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▶ イオノテッラ,エルティーディー.の特許一覧

特開2022-165411電離層前兆現象を用いた地震パラメータの短期予測法
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  • 特開-電離層前兆現象を用いた地震パラメータの短期予測法 図1
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  • 特開-電離層前兆現象を用いた地震パラメータの短期予測法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165411
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】電離層前兆現象を用いた地震パラメータの短期予測法
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/00 20060101AFI20221024BHJP
【FI】
G01V1/00 E
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022067937
(22)【出願日】2022-04-15
(31)【優先権主張番号】63/176,422
(32)【優先日】2021-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522155453
【氏名又は名称】イオノテッラ,エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】ブラウスタイン,ネェィサァン
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105MM03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】地震のパラメータを予測する方法は、イオノゾンデの配列を使用して、地震活動帯の上にある電離層の観察体積を走査する。
【解決手段】この方法は、イオノゾンデの配列によって提供されるイオノグラムを監視する工程、少なくとも1つの地震誘発不規則性(SII)の存在を検出する工程、震央位置に対応する第1の予測パラメータを決定する工程、ならびにマグニチュード、発生時刻、および震源の深さからなる群から選択される1つ以上の予測パラメータを決定する工程を含む。予測パラメータを計算するためのアルゴリズムが詳細に提示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震活動帯の上方に位置する電離層の観察体積を走査するために、イオノゾンデの配列を用いて地震のパラメータを予測する方法であって、前記方法は、
(a)イオノゾンデの前記配列によって提供されるイオノグラムを監視する工程、
(b)少なくとも1つのSIIの存在を検出する工程、
(c)震央位置に対応する第1の予測パラメータを決定する工程、ならびに
(d)マグニチュード、発生時刻、および震源の深さからなる群より選択される1つ以上の予測パラメータを決定する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記震央位置を予測するためのアルゴリズムを含み、以下の工程、
(i)少なくとも4つのラジオゾンデのそれぞれにおける時間遅延を測定する工程、
(ii)少なくとも3つのペアごとの時間遅延差を計算する工程、
(iii)震央位置(x,y)を決定するために3つの非線形方程式の系を解く工程、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マグニチュードを予測するためのアルゴリズムを含み、以下の工程、
(iv)プローブ周波数スペクトル(f(h,t))を決定する工程、
(v)相対周波数摂動(δf/f)を計算する工程、
(vi)電荷密度摂動(δN/N)を計算する工程、および
(vii)マグニチュード(M)を、経験定数(C)と前記電荷密度摂動の積に等しいものとして計算する工程、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記発生時刻を予測するためのアルゴリズムを含み、以下の工程、
(viii)小規模なプラズマの不規則性の強度スペクトル(I(f))を計算する工程、
(ix)高速周波数選択的フェージングがI(f)に存在するかどうかを決定する工程、および存在しない場合は工程(viii)に戻る工程、
(x)I(f)のフェージング包絡線を計算する工程、
(xi)フェージングが所定の最小周波数値(fmin)から所定の最大周波数値(fmax)まで及ぶ周波数範囲を満たすかどうかを決定する工程、および満たさない場合は工程(viii)に戻る工程、
(xii)フェージングが所定の最小高度値(Hmin)から所定の最大高度値(Hmax)まで及ぶ高度範囲を満たすかどうかを決定する工程、および満たさない場合は工程 (viii)に戻る工程、ならびに
(xiii)発生時刻(T)を計算する工程、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記震源の深さを予測するためのアルゴリズムを含み、以下の工程、
(xiv)請求項2に記載のアルゴリズムを用いて前記震央位置(xE,)を計算する工程、
(xv)前記震央位置の上の強度(I)を計算する工程、
(xvi)請求項4に記載のアルゴリズムを用いてマグニチュード(M)を計算する工程、ならびに
(xvii)I、M、および方程式(4a)と(4b)を用いて、前記震源の深さ(d)を計算する工程、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記配列が3つの斜めイオノゾンデ(oblique ionosonde)および1つの垂直イオノゾンデ(vertical ionosonde)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記斜めイオノゾンデの少なくとも1つが走査ビームを含む、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、「Methodology and Instrumentation for Short-term Forecasting of Precursors of Earthquake based on Synergy of Processes occurring in the Lithosphere-Atmosphere-Ionosphere Circuit」と題される、2021年4月19日出願の米国仮特許出願第63/176422号に関連し、その優先権を主張するものであり、その全体が本明細書に参照により取り入れられている。
【0002】
本発明は、早期地震警報システム、特に電離層前兆現象を用いた各種地震パラメータの短期予測法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
1~2日前、あるいはほんの数時間前であっても、事前警告は、地震による人命の損失や壊滅的な破壊を大幅に減らすのに役立つことができる。
【0004】
地震誘発不規則性(SII)または地震誘発異常性は、地震発生直前に電離層に現れることが知られている。SIIは、電離層プラズマ中に存在する中性原子、荷電電子、荷電イオンの不均質な空間的および時間的に変化する摂動によって引き起こされる。数多くの地震モデルは、地球表面のさまざまな場所において、岩石圏、大気圏、電離層、および磁気圏(LAIM)で起こっているSIIと物理的過程との間の複雑な結合を説明するために、開発されてきた。これらのプロセスの包括的なレビューは、例えば、N. Blaunstein et al., Ionosphere and Applied Aspects of Radio Communication and Radar, Boca Raton, FL: CRC Press,2008、およびD. Ouzounov et al., Pre-Earthquake Processes: A Multidisciplinary Approach to Earthquake Prediction Studies,Wiley,2018に見出すことができる。
【0005】
Blaunsteinに対する、2001年6月12日付、「Method of Earthquake Prediction」と題された、米国特許第6,246,964号(以下、‘964と呼ぶ)は、電離層の下の地震活動が活発な領域の地震を予測する方法を教示するものであり、その方法は電離層におけるプラズマ密度の相対変動を測定する工程、電離層における音響重力波の相対振幅を推測する工程、および音響重力波の相対振幅から地震のマグニチュードを推測する工程を含む。
【0006】
D.OuzounovおよびS.Pulinetsに対する、2020年11月3日付、「Earthquake Warning System」と題された、米国特許第10,823,864号は、地震警報システムを開示しており、上記地震警報システムは、地上ベースのプラットフォーム、衛星および複数の航空機を含むリモートセンシングプラットフォーム、1つ以上のプロセッサ、および、ガス移動装置、空気イオン化測定装置、空気温度センサ、相対湿度および圧力センサ、ならびに電離層測定装置に対して、通信接続されているネットワークを含む。
【発明の概要】
【0007】
本開示の目的上、「震源」という用語は、地震破壊が始まる地球内部の点を意味し、「震央」という用語は、震源の真上にある地球の表面上の点を意味する。「イオノゾンデ」という用語は、電離層との間で行われる、無線周波(RF)信号の送信および受信を、それぞれ可能にする装置を示すために使用される。イオノゾンデ装置は、一般に、RFトランスミッタ、RFレシーバ、RFアンテナ、および信号プロセッサを含み、その構成および相互接続は、レーダの当業者には馴染み深いものである。
【0008】
本発明は、地上、航空機上、または人工衛星に搭載され得るイオノゾンデの配列によってもたらされる電離層前兆現象の測定を用いて、1つ以上の地震パラメータを決定するための方法を開示する。後者の例は、地震活動領域の上の静止軌道上にある人工衛星に取り付けられたイオノゾンデである
【0009】
本開示の主題の一態様によれば、地震活動帯の上方に位置する電離層の体積を観察するためにイオノゾンデの配列を用いて地震のパラメータを予測するための方法が提供される。この方法は、イオノゾンデの配列によって提供されるイオノグラムを監視する工程、少なくとも1つのSIIの存在を検出する工程、震央位置に対応する第1の予測パラメータを決定する工程、ならびに、マグニチュード、発生時刻、および震源の深さからなる群より選択される1つ以上の予測パラメータを決定する工程を含む。
【0010】
いくつかの態様によれば、上記方法は震央位置を予測するためのアルゴリズムを含む。
【0011】
いくつかの態様によれば、上記方法はマグニチュードを予測するためのアルゴリズムを含む。
【0012】
いくつかの態様によれば、上記方法は発生時刻を予測するためのアルゴリズムを含む。
【0013】
いくつかの態様によれば、上記方法は震源の深さを予測するためのアルゴリズムを含む。
【0014】
いくつかの態様によれば、配列は3つの斜めイオノゾンデ(oblique ionosonde)および1つの垂直イオノゾンデ(vertical ionosonde)を含む。
【0015】
いくつかの態様によれば、斜めイオノゾンデ(oblique ionosonde)の少なくとも1つは、走査ビームを含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明のいくつかの実施形態は、ほんの一例として、添付の図面を参照とともに本明細書に記載されている。図面の詳しい具体的な言及とともに、示されている詳細は、例として、および本発明の実施形態の例示的な議論の目的で提供されていることが強調されている。このことに関して、図面とともに取られた説明は、本発明の実施形態がどのように実施され得るかを当業者に明らかにする。
【0017】
図1】本発明の一実施形態による地震パラメータを予測するための例示的なイオノゾンデの配列の概略図である。
図2】4つの地震パラメータを予測するための例示的な方法のブロック図である。
図3a】震央位置を高精度に予測できる4点形状のスケッチである。
図3b】震央位置を予測するための例示的なアルゴリズムのブロック図である。
図4】マグニチュードを予測するための例示的なアルゴリズムのブロック図である。
図5a】地震前の速い周波数選択的フェージングを示す例示的な強度スペクトルI(f)のプロット図である。
図5b】周波数選択的フェージングに基づいて発生時刻を予測するための例示的なアルゴリズムのブロック図である。
図6】震央の深さを予測するための例示的なアルゴリズムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る地震予想の原理および動作は、図面および添付の説明を参照することにより、いっそう理解することができるであろう。
【0019】
イオノゾンデは、電離層を調べるために特別に設計されたレーダである。一般に、イオノゾンデは、無線周波数(RF)トランスミッタ、RFトランスミッタの周波数を自動的に追跡するRFレシーバ、および指向性放射パターンを有し得る送受信用のRFアンテナを含む。典型的には、送信された信号は、1~30MHzのキャリア周波数範囲と、リニア周波数変調(LFM)などの、「チャープ」としても知られる、いくつかの種類の変調を含んでいる。イオノゾンデの出力の1つは、送信RF周波数に対する反射信号強度を横軸に表し、往復信号経路長を光速で割った値に比例する、信号遅延時間を縦軸に表すプロット図であるイオノグラムである。電離層の研究では、反射信号強度はイオノゾンデによって走査された体積内の異なる位置における不均質なプラズマイオン化密度のレーダ断面積に比例する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態による地震パラメータを予測するための例示的なイオノゾンデ配列(100)の概略図を示す。この配列は、2つの斜めイオノゾンデP1とP2、1つの垂直イオノゾンデP3、および高精度のEL推定を可能する3つ目の斜めイオノゾンデP4で構成されている。図1aの例示的な実施形態において、イオノゾンデは地上ベースであり、z=0の水平(x-y)平面に多かれ少なかれ存在する。しかしながら、本発明の原理は、航空機上または人工衛星に搭載されたイオノゾンデの場合のように、イオノゾンデの1つ以上が水平平面の上方(z>0)に位置する配列にも同様に適用可能である。
【0021】
地震は、線形地質である断層帯で発生する傾向がある。P1とP2との間の距離Lは、地震活動帯(120)を包含するのに十分な大きさである。通常、Lは200~600キロメートルの範囲にある。その水平位置(x,y)がまだ決定されていない震央Eは、活動帯(120)内のどこかにある。
【0022】
配列(100)の一実施形態では、P1におけるイオノゾンデは、周波数で掃引され、比較的広い放射ビーム(141)を有する連続波を送信(および受信)し得る。例えば、ビーム(141)は、方位角および仰角において12度~23度のビーム幅を有し得る。P2のイオノゾンデは、P1のイオノゾンデと同じ瞬時周波数で送信(および受信)するが、P2のイオノゾンデは仰角および/または方位角の異なる走査角度に対応する比較的狭い走査ビーム(142a)、(142b)、および(142c)を使用する。例えば、狭い走査ビームは、方位角および仰角において2度~6度のビーム幅を有し得る。垂直イオノゾンデP3は、z軸に平行な垂直方向(143)に送信(および受信)する。ビーム(144)を放射する斜めイオノゾンデP4の構成は、P1またはP2の構成と同様であってよい。
【0023】
4つのイオノゾンデP1-P4からのビームは一体となって、活動帯(120)の上方の高度Hで、観察体積(140)を照らす。観察体積(140)の内部には、高度約120kmから高度約150kmまで延びるSII領域(150)がある。SII領域(150)の中心は、おおよそ高度H=135kmにあり、その水平位置は震央Eの真上にある。さらに、SII領域(150)の水平寸法は、一般に地磁気力線の方向に引き伸ばされている。
【0024】
代替実施形態では、配列(100)の斜めイオノゾンデの1つ以上は、観察体積(140)の完全な包括を可能にするように配置された垂直イオノゾンデの密集配列によって置き換えられ得る。
【0025】
図2は、4つの地震パラメータ-(x,y)、M、T、およびdを予測するための例示的な方法のブロック図を示す。この方法の工程は以下のとおりである。
210:図1に例示されるように、観察体積(140)を走査するラジオゾンデの配列によって提供されるイオノグラムを監視する工程。
220:イオノグラムの時間周波数領域に局在するプラズマ密度揺動に対応する高強度散乱信号の形で、いずれかのイオノグラムでSIIが検出されるかどうかを決定する工程。SIIが存在しない場合は、工程210に戻る。それ以外の場合は、次の工程に進む。
300:予測される震央の位置(x,y)を決定する工程。
400:予測されるマグニチュードMを決定する工程。
500:予測される発生時刻Tを決定する工程。
600:予測される震源の深さdを決定する工程。
【0026】
以下のセクションでは、アルゴリズム(300)、(400)、(500)、および(600)について詳しく説明する。
【0027】
震央の位置
図3aは、震央位置を高精度に予測できる4点形状のスケッチである。4つのイオノゾンデの配置は、震央Eを含む水平x-y平面上に投影されて示されている。イオノゾンデP1~P4によって測定されたイオノグラムから、体積(150)内のSIIが検出され、その時間遅延がイオノゾンデのそれぞれによって測定される。
【0028】
をイオノゾンデP(n=1,2,3,4)の3次元位置ベクトルとし、r=[xE,,H]を[x,y,0]の震央の上方に位置するSIIの位置ベクトルとする。SIIによって散乱され、イオノゾンデPによって受信されるレーダ信号の時間遅延(2で割ったもの)は、t=|r-rn|/cであり、cは光速である。イオノゾンデのペア間の時間遅延を比較すると、次のようになる。
【0029】
【数1-1】
【0030】
【数1-2】
【0031】
【数1-3】
ここで、t1jはP1とPj(j=2、3、4)で測定された時間遅延の差を示す。光速cは(c-δc)に等しく、c=3x10メートル/秒は真空中の電磁波の速度であり,δcはプラズマの正規化された誘電率(一般にεと表記される)に依存する速度補正である。
【0032】
H=HのようなHの先験的値を使用すると、方程式(1a)-(1c)は、3つの未知数(x、y、δc)を含む3つの非線形方程式のセットを表す。これらの方程式は、ニュートン・ラプソン反復法などの標準的な数値手法によって解くことができるであろう。
【0033】
図3bは、本発明による震央位置を予測するための例示的なアルゴリズム(300)のブロック図を示す。アルゴリズムには、次の工程を含む。
310:各ラジオゾンデにおける時間遅延tを測定する工程。
320:ペアごとの時間遅延差t1j=t-t(j=2、3、4)を計算する工程。
330:x、y、およびδcの値について方程式(1a)、(1b)、および(1c)を解き、(x,y)を出力する工程。
【0034】
アルゴリズム(300)の経験的試験は、図1に示すように、4つのイオノゾンデの配列を用いて、誤差2~3km未満の水平位置精度が可能であることを示した。これは、わずか約10~15kmの3つのイオノゾンデ(2つの斜めイオノゾンデおよび1つの垂直イオノゾンデ)のみを使用して達成できる位置精度よりも大幅に改善されている。
【0035】
4つ超のイオノゾンデを含む、図1bの代替実施形態では、同じ3つ超の未知数x、y、およびδcに対して3つ超の独立した非線形方程式のセットをもたらす、3つ超の時間遅延差t1jを形成し得るであろう。この場合、アルゴリズム(300)を3つの時間遅延差の異なる組み合わせに適用し、次いで結果を平均化することによって、さらに高い精度の推定を達成し得る。例えば、配列(100)が5つのイオノゾンデを含む場合、4つの独立した時間遅延差t1j(j=2、3、4、5)があり、これらは(x、y)の4つの異なる推定値を提供するために組み合わされ得る。後者は次いで、震央位置の非常に正確な予測を提供するために平均化され得る。
【0036】
マグニチュード推定
プローブ周波数は、電離層によって鏡面反射される最大周波数であり、その値は当業者によってイオノグラムから容易に決定される。一般に、以下の関係に従って、プローブ周波数は高度(h)および時間(t)と共に変化する。
【0037】
【数2-1】

ここで、eおよびmは電子の電荷および質量、εは真空誘電率、N(h,t)はプラズマ電荷密度、すなわち単位体積当たりの電子(またはイオン)の数である。電離層のD層~F層において、プラズマ電荷密度は通常、立方メートル当たり1011~1013の間である。
【0038】
とNは地震イベントの前に測定された非摂動プローブ周波数と電荷密度を示し、fとNは地震イベント中にSIIからの散乱によって測定された摂動プローブ周波数と電荷密度を示す。方程式(2a)から、SIIの電荷密度摂動(δN=N-N)は以下によって出される。
【0039】
【数2-2】
ここで、δf/f=(f-f)/fは相対周波数摂動である。
【0040】
‘964の中でブラウンシュタインによって提示された地震誘発縦方向音響重力波(AGW)によって引き起こされるプラズマ変動の静電モデルに基づいて、方程式(2b)におけるδN/Nの値は、低周波地震AGWの相対振幅δAに比例し、この相対振幅δAはリヒタースケール単位で測定される、地震イベントのマグニチュード(M)に比例する。M∝δA∝δN/Nなので、次のようになる。
【0041】
【数2-3】
ここで、Cは比例定数である。定数Cは、震央E付近の下層土地殻の組成に依存することが見出されており、通常0.2~0.8の範囲である。表1は、3列目に示す断層位置で行った調査に基づいて、経験的に決定されたCの値を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
太陽地磁気嵐は、AGWによって引き起こされない0.1程度の大きさの(δN/N)の値を生成する可能性があることに注意されたい。しかし、方程式(2c)と表1は、このような嵐が最大値M=0.9x0.1=0.09を生成する可能性があり、地震イベントと間違えるには小さすぎることを示している。
【0044】
図4はプローブ周波数摂動を用いたマグニチュード推定のための例示的なアルゴリズム(400)のブロック図を示し、以下の工程からなる。
410:高度(h)および時間(t)のプローブ周波数スペクトルf(h,t)を決定する工程。
420:方程式(2a)に従って、SIIによって引き起こされる相対周波数摂動
(δf/f)を計算する工程。
430:方程式(2b)に従って、電荷密度摂動δN/Nを計算する工程。
440:方程式(2c)に従って、マグニチュード(M)の推定値を計算する工程。
【0045】
マグニチュード推定アルゴリズムの経験的試験が行われ、マグニチュードM>1の地震については、リヒタースケールで約0.5単位の不確実性で地震マグニチュードが予測されることが示されている。
【0046】
予測発生時刻
最も重要な地震パラメータの1つは、予測発生時刻である。マグニチュードMが所定の閾値(例えば5)を上回ると推定された場合、発生時刻を事前に予測することで、震央位置付近に住む人々は予防措置を講じたり、その場所から避難したりすることさえできる。
【0047】
ルーマニアのヴランチャ付近や世界中の他の場所で発生した地震時に記録されたイオノグラムに関する発明者の広範な研究は、散乱RF信号の強度における高速周波数選択性フェージング効果を分析することによって、短期予測発生時刻を知ることができることを明らかにした。
【0048】
図5aは、地震発生前の高速周波数選択的フェージングを示す例示的な強度スペクトルI(f)のプロットである。スペクトルは、2016年9月に発生したマグニチュードM=4.8の地震の6時間前にヴランチャで記録された実際のイオノグラムから導出される。横軸にMHz単位の周波数(f)、縦軸にlog10(I(f)/100)をプロットする。信号強度の強くて深い偏差は、8から15~20MHzの周波数帯域で見られる。
【0049】
図5aの破線(505)は強度の急激な変動の包絡線であり、8~20MHzの周波数範囲における指数関数的な減少率は、周波数選択的フェージング方程式によってよく説明される:
【0050】
【数3】
ここでk=2πf/c、フィッティングパラメータは<(ΔΦ)=>100、L=10km、およびd=1kmである。場合によっては、分母の指数3/2を1または2で置き換えることによって、I(k)への適合度が高くなる。
【0051】
この急激な強度変動は、SII領域(150)における多数の小規模なプラズマの不規則性からの回折散乱によって引き起こされていると考えられる。プラズマの不規則性の大きさは、幾何学的散乱(scattering geometry)の第1フレネルゾーンの大きさを特徴付けるパラメータdよりも小さい。
【0052】
イオノグラムの記録は、地震の直前に小規模なプラズマの不規則性が、I(f)の周波数範囲全体fmin<f<fmaxを満たすことを示しており、ここでは通常fmin=8MHzであり、fmaxは地震イベントのマグニチュードMに応じて15~20MHzである。さらに、tmin<t<tmaxの時間遅延範囲全体に小規模なプラズマの不規則性が存在し、通常tmin=3ミリ秒およびtmax=5.5ミリ秒である。周波数および時間遅延のこれらのマーカーは、発生時刻Tが観測時刻Tから6~8時間と推定される地震の到来を示すものであり、そのとき小規模なプラズマの不規則性が上記周波数および時間遅延の範囲を満たす。
【0053】
図5bは、高速周波数選択的フェージングに基づいて発生時刻を予測するための例示的なアルゴリズム(500)のブロック図を示す。アルゴリズムは、次の工程からなる。
510:小規模なプラズマの不規則性の強度スペクトルI(f)を計算する工程。
520:高速周波数選択的フェージングがI(f)に存在するかどうかを判別する工程。そうでない場合は、工程510に戻る。
530:方程式(3)に従って、I(f)のフェージング包絡線(505)を計算する工程。
540:フェージングが周波数範囲fmin<f<fmaxを満たすかどうかを判別する工程。そうでない場合は、工程510に戻る。
550:フェージングが高度範囲Hmin<H<Hmaxを満たすかどうかを判別する工程。そうでない場合は、工程510に戻る。
560:予測発生時刻Tを計算する工程。
【0054】
アルゴリズム(500)の経験的試験が行われ、予測時間推定値は約0.5時間の不確実性を有することが示されている。
【0055】
震源の深さ
主要な地震イベントからのイオノグラムの広範な調査は、震央(I)の上で測定された震度、Mの値、およびlog10(d)の値(dはkmでの震源の深さ)の間にはほぼ直線的な関係があることを示している。
【0056】
dの推定値は、最初にアルゴリズム(400)を使用してMを計算し、次に方程式の1つを解くことによって見つかる。
【0057】
【数4-1】
【0058】
【数4-2】
ここで、以下の表2に示すように、浅い地震イベントと深い地震イベントでは係数が異なる。
【0059】
【表2】
【0060】
図6は、震源の深さ(d)を推定するための例示的なアルゴリズム(600)のブロック図を示し、以下の工程からなる。
610:アルゴリズム(300)を用いて予測される震央位置(xE,)を計算する工程。
620:震央の上の強度(I)を計算する工程。
630:アルゴリズム(400)を使用して予測マグニチュード(M)を計算する工程。
640:I、M、および方程式(4a)および(4b)を使用して、予測される震源の深さ(d)を計算し、出力する工程。
【0061】
アルゴリアズム(600)の経験的試験では、予測される深さdの精度が約0.5kmであることが示されている。
【0062】
電離層前兆現象を使用して震央位置、マグニチュード、発生時刻、震源の深さの地震パラメータを予測するための上記アルゴリズムは、赤道から極冠まで、異なる大陸や海底における地震イベント、地球上のさまざまな子午線と緯度など、世界中の地震に適用されること試験され、見出されている。さらに、津波の発生や大きさを予測する上で、震源の深さや震央の位置を正確に予測することは非常に重要である。
【0063】
一般に、本開示の様々な実施形態の記載は、説明の目的で提示されたが、開示される実施形態を網羅することや、開示される実施形態に限定されることを意図するものではない。他の多くの修正および変更は、記載された実施形態の範囲および精神から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本明細書で使用される専門用語は、実施形態の原理、市場で見出される技術に対する実用的な適用もしくは技術的改善を最もよく説明するために、または当業者が本明細書に開示される実施形態を理解できるようにするために選択された。
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5a
図5b
図6
【外国語明細書】