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特開2022-165414心室頻拍(VT)に関連する遅い電気生理学的(EP)心臓経路のアノテーション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165414
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】心室頻拍(VT)に関連する遅い電気生理学的(EP)心臓経路のアノテーション
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/367 20210101AFI20221024BHJP
   A61B 5/343 20210101ALI20221024BHJP
   A61B 5/363 20210101ALI20221024BHJP
   A61B 18/12 20060101ALI20221024BHJP
【FI】
A61B5/367
A61B5/343
A61B5/363
A61B18/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022068108
(22)【出願日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】17/234,032
(32)【優先日】2021-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】タル・ハイム・バル-オン
(72)【発明者】
【氏名】メイル・バル-タル
(72)【発明者】
【氏名】ガル・ハヤム
(72)【発明者】
【氏名】エイナット・シャピラ
【テーマコード(参考)】
4C127
4C160
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127BB05
4C127DD04
4C127FF03
4C127GG05
4C127GG10
4C127HH13
4C127LL08
4C160MM38
(57)【要約】
【課題】心臓内の電気的伝播を評価すること。
【解決手段】心臓内の電気的伝播の評価のための方法は、患者の心臓に印加されたペーシング信号を受信することを含み、ペーシング信号は、正常なシーケンス及びより短い異常なペーシング刺激を含む。応答した心臓信号が受信され、これは、心臓内の位置の電極、及び患者の身体表面の電極によって感知される。モデル応答が、正常なペーシング刺激によって引き起こされた誘発電位から見つけられ、注釈付けされる。ペーシング刺激と組織位置でそれぞれ結果として生じる誘発電位との間の正常な時間遅延及び減少時間遅延を見つけて計算するために、異なる信号セクションに沿ったモデル応答間の相関がなされる。時間差が、正常な時間遅延と減少時間遅延との間で計算される。組織位置に提示された時間差のグラフィック表示を備えた、心臓の少なくとも一部分のEPマップがユーザに提示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓内の電気的伝播の評価のためのシステムであって、
インターフェースであって、
患者の心臓に印加されるペーシング信号であって、前記ペーシング信号が、(i)洞調律間隔での正常なペーシング刺激のシーケンスと、(ii)前記洞調律間隔よりも短い異常な間隔での1つ又は2つ以上の異常なペーシング刺激と、を含む、ペーシング信号と、
前記ペーシング信号に応答して、前記心臓内の位置の電極、及び前記患者の身体表面上の電極によって感知された心臓信号と、を受信するように構成された、インターフェースと、
プロセッサであって、
前記正常なペーシング刺激によって引き起こされた誘発電位からモデル応答を見つけて注釈付けすることと、
前記モデル応答で最高スコアリングを受信した信号セクション内のインデックスに従って、前記正常なペーシング刺激によって引き起こされた第1の誘発電位のアノテーション、並びに1つ又は2つ以上の異常なペーシング刺激によって引き起こされた第2の誘発電位のアノテーションを見つけるために、異なる信号セクションに沿った前記モデル応答間で相関させることと、
第1の時間遅延及び第2の時間遅延を計算することと、
正常な時間遅延と減少時間遅延との間の時間差を計算することと、
前記組織位置に提示された前記時間差のグラフィック表示を備えた、前記心臓の少なくとも一部分のEPマップをユーザに提示することと、を行うように構成された、プロセッサと、を備える、システム。
【請求項2】
前記プロセッサが、前記1つ又は2つ以上の信号の導関数に応じて前記相関を重み付けすることによって、前記モデル応答を相関させるように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサが、前記第1の時間遅延及び前記第2の時間遅延の推定を、推定された前記第1の遅延及び前記第2の遅延のバイポーラ信号に注釈付けすることによって行うように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記インターフェースが、前記患者の外部の電極からそれぞれの心電図(ECG)信号を受信するように更に構成され、前記プロセッサが、前記ECG信号を使用して、事前定義された数の正常なペーシング刺激及び前記第1の異常なペーシング刺激に応答して、安定した収縮が発生したかどうかを推定することと、前記それぞれのECGが安定した収縮を示さない前記心臓信号の部分を破棄することと、を行うように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記プロセッサが、前記バイポーラ信号における誘発電位の反復性を推定することによって、前記安定した収縮を推定するように構成されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記プロセッサが、前記バイポーラ信号を平滑化することと、平滑化された前記バイポーラ信号における前記誘発電位を検出することと、によって、前記安定した収縮を推定するように構成されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記プロセッサが、近接場信号から遠方場を識別することによって、1つ又は2つ以上の相関を推定するように構成されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項8】
前記プロセッサが、GUIのスケールを調整して、前記EPマップ上に表示される前記時間差の最小の正の値を定義することによって、前記EPマップを提示するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記プロセッサが、前記時間差の値を示すためにグラフィカルにコード化されている人工アイコンを前記EPマップ上に重ね合わせることによって、前記EPマップを提示するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記プロセッサが、異常な心室活動の発生を前記ユーザに示すことによって、前記EPマップを提示するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記プロセッサが、前記EPマップ上で色及び表面形態のうちの少なくとも1つを使用することによって、前記異常な心室活動の発生を示すように構成されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記インターフェースが、カテーテルを使用して取得されたユニポーラ及びバイポーラ電位図を受信することによって、前記心臓信号を受信するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記プロセッサが、事前指定されたメトリックに基づいて最高スコアリング相関を推定するように機械学習モデルを訓練することによって、最高スコアリング相関を推定するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
心臓内の電気的伝播の評価のための方法であって、
患者の心臓に印加されたペーシング信号を受信することであって、前記ペーシング信号が、(i)洞調律間隔での正常なペーシング刺激のシーケンスと、(ii)前記洞調律間隔よりも短い異常な間隔での1つ又は2つ以上の異常なペーシング刺激と、を含む、受信することと、
前記ペーシング信号に応答して、前記心臓内の位置の電極、及び前記患者の身体表面上の電極によって感知された心臓信号を受信することと、
前記正常なペーシング刺激によって引き起こされた誘発電位からモデル応答を見つけて注釈付けすることと、
前記モデル応答で最高スコアリングを受信した信号セクション内のインデックスに従って、前記正常なペーシング刺激によって引き起こされた第1の誘発電位のアノテーション、並びに1つ又は2つ以上の異常なペーシング刺激によって引き起こされた第2の誘発電位のアノテーションを見つけるために、異なる信号セクションに沿った前記モデル応答間で相関させることと、
第1の時間遅延及び第2の時間遅延を計算することと、
正常な時間遅延と減少時間遅延との間の時間差を計算することと、
前記組織位置に提示された前記時間差のグラフィック表示を備えた、前記心臓の少なくとも一部分のEPマップをユーザに提示することと、を含む、方法。
【請求項15】
モデル応答と相関させることが、前記1つ又は2つ以上の信号の導関数に応じて前記相関を重み付けすることを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の時間遅延及び前記第2の時間遅延を推定することが、推定された前記第1の遅延及び前記第2の遅延のバイポーラ信号に注釈付けすることを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記患者の外部の電極からそれぞれの心電図(ECG)信号を受信することと、前記ECG信号を使用して、事前定義された数の正常なペーシング刺激及び前記第1の異常なペーシング刺激に応答して、安定した収縮が発生したかどうかを推定することと、前記それぞれのECGが安定した収縮を示さない前記心臓信号の部分を破棄することと、を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記安定した収縮を推定することが、前記バイポーラ信号における誘発電位の反復性を推定することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記安定した収縮を推定することが、前記バイポーラ信号を平滑化することと、平滑化された前記バイポーラ信号における前記誘発電位を検出することと、を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
1つ又は2つ以上の相関を推定することが、近接場信号から遠方場を識別することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記EPマップを提示することが、GUIのスケールを調整して、前記EPマップ上に表示される前記時間差の最小の正の値を定義することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記EPマップを提示することが、前記時間差の値を示すためにグラフィカルにコード化されている人工アイコンを前記EPマップ上に重ね合わせることを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記EPマップを提示することが、異常な心室活動の発生を前記ユーザに示すことを更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記異常な心室活動の発生を示すことが、前記EPマップ上で色及び表面形態のうちの少なくとも1つを使用することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記心臓信号を受信することが、カテーテルを使用して取得されたユニポーラ及びバイポーラ電位図を受信することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
最高スコアリング相関を推定することが、事前指定されたメトリックに基づいて最高スコアリング相関を推定するように、機械学習モデルを訓練することを含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して電気生理学的(electrophysiological、EP)信号に関し、具体的には、心臓内の電気的伝播の評価のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
局所興奮時間(local activation time、LAT)を決定するための電気生理学的信号のアノテーションは、特許文献で従前に提案されている。例えば、米国特許第9,662,178号は、患者の不整脈原性回路を識別するためのシステム及び方法の様々な実施形態を記載している。一実施形態では、本方法は、追加刺激を用いてプログラムされた心室ペーシングを実行しながら、心臓の様々な位置で記録された電位図のデータを取得することと、記録された電位図を使用して、心臓の少なくとも2つの異なる位置の減少値を取得することと、減少値を使用して減少マップの少なくとも一部分を生成することと、有意な減少特性を有する電位図に基づいて不整脈原性回路を識別することと、を含む。
【0003】
別の例として、米国特許出願公開第2018/0089825号は、a)心臓腔の刺激ポイントのセット間の相関工程であって、各刺激ポイントが、心室頻拍を除く、表面心電図検査(electrocardiography、ECG)の後に得られる信号のセットによって表される、相関工程と、b)上記の相関結果及び3Dマップにおける刺激ポイントの3D座標に基づく分水界ラインの識別工程と、c)分水界ラインを実質的に横断する3Dコリドに基づく峡部の決定工程と、を実行するように構成された処理ユニットによって、心臓腔の三次元マップにおいて、峡部を識別するための方法を記載している。
【0004】
国際公開第2018/073722号は、心筋瘢痕又は線維性組織における心室不整脈原性基質を識別するためのコンピュータ実装方法及びコンピュータプログラム製品を記載している。患者から取得された複数のマッピングポイントは、信号取得ユニットに格納され、マッピングポイントは、ECG信号、電位図(EGM)信号、及びEGM信号の3D位置を含み、本方法は、基準マッピングポイントについて、a)1つの記録されたECG信号に存在する各拍動を検出し、検出された拍動から目的の拍動を識別することと、b)識別された目的の拍動に関連する主要なEGM波を識別することと、c)一次描写されたEGM信号を提供する当該主要なEGM波の開始及び終了時間ランドマークを識別し、一次描写されたEGM信号の電圧振幅を測定することと、d)一次描写されたEGMの更なる分析を実行することと、e)分析中に実行されたタグ付けの結果に基づいて、心臓の伝導チャネルマップ及び伝播マップを作成することと、を含む。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態は、患者の心臓に印加されたペーシング信号を受信することを含む方法を提供し、ペーシング信号は、(i)洞調律間隔での正常なペーシング刺激のシーケンスと、(ii)洞調律間隔よりも短い異常な間隔での1つ又は2つ以上の異常なペーシング刺激と、を含む。心臓内の位置の電極、及び患者の身体表面上の電極によって、ペーシング信号に応答して感知された心臓信号が受信される。モデル応答が、正常なペーシング刺激によって引き起こされた誘発電位から見つけられ、注釈付けされる。モデル応答で最高スコアリングを受信した信号セクション内のインデックスに従って、正常なペーシング刺激によって引き起こされた第1の誘発電位のアノテーション、及び1つ又は2つ以上の異常なペーシング刺激によって引き起こされた第2の誘発電位のアノテーションを見つけるために、異なる信号セクションに沿ったモデル応答間で相関がなされる。第1の時間遅延及び第2の時間遅延が計算される。時間差が、正常な時間遅延と減少時間遅延との間で計算される。組織位置に提示された時間差のグラフィック表示を備えた、心臓の少なくとも一部分のEPマップがユーザに提示される。
【0006】
いくつかの実施形態では、モデル応答と相関させることは、1つ又は2つ以上の信号の導関数に応じて相関を重み付けすることを含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、第1の時間遅延及び第2の時間遅延を推定することは、推定された第1の遅延及び第2の遅延のバイポーラ信号に注釈付けすることを含む。
【0008】
実施形態では、本方法は、患者の外部の電極からそれぞれの心電図(ECG)信号を受信することと、ECG信号を使用して、事前定義された数の正常なペーシング刺激及び第1の異常なペーシング刺激に応答して、安定した収縮が発生したどうかを推定することと、を更に含む。それぞれのECGが安定した収縮を示さない心臓信号の部分は、破棄される。
【0009】
いくつかの実施形態では、安定した収縮を推定することは、バイポーラ信号における誘発電位の反復性を推定することを含む。他の実施形態では、安定した収縮を推定することは、バイポーラ信号を平滑化することと、平滑化されたバイポーラ信号における誘発電位を検出することと、を含む。
【0010】
実施形態では、1つ又は2つ以上の相関を推定することは、近接場信号から遠方場を識別することを含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、EPマップを提示することは、GUIのスケールを調整して、EPマップ上に表示される時間差の最小の正の値を定義することを含む。
【0012】
他の実施形態では、EPマップを提示することは、時間差の値を示すためにグラフィカルにコード化されている人工アイコンをEPマップ上に重ね合わせることを含む。
【0013】
更に他の実施形態では、EPマップを提示することは、異常な心室活動の発生をユーザに示すことを更に含む。
【0014】
実施形態では、異常な心室活動の発生を示すことは、EPマップ上で色及び表面形態のうちの少なくとも1つを使用することを含む。
【0015】
実施形態では、心臓信号を受信することは、カテーテルを使用して取得されたユニポーラ及びバイポーラ電位図を受信することを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、最高スコアリング相関を推定することは、事前指定されたメトリックに基づいて最高スコアリング相関を推定するように、機械学習モデルを訓練することを含む。
【0017】
本発明の別の実施形態によれば、インターフェースと、プロセッサと、を含むシステムが追加的に提供される。インターフェースは、患者の心臓に印加されたペーシング信号を受信するように構成され、ペーシング信号は、(i)洞調律間隔での正常なペーシング刺激のシーケンスと、(ii)洞調律間隔よりも短い異常な間隔での1つ又は2つ以上の異常なペーシング刺激と、を含む。インターフェースは、ペーシング信号に応答して、心臓内の位置の電極、及び患者の身体表面上の電極によって感知された心臓信号を受信するように更に構成されている。プロセッサは、(a)正常なペーシング刺激によって引き起こされた誘発電位からモデル応答を見つけて注釈付けすることと、(b)モデル応答で最高スコアリングを受信した信号セクション内のインデックスに従って、正常なペーシング刺激によって引き起こされた第1の誘発電位のアノテーション、及び1つ又は2つ以上の異常なペーシング刺激によって引き起こされた第2の誘発電位のアノテーションを見つけるために、異なる信号セクションに沿ったモデル応答間で相関させることと、(c)第1の時間遅延及び第2の時間遅延を計算することと、(d)正常な時間遅延と減少時間遅延との間の時間差を計算することと、(e)組織位置に提示された時間差のグラフィック表示を備えた、心臓の少なくとも一部分のEPマップをユーザに提示することと、を行うように、構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下の本開示の実施形態の詳細な説明を図面と併せ読むことで、本開示のより完全な理解が得られるであろう。
図1】本発明の例示的な実施形態による、カテーテルベースの電気生理学的(EP)マッピングシステムの概略描写図である。
図2】本発明の例示的な実施形態による、バイポーラ信号上に注釈付けされた減少誘発電位(decrement-evoked potential、DeEP)を有する、図1のシステムを使用して取得されたバイポーラ電位図の例示的なグラフを示す。
図3】本発明の例示的な実施形態による、心室頻拍(ventricle tachycar、VT)を起こし得るDeEPの組織位置及び大きさを示す心室のEPマップの概略的な描写的ボリュームレンダリングである。
図4】本発明の例示的な実施形態による、バイポーラ電位図におけるDeEPのアノテーションのための方法及びアルゴリズムを概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
概論
心室頻拍(VT)又は心房頻拍などの心臓頻拍は、心腔内の異常な電気信号によって引き起こされる心臓リズム障害(不整脈)である。例えば、VTは、心臓の下部チャンバ(心室)内の異常な電気信号によって引き起こされ得る。VTは、瘢痕組織などの心室組織における局所電気生理学的(EP)伝導欠陥によって引き起こされ得る。例えばアブレーションによって、そのような不整脈発生部位を見つけて治療するために、心室は、VTを引き起こしている可能性のある異常な組織位置(例えば、遅延誘発電位を示す位置)を識別するために、ペーシングされ、カテーテルを使用してEPマッピングされ得る。
【0020】
具体的には、EPマッピングは、瘢痕の全領域にわたって瘢痕組織をアブレーションするのに有用であることが判明している、「瘢痕均質化」と呼ばれる治療アプローチのサポートで行われ得る。アブレーション的治療の背後にある動機は、生じた瘢痕内で生存する、不十分に連結された心室組織繊維を標的とすることである。これらの束は、VTの原因であると考えられている遅い伝導(瘢痕峡部)を呈するEP経路を生成すると考えられている。この目標を達成するために、瘢痕組織のEPマッピング、続いて瘢痕均質化は、これまでのところ、VTを排除するために最適な手順のエンドポイントであるように見える。
【0021】
頻拍につながる経路及び回路のEPマッピングを実行するために、通常、頻拍はEP調査中に開始される。しかしながら、VTは、多くの場合、非誘導性又は血液力学的に不安定であるため、基質マッピングが、しばしば必要である。基質マッピングでは、洞調律又は心室ペーシングにおける組織の特性は、組織の不整脈原性に関連している。
【0022】
以下に記載される本発明の実施形態は、心室などの心臓腔をペーシングするために基質マッピングのみを使用する一方で、遅延誘発電位を自動的に識別及び分析する方法及びシステムを提供する。開示される実施形態では、自動化された減少誘発電位(DeEP)検出方法は、瘢痕峡部を示す電位図(例えば、バイポーラ電位図)における異常に遅延した誘発電位を自動的に検出、分析、注釈付け、計算及び提示するために使用される。
【0023】
DeEPマッピングは、基質マッピング技法である。この方法の基礎は、減少追加刺激を伴う減少伝導を示す心室組織が、異常なVT回路により特異的であるように思われるということである。DeEP情報は、典型的には、心室のEPマップ上に重ね合わされたDeEPデータ層として提示される。
【0024】
開示された技法では、心室は、正常な洞調律パルスの短いシーケンスでペーシングされる。短いシーケンスは、より短いパルス間間隔を有する1つ又は2つ以上のパルス(典型的には、最大3つ)で終了する。一般的な表記法は、これを、S1ペースのトレイン(常にではないが、通常600ミリ秒サイクル長を有する)と、それに続く、新しい活動電位が通常は開始できない期間(一般に不応期と呼ばれる)の直後(例えば、20ミリ秒後)に送達される1つ又は2つ以上の減少追加刺激(S2、S3など)を有するペーシングとして定義し、それにより、異常な組織で探している不整脈原性応答を刺激する。
【0025】
この説明の文脈において、「正常な洞調律パルス」という表現は、事前定義された変動までの等距離のパルスを含む。例えば、間隔600±6ミリ秒のパルスのシーケンスが定義に含まれる。より一般的には、事前定義された変動まで任意の所与の等距離間隔(例えば、500ミリ秒又は700ミリ秒などの600ミリ秒より小さい又はより大きい)を有するパルスのシーケンスは、以下「正常な洞調律パルス」と見なされる。典型的には、事前定義された変動は、指定された等距離間隔の1%のオーダーに制限される。それぞれの減少追加刺激は、上記の等距離間隔に関して定義される。
【0026】
上記のシーケンスは、不整脈原性組織の遅延電位を呼び出すための初期の拍動(早期心室収縮、PVC)をシミュレートする。正常な洞調律ペーシングパルスに応答して、誘発電位は、刺激後の正常な時間遅延で各々1つ発生する。ペーシングパルスと結果として生じる誘発電位との間のこの正常な遅延は、以下「第1の時間遅延」と呼ばれる。EPマッピング方法のこの部分は、正常組織を特徴付けるのに十分である。
【0027】
短いシーケンスは、1つ又は2つ以上の短い間隔(すなわち、減少)ペーシング刺激で終了する。例えば、洞調律ペーシングが0.6秒の期間で行われる場合、1つ又は2つ以上の短い間隔のペーシング刺激は、洞調律刺激に続いて0.4秒間隔で印加される。「パルス」及び「刺激」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0028】
減少追加刺激に応答して、誘発電位は(第1の時間遅延と比較して)遅延され得る。意味のある相対遅延(例えば、10ミリ秒超)が存在する領域は、異常なVT回路に特化したものと考えられる。一般に、初期の拍動(早期心室収縮、PVC)は、比較的一般的なものである。初期の拍動の結果としてより遅い伝導を示す組織のように、初期の拍動が不整脈原性組織に遭遇する場合のみ、異常なVT回路を開始し、維持することができる。発生する場合、対応する追加刺激ペーシングパルスと比較して、これらの誘発電位の第1の時間遅延よりも大きな遅延は、以下、「第2の時間遅延」と呼ばれる。
【0029】
プロセッサは、マッピングカテーテルによって取得されたバイポーラ信号など、心臓表面上の様々な組織位置で経時的に取得された結果として生じる信号を分析し、1つ又は2つ以上の短い間隔のペーシングパルスの結果として発生する遅延誘発電位検出する。プロセッサは、第1の時間遅延及び第2の時間遅延を有する誘発電位に注釈付けし、第2の時間遅延と第1の時間遅延との間の時間差を計算し、この時間差は、以下「DeEP間隔」と呼ばれる。
【0030】
いくつかの実施形態では、各マップされた組織位置で次の工程を実行して、第1の時間遅延及び第2の時間遅延を推定する。
1.潜在的に遅延誘発電位を引き起こす1つ又は2つ以上の減少(すなわち、追加刺激)ペースを生成する。
2.各誘発電位について、遅延誘発電位の時間中の候補アノテーションを決定する。例えば、注釈付けされる候補時間は、短い信号セクションの中心であり得る。
例示的な実施形態では、各誘発電位のアノテーションは、DeEPの計算の信頼性を最大化するために、同様の形態学的位置(例えば、応答の同じ振れ)にあるべきである。一実施形態では、開示されるアノテーションプロセスは、3つの工程を含む。(i)S1ペースへの応答からモデル応答の抽出、これは、EGMにおける他のS1ペース誘発電位、特にS1ペース後の最後の3~4応答と高い相関を有する誘発電位である、(ii)例えば、質量中心における、又は、好ましくは、応答の最後の振れにおける、モデル応答のアノテーション、及び(iii)モデル応答で計算されたスコアリングに基づいた、追加刺激への応答を含む、他の誘発電位のアノテーション。例示的な実施形態では、プロセッサは、各セクションのモデル応答との導関数-加重-相関に基づいて、ペーシング信号の各信号セクションに沿ってスコアリングを計算する(ペース間、又は最後のペースと350~400ミリ秒後との間の間隔)。各信号セクションでは、最高スコアリングを受信したポイント(例えば、インデックス)が、その間隔のアノテーションとして選択される。
EGM内の全ての間隔に注釈付けした後、アルゴリズムは、それらのスコアリングが事前定義された閾値を下回る(モデル応答に対する形態学的適合性が低い)アノテーションを削除する。加えて、開示された自動アルゴリズムは、応答のタイミングの標準偏差(ペースからのアノテーションの距離)を計算することによって、S1後の最後の3つの誘発電位の安定性をチェックする。
3.各間隔の選択されたアノテーションと相対位置との間の距離を使用して、第1の遅延及び第2の遅延を計算する。最も単純な相対位置は、各応答前のペースである。別の実施形態では、アノテーションは局所近接場応答のマーキングと見なされるが、相対位置は遠方場応答のマーキングであり得る(次いで、距離が、ペース後の近接場応答と遠方場応答との間で測定される)。
【0031】
より一般的には、プロセッサは、機械学習を使用することによってなど、当該技術分野で既知の任意の他の方法によって相関の程度を推定し、スコアリングを定義して、最高スコアリングとの相関を見つけることができる。例えば、スコアリングは、L1などの事前指定されたメトリックに基づくことができる。
【0032】
例示的な実施形態では、DeEP間隔(すなわち、時間差)の値が、グラフィカルにコード化される(例えば、より長いDeEP間隔は、より大きなタグ(例えば、球体アイコン)によってマークされる。
【0033】
例示的な実施形態では、GUIが、所与のDeEP間隔がVTを引き起こす瘢痕峡部の位置をどの程度示しているかを医師が決定するのを支援するために提供される。GUIは、医師が、マップ上の(正)閾値よりも長いDeEPのみを示すために使用することができる調整可能なスケールを含む。
【0034】
典型的には、プロセッサは、プロセッサが、上で概略を述べたプロセッサ関連工程及び機能の各々を実施することを可能にする、特定のアルゴリズムを含むソフトウェアにプログラム化されている。
【0035】
自動化されたDeEPアノテーションアルゴリズムを適用して、VTを誘発する局所的心臓(例えば、心室)の組織位置をマッピングすることによって、開示された侵襲的心臓診断方法は、診断カテーテル法処置の安全性及び価値を改善し得る。
【0036】
システムの説明
図1は、本発明の例示的な実施形態による、カテーテルベースの電気生理学的(EP)マッピングシステム21の概略描写図である。図1は、患者25の心臓23の電気解剖学的マッピングを実行するために電気解剖学的マッピングカテーテル29を使用している医師27を図示している。マッピングカテーテル29は、その遠位端に、1つ又は2つ以上のアーム20を含み、アーム20のそれぞれは、隣接する電極22a及び22bを含むバイポーラ電極22に連結されている。
【0037】
マッピング処置中、電極22の位置は、それらが患者の心臓23内にある間に追跡される。その目的のために、電気信号が、電極22と外部電極24との間を通される。例えば、3つの外部電極24が患者の胸に連結されてもよく、別の3つの外部電極が患者の背中に連結されてもよい。(例示しやすいように、1つの外部電極しか図1に示されていない)。
【0038】
信号に基づいて、及び患者の身体上の電極24の既知の場所を考慮して、プロセッサ28は、患者の心臓内の各電極22の推定される位置を計算する。バイポーラ電位図トレースなどのそれぞれの電気生理学的データは、電極22を使用することによって心臓23の組織から追加的に取得される。こうして、プロセッサは、バイポーラEP信号などの電極22から受信された任意の所与の信号を、信号が取得された位置と関連付け得る。プロセッサ28は、電気的インターフェース35を介して結果的に得られた信号を受信し、これらの信号に含まれる情報を使用して、電気生理学的マップ31及びECGトレース40を構築し、これらをディスプレイ26上に提示する。
【0039】
プロセッサ28は、通常、本明細書に記載されている機能を実行するようにプログラムされたソフトウェアを有する汎用コンピュータを備える。ソフトウェアは、例えばネットワーク上で、コンピュータに電子形態でダウンロードすることができる、あるいは代替的に又は追加的に、磁気メモリ、光学メモリ、若しくは電子メモリなどの、非一時的実体的媒体上に提供及び/又は記憶することができる。特に、プロセッサ28は、図4に含まれている本明細書に開示される専用のアルゴリズムを実施し、これは、以下で更に記載されるように、プロセッサ28が本開示の工程を行うことを可能にする。
【0040】
図1に示される実施例の例解は、単に概念を分かりやすくする目的で選択されている。Lasso(登録商標)カテーテル(Biosense Webster Inc.,Irvine,Californiaにより製造されている)などの、他のタイプの電気生理学的検知カテーテル幾何形状が採用されてもよい。追加的に、接触センサは、マッピングカテーテル29の遠位端に装着され、組織との電極接触の物理的品質を示すデータを伝送してもよい。例示的な実施形態では、1つ又は2つ以上の電極22の測定値は、それらの物理的接触品質が悪いと示される場合に破棄され得、他の電極の測定値は、それらの接触品質が十分であると示される場合に有効と見なされ得る。
【0041】
VTに関連する遅いEP心臓経路のアノテーション
図2は、本発明の例示的な実施形態による、バイポーラ信号上に注釈が付けられた(224)減少誘発電位(DeEP)を備えた、図1のシステム21を使用して取得されたバイポーラ電位図200の例示的なグラフを示す。グラフ(i)及び(ii)は各々、正常な等距離(205)ペーシング刺激202のシーケンスを含む全体s1ペースセクション206内の短い洞調律ペーシング刺激セクション207、及び結果として生じる誘発電位204を示す。セクション207のうちの1つは、アノテーション214を有する前述のモデル応答256を含むことが見出されている。モデル応答256が選択されているのは、その207セクション全体が他の207セクションと最も高い相関を有するためである。実施形態では、プロセッサは、ペース202の約70ミリ秒後に開始して、約170~200ミリ秒の持続時間に従って、そのセクション207からモデル応答256を切り取る。別の実施形態では、これは、別のアノテーションアルゴリズム(例えば、心臓内信号の局所活動を識別するためにBiosense Websterによって作成されたアルゴリズム)を使用し、アノテーションの周りの「静かなゾーン」(そこで応答が開始及び終了する)を探索することによって、間隔(応答256を保持するセクション207の間隔205)に注釈付けをするプロセッサによって実行される。
【0042】
最後のペーシング刺激208は、正常な洞調律よりも短い時間間隔209の後に印加されるため、減少し、遅延誘発電位210を誘発し得る。グラフ(i)及び(ii)では、間隔205は0.6秒であり、短い間隔209はわずか0.35秒である。
【0043】
正常な洞調律ペーシング刺激202の短いシーケンス(グラフ(i)及び(ii)において、セクション206は7つの期間を含む)、これは通常、安定した心臓反応をもたらし、S1ペーシング刺激202の各々と結果として生じる注釈付き(214)誘発電位204との間にほぼ等しい時間遅延212を有する。結果として、はっきり定義された「第1の時間遅延」は、例えば最後の時間遅延212を使用して、又は最新の5つの遅延212(ペーシング刺激208の前の)を平均化することによって導出することができる。グラフ(i)及び(ii)では、第1の時間遅延は、それぞれ147ミリ秒及び210ミリ秒である。
【0044】
実施形態では、開示されたアルゴリズムは、応答のタイミングの標準偏差(すなわち、ペースからのアノテーションの遅延212)を計算することによって、3つの最後のS1後の誘発電位204の安定性をチェックすることを含む。標準偏差が所与の閾値未満である場合、応答のタイミングが十分に定義され有用であると考えられ、プロセッサは、DeEPの後続の計算で使用するために、遅延212として3つの平均又は最新のものを選択する。
【0045】
上記のように、短い間隔の刺激208は、例えば、異常な組織を示す「第2の時間遅延」222を有する誘発電位の、異なる心臓応答を生成し得る。これは、(以下に説明されるように導出されるアノテーション224を有する)S2誘発電位の部分215を含むブロック216に見られる。
【0046】
アノテーション214及び224を見つけるために、プロセッサ28は、以下の走査相関プロセスを実行する。
【0047】
各セクション207、209、又は最後の208ペースと350~400ミリ秒後(216)との間において、プロセッサは、各S1ブロック(その誘発電位204を有する)をこの200ブロックの抽出されたモデル応答と相関させる。走査は、各セクション207/209/216に対して開始され、モデル応答214のアノテーションインデックス(256の質量中心として、又は、好ましくは最後の振れで選択された)がセクションの先頭に位置合わせされて、以下の式1のインデックス「i」によって整列インデックスを移動させ、ブロックの時間軸の各そのようなインデックスiにおいて、式1を使用して結果を計算する。連続するインデックス間の典型的な時間工程は、1ミリ秒である。
【0048】
プロセッサは、最高スコアリングを有するインデックスを間隔の時間アノテーション(S1内の214及びS2内の224)として選択し、ここで、プロセッサは、式1を使用して最高スコアリングを計算した。
【0049】
アノテーションポイント224はまた、開示された導関数-加重-相関アノテーションスコアリング方法を使用して推定される。挿入図230に見られるように、モデル応答256は、S2信号セクション215と相関され、最高スコアリングを有するインデックスが、アノテーション224としてプロセッサ28によって選択される。モデル応答256と減少信号セクション215との間の相関プロセスが、点線矢印218を使用して挿入図230に図示されている。
【0050】
グラフ(i)及び(ii)に見られるように、誘発電位は、信号の強い振れ(大きな導関数)によって特徴付けられ得る。実施形態では、相関は、スコアリング精度を向上させるために、導関数の大きさによって重み付けされる。
【0051】
本明細書において「走査」とも呼ばれる導関数-加重-相関工程の間、プロセッサ28は、高導関数への有利性との相関の組み合わせであるスコアリングを計算し、すなわち、走査の各ポイントにおいて、プロセッサ28は、次式を計算する。
【0052】
【数1】
式中、vは、洞調律セクション207又はバイポーラ信号の減少セクションのいずれかのバイポーラポイントを指し、uは、セクション256におけるポイントを指し、|u |は、このポイントでのその導関数の大きさであり、nは、セクション215の長さ(ミリ秒で)であり、tは、セクション215におけるアノテーションの候補時間である。tは、式1を使用して、スコアリングが計算されるセクション215のアノテーションポイントであり、セット{t}のうちの1つの最高スコアリングポイントが、遅延誘発電位204及び210に注釈を付ける(224)ポイントとして選択される。
【0053】
いくつかの実施形態では、プロセッサは、アルゴリズムの式1(又は同様の式)を使用して、洞調律バイポーラ信号セクション207の相互の相関の程度をチェックし、相関処置を使用して、モデル応答256を受信するために最高スコアリングをもたらすS1ブロックの中のアノテーション214を選択する。
【0054】
次いで、プロセッサ28は、定義されたセクション215の候補アノテーションポイント220の中で最も高い導関数-加重-相関スコアリングを有するアノテーションポイント224を選択する。
【0055】
VTが疑われる誘発電位に注釈が付けられると(224)、遅延時間222を計算することができる。DeEP間隔は、組織位置での遅延2と1との間の時間差として定義される。
式2 DeEP間隔=[遅延222]-[遅延212]
【0056】
典型的には、臨床的に有意であるために、時間差は、数ミリ秒を十分に超えるべきである。図2に示されている40ミリ秒を超える時間差(すなわち、DeEP間隔)222は、VTを引き起こしている組織位置の強い兆候である。医師は、図3に示すように、DeEp閾値(常に正の値)を調整することによって、臨床的に「有意な」DeEP間隔と見なされるものだけを示すようにGUIを調整することができる。
【0057】
式1は、例として挙げたものである。最良のアノテーションの必要な選択を提供するために、他のスコアリング式もまた使用され得る。
【0058】
図3は、本発明の実施形態による、心室頻拍(VT)を引き起こし得るDeEPの組織位置及び大きさを示す、心室の電気生理学的(EP)マップ300の概略的な描写的ボリュームレンダリングである。
【0059】
図示の例では、EPマップ300は、VTを示すDeEP間隔を呈する心臓組織位置を示すためにボールアイコン302でオーバーレイされた電圧マップである。
【0060】
図3では、組織位置からのVTの潜在的なリスクが、位置でのDeEP間隔の値として定義される。見られるように、より大きなDeEP間隔を呈する心臓組織位置は、より大きなタグ(例えば、ボールアイコン)302によってマークされている。
【0061】
上記のように、医師は、GUIのスケール304を調整して、ユーザ指定の正の値の閾値306を超えるDeEP間隔のみを示すことができる。任意選択的に、ユーザは、最大のDeEP間隔値308を設定することができる。
【0062】
DeEP間隔の情報の層に基づいて、医師27などの医師は、患者への危険を最小限に抑えながら、注意深く選択的なアブレーションを計画及び実行することができる。
【0063】
DEEPの自動検出方法
図4は、本発明の例示的な実施形態による、バイポーラ電位図200におけるDeEP 210のアノテーション(S1~214、及びS2~224)のための方法及びアルゴリズムを概略的に示すフローチャートである。提示された実施形態によれば、アルゴリズムは、ペーシング工程400で、システム21がペーシング信号を印加することから始まるプロセスを実行し、ペーシング信号は、正常なペーシングパルスとそれに続く1つ又は2つ以上の短いペーシングパルスのシーケンスの形態である。
【0064】
EPデータ受信工程402で、プロセッサ28は、ペーシング信号、カテーテル29からのバイポーラ信号(例えば、波形)、及び身体表面(BS)電極からのそれぞれのECG信号を受信する。最初に、プロセッサは、ペーシング検証工程403で、有効なs1及びs2ペーシング信号があるかどうかをチェックする。ない場合、信号ドロップ工程450で、プロセッサは、信号のバッチをドロップする。
【0065】
次に、安定した収縮検証工程404で、プロセッサ28は、洞調律ペーシング及び追加刺激ペーシングに応答して安定した心筋収縮が起こったかどうかを身体表面ECG信号から推定する。そうでない場合、信号ドロップ工程450で、プロセッサは、信号のバッチを処理する。収縮をチェックすることにより、プロセッサは、典型的には、次のことをチェックする。1.事前定義された数の正常なペーシング刺激(典型的には、3~4)のs1ペースに応じて、特にs1ペーシングの後の最後の4つの間隔において、心臓の安定な収縮がある、2.最初の追加刺激に対する反応がある。実施形態では、安定した収縮を推定することは、バイポーラ信号における誘発電位の時間における反復性(例えば、時間間隔205の安定性)を推定することを含む。
【0066】
ノイズ閾値化工程405で、プロセッサは、受信したバイポーラ信号ブロックの振幅をノイズ閾値に対してチェックする。この工程では、プロセッサは、バイポーラEGMデータのどのチャネルが事前決定されたノイズ閾値を通過したかをチェックする。これは、例えば、間隔205及び209などの各間隔における最大振幅をチェックすることによって行われる。しかしながら、ピーク振幅のSNRをチェックするなど、他の基準を使用してもよい。最小閾値は、EGMの既知の特性に基づいて選択され得、又はユーザが入力するための選択肢として与えられ得る。ノイズ閾値を通過したEGMは、アノテーション工程に続く。
【0067】
次は、モデル応答抽出工程406であって、プロセッサ28は、信号204の中で最も高い相関を有する誘発電位信号204のうちの1つとして、モデル応答256を見出す。プロセッサは、質量中心でモデル応答256に注釈付けするか、又はBiosense Websterによって作製されたアノテーションアルゴリズムを使用して、最後の振れを選択するために遅延電位を識別する(実施例)。
【0068】
次に、プロセッサ28は、モデル応答256を、正常な誘発電位(204)及び減少信号セクション215の残りと相関させ、信号アノテーション工程408で、(それぞれ)アノテーション214又は224と最も高い相関を有する信号上の時間インデックスに注釈付けする。
【0069】
刺激202のタイミング及びアノテーション214を使用して、第1の遅延計算工程410で、プロセッサ28は、第1の時間遅延を計算する。この第1の時間遅延は、いくつかの計算された遅延212の平均として計算することができる。
【0070】
刺激タイミング208及び選択されたアノテーション224を使用して、プロセッサ28は、第2の遅延計算412で、VTを引き起こす組織位置を潜在的に示す第2の時間遅延222を計算する。
【0071】
DeEP間隔計算工程414で、プロセッサ28は、式2を使用して、DeEP間隔を計算する。
【0072】
最後に、図3に示されるように、DeEP間隔を横たえる工程416において、プロセッサ28は、EPマップ上にDeEP間隔を示す。
【0073】
実施形態では、工程406~408の間に、プロセッサは、セグメント内の最新の近接場応答に注釈を付ける(例えば、Biosense Websterによって作製されたアノテーションアルゴリズムを使用して遅延電位を識別する)。別の実施形態では、プロセッサは、例えば、ユニポーラ心臓内チャネル内の最初の意味のある振れをマーキングすることによって、セグメントの遠方場応答を識別する。その実施形態では、遅延は、近接場応答と遠方場応答との間で計算される(ペースを形成する応答ではない)。
【0074】
図4に示されている例示的なフローチャートは、単に概念を明確化する目的のために選ばれたものである。本実施形態はまた、複数のバイポーラ信号及びECG信号を同時に受信すること、並びに、電極の診断される組織との物理的接触の程度の表示を接触力センサから受信することなど、アルゴリズムの追加工程を含み得る。この工程及び他の可能な工程は、より単純化されたフローチャートを提供するために、本明細書における開示内容から意図的に省略されている。
【0075】
本明細書に記載された実施形態は、主として心臓診断用途に対処するものであるが、本明細書に記載された方法及びシステムはまた、他の医療用途においても使用することができる。
【0076】
上に記載される実施形態は例として挙げたものであり、本発明は本明細書の上記で具体的に図示及び説明されるものに限定されない点が理解されよう。むしろ、本発明の範囲は、前述の本明細書に記載される様々な特徴の組み合わせ及び部分的組み合わせの両方、並びに前述の記載を読むと当業者に着想されるであろう、先行技術に開示されていないその変形及び修正を含む。
【0077】
〔実施の態様〕
(1) 心臓内の電気的伝播の評価のための方法であって、
患者の心臓に印加されたペーシング信号を受信することであって、前記ペーシング信号が、(i)洞調律間隔での正常なペーシング刺激のシーケンスと、(ii)前記洞調律間隔よりも短い異常な間隔での1つ又は2つ以上の異常なペーシング刺激と、を含む、受信することと、
前記ペーシング信号に応答して、前記心臓内の位置の電極、及び前記患者の身体表面上の電極によって感知された心臓信号を受信することと、
前記正常なペーシング刺激によって引き起こされた誘発電位からモデル応答を見つけて注釈付けすることと、
前記モデル応答で最高スコアリングを受信した信号セクション内のインデックスに従って、前記正常なペーシング刺激によって引き起こされた第1の誘発電位のアノテーション、並びに1つ又は2つ以上の異常なペーシング刺激によって引き起こされた第2の誘発電位のアノテーションを見つけるために、異なる信号セクションに沿った前記モデル応答間で相関させることと、
第1の時間遅延及び第2の時間遅延を計算することと、
正常な時間遅延と減少時間遅延との間の時間差を計算することと、
前記組織位置に提示された前記時間差のグラフィック表示を備えた、前記心臓の少なくとも一部分のEPマップをユーザに提示することと、を含む、方法。
(2) モデル応答と相関させることが、前記1つ又は2つ以上の信号の導関数に応じて前記相関を重み付けすることを含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記第1の時間遅延及び前記第2の時間遅延を推定することが、推定された前記第1の遅延及び前記第2の遅延のバイポーラ信号に注釈付けすることを含む、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記患者の外部の電極からそれぞれの心電図(ECG)信号を受信することと、前記ECG信号を使用して、事前定義された数の正常なペーシング刺激及び前記第1の異常なペーシング刺激に応答して、安定した収縮が発生したかどうかを推定することと、前記それぞれのECGが安定した収縮を示さない前記心臓信号の部分を破棄することと、を含む、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記安定した収縮を推定することが、前記バイポーラ信号における誘発電位の反復性を推定することを含む、実施態様4に記載の方法。
【0078】
(6) 前記安定した収縮を推定することが、前記バイポーラ信号を平滑化することと、平滑化された前記バイポーラ信号における前記誘発電位を検出することと、を含む、実施態様4に記載の方法。
(7) 1つ又は2つ以上の相関を推定することが、近接場信号から遠方場を識別することを含む、実施態様4に記載の方法。
(8) 前記EPマップを提示することが、GUIのスケールを調整して、前記EPマップ上に表示される前記時間差の最小の正の値を定義することを含む、実施態様1に記載の方法。
(9) 前記EPマップを提示することが、前記時間差の値を示すためにグラフィカルにコード化されている人工アイコンを前記EPマップ上に重ね合わせることを含む、実施態様1に記載の方法。
(10) 前記EPマップを提示することが、異常な心室活動の発生を前記ユーザに示すことを更に含む、実施態様1に記載の方法。
【0079】
(11) 前記異常な心室活動の発生を示すことが、前記EPマップ上で色及び表面形態のうちの少なくとも1つを使用することを含む、実施態様10に記載の方法。
(12) 前記心臓信号を受信することが、カテーテルを使用して取得されたユニポーラ及びバイポーラ電位図を受信することを含む、実施態様1に記載の方法。
(13) 最高スコアリング相関を推定することが、事前指定されたメトリックに基づいて最高スコアリング相関を推定するように、機械学習モデルを訓練することを含む、実施態様1に記載の方法。
(14) 心臓内の電気的伝播の評価のためのシステムであって、
インターフェースであって、
患者の心臓に印加されるペーシング信号であって、前記ペーシング信号が、(i)洞調律間隔での正常なペーシング刺激のシーケンスと、(ii)前記洞調律間隔よりも短い異常な間隔での1つ又は2つ以上の異常なペーシング刺激と、を含む、ペーシング信号と、
前記ペーシング信号に応答して、前記心臓内の位置の電極、及び前記患者の身体表面上の電極によって感知された心臓信号と、を受信するように構成された、インターフェースと、
プロセッサであって、
前記正常なペーシング刺激によって引き起こされた誘発電位からモデル応答を見つけて注釈付けすることと、
前記モデル応答で最高スコアリングを受信した信号セクション内のインデックスに従って、前記正常なペーシング刺激によって引き起こされた第1の誘発電位のアノテーション、並びに1つ又は2つ以上の異常なペーシング刺激によって引き起こされた第2の誘発電位のアノテーションを見つけるために、異なる信号セクションに沿った前記モデル応答間で相関させることと、
第1の時間遅延及び第2の時間遅延を計算することと、
正常な時間遅延と減少時間遅延との間の時間差を計算することと、
前記組織位置に提示された前記時間差のグラフィック表示を備えた、前記心臓の少なくとも一部分のEPマップをユーザに提示することと、を行うように構成された、プロセッサと、を備える、システム。
(15) 前記プロセッサが、前記1つ又は2つ以上の信号の導関数に応じて前記相関を重み付けすることによって、前記モデル応答を相関させるように構成されている、実施態様14に記載のシステム。
【0080】
(16) 前記プロセッサが、前記第1の時間遅延及び前記第2の時間遅延の推定を、推定された前記第1の遅延及び前記第2の遅延のバイポーラ信号に注釈付けすることによって行うように構成されている、実施態様14に記載のシステム。
(17) 前記インターフェースが、前記患者の外部の電極からそれぞれの心電図(ECG)信号を受信するように更に構成され、前記プロセッサが、前記ECG信号を使用して、事前定義された数の正常なペーシング刺激及び前記第1の異常なペーシング刺激に応答して、安定した収縮が発生したかどうかを推定することと、前記それぞれのECGが安定した収縮を示さない前記心臓信号の部分を破棄することと、を行うように構成されている、実施態様14に記載のシステム。
(18) 前記プロセッサが、前記バイポーラ信号における誘発電位の反復性を推定することによって、前記安定した収縮を推定するように構成されている、実施態様17に記載のシステム。
(19) 前記プロセッサが、前記バイポーラ信号を平滑化することと、平滑化された前記バイポーラ信号における前記誘発電位を検出することと、によって、前記安定した収縮を推定するように構成されている、実施態様17に記載のシステム。
(20) 前記プロセッサが、近接場信号から遠方場を識別することによって、1つ又は2つ以上の相関を推定するように構成されている、実施態様17に記載のシステム。
【0081】
(21) 前記プロセッサが、GUIのスケールを調整して、前記EPマップ上に表示される前記時間差の最小の正の値を定義することによって、前記EPマップを提示するように構成されている、実施態様14に記載のシステム。
(22) 前記プロセッサが、前記時間差の値を示すためにグラフィカルにコード化されている人工アイコンを前記EPマップ上に重ね合わせることによって、前記EPマップを提示するように構成されている、実施態様14に記載のシステム。
(23) 前記プロセッサが、異常な心室活動の発生を前記ユーザに示すことによって、前記EPマップを提示するように構成されている、実施態様14に記載のシステム。
(24) 前記プロセッサが、前記EPマップ上で色及び表面形態のうちの少なくとも1つを使用することによって、前記異常な心室活動の発生を示すように構成されている、実施態様23に記載のシステム。
(25) 前記インターフェースが、カテーテルを使用して取得されたユニポーラ及びバイポーラ電位図を受信することによって、前記心臓信号を受信するように構成されている、実施態様14に記載のシステム。
【0082】
(26) 前記プロセッサが、事前指定されたメトリックに基づいて最高スコアリング相関を推定するように機械学習モデルを訓練することによって、最高スコアリング相関を推定するように構成されている、実施態様14に記載のシステム。
図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】