(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165451
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20221025BHJP
C08L 27/06 20060101ALI20221025BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20221025BHJP
C08L 9/02 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
C08J3/20 Z CEQ
C08L27/06
C08L67/02
C08L9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070769
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】597012286
【氏名又は名称】新第一塩ビ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100191204
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 春彦
(72)【発明者】
【氏名】織田 誠司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 千典
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA07
4F070AA22
4F070AC43
4F070AC88
4F070AE02
4F070EA01
4F070FA01
4F070FA17
4F070FB07
4F070FC03
4F070FC09
4J002AC07X
4J002BD04W
4J002BD05W
4J002BD09W
4J002CF033
4J002EH146
4J002FD023
4J002FD026
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】 ニトリルゴムへの塩化ビニル樹脂のブレンド効果をより有効に発揮できる方法を提供すること。
【解決手段】多孔質塩化ビニル系樹脂粉体100質量部及び可塑剤5~20質量部を混合して、前記多孔質塩化ビニル系樹脂粉体の細孔内に可塑剤を担持させた可塑剤担持多孔質塩化ビニル系樹脂粉体と、ニトリルゴム100~900質量部とを添加して混練するゴム組成物の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質塩化ビニル系樹脂粉体100質量部及び可塑剤5~20質量部を混合して前記多孔質塩化ビニル系樹脂粉体の細孔内に可塑剤を担持させた可塑剤担持多孔質塩化ビニル系樹脂粉体と、
ニトリルゴム100~900質量部と、
を混練することを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記可塑剤担持多孔質塩化ビニル系樹脂粉体における担持可塑剤とは別に、さらに追加可塑剤を添加して混練することを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記担持可塑剤及び追加可塑剤の合計量が、10~50質量部であることを特徴とする請求項2に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質塩化ビニル系樹脂粉体の細孔容積が、0.09~0.45cm3/gであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
前記担持可塑剤が、ポリエステル系可塑剤であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ポリエステル系可塑剤は、平均分子量が400~3000であり、かつSP値が8.5~9.5であることを特徴とする請求項5に記載のゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルゴム及び塩化ビニル系樹脂を用いたゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリルゴムは、耐油性、耐薬品性に優れる素材として知られており、例えば、燃料パッキン、タイミングベルト、ホース等の乗物用部品の材料等として用いられている。
【0003】
このようなニトリルゴムにおいては、その性能向上を図り、有用性を高めることを目的として、様々な検討、提案が行われている。例えば、ニトリルゴム層に塩化ビニル樹脂層を積層することや(特許文献1参照)、ニトリルゴムに塩化ビニル系樹脂を配合することなどが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-269576号公報
【特許文献2】WO2012/105645
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、塩化ビニル系樹脂を用いることにより、ニトリルゴムの性能向上を図ることが行われているが、塩化ビニル系樹脂の特性を必ずしも十分に享受できているとはいえない状況にあった。
【0006】
本発明の課題は、塩化ビニル系樹脂のニトリルゴムへのブレンド効果をより有効に享受できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ニトリルゴム及び塩化ビニル系樹脂を用いたゴム組成物の性能向上について鋭意研究する中で、塩化ビニル系樹脂として多孔質塩化ビニル系樹脂粉体を用い、かかる多孔質塩化ビニル系樹脂粉体の細孔内に所定量の可塑剤を担持させてニトリルゴムと混練することにより、上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、従来は、ニトリルゴム、塩化ビニル系樹脂及び可塑剤をそれぞれ別々に添加して混練していたが、所定量の可塑剤を多孔質塩化ビニル系樹脂粉体の細孔内に担持させて混練することにより、塩化ビニル系樹脂のブレンド効果をより有効に享受できることを見いだした。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1]多孔質塩化ビニル系樹脂粉体100質量部及び可塑剤5~20質量部を混合して前記多孔質塩化ビニル系樹脂粉体の細孔内に可塑剤を担持させた可塑剤担持多孔質塩化ビニル系樹脂粉体と、ニトリルゴム100~900質量部と、を混練することを特徴とするゴム組成物の製造方法。
[2]前記可塑剤担持多孔質塩化ビニル系樹脂粉体における担持可塑剤とは別に、さらに追加可塑剤を添加して混練することを特徴とする上記[1]に記載のゴム組成物の製造方法。
[3]前記担持可塑剤及び追加可塑剤の合計量が、10~50質量部であることを特徴とする上記[2]に記載のゴム組成物の製造方法。
【0010】
[4]前記多孔質塩化ビニル系樹脂粉体の細孔容積が、0.09~0.45cm3/gであることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
[5]前記担持可塑剤が、ポリエステル系可塑剤であることを特徴とする上記[1]~[4]のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
[6]前記ポリエステル系可塑剤は、平均分子量が400~3000であり、かつSP値が8.5~9.5であることを特徴とする上記[5]に記載のゴム組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐オゾン性や耐熱老化性の向上等、塩化ビニル系樹脂のブレンド効果をより有効に享受したゴム組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のゴム組成物の製造方法は、多孔質塩化ビニル系樹脂粉体100質量部及び可塑剤5~20質量部を混合して多孔質塩化ビニル系樹脂粉体の細孔内に可塑剤を担持させた可塑剤担持多孔質塩化ビニル系樹脂粉体と、ニトリルゴム100~900質量部とを混練することを特徴とする。
【0013】
本発明においては、所定量の可塑剤が細孔内に担持された可塑剤担持多孔質塩化ビニル系樹脂粉体をニトリルゴムと混練することから、ニトリルゴムと塩化ビニル系樹脂との相溶化(アロイ化)が容易となり、塩化ビニル系樹脂のブレンド効果をより有効に享受することができる。したがって、製造されたゴム組成物は、可塑剤を単純に添加して製造されたものと比較して、耐オゾン性、耐熱老化性、耐油性、伸び性等に優れたものとなる。
【0014】
上記のような優れたゴム組成物の物性は、混練時の熱による塩化ビニル系樹脂のゲル化溶融によるポリ塩化ビニルの分子レベルでの運動性の発現と、適切なせん断応力による混練により引き起こされるニトリルゴムとの分子レベルでの相溶化現象によって発現するものと考えられる。
具体的に、ニトリルゴムとの混練の際、多孔質塩化ビニル系樹脂粉体は、グレイン粒子の一次粒子までの崩壊が生じ、ついで一次粒子の溶融崩壊、さらに最終的な分子運動性発現段階であるドメインになる段階まで崩壊されるが、細孔内に所定量の可塑剤が担持されていることにより一次粒子への崩壊がスムーズに進み、その後のドメインまで容易に崩壊が進むため、結果として相溶化が容易となり、塩化ビニル系樹脂の特性を十分に享受することができる。また、低温での相溶化が可能となるため、熱による塩化ビニル系樹脂の劣化(物性低下)を抑制することができ、これによっても塩化ビニル系樹脂の特性を十分に享受することができる。
【0015】
なお、いわゆるペースト加工用塩化ビニル系樹脂粉体のように内部細孔を有しない塩化ビニル系樹脂粉体を、ニトリルゴム及び可塑剤と混練する場合、可塑剤による粒子崩壊性改良作用が得られにくいことから、塩化ビニル系樹脂粉体のドメインまでの崩壊が起こりにくく、また、必要なせん断応力まで溶融粘度が上がりにくいため、相溶化が十分に進まない。
【0016】
本発明の製造方法により製造されるゴム組成物は、通常のニトリルゴムと同様の用途に用いることができ、例えば、燃料パッキン、タイミングベルト、ホース等の乗物用部品や、工業用部品の材料として用いることができる。
【0017】
(多孔質塩化ビニル系樹脂粉体)
本発明における多孔質塩化ビニル系樹脂とは、主に懸濁重合により得られる、多孔質な不定形状粒子からなる塩化ビニル系樹脂で、別名では汎用塩化ビニル系樹脂とも呼ばれるものである。多孔質塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルのホモポリマーの他、塩化ビニルを主体とするコポリマーが含まれる。塩化ビニルを主体とするとは、例えば、塩化ビニルが全体の50質量%以上であることをいい、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0018】
塩化ビニルと共重合し得る単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン等のオレフィン系化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-N,N-ジメチルアミノエチル等の不飽和モノカルボン酸エステル;アクリルアミド、メタクリルアミド等の不飽和アミド;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル;マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸;これらのエステルおよびこれらの無水物;N-置換マレイミド類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル;塩化ビニリデン等のビニリデン化合物等を挙げることができる。
【0019】
本発明の多孔質塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単独で、又は塩化ビニルとこれと共重合可能な不飽和単量体とからなる単量体混合物を従来公知の方法で重合することにより得ることができる。例えば、懸濁重合により得ることができる。温度、分散剤の種類や量、撹拌速度等の各種反応条件を適宜設定して、所望の粒径、細孔容積(ポロシティ)、重合度の樹脂を得ることができる。
【0020】
多孔質塩化ビニル系樹脂は、一般的には、平均粒子径(D50)が50~200μm程度の粒子である。平均粒子径(D50)は、70~180μmであることが好ましく、100~150μmであることがより好ましい。
この平均粒子径(D50)は、JIS Z8815(乾式ふるい分け試験法)により、JIS Z8801のふるいを用いた50%通過径として示す。
【0021】
多孔質塩化ビニル系樹脂の細孔容積としては、0.09~0.45cm3/gであることが好ましく、0.15~0.45cm3/gであることがより好ましく、0.20~0.40cm3/gであることがさらに好ましい。この範囲の細孔容積であることにより、所望量の可塑剤を容易かつ適切に担持することができる。したがって、ニトリルゴムとの混練の際、塩化ビニル系樹脂のドメインまでの粒子崩壊が容易かつ確実に行われ、より効果的に相溶化が進行する。
なお、ポロシティは、水銀圧入法(ポロシメーター)により求めることができる。
【0022】
多孔質塩化ビニル系樹脂の平均重合度としては、600~1700であることが好ましく、700~1500であることがより好ましく、800~1300であることがさらに好ましい。この範囲の平均重合度であることにより、ゴム組成物の物性を損ねることなく、ニトリルゴムとの相溶性に優れるゴム組成物を得ることができる。
この平均重合度は、塩化ビニル樹脂試験法(2003年4月 塩ビ工業・環境協会発行)の測定方法に従い、JIS K7367-2に準拠して、測定した還元粘度(K値)を、近似式:K値=20.42*Ln(重合度)-74.93で換算する。
【0023】
(ニトリルゴム)
本発明のニトリルゴムは、ニトリル基を有する構成単位を有するゴムであり、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル、及び1,3-ブタジエン、イソプレン等の共役ジエンの共重合体である。
【0024】
より具体的に、本発明のニトリルゴムとしては、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリルブタジエンイソプレンゴム(NBIR)、アクリロニトリルイソプレンゴム(NBI)等を挙げることができる。
【0025】
さらに、ニトリルゴムは、ニトリル及び共役ジエンに加えて、これらの単量体と共重合可能なその他の単量体の単位を含むものであってもよい。ニトリル及び共役ジエンは、全体の70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
ニトリルゴムの配合量としては、上記のように、(多孔質塩化ビニル系樹脂100質量部当たり)100~900質量部であるが、150~600質量部が好ましく、200~500質量部がより好ましい。この範囲の配合量であることにより、ニトリルゴムの特性を活かしつつ、塩化ビニル系樹脂の特性を付与した、よりバランスのよいゴム組成物とすることができる。
【0027】
(可塑剤)
多孔質塩化ビニル系樹脂粉体の細孔内に担持させる可塑剤(担持可塑剤)としては、ニトリルゴムと塩化ビニル系樹脂のブレンドに使用されている従来公知の可塑剤を使用することができる。
【0028】
本発明においては、例えば、ジブチルフタレート、ジ-(2-エチルヘキシル)フタレート、ジ-n-オクチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジフェニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジノニルフタレート、ジシクロヘキシルフタレートなどのフタル酸誘導体;ジ-(2-エチルヘキシル)イソフタレート、ジイソオクチルイソフタレート、ジイソノニルフタレートなどのイソフタル酸誘導体;ジ-(2-エチルヘキシル)テトラヒドロフタレート、ジ-n-オクチルテトラヒドロフタレート、ジイソデシルテトラヒドロフタレートなどのテトラヒドロフタル酸誘導体;ジ-n-ブチルアジペート、ジ-(2-エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸誘導体;ジ-(2-エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジ-n-ヘキシルアゼレートなどのアゼライン酸誘導体;ジ-n-ブチルセバケート、ジ-(2-エチルヘキシル)セバケートなどのセバシン酸誘導体;ジ-n-ブチルマレエート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジ-(2-エチルヘキシル)マレエートなどのマレイン酸誘導体;ジ-n-ブチルフマレート、ジ-(2-エチルヘキシル)フマレートなどのフマル酸誘導体;トリ-(2-エチルヘキシル)トリメリテート、トリ-n-オクチルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート、トリ-n-ヘキシルトリメリテート、トリイソノニルトリメリテートなどのトリメリット酸誘導体;テトラ-(2-エチルヘキシル)ピロメリテート、テトラ-n-オクチルピロメリテートなどのピロメリット酸誘導体;トリエチルシトレート、トリ-n-ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ-(2-エチルヘキシル)シトレートなどのクエン酸誘導体;モノメチルイタコネート、モノブチルイタコネート、ジメチルイタコネート、ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジ-(2-エチルヘキシル)イタコネートなどのイタコン酸誘導体;ブチルオレエート、グリセリルモノオレエート、ジエチレングリコールモノオレエートなどのオレイン酸誘導体;グリセリルモノリシノレート、ジエチレングリコールモノリシノレートなどのリシノール酸誘導体;グリセリンモノステアレート、ジエチレングリコールジステアレートなどのステアリン酸誘導体;ジエチレングリコールモノラウレート、ジエチレングリコールジペラルゴネート、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルなどのその他の脂肪酸誘導体;トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ-(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェートなどのリン酸誘導体;ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、ジブチルメチレンビスチオグリコレートなどのグリコール誘導体;グリセロールモノアセテート、グリセロールトリアセテート、グリセロールトリブチレートなどのグリセリン誘導体;アジピン酸系ポリエステル、セバシン酸系ポリエステル、フタル酸系ポリエステルなどのポリエステル系可塑剤;あるいは部分水添ターフェニル、接着性可塑剤;さらにはジアリルフタレート、アクリル系モノマーやオリゴマーなどの重合性可塑剤などを用いることができる。なお、これらの可塑剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
これらの中でも、塩化ビニル系樹脂との相溶性、膨潤性等の点から、ポリエステル系可塑剤が好ましい。ポリエステル系可塑剤の平均分子量(数平均分子量)としては、400~3000程度のものが好ましく、700~3000程度のものがより好ましく、1500~2500程度のものがさらに好ましい。また、ポリエステル系可塑剤のSP値(溶解パラメータ)としては、8.5~9.5であることが好ましく、9.2~9.5であることがより好ましい。
【0030】
多孔質塩化ビニル系樹脂粉体に担持する可塑剤(担持可塑剤)の配合量としては、多孔質塩化ビニル系樹脂粉体100質量部当たり、5~20質量部であり、10~20質量部であることが好ましい。可塑剤が5質量部より少ないと、可塑剤による多孔質塩化ビニル系樹脂の粒子崩壊性の発現効果が発揮されない。一方、20質量部を超えると、せん断時の粘度が低くなりすぎるため、多孔質塩化ビニル系樹脂の粒子崩壊性が劣るととともに、溶融粘度が低くなることに起因してせん断応力が低くなりすぎることにより、両樹脂の相溶化(ポリマアロイ化)が遅延して十分に進行せず、本来の優れたアロイ物性を示さなくなる。
【0031】
なお、本発明においては、担持可塑剤以外に可塑剤を添加しなくとも、両樹脂の相溶化が十分に進行し、ニトリルゴムに対して塩化ビニル系樹脂の特性を効果的に付与することができる。また、細孔内に可塑剤を担持させることにより、可塑剤の総使用量の低減が可能となる。
【0032】
また、本発明においては、ニトリルゴムとの相溶性をより向上させるために、担持可塑剤とは別に、追加可塑剤を配合することが好ましい。この場合、担持可塑剤は、主として、多孔質塩化ビニル系樹脂粉体のグレインのドメインまでの崩壊に寄与し、追加可塑剤は、主として、ニトリルゴムとの相溶化過程におけるせん断力の調整及び相溶化に寄与する。追加可塑剤は、担持可塑剤との合計で、(多孔質塩化ビニル系樹脂100質量部当たり)10~50質量部となるように配合することが好ましく、10~40質量部となるように配合することがより好ましく、20~40質量部となるように配合することがさらに好ましい。担持可塑剤及び追加可塑剤の合計量が50質量部を超えると、適度なせん断力が生じず、適切な相溶化が困難となる場合がある。なお、追加可塑剤の種類としては、上記担持可塑剤と同様のものを用いることができる。また、担持可塑剤及び追加可塑剤として、同一のものを使用してもよいし、異なるものを使用してもよい。
【0033】
(多孔質塩化ビニル系樹脂粉体への可塑剤の担持方法)
可塑剤担持多孔質塩化ビニル系樹脂粉体は、多孔質塩化ビニル系樹脂粉体100質量部及び可塑剤5~20質量部を、加温下で混合機で混合することにより得ることができる。混合機としては、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー、リボンミキサー等が挙げられる。混合機の昇温は、可塑剤を添加し攪拌しながら行い、混合温度は、50~130℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。
可塑剤の担持に際しては、可塑剤を有機溶媒に溶解させて、多孔質塩化ビニル系樹脂粉体と混合させてもよい。有機溶媒は、担持中及び/又は担持後に、蒸散させて除去すればよい。
【0034】
さらに、可塑剤担持多孔質塩化ビニル系樹脂粉体には、上記可塑剤の担持に併せて、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、希釈剤、着色剤等の可塑剤以外の配合剤を、本発明の効果に影響しない範囲で担持させてもよい。これら配合剤の担持量は、多孔質塩化ビニル系樹脂粉体100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0035】
(可塑剤担持多孔質塩化ビニル系樹脂粉体とニトリルゴムとの混練方法)
本発明においては、可塑剤担持塩化ビニル系樹脂粉体105~120質量部(うち、可塑剤5~20質量部)と、ニトリルゴム100~900質量部と、必要に応じて、追加可塑剤とを添加して、混練装置を用いて混練する。なお、これらの成分と共に、熱安定化剤、酸化防止剤等の上記配合剤を本発明の効果に影響しない範囲で添加してもよい。
【0036】
混練装置としては、両樹脂を十分に混練することができれば特に制限なく、従来公知の装置を使用することができ、例えば、ブランベンダーミキサー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、一軸押出機、二軸押出機、ミキシングロール、加圧ニーダー等を用いることができる。本発明においては、比較的低温で相溶化が可能であり、混練温度としては、例えば、100~200℃程度が好ましく、120~180℃程度がより好ましい。
【実施例0037】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
<多孔質塩化ビニル樹脂粉体の内部細孔への可塑剤の担持>
2Lヘンシェルミキサー((株)三井三池製作所製)に、多孔質塩化ビニル樹脂粉体(ZEST 1700ZI(新第一塩ビ(株))、内部細孔容積0.37cm3/g)500gを加え、回転数1000rpmにて撹拌しながらポリエステル系可塑剤D645((株)ジェイ・プラス製、平均分子量2200)を50g加え、ジャケットを加温し、90℃まで昇温させた後、室温まで冷却し、可塑剤担持多孔質塩化ビニル系樹脂粉体を調製した。
【0039】
<ゴム組成物(ロールシート)の製造>
上記調製した可塑剤担持多孔質塩化ビニル樹脂粉体100g、予め粉砕機で直径4mm以下に粉砕したNBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム、JSR製N230SL)300g、ポリエステル系可塑剤D645 20gをステンレスボール内で軽く混ぜ合わせた後、150℃に加熱した8インチロール上で纏めながら7分間混練し、ロールシートを得た。
【0040】
<物性評価用サンプルの作製>
得られたロールシートを、厚さ2mmのステンレス製スペーサーを入れたステンレス板の間に挟み、150℃に加熱したプレス機にセットし、圧力100kPaで6分間プレスして、厚さ2.0mmのゴム成形品を得た。
【0041】
[実施例2]
実施例1において、ロール混練時に配合するポリエステル系可塑剤を不使用とする以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0042】
[実施例3]
実施例1において、多孔質塩化ビニル樹脂粉体に担持させるポリエステル系可塑剤を20質量部、ロール混練時に配合するポリエステル系可塑剤を不使用とする以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0043】
[実施例4]
実施例1において、多孔質塩化ビニル樹脂粉体に担持させるポリエステル系可塑剤を20質量部、ロール混練時に配合するポリエステル系可塑剤を10質量部に変更する以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0044】
[実施例5]
実施例1において、多孔質塩化ビニル樹脂粉体に担持させるポリエステル系可塑剤を20質量部に変更する以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0045】
[実施例6]
実施例1において、可塑剤を担持させる多孔質塩化ビニル樹脂粉体を、ZEST 1000Z(新第一塩ビ(株)、(細孔容積を0.27cm3/g)に変更する以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0046】
[実施例7]
実施例1において、可塑剤を担持させる多孔質塩化ビニル樹脂粉体をZEST 700L(新第一塩ビ(株)、(細孔容積を0.09cm3/g)に変更する以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0047】
[実施例8]
実施例1において、多孔質塩化ビニル樹脂粉体100質量部に対し、ニトリルゴムの配合量を600質量部に変更する以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0048】
[実施例9]
実施例1において、多孔質塩化ビニル樹脂粉体100質量部に対し、ニトリルゴムの配合量を150質量部に変更する以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0049】
[実施例10]
実施例1において、多孔質塩化ビニル樹脂粉体への担持及びロール混練時に配合に使用する可塑剤を、D620((株)ジェイ・プラス製、ポリエステル系、平均分子量800)に変更する以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0050】
[実施例11]
実施例1において、ロール混練及びプレス温度を130℃に変更する以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0051】
[実施例12]
実施例1において、多孔質塩化ビニル樹脂粉体への担持及びロール混練時に配合に使用する可塑剤を、フタル酸ジイソノニル((株)ジェイ・プラス製DINP)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0052】
[比較例1]
実施例1において、多孔質塩化ビニル樹脂粉体にポリエステル系可塑剤を担持させずに使用し、さらにロール混練時に配合するポリエステル系可塑剤も不使用とする以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0053】
[比較例2]
実施例1において、多孔質塩化ビニル樹脂粉体にポリエステル系可塑剤を担持させずに使用し、ロール混練時に配合するポリエステル系可塑剤を30質量部に変更する以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0054】
[比較例3]
実施例1において、多孔質塩化ビニル樹脂粉体に担持させるポリエステル系可塑剤を25質量部、ロール混練時に配合するポリエステル系可塑剤を15質量部に変更する以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0055】
[比較例4]
実施例1において、多孔質塩化ビニル樹脂粉体に担持させるポリエステル系可塑剤を30質量部、ロール混練時に配合するポリエステル系可塑剤を10質量部に変更する以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0056】
[比較例5]
実施例1において、多孔質塩化ビニル樹脂粉体100質量部に対し、ニトリルゴムの配合量を50質量部に変更する以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0057】
[比較例6]
比較例1において、ロール混練及びプレス温度を130℃に変更する以外は、比較例1と同様の方法で実施した。
【0058】
上記実施例1~12及び比較例1~6に係るゴム組成物(ゴム成形品)について、以下の評価を行った。
【0059】
<耐オゾン性>
耐オゾン性試験(JIS K6259-1)の静的オゾン劣化試験A法に従い、得られたゴム成形品から幅10mmの短冊状の試験片を採取し、20%のテンションをかけ、40℃下、オゾン濃度500ppbで72時間オゾンウェザーメーターにて処理後、サンプルを取り出して亀裂状態を観察し、規定された下記方法でランク付けを行った。なお、亀裂が見られないものは、〇とした。
【0060】
(亀裂の数によるランク付け)
A:亀裂少数
B:亀裂多数
C:亀裂無数
【0061】
(亀裂の大きさ、深さによるランク付け)
1:肉眼では見えないが10倍の拡大鏡では確認できるもの。
2:肉眼で確認できるもの。
3:亀裂が深くて比較的大きいもの(1mm未満)。
4:亀裂が深くて大きいもの(1mm以上3mm未満)。
5:3mm以上の亀裂または切断を起こしそうなもの。
【0062】
<耐油性>
耐油性試験(JIS K6258)に従い、得られたゴム成形品から30mm角の試験片を採取し、100℃の試験油IRM903に72時間浸せきさせた前後での体積変化率を求めた。
【0063】
体積膨張率(%)が、0~+10%のものを◎、+10~+15%のものを〇、+15~+20%のものを△、+20%以上のものを×と評価した。
【0064】
<引張試験(伸び)>
引張試験(JIS K6251)に従い、得られたゴム成形品からダンベル状2号型試験片を採取し、オートグラフを用いて試験速度200mm/minで切断時伸びを評価した。
【0065】
破断伸び(%)が、>300%のものを◎、250~300%のものを〇、200~250%のものを△、<200%のものを×と評価した。
【0066】
<耐熱老化性>
ダンベル状2号型試験片を、100℃で72時間の耐熱老化試験(JIS K6257)の促進老化試験に供した後、オートグラフを用いて試験速度200mm/minで切断時伸びを評価した。
【0067】
耐熱老化性試験後の破断伸びの低下率(%)が、<10%のものを◎、10~15%のものを〇、15~20%のものを△、>20%のものを×と評価した。
【0068】
以上の結果を表1~3に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
表1及び表2に示すように、実施例1~12に係る細孔内に可塑剤が担持された可塑剤担持多孔質塩化ビニル系樹脂粉体を用いたゴム組成物は、耐オゾン性、耐油性、伸び、耐熱老化性に優れていた。
【0073】
一方、表3に示すように、可塑剤を担持しないものや、可塑剤量が不適当なもの等の本発明の要件を満たさない比較例1~6では、耐オゾン性、耐油性、伸び、耐熱老化性で、満足する性能が得られなかった。