(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165132
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】合金部材、永久磁石式同期モータ、コーティング材および回転体
(51)【国際特許分類】
H01F 1/14 20060101AFI20221024BHJP
H02K 1/27 20220101ALI20221024BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20221024BHJP
C22C 30/00 20060101ALN20221024BHJP
【FI】
H01F1/14
H02K1/27 501C
H02K1/27 501M
C22C38/00 303S
C22C30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070363
(22)【出願日】2021-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】早川 恭平
(72)【発明者】
【氏名】二井 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】関根 裕一
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼間 公久
【テーマコード(参考)】
5E041
5H622
【Fターム(参考)】
5E041AA06
5H622AA03
5H622CA02
5H622CA05
5H622CA10
5H622CA13
5H622CB01
5H622PP03
5H622PP17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ハイエントロピー合金を新たに適用する合金部材、永久磁石式同期モータ、コーティング材および回転体を提供する。
【解決手段】SPMモータ(Surface Permanent Magnet Motor)において、永久磁石の外周側を覆うように円筒状に形成され、遠心力による永久磁石の飛散を防止する合金部材(保持リング)は、第1組成のハイエントロピー合金で構成された第1相と、第1組成とは異なる第2組成のハイエントロピー合金で構成された第2相と、第1相から第2相にかけて組成が連続的に傾斜する傾斜相と、を含み、第1相から第2相にかけて機能が変化する。組成の傾斜と物性変化の関係において、傾斜相が多軸方向に組成を傾斜させることで、CASE1~5のパターンの物性変化を組み合わせることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1組成のハイエントロピー合金で構成された第1相と、
前記第1組成とは異なる第2組成のハイエントロピー合金で構成された第2相と、
前記第1相から前記第2相にかけて組成が連続的に傾斜する傾斜相と、
を含み、前記第1相から前記第2相にかけて機能が変化する合金部材。
【請求項2】
前記第1相から前記第2相にかけての組成の傾斜が、線形または非線形に推移する請求項1に記載の合金部材。
【請求項3】
前記第2相が極値となるよう、前記第1相から前記第2相にかけて組成が連続的に傾斜する請求項1に記載の合金部材。
【請求項4】
前記第1相から前記第2相にかけての組成が、単一軸方向または多軸方向に傾斜する請求項1~3のいずれかに記載の合金部材。
【請求項5】
回転子と固定子とを備え、
前記回転子は、回転子コアと、永久磁石と、前記永久磁石の外周側を覆う保持リングと、を有し、
前記永久磁石は、複数の分割磁石で構成されて前記回転子コアの表面に貼りつけられ、
複数の前記分割磁石が、間隔をあけて前記回転子コアの外周に沿って並ぶ永久磁石式同期モータであって、
前記保持リングは、請求項1~4のいずれかに記載の合金部材であり、
軟磁性の前記第1相と、前記傾斜相と、非磁性の前記第2相と、が前記保持リングの周方向に並び、
前記第1相が、前記永久磁石の外周側を覆うように配置され、
前記第2相が、隣り合う前記分割磁石の間の外周側を覆うように配置されている永久磁石式同期モータ。
【請求項6】
回転子と固定子とを備え、
前記回転子は、回転子コアと、永久磁石と、を有する永久磁石式同期モータであって、
前記回転子コアは、請求項1~4のいずれかに記載の合金部材であり、
軟磁性の前記第1相が前記回転子コアの外周側に配置され、
非磁性の前記第2相が前記回転子コアの内周側に配置され、
前記傾斜相では、前記回転子コアの径方向に組成が連続的に傾斜する永久磁石式同期モータ。
【請求項7】
回転子と固定子とを備え、
前記回転子は、回転子コアと、永久磁石と、を有し、
前記永久磁石は、複数の分割磁石で構成され、
複数の前記分割磁石が、間隔をあけて並ぶ永久磁石式同期モータであって、
前記回転子コアは、請求項1~4のいずれかに記載の合金部材であり、
軟磁性の前記第1相を母材とし、
非磁性の前記第2相が、隣り合う前記分割磁石の間または該間の外周側に配置されている永久磁石式同期モータ。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載の合金部材を用い、
前記第2組成のハイエントロピー合金は、前記第1組成のエントロピー合金と熱特性が異なり、
前記第1相から前記第2相にかけて前記熱特性が変化するコーティング材。
【請求項9】
請求項1~4のいずれかに記載の合金部材を用いた回転体であり、
軟磁性の前記第1相が前記回転体の外周側に配置され、
非磁性の前記第2相が前記回転体の内周側に配置され、
前記傾斜相では、外周側に向けて原子サイズおよび密度が小さくなるよう前記回転体の径方向に組成が連続的に傾斜する回転体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合金部材、永久磁石式同期モータ、コーティング材および回転体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の合金は、鉄、ニッケル、アルミニウムまたはチタンなどの構成元素に、少量の添加元素を加えることで作製される。鉄鋼、ニッケル合金、チタン合金、アルミニウム合金などが従来の合金の代表例である。
【0003】
近年、従来の合金の技術思想とは一線を画した新しいカテゴリの金属材料として、ハイエントロピー合金が注目されている。
【0004】
ハイエントロピー合金は、単純な構造を持つ固溶体となり、従来の合金では見られない特異で優れた機械特性を持つことが発見されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-534374号公報(段落[0002]~[0004])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハイエントロピー合金は、その概念が提唱されてから20年程度しかたっていない、歴史の浅い材料である。そのため、ハイエントロピー合金の適用例はまだ少ないのが現状である。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ハイエントロピー合金の新たな適用について提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の合金部材、永久磁石式同期モータ、コーティング材および回転体は以下の手段を採用する。
【0009】
本開示は、第1組成のハイエントロピー合金で構成された第1相と、前記第1組成とは異なる第2組成のハイエントロピー合金で構成された第2相と、前記第1相から前記第2相にかけて組成が連続的に傾斜する傾斜相と、を含み、前記第1相から前記第2相にかけて機能が変化する合金部材を提供する。
【0010】
本開示は、上記合金部材が適用された永久磁石式同期モータ、コーティング材および回転体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
ハイエントロピー合金の組成を傾斜化することで、傾斜機能化された合金部材となる。傾斜機能化された合金部材を用いることで、箇所ごとの物性を最適化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一例としてのAM装置を上部から見た概略図である。
【
図2】
図1のAM装置について、原料粉末の供給を横から見た概略図である。
【
図3】ハイエントロピー合金における材料組成の傾斜と物性変化の関係を示すイメージ図である。
【
図4】SPMモータを模式的に示す横断面図である。
【
図5】
図4に記載の回転子の周方向における磁化と、保持リングの非磁性元素の比との関係を示す図である。
【
図6】IPMモータを模式的に示す横断面図である。
【
図8】径方向に向けて第2組成のCrをAlに連続的に置換した場合の物性変化の履歴を示す図である。
【
図9】径方向に向けて第2組成のCrをAlに連続的に置換した場合の物性変化の履歴を示す図である。
【
図10】IPMモータを模式的に示す横断面図である。
【
図11】永久磁石が埋め込まれる前の回転子コアの横断面図である。
【
図12】傾斜機能化していないコーティング材の熱特性履歴を示す図である。
【
図13】傾斜機能化したコーティング材の熱特性履歴を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(合金部材)
本実施形態に係る合金部材は、第1組成のハイエントロピー合金で構成された第1相と、第2組成のハイエントロピー合金で構成された第2相と、第1相から第2相にかけて組成が連続的に傾斜する傾斜相と、を含み、第1相から第2相にかけて機能が変化する。
【0014】
ハイエントロピー合金は、3種程度の元素を混ぜ合わせて作製される高濃度多元系合金である。本実施形態では、5~50原子%の範囲でハイエントロピー合金に含まれる元素を構成元素と称す。構成元素は、例えば、Fe,Co,Ni,Mn,Al,Cu,Si,Ti,Ga,Sn,Cr,Hf,Ta,W,Mo,Nb,V,Pd,Zr,Ru,Rh,Ir,Mg,Ca,Li,Sc,Zn,Ge,Sr,またはYから選択できる。ハイエントロピー合金は、構成元素の他に微量元素を含んでもよい。微量元素とは、5原子%未満でハイエントロピー合金に含まれる元素である。ハイエントロピー合金は、酸化物、窒化物、ホウ化物または炭化物であってもよい。その場合、ハイエントロピー合金は、O,N,BまたはCを含む。
【0015】
ハイエントロピー合金は、原子の配置のエントロピーを気体定数Rで除した値(ΔSconfig/R)が1.0以上の合金である。ΔSconfig/Rが1.0~1.5の合金をミディアムエントロピー合金と呼ぶこともあるが、本実施形態では、ΔSconfig/Rが1.0~1.5の合金もハイエントロピー合金に含まれると定義する。ΔSconfig/Rは、式(1)で定義される。式(1)におけるxiは元素iのモル分率である。ΔSconfigが高いほど、原子配列が乱雑であることを示している。
【0016】
【0017】
第2組成は、第1組成と異なる。第2組成は、少なくとも1つの構成元素の種類、および/または少なくとも1つの構成元素の含有量が第1組成と異なる。
【0018】
傾斜相は、第1相と第2相との間にあり、第1相から第2相にかけて組成が連続的に変化している。傾斜相では、組成が線形、非線形で傾斜しうる。非線形は、例えば、二次的、三次的、多次的な組成変化であってよい。傾斜相の組成変化のパターンは、製品に要求される物性に応じて選択され得る。
【0019】
傾斜相は、複数あってよい。例えば、第2相が極値となるよう、第1相、第2相、第1相の順に組成を傾斜させてもよい。
【0020】
例えば、傾斜相では、第1組成に含まれる第1構成元素の量が第1相から第2相に向けて連続的に少なくなり、第2組成に含まれ且つ第1組成に含まれない第2構成元素の量が第1相から第2相に向けて連続的に多くなる。第2相は、第1構成元素が第2構成元素で置換された相となる。
【0021】
例えば、傾斜相では、第1組成に含まれる第3構成元素の組成比が第1相から第2相に向けて連続的に高くなる(または低くなる)。第2相は、第3構成元素の量が第1相よりも多い(または少ない)相となる。
【0022】
例えば、第1組成に含まれる第4構成元素を、第2組成に含まれる原子サイズの異なる元素に置換する。これにより、原子サイズの差に起因して格子歪みが増加したり、析出相が形成されたりする。その結果、合金部材が高強度化される。また、比重に差のある元素に置換した場合、合金部材の軽量化(または重量化)が可能である。
【0023】
上記「第1構成元素」,「第2構成元素」,「第3構成元素」および「第4構成元素」は、目的に応じて選択された任意の1つの元素である。他の元素に置換されたり、量を増減させる元素は1種類に限定されず、複数種であってもよい。「第1」,「第2」,「第3」および「第4」は、説明のために付与した数字であり、第1組成および第2組成に含まれる元素種の数を特定するものではない。
【0024】
例えば、第1組成をFeCoNiAlMn、第2組成をFeCoNiCrSiとし、第1組成のAlおよびMnを連続的にCrおよびSiに置換してもよい。
【0025】
例えば、第1組成をFeCoNi(AlMn)0.1、第2組成をFeCoNi(AlMn)0.5とし、第1組成のAiMnの組成比を連続的に高めてもよい。
【0026】
第1相から第2相にかけての組成は、単一軸方向または多軸方向に傾斜し得る。第1相から第2相にかけての組成は、合金部材の周方向、径方向、およびxyz方向に傾斜させてもよい。
【0027】
(製造方法)
組成を連続的に変化させて合金部材を製造する方法としては、付加製造(アディティブ マニュファクチャリング:AM)技術を採用できる。AM技術では、材料を堆積させて立体形状を製造する。AM技術を用いた装置(AM装置)としては、3Dプリンタ等が知られている。
【0028】
図1,2にレーザメタルデポジション(LMD)方式のAM装置の一例を示す。
図1は、AM装置を上部から見た概略図である。
図2は、原料粉末の供給を横から見た概略図である。
【0029】
図1、2のAM装置は、熱源1と、複数の原料粉末供給ノズル(符号2,3,4,5,6、以降「ノズル」と略す)を備えている。熱源1は、レーザ発振器である。レーザ発振器には、高出力ファイバーレーザを用いることができる。ノズルは、所定の場所に原料粉末を供給できる。原料粉末は、単一元素の粉末または合金粉末であってよい。
【0030】
例えば、5種類の構成元素を含むハイエントロピー合金部材の製造では、
図1に示すように5つのノズルからそれぞれ別の原料粉末を供給してもよい。
図2では、ノズル2から原料粉末7、ノズル3から原料粉末8を噴射する。
【0031】
図1、2のAM装置では、所定の間所に向けてノズル2,3,4,5,6から原料粉末を噴射すると同時にレーザ光を照射することで原料粉末を溶融池9に供給し、凝固させて造形を行う。ノズルまたはステージを移動させることで立体形状を造形できる。原料粉末の供給経路を切換え、粉末の混合比を変化させることで、ハイエントロピー合金の組成を傾斜化させた傾斜相を有する合金部材を造形できる。第1相、傾斜相および第2相は一体製造され得る。傾斜は、一方向に限定されず、縦、横、周、径方向に可能である。
【0032】
ハイエントロピー合金の組成は、粉末の混合比とは異なる。ノズルから供給される粉末量は、粉末流速で制御できる。供給する粉末の供給量の比で、ハイエントロピー合金の組成を制御できる。
【0033】
LDM方式のAM装置を用いた造形条件の一例を以下に示す。
平均出力:4.0(kW)
溶接速度:0.3(m/min)
焦点位置:-3(mm)
ビーム寸法:2×7(mm)
スタンドオフ:12mm
パウダ供給量:2(g/min)
パウダキャリアガス:1.7(l/min)
シールドガス:35(l/min)
ビードシフト量:3.5(mm)
ヘッド角度:後進5(°)または前進5(°)
予熱:なし
母材水冷:あり
シールドBOX:使用
【0034】
(組成と物性)
【0035】
図3に、ハイエントロピー合金における組成の傾斜と物性変化の関係を示す。同図において、横軸は傾斜方向、縦軸は物性である。
【0036】
ハイエントロピー合金では、組成を傾斜化させることで、線形的(CASE1)、二次的(CASE2)、三次的に物性を変化させることが可能である。
【0037】
CASE3~5のように物性に極値を持たせることも可能である。CASE5のように傾斜を急にすると局所的に異なる物性を与えられる。ここで「局所的」は、マクロな視点に基づく。マクロな視点から局所的変化のように見えたとしても、ミクロな視点では第1相と第2相との境界部分で組成が傾斜している。
【0038】
ハイエントロピー合金は、複数の構成元素を含み、それらの組み合わせは多数存在する。構成元素の組み合わせを変えることで、合金部材の物性を幅広く制御できる。
【0039】
ハイエントロピー合金は、組成を連続的に変化させることで、製造物に対して傾斜機能を持たせることができる。
【0040】
本実施形態によれば、従来、機能別に複数の部材をアセンブリしていた製造物を、一体で造形することが可能となる。
【0041】
多軸方向に組成を傾斜させることで、CASE1~5のパターンの物性変化を組み合わせることができる。
【0042】
以下に、傾斜機能を持たせた合金部材が適用される製品の一実施例について説明する。
【0043】
傾斜機能を持たせた合金部材は、永久磁石式同期モータの部材およびコーティング材として好適である。永久磁石式同期モータには、回転子の表面に永久磁石が貼り付けてあるSPMモータ(Surface Permanent Magnet Motor)と、回転子に永久磁石が埋め込まれているIPMモータ(Interior Permanent Magnet Motor)とがある。コーティング材は、例えば、遮熱コーティングである。
【0044】
(実施例1:SPMモータ)
図4は、SPMモータを模式的に示す横断面図である。SPMモータ11は、円筒状の固定子12と、固定子12に挿通される回転子13と、を備えている。回転子13は、駆動軸14を中心として回転する。
【0045】
以下では、駆動軸14の軸心(回転子の回転軸の中心)に沿う方向を「軸方向」、「軸方向」に直交する方向を「径方向」、駆動軸14の軸心から遠い側を「外周側」、駆動軸14の軸心から近い側を「内周側」と呼ぶ。
【0046】
固定子12と回転子13とは、径方向において空隙Gを介して互いに対面している。
【0047】
固定子12は、固定子コア15および固定子コイル16を備えている。固定子コア15は、軟磁性材で形成されている。固定子コア15は、内周側に複数のティース部15aを備えている。ティース部15aは、固定子12の周方向に沿って間隔をあけて並んで配置されている。固定子コイル16は、ティース部15aに巻回されている。
【0048】
回転子13は、回転子コア17、永久磁石18および保持リング19を有する。回転子コア17は、円筒状であり、内周側で駆動軸14に固定されている。回転子コア17は、軟磁性材で形成されている。
【0049】
永久磁石18は、希土類金属を用いた磁石である。永久磁石18は、n個(nは自然数)の分割磁石(
図2ではn=4、符号18a,18b,18c,18d)で構成されている。n個の分割磁石18a,18b,18c,18dは、回転子コア17の外周に沿って間隔(空隙x)をあけて並んでいる。分割磁石18a,18b,18c,18dは、回転子コア17の外周表面に貼りつけられている。
【0050】
保持リング19は、永久磁石18の外周側を覆うように円筒状に形成されている。保持リング19は、遠心力による永久磁石18の飛散を防止できる。
【0051】
保持リング19は、第1相19aと第2相19bとを含む。第1相19aおよび第2相19bは、周方向に並んでいる。第1相19aから第2相19bにかけての組成の傾斜が急であるため、
図2での表示は省略するが、第1相19aと第2相19bとの間には、第1相から第2相にかけて組成が連続的に傾斜する傾斜相(計8か所)が存在する。第1相19aは、第2相19bが極値となるよう配置されている。第1相19aから第2相19bにかけての組成の傾斜は、要求される物性となるように推移させる。第1相19aと傾斜相と第2相19bとは一体で製造され得る。
【0052】
第1相19aは、第1組成のハイエントロピー合金で構成されている。第1組成のハイエントロピー合金は、軟磁性材である。第1組成のハイエントロピー合金のΔSconfig/Rは、いずれも1.0以上である。
【0053】
第1組成のハイエントロピー合金は、FeCoNiMnAl、FeCoNiCuAl、FeCoNiCuSi、FeCoNiCrSi、FeCoNiMnCuTi、FeCoNiAlSi、FeCoNiMnG、FeCoNiMnSnからなる群から選択され得る。組成比は、要求される物性に応じて設定される。
【0054】
第2相19bは、第2組成のハイエントロピー合金で構成されている。第2組成のハイエントロピー合金は、非磁性材である。第2組成のハイエントロピー合金のΔSconfig/Rは、1.0以上である。
【0055】
第2組成のハイエントロピー合金は、FeCoNiMnCr、FeCoNiCuCr、FeCoNiCrTiからなる群から選択され得る。組成比は、要求される物性に応じて設定される。
【0056】
傾斜相は、第1組成のハイエントロピー合金に含まれる元素を、他の元素に連続的に置換することで形成され得る。例えば、第1組成のハイエントロピー合金にFe15~50Co15~50Ni15~25Mn5~35Al5~35、第2組成のハイエントロピー合金にFe15~50Co15~50Ni15~25Mn5~35Cr5~35を選択し、第1組成のAlをCrに連続的に置換することで、組成を傾斜化できる。完全にAlがCrに置換された相が第2相となる。
【0057】
第1相19aは磁気特性が求められる領域に配置される。第2相19bは非磁性であることが求められる領域に配置される。
図4において、磁気特性が求められる領域は、永久磁石18の外周側である。
図4において、非磁性であることが求められる領域は、隣り合う分割磁石と分割磁石との間の空隙の外周側である。
【0058】
図5に、
図4に記載の回転子の周方向における磁化と、保持リングの非磁性元素の比との関係を示す。同図において、横軸が
図4の上向き矢印を0°とした回転子の中心角、左縦軸が磁化、右縦軸が非磁性元素の比である。
【0059】
図4のSPMモータでは、0°、90°、180°、270°の領域で磁化が高くなり、45°、135°、225°、315°領域で磁化が低くなる。
図4において、0°、90°、180°、270°の領域は、永久磁石18が配置されている位置に対応する。
図4において、45°、135°、225°、315°領域は、隣り合う分割磁石の間の空隙に対応する。
【0060】
磁化が高い領域の外周側に、非磁性材で構成された保持リングを配置すると、磁気ギャップが大きくなり、モータの性能が低下する。本実施例では、磁化が高い領域の外周側に配置される保持リングを軟磁性材(第1組成)で構成する。それにより、磁気抵抗が低減され、性能低下を抑制できる。
【0061】
本発明者らが電磁場解析した結果によれば、隣り合う分割磁石の間で磁束漏れが生じることが確認されている。本実施例では、磁化が低い領域の外周側に、非磁性元素の比を高めた第2相19bを配置することで、磁束漏れを低減できる。
【0062】
周方向に組成が傾斜することで傾斜機能化された保持リング19は、複数の原料粉末供給ノズルを備えたAM装置により造形できる。供給する原料粉末は、単一元素の粉末または合金の粉末である。
【0063】
本実施例によれば、SPMモータの磁気特性の最適化を図ることが可能となり、より高性能化が期待できる。ハイエントロピー合金の材料物性を傾斜化することで、従来にない磁気ギャップおよび磁気抵抗の低減が可能となる。
【0064】
(実施例2:IPMモータ)
図6は、IPMモータを模式的に示す横断面図である。IPMモータ31は、円筒状の固定子32と、固定子32に挿通される回転子33と、を備えている。回転子33は、駆動軸34を中心として回転する。
【0065】
以下では、駆動軸34の軸心(回転子の回転軸の中心)に沿う方向を「軸方向」、「軸方向」に直交する方向を「径方向」、駆動軸34の軸心から遠い側を「外周側」、駆動軸34の軸心から近い側を「内周側」と呼ぶ。
【0066】
固定子32と回転子33とは、径方向において空隙Gを介して互いに対面している。
【0067】
固定子32は、固定子コア35および固定子コイル36を備えている。固定子コア35は、軟磁性材で形成されている。固定子コア35は、内周側に複数のティース部35aを備えている。ティース部35aは、固定子32の周方向に沿って間隔をあけて並んで配置されている。固定子コイル36は、ティース部35aに巻回されている。
【0068】
回転子33は、回転子コア37および永久磁石38を有する。
【0069】
永久磁石38は、希土類金属を用いた磁石である。永久磁石38は、n個(nは自然数)の分割磁石(
図6ではn=8、符号38a~38h)で構成されている。n個の分割磁石38a~38hは、回転子コア37に埋め込まれている。隣り合う分割磁石は、間隔xをあけて並んでいる。
【0070】
回転子コア37は、円筒状であり、駆動軸34に固定されている。
【0071】
図7に、回転子コア37の横断面図を示す。回転子コア37は、中心に中空部40を有する。中空部40内には駆動軸34が挿入され得る。
【0072】
回転子コア37は、第1相39aと第2相39bとを含む。第1相39aは、実施例1の第1相19aと同様の軟磁性相である。第2相39bは、実施例1の第2相19bと同様の非磁性相である。
【0073】
第1相39aは回転子コア37内の外周側に配置される。第2相39bは、中空部40の周りを囲うように、回転子コア37内の内周側に配置される。第1相39aと第2相39bとの間には、第1相39aから第2相39bにかけて径方向に組成が連続的に傾斜する傾斜相が存在する。第1相39aから第2相39bにかけての組成の傾斜は、要求される物性となるように推移させる。回転子コア37では、径方向に磁気特性が変化する。
【0074】
傾斜相は、第1組成のハイエントロピー合金に含まれる元素を、他の元素に連続的に置換することで形成され得る。例えば、第1組成のハイエントロピー合金にFeCoNiMnAl、第2組成のハイエントロピー合金にFeCoNiMnCrを選択し、第2組成のCrを連続的にAlに置換することで、組成を傾斜化できる。
【0075】
径方向に組成が傾斜し、傾斜機能化された回転子コアは、複数の原料粉末供給ノズルを備えたAM装置により造形できる。供給する原料粉末は、単一元素の粉末または合金の粉末である。
【0076】
図8,9に、径方向に向けて第2組成のCrをAlに連続的に置換した場合の物性変化の履歴を示す。
図8,9において、横軸は
図7の回転子コアの径方向(内周側→外周側)、縦軸は物性である。
【0077】
内周側から外周側に向けてAlを連続的に増やし、Crを連続的に減らすと、磁気特性および強度が増し、密度が低下する。
【0078】
IPMモータの回転子コアは、外周側の磁気特性が重要である。外周側に軟磁性の第1相を配置して磁気特性が高くなるよう設計することで、IPMモータの高性能化が見込める。
【0079】
AlはCrよりも密度が小さい元素である。Crに替えてAlの比重を高めることで密度が低下する。外周側を低密度化することで、荷重が分担され、外周側への応力付加が軽減される。また、外周側での弾性率が高くなる。それらの結果、変形を抑制でき、より高速回転に対応したIPMモータを作製できる。これにより、IPMモータの高出力密度化が可能となる。
【0080】
FeCoNiMnCrで形成される相は、不均一固溶体相である。CrをAlに置換することで、固溶強化量の増加、金属間化合物などの新たな相の形成により強度特性の向上が期待できる。
【0081】
図8,9では、CrをAlに置換した場合について説明したが、機能を最適化できる元素はこれに限定されるものではない。ハイエントロピー合金では、変化させる構成元素の種類や量に応じて、幅広く材料物性を制御できる。
【0082】
なお、上記では、IPMモータを例示したが、径方向に対して傾斜化する本実施例は、モータや発電機の回転子の他に、タービンのディスク翼などの回転体にも適用可能である。
【0083】
(実施例3:IPMモータ)
本実施例は、第1相、第2相の配置が、実施例2と異なる。
【0084】
図10は、本実施例に係るIPMモータを模式的に示す横断面図である。IPMモータ41は、円筒状の固定子42と、固定子42に挿通される回転子43と、を備えている。回転子43は、駆動軸44を中心として回転する。
【0085】
固定子42と回転子43とは、径方向において空隙Gを介して互いに対面している。
【0086】
固定子42は、実施例2と同様の固定子コア45および固定子コイル46を備えている。固定子コア45は、内周側に複数のティース部45aを備えている。回転子43は、回転子コア47および永久磁石48を有する。永久磁石48は、実施例2と同様である。
【0087】
回転子コア47は、円筒状であり、駆動軸44に固定されている。
【0088】
図11に、永久磁石が埋め込まれる前の回転子コア47の横断面図を示す。回転子コア47は、中心に中空部50を有する。中空部50内には駆動軸44が挿入され得る。
【0089】
回転子コア47は、第1相49aと第2相49bとを含む。第1相49aは、実施例1の第1相19aと同様の軟磁性相である。第2相49bは、実施例1の第2相19bと同様の非磁性相である。
図11には示されていないが、マクロな視点では第1相49aと第2相49bとの間に、第1相49aから第2相49bにかけて組成が傾斜する傾斜相が存在する。第1相49aから第2相49bにかけての組成の傾斜は、要求される物性となるように推移させる。傾斜相では、磁気特性が第1相49aから第2相49bにかけて変化する。
【0090】
組成が傾斜し、傾斜機能化された回転子コア47は、複数の原料粉末供給ノズルを備えたAM装置により造形できる。供給する原料粉末は、単一元素の粉末または合金の粉末である。
【0091】
従来、IPMモータの電磁鋼板では、基本的に材料物性は均一であり、箇所によって材料物性は変化しない。そのような電磁鋼板を用いたIPMモータでは、隣り合う分割磁石の間での磁束漏れが避けられない。本実施例によれば、部分的に非磁性の第2相49bを作りこむことで、磁束漏れを低減できる。これにより、IPMモータのさらなる効率化が期待できる。
【0092】
従来技術では、部分的に非磁性相を設ける場合、電磁鋼板にあけた孔に非磁性相を埋め込む。本実施例によれば、非磁性相を一体で製造することで、応力集中部がなくなり、強度面で優位となる。
【0093】
(実施例4:コーティング材)
コーティング材は、第1相および第2相を含む。第1相と第2相との間には、第1相から第2相にかけて組成が連続的に傾斜する傾斜相がある。第1相から第2相にかけて熱特性が変化する。第1相から第2相にかけての組成の傾斜は、要求される物性となるように推移させる。
【0094】
第1相を構成するハイエントロピー合金は、コーティング対象の母材と同じまたは母材に近い熱特性を有する。第2相を構成するハイエントロピー合金は、第1相とは異なる熱特性を有する。熱特性は、熱抵抗率、熱伝導率、熱膨張係数および熱応力等である。
【0095】
熱膨張係数の異なるハイエントロピー合金を、熱膨張係数が大きい順に例示する。
MnFeNi>MnCoNi>CrFeCoNi>CrFeNi>CrCoNi>FeCoNi
【0096】
例えば、Mn0.33Fe0.33Ni0.34の組成を持つ合金から、Co0.33Fe0.33Ni0.34の組成を持つ合金に連続的な組成変化を与えることで、熱膨張率を傾斜化させることが可能である。
【0097】
また、第1相を構成するハイエントロピー合金をFeCoNiAlMn,AlCrTaTiZr,TiHfZrVNb,FeCoNiCrMn,TiZrNbHfTa,TiVNbTa,AlTiVNbTa,NbMoTaW,VNbMoTaW,TiZrMoHfTa,TiZrNbMoHfTa,TiCrZrNbMoTaおよびTiZrMoHfTaから選択し、第2相を構成するハイエントロピー合金を、第1相を構成するハイエントロピー合金の炭化物、窒化物、ホウ化物または酸化物から選択してもよい。第1相を構成するハイエントロピー合金の炭化物、窒化物、ホウ化物または酸化物は、FeCoNiAlMn(C/N/B/O),AlCrTaTiZr(C/N/B/O),TiHfZrVNb(C/N/B/O),FeCoNiCrMn(C/N/B/O),TiZrNbHfTa(C/N/B/O),TiVNbTa(C/N/B/O),AlTiVNbTa(C/N/B/O),NbMoTaW(C/N/B/O),VNbMoTaW(C/N/B/O),TiZrMoHfTa(C/N/B/O),TiZrNbMoHfTa(C/N/B/O),TiCrZrNbMoTa(C/N/B/O)およびTiZrMoHfTa(C/N/B/O)である。ハイエントロピー合金の炭化物、窒化物、ホウ化物または酸化物は、炭化等させていないハイエントロピー合金と比べて熱膨張率が小さい。
【0098】
図12に、傾斜機能化していないコーティング材の熱特性履歴を示す。
図12(A)は熱特性の変化履歴、
図12(B)はコーティング材内部の物質構成である。
図13に傾斜機能化したコーティング材の熱特性履歴を示す。
図13(A)は熱特性の変化履歴、
図13(B)はコーティング材内部の物質構成である。
図12,13において、符号51は第1組成のハイエントロピー合金、符号52は第2組成のハイエントロピー合金である。
【0099】
熱特性が異なる第1相と第2相との界面では、熱特性が急激に変化する。これは、母材とコーティング材の界面でも同様である。一方、
図13に示すように、組成を連続的に変化させることで熱特性の変化は緩やかになる。
【0100】
コーティング材は、母材との界面で熱膨張係数が急激に変化すると、界面剥離が生じる。本実施例では、ハイエントロピー合金の組成を傾斜させ、熱膨張係数を連続的に変化させることで、剥離発生を抑えることができる。
【0101】
一軸方向に組成が傾斜し、傾斜機能化されたコーティング材は、複数の原料粉末供給ノズルを備えたAM装置により造形できる。供給する原料粉末は、単一元素の粉末または合金の粉末である。
【0102】
なお、上記実施例1~4では、それぞれ1パターンの組成傾斜について説明しているが、これに限定されず、要求される物性に応じて複数パターンの組成傾斜を組みあせてもよい。例えば、実施例1の回転子コアに実施例2の回転子コアの組成傾斜パターンを組み合わせられる。例えば、実施例2と実施例3とを組み合わせもよい。例えば、実施例4において、コーティング材の厚さ方向に熱膨張係数を傾斜させるとともに、面方向で別の機能が傾斜するようにハイエントロピー合金の組成を傾斜させてもよい。
【0103】
〈付記〉
以上説明した実施形態および実施例に記載の合金部材、永久磁石式同期モータ、コーティング材および回転体は、例えば以下のように把握される。
【0104】
本開示は、第1組成のハイエントロピー合金で構成された第1相(19a,39a,49a)と、前記第1組成とは異なる第2組成のハイエントロピー合金で構成された第2相(19b,39b,49b)と、前記第1相から前記第2相にかけて組成が連続的に傾斜する傾斜相と、を含み、前記第1相から前記第2相にかけて機能が変化する合金部材を提供する。
【0105】
ハイエントロピー合金の組成を傾斜化することで、傾斜機能化された合金部材となる。傾斜機能化された合金部材を用いることで、箇所ごとの物性を最適化できる。
【0106】
ハイエントロピー合金の組成制御により、例えば、磁気特性(飽和磁束密度、透磁率)、電気抵抗率、弾性率、強度、密度、線膨張係数など機能を傾斜化できる。ハイエントロピー合金の組成を傾斜化できれば、製品の高性能化が見込める。
【0107】
上記開示の一態様では、前記第1相から前記第2相にかけての組成の傾斜が、線形、二次的または三次的に推移させてもよい。
【0108】
上記開示の一態様では、前記第2相が極値となるよう、前記第1相から前記第2相にかけて組成が連続的に傾斜させてもよい。
【0109】
前記第1相から前記第2相にかけての組成が、単一軸方向または多軸方向に傾斜してもよい。
【0110】
上記開示の一態様によれば、回転子(13)と固定子(12)とを備え、前記回転子は、回転子コア(17)と、永久磁石(18)と、前記永久磁石の外周側を覆う保持リング(19)と、を有し、前記永久磁石は、複数の分割磁石(18a~18d)で構成されて前記回転子コアの表面に貼りつけられ、複数の前記分割磁石が、間隔をあけて前記回転子コアの外周に沿って並ぶ永久磁石式同期モータ(11)であって、前記保持リングは、上記開示に記載の合金部材であり、軟磁性の前記第1相(19a)と、前記傾斜相と、非磁性の前記第2相(19b)と、が前記保持リングの周方向に並び、前記第1相が、前記永久磁石の外周側を覆うように配置され、前記第2相が、隣り合う前記分割磁石の間の外周側を覆うように配置されている永久磁石式同期モータを提供する。
【0111】
周方向に磁気特性を傾斜させた保持リングを用いることで、磁気特性が求められる領域に軟磁性の第1相を配置できる。これにより、磁気ギャップおよび磁気抵抗の低減による性能低下を低減できる。
【0112】
一方、分割磁石の間のような非磁性であることが求められる領域には、非磁性の第2相を配置できる。これにより、磁束漏れを防止できる。
【0113】
上記開示の一態様によれば、回転子(33)と固定子(32)とを備え、前記回転子は、回転子コア(37)と、永久磁石(38)と、を有する永久磁石式同期モータ(31)であって、前記回転子コアは、上記開示に記載の合金部材であり、軟磁性の前記第1相(39a)が前記回転子コアの外周側に配置され、非磁性の前記第2相(39b)が前記回転子コアの内周側に配置され、前記傾斜相では、前記回転子コアの径方向に組成が連続的に傾斜する永久磁石式同期モータを提供する。
【0114】
径方向に磁気特性を傾斜させ、外周側に軟磁性の第1相を配置することで、モータの高性能化が見込める。一方、ハイエントロピー合金の組成を径方向に対して連続的に変化させることで、外周側の密度低下、比重調整、析出相の形成等を最適化できる。これにより、強度特性に優れた製品となり得る。
【0115】
既存の軟磁性材料は、磁気特性が良好である一方で、強度特性は低い。上記開示の永久磁石式同期モータは、磁気特性および強度特性を兼ね備えている。
【0116】
既存の軟磁性材料は磁気特性に優れる一方で、添加元素量が少ない。そのため、電気抵抗率が小さく、鉄損周波数特性も悪く、高発熱および高鉄損となる傾向がある。上記開示によれば、ハイエントロピー合金の組成を傾斜化させることで、電気抵抗率を大きくし、鉄損周波数特性も改善できる。
【0117】
ハイエントロピー合金の組成を制御することで、従来技術では開発されていなかった磁気特性、鉄損特性および機械特性を高度に兼ね備えた軟磁性材料となり得る。
【0118】
上記開示の一態様によれば、回転子(43)と固定子(42)とを備え、前記回転子は、回転子コア(47)と、永久磁石(48)と、を有し、前記永久磁石は、複数の分割磁石で構成され、複数の前記分割磁石が、間隔をあけて並ぶ永久磁石式同期モータ(41)であって、前記回転子コアは、上記開示に記載の合金部材であり、軟磁性の前記第1相(49a)を母材とし、非磁性の前記第2相(49b)が、隣り合う前記分割磁石の間または該間の外周側に配置されている永久磁石式同期モータを提供する。
【0119】
隣り合う分割磁石の間またはその外周側に非磁性の第2相を配置することで、磁束漏れを低減できる。第1相から第2相まで、ハイエントロピー合金の組成を連続的に傾斜させることで、応力集中部がなくなるため、強度面で優位になる。
【0120】
上記開示の一態様によれば、上記開示に記載の合金部材を用い、前記第2組成のハイエントロピー合金は、前記第1組成のハイエントロピー合金と熱特性が異なり、前記第1相から前記第2相にかけて熱特性が変化するコーティング材を提供する。
【0121】
熱特性を変化させることで、熱応力の発生などを低減できる。
【0122】
上記開示の一態様は、上記開示に記載の合金部材を用いた回転体であり、軟磁性の前記第1相が前記回転体の外周側に配置され、非磁性の前記第2相が前記回転体の内周側に配置され、前記傾斜相では、外周側に向けて原子サイズおよび密度が小さくなるよう前記回転体の径方向に組成が連続的に傾斜する回転体を提供する。
【0123】
外周側に向けて原子サイズおよび密度が小さくなるよう前記回転体の径方向に組成が連続的に傾斜することで、外周側の密度低下、比重調整、析出相の形成等を最適化できる。これにより、強度特性に優れた製品となり得る。
【符号の説明】
【0124】
1 熱源
2,3,4,5,6 ノズル
7,8 原料粉末
9 溶融池
11 SPMモータ
12,32,42 固定子
13,33,43 回転子
14,34,44 駆動軸
15,35,45 固定子コア
15a,35a,45a ティース部
16,36,46 固定子コイル
17,37,47 回転子コア
18,38,48 永久磁石
18a~18d,38a~38h 分割磁石
19 保持リング
19a,39a,49a 第1相
19b,39b,49b 第2相
31,41 IPMモータ
40,50 中空部