(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165318
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】運転計画作成装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20221024BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20221024BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20221024BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G05B23/02 Z
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070649
(22)【出願日】2021-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 尚貴
(72)【発明者】
【氏名】林 大介
【テーマコード(参考)】
3C100
3C223
5L049
【Fターム(参考)】
3C100AA06
3C100AA07
3C100AA16
3C100AA29
3C100AA57
3C100BB13
3C100BB15
3C100BB33
3C100EE10
3C223AA01
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB03
3C223EB07
3C223FF02
3C223FF03
3C223FF05
3C223FF12
3C223FF13
3C223FF42
3C223FF47
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH04
3C223HH06
3C223HH08
3C223HH29
5L049CC03
(57)【要約】
【課題】高い精度で総消費電力量のピークを抑えることのできる運転計画作成装置を提供する。
【解決手段】運転計画作成装置30は、複数の電気炉21を備える熱処理工場20に適用される。運転計画作成装置30の記憶部31には、複数の電気炉21について各別に、同電気炉21の運転時における電力消費パターンが記憶されている。記憶部31には、熱処理工場20の総消費電力量のピークが所定レベル以下に抑えられる態様で定められた運転計画40が記憶されている。運転計画作成装置30は、各電気炉21の操作盤22の出力信号をもとに、複数の電気炉21の実際の運転状態を検出する。運転計画作成装置30は、実際の運転状態と電力消費パターンとに基づいて、熱処理工場20の総消費電力量のピークが所定レベル以下に抑えられる態様で、運転計画40を補正する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電気炉を有する設備の運転計画を作成する運転計画作成装置であって、
前記複数の電気炉について各別に、同電気炉の運転時における電力消費パターンを記憶するパターン記憶部と、
前記設備の総消費電力量のピークが所定レベル以下に抑えられる態様で定められた前記運転計画を作成する運転計画作成部と、
前記複数の電気炉の実際の運転状態を検出する検出部と、
前記検出部によって検出される前記実際の運転状態と前記パターン記憶部に記憶されている前記電力消費パターンとに基づいて、前記ピークが前記所定レベル以下に抑えられる態様で、前記運転計画を補正する補正部と、
を有する運転計画作成装置。
【請求項2】
前記複数の電気炉は、真空炉と大気炉とを含み、
前記パターン記憶部は、前記真空炉の運転時における電力消費パターンとしては時間経過とともに電力消費量が変動するパターンを記憶するとともに、前記大気炉の運転時における電力消費パターンとしては電力消費量が一定のパターンを記憶している
請求項1に記載の運転計画作成装置。
【請求項3】
前記設備は空調装置を有し、
前記パターン記憶部は、前記空調装置の運転時における電力消費パターンとして、予め定められた特定のパターンを記憶している
請求項1または2に記載の運転計画作成装置。
【請求項4】
前記所定レベルは、前記設備の電源についての電力供給業者との契約電力以下の電力値である
請求項1~3のいずれか一項に記載の運転計画作成装置。
【請求項5】
前記検出部は、前記電気炉の実際の運転状態として、当該電気炉の運転が開始されたことを検出する
請求項1~4のいずれか一項に記載の運転計画作成装置。
【請求項6】
前記検出部は、前記電気炉の実際の運転状態として、当該電気炉の運転が停止されたことを検出する
請求項1~5のいずれか一項に記載の運転計画作成装置。
【請求項7】
前記補正部は、前記電気炉の運転中断の後に運転を再開する際には、当該電気炉の前記電力消費パターンにおける中断時点以降の部分に基づいて前記運転計画を補正する
請求項1~6のいずれか一項に記載の運転計画作成装置。
【請求項8】
前記設備の操業実績を集計するとともに前記設備の生産管理システムの操業実績データに反映させる集計部を有する
請求項1~7のいずれか一項に記載の運転計画作成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電気炉を有する設備についての運転計画を作成する運転計画作成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気式の加熱炉(いわゆる電気炉)を利用して、部品の熱処理を行うことが多用されている。電気炉は、一般的な電気機器と比較して、消費電力量が大きい。そのため、そうした電気炉が多数設置された工場では、それら電気炉の安定運転のために、総消費電力量のピークを抑えることが課題になる。
【0003】
従来、複数の電気炉の運転に先立ち、それら電気炉の運転計画、詳しくは総消費電力量のピークを抑えることの可能な運転スケジュールを予め作成する装置が提案されている(特許文献1参照)。この装置では、複数の電気炉を備える工場において、上記運転スケジュールにならって電気炉を計画的に運転することが可能になるため、総消費電力量のピークを抑えることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気炉の運転に際しては、季節要因(天候、気温)によって運転期間が変動したり何らかのトラブルによって運転開始が遅延したりするなど、種々の外乱がある。そのため、どうしても電気炉の運転は予め定めた運転計画の通りには進まず、運転計画と実際の運転状態とにはずれが生じてしまう。これにより、場合によっては、複数の電気炉についての総消費電力量のピークを適正に抑えられなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための運転計画作成装置は、複数の電気炉を有する設備の運転計画を作成する運転計画作成装置であって、前記複数の電気炉について各別に、同電気炉の運転時における電力消費パターンを記憶するパターン記憶部と、前記設備の総消費電力量のピークが所定レベル以下に抑えられる態様で定められた前記運転計画を作成する運転計画作成部と、前記複数の電気炉の実際の運転状態を検出する検出部と、前記検出部によって検出される前記実際の運転状態と前記パターン記憶部に記憶されている前記電力消費パターンとに基づいて、前記ピークが前記所定レベル以下に抑えられる態様で、前記運転計画を補正する補正部と、を有する。
【0007】
上記構成によれば、複数の電気炉についての実際の運転状態が運転計画からずれた場合に、実際の運転状態に応じた形で運転計画を見直すことができる。この場合には、パターン記憶部に記憶されている電力消費パターンを利用しつつ運転計画を補正することで、複数の電気炉についての総消費電力量のピークが予め定められた所定レベルを超えることのないように、運転計画を逐次更新することができる。そのため、この運転計画をもとに、高い精度で総消費電力量のピークを抑えることができる。
【0008】
上記運転計画作成装置において、前記複数の電気炉は、真空炉と大気炉とを含み、前記パターン記憶部は、前記真空炉の運転時における電力消費パターンとしては時間経過とともに電力消費量が変動するパターンを記憶するとともに、前記大気炉の運転時における電力消費パターンとしては電力消費量が一定のパターンを記憶していることが好ましい。
【0009】
炉内を低圧(いわゆる真空)にした状態で熱処理を行う真空炉は、基本的には、次のように運転される。先ず、部品を炉内に入れて低圧にした状態で所定時間をかけて炉内温度を常温から所定温度まで上昇させる。その後、所定時間にわたり炉内温度が所定温度のままで保持される。このとき炉内の部品への熱処理が行われる。そして、所定時間をかけて炉内温度を所定温度以下まで低下させて、大気圧に戻した後に、炉内から部品が取り出される。こうした真空炉の電力消費パターンは、時間経過とともに電力消費量が変動するパターンになる。
【0010】
これに対して、炉内が大気圧の状態で熱処理を行う大気炉の運転に際しては、基本的に、炉内温度は比較的長い時間にわたって一定の温度で保持される。そして、大気炉を運転した状態のままで、炉内に対する部品の出し入れが行われる。このことから、大気炉の電力消費パターンは電力消費量が略一定のパターンになると云える。
【0011】
上記構成によれば、そうした真空炉の電力消費パターンや大気炉の電力消費パターンがパターン記憶部に記憶されているため、それら電力消費パターンをもとに、真空炉および大気炉を含む設備の運転計画を適正に補正することができる。
【0012】
上記運転計画作成装置において、前記設備は空調装置を有し、前記パターン記憶部は、前記空調装置の運転時における電力消費パターンとして、予め定められた特定のパターンを記憶している。
【0013】
空調装置の消費電力は、季節や気象条件(温度や湿度など)が同一であれば、略同一になる。そのため、空調装置の消費電力の変化パターンは、精度よく推定することが可能であると云える。上記構成によれば、そうした空調装置の電力消費パターン(上記特定のパターン)が予め定められてパターン記憶部に記憶されているため、運転計画の作成や補正に際して、空調装置の消費電力を考慮することができる。そのため、設備の総消費電力量のピークをより高い精度で抑えることができる。
【0014】
上記運転計画作成装置において、前記所定レベルは、前記設備の電源についての電力供給業者との契約電力以下の電力値であることが好ましい。
上記構成によれば、消費電力量が契約電力を超えることを、高い精度で抑えることができる。
【0015】
上記運転計画作成装置において、前記検出部は、前記電気炉の実際の運転状態として、当該電気炉の運転が開始されたことを検出することが好ましい。
上記構成によれば、運転計画に定められた電気炉の運転開始時期に対して実際の運転開始が早まったり遅れたりした場合には、これに起因する同電気炉の運転期間のずれを考慮しつつ、その後の複数の電気炉の運転計画を適宜のタイミングで見直すことができる。
【0016】
上記運転計画作成装置において、前記検出部は、前記電気炉の実際の運転状態として、当該電気炉の運転が停止されたことを検出することが好ましい。
上記構成によれば、運転計画に定められた電気炉の運転完了時期に対して実際の運転完了が早まったり遅れたりした場合には、同電気炉の運転完了時期のずれに合わせて、以後における複数の電気炉の運転計画を適宜のタイミングで見直すことができる。
【0017】
上記運転計画作成装置において、前記補正部は、前記電気炉の運転中断の後に運転を再開する際には、当該電気炉の前記電力消費パターンにおける中断時点以降の部分に基づいて前記運転計画を補正することが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、電気炉の運転が中断されたときには、運転再開時における運転計画の見直し補正に際し、その補正パラメータとして同電気炉の電力消費パターンの全体を用いるのではなく、電力消費パターンの中断時点以降の部分を用いることができる。すなわち、電力消費パターンを中断前の部分と残りの部分とに分けるとともに、残りの部分を上記補正パラメータとして用いることができる。これにより、電気炉の運転再開時において、当該電気炉を含む設備の運転計画を適正に補正することができる。
【0019】
上記運転計画作成装置において、前記設備の操業実績を集計するとともに前記設備の生産管理システムの操業実績データに反映させる集計部を有することが好ましい。
上記構成によれば、設備の操業実績データ(例えば日報や、週報、月報など)を自動的に作成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高い精度で設備の総消費電力量のピークを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態の運転計画作成装置の概略構成を示す略図。
【
図3】真空炉についての予測消費電力データの一例を概念的に示す略図。
【
図4】大気炉についての予測消費電力データの一例を概念的に示す略図。
【
図5】空調装置の消費電力量の一日の推移の一例を示すタイムチャート。
【
図6】予測総消費電力データの一例を概念的に示す略図。
【
図9】電気炉の運転停止が遅れた場合における運転計画の補正態様を示す略図。
【
図10】電気炉の運転停止が早まった状況を示す略図。
【
図11】電気炉の運転停止が早まった場合の運転計画の補正態様を示す略図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、運転計画作成装置の一実施形態について説明する。
本実施形態の運転計画作成装置は、複数の電気式加熱炉(いわゆる電気炉)を有する設備を支援対象として、単位時間当たりの消費電力量の最大値(ピーク)を所定レベル以下に抑えることの可能な同設備の運転計画を求める装置である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の運転計画作成装置30が適用される施設は、複数の電気炉21を有する熱処理工場20である。この熱処理工場20では、電気炉21を利用して、複数の部品Pに対する熱処理を同時並行で行うことが可能になっている。
【0024】
熱処理工場20における各設備のうち、各電気炉21は、他の設備と比較して消費電力が大きい設備である。すなわち、複数の電気炉21は、熱処理工場20における電力消費量を支配する設備であると云える。
【0025】
熱処理工場20には、電気炉21として、炉内を低圧(いわゆる真空)にした状態で熱処理を行う真空炉VFと、炉内を大気圧にした状態で熱処理を行う大気炉VAとの2種類の電気炉が設けられている。
【0026】
真空炉VFでは、次のようにして部品Pに対する熱処理が行われる。先ず、部品Pを炉内に入れて低圧にした状態で所定時間(昇温期間)をかけて炉内温度を常温から所定温度まで上昇させる。その後、所定時間(均熱期間)にわたり炉内温度が所定温度のままで保持される。このとき炉内の部品Pへの熱処理が行われる。そして、所定時間(冷却期間)をかけて炉内温度を所定温度まで低下させて、大気圧に戻した後に、炉内から部品Pが取り出される。
【0027】
これら昇温期間や均熱期間、冷却期間といった各期間における炉内温度の目標値は、部品Pに対する熱処理の処理条件にあたる。この処理条件は、真空炉VFによって熱処理を行う対象の複数種類の部品P毎に予め設定されている。
【0028】
真空炉VFの消費電力は、昇温期間において「0」から増加して一旦最大値に達した後に減少し、均熱期間においては略一定値で維持されるようになる。そして、均熱期間が終了すると、真空炉VFの消費電力は減少し、冷却期間の途中で「0」になる。したがって、真空炉VFの電力消費パターンは、時間経過とともに電力消費量が変動するパターンになる。
【0029】
大気炉VAでは、次のようにして部品Pに対する熱処理が行われる。すなわち、部品Pに対して熱処理を行う際には、炉内温度は比較的長い時間(例えば24時間)にわたって一定の温度で保持される。そして、大気炉VAを運転した状態のままで、扉を開閉するなどして、炉内に対する部品Pの出し入れが行われる。このことから、大気炉VAの電力消費パターンは電力消費量が略一定のパターンになると云える。
【0030】
複数の電気炉21は、操作盤22を各別に有している。
操作盤22には、運転スイッチ23aや停止スイッチ23bが設けられている。運転スイッチ23aは、操作盤22に対応する電気炉21による熱処理の開始に際して作業者によって操作される操作スイッチである。停止スイッチ23bは、操作盤22に対応する電気炉21による熱処理の停止に際して作業者によって操作される操作スイッチである。
【0031】
操作盤22には、電気炉21の作動を制御する制御装置25や、操作表示部26、通信部27、記憶部28が設けられている。
制御装置25はプログラマブルコントローラによって構成されている。制御装置25はパーソナルコンピュータによって構成することもできる。
【0032】
操作表示部26は、電気炉21の運転状態に関する情報を表示する表示装置として機能する。また操作表示部26は、作業者によって操作されるタッチパネルによって構成されている。本実施形態では、作業者による操作表示部26の操作を通じて、電気炉21によって熱処理を行う部品Pに対応する作動パターン(具体的には、プログラムナンバー)が選択される。
【0033】
通信部27は、所定の通信回線を介して外部機器(運転計画作成装置30を含む)とのデータの送受信を行う通信装置であり、例えばLANやインターネットに準拠した通信プロトコルを用いて外部機器との通信を行う。この通信部27を介して、操作盤22は運転計画作成装置30に電気炉21の実際の運転状態に関するデータ(以下、実運転データ)を出力する。本実施形態では、操作盤22が検出部に相当する。
【0034】
実運転データは、各電気炉21の消費電力Wや、ラン信号、エンド信号、プログラムナンバー信号を含んでいる。ラン信号は電気炉21が運転されている場合に「オン」操作される信号である。このラン信号がオン操作されていることをもって、同信号に対応する電気炉21が運転されていると判断することができる。エンド信号は電気炉21の運転が停止されている場合に「オン」操作される信号である。このエンド信号がオン操作されていることをもって、同信号に対応する電気炉21の運転が停止されていると判断することができる。また、ラン信号がオン操作されるとともにエンド信号がオフ操作されたことをもって、それら信号に対応する電気炉21の運転が開始されたことを判断することができる。さらに、ラン信号がオフ操作されるとともにエンド信号がオン操作されたことをもって、それら信号に対応する電気炉21の運転が停止されたことを判断することができる。プログラムナンバー信号は、そのときどきにおいて選択されている「プログラムナンバー」に対応する値を示す信号であり、この信号をもとに同信号に対応する電気炉21において選択されているプログラムナンバーを把握することができる。
【0035】
記憶部28には、作業者によって選択される「プログラムナンバー」に対応する作動パターンでの電気炉21の運転を実現する実行プログラムが記憶されている。なお本実施形態では、上記「プログラムナンバー」に対応する電気炉21の作動パターンとして、同電気炉21の運転開始と運転停止とを繰り返す作動パターンが定められている。こうした作動パターンにおいて、同一の電気炉21の2回目以降の運転が開始されたことは、同電気炉21に対応するエンド信号がオフ操作された後にラン信号がオン操作されたことをもって判断することができる。
【0036】
熱処理工場20には、施設内の空気の温度や湿度などを調整する空調装置29が設けられている。また熱処理工場20には、作業者によって操作される運転切替スイッチ29Aが設けられている。この運転切替スイッチ29Aの操作を通じて、空調装置29が作動する作動状態と同空調装置29が作動しない非作動状態とが切り替えられるようになっている。
【0037】
熱処理工場20には、部品Pの生産を管理するための生産管理システム24が設けられている。
生産管理システム24には、作業者による入力作業を通じて、所定期間において熱処理工場20で熱処理を行う部品Pについての情報(生産データ)が入力されて記憶されている。生産データは、以下の(データA1)~(データD1)を含んでいる。
【0038】
(データA1)所定期間において熱処理工場20で熱処理を行う全ての部品Pの品番。
(データB1)所定期間において運転される電気炉21と、同電気炉21の作動パターン(プログラムナンバー)。
【0039】
(データC1)所定期間において運転される電気炉21についての運転開始日時(詳しくは、その調整可能範囲)。
(データD1)所定期間において熱処理工場20で熱処理を行う部品Pの納期。
【0040】
生産管理システム24には、熱処理工場20の操業実績を集計したデータである操業実績データ(いわゆる日報、週報、月報)が記憶されている。
また生産管理システム24は通信部24aを有している。通信部24aは、所定の通信回線を介して外部機器(前記運転計画作成装置30を含む)とのデータの送受信を行う通信装置であり、例えばLANやインターネットに準拠した通信プロトコルを用いて外部機器との通信を行う。この通信部24aを介して、生産管理システム24は運転計画作成装置30の集計部44から熱処理工場20の操業実績に関するデータを受信する。生産管理システム24は、このデータを前記操業実績データに反映させることで、操業実績データを自動的に作成する機能を有している。
【0041】
本実施形態の運転計画作成装置30は、所定の支援プログラム(ソフトウエア)が搭載された一種のコンピュータである。運転計画作成装置30は、記憶部31、入力装置32、通信部33、演算部34、表示部35、および集計部44を備えている。
【0042】
記憶部31は、ROMおよびRAMなどの内部記憶装置やハードディスク等の外部記憶装置によって構成されている。
記憶部31には、上記支援プログラムとして、消費電力予測プログラム36や、運転計画作成プログラム37、運転計画補正プログラム38が記憶されている。消費電力予測プログラム36は、電気炉21や空調装置29の運転時における消費電力の推移を示す予測消費電力データ41を生成するための支援プログラムである。運転計画作成プログラム37は、本実施形態の設備の運転に先立ち、各電気炉21や空調装置29の予測消費電力データ41をもとに、単位時間当たりの消費電力量のピークを所定レベル以下に抑えることの可能な運転計画を生成するための支援プログラムである。本実施形態では、運転計画作成プログラム37が運転計画作成部に相当する。運転計画補正プログラム38は、設備の運転中において、前記実運転データと予測消費電力データ41とに基づいて、上記ピークが所定レベル以下に抑えられる態様で、同設備の運転計画を補正するための支援プログラムである。
【0043】
また記憶部31には、消費電力データベース39が記憶されている。消費電力データベース39は、電気炉21の運転時における消費電力の時間変化(以下、電力消費パターン)が複数登録されたデータテーブルである。電力消費パターンは、複数の電気炉21について各別に、且つ各電気炉21の作動パターン(プログラムナンバー)毎に予め定められて登録されている。また、消費電力データベース39には、空調装置29の運転時における電力消費パターンとして、予め定められた特定のパターンが登録されている。本実施形態では、上記電力消費パターンとして、各電気炉21や空調装置29の過去の運転データをもとに定めた電力消費パターンが登録されている。なお、上記電力消費パターンとしては、実験やシミュレーションの結果をもとに定めた電力消費パターンを登録することなども可能である。本実施形態では、記憶部31における消費電力データベース39が記憶される記憶領域がパターン記憶部に相当する。
【0044】
入力装置32は、運転計画作成装置30を運用する作業者の操作指示を受け付ける装置である。入力装置32は、具体的にはキーボードやマウス等のポインティングデバイスによって構成されている。入力装置32は、作業者の操作指示に対応した操作信号を演算部34に出力する。入力装置32の操作を通じて、生産管理システム24からの前記生産データの取り込みや、前記所定レベルの設定、前記電力消費パターンの登録および更新、前記運転計画40の作成指示など、運転計画作成装置30による各種の処理を実行することができる。
【0045】
通信部33は、所定の通信回線を介して外部機器(詳しくは、各電気炉21の操作盤22や生産管理システム24)とのデータの送受信を行う通信装置であり、例えばLANやインターネットに準拠した通信プロトコルを用いて外部機器との通信を行う。
【0046】
演算部34は、インターフェース回路やCPUなどのハードウェアによって構成されている。インターフェース回路は、記憶部31、入力装置32、通信部33、表示部35、および集計部44の間における各種信号の授受を行うための電子回路である。CPUは、上述した支援プログラムを実行する中央処理装置である。演算部34は、上述した各種プログラム36~38、消費電力データベース39、および実運転データ等に基づいて、設備の運転計画を求める演算装置である。本実施形態では、演算部34が補正部に相当する。
【0047】
表示部35は液晶ディスプレイによって構成されており、上記演算部34における各種の演算結果、すなわち設備の運転計画に関する情報を画像表示する表示装置である。この表示部35は、演算部34から入力される映像信号に基づいて、上記運転計画に関する情報を表示する。本実施形態では、運転計画に関する情報として、各電気炉21の運転スケジュール(詳しくは、運転開始時刻)や、予測される設備の総消費電力量のピークの推移が採用されている。
【0048】
集計部44は、実運転データや運転計画作成装置30の作動態様に基づいて熱処理工場20の操業実績を把握して集計するとともに、その集計したデータを生産管理システム24に出力する。生産管理システム24は、このデータを受信するとともに操業実績データに反映させる。
【0049】
以下、運転計画作成装置30によって熱処理工場20の運転計画を作成する処理(作成処理)について説明する。
図2は、上記作成処理の実行手順を示している。なお同
図2のフローチャートに示される一連の処理は、運転計画作成装置30により実行される。
【0050】
図2に示すように、この処理では先ず、作業者による入力装置32の操作を通じて、所定の計画期間(本実施形態では、7日間)において熱処理工場20で熱処理を行う部品Pについての情報(基本データ)が取り込まれる(ステップS11)。ステップS11の処理では、生産管理システム24から基本データが取り込まれるとともに記憶部31に記憶される。基本データは、以下の(データA2)~(データD2)を含んでいる。
【0051】
(データA2)計画期間において熱処理工場20で熱処理を行う全ての部品Pの品番。
(データB2)計画期間において運転される電気炉21と、同電気炉21に紐付けられたプログラムナンバー。
【0052】
(データC2)計画期間において運転される電気炉21についての運転開始日時(詳しくは、その調整可能範囲)。
(データD2)計画期間において熱処理工場20で熱処理を行う部品Pの納期。
【0053】
その後、消費電力予測プログラム36や運転計画作成プログラム37の実行を通じて、上記基本データおよび前記消費電力データベース39に基づいて、熱処理工場20の運転計画40が作成される(ステップS12)。
【0054】
この処理では、仮の運転計画を作成するとともに同運転計画を検証するとの一連の処理が、熱処理工場20の単位時間(本実施形態では30分)当たりの総消費電力量が所定レベルを超えないとの検証結果が得られるようになるまで繰り返し実行される。本実施形態では、所定レベルとして、複数の電気炉21および空調装置29を含む設備の電源についての電力供給業者との契約電力(例えば250kW)が定められている。
【0055】
具体的には先ず、基本データをもとに、以下の(作成条件A)~(作成条件C)の全てを満たす態様で、各電気炉21の運転開始日時が定められる。
(作成条件A)計画期間内において全ての部品Pの熱処理が完了する。
【0056】
(作成条件B)熱処理工場20の単位時間当たりの総消費電力量[P30トータル]のピークをできるだけ小さくする。
(作成条件C)全ての部品Pの熱処理が完了するタイミングをできるだけ早くする。
【0057】
その後、所定の計画期間において運転される各電気炉21のプログラムナンバーに対応する電力消費パターンが読み込まれるとともに、それら電力消費パターンをもとに消費電力予測プログラム36が実行される。これにより、電気炉21のプログラムナンバー毎に、単位時間当たりの消費電力量[P30]の変化パターン(予測消費電力データ41(
図1参照))が作成される。
図3に一例を示すように、真空炉VFの予測消費電力データ41としては、運転期間において時間経過とともに消費電力量[P30]が変動するデータが作成される。また、
図4に一例を示すように、大気炉VAの予測消費電力データ41としては、運転期間(T1~T2)において消費電力量[P30]が一定のデータが作成される。なお、
図4中に一点鎖線で示すように、大気炉VAを起動する場合、詳しくは大気炉VAの炉内温度を制御温度まで上昇させる場合には、運転期間の前の起動期間(T0~T1)における消費電力量[P30]を含む予測消費電力データ41が作成される。この予測消費電力データ41では、起動期間における消費電力量[P30]としては、運転期間における消費電力量[P30]よりも大きい値が定められる。
【0058】
空調装置29の予測消費電力データ41は、次のような考えのもとに作成される。
図5に一例を示すように、空調装置29の消費電力は、朝方や夜間と比較して昼間に大きくなる傾向がある。また空調装置29の消費電力は、夏季において最も大きくなり、冬季においては夏季よりも小さくなり、中間季(春季や秋季)において最も小さくなる傾向がある。このように空調装置29の消費電力パターンは、季節や時間帯に応じて変化する特定のパターンになる。このことをふまえて、空調装置29の予測消費電力データ41としては、朝方や夜間の消費電力量[P30]と比較して昼間の消費電力量[P30]が多くなるデータが作成される。また空調装置29の予測消費電力データ41としては、運転計画作成装置30に設定されている日付に基づいて、中間季よりも冬季のほうが消費電力量[P30]が大きくなり、また冬季よりも夏季のほうが消費電力量[P30]が大きくなるデータが作成される。
【0059】
そして、
図6に一例を示すように、同一の期間における消費電力量[P30]を加算する態様で、各電気炉21の予測消費電力データ41と空調装置29の予測消費電力データ41とが加算される。これにより、熱処理工場20についての単位時間当たりの総消費電力量[P30トータル]の変化パターン(予測総消費電力データ43(
図1参照))が作成される。
【0060】
本実施形態では、こうした一連の処理が、予測総消費電力データ43における総消費電力量[P30トータル]のピークが所定の計画期間の全体にわたり所定レベルを超えない運転計画が作成されるまで、上述した仮の運転計画を変更しつつ繰り返し実行される。
【0061】
そして、予測総消費電力データ43における総消費電力量[P30トータル]のピークが、計画期間の全体にわたって所定レベルを超えないとの検証結果が得られると、このときの運転計画が正式な運転計画40として記憶部31に記憶される。
【0062】
本実施形態では、記憶部31に記憶された運転計画40は表示部35に表示される(ステップS13)。作業者は、表示部35に表示される運転計画(詳しくは、各電気炉21の運転開始日時)をもとに、各電気炉21の運転を実行する。
【0063】
ここで、電気炉21の運転に際しては、季節要因による運転期間の変動や、トラブルによる運転開始の遅延などといった種々の外乱がある。そのため、どうしても電気炉21の運転は予め定めた運転計画の通りには進まず、運転計画と実際の運転状態とにはずれが生じる。これにより、場合によっては、複数の電気炉21についての総消費電力量のピークを適正に抑えられなくなる。
【0064】
そこで、本実施形態では、電気炉21の実際の運転状態(実運転データ)を検出し、その実運転データをもとに、運転計画40を補正するようにしている。
以下、運転計画40を補正する処理(補正処理)について説明する。
【0065】
図7は、上記補正処理の実行手順を示している。なお同
図7のフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の処理として、運転計画作成装置30により実行される。
図7に示すように、この処理では先ず、運転計画40の見直しを行う所定時間(本実施形態では、5分)毎のタイミング(見直しタイミング)になったか否かが判断される(ステップS21)。そして、見直しタイミングでないと判断される場合には(ステップS21:NO)、以下の処理を実行することなく、本処理は終了される。
【0066】
その後、見直しタイミングになると(ステップS21:YES)、各電気炉21についての実運転データ(具体的には、消費電力W、ラン信号、エンド信号、プログラムナンバー信号)が検出される(ステップS22)。
【0067】
そして、実運転データに基づいて運転計画40が補正される(ステップS23)。
ステップS23の処理では、次のような考えのもとに運転計画40が補正される。各電気炉21の実運転データから、各電気炉21の実際の運転状態を把握することができる。また、そうした実際の運転状態と記憶部31に記憶されている最新の運転計画40とを比較することで、各電気炉21の運転が運転計画40の通りに進んでいるか否かを判断することができる。そして、各電気炉21の実際の運転状態と最新の運転計画40とが一致している場合には、各電気炉21の運転が運転計画40の通りに進んでいるとして、同運転計画40は補正されない。一方、各電気炉21の実際の運転状態と最新の運転計画40と一致しない場合には、各電気炉21の運転が運転計画40の通りに進んでいないとして、電気炉21の実際の運転状態に合わせる態様で運転計画40は補正される。
【0068】
以下、運転計画40の補正態様について詳しく説明する。
図8に一例を示すように、最新の運転計画40において電気炉21Aの運転が停止される予定のタイミングT11であるのにも関わらず、同電気炉21Aについてのエンド信号が入力されない場合、同電気炉21Aの運転が実際には停止されていないと判断される。この場合には、
図9に一例を示すように、次回の運転計画40の見直しタイミングT12まで、電気炉21Aの運転が継続されるとの仮定のもとで、運転計画40は補正される。具体的には、複数の電気炉21A~21Dのうち、電気炉21Aの運転完了の直後に運転開始する予定の電気炉21Dの運転開始日時が見直しタイミングT12まで遅らせられる。また、そうした電気炉21Dの運転開始日時の変更に合わせて、以後における複数の電気炉21の運転計画40の見直しが実行される。詳しくは、消費電力予測プログラム36や運転計画補正プログラム38の実行を通じて、上記実運転データ、前記基本データおよび消費電力データベース39に基づいて、新たな運転計画40が作成されるとともに同運転計画40が記憶部31に記憶、更新される。
【0069】
図10に一例を示すように、最新の運転計画40において電気炉21Aの運転が停止される予定のタイミングT22よりも前のタイミングT21で同電気炉21Aについてのエンド信号が入力された場合には、同電気炉21Aの運転が早期に停止されたと判断される。この場合には、
図11に一例を示すように、今回の見直しタイミングT21において電気炉21D(詳しくは、電気炉21Aの運転停止に合わせて運転が開始される電気炉)の運転が開始されるとの仮定のもとで、運転計画40は補正される。具体的には、複数の電気炉21A~21Dのうち、電気炉21Aの運転完了の直後に運転開始する予定の電気炉21Dの運転開始日時がタイミングT21まで早められる。また、そうした電気炉21Dの運転開始日時の変更に合わせて、以後における複数の電気炉21の運転計画40の見直しが実行される。詳しくは、消費電力予測プログラム36や運転計画補正プログラム38の実行を通じて、上記実運転データ、前記基本データおよび消費電力データベース39に基づいて、新たな運転計画40が作成されるとともに同運転計画40が記憶部31に記憶、更新される。
【0070】
また本実施形態では、最新の運転計画40において電気炉21Aの運転が開始される予定のタイミングT31であるのにも関わらず、同電気炉21Aについてのラン信号が入力されない場合には、同電気炉21Aの運転が実際には開始されていないと判断される。この場合には、次回の運転計画の見直しタイミングT32において、電気炉21Aの運転が開始されるとの仮定のもとで、運転計画40が補正される。また、そうした電気炉21Aの運転開始日時の変更に合わせて、以後における複数の電気炉21の運転計画40の見直しが実行される。詳しくは、消費電力予測プログラム36や運転計画補正プログラム38の実行を通じて、上記実運転データ、前記基本データおよび消費電力データベース39に基づいて、新たな運転計画40が作成されるとともに同運転計画40が記憶部31に記憶、更新される。
【0071】
さらに本実施形態では、最新の運転計画40における電気炉21Aの運転期間の中盤のタイミングT41において、同電気炉21Aのラン信号がオフ操作されるとともにエンド信号がオン操作された場合、電気炉21Aの運転は実際には中断されていると判断される。この場合には、次回の運転計画40の見直しタイミングT42において、電気炉21Aの運転が再開されるとの仮定のもとで、運転計画40が補正される。また、そうした電気炉21Aの運転再開に合わせて、以後における複数の電気炉21の運転計画40の見直しが実行される。詳しくは、消費電力予測プログラム36や運転計画補正プログラム38の実行を通じて、上記実運転データ、前記基本データおよび消費電力データベース39に基づいて、新たな運転計画40が作成されるとともに同運転計画40が記憶部31に記憶、更新される。なお、運転計画40の補正に際しては、電気炉21Aの電力消費パターンとしては同電気炉21Aの運転が中断された時点以降の部分が利用される。すなわち、電気炉21Aの電力消費パターンを中断前の部分と残りの部分とに分けられるとともに、残りの部分が運転計画40を補正する補正パラメータとして用いられる。
【0072】
本実施形態の補正処理では、こうして運転計画40が補正された後(ステップS23)、記憶部31に記憶されている運転計画40が表示部35に表示される(ステップS24)。
【0073】
本実施形態の運転計画作成装置30によれば、以下に記載する作用効果が得られる。
(1)複数の電気炉21についての実際の運転状態(実運転データ)が運転計画40からずれた場合に、実際の運転状態に応じたかたちで運転計画40を見直して更新することができる。しかも、本実施形態では、記憶部31に記憶されている消費電力データベース39(詳しくは、各電気炉21の電力消費パターン)を利用しつつ運転計画40が補正される。そのため、熱処理工場20の単位時間当たりの総消費電力量[P30トータル]のピークが予め定められた所定レベルを超えることのないように、運転計画40を逐次更新することができる。したがって、この運転計画40をもとに、高い精度で複数の電気炉21の総消費電力量のピークを抑えることができる。
【0074】
(2)記憶部31には、真空炉VFの運転時における電力消費パターンとしては時間経過とともに電力消費量が変動するパターンが記憶されており、大気炉VAの運転時における電力消費パターンとしては電力消費量が一定のパターンが記憶されている。そのため、真空炉VFの実態に即した電力消費パターンと大気炉VAの実態に即した電力消費パターンとをもとに、それら真空炉VFおよび大気炉VAを備える熱処理工場20の運転計画40の作成と補正とを適正に行うことができる。
【0075】
(3)記憶部31には、空調装置29の運転時における電力消費パターンとして、予め定められた特定のパターンが記憶されている。空調装置29の消費電力は、季節や気象条件(温度や湿度など)が同一であれば、略同一になる。そのため、空調装置29の消費電力の変化パターンは、精度よく推定することが可能であると云える。本実施形態によれば、そうした空調装置29の電力消費パターン(上記特定のパターン)が予め定められて記憶部31に記憶されているため、運転計画40の作成や補正に際して、空調装置29の消費電力を考慮することができる。そのため、熱処理工場20の総消費電力量のピークをより高い精度で抑えることができる。
【0076】
(4)複数の電気炉21および空調装置29を備える熱処理工場20の単位時間当たりの総消費電力量のピークを制限する所定レベルとして、熱処理工場20の電源についての電力供給業者との契約電力が定められている。そのため、複数の電気炉21および空調装置29を備える熱処理工場20の電源における消費電力量が契約電力を超えることを、高い精度で抑えることができる。
【0077】
(5)ラン信号がオン操作されるとともにエンド信号がオフ操作されたことをもって、同信号に対応する電気炉21の運転が開始されたことを検出することができる。そのため、運転計画40に定められた電気炉21の運転開始時期に対して実際の運転開始が早まったり遅れたりした場合には、これに起因する同電気炉21の運転期間のずれを考慮しつつ、運転計画40を見直すことができる。
【0078】
(6)エンド信号がオン操作されるとともにラン信号がオフ操作されたことをもって、同信号に対応する電気炉21の運転が停止されたことを検出することができる。そのため、運転計画40に定められた電気炉21の運転完了時期に対して実際の運転完了が早まったり遅れたりした場合には、同電気炉21の運転完了時期のずれに合わせて、以後における複数の電気炉21の運転計画を見直すことができる。
【0079】
(7)電気炉21の運転が中断されたときには、運転再開時における運転計画40の見直し補正に際して、補正パラメータとして同電気炉21の電力消費パターンの全体を用いるのではなく、同電力消費パターンの中断時点以降の部分を用いることができる。これにより、電気炉21の運転再開時において、当該電気炉21を含む施設の運転計画40を適正に補正することができる。
【0080】
(8)集計部44によって熱処理工場20の操業実績を集計するとともに、その操業実績に関するデータを生産管理システム24に出力するようにした。そのため、熱処理工場20の操業実績データを自動的に作成して生産管理システム24に記憶させることができる。
【0081】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0082】
・基本データを運転計画作成装置30の記憶部31に記憶させる方法は、所定の通信回線を介して生産管理システム24から取り込む方法に限らず、任意に変更することができる。例えば基本データを、作業者による入力装置32の操作を通じて運転計画作成装置30に直接入力するようにしたり、持ち運び可能な記録媒体(SDメモリーカードやUSBメモリなど)を利用して運転計画作成装置30に取り込むようにしたりしてもよい。
【0083】
・集計部44を省略することができる。
・補正処理(
図7)において、見直しタイミングの時間間隔は、5分間隔に限らず、任意に変更することができる。
【0084】
・電気炉21の運転中断時において運転計画40を補正する補正パラメータとして、電力消費パターンにおける中断時点以降の部分を用いることに代えて、実際の消費電力Wの積算値をもとに電力消費パターンの残りの部分を特定して用いるようにしてもよい。こうした構成によれば、電気炉21において実際に消費された電力量に応じて運転再開時における運転計画40を作成することができるため、この運転計画40をもとに、高い精度で複数の電気炉21の総消費電力量のピークを抑えることができる。
【0085】
・消費電力データベース39に登録される前記空調装置29の運転時における電力消費パターンを、季節に応じて変化する特定のパターンにすることに限らず、気温や湿度に応じて変化する特定のパターンとしてもよい。
【0086】
・運転計画40の作成や補正に際して空調装置29の運転時における電力消費パターンを用いる構成を省略することができる。
・実運転データとして検出する信号は、任意に変更することができる。例えば、ラン信号およびエンド信号の一方のみを検出するようにしてもよい。
【0087】
・電気炉21が実際に運転されていることを検出する方法は、ラン信号やエンド信号をもとに検出する方法に限らず、電気炉21や操作盤22に専用のセンサを設けて検出する方法など、任意に変更することができる。
【0088】
・電気炉21の運転が実際に停止されていることを検出する方法は、ラン信号やエンド信号をもとに検出する方法に限らず、電気炉21や操作盤22に専用のセンサを設けて検出する方法など、任意に変更することができる。
【0089】
・電気炉21の運転が実際には中断されていることを検出する方法は、任意に変更することができる。例えば電気炉21の運転が中断されていることは、電気炉21の運転中断に際して制御装置25から出力される中断信号をもとに判断したり、作業者が電気炉21の運転を強制停止させるべく停止スイッチ23bを操作したことをもって判断したりすることができる。
【0090】
・所定レベルとして、熱処理工場20の電源についての電力供給業者との契約電力を設定することに限らず、契約電力よりも低い電力値を設定するなど、任意の電力値を設定することができる。
【0091】
・所定の計画期間は、7日間に限らず、任意に変更することができる。例えば所定の計画期間を1日(24時間)に設定したり、平日の5日間に設定したり、2週間に設定したり、1ヶ月に設定したりすることができる。
【0092】
・運転計画40を作成(または補正)する条件として、以下の(計画条件A)を設定することに加えて、以下の(計画条件B)を設定するようにしてもよい。(計画条件A)熱処理工場20の総消費電力量[P30トータル]のピークが所定レベル以下に抑えられる。(計画条件B)基本データによって定まる運転条件を満たす範囲で熱処理工場20の総消費電力量[P30トータル]のピークが最小化される。
【0093】
・上記実施形態にかかる運転計画装置は、炉内を高圧にした状態で熱処理を行う加圧炉を有する設備にも適用することができる。加圧炉は、基本的には、次のように運転される。先ず、部品を炉内に入れて高圧にした状態で所定時間をかけて炉内温度を常温から所定温度まで上昇させる。その後、所定時間にわたり炉内温度が所定温度のままで保持される。このとき炉内の部品への熱処理が行われる。そして、所定時間をかけて炉内温度を所定温度以下まで低下させて、大気圧に戻した後に、炉内から部品が取り出される。こうした加圧炉の電力消費パターンは、時間経過とともに電力消費量が変動するパターンになる。こうした加圧炉の電力消費パターンを運転計画作成装置の記憶部に予め記憶させておくことで、この電力消費パターンをもとに、加圧炉を含む設備の運転計画を適正に作成および補正することができる。
【0094】
・上記実施形態にかかる運転計画装置は、部品Pを洗浄する洗浄装置を有する設備にも適用することができる。洗浄装置は、基本的には、消費電力が略一定の状態で運転される。そのため、洗浄装置の電力消費パターンは、電力消費量が一定のパターンになる。こうした洗浄装置の電力消費パターンを運転計画作成装置の記憶部に予め記憶させておくことで、この電力消費パターンをもとに、洗浄装置を含む設備の運転計画を適正に作成および補正することができる。
【0095】
・上記実施形態にかかる運転計画作成装置は、大気炉VAを有していない設備にも適用することができる。
【符号の説明】
【0096】
20…熱処理工場
21…電気炉
22…操作盤
24…生産管理システム
25…制御装置
27…通信部
29…空調装置
30…運転計画作成装置
31…記憶部
33…通信部
34…演算部
35…表示部
39…消費電力データベース
40…運転計画
41…予測消費電力データ
43…予測総消費電力データ
44…集計部