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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165433
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】アイスクリーム保形用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23G 9/34 20060101AFI20221025BHJP
   A23G 9/00 20060101ALI20221025BHJP
   A23G 9/04 20060101ALI20221025BHJP
   A23L 29/212 20160101ALI20221025BHJP
【FI】
A23G9/34
A23G9/00 101
A23G9/04
A23L29/212
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070738
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】泉 美菜
【テーマコード(参考)】
4B014
4B025
【Fターム(参考)】
4B014GB18
4B014GB22
4B014GG07
4B014GG10
4B014GG11
4B014GG18
4B014GK07
4B014GK08
4B014GP02
4B014GP13
4B025LB25
4B025LD03
4B025LG42
4B025LK02
4B025LP18
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、口どけがよく、室温以上の空気にさらされても溶け落ちにくいアイスクリームを提供することにあって、そのようなアイスクリームを保形するための組成物及びその組成物を用いたアイスクリームの製造方法を提供することにある。
【解決手段】 エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉、好ましくは、15%(w/v)糊液で10mPa・s以上、かつ、10%(w/v)糊液で6100mPa・s以下である酸化澱粉を、アイスクリームミックスに3~4%の範囲で添加してアイスクリームを製造することにより、上記課題は達成される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉を含んでなる、アイスクリーム保形用組成物。
【請求項2】
酸化澱粉が、15%(w/v)糊液で10mPa・s以上、かつ、10%(w/v)糊液で6100mPa・s以下である、請求項1記載のアイスクリーム保形用組成物。
【請求項3】
保形が、溶け落ちの抑制である、請求項1又は2記載のアイスクリーム保形用組成物。
【請求項4】
エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉を3~4%(w/w)含むアイスクリームミックス。
【請求項5】
酸化澱粉が、15%(w/v)糊液で10mPa・s以上、かつ、10%(w/v)糊液で6100mPa・s以下である、請求項4記載のアイスクリームミックス。
【請求項6】
エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉を3~4%(w/w)含むアイスクリーム。
【請求項7】
酸化澱粉が、15%(w/v)糊液で10mPa・s以上、かつ、10%(w/v)糊液で6100mPa・s以下である、請求項6記載のアイスクリーム。
【請求項8】
エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉をアイスクリームの原料中に3~4%(w/w)添加し、65℃以上の加熱工程をとることを特徴とする、アイスクリームの製造方法。
【請求項9】
エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉を、アイスクリームの原料中に3~4%(w/w)となるよう添加し加熱してから冷却する、アイスクリームの保形方法。
【請求項10】
保形が、溶け落ちの抑制である、請求項9記載のアイスクリームの保形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温以上の空気に曝されたときにもアイスクリーム類の形状を比較的長い時間保持できる、アイスクリーム保形用組成物、及びその組成物を用いたアイスクリーム並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本における「アイスクリーム類」の分類は、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(以下、「乳等省令」という。)に定められ、(1)アイスクリーム(乳固形分15%以上、うち乳脂肪分8%以上)、(2)アイスミルク(乳固形分10%以上、うち乳脂肪分3%以上)、(3)ラクトアイス(乳固形分3%以上)の3つに分類されている。この「アイスクリーム類」は、通常、原材料を攪拌しながら-2~-9℃で急速に冷却凍結し、容器充填後に-25℃以下で保管されるものである。
【0003】
一方、日本でいう「ソフトクリーム」とは、「Soft Serve Ice Cream」を語源とする和製英語であり、一般に、原材料を攪拌しながら-5~-7℃程度で急速に冷却凍結したものをそのまま食す点において、上の「アイスクリーム類」とは異なる。しかし、乳等省令による乳固形分・脂肪分に基づく分類上は、アイスクリーム類とソフトクリームは同一のものである。このソフトクリームは、路面店舗などにおいて、客の注文を受けてコーンカップなどの容器に盛り付けて提供する形態をとることから、高い外気温度に影響されて溶けやすく、客の衣服や店舗の床を汚すことが多いため、これを改善する手段が強く望まれていた。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、ソフトクリームの溶け落ち遅延効果を維持する手段として、植物由来の微小繊維状セルロースが開示され、特許文献2には、ソフトクリーム用保形剤として、カルボキシメチルセルロースが開示されている。また、特許文献3には、アイスクリーム類の保存流通時に生じる組織劣化の抑制方法(保形性の改善方法)として、50%以上のマルトトリオ―スを含む糖組成物を用いる方法が開示されている。
【0005】
しかし、セルロース系の素材は、結晶物がアイスクリーム類の口どけに少なからず違和感を残す一方、特許文献1や2に開示される置換型や微小繊維状化されたセルロース素材であれ、口どけは改善されるものの、食品としての安全性はいまだ不明であって、実用化にまで至っていない。また、特許文献3のような三糖を主成分とする糖組成物にあっては、アイスクリーム類の口どけに違和感は生じないものの、ソフトクリームとして提供したときに、外気に影響されて表面が溶け落ちやすいという状況を改善できるほどの保形性改善効果はみられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-132912号公報
【特許文献2】特開2018-164443号公報
【特許文献3】特開2013-31458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、口どけがよく、室温以上の空気に曝されても溶け落ちにくいアイスクリーム類を提供することにあり、同時に、そのアイスクリーム類の保形用組成物及びそのアイスクリームの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討したところ、特定の澱粉分解物、具体的には、エンドウ豆澱粉を酸化して得られる酸化澱粉が、上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]から構成されるものである。
[1]エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉を含んでなる、アイスクリーム保形用組成物。
[2]酸化澱粉が、15%(w/v)糊液で10mPa・s以上、かつ、10%(w/v)糊液で6100mPa・s以下である、上記[1]記載のアイスクリーム保形用組成物。
[3]保形が、溶け落ちの抑制である、上記[1]又は[2]記載のアイスクリーム保形用組成物。
[4]エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉を3~4%(w/w)含むアイスクリームミックス。
[5]酸化澱粉が、15%(w/v)糊液で10mPa・s以上、かつ、10%(w/v)糊液で6100mPa・s以下である、上記[4]記載のアイスクリームミックス。
[6]エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉を3~4%(w/w)含むアイスクリーム。
[7]酸化澱粉が、15%(w/v)糊液で10mPa・s以上、かつ、10%(w/v)糊液で6100mPa・s以下である、上記[6]記載のアイスクリーム。
[8]エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉をアイスクリームの原料中に3~4%(w/w)添加し、65℃以上の加熱工程をとることを特徴とする、アイスクリームの製造方法。
[9]エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉を、アイスクリームの原料中に3~4%(w/w)となるよう添加し加熱してから冷却する、アイスクリームの保形方法。
[10]保形が、溶け落ちの抑制である、上記[9]記載のアイスクリームの保形方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、口どけがよく、室温以上の空気に曝されても溶け落ちにくいアイスクリーム類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にいう「アイスクリーム」は、「アイスクリーム類」の略であり、先述のとおり、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(以下、「乳等省令」という。)に定められる「アイスクリーム類」、すなわち、(1)アイスクリーム(乳固形分15%以上、うち乳脂肪分8%以上)、(2)アイスミルク(乳固形分10%以上、うち乳脂肪分3%以上)、(3)ラクトアイス(乳固形分3%以上)のいずれかであり、「ソフトクリーム」はこの「アイスクリーム類」に含まれ、本明細書においては、すべて同義の用語として用いられる。
【0012】
本発明の第一の態様であるアイスクリーム保形用組成物は、エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉を必須成分として含む。酸化澱粉とは、一般に、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を定法により澱粉に作用させて得られる加工澱粉をいい、その加工方法にとくに限定はないが、本発明の効果をより効率的に得る観点から、比較的低度に酸化されたものが好ましい。具体的には、懸濁液を200ml容ビーカー内で95℃・15分間加熱した後、20℃恒温槽で50℃まで冷却したときの糊液粘度をB型粘度計(BM型。粘度値が500mPa・s未満のときはローターNo.2を、500~2000mPa・sのときはローターNo.3を、2000~10000mPa・sのときはローターNo.4を使用。60rpm、30秒。)で測定したときに、15%(w/v)粘度が10mPa・s以上、かつ、10%(w/v)粘度が6100mPa・s以下であるものが好ましく、15%(w/v)粘度が1800mPa・s以上、かつ、10%(w/v)粘度が6100mPa・s以下であるものがより好ましい。
【0013】
また、上記酸化澱粉を用いて後述するアイスクリームミックスを調製したときに、(A)初発粘度(製造直後かつ保存開始前の5℃における粘度)が、B型粘度計(BM型。粘度値が500mPa・s未満のときはローターNo.2、500~2000mPa・sのときはNo.3、2000~10000mPa・sのときはローターNo.4を使用。60rpm、30秒。)で測定したときに240~2500mPa・s、380~2500mPa・s、400~2500mPa・sであり、かつ、(B)保存後粘度(5℃で24時間保存したときの粘度)が550~3950mPa・s、720~3950mPa・s、830~3950mPa・sであることが好ましく、これらの粘度の差((B)-(A))が310~1500mPa・s、330~1500mPa・s、390~1500mPa・sであることがより好ましい。これは、初発粘度が240mPa・sを下回る、又は保存後粘度が550mPa・sを下回ると、溶け落ちの抑制効果がみられなくなり、初発粘度が2500mPa・sを超える、又は保存後粘度が3950mPa・sを超えると、アイスクリームの製造適性が悪くなるためであり、また、これらの粘度差が1500mPa・sを超えると、アイスクリームらしい食感に劣る。
【0014】
本発明のアイスクリーム保形用組成物中の当該酸化澱粉の含量は、特に限定されるものでなく、使用される際、すなわち、アイスクリームミックス又はアイスクリームにおいて、0.5~5質量%(w/w)、1~5質量%(w/w)、好ましくは2~4質量%(w/w)、さらに好ましくは3~4質量%(w/w)が含まれることとなるように十分量含ませればよいので、例えば、1~100質量部とすれば足りる。当該酸化澱粉以外は、アイスクリーム類一般に用いられる原材料を配合することができ、例えば、乳製品、甘味料、油脂類、安定剤、乳化剤、食塩、香料、果汁、果肉、木の実、抹茶、ココアなどの一以上を混合しておくこともできる。
【0015】
本発明のアイスクリームミックスは、上記の本発明のアイスクリーム保形用組成物を用いて調製されたものであり、水、乳、乳製品、甘味料、油脂類、安定剤、乳化剤、香料等の原材料とともにタンク等の容器内で均一に攪拌混合して得られるところ、本発明のアイスクリーム保形用組成物が本発明の効果を十分発揮するためには、アイスクリームミックスの配合において、予備加熱しておくことが好ましい。その温度は50~80℃程度でよいが、65℃~80℃の範囲にあることがより好ましい。
【0016】
本発明のアイスクリームミックスは、上記の予備加熱工程の後、殺菌、均質化、冷却、エージングなどアイスクリームミックスの一般的な製造工程を経て調製される。このアイスクリームミックスを各箇所へ流通させる場合は、さらに紙パックなどに充填する工程を経て、通常、常温で輸送等されることになる。アイスクリーム類ミックスが、充填アイスクリーム製造に用いられる場合は、個容器に充填して冷凍されることになるが、アイスクリームミックスがソフトクリーム調製に用いられる場合は、各店舗で冷菓製造装置に投入され、空気を抱き込んだクリーム状に冷却されてコーンカップなどの容器に盛り付けて客に提供されることになる。
【0017】
以下、本発明について具体的に詳述するが、本発明はこれに限定されるものでない。
【実施例0018】
<澱粉の準備>
エンドウ豆を原料として酸化澱粉を調製した。まず、澱粉100質量部を水130質量部に懸濁したスラリーを3%水酸化ナトリウム溶液でpH8~11に調整し、13%次亜塩素酸ナトリウムを25質量部添加して40℃・4~5時間反応させた。反応後、水洗・脱水・乾燥して酸化澱粉の試作品(試作No.1)を得た。それ以外の澱粉は、松谷化学工業(株)の製品を利用することとした。
【0019】
<アイスクリームの作製>
下の[表1]の配合及び[表2]の工程に従って各アイスクリームを作製した。次に、各アイスクリームを型から外して平皿に移し、室温(20~25℃)で静置して10分毎、60分後まで、その溶け落ち状態を観察した。そのときのアイスクリームの溶け落ち状態を[表3]の評価方法に従って評価した結果を[表4]に示す。なお、アイスクリームの溶けが改善されていても、製造適性や食感が劣るものについては、総合評価として×を付し、やや劣るものについては△を付した。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
【表3】
【0023】
【表4】
【0024】
エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉(試作No.1)にアイスクリームの溶け落ち改善効果が顕著にみられたので、エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉をさらに試作し、より詳細に検討することとした。
【0025】
<エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉の調製>
エンドウ豆を原料として酸化澱粉を調製した。まず、澱粉100質量部を水130質量部に懸濁したスラリーを3%水酸化ナトリウム溶液でpH8~11に調整し、13%次亜塩素酸ナトリウムを3.85~19.2、26.9~30.8質量部の範囲で添加し、40℃・4~5時間反応させた後に水洗・脱水・乾燥し、酸化澱粉の試作品6点(試作No.2~7)を得た。
【0026】
【表5】
【0027】
エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉について詳細に検討したところ、アイスクリームの溶けを改善するには、2%の添加量では若干不十分であり、好ましくは3%以上の添加量が必要であることがわかった。また、エンドウ豆澱粉の酸化澱粉であれば、アイスクリームの溶けを改善する効果はみられるが、15%糊液粘度が少なくとも10mPa・s以上であるか、10%糊液粘度が少なくとも800mPa・s以上の酸化澱粉であることが好ましいことがわかった。すなわち、これらの条件を満たすエンドウ豆澱粉の酸化澱粉を3~4%添加したアイスクリームが、濃厚感がありながら口どけが良く、アイスクリームらしい食感を維持しつつも、溶け落ちを改善する効果があった。
【0028】
次に、ソフトクリームの形態においても、上述の溶け改善効果が同じようにみられるかについて確認することとした。上の[表1]の配合及び下の[表6]の手順で調製したソフトクリームを、金網付きビーカーの上に載せて35℃の恒温室に静置し、1分毎に10分後までその溶け落ちの状態を撮影した。その一部(写真)を[表7]に示す。
【0029】
【表6】
【0030】
【表7】
【0031】
試作No.1(エンドウ豆澱粉の酸化澱粉)を使用したソフトクリームについて溶け落ち改善効果を検討したところ、保形性目的でソフトクリームによく使用される一般的な澱粉分解物(松谷化学工業株式会社製「マックス2000N」)を添加したソフトクリームと比較してみても、表7の写真のとおり、溶け落ち改善効果が顕著にみられた。よって、アイスクリームだけでなくソフトクリームの形態においても、同様の溶け落ち改善効果が期待できる。