(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165531
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】加速度センサ及び加速度センサ装置
(51)【国際特許分類】
G01P 15/08 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
G01P15/08 101A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070904
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 貴志
(72)【発明者】
【氏名】太田 則一
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 基弘
(57)【要約】
【課題】梁部の共振周波数の変化を大きくすることができる技術を提供する。
【解決手段】加速度センサは、基板と、前記基板に取り付けられている質量部と、前記質量部を前記基板に対して特定方向に移動可能に支持するばね部と、前記特定方向に延びており、前記質量部と前記基板とに連結される梁部であって、前記特定方向に対して曲がっており、前記質量部の移動に従って変形する変形部分を有する前記梁部と、前記梁部を励振させる励振電極と、前記梁部の周波数を検出する検出電極と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に取り付けられている質量部と、
前記質量部を前記基板に対して特定方向に移動可能に支持するばね部と、
前記特定方向に延びており、前記質量部と前記基板とに連結される梁部であって、前記特定方向に対して曲がっており、前記質量部の移動に従って変形する変形部分を有する前記梁部と、
前記梁部を励振させる励振電極と、
前記梁部の周波数を検出する検出電極と、を備える加速度センサ。
【請求項2】
前記変形部分は、前記梁部の両端を結ぶ直線に対して、最大で前記梁部の幅の5~10倍だけ離間するように湾曲している、請求項1に記載の加速度センサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の加速度センサと、
励振電極と検出電極とを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、変形部分を共振状態に維持するフィードバック制御を実行して、前記共振状態おける周波数を検出する、加速度センサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、加速度センサ及び加速度センサを備える加速度センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、加速度を計測するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)装置が開示されている。MEMS装置は、マス部と、マス部を支持するばね部と、直線状の梁部と、を備える。梁部は、ばね部に連結されている。マス部に加速度による慣性力が加わると、ばね部が変形することによって、マス部が移動する。梁部は、ばね部の変形によって伸縮する。これにより、梁部の共振周波数が変化する。MEMS装置では、梁部の共振周波数の変化を検出することによって、加速度が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
直線状の梁部の伸縮による共振周波数の変化はそれほど大きくない。このため、高精度の加速度検出が難しい場合がある。
【0005】
本明細書は、梁部の共振周波数の変化を大きくすることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で開示される加速度センサは、基板と、前記基板に取り付けられている質量部と、前記質量部を前記基板に対して特定方向に移動可能に支持するばね部と、前記特定方向に延びており、前記質量部と前記基板とに連結される梁部であって、前記特定方向に対して曲がっており、前記質量部の移動に従って変形する変形部分を有する前記梁部と、前記梁部を励振させる励振電極と、前記梁部の周波数を検出する検出電極と、を備える。
【0007】
梁部は、質量部が加速度による慣性力によって特定方向に沿って移動すると、変形部分において、形状変化が生じる。この構成によると、直線状の梁部の伸縮による梁部の共振周波数の変化と比較して、変形部分の形状変化による梁部の共振周波数の変化を、大きくすることができる。これにより、比較的に高い精度で加速度を検出することができる。
【0008】
前記変形部分は、前記梁部の両端を結ぶ直線に対して、最大で前記梁部の幅の5~10倍だけ離間するように湾曲していてもよい。
【0009】
上記の数値範囲を採用することによって、共振周波数の変化を大きくすることができる。
【0010】
本明細書で開示される加速度センサ装置は、上記した加速度センサと、励振電極と検出電極とを制御する制御部と、を備えていてもよい。制御部は、変形部分を共振状態に維持するフィードバック制御を実行して、前記共振状態おける周波数を検出してもよい。
【0011】
この構成では、制御部は、フィードバック制御を実行することによって、変形部分の形状変化による共振周波数の変化に追従して、変形部分を共振周波数で振動させる共振状態に維持することができる。これにより、制御部は、共振状態に維持されている変形部分の共振周波数を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】加速度センサの構成を説明するための概要平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示すように、加速度センサ10は、加速度を計測するMEMS装置である。加速度センサ10は、例えば自動車に搭載されて、自動車の加速度等を検出するために用いられる。加速度センサ10は、基板12と、質量部14と、複数のばね部30、32、34、36と、励振電極16、26と、検出電極18、28と、梁部50、52と、を備える。加速度センサ10は、1枚のシリコン製の基板を加工することによって作製される。
図2では、説明のために、
図1で示す加速度センサ10の各部が模式的に表わされている。
【0014】
基板12は、平板形状を有する。基板12の中央部分には、質量部14が配置されている。質量部14は、外周縁の全周に亘って、基板12から隙間を置いて配置されている。質量部14は、複数のばね部30、32、34、36を介して基板12に連結されている。複数のばね部30、32、34、36のそれぞれは、基板12と質量部14との間の隙間に配置されている。複数のばね部30、32、34、36のそれぞれは、質量部14を、基板12に対して、x方向(紙面左右方向)に移動可能に支持する。複数のばね部30、32、34、36のそれぞれは、x方向に弾性的に伸縮可能な構造を有する。
【0015】
梁部50は、質量部14の左端縁からx方向に沿って延びている。基板12には、梁部50の延伸方向に沿った隙間が配置されている。梁部50は、基板12の隙間に配置されている。梁部50の右端は、基板12に連結されている。梁部50は、y方向に湾曲して配置されている。梁部50の左右両端は、y方向において互いに同じ位置に配置されている。梁部50の両端以外の部分は、基板12から離間している。このため、質量部14がx方向に移動されると、梁部50の湾曲部分の曲率が変形するように変形される。
【0016】
梁部52は、質量部14の右端縁からx方向に沿って延びている。梁部52と質量部14とが連結されている位置は、梁部50と質量部14とが連結されている位置からx方向に平行に伸びる直線上に位置する。基板12には、梁部52の延伸方向に沿った隙間が配置されている。梁部52は、基板12の隙間に配置されている。梁部52の左端は、基板12に連結されている。梁部52は、y方向に湾曲して配置されている。梁部52は、梁部50と反対側に突出するように湾曲している。梁部52の左右両端は、y方向において互いに同じ位置に配置されている。梁部52の両端以外の部分は、基板12から離間している。このため、質量部14がx方向に移動されると、梁部50と同様に、梁部52の曲率が変形するように変形される。
【0017】
梁部50は、中央位置において、励振電極16と、検出電極18と、で挟まれている。励振電極16は、梁部50の湾曲に沿った形状を有する。励振電極16は、梁部50に対向して配置されている。励振電極16は、パットを介して外部電源に接続されている。励振電極16は、外部電源から印加される電圧によって、梁部50を振動させる。梁部50の振動によって、検出電極18と梁部50とのy方向の距離が変動する。検出電極18と梁部50との距離の変動によって、検出電極18と梁部50との静電容量が変動する。
【0018】
図2に示すように、加速度センサ10は、加速度センサ装置2に含まれる。加速度センサ装置2は、加速度センサ10の他に、制御部100を備える。制御部100は、CPU及びメモリを有する。制御部100は、励振電極16、26と、検出電極18、28と、に図示省略した配線を介して接続されている。制御部100は、外部電源から供給される電力を用いて、励振電極16、26のそれぞれに、梁部50、52のそれぞれを振動させるための電圧を印加する。また、制御部100は、梁部50の振動による梁部50と検出電極18との静電容量の変化を検出して、梁部50の共振周波数を特定する。同様に、制御部100は、梁部52の振動による梁部52と検出電極28との静電容量の変化を検出して、梁部52の共振周波数を特定する。
【0019】
具体的には、加速度センサ10にx方向の加速度が加わると、質量部14に、加速度による慣性力が作用する。これにより、ばね部30、32、34、36が変形して、質量部14が基板12に対してx方向に移動する。この結果、梁部50、52のそれぞれは、曲率が変化するように変形される。これにより、梁部50、52のそれぞれの共振周波数が変動する。なお、梁部50、52では、質量部14の移動に応じて、全体的に変形する。このため、梁部50、52のそれぞれの全体が、変形部分ということができる。
【0020】
制御部100は、励振電極16に印加する電圧を変化させることによって、梁部50の振動の周波数を変化させる。制御部100に含まれるフィードバック回路では、梁部50が共振周波数で振動する共振状態で維持されるまで、取得される梁部50と検出電極18との静電容量を用いて、梁部50が共振状態となるまで励振電極16の電圧を変化させる。制御部100は、梁部50が共振状態で維持されると、梁部50と検出電極18との静電容量の変化に基づいて、梁部50の振動の共振周波数を特定する。
【0021】
制御部100は、同様に、梁部52の振動の共振周波数を特定する。制御部100は、梁部50、52の振動の共振周波数から、加速度を特定する。
【0022】
(加速度センサのシミュレーション結果)
図3、4を用いて、加速度センサ10のシミュレーション結果を説明する。
図4に示すように、加速度センサ10を模して、基板112にばね部130、132、134、136を介して質量部114が支持させるシミュレーションモデルを用いてシミュレーションが実行される。ばね部130、132、134、136は、質量部114がx方向に移動可能に支持している。質量部114の左端には、梁部152が連結されている。梁部152は、基板112まで延びている。
【0023】
図3に示すように、シミュレーションでは、梁部52の両端を結ぶ直線L1と梁部52が直線L1から最も離間している位置を通過する直線L3との距離Dyが互いに異なる複数種類の梁部52を模した形状の梁部152を用いて、シミュレーションが実行された。シミュレーションでは、梁部52の幅D1(即ちy方向の長さ)に対する距離Dy、即ちDy/D1が、0.0~10の範囲で、約0.2の間隔で変化させて、共振周波数の変化を特定した。なお、シミュレーションモデルでは、Dy=2.0μmであり、梁部152のx方向の長さが400μmであった。
【0024】
シミュレーションでは、
図4の矢印AR方向の加速度を想定して、Dy/D1の変化に対する梁部152に付与される応力1Pa当たりの梁部152の共振周波数変化が特定された。
図7では、横軸がDy/D1を示し、縦軸が応力1Pa当たりの梁部152の共振周波数変化を示す。シミュレーションでは、梁部152を、1次モードから10次モードまで10種類のモードのそれぞれで振動させて共振周波数変化を特定した。
図7では、振動のモードによって、線種が変更されている。
【0025】
シミュレーションの結果、Dy/D1の大きさによって、共振周波数変化が大きい振動モードが異なっている。また、Dy/D1=0.0、即ち、梁部152が湾曲しておらず、直線状である場合の梁部152に付与される応力1Pa当たりの梁部152の共振周波数変化と比較して、Dy/D1が0.1以上、即ち、少しでも梁部152が湾曲していれば、共振周波数が増加した。また、周波数変化は、Dy/D1=8.0前後で最も高く、Dy/D1が3.0~10であれば、梁部152が湾曲していない場合と比較して、梁部152に付与される応力1Pa当たりの梁部152の共振周波数変化が約105倍以上であった。また、Dy/D1が5.0~10あるいは0.6~10であることが好ましい。Dy/D1が5.0~10あるいは0.6~10である場合には、共振周波数変化が大きくなり、周波数検出の際の位相誤差の影響が低減される。これにより、高精度に加速度を検出することができる。
【0026】
(梁部の形状)
梁部50、52の形状は、上記の実施例の形状に限られず、x方向に対して曲がっていればよい。梁部50、52の形状は、例えば、
図3において、直線L1に対する梁部52の角度θが、θ=4atan(20W/L)であってもよい。なお、Wは梁部52の幅であり、Lは梁部52のx方向の長さである。また、直線L1と直線L3との中央に位置しており、直線L1、L3と平行な直線L2を仮定すると、直線L1と直線L3との間に含まれる梁部52の長さと、直線L2と直線L3との間に含まれる梁部52の長さと、の比が、3:7から7:3の間であればよい。即ち、具体的には、例えば、
図5に示すように、中央部に湾曲する変形部分252aと、両端部のx方向に平行な一対の直進部分252bと、を備える梁部252であってもよい。あるいは、
図6に示すように、中央で屈曲する角部を有しており、角部から直線状に延びる梁部352であってもよい。
【0027】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0028】
例えば、加速度センサ10は、梁部50、52のうちの1個の梁部のみを備えていてもよい。あるいは、加速度センサ10は、梁部50、52に加えて、1個以上の梁部をさらに備えていてもよい。
【0029】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0030】
1Pa :応力
2 :加速度センサ装置
10 :加速度センサ
12 :基板
14 :質量部
16、26:励振電極
18、28:検出電極
30、32、34、36:ばね部
50、52:梁部
100 :制御部