IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-金属層積層板用フィルム 図1
  • 特開-金属層積層板用フィルム 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165324
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】金属層積層板用フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20221024BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
B32B15/08 M
B32B5/24 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070656
(22)【出願日】2021-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】三島 慧
(72)【発明者】
【氏名】永見 直斗
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AB17A
4F100AH02B
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK18B
4F100AK49B
4F100AK49C
4F100BA03
4F100DJ00B
4F100EH46B
4F100EJ42B
4F100EJ81
4F100EJ86B
4F100JA06B
4F100JG05
4F100YY00
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】多孔質樹脂層の厚み方向全体の平均孔径が小さいにも拘わらず、第5領域の平均孔径に対する第1領域の平均孔径の比が過小となることが抑制された金属層積層板用フィルムを提供すること。
【解決手段】金属層積層板用フィルム1は、金属層5の積層に用いられる。金属層積層板用フィルム1は、多孔質樹脂層2と、スキン層3とを厚み方向に順に備える。多孔質樹脂層2の厚み方向全体における平均孔径Wが、7.0μm以下である。多孔質樹脂層3は、多孔質樹脂層を厚み方向に5等分したときに、スキン層3から離れる方向に順に配置される第1領域11から第5領域15までを含む。第5領域15の平均孔径A5に対する第1領域11の平均孔径A1の比(A1/A5)が、0.45以上、1以下である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層の積層に用いられる金属層積層板用フィルムであり、
多孔質樹脂層と、スキン層とを厚み方向に順に備え、
前記多孔質樹脂層の厚み方向全体における平均孔径が、7.0μm以下であり、
前記多孔質樹脂層は、前記多孔質樹脂層を厚み方向に5等分したときに、前記スキン層から離れる方向に順に配置される第1領域から第5領域までを含み、
前記第5領域の平均孔径に対する前記第1領域の平均孔径の比が、0.45以上、1以下である、金属層積層板用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属層積層板用フィルム、詳しくは、金属層の積層に用いられる金属層積層板用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質樹脂層と、スキン層とを厚み方向に順に備える金属層積層板用フィルムが知られている(例えば、下記特許文献1参照。)。金属層に金属層積層板用フィルムを積層して、金属層積層板が得られる。
【0003】
特許文献1の実施例2に記載の金属層積層板用フィルムでは、多孔質樹脂層の厚み方向全体における平均孔径は、約8μmと大きい(図4に基づく)。また、上記した多孔質樹脂層を厚み方向に5等分したときに、スキン層から離れる方向に順に配置される第1領域から第5領域までを含み、第5領域の平均孔径に対する第1領域の平均孔径の比は、約0.8と、1に近い(図4に基づく)。つまり、第1領域の平均孔径が、第5領域の平均孔径と近似する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2018/186486号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属層積層板用フィルムから金属層積層板を製造する際、さらには、金属層積層板を加工する際に、金属層積層板用フィルムを厚み方向にプレス(具体的には、熱プレス)する場合がある。
【0006】
しかし、多孔質樹脂層の厚み方向全体の平均孔径が大きい場合には、上記したプレス後の厚みの減少率が過大となる。そうすると、プレス前後の誘電率が大きく変動するという不具合がある。
【0007】
一方、多孔質樹脂層の厚み方向全体の平均孔径を小さくすれば、第5領域の平均孔径に対する第1領域の平均孔径の比が過小となる。具体的には、上記した比が0に近づく。そうすると、第5領域の平均孔径が第1領域の平均孔径に対して過大となり、その結果、プレス前後の誘電率が大きく変動するという不具合がある。
【0008】
本発明は、多孔質樹脂層の厚み方向全体の平均孔径が小さいにも拘わらず、第5領域の平均孔径に対する第1領域の平均孔径の比が過小となることが抑制された金属層積層板用フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、金属層の積層に用いられる金属層積層板用フィルムであり、多孔質樹脂層と、スキン層とを厚み方向に順に備え、前記多孔質樹脂層の厚み方向全体における平均孔径が、7.0μm以下であり、前記多孔質樹脂層は、前記多孔質樹脂層を厚み方向に5等分したときに、前記スキン層から離れる方向に順に配置される第1領域から第5領域までを含み、前記第5領域の平均孔径に対する前記第1領域の平均孔径の比が、0.45以上、1以下である、金属層積層板用フィルムを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属層積層板用フィルムでは、多孔質樹脂層の厚み方向全体の平均孔径が7.0μm以下と小さいにも拘わらず、第5領域の平均孔径に対する第1領域の平均孔径の比が0.45以上であり、過小となることが抑制されている。そのため、プレス前後の誘電率の変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の金属層積層板用フィルムの一実施形態の断面図である。
図2図2は、金属層積層板用フィルムの変形例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<金属層積層板用フィルムの一実施形態>
本発明の金属層積層板用フィルムの一実施形態を、図1を参照して説明する。図1に示すように、金属層積層板用フィルム1は、厚みを有し、厚み方向に直交する面方向に延びる。金属層積層板用フィルム1の厚みは、特に限定されない。金属層積層板用フィルム1の周波数10GHzにおける誘電率は、例えば、2.5以下、好ましくは、2.0以下であり、また、例えば、1.0超過である。金属層積層板用フィルム1の誘電率は、誘電体共振器法により、実測される。金属層積層板用フィルム1の厚みは、例えば、2μm以上、好ましくは、5μm以上であり、また、例えば、1,000μm以下、好ましくは、500μm以下である。
【0013】
金属層積層板用フィルム1は、多孔質樹脂層2と、スキン層3とを厚み方向一方側に向かって順に備える。
【0014】
<多孔質樹脂層2>
多孔質樹脂層2は、金属層積層板用フィルム1における厚み方向他方面を形成する。多孔質樹脂層2は、面方向に延びる。多孔質樹脂層2は、多孔質である。多孔質樹脂層2は、独立気泡構造および/または連続気泡構造を有する。多孔質樹脂層2における空孔率は、例えば、50%以上、好ましくは、60%以上、より好ましくは、70%以上である。なお、多孔質樹脂層2の空孔率は、例えば、100%未満、さらには、99%以下である。多孔質樹脂層2がポリイミドからなる場合には、空孔率は下記式から求められる。
多孔質樹脂層2の誘電率=空気の誘電率×空孔率+ポリイミドの誘電率×(1-空孔率)
【0015】
<厚み方向全体における平均孔径W>
多孔質樹脂層2の厚み方向全体における平均孔径Wは、7.0μm以下である。多孔質樹脂層2の厚み方向全体における平均孔径Wが7.0μmを超過すると、金属層積層板用フィルム1を厚み方向にプレス(具体的には、熱プレス)すれば、プレスの厚みの変動率がマイナスで、しかも、その絶対値が大きくなる。つまり、厚みの減少率が過大となる。そうすると、金属層積層板用フィルム1のプレス前後の誘電率の変動が大きくなる。
【0016】
多孔質樹脂層2の厚み方向全体における平均孔径Wは、好ましくは、6.0μm以下である。また、多孔質樹脂層2の厚み方向全体における平均孔径Wの下限は、限定されない。多孔質樹脂層2の厚み方向全体における平均孔径Wの下限は、例えば、0.1μmである。多孔質樹脂層2の厚み方向全体における平均孔径Wの求め方は、後の実施例で記載する。
【0017】
<5等分された5つの領域>
多孔質樹脂層2は、多孔質樹脂層2を厚み方向に5等分したときに、厚み方向一方面から他方面に向かって順に配置される第1領域11から第5領域15までを含む。具体的には、多孔質樹脂層2では、第1領域11と、第2領域12と、第3領域13と、第4領域14と、第5領域15とが、厚み方向他方側に向かって(後述するスキン層3から離れる方向に向かって)順に配置される。図1において、厚み方向に隣接する領域の境界を1点破線で示しているが、実際の断面観察では、上記した境界は、観察されない。
【0018】
第1領域11は、多孔質樹脂層2の厚み方向一方面を形成する。第5領域15は、多孔質樹脂層2の厚み方向他方面を形成する。第3領域13は、厚み方向中央領域である。第2領域12は、第1領域11と第3領域13とに挟まれる。第4領域14は、第3領域13と第5領域15とに挟まれる。第1領域11の厚みと、第2領域12の厚みと、第3領域13の厚みと、第4領域14の厚みと、第5領域15の厚みとは、同じである。
【0019】
<平均孔径の比>
第5領域15の平均孔径A5に対する第1領域11の平均孔径A1の比(A1/A5)は、0.45以上、1.0以下である。
【0020】
第5領域15の平均孔径A5に対する第1領域11の平均孔径A1の比(A1/A5)が、0.45未満であれば、第5領域15の平均孔径A5が第1領域11の平均孔径A1に対して過大となり、その結果、プレス前後の金属層積層板用フィルム1の誘電率が大きく変動する。
【0021】
なお、第5領域15の平均孔径A5が第1領域11の平均孔径A1を下回ることは、後述する製造方法では、あり得ない。そのため、第5領域15の平均孔径A5に対する第1領域11の平均孔径A1の比(A1/A5)は、1.0を超過しない。
【0022】
第5領域15の平均孔径A5に対する第1領域11の平均孔径A1の比(A1/A5)は、好ましくは、0.50以上である。
【0023】
第5領域15の平均孔径A5に対する第1領域11の平均孔径A1の比(A1/A5)を上記した範囲に設定するには、次に説明する樹脂の処方(組成)、多孔前駆体溶液の粘度、コータのギャップ、多孔質樹脂層2の厚みなどを調整する。
【0024】
第1領域11の平均孔径A1は、例えば、1.0μm以上、好ましくは、2.0μm以上であり、また、例えば、4.0μm未満、好ましくは、3.5μm以下である。第5領域15の平均孔径A5は、例えば、9.0μm以下、好ましくは、8.0μm以下であり、また、例えば、2.0μm以上、好ましくは、4.0μm以上である。
【0025】
第1領域11の平均孔径A1と第5領域15の平均孔径A5とは、SEM断面観察によって求められる。求め方の詳細は、後の実施例で記載する。
【0026】
金属層積層板用フィルム1の材料としては、例えば、熱硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、フッ化ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、フッ素樹脂(含フッ素オレフィンの重合体(具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)))、および、液晶ポリマー(LCP)が挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。上記した樹脂のうち、機械強度の観点から、好ましくは、ポリイミド樹脂が挙げられる。なお、ポリイミド樹脂の物性および製造方法を含む詳細は、例えば、WO2018/186486号に記載されている。
【0027】
多孔質樹脂層2の厚みは、例えば、60μm以下、好ましくは、50μm以下、より好ましくは、40μm以下であり、また、10μm以上、好ましくは、25μm以上である。多孔質樹脂層2の厚みが上記した上限以下であれば、上記した平均孔径の比(A1/A5)を上記した範囲に容易に設定することができる。
【0028】
<スキン層3>
スキン層3は、多孔質樹脂層2の厚み方向一方面に配置されている。そのため、多孔質樹脂層2において第1領域11から第5領域15が、スキン層3から離れる方向(厚み方向他方側に相当)に順に配置される。また、スキン層3は、多孔質樹脂層2の第1領域11の厚み方向一方面の全部に接触している。スキン層3は、面方向に延びる。スキン層3は、金属層積層板用フィルム1の厚み方向一方面を形成する。スキン層3は、実質的に無孔質である。スキン層3における空孔率は、例えば、1%以下である。スキン層3の材料は、特に限定されない。好ましくは、スキン層3の材料は、多孔質樹脂層2の材料と同一である。この場合には、スキン層3は、多孔質樹脂層2の厚み方向一方面に対して一体的に形成されている。スキン層3の厚みは、例えば、1μm以上であり、また、例えば、5μm以下である。金属層積層板用フィルム1の厚みに対するスキン層3の厚みの比は、例えば、0.01以上であり、また、例えば、0.2以下である。
【0029】
次に、金属層積層板用フィルム1の製造方法を説明する。
【0030】
具体的には、まず、金属からなる基材フィルム7(括弧書きおよび仮想線)を準備する。基材フィルム7は、面方向に延びる。金属としては、例えば、銅、鉄、銀、金、アルミニウム、ニッケル、および、それらの合金(ステンレス、青銅)が挙げられる。金属として、好ましくは、銅が挙げられる。基材フィルム7の厚みは、例えば、0.1μm以上、好ましくは、1μm以上であり、また、例えば、100μm以下、好ましくは、50μm以下である。
【0031】
次いで、上記した樹脂の前駆体と、多孔化剤と、核剤と、溶媒とを含むワニスを調製し、次いで、ワニスを基材フィルム7の厚み方向一方面に塗布して塗膜を形成する。ワニスにおける多孔化剤、核剤および溶媒の、種類および配合割合等は、例えば、WO2018/186486号に記載されている。
【0032】
樹脂がポリイミド樹脂である場合を説明する。ポリイミド樹脂の前駆体は、例えば、ジアミン成分と、酸二無水物成分との反応生成物である。ジアミン成分としては、例えば、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、および、脂環族ジアミンが挙げられる。ジアミン成分として、好ましくは、芳香族ジアミンが挙げられる。
【0033】
芳香族ジアミンとしては、第1ジアミン、第2ジアミン、および、第3ジアミンが挙げられる。
【0034】
第1ジアミンは、単数の芳香環を含有する。第1ジアミンとしては、例えば、フェニレンジアミン、ジメチルベンゼンジアミン、および、エチルメチルベンゼンジアミンが挙げられる。機械強度の観点から、好ましくは、フェニレンジアミンが挙げられる。フェニレンジアミンとしては、例えば、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、および、p-フェニレンジアミンが挙げられる。フェニレンジアミンとして、好ましくは、p-フェニレンジアミンが挙げられる。
【0035】
第2ジアミンは、複数の芳香環と、それらの間に配置されるエーテル結合とを含有する。第2ジアミンとしては、例えば、オキシジアニリンが挙げられる。オキシジアニリンとしては、例えば、3,4’-オキシジアニリン、および、4,4’-オキシジアニリンが挙げられる。機械強度の観点から、好ましくは、4,4’-オキシジアニリンが挙げられる。
【0036】
第3ジアミンは、複数の芳香環と、それらの間に配置されるエステル結合とを含有する。第3ジアミンは、多孔質樹脂層2における上記した比(A1/A5)を高くする成分である。第3ジアミンとしては、例えば、アミノフェニルアミノベンゾエートが挙げられ、好ましくは、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエートが挙げられる。
【0037】
なお、芳香族ジアミンとして、第1ジアミンから第3ジアミンの他に、例えば、4,4’-メチレンジアニリン、4,4’-ジメチレンジアニリン、4,4’-トリメチレンジアニリン、および、ビス(4-アミノフェニル)スルホンも挙げられる。
【0038】
上記したジアミン成分は、単独使用でき、また、それらを併用できる。ジアミン成分として、好ましくは、第1ジアミン、第2ジアミン、および、第3ジアミンの組合せが挙げられる。より好ましくは、p-フェニレンジアミン、4,4’-オキシジアニリン、および、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエートの組合せが挙げられる。
【0039】
なお、p-フェニレンジアミンは、PDAと略称される場合がある。4,4’-オキシジアニリン(別名:4,4’-ジアミノフェニルエーテル)は、ODAと略称される場合がある。4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエートは、APABと略称される場合がある。
【0040】
ジアミン成分における第1ジアミンのモル分率は、好ましくは、10モル%以上、より好ましくは、20モル%以上であり、また、例えば、70モル%以下、好ましくは、65モル%以下である。ジアミン成分における第2ジアミンのモル分率は、好ましくは、5モル%以上、より好ましくは、10モル%以上であり、また、例えば、40モル%以下、好ましくは、30モル%以下である。ジアミン成分における第3ジアミンのモル分率は、好ましくは、5モル%以上、より好ましくは、10モル%以上であり、また、例えば、40モル%以下、好ましくは、30モル%以下である。
【0041】
<酸二無水物成分>
酸二無水物成分は、例えば、芳香環を含む酸二無水物を含有する。芳香環を含む酸二無水物としては、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0042】
ベンゼンテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物(別称:ピロメロット酸二無水物)が挙げられる。ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3’-4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。ビフェニルテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3’-4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’-3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、および、3,3’,4,4’-ジフェニルエ-テルテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。ナフタレンテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、および、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。これらは、単独使用または併用できる。酸二無水物成分として、機械強度の観点から、好ましくは、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が挙げられ、より好ましくは、3,3’-4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。なお、3,3’-4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、BPDAと略称される場合がある。
【0043】
ジアミン成分と酸二無水物成分との割合は、ジアミン成分のアミノ基(-NH)のモル量と、酸二無水物成分の酸無水物基(-CO-O-CO-)のモル量が、例えば、等量となるように、調整される。
【0044】
ポリイミド樹脂の前駆体を調製するには、上記したジアミン成分と、上記した酸二無水物成分と、溶媒とを配合して、ワニスを調製し、かかるワニスを加熱して、前駆体溶液を調製する。続いて、前駆体溶液に核剤および多孔化剤を配合して、多孔前駆体溶液を調製する。
【0045】
多孔前駆体溶液の25℃における粘度は、次に説明するコータの条件および前駆体フィルムの厚みに応じて、適宜設定される。具体的には、多孔前駆体溶液の25℃における粘度は、例えば、5Pa・s以上、好ましくは、10Pa・s以上であり、また、例えば、100Pa・s以下、好ましくは、50Pa・s以下である。多孔前駆体溶液の25℃における粘度は、E型粘度計により測定される。
【0046】
その後、多孔前駆体溶液を基材フィルム7の厚み方向一方面に塗布して、塗膜を形成する。塗膜の形成では、コータが用いられる。コータは、特に限定されない。コータとしては、例えば、グラビヤロールコータ、リバースロールコータ、キスロールコータ、ディップロールコータ、バーコータ、ナイフコータ、スプレーコータ、コンマコータ、ダイレクトコータ、および、ダイコータが挙げられる。好ましくは、コンマコータ、および、ダイコータが挙げられる。一方、ダイを用いる方法では、塗膜が過度に厚くなり、不適となる場合がある。
【0047】
その後、塗膜を加熱により乾燥することにより、前駆体フィルムを形成する。上記した加熱によって、溶媒の除去が進行しつつ、核剤を核とした、ポリイミド樹脂前駆体と多孔化剤との相分離構造を有する前駆体フィルムが調製される。また、上記した加熱による乾燥の温度は、低く、また、乾燥の時間は、短い。具体的には、乾燥温度は、例えば、160℃以下である。乾燥時間は、例えば、1000秒以下である。上記した加熱による乾燥によって、前駆体フィルムの厚み方向一方面にスキン層3が形成される。
【0048】
その後、例えば、超臨界二酸化炭素を溶媒として用いる超臨界抽出法により、多孔化剤を前駆体フィルムから抽出する(引き抜く、あるいは、除去する)。
【0049】
その後、前駆体フィルムを加熱により硬化させて、ポリイミド樹脂からなる金属層積層板用フィルム1を形成する。この金属層積層板用フィルム1は、スキン層3と、多孔質樹脂層2とを厚み方向他方側に向かって順に備える。スキン層3の厚み方向一方面が、基材フィルム7に接触されている。
【0050】
その後、必要により、図1の実線のように、基材フィルム7を除去する。例えば、剥離液を用いて、基材フィルム7を溶解する。剥離液としては、例えば、FeClが挙げられる。これにより、金属層積層板用フィルム1を得る。なお、後述する金属層積層板10を製造するときには、上記した基材フィルム7を除去せず、第1金属層5として残す。
【0051】
<用途>
次に、図1の仮想線で示すように、金属層積層板用フィルム1を備える金属層積層板10を説明する。この金属層積層板10は、金属層積層板用フィルム1と、仮想線で示す2つの金属層5,6とを備える。
【0052】
金属層積層板用フィルム1は、金属層積層板10に備えられる。つまり、金属層積層板用フィルム1は、次に説明する2つの金属層5,6の積層に用いられる。
【0053】
2つの金属層5,6は、第1金属層5と、第2金属層6とを含む。第1金属層5は、金属層積層板用フィルム1の厚み方向一方面に配置されている。具体的には、第1金属層5は、スキン層3の厚み方向一方面の全部に接触している。第1金属層5の材料としては、基材フィルム7で例示した金属が挙げられる。好ましくは、銅が挙げられる。第1金属層5の厚みは、例えば、0.1μm以上、好ましくは、1μm以上であり、また、例えば、100μm以下、好ましくは、50μm以下である。
【0054】
第2金属層6は、金属層積層板用フィルム1の厚み方向他方面に配置されている。具体的には、第2金属層6は、多孔質樹脂層2(第5領域15)の厚み方向他方面の全部に接触している。なお、第2金属層6は、多孔質樹脂層2の厚み方向他方面に図示しない接着剤層を介して配置されていてもよい。第2金属層6の材料としては、基材フィルム7で例示した金属が挙げられる。第2金属層6の厚みは、第1金属層5の厚みと同様である。
【0055】
金属層積層板10の製造方法を説明する。まず、製造途中であって、基材フィルム7と、金属層積層板用フィルム1とを備える積層体の厚み方向他方面に、第2金属層6を配置する。他方、基材フィルム7は、金属からなるので、第1金属層5としてそのまま残す(第1金属層5に転用する)。これによって、金属層積層板用フィルム1と、それの厚み方向一方面および他方面に配置される第1金属層5および第2金属層6とを備える金属層積層板10を得る。
【0056】
その後、例えば、エッチングなどによって、第1金属層5と第2金属層6とをパターンに形成する。
【0057】
用途および目的に応じて、上記したパターンの形成前、形成中および/または形成後に、金属層積層板10をプレスする。具体的には、金属層積層板10を熱プレスする
【0058】
この金属層積層板10は、例えば、第五世代(5G)の規格の無線通信や、高速フレキシブルプリント基板(FPC)に用いられる。
【0059】
(一実施形態の作用効果)
【0060】
この金属層積層板用フィルム1では、多孔質樹脂層3の厚み方向全体の平均孔径Wが7.0μm以下と小さいにも拘わらず、第5領域15の平均孔径A5に対する第1領域11の平均孔径A1の比(A1/A5)が0.45以上であり、過小となることが抑制されている。そのため、金属層積層板用フィルム1のプレス前後の誘電率の変動を抑制できる。
【0061】
(変形例)
以下の変形例において、上記した一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、変形例は、特記する以外、一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、一実施形態およびその変形例を適宜組み合わせることができる。
【0062】
基材フィルム7の材料が、樹脂であってもよい。その場合には、金属層積層板用フィルム1を製造後、基材フィルム7を除去した後、必要により接着剤層を用いて、第1金属層5をスキン層3の厚み方向一方面に貼着する。その際、プレス(具体的には、熱プレス)を用いる。
【0063】
図2に示すように、変形例の金属層積層板用フィルム1は、2つのスキン層3,4を備える。2つのスキン層3,4は、上記したスキン層3と、第2スキン層4とを含む。第2スキン層4は、多孔質樹脂層2の厚み方向他方面に配置されている。具体的には、第2スキン層4は、多孔質樹脂層2(第5領域15)の厚み方向他方面の全部に接触している。第2スキン層4の材料および厚みは、上記したスキン層3のそれらと同様である。
【実施例0064】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0065】
(実施例1)
攪拌機および温度計を備える反応装置に、PDA71.37g(0.66モル)、ODA44.05g(0.22モル)、および、APAB50.22g(0.22モル)を入れ、溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)2300gを加えて攪拌し、PDA、ODAおよびAPABのNMP溶液を調製した。なお、NMP溶液は、ジアミン成分1.10モルを含有する。
【0066】
次いで、PDA、ODAおよびAPABのNMP溶液に3,3’-4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(3,3’-4,4’-BPDA)323.64g(1.10モル)を徐々に添加し、さらにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)331gを加えて80℃に昇温した後、10時間攪拌して、ポリイミド前駆体溶液を得た。
【0067】
ポリイミド前駆体溶液の固形分100質量部に対して、核剤としてのメジアン径1μm以下のPTFE粉末3質量部、多孔化剤としての重量平均分子量が400のポリオキシエチレンジメチルエーテル(日油(株)製グレード:MM400)200質量部、および、2-メチルイミダゾール(四国化成工業(株)製2Mz-H)4質量部を加えて、多孔前駆体溶液を得た。多孔前駆体溶液の25℃における粘度は、50Pa・sであった。この多孔前駆体溶液をコンマコータで銅からなる基材フィルム7(第2金属層6)に塗布して、塗膜を形成した。コンマコータは、ギャップを隔てて対向配置される2つのロールを有する。一方のロールに基材フィルム7を接触させ、基材フィルム7と他方のロールとの最近接距離(ギャップ)を225μmに設定した。
【0068】
その後、塗膜を、120~160℃で540秒間乾燥させて、厚みが約50μmの前駆体フィルムを作製した。
【0069】
この前駆体フィルムを60℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、多孔化剤の抽出除去および残存NMPの相分離、多孔の形成を促進した。その後、二酸化炭素を減圧した。
【0070】
その後、前駆体フィルムを真空下、300℃~400℃の温度で約5時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、基材フィルム7の厚み方向一方面に配置された金属層積層板用フィルム1を得た。その後、基材フィルム7および金属層積層板用フィルム1をFeCl溶液に浸漬させて、基材フィルム7を溶解させて、除去した。これによって、多孔質樹脂層2と、スキン層3とを備える金属層積層板用フィルム1を製造した。
【0071】
実施例1の多孔質樹脂層2、スキン層3および金属層積層板用フィルム1の厚みは、それぞれ、40.7μm、3.0μm、および、43.7μmであった。金属層積層板用フィルム1の厚みは、フィルム厚み測定器(HKT-1200、フジワーク社製)で測定した。スキン層3の厚みは、後述するSEM観察によって求めた。多孔質樹脂層2は、金属層積層板用フィルム1の厚みからスキン層3の厚みを差し引いて求めた。以降の例の厚みも、上記と同様に求めた。
【0072】
金属層積層板用フィルム1の周波数10GHzにおける誘電率は、1.62であった。誘電率は、PNAネットワークアナライザー(アジレント・テクノロジー社製)を用いてSplit Post 誘電体共振器(SPDR)法により、求めた。以降の例の誘電率も、上記と同様に求めた。
【0073】
(実施例2)
実施例1と同様にして、金属層積層板用フィルム1を製造した。但し、ギャップを250μmに変更し、乾燥時間を900秒に変更した。実施例2の多孔質樹脂層2、スキン層3および金属層積層板用フィルム1の厚みは、それぞれ、44.9μm、3.9μm、および、48.8μmであった。実施例2の金属層積層板用フィルム1の周波数10GHzにおける誘電率は、1.61であった。
【0074】
(実施例3)
実施例2と同様にして、金属層積層板用フィルム1を製造した。但し、処方をポリイミド前駆体溶液の調製時の80℃に昇温した後の、攪拌時間を10時間から15時間に変更することにより、多孔前駆体溶液の25℃における粘度を10Pa・sに変更した。実施例3の多孔質樹脂層2、スキン層3および金属層積層板用フィルム1の厚みは、それぞれ、42.0μm、3.0μm、および、45.0μmであった。実施例3の金属層積層板用フィルム1の周波数10GHzにおける誘電率は、1.63であった。
【0075】
(実施例4)
実施例1と同様にして、金属層積層板用フィルム1を製造した。但し、ギャップを260μmに変更し、乾燥時間を900秒に変更した。実施例4の多孔質樹脂層2、スキン層3および金属層積層板用フィルム1の厚みは、それぞれ、49.1μm、3.7μm、および、52.8μmであった。実施例4の金属層積層板用フィルム1の周波数10GHzにおける誘電率は、1.65であった。
【0076】
(比較例1)
実施例1と同様にして、金属層積層板用フィルム1を製造した。但し、ギャップを275μmに変更し、乾燥時間を900秒に変更した。比較例1の金属層積層板用フィルム1の厚みは、58.3μmであり、周波数10GHzにおける誘電率は、1.54であった。
【0077】
(比較例2)
特許文献1の実施例2の処方で、金属層積層板用フィルム1を製造した。実施例2の多孔質樹脂層2、スキン層3および金属層積層板用フィルム1の厚みは、それぞれ、94μm、6μm、および、100μmであり、周波数10GHzにおける誘電率は、1.48であった。
【0078】
<評価>
各実施例および比較例の金属層積層板用フィルム1について、次の事項を評価した。それらの結果を表1に記載する。
【0079】
<平均孔径>
SEM(SU8020、日立(株)製)で加速電圧2.0 kVの条件で金属層積層板用フィルム1の断面における二次電子像を観察して、SEM画像を取得した。このSEM画像から、第1領域11から第5領域15までを特定し、第1領域11の平均孔径A1と、第5領域15の孔径A5と、厚み方向全体の平均孔径Wとを、それぞれ、2回測定した。それぞれの孔径は、SEM画像のスケールバーを基準にした孔の最大孔径の計測から求めた。そして、2回の測定値の平均値を、それぞれ、第1領域11の平均孔径A1と、第5領域15の孔径A5と、厚み方向全体の平均孔径Wとして得た。また、上記で得られた第5領域15の平均孔径A5に対する第1領域11の平均孔径A1の比(A1/A5)も併せて算出した。
【0080】
<熱プレス性>
金属層積層板用フィルム1から大きさ40mm×40mmのサンプルを作製した。このサンプルを瞬間真空積層装置VS008-1515(ミカドテクノス社製)にセットし、160℃で5MPa、圧力で300秒間、プレスした。プレス後の厚みと誘電率とを求めた。そして、プレス前後の厚みの変動率と、誘電率の変動率とをそれぞれ下記式に基づいて求めた。
【0081】
プレス前後の厚みの変動率(%)=(プレス後の厚み-プレス前の厚み)/プレス前の厚み×100
【0082】
プレス前後の誘電率の変動率(%)=(プレス後の誘電率-プレス前の誘電率)/プレス前の誘電率×100
【0083】
【表1】
【符号の説明】
【0084】
1 金属層積層板用フィルム
2 多孔質樹脂層
3 スキン層
4 第2スキン層
5 第1金属層
6 第2金属層
10 金属層積層板
11 第1領域
15 第5領域
図1
図2