(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165050
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】ダイカストマシンの射出装置
(51)【国際特許分類】
B22D 17/20 20060101AFI20221024BHJP
B22D 17/32 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
B22D17/20 G
B22D17/32 J
B22D17/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070227
(22)【出願日】2021-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昭男
(72)【発明者】
【氏名】有馬 祐一郎
(57)【要約】
【課題】鋳造成形を中断することなく、射出スリーブ内の溶湯残渣物を確実に除去し、溶湯残渣物の無い綺麗な溶湯の射出充填により、鋳造品の品質安定化を得ることができるダイカストマシンの射出装置を提供する。
【解決手段】本発明のダイカストマシンの射出装置において、プランジャは、溶湯をシールするシール先端部と、凸部と凹部が混在し射出スリーブ内を清掃するスリーブ清掃部と、プランジャロッドと連結するロッド連結部と、プランジャロッドに連結されプランジャの前後進動作を行う射出駆動部とを備える。プランジャの後退動作に回転動作を更に加える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出スリーブ内に溶湯を供給し、前後進動作するプランジャにより前記溶湯を金型キャビティ内へ射出充填するダイカストマシンの射出装置において、
前記プランジャは、前記溶湯の漏れをシールするシール先端部と、凸部と凹部が混在し前記射出スリーブ内を清掃するスリーブ清掃部と、プランジャロッドを連結するロッド連結部と、前記プランジャロッドに連結され前記プランジャの前後進動作を行う射出駆動部、とを備えることを特徴とするダイカストマシンの射出装置。
【請求項2】
前記凸部と前記凹部は、連続した環状の突起形状と、連続した環状の溝形状であり、前記突起形状と前記溝形状が並列に複数配置する、請求項1記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項3】
前記凸部と前記凹部は、連続した螺旋状の突起形状と、連続した螺旋状の溝形状であり、前記突起形状と前記溝形状が並列に複数配置する、請求項1記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項4】
前記凸部と前記凹部は、非連続の突起形状と、連続した平面形状であり、前記平面形状に前記突起形状が規則的あるいは不規則的に複数配置する、請求項1記載のダイカストマシンの射出装置。
【請求項5】
前記射出駆動部は、前記プランジャの後退動作において回転動作をさらに加える、請求項1から4のいずれか1に記載のダイカストマシンの射出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出スリーブ内に溶湯を供給し、前後進動作するプランジャにより溶湯を金型キャビティ内へ射出充填するダイカストマシンの射出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカストマシンによる鋳造成形は、射出スリーブの内部に溶湯を供給し、プランジャの前進動作により溶湯を金型キャビティ内に射出充填する。金型キャビティ内で溶湯を冷却固化させ、冷却固化したものを金型キャビティから取り出して鋳造品を得る。その後、プランジャを後退動作させて、再び射出スリーブ内に溶湯を供給し、次ショットの成形準備に進む。この成形動作を計画された個数の鋳造品を得るまで繰り返される。
【0003】
ここで、高温の溶湯により射出スリーブは加熱され熱変形し、射出スリーブとプランジャとの隙間が広がり、隙間に溶湯が差し込み、差し込んだ溶湯が固化して射出スリーブに付着することにより溶湯残渣物が生成する。この溶湯残渣物により前後進動作時にプランジャは摩耗損傷を受け、射出スリーブとプランジャとの隙間がさらに広がり、隙間への溶湯の差し込み量が増えて溶湯残渣物の生成と堆積が助長される。
【0004】
この大きく堆積した溶湯残渣物は、前後進動作するプランジャと擦れて剥離することがある。剥離した溶湯残渣物は溶湯と混ざって、金型キャビティ内に射出充填されると、鋳巣や異物混入等の鋳造不良の原因となる。また、溶湯残渣物と擦れてプランジャの前進動作が不安定になると、射出スリーブ内の溶湯が波打つように暴れて、空気巻き込み(ボイド混在)、湯ジワ不良、湯廻り不良等の鋳造不良を誘発する。さらには、溶湯残渣物との擦れによってプランジャは磨耗が進み、射出充填時に溶湯をシールできず溶湯が漏れ出して、鋳造不良を多発し鋳造品の品質安定化が維持できなくなる。そうなると、成形を一時中断してプランジャを交換する等のメンテナンスが追加される。また、溶湯残渣物の生成と剥離の繰り返しにより、射出スリーブが腐蝕損傷を受け、射出スリーブを含んだ大掛かりな部品交換による長期間の生産停止も心配される。
【0005】
そのため、射出スリーブ内に溶湯残渣物の生成と堆積及び剥離を予防することにより、ダイカストマシンの鋳造品の品質安定化を図ることが提案されている。
特許文献1では、射出スリーブとプランジャを温調することにより、高温の溶湯による熱変形による隙間の拡大を抑制して、溶湯の差し込みによる溶湯残渣物の生成を抑制するとしている。また、特許文献2では、熱伝導率の異なる合金を用いた2層構造の射出スリーブにより、溶湯の保温性を高め、溶湯残渣物の生成を抑制するとしている。さらに、特許文献3では、外径の異なる大小の複数個のリングをプランジャに配置している。この複数個のリングは、射出スリーブの内径に沿うように自動調心する。これによって、プランジャの偏摩耗を防止することで、溶湯残渣物の生成と堆積を抑制するとしている。また、特許文献4では、射出スリーブ内に清掃具を挿入して、射出スリーブ内の溶湯残渣物等の異物を強制的に除去することで、溶湯残渣物の堆積と剥離を抑制するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-15652号公報
【特許文献2】特開2000-263208号公報
【特許文献3】特開2005-349397号公報
【特許文献4】特開2017-47434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高温の溶湯温度に対して、明らかに低い温度に設定されている射出スリーブ内に溶湯を供給することは、射出スリーブと接している部位から溶湯は冷却凝固し、溶湯残渣物は必ず生成される。そのため、特許文献1と特許文献2に示す手段では、溶湯残渣物の生成を少なくできるかもしれないがゼロとすることは難しく、溶湯残渣物に起因する鋳造不良を完全に解決できるものではない。また、特許文献3に示す手段では、射出スリーブ内に溶湯残渣物が生成し堆積した場合では、自動調心された大小のリングは溶湯残渣物を避けるように動くため、プランジャや射出スリーブの摩耗損傷を防ぐことはできる。なお、プランジャによる掻き取り作用は弱く、射出スリーブ内の溶湯残渣物は完全に除去することはできない。これに対して、特許文献4に示す手段では、射出スリーブ内の溶湯残渣物を確実に除去できる。しかしながら、鋳造成形との同時使用はできず、鋳造成形を一時中断しなければいけない。
【0008】
そこで本発明は、鋳造成形を中断することなく、射出スリーブ内の溶湯残渣物を確実に除去でき、溶湯残渣物の無い綺麗な溶湯の射出充填により、鋳造品の品質安定化を得ることができるダイカストマシンの射出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のダイカストマシンの射出装置は、射出スリーブ内に溶湯を供給し、前後進動作するプランジャにより溶湯を金型キャビティ内へ射出充填するダイカストマシンの射出装置において、プランジャは、溶湯の漏れをシールするシール先端部と、凸部と凹部が混在し射出スリーブ内を清掃するスリーブ清掃部と、プランジャロッドを連結するロッド連結部と、プランジャロッドに連結されプランジャの前後進動作を行う射出駆動部、とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明のダイカストマシンの射出装置において、凸部と凹部は、連続した環状の突起形状と、連続した環状の溝形状であり、突起形状と溝形状が並列に複数配置することが好ましい。
【0011】
本発明のダイカストマシンの射出装置において、凸部と凹部は、連続した螺旋状の突起形状と、連続した螺旋状の溝形状であり、突起形状と溝形状が並列に複数配置することが好ましい。
【0012】
また、本発明のダイカストマシンの射出装置において、凸部と凹部は、非連続の突起形状と、連続した平面形状であり、平面形状に突起形状が規則的あるいは不規則的に複数配置することが好ましい。
【0013】
さらに、本発明のダイカストマシンの射出装置において、射出駆動部は、プランジャの後退動作において回転動作をさらに加えることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鋳造成形を中断することなく、射出スリーブ内の溶湯残渣物を確実に除去でき、溶湯残渣物の無い綺麗な溶湯の射出充填により、鋳造品の品質安定化を得ることができるダイカストマシンの射出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係るダイカストマシンの射出装置の概念図である。
【
図2】第1実施形態に係るプランジャの概念図である。
【
図3】
図2のプランジャを用いた鋳造成形のフロー図である。
【
図4】第2実施形態に係るプランジャの概念図である。
【
図5】第3実施形態に係るプランジャの概念図である。
【
図6】
図4及び
図5のプランジャを用いた鋳造成形のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0017】
[ダイカストマシンの射出装置]
先ず、本発明の実施形態に係るにダイカストマシンの射出装置ついて、
図1を用いて説明する。なお、以下の説明では、本実施形態に係るダイカストマシンとして、横型のダイカストマシンをベースとしたが、これに限定されるものではない。
【0018】
図1に示すダイカストマシン100は、図示しない固定盤に支持された固定金型2と、図示しない可動盤に支持され固定金型2に対して進退可能な可動金型4と、溶湯を射出充填する射出装置10と、射出装置10の動作を制御する射出制御部40とを備えている。アルミニウム合金等の溶湯を、射出装置10により固定金型2及び可動金型4とで形成される金型キャビティ6内に射出充填して鋳造品を得る。
【0019】
射出装置10は、内部に溶湯が供給される円筒状の射出スリーブ12と、射出スリーブ12の内側に配置される円柱状のプランジャ20と、射出駆動部30とプランジャ20を連結するプランジャロッド14とを備える。射出駆動部30は、射出制御部40の制御データに基づいてプランジャ20の前後進動作を制御する。
ここで、金型キャビティ6に近い方向を前方F、前方Fの方向の動作をプランジャ20の前進動作、金型キャビティ6から遠い方向を後方B、後方Bの方向の動作をプランジャ20の後退動作と定義する。また、プランジャ20の前進動作の完了位置を射出完了位置FEと定義し、プランジャ20の後退動作の完了位置を待機位置BEと定義する。
【0020】
待機位置BEにプランジャ20が待機している間に、射出スリーブ12に設けた注湯口16から、図示しない給湯装置等を用いて射出スリーブ22内に溶湯が供給される。その後、プランジャ20を射出完了位置FEまで前進動作させて、射出スリーブ12内の溶湯を金型キャビティ16内へ射出充填する。射出充填された溶湯の冷却固化に伴う凝固収縮を補う保圧充填と冷却工程の後に、固定金型2と可動金型4を型開して、金型キャビティ6から冷却固化した鋳造品を取り出す。合わせて、プランジャチップ20を待機位置BEに後退させて、次ショットの鋳造成形の準備工程に進む。
【0021】
射出スリーブ12には、必要に応じて、冷却水等の冷却媒体が流れる流路を含む図示しない冷却機構が設けられている。また、プランジャ20の摩耗損傷の防止や摺動状態の安定化及び溶湯の付着抑制等のため、射出スリーブ12とプランジャ20との摺動面に潤滑剤を塗布することが好ましい。また、プランジャ20には、冷却水等の冷却媒体が流れる流路を含む冷却機構が設けられても良い。
【0022】
[第1実施形態のプランジャ]
次に、本発明の第1実施形態に係るプランジャついて、
図2を用いて説明する。
図2はプランジャ20の拡大図である。本発明の第1実施形態に好適な射出装置10のプランジャ20は、
図2に示すように、前方Fから後方Bに向かって順に、シール先端部22と、スリーブ清掃部24と、ロッド連結部26とを備える。
【0023】
シール先端部22は、射出充填工程において、溶湯がプランジャ20の後方に漏れないように、射出スリーブ12内の溶湯をシールする役割を担う。そのため、シール先端部22の形状は、円筒状の射出スリーブ12の内壁面12Uと略同じの円柱状とする。
ここで、シール先端部22の外径22Rは、溶湯温度による熱変形や熱膨張等を考慮して、溶湯のシール性を確保しつつ、プランジャ20と射出スリーブ12が強固に接触してカジリ損傷することを抑制する、射出スリーブ12とシール先端部22の隙間を基準として設定する。また、シール先端部22の長さ22Lは、溶湯の溶融粘度と射出充填時の鋳造圧力及び外径22Rから、溶湯のシール性を確実に確保できるものとして設定する。これらの設定は、計算で求めても良く、経験値を採用しても良い。例えば、型締力が10000KN以上の大型ダイカストマシンにおいては、実験結果により、射出スリーブ12とシール先端部22との隙間が、5/100~5/10mm程度となる外径22Rを設定し、長さ22Lと外径22Rの比率(22L/22R)が、0.3~3.0程度に設定することが好ましい。これにより、射出充填時はシール先端部22により溶湯のシールを確実とし、鋳造品質の安定化を実現する。さらに、プランジャ20のスムーズな前進動作が確保でき、前進動作の変動に起因した鋳造不良を回避できる。
【0024】
ここで、シール先端部22の前方F側の角部22FはR面加工とし、後方B側の角部22BはR面加工を施さない。これは、射出充填が終わった後のプランジャ20の後退動作時は、R面加工を施していない角部22Bを利用して、射出スリーブ12の内壁面12Uを強く掻き取り、射出スリーブ12の内壁面12Uに付着した溶湯残渣物を効率よく除去する狙いである。また、射出充填時のプランジャ20の前進動作時は、R面加工を施した角部22Fによって、射出スリーブ12内を滑るように進み、溶湯残渣物を無理矢理に剥離することが回避できる。その結果、溶湯残渣物に起因する鋳造不良を予防できる。同時に、プランジャ20の安定した前進動作により、鋳造品の高品質化も確保できる。この角部22FのR面加工は、例えば型締力が10000KN以上の大型ダイカストマシンでは、0.5R~5R程度とすることが好ましい。
【0025】
次に、スリーブ清掃部24は、プランジャ20の後退動作時において、射出スリーブ12内に堆積した溶湯残渣物を掻き取って除去する役割を担う。そのため、溶湯残渣物を掻き取るカッターの役目を持つ凸部242と、掻き取った溶湯残渣物を捕集する容器の役目を持つ凹部244は、プランジャ20の進退方向の前方Fから後方Bに向かって、並列に複数配置し凹凸形状を形成する。この凹凸形状の配列によって、溶湯残渣物の掻き取りと捕集が同時に行え、効率を高めることができる。なお、凹凸形状の配列数は、スリーブ清掃部24の範囲内で複数配列とすることが好ましい。
【0026】
ここで、凸部242は、シール先端部22の外径22Rと同等とし、プランジャ20の進退方向に直行する連続した環状の突起形状とする。また、凸部242の長さ242Lは、溶湯温度と鋳造圧力及びスリーブ清掃部24に用いる鋼材の強度等から可能な範囲で小さくして、凸部242の配列数を増やして溶湯残渣物の掻き取り効率を優先とする(
図2の凸部242の配列数は5列)。実験結果等から、例えば型締力が10000KN以上の大型ダイカストマシンにおいては、長さ242L/外径22R=0.03~0.3程度とすることが好ましい。
【0027】
また、凹部244は、掻き取った溶湯残渣物を捕集するために、凸部242より窪んだ形状とし、凸部244と並列に配置する連続した環状の溝形状とする。この凹部244の溝形状の溝深さと長さ244Lは、掻き取った溶湯残渣物を捕集する容器の大きさを示す。この容器を大きくすれば捕集の余裕代も大きくなるが、下記の制約事項を鑑みて適正な範囲で設定する。例えば、プランジャ20に冷却のための冷却水等の冷却媒体を循環させる流路を含む冷却機構を設けた場合は、この冷却機構に干渉しない範囲で凹部244の溝深さを設定することが好ましい。また、捕集した溶湯残渣物をプランジャ20の後方に漏れ出さないように、ロッド連結部26よりは窪んだ溝深さとすることが好ましい。また、凹部244の長さ244Lを過大に設定すると、溶湯残渣物の掻き取り効率に影響する凸部242の配列数を多く設けることができない。掻き取り効率を優先して、凸部242の配列数を確保しようとすると、プランジャ20が大きくなってしまう。そこで、実験結果等から、例えば型締力が10000KN以上の大型ダイカストマシンでは、242L=244Lとすることが好ましい。
【0028】
ここで、凸部242の前方F側の角部242Fと後方B側の角部242BはR面加工を施さない。また、凸部242はプランジャ20に固定されるものとする。これにより、凸部242による掻き取り力は強固となり、プランジャ20の前後進動作の両方で溶湯残渣物を効率よく除去できる。また、プランジャ20の前進動作時に溶湯残渣物が剥離したとしても、凹部244に剥離した溶湯残渣物を確実に捕集できるので、溶湯に溶湯残渣物が混ざることは全く無い。さらに、プランジャ20の後退動作時は、凸部242で溶湯残渣物を掻き取り、直ちに凹部244で掻き取った溶湯残渣物を捕集し、その後、射出スリーブ12から外へ排出する。これにより、次ショットの溶湯に溶湯残渣物が混ざることは皆無となり、溶湯残渣物に起因する鋳造不良を確実に防止できる。
【0029】
さらに、例えばシール先端部22が摩耗損傷して溶湯のシール性が低下し、溶湯がプランジャ20から後方に漏出するトラブルが生じたとしても、シール先端部22に続くスリーブ清掃部24で、以下に示す3つの作用を利用して溶湯の漏出を止めることが可能である。作用の1つは、スリーブ清掃部24の凸部242は、シール先端部22と同じ外径であるので、シール先端部22と同様に、凸部242も溶湯のシール性を有している。作用の2つは、凸部242を超えて漏出した溶湯は凹部244で捕集され、溶湯の漏出を抑えることができる。作用の3つは、凸部242と凹部244の連続的な配列は、狭い通路と広い通路を連続的に組み合わせたラビリンス形状の圧力緩和効果を利用したシール構造と類似であることから、同様に溶湯のシール性も発揮することができると考える。その結果、溶湯漏出による突発的な鋳造成形の中断を回避することができる。
【0030】
ロッド連結部26は、射出駆動部30の駆動力を伝達するプランジャロッド14を連結する役割を担う部位である。そのため、プランジャロッド14が確実に連結でき、射出駆動部30の駆動力を的確に伝達でき、射出充填工程の射出速度と鋳造圧力に対応できる強度と、プランジャ20の冷却機構に影響しない、外径と長さの寸法とする。なお、待機位置BEにプランジャ20が待機している状態で、スリーブ清掃部24が射出スリーブ12よりも後方Bの外側に出ていることが必要であり、これを満足できるロッド連結部の寸法とする。つまり、プランジャ20が待機位置BEで、捕集した溶湯残渣物を清掃するクリーニング工程を行う。
【0031】
ここで、
図2に示す第1実施形態に係るプランジャ20は、シール先端部22とスリーブ清掃部24とロッド連結部26を一体構造としたが、特定の部位を別部品として分割構造としてもよく、全ての部位を別部品の分割構造としても良い。例えば、溶湯に直接触れるために損傷の激しいシール先端部22を分割構造とする。この場合は、シール先端部22を消耗品の扱いとし、交換の部品点数を最小限に抑えることができる。また、スルー部清掃部24の凸部242と凹部244を分割構造とする。この場合は、溶湯残渣物の掻き取りで損傷が激しい凸部242のみを交換するとして、交換部品の最小化によるメンテナンス費用の削減と、プランジャ20の寿命アップが期待できる。なお、いずれの部品を分割構造としたとしても、各部品とプランジャ20は強固に締め付け固定される。特に、溶湯残渣物を掻き取るスリーブ清掃部24は、確実に締め付け固定とする。
【0032】
[第1実施形態の鋳造成形]
次に、
図2に示す第1実施形態に係るプランジャ20を用いた鋳造成形について、
図3を用いて説明する。固定金型2と可動金型4は型締されて金型キャビティ6が形成され、プランジャ20は待機位置BEに待機しており、図示しない給湯装置等から溶湯が射出スリーブ12内に供給されている状態から鋳造成形が開始するとする。
【0033】
射出制御部40に設定された、射出速度、速度切替え位置、鋳造圧力の制御データに基づいて、射出駆動部30はプランジャロッド14を介してプランジャ20を待機位置BEから射出完了位置FEに向けて前進動作させる。このプランジャ20の前進動作においては、低速射出、高速射出、高圧充填の各工程により、射出スリーブ12内の溶湯を金型キャビティ6に射出充填する。溶湯の射出充填の後は、プランジャ20の前進動作を停止させる。この時のプランジャ20の停止位置を、射出完了位置FEとする。なお、射出スリーブ12への溶湯の供給量のバラツキ等により、射出完了位置FEも変動する。つまり、低速射出、高速射出、高圧充填の各工程のうち、特に高圧充填の工程において、溶湯の供給量のバラツキに応じて、金型キャビティ6内に射出充填された溶湯の冷却固化に伴う凝固収縮を補正する保圧として作用し、その結果、射出完了位置FEが変動する。
【0034】
冷却工程を経て、固定金型2と可動金型4を型開し、金型キャビティ6から鋳造品を取り出して鋳造成形を終了する。引き続き、次ショットの準備工程に進む。
この成形動作と並行して、プランジャ20は、射出完了位置FEから待機位置BEに向けて、射出制御部40の設定値に基づいて後退動作する。待機位置BEにプランジャ20が到達すると後退動作を停止させ、例えば、図示しないエアブロー清掃装置等から清掃用エアブローを噴射して、あるいは、回転ブラシ等の清掃治具により、プランジャ20の清掃を行う。この清掃は、スリーブ清掃部24の凸部242で掻き取り、凹部244に捕集した溶湯残渣物を取り除く清掃工程である。溶湯残渣物の清掃を終えると、射出スリーブ12内に溶湯を供給する等の次ショットの準備工程に進む。
【0035】
ここで、プランジャ20の前進動作は直進動作とし、シール先端部22で溶湯を確実にシールして、金型キャビティ6内への溶湯の射出充填を正確に行う。同時に、射出スリーブ12内の溶湯残渣物をスリーブ清掃部24の凸部242で掻き取り、凹部244で掻き取った溶湯残渣物を捕集し、溶湯への異物となる溶湯残渣物の混入を阻止する。さらに、R面加工されたシール先端部22の角部22Fにより、プランジャ20の前進動作を滑らかとし、鋳造品質の安定化を得ることができる。
また、プランジャ20の後退動作は直進動作とする。射出スリーブ12内の溶湯残渣物をスリーブ清掃部24の凸部242で掻き取り、凹部244で掻き取った溶湯残渣物を捕集し、清掃行程でプランジャ20を綺麗に清掃する。これにより、射出スリーブ12は、常に綺麗な状態を保つことが可能となり、溶湯残渣物の混入を完全に阻止する。
このように、鋳造成形を中断することなく、成形工程の中で射出スリーブ12を綺麗に清掃することができ、鋳造不良の無い高品質な鋳造品の安定生産を実現する。
【0036】
[第2実施形態のプランジャ]
次に、本発明の第2実施形態に係るプランジャついて、
図4を用いて説明する。
図4はプランジャ20の拡大図である。本発明の第2実施形態に好適な射出装置10のプランジャ20は、
図4に示すように、前方Fから後方Bに向かって順に、シール先端部22と、スリーブ清掃部27と、ロッド連結部26とを備える。なお、シール先端部22とロッド連結部26は、第1実施形態と同じであるため説明は割愛し、第1実施形態と異なるスリーブ清掃部27について詳細に説明する。なお、プランジャ20の一体構造や分割構造、プランジャ20も前進動作時の挙動については、第1実施形態と同じであるので説明は割愛し、プランジャ20の後退動作について詳細に説明する。
【0037】
プランジャ20の後退動作時において、スリーブ清掃部27は、射出スリーブ12内に堆積した溶湯残渣物を掻き取って除去する役割を担う。そのため、溶湯残渣物を掻き取るカッターの役目を持つ凸部272と、掻き取った溶湯残渣物を捕集する容器の役目を持つ凹部274は、プランジャ20の進退方向の前方Fから後方Bに向かって、並列に複数配置し凹凸形状を形成する。この凹凸状の配列によって、溶湯残渣物の掻き取りと捕集が同時に行え、効率を高めることができる。なお、凹凸の配列数は、スリーブ清掃部24の範囲内で多数の配列とすることが好ましい。
【0038】
凸部272は、シール先端部22の外径22Rと同等とし、シール先端部22からロッド連結部26に向かって、連続した螺旋状の突起形状とする。なお、凸部272の長さ272Lと角部272Fと角部272Bは、第1実施形態と同じとすることが好ましい。
【0039】
凹部274は、掻き取った溶湯残渣物を捕集するために、凸部272より窪んだ形状とし、凸部272と並列に配置する連続した螺旋状の溝形状とする。この凹部274の溝形状の溝深さと長さ274Lは、掻き取った溶湯残渣物を捕集する容器の大きさを示し、第1実施形態と同じとすることが好ましい。また、凸部274と凹部274は、第1実施形態と同様にプランジャ20に固定される。
【0040】
ここで、第2実施形態においては、プランジャ20は回転動作を伴いながら後退動作することを特徴とする。つまり、凸部272の後退動作と回転動作の2つの動作により、溶湯残渣物の掻き取り効率は相乗的に倍増し、射出スリーブ12内の溶湯残渣物を完全に除去でき、射出スリーブ12内をさらに綺麗とすることができる。また、凹部274は、凸部272と並列するシール先端部22からロッド連結部26に向けて螺旋状の連続した溝形状であることにより、掻き取った溶湯残渣物によって凹部274が埋まることなく、連続的にプランジャ20の後方Bの方向の射出スリーブ12から外に排出することができ、射出スリーブ12内は完璧に綺麗とすることができる。つまり、プランジャ20の回転動作の回転方向と凹部274の螺旋方向を同じとし、前方Fから後方Bに向かって流れる方向とする。これにより、例えば掻き取った溶湯残渣物が凹部274内に詰まって偏芯し、プランジャの後退動作や回転動作の際に、プランジャ20の動作の挙動が暴れて、射出スリーブ12やプランジャ20を損傷するということを未然に防ぐことができる。
【0041】
[第3実施形態のプランジャ]
次に、本発明の第3実施形態に係るプランジャついて、
図5を用いて説明する。
図5はプランジャ20の拡大図である。本発明の第3実施形態に好適な射出装置10のプランジャ20は、
図5に示すように、前方Fから後方Bに向かって順に、シール先端部22と、スリーブ清掃部28と、ロッド連結部26とを備える。第1実施形態及び第2実施形態と異なる、スリーブ清掃部28について説明する。また、第2実施形態と同様に、第3実施形態もプランジャ20は回転動作を伴いながら後退動作することを特徴とする。
【0042】
第3実施形態におけるスリーブ清掃部28は、射出スリーブ12内に堆積した溶湯残渣物を掻き取って除去する役割をさらに強化したものである。そのため、溶湯残渣物を掻き取るカッターの役目を持つ凸部282の配置数を最大限に増やした構成とする。シール先端部22及びロッド連結部26より窪んだ、連続した平面形状の凹部284に対して、シール先端部22の外径22Rと同等の非連続の突起形状の凸部282が、規則的あるいは不規則的に複数配置する。凸部282の大きさ(長さ282Lと幅282S)と配置(間隔284Lと間隔284S)は、スリーブ清掃部28に用いる鋼材の強度を考慮して、スリーブ清掃部28の範囲内で最大数の配置数が得られるように設定すると良い。
【0043】
第3実施形態においては、プランジャ20の前進動作、後退動作、回転運動の全ての動作において、射出スリーブ12内の溶湯残渣物の掻き取り効率が最大となり、非常に綺麗な状態の射出スリーブ12を確保でき、溶湯残渣物の混入を完全に阻止できる。ここで、
図5に示す凸部282は、プランジャ20の進退方向及び回転方向に対して等間隔に整列した配置としたが、これに限定されることなく、例えば、凸部282をランダムに配置しても良く、前後左右の凸部282の一部が重なるように配置しても良い。また、凸部282を螺旋状に複数配置して、プランジャ20の回転動作を利用して、掻き取った溶湯残渣物をプランジャ20の後方B側に排出するようにしても良い。また、溶湯残渣物の掻き取り効率を高める狙いで、凸部282はR面加工を施さないことが好ましい。四角形状としたが、円柱形状であっても多角形上であっても良い。
【0044】
[第2及び3実施形態のプランジャを用いた鋳造成形]
次に、本発明の第2及び3実施形態に係るプランジャを用いた鋳造成形ついて、
図6を用いて説明する。なお、第1実施形態の鋳造成形と重複する箇所は説明を割愛し、第2及び第3実施例の特徴を示す箇所について詳細に説明する。
【0045】
プランジャ20は、待機位置BEから射出完了位置FEに向けて前進動作し、金型キャビティ6内へ溶湯の射出充填が行われ、射出完了位置FEで射出充填を終える。保圧工程と冷却工程を終えると、型開して鋳造品を取出し、次ショットの成形準備に進む。
同時に、プランジャ20は、射出完了位置FEから待機位置BEに向けて、射出制御部40の設定値に基づいて後退動作する。待機位置BEにプランジャ20が到達すると後退動作を停止させ、例えば図示しないエアブロー清掃装置等から清掃用エアブローを噴射して、あるいは、回転ブラシ等の清掃治具を用いて、プランジャ20の清掃を行う。凸部282で射出スリーブ12から掻き取り、凹部284に捕集した溶湯残渣物を取り除く清掃工程である。溶湯残渣物の清掃を終えると清掃行程を終え、射出スリーブ12内に溶湯を供給する等の次ショットの準備工程に進む。
【0046】
ここで、鋳造成形工程のプランジャ20の前進動作は、第1実施形態の鋳造成形と同様に直進動作とし、第1実施形態と同様な改善効果を示す。
なお、第2及び第3実施形態の鋳造成形において、プランジャ20は、射出完了位置FEから待機位置BEに向けて、回転動作を伴いながら後退動作することを特徴とする。つまり、プランジャ20の後退動作と回転動作の2つの動作により、溶湯残渣物の掻き取り効率は相乗的に倍増し、射出スリーブ12内の溶湯残渣物を完全に除去することができ、溶湯残渣物の混入を完全に予防することを可能とする。
【0047】
また、第2実施形態のプランジャ20においては、螺旋状の凹部274と回転動作の組合せにより、プランジャ20の後方Bの射出スリーブ12から外に、掻き取った溶湯残渣物を効率よく排出でき、溶湯残渣物の詰りによるトラブルを未然に防ぐことを可能とする。なお、螺旋状の凹部274の傾斜方向は、回転動作の回転方向によってプランジャ20の後方B方向に溶湯残渣物が輸送できるように設定する。
また、第3実施形態のプランジャ20においては、多数の凸部282が回転ブラシのように回転して、溶湯残渣物の掻き取り効率を大幅にアップさせることとなり、射出スリーブ12内は溶湯残渣物が残存しない綺麗な状態を得ることができ、高品質な鋳造品の安定生産を可能とする。
【0048】
プランジャ20が待機位置BEに到達後は、後退動作は停止するが、回転動作は継続される。プランジャ20の後退動作停止で起動するタイマの経過時間が、予め設定した回転時間TBに到達すると、プランジャ20の回転動作は停止し、次ショットの成形準備に進む。なお、プランジャ20の回転動作中は、エアブロー等の清掃工程を継続することが好ましい。また、プランジャ20の回転動作は、図示しない回転駆動装置等で行う。例えば、プランジャ20の前後進動作を行う射出駆動部に、直動動作と回転動作の両方が可能な一般に販売されている複合式の油圧シリンダを用いても良い。また、直動動作は一般的な油圧シリンダ等を用いて、クラッチ等で伝達切替して、回転動作は電動モータと回転ネジ機構を組み合わせた回転駆動装置を用いても良い。
【0049】
このように、第2及び第3実施形態の鋳造成形においても、第1実施形態の鋳造成形と同様に、鋳造成形を中断することなく、成形工程の中で射出スリーブ12を綺麗に清掃することができ、鋳造不良の無い高品質な鋳造品の安定生産を実現する。
なお、上述の説明は、第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態に係るプランジャのスリーブ清掃部を、それぞれ単独で用いるとしたが、これに限定されることなく、例えば、第1実施形態と第2実施形態を組み合わせたスリーブ清掃部としてもよく、3つの実施形態を配置したスリーブ清掃部としても良く、使用する溶湯の種類や鋳造成形の内容等によって適宜選択されるものとする。この場合においても、高品質な鋳造品を得ることは可能である。
【0050】
[変形例]
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に記載された範囲には限定されない。上記の実施形態には多様な変更または改良を加えることが可能である。
【0051】
上述した実施形態では、アルミニウム合金等の溶湯を金型キャビティ14内に射出充填する、横型のダイカストマシンをベースとした射出装置に適用するものと説明したが、これに限定されず、例えば、竪型の低圧鋳造機をベースとした射出装置や、半凝固状態の金属合金を加圧して射出充填する半凝固鋳造機をベースとした射出装置に適用するとしても良い。また、射出スリーブや金型キャビティを真空吸引する真空鋳造装置の射出装置に適用するとしても良い。
【符号の説明】
【0052】
100 ダイカストマシン
2 固定金型
4 可動金型
6 金型キャビティ
10 射出装置
12 射出スリーブ
14 プランジャロッド
16 注湯口
20 プランジャ
22 シール先端部
24、27、28 スリーブ清掃部
26 ロッド連結部
30 射出駆動部
40 射出制御部