(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165133
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】カソード触媒層、並びに、膜電極接合体及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20221024BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20221024BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20221024BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20221024BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/92
H01M4/90 B
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070364
(22)【出願日】2021-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】吉野 修平
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 健作
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久雄
(72)【発明者】
【氏名】大久保 慶一
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB03
5H018BB05
5H018BB06
5H018BB08
5H018DD03
5H018DD05
5H018DD06
5H018EE02
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE06
5H018EE07
5H018EE08
5H018EE16
5H018EE17
5H018EE18
5H018EE19
5H018HH00
5H018HH01
5H018HH05
5H126EE03
5H126EE22
5H126FF03
5H126GG05
5H126GG17
5H126GG18
5H126JJ00
5H126JJ01
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】プロトン伝導度を低下させることなく、電極触媒のアイオノマによる被毒を低減することが可能なカソード触媒層、及びこれを用いた膜電極接合体及び燃料電池を提供すること。
【解決手段】カソード触媒層は、高分子電解質(A)を主成分とする多孔質の基材と、前記基材の表面に担持された、酸素還元反応に対する活性を持つ触媒粒子(A)を含むカソード触媒とを備えている。前記カソード触媒層は、高分子電解質(A)以外の高分子電解質(B)に由来するアニオン基の表面濃度(C
ion
suf)が0.00nmol/cm
2以上0.05nmol/cm
2以下である。膜電極接合体及び燃料電池は、このようなカソード触媒層を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えたカソード触媒層。
(1)前記カソード触媒層は、
高分子電解質(A)を主成分とする多孔質の基材と、
前記基材の表面に担持された、酸素還元反応に対する活性を持つ触媒粒子(A)を含むカソード触媒と
を備えている。
(2)前記カソード触媒層は、アニオン基の表面濃度(Cion
suf)が0.00nmol/cm2以上0.05nmol/cm2以下である。
但し、「アニオン基の表面濃度(Cion
suf)」とは、前記カソード触媒の表面積当たりの、前記高分子電解質(A)以外の高分子電解質(B)に由来するアニオン基のモル数をいう。
【請求項2】
前記高分子電解質(B)は、前記カソード触媒の表面を被覆する高分子電解質である請求項1に記載のカソード触媒層。
【請求項3】
前記カソード触媒は、カーボン担体表面に前記触媒粒子(A)が担持されたものからなり、
前記カソード触媒の平均粒径は、2000nm以下である
請求項1又は2に記載のカソード触媒層。
【請求項4】
10000サイクル後のECSA維持率が55%以上である請求項1から3までのいずれか1項に記載のカソード触媒層。
但し、「10000サイクル後のECSA維持率(%)」とは、耐久試験前のECSA(x0)に対する、電位変動を10000サイクル付与する耐久試験後のECSA(x1)の比率(=x1×100/x0)をいう。
「電位変動を10000サイクル付与する耐久試験」とは、前記カソード触媒層を含む固体高分子形燃料電池に対して、0.6V(3s)⇔1.0V(3s)の矩形波を10000サイクル与える試験をいう。
【請求項5】
前記触媒粒子(A)の表面積当たりの全圧に依存しない酸素拡散抵抗(Rother×RF)が、1100s/m以下である請求項1から4までのいずれか1項に記載のカソード触媒層。
【請求項6】
前記基材は、不織布、多孔体、立体格子状構造、又は、柱状構造からなる請求項1から5までのいずれか1項に記載のカソード触媒層。
【請求項7】
前記触媒粒子(A)は、
(a)Pt若しくはPt合金、
(b)Fe、Ni、Co及びMnからなる群から選ばれるいずれか1以上の卑金属元素を含む金属若しくは合金、
(c)Fe、Ni、Co及びMnからなる群から選ばれるいずれか1以上の卑金属元素を内包するポルフィリン、又は、
(d)窒素ドープカーボン、
からなる請求項1から6までのいずれか1項に記載のカソード触媒層。
【請求項8】
前記高分子電解質(A)は、パーフルオロスルホン酸ポリマ(A)からなる請求項1から7までのいずれか1項に記載のカソード触媒層。
【請求項9】
前記高分子電解質(B)は、パーフルオロスルホン酸ポリマ(B)からなる請求項1から8までのいずれか1項に記載のカソード触媒層。
【請求項10】
以下の構成を備えた膜電極接合体。
(1)前記膜電極接合体は、
高分子電解質(C)からなる電解質膜と
前記電解質膜の一方の面に接合されたアノードと、
前記電解質膜の他方の面に接合されたカソードと
を備えている。
(2)前記アノードは、高分子電解質(D)、及び、水素酸化反応に対する活性を持つ触媒粒子(B)を含むアノード触媒層を備えている。
(3)前記カソードは、請求項1から9までのいずれか1項に記載のカソード触媒層を備えている。
【請求項11】
請求項10に記載の膜電極接合体を備えた燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード触媒層、並びに、膜電極接合体及び燃料電池に関し、さらに詳しくは、高い酸素還元反応活性を示すカソード触媒層、並びに、これを用いた膜電極接合体及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒を含む電極が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。電極は、通常、触媒を含む触媒層と、拡散層の二層構造を取る。MEAの両面には、さらに、ガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEA及び集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
固体高分子形燃料電池のアノード(水素極)では、次の式(1)に示す水素酸化反応(HOR)が起こる。HORは、酸性環境下で活性が高いことが知られている。
2H2 → 4H++4e- …(1)
一方、カソード(空気極)では、次の式(2)に示す酸素還元反応(ORR)が起こる。ORRは、酸性環境下よりもアルカリ性環境下で活性が高いことが知られている。
O2+4H++4e- → 2H2O …(2)
【0004】
固体高分子形燃料電池において、触媒層は、電極触媒と触媒層アイオノマとの複合体からなる。上述したような電極反応を進行させるためには、触媒表面にプロトン及び電子を供給する必要がある。すなわち、触媒層には、高いプロトン伝導性、高い電子伝導性、及び、高いガス透過性が求められる。しかしながら、プロトン伝導性を向上させるために触媒層アイオノマの量を増加させると、触媒層の電子伝導性及びガス透過性が低下する。一方、触媒層アイオノマの量を減少させると、触媒層のプロトン伝導性が低下する。
【0005】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
(a)メルトブロー法を用いて、プロトン伝導性材料からなる不織布を作製し、
(b)白金担持カーボンを含む触媒インクに不織布を浸漬し、
(c)触媒インクから不織布を引き上げた後、乾燥させる
ことにより得られる電極が開示されている。
同文献には、
(A)このような方法により、白金担持カーボンと、白金担持カーボンを担持するプロトン伝導性材料からなる不織布とを備えた電極が得られる点、及び、
(B)電極に含まれるプロトン伝導材料を繊維状とすると、繊維長手方向のプロトン伝導性が向上し、燃料電池の発電出力が向上する点
が記載されている。
【0006】
特許文献2には、
(a)Pt-Ru合金微粒子を担持したカーボン粒子、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液、パーフルオロカーボンスルホン酸繊維(平均繊維長:50μm、平均繊維径:200nm)、水、及びメトキシプロパノールを含むペーストを作製し、
(b)このペーストをガス拡散層に塗布し、乾燥させる
ことにより得られる燃料極が開示されている。
同文献には、繊維状のプロトン伝導体を触媒層中に混合すると、長距離のプロトン伝導が可能になり、電極における触媒利用率が向上し、インピーダンスが小さくなって出力性能が向上する点が記載されている。
【0007】
特許文献3には、
(a)薄膜裁断法を用いて樹脂繊維を作製し、
(b)触媒担持導電性粒子、電解質樹脂、及び溶媒を含む触媒インクが入ったディップコート槽に触媒繊維を通過させることにより、触媒付き樹脂繊維とし、
(c)乾燥後の触媒付き樹脂繊維を10~100μmの長さに裁断し、
(d)触媒付き樹脂繊維を熱圧着し、不織布とする
ことにより得られる触媒層が開示されている。
同文献には、
(A)触媒層が触媒付き樹脂繊維の三次元構造からなるため、ガス拡散路及び生成水の排出路が確保される点、
(B)触媒層内に占める高分子電解質の割合が高く、かつ、高分子電解質が繊維状であるため、プロトン伝導性を高く維持できる点
が記載されている。
【0008】
特許文献4には、樹脂繊維の表層に触媒が埋め込まれた触媒被覆樹脂繊維をシート状に一体化することにより得られる燃料電池用電極が開示されている。
同文献には、
(A)ディップコート法を用いて電解質樹脂繊維の表面の触媒を付着させ、触媒付き繊維を圧着して不織布とし、これを燃料電池用の電極として用いた場合、発電中に触媒が繊維から脱落し、燃料電池の出力が低下する点、及び、
(B)触媒の一部を樹脂繊維の表層に埋め込み、触媒が埋め込まれた樹脂繊維をシート状に成形し、これを燃料電池の電極として用いた場合、樹脂繊維から容易に触媒が脱落せず、燃料電池の出力低下を抑制できる点
が記載されている。
【0009】
さらに、特許文献5には、
(a)疎水性被膜を備えた白金担持カーボン、高分子電解質溶液、プロトン伝導性繊維(平均繊維長:1.5μm)、及び溶媒を含む触媒インクを調製し、
(b)触媒インクを基材上に塗布し、乾燥させる
ことにより得られる電極触媒層が開示されている。
同文献には、
(A)このようにして得られた電極触媒層は、プロトン伝導性繊維が絡み合うために、クラックの発生が抑制される点、
(B)疎水性被膜を備えた触媒担持粒子は、親水性繊維状物質(プロトン伝導性繊維)との親和性がないため、親水性繊維状物質から離れて存在する点、及び、
(C)このような構造によって、保水性を高めた電極触媒層でも、高電流域では電極反応で生成した水を排出することができる点
が記載されている。
【0010】
触媒層の基材としてプロトン伝導性材料からなる不織布を用い、あるいは、触媒層内にプロトン伝導性材料からなる短繊維を添加すると、触媒層内のプロトン伝導度が向上し、あるいは、触媒層のガス拡散性が向上する。
しかしながら、従来の方法により得られた触媒層は、いずれも、電極触媒の表面の多くが触媒層アイオノマと接触している。そのため、これを用いて燃料電池を作製した場合、電極触媒がアイオノマ被毒を受け、発電性能が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007-220416号公報
【特許文献2】特開2008-276990号公報
【特許文献3】特開2009-026698号公報
【特許文献4】特開2012-124046号公報
【特許文献5】特開2020-061248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、プロトン伝導度を低下させることなく、電極触媒のアイオノマによる被毒を低減することが可能なカソード触媒層を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このようなカソード触媒層を用いた新規な膜電極接合体及び燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係るカソード触媒層は、以下の構成を備えている。
(1)前記カソード触媒層は、
高分子電解質(A)を主成分とする多孔質の基材と、
前記基材の表面に担持された、酸素還元反応に対する活性を持つ触媒粒子(A)を含むカソード触媒と
を備えている。
(2)前記カソード触媒層は、アニオン基の表面濃度(Cion
suf)が0.00nmol/cm2以上0.05nmol/cm2以下である。
但し、「アニオン基の表面濃度(Cion
suf)」とは、前記カソード触媒の表面積当たりの、前記高分子電解質(A)以外の高分子電解質(B)に由来するアニオン基のモル数をいう。
【0014】
本発明に係る膜電極接合体は、以下の構成を備えている。
(1)前記膜電極接合体は、
高分子電解質(C)からなる電解質膜と
前記電解質膜の一方の面に接合されたアノードと、
前記電解質膜の他方の面に接合されたカソードと
を備えている。
(2)前記アノードは、高分子電解質(D)、及び、水素酸化反応に対する活性を持つ触媒粒子(B)を含むアノード触媒層を備えている。
(3)前記カソードは、本発明に係るカソード触媒層を備えている。
【0015】
さらに、本発明に係る燃料電池は、本発明に係る膜電極接合体を備えている。
【発明の効果】
【0016】
電界噴霧法を用いて高分子電解質(A)からなる多孔質の基材の表面にカソード触媒を含む触媒インクを噴霧し、多孔質基材の表面にカソード触媒を担持させる場合において、触媒インクに含まれる高分子電解質(B)の含有量をある臨界値以下にすると、高加湿条件下及び低加湿条件下のいずれにおいても、高い活性が得られる。
これは、イオン輸送を担う基材表面に、実質的に高分子電解質(B)に被覆されていないカソード触媒を付着させることで、イオン輸送に影響を与えることなく、触媒被毒を回避できるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1及び比較例1~2で得られた燃料電池の0.84Vにおける白金質量当たりの電流値である。
【
図2】実施例1及び比較例2で得られた燃料電池のセル温度:60℃、相対湿度:80%RHにおける電位サイクル回数とECSA維持率との関係を示す図である。
【
図3】実施例1で得られた触媒層のSEM像である。
【
図4】実施例1及び比較例1~2で得られた触媒層の触媒粒子の表面積当たりの全圧に依存しない酸素拡散抵抗(R
other×RF)の比較である。
【
図5】
図5(A)は、比較例3で得られた電界紡糸直後の不織布のSEM像である。
図5(B)は、触媒インクの溶媒に浸漬した後の不織布のSEM像である。
図5(C)は、触媒インクに浸漬した後の不織布のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. カソード触媒層]
本発明に係るカソード触媒層は、
高分子電解質(A)を主成分とする多孔質の基材と、
前記基材の表面に担持された、酸素還元反応に対する活性を持つ触媒粒子(A)を含むカソード触媒と
を備えている。
【0019】
[1.1. 基材]
[1.1.1. 構造]
基材は、高分子電解質(A)を主成分とする多孔質の構造体からなる。本発明においては、ガス透過性を向上させるために、基材には、多孔質の構造体が用いられる。
基材は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。基材としては、例えば、不織布、多孔体、立体格子状構造、柱状構造などがある。
【0020】
不織布は、例えば、高分子電解質(A)、及び、必要に応じてキャリアポリマを含む溶液を電界紡糸することにより得られる。この場合、不織布の密度や厚さ、繊維の直径等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。
多孔体は、おおよそ体積の半分が空隙であるものを指し、不織布も多孔体の一種である。多孔体は、例えば、電界紡糸や、造孔剤を利用することにより得られる。この場合、多孔体の密度や厚さ、気孔径等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。
【0021】
「立体格子状構造」とは、MOF(Metal organic Framework)等を鋳型として作られるジャングルジム様の立体構造をいう。
「柱状構造」とは、電解質膜からカソード触媒層に向かってマイクロ~ナノサイズの柱を幾つも立てた様な構造をいい、電解質膜とカソード触媒層との界面面積を増やすことができる。柱状構造は、例えば、陽極酸化アルミナ、エッチングされた素材(シリカ、各種金属、樹脂など)を鋳型として作製することができる。
【0022】
[1.1.2. 材料]
基材は、高分子電解質(A)を主成分とする。「主成分」とは、高分子電解質(A)の含有量が90mass%以上であることをいう。本発明において、基材の主成分である高分子電解質(A)の材料は、特に限定されない。
【0023】
高分子電解質(A)は、プロトン伝導性を示す材料であれば良い。これらの中でも、高分子電解質(A)は、カチオン交換樹脂が好ましい。これは、他の材料(例えば、酸化物、リン酸系の液体系材料)よりも成型性に優れるためである。
また、高分子電解質(A)は、カチオン交換樹脂の中でも、特に、パーフルオロスルホン酸ポリマ(A)が好ましい。これは、主鎖がフッ素化されており、燃料電池環境下でも安定であるためである。
【0024】
高いプロトン伝導度を得るためには、基材は高分子電解質(A)のみからなるものが好ましいが、必要に応じて他の成分が含まれていても良い。
他の成分としては、例えば、
(a)高分子電解質(A)に曳糸性を付与するためのキャリアポリマ、
(b)不可避的不純物、
(c)燃料電池運転中に生成するラジカルを消失するラジカルクエンチャー(例えば、Ce、Agなど)、
(d)導電性を付加するための導電助剤(例えば、カーボンファイバー、CNTなど)、
などがある。
【0025】
[1.2. カソード触媒]
カソード触媒は、酸素還元反応に対する活性を持つ触媒粒子(A)を含む。カソード触媒は、基材の表面又は隙間に担持されている。カソード触媒は、触媒粒子(A)のみからなるものでも良く、あるいは、触媒粒子(A)を担持するための担体をさらに備えていても良い。
【0026】
[1.2.1. 触媒粒子(A)]
本発明において、触媒粒子(A)は、次の式(3)に示す酸素還元反応(ORR)に対する活性を持つものからなる。触媒粒子(A)は、式(3)に示すORR活性を持つものである限りにおいて、特に限定されない。
O2+H2O+4e- → 4OH- …(3)
【0027】
触媒粒子(A)としては、例えば、
(a)Pt若しくはPt合金、
(b)Fe、Ni、Co及びMnからなる群から選ばれるいずれか1以上の卑金属元素を含む金属若しくは合金、
(c)Fe、Ni、Co及びMnからなる群から選ばれるいずれか1以上の卑金属元素を内包するポルフィリン、
(d)窒素ドープカーボン、
などがある。
触媒粒子(A)は、これらのいずれか1種からなるものでも良く、あるいは、2種以上からなるものでも良い。
【0028】
[1.2.2. 担体]
触媒粒子(A)は、導電性材料からなる担体表面に担持されていても良い。触媒粒子(A)を担体の表面に担持させると、微細な触媒粒子(A)を安定して分散させることができるので、触媒使用量を低減することができる。
本発明において、担体の材料は、特に限定されない。担体としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、活性炭、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ガラス状炭素粉末などがある。
【0029】
担体は、特に、表面が疎水性であるものが好ましい。担体として、表面が親水性であるものを用いると、親水性溶媒への分散性が良好となる。しかしながら、親水性の担体の表面に触媒粒子(A)を担持させた場合、カソード触媒層の排水性が低下する。その結果、特に、高加湿条件下における性能が低下する。
これに対し、表面が疎水性である担体を用いると、カソード触媒層の排水性が向上する。その結果、高加湿条件下におけるフラッディングを抑制することができる。
【0030】
[1.2.3. 平均粒径]
「カソード触媒の平均粒径」とは、カソード触媒が担体(特に、カーボン担体)の表面に触媒粒子(A)が担持されたものからなる場合における、カソード触媒全体(すなわち、触媒粒子(A)を担持した担体全体)の平均粒径をいう。
「平均粒径」とは、電子顕微鏡で得られる像から測定された、100個以上のカソード触媒の最大寸法の平均値をいう。
【0031】
カソード触媒の平均粒径が大きくなりすぎると、触媒粒子(A)の表面にプロトンが供給されにくくなる。従って、カソード触媒の平均粒径は、2000nm以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、1500nm以下、さらに好ましくは、1000nm以下である。
プロトン供給を容易化するという点では、カソード触媒の平均粒径は、製造可能な限りにおいて、小さいほど良い。例えば、カソード触媒が担体を含む場合、現時点において製造可能なカソード触媒の平均粒径は50nm程度である。
【0032】
[1.3. 高分子電解質(B)]
「高分子電解質(B)」とは、基材を構成する高分子電解質(A)以外の高分子電解質をいう。
より具体的には、「高分子電解質(B)」とは、カソード触媒を含む触媒インクを電界噴霧する際に、触媒インクに添加されることがある高分子電解質をいう。相対的に多量の高分子電解質(B)を含む触媒インクを電界噴霧した場合、触媒粒子(A)の大半は、通常、高分子電解質(B)で被覆された状態となる。
【0033】
後述するように、本発明においては、多孔質の基材の表面に、カソード触媒を含む触媒インクが電界噴霧される。触媒インクが、親水性溶媒と疎水性のカソード触媒との混合物である場合、カソード触媒の分散性を向上させるための成分(いわゆる、界面活性剤)を添加するのが好ましい。
この場合、界面活性剤として、高分子電解質以外の有機化合物を用いることもできる。しかしながら、高分子電解質以外の有機化合物は、燃料電池運転時に生じるラジカル(・OH等)で分解され、その分解物が触媒を被毒する可能性がある。従って、界面活性剤には、化学的安定性の高い材料を用いるのが望ましい。
【0034】
これに対し、触媒インクに高分子電解質(B)を加え、これを乾燥させると、カソード触媒の表面が高分子電解質(B)で被覆された複合体が得られる。高分子電解質(B)は、プロトン伝導体として機能するだけでなく、疎水性のカソード触媒を親水性溶媒に分散させるための界面活性剤としても機能する。
また、高分子電解質(B)は、他の界面活性剤と同様に触媒被毒の原因物質でもある。しかしながら、高分子電解質(B)は、少量であれば触媒粒子(A)を被毒させることがなく、むしろ触媒インク中におけるカソード触媒の分散性を向上させる作用がある。そのため、触媒インクには、必要に応じて高分子電解質(B)を添加するのが好ましい。
【0035】
触媒インクに高分子電解質(B)を添加する場合、高分子電解質(B)は、高分子電解質(A)と同一の材料であっても良く、あるいは、異なる材料であっても良い。
高分子電解質(B)は、特に、パーフルオロスルホン酸ポリマ(B)が好ましい。パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマ(B)は、ラジカルに対する耐性が高いので、カソード触媒を分散させるための界面活性剤として特に好適である。
【0036】
[1.4. アニオン基の表面濃度]
「アニオン基の表面濃度(Cion
suf)」とは、前記カソード触媒の表面積当たりの、前記高分子電解質(A)以外の高分子電解質(B)に由来するアニオン基のモル数をいう。
換言すれば、「アニオン基の表面濃度(Cion
suf)」とは、前記カソード触媒の表面が、アニオン基を持つ高分子電解質(B)で均一に被覆されていると仮定した時の、前記カソード触媒の表面積当たりの前記アニオン基のモル数をいう。
ここで言う「カソード触媒の表面積」とは、カソード触媒の凝集形態にかかわらないカソード触媒のBET表面積をいう。また、「BET表面積」とは、窒素ガスを用いたガス吸着法で求めた表面積をいう。
カソード触媒が担体を含む場合、「カソード触媒の表面積」とは、触媒粒子(A)の表面積及び担体の表面の面積の総和をいう。
【0037】
Cion
sufは、カソード触媒層の活性、耐久性、及び、カソード触媒層を用いた燃料電池の出力に影響を与える。触媒粒子(A)が高分子電解質(B)のアニオン基で被毒されると、活性、耐久性、及び/又は、出力が低下する。従って、Cion
sufは、0.05nmol/cm2以下である必要がある。触媒被毒を抑制するためには、Cion
sufは、小さいほど良く、ゼロnmol/cm2であっても良い。
このような低Cion
sufは、触媒インクに高分子電解質(B)を全く添加しないか、あるいは、触媒インクに添加する高分子電解質(B)を必要最小限に止めることにより達成することができる。
【0038】
[1.5. 特性]
[1.5.1. ECSA維持率]
「10000サイクル後のECSA維持率(%)(以下、「ECSA維持率@10000cycle」ともいう)」とは、耐久試験前のECSA(x0)に対する、電位変動を10000サイクル付与する耐久試験後のECSA(x1)の比率(=x1×100/x0)をいう。
「電位変動を10000サイクル付与する耐久試験」とは、前記カソード触媒層を含む固体高分子形燃料電池に対して、0.6V(3s)⇔1.0V(3s)の矩形波を10000サイクル与える試験をいう。
【0039】
一般に、カソード触媒層に対して電位サイクルを付与すると、触媒粒子(A)の溶解・再析出が起こる。そのため、一般に、サイクル数が多くなるほど、ECSAは低下する。しかしながら、本発明に係るカソード触媒層は、従来に比べて電位サイクルを付与した後のECSA維持率が高い。これは、本発明に係るカソード触媒層において、Cion
sufが従来に比べて低いためと考えられる。
Cion
sufが低いことは、触媒粒子(A)の表面近傍に存在するアニオン基(例えば、-SO3
-基)が少ないことを意味する。その結果、触媒粒子(A)の表面におけるpHが大きくなり、触媒粒子(A)の溶解が抑制されると考えられる。
【0040】
本発明に係るカソード触媒層において、基材の構造、カソード触媒の種類、Cion
sufなどを最適化すると、ECSA維持率@10000cycleは、55%以上となる。
【0041】
[1.5.2. 触媒粒子の表面積当たりの全圧に依存しない酸素拡散抵抗(Rother×RF)]
カソード触媒層を備えた固体高分子形燃料電池において、カソード触媒層内の酸素移動抵抗Rtotalは、次の式(1)で表される。
Rtotal=Rmole+Rother=Rmole+(Rknud+Riono) …(1)
但し、
Rmoleは、分子拡散抵抗、
Rotherは、それ以外の抵抗成分。
【0042】
Rotherは、全圧に依存しない酸素拡散抵抗である。Rotherは、ガス拡散層の撥水層内やカソード触媒層内の小さな細孔内の移動抵抗であるクヌーセン拡散抵抗Rknudと、アイオノマ内部や界面(アイオノマと、気相や白金との界面)の酸素移動抵抗Rionoとの和で表される。
さらに、「触媒粒子の表面積当たりの全圧に依存しない酸素拡散抵抗」とは、RotherにRF(ラフネスファクター=触媒層の幾何面積当たりの触媒粒子の表面積)を乗じた値をいう。
【0043】
本発明に係るカソード触媒層は、Cion
sufが低い(すなわち、触媒粒子(A)を被覆する高分子電解質(B)が少ない)ため、従来に比べてRionoが低くなる。その結果、Rother×RFもまた、従来に比べて低くなる。発明に係るカソード触媒層において、基材の構造、カソード触媒の種類、Cion
sufなどを最適化すると、Rother×RFの値は、1100s/m以下となる。
【0044】
[2. カソード触媒層の製造方法]
本発明に係るカソード触媒層は、種々の方法により製造することができる。
例えば、基材が不織布からなるカソード触媒層の場合、その製造方法としては、
(a)高分子電解質(A)を含む溶液から電界紡糸により不織布を作製する工程と、カソード触媒を含む触媒インクを不織布の表面に電界噴霧する工程とを繰り返す第1の方法、
(b)高分子電解質(A)の電界紡糸による不織布の作製と、カソード触媒を含む触媒インクの電界噴霧とを同時に行う第2方法、
などがある。
これらの中でも、第2の方法は、電気的に孤立しているカソード触媒の割合を少なくすることができるので、カソード触媒層の製造方法として好適である。
【0045】
いずれの方法を用いる場合であっても、触媒インクは、高分子電解質(B)を含んでいても良く、あるいは、含んでいなくても良い。
但し、表面が疎水性であるカソード触媒を親水性溶媒に分散させる場合、触媒インク中に、界面活性剤として機能する高分子電解質(B)を添加するのが好ましい。この場合、高分子電解質(B)の添加量は、Cion
sufが上述した範囲内となる量とするのが好ましい。高分子電解質(B)の添加量を必要最小限にすると、分散性の良好な触媒インクが得られると同時に、アニオン基による触媒被毒を低減することができる。
【0046】
[3. 膜電極接合体]
本発明に係る膜電極接合体は、
高分子電解質(C)からなる電解質膜と
電解質膜の一方の面に接合されたアノードと、
電解質膜の他方の面に接合されたカソードと
を備えている。
【0047】
[3.1. 電解質膜]
電解質膜は、高分子電解質(C)からなる。高分子電解質(C)は、カソードに含まれる高分子電解質(A)、(B)、又は、アノードに含まれる高分子電解質(D)と同一の材料であっても良く、あるいは、異なる材料であっても良い。高分子電解質(C)に関するその他の点は、高分子電解質(A)、(B)と同様であるので、説明を省略する。
【0048】
[3.2. アノード]
電解質膜の一方の面には、アノードが接合されている。アノードは、アノード触媒層を含む。アノードは、アノード触媒層のみからなるものでも良く、あるいは、アノード触媒層の外側に配置されたアノードガス拡散層をさらに備えていても良い。
【0049】
アノード触媒層は、高分子電解質(D)と、アノード触媒とを備えている。アノード触媒は、水素酸化反応(HOR)に対する活性を持つ触媒粒子(B)のみからなるものでも良く、あるいは、担体の表面に触媒粒子(B)が担持されているものでも良い。
高分子電解質(D)は、カソードに含まれる高分子電解質(A)、(B)、又は、電解質膜を構成する高分子電解質(C)と同一の材料であっても良く、あるいは、異なる材料であっても良い。高分子電解質(D)に関するその他の点は、高分子電解質(A)~(C)と同様であるので、説明を省略する。
【0050】
触媒粒子(B)は、水素酸化反応(HOR)に対する活性を持つものであれば良い。また、触媒粒子(B)が担体表面に担持されている場合、担体は、電子伝導性を有するものであれば良い。触媒粒子(B)としては、例えば、Ptナノ粒子などがある。担体としては、例えば、カーボン担体などがある。
【0051】
[3.3. カソード]
電解質膜の他方の面には、カソードが接合されている。カソードは、カソード触媒層を含む。カソードは、カソード触媒層のみからなるものでも良く、あるいは、カソード触媒層の外側に配置されたカソードガス拡散層をさらに備えていても良い。
本発明に係る膜電極接合体において、カソードは、本発明に係るカソード触媒層を備えている。カソード触媒層の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0052】
[4. 燃料電池]
本発明に係る燃料電池は、本発明に係る膜電極接合体を備えている。膜電極接合体の両面には、ガス流路を備えたセパレータが配置される。燃料電池は、通常、膜電極接合体とセパレータからなる単セルが複数個積層された構造(スタック構造)を備えている。本発明において、セパレータ及びスタック構造については特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。また、膜電極接合体の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0053】
[5. 作用]
触媒層は、通常、触媒粒子及びアイオノマ(高分子電解質)を含む触媒インクを作製し、触媒インクを基材表面に塗布し、乾燥させることにより製造されている。このようにして得られた触媒層において、触媒粒子はアイオノマに被覆されている。そのため、触媒粒子がアイオノマで被毒され、触媒粒子の活性や耐久性、及び/又は、燃料電池の出力が低下する場合がある。一方、被毒を抑制するために触媒インクに添加されるアイオノマを減らすと、イオン輸送に支障を来し、発電能力が低下する。
【0054】
この点は、高分子電解質からなる不織布の電界紡糸と、アイオノマを含む触媒インクの電界噴霧とを併用する方法を用いて触媒層を製造する場合も同様である。すなわち、このような方法を用いる場合であっても、製造条件が不適切であると、被毒に起因する触媒粒子の活性や耐久性の低下、被毒に起因する燃料電池の出力の低下などが起こる。
【0055】
これに対し、電界噴霧法を用いて高分子電解質(A)からなる多孔質の基材の表面にカソード触媒を含む触媒インクを噴霧し、多孔質基材の表面にカソード触媒を担持する場合において、触媒インクに含まれる高分子電解質(B)の含有量をある臨界値以下にすると、高加湿条件下及び低加湿条件下のいずれにおいても、高い活性が得られる。
これは、イオン輸送を担う基材表面に、実質的に高分子電解質(B)に被覆されていないカソード触媒粒子を付着させることで、イオン輸送に影響を与えることなく、触媒被毒を回避できるためと考えられる。
【実施例0056】
(実施例1、比較例1~2)
[1. カソード触媒層の作製]
[1.1. 繊維溶液(電界紡糸液)の調製]
高分子電解質(A)には、ナフィオン(登録商標)溶液(ケマーズ(株)製、D2020)を用いた。キャリアポリマには、ポリエチレンオキサイド(PEO、MW~1,000,000)を用いた。さらに、溶媒には、メタノールを用いた。
メタノールにナフィオン(登録商標)溶液及びPEOを添加し、繊維溶液を調製した。高分子電解質(A)/PEOの質量比は、99/1とした。また、繊維溶液の固形分(高分子電解質(A)+PEO)の濃度は、6mass%とした。
【0057】
[1.2. 触媒インクの調製]
[1.2.1. 実施例1]
電極触媒には、白金担持カーボンPt/C(田中貴金属工業(株)製、TEC10V30E、白金重量比率:30mass%)を用いた。高分子電解質(B)には、ナフィオン(登録商標)溶液(ケマーズ(株)製、D2020)を用いた。さらに、溶媒には、水/エタノール=10/90(質量比)の混合溶媒を用いた。
混合溶媒にPt/C及びナフィオン(登録商標)溶液を添加し、触媒インクを調製した。I/C比は、0.1とした。また、触媒インクの固形分(高分子電解質(B)+Pt/C)の濃度は、1.0mass%とした。この場合、アニオン基の表面濃度(Cion
suf)は、0.05nmol/cm2であった。
【0058】
[1.2.2. 比較例1、2]
アニオン基の表面濃度(Cion
suf)が0.20nmol/cm2(比較例1)、又は、0.40nmol/cm2(比較例2)となるように、触媒インクのI/Cを変えた以外は実施例1と同様にして、触媒インクを作製した。
【0059】
[C. 電界紡糸及び電界噴霧]
エレクトロスピニング装置を用いて、基材表面に、繊維の電界紡糸と触媒インクの電界噴霧を同時に行った。基材には、撥水層付きペーパー拡散層(GDL)を用いた。
電界紡糸・電界噴霧は、15kVの電圧をかけ、触媒インクを2.0mL/h、繊維溶液を0.5mL/hで送液することにより行った。
【0060】
[2. 試験方法]
[2.1. セルの作製]
電解質膜の一方の面に、アノード触媒層をホットプレスで転写した。次に、GDL付きカソード触媒層、アノード触媒層付き電解質膜、及びアノード側GDLをセル内に配置し、ガス流路付き集電板及び端版で締め付けた。その際、セル内でのGDL厚さは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のガスケットの厚さで制御した。GDLの圧縮率は、約15%であった。ガス流路は、平行溝、溝幅0.4mm、リブ幅0.2mm、溝深さ0.5mmとした。アノードとカソードのガスの流し方は、直交流とした。
【0061】
セル評価には、(株)東方技研製の電気化学測定装置を使用した。電位は、すべてアノードを基準とし、各条件下での水素分圧を用いて、ネルンストの式で1気圧の水素におけるRHEに換算して設定した。
【0062】
[2.2. IV性能の評価]
(a)セル温度80℃、相対湿度100%RH、80%RH、若しくは、30%RH、又は、
(b)セル温度60℃、相対湿度165%RH
のもと、カソードに空気(21%O2/79%N2、2000ccm)、アノードにH2(500ccm)を通じた状態で、カソードの電位をアノードに対して自然電位⇔0Vの範囲で、10mV/sで掃引し、サイクリックボルタモグラムを取得した。ガス圧は、酸素の分圧が20kPaとなるように調節した。3サイクルの測定の内、3サイクル目のアノーディック掃引を当該セルのIV性能とした。
【0063】
[2.3. 耐久性の評価]
セル温度60℃、相対湿度80%RHのもと、カソードにN2(101kPaabs、1000ccm)、アノードに10%H2(N2バランス、N2(101kPaabs、1000ccm))を通じた状態で、カソードに0.6Vを3s、次いで1.0Vを3s与える矩形波の電位サイクルを10000回与えた。500サイクルごとに下記に示す手法でECSAを算出し、サイクルを増加させるに従い、ECSAがどの程度減少するかを調べた。
【0064】
ECSAは、以下のようにして算出した。0.05⇔1.00Vの電位範囲を、50mV/sで掃引してサイクリックボルタモグラムを取得した。アノーディック掃引時の0.2V付近に見られる水素脱離波のピークを積分して電荷量を求め、換算係数210μC/cm2を用いて触媒層の幾何面積(=1cm2)当たりの電気化学的に有効な白金の表面積を求めた。この表面積を白金目付量で規格化することで、白金質量当たりの電気化学的に有効な白金の表面積ECSA(m2/g)を求めた。さらに、電位サイクル付与後のECSAをECSAの初期値で除すことで、ECSA維持率を算出した。
【0065】
[2.4. Rother×RFの測定]
触媒層内の酸素移動抵抗Rtotalと、全圧に依存しない酸素移動抵抗Rotherとを、限界電流測定の結果から算出した。Rtotalは、上述したように、次の式(1)で表される。
Rtotal=Rmole+Rother=Rmole+(Rknud+Riono) …(1)
但し、
Rmoleは、分子拡散抵抗、
Rotherは、それ以外の抵抗成分(全圧に依存しない酸素拡散抵抗)、
Rknudは、クヌーセン拡散抵抗、
Rionoは、アイオノマー内部や界面の酸素移動抵抗。
【0066】
Rtotalは、拡散限界電流密度Ilim(A/m2)から以下の式(2)を用いて求めた。
Rtotal=4FPO2/IlimRT …(2)
但し、
Fは、ファラデー定数(C/mol)、
PO2は、酸素分圧(kPa)、
Rは、気体定数(J/(mol・K))、
Tは、絶対温度(K)。
【0067】
Ilim(A/m2)の測定は、以下のとおり行った。全圧を110~150kPa(10kPa刻みで5点)とし、各全圧において雰囲気の酸素分圧が一定(1.5kPa)となるようにN2分圧を調整した。このガス雰囲気において、0.1V~0.9Vの範囲を10mV/sの速度で3サイクル電位掃引し、3周目のアノーディック掃引の最大電流をIlim(A/m2)とした。以上の測定を80%RHで行った。
求めたIlimからRtotalを式(2)を用いて求めた。これを全圧に対してプロットし、直線近似した時のY切片からRotherを求めた。
【0068】
このRotherは、触媒層の幾何面積当たりの触媒の表面積(=RF)にぼぼ反比例することが知られている(参考文献1)。すなわち、白金-アイオノマ界面の抵抗が仮に小さくても、白金の粒径がより小さい場合や、白金目付量が多い場合は、そうでない場合と比べてRFが大きくなる。そのため、見かけのRotherは小さく見えてしまう。
そこで、RotherにRFを乗じることで、Rotherを白金の単位表面積当たりの値(Rother×RF)として規格化する。このことで、上記目付や粒径の違いを無視することができ、純粋に白金-アイオノマ界面の抵抗値の違いを比較することができる。
[参考文献1]J. Phys. Chem. Lett. 2016, 7, 1127-1137
【0069】
厳密には、RotherにはRknudが含まれる。従って、Rotherは、ガス拡散層(GDL)が異なったり、あるいは、担体の種類が変わることでも変化する。しかし、通常、Rknudは、Rionoの1/10程度であることから、極端にRknudが大きい担体やGDLを使用しない限り、これを無視できる。
以上を踏まえ、本発明では、白金-アイオノマ界面における酸素拡散抵抗として、Rother×RFを用いた。
【0070】
[3. 結果]
[3.1. IV性能]
図1に、実施例1及び比較例1~2で得られた燃料電池の0.84Vにおける白金質量当たりの電流値を示す。
図1より、実施例1は、相対湿度によらず、比較例1~2よりも電流値が大きいことが分かる。これは、C
ion
sufが小さいために、触媒被毒が軽減されたためと考えられる。
【0071】
[3.2. 耐久性]
図2に、実施例1及び比較例2で得られた燃料電池のセル温度:60℃、相対湿度:80%RHにおける電位サイクル回数とECSA維持率との関係を示す。
図2より、実施例1は、比較例2よりもECSAの減少が遅いこと(傾きが小さいこと)、及び、10000サイクル後のECSA維持率が高いことが分かる。これは、実施例1の白金の溶解が比較例1のそれより少ないことを示唆している。
【0072】
実施例1におけるスルホン酸基被覆量(Cion
suf)が比較例2のそれよりも少なく、結果として白金表面のpHが大きいことが、高耐久の理由と考えられる。なお、触媒粒子の面積維持率は触媒粒子の粒径にも影響されるが、本願で使用した活性種の粒径は、かなり小さく(2~3nm)、これよりも小さい粒子は耐久性の問題から実用的ではない。
【0073】
図3に、実施例1で得られた触媒層のSEM像を示す。
図3より、触媒層が繊維とカソード触媒とで構成されていることが分かる。実施例1の場合、カソード触媒の直径は、約2μmであった。カソード触媒の直径がこれより大きくなると、繊維から遠い位置では活性種にプロトンが輸送されない可能性がある。そのため、カソード触媒の直径は、2μm以下が好ましい。
【0074】
[3.3. R
other×RF]
図4に、実施例1及び比較例1~2で得られた触媒層の触媒粒子の表面積当たりの全圧に依存しない酸素拡散抵抗(R
other×RF)の比較を示す。
図4より、実施例1のR
other×RFは比較例1~2のそれより小さいことが分かる。触媒表面のアイオノマは酸素輸送の抵抗となることが知られているが、実施例1では触媒表面のアイオノマが少ないため、酸素拡散抵抗が比較例1よりも小さいと考えられる。
【0075】
(比較例3)
[1. 試料の作製]
特許文献1に記載の方法を模擬して、触媒層を作製した。すなわち、まず、触媒インクを用いなかった以外は、実施例1と同様にして電界紡糸により不織布を作製した。次いで、得られた不織布を触媒インク又は触媒インクの溶媒(水/エタノール混合溶媒)に浸漬した。所定時間経過後、不織布を触媒インク又は溶媒から引き上げ、乾燥させた。
【0076】
[2. 試験方法及び結果]
触媒インク又は溶媒に浸漬する前後の不織布をSEMで観察した。
図5(A)に、比較例3で得られた電界紡糸直後の不織布のSEM像を示す。
図5(B)に、触媒インクの溶媒に浸漬した後の不織布のSEM像を示す。さらに、
図5(C)に、触媒インクに浸漬した後の不織布のSEM像を示す。
【0077】
図5より、
(a)空隙の多い不織布を触媒インクの溶媒に浸漬すると、不織布の繊維が溶媒により膨潤し、空隙が減少すること、及び、
(b)触媒インクに不織布を所定時間浸漬しても、触媒インクは不織布の内部に侵入せず、膨潤した不織布の上面に触媒粒子が堆積すること、
が分かる。
すなわち、特許文献1の方法では、
図3に示すような構造を備えた触媒層が得られないことが分かった。
【0078】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。