(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165242
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】高負荷伝動用変速ベルト
(51)【国際特許分類】
F16G 5/00 20060101AFI20221024BHJP
F16G 5/20 20060101ALI20221024BHJP
F16G 5/06 20060101ALI20221024BHJP
D02G 3/44 20060101ALI20221024BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20221024BHJP
D06M 15/693 20060101ALI20221024BHJP
D06M 101/34 20060101ALN20221024BHJP
【FI】
F16G5/00 F
F16G5/20 B
F16G5/06 C
F16G5/06 D
F16G5/06 A
D02G3/44
D02G3/04
D06M15/693
D06M101:34
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070516
(22)【出願日】2021-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳 京太郎
(72)【発明者】
【氏名】中平 義人
【テーマコード(参考)】
4L033
4L036
【Fターム(参考)】
4L033AA02
4L033AA08
4L033AB05
4L033AC05
4L033CA68
4L036MA04
4L036MA05
4L036MA06
4L036MA39
4L036PA21
(57)【要約】
【課題】高負荷伝動用変速ベルトにおいて、伝動能力及び耐久性を維持しながら変速プーリから抜ける際にコグ層及びコグ先の噛みをなくし、異音を低減する。
【解決手段】高負荷伝動用変速ベルト1は、ベルト長手方向に延びるコード層3と、このコード層3を覆う接着ゴム層5と、この接着ゴム層5の上部の伸長ゴム層7と、この伸長ゴム層7の上部の背面帆布層9と、接着ゴム層5の下部の圧縮ゴム層11とを備え、圧縮ゴム層11の厚みが5mm以上9mm以下であり、圧縮ゴム層11のすぐ下に底帆布15が設けられているか、又は、圧縮ゴム層11の下に表面が底帆布15で覆われた高さが0mmよりも高く4.5mm以下のコグ層13が設けられており、コグ層13の高さが圧縮ゴム層11の厚みの0%以上54.2%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト長手方向に延びるコード層と、該コード層を覆う接着ゴム層と、該接着ゴム層の上部の伸長ゴム層と、該伸長ゴム層の上部の背面帆布層と、上記接着ゴム層の下部の圧縮ゴム層とを備えたローエッジの高負荷伝動用変速ベルトであって、
上記圧縮ゴム層の厚みが5mm以上9mm以下であり、
上記圧縮ゴム層のすぐ下に底帆布が設けられているか、又は、上記圧縮ゴム層の下に表面が底帆布で覆われた高さが0mmよりも高く4.5mm以下のコグ層が設けられており、該コグ層の高さが上記圧縮ゴム層の厚みの0%以上54.2%以下である
ことを特徴とする高負荷伝動用変速ベルト。
【請求項2】
請求項1に記載の高負荷伝動用変速ベルトであって、
上記コグ層の高さがコグピッチの0%よりも大きく30%以下である
ことを特徴とする高負荷伝動用変速ベルト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高負荷伝動用変速ベルトであって、
18PS以上の力を伝達可能に構成されている
ことを特徴とする高負荷伝動用変速ベルト。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の高負荷伝動用変速ベルトであって、
少なくとも上記圧縮ゴム層及び上記コグ層は、短繊維を含み、
上記短繊維の平均繊維径が20μm以下であり、繊維長が1.0mm以上3.0mm以下で幅方向に配向されたゴム構成である
ことを特徴とする高負荷伝動用変速ベルト。
【請求項5】
請求項4に記載の高負荷伝動用変速ベルトであって、
上記短繊維はアラミド繊維を含む
ことを特徴とする高負荷伝動用変速ベルト。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の高負荷伝動用変速ベルトであって、
伸長ゴム層、圧縮ゴム層及びコグ層の常温ゴム硬度が、JIS K 6253-3 タイプAデュロメータでA82以上A96以下である
ことを特徴とする高負荷伝動用変速ベルト。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載の高負荷伝動用変速ベルトであって、
上記圧縮ゴム層の引張弾性試験での列理方向の弾性率が、常温で20MPa以上かつ260MPa以下である
ことを特徴とする高負荷伝動用変速ベルト。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1つに記載の高負荷伝動用変速ベルトであって、
上記コード層は、ポリエステル繊維又はアラミド繊維とカーボン繊維とで構成されている
ことを特徴とする高負荷伝動用変速ベルト。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1つに記載の高負荷伝動用変速ベルトであって、
上記底帆布は、ナイロンウーリー帆布又は織り角度90±7°又は120°の綿又は化繊混紡の帆布であり、表面に耐熱ゴムを塗布した帆布で構成されている
ことを特徴とする高負荷伝動用変速ベルト。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1つに記載の高負荷伝動用変速ベルトであって、
上記圧縮ゴム層の一部がスダレ帆布で構成されている
ことを特徴とする高負荷伝動用変速ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば大型の農業機械に使用される、ローエッジの高負荷伝動用変速ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海外の大型農業機械変速機構に用いられる高負荷伝動用変速ベルトは、帆布で外周が包まれたラップドベルト仕様と側面に帆布のないコグ付きのローエッジコグド仕様とが採用されている。コグのないプレーンタイプのローエッジベルトは、底部クラックが早期に発生することから採用されていなかった。一方で、コグ付きにすると、屈曲性がよくなるというメリットもある。
【0003】
そこで、少なくともベルト下面に等間隔又は不等間隔の溝を有するコグタイプVベルトが知られている(例えば、特許文献1参照)。このコグタイプVベルトでは、騒音発生問題に対し、ベルト引き抜き時の滑りをよくするためにコグ部の帆布層を厚くするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のコグタイプVベルトのようにコグ部の帆布層を厚くすることは、自動車用ベルトなどの比較的コグ形状の小さい軽負荷の用途では有効ではあるが、高負荷伝動用変速ベルトでは、ベルト自体が大きい上に、コグ深さ、コグピッチが大きく、接触面積が広いため、帆布積層を大量にしなければ効果が得られず、特許文献1のように2~5枚帆布を積層したのみだけでは、コグ層の接触による異音の発生を抑えることができない。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、伝動能力及び耐久性を維持しながら変速プーリから抜ける際にコグ層及びコグ先の噛みをなくし、異音を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明では、伝動能力及び耐久性を考慮しながら、高負荷伝動用変速ベルトのコグ層の高さを従来よりも低くした。
【0008】
具体的には、第1の発明では、ベルト長手方向に延びるコード層と、該コード層を覆う接着ゴム層と、該接着ゴム層の上部の伸長ゴム層と、該伸長ゴム層の上部の背面帆布層と、上記接着ゴム層の下部の圧縮ゴム層とを備えた高負荷伝動用変速ベルトであって、
上記圧縮ゴム層の厚みが5mm以上9mm以下であり、
上記圧縮ゴム層のすぐ下に底帆布が設けられているか、又は、上記圧縮ゴム層の下に表面が底帆布で覆われた高さが0mmよりも高く4.5mm以下のコグ層が設けられており、該コグ層の高さが上記圧縮ゴム層の厚みの0%以上54.2%以下である。
【0009】
この場合、例えば、断面V字状のプーリ溝の角度が26°でプーリ径が300mm以上の大径のプーリであると、高負荷伝動用変速ベルトの長手方向から見た圧縮層のV字状側面の角度が26°よりも大きくなってプーリ内面に接触するが、ベルト長手方向のコグ間に隙間があって圧縮力がかかっても角度が変わらないコグ層は26°のままでプーリ内面に接触しないため、コグ層の効果がなくなり、高いコグ層を設ける必要がないことがわかる。変速時のコグ層の噛みによる異音やばたつきの現象は、コグ層の高さが低くなると改善されるが、高負荷の場合には、伝動性能の面から圧縮ゴム層及びコグ層は、ある程度の高さが必要となる。コグ層の高さを圧縮ゴム層の厚みの54.2%以下とすることで、伝動能力を確保しながら、異音やばたつきの現象が抑えられる。コグ層が0mmの場合は、プレーンタイプのもので製造が容易となるメリットもある。
【0010】
第2の発明では、第1の発明において、
上記コグ層の高さがコグピッチの0%よりも大きく30%以下である。
【0011】
上記の構成によると、コグ層の高さを適切な長さにされたコグピッチの30%以下とすることで、伝動に寄与しないコグ層の高さを抑えて変速時のプーリに対する引っかかりを低減することができる。なお、コグピッチは広くなりすぎると、コグ層の有効性が低下する。
【0012】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、
18PS以上の力を伝達可能に構成されている。
【0013】
18PS、言い換えれば13.24kW以上の力を伝達する高負荷伝動用変速ベルトは、自動車用ベルトなどに比べてベルト自体が大きく、コグ深さ、コグピッチが大きく、接触面積が広い上に、コグ層の接触による異音が発生しやすいが、本発明では、伝動に寄与しないコグ層の高さを低くして変速時のプーリに対する引っかかりを低減することができる。
【0014】
第4の発明では、第1から第3のいずれか1つの発明において、
少なくとも上記圧縮ゴム層及び上記コグ層は、短繊維を含み、
上記短繊維の平均繊維径が9μm以上かつ20μm以下であり、繊維長が1.0mm以上3.0mm以下で幅方向に配向されたゴム構成である。
【0015】
上記の構成によると、短繊維を混入するのはゴムの引張弾性率を高くするためであるが、短繊維の平均繊維径が9μm以上かつ20μm以下であると、屈曲耐疲労性に優れる。また、繊維長が1.0mmよりも短いと圧縮ゴム層(コグ層のある場合にはコグ層も含む)の弾性率を確保しがたくなる。逆に3.0mmよりも長いと、ロールによるゴムシート出しで、配向性(列理方向への並び)が悪くなり、また、短繊維同士が絡みやすくなり、玉状になりやすくなる。例えば、配合時には2.0~3.5mm度の長さのフィラメントを混合するが、ゴム練り時に一部が切断され長さが適度に短くなって1.5~3.0mmのものが多く分布するようになり、引張り弾性アップに有効になる。
【0016】
第5の発明では、第4の発明において、
上記短繊維はアラミド繊維を含む。
【0017】
上記の構成によると、高強力、耐熱性、寸法安定性などに優れている。
【0018】
第6の発明では、第1から第5のいずれか1つの発明において、
伸長ゴム層、圧縮ゴム層及びコグ層の常温ゴム硬度が、JIS K 6253-3 タイプAデュロメータでA82以上A96以下である。
【0019】
上記の構成によると、JIS K 6253-3 タイプAデュロメータで計測したときのゴム硬度が、A82以上A96以下であれば、ゴム硬度が低いベルトに比べて伝動能力が上がり、側方からの力(推力)が加わっても張力による落ち込みが軽減されるため、耐久性が向上し、さらにコグ層の必要高さが低下する。硬さがA82よりも柔らかいと推力が加わったときに変形が大きくなり、コグ層の接触が大きくなって異音が発生しやすくなる。硬さがA96よりも硬いと、高負荷伝動用変速ベルトとして硬すぎて望ましくない。
【0020】
第7の発明では、第1から第6のいずれか1つの発明において、
上記圧縮ゴム層の引張弾性試験での列理方向の弾性率が、常温で20MPa以上かつ260MPa以下である。
【0021】
上記の構成によると、適切な弾性率の圧縮ゴム層を有することで、本発明の作用効果が顕著に発揮される。
【0022】
第8の発明では、第1から第7のいずれか1つの発明において、
上記コード層は、ポリエステル繊維又はアラミド繊維とカーボン繊維とで構成されている。
【0023】
上記の構成によると、剛性及び柔軟性の高いカーボン繊維を含むので、軽量化及び低騒音の効果が得られる。
【0024】
第9の発明では、第1から第8のいずれか1つの発明において、
上記底帆布は、ナイロンウーリー帆布又は織り角度90±7°又は120°の綿又は化繊混紡の帆布であり、表面に耐熱ゴムを塗布した帆布で構成されている。
【0025】
上記の構成によると、耐熱性及び耐久性が向上する。
【0026】
第10の発明では、第1から第9のいずれか1つの発明において、
上記圧縮ゴム層の一部がスダレ帆布で構成されている。
【0027】
上記の構成によると、圧縮層にスダレ帆布よりなる補強部を設けることで、コグ層の高さを低くしてもさらに伝達能力低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、伝動能力を維持しながら変速プーリから抜ける際にコグ層及びコグ先の噛みをなくし、異音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】真っ直ぐな高負荷伝動用変速ベルトを示し、(a)がIa-Ia線断面図で、(b)が正面図である。
【
図2】プーリにかけたときの高負荷伝動用変速ベルトを示し、(a)がIIa-IIa線断面図で、(b)が正面図である。
【
図3】圧縮ゴム層のプーリ外径に対するV角度の変化を示す図である。
【
図4】コグ層のプーリ内面に対する接触状態を示す図である。
【
図5】プーリV溝角度が26°の場合の接触状態の違いを示す図である。
【
図6】ベルトV角度が27°の場合のコグ層の有効接触高さを示す図である。
【
図7】圧縮弾性率評価試験機の概要を示す斜視図である。
【
図9】台上評価条件に関し、(a)が台上試験機を示す概要図で、(b)が試験条件を示す図である。
【
図10】各仕様における材料の違いを示す図である。
【
図11】コグ層高さを変化させた場合の実施例1~3及び比較例1、2にかかる試験結果を示す図である。
【
図12】材料構成を変化させた場合の実施例4、5及び比較例3~5にかかる試験結果を示す図である。
【
図13】ベルトV角度を変化させた場合の実施例6及び比較例1、4、6にかかる試験結果を示す図である。
【
図14】補強スダレ帆布の有無、厚さを比較した実験の結果を示す図である。
【
図15】補強スダレ帆布の有無と伝動能力比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0031】
図1及び
図2は、本発明の実施形態の高負荷伝動用変速ベルト1を示し、この高負荷伝動用変速ベルト1は、例えば、比較的低速かつ18PS(13.24kW)以上の力を伝達可能な、プーリ径が比較的大きな農業機械又は一般作業機械の無段変速機構などで用いられる。
【0032】
高負荷伝動用変速ベルト1は、ベルト長手方向に延びるコード層3と、このコード層3を覆う接着ゴム層5と、この接着ゴム層5の上部の伸長ゴム層7と、この伸長ゴム層7の上部の背面帆布層9と、接着ゴム層5の下部の圧縮ゴム層11とを備えている。コード層3と接着ゴム層5とが張力帯層4を構成している。
【0033】
コード層3は、例えば、ポリエステル繊維又はアラミド繊維とカーボン繊維とで構成されている。コード層3は、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維で構成されていてもよい。コード層3は、例えば、ベルト幅方向に所定ピッチの螺旋を形成するように埋設され、その太さが5000~10000dtexであるパラ系アラミド繊維の撚り糸にレゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液に浸漬した後に乾燥させる接着処理を施した所定外径d(例えば、d=0.8~1.5mm)ものからなる。比較的弾性率の高いポリエステル繊維やアラミド繊維といった繊維だけでなく、カーボン繊維の撚糸コードを使用することで、耐屈曲疲労性が改善され、走行中のベルト伸びが小さくなる。
【0034】
接着ゴム層5は、ゴム組成物である、クロロプレンゴム(CR)、エチレン・プロピレン・ジエン・ターポリマーゴム(EPDM)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴム(ACSM)、水素添加NBR(H-NBR)等よりなり、クロロプレンゴムが好適に用いられる。硬さは例えば、JIS K 6253-3 タイプAデュロメータで、A68以上A70以下である。
【0035】
伸長ゴム層7は、短繊維を含み、短繊維の平均繊維径が9μm以上かつ20μm以下であり、繊維長が1.0mm以上3.0mm以下で幅方向に配向されたゴム構成である。短繊維を混入するのはゴムの引張弾性率を高くするためであるが、短繊維の平均繊維径が9μm以上かつ20μm以下であると、屈曲耐疲労性に優れる。また、繊維状が1.0mmよりも短いと圧縮ゴム層11(コグ層のある場合にはコグ層も含む)の弾性率を確保しがたくなる。逆に3.0mmよりも長いと、ロールによるゴムシート出しで、配向性(列理方向への並び)が悪くなり、また、短繊維同士が絡みやすくなり、玉状になりやすくなる。例えば、配合時には2.0~3.5mm度の長さのフィラメントを混合するが、ゴム練り時に一部切れ、1.5~3.0mm多く分布し引張り弾性アップに有効になる。
【0036】
伸長ゴム層7の常温ゴム硬度は、JIS K 6253-3 タイプAデュロメータでA82以上A96以下である。硬さがA82よりも小さいと、柔らかすぎて側方からの力(推力)によって変形が大きくなり、コグ層13の接触が大きく異音が発生しやすくなる。硬さをA82以上とすることで、側方からの力(推力)がかかっても変形が少なくなり、コグ層の必要高さが低くなる。一方で、A96よりも硬くすると、高負荷伝動用変速ベルト1としては硬すぎる。
【0037】
背面帆布層9は、ナイロン繊維、綿、それらの混合繊維、綿とポリエステル繊維との混合繊維、アラミド繊維等からなる伸性を有する織布にゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理を施したものからなる。この背面帆布層9により、伸長ゴム層7の表面部分でのクラックの発生が抑制される。
【0038】
圧縮ゴム層11の厚みhbcは、5mm以上9mm以下の、高負荷伝動用変速ベルト1として適切な長さに設定されている。圧縮ゴム層11は、短繊維を含み、短繊維の平均繊維径が9μm以上かつ20μm以下であり、繊維長が1.0mm以上3.0mm以下で幅方向に配向されたゴム構成である。圧縮ゴム層11の常温ゴム硬度は、JIS K 6253-3 タイプAデュロメータでA82以上A96以下である。硬さがA82よりも小さいと、柔らかすぎて側方からの力(推力)によって変形が大きくなり、コグ層13の接触が大きく異音が発生しやすくなる。硬さをA82以上とすることで、側方からの力(推力)がかかっても変形が少なくなり、コグ層の必要高さが低くなる。硬さをA96よりも硬くすると、高負荷伝動用変速ベルト1としては硬すぎる。
【0039】
圧縮ゴム層11は、引張弾性試験での列理方向の弾性率が、常温で20MPa以上かつ260MPa以下である。適切な弾性率の圧縮ゴム層を有することで、コグ層13の高
さを従来よりも低くしやすくなる。
【0040】
圧縮ゴム層11の下に表面が底帆布15で覆われた高さが0mmよりも高く4.5mm以下のコグ層13が設けられており、コグ層13の高さが圧縮ゴム層11の厚みの0%以上54.2%以下である。具体的には、例えば、圧縮ゴム層11の厚み8.3mmに対してコグ高さが4.5mmである。コグ層13がある場合には、高負荷伝動用変速ベルト1は、いわゆるローエッジコグドVベルトである。
【0041】
伸長ゴム層7と圧縮ゴム層11との間に圧縮ゴム層補強部(図示せず)が設けられていてもよい。この圧縮ゴム層補強部14は、例えば、同一方向に並べた経糸がさばけないようにその長手方向に緯糸を適宜の間隔をあけて配置した、いわゆるスダレ帆布で構成されている。スダレ帆布は、例えば、ナイロン940dtexフィラメントを束ね36回/10cm、径が0.56mmの糸をスダレ状に織り、RFL液によるディップ処理されたものよりなる。このような圧縮ゴム層補強部14により、伝達能力が向上するので、さらにコグ層13の高さを低くしやすくなる。
【0042】
コグ層13は、短繊維がベルト幅方向に配向するように混合分散されたゴム組成物で形成され、このゴム組成物のゴム成分は、クロロプレンゴム(CR)、エチレン・プロピレン・ジエン・ターポリマーゴム(EPDM)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴム(ACSM)、水素添加NBR(H-NBR)等であり、クロロプレンゴムが好適に用いられる。短繊維は、短繊維の平均繊維径が9μm以上かつ20μm以下であり、繊維長が1.0mm以上3.0mm以下で引張弾性率40GPa以上の、例えば高強力ポリビニルアルコール(PVA)繊維、パラ系アラミド繊維、芳香族ポリエステル繊維、ヘテロ環含有芳香族繊維等であり、ゴム成分100質量部に対して15~25質量部が混合されている。これらのうち、パラ系アラミド繊維(例えば、デュポン社製 商品名:ケブラー29、ケブラー119,帝人社製 商品名:テクノーラ)は、ゴム成分中に短繊維を混練したときの耐切断性が優れ(混練中に繊維が切断されにくい)、少量で弾性率を高めることができるという観点から好適に用いられる。コグ層13は、ベルト長手方向に沿って一定ピッチP(例えば、P=6mm)で配設されたコグ部13aを有し、相互に隣接したコグ部13a間にベルト幅方向に延びるコグ溝13bが構成されている。コグ部13aの縦断面外形は、コグ高さhcが0mmよりも高く4.5mm以下(0<hc≦4.5)の略正弦波形に形成されており、コグ溝13bの底が外向きに凹である円弧状に形成されている。
【0043】
コグ層13の高さhcは、コグピッチPの0%よりも大きく30%以下である(0<hc/P≦0.3)。コグピッチPは、広くなりすぎると、コグ層の有効性が低下する。コグピッチPは例えば19mmである。コグピッチPは、9mmや24mmでもよい。コグ層13の高さhcを適切な長さにされたコグピッチPの30%以下とすることで、伝動に寄与しないコグ層13の高さを抑えて変速時のVプーリ20に対する引っかかりを低減することができる。
【0044】
コグ層13の常温ゴム硬度は、JIS K 6253-3 タイプAデュロメータでA82以上A96以下である。硬さがA82よりも小さいと、柔らかすぎて側方からの力(推力)によって変形が大きくなり、コグ層13の接触が大きく異音が発生しやすくなる。硬さをA82以上とすることで、側方からの力(推力)がかかっても変形が少なくなり、コグ層の必要高さが低くなる。硬さをA96よりも硬くすると、高負荷伝動用変速ベルト1としては硬すぎる。
【0045】
底帆布15は、ナイロンウーリー帆布又は織り角度90±7°又は120°の綿又は化繊混紡の帆布であり、表面に耐熱ゴムを塗布した帆布で構成されている。この底帆布15により、コグ層13の底部分でのクラックの発生が抑制される。
【0046】
以上説明したように、18PS、言い換えれば13.24kW以上の力を伝達する高負荷伝動用変速ベルト1は、自動車用ベルトなどに比べてベルト自体が大きく、コグ深さ、コグピッチPが大きくて接触面積が大きく、コグ層13の接触による異音が発生しやすいが、本実施形態では、伝動に寄与しないコグ層13の高さを抑えて変速時のプーリに対する引っかかりを低減することができる。
【0047】
したがって、本実施形態に係る高負荷伝動用変速ベルト1によると、伝動能力を維持しながら変速プーリから抜ける際にコグ層13及びコグ先の噛みをなくし、異音を低減することができる。
【0048】
-接触部位の計算式-
次に高負荷伝動用変速ベルト1のVプーリ20にかけたときの接触部位の計算式について説明する。
【0049】
まず接触部位の角度変化について、計算式を用いて説明する。高負荷伝動用変速ベルト1を変速プーリなどのVプーリ20にかけたとき、コード層3(心線のある部位)がニュートラルラインで、コード層3よりも下側は圧縮で、上側は引張の力がかかる。
【0050】
コード層3よりも下側の体積(圧縮ゴム層11及びコグ層13の体積)は変わらないので、コード層3よりも下側の変形は、Vプーリ20で幅方向が制約され、また圧縮ゴム層11に配向されている短繊維の制約で幅方向には広がらず、厚み方向に厚くなるように変化する。
【0051】
Vプーリ20のV溝角度26°に対し、ベルトV角度27°に製作された高負荷伝動用変速ベルト1がVプーリ20に入っていくと、ベルト自体の圧縮ゴム層11の角度変化は、V角度27°から
図3の様に変化する。HK、HM、HOは、
図4に示すように、最小プーリ径が210mm、290mm、300mmと異なる。
【0052】
このように、圧縮ゴム層11のV角度は小さくなるが、圧縮の影響が少ないコグ層13は曲げによる圧縮変形はほとんど受けず、V角度の変化はほとんどない。そのため高負荷伝動用変速ベルト1は圧縮ゴム層11とコグ層13の境界付近で角度の差が発生する。
【0053】
この高負荷伝動用変速ベルト1では、Vプーリ20の外径が約280mmで圧縮ゴム層11のV角度は26度になり、それよりも小径ではベルトV角度はプーリV角度よりも小さくなる。特に変速機構では、この現象が頻繁に発生し、そのため、小径プーリ側では高負荷伝動用変速ベルト1が、回転するVプーリ20に巻き込まれて接触する際、上記境界部が先にVプーリ20と接触するようになり、コグ層13に加わる推力の当たりが強くなり、コグ層13の噛みによる異音発生の原因となる。
【0054】
W:ベルト上幅、W1:圧縮ゴム層上幅、W2:圧縮ゴム層下幅、hbc:屈曲前の圧縮ゴム層厚み、hb:圧縮後の心線中央から圧縮、hg:圧縮後の圧縮ゴム層厚み、αb:圧縮前のベルトV角度、αp:プーリV溝角度、α':屈曲による圧縮層V角度とすると、基準値として、
圧縮層断面積S=(W1+W2)/2×h mm2
心線長さの圧縮層体積V=S×Dp×π mm3
曲げ時の体積として、
底ゴム外周径の面積S1=(D1/2)2・π mm2
外周径を持つ円柱の体積V1=S1×W1 mm3
底ゴム内周径の面積 S2=((D1-2×hg)/2)2・π mm2
内周径を持つ円柱の体積 V2=S2・W2 mm3
圧縮層外周径を底面とするV側面円錐の高さ h1=D1/2×tan(α/2)mm
外周径を底面とするV側面円錐の体積 V3=1/3×S1×h1 mm3
内周径を底面とするV側面円錐の高さ h2=h1-hg×((W1-W2)/2/hg)mm
内周径を底面とするV側面円錐の体積 V4=1/3×S2×h2 mm3
V側面の体積 V5=V3-V4 mm3
屈曲時のベルトの体積 V'=V1-V2-2・V5mm3
【0055】
以上の計算で V=V'となるhgを求める。
【0056】
hgから変化した圧縮層のV角度(α')を求める。
【0057】
α'/2=tan-1((W1-W2)/2/hg)
W1=W-2×(K+d/2+0.2)×tan(αV/2)
W2=W1-2×hbc×tan(α/2)
プーリV溝側面とコグ部の接触長さ(b)を求めるゴム底までの距離
b=hb× (tan(αp/2)-tan(α'/2))/(tan(αb/2)-tan(αp/2))となる。
【0058】
-高負荷伝動用変速ベルトとVプーリの接触の形態-
次いで、高負荷伝動用変速ベルト1とVプーリ20の接触の形態について説明する。幾何学的変形については、
図5に示すとおりである。
【0059】
プーリV溝角度αpが26°のときに、圧縮ゴム層V角度α’が27°、26°、26°よりも小さくなった場合でも、コグ層13の角度は、27°のままであることがわかる。
【0060】
α'>αpのとき、ベルト背面側に推力がかかり幅方向に圧縮される。α'=αpのとき、V側面で当たり理想的な伝動となる。α'<αpのとき、圧縮ゴム層11とコグ層13の境界面から接触、心線位置からプーリV角度αp/2の状態で圧縮される。
【0061】
実際には角度、厚みのバラつきで変化するが、ASABE規格の条件ではコグ層13の圧縮高さ(b)は、
図6に示すように、0~3mm程度の範囲となる。
【0062】
次に高負荷伝動用変速ベルト1が変速ベルトとして用いられる場合、高負荷伝動用変速ベルト1は、Vプーリ20によって側面から推力を受ける。そこで、
図7に示すようなサーボ圧縮試験機30で圧縮弾性率(圧縮剛性)の評価を行った。周波数を20Hzとし、荷重を500±300N、温度を25±3℃とした。
【0063】
図4に示すように、実用推力による幅方向の変形からコグ層13の接触高さは、約1.3mmだけ増えることになり、幾何学上の変形は0~4.5mmとなる。
図8に示す圧縮弾性率を見る限り、標準仕様、高負荷、超高負荷においても、コグ高さは4.5mm以下で十分であることがわかる。
【0064】
このように、本実施形態では、例えば、Vプーリ20のプーリ径が300mm以上であると、コグ層13がVプーリ20の内面にあまり接触しなくなるため、コグ層13の効果がなくなり、コグ層13を設ける必要がなくなる。
【0065】
-実施例-
上記実施形態の高負荷伝動用変速ベルト1として、以下の実施例1~8について準備した。比較のため、従来の比較例1~5の高負荷伝動用変速ベルトも準備した。
【0066】
図10に示すように、標準仕様、仕様1、仕様2及び比較のための従来品の各部位の材料について記載した。JIS K 6253-3 タイプAデュロメータで計測した場合に、仕様1は、標準仕様よりも硬さが6程度高く、仕様2は、さらに硬さが6程度高い。
【0067】
標準仕様のものにおいて、
図11に示すように、実施例1は、ベルトサイズがASABE規格で110インチ、上幅Wが38mm、厚みHが20.5mm、心線位置Kが6.5mm、コグ高さhcが6mm、圧縮ゴム層厚さhbcが8.3mm、ベルトV角度αが27°である。これに対し、実施例2は、厚みHが19.5mm、コグ高さhcが3.5mmである点が実施例1と異なる。実施例3は、厚みHが16mm、コグ高さhcが0mm(つまりコグ層13無し)である点が実施例1と異なる。比較例1は、厚みHが22mm、コグ高さhcが8mmである点が実施例1と異なる。比較例2は、厚みHが22mm、コグ高さhcが6mmである点が実施例1と異なる。なお、圧縮層高さhbcは、圧縮ゴム層補強部14も含む。
【0068】
図11では、圧縮ゴム層厚さhbc=8.3mmとして一定とし、コグ高さhcを0mm~8mmに変化させ、農業機械の無段変速機構に取り付けて異音発生等を評価した。
【0069】
比較例1では、コグ高さhcが8mmと高いため、特に変速時に音の発生が顕著であり、ベルトがばたついて脱落も発生した。比較例2では、コグ高さhcを6mmまで低くしたものの、未だにベルトのばたつきが発生し、ときおり異音が発生したり、ベルトが脱落したりすることが確認された。一方で、実施例1~3のようにコグ高さhcを4.5mm、3mm、0mmと低くしていくと、ベルトのばたつきが解消され、異音も発生せず、ベルトの脱落も発生しなかった。
【0070】
図9(a)の台上評価試験機で(b)に示す負荷特性条件及び負荷耐久条件1で台上評価試験を行った。実施例1~3並びに比較例1及び2のいずれにおいても伝動能力STAは、6.0~6.735で大幅な伝動能力の低下は見られなかった。負荷耐久テスト耐久条件1でも比較例1が320~540時間なのに対し、コグ高さhcを3.5mmと短くした実施例2でも450時間で、耐久性の低下は見られなかった。実機モニターで行った耐久試験でも、比較例2が300時間以上なのに対し、実施例1~3のいずれでも300時間以上で耐久性の低下は見られなかった。ベルトV角度αが27°のベルトをV溝角度26°のプーリで使用することで、コグ層13全体が側方からの力(推力)を効率的に受けているのではなく、伝動能力を得るために最低限のコグ高さhcがあれば伝動は安定して伝えられるためである。
【0071】
図12に示すように、仕様1のものにおいて、実施例4は、ベルトサイズがASABE規格で110インチ、上幅Wが38mm、厚みHが20.5mm、心線位置Kが6.5mm、コグ高さhcが4.5mm、圧縮ゴム層厚さhbcが8.3mm、ベルトV角度αが27°である。すなわち、実施例4は実施例1に対しゴム硬度が高い点のみが異なる。これに対し、比較例3は、厚みHが24mm、コグ高さhcが8mmである点が実施例4と異なる。
【0072】
ゴム硬度がさらに高い仕様2のものにおいて、実施例5は、ベルトサイズがASABE規格で110インチ、上幅Wが38mm、厚みHが20.5mm、心線位置Kが6.5mm、コグ高さhcが4.5mm、圧縮ゴム層厚さhbcが8.3mm、ベルトV角度αが27°である。すなわち、実施例5は実施例1及び実施例4に対し材料構成のみが異なる。これに対し、比較例4は、厚みHが24mm、コグ高さhcが8mmである点が実施例5と異なる。比較例5は、
図10の従来品(コグ無しベルト)の材料構成であり、ベルトサイズがASABE規格で139インチ、上幅Wが37.62mm、厚みHが18.78mm、心線位置Kが8.59mm、ベルトV角度αが31°である。
【0073】
図12でも、圧縮ゴム層厚さhbc=8.3mmとして一定とし、コグ高さhc=4.5mm又は8mmとし、農業機械の無段変速機構に取り付けて異音発生等を評価した。
【0074】
比較例3では、コグ高さhcが8mmと高いため、特に変速時に音の発生が顕著であり、ときおりベルトがばたついたが、ベルトの脱落は発生しなかった。比較例4では、比較例3とは仕様2で異なり、ゴム硬度が高くなった分だけ異音の発生は低減されたが、依然として、ベルトのばたつきがときおり発生した。実施例4及び5のようにコグ高さhcを4.5mmに低くすると、スムーズな伝動で、ベルトの脱落も発生しなかった。特に圧縮ゴム層11の硬さがA82以上であると推力が加わっても変形が少ないため、コグ層13の必要高さは低下するので、実施例1~3よりもさらに異音低減及びベルトのばたつき抑制効果は向上している。
【0075】
図9(b)に示す負荷特性条件及び負荷耐久条件1で台上評価試験を行った結果、比較例5のセパレーションEランク(分解、切断)及びクランクDランク(末期)になるのが220時間と短いのと比べ、比較例3は、セパレーションDランク(末期)になるのが394時間であるが、実施例4では、セパレーションDランク(末期)になるのが685時間と耐久性が大変向上している。実施例4及び5並びに比較例3及び4のいずれにおいても伝動能力STAは、6.735~7.331と比較例5に比べて大幅な伝動能力の低下は、見られなかった。実機モニターで行った耐久試験でも、比較例2及び実施例4及び5で300時間以上と耐久性の低下は見られなかったが、比較例3は耐久性が低くて初期段階で中止した。
【0076】
図13に示すように、仕様1のものにおいて、実施例6は、ベルトサイズがASABE規格で110インチ、上幅Wが38mm、厚みHが20.5mm、心線位置Kが6.5mm、コグ高さhcが4.5mm、圧縮ゴム層厚さhbcが8.3mm、ベルトV角度αが31°である。すなわち、実施例6は実施例1に対し材料の仕様のみが異なる。これに対し、比較例6は、標準仕様の比較例1に対しベルトV角度αが31°である点で異なる。
【0077】
これらのベルトについて、
図9(a)及び(b)に示す負荷特性条件及び負荷耐久条件1で台上評価試験を行った結果、比較例1のセパレーションDランク(末期)及びクラックCランク(後期)になるのが300時間以上であり、実施例6では、セパレーションDランク(末期)及びクラックCランク(後期)になるのが300時間以上と差はなかった。実施例6の伝動能力STAは6.847であり、比較例1の6.194と比べて大幅な伝動能力の低下は、見られなかった。しかしながら、ベルトV角度αbが31°の比較例4及び6は伝動能力STAが25~26%低下しており、耐久性に問題があった。
【0078】
-スダレ帆布の補強効果-
図10に示した仕様1にてスダレPly数を変化させて伝動能力(ST値)の違いを確認した。
【0079】
高負荷伝動用変速ベルト1に張力が掛かるとVプーリ20に落ち込む力が働き、高負荷伝動用変速ベルト1の幅方向中央部が落ち込む現象が起こる。そのため、心線幅方向で張力のバランスが悪くなり、高負荷での伝動能力の低下が生じる。また、ベルト両端の心線に大きな張力が掛かり早期破損の原因となるが、スダレ帆布で構成された圧縮ゴム層補強部14は列理を幅方向に配置することで、張力による高負荷伝動用変速ベルト1の落ち込みが押さえられ高伝動が得られる。
【0080】
通常の伝動では心線張力から高負荷伝動用変速ベルト1のVプーリ20への押し込み力のみが加わるため、圧縮ゴム層11中に短繊維を配向することで、落ち込み変形を防ぐことができる。
【0081】
変速ベルトの場合、Vプーリ20が高負荷伝動用変速ベルト1を押しつける(推力)力が加わるため、ベルト幅方向に圧縮力が加わる。このとき圧縮ゴム層11中の短繊維は簡単に座屈するため、ゴムの弾性力だけで、高負荷伝動用変速ベルト1の落ち込みを防ぐことになり、過負荷で伝動能力が落ちる。
【0082】
しかし、スダレ帆布よりなる圧縮ゴム層補強部14をコード層3の下方に配置すると、側圧による座屈が押さえられて高伝動、高変速特性が得られる。
【0083】
なお、スダレ帆布のコード径が細くても、伝動能力向上には有効に働くが、側圧に対しては座屈しやすくなるため細いスダレ帆布は不利となる。スダレ帆布のPly数を増やすとスダレ層が厚くなり、圧縮及び伸長でスダレ帆布のコード間のゴム部の変形が大きくなりスダレ帆布からの亀裂が発生しやすくなるというデメリットはある。
【0084】
図14に示すように、仕様1でPly数を増やすと伝動能力の向上が確認された。
図15に示すように、2%、4%スリップを代表に比較したところ特に特異性が見られないが、Ply数を増やせば伝動能力は高くなることはわかる。
【0085】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0086】
すなわち、上記実施形態では、コグ層13を設けているが、コグ層13がなく、圧縮ゴム層11のすぐ下に底帆布15が設けられていてもよい。コグ層13がない場合には、高負荷伝動用変速ベルト1は、いわゆるプレーンタイプのローエッジVベルトとなる。
【0087】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0088】
1 高負荷伝動用変速ベルト
3 コード層
4 張力帯層
5 接着ゴム層
7 伸長ゴム層
9 背面帆布層
11 圧縮ゴム層
13 コグ層
13a コグ部
13b コグ溝
14 圧縮ゴム層補強部
15 底帆布
20 Vプーリ