(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165295
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】電力需給調整システム、電力需給調整方法、電力需給調整用プログラム及びその記録媒体
(51)【国際特許分類】
H02J 3/24 20060101AFI20221024BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20221024BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
H02J3/24
H02J3/00 180
H02J3/00 170
H02J13/00 311R
H02J13/00 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070610
(22)【出願日】2021-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】廣政 勝利
(72)【発明者】
【氏名】村上 好樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 量一
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AA04
5G064AC09
5G064AC11
5G064CB08
5G064CB12
5G064CB13
5G064DA02
5G064DA03
5G066AA01
5G066AA03
5G066AA04
5G066AA09
5G066AB02
5G066AD20
5G066AE04
5G066AE09
5G066HA13
5G066HA15
5G066HB01
5G066HB03
5G066HB06
5G066HB09
5G066JA05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】発電機の出力振動を抑制して経済性と制御性の両立を図り、一般送配電事業者の安定供給に有効な電力需給調整システム、電力需給調整方法、電力需給調整用プログラム及びその記録装置を提供する。
【解決手段】電力系統需給調整システムは、電力系統に接続される発電機毎または発電機の出力毎に関数で設定された価格を格納する価格データベース21と、価格データベース21から各発電機の価格を取り込み各発電機の価格の関数に従って発電機に地域要求電力(AR)を配分するAR配分部26と、発電機のリアルタイムEDC値を算出するリアルタイムEDC計算部32と、リアルタイムEDC値とARの配分結果から目標指令値を作成する指令値作成部22と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統において周波数変化量(ΔF)と連系線潮流変化量(ΔPT)を検出する検出部と、
電力系統における融通電力量(P0)を設定する設定部と、
前記周波数変化量(ΔF)と前記連系線潮流変化量(ΔPT)と前記融通電力量(P0)とを用いて地域要求電力(AR)を算出するAR計算部と、
前記地域要求電力(AR)を平滑化するAR平滑部と、
電力系統に接続された発電機毎または発電機の出力毎に関数で設定された価格を格納する価格データベースと、
前記価格データベースから前記価格を取り込み前記価格の関数に従って前記発電機に前記地域要求電力(AR)を配分するAR配分部と、
前記発電機のリアルタイムEDC値を算出するリアルタイムEDC計算部と、
前記リアルタイムEDC値と前記地域要求電力(AR)の配分結果から目標指令値を作成する指令値作成部と、
前記発電機に前記目標指令値を伝送する指令値伝送部と、を備えた電力需給調整システム。
【請求項2】
前記価格データベースは、予め設定された前記発電機の計画出力を基に設定された前記価格を格納する請求項1に記載の電力需給調整システム。
【請求項3】
前記価格データベースは、複数の前記発電機に設定された価格に対してつけられる価格の順位あるいは当該順位の単調増加関数値を格納し、
前記AR配分部は、前記順位あるいは前記単調増加関数値に基づいて前記発電機毎に前記地域要求電力(AR)を配分する請求項1または2に記載の電力需給調整システム。
【請求項4】
前記発電機の単位時間当たりの平均出力を求める平均出力算出部を備え、
前記AR配分部は、前記平均出力に対応した価格の関数に従って、前記発電機毎に前記地域要求電力(AR)を配分する請求項1~3のいずれかに記載の電力需給調整システム。
【請求項5】
前記価格を線形近似した近似価格を求める近似価格算出部を備え、
前記AR配分部は、前記近似価格の関数に従って、前記発電機毎に前記地域要求電力(AR)を配分する請求項1~4のいずれかに記載の電力需給調整システム。
【請求項6】
予め設定された計画値から各発電機に配分される前記地域要求電力(AR)を積み上げて前記目標指令値に達するか否かを判定する判定部を備え、
前記指令値作成部は、
前記判定部が前記目標指令値に達すると判定した時、前記計画値を用いて前記目標指令値を作成し、
前記判定部が前記目標指令値に達しないと判定した時、前記発電機の現在出力を取り込んで当該現在出力を用いて前記目標指令値を作成する請求項1~5のいずれかに記載の電力需給調整システム。
【請求項7】
電力系統において周波数変化量(ΔF)と連系線潮流変化量(ΔPT)を検出する検出ステップと、
電力系統における融通電力量(P0)を設定する設定ステップと、
前記周波数変化量(ΔF)と前記連系線潮流変化量(ΔPT)と前記融通電力量(P0)とを用いて地域要求電力(AR)を算出するAR計算ステップと、
前記地域要求電力(AR)を平滑化するAR平滑ステップと、
電力系統に接続された発電機毎または発電機の出力毎に関数で設定された価格を格納する価格格納ステップと、
前記価格データベースから前記価格を取り込み前記価格の関数に従って前記発電機に前記地域要求電力(AR)を配分するAR配分ステップと、
前記発電機のリアルタイムEDC値を算出するリアルタイムEDC計算ステップと、
前記リアルタイムEDC値と前記地域要求電力(AR)の配分結果から目標指令値を作成する指令値作成ステップと、
前記発電機に前記目標指令値を伝送する指令値伝送ステップと、をコンピュータが実行する電力需給調整方法。
【請求項8】
電力需給調整システムが備えるコンピュータ用の電力需給調整用プログラムであって、
電力系統において周波数変化量(ΔF)と連系線潮流変化量(ΔPT)を検出する検出ステップと、
電力系統における融通電力量(P0)を設定する設定ステップと、
前記周波数変化量(ΔF)と前記連系線潮流変化量(ΔPT)と前記融通電力量(P0)とを用いて地域要求電力(AR)を算出するAR計算ステップと、
前記地域要求電力(AR)を平滑化するAR平滑ステップと、
電力系統に接続された発電機毎または発電機の出力毎に関数で設定された価格を格納する価格格納ステップと、
前記価格データベースから前記価格を取り込み前記価格の関数に従って前記発電機に前記地域要求電力(AR)を配分するAR配分ステップと、
前記発電機のリアルタイムEDC値を算出するリアルタイムEDC計算ステップと、
前記リアルタイムEDC値と前記地域要求電力(AR)の配分結果から目標指令値を作成する指令値作成ステップと、
前記発電機に前記目標指令値を伝送する指令値伝送ステップと、をコンピュータに実行させる電力需給調整用プログラム。
【請求項9】
請求項8に記載の電力需給調整用プログラムを記録した記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統の需給調整を行う電力需給調整システム、電力需給調整方法、電力需給調整用プログラム及びその記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、一般送配電事業者の法的分離に伴って、一般送配電事業者が調整力を調達するための需給調整市場の導入が予定されている。需給調整市場の設計に当たっては、市場運営の中立性と価格の透明性の確保、市場メカニズムを活用した効率的な需給調整の実現、必要な調整力の安定的な調達という要件を満たす必要がある。
【0003】
そのため、需給調整市場価格の公開、調整コストに基づくメリットオーダーでの発電、従来の一般電気事業者以外の電源やデマンドレスポンス(以下、DRと記す)の活用、調整の柔軟性が高い電源(周波数調整用の電源)が評価される仕組み等が検討されている。特に、調整力の調達と調整力の運用については、需給調整市場の導入を円滑に進める観点から公平性と透明性の確保が不可欠であり、市場参加者に対する系統運用者の中立性の立場からメリットオーダーによる需給調整が重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3930218号
【特許文献2】特許第4856468号
【特許文献3】特願2015-184056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現状では、地域要求量(AR)を各発電機に配分する際、出力変化速度比等による発電機の応答特性を生かした配分により、制御性を優先しているが、今後は、メリットオーダーを導入することで調整コストに応じた配分となるため、経済性と制御性はトレードオフの関係になり、制御性の低下に繋がる可能性がある。なお、ここで言う需給調整のための発電機は、火力、水力機等の通常の発電機だけではなく、蓄電池やDR等の電源も含まれるものとする。
【0006】
本発明の実施形態は上記事情に鑑みてなされたものであり、経済性と制御性の両立を図ると共に、発電機の出力振動を抑制して一般送配電事業者の安定供給に有効な電力需給調整システム、電力需給調整方法、電力需給調整用プログラム及びその記録媒体の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために、本実施形態に係る電力需給調整システムは、次の構成要素を備える。
(1)電力系統において周波数変化量(ΔF)と連系線潮流変化量(ΔPT)を検出する検出部。
(2)電力系統における融通電力量(P0)を設定する設定部。
(3)前記周波数変化量(ΔF)と前記連系線潮流変化量(ΔPT)と前記融通電力量(P0)とを用いて地域要求電力(AR)を算出するAR計算部。
(4)前記地域要求電力(AR)を平滑化するAR平滑部。
(5)電力系統に接続された発電機毎または発電機の出力毎に関数で設定された価格を格納する価格データベース。
(6)前記価格データベースから前記価格を取り込み前記発電機の出力の変動により生じる前記価格の関数に従って前記発電機に前記地域要求電力(AR)を配分するAR配分部。
(7)前記発電機のリアルタイムEDC値を算出するリアルタイムEDC計算部。
(8)前記リアルタイムEDC値と前記地域要求電力(AR)の配分結果から目標指令値を作成する指令値作成部。
(9)前記発電機に前記目標指令値を伝送する指令値伝送部。
【0008】
本発明の実施形態は、上記構成要素の動作をコンピュータが実行する電力需給調整方法、上記構成要素の動作をコンピュータに実行させる電力需給調整用プログラム及び電力需給調整用プログラムの記録媒体として捉えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態における電力系統需給調整システムの構成図
【
図2】第1の実施形態における需給調整処理を示すフローチャート
【
図3】メリットオーダーに従ったLFCモデルの概要を示す図
【
図4】価格差をベースにした配分方法(左:下げ指令時、右:上げ指令時)を示す図
【
図5】各発電機の上げ調整価格(Up)および下げ調整価格(Down)を示す図
【
図6】上げ調整価格(V1)および下げ調整価格(V2)と発電機現在値(P
NOW)/計画値(P
PLAN)の例を示す図
【
図9】上げ指令時の価格差と価格順位に伴う配分係数を示す図
【
図10】下げ指令時の価格差と価格順位に伴う配分係数を示す図
【
図11】第4の実施形態における電力系統需給調整システムの要部構成図
【
図12】第4の実施形態の変形例において30分毎に平均化の起点を定めた場合の例を示す図
【
図13】第5の実施形態における電力系統需給調整システムの要部構成図
【
図14】上げ調整(V1)価格/下げ調整(V2)の直線近似の例を示す図
【
図15】メリットオーダーリストの合成合法(計画値基準)を示す図
【
図16】メリットオーダーリストの合成合法(現在値基準)を示す図
【
図17】第6の実施形態における電力系統需給調整システムの要部構成図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
[構成]
図1を参照して、電力需給調整システムに係る第1の実施形態を説明する。第1の実施形態は、電力需給調整システムを構成する各構成要素の動作をコンピュータが実行する電力需給調整方法、あるいは各構成要素の動作をコンピュータに実行させる電力需給調整用プログラム及び電力需給調整用プログラムの記録媒体として捉えることもできる。
【0011】
図1は第1の実施形態の構成図である。
図1中の符号のうち、1は電力系統、2は計算機、3は他系統、4は連系線、5はMMI(マンマシンインターフェース)を示す。電力系統1は他系統3との間で連系線4を介して連系されている。
【0012】
電力系統1には複数の発電機G1、G2、…、Gn(略して発電機Gとも記載)が接続されている。発電機Gは、発電機G単体だけではなく、発電機Gを含む発電ユニットとして捉えても良い。発電機Gの種類としては、例えば水力機等の高速機、石油火力機等の中速機、石炭火力機等の低速機等があり、さらには蓄電池やDR等でもよい。
【0013】
電力系統1には自然エネルギーを利用する自然エネルギー発電ユニット(略して自然エネルギー発電ユニットとも記載)が並列に接続されていてもよい。自然エネルギー発電ユニットとしては例えば、太陽光発電ユニット、風力発電、海流発電、地熱発電等がある。また、電力系統1には電力系統1にて周波数変化量(ΔF)を検出するΔF検出部7と、連系線潮流変化量(ΔPT)を検出するΔPT検出部8と、電力系統1における融通電力量(P0)を設定する設定部9が設けられている。ΔF検出部7およびΔPT検出部8はそれぞれ、検出した周波数変化量(ΔF)および連系線潮流変化量(ΔPT)を計算機2に送信し、設定部9は設定した融通電力量(P0)を計算機2に送信するようになっている。
【0014】
計算機2はコンピュータなどから構成され、電力監視制御を行う制御室等に設置されている。計算機2には、発電機出力入力部201~20n(略して発電機出力入力部20とも記載)と、各発電機Gへの目標指令値を作成する指令値作成部221~22n(略して指令値作成部22とも記載)と、各発電機Gへ目標指令値を伝送する指令値伝送部231~23n(略して指令値伝送部23とも記載)とが設けられている。
【0015】
各発電機Gと計算機2とは検出用の信号線11と制御用の信号線12を介して、夫々の計算機2内の発電機出力入力部20と指令値伝送部23に接続されている。発電機出力入力部20からの情報は指令値作成部22に伝送され、その後、指令値作成部22にて各発電機Gへの目標指令値が作成されて、指令値伝送部23によって各発電機Gに伝送される。
【0016】
計算機2には、価格データベース21、AR計算部24、AR平滑部25、AR配分部26、リアルタイムEDC計算部32が設けられている。価格データベース21は、電力系統1に接続される発電機G毎または発電機Gの出力毎に関数で設定された価格(以下、単に発電機Gの価格とも記す)を格納する記憶部である。発電機G毎または発電機Gの出力毎に関数で設定された価格は、例えば離散的につまり階段状に設定されている。第1の実施形態では、価格データベース21に格納される価格として、発電機Gの現在出力に対応した価格が格納されている。なお、価格データベース21は計算機2内に設けられても良いし、計算機2の外部、例えばクラウド等に設けられても良い。
【0017】
AR計算部24は、周波数変化量(ΔF)と連系線潮流変化量(ΔPT)と融通電力量(P0)とを入力し、これらを用いて地域要求電力(AR)を算出する。AR平滑部25は、AR計算部24が算出した地域要求電力(AR)を入力して、これを平滑化する。AR配分部26は、価格データベース21から発電機Gの価格を取り込み、価格の関数に従って発電機G毎に平滑化した地域要求電力(AR)を配分して、地域要求電力(AR)の配分結果を指令値作成部22に入力する。
【0018】
リアルタイムEDC計算部32は、発電機G毎のリアルタイムEDC値を算出して、リアルタイムEDC値を指令値作成部22に入力する。現在値を基準とする場合、指令値作成部22は、各発電機Gの出力信号とリアルタイムEDC値と地域要求電力(AR)の配分結果とを入力して、これらから各発電機Gに対する目標指令値を作成する。計画値を基準とした場合は、指令値作成部22は、各発電機Gの計画値とリアルタイムEDC値と地域要求電力(AR)の配分結果とを入力して、これらから各発電機Gに対する目標指令値を作成する。指令値伝送部23は、指令値作成部22の作成した目標指令値を各発電機Gに伝送する。
【0019】
(需給調整の概要)
EDCとは、経済負荷配分制御(EDC:Economic Load Dispatch)のことである。このEDCと負荷周波数制御(LFC:Load Frequency Control、以下LFC)とを合わせて需給調整と呼ぶこととする。以下、需給調整の概要について説明する。
【0020】
電力系統の需要(負荷)は、季節的・時間的・瞬間的に時々刻々絶えず変動している。その負荷変動については、変化幅の小さい種々の振動と周期を持った脈動成分や、不規則な変動成分が重畳したものと考えられ、数分周期までの微小変動分のサイクリック分、数分から10数分程度までの短周期変動分のフリンジ分、及び、10数分以上の長周期変動分のサステンド分の主に3つの成分に分けられる。
【0021】
サイクリック分にて数分程度の周期変動のものはガバナフリー運転する発電所の調速機の特性を適正にすることで調整可能だが、フリンジ分のような変動周期が10数分までの負荷変動については、LFCにより、周波数偏差、電力変動量を検出して発電機の出力を調整する。また、サステンド分は、1日の負荷曲線によって支配される変化の一部と考えることができるため、発電所の経済運用が主体となり、EDCによる給電調整を行う。
【0022】
LFCの最大の目的は、連系線潮流、系統周波数を一定に維持すること、また、EDCにおいては最経済となるような運用計画を行うことである。LFCは、中央給電指令所にて系統の周波数や他系統との連系線潮流の変化に応じて、電力系統に接続される各発電機の出力調整の指令を行う。この出力調整の指令は全ての発電機に対して出されるのではなく、速い出力変動を行っても問題とならない石油焚き火力発電ユニットや水力ユニットに対して出され、原子力ユニットや石炭焚き火力ユニット、さらには運用上の理由で出力変動を避けたい発電ユニット(発電機を含み、電力系統に電力を供給する電力供給設備)には、出力調整の指令は出されないのが一般的である。
【0023】
(LFC)
このように、LFCでは中央給電指令所から指令が出されるため、実際に発電機の出力が変化するまでには数十秒程度の遅れがあるのが一般的である。LFCには、次の3方式があるが、日本の殆どの電力会社にて(3)のTBC方式が行われている。
【0024】
(1)周波数変化量(ΔF)を検出して、ΔFを少なくするように発電ユニットの出力を調整し、系統周波数のみを規定値に保とうとする定周波数制御方式(FFC方式)
(2)連系線潮流変化量(ΔPT)を検出して、ΔPTを少なくするように発電ユニットの出力を調整し、連系線潮流のみを規定値に保とうとする定連系電力制御(FTC方式)
(3)周波数変化量(ΔF)と連系線潮流変化量(ΔPT)とを検出し、これらから地域要求電力(AR)を算出し、その量に応じて発電ユニットの出力を調整する周波数バイアス連係線電力制御(TBC方式)
【0025】
TBC方式のLFCは、次のような手順にて行われる。
[1]周波数変化量(ΔF)と連系線潮流変化量(ΔPT)を用いて地域要求電力(AR)を(a)式を用いて算出する。
AR=-K・ΔF+ΔPT …(a)
ここでAR:地域要求量[MW]
K:系統定数[MW/Hz]
ΔF:周波数偏差[Hz]
ΔPT:連系線潮流偏差[MW]
自系統に流入する潮流がプラス方向
地域要求電力(AR)の値が正であれば、系統全体として発電ユニットの出力を上げる必要がある。逆に、負の値であれば、系統全体として発電ユニットの出力を下げる必要がある。
【0026】
[2]地域要求電力(AR)をフィルタリングする際には、過去の地域要求電力(AR)を用いて指数平滑等によるフィルタリングを行い、地域要求電力(AR)を低速機(例えば出力変化速度の遅い火力機)と高速機(例えば、出力変化速度の速い水力機)にて分担する。その他、地域要求電力(AR)を周波数分解し、周期成分の短いものは低速機にて分担、周期成分の長いものは高速機にて分担するような方法もある。
【0027】
[3]フィルタリング、または周波数分解した地域要求電力(AR)を各発電ユニットへ配分する際には、低速機、高速機別に需給調整が行われている全ての発電ユニットに対して、その発電ユニットの出力変化速度比あるいは、出力余裕比等にて配分する。
【0028】
[4]各発電ユニットの目標指令値を算出する際には、配分された地域要求電力(AR)と、EDCにて算出したリアルタイムEDC値、または、現在出力を足し合わせる等により算出する。また、目標指令値には、ある基準値以上を逸脱しないように上下限値が設けられている場合もある。
【0029】
[5]各発電ユニットが中央給電指令所からの目標指令値を受取り、各発電ユニットの出力が変動し、その結果、系統周波数、並びに連系線潮流が変化する。
[6]手順[1]に戻る。
【0030】
(EDC)
EDCは、1日の負荷曲線に見られるゆっくりした大きな変化に対して中央給電指令所にて各発電機の出力調整の指令を行う。このゆっくりした負荷変化は過去の経験からかなりの精度で予測することができる。この予測された負荷に対して最も低コスト、すなわち、燃料費が少なくなるように、発電ユニットの出力を決定するのが一般的である。最も一般的な手法は、等増分燃料費則(等λ法)となる。
【0031】
以下、日本の殆どの電力会社にて行われている等λ法の実施例について説明する。EDCは各電力会社の中央給電指令所から、各発電ユニットに対して出力調整のために発電ユニット指令を行うものであり、以下の手順にて行われている。
【0032】
[1]λの初期値を設定する。
[2]λに等しくなる各発電ユニットの出力を計算する。もし、この値が最小出力を下回っていれば、最小出力に、最大出力を上回っていれば、最大出力に設定する。
[3]発電ユニットの出力の総和を計算する。
【0033】
[4]出力の総和が負荷を下回っていれば、λを大きく、逆に出力の総和が負荷を上回っていれば、λを小さくする。
[5]上記の[2]~[4]を出力の総和と負荷が十分に近づくまで繰り返す。
上記のような方式にて、発電機の出力を調整することにより、系統全体の周波数、ならびに電力会社間の連系線潮流を規定値に近づける制御を行っている。
【0034】
[作用]
図2は、第1の実施形態において、AR配分処理を示すフローチャートである。先ず、電力系統1から検出された周波数変化量(ΔF)と連系線潮流変化量(ΔPT)とが計算機2内のAR計算部24に入力され、ここで地域要求電力(AR)が計算される(ステップS20)。次いで、AR平滑部25によって地域要求電力(AR)が平滑化される(ステップS21)。
【0035】
そして、AR配分部26にて各発電機Gに対して地域要求電力(AR)の配分値が求められ(ステップS22)、リアルタイムEDC計算部32にて各発電機GのEDC値が求められる(ステップS204)。指令値作成部22には、地域要求電力(AR)と、各発電機GのEDC値が入力されて目標指令値が作成される(ステップS23)。その後、指令値伝送部23により目標指令値が伝送され(ステップS24)、各発電機Gに目標指令値が出される(ステップS25)
【0036】
図1、
図2に示したように、第1の実施形態では、平滑化後の地域要求電力(AR)を各発電機Gに配分することとなる。第1の実施形態に係るAR配分部26では、地域要求電力(AR)の配分に際して、従来行われていた出力変化速度比あるいは出力余裕比に用いるのではなく、価格データベース21から発電機Gの価格を取り込み、この価格の関数に従って配分している。より詳しくは、発電機Gの出力変動により生じる発電機Gの価格差をベースとした関数を用いることにより地域要求電力(AR)を配分している。このような地域要求電力(AR)の配分方式は、発電機Gの出力に対応した価格つまり調整コストを安い順に選ぶことができ、メリットオーダーに従った配分方式であると言える。
【0037】
以下、平滑後の地域要求電力(AR)をメリットオーダーに従って各発電機Gに配分する方法について、具体的に説明する。LFCの制御指令値を配分する基準としては、計画値を配分する方法と、現在出力を配分する方法とがある。
【0038】
図3は、LFCモデルの概要を示している。
図3に示すように、LFC配分量(ΔP)から制御周期間の変化量制約を考慮した後の値(ΔP’)が各発電機Gの計画値(P
PLAN)あるいは現在出力(P
NOW)に配分されて、目標指令値が決められる。平滑化後の地域要求電力(AR)が大きい場合、各発電機Gに配分された配分量(ΔP)は各発電機Gの出力変化可能量より大きい場合もある。この場合、各発電機Gは現在出力から動ける範囲で応答することになる。
【0039】
次の式(1)は、各発電機Gにおける地域要求電力(AR)の配分の重みを示している。
(1)
【0040】
ここで、式(1)左辺側に示した「V~i」は、各発電機Gの出力に対して設定された価格の関数である。各発電機Gへの地域要求電力(AR)の配分量は、地域要求電力と各発電機Gにおける配分の重みとの積[AR×wi]で計算されており、これを発電機Gの現在出力(現在値)または計画出力(EDC指令値又はBG計画値)に加えて、目標指令値が作成されることになる。
【0041】
メリットオーダーに従った配分方式とするためには、価格の関数であるV~iは、上げ指令時には価格が安いほど大きくなり、反対に下げ指令時には価格が高いほど大きくなるように決める必要がある。上述したように、第1の実施形態のAR配分部26では、価格データベース21から発電機Gの価格を取り込み、価格の関数に従って発電機G毎に平滑化した地域要求電力(AR)を配分するが、先に述べたように、発電機Gの出力変動により生じる発電機Gの価格差をベースとした関数を用いることにより地域要求電力(AR)を配分している。すなわち、上記の式(1)と下記の式(2)~式(5)を用いてことで、上げ指令時は価格が小さい(つまり安い)発電機Gほど、価格差が大きくなり、配分の重みが大きくなる。反対に、下げ指令時は価格が大きい(つまり高い)発電機Gほど、価格差が大きくなり、配分の重みが大きくなる。
【0042】
【0043】
(下げ指令時)
(4)
(5)
Nは使用する発電機Gの台数、V
MAXは各発電機Gの現在値(現在出力)に対応する価格の最大値、V
MINは最小値である。
【0044】
図4において、右側は上げ指令時の価格差、左側は下げ指令時の価格差を示している。
図4において、上下の両端に矢印のある線分の長さが価格差を示すことになる。
図4から明らかなように、上げ指令時は価格の安い発電機Gほど価格差が大きくなって価格の安い発電機の方が優先されることになる。反対に、下げ指令時は価格の高い発電機Gほど価格差が大きくなって価格の高い発電機の方が優先されることなる。
【0045】
図5は、メリットオーダー方式にて用いる調整コストを示している。
図5に示すように、発電機Gの出力に対応する価格としては、発電機Gの出力に対して上げ調整を行う場合の上げ調整価格(V1)と、下げ調整を行う場合の下げ調整価格(V2)という2種類の価格が存在する。
図5を見て分かるように、上げ調整価格(V1)および下げ調整価格(V2)はいずれも離散的に(階段状に)設定されている。
【0046】
図5では、上げ調整価格(V1)および下げ調整(V2)は上下にずれるようにして設定されるが、上側の色が濃い線が上げ調整価格(V1)を示し、下側の色が薄い線が下げ調整価格(V2)を示している。価格の単位は円/kWhである。上げ調整価格(V1)および下げ調整価格(V2)は階段状に設定されるということは、横軸の発電機Gの出力が変化しても、価格が同一のままである出力の幅がある。この出力の幅を、価格に対応した出力帯(以下、単に出力帯)と呼ぶ。
【0047】
図6は、上げ調整価格(V1)および下げ調整価格(V2)と、発電機Gの現在値および計画値の一例を示している。
図6において、P12、P23、P34、P45、P56で示した部分が価格に対応した出力帯である。上げ調整価格(V1)は、出力帯P12ではV11、出力帯P23ではV12、出力帯P34ではV13、出力帯P45ではV14、出力帯P56ではV15となる。下げ調整価格(V2)は、出力帯P12ではV21、出力帯P23ではV22、出力帯P34ではV23、出力帯P45ではV24、出力帯P56ではV25となる。
【0048】
[効果]
第1の実施形態によれば、発電機Gの出力に対して離散的に設定された価格を格納する価格データベース21と、価格データベース21から取り込んだ価格の関数に従って発電機G毎に地域要求電力(AR)を配分するAR配分部26とを備えている。ここでAR配分部26が地域要求電力(AR)を配分する際に用いる価格の関数とは、価格の差をベースとした関数である。このため、第1の実施形態では、上げ指令時は価格の安い発電機Gほど価格差が大きくなって価格の安い発電機の方を優先することができ、反対に、下げ指令時は価格の高い発電機Gほど価格差が大きくなって価格の高い発電機の方を優先することができる。
【0049】
その結果、地域要求電力(AR)をメリットオーダーに従って各発電機Gに配分することが可能となり、メリットオーダーによる需給調整を確実に行うことができる。このような第1の実施形態によれば、市場参加者に対する系統運用者の中立性の立場に立って、一般送配電事業者による調整力の調達における公平性・透明性の確保に寄与することができ、多様な発電事業者等の参画による調達可能な調整力の量・質の向上や、一般送配電事業者による更なる効率的な調整力活用に貢献することができる。
【0050】
また、第1の実施形態では、AR配分部26が各発電機Gの価格差をベースとした関数に従って発電機G毎に地域要求電力(AR)を配分するので、価格差が大きい発電機Gほど地域要求電力(AR)が配分されることになる。このため、価格差の大小を地域要求電力(AR)の配分に反映することが可能となる。従って、経済性をより重視した地域要求電力(AR)の配分の実現に寄与することができる。
【0051】
(第2の実施形態)
ところで、前記
図6において出力帯がP23からP34に代わるように発電機Gの出力が変化した場合、上げ調整価格(V1)であれば価格差V13-V12(円/kWh)の分だけ価格が高くなり、下げ調整価格(V2)であれば価格差V23-V22(円/kWh)の分だけ価格が高くなる。逆に、出力帯がP34からP23に代わるように発電機Gの出力が変化した場合には、上げ調整価格(V1)であれば価格差V13-V12(円/kWh)の分だけ価格が安くなり、下げ調整価格(V2)であれば価格差V23-V22(円/kWh)の分だけ価格が安くなることになる。
【0052】
ここで、離散的に設定された価格に対応した出力帯を跨ぐような出力変化が起こり、しかも、そのような変化が頻繁に起きたとすると、価格が頻繁に変わることになる。離散的に設定された価格を横軸に取り時系列な価格の変化を見ると、例えば、
図7に示した発電機Gの現在出力が変化すると、V2⇒V1⇒V2⇒V3⇒V4のように、価格が頻繁に変化することになる。このような現象は上げ調整時であっても、下げ調整時であっても起こり得る。
【0053】
このように価格が頻繁に変化すると、上記の式(1)~式(5)で示した価格の関数の値も、大きく変化することになる。その結果、発電機Gへ出力される目標指令値の変化量も大きくならざるを得ず、発電機Gに出力振動が生じる可能性がある。そこで、発電機Gの出力振動を抑制する手段としては、価格の変化を抑えることが有効となる。以下の第2~第5の実施形態では、発電機Gの出力に応じた価格の変化を抑え、発電機Gの出力振動を抑制することが可能な電力需給調整システムの実施形態の例である。
【0054】
[構成]
価格の頻繁な変化が発生する原因の一つに、時々刻々変化する発電機Gの現在出力の価格を基にしているということがある。第2の実施形態では、価格データベース21に格納される価格として、発電機Gの現在出力に対応した価格ではなく、一定周期(例えば、30分周期)の間、一定値となる計画値に基づく価格を設定してこれを格納しており、AR配分部26では、この計画値に基づいた価格の関数に従って、発電機G毎に地域要求電力(AR)を配分するようになっている。より詳しくは、前記計画値に基づいた価格差をベースとした関数に従って地域要求電力(AR)を配分している。
【0055】
[作用および効果]
第2の実施形態では、価格データベース21には予め設定された発電機Gの計画出力を基にした価格を格納しており、AR配分部26では、この計画値に基づいた価格同士の価格差をベースとした関数で、発電機G毎に地域要求電力(AR)を配分している。計画値は一定周期(例えば、30分周期)の間は発電機Gの出力は一定なので、出力帯を跨いで出力が変化することはなく、一定周期(例えば、30分周期)の間は価格も変わることがない。つまり、計画出力の変化は発電機Gの現在出力のほど頻繁ではなく、価格の変化を抑えることができる。従って、発電機Gへ出力される目標指令値の変化量をある程度の範囲に収めることができ、発電機Gの出力振動を効果的に抑制することが可能となる。
【0056】
例えば、前記の
図7で示した現在出力の変化に伴う価格ではV2⇒V1⇒V2⇒V3⇒V4のように頻繁に遷移していた。これに対して、第2の実施形態では、
図8に示すように、計画値の変化に伴う価格の遷移を、V1⇒V3のように大幅に減らすことができる。このような第2の実施形態によれば、発電機Gに対する目標指令値を安定して出力することができ、経済性を確保しつつ制御性を高めることができる。
【0057】
(第3の実施形態)
上記の第2の実施形態では、価格の変化要因として、発電機Gの現在出力に応じて価格を決めている点を挙げたが、価格の変化要因はこれに限らない。例えば、価格差をベースとした関数自体が価格を頻繁に変化させる要因となることもある。つまり、価格差に基づいて地域要求電力(AR)を配分した場合、価格差が大きいほど、地域要求電力(AR)は配分され易くなり、その分だけ、他の発電機Gへの分担が減ることになる。その結果、発電機Gの出力変動が大きくなることがある。
【0058】
[構成]
そこで第3の実施形態では、価格差を用いた関数に従って地域要求電力(AR)を配分するのではなく、価格の順位に従って地域要求電力(AR)を配分するものとする。これは、発電機Gの出力帯を跨いて価格が遷移しても、複数の発電機Gの価格に対してつけられる価格の順位自体は変わらない場合があるためである。第3の実施形態に係る価格データベース21は、各発電機Gの価格の順位を格納し、AR配分部26は、価格データベース21から価格の順位を取り込んで、価格の順位に基づいて発電機G毎に地域要求電力(AR)を配分するようになっている。このような配分であっても、AR配分部26は、価格の関数に従って、発電機G毎に地域要求電力(AR)を配分することになる。
【0059】
第3の実施形態では、発電機Gの出力帯を跨ぐような出力変化に伴う価格変化の頻度として、基準となる頻度を予め設定しておき、発電機Gの出力帯を跨ぐような出力変化に伴う価格変化の頻度が、基準となる頻度を超えた場合、価格の順位に基づいて発電機G毎に前記地域要求電力(AR)を配分してもよい。
図9は上げ指令時の価格差と価格順位に伴う配分係数を示し、
図10は下げ指令時の価格差と価格順位に伴う配分係数を示している。
【0060】
[作用および効果]
第3の実施形態では、AR配分部26が価格データベース21から価格の順位を取り込み、価格の順位に従って配分係数を決め、発電機G毎に地域要求電力(AR)を配分する。このため、第3の実施形態においては、価格差をベースにした関数で地域要求電力(AR)を配分する場合と比べて、地域要求電力(AR)を安定して配分することができ、発電機Gへ出力される目標指令値の変動を抑えることができる。
【0061】
上記のように、第3の実施形態では、AR配分部26が価格の順位で発電機G毎に地域要求電力(AR)を配分することで、目標指令値の変動を抑えて発電機Gの出力振動を容易に抑制することができる。その結果、経済性および制御性を両立させた電力需給調整システムを、より安定して構築することが可能となる。なお、第3の実施形態として、価格の順位ではなく、順位の単調増加関数値を用いて地域要求電力(AR)を配分するようにしても良い。
【0062】
(第4の実施形態)
[構成]
図11は第4の実施形態の要部の構成図を示している。
図11に示すように、第4の実施形態では、計算機2内に平均出力算出部33を設けている。平均出力算出部33は発電機Gの現在出力における単位時間当たりの平均出力を求める。AR配分部26は、平均出力算出部33から平均出力を取り込み、この平均出力に対応した価格の関数に従って、発電機G毎に地域要求電力(AR)を配分するようになっている。発電機Gの現在出力に応じた価格ほど変化しない価格として、発電機Gの現在出力における単位時間当たりの平均出力に対応させた価格を用いるようにしてもよい。
【0063】
[作用および効果]
第4の実施形態では、平均出力算出部33が発電機Gの現在出力における単位時間当たりの平均出力を求め、AR配分部26がこの平均出力に対応した価格の関数に従って、発電機G毎に地域要求電力(AR)を配分する。そのため、第4の実施形態においては、時々刻々と変化する発電機Gの現在出力と比べて、比較的安定した平均出力を導くことができ、この平均出力に対応した価格の変動は小さくなり、価格差をベースとした関数の値の変動も小さくなる。従って、発電機Gへ出力される目標指令値の変動が抑えられて、発電機Gに出力振動が起き難くなる。
【0064】
このような第4の実施形態によれば、発電機Gに対する目標指令値を安定して出力することができ、発電機Gの出力振動を回避することができ、経済性を確保すると同時に制御性の向上を図ることができる。しかも、第4の実施形態においては、調整コストとなる価格の精算で30分間の電力量(これが平均出力に対応する)を用いることもできるため、現行制度との整合性も良好である。
【0065】
また、第4の実施形態の変形例としては、過去の一定時間における価格の平均値ではなく、例えば、
図12に示すように、30分間毎に平均化の起点を変更して、平均価格を求めるようにしてもよい。このような実施形態によれば、より確実に発電機Gの出力振動を抑えることが可能となり、経済性と制御性をバランス良く高めることができる。
【0066】
(第5の実施形態)
[構成]
発電機Gの現在出力に応じた価格ほど変化しない価格としては、前記第4の実施形態にて示した単位時間当たりの平均出力に対応した価格以外にも、例えば、離散的に設定された価格を線形近似した近似価格がある。そこで
図13に示すように、第5の実施形態では、計算機2内に近似価格算出部34を設けている。近似価格算出部34は、価格データベース21に格納されている価格を線形近似した近似価格を求める。AR配分部26は、近似価格算出部34から近似価格を取り込み、近似価格の関数に従って前記発電機毎に前記地域要求電力(AR)を配分する。
【0067】
[作用および効果]
第5の実施形態では、近似価格算出部34が離散的に設定された価格の近似価格を求め、AR配分部26が近似価格の関数に従って発電機G毎に地域要求電力(AR)を配分することができる。そのため、
図14に示すように、上げ調整価格(V1)や下げ調整価格(V2)における階段状の急激な変化が生じることがなく、価格差をベースとした関数の値の変動も緩やかになる。
【0068】
従って、発電機Gへ出力される目標指令値が変動するとしても、その変動はスムーズになり、発電機Gの出力振動を効果的に抑えることが可能である。従って、発電機Gに対する目標指令値を安定して出力することができ、経済性および制御性を効率よく高めることが可能である。
【0069】
なお、価格の線形近似にあたっては、最大最小幅に対して一つの直線近似を求めるだけではなく、各出力帯に応じた区分線形で示す近似価格を用いるにしてもよい。このような実施形態では、価格差をベースとした関数の値の変動がより緩やかになり、発電機Gへ出力される目標指令値の変動もさらにスムーズになる。その結果、発電機Gの出力振動をより効率よく抑えることが可能である。
【0070】
(第6の実施形態)
前記
図1および
図2にて示したように、上記実施形態ではAR配分部26が各発電機Gの地域要求電力(AR)を配分した後、指令値作成部22が目標指令値を作成することとなる。指令値作成部22は例えば、 (6)式、もしくは、(7)式にて目標指令値を算出しており、(6)式、(7)式のうち、どちらを用いるかは系統運用者が選択するようになっている。
【0071】
目標指令値=地域要求電力(AR)+BG計画値 (6)
目標指令値=地域要求電力(AR)+現在出力 (7)
【0072】
図15、
図16を用いて、(6)式、(7)式による目標指令値の作成について説明する。指令値作成部22が(6)式を採用する場合は、
図15に示すようにして目標指令値を作成する。この場合、BG計画値基準はインバランス精算に近い考え方となり、BG計画値を基準としていることから、調整コストの低減を行うことができ、経済性へのメリットがある。その反面、BG計画値から大きく外れることが無いため、目標指令値に対して発電機Gが追従し難くなり、制御性を犠牲にする可能性がある。
【0073】
また、指令値作成部22が(7)式を採用する場合は、
図16に示すようにして目標指令値を作成する。この場合は、現在出力を基準としていることから、目標指令値に対して発電機Gの追従が良好である。従って、制御性へのメリットがあるが、その反面、BG計画値から大きく外れる可能性があり、調整コストが増大して経済性を犠牲にすることがある。
【0074】
通常の運用では、(6)式を採用し、BG計画値を基準としたEDC機能に、そこからの偏差分を地域要求電力(AR)の配分値としてLFC機能で賄うのが一般的である。これらの機能は先に記したように、運用者にて(6)式、(7)式の選択が可能であるが、基本的には経済性を重視した(6)式の運用の方が望ましいことが多い。ただし、メリットオーダー方式により地域要求電力(AR)の配分を行う場合、BG計画値からの積み上げでは目標指令値が足りない可能性がある。
【0075】
(構成)
図17は第6の実施形態の要部の構成図を示している。
図17に示すように、第6の実施形態では、指令値作成部221~22nに判定部351~35n(略して判定部35とも記載)が接続されている。
【0076】
判定部35は、予め設定されたBG計画値から各発電機Gに配分される地域要求電力(AR)を積み上げて目標指令値に達するか否かを判定する。指令値作成部22は、判定部35がBG計画値からの積み上げで目標指令値に達すると判定した時、BG計画値を用いて目標指令値を作成する(つまり上記(6)式を採用する)。
【0077】
また、指令値作成部22は、判定部35がBG計画値からの積み上げでは目標指令値に達しないと判定した時、BG計画値ではなく、発電機Gの現在出力を取り込んで現在出力を用いて目標指令値を作成する(つまり上記(7)式を採用する)。なお、ΣはLFC制御の対象となる発電機Gの合計である。
【0078】
(作用)
判定部35は、以下の条件下<1><2>により、(6)式、(7)式の切替えを行う。
<1>地域要求電力(AR)が0超過である、すなわち「上げ調整時」の時、判定部35は[地域要求電力AR+ΣBG計画値≦Σ現在出力]にて判定する。
<2>地域要求電力(AR)が0未満である、すなわち「下げ調整時」の時、判定部35は[地域要求電力AR+ΣBG計画値≧Σ現在出力]にて判定する。
【0079】
いずれの条件下においても、判定部35がBG計画値からの積み上げでは目標指令値が足りないと判定した場合、指令値作成部22は(7)式にて目標指令値を作成する。また、判定部35がBG計画値からの積み上げでは目標指令値が足りると判定すれば、指令値作成部22は(6)式にて目標指令値を作成する。
【0080】
(効果)
以上のような第6の実施形態によれば、メリットオーダーによる地域要求電力(AR)の配分を行う際、BG計画値からの積み上げで目標指令値が足りていると判定部35が判定した場合には、指令値作成部22は前記(6)式を採用して経済性へのメリットを確保することができる。
【0081】
また、BG計画値からの積み上げでは目標指令値が足りない可能性があると判定部35が判定した場合には、指令値作成部22は前記(7)式を採用して現在出力から積み上げを行い、所望の目標指令値を作成することができる。従って、メリットオーダーによる地域要求電力(AR)の配分に際して、現在出力を基準とした目標指令値を得ることができ、発電機Gの追従が良好となり、制御性が向上する。
【0082】
[他の実施形態]
変形例を含めた実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0083】
例えば、価格データベース21に加えて、発電機Gの出力に応じた価格の価格差をベースとした価格の関数、あるいいは価格の順位等を格納するデータベースを、計算機2内に備えるようにしても良い。また、上記第4、第5の実施形態では、計算機2内に、平均出力や近似価格を求める構成要素を独立して設けたが、これに限らず、例えば、AR配分部26で発電機Gの出力変動を基にした価格の設定した上で地域要求電力(AR)を配分してもよいし、AR配分部26で線形近似した価格を設定した上で地域要求電力(AR)を配分してもよい。また、価格データベース21に格納する価格は離散的に設定されたものに限らず、連続的に設定された価格であってもよい。
【符号の説明】
【0084】
1:電力系統
2:計算機
21:価格データベース
20:発電機出力入力部
22:指令値作成部
23:指令値伝送部
24:AR計算部
25:AR平滑部
26:AR配分部
3:他系統
32:リアルタイムEDC計算部
33:平均出力算出部
34:近似価格算出部
35:判定部
4:連系線
5:MMI(マンマシンインターフェース)
6:自然エネルギー発電ユニット
G:発電機
7: ΔF検出部
8: ΔPT検出部
9: 設定部