(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165159
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/28 20140101AFI20221024BHJP
B23K 26/323 20140101ALI20221024BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20221024BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20221024BHJP
【FI】
B23K26/28
B23K26/323
B23K26/21 N
B23K26/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070399
(22)【出願日】2021-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】橋本 晃
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA07
4E168BA14
4E168BA21
4E168BA37
4E168BA82
4E168BA89
4E168CB07
4E168KA04
(57)【要約】
【課題】鋳鉄からなる第1の環状部材と鋼からなる第2の環状部材とをレーザ溶接するとき、接合部の割れを抑制することができる溶接構造が得られるレーザ溶接方法を提供する。
【解決手段】第1の環状部材3と第2の環状部材2とを溶接するレーザ溶接方法において、第1の環状部材3と第2の環状部材2とを回転させると共に、第1の環状部材3と第2の環状部材2の接合部52に対して、レーザを照射すること、及びフィラーを供給することを開始して、レーザの出力が0から所定の設定値ADの半分までの間に設定される所定値AHを超えるとき、フィラーが接合部52に到達して、その後、第1の環状部材3と第2の環状部材2が一周して、第1の環状部材3と第2の環状部材2の回転角度が、フィラー到達回転角度位置θRより大きく、且つ出力最大回転角度位置θMより小さい出力減少開始回転角度位置θDに達するとき、照射されるレーザの出力を徐々に減少させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動部によって、鋳鉄から形成されて、前記回転駆動部に取り付けられている第1の環状部材と、鋼から形成されて、前記第1の環状部材に嵌合される第2の環状部材とを共に回転させながら、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材とを突き合せた接合部に対して、フィラー供給部によってフィラーを供給すると共に、レーザ照射部によってレーザを照射することにより、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材とを溶接するレーザ溶接方法であって、
前記回転駆動部によって、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材とを基準位置から回転させると共に、前記レーザ照射部によってレーザを前記接合部に照射すること、及び前記フィラー供給部によってフィラーを前記接合部に供給することを開始して、前記レーザ照射部によって照射されるレーザの出力を徐々に増大させて、レーザの前記出力が0から所定の設定値の半分までの間に設定される所定値を超えるとき、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材の回転角度がフィラー到達回転角度位置に達して、且つ前記フィラー供給部によって供給されるフィラーが前記接合部に到達する第1のステップと、
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材の回転角度が前記フィラー到達回転角度位置より大きい出力最大回転角度位置に達するとき、前記レーザ照射部によって照射されるレーザの前記出力が前記設定値に達する第2のステップと、
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材が一周して、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材の回転角度が前記フィラー到達回転角度位置に再び達するとき、前記フィラー供給部によってフィラーを供給することを停止する第3のステップと、
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材が一周して、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材の回転角度が前記フィラー到達回転角度位置を再び通過した後、前記出力最大回転角度位置より小さい出力減少開始回転角度位置に達するとき、前記レーザ照射部によって照射されるレーザの出力を徐々に減少させる第4のステップと、
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材が一周して、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材の回転角度が前記出力減少開始回転角度位置と前記出力最大回転角度位置とを通過した後、前記出力最大回転角度位置より大きいレーザ停止回転角度位置に達するとき、前記レーザ照射部によってレーザを照射することを停止する第5のステップとを備える、
ことを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
前記第1のステップから前記第2のステップまでの間、及び前記第3のステップから、前記第4のステップの後、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材の回転角度が前記出力最大回転角度位置に達するまでの間、前記フィラー到達回転角度位置と前記出力最大回転角度位置との間には、中間角度領域が設けられて、
前記中間角度領域において、前記レーザ照射部によってレーザが2回照射されることを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
前記出力減少開始回転角度位置が前記フィラー到達回転角度位置より大きいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ溶接方法。
【請求項4】
前記第1の環状部材が、デファレンシャル装置のデフケースであり、
前記第2の環状部材が、デファレンシャル装置のデフリングギヤであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法、特に車両のデファレンシャル装置のデフリングギヤとデフケースのレーザ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部にエンジンなどの駆動源と変速機とを軸心が車体前後方向に延びるように配置し、変速機から伝達される駆動力を車体後方に延びる後輪用出力軸から後輪用プロペラシャフト及び後輪用デファレンシャル装置を介して主駆動輪としての後輪に伝達するように構成した所謂FR(フロントエンジン・リヤドライブ)ベースの車両が知られている。
【0003】
このような車両に配設されている後輪用デファレンシャル装置(以下、デファレンシャル装置と呼称する)は、例えば車両が旋回するとき、後輪用プロペラシャフト(以下、プロペラシャフトと呼称する)から伝達される駆動力を対応する左右の駆動輪に分配して、左右の駆動輪の間に発生する車輪回転速度の差を調整するように構成されている。
【0004】
このデファレンシャル装置は、プロペラシャフトから駆動力が伝達されるデフリングギヤと、ねじ締結又は溶接によりデフリングギヤと接合されて共に回転するデフケースとを備える。このデフケースには、デフリングギヤから伝達される駆動力を左右の駆動輪に分配する左右一対のサイドギヤと、デフリングギヤと直交する方向に延びるピニオンシャフトと、該ピニオンシャフトに設けられて左右一対のサイドギヤと噛み合い、駆動輪の間に発生する車輪回転速度の差を調整するピニオンギヤとが配設されている。
【0005】
デフリングギヤとデフケースとの接合方法として、例えば、炭素鋼から形成されるデフリングギヤと鋳鉄から形成されるデフケースとが溶接される接合部に対してレーザを照射することにより、デフリングギヤとデフケースとを接合するレーザ溶接が知られている。
【0006】
デフリングギヤとデフケースとが当接する接合部には、外側に向けて開口している溝を有する開先部が設けられている。また、デフリングギヤとデフケースとの間には、接合部より内側において、空間部が設けられている。レーザ溶接を行うとき、デフリングギヤとデフケースを回転させながら、開先部に対してフィラーを外側から供給すると共にレーザを照射することにより、開先部において、溶融した金属が溶接ビードを形成して、デフリングギヤとデフケースとが溶接される。
【0007】
一般的に、デフリングギヤは鋼から形成される一方、デフケースは鋳鉄から形成されるため、異種材料から形成されるデフリングギヤとデフケースとを溶接するとき、割れが接合部に生じ易いという課題がある。
【0008】
例えば特許文献1には、デフリングギヤとデフケースとを溶接するとき、接合部に形成される溶接ビードの形状を確認することにより、割れが接合部の溶接ビードに生じているか否かを判定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図4は、従来のレーザ溶接方法における、デファレンシャル装置の回転角度に対するレーザの出力とフィラーの移動距離を示すグラフである。
図4のグラフの横軸は、基準位置θ00に対するデフリングギヤとデフケースの回転角度位置を示す。
図4のグラフの縦軸は、接合部に対して照射されるレーザの出力、及び接合部に対して供給されるフィラーの移動距離を示す。
【0011】
図4のグラフにおいて、実線AL10と一点鎖線AL20は、デフリングギヤとデフケースの回転角度位置に対する、接合部に対して照射されるレーザの出力の大きさを示す。特に、一点鎖線AL20は、デフリングギヤとデフケースの回転が一周するときのレーザの出力の大きさを示す。実線AL10により示すように、レーザは、デフリングギヤとデフケースの回転が基準位置θ00から開始すると同時に、照射が開始する。その後、レーザの出力は、徐々に増加して、デフリングギヤとデフケースの回転が所定の溶接開始回転角度位置θW0に達すると、所定の設定値AD0に達する。一点鎖線AL20により示すように、デフリングギヤとデフケースの回転が一周すると、レーザの出力は徐々に減少する。その後、デフリングギヤとデフケースの回転が所定のレーザ停止回転角度位置θF0に達すると、レーザの照射は完全に停止する。
【0012】
また、
図4のグラフにおいて、実線PL10と一点鎖線PL20は、デフリングギヤとデフケースの回転角度に対する、接合部に対して供給されるフィラーの移動距離を示す。特に、一点鎖線PL20は、デフリングギヤとデフケースの回転が一周するときのフィラーの移動距離を示す。実線PL10により示すように、フィラーは、デフリングギヤとデフケースの回転が基準位置θ00から所定のフィラー供給開始回転角度位置θS0に達したとき、供給が開始する。その後、フィラーは、デフリングギヤとデフケースの接合部に向けて徐々に移動して、デフリングギヤとデフケースの回転が溶接開始回転角度位置θW0に達すると、フィラーがデフリングギヤとデフケースの接合部に到達したことを示す到達位置PD0に達する。一点鎖線PL20により示すように、デフリングギヤとデフケースの回転が一周して、溶接開始回転角度位置θW0に再び達すると、フィラーの供給は停止する。
【0013】
図4に示すように、デフリングギヤとデフケースの回転角度が基準位置θ00から溶接開始回転角度位置θW0に達するまでの間、レーザが接合部に照射される一方、フィラーが接合部に到達していないため、フィラーが到達していない状態で、レーザが照射される接合部の空打ち領域NA0が生じる。この空打ち領域NA0において、鋼からなるデフリングギヤと鋳鉄からなるデフケースの焼き入れが実質的に行われるため、脆い組織が接合部の溶接ビードの界面に生じる。その後、溶接ビードは冷却されるとき、収縮を起こす。この収縮により生じる応力によって、デフリングギヤ及びデフケースの接合部と溶接ビードとの間の界面において形成されている脆い組織が破壊されて、デフリングギヤ及びデフケースの接合部と溶接ビードとの間の界面における割れが発生するおそれがある。
【0014】
また、
図4に示すように、デフリングギヤとデフケースの回転が一周して、溶接開始回転角度位置θW0からレーザ停止回転角度位置θF0に達するまでの間、フィラーの供給を停止した後、レーザが接合部に照射され続けるため、レーザ溶接が完了した後、レーザが再び照射される接合部の再溶融領域RA0が生じる。この再溶融領域RA0において、レーザ溶接が完了した接合部がレーザにより再び加熱されるため、接合部の溶接ビードの収縮が2回起こる。この2回の収縮によって、接合部の溶接ビードの中心において、大きな応力が生じて、割れが発生するおそれがある。
【0015】
そこで、本発明は、鋳鉄からなる第1の環状部材と鋼からなる第2の環状部材とをレーザ溶接するとき、接合部の割れを抑制することができる溶接構造が得られるレーザ溶接方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するため、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0017】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、回転駆動部によって、鋳鉄から形成されて、前記回転駆動部に取り付けられている第1の環状部材と、鋼から形成されて、前記第1の環状部材に嵌合される第2の環状部材とを共に回転させながら、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材とを突き合せた接合部に対して、フィラー供給部によってフィラーを供給すると共に、レーザ照射部によってレーザを照射することにより、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材とを溶接するレーザ溶接方法であって、
前記回転駆動部によって、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材とを基準位置から回転させると共に、前記レーザ照射部によってレーザを前記接合部に照射すること、及び前記フィラー供給部によってフィラーを前記接合部に供給することを開始して、前記レーザ照射部によって照射されるレーザの出力を徐々に増大させて、レーザの前記出力が0から所定の設定値の半分までの間に設定される所定値を超えるとき、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材の回転角度がフィラー到達回転角度位置に達して、且つ前記フィラー供給部によって供給されるフィラーが前記接合部に到達する第1のステップと、
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材の回転角度が前記フィラー到達回転角度位置より大きい出力最大回転角度位置に達するとき、前記レーザ照射部によって照射されるレーザの前記出力が前記設定値に達する第2のステップと、
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材が一周して、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材の回転角度が前記フィラー到達回転角度位置に再び達するとき、前記フィラー供給部によってフィラーを供給することを停止する第3のステップと、
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材が一周して、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材の回転角度が前記フィラー到達回転角度位置を再び通過した後、前記出力最大回転角度位置より小さい出力減少開始回転角度位置に達するとき、前記レーザ照射部によって照射されるレーザの出力を徐々に減少させる第4のステップと、
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材が一周して、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材の回転角度が前記出力減少開始回転角度位置と前記出力最大回転角度位置とを通過した後、前記出力最大回転角度位置より大きいレーザ停止回転角度位置に達するとき、前記レーザ照射部によってレーザを照射することを停止する第5のステップとを備えることを特徴とする。
【0018】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、前記第1のステップから前記第2のステップまでの間、及び前記第3のステップから、前記第4のステップの後、前記第1の環状部材と前記第2の環状部材の回転角度が前記出力最大回転角度位置に達するまでの間、前記フィラー到達回転角度位置と前記出力最大回転角度位置との間には、中間角度領域が設けられて、
前記中間角度領域において、前記レーザ照射部によってレーザが2回照射されることを特徴とする。
【0019】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1又は前記請求項2に記載の発明において、前記出力減少開始回転角度位置が前記フィラー到達回転角度位置より大きいことを特徴とする。
【0020】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から前記請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記第1の環状部材が、デファレンシャル装置のデフケースであり、
前記第2の環状部材が、デファレンシャル装置のデフリングギヤであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本願の請求項1に記載の発明によれば、レーザ照射部によってレーザを接合部に照射すること、及びフィラー供給部によってフィラーを供給することを開始して、レーザの出力が0から所定の設定値の半分までの間に設定される所定値を超えるとき、フィラー供給部によって供給されるフィラーが接合部に到達する第1のステップにより、フィラーが到達していない状態で、レーザが照射される接合部の空打ち領域が小さくなる。また、第1の環状部材と第2の環状部材が一周して、第1の環状部材と第2の環状部材の回転角度がフィラー到達回転角度位置を再び通過した後、出力最大回転角度位置より小さい出力減少開始回転角度位置に達するとき、レーザ照射部によって照射されるレーザの出力を徐々に減少させる第5のステップにより、レーザ溶接が完了した後、レーザが再び照射される接合部の再溶融領域が小さくなる。上述の空打ち領域と再溶融領域が小さくなることにより、接合部の割れを抑制することができる溶接構造が得られる。
【0022】
また、本願の請求項2に記載の発明によれば、第1のステップから第2のステップまでの間、及び第3のステップから、第4のステップの後、第1の環状部材と第2の環状部材の回転角度が出力最大回転角度位置に達するまでの間、第1の環状部材と第2の環状部材の回転角度が通過するフィラー到達回転角度位置と出力最大回転角度位置との間の中間角度領域において、レーザが2回照射されることにより、接合部に供給されるフィラーが十分な温度で溶融されて、中間角度領域における溶接構造の品質を向上させることができる。
【0023】
また、本願の請求項3に記載の発明によれば、第1のステップから第2のステップまでの間、設定値より小さい出力を有するレーザが接合部に照射されるフィラー到達回転角度位置と出力減少開始回転角度位置との間の領域において、第3のステップから第4のステップまでの間、設定値と等しい出力を有するレーザが接合部に照射されることにより、レーザ溶接が完了するため、接合部に供給されるフィラーが十分な温度で溶融されて、溶接構造の品質を向上させることができる。
【0024】
また、本願の請求項4に記載の発明によれば、デファレンシャル装置のデフケースとデフリングギヤの接合部をレーザ溶接するとき、接合部の空打ち領域と再溶融領域が小さくなることにより、接合部の割れを抑制することができる溶接構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係るレーザ溶接装置を示す概略図である。
【
図2】
図1の線II-IIから見た、レーザ溶接装置の概略断面図である。
【
図3】
図1のデフリングギヤとデフケースの回転角度に対するレーザの出力とフィラーの移動距離を示すグラフである。
【
図4】従来のレーザ溶接方法における、デフリングギヤとデフケースの回転角度に対するレーザの出力とフィラーの移動距離を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係るレーザ溶接装置を示す概略図である。
図1に示すように、本発明の実施形態に係るレーザ溶接装置100は、フロントエンジン・リヤドライブ車の後輪用デファレンシャル装置として構成されているデファレンシャル装置1のデフリングギヤ2とデフケース3とをレーザ溶接するものである。
【0028】
デファレンシャル装置1は、炭素鋼から形成される傘歯車として構成されているデフリングギヤ2と、鋳鉄から形成されるデフケース3とを備える。デフリングギヤ2は、略円筒状の内周側面21と、デフリングギヤ2の内周側面21の軸方向一端側に設けられた円環状の底面22とを備える。また、デフリングギヤ2の軸方向他端側には、外側に向かうにつれてデフリングギヤ2の軸方向一端側に傾斜する傘歯25が設けられている。一方、デフケース3は、デフリングギヤ2の内周側面21と嵌合するように、内周側面21と同等の大きさの外径を有する略円筒状の外周側面31と、外周側面31より内側に形成されている略球形の内部空間32とを備える。また、デフケース3の外周側面31の軸方向一端側には、デフリングギヤ2の底面22と同等の大きさの直径を有する略円形のフランジ33と、外周側面31より小さな直径を有する略円柱状の軸部34とが設けられている。
【0029】
デフケース3のフランジ33の径方向端部には、外側に向かうにつれてデフケース3の軸方向一端側に傾斜するケース側傾斜部35が設けられている。一方、デフリングギヤ2の底面22の径方向端部には、外側に向かうにつれてデフケース3のケース側傾斜部35と反対側に傾斜して、ケース側傾斜部35と同等の大きさの径方向の幅を有するギヤ側傾斜部23が設けられている。
【0030】
また、デフリングギヤ2の底面22には、ギヤ側傾斜部23より内側において、デフリングギヤ2の軸方向他端側に向けて円環状にくぼむ窪み24が設けられている。
【0031】
また、デフケース3には、外周側面31より内側において、内部空間32を通過するように外周側面31の軸と直交する方向に延びるシャフト穴41と、シャフト穴41を通して延びるように取り付けられ、デフケース3の径方向端部側にピン挿入孔43を有するピニオンシャフト42と、ピニオンシャフト42と交差するようにピン挿入孔43と繋がって延びて外部と連通する挿通穴44と、ピニオンシャフト42を固定するため、デフケース3の径方向端部側において、ピン挿入孔43を介して、ピニオンシャフト42を貫通するように挿通穴44を通して延びる中空のピニオンシャフト固定ピン60とが配設されている。このピニオンシャフト42には、内部空間32に収容される図示しないピニオンギヤが連結されている。
【0032】
デフリングギヤ2とデフケース3を接合するとき、デフリングギヤ2の内周側面21がデフケース3の外周側面31に圧入されて嵌合されることにより、嵌合部51が形成される。また、デフリングギヤ2の底面22がデフケース3のフランジ33と当接することにより、ギヤ側傾斜部23とケース側傾斜部35との間において、外側に向けて開口している溝を有して溶接される接合部52、及び嵌合部51と接合部52との間において、窪み24と外周側面31とフランジ33に囲まれて円環状に拡がる空間部53が形成される。
【0033】
また、デフリングギヤ2の内周側面21とデフケース3の外周側面31とが互いに圧入されて嵌合されているとき、デフリングギヤ2の傘歯25は、デフリングギヤ2とデフケース3の軸方向において、デフケース3のシャフト穴41とピニオンシャフト42に対してオーバーラップする。したがって、デフリングギヤ2の内周側面21とデフケース3の外周側面31とが互いに圧入されて嵌合される前に、ピニオンシャフト42はデフケース3のシャフト穴41に取り付けられて、またピニオンシャフト固定ピン60はピン挿入孔43を介して挿通穴44に取り付けられる。その後、デフリングギヤ2の内周側面21とデフケース3の外周側面31とが互いに圧入されて嵌合された状態で、デフリングギヤ2とデフケース3の接合部52に対してレーザ溶接が行われる。
【0034】
また、デフケース3には、一端が空間部53に対して開口して、他端が挿通穴44に対して開口する連通路54が設けられている。連通路54は、これに限定されるものではないが、直径1.5mmから2mmまでの円筒形状を有する。
【0035】
挿通穴44を通るように配設されているピニオンシャフト固定ピン60は、デフリングギヤ2とデフケース3の軸方向において、連通路54の他端と同じ位置に設けられて、且つ側面において、連通路54の他端に対向する連通路対向部61を有する。実施形態において、ピニオンシャフト固定ピン60は筒状に構成されている。この筒状のピニオンシャフト固定ピン60には、連通路対向部61において、複数の貫通孔63が全周に設けられている。
【0036】
以下に、上述のデファレンシャル装置1に対してレーザ溶接を行うレーザ溶接装置100について説明する。
【0037】
デフリングギヤ2とデフケース3とを溶接するとき、デフケース3の軸部34は、モータ101により回転駆動する固定具102に固定される。モータ101は、回転駆動が制御されるように、外部に配設されているコントローラ103と電気的に接続されている。
【0038】
デフケース3には、シャフト穴41に挿通されるピニオンシャフト42と、挿通穴44に挿入されるピニオンシャフト固定ピン60とが取り付けられている。このとき、ピニオンシャフト固定ピン60の連通路対向部61が連通路54の他端に対向するように、ピニオンシャフト固定ピン60は、デフリングギヤ2とデフケース3の軸方向において、適切に位置決めされている。
【0039】
固定具102に固定されているデフケース3の外周側面31には、デフリングギヤ2の内周側面21が圧入されて嵌合され、嵌合部51が形成される。このとき、デフリングギヤ2の底面22がデフケース3のフランジ33と当接することにより、ギヤ側傾斜部23とケース側傾斜部35との間において、外側に向けて開口している溝を有する接合部52が形成される。また、嵌合部51と接合部52との間において、デフリングギヤ2の窪み24とデフケース3の外周側面31とフランジ33とに囲まれて円環状に拡がる空間部53が形成される。
【0040】
接合部52より外側には、レーザが接合部52の溝に対して真直に入射できるように、レーザ照射部としてのレーザトーチ104が配設される。このレーザトーチ104は、接合部52に対するレーザの照射が制御されるように、コントローラ103と電気的に接続されている。また、レーザトーチ104の近傍には、接合部52の溝に対してフィラーを供給できるように、フィラー供給部105が配置される。このフィラー供給部105は、接合部52に対するフィラーの供給が制御されるように、コントローラ103と電気的に接続されている。
【0041】
上述のように配置されているデフリングギヤ2とデフケース3とを溶接するとき、コントローラ103から送信される電気的な信号に基づいて、モータ101が回転駆動する。このとき、軸部34を介して固定具102に固定されているデフケース3と、嵌合部51においてデフケース3と嵌合しているデフリングギヤ2は、モータ101により回転する固定具102と共に回転する。
【0042】
回転するデフリングギヤ2とデフケース3の接合部52には、コントローラ103から送信される電気的な信号に基づいて、フィラー供給部105からフィラーが供給されると共に、レーザトーチ104からレーザが照射される。レーザトーチ104によって照射されたレーザにより、フィラーが溶融して、接合部52において、溶接ビードを形成することにより、デフリングギヤ2とデフケース3とが溶接される。デフリングギヤ2とデフケース3とが回転することにより、レーザが照射される接合部52の回転角度位置は円周方向に移動して、デフリングギヤ2とデフケース3の全周にわたってレーザ溶接が行われる。
【0043】
図2は、
図1の線II-IIから見た、レーザ溶接装置100の概略断面図である。実施形態において、デフリングギヤ2とデフケース3は、これに限定されるものではないが、初期状態として、挿通穴44に挿入されているピニオンシャフト固定ピン60が、デフリングギヤ2とデフケース3の径方向にレーザトーチ104と対向する回転角度位置で配置されている。この回転角度位置は、デフリングギヤ2とデフケース3が回転を開始するときの基準位置θ0として定められる。
【0044】
上述の初期状態から、コントローラ103が電気的な信号をモータ101、レーザトーチ104、及びフィラー供給部105に向けて送信することにより、モータ101が回転駆動を開始すると共に、レーザトーチ104がレーザを照射することを開始して、且つフィラー供給部105がフィラーを供給することを開始する。モータ101が回転駆動を開始することにより、デフリングギヤ2とデフケース3は、デフリングギヤ2とデフケース3の軸周りにおいて、
図2における反時計方向に回転を開始する。このとき、レーザトーチ104によってレーザが照射される接合部52の回転角度位置は、
図2における時計方向に推移する。
【0045】
図3は、
図1のデフリングギヤ2とデフケース3の回転角度に対するレーザの出力とフィラーの移動距離を示すグラフである。
図3のグラフの横軸は、基準位置θ0を0°として定めて、基準位置θ0に対するデフリングギヤ2とデフケース3の回転角度位置を示す。特に、基準位置θ0から右側の領域は、レーザトーチ104によってレーザが照射される接合部52の回転角度位置が推移する時計方向を正として、基準位置θ0から見て正の方向の回転角度位置を示す。一方、基準位置θ0から左側の領域は、正の方向と反対の方向を負の方向として、基準位置θ0から見て負の方向の回転角度位置を示すと共に、デフリングギヤ2とデフケース3の回転が一周するとき、基準位置θ0に再び達するより前の回転角度位置を示す。
図3のグラフの縦軸は、レーザトーチ104によって照射されるレーザの出力、及びフィラー供給部105によって供給されるフィラーの移動距離を示す。
【0046】
図3のグラフにおいて、実線AL1と一点鎖線AL2は、デフリングギヤ2とデフケース3の回転角度に対する、レーザトーチ104によって照射されるレーザの出力の大きさを示す。特に、一点鎖線AL2は、デフリングギヤ2とデフケース3の回転が一周するときのレーザの出力の大きさを示す。実線AL1により示すように、レーザトーチ104は、デフリングギヤ2とデフケース3の回転が基準位置θ0から開始すると同時に、レーザの照射を開始する。その後、レーザトーチ104は、レーザの出力を徐々に増加して、デフリングギヤ2とデフケース3の回転が所定の出力最大回転角度位置θMに達すると、所定の設定値ADに達する。一点鎖線AL2により示すように、デフリングギヤ2とデフケース3の回転が一周して、出力減少開始回転角度位置θDに達すると、レーザトーチ104はレーザの出力を徐々に減少する。その後、デフリングギヤ2とデフケース3の回転が所定のレーザ停止回転角度位置θFに達すると、レーザトーチ104はレーザの出力を完全に停止する。
【0047】
本発明のレーザ溶接方法において、出力減少開始回転角度位置θDは、基準位置θ0より大きく、且つ出力最大回転角度位置θMより小さい角度に設定される。
【0048】
実施形態において、出力最大回転角度位置θMは、これに限定されるものではないが、0°として定められている基準位置θ0に対して約13.4°に設定される。また、出力減少開始回転角度位置θDは、これに限定されるものではないが、0°として定められている基準位置θ0に対して約8.0°に設定される。さらに、レーザ停止回転角度位置θFは、これに限定されるものではないが、0°として定められている基準位置θ0に対して約21.4°に設定される。
【0049】
また、
図3のグラフにおいて、実線PL1と一点鎖線PL2は、デフリングギヤ2とデフケース3の回転角度に対する、フィラー供給部105によって供給されるフィラーの移動距離を示す。特に、一点鎖線PL2は、デフリングギヤ2とデフケース3の回転が一周するときのフィラーの移動距離を示す。実線PL1により示すように、フィラー供給部105は、デフリングギヤ2とデフケース3の回転が基準位置θ0から開始して、レーザトーチ104がレーザの照射を開始すると同時に、フィラーの供給を開始する。その後、フィラーは、デフリングギヤ2とデフケース3の接合部52に向けて徐々に移動して、デフリングギヤ2とデフケース3の回転がフィラー到達回転角度位置θRに達すると、フィラーがデフリングギヤ2とデフケース3の接合部52に到達したことを示す到達位置PDに達する。一点鎖線PL2により示すように、デフリングギヤ2とデフケース3の回転が一周して、フィラー到達回転角度位置θRに再び達すると、フィラー供給部105はフィラーの供給を停止する。
【0050】
実施形態において、フィラー到達回転角度位置θRは、これに限定されるものではないが、0°として定められている基準位置θ0に対して約5.4°に設定される。
【0051】
以下に、レーザ溶接装置100による、デフリングギヤ2とデフケース3のレーザ溶接方法についてさらに詳しく説明する。
【0052】
本発明のレーザ溶接方法において、上述のように、デフリングギヤ2とデフケース3は、これに限定されるものではないが、初期状態として、挿通穴44に挿入されているピニオンシャフト固定ピン60が、デフリングギヤ2とデフケース3の径方向にレーザトーチ104と対向する回転方向の角度、すなわち基準位置θ0で配置される。
【0053】
レーザ溶接方法の第1のステップにおいて、上述の初期状態から、レーザ溶接装置100のコントローラ103が電気的な信号をモータ101、レーザトーチ104、及びフィラー供給部105に向けて送信することにより、モータ101が回転駆動を開始すると共に、レーザトーチ104はレーザを照射することを開始して、且つフィラー供給部105はフィラーを供給することを開始する。モータ101が回転駆動を開始することにより、デフリングギヤ2とデフケース3は、デフリングギヤ2とデフケース3の軸周りにおいて、
図2における反時計方向に基準位置θ0から回転を開始する。また、
図3に示すように、デフリングギヤ2とデフケース3が基準位置θ0から回転を開始するとき、レーザトーチ104によって照射されるレーザの出力は設定値ADに向けて増加を開始して、且つフィラー供給部105によって供給されるフィラーは到達位置PDに向けて移動を開始する。
【0054】
次に、徐々に増加するレーザの出力が所定値AHを超えるとき、デフリングギヤ2とデフケース3の回転角度はフィラー到達回転角度位置θRに達する。また、デフリングギヤ2とデフケース3の回転角度がフィラー到達回転角度位置θRに達するとき、フィラー供給部105によって供給されるフィラーは、到達位置PDに達する、すなわちデフリングギヤ2とデフケース3の接合部52に到達する。上述の所定値AHは、レーザの出力の設定値ADの半分よりも小さい値に設定されている。特に、実施形態において、所定値AHは、これに限定されるものではないが、設定値ADの3分の1から半分までの値に設定されている。
【0055】
次に、レーザ溶接方法の第2のステップにおいて、デフリングギヤ2とデフケース3の回転角度が出力最大回転角度位置θMに達するとき、徐々に増加するレーザの出力は設定値ADに達する。その後、コントローラ103は、照射されるレーザの出力が設定値ADを維持するように、レーザトーチ104に向けて送信する電気的な信号を変化させる。これにより、レーザトーチ104によって照射されるレーザの出力は設定値ADを維持する。
【0056】
次に、レーザ溶接方法の第3のステップにおいて、デフリングギヤ2とデフケース3の回転が一周して、デフリングギヤ2とデフケース3の回転角度がフィラー到達回転角度位置θRに再び達するとき、コントローラ103は、フィラーを供給することを停止するように、フィラー供給部105に向けて送信する電気的な信号を変化させる。これにより、フィラー供給部105はフィラーを供給することを停止する。
【0057】
レーザ溶接方法の第4のステップにおいて、デフリングギヤ2とデフケース3の回転が一周して、デフリングギヤ2とデフケース3の回転角度が、フィラー到達回転角度位置θRより大きく、且つ出力最大回転角度位置θMより小さい出力減少開始回転角度位置θDに達するとき、コントローラ103は、照射されるレーザの出力が徐々に減少するように、レーザトーチ104に向けて送信する電気的な信号を変化させる。これにより、レーザトーチ104によって照射されるレーザの出力は徐々に減少する。
【0058】
最後に、レーザ溶接方法の第5のステップにおいて、デフリングギヤ2とデフケース3の回転角度がレーザ停止回転角度位置θFに達するとき、レーザトーチ104はレーザの出力を完全に停止する。
【0059】
図3に示すように、第1のステップにおいて、すなわちデフリングギヤ2とデフケース3の回転角度が基準位置θ0からフィラー到達回転角度位置θRに達するまでの間、レーザトーチ104によって出力されるレーザが接合部52に照射される一方、フィラー供給部105によって供給されるフィラーがデフリングギヤ2とデフケース3の接合部52に到達していないため、フィラーが到達していない状態で、レーザが照射される接合部52の空打ち領域NAが生じる。
【0060】
また、第4のステップから第5のステップまでの間、すなわちデフリングギヤ2とデフケース3の回転が一周して、デフリングギヤ2とデフケース3の回転角度が出力減少開始回転角度位置θDを通過して出力最大回転角度位置θMより大きいレーザ停止回転角度位置θFに達するまでの間、フィラー供給部105がフィラーの供給を停止した後、レーザトーチ104によって出力されるレーザが接合部52に照射され続けるため、レーザ溶接が完了した後、レーザが再び照射される接合部52の再溶融領域RAが生じる。
【0061】
さらに、第1のステップから第2のステップまでの間、及び第3のステップから、第4のステップの後、デフリングギヤ2とデフケース3の回転角度が出力最大回転角度位置θMに達するまでの間、フィラー到達回転角度位置θRと出力最大回転角度位置θMとの間には、中間角度領域MAが設けられる。この中間角度領域MAにおいて、レーザトーチ104によって出力されるレーザは接合部52に2回照射される。
【0062】
本発明のレーザ溶接方法によれば、レーザトーチ104によってレーザを照射すること、及びフィラー供給部105によってフィラーを供給することを開始する第1のステップにより、フィラーが到達していない状態で、レーザが照射される接合部52の空打ち領域NAは、
図4に示す従来のレーザ溶接方法により生じる空打ち領域NA0より小さくなる。
【0063】
また、デフリングギヤ2とデフケース3の回転が一周して、デフリングギヤ2とデフケース3の回転角度が、フィラー到達回転角度位置θRより大きく、且つ出力最大回転角度位置θMより小さい出力減少開始回転角度位置θDに達するとき、レーザトーチ104によって照射されるレーザの出力を徐々に減少させる第4のステップにより、レーザ溶接が完了した後、レーザが再び照射される接合部52の再溶融領域RAは、
図4に示す従来のレーザ溶接方法により生じる再溶融領域RA0より小さくなる。
【0064】
上述のように、空打ち領域NAと再溶融領域RAが小さくなることにより、接合部52の割れを抑制することができる溶接構造が得られる。
【0065】
また、デフリングギヤ2とデフケース3の回転角度が通過するフィラー到達回転角度位置θRと出力最大回転角度位置θMとの間の中間角度領域MAにおいて、レーザが2回照射されることにより、接合部52に供給されるフィラーが十分な温度で溶融されて、中間角度領域における溶接構造の品質を向上させることができる。
【0066】
また、本願の請求項3に記載の発明によれば、第1のステップから第2のステップまでの間、設定値ADより小さい出力を有するレーザが接合部52に照射されるフィラー到達回転角度位置θRと出力減少開始回転角度位置θDとの間の領域において、第3のステップから第4のステップまでの間、設定値ADと等しい出力を有するレーザが接合部52に照射されることにより、レーザ溶接が完了するため、接合部52に供給されるフィラーが十分な温度で溶融されて、溶接構造の品質を向上させることができる。
【0067】
また、デファレンシャル装置1のデフリングギヤ2とデフケース3の接合部52をレーザ溶接するとき、接合部52の空打ち領域NAと再溶融領域RAを小さくすることにより、接合部52の割れを抑制することができる溶接構造が得られる。
【0068】
本実施形態では、レーザ溶接によって溶接されるデフリングギヤ2とデフケース3を有するデファレンシャル装置1は、フロントエンジン・リヤドライブ車の後輪用デファレンシャル装置として構成されているが、例えばフロントエンジン・フロントドライブ車の前輪用デファレンシャル装置のデフリングギヤとデフケースをレーザ溶接するようにしてもよい。
【0069】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【0070】
以上のように、本発明によれば、接合部の空打ち領域と再溶融領域を小さくすることにより、接合部の割れを抑制することができる溶接構造が得られることから、デファレンシャル装置を搭載した車両の製造技術分野において、好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0071】
2 デフリングギヤ(第2の環状部材)
3 デフケース(第1の環状部材)
52 接合部
101 モータ(回転駆動部)
103 コントローラ
104 レーザトーチ(レーザ照射部)
105 フィラー供給部
θ0 基準位置
θD 出力減少開始回転角度位置
θM 出力最大回転角度位置
θR フィラー到達回転角度位置
θF レーザ停止回転角度位置
AD 設定値
AH 所定値