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特開2022-165557小児白血病に対する薬剤の有効性の判定を補助する方法、小児白血病に対する薬剤投与後の予後の判定を補助する方法及びキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165557
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】小児白血病に対する薬剤の有効性の判定を補助する方法、小児白血病に対する薬剤投与後の予後の判定を補助する方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6876 20180101AFI20221025BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221025BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20221025BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z ZNA
G01N33/53 M
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070943
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】中川 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】河原 康一
(72)【発明者】
【氏名】古川 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】岡本 康裕
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS25
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】小児白血病の治療に有用な小児白血病に対する薬剤の有効性の判定を補助する方法、小児白血病に対する薬剤投与後の予後の判定を補助する方法及びキットを提供する。
【解決手段】小児白血病に対する薬剤の有効性の判定を補助する方法は、小児白血病に罹患した被験体由来のサンプルにおける、リボソームタンパク質L11又はリボソームタンパク質L11をコードする遺伝子の発現量を定量する定量ステップを含む。当該薬剤は、ダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートの少なくとも1種である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小児白血病に対する薬剤の有効性の判定を補助する方法であって、
該方法は、
小児白血病に罹患した被験体由来のサンプルにおける、リボソームタンパク質L11又はリボソームタンパク質L11をコードする遺伝子の発現量を定量する定量ステップを含み、
前記薬剤は、
ダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートの少なくとも1種である、方法。
【請求項2】
薬剤投与後の被験体由来のサンプルにおける、リボソームタンパク質L11又はリボソームタンパク質L11をコードする遺伝子の発現量を定量する定量ステップを含み、
前記薬剤は、
ダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートの少なくとも1種である、
小児白血病に対する薬剤投与後の予後の判定を補助する方法。
【請求項3】
小児白血病に対する薬剤の有効性を判定するためのキットであって、
該キットは、
リボソームタンパク質L11に特異的に結合する抗体、リボソームタンパク質L11をコードする遺伝子に対するプローブ、及びリボソームタンパク質L11をコードする遺伝子の連続する少なくとも10塩基をPCR産物の塩基配列中に含むように設計されたプライマーの少なくとも1つを備え、
前記薬剤は、
ダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートの少なくとも1種である、キット。
【請求項4】
小児白血病に対する薬剤投与後の予後を判定するためのキットであって、
該キットは、
リボソームタンパク質L11に特異的に結合する抗体、リボソームタンパク質L11をコードする遺伝子に対するプローブ、及びリボソームタンパク質L11をコードする遺伝子の連続する少なくとも10塩基をPCR産物の塩基配列中に含むように設計されたプライマーの少なくとも1つを備え、
前記薬剤は、
ダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートの少なくとも1種である、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小児白血病に対する薬剤の有効性の判定を補助する方法、小児白血病に対する薬剤投与後の予後の判定を補助する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
p53は強力ながん抑制因子として知られている。p53を活性化する抗腫瘍システムとして、核小体を起点とする核小体ストレス応答が注目されている。核小体ストレス応答は、薬剤等によって誘導され、リボソームタンパク質L11(ribosome protein L11;RPL11)がその重要な因子の一つとなっている。核小体ストレス応答は次のような機序で抗腫瘍効果を発揮する。(1)アクチノマイシンD及び5-FU等の薬剤でリボソーム構築過程の転写が阻害される。(2)RPL11が核小体外に放出される。(3)RPL11が核小体外の核質領域においてMDM2(mouse double minute 2 homolog)と結合する。(4)MDM2によるp53のユビキチン化が抑制される。(5)p53が安定化し、細胞増殖が抑制される。
【0003】
特許文献1には、びまん性B細胞性リンパ腫、乳癌及び胃癌に関して、化学療法を受けた患者の無再発生存期間又は全生存期間が腫瘍組織サンプルにおけるRPL11の発現量が低いほど短縮することが示されている。
【0004】
小児腫瘍及び血液腫瘍を対象とした核小体ストレス応答に関する研究はこれまで報告されていない。小児急性リンパ性白血病では、再発時にはp53をコードするTP53の変異頻度が12.4%と増加するが診断時のTP53の変異頻度は2~4%と他の腫瘍と比べると低い(非特許文献1及び2参照)。一方で、小児急性リンパ性白血病においてもTP53の変異は予後不良因子であり、p53が重要な役割を果たしていると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-36233号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jana Hof,外13名,「Mutations and Deletions of the TP53 Gene Predict Nonresponse to Treatment and Poor Outcome in First Relapse of Childhood Acute Lymphoblastic Leukemia」,JOURNAL OF CLINICAL ONCOLOGY,2011年,29(23),3185-93
【非特許文献2】Hiroo Ueno,外34名,「Landscape of driver mutations and their clinical impacts in pediatric B-cell precursor acute lymphoblastic leukemia」,blood advances,2020年,4(20),5165-5173
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
小児白血病の生存率は多剤併用化学療法及び造血幹細胞移植の進歩によって大きく改善したものの、多剤併用化学療法を行っても約20%が再発するか治療抵抗性となる。小児白血病に対する新たな診断法、再発のリスクを含む予後の予測及び治療法等の開発が喫緊の課題となっている。
【0008】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、小児白血病の治療に有用な小児白血病に対する薬剤の有効性の判定を補助する方法、小児白血病に対する薬剤投与後の予後の判定を補助する方法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点に係る小児白血病に対する薬剤の有効性の判定を補助する方法は、
小児白血病に罹患した被験体由来のサンプルにおける、リボソームタンパク質L11又はリボソームタンパク質L11をコードする遺伝子の発現量を定量する定量ステップを含み、
前記薬剤は、
ダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートの少なくとも1種である。
【0010】
本発明の第2の観点に係る小児白血病に対する薬剤投与後の予後の判定を補助する方法は、
薬剤投与後の被験体由来のサンプルにおける、リボソームタンパク質L11又はリボソームタンパク質L11をコードする遺伝子の発現量を定量する定量ステップを含み、
前記薬剤は、
ダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートの少なくとも1種である。
【0011】
本発明の第3の観点に係る小児白血病に対する薬剤の有効性を判定するためのキットは、
リボソームタンパク質L11に特異的に結合する抗体、リボソームタンパク質L11をコードする遺伝子に対するプローブ、及びリボソームタンパク質L11をコードする遺伝子の連続する少なくとも10塩基をPCR産物の塩基配列中に含むように設計されたプライマーの少なくとも1つを備え、
前記薬剤は、
ダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートの少なくとも1種である。
【0012】
本発明の第4の観点に係る小児白血病に対する薬剤投与後の予後を判定するためのキットは、
リボソームタンパク質L11に特異的に結合する抗体、リボソームタンパク質L11をコードする遺伝子に対するプローブ、及びリボソームタンパク質L11をコードする遺伝子の連続する少なくとも10塩基をPCR産物の塩基配列中に含むように設計されたプライマーの少なくとも1つを備え、
前記薬剤は、
ダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートの少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、小児白血病の治療に有用な小児白血病に対する薬剤の有効性の判定を補助する方法、小児白血病に対する薬剤投与後の予後の判定を補助する方法及びキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】薬剤に暴露した白血病細胞株Nalm-6の生存率を示す図である。(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(F)は、それぞれ薬剤がダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン、メソトレキセート、アクチノマイシンD及びHDM201である場合を示す。
図2】薬剤に暴露した白血病細胞株RS4;11の生存率を示す図である。(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(F)は、それぞれ薬剤がダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン、メソトレキセート、アクチノマイシンD及びHDM201である場合を示す。
図3】薬剤に暴露した白血病細胞株Nalm-6におけるp53及びRPL11の発現量を示す図である。(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(F)は、それぞれ薬剤がダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン、メソトレキセート、アクチノマイシンD及びHDM201である場合を示す。
図4】定量リアルタイムPCR(Polymerase Chain Reaction)で定量した急性リンパ性白血病患者由来の白血病細胞における診断時に対する再発時のRPL11 mRNAの相対的な発現量を示す図である。
図5】診断時及び再発時の急性リンパ性白血病患者由来の白血病細胞におけるRPL11の発現量を示す図である。(A)及び(B)はそれぞれmRNAの発現量及びタンパク質の発現量を示す。
図6】診断時と再発時の急性リンパ性白血病患者由来の白血病細胞を薬剤に暴露した場合の白血病細胞の生存率を示す図である。(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(F)は、それぞれ薬剤がダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン、メソトレキセート、アクチノマイシンD及びHDM201である場合を示す。
図7】診断時と再発時の急性リンパ性白血病患者由来の白血病細胞を薬剤に暴露した場合の白血病細胞におけるp53及びRPL11の発現量を示す図である。(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(F)は、それぞれ薬剤がダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン、メソトレキセート、アクチノマイシンD及びHDM201である場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。なお、下記の実施の形態において、“有する”、“含む”又は“含有する”といった表現は、“からなる”又は“から構成される”という意味も包含する。
【0016】
(実施の形態1)
本実施の形態に係る小児白血病に対する薬剤の有効性の判定を補助する方法は、小児白血病に罹患した被験体由来のサンプルにおける、RPL11又はRPL11をコードする遺伝子(以下、“RPL11遺伝子”ともいう)の発現量を定量する定量ステップを含む。
【0017】
被験体の生物種は限定されず、哺乳動物、例えばヒト及びチンパンジー等の霊長類、ラット及びマウス等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物が挙げられる。好ましくは、被験体はヒトである。被験体は、小児白血病に罹患している個体であり、好ましくは、薬剤の投与による化学療法を受けている。
【0018】
薬剤は、ダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートの少なくとも1種である。ダウノルビシンはダウノマイシンともいい、アントラサイクリン系の薬剤である。シタラビンはシトシンアラビノシドともいう。メルカプトプリンは6-メルカプトプリン又はPurinetholともいい、チオプリンの1種である。なお、ダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートには、薬理学上許容されるその塩又はそれらの溶媒和物も包含する。
【0019】
塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩及びカルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩及びリン酸塩等の無機酸塩、並びに酢酸塩、プロピオン酸塩、ヘキサン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、グリコール酸塩、ピルビン酸塩、乳酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、o-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸塩、桂皮酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、1,2-エタンジスルホン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-クロロベンゼンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクト-2-エン-1-カルボン酸塩、グルコヘプタン酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、トリメチル酢酸塩、第三級ブチル酢酸塩、ラウリル硫酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、及びムコン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
【0020】
溶媒和物は、上記薬剤又はその塩が溶媒と、共有結合、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力、錯体及びインクルーション等を形成して安定化したものである。溶媒は、限定されず、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アセトン、アセトニトリル、エチルエーテル及びメチルtert-ブチルエーテル等が挙げられる。溶媒和物は、好ましくは水和物である。
【0021】
上記薬剤の塩又はその水和物としては、好ましくはダウノルビシン塩酸塩及びメルカプトプリン水和物が挙げられる。
【0022】
小児白血病とは、一般的には15歳未満である小児が罹患する、造血前駆細胞から生じる悪性腫瘍(血液のがん)である。小児白血病は、好ましくは急性リンパ性白血病及び急性骨髄性白血病である。急性リンパ性白血病は、造血前駆細胞の中でもリンパ球に由来し、急性骨髄性白血病は、造血前駆細胞の中でも骨髄系前駆細胞に由来する。急性リンパ性白血病は、Bリンパ球に類似した性質を持つB前駆細胞性急性リンパ性白血病であっても、Tリンパ球に類似した性質を持つT細胞性急性リンパ性白血病であってもよい。
【0023】
サンプルとは生体試料を意味する。サンプルとしては、例えば生体から単離した細胞又は組織、あるいは血液、リンパ液、尿、腹水及び脳脊髄液等の体液が挙げられる。好ましいサンプルは血液、リンパ液又は骨髄液である。細胞の例として、例えば末梢血細胞、リンパ球、単球及び顆粒球等が挙げられる。組織の例として、骨髄組織及びリンパ節等が挙げられ、例えばこれら組織の生検サンプルを用いることができる。
【0024】
例えば、ヒトのRPL11は、配列番号1(NCBI ACCESSION:NP_000966)に示すアミノ酸配列を有する。RPL11のアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列に限定されず、配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して、例えば70%以上、80%以上、好ましくは90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。また、RPL11のアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたアミノ酸配列であってもよい。なお、“1若しくは数個”の範囲は、1から10個、好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個、あるいは1個又は2個である。
【0025】
例えば、ヒトのRPL11遺伝子は、配列番号2(NCBI ACCESSION:NM_000975)に示す塩基配列を有する。RPL11遺伝子の塩基配列は、配列番号2に示される塩基配列に限定されず、上記の例示されたアミノ酸配列をコードする塩基配列であってもよい。
【0026】
アミノ酸配列及び塩基配列の同一性の値は、複数の配列間の同一性を演算するソフトウェア、例えば、FASTA、DANASYS及びBLAST等を用いてデフォルトの設定で算出した値を示す。
【0027】
定量ステップでは、サンプルにおける、RPL11又はRPL11遺伝子の発現量を生体外で測定する。定量ステップは、公知の方法により行うことができる。タンパク質としてのRPL11の発現量を定量する場合、例えば、RPL11に結合する抗体を用いる免疫学的測定法又は酵素活性測定法等が利用できる。好適には、RPL11に特異的に結合するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を用いた酵素免疫測定法、2抗体サンドイッチELISA法、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法、及びウエスタンブロッティング法等の手法を用いることができる。
【0028】
RPL11に結合する抗体は公知の方法により得ることができる。例えば、哺乳動物にRPL11を免疫し、その血清から任意の方法を用いて抗体を精製してもよいし、ハイブリドーマを介して抗体を取得してもよい。
【0029】
定量ステップにおけるRPL11遺伝子の発現量の定量は、公知の遺伝子解析法、例えば遺伝子検出法として常用されるPCR法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、LCR(Ligase chain reaction)、LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法、マイクロアレイ法、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、in situハイブリダイゼーション法、及び次世代シークエンサーによる解析等で実施することができる。より具体的には、被験体から得られたサンプル由来の核酸、例えばmRNA等を用いて、プライマーを用いて遺伝子を増幅し、プローブを用いたハイブリダイゼーション技術等を利用して発現量を定量することができる。プライマー及びプローブは、RPL11遺伝子の塩基配列に基づいて適宜作製することができる。
【0030】
例えば、RPL11遺伝子を検出するためのプライマーは、RPL11遺伝子の塩基配列に基づいてRPL11遺伝子の連続する少なくとも10塩基をPCR産物に含むように設計される。PCR産物とは、PCR法によって増幅された核酸である。プライマーは、フォワードプライマー及びリバースプライマーを含み、例えばフォワードプライマー及びリバースプライマーは、それぞれRPL11遺伝子の塩基配列に相補的な塩基配列の連続する14~30塩基、例えば16~28塩基、好ましくは18~26塩基からなるポリヌクレオチドである。好適には、フォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列は、それぞれ配列番号3及び配列番号4に示される。
【0031】
上述のプローブは、RPL11遺伝子を検出できるものであれば特に限定されず、例えば、配列番号2に示す塩基配列の連続する少なくとも14、例えば少なくとも20、好ましくは少なくとも30、また60以下、50以下、又は40以下の塩基配列からなるポリヌクレオチドから構成される。好ましくは、プローブは、上記PCR産物にハイブリダイズするポリヌクレオチドである。この場合、プローブはPCR産物の塩基配列に相補的な塩基配列を有するのが好ましい。なお、ハイブリダイゼーションの条件は、例えば、プローブが、塩基配列が相補的な核酸とはハイブリダイズするが、相補的ではない塩基配列の核酸にはハイブリダイズしないストリンジェントな条件である。ストリンジェントな条件は、例えば、モレキュラークローニング・ア・ラボラトリーマニュアル第3版(2001年)等に基づき適宜決定でき、例えば、0.2×SSC、0.1%SDS、65℃で保温、である。
【0032】
プライマー及びプローブは、公知の方法により調製することができ、例えば化学合成法によって調製することができる。プローブは、検出のための蛍光色素等で修飾されていてもよい。なお、RPL11遺伝子の定量に、2本鎖DNAに結合することで蛍光を発する試薬(インターカレーター)を用いることで、プローブを使用しなくてもRPL11遺伝子を定量できる。
【0033】
定量ステップにおける発現量の“定量”には、サンプル中のRPL11又はRPL11遺伝子の含有量及び濃度等を測定又は決定することの他に、RPL11又はRPL11遺伝子の相対的な量を決定することも含む。ここでの相対的な量は、例えば小児白血病に罹患していない時期に採取された被験体のサンプルにおける発現量に対する診断時に採取されたサンプルにおける発現量の割合である。定量ステップでは、RPL11の発現量及びRPL11遺伝子の発現量の両方を定量してもよい。RPL11の遺伝子レベル及びタンパク質レベルでの発現量を組み合わせることで、本実施の形態に係る方法の精度をさらに高めることができる。
【0034】
下記実施例に示すように、RPL11の発現が低いほど、上記薬剤に対する抵抗性が増大する。よって、本実施の形態に係る小児白血病に対する薬剤の有効性の判定を補助する方法では、定量ステップで定量されたRPL11の発現量又はRPL11遺伝子の発現量が高い場合に小児白血病に対する薬剤の有効性が高いと判定され、発現量が低い場合に小児白血病に対する薬剤の有効性が低いと判定される。発現量の高低は、例えば参照値と比較された際に、発現量が参照値以上か未満かで決定されてもよい。参照値との比較では、発現量と参照値との間に統計的に有意な差がある場合に、発現量が高い又は低いとみなしてもよい。
【0035】
“参照値”とは、RPL11又はRPL11遺伝子の発現量について、あらかじめ定められた標準値を意味する。参照値は、例えば複数の被験体におけるRPL11又はRPL11遺伝子の発現量の中央値又は平均値、好ましくは中央値である。
【0036】
本実施の形態に係る小児白血病に対する薬剤の有効性の判定を補助する方法は、化学療法を受けている被験体又は受けていない被験体のいずれに対しても実施することができる。例えば、化学療法を受ける前の被験体について本方法を適用することで、被験体に対する薬剤の有効性を判定できるため、薬剤の取捨選択及び化学療法以外の治療法の選択が可能となる。一方、化学療法において上記薬剤が投与されている被験体について本方法を適用することで、当該薬剤の投与を継続するか否かを判断することもできる。
【0037】
なお、別の実施の形態では、上記定量ステップと、定量ステップで定量されたRPL11の発現量又はRPL11遺伝子の発現量が高い場合に小児白血病に対する薬剤の有効性が高いと判定し、発現量が低い場合に小児白血病に対する薬剤の有効性が低いと判定する判定ステップと、を含む、小児白血病に対する薬剤の有効性の判定方法が提供される。
【0038】
小児白血病に対する薬剤の有効性の判定方法は、小児白血病の治療方法にも利用することができる。当該小児白血病の治療方法は、上記定量ステップと、上記判定ステップと、被験体に上記薬剤を投与する投与ステップと、を含む。これにより、上記薬剤が有効であると判定された被験体に対して薬剤による治療を行うことができる。
【0039】
下記実施例に示すように、RPL11の発現量が上記薬剤に対する抵抗性に関連するため、別の実施の形態では、上記定量ステップを含む、小児白血病に対する薬剤投与後の予後の判定を補助する方法が提供される。当該方法の場合、定量ステップにおける上記の相対的な量は、好ましくは、同一の被験体から第1の時期に採取されたサンプルにおける発現量に対する、第1の時期から後の第2の時期に採取されたサンプルにおける発現量の割合である。好ましくは、第1の時期は小児白血病の診断時で、第2の時期は診断後の寛解導入療法の間、寛解導入後、地固め療法の間、又は再発時等である。診断後に化学療法を実施した被験体においては、上述の参照値として、例えば、診断時の同一の被験体由来のサンプルにおける発現量を使用してもよい。なお、寛解導入療法及び地固め療法は、多剤併用療法であってもよい。
【0040】
小児白血病に対する薬剤投与後の予後の判定を補助する方法によれば、定量ステップで定量されたRPL11の発現量又はRPL11遺伝子の発現量が高い場合に小児白血病に対する薬剤投与後の予後が良好であると判定され、発現量が低い場合に小児白血病に対する薬剤投与後の予後が不良であると判定される。
【0041】
ここでの“予後”とは、上記薬剤投与後の白血病細胞の低減、白血病細胞の増殖の抑制、上記薬剤投与後の経過又は結末、好ましくは生存期間、特に無再発生存期間の長さ及び再発のリスクの高低を意味する。“予後が良好である”とは、薬剤投与後の経過又は結末が良好であること、例えば生存期間、特に無再発生存期間が長いこと、及び再発のリスクが低いことを意味する。よって、1つの実施の形態では、上記定量ステップを含む、小児白血病に対する薬剤投与後の再発リスクの判定を補助する方法、又は、小児白血病に対する薬剤投与後の再発リスクの判定方法が提供される。
【0042】
なお、別の実施の形態では、上記定量ステップと、定量ステップで定量されたRPL11の発現量又はRPL11遺伝子の発現量が高い場合に小児白血病に対する薬剤投与後の予後が良好と判定し、発現量が低い場合に小児白血病に対する薬剤投与後の予後が不良であると判定する判定ステップと、を含む、小児白血病に対する薬剤投与後の予後の判定方法が提供される。
【0043】
小児白血病に対する薬剤投与後の予後の判定方法は、上述の小児白血病に対する薬剤の有効性の判定方法と同様に、小児白血病の治療方法にも利用することができる。
【0044】
また、他の実施の形態は、RPL11又はRPL11遺伝子の、小児白血病に対する上記薬剤の有効性を判定するためのマーカーとしての使用である。別の実施の形態は、RPL11又はRPL11遺伝子の、小児白血病に対する上記薬剤投与後の予後を判定するためのマーカーとしての使用である。別の実施の形態は、RPL11又はRPL11遺伝子の、小児白血病に対する上記薬剤投与後の再発リスクを判定するためのマーカーとしての使用である。
【0045】
別の実施の形態では、小児白血病に対する薬剤の有効性を判定するためのキット又は小児白血病に対する薬剤投与後の予後を判定するためのキットが提供される。当該キットは、RPL11に特異的に結合する上記抗体、RPL11遺伝子に対する上記プローブ及びRPL11遺伝子の連続する少なくとも10塩基をPCR産物の塩基配列中に含むように設計された上記プライマーの少なくとも1つを備える。
【0046】
当該キットは、好適には、上記の小児白血病に対する薬剤の有効性の判定を補助する方法、小児白血病に対する薬剤の有効性の判定方法、小児白血病に対する薬剤投与後の予後の判定を補助する方法及び小児白血病に対する薬剤投与後の予後の判定方法で使用される。当該キットは、上述の抗体、プローブ、又はプライマーの少なくとも1つに加えて、説明書、バッファー、発色試薬若しくは蛍光試薬及び標準サンプル等を含んでもよい。
【0047】
また、他の実施の形態では、小児白血病に対する薬剤の有効性を判定するための、又は小児白血病に対する薬剤投与後の予後を判定するための、チップ及びアレイ等のデバイスが提供される。当該デバイスは、上記のプローブ及びプライマーの少なくとも1つと、RPL11遺伝子の発現量を測定する測定部と、を備える。当該デバイスは、測定部で測定された発現量が、参照値と比較して、統計的に有意に高い場合、小児白血病に対する上記薬剤の有効性が高い、又は上記薬剤投与後の予後が良好であると判定する判定部をさらに備えてもよい。判定部は、測定部で測定された発現量が、参照値と比較して、統計的に有意に低い場合、小児白血病に対する上記薬剤の有効性が低い、又は上記薬剤投与後の予後が不良であると判定してもよい。
【0048】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例0049】
[患者検体]
2005年から2020年の間に治療された小児B前駆細胞性急性リンパ性白血病の患者から白血病細胞が含まれた骨髄液を採取した。採取された骨髄液から密度勾配遠心法を用いて単核細胞を分離し、-130℃で保存した。各実験で使用する場合、患者の白血病細胞を20%のFBSと5μg/mlのインスリン、5μg/mlのトランスフェリン及び5ng/mlのセレンを添加したRPMI-1640培地に懸濁し、37℃、5%COの条件下で培養した。
【0050】
[細胞株]
TP53野生型のB前駆細胞性急性リンパ性白血病細胞株であるNalm-6(JCRB Cell Bankより取得)とRS4;11(ATCCより取得)を、10%FBSを添加したRPMI-1640に懸濁し、37℃、5%COの条件下で培養した。
【0051】
[定量リアルタイムPCR]
急性リンパ性白血病患者由来の白血病細胞から、RNeasy(商標) Minikit(Qiagen社製)を用いてRNAを抽出し、PrimeScript(商標) RT Reagent Kit(タカラバイオ社製)を用いてcDNAを作成した。RPL11 mRNAはTB Green(商標) Premix Ex Taq TM II(タカラバイオ社製)を用いてリアルタイムPCRを行い定量した。リアルタイムPCRで用いたRPL11に対するフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号3及び4に示す。GAPDHに対するフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号5及び6に示す。
【0052】
[siRNAの導入]
AMAXA 4D-Nucleofector(Lonza社製)を用いて、添付のマニュアルに従い、RPL11に対するsiRNA(siRPL11-1及びsiRPL11-2)を細胞に導入した。siRPL11-1及びsiRPL11-2の塩基配列をそれぞれ配列番号7及び8に示す。コントロールとなるscramble siRNAの塩基配列を配列番号9に示す。
【0053】
[タンパク質の発現解析]
白血病細胞株(Nalm-6)又は急性リンパ性白血病患者由来の白血病細胞にsiRNAを導入し、6ウェルプレートに播種し培養した。遺伝子導入してから24時間後にダウノルビシン(和光富士フィルム社製)、シタラビン(Cayman medical社製)、メルカプトプリン(東京化成工業社製)、メソトレキセート(和光富士フィルム社製)、アクチノマイシンD(和光富士フィルム社製)又はHDM201(MedChemExpress社製)を添加した。薬剤を添加して、Nalm-6は24時間後に、患者由来の白血病細胞は48時間後に、RIPA bufferを用いてタンパク質を抽出した。得られたタンパク質を用いてWestern blot法でタンパク質発現を解析した。一次抗体として抗p53抗体(DO-1、Cell signaling technology社製)と抗RPL11抗体(D1P5N、Cell signaling technology社製)を用いた。ローディングコントロールとして抗GAPDH抗体(14C10、Cell signaling technology社製)を用いた。
【0054】
[薬剤抵抗性試験]
白血病細胞株(Nalm-6又はRS4;11)にsiRNAを導入し、384ウェルプレートに播種し、培養した。siRNAを遺伝子導入してから24時間後に薬剤(ダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン、メソトレキセート、アクチノマイシンD又はHDM201)を添加した。Nalm-6は72時間後に、RS4;11は96時間後に、“Cell” ATP ASSAY reagent ver.2(東洋ビーネット社製)を用いてルシフェラーゼ活性を測定し、細胞の生存率を算出した。
【0055】
患者由来の白血病細胞を384ウェルプレートに播種し、薬剤(ダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン、メソトレキセート、アクチノマイシンD又はHDM201)を添加した。96時間後に“Cell” ATP ASSAY reagent ver.2(東洋ビーネット社製)を用いてルシフェラーゼ活性を測定し、細胞の生存率を算出した。
【0056】
[統計学的解析]
統計学的解析とグラフ作成はGraphPad Prism software version 9.1.1(GraphPad software社製)を用いた。RPL11 mRNA定量ではStudentのt検定で解析し、薬剤抵抗性試験ではDunnettのpost-hoc検定で解析した。
【0057】
(結果)
図1は、siRNAによってRPL11の発現を抑制したNalm-6の生存率を示す。図1(E)に示すように、核小体ストレス応答を誘導するアクチノマイシンDによる細胞の生存率はRPL11の発現を抑制することで増加した。一方、核小体ストレス応答を誘導しないMDM2阻害剤であるHDM201では、図1(F)に示すように、RPL11の発現を抑制しても細胞の生存率は増加しなかった。図1(A)~(D)にそれぞれ示すように、アクチノマイシンDと同様に、Nalm-6はRPL11の発現を抑制することでダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートに対する抵抗性を示した。
【0058】
図2は、siRNAによってRPL11の発現を抑制したRS4;11の生存率を示す。図2(E)に示すように、アクチノマイシンDによる細胞の生存率はRPL11の発現を抑制することで増加した。図2(F)に示すようにMDM2阻害剤であるHDM201では、RPL11の発現を抑制しても細胞の生存率は増加しなかった。図2(A)~(D)にそれぞれ示すように、RS4;11はRPL11の発現を抑制することでダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートに対する抵抗性を示した。
【0059】
図3は、siRNAによってRPL11の発現を抑制したNalm-6を用いたタンパク質の発現解析の結果を示す。図3(E)に示すように、アクチノマイシンDによってscramble siRNAを導入したコントロールで発現するp53は、RPL11の発現を抑制することでその発現が抑制された。一方、図3(F)に示すようにHDM201では、RPL11の発現を抑制してもp53の発現は抑制されなかった。図3(A)~(D)にそれぞれ示すように、ダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン又はメソトレキセートで刺激した場合、Nalm-6はRPL11の発現を抑制することでp53の発現が抑制された。
【0060】
以上により、RPL11の発現低下によるダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートに対する抵抗性にp53が関与することが示された。
【0061】
図4は、定量リアルタイムPCRで定量した急性リンパ性白血病患者由来の白血病細胞における診断時に対する再発時のRPL11 mRNAの相対的な発現量を示す。9症例(Pt 1~9)中7症例で再発時の白血病細胞におけるRPL11 mRNAの発現量が低下した。2回目の再発(第2再発)のあった3症例中2症例(Pt 3及びPt 5)においては第2再発時にRPL11 mRNAの発現量がさらに有意に低下した。
【0062】
図4に示すPt 9の診断時における骨髄中の白血病細胞の割合は96%であった。Pt 9に対して、寛解導入療法ではプレドニゾロン、ダウノルビシン、L-アスパラギナーゼ及びビンクリスチンを組み合わせた多剤併用療法を行い、寛解導入療法後の骨髄中の白血病細胞の割合は5%となった。続いて地固め療法としてシタラビン、メルカプトプリン及びシクロホスファミドを組み合わせた多剤併用療法をPt 9に対して行ったが再発した。再発時の骨髄中の白血病細胞の割合は89%であった。図5は、Pt 9の診断時及び再発時のRPL11 mRNAの発現量(A)及びRPL11タンパク質の発現量(B)を示す。再発時の白血病細胞では、タンパク質のレベルでもRPL11の発現が減少していた。
【0063】
急性リンパ性白血病患者由来の診断時と再発時の白血病細胞について、薬剤感受性を比較したところ、図6(E)に示すアクチノマイシンDに加え、図6(A)~(D)にそれぞれ示すダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートにおいて、再発時は診断時と比較して抵抗性が認められた。図6(F)に示すようにHDM201では、再発時と診断時とで抵抗性に大きな違いはなかった。
【0064】
急性リンパ性白血病患者由来の診断時と再発時の白血病細胞では、図7(E)に示すように、再発時には薬剤による刺激がない状態でp53の発現が低下していた。白血病細胞を薬剤で刺激すると、図7(F)に示すHDM201では、p53の発現量は低下していなかったが、図7(A)~(D)にそれぞれ示すダウノルビシン、シタラビン、メルカプトプリン及びメソトレキセートでは、診断時と比較して、再発時にはRPL11及びp53の発現が抑制された。
【0065】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は小児白血病に関する診断及び治療に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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