(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165491
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】複数ポイント物理量制御システム
(51)【国際特許分類】
G05B 11/32 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
G05B11/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070837
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】今村 藍介
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 剛
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GB01
5H004HA01
5H004HB01
5H004KB01
5H004LA15
5H004MA38
5H004MA52
(57)【要約】
【課題】マスターモジュールと複数のスレーブモジュールからなる複数ポイント物理量制御システムにおいて、スレーブモジュールからの物理量測定結果を反映せずにマスターモジュールは制御目標情報をスレーブモジュールへ出力していた。
【解決手段】上記課題の解決手段として、スレーブモジュールから送信された物理量測定結果に基づいてマスターモジュールは制御目標情報を、スレーブモジュールへ出力する。制御対象物の物理量に分布がある場合に、物理量の制御を開始するまでの時間管理を効率的に行うことができる。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスターモジュールと、これと連携し、制御対象物の物理量制御器である一以上のスレーブモジュールと、からなる複数ポイント物理量制御システムであって、
マスターモジュールは、
起動命令受付部(AA)と、
起動命令を受付けた場合に、自身と連携するスレーブモジュールを確定するためにスレーブモジュールとの通信線にスレーブモジュールからの返信を促すための情報である返信促進情報を出力する返信促進情報出力部(AB)と、
返信促進情報に対するスレーブモジュールからの返信であって、各スレーブモジュールが担当する制御対象物の物理量測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブモジュールを一意に特定するスレーブIDと、を含む返信を受信する返信受信部(AC)と、
受信した返信に含まれる前記測定結果に基づいて各スレーブモジュールに対して物理量制御目標を定めるための情報である制御目標情報を出力する制御目標情報出力部(AD)と、
を有し、
スレーブモジュールは、
起動命令受付部(BA)と、
自身を一意に特定するスレーブIDを保持するスレーブID保持部(BB)と、
時間長を測定する時間長測定部(BC)と、
制御対象物の測定ポイントの物理量を測定する物理量測定部(BD)と、
制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力する物理量制御情報出力部(BE)と、
マスターモジュールからの返信促進情報を受信するための返信促進情報受信部(BF)と、
返信促進情報を受信した場合に自身が担当する制御対象物の測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブIDと、を含む返信を出力する返信出力部(BG)と、
制御目標情報を受信する制御目標情報受信部(BH)と、
前記制御目標情報を保持する制御目標情報保持部(BJ)と、
起動後、所定のイベントから時間長測定部(BC)によって測定された経過時間長が所定の時間長になったか判断する経過時間長判断部(BK)と、
経過時間長判断部(BK)での判断結果が所定の時間長経過したとの判断結果である場合に起動後最初の物理量制御情報を物理量制御情報出力部(BE)に出力させる出力命令部(BM)と、
を有するように構成された複数ポイント物理量制御システム。
【請求項2】
マスターモジュールがスレーブモジュールへ出力する制御目標情報が、すべてのスレーブモジュールに対して同一である請求項1に記載の複数ポイント物理量制御システム。
【請求項3】
前記所定のイベントが、各スレーブモジュールがマスターモジュールから自身宛の制御目標情報の受信である請求項1又は請求項2に記載の複数ポイント物理量制御システム。
【請求項4】
マスターモジュールも
制御対象物の測定ポイントの物理量を測定する物理量測定部(AE)と、
制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力する物理量制御情報出力部(AF)と、を有する請求項1から請求項3のいずれか一に記載の複数ポイント物理量制御システム。
【請求項5】
マスターモジュールと、これと連携し、制御対象物の物理量制御器である一以上のスレーブモジュールと、からなる計算機である複数ポイント物理量制御システムの動作方法であって、
計算機であるマスターモジュールの動作方法は、
起動命令受付ステップ(aa)と、
起動命令を受付けた場合に、自身と連携するスレーブモジュールを確定するためにスレーブモジュールとの通信線にスレーブモジュールからの返信を促すための情報である返信促進情報を出力する返信促進情報出力ステップ(ab)と、
返信促進情報に対するスレーブモジュールからの返信であって、各スレーブモジュールが担当する制御対象物の物理量測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブモジュールを一意に特定するスレーブIDと、を含む返信を受信する返信受信ステップ(ac)と、
受信した返信に含まれる前記測定結果に基づいて各スレーブモジュールに対して物理量制御目標を定めるための情報である制御目標情報を出力する制御目標情報出力ステップ(ad)と、を有し、
計算機であるスレーブモジュールの動作方法は、
起動命令受付ステップ(ba)と、
自身を一意に特定するスレーブIDを保持するスレーブID保持ステップ(bb)と、
時間長を測定する時間長測定ステップ(bc)と、
制御対象物の測定ポイントの物理量を測定する物理量測定ステップ(bd)と、
制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力する物理量制御情報出力ステップ(be)と、
マスターモジュールからの返信促進情報を受信するための返信促進情報受信ステップ(bf)と、
返信促進情報を受信した場合に自身が担当する制御対象物の測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブIDと、を含む返信を出力する返信出力ステップ(bg)と、
制御目標情報を受信する制御目標情報受信ステップ(bh)と、
前記制御目標情報を保持する制御目標情報保持ステップ(bj)と、
起動後、所定のイベントから時間長測定ステップ(bc)によって測定された経過時間長が所定の時間長になったか判断する経過時間長判断ステップ(bk)と、
経過時間長判断ステップ(bk)での判断結果が所定の時間長経過したとの判断結果である場合に起動後最初の物理量制御情報を物理量制御情報出力ステップ(be)に出力させる出力命令ステップ(bm)と、
を有するように構成された計算機である複数ポイント物理量制御システムの動作方法。
【請求項6】
マスターモジュールがスレーブモジュールへ出力する制御目標情報が、すべてのスレーブモジュールに対して同一である請求項5に記載の計算機である複数ポイント物理量制御システムの動作方法。
【請求項7】
前記所定のイベントが、各スレーブモジュールがマスターモジュールから自身宛の制御目標情報の受信である請求項5又は請求項6のいずれかに記載の計算機である複数ポイント物理量制御システムの動作方法。
【請求項8】
計算機であるマスターモジュールの動作方法も
制御対象物の測定ポイントの物理量を測定する物理量測定ステップ(ae)と、
制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力する物理量制御情報出力ステップ(af)と、を有する請求項5から請求項7のいずれか一に記載の計算機である複数ポイント物理量制御システムの動作方法。
【請求項9】
マスターモジュールと、これと連携し、制御対象物の物理量制御器である一以上のスレーブモジュールと、からなる計算機である複数ポイント物理量制御システムに読み取り可能な動作プログラムであって、
計算機であるマスターモジュールに読み取り可能な動作プログラムは、
起動命令受付ステップ(aa)と、
起動命令を受付けた場合に、自身と連携するスレーブモジュールを確定するためにスレーブモジュールとの通信線にスレーブモジュールからの返信を促すための情報である返信促進情報を出力する返信促進情報出力ステップ(ab)と、
返信促進情報に対するスレーブモジュールからの返信であって、各スレーブモジュールが担当する制御対象物の物理量測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブモジュールを一意に特定するスレーブIDと、を含む返信を受信する返信受信ステップ(ac)と、
受信した返信に含まれる前記測定結果に基づいて各スレーブモジュールに対して物理量制御目標を定めるための情報である制御目標情報を出力する制御目標情報出力ステップ(ad)と、を有し、
計算機であるスレーブモジュールに読み取り可能な動作プログラムは、
起動命令受付ステップ(ba)と、
自身を一意に特定するスレーブIDを保持するスレーブID保持ステップ(bb)と、
時間長を測定する時間長測定ステップ(bc)と、
制御対象物の測定ポイントの物理量を測定する物理量測定ステップ(bd)と、
制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力する物理量制御情報出力ステップ(be)と、
マスターモジュールからの返信促進情報を受信するための返信促進情報受信ステップ(bf)と、
返信促進情報を受信した場合に自身が担当する制御対象物の測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブIDと、を含む返信を出力する返信出力ステップ(bg)と、
制御目標情報を受信する制御目標情報受信ステップ(bh)と、
前記制御目標情報を保持する制御目標情報保持ステップ(bj)と、
起動後、所定のイベントから時間長測定ステップ(bc)によって測定された経過時間長が所定の時間長になったか判断する経過時間長判断ステップ(bk)と、
経過時間長判断ステップ(bk)での判断結果が所定の時間長経過したとの判断結果である場合に起動後最初の物理量制御情報を物理量制御情報出力ステップ(be)に出力させる出力命令ステップ(bm)と、
を有するように構成された計算機である複数ポイント物理量制御システムに読み取り可能な動作プログラム。
【請求項10】
マスターモジュールがスレーブモジュールへ出力する制御目標情報が、すべてのスレーブモジュールに対して同一である請求項9に記載の計算機である複数ポイント物理量制御システムに読み取り可能な動作プログラム。
【請求項11】
前記所定のイベントが、各スレーブモジュールがマスターモジュールから自身宛の制御目標情報の受信である請求項9または請求項10のいずれかに記載の計算機である複数ポイント物理量制御システムに読み取り可能な動作プログラム。
【請求項12】
計算機であるマスターモジュールに読み取り可能な動作プログラムも
制御対象物の測定ポイントの物理量を測定する物理量測定ステップ(ae)と、
制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力する物理量制御情報出力ステップ(af)と、を有する請求項9から請求項11のいずれか一に記載の計算機である複数ポイント物理量制御システムに読み取り可能な動作プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスターモジュールと、一以上のスレーブモジュールと、からなる複数ポイントの物理量を制御するシステムに関するものであり、マスターモジュールからスレーブモジュールへ設定値(制御目標情報)を伝達する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、航空機の機体外壁に使われる炭素繊維強化プラスチックの成型ホットプレスなどの温度制御では、マスターモジュールと一以上のスレーブモジュールとを連結し、対象となる加工物の多数の加熱箇所の熱源制御を行っている。マスターモジュールは、制御対象となる多数の加熱箇所の温度を制御するための制御条件などをPCやPLC(programmable logic controller)などの上位制御装置から受信し、受信した制御条件などに基づき自身に接続された複数のスレーブモジュールに対して制御のための信号(目標温度や操作量など)を送信する。そして、これらの信号を受信したスレーブモジュールのそれぞれは受信した信号に基づいて制御対象の制御を行う(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図9のシステム例に示すような複数ポイントの物理量(温度)制御においては、従来は制御の基準点を定めて制御していた。従来のマスターモジュールとシリアル通信経路(以下、シリアルバスと表記する場合がある)で接続されたスレーブモジュール間の一連の動きの例を、
図15を用いて説明する。電源投入後、マスターモジュールは自機に接続されたスレーブモジュールを検索するために、スレーブIDをつけた返信促進情報を出力する。スレーブモジュールは自機宛の信号であれば応答する。所定時間まで待って応答なければスレーブIDを一つ増やして返信情報を出力するといった方法でスレーブモジュールを検索する(
図15中の「スレーブ検索))。スレーブ検索完了後、マスターモジュールは自機に接続された物理量測定部の測定結果に基づいて制御目標情報を設定し、検索したスレーブモジュールに対して1機ずつ制御目標情報を出力する。自機宛の制御目標情報を受信したスレーブモジュールは測定結果を応答として返信する。スレーブモジュールは制御目標情報を受信してから所定の時間経過後に、制御目標情報に従って制御を開始する。
【0005】
図13を用いて、特定のポイントを初期の物理量の基準点とした場合の制御に関して説明する。
図13は加工部材の温度を温度プロファイルに沿って制御することが重要な昇温過程の例であり、図中に温度プロファイルと加工部材中3点の初期温度を示す。特定のポイント、例えばマスターモジュールが自身で担当するポイントのうちの一つのポイントを基準点とした場合、基準点の温度(物理量)はPV1である。しかしスレーブモジュールを含めた全ポイントの中にはPV1よりも低い温度のポイントが存在する可能性がある。
図13での温度PV2、PV3を示すスレーブモジュールが担当するポイントである。マスターモジュールはPV1を基準とし制御目標情報を設定する。
図13の例では、制御目標情報は温度プロファイル上の、全ポイントが目指す温度目標である。PV1を基準として設定した制御目標情報は、例えばPV1より高い(温度プロファイル上の)温度である。温度プロファイル中のPV1の地点をスタート地点として制御(PID制御等)を開始する。温度PV2やPV3を示したポイントはPV1より低いところからスタートしPID制御等を行う。初期温度がPV2やPV3を示していたポイントは制御目標情報から外れている時間が長く、制御目標情報にそろうまでに時間を要する。特に上例のように航空機の機体外壁などの大きな加工部材を加工するために加工装置が大型化したり、材料技術の進歩に伴う物理量制御が高度化したりすることにより、物理量制御の基準点をマスターモジュールの担当するポイントに限定するのではなく、任意のポイントを基準点としたいという要望が出てきた。
【0006】
本発明では、マスターモジュールと一以上のスレーブモジュールからなるシステムが複数ポイントの物理量の制御を開始するために、マスターモジュールがスレーブモジュールに送付する制御開始時の制御目標情報を決めるとき、スレーブモジュールの管理下にある複数ポイントの物理量の測定結果を得て、前記測定結果に基づいて制御目標情報を決める。マスターモジュールから出力された前記制御目標情報を受信したスレーブモジュールは、所定のイベントから、所定の時間経過後に、自機の制御対象物の物理量制御を開始する。対象物の物理量を制御して制御目標情報へ各ポイントの測定結果を近づけるための効率的な時間管理ができるプログラム運転制御を行う複数ポイント物理量制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような課題を解決するために本発明では、
第一の発明として、
マスターモジュールと、これと連携し、制御対象物の物理量制御器である一以上のスレーブモジュールと、からなる複数ポイント物理量制御システムであって、
マスターモジュールは、
起動命令受付部(AA)と、
起動命令を受付けた場合に、自身と連携するスレーブモジュールを確定するためにスレーブモジュールとの通信線にスレーブモジュールからの返信を促すための情報である返信促進情報を出力する返信促進情報出力部(AB)と、
返信促進情報に対するスレーブモジュールからの返信であって、各スレーブモジュールが担当する制御対象物の物理量測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブを一意に特定するスレーブIDと、を含む返信を受信する返信受信部(AC)と、
受信した返信に含まれる前記測定結果に基づいて各スレーブモジュールに対して物理量制御目標を定めるための情報である制御目標情報を出力する制御目標情報出力部(AD)と、
を有し、
スレーブモジュールは、
起動命令受付部(BA)と、
自身を一意に特定するスレーブIDを保持するスレーブID保持部(BB)と、
時間長を測定する時間長測定部(BC)と、
制御対象物の測定ポイントの物理量を測定する物理量測定部(BD)と、
制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力する物理量制御情報出力部(BE)と、
マスターモジュールからの返信促進情報を受信するための返信促進情報受信部(BF)と、
返信促進情報を受信した場合に自身が担当する制御対象物の測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブIDと、を含む返信を出力する返信出力部(BG)と、
制御目標情報を受信する制御目標情報受信部(BH)と、
前記制御目標情報を保持する制御目標情報保持部(BJ)と、
起動後、所定のイベントから時間長測定部(BC)によって測定された経過時間長が所定の時間長になったか判断する経過時間長判断部(BK)と、
経過時間長判断部(BK)での判断結果が所定の時間長経過したとの判断結果である場合に起動後最初の物理量制御情報を物理量制御情報出力部(BE)に出力させる出力命令部(BM)と、
を有するように構成された複数ポイント物理量制御システム、を提供する。
【0008】
さらに第二の発明として、第一の発明を基礎として、
マスターモジュールがスレーブモジュールへ出力する制御目標情報が、すべてのスレーブモジュールに対して同一である複数ポイント物理量制御システムを提供する。
【0009】
さらに第三の発明として、第一又は第二の発明のいずれかを基礎として、
前記所定のイベントが、各スレーブモジュールがマスターモジュールから自身宛の制御目標情報の受信である複数ポイント物理量制御システム、を提供する。
【0010】
さらに第四の発明として、第一から第三の発明のいずれか一を基礎として、
マスターモジュールも
制御対象物の測定ポイントの物理量を測定する物理量測定部(AE)と、
制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力する物理量制御情報出力部(AF)と、を有する複数ポイント物理量制御システム、を提供する。
【0011】
さらに、上記本発明の複数ポイント物理量制御システムに対応した計算機である複数ポイント物理量制御システムのマスターモジュールとスレーブモジュールそれぞれの動作方法を提供する。
【0012】
さらに、上記本発明の複数ポイント物理量制御システムに対応した、計算機である複数ポイント物理量制御システムのマスターモジュールとスレーブモジュールそれぞれに読み込み可能な動作プログラムも提供する。またそれぞれの動作プログラムは記録媒体に記録されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、マスターモジュールと一以上のスレーブモジュールからなるシステムが複数ポイントの物理量の制御を開始するために、マスターモジュールがスレーブモジュールに制御目標情報を出力するとき、スレーブモジュールの制御対象物の物理量の測定結果に基づいた制御目標情報を出力する。マスターモジュールから出力された前記制御目標情報を受信したスレーブモジュールは、所定のイベント(例えば起動又は前記制御目標情報の受信)後から所定の時間経過してから、制御開始する。各スレーブモジュールが制御目標情報を受信後に対象物の物理量を制御するため、物理量の制御を開始するまでの時間管理を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態1の複数ポイント物理量制御システムの機能的構成例を示すブロック図
【
図2】本発明の実施形態1の複数ポイント物理量制御システムの処理の流れを示すフロー図
【
図3】本発明の実施形態1の複数ポイント物理量制御システムのマスターモジュールのハードウェア構成図
【
図4】本発明の実施形態1の複数ポイント物理量制御システムのスレーブモジュールのハードウェア構成図
【
図5】本発明の実施形態4の複数ポイント物理量制御システムの機能的構成例を示すブロック図
【
図6】本発明の実施形態4の複数ポイント物理量制御システムの処理の流れを示すフロー図
【
図7】本発明の実施形態4の複数ポイント物理量制御システムのマスターモジュールのハードウェア構成図
【
図8】本発明の実施形態4の複数ポイント物理量制御システムのスレーブモジュールのハードウェア構成図
【
図9】複数ポイント物理量制御システムの構成例を示した模式
図1
【
図10】複数ポイント物理量制御システムの構成例を示した模式
図2
【
図11】本発明の複数ポイント物理量制御システムを使用開始初期の温度分布
【
図12a】本発明の複数ポイント物理量制御システムを使用した温度制御の例1
【
図12b】本発明の複数ポイント物理量制御システムを使用した温度制御の例2
【
図13】従来技術の複数ポイント物理量制御システムでのPV(測定値)スタートの説明図
【
図14】本発明の複数ポイント物理量制御システムでのPV(測定値)スタートの説明図
【
図15】従来技術の複数ポイント物理量制御システムでの動作の説明図
【
図16】本発明の複数ポイント物理量制御システムでの動作の説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を用いて説明する。なお、本発明は、これら実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
【0016】
<実施形態1>主に請求項1
<実施形態1 複数ポイント物理量制御システムを含む制御システム概要>
【0017】
図9は複数ポイント物理量制御システムを含む制御システムの一例として、加熱炉内で加工部材に対し、ヒータを用いて加熱加工を施す加工例を示す概略図である。
図9を用いて、本発明複数ポイント物理量制御システムを含む制御システムが制御する物理量の一例として温度を制御する場合について説明する。なお物理量の他の例としては、温度以外にも、圧力、流量(液体、気体、粉体など)、電圧、電流、磁束、磁界、電荷、電界、電気容量、電子線の加速電圧、光の照射量、紫外線照射量、放射線照射量、水溶液の濃度、波長、周波数(又は振動数)などがある。
【0018】
図9では、加工部材(0908)を加熱炉(0909)内に入れ、スレーブモジュールに接続された複数のヒータ(0906)で、制御対象物である加工部材(0908)を加熱し、加工部材(0908)の各部位の温度を物理量の例として、スレーブモジュールに接続された複数の温度計(0907)で測定する。
図9の例ではスレーブモジュールには4つの温度計が接続され、4つのヒータの出力を制御している。温度計は、熱電対の起電力による電圧や、測温抵抗体やサーミスタを用いた定電流時の電圧などを測定し、換算することで温度を得る。ヒータの制御はスレーブモジュールから出力される制御用信号(例えば4~20mA程度の電流、DC12V程度の電圧パルスなど)を、
図9には図示していないがスレーブモジュールとヒータ間に設置されたサイリスタレギュレータやソリッドステートリレーなどに出力し、スレーブモジュールからの出力電流を受けてヒータへの供給交流電圧の半サイクルごとに電圧出力量を変化させるサイリスタレギュレータを用いた位相制御や、ソリッドステートリレーを介してヒータをオンオフすることで加熱量を制御することなどを行う。
図9は、測定して得られた物理量である温度が所定の温度範囲にあるか判断し、ヒータ(0906)の出力を制御する制御システムの例である。本発明の複数ポイント物理量制御システムは、
図9に示す加熱加工の例に限定されず、その他様々な物理量の制御を行う様々な態様の制御システムに使用できる。
【0019】
図9の例ではマスターモジュール(0902)は自機とシリアル通信経路(RS-485)で接続された一以上のスレーブモジュールを担当することができる。シリアル通信のRS-485規格では1経路に接続できる機器の上限は32台である。そのため上位制御機器とマスターモジュールが接続されているシリアル通信経路に接続できるスレーブモジュールの最大数は30台(記録計など他の機器が接続されていない場合)である。スレーブモジュールは複数のヒータなどの物理量制御手段を制御し、複数の温度計などの物理量測定部からの測定値を受信する。マスターモジュールが一部のヒータと温度計の制御を担当し、制御目標情報の設定時にスレーブモジュールの測定結果とマスターモジュールの管理するポイントの測定結果を合わせた測定結果に基づいて、マスターモジュールが制御目標情報を設定するように構成することもできる。(
図10)。
【0020】
マスターモジュール(0902)に対し、PCやPLC等である上位制御機器(0901)からLAN回線(イーサネット)やシリアル通信経路(シリアルバス)を介して、各種設定や起動命令や稼働状況の問合せなどが送信される。逆にマスターモジュール(0902)から上位制御機器(0901)へ、制御対象物(加工部材(0908))の各ポイントの物理量(温度)の測定結果や、マスターモジュールやスレーブモジュールの状況を示す情報(各スレーブモジュールが出力している物理量制御情報など)を送信する。マスターモジュールがLAN回線(イーサネット)に接続され、前記LAN回線がファイアウォールなどを備えた接続機器を介して公衆インターネット回線に接続され、上位制御機器が前記公衆インターネット回線に接続されている場合には、マスターモジュールが設置される製造装置近傍などとは離れた、例えば工場敷地内の事務室や管理室、または製造現場敷地外の自宅でテレワーク中のPCから上記の通信を行うことができる。
【0021】
<物理量制御例:物理量 温度:加熱加工の例>
図9の加熱加工の例に関し引き続き説明する。
図16を用いて、電源投入からの一連の動作の概要を説明する。
【0022】
<電源投入>
図16の上段の「起動」
マスターモジュールと複数のスレーブモジュールは製造現場の加工装置の制御盤の一部に設置されている場合、制御盤の主電源スイッチをオンすることにより、一斉にマスターモジュールと複数のスレーブモジュールの電源がオンとなる。
【0023】
<スレーブモジュールの検索:マスターモジュールから返信促進情報の出力>
<
図16 スレーブ検索>
図9に示す、スレーブモジュール1(0903)からスレーブモジュールn(0905)は電源オンとなった後に計時測定を開始し、起動後にマスターモジュールからの通信を待つ起動後待機時間(例5s、適宜設定できる)経過しても、マスターモジュールからの通信を受信できない場合はスタンドアローンモードにて動作を開始する。マスターモジュール(0902)は起動後、計時測定を開始する。起動後ただちに、自機に接続されたスレーブモジュールを検索するために、返信を促すための通信となる返信促進情報を、シリアル通信経路を通じてスレーブIDを指定して出力する。マスターモジュールも、後記する制御目標情報のスレーブモジュールへの出力開始までの起動後待機時間(例5s、適宜設定できる)を持つ。なおマスターモジュールは起動後待機時間内に前記のスレーブ検索を行う。起動後待機時間は、返信促進情報を出力する通信間隔、応答があるか待つ時間(タイムアウト)時間と、接続機器数から適宜決定できる。
【0024】
図16に示すマスターモジュールのスレーブ検索では、マスターモジュールの機器管理番号1の次の2をスレーブIDとして含めた返信促進情報を、まず送信する。スレーブIDが2のスレーブモジュールが接続されている場合は、自機宛の返信促進情報であるため受信し応答し、マスターモジュールの命令を受けて動作するモードであるスレーブモードに移行する。スレーブモジュールは、自機宛ではない(自機のスレーブIDを含まない)返信促進情報であれば受信するが応答しない。応答はしないが、他機宛の返信促進情報であってもマスターモジュールからの通信であることは明らかなため、待機中に他機宛の返信促進情報を受信したスレーブモジュールはスレーブモードへ移行する。
【0025】
マスターモジュールは、一定時間(例100ms、適宜設定できる)待っても、送信したスレーブIDに対応するスレーブモジュールからの応答の返信がなければ、そのスレーブIDに該当するスレーブモジュールは接続されていないと判断する。そしてスレーブIDを1増やして返信促進情報を出力する。シリアル通信経路(シリアルバス)の種類によって接続できる最大接続数(例:RS-485では最大32台接続。上位制御機器や記録計等他の機器も含む台数)まで、スレーブIDを一つずつ増やしながら順に返信促進情報を出力する。応答の返信があったスレーブIDの番号を保持するように構成することが好ましい。返信促進情報を送信し応答があったスレーブモジュールのスレーブIDを保持しない場合は、スレーブモジュールに送信するときには必ずスレーブIDを2から最大接続数まで順次増やしながらすべて送信するように構成することもできる。または、マスターモジュールに接続予定のスレーブモジュールのスレーブIDを登録しておき、初期登録されているスレーブIDに対して順に返信促進情報を送信していくようにしてもよい。応答があったスレーブIDを残し、応答がなかったスレーブIDの登録を消すように構成することもできる。
【0026】
<スレーブモジュールの検索:スレーブモジュールの対応>
マスターモジュール(0902)から、起動後待機時間内に自機宛又は他機宛の返信促進情報を受信したスレーブモジュールは、スレーブモードに移行する。マスターモジュールが接続されていなかったなどのように自機宛又は他機宛の返信促進情報を受信できなかった場合、起動後待機時間経過後、各スレーブモジュールはスタンドアローンで動作を開始する。スタンドアローンで動作開始後に、マスターモジュールが接続された場合、スタンドアローンのまま動作してもよいし、マスターモジュールからの返信促進情報を受けてスレーブモードに移行するように構成することもできる。
【0027】
スレーブモジュールはマスターモジュール(0902)からの自機宛の返信促進情報を受信したら、自機を一意に特定するスレーブIDと、自機が担当する制御対象物の物理量(
図13では温度計の測定結果である温度)をマスターモジュール(0902)への応答としてシリアル通信経路(シリアルバス)を通じて返信する。物理量測定結果の取り込みをまだ開始していない場合は、空データまたは適当な値を測定結果として返信する。マスターモジュールでは、起動から前記起動後待機時間内は、返信促進情報の応答に付けられた測定結果は偽情報として使用しないようにする。マスターモジュール(0902)とスレーブモジュール間の通信は上述のようにModbus RTUプロトコルのRS-485などのシリアル通信経路(シリアルバス)を使う。Modbus RTUプロトコルが準じている電気的仕様であるRS-485では、最大伝送距離での通信速度は100kbps程度である。ModbusはModicon社が1979年、同社のプログラマブルロジックコントローラ(PLC)向けに策定したシリアル通信プロトコルであり、産業界におけるデ・ファクト標準の通信プロトコルとなり、現在では産業用電子機器を接続する最も一般的手段となっている。
【0028】
マスターモジュールから出力される返信促進情報は周期的に継続して出力されるように構成すると、制御開始後にスレーブモジュールが追加接続された場合(接続されていた機が後から追加起動された場合も含む)に、マスターモジュールの制御下へ追加できるため好ましい。返信促進情報の出力周期は、スレーブモジュールの起動後待機時間内に少なくとも1回、好ましくは4、5回などの複数回返信促進情報を受信できるような周期(例1s、この時間には限定されない)とすることが好ましい。マスターモジュールとスレーブモジュール、又はスレーブモジュールとスレーブモジュールの間にシリアル通信経路を複数備えている場合には、物理量測定結果などのようにリアルタイム性が必要な通信とは別のシリアル通信経路を用いて返信促進情報を出力するように構成することができる。もしマスターモジュールが接続されていないシリアル通信経路にスレーブモジュールが追加された場合には、起動待機時間経過後にスタンドアローンで動作を開始する。
【0029】
<物理量測定結果の取集>
図16中段「PV測定開始」
図16中の「PV測定開始」の記載にあるPV(Process Variable)はスレーブモジュールに接続された例えば熱電対(センサー)の起電力から温度(物理量)を得るようにセンサーからの入力信号から得た値(測定結果)を指す。
各スレーブモジュール(マスターモジュール自身が物理量測定部を備えている場合はマスターモジュールも)は、起動(電源投入)してから起動後待機時間経過後、物理量測定を開始する。マスターモジュールは、スレーブモジュール検索にて検索されたスレーブIDに基づいて、初期的に保持している制御目標情報を仮に各スレーブモジュールへ出力する。応答として各スレーブモジュールが返信する物理量の測定結果の収集が目的である。各スレーブモジュールが物理量測定開始した後に、別のスレーブモジュールが追加接続され起動した場合には、起動待機時間経過後(例5s)上記と同様に、スレーブモード又はスタンドアローンのどちらで動作開始しても物理量測定を開始する。
【0030】
<制御目標情報の設定と出力 マスターモジュール>
<
図16 マスターモジュール SV確定 制御開始>
各スレーブモジュールが起動後待機時間経過後に物理量の測定を開始してから、マスターモジュール(0902)は各スレーブモジュールへ初期的に保持している制御目標情報を出力し、応答として複数の制御ポイントの物理量(温度)データを得るのに十分な時間(例100ms)待った後で、スレーブモジュールから返信された各ポイントの物理量(温度)データに基づいて、物理量制御(温度制御)のための制御目標情報(
図9の例では設定目標温度)を設定し、スレーブモジュールへシリアル通信経路(シリアルバス)を通じて出力する。
図9のシステム例では、各スレーブモジュールは4つの温度計(各温度計の測定結果取得チャンネルをCH1~CH4と表記する)と、4つのヒータ制御用の出力を管理している。
【0031】
各ポイントの物理量に基づいて初期の制御目標情報を設定する方法はいくつか考えられる。予め設けた複数の物理量測定ポイントの内、重要ポイントを制御対象物(加工部材)ごとに決めて基準点として用いる方法、全物理量測定ポイントのうちの複数点(全点を対象としてもよい)の中の最大物理量、最小物理量、平均物理量のいずれかを基準として用いる方法などである。以下では高温で一定時間保持するために、昇温、一定温度維持、降温といった温度プロファイルを経る加熱加工であって、温度プロファイルに沿った制御が重要となる加工のため、最低温度を示したポイントを基準点とする例を説明する。冷却加工などであれば初期の最高温度を示すポイントが基準点として適するなど、制御対象物や制御する物理量によって基準点は適宜変わるため、以下の最低温度を基準とする例には、基準点の取り方は限定されない。
【0032】
図11には、n台あるうちのスレーブモジュール1~3のCH1~4の初期の温度分布を示す。
図11には示していないが、スレーブモジュール4からスレーブモジュールnの初期の温度は、
図11の温度T22よりも高いものとして説明する。
図11では最低温度はスレーブモジュール2のCH2の温度T22である。
図12aのような昇温、温度維持、降温の温度プロファイルを経る加熱加工を行おうとしている。複数の測定ポイントからの測定結果(温度)では、スレーブモジュール2のCH2の温度T22が制御対象物(加工部材)の中の最低温度である。従来のように他の固定基準ポイント(T22より初期温度が高いポイント)を基準として加工の為に制御を開始すると、
図13を例に上述したように、スレーブモジュール2のCH2のポイントが温度プロファイルに沿った制御になるまで時間を要する。測定結果内の最低温度T22を基準とした場合、
図12bに示す温度プロファイル中のT22の温度である0:12時点から制御を開始する(0:12時点、温度T22が制御開始の新0:00点となる、図中()で示す横軸時間)。0:12の時間分、加工時間を短縮できる。さらに
図14に示すように、初期の最低温度(PV3)を基準点とすると、温度プロファイルへの各ポイント(初期の温度PV1、PV2、PV3を示すポイント)の温度収束も早くなる。そのため、
図11、
図12の例でも初期最低温度T22を基準としたほうが早く温度プロファイルに沿った制御とすることができると考えられる。
【0033】
図13、
図14について説明を追加する。
図13に基準となる物理量(温度)測定ポイントが決まった点だった、従来の加熱加工時の別の温度プロファイルを示す。
図13の例では、温度PV1の値が基準ポイントの温度であり、PV1より低い温度PV2やPV3のポイントが別途存在している。温度PV1を基準として制御目標情報(SV)を決めた場合、
図13下のグラフのように、温度プロファイル中の温度PV1となるところをスタート地点として制御開始する。PV1は温度プロファイルにほぼ沿った温度変化となるが、PV1より低い温度であるPV2やPV3では、温度プロファイルに近づけようとに強く加熱し大きくオーバシュートしたあとで温度プロファイルに近い温度となるために、時間を要する。
【0034】
本発明でのように、スレーブモジュールを含めシステム全体で測定可能な物理量の測定結果全てから制御目標情報を決定できる場合について、
図14の例で説明する。
図14の上のグラフに示す温度プロファイルは、
図13の上のグラフの温度プロファイルと同じである。制御目標情報(SV)を決めるのにあたり、一番温度が低いPV3の値を基準として、使用する。温度プロファイル上で温度PV3となる地点をスタート地点として、制御開始する。PV3よりも温度が高いPV1やPV2を示したポイントではヒータ出力を絞る(冷却器があれば冷却する)又は加熱しない等しながら温度プロファイル上の温度と近くなるまではずれているが、温度プロファイルに達して以降はほぼ沿った制御となる。本発明での制御の方が従来よりも温度プロファイルに沿った制御ができる。
【0035】
マスターモジュールからスレーブモジュールへ出力される制御目標情報は、スレーブモジュールごとに異なってもよいし、後記実施例のように同一でもよい。同じ制御目標情報を全スレーブモジュールに出力する場合には、各スレーブモジュールの制御目標情報保持部に、制御目標情報を各スレーブモジュールの担当する物理量測定手段や物理量制御手段の補正情報に基づいて補正するための情報である制御目標情報補正情報を保持する制御目標情報補正情報保持手段と、前記制御目標補正情報に基づいてマスターモジュールから出力された制御目標情報を補正する制御目標情報補正手段とを備えると、各スレーブモジュールが管理する物理量測定器や、物理量制御手段のばらつきなどを補正するために、制御目標情報を補正することができる。
【0036】
制御目標情報は、温度プロファイルの形で一括してスレーブモジュールへ出力することもできるし、マスターモジュールが温度プロファイルを保持し、周期的に各スレーブモジュールへ担当する各ポイントの制御目標情報(直近で目指す目標温度)を出力するようにも構成できる。後者の場合には制御目標情報(目標温度)を受信したスレーブモジュールが目標温度に達するように物理量制御情報(ヒータなどを制御するための情報)を自機の判断で調整し出力する。その他に、一連の物理量制御を開始する前にあらかじめマスターモジュール及び各スレーブモジュールへ温度プロファイルを保持させておき、スレーブモジュール毎に、マスターモジュールから出力される制御目標情報を参照して自機の担当するポイントの物理量制御をするのか、自機に保持されている温度プロファイルに基づいた制御目標情報によって自主的に物理量制御するのかを設定できるように構成することもできる。予めマスターモジュールやスレーブモジュールへ温度プロファイルを保持させておくと、万一マスターモジュールが起動せず、スレーブモジュールがスタンドアローンで動作する場合に、スタンドアローンで動作するスレーブモジュールに保持されている温度プロファイルに基づいた制御目標情報によって自主的に物理量制御をすることができる。
【0037】
<制御目標情報の受信 スレーブモジュール>
スレーブモジュールは、自機宛のスレーブIDが付与された制御目標情報を受信した応答として、自機のスレーブIDと、担当する制御対象物の物理量(
図9の例では温度)を含むデータをマスターモジュール(0902)へ、Modbus RTUプロトコルのRS-485シリアル通信経路(シリアルバス)を通じ返信する。スレーブモジュールは他機宛の通信は受信するが応答しない。マスターモジュールは、シリアル通信経路(シリアルバス)上で通信が輻輳しないように、スレーブモジュールからの応答を受信後に、次の順番のスレーブモジュールへ制御目標情報を出力する。一定時間(例 5ms)経過しても、起動後最初の返信促進情報に応答の返信があったスレーブモジュールからの制御目標情報に対する応答をマスターモジュールが受信できない場合は、例えばマスターモジュールは再度該当スレーブモジュールへ送信し、それでも応答がない場合は、上位制御機器へエラーメッセージを出力する等の異常状態対処措置を行うように構成するとよい。
【0038】
<物理量の制御開始>
図16 スレーブモジュール SV確定 制御開始
マスターモジュールから出力された制御目標情報を受信し保持することが図中のSV確定である。所定のイベントからの所定の時間経過後に、受信した制御目標情報に基づいて、担当する制御対象物の物理量(温度)を制御するための物理量制御情報を出力する(制御開始)。例えば、各スレーブモジュールが物理量(例:温度)測定を開始した(PV測定開始)時点から一定の時間(例100ms)経過後にマスターモジュールは制御目標情報(SV)を出力する。マスターモジュールの制御目標情報(SV)の設定を所定のイベントとして、所定時間経過後に各スレーブモジュールが物理量制御を開始することである。この場合は実質的に起動(電源投入)後からの時間(上記説明では、5s+100ms+100ms=5.2s)経過すると物理量制御が始まるため、起動(電源投入)が所定のイベントであると見なすこともできる。別例では、自機宛の制御目標情報の受信を所定のイベントとし、制御目標情報の受信から所定の時間後(例えばマスターモジュールから全スレーブモジュールへ制御目標情報の送信が完了すると考えられる100ms)経過後に物理量制御を開始するようにも構成できる。なお所定のイベントは、上述した起動(電源オン)や制御目標情報の受信の例には限定されない。
【0039】
<物理量制御>
図16 下段
スレーブモジュールが制御目標情報(SV)に従って物理量制御を開始した後は、周期的にマスターモジュールから物理量測定結果の問合せのための信号が出力される。マスターモジュールからの信号は制御目標情報を出力することができる。周期の例としては100msなどがある。一例としては、100msごとに制御目標情報(SV:
図9の例では目標温度)を各スレーブモジュールへ出力し、受信した自機宛の制御目標情報(SV)に沿うように各スレーブモジュールはPID制御などのための電流や電圧やパルス信号などを、自機に接続され物理量制御を行うサイリスタレギュレータやソリッドステートリレーなどへ物理量制御情報として出力する。スレーブモジュールから物理量制御情報を受けたサイリスタレギュレータなどは、物理量制御情報に基づいて自身の管理する温度などの物理量を変化させる手段(ヒータなど)の出力を調整する。マスターモジュールからの周期的な問い合わせの信号(制御目標情報が含まれていてもよい)を受信したスレーブモジュールは、物理量(例:温度)の測定結果を応答として返信する。スレーブモジュールからの返信には物理量制御情報を含めるように構成することもできる。一連の物理量制御、例えば加熱工程での温度プロファイルの終了まで、このような制御が行われる。
【0040】
以上が、本発明の複数ポイント物理量制御システムを使用した例での、起動から一連の工程の終了までの説明である。
【0041】
上述した
図9の例では、各スレーブモジュールは受信した制御目標情報(目標温度)を達成するために、自機に接続されたサイリスタレギュレータ(
図9には図示せず)へヒータ出力を位相制御させるための電流(例えばDC4~20mA)を出力する。スレーブモジュールから直流電流値などによる指示を受けたサイリスタレギュレータは接続されたヒータへの供給交流電圧を位相制御し出力を制御しながら加熱を開始する。なお、直流電流によるサイリスタレギュレータの制御、及びサイリスタレギュレータの使用には限定されない、他のヒータ出力制御手段を制御するための出力であってもよい。以下、本明細書中の説明では、ヒータの出力制御について、「スレーブモジュールからの出力に応じてサイリスタレギュレータやソリッドステートリレーによってヒータ出力を制御する」の意味で、「スレーブモジュールがヒータ出力を調整する、ヒータ出力を制御する」という表記をすることがある。
【0042】
なお、以下に記載する各部は、ハードウェア及びソフトウェアの組み合わせによる動作として実現され得る。具体的には、コンピュータを利用するものであれば、CPUや主メモリ、バス、あるいは二次記憶装置(フラッシュメモリやSSDなどの不揮発性メモリ、CDやDVDなどの記憶メディアとそれらメディアの読取ドライブなど)、情報入力に利用される入力デバイス、PLC、記録計、印刷機器や表示装置、その他の外部周辺装置などのハードウェア構成部、またその外部周辺装置用のインターフェース、通信用インターフェース、それらのハードウェアを制御するためのドライバプログラムやその他アプリケーションプログラム、ユーザインターフェイス用アプリケーションなどが挙げられる。そして主メモリ上に展開したプログラムに従ったCPUの演算処理によって、入力デバイスやその他インターフェースなどから入力され、メモリやハードディスク上に保持されているデータなどが加工、蓄積されたり、上記各ハードウェアやソフトウェアを制御するための命令が生成されたりする。あるいは本装置の機能ブロックは専用ハードウェアによって実現されてもよい。
【0043】
本明細書の以下の説明では、
図9、
図10に示す構成例に倣い、本発明のシステムのマスターモジュールはLAN回線(イーサネット)やシリアル通信経路などにより接続した上位制御機器と通信しながら複数ポイントの物理量制御を行っている。なおマスターモジュールとスレーブモジュールと制御対象物(例:温度計やヒータなど)のみの構成としてもよい。マスターモジュールの設定変更などの時のみ、LAN回線(イーサネット)やシリアル通信経路などを介して上位制御機器と接続し、設定変更を行うことができる。マスターモジュールが常時上位制御機器に接続されていなくても、同様に本発明の効果が得られる。
【0044】
また、本明細書に記載の各実施形態は動作方法として実現できるのみでなく、その一部または全部を装置としても実現可能である。また、このような装置の一部をソフトウェアとして構成することができる。さらに、そのようなソフトウェアをコンピュータに実行させるために用いるソフトウェア製品、及び同製品を固定した記録媒体も、当然に本明細書に記載の各実施形態の技術的な範囲に含まれる(本明細書の全体を通じて同様である)。
【0045】
<実施形態1 概要>
【0046】
マスターモジュールと、これと連携し、制御対象物の物理量制御器である一以上のスレーブモジュールと、からなる複数ポイント物理量制御システムであり、マスターモジュールからスレーブモジュールへ物理量の制御目標である制御目標情報を送信し、スレーブモジュールは受信後、所定の時間長待ったのちに、制御を開始するように構成されている。
【0047】
<実施形態1 機能的構成>
図1は、本実施形態の複数ポイント物理量制御システムの機能的構成一例を示すブロック図である。
図1に示すように、本発明の複数ポイント物理量制御システムは、マスターモジュール(0101)が、起動命令受付部(AA)(0102)と、返信促進情報出力部(AB)(0103)と、返信受信部(AC)(0104)と、制御目標情報出力部(AD)(0105)と、から構成され、
スレーブモジュール(0110)が、起動命令受付部(BA)(0111)と、スレーブID保持部(BB)(0112)と、時間長測定部(BC) (0113)と、物理量測定部(BD)(0114)と、物理量制御情報出力部(BE)(0115)と、返信促進情報受信部(BF)(0116)と、返信出力部(BG)(0117)と、制御目標情報受信部(BH)(0118)と、制御目標情報保持部(BJ)(0119)と、経過時間長判断部(BK) (0120)と、出力命令部(BM)(0121)と、から構成される。
【0048】
<実施形態1 マスターモジュール 起動命令受付部(AA)(0102)>
マスターモジュールの起動命令受付部(AA)(0102)は、マスターモジュールを起動する起動命令を受け付けるように構成される。
【0049】
起動命令の例としては、物理的な電源スイッチを投入することや、スリープモードで待機中のマスターモジュールが、上位制御機器からの起動命令を受信することなどである。マスターモジュールとスレーブモジュールが同じ制御盤のラックに搭載されている場合、ラックの主電源を投入することによって、マスターモジュールとスレーブモジュールへの給電が同時に開始されるようにも構成できる。
【0050】
<実施形態1 マスターモジュール 返信促進情報出力部(AB)(0103)>
マスターモジュールの返信促進情報出力部(AB)(0103)は、起動命令を受付けた場合に、自身と連携するスレーブモジュールを確定するためにスレーブモジュールとの通信線にスレーブモジュールからの返信を促すための情報である返信促進情報を出力するように構成される。
【0051】
上述のように、起動後マスターモジュールはスレーブモジュールへ、スレーブIDとして自機の機器管理番号1の次である2をつけた返信促進情報の出力から開始する。スレーブモジュールからの応答の返信を受信後、スレーブIDを1増やして返信促進情報を出力する。スレーブモジュールからの返信が一定時間(例5ms)待っても受信できない場合は接続されていないスレーブIDとみなして、スレーブIDを1増やして返信促進情報の出力を続行する。応答を受信した場合は、応答受信後待機せずに、スレーブIDを1増やして返信促進情報を出力する。使用しているシリアル通信経路(シリアルバス)に接続できる最大接続機器数をスレーブIDの最大値として、返信促進情報を順に出力し、接続されているスレーブモジュールを検索する。また、起動前に接続予定のスレーブモジュール(又は記録計等の他のシリアル通信経路に接続される機器)のスレーブIDをマスターモジュールが保持し、保持しているスレーブIDに対して返信促進情報をスレーブIDの値の小さい順など所定の順番で出力するように構成してもよい。
【0052】
起動後、最初に出力される返信促進情報には、最初であることを識別する最初識別情報が含まれるように構成することができる。最初であることをスレーブモジュールに知らせることでスレーブモジュールが各自自主的にシリアル通信経路(シリアルバス)の利用タイミングをずらして、信号の衝突が起こらないようにするためである。例えば、最初の返信促進情報に対するスレーブモジュールの返信タイミングは、スレーブモジュールに備えられた乱数発生器が発生する乱数に基づいて定めるようにすることができる。この返信時にはいまだに物理量の制御が開始されていないので、すべてのスレーブモジュールからの返信をマスターモジュールは時間をかけて待つことが出来るからである。なお、返信促進情報と称される信号は、最初の1回のみでも良いし、呼び名としては、これに後続するマスターモジュールからの信号をそのように称してもよい。
【0053】
マスターモジュールとスレーブモジュールとの問いと答え(応答)や、命令と服従結果などの関係が明確となるように、マスターモジュールとスレーブモジュールとの通信には、それぞれ通し番号を含ませるように構成することもできる。通し番号と、スレーブIDとによって、マスターモジュールは通信処理、制御処理をより確実に実行させることができる。また、スレーブモジュールは、物理量制御ポイント毎にID管理を行い、マスターモジュールとの通信において物理量制御ポイントIDを関連付けた物理量の測定結果を送信するように構成することもできる。場合によっては、スレーブモジュールとマスターモジュールとの通信において、スレーブモジュールが担当するすべての物理量制御ポイントに関する情報でなく、一部の物理量制御ポイントに関する情報のみの通信を行うことが出来るように構成することもできる。つまり、より細心の注意を払うべき物量制御ポイントと、相対的に気にしなくともよいポイントとがあり、これらを区別して通信することで通信量(トラフィック)を少なくすることができるからである。このようにスレーブモジュールでは、自身が担当する各物理量制御ポイントについて格付けを行って、格付に応じた処理や、報告をするように構成することもできる。
【0054】
<実施形態1 マスターモジュール 返信受信部(AC)(0104)>
マスターモジュールの返信受信部(AC)(0104)は、返信促進情報に対するスレーブモジュールからの返信であって、各スレーブモジュールが担当する制御対象物の物理量測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブモジュールを一意に特定するスレーブIDと、を含む返信を受信するように構成される。
【0055】
マスターモジュールは、受信したスレーブIDを基に自機と連携するスレーブモジュールを特定する。上述のように受信した応答の返信中のスレーブIDを保持するように構成するのが好ましい。返信があったスレーブIDとなかったスレーブIDで、別々のフラグ(例えば1と0)を付与して保持することもできる。マスターモジュールが、起動前に接続予定のスレーブモジュール(または他の接続機器)のスレーブIDを予め保持していた場合は、応答があったスレーブモジュールのスレーブIDの保持を継続し、応答がなく受信できなかったスレーブIDは消去するように構成できる。または別々のフラグ(例えば1と0)を付与して保持してもよい。
【0056】
<実施形態1 マスターモジュール 制御目標情報出力部(AD)(0105)>
マスターモジュールの制御目標情報出力部(AD)(0105)は、受信した返信に含まれる前記測定結果に基づいて各スレーブモジュールに対して物理量制御目標を定めるための情報である制御目標情報を出力するように構成される。
【0057】
スレーブモジュールから受信した、各スレーブモジュールの制御対象物の測定ポイントの物理量に基づいて、マスターモジュールは上述の説明のように制御目標情報を決め、スレーブモジュールへ出力する。
【0058】
<実施形態1 マスターモジュール(0101)>
マスターモジュール(0101)は、スレーブモジュールからの物理量の測定結果を受けて制御目標情報を策定しスレーブモジュールへ出力するように構成される。
【0059】
上位制御機器からの求めに応じてマスターモジュールは自身へスレーブモジュールが応答として返信した各物理量測定ポイントの測定結果や出力された物理量制御制御情報を、各物理量測定ポイントを識別する情報(スレーブIDとスレーブモジュール毎に担当する一以上の物理量測定ポイントを識別する情報を関連付けた情報)と関連付けて返信する。マスターモジュールを経由して、スレーブモジュールへ問合せて、応答として上記情報を入手するようにしてもよい。マスターモジュールとスレーブモジュール間は、前述したようにModbus RTUプロトコルのRS-485シリアル通信経路(シリアルバス)で接続されている。
【0060】
<実施形態1 スレーブモジュール 起動命令受付部(BA)(0111)>
スレーブモジュールの起動命令受付部(BA)(0111)は、スレーブモジュールを起動する起動命令を受け付けるように構成される。
【0061】
起動命令の例としては、物理的な電源スイッチを投入することや、スリープモードで待機中のスレーブモジュールへ起動を指示する信号を送信すること、またはマスターモジュールからの返信促進情報の受信などである。
【0062】
<実施形態1 スレーブモジュール スレーブID保持部(BB)(0112)>
スレーブモジュールのスレーブID保持部(BB)(0112)は、自身を一意に特定するスレーブIDを保持するように構成される。
【0063】
一のマスターモジュールに接続されたスレーブモジュール個々に別個のスレーブIDが割り振られ保持されている。一のマスターモジュールと接続され通信可能なスレーブモジュールは、接続されているシリアル通信経路(シリアルバス)上のマスターモジュールの機器管理番号1及び他のスレーブモジュールのスレーブIDと重複しない番号であるスレーブIDをもつ。マスターモジュールがスレーブIDをつけて通信を出力することで、スレーブIDに対応するスレーブモジュールだけが受信した通信に対し応答する。スレーブIDと関連付けて測定結果をマスターモジュールへ送信することにより、マスターモジュールはスレーブモジュールごとに区別して、測定結果を受信、管理できる。
【0064】
スレーブモジュールのIDは、通信によって外部機器から設定することがあってもよいが、スレーブモジュールを直接的に手で触って手作業で設定できるように構成することもできる。スレーブモジュールのIDは非常に重要な情報だからである。また設定の際には他のスレーブモジュールとの関係で矛盾が生じないように、既設定IDとコンフリクトする場合には、設定できないようにするか、警告を出力するように構成することが好ましい。また、一旦設定後は、運転中に変更できないように構成することが好ましい。例えば、運転中(物理量制御処理中)のスレーブモジュールの筐体の状態では、IDの設定ボタン等に触れられないように構成するなどである。本発明のシステムが工場の製造現場の加工装置の制御などに使われる場合、ノイズの影響が大きいため、スレーブIDは電子的なメモリに書き込む構成(あらかじめ不揮発メモリに書き込むことや、起動後にRAMに書き込むなどの方法を用いる構成)よりも、機械的なダイヤルスイッチなどで設定する方式のほうが好ましい。
【0065】
<実施形態1 スレーブモジュール 時間長測定部(BC) (0113)>
スレーブモジュールの時間長測定部(BC) (0113)は、時間長を測定するように構成される。時間長の測定は、起動命令受付後開始されるように構成してもよいし、起動命令を受け付けて起動されることがスリープモードからの復帰を意味する場合はスリープモード中も時間長の測定が継続するように構成してもよい。
【0066】
<実施形態1 スレーブモジュール 物理量測定部(BD)(0114)>
スレーブモジュールの物理量測定部(BD)(0114)は、制御対象物の測定ポイントの物理量を測定するように構成される。
【0067】
制御対象物の物理量の例としては、上述のように温度や、圧力や紫外線照射量などである。なお、物理量測定部は自身が利用しているセンサーの寿命管理をするように構成されていることが好ましい。寿命管理は、センサーを新規に取り付けた時からのセンサーの使用時間長によって管理することもできるし、センサーの電圧や電流の経時履歴(変化速度、変化加速度)に基づいて管理することもできる。この情報は、定期的にマスターモジュールに報告するか、交換目安時期の所定期間前に報告するように構成することもできる。また、スレーブモジュールはセンサーの自動校正機能を有するように構成することもできる。センサーに対して基準物理量を与え、その基準物理量に基づいて自身が保持している校正情報を更新するように構成することもできる。前記寿命管理には故障判断も含む。物理量の一例である温度測定用の熱電対の配線断線などを故障として検知できるように構成することが好ましい。
【0068】
<実施形態1 スレーブモジュール 物理量制御情報出力部(BE)(0115)>
スレーブモジュールの物理量制御情報出力部(BE)(0115)は、制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力するように構成される。
【0069】
物理量制御情報の例としては、温度を制御するためのヒータへの電流量、圧力を制御するために加圧用バルブ開度、紫外線ランプ輝度をあげるための電流量などがあり、物理量としては温度以外にも、圧力、流量(液体、気体、粉体など)、電圧、電流、磁束、磁界、電荷、電界、電気容量、電子線の加速電圧、光の照射量、紫外線照射量、放射線照射量、水溶液の濃度、波長、周波数(又は振動数)などがある。
【0070】
スレーブモジュールにヒータや紫外線ランプ等物理量制御のための電流源などが直接備わっていない場合、上述のようにスレーブモジュールへ接続されたサイリスタレギュレータやソリッドステートリレーや電磁リレーやフォトカプラなどを操作するための電流や電圧またはパルス信号を出力することにより、サイリスタレギュレータやソリッドステートリレーや電磁リレーやフォトカプラなどを介して電流や電圧、電磁弁やシャッタの開閉など物理量制御を行うように構成できる。
【0071】
<実施形態1 スレーブモジュール 返信促進情報受信部(BF)(0116)>
スレーブモジュールの返信促進情報受信部(BF)(0116)は、マスターモジュールからの返信促進情報を受信するように構成される。
【0072】
マスターモジュールが自機に連携できるスレーブモジュールを検索する際に出力する信号を受信する。マスターモジュールからの通信中のスレーブIDに該当するスレーブモジュールのみが受信した通信に応答し、他機は通信を受信するが応答しない。
【0073】
<実施形態1 スレーブモジュール 返信出力部(BG)(0117)>
スレーブモジュールの返信出力部(BG)(0117)は、返信促進情報を受信した場合に自身が担当する制御対象物の測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブIDと、を含む返信を出力するように構成される。
【0074】
スレーブモジュールが、マスターモジュールからの通信を受信した際には、自機のスレーブIDと、自機の制御対象物の物理量の測定結果を含む応答として返信するように構成することができる。物理量の制御に用いる物理量制御情報を応答に含めるようにも構成できる。制御開始後は、マスターモジュールからスレーブモジュール間の通信のほとんどが、スレーブモジュールの物理量測定結果の取得となるだろうからである。測定結果要求命令を特に入れずとも、各スレーブモジュールに送信すれば、各スレーブモジュールからの応答として、測定結果を受信することができる。
【0075】
返信出力部(BG)は、マスターモジュールから受信した返信促進情報に対する応答としての返信のみならず、マスターモジュールとのその他のあらゆる通信に利用されるように構成することもできる。起動後最初の返信促進情報に対する応答へ含める物理量の測定結果は、物理量の測定をまだ始めていなかった場合には測定結果をNULLとしてもよいし、所定の初期値などを測定結果として返信してもよい。測定を開始していた場合には測定結果を返信してもよい。ただし、応答返信時にスレーブモジュールの担当するポイントの物理量の測定が開始されているかが不明なため、マスターモジュールは受信したスレーブモジュールからの応答(起動後最初の返信促進情報に対する返信)に含まれる物理量の測定結果は破棄するようにしたほうがよい。
【0076】
<実施形態1 スレーブモジュール 制御目標情報受信部(BH)(0118)>
スレーブモジュールの制御目標情報受信部(BH)(0118)は、制御目標情報を受信するように構成される。
【0077】
制御目標情報はスレーブIDをつけて、マスターモジュールから各スレーブモジュールに対し送信する。制御目標情報がスレーブモジュールごとに異なる場合にはスレーブIDをつけて送信することにより、該当するスレーブモジュールが応答する。スレーブIDが自身のIDと合致する場合には、その信号を有意味情報として取得し、その処理を実行するが、合致しない場合には受信してもその信号を有意味情報として処理せずに応答しないように構成する。
【0078】
<実施形態1 スレーブモジュール 制御目標情報保持部(BJ)(0119)>
スレーブモジュールの制御目標情報保持部(BJ)(0119)は、前記制御目標情報を保持するように構成される。
【0079】
受信した制御目標情報を保持し、制御対象物の物理量を制御するにあたり適宜参照し、物理量制御情報を決める。各スレーブモジュールが管理する制御対象物の各ポイントの物理量を測定手段にばらつきがある場合、または物理量制御手段にばらつきがある場合に、各スレーブモジュールに対し後記する実施形態のように同一の制御目標情報が出力されるのであれば、上述のように制御目標情報を補正するように構成してもよい。
【0080】
<実施形態1 スレーブモジュール 経過時間長判断部(BK) (0120)>
スレーブモジュールの経過時間長判断部(BK) (0120)は、起動後、所定のイベントから時間長測定部(BC)によって測定された経過時間長が所定の時間長になったか判断するように構成される。
【0081】
なお、所定の時間長の所定は二通りの意味で解釈されうる。一つは、時間長が絶対的な基準となる場合、二つ目は、所定の時間長経過することによって所定の時刻となる場合である。両者いずれを採用してもよい。所定のイベントの例は、後記するマスターモジュールが出力した制御目標情報の受信や、起動命令受付や、最初の返信出力、物理量測定開始などである。
【0082】
<実施形態1 スレーブモジュール 出力命令部(BM)(0121)>
スレーブモジュールの出力命令部(BM)(0121)は、経過時間長判断ステップでの判断結果が所定の時間長経過したとの判断結果である場合に起動後最初の物理量制御情報を物理量制御情報出力部(BE)に出力させるように構成される。
【0083】
所定の時間長経過したと判断された場合に、制御対象物の物理量制御を開始させる。例としては、加熱工程において、制御目標情報(目標設定値)をマスターモジュールから受信してから、所定の時間(例100ms)経過後、物理量制御情報出力部(BE)から自身に接続されたサイリスタレギュレータ等にヒータの出力調整させる信号(直流電流など)を出力するようにさせることである。所定の時間経過を判断するための所定のイベントは上述のように自機宛の制御目標情報の受信に限らず、起動命令受付(電源投入)や、最初の返信出力、物理量測定開始等でもよく、これらの例に限定されない。
【0084】
<実施形態1 スレーブモジュール(0110)>
スレーブモジュール(0110)は、自機の管理下にある制御対象物から物理量の測定結果を、マスターモジュールからの通信に対する応答として出力し、マスターモジュールからの制御目標情報を受信して、制御目標情報に基づいて制御対象物へ物理量制御情報を出力するように構成される。
【0085】
スレーブモジュールには、
図9に示すように、複数の温度計(物理量の測定)と、複数のヒータ(物理量の制御)がつけられており、スレーブモジュール間と、スレーブモジュールとマスターモジュール間はModbus RTUプロトコルのRS-485規格のシリアル通信経路(シリアルバス)接続されている。
【0086】
<実施形態1 処理の流れ>
図2に、実施形態1の複数ポイント物理量制御システムの処理の流れを示す。左側の部分がコンピュータ(計算機)であるマスターモジュールでの処理の流れを示し、右側がコンピュータ(計算機)であるスレーブモジュールでの処理の流れを示す。マスターモジュールとスレーブモジュール間の通信は
図2ではModbus RTUプロトコルのRS-485規格のシリアル通信経路(シリアルバス)を使用することを想定している。
【0087】
コンピュータ(計算機)であるマスターモジュールの動作方法は、
起動命令受付ステップ(aa)(SA0201)は、マスターモジュールを起動する起動命令を受け付ける処理を行い、
返信促進情報出力ステップ(ab)(SA0202)は、起動命令を受付けた場合に、自身と連携するスレーブモジュールを確定するためにスレーブモジュールとの通信線にスレーブモジュールからの返信を促すための情報である返信促進情報を出力する処理を行い、
返信受信ステップ(ac)(SA0203)は、返信促進情報に対するスレーブモジュールからの返信であって、各スレーブモジュールが担当する制御対象物の物理量測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブモジュールを一意に特定するスレーブIDと、を含む返信を受信する処理を行い
制御目標情報出力ステップ(ad)(SA0204)は、受信した返信に含まれる前記測定結果に基づいて各スレーブモジュールに対して物理量制御目標を定めるための情報である制御目標情報を出力する処理を行う。
【0088】
コンピュータ(計算機)である各スレーブモジュールの動作方法は、
起動命令受付ステップ(ba)(SB0201)は、スレーブモジュールを起動する起動命令を受け付ける処理を行い
スレーブID保持ステップ(bb)(SB0202)は、自身を一意に特定するスレーブIDを保持する処理を行い、
時間長測定ステップ(bc)(SB0203)は、時間長を測定する処理を行い、
物理量測定ステップ(bd)(SB0204)は、制御対象物の測定ポイントの物理量を測定する処理を行い、
返信促進情報受信ステップ(bf)(SB0205)は、マスターモジュールの返信促進情報出力ステップ(ab)(SA0202)から出力された返信促進情報を受信する処理を行い、
返信出力ステップ(bg)(SB0206)は、自機宛の返信促進情報を受信した場合に自身が担当する制御対象物の測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブIDと、を含む返信をマスターモジュールの返信受信ステップ(ac)(SA0203)へ出力するための処理を行い、
制御目標情報受信ステップ(bh)(SB0207)は、マスターモジュールの制御目標情報出力ステップ(ad)(SA0204)から出力された制御目標情報を受信する処理を行い、
制御目標情報保持ステップ(bj)(SB0208)は、自機宛の前記制御目標情報を保持する処理を行い、
経過時間長判断ステップ(bk)(SB0209)は、起動後、所定のイベントから時間長測定ステップ(bc)(SB0203)によって測定された経過時間長が所定の時間長になったか判断する処理を行い、
出力命令ステップ(bm)(SB0210)は、経過時間長判断ステップでの判断結果が所定の時間長経過したとの判断結果である場合に起動後最初の物理量制御情報を物理量制御情報出力ステップ(be)(SB0211)に出力させる処理を行い、
物理量制御情報出力ステップ(be)(SB0211)は、制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力する処理を行う。
このような一連の処理をコンピュータ(計算機)である複数ポイント物理量制御システムに実行させる動作方法である。
【0089】
<実施形態1 ハードウェア>
【0090】
図3は、本実施形態の複数ポイント物理量制御システムのマスターモジュールのハードウェア構成の一例を示す概念図である。
図3に示すように、CPU(0301)と、不揮発性メモリ(0302)(例えば、ROM、SSDなど)と、主メモリ(0303)と、制御用PCや記録計などとの接続のためのイーサネット通信I/F(0304)(
図3中では、インターフェースをI/Fと略記)と、制御モジュールなどとの接続のための汎用のシリアル通信インターフェースI/F1(0305)と、ユーザI/F(0306)と、内部バス(0310)との通信I/F(0311)をコントロールするバスコントローラ(0309)と、内部バス伝送時にDMA方式(メモリとのデータ転送時にCPUを介さず転送する方法)を行うためのコントローラDMAC(0308)と、を備え、それらの間で信号の授受等を行うためのシステムバス(0307)を備える。CPUはカスタマイズされた専用CPUを使い、OS(オペレーティングシステム)の代わりに専用のファームウェアを使用することもできる。また複数コアのCPU又は/及び十分なキャッシュメモリを持つシステムであれば、メモリ不足による動作遅延を防止しやすいため、好ましい。
【0091】
不揮発性メモリには、OS(オペレーティングシステム)とデバイスドライバのほかに、
マスターモジュールを起動する起動命令を受け付ける起動命令受付プログラムと、
起動命令を受付けた場合に、自身と連携するスレーブモジュールを確定するためにスレーブモジュールとの通信線にスレーブモジュールからの返信を促すための情報である返信促進情報を出力する返信促進情報出力プログラムと、
返信促進情報に対するスレーブモジュールからの返信であって、各スレーブモジュールが担当する制御対象物の物理量測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブモジュールを一意に特定するスレーブIDと、を含む返信を受信する返信受信プログラムと、
受信した返信に含まれる前記測定結果に基づいて各スレーブモジュールに対して物理量制御目標を定めるための情報である制御目標情報を出力する制御目標情報出力プログラムなどの各種プログラムや特定ポート番号が記録されている。そして、各プログラムを展開及び実行しインターフェースを介して取得した情報やデータを不揮発性メモリに格納し、格納された情報やデータを主メモリのワーク領域にてプログラムの実行による加工などを行い、不揮発性メモリに保持し、又はイーサネット通信インターフェース又はシリアル通信インターフェースを介してプログラムの実行により上位制御機器へ出力する。
【0092】
図4は、本実施形態の複数ポイント物理量制御システムの各スレーブモジュールのハードウェア構成の一例を示す概念図である。
図4に示すように、CPU(0401)と、不揮発性メモリ(0402)(例えば、ROM、SSDなど)と、主メモリ(0403)と、制御モジュールなどとの接続のための汎用のシリアル通信インターフェースI/F1(0404)と、ユーザI/F(0405)と、内部バス(0409)との通信I/F(0410)をコントロールするバスコントローラ(0408)と、内部バス伝送時にDMA方式(メモリとのデータ転送時にCPUを介さず転送する方法)を行うためのコントローラDMAC(0407)と、物理量測定結果入力(0412)と物理量制御情報出力(0413)のインターフェースである制御系I/F(0411)と、を備え、それらの間で信号の授受等を行うためのシステムバス(0406)を備える。CPUはカスタマイズされた専用CPUを使い、OS(オペレーティングシステム)の代わりに専用のファームウェアを使用することもできる。また複数コアのCPU又は/及び十分なキャッシュメモリを持つシステムであれば、メモリ不足による動作遅延を防止しやすいため、好ましい。
【0093】
不揮発性メモリには、OS(オペレーティングシステム)とデバイスドライバのほかに、
スレーブモジュールを起動する起動命令を受け付ける起動命令受付プログラムと、自身を一意に特定するスレーブIDを保持するスレーブID保持プログラムと、時間長を測定する時間長測定プログラムと、制御対象物の測定ポイントの物理量を測定する物理量測定プログラムと、制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力する物理量制御情報出力プログラムと、マスターモジュールからの返信促進情報を受信するための返信促進情報受信プログラムと、自機宛の返信促進情報を受信した場合に自身が担当する制御対象物の測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブIDと、を含む返信を出力する返信出力プログラムと、制御目標情報を受信する制御目標情報受信プログラムと、自機宛の前記制御目標情報を保持する制御目標情報保持プログラムと、起動後、所定のイベントから時間長測定ステップによって測定された経過時間長が所定の時間長になったか判断する経過時間長判断プログラムと、経過時間長判断ステップでの判断結果が所定の時間長経過したとの判断結果である場合に起動後最初の物理量制御情報を物理量制御情報出力プログラムに出力させる出力命令プログラムなどの各種プログラムや特定ポート番号が記録されている。そして、各プログラムを展開及び実行しインターフェースを介して取得した情報やデータを不揮発性メモリに格納し、格納された情報やデータを主メモリのワーク領域にてプログラムの実行による加工などを行い、不揮発性メモリに保持し、又はシリアル通信インターフェースを介してプログラムの実行によりマスターモジュールへ応答を出力する。
<実施形態1 効果>
【0094】
本実施形態の複数ポイント物理量制御システムによれば、スレーブモジュールの管理下にある制御対象物の物理量に基づいて制御目標情報をマスターモジュールが設定することができるため、物理量の制御を開始するまでの時間管理を効率的に行うことができる。
マスターモジュールが制御目標情報をスレーブモジュールへ出力した後、スレーブモジュールが所定時間待ってから制御を開始する。所定の時間は、例えば全スレーブモジュールに制御目標情報が出力完了するのに十分な時間であり、各スレーブモジュールが制御目標情報を受信後に制御開始することができる。
【0095】
<実施形態2>主に請求項2:スレーブモジュールへ出力する制御目標情報が同一
<実施形態2 概要>
【0096】
実施形態2は実施形態1を基礎として、マスターモジュールがスレーブモジュールへ出力する制御目標情報が、すべてのスレーブモジュールに対して同一であるように構成されている。
【0097】
<実施形態2 機能的構成>
実施形態1を基礎とした実施形態2の機能的構成は、
図1に示す実施形態1の構成と同様である。
【0098】
<実施形態2 マスターモジュール 制御目標情報出力部(AD)>
マスターモジュールの制御目標情報出力部(AD)は、各スレーブモジュールへすべて同一の制御目標情報を出力するように構成される。すべての制御ポイントの物理量が物理量制御情報を基に、一の制御目標に対して制御可能な範囲にある場合には、各スレーブモジュールへ同一の制御目標情報を出力することができる。
【0099】
マスターモジュールが同じ制御目標を全スレーブモジュールに出力する場合には、各スレーブモジュールの制御目標情報保持部に、制御目標情報を各スレーブモジュールの担当する物理量測定手段や物理量制御手段の補正情報に基づいて補正するための情報である制御目標情報補正情報を保持する制御目標情報補正情報保持手段と、前記制御目標補正情報に基づいてマスターモジュールから出力された制御目標情報を補正する制御目標情報補正手段とを備えると、各スレーブモジュールが管理する物理量測定器や、物理量制御手段のばらつきなどを補正するために、制御目標情報を補正することができる。
【0100】
<実施形態2 処理の流れ>
実施形態1を基礎とする実施形態2の処理の流れは、
図2に示す実施形態1の処理の流れとほぼ同様である。
コンピュータ(計算機)であるマスターモジュール動作方法において、制御目標情報出力ステップ(ad)(SA0204)が、受信した返信に含まれる前記測定結果に基づいて各スレーブモジュールに対して物理量制御目標を定めるための情報である制御目標情報として同一の制御目標情報を出力する処理を行う、ことが異なる。
【0101】
<実施形態2 ハードウェア構成>
実施形態1を基礎とする実施形態2のハードウェア構成は、マスターモジュール、スレーブモジュール共に、
図3、
図4に示す実施形態1のハードウェアと同様である。
【0102】
<実施形態2 効果>
マスターモジュールが全スレーブモジュールへ同一の制御目標情報を送信する場合、マスターモジュールが各スレーブモジュールの担当ポイントの物理量や物理量制御情報の補正を行い、各スレーブモジュール(又はスレーブモジュールの担当するポイントごと)に異なる制御目標情報を出力しなくて済む。スレーブモジュールごとに自機の担当ポイントの補正情報を持ち、制御目標情報を補正する構成とすれば、マスターモジュールは各スレーブモジュール又は各スレーブモジュールが担当するポイントのばらつきの補正をスレーブモジュールへ委託できる。
【0103】
<実施形態3>主に請求項3:所定のイベントが制御目標情報受信
<実施形態3 概要>
【0104】
実施形態3は、実施形態1または実施形態2のいずれかを基礎として、スレーブモジュールが経過時間長を判断するにあたり、計時の起点となる前記所定のイベントが、各スレーブモジュールがマスターモジュールから自身宛の制御目標情報の受信であるように構成されている。
【0105】
<実施形態3 機能的構成>
実施形態3の機能的構成を、実施形態1を基礎として説明する。機能的構成は実施形態1と同様である。なお本実施形態3に関し、機能的構成、処理の流れ、ハードウェア構成共に、実施形態2を基礎としても同様の効果が得られる。
【0106】
<実施形態3 スレーブモジュール 経過時間長判断部(BK)>
経過時間長判断部(BK)が起動後、時間長測定部(BC)によって測定された経過時間長が所定の時間長になったか判断するための計時の起点である所定のイベントが、各スレーブモジュールがマスターモジュールから自身宛の制御目標情報の受信であるように構成されている。
【0107】
所定の時間長として、マスターモジュールに接続され制御目標情報を受ける対象である各スレーブモジュールへ、マスターモジュールからひとつずつ制御目標情報を出力するために通常要する時間を最小時間長とするのがよい。より好ましくは前記通常要する時間の2倍程度である。通常要する時間とは、ノイズ等による通信障害などでマスターモジュールからの出力が失敗し、出力し直すことが一度も起きなかった場合に全スレーブモジュールへ出力するための時間である。全スレーブモジュールに対し通信異常が起こる可能性は非常に低いと考えられえるため、通常要する時間の2倍(全スレーブモジュールへ2回ずつ出力する時間に相当)を所定の時間とすれば十分と考えられる。
【0108】
<実施形態3 処理の流れ>
実施形態3の処理の流れを、実施形態1を基礎として説明する。処理の流れにおける各ステップは実施形態1とほぼ同様であるが、
図2に示される実施形態1の処理の流れにおいて、コンピュータ(計算機)であるスレーブモジュール動作方法において、経過時間長判断ステップ(bk)(SB0209)の処理のみ、以下のように行われる。
経過時間長判断ステップ(bk)(SB0209)は、起動後、マスターモジュールから各スレーブモジュール宛の制御目標情報を受信(=所定のタイミング)してから時間長測定ステップ(bc)(SB0203)によって測定された経過時間長が所定の時間長になったか判断する処理を行う。
【0109】
<実施形態3 ハードウェア構成>
実施形態3のハードウェア構成は、
図3、
図4に示される実施形態1のマスターモジュール、スレーブモジュールと同様である。
【0110】
<実施形態3 効果>
全スレーブモジュールが自機への制御目標情報を受信した後に、所定の時間以内の範囲の時間のずれで、各スレーブモジュールが制御対象物の物理量制御を開始できる。
【0111】
<実施形態4>主に請求項4:マスターモジュールも物理量測定ポイントを担当する
<実施形態4 概要>
【0112】
実施形態4は、実施形態1から実施形態3のいずれか一を基礎として、マスターモジュールと、これと連携し、制御対象物の物理量制御器である一以上のスレーブモジュールと、からなる複数ポイント物理量制御システムであり、スレーブモジュールだけではなく、マスターモジュールも制御対象物の物理量測定ポイントを担当するように構成される。
<実施形態4 機能的構成>
【0113】
図5は、実施形態1を基礎とした本実施形態4の複数ポイント物理量制御システムの機能的構成一例を示すブロック図である。
図5に示すように、本発明の複数ポイント物理量制御システムは、マスターモジュール(0501)が、起動命令受付部(AA)(0502)と、返信促進情報出力部(AB)(0503)と、返信受信部(AC)(0504)と、制御目標情報出力部(AD)(0505)と、から構成され、さらに物理量測定部(AE)(0506)と、物理量制御情報出力部(AF)(0507)とを有し、
スレーブモジュール(0510)が、起動命令受付部(BA)(0511)と、スレーブID保持部(BB)(0512)と、時間長測定部(BC) (0513)と、物理量測定部(BD)(0514)と、物理量制御情報出力部(BE)(0515)と、返信促進情報受信部(BF)(0516)と、返信出力部(BG)(0517)と、制御目標情報受信部(BH)(0518)と、制御目標情報保持部(BJ)(0519)と、経過時間長判断部(BK) (0520)と、出力命令部(BM)(0521)と、から構成される。マスターモジュールの物理量測定部(AE)(0506)と、物理量制御情報出力部(AF)(0507)以外は、上記他の実施形態と同様のため、以下、マスターモジュールの物理量測定部(AE)(0506)と、物理量制御情報出力部(AF)(0507)のみ説明する。なお、実施形態2又は実施形態3のいずれか一を基礎としても同様の効果が得られる。
【0114】
<実施形態4 マスターモジュール 物理量測定部(AE)(0506)>
マスターモジュールの物理量測定部(AE)(0506)は、制御対象物の測定ポイントの物理量を測定するように構成される。
【0115】
図10に示す加熱加工の例を用いて、本実施形態の一例を説明する。マスターモジュール(1002)にも、制御対象物である加工部材(1008)の物理量測定のための温度計(1007)が4系統接続され、物理量の制御のためヒータ(1006)が4系統接続されている。マスターモジュールが担当する物理量測定ポイントでの測定結果も、スレーブモジュールからの測定結果と合わせて、制御目標情報を決定する。なお、物理量(温度)測定の接続数、物理量制御のための接続数は、
図10の例には限定されない。
【0116】
<実施形態4 マスターモジュール 物理量制御情報出力部(AF)(0507)>
マスターモジュールの物理量制御情報出力部(AF)(0507)は、制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力するように構成される。
【0117】
<実施形態4 処理の流れ>
図6に、実施形態1を基礎とした本実施形態4の複数ポイント物理量制御システムの処理の流れを示す。実施形態2又は3を基礎としても同様の効果が得られる。左側の部分がコンピュータ(計算機)であるマスターモジュールでの処理の流れを示し、右側がコンピュータ(計算機)であるスレーブモジュールでの処理の流れを示す。マスターモジュールとスレーブモジュール間の通信は
図6では、Modbus RTUプロトコルのRS-485規格のシリアル通信経路(シリアルバス)を使用することを想定している。
【0118】
コンピュータ(計算機)であるマスターモジュールの動作方法は、
起動命令受付ステップ(aa)(SA0601)は、マスターモジュールを起動する起動命令を受け付ける処理を行い、
物理量測定ステップ(ae)(SA0602)は、制御対象物の測定ポイントの物理量を測定する処理を行い、
返信促進情報出力ステップ(ab)(SA0603)は、起動命令を受付けた場合に、自身と連携するスレーブモジュールを確定するためにスレーブモジュールとの通信線にスレーブモジュールからの返信を促すための情報である返信促進情報を出力する処理を行い、
返信受信ステップ(ac)(SA0604)は、返信促進情報に対するスレーブモジュールからの返信であって、各スレーブモジュールが担当する制御対象物の物理量測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブを一意に特定するスレーブIDと、を含む返信を受信する処理を行い
制御目標情報出力ステップ(ad)(SA0605)は、受信した返信に含まれる前記測定結果に基づいて各スレーブモジュールに対して物理量制御目標を定めるための情報である制御目標情報を出力する処理を行い、
物理量制御情報出力ステップ(af)(SA0606)は、制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力する処理を行う。
【0119】
コンピュータ(計算機)である各スレーブモジュールの動作方法は、
起動命令受付ステップ(ba)(SB0601)は、スレーブモジュールを起動する起動命令を受け付ける処理を行い
スレーブID保持ステップ(bb)(SB0602)は、自身を一意に特定するスレーブIDを保持する処理を行い、
時間長測定ステップ(bc)(SB0603)は、時間長を測定する処理を行い、
物理量測定ステップ(bd)(SB0604)は、制御対象物の測定ポイントの物理量を測定する処理を行い、
返信促進情報受信ステップ(bf)(SB0605)は、マスターモジュールの返信促進情報出力ステップ(ab)(SA0603)から出力された返信促進情報を受信する処理を行い、
返信出力ステップ(bg)(SB0606)は、自機宛の返信促進情報を受信した場合に自身が担当する制御対象物の測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブIDと、を含む返信をマスターモジュールの返信受信ステップ(ac)(SA0604)へ出力するための処理を行い、
制御目標情報受信ステップ(bh)(SB0607)は、マスターモジュールの制御目標情報出力ステップ(ad)(SA0605)から出力された制御目標情報を受信する処理を行い、
制御目標情報保持ステップ(bj)(SB0608)は、自機宛の前記制御目標情報を保持する処理を行い、
経過時間長判断ステップ(bk)(SB0609)は、起動後、所定のイベントから時間長測定ステップ(bc)(SB0603)によって測定された経過時間長が所定の時間長になったか判断する処理を行い、
出力命令ステップ(bm)(SB0610)は、経過時間長判断ステップでの判断結果が所定の時間長経過したとの判断結果である場合に起動後最初の物理量制御情報を物理量制御情報出力ステップ(be)(SB0611)に出力させる処理を行い、
物理量制御情報出力ステップ(be)(SB0611)は、制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力する処理を行う。
このような一連の処理をコンピュータ(計算機)である複数ポイント物理量制御システムに実行させる動作方法である。
【0120】
<実施形態4 ハードウェア>
【0121】
図7は、本実施形態の複数ポイント物理量制御システムのマスターモジュールのハードウェア構成の一例を示す概念図である。
図7に示すように、CPU(0701)と、不揮発性メモリ(0702)(例えば、ROM、SSDなど)と、主メモリ(0703)と、制御用PCや記録計などとの接続のためのイーサネット通信I/F(0704)(
図3中では、インターフェースをI/Fと略記)と、制御モジュールなどとの接続のための汎用のシリアル通信インターフェースI/F1(0705)と、ユーザI/F(0706)と、内部バス(0710)との通信I/F(0711)をコントロールするバスコントローラ(0709)と、内部バス伝送時にDMA方式(メモリとのデータ転送時にCPUを介さず転送する方法)を行うためのコントローラDMAC(0708)と、物理量測定結果入力(0713)と物理量制御情報出力(0714)のインターフェースである制御系I/F(0712)とを備え、それらの間で信号の授受等を行うためのシステムバス(0707)を備える。CPUはカスタマイズされた専用CPUを使い、OS(オペレーティングシステム)の代わりに専用のファームウェアを使用することもできる。また複数コアのCPU又は/及び十分なキャッシュメモリを持つシステムであれば、メモリ不足による動作遅延を防止しやすいため、好ましい。
【0122】
不揮発性メモリには、OS(オペレーティングシステム)とデバイスドライバのほかに、
マスターモジュールを起動する起動命令を受け付ける起動命令受付プログラムと、
起動命令を受付けた場合に、自身と連携するスレーブモジュールを確定するためにスレーブモジュールとの通信線にスレーブモジュールからの返信を促すための情報である返信促進情報を出力する返信促進情報出力プログラムと、
返信促進情報に対するスレーブモジュールからの返信であって、各スレーブモジュールが担当する制御対象物の物理量測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブモジュールを一意に特定するスレーブIDと、を含む返信を受信する返信受信プログラムと、
受信した返信に含まれる前記測定結果に基づいて各スレーブモジュールに対して物理量制御目標を定めるための情報である制御目標情報を出力する制御目標情報出力プログラムと、さらに制御対象物の測定ポイントの物理量を測定する物理量測定プログラムと、制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力する物理量制御情報出力プログラムなどの各種プログラムや特定ポート番号が記録されている。そして、各プログラムを展開及び実行しインターフェースを介して取得した情報やデータを不揮発性メモリに格納し、格納された情報やデータを主メモリのワーク領域にてプログラムの実行による加工などを行い、不揮発性メモリに保持し、又はイーサネット通信インターフェース又はシリアル通信インターフェースを介してプログラムの実行により上位制御機器からの問い合わせに対応する。
【0123】
図8は、本実施形態4の複数ポイント物理量制御システムの各スレーブモジュールのハードウェア構成の一例を示す概念図である。
図8に示すように、CPU(0801)と、不揮発性メモリ(0802)(例えば、ROM、SSDなど)と、主メモリ(0803)と、制御モジュールなどとの接続のための汎用のシリアル通信インターフェースI/F1(0804)と、ユーザI/F(0805)と、内部バス(0809)との通信I/F(0810)をコントロールするバスコントローラ(0808)と、内部バス伝送時にDMA方式(メモリとのデータ転送時にCPUを介さず転送する方法)を行うためのコントローラDMAC(0807)と、物理量測定結果入力(0812)と物理量制御情報出力(0813)のインターフェースである制御系I/F(0811)と、を備え、それらの間で信号の授受等を行うためのシステムバス(0806)を備える。CPUはカスタマイズされた専用CPUを使い、OS(オペレーティングシステム)の代わりに専用のファームウェアを使用することもできる。また複数コアのCPU又は/及び十分なキャッシュメモリを持つシステムであれば、メモリ不足による動作遅延を防止しやすいため、好ましい。
【0124】
不揮発性メモリには、OS(オペレーティングシステム)とデバイスドライバのほかに、
スレーブモジュールを起動する起動命令を受け付ける起動命令受付プログラムと、自身を一意に特定するスレーブIDを保持するスレーブID保持プログラムと、時間長を測定する時間長測定プログラムと、制御対象物の測定ポイントの物理量を測定する物理量測定プログラムと、制御目標情報に基づいて制御対象物の物理量を制御するための情報である物理量制御情報(例えば加熱するための電流量等を決定する情報)を出力する物理量制御情報出力プログラムと、マスターモジュールからの返信促進情報を受信するための返信促進情報受信プログラムと、自機宛の返信促進情報を受信した場合に自身が担当する制御対象物の測定ポイントにおける物理量の測定結果と、スレーブIDと、を含む返信を出力する返信出力プログラムと、制御目標情報を受信する制御目標情報受信プログラムと、自機宛の前記制御目標情報を保持する制御目標情報保持プログラムと、起動後、所定のイベントから時間長測定ステップによって測定された経過時間長が所定の時間長になったか判断する経過時間長判断プログラムと、経過時間長判断ステップでの判断結果が所定の時間長経過したとの判断結果である場合に起動後最初の物理量制御情報を物理量制御情報出力プログラムに出力させる出力命令プログラムなどの各種プログラムや特定ポート番号が記録されている。そして、各プログラムを展開及び実行しインターフェースを介して取得した情報やデータを不揮発性メモリに格納し、格納された情報やデータを主メモリのワーク領域にてプログラムの実行による加工などを行い、不揮発性メモリに保持し、又はシリアル通信インターフェースを介してプログラムの実行によりマスターモジュールへ応答を出力する。
<実施形態4 効果>
【0125】
本実施形態4の複数ポイント物理量制御システムによれば、マスターモジュール自身が制御対象物を制御する場合に、マスターモジュールの制御対象物の物理量も、制御目標情報を設定する際のデータとすることができる。同じスレーブモジュールの台数を使用してもより多くの点の制御対象物を制御することができる。