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特開2022-165348ウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法及びウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165348
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】ウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法及びウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料
(51)【国際特許分類】
   C01G 1/00 20060101AFI20221024BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20221024BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20221024BHJP
   C40B 40/18 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
C01G1/00 Z
H01L41/187
H01B3/12 321
H01B3/12 333
H01B3/12 341
C40B40/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070709
(22)【出願日】2021-04-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載日:令和2年12月7日 ウェブサイトのアドレス:https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0023626 ウェブサイトの掲載日:令和2年12月10日 ウェブサイトのアドレス:https://www.jfcc.or.jp/press/r20_6.html ウェブサイトの掲載日:令和2年12月10日 ウェブサイトのアドレス:https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/536
(71)【出願人】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】森分 博紀
(72)【発明者】
【氏名】横井 里江
(72)【発明者】
【氏名】田口 綾子
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー クレイグ
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴史
(72)【発明者】
【氏名】桑原 彰秀
【テーマコード(参考)】
5G303
【Fターム(参考)】
5G303AA10
5G303AB20
5G303CA01
5G303CB07
5G303CB17
5G303CB43
(57)【要約】
【課題】第一原理計算を用いる抗電界の低いウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法、及び抗電界の低いウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料を提供する。
【解決手段】ウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法は、第一原理計算を用いて分極反転可能なウルツ鉱型結晶構造を有する強誘電体材料を探索することを特徴とする。第一原理計算は、構造最適化計算を行う構造最適化計算ステップと、目的の組成物を抽出する抽出ステップと、を含み、構造最適化計算ステップにおいて、空間群P6mc及び空間群P6/mmcにおけるエネルギーを決定し、抽出ステップにおいて、空間群P6mcと空間群P6/mmcとのエネルギー差を分極反転障壁エネルギーとし、その分極反転障壁エネルギーが所定値以下の組成物を抽出するように構成することができる。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一原理計算を用いて分極反転可能なウルツ鉱型結晶構造を有する強誘電体材料を探索することを特徴とするウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法。
【請求項2】
第一原理計算として、平面波を基底関数とするvaspコード、castepコード、Quantum espressoコード、pwscfコード、PHASEコード、STATE-SENRIコード、QMASコード及びABINITコードのうちの一つを用いる請求項1記載のウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法。
【請求項3】
第一原理計算は、構造最適化計算を行う構造最適化計算ステップと、目的の組成物を抽出する抽出ステップと、を含み、
前記構造最適化計算ステップにおいて、空間群P6mc及び空間群P6/mmcにおけるエネルギーを決定し、
前記抽出ステップにおいて、空間群P6mcと空間群P6/mmcとのエネルギー差を分極反転障壁エネルギーとし、前記分極反転障壁エネルギーが0.22eV/f.u.以下の組成物を抽出する請求項1又は2に記載のウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法。
【請求項4】
前記構造最適化計算ステップにおける計算条件として、k点密度を0.5/(10-10m)以下とする請求項3記載のウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法。
【請求項5】
前記構造最適化計算ステップにおける計算条件として、カットオフエネルギーを400eV以上とする請求項3又は4に記載のウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法。
【請求項6】
前記構造最適化計算ステップにおける計算条件として、構造最適化打ち切りにおいて原子にかかる力を0.1eV/(10-10m)以下とする請求項3乃至5のいずれかに記載のウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法。
【請求項7】
CdO、MgO、AgCl、AgBr、AgI、CuCl及びCuBrのうちから選ばれるウルツ鉱型結晶構造を有する強誘電体材料であることを特徴とするウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料。
【請求項8】
ウルツ鉱型結晶構造のab面を拡張することにより更に抗電界を低くした請求項7記載のウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一原理計算を用いる抗電界の低いウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法、及び抗電界の低いウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)をはじめとする強誘電体材料は、不揮発強誘電体メモリ、携帯電話やパソコンのフィルタやアクチュエータとして広く用いられているが、その材料の多くに鉛が用いられてきた。近年では環境問題から、鉛を含有しない非鉛強誘電体材料の研究開発も盛んに行われているが、高い性能を有する強誘電体材料の多くは酸素八面体からなるペロブスカイト型結晶構造及びその類似構造を有している。
一方、ウルツ鉱型構造(空間群P6mc)の結晶は中心対象ではないため、従来は非強誘電性であると考えられてきた。しかし、近年ではその強誘電性について実証実験が行われている。例えば、ウルツ鉱構造のScドープAlN薄膜のP-Eヒステリシスループが報告されている(非特許文献1を参照。)。しかし、ScドープAlN薄膜の分極反転障壁は非常に高く、従来の代表的なペロブスカイト型強誘電体材料であるBaTiO、PbTiO等よりも約2桁高くなる。強誘電体材料を強誘電体メモリ等のデバイスに用いようとすると分極反転障壁が低い(例えば100kV/cm程度)ことが必要とされ、ウルツ鉱型構造を有する強誘電体材料の実際の用途は制限されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】S. Fichtner, N. Wolff, F. Lofink, L. Kienle, and B. Wagner, J. Appl. Phys., 125, 114103 (2019).
【非特許文献2】H. Moriwake, A. Konishi, T. Ogawa, K. Fujimura, C. A. J. Fisher, A. Kuwabara, T. Shimizu, S. Yasui, and M. Itoh, Appl. Phys. Lett. 104, 242909 (2014).
【非特許文献3】A. Konishi, T. Ogawa, C. A. J. Fisher, A. Kuwabara, T. Shimizu, S. Yasui, M. Itoh, and H. Moriwake, Appl. Phys. Lett. 109, 102903 (2016).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のとおり、高い性能を有する非鉛強誘電体材料の多くは、酸素八面体からなるペロブスカイト型結晶構造及びその類似構造を有している。これらはこれまでに詳細に調べ尽くされており、新たなブレイクスルーのためには、酸素八面体を有しない結晶構造を有する強誘電体材料の発見が望まれている。
本願の発明者らは、図1に示すような、酸素八面体構造を有しない単純なウルツ鉱型結晶構造に着目した。図1(a)は、二元化合物MX(空間群P6mc)の六方晶ウルツ鉱構造を示している。同図(b)は、分極スイッチングメカニズムを示しており、P=+Pの強誘電状態、P=0の常誘電性(中間)状態、c軸に平行な電場を印加することによるMX四面体の反転後のP=-Pの強誘電状態である。ここで、δは中間状態における位置に対するイオンの変位である。
そして、発明者らは、その強誘電材料としての可能性を第一原理計算により検討し、強誘電体としての必要特性である分極反転障壁エネルギーが、ZnOにおいて、代表的な強誘電体であるチタン酸鉛(PbTiO)と同程度になることを突き止め、酸素八面体を有しない単純なウルツ鉱型結晶構造等での強誘電材料開発の可能性を原子レベルで明らかにした(非特許文献2、3参照)。しかしながら、強誘電体材料の電気分極を反転させるために必要な電界である抗電界がZnOでは非常に大きいため、実用材料として用いるにはさらに抗電界が低い材料を見つける必要があった。
【0005】
強誘電体は、電界Eを印加することにより、2つ以上の対称性に関するバリアント間で切り替えることができる自発的な電気分極Pを持つ材料である。このような化合物は、通常、温度(又は圧力)の関数として、強誘電状態と常誘電状態に対応する極性(低対称)と非極性(高対称)相の間で変化する。ウルツ鉱型構造(P6mc)は中心対称ではなく、この結晶タイプの二元化合物は極性を有する(図1(a))。最近まで、ウルツ鉱型構造の結晶は、それらを構成する陽イオン中心の四面体を切り替えることが難しいため、非強誘電性であると考えられており、ウルツ鉱型結晶の分極と圧電性を調べる初期の理論計算では、四面体内の陽イオンの変位のみが考慮されていた。しかし、その後の観察により、陽イオン-陰イオン四面体の配向の反転によって強誘電性を示すウルツ鉱型結晶の可能性が検討された。発明者らは、Zn及びBeカルコゲン化物について、第一原理計算を使用して、陰イオンに対する陽イオンのc軸方向の相対的変位が準安定中心対称構造を生成することを示した。準安定中心対称構造は、図1(b)に示すように、常誘電体(空間群P6/mmc)であり、反対にある四面体配向の2つの極性構造の中間にある。この変位に必要なエネルギーが十分に低ければ、分極を切り替えることができるはずであり、それによって、四面体強誘電体としても知られる四面体を含む強誘電体材料を、従来のペロブスカイト材料の代替として開発可能であると推測した。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、第一原理計算を用いる抗電界の低いウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法、及び抗電界の低いウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の通りである。
1.第一原理計算を用いて分極反転可能なウルツ鉱型結晶構造を有する強誘電体材料を探索することを特徴とするウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法。
2.第一原理計算として、平面波を基底関数とするvaspコード、castepコード、Quantum espressoコード及びpwscfコード、PHASEコード、STATE-SENRIコード、QMASコード及びABINITコードのうちの一つを用いる前記1.記載のウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法。
3.第一原理計算は、構造最適化計算を行う構造最適化計算ステップと、目的の組成物を抽出する抽出ステップと、を含み、
前記構造最適化計算ステップにおいて、空間群P6mc及び空間群P6/mmcにおけるエネルギーを決定し、
前記抽出ステップにおいて、空間群P6mcと空間群P6/mmcとのエネルギー差を分極反転障壁エネルギーとし、前記分極反転障壁エネルギーが0.22eV/f.u.以下の組成物を抽出する前記1.又は2.に記載のウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法。
4.前記構造最適化計算ステップにおける計算条件として、k点密度を0.5/(10-10m)以下とする前記3.記載のウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法。
5.前記構造最適化計算ステップにおける計算条件として、カットオフエネルギーを400eV以上とする前記3.又は4.のいずれかに記載のウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法。
6.前記構造最適化計算ステップにおける計算条件として、構造最適化打ち切りにおいて原子にかかる力を0.1eV/(10-10m)以下とする前記3.乃至5.のいずれかに記載のウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法。
7.CdO、MgO、AgCl、AgBr、AgI、CuCl及びCuBrのうちから選ばれるウルツ鉱型結晶構造を有する強誘電体材料であることを特徴とするウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料。
8.ウルツ鉱型結晶構造のab面を拡張することにより更に抗電界を低くした前記7.記載のウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明のウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法によれば、第一原理計算を用いて、分極反転可能なウルツ鉱型結晶構造を有する組成物であって抗電界が低いウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料を見出すことができる。
本発明のウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料は、分極反転障壁エネルギーの大きさが従来の代表的な強誘電性ペロブスカイトPbTiOに近く、それに代わる抗電界が低い非鉛強誘電体材料として実用化が期待される。
また、前記ウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料にエピタキシャル歪を加えることにより分極反転障壁エネルギーを減少させることができ、エピタキシャル歪を持つ薄膜として合成することにより更に低い抗電界の強誘電体材料を実現することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述によって更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
図1】酸素八面体構造を有しない単純なウルツ鉱型結晶構造を示す模式図である。
図2】一価ハロゲン化物における強誘電性陽イオン変位に対するポテンシャル面の計算値を示す図である。
図3】二価カルコゲン化物における強誘電性陽イオン変位に対するポテンシャル面の計算値を示す図(1/2)である。
図4】二価カルコゲン化物における強誘電性陽イオン変位に対するポテンシャル面の計算値を示す図(2/2)である。
図5】三価ニクトゲン化物及び炭化ケイ素における強誘電性陽イオン変位に対するポテンシャル面の計算値を示す図(1/2)である。
図6】三価ニクトゲン化物及び炭化ケイ素における強誘電性陽イオン変位に対するポテンシャル面の計算値を示す図(2/2)である。
図7】陰イオン/陽イオン半径比と分極反転障壁エネルギーとの関係を示す図である。
図8】ウルツ鉱構造のAgCl、CuCl、CuBrについて、強誘電ポテンシャル障壁に対するabエピタキシャル歪の影響を示す図である。
図9】実施形態に係るウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法の概略構成を示す図である。
図10】二元化合物について計算された格子定数、バンドギャップ、有効電荷及び自発分極を示す表(1)である。
図11】二元化合物について計算された格子定数、バンドギャップ、有効電荷及び自発分極を示す表(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を参照しながら、本発明を詳しく説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0011】
本実施形態に係るウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法においては、第一原理計算及びマテリアルズ・インフォマティクスと呼ばれる理論計算手法を用いて、網羅的にウルツ型結晶構造をもつ新材料を探索した。
【0012】
これまでに、発明者らは四面体の分極反転障壁エネルギーを計算することにより、限られた数のウルツ鉱型構造化合物の抗電界を推定した(非特許文献2、3)。本発明においては、組成位相空間の探索を拡張して、より広い範囲の二元化合物を網羅し、低い抗電界を持つ新しい強誘電体を特定する。標準的又は非標準的(高温、高圧、ナノサイジング等)な条件下で、ウルツ鉱構造を有することが実験的に確認された化合物から探索を始めた。これらの化合物の多くは、国際結晶構造データベースに含まれているウルツ鉱型多形を持っている。具体的には、CuI、AgI、BeO、MgTe、MnO、MnS、ZnO、ZnS、ZnSe、CdS、CdSe、CdTe、AlN、GaN、InN、InSb、2H-SiC等である。ウルツ鉱型が詳細に報告されていない化合物(CuCl、CuBr、BeS、MgS、MgSe、MnSe、MnTe、ZnTe、AlP、AlAs、AlSb、GaP、GaAs、GaSb、InP、InAs等)については、同じ陽イオンを含む同一構造を使用し、適切なX元素を使用して、第一原理計算の開始構造を構築した。また、比較のために、いくつかの仮想的なウルツ鉱構造化合物(AgCl、AgBr、BeSe、BeTe、MgO、CdO等)を検討し、それらの初期構造を同様の方法で構築した。
【0013】
本実施形態に係るウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法(1)は、第一原理計算(3)を用いて、分極反転可能なウルツ鉱型結晶構造を有する強誘電体材料であって分極反転障壁エネルギーが0.22eV/f.u.より低いウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料を探索することを特徴としており、結晶構造データベース(2)に含まれているデータを入力して第一原理計算を行う。その第一原理計算(3)は、構造最適化計算を行う構造最適化計算ステップ(32)と目的の組成物を抽出する抽出ステップ(34)とを含み、構造最適化計算ステップ(32)において、k点密度を0.5/(10-10m)以下とすること、カットオフエネルギーを400eV以上とすること、構造最適化打ち切りにおいて原子にかかる力を0.1eV/(10-10m)以下になるまで構造最適化すること、を条件とすることができる。そして、構造最適化計算ステップ(32)において、空間群P6mc及び空間群P6/mmcにおけるエネルギーを決定し、抽出ステップ(34)において、空間群P6mcと空間群P6/mmcとのエネルギー差を分極反転障壁エネルギーとして、その分極反転障壁エネルギーが0.22eV/f.u.以下の組成物を抽出するように構成することができる(図9参照)。
「f.u.」は式単位(formula unit)を表す。
【0014】
本実施形態において、第一原理計算はVASP(Vienna Ab initio Simulation Package、参考:G. Kresse and J. Furthmuller, Phys. Rev. B 54, 11169 (1996))に実装されている密度汎関数理論(DFT)計算を使用して、それぞれの化合物を特徴付け、候補の四面体強誘電体としての適合性を評価している。第一原理計算としては、平面波を基底関数とするvaspコード、castepコード、Quantum espressoコード、pwscfコード、PHASEコード、STATE-SENRIコード、QMASコード、ABINITコード等を用いることができる。
【0015】
すべての計算は、交換相関項を処理するために、固体用に最適化された一般化勾配近似のPerdew-Burke-Ernzerhof形式(GGA-PBEsol)を使用して実行された(参考:J. P. Perdew, K. Burke, and M. Ernzerhof, Phys. Rev. Lett. 77, 3865 (1996))。
平面波ベースのプロジェクター拡張波法(参考:P. E. Blochl, Phys. Rev. B 50, 17953 (1994))は、Be、N、O、C及びFに対しては2s及び2p電子、Mg、Al、SiP、S及びClに対しては3s及び3p電子、As、Se及びBrに対しては4s及び4p電子、In、Sb、Te及びIに対しては5s及び5p電子、価電子として扱われるMn、Cu及びZnに対しては3d及び4s電子で使用された。
【0016】
550eVの平面波カットオフエネルギーがすべての場合に使用された。800eVまでのカットオフエネルギーに関する総エネルギーの収束は、0.015eV/f.u.よりも優れていた。
【0017】
本実施形態では、構造最適化計算ステップ(32)において、カットオフエネルギーを400eV以上に設定する必要がある。カットオフエネルギーを400eV以上とするのは、十分な計算精度(エネルギー、力、構造)を確保するためである。
【0018】
数値積分は、4原子ウルツ鉱単位格子の最初のブリルアンゾーン内でMonkhorst-Packスキーム(参考:H. J. Monkhorst and J. D. Pack, Phys. Rev. B 13, 5188 (1976))に従って生成されたΓ中心の0.25/(10-10m)間隔のk点メッシュを使用して実行された。
【0019】
本実施形態では、構造最適化計算ステップ(32)において、k点密度を0.5/(10-10m)以下に設定する。これを超えるk点密度では十分な計算精度(エネルギー、力、構造)を確保できないからである。
【0020】
本実施形態では、構造最適化計算ステップ(32)において、構造最適化打ち切りにおいて原子にかかる力を0.1eV/(10-10m)以下にする。これを超えると十分な計算精度(エネルギー、力、構造)を確保できないからである。
【0021】
GGA法を使用して遷移金属含有化合物の電子バンドギャップの既知の過小評価を調整するために、Mn含有化合物の場合にUeff=3.6eVのHubbard Uタームが追加された(参考:S. L. Dudarev, G. A. Botton, S. Y. Savrasov, C. J. Humphreys, and A. P. Sutton, Phys. Rev. B 57, 1505-1509 (1998).、F. Zhou, M. Cococcioni, C. A. Marianetti, D. Morgan, and G. Ceder, Phys. Rev. B 70, 235121 (2004))。
【0022】
各ユニットセルの原子位置と格子定数は、残留力が0.005eV/(10-10m)より小さくなるまで緩和された。生まれた有効電荷テンソルは、密度関数摂動理論内でベリー位相アプローチを使用して計算された(参考:X. Wu, D. Vanderbilt, and D. R. Hamann, Phys. Rev. B 72, 035105 (2005))。自発分極Pは、常誘電体構造と強誘電構造の間の分極の差として計算された。分極Pは、原子の位置に対する周期的な変位δによって導かれる。非極性中心対称(P6/mmc)構造では、式(1)に従って、c方向の陽イオンの生成有効電荷Z 33と、ユニットセルの体積Vに関連している。
【数1】
【0023】
図10及び図11は、本研究で調べた二元化合物の計算された格子定数、バンドギャップ(Ebg)、生成有効電荷(Z 33)及び自発分極(P)を示す表である。同表中、括弧内の数値は、公知の実験的な格子定数とそれを基に計算された偏差である。各化合物の計算された格子定数、バンドギャップ(E)、Z33及びPは、同表の公知の実験データと比較される。計算された格子定数は実験データをよく再現し、通常のDFTエラーの範囲内であり、強誘電性変換をモデル化するためのPBEsolポテンシャルの使用が検証される。
【0024】
強誘電体材料は、低い抗電界に加えて、電子的に絶縁性である必要がある。即ち、十分に広いバンドギャップを持っている必要がある。GGA汎関数を使用したDFT計算は、バンドギャップを大幅に過小評価することが知られているが、MnOを除くすべての化合物はゼロではないE値を示したため、極性形式において電子絶縁体である必要がある。バンドギャップがないため、Hubbard Uの項が含まれていても、MnOはそれ以上考慮されなかった。また、AlAs、AlSb、GaP、GaAs、GaSb、InP、InAs及びInSbは、それぞれ非極性(遷移)状態の金属バンド構造を持つと計算されたため、これらの化合物も強誘電体材料としての使用には不適切であるとみなされた。
【0025】
典型的なペロブスカイト強誘電性化合物とは異なり、各イオンの計算されたZ 33値は、ほとんどの場合、公称電荷からわずかにずれている。すべての化合物は比較的大きなP値を示し、3価の化合物が最大で(例えば、GaNの場合は1.24C/m、AlNの場合は1.21C/m)、生成有効電荷の大きさは約3だった。対照的に、1価の化合物は、比較的小さな分極(たとえば、CuIの場合は0.27C/m、AgIの場合は0.27C/m)で、陽イオンと陰イオンの生成有効電荷はそれぞれ約+1と-1と計算された。それにもかかわらず、これらの1価化合物のP値は、中心対称位置からの陽イオンと陰イオンの大きな変位の結果として、ペロブスカイトBaTiOのP値(0.25C/m)と大きさが近いことがわかった。
【0026】
強誘電性結晶の抗電界は、固定変位法を使用して、極性バリアント間のさまざまな状態の結晶構造のDFTエネルギーから分極反転障壁エネルギーESWの大きさを計算することによって評価できる。
図2は、一価ハロゲン化物における正規化された強誘電性陽イオン変位(横軸)に対する相対的なポテンシャル面(縦軸)の計算値を示している。同図(a)はCuX、(b)はAgXであり、X=Cl、Br、Iの場合である。
図3及び図4は、前図同様に、二価カルコゲン化物における強誘電性陽イオン変位に対するポテンシャル面の計算値を示している。図3(a)はBeX、(b)はMgX、(c)はMnX、図4(d)はZnX、(e)はCdXであり、X=O、S、Se、Teの場合である。MnOは電子伝導性であるため除外されている。
図5及び図6は、前図同様に、三価ニクトゲン及び炭化ケイ素における強誘電性陽イオン変位に対するポテンシャル面の計算値を示している。図5(a)はAlX、(b)はGaX、図6(c)はInXであり、X=N、P、As、Sbの場合である。また、同図(d)は2H-SiCの場合である。
【0027】
計算された電位面は、上記のとおり、一価化合物(Cu及びAgハロゲン化物)の場合は図2に、二価化合物(Be、Mg、Mn、Zn及びCdカルコゲン化物)の場合は図3及び図4にプロットされている。また、3価化合物(Al、Ga、及びIn ニクトゲン化物、及び2H-SiC)の場合は図5及び図6にプロットされている(完全を期すために、電子伝導性の強誘電相を持つ化合物の結果が含まれている)。
計算結果は、すべての化合物が二重井戸ポテンシャルを示し、最大値が2つの極性バリアントの最小値間の中間の非極性状態に対応することを示している。すべての上記化合物の中で、一価化合物(CuおよびAgハロゲン化物)は、最も低い分極反転障壁エネルギーを持っており、CuClでは0.17eV/f.u.、CuBrでは0.21eV/f.u.、CuIでは0.29eV/f.u.、AgClでは0.11eV/f.u.、AgBrでは0.15eV/f.u、AgIでは0.22eV/f.u.である。これらの障壁は、強誘電性ペロブスカイトPbTiOについて知られている障壁0.2eV/f.u.(参考:R. E. Cohen, Nature (London) 358, 136 (1992))に近い大きさである。すべての場合において、ポテンシャル障壁は、陰イオンの原子番号(したがってイオン半径)の減少とともに減少する。
【0028】
図7は、公知の6配位でシャノンのイオン半径(参考:R. D. Shannon, Acta Cryst. A 32, 751 (1976).)を使用した、陰イオン/陽イオン半径比χ(横軸)に対する分極反転障壁エネルギーESW(縦軸)を示している。イオン半径が4配位についてのみ報告されている陰イオンN3-及びP3-の場合、半径は、それぞれ6及び8配位を持つウルツ鉱および岩塩構造のマーデルング定数の比率を使用して推定された(参考:R. D. Shannon, Acta Cryst. A 32, 751 (1976))。
本図では、標準的な条件下でウルツ鉱構造を持つ化合物は、太字と箱形でラベル付けされている。また、基底状態がせん亜鉛鉱型構造である化合物はイタリック体で、ニッケリン(NiAs)構造を持つ化合物は中括弧で、岩塩構造を持つ化合物は通常書体でラベル付けされている。非平衡条件下においてウルツ鉱型で調製できる化合物には下線が引かれている。例えば、ニッケリンタイプの化合物であるMnSeとMnTeはどちらも、ナノワイヤ、ナノリボン又はナノ粒子の形で調製した場合、ウルツ鉱構造で安定化されている(参考:J. E. Huheey, E. A. Keiter, and R. L. Keiter, "Inorganic Chemistry," 4th ed., Harper Collins, New York, USA, 1993、Y. Jiang, X.-M. Meng, W.-C. Yiu, J. Liu, J.-X. Ding, C.-S. Lee, and S.-T. Lee, J. Phys. Chem. B, 108, 2784 (2004))。
ここで示されている結果は、仮想及び実際のウルツ鉱のいずれも、幅広い化学組成にわたるχとESWの比較的単純な関係で、χが増加するとESWは単調に増加する。直線性からの逸脱は、特に基底状態のウルツ鉱化合物の通常の範囲(大まかに1.9≦χ≦3.1)を超える高いχ値で、化学結合の性質(イオン結合から共有結合へ)の違いによる可能性がある。
【0029】
SWとχの間の線形関係は次のように考えられる。DFTから導出されたESWは、極性構造(P6mc)と非極性構造(P6/mmc)の間のエネルギー差である。χが減少すると、6配位した構造(例えば岩塩構造)はより安定するが、ウルツ鉱構造などの4配位した構造は安定性が低下するため、極性構造(P6mc)と非極性状態(P6/mmc)のエネルギー差が減少する。つまり、非極性状態がエネルギー的に有利になる。χ≦1.9の場合、AgCl、AgBr、CdO、MgOで見られるように、岩塩(Fm3m)構造が最も安定している。位相安定性の面からは、MnX化合物は他の化合物と最も異なる。これは、Mn2+のd軌道電子に関連して著しく異なる結合状態の結果であると考えられる。MgSも異常であるように見え、室温で岩塩構造を持っているが、薄膜の形でウルツ鉱構造をとることが示されている(参考:S. Siol, Y. Han, J. Mangum, P. Schulz, A. M. Holder, T. R. Klein, M. F. A. M. van Hest, B. Gormand, and A. Zakutayev J. Mater. Chem. C, 6, 6297 (2018))。分極反転障壁エネルギーが低いという点で、CuClはウルツ鉱ゾーン内にある。実験的にはせん亜鉛鉱型構造(F43m)であると報告されているが、約400℃でウルツ鉱に変化し(参考:Y. H. Lai, Q. L. He, W. Y. Cheung, S. K. Lok, K. S. Wong, S. K. Ho, K. W. Tam, and I. K. Sou, Appl. Phys. Lett. 102, 171104 (2013))、適切な合成条件下で調製された場合、四面体強誘電体として適している。DFT計算によると、ウルツ鉱型CuClとせん亜鉛鉱型CuClのエネルギー差はわずか1.4meV/f.u.である。対照的に、よく知られている岩塩構造の化合物AgClの場合、χAgCl=1.6であり、ウルツ鉱領域から外れる。ウルツ鉱型で安定化するのは非常に難しいと思われる。これは、CuClの代替形態と比較して、岩塩AgClとウルツ鉱AgClの間の計算されたエネルギー差が大きいこと(29meV/f.u.)とも一致している。
【0030】
既に発明者らが論じたように(非特許文献3参照)、分極反転障壁エネルギーを下げる効果的な方法の1つは、エピタキシャル歪を適用して基底面の結晶を膨張させることである。これは、本発明において調べたすべての化合物にも当てはまることがわかった。この例として、図8は、ウルツ鉱構造の(a)AgCl、(b)CuCl、(c)CuBrについて、分極反転障壁エネルギーに対するabエピタキシャル歪(%)の影響を示している。5%のエピタキシャル歪を適用すると、CuClでは分極反転障壁エネルギーが0.17から0.04eV/f.u.に減少する。CuBrでは分極反転障壁エネルギーが0.21から0.08eV/f.u.に減少する。また、AgClでは分極反転障壁エネルギーが0.22から0.09eV/f.u.に減少することがわかる。これらの低い分極反転障壁エネルギーは、従来のペロブスカイト強誘電体の分極反転障壁エネルギーと同様である。例えば、BaTiOの場合、0.02eV/f.u.である(参考:Y. M. Rumyantsev, F. A. Kuznetsov, and S. A. Stroitelve, Kristallografiya 10, 263 (1965))。したがって、これらの化合物の歪んだ薄膜では、低い抗電界(100kV/cm未満)を実現できるものと考えられる。基板については、六方晶のScAlMgOは、面内(0001)の格子定数が非常に小さく、ウルツ鉱型構造のZnO薄膜のヘテロエピタキシャル成長の基体としてよく使用されるため、有望な候補の1つである(参考:U. Ozgur, Ya. I. Alivov, C. Liu, A. Teke, M. A. Reshchikov, S. Dogan, V. Avrutin, S.-J. Cho, and H. Morkoc, J. Appl. Phys. 98, 041301 (2005))。ScAlMgOは、多種多様な同価陽イオン(例えば、Sc3+の場合はY3+又はIn3+、Al3+の場合はGa3+又はFe3+、Mg2+の場合はZn2+、Mn2+、Co2+又はCu2+)で置き換えることができ、薄膜に適切なエピタキシャル歪を誘発するように高精度に基板の格子定数を調整できるものと考えられる。
【0031】
上記より、本実施形態では、第一原理計算(3)において、空間群P6mc及び空間群P6/mmcにてエネルギーを決定し、そのエネルギー差が0.22eV/f.u.以下の組成物を抽出するように構成している。これによって、低い抗電界のウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料として、CuCl、CuBr、AgI、CdO、MgO、AgCl、AgBr等を抽出することができる。
また、本実施形態において、ウルツ鉱型結晶構造のab面を拡張することにより、更に抗電界を低くすることができる。
【0032】
要約すると、第一原理計算法を使用して、新しい四面体強誘電体、特にウルツ鉱型構造と低抗電界を持つものを探すために、二元化合物を体系的に調査した。この結果、3つの主要な結論を引き出すことができる。
(1)調べたウルツ鉱構造の二元化合物のうち、見つかった2つの最低の分極反転障壁エネルギーは、AgClで0.11eV/f.u、AgBrで0.15eV/f.uであったが、これらの化合物は両方とも岩塩構造で非常に安定している。3番目に低いのはCuClの0.17eV/f.uであり、CuClでは、通常、ウルツ鉱構造よりもわずかに安定している閃亜鉛鉱型構造を持っている。この分極反転障壁エネルギーは、強誘電性ペロブスカイトPbTiOのそれと大きさが類似しており、ウルツ鉱型で調製した場合、CuClの抗電界が低いことを示唆している。また、ウルツ鉱構造のAgI及びCuBrは、分極反転障壁エネルギーが0.22eV/f.u以下であり、有望な四面体強誘電体であると考えられる。
【0033】
(2)分極反転障壁エネルギーは、陰イオン-陽イオン半径比(ranion/rcation)の減少とともに減少する。これは、陰イオンが小さくなり、陽イオンが大きくなるにつれて、陽イオン-陰イオン四面体の安定性が低下し、極性バリアント(P6mc対称)と非極性状態(P6/mmc対称)の間のエネルギー差が減少することに関連している。
【0034】
(3)(0001)面にエピタキシャル引張歪を加えると、分極反転障壁エネルギーを下げるのに効果的である。ウルツ鉱構造のCuClでは、(0001)面と平行に5%結晶を拡張した後、ポテンシャル障壁が0.17から0.04eV/f.uに減少した。したがって、この化合物を数%のエピタキシャル歪を持つ薄膜として合成することにより、低い抗電界(100kV/cm未満)を実現できるものと考えられる。
【0035】
尚、本発明においては、以上に示した実施形態に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した態様とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の探索方法により、分極反転障壁エネルギーが低く且つ抗電界が極めて低いウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料を見出すことができる。このような新材料により、高性能な非鉛強誘電体材料の更なる開発が促進され、不揮発メモリ等の実用デバイスに適用可能となることが期待される。
【符号の説明】
【0037】
1:ウルツ鉱型結晶構造強誘電体材料の探索方法、2:結晶構造データベース、3:第一原理計算、32:構造最適化計算ステップ、34:抽出ステップ。
図1
図2
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図5
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