(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165558
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】樹脂組成物、硬化物、電子部品、2成分キット及び硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/08 20060101AFI20221025BHJP
C08K 5/3465 20060101ALI20221025BHJP
C08G 77/24 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
C08L83/08
C08K5/3465
C08G77/24
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070944
(22)【出願日】2021-04-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】391010895
【氏名又は名称】小西化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】八嶋 徹
【テーマコード(参考)】
4J002
4J246
【Fターム(参考)】
4J002CP081
4J002EU136
4J002FD156
4J002GP00
4J002HA02
4J246AA03
4J246BA17X
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA24X
4J246CA46X
4J246FA071
4J246FA441
4J246FB051
4J246GB04
4J246GC03
4J246GC23
4J246GC24
4J246GD08
4J246HA11
4J246HA25
(57)【要約】
【課題】硬度及び光透過率が高く、屈折率及び光分散が低い硬化物を製造できる樹脂組成物の提供。
【解決手段】共重合体と硬化剤とを含む樹脂組成物であって、前記共重合体は、繰返し単位(A)、繰返し単位(B)、繰返し単位(C)及び繰返し単位(D)を含み、前記硬化剤は、環状アミジンを有する化合物と有機酸との塩であり、繰返し単位(A)の割合は、10mol%以上20mol%以下であり、繰返し単位(B)の割合は、20mol%以上50mol%以下であり、繰返し単位(C)の割合は、10mol%以上20mol%以下であり、繰返し単位(D)の割合は、20mol%以上50mol%以下であり、硬化剤の割合は50ppm以上10000ppm以下である、樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体と硬化剤とを含む樹脂組成物であって、
前記共重合体は、下記式(A)で表される繰返し単位(A)、下記式(B)で表される繰返し単位(B)、下記式(C)で表される繰返し単位(C)及び下記式(D)で表される繰返し単位(D)を含み、
前記硬化剤は、環状アミジンを有する化合物と有機酸との塩であり、
前記共重合体を構成する全繰返し単位の合計に対する前記繰返し単位(A)の割合は、10mol%以上20mol%以下であり、
前記共重合体を構成する全繰返し単位の合計に対する前記繰返し単位(B)の割合は、20mol%以上50mol%以下であり、
前記共重合体を構成する全繰返し単位の合計に対する前記繰返し単位(C)の割合は、10mol%以上20mol%以下であり、
前記共重合体を構成する全繰返し単位の合計に対する前記繰返し単位(D)の割合は、20mol%以上50mol%以下であり、
前記樹脂組成物の樹脂全固形分の全量に対する、前記硬化剤の割合は50ppm以上10000ppm以下である、樹脂組成物。
[Me2SiO2/2] ・・・式(A)
[MeSiO3/2] ・・・式(B)
[SiO4/2] ・・・式(C)
[RSiO3/2] ・・・式(D)
(式(D)中、Rはフッ素原子を有する炭素数1~3のアルキル基である。)
【請求項2】
前記環状アミジンを有する化合物は1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、及び1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物の硬化物。
【請求項4】
厚さが0.1mm以上3.0mm以下である、請求項3に記載の硬化物。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の硬化物を光学部材として含む電子部品。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を得るための2成分キットであって、
第1成分が前記共重合体であり、第2成分が前記硬化剤である、2成分キット。
【請求項7】
前記共重合体と前記硬化剤とを混合し、請求項1又は2に記載の樹脂組成物を得る工程と、
前記樹脂組成物を加熱して硬化させる硬化工程と、を備える、硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、硬化物、電子部品、2成分キット及び硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂の硬化物は、屈折率が制御しやすく光透過性に優れるため、各種光学部材に使用されている。光学部材としては、例えば、液晶表示素子や有機EL表示素子等の電子ディスプレイやイメージセンサー等に使用されるカバーガラスが挙げられる。
【0003】
例えば特許文献1は、低屈折率の膜を形成するためのシリコーン樹脂組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学部材として使用する硬化物の中には、ガラスと同程度の硬度と優れた光学特性が求められる。
例えば特許文献1に記載のシリコーン樹脂組成物には、硬度や光透過性の観点から改良の余地があった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、硬度及び光透過率が高く、屈折率及び光分散が低い硬化物を製造できる樹脂組成物を提供することを目的とする。さらにこの樹脂組成物を用いた硬化物、電子部品、2成分キット及び硬化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の[1]~[7]を包含する。
[1]共重合体と硬化剤とを含む樹脂組成物であって、前記共重合体は、下記式(A)で表される繰返し単位(A)、下記式(B)で表される繰返し単位(B)、下記式(C)で表される繰返し単位(C)及び下記式(D)で表される繰返し単位(D)を含み、前記硬化剤は、環状アミジンを有する化合物と有機酸との塩であり、前記共重合体を構成する全繰返し単位の合計に対する前記繰返し単位(A)の割合は、10mol%以上20mol%以下であり、前記共重合体を構成する全繰返し単位の合計に対する前記繰返し単位(B)の割合は、20mol%以上50mol%以下であり、前記共重合体を構成する全繰返し単位の合計に対する前記繰返し単位(C)の割合は、10mol%以上20mol%以下であり、前記共重合体を構成する全繰返し単位の合計に対する前記繰返し単位(D)の割合は、20mol%以上50mol%以下であり、前記樹脂組成物の樹脂全固形分の全量に対する、前記硬化剤の割合は50ppm以上10000ppm以下である、樹脂組成物。
[Me2SiO2/2] ・・・式(A)
[MeSiO3/2] ・・・式(B)
[SiO4/2] ・・・式(C)
[RSiO3/2] ・・・式(D)
(式(D)中、Rはフッ素原子を有する炭素数1~3のアルキル基である。)
[2]前記環状アミジンを有する化合物は1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、及び1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンからなる群より選択される1種以上である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3][1]又は[2]に記載の樹脂組成物の硬化物。
[4]厚さが0.1mm以上3.0mm以下である、[3]に記載の硬化物。
[5][3]又は[4]に記載の硬化物を光学部材として含む電子部品。
[6][1]又は[2]に記載の樹脂組成物を得るための2成分キットであって、第1成分が前記共重合体であり、第2成分が前記硬化剤である、2成分キット。
[7]前記共重合体と前記硬化剤とを混合し、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物を得る工程と、前記樹脂組成物を加熱して硬化させる硬化工程と、を備える、硬化物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硬度及び光透過率が高く、屈折率及び光分散が低い硬化物を製造できる樹脂組成物を提供することができる。さらにこの樹脂組成物を用いた硬化物、電子部品、2成分キット及び硬化物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<樹脂組成物>
本実施形態は、共重合体と硬化剤とを含む樹脂組成物である。本発明者の検討により、共重合体の繰り返し単位の比率を特定の範囲とし、かつ特定の硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物は、硬度及び光透過率が高く、屈折率及び光分散が低いことが見いだされた。
【0010】
≪共重合体≫
共重合体は、下記式(A)で表される繰返し単位(A)、下記式(B)で表される繰返し単位(B)、下記式(C)で表される繰返し単位(C)及び下記式(D)で表される繰返し単位(D)を含む。式中、Meはメチル基を意味する。
[Me2SiO2/2] ・・・式(A)
[MeSiO3/2] ・・・式(B)
[SiO4/2] ・・・式(C)
[RSiO3/2] ・・・式(D)
(式(D)中、Rはフッ素原子を有する炭素数1~3のアルキル基である。)
【0011】
共重合体は、実質的に繰返し単位(A)、繰返し単位(B)、繰返し単位(C)及び繰り返し単位(D)からなることが好ましい。「実質的に繰返し単位(A)、繰返し単位(B)、繰返し単位(C)及び繰り返し単位(D)からなる」とは、共重合体を構成する全繰返し単位の合計に対する、繰返し単位(A)、繰返し単位(B)、繰返し単位(C)及び繰り返し単位(D)の和が、90質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは95質量%以上100質量%以下であることを意味する。
【0012】
(繰り返し単位(A))
繰返し単位(A)は、ジアルコキシジメチルシランから誘導される繰り返し単位である。
ジアルコキシジメチルシランは、例えば、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、又はジプロポキシジメチルシランが挙げられる。
【0013】
「誘導される繰り返し単位」とは、アルコキシ基が加水分解、脱水縮合して構成される繰り返し単位を意味する。
【0014】
共重合体を構成する全繰返し単位の合計に対する繰返し単位(A)の割合は、10mol%以上20mol%以下である。
【0015】
繰返し単位(A)の割合が上記下限値以上であると、樹脂組成物を硬化する工程において硬化不良が生じにくい。硬化不良とは、例えば樹脂組成物を硬化する際の加熱により、表面の一部が硬化し、膜が形成される不具合をいう。膜が形成されると、樹脂組成物に含まれる溶剤が揮発しにくくなり、乾燥しにくくなる。
【0016】
繰返し単位(A)の割合が上記上限値以下であると、得られる硬化物の硬度が低下しにくくなる。
【0017】
(繰り返し単位(B))
繰返し単位(B)は、トリアルコキシメチルシランから誘導される繰り返し単位である。
トリアルコキシメチルシランとしては、トリエトキシメチルシラン、トリメトキシメチルシラン、又はトリプロポキシキシメチルシランが挙げられる。
【0018】
共重合体を構成する全繰返し単位の合計に対する繰返し単位(B)の割合は、20mol%以上50mol%以下である。
繰返し単位(B)の割合が上記下限値以上であると、得られる硬化物の硬度が低下しにくくなる。またヘイズ値が低く、透明性が高くなりやすい。
【0019】
繰返し単位(B)の割合が上記上限値以下であると、上述した硬化不良が生じにくい。
【0020】
(繰り返し単位(C))
繰り返し単位(C)は、テトラエトキシシランから誘導される繰り返し単位である。
共重合体を構成する全繰返し単位の合計に対する繰返し単位(C)の割合は、10mol%以上20mol%以下である。
繰返し単位(C)の割合が上記下限値以上であると、得られる硬化物の硬度が低下しにくくなる。
【0021】
繰返し単位(C)の割合が上記上限値以下であると、上述した硬化不良が生じにくい。また、得られる硬化物の屈折率が低くなりやすい。
【0022】
(繰り返し単位(D))
繰り返し単位(D)は、フッ化アルキルトリアルコキシシランから誘導される繰り返し単位である。
式(D)で表される繰り返し単位において、Rはフッ素原子を有する炭素数1~3のアルキル基である。Rとしては、-CF3、-CH2CF3、-CF2CF3、-CH2CH2CF3、-CH2CF2CF3、又は-CF2CF2CF3が挙げられる。
【0023】
繰り返し単位(D)は、例えばトリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シランから誘導される繰り返し単位である。
【0024】
Rはフッ素原子を有する炭素数2又は3のアルキル基が好ましく、-CH2CF3、-CH2CH2CF3、-CH2CF2CF3、又は-CF2CF2CF3がより好ましく、-CH2CF3又は-CH2CH2CF3がさらに好ましい。
【0025】
共重合体を構成する全繰返し単位の合計に対する繰返し単位(D)の割合は、20mol%以上50mol%以下である。
繰返し単位(D)の割合が上記下限値以上であると、得られる硬化物の屈折率が低くなりやすい。
【0026】
繰返し単位(D)の割合が上記上限値以下であると、得られる硬化物の硬度が低下しにくくなる。フッ素原子は水素原子に近い原子サイズであるものの、トリフルオロメチル基はメチル基よりも立体的にかさ高くなる。このため、繰返し単位(D)の割合が上記上限値を超えると、トリフルオロメチル基の立体障害により架橋が進みにくくなり、得られる硬化物の硬度が低下しやすい。一方、側鎖であるRの炭素数が2又は3である場合には、架橋が進みやすくなり、得られる硬化物の硬度は低下しにくい。
【0027】
共重合体の重量平均分子量(Mw)(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算基準)は、例えば500以上20000以下を満たし、1000以上10000以下を満たすことが好ましく、1500以上6000以下を満たすことがさらに好ましい。
【0028】
[重量平均分子量の測定方法]
重量平均分子量(Mw)は、GPC測定により得られる標準ポリスチレン(PS)の検量線から求めた、ポリスチレン換算値を用いる。GPC測定の測定条件は、例えば、以下の通りである。
本体:HLC-8320GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgel G2000HXL&TSKgel G4000HXL(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
移動層:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.65mL/min
検出装置:RI
標準物質:ポリスチレン
【0029】
≪硬化剤≫
硬化剤は、環状アミジンを有する化合物と有機酸との塩である。
【0030】
(環状アミジンを有する化合物)
環状アミジンを有する化合物としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン及び1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンからなる群より選択される1種以上が好ましい。以降において、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセンを「DBU」、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネンを「DBN」と記載する場合がある。
【0031】
さらに、環状アミジンを有する化合物としては、例えば、イミダゾール誘導体、イミダゾリン誘導体、又はテトラヒドロピリミジン誘導体が挙げられる。
【0032】
イミダゾール誘導体は、例えばイミダゾール、ベンズイミダゾール、メチルイミダゾール又は2-フェニルイミダゾール等である。メチルイミダゾールとしては、例えば2-メチルイミダゾール又は4-メチルイミダゾールが挙げられる。
【0033】
イミダゾリン誘導体は、例えばメチルイミダゾリン又はジメチルイミダゾリン等である。
メチルイミダゾリンとしては、例えば、2-メチルイミダゾリンが挙げられる。
ジメチルイミダゾリンとしては、例えば4,4-ジメチルイミダゾリン、4,5-ジメチルイミダゾリン、又は5,5-ジメチルイミダゾリンが挙げられる。
【0034】
テトラヒドロピリミジン誘導体は、例えば1-メチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン又は1,2-ジメチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン等である。
【0035】
環状アミジンを有する化合物は、1種単独でも2種以上の組み合わせであってもよい。
【0036】
(有機酸)
環状アミジンを有する化合物と有機酸との塩における有機酸としては、例えば、芳香族ポリカルボン酸、又は芳香族スルホン酸が挙げられる。
【0037】
芳香族ポリカルボン酸(o-、m-、p-)としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、又はテレフタル酸等が挙げられる。
【0038】
芳香族スルホン酸としては、ベンゼンスルホン酸又はp-トルエンスルホン酸が挙げられる。
【0039】
これらの中でも、有機酸はフタル酸又はp-トルエンスルホン酸が好ましい。有機酸は、1種単独でも2種以上の組み合わせであってもよい。
【0040】
環状アミジンを有する化合物と有機酸との塩としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセンとフタル酸との塩、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセンとp-トルエンスルホン酸との塩又は1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネンとフタル酸との塩が好ましい。
【0041】
樹脂組成物の樹脂全固形分の全量に対する、硬化剤の割合は50ppm以上10000ppm以下を満たし、50ppm以上5000ppm以下を満たすことが好ましい。
硬化剤の割合が上記下限値以上であると、得られる硬化物の硬度が低下しにくい。
硬化剤の割合が上記上限値以下であると、樹脂組成物の可使時間が長くなりやすい。
【0042】
可使時間とは、共重合体と硬化剤とを混合した後、使用不可能となるまでの時間である。使用不可能とは、樹脂組成物の硬化反応が進み、粘度や状態が使用に耐えられなくなるまでの時間をいう。例えば硬化剤の割合が多いと、硬化反応が進行しやすく、可使時間は短くなる。可使時間はポットライフともいう。
【0043】
本実施形態の樹脂組成物は、特定の種類の硬化剤を特定の配合割合で含む。これにより、共重合体と硬化剤とを混合した後のゲルタイムを長くすることができる。ゲルタイムは下記のゲルタイム試験により測定する。
【0044】
[ゲルタイム試験]
共重合体と硬化剤とを混合し、30℃に設定した恒温器内に静置する。その後、ゲル化するまでの時間を測定する。「ゲル化」とは、樹脂組成物が硬化して流動性が認められない状態になることを意味する。「ゲルタイム」とは、ゲル化するまでの時間を意味する。本実施形態において、ゲルタイムが3時間以上であると、「ゲルタイムが長い」と評価する。
【0045】
<硬化物>
本実施形態は、前記樹脂組成物を硬化させた硬化物である。
【0046】
本実施形態の硬化物の厚さは、0.1mm以上3.0mm以下を満たすことが好ましく、0.5mm以上2.5mm以下を満たすことがより好ましく、0.8mm以上2.0mm以下を満たすことがさらに好ましい。
【0047】
本実施形態において「硬化物の厚さ」とは硬化物の平均厚さであり、例えば間隔をあけて測定した5点の厚さの測定値の平均値である。
本実施形態の硬化物は、硬度及び光透過率が高く、屈折率及び光分散が低い。
【0048】
[硬度の測定]
本実施形態において、硬化物の硬度とは、硬化物の鉛筆硬度である。
硬化物の鉛筆硬度は以下の方法により測定する。
まず、樹脂組成物を硬化し、厚さが1.0mmの硬化物を得る。
次に、JIS K 5600-5-4(1999)「引っかき硬度(鉛筆法)」に準拠して、得られた各1.0mm厚の硬化物を、750g荷重下において鉛筆硬度を測定する。
【0049】
本実施形態においては、鉛筆硬度が8H以上を満たすと硬度が高いと評価する。
【0050】
[光透過率の測定]
本実施形態において、硬化物の光透過率は下記の方法により測定する。
まず、樹脂組成物を硬化し、厚さが1.0mmの硬化物を得る。
【0051】
次に、分光光度計を用い、硬化物の厚さ方向の光透過率を測定する。波長は400nmとする。
分光光度計としては、例えば株式会社島津製作所製のUV-2600が使用できる。
具体的な測定条件は以下の通りである。
(条件)バックグラウンド測定:大気
測定速度:中速
積分球:ISR-2600PLUS
スリット幅:5.0mm
【0052】
本実施形態において、光透過率が92%以上を満たすと光透過率が高いと評価する。
【0053】
[屈折率及び光分散度の測定]
本実施形態において、硬化物の屈折率は下記の方法により測定する。
まず、スピンコート装置を用い、1000rpm、20秒間の条件で樹脂組成物をスライドガラス上に塗布する。塗布したスライドガラスを熱風乾燥オーブンに入れ、50℃で1時間、さらに100℃で1時間加熱し、ガラスコーティング膜を作製する。
【0054】
次に、反射分光膜厚計を用いて、ガラスコーティング膜の反射スペクトルを測定する。反射分光膜厚計は、例えば大塚電子株式会社製のFE-3000が使用できる。波長は例えば450nm以上800nm以下である。
【0055】
反射分光膜厚計による測定で、ガラスコーティング膜の屈折率nD及び光分散度の指標であるアッベ数が求まる。
【0056】
本実施形態において、ガラスコーティング膜の屈折率nDが1.42以下であると、屈折率が低いと評価する。
【0057】
アッベ数は下記計算式によって求める。
νD=(nD-1)/(nF-nC)
νD:アッベ数
nD:波長589nmの光に対する屈折率
nF:波長486nmの光に対する屈折率
nC:波長656nmの光に対する屈折率
【0058】
本実施形態において、ガラスコーティング膜のアッベ数が58以上であると、光分散度が低いと評価する。
【0059】
アッベ数は、光分散度を示す尺度であり、アッベ数が大きければ大きいほど光分散度が小さくなる。例えば標準的な光学ガラスのアッベ数は60以上である。本実施形態の樹脂組成物を硬化した硬化物は、アッベ数が光学ガラスに近づき、広い波長領域の光線透過率が向上して、高い透明性を有する。
【0060】
<電子部品>
本実施形態は、前記硬化物を光学部材として含む電子部品である。光学部材としては、液晶表示素子や有機EL表示素子等の電子ディスプレイやイメージセンサー等に使用されるカバーガラスが挙げられる。
【0061】
<2成分キット>
本実施形態は、前記樹脂組成物を得るための2成分キットである。2成分キットは、第1成分が前記共重合体であり、第2成分が前記硬化剤である。第1成分として前記共重合体を、第2成分として前記硬化剤をそれぞれ独立して流通又は保存することで、使用する直前に混合して使用することができる。
【0062】
第1成分又は第2成分は、それぞれ希釈剤を含んでいてもよい。希釈剤としては、メタノールや2-プロパノールが挙げられる。
【0063】
<その他>
本実施形態は、前記樹脂組成物を含むポッティング剤であってもよい。「ポッティング剤」とは、電子回路基板や半導体素子に対し、電気的絶縁、保護、防湿の目的で使用される剤である。
【0064】
<硬化物の製造方法>
まず、前記共重合体と前記硬化剤とを混合し、本実施形態の樹脂組成物を得る。次に樹脂組成物を加熱して硬化させる。硬化のための加熱は、樹脂組成物の硬化反応が進行する温度で加熱する。
【0065】
硬化のための加熱温度は、例えば20℃以上180℃以下である。
【0066】
硬化のための加熱時間は、例えば30分間以上10時間以下である。
【0067】
硬化のための加熱は、一定温度で保持する加熱工程を複数備えていてもよい。
一例を挙げると、硬化のための加熱条件は、40℃以上60℃以下の温度で30分間から90分間加熱する第1加熱処理、90℃以上110℃以下の温度で0.5時間以上4時間以下加熱する第2加熱処理、140℃以上160℃以下で0.5時間以上4時間以下加熱する第3加熱処理を有していてもよい。
【0068】
≪硬化物の層を段階的に積層する実施形態≫
厚さが1.0mmを超える硬化物は、例えば1.0mm以下の厚さの硬化物の層を段階的に積層することにより製造できる。具体的には、1段階目で1.0mm以下の厚さの硬化物層を製造し、得られた硬化物層の上に、2段階目で1.0mm以下の厚さの硬化物層を重ね塗りして製造する。
【0069】
各段階の硬化物層の厚さは、製造する硬化物の厚さに合わせて適宜調整ですればよい。例えば厚さが2.0mmの硬化物は2段階の積層で製造でき、厚さが3.0mmの硬化物は3段階の積層で製造できる。
【0070】
本実施形態の樹脂組成物は、硬化時にいわゆるスキニングが生じにくい。スキニングとは、硬化時に表面のみが乾燥して膜が張る現象である。スキニングは樹脂組成物が硬化する工程において、揮発速度に遅速がある場合に生じやすい。厚さが1.0mm以上の硬化物を製造する際にスキニングは発生しやすいが、本実施形態の樹脂組成物は加熱硬化時の粘性が低いため、揮発速度に遅速がなく、スキニングが生じにくい。
【0071】
硬化物層を複数段階で積層する場合、硬化物層同士の間に界面が生じる。例えば厚さが1μm以下の薄膜の製造を目的とした樹脂組成物の場合、厚さが1.0mm程度の硬化物を得るためには積層数を増加する必要がある。例えば厚さが1μm以下の薄膜から厚さが1.0mmの膜を製造するためには、積層数を1000回にする必要があるが、このような積層回数は生産効率を向上させる観点から現実的ではない。
【0072】
さらに、積層数の増加により増加した界面は、光透過率が低下し、光分散が増加しやすくなる。本実施形態の樹脂組成物を用いると、厚さが1.0mm程度の硬化物を一段階で製造できる。このため、硬化物層を複数段階で積層する場合にも積層数を減らすことができるため、得られる硬化物は光透過率が低下しにくく、光分散が増加しにくい。
【0073】
硬化物層間の界面をよりなじませるため、例えば1段階目で製造する硬化物層の加熱条件は、前記第2加熱処理まで実施することが好ましく、2段階目で製造する硬化物層の加熱条件は、前記第2加熱処理まで実施することが好ましく、最後に全体を前記第3加熱処理の実施条件で加熱することが好ましい。
【実施例0074】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0075】
<ゲルタイム試験>
樹脂組成物のゲルタイムは、上記[ゲルタイム試験]に記載の方法により評価した。ゲルタイムが3時間以上であると、「ゲルタイムが長い」と評価した。
【0076】
<硬度の測定>
硬化物の硬度は、上記[硬度の測定]に記載の方法により評価した。鉛筆硬度が8H以上を満たすと硬度が高いと評価した。
【0077】
<光透過率の測定>
硬化物の光透過率は、上記[光透過率の測定]に記載の方法により評価した。光透過率が92%以上を満たすと光透過率が高いと評価した。
【0078】
<屈折率及び光分散度の測定>
硬化物の屈折率及び光分散度は、上記[屈折率及び光分散度の測定]に記載の方法により評価した。ガラスコーティング膜の屈折率nDが1.42以下であると、屈折率が低いと評価した。ガラスコーティング膜のアッベ数が58以上であると、光分散度が低いと評価した。
【0079】
<重量平均分子量の測定方法>
共重合体の重量平均分子量は、上記[重量平均分子量の測定方法]に記載の方法により測定した。
【0080】
<実施例1>
2L四つ口フラスコにメチルトリエトキシシラン100.00g(0.561mol)、テトラエトキシシラン77.90g(0.374mol)、ジメチルジエトキシシラン55.44g(0.374mol)、トリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン122.48g(0.561mol)、2-プロパノール35.95gを仕込み、0.98gの35%塩酸をイオン交換水100.94gで希釈した溶液を滴下し、60℃で3時間撹拌した。室温まで冷却し、イオン交換水300g、メチルイソブチルケトン300gを加えて分液洗浄した。有機層を濃縮し、無色透明のワニス1を得た(収率97%)。
【0081】
得られたワニス1は、繰返し単位(A)としてジエトキシジメチルシランから誘導される繰り返し単位を、繰返し単位(B)としてトリエトキシメチルシランから誘導される繰り返し単位を、繰返し単位(C)としてテトラエトキシシランから誘導される繰り返し単位を、繰返し単位(D)としてトリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シランから誘導される繰り返し単位からなる共重合体を固形分濃度70質量%で含んでいた。
【0082】
それぞれの繰り返し単位の割合は、繰返し単位(A):繰返し単位(B):繰返し単位(C):繰返し単位(D)=20mol%:30mol%:20mol%:30mol%であった。
【0083】
サンアプロ製U-CAT SA810(0.10g)を2-プロパノール(99.90g)で希釈し、硬化剤溶液を得た。硬化剤溶液を上記で得たワニス1に添加した。このとき、ワニスの樹脂全固形分の全量に対するサンアプロ製U-CAT SA810の添加量が100ppmとなる割合で添加した。
【0084】
上記の工程により、樹脂組成物1を得た。
【0085】
樹脂組成物1を、固形分が2.0gとなるようアルミカップに添加した。このとき底面積が4cm2であるアルミカップを用いた。
【0086】
その後、熱風乾燥オーブンに樹脂組成物1を添加したアルミカップを入れ50℃で1時間、100℃で1時間、150℃で3時間加熱した。これにより、厚さ1.0mmの無色透明な硬化物1を得た。
【0087】
<実施例2>
硬化剤溶液を、2-プロパノール(229.77g)、DBN(0.10g)、o-フタル酸(0.13g)を混合した溶液に変更した以外は実施例1と同様の方法により、樹脂組成物2及び硬化物2を製造した。
【0088】
<実施例3~10、比較例1~17>
繰返し単位(A)~(D)の比率と、硬化剤溶液を表1及び表2に記載の通り変更した以外は実施例1と同様の方法により、樹脂組成物及び硬化物をそれぞれ製造した。
【0089】
実施例1~10、比較例1~17により製造した樹脂組成物を用いて作成した硬化物又はガラスコーティング膜の、鉛筆硬度、光透過率、屈折率及び光分散度を表1及び表2にそれぞれ記載する。
【0090】
さらに、表3~表4に共重合体の重量平均分子量を記載する。表3~表4中、「Mw」は重量平均分子量を意味する。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
表1及び表2中、各記号は以下を意味する。
(A):ジエトキシジメチルシランから誘導される繰り返し単位。
(B):トリエトキシメチルシランから誘導される繰り返し単位。
(C):テトラエトキシシランから誘導される繰り返し単位。
(D):トリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シランから誘導される繰り返し単位。
T1:サンアプロ製「U-CAT SA810」、DBUのo-フタル酸塩。
T2:サンアプロ製「U-CAT SA506」、DBUのp-トルエンスルホン酸塩。
T3:DBNとo-フタル酸の塩(モル比1:1)。
T4:トリエチルアミン。
T5:トリエチルアミンとo-フタル酸の塩(モル比1:1)。
【0096】
表1及び表2に示した通り、実施例1~10によれば硬度及び光透過率が高く、屈折率及び光分散が低い硬化物を製造できる樹脂組成物が得られた。
【0097】
比較例1~3は、繰返し単位(D)の割合が本発明に規定する範囲の上限を超過しているため、硬化物の硬度が低下している。
比較例4は、繰返し単位(D)を含まないため、屈折率が1.42を超えている。
【0098】
比較例5は、繰返し単位(A)の割合が本発明に規定する範囲の上限を超過しているため、硬化物の硬度が低下している。
比較例6は、繰返し単位(C)の割合が本発明に規定する範囲の上限を超過しているため、硬化物の透過率が低下している。
【0099】
比較例7は繰返し単位(A)を含まないため、硬化時にサンプルが粉々になり、各物性を測定することができなかった。
比較例8は、繰返し単位(A)及び(C)の割合が本発明に規定する範囲の上限を超過し、繰返し単位(B)が本発明に規定する範囲の下限を下回っている。このため、硬化物の透過性が低く及び光分散性が上がっている。
【0100】
比較例9~14は、硬化剤を用いていないため、硬化物の硬度が低い結果となっている。
【0101】
比較例15及び16は、硬化剤として環状アミジンを有する化合物と有機酸との塩を用いていないため、硬化物の硬度が低下している。
比較例17は、硬化剤として環状アミジンを有する化合物と有機酸との塩を用いず、さらに繰返し単位(B)の割合が本発明に規定する範囲の上限を超過し、繰返し単位(D)を含まない。この場合には、硬化物の硬度が低く、屈折率及び光分散は高い結果であった。
【0102】
共重合体の組成比が同じである実施例1と比較例14、実施例5と比較例9、実施例6と比較例10、実施例7と比較例11、実施例8と比較例13、実施例9と比較例12とをそれぞれ比べると、いずれにおいても比較例よりも実施例の方が、鉛筆硬度の高さに加え、アッベ数が高い結果となった。同じ共重合体を用いた場合でも、特定の硬化剤を用いると、鉛筆硬度の高さに加え、アッベ数が高くなることが確認できた。
【0103】
<ゲルタイム試験結果>
実施例1で製造したワニス1に、U-CAT SA810、又はDBUをそれぞれ各量添加し、ゲルタイムを測定した。その結果を表5に記載する。
【0104】
【0105】
硬化剤として、DBUのo-フタル酸塩(U-CAT SA810)を用いた場合には、10000ppm以下の割合においてゲルタイムが3時間以上であった。硬化剤として、環状アミジンを有する化合物と有機酸との塩を用いると、作業上十分なゲルタイムが確保できることが確認できた。
【0106】
硬化剤としてDBU単体を用いた場合には、いずれの添加量においても作業上十分なゲルタイムが確保できないことがわかった。