
そして、回路層12となる銅板42および金属層13となる銅板43の接合面に、接合材45を塗布し、乾燥させる。ペースト状の接合材45の塗布厚さは、乾燥後で10μm以上50μm以下の範囲内とすることが好ましい。
本実施形態では、スクリーン印刷によってペースト状の接合材45を塗布する。
【0038】
接合材45は、Agと活性金属(Ti,Zr,Nb,Hf)を含有するものとされている。本実施形態では、接合材45として、Ag-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)を用いている。なお、Ag-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)としては、例えば、Cuを0mass%以上32mass%以下の範囲内、活性金属であるTiを0.5mass%以上20mass%以下の範囲で含み、残部がAg及び不可避不純物とされた組成のものを用いることが好ましい。
【0039】
ここで、ペースト状の接合材45に含まれるAg粉の比表面積(BET値)を調整することにより、活性金属化合物層21,31の回路層12および金属層13との界面から回路層12および金属層13側へ20μmから50μmまでの領域E1,E2におけるインデンテーション硬さの最大値H1,H2を制御する。
すなわち、Ag粉の比表面積が小さいとペースト状の接合材45の焼結性が高くなり、後述する加熱工程S03において液相が発生し易くなり、活性金属の拡散が促進され、接合界面における前記インデンテーション硬さの最大値が大きくなる。一方、Ag粉の比表面積が大きいとペースト状の接合材45の焼結性が低くなり、後述する加熱工程S03において液相が発生し難くなり、活性金属の拡散が抑制され、接合界面における前記インデンテーション硬さの最大値が小さくなる。
Ag粉の比表面積の下限は、0.15m2/g以上とすることが好ましく、0.25m2/g以上とすることがさらに好ましく、0.40m2/g以上とすることがより好ましい。また、Ag粉の比表面積の上限は、1.40m2/g以下とすることが好ましく、1.00m2/g以下とすることがさらに好ましく、0.75m2/g以下とすることがより好ましい。
なお、ペースト状の接合材45に含まれるAg粉の粒径は、D10が0.7μm以上3.5μm以下、かつ、D100が4.5μm以上23μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0040】
(積層工程S02)
次に、セラミックス基板11の一方の面(
図4において上面)に、接合材45を介して回路層12となる銅板42を積層するとともに、セラミックス基板11の他方の面(
図4において下面)に、接合材45を介して金属層13となる銅板43を積層する。
【0041】
(加熱工程S03)
次に、銅板42とセラミックス基板11と銅板43とを加圧した状態で、真空雰囲気の加熱炉内で加熱し、接合材45を溶融する。
ここで、加熱工程S03における加熱温度は、800℃以上850℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、780℃から加熱温度までの昇温工程および加熱温度での保持工程における温度積分値の合計は、7℃・h以上120℃・h以下の範囲内とすることが好ましい。
また、加熱工程S03における加圧荷重は、0.029MPa以上2.94MPa以下の範囲内とすることが好ましい。
さらに、加熱工程S03における真空度は、1×10-6Pa以上5×10-2Pa以下の範囲内とすることが好ましい。
【0042】
(冷却工程S04)
そして、加熱工程S03の後、冷却を行うことにより、溶融した接合材45を凝固させて、回路層12となる銅板42とセラミックス基板11、セラミックス基板11と金属層13となる銅板43とを接合する。
なお、この冷却工程S04における冷却速度は、2℃/min以上20℃/min以下の範囲内とすることが好ましい。なお、ここでの冷却速度は加熱温度からAg-Cu共晶温度である780℃までの冷却速度である。
【0043】
ここで、回路層12(銅板42)側と金属層13(銅板43)側とで、冷却速度を調整することにより、活性金属化合物層21,31の回路層12および金属層13との界面から回路層12および金属層13側へ20μmから50μmまでの領域E1,E2におけるインデンテーション硬さの最大値H1,H2を制御する。
すなわち、冷却速度が速い場合には、活性金属の拡散が早期に停止し、接合界面における前記インデンテーション硬さの最大値が小さくなる。一方、冷却速度が遅い場合には、活性金属の拡散が長期に継続し、接合界面における前記インデンテーション硬さの最大値が大きくなる。
【0044】
なお、冷却工程S04において、回路層12(銅板42)側と金属層13(銅板43)側のいずれか一方に、不活性ガスを流すことにより、回路層12(銅板42)側と金属層13(銅板43)側とで冷却速度を調整することが可能となる。
また、加熱工程S03および冷却工程S04において、SPS(放電プラズマ焼結)法を適用した場合には、回路層12(銅板42)側の電極と、金属層13(銅板43)側の電極とで、冷却水の流量を調整することにより、回路層12(銅板42)側と金属層13(銅板43)側とで冷却速度を調整することが可能となる。
【0045】
以上のように、接合材配設工程S01、積層工程S02、加熱工程S03、冷却工程S04によって、本実施形態である絶縁回路基板10が製造されることになる。
【0046】
(ヒートシンク接合工程S05)
次に、絶縁回路基板10の金属層13の他方の面側にヒートシンク5を接合する。
絶縁回路基板10とヒートシンク5とを、はんだ材を介して積層して加熱炉に装入し、はんだ層7を介して絶縁回路基板10とヒートシンク5とをはんだ接合する。
【0047】
(半導体素子接合工程S06)
次に、絶縁回路基板10の回路層12の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する。
前述の工程により、
図1に示すパワーモジュール1が製出される。
【0048】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)によれば、セラミックス基板11の一方の面に形成された回路層12および他方の面に形成された金属層13との接合界面において、セラミックス基板11側には活性金属化合物層21,31が形成されており、活性金属化合物層21,31の回路層12および金属層13との界面から回路層12および金属層13側へ20μmから50μmまでの領域E1,E2におけるインデンテーション硬さの最大値H1,H2が120mgf/μm2以上とされているので、接合材45の活性金属が十分に反応しており、セラミックス基板11と回路層12および金属層13とが強固に接合されている。
一方、活性金属化合物層21,31の回路層12および金属層13との界面から回路層12および金属層13側へ20μmから50μmまでの領域E1,E2におけるインデンテーション硬さの最大値H1,H2が200mgf/μm2以下とされているので、接合界面が必要以上に硬くなることを抑制でき、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
【0049】
なお、セラミックス基板11と回路層12および金属層13とをさらに強固に接合するためには、接合界面の前記インデンテーション硬さの最大値H1,H2を125mgf/μm2以上とすることが好ましく、130mgf/μm2以上とすることがさらに好ましい。
また、接合界面が必要以上に硬くなることをさらに抑制するためには、接合界面の前記インデンテーション硬さの最大値H1,H2を180mgf/μm2以下とすることが好ましく、150mgf/μm2以下とすることがより好ましい。
【0050】
そして、本実施形態においては、セラミックス基板11の一方の面に形成された回路層12における前記インデンテーション硬さの最大値H1と、セラミックス基板11の他方の面に形成された金属層13における前記インデンテーション硬さの最大値H2との差が50mgf/μm2以下とされているので、セラミックス基板11の一方の面に形成された回路層12とセラミックス基板11の他方の面に形成された金属層13との接合界面の硬さに大きな差が生じておらず、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板11の割れの発生を抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れている。
【0051】
なお、冷熱サイクル信頼性をさらに向上させるためには、セラミックス基板11の一方の面に形成された回路層12における前記インデンテーション硬さの最大値H1と、セラミックス基板11の他方の面に形成された金属層13における前記インデンテーション硬さの最大値H2との差を40mgf/μm2以下とすることが好ましく、30mgf/μm2以下とすることがより好ましい。
【0052】
また、本実施形態において、セラミックス基板11の一方の面に形成された回路層12側に形成された活性金属化合物層21の厚さta1、および、セラミックス基板11の他方の面に形成された金属層13側に形成された活性金属化合物層31の厚さta2が、0.05μm以上とされている場合には、接合材45の活性金属がセラミックス基板11と十分に反応しており、セラミックス基板11と回路層12および金属層13とがさらに強固に接合されている。
一方、活性金属化合物層21の厚さta1および活性金属化合物層31の厚さta2が1.2μm以下とされている場合には、接合界面が必要以上に硬くなることを抑制でき、冷熱サイクル信頼性をさらに向上させることができる。
【0053】
なお、セラミックス基板11と回路層12および金属層13とをさらに強固に接合するためには、活性金属化合物層21の厚さta1および活性金属化合物層31の厚さta2を0.08μm以上とすることが好ましく、0.15μm以上とすることがさらに好ましい。
また、接合界面が必要以上に硬くなることをさらに抑制するためには、活性金属化合物層21の厚さta1および活性金属化合物層31の厚さta2を1.0μm以下とすることが好ましく、0.6μm以下とすることがより好ましい。
【0054】
さらに、本実施形態において、活性金属化合物層21の厚さta1および活性金属化合物層31の厚さta2の厚さ比ta1/ta2が0.7以上1.4以下の範囲内とされている場合には、セラミックス基板11の一方の面に形成された回路層12とセラミックス基板11の他方の面に形成された金属層13との接合界面の硬さに大きな差が生じず、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板11の割れの発生をさらに抑制することができる。
なお、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板11の割れの発生をさらに抑制するためには、活性金属化合物層21の厚さta1および活性金属化合物層31の厚さta2の厚さ比ta1/ta2を0.8以上1.2以下の範囲内とすることがさらに好ましく、0.9以上1.1以下の範囲内とすることがより好ましい。
【0055】
また、本実施形態において、セラミックス基板11の一方の面側に形成されたAg-Cu合金層22の厚さtb1と、セラミックス基板11の他方の面側に形成されたAg-Cu合金層32の厚さtb2との比tb1/tb2が、0.7以上1.4以下の範囲内とされている場合には、セラミックス基板11の一方の面に形成された回路層12とセラミックス基板11の他方の面に形成された金属層13との接合界面の硬さに大きな差が生じず、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板11の割れの発生をさらに抑制することができる。
なお、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板11の割れの発生をさらに抑制するためには、Ag-Cu合金層22の厚さtb1とAg-Cu合金層32の厚さtb2との厚さ比tb1/tb2を0.8以上1.2以下の範囲内とすることがさらに好ましく、0.9以上1.1以下の範囲内とすることがより好ましい。
【0056】
さらに、本実施形態において、セラミックス基板11の一方の面に形成された回路層12およびセラミックス基板11の他方の面に形成された金属層13のセラミックス基板11とは反対側の表面から10μm以上30μm以下の領域E3,E4におけるインデンテーション硬さの平均値が70mgf/μm2以上90mgf/μm2以下の範囲内とされている場合には、回路層12全体および金属層13全体が硬くなっておらず、回路層12の表面に接合した半導体素子3、および、金属層13の表面に接合したヒートシンク5との接合信頼性を向上させることができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板に半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0058】
また、本実施形態の絶縁回路基板では、セラミックス基板として、窒化アルミニウム(AlN)で構成されたものを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、アルミナ(Al2O3)、窒化ケイ素(Si3N4)等の他のセラミックス基板を用いたものであってもよい。
【0059】
さらに、本実施形態では、接合材に含まれる活性金属としてTiを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、Ti,Zr,Hf,Nbから選択される1種又は2種以上の活性金属を含んでいればよい。なお、これらの活性金属は、水素化物として含まれていてもよい。
【実施例0060】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0061】
まず、表1記載のセラミックス基板(40mm×40mm)を準備した。なお、厚さは、AlNおよびAl2O3は0.635mm、Si3N4は0.32mmとした。
また、回路層となる銅板として、無酸素銅からなり、表1に示す厚さの37mm×18mmの銅片を2つ準備した。さらに、金属層となる銅板として、無酸素銅からなり、表1に示す厚さの37mm×37mmの銅板を準備した。
【0062】
回路層となる銅板に、表1に示すBET値のAg粉を含む接合材を、乾燥後の目標厚さが30μmとなるよう塗布した。
金属層となる銅板に、表1に示すBET値のAg粉を含む接合材を、乾燥後の目標厚さが30μmとなるよう塗布した。
なお、接合材はペースト材を用い、Ag,Cu,活性金属の量は表1の通りとした。また、Ag粉のBET値(比表面積)はQUANTACHRROME社製AUTOSORB-1を用い、前処理として150℃で30分加熱の真空脱気を行い、N2吸着、液体窒素77K、BET多点法で測定した。
【0063】
セラミックス基板の一方の面に、回路層となる銅板を積層した。このとき、2つの銅片を、間隔1mmを開けて配置した。
また、セラミックス基板の他方の面に、金属層となる銅板を積層した。
【0064】
この積層体を、積層方向に加圧した状態で加熱し、接合材を溶融した。このとき、加圧荷重を0.196MPaとし,温度積分値は表2の通りとした。
そして、加熱した積層体を冷却することにより、回路層となる銅板とセラミックス基板と金属層となる金属板を接合し、絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を得た。
なお、実施例では、SPS(放電プラズマ焼結)法により接合を行い、回路層側の電極と、金属層側の電極とで、冷却水の流量を調整することにより、表2に示す冷却速度となるよう調整した。
【0065】
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)について、インデンテーション硬さ、活性金属化合物層、Ag-Cu合金層、冷熱サイクル信頼性を、以下のようにして評価した。
【0066】
(インデンテーション硬さ)
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を積層方向に切断し、セラミックス基板と回路層および金属層の接合界面において、上述した方法にて活性金属化合物層の回路層および金属層との界面から回路層および金属層側へ20μmから50μmまでの領域におけるインデンテーション硬さをそれぞれ5箇所で測定及び算出し、その最大値を求めた。
また、回路層および金属層のセラミックス基板とは反対側の表面から10μm以上30μm以下の領域におけるインデンテーション硬さをそれぞれ5箇所で測定及び算出し、その平均値を算出した。
【0067】
(活性金属化合物層)
回路層とセラミックス基板との接合界面、および、セラミックス基板と金属層との接合界面の断面を、走査型電子顕微鏡(カールツァイスNTS社製ULTRA55、加速電圧1.8kV)を用いて倍率30000倍で測定し、エネルギー分散型X線分析法により、N、O及び活性金属元素の元素マッピングを取得した。活性金属元素とNまたはOが同一領域に存在する場合に活性金属化合物層が有ると判断した。
それぞれ5視野で観察を行い、活性金属元素とNまたはOが同一領域に存在する範囲の面積を測定した幅で割ったものの平均値を「活性金属化合物層の厚さ」とした。
【0068】
(Ag-Cu合金層)
回路層とセラミックス基板との接合界面、および、セラミックス基板と金属層との接合界面の断面を、EPMA装置を用いて、5視野でライン分析を行った。
そして、Ag+Cu+活性金属=100質量%としたとき、Ag濃度が15質量%以上である領域をAg-Cu合金層とし、その厚さを測定した。それぞれ5視野での測定値の平均をAg-Cu合金層の厚さとして表に記載した。
【0069】
(冷熱サイクル信頼性)
上述の絶縁回路基板を、セラミックス基板の材質に応じて、下記の冷熱サイクルを負荷し、SAT検査によりセラミックス割れの有無を判定した。評価結果を表2に示す。
AlN,Al2O3の場合:-40℃×5min←→150℃×5minを500サイクルまで50サイクル毎にSAT検査。
Si3N4の場合:-40℃×5min←→150℃×5minを2000サイクルまで200サイクル毎にSAT検査。
【0070】
【0071】
【0072】
セラミックス基板としてAlNを用いた本発明例1-3および比較例1,2を比較すると、回路層側のインデンテーション硬さH1および金属層側のインデンテーション硬さH2の最大値が120mgf/μm2以上200mgf/μm2以下の範囲内とされるとともに、回路層側のインデンテーション硬さH1と金属層側のインデンテーション硬さH2の差が50mgf/μm2以下とされた本発明例1-3は、回路層側のインデンテーション硬さH1と金属層側のインデンテーション硬さH2の差が61mgf/μm2とされた比較例1、および、金属層側のインデンテーション硬さH2の最大値が217mgf/μm2とされた比較例2に比べて、冷熱サイクル信頼性に優れていることが確認される。
【0073】
セラミックス基板としてSi3N4を用いた本発明例4-6および比較例3,4を比較すると、回路層側のインデンテーション硬さH1および金属層側のインデンテーション硬さH2の最大値が120mgf/μm2以上200mgf/μm2以下の範囲内とされるとともに、回路層側のインデンテーション硬さH1と金属層側のインデンテーション硬さH2の差が50mgf/μm2以下とされた本発明例4-6は、回路層側のインデンテーション硬さH1と金属層側のインデンテーション硬さH2の差が62mgf/μm2とされた比較例3、および、回路層側のインデンテーション硬さH1と金属層側のインデンテーション硬さH2の差が55mgf/μm2とされた比較例4に比べて、冷熱サイクル信頼性に優れていることが確認される。
【0074】
セラミックス基板としてAl2O3を用いた本発明例7,8および比較例5を比較すると、回路層側のインデンテーション硬さH1および金属層側のインデンテーション硬さH2の最大値が120mgf/μm2以上200mgf/μm2以下の範囲内とされるとともに、回路層側のインデンテーション硬さH1と金属層側のインデンテーション硬さH2の差が50mgf/μm2以下とされた本発明例7,8は、金属層側のインデンテーション硬さH2の最大値が94mgf/μm2とされた比較例5に比べて、冷熱サイクル信頼性に優れていることが確認される。
【0075】
以上の確認実験の結果から、本発明例によれば、厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス基板(セラミックス部材)における割れの発生を抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を提供可能であることが確認された。