(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165559
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ワークの加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/70 20140101AFI20221025BHJP
B23K 26/34 20140101ALI20221025BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20221025BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221025BHJP
B33Y 40/20 20200101ALI20221025BHJP
【FI】
B23K26/70
B23K26/34
B23K26/21 Z
B33Y10/00
B33Y40/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070945
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和秀
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠栄
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA35
4E168BA81
4E168CA11
(57)【要約】
【課題】比較的簡易かつ安価な方法により、母材の温度上昇を低減して好ましい冷却速度を維持することが可能になり、その結果製造される金属部材表面の硬度を確保することができ、対応できるワークの形状が多く、高い生産性を確保できるワークの加工方法を提供する。
【解決手段】板状母材10および母材10の片面に形成された硬化層11とからなる金属部材1を製造するワークの加工方法は、母材10よりも厚肉の板状ワーク12の厚み方向の一部に母材10となる本体部13を設け,同じく残部に温度上昇抑制部14を設ける工程と、ワークにレーザビームを照射してレーザ加工部である硬化層11を形成する工程と、ワークから温度上昇抑制部14を除去する工程とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークにレーザ加工を施すことによって、母材および母材表面に形成されたレーザ加工部を有する金属部材を製造するワークの加工方法であって、
ワークにおけるレーザビーム照射部の近傍に温度上昇抑制部を設ける工程と、ワークにレーザビームを照射してレーザ加工部を形成する工程と、前記レーザ加工部が形成されたワークから前記温度上昇抑制部を除去する工程とを含むワークの加工方法。
【請求項2】
前記ワークに、製造すべき金属部材の母材となる本体部と、本体部に付加した温度上昇抑制部とを設けることを特徴とする請求項1記載のワークの加工方法。
【請求項3】
製造すべき金属部材が板状母材および前記母材の片面に形成されたレーザ加工部とからなり、前記ワークが前記母材よりも厚肉の板状であり、前記ワークの厚み方向の一部に前記本体部を設け,同じく残部に前記温度上昇抑制部を設けることを特徴とする請求項2記載のワークの加工方法。
【請求項4】
製造すべき金属部材が棒状母材および前記母材の長手方向の一部の外周面に形成されたレーザ加工部とからなり、前記ワークが前記母材よりも長尺の棒状であり、前記ワークの長手方向の一部に前記本体部を設け、同じく残部に前記温度上昇抑制部を設けることを特徴とする請求項2記載のワークの加工方法。
【請求項5】
前記ワークに、放熱効果を有するヒートシンクからなる温度上昇抑制部を設けることを特徴とする請求項1記載のワークの加工方法。
【請求項6】
前記レーザ加工が、レーザ積層造形である請求項1~5のうちのいずれかに記載のワークの加工方法。
【請求項7】
前記レーザ加工が、レーザ焼入れである請求項1~5のうちのいずれかに記載のワークの加工方法。
【請求項8】
前記ワークにおけるレーザビーム照射部の近傍に温度上昇抑制部を設ける工程と、前記レーザ加工部が形成されたワークから前記温度上昇抑制部を除去する工程とを同一の機械で行うことを特徴とする請求項1~7のうちのいずれかに記載のワークの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワークにレーザ加工を施すことによって、母材および母材表面に形成されたレーザ加工部を有する金属部材を製造するワークの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば金属表面の硬化を目的としたレーザ加工方法として、Laser Metal Depositionなどのレーザ積層造形が良く知られている。レーザ積層造形は、レーザのエネルギーにより金属粉末と母材を溶融し固めることで金属ワークに付加加工を施して積層部を形成する技術である。母材と異なる種類の金属粉末を使用すれば母材表面だけ異種金属でコーティングを行うという様な、従来にない加工方法が可能となる。
【0003】
しかしながら、レーザ積層造形は金属粉末や母材をレーザビームにより加熱溶融するため、レーザビーム照射部は局所的に金属の融点付近の高温に達しており、その熱が母材に伝達して母材が高温になり、好ましい冷却速度を維持することができなくなって、レーザ加工部である積層部の硬度が低下することがあった。同様に、レーザ焼入れ加工など表面の加熱部分の急冷によってレーザ加工部である焼入れ部を形成して硬さを得る加工方法では、焼入れ硬さの不足が問題となる。
【0004】
積層部の硬度の低下や、焼入れ部の焼入れ硬さの不足などに対する対策として、特許文献1には、中空状のワーク内部に冷却用液体を供給しながらレーザ積層造形を施すことでワークの温度上昇を抑制し、積層部の硬度を確保する加工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の方法の場合、冷却用液体を供給するための装置が必要になることや、内部に冷却用液体を通すことができるようなワーク形状に限られるといった課題がある。また、加工後の仕上形状への加工は、別機台で行うため、工程が煩雑となる。
【0007】
この発明の目的は、上記問題を解決し、比較的簡易かつ安価な方法により、母材の温度上昇を低減して好ましい冷却速度を維持することが可能になり、その結果製造される金属部材表面の硬度を確保することができ、対応できるワークの形状が多く、高い生産性を確保できるワークの加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0009】
1)ワークにレーザ加工を施すことによって、母材および母材表面に形成されたレーザ加工部を有する金属部材を製造するワークの加工方法であって、
ワークにおけるレーザビーム照射部の近傍に温度上昇抑制部を設ける工程と、ワークにレーザビームを照射してレーザ加工部を形成する工程と、前記レーザ加工部が形成されたワークから前記温度上昇抑制部を除去する工程とを含むワークの加工方法。
【0010】
2)前記ワークに、製造すべき金属部材の母材となる本体部と、本体部に付加した温度上昇抑制部とを設けることを特徴とする上記1)記載のワークの加工方法。
【0011】
3)製造すべき金属部材が板状母材および前記母材の片面に形成されたレーザ加工部とからなり、前記ワークが前記母材よりも厚肉の板状であり、前記ワークの厚み方向の一部に前記本体部を設け,同じく残部に前記温度上昇抑制部を設けることを特徴とする上記2)記載のワークの加工方法。
【0012】
4)製造すべき金属部材が棒状母材および前記母材の長手方向の一部の外周面に形成されたレーザ加工部とからなり、前記ワークが前記母材よりも長尺の棒状であり、前記ワークの長手方向の一部に前記本体部を設け、同じく残部に前記温度上昇抑制部を設けることを特徴とする上記2)記載のワークの加工方法。
【0013】
5)前記ワークに、放熱効果を有するヒートシンクからなる温度上昇抑制部を設けることを特徴とする上記1)記載のワークの加工方法。
【0014】
6)前記レーザ加工が、レーザ積層造形である上記1)~5)のうちのいずれかに記載のワークの加工方法。
【0015】
7)前記レーザ加工が、レーザ焼入れである上記1)~5)のうちのいずれかに記載のワークの加工方法。
【0016】
8)前記3つの工程を同一の機械で行うことを特徴とする上記1)~7)のうちのいずれかに記載のワークの加工方法。
【発明の効果】
【0017】
上記1)~8)のワークの加工方法によれば、特許文献1記載の方法に比べて簡易かつ安価な方法によって、レーザ加工の入熱による母材や積層部やレーザ照射部に対する過熱によって生じるワークの温度上昇を低減して好ましい冷却速度を維持することが可能になる。したがって、所望の表面特性や表面硬度を有する品質が向上した金属部材を製造することが可能になる。しかも、多種の金属部材の製造が可能になって、高い生産性を確保できる。
【0018】
上記8)のワークの加工方法によれば、ワンチャッキングで加工できるワークの場合にさらなる生産性の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明によるワークの加工方法の実施形態1を工程順に示す断面図である。
【
図2】この発明によるワークの加工方法の実施形態2を工程順に示す断面図である。
【
図3】この発明によるワークの加工方法の実施形態3を工程順に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
実施形態1
この実施形態は
図1に示すものであって、板状母材の片面に異種金属からなる硬化層が形成された金属部材を製造するワークの加工方法である。
【0021】
薄い板状母材10の厚み方向の片面に、レーザ積層造形により異種金属からなる硬化層11が形成された金属部材1(
図1(d)参照)を製造する場合、最終製品である金属部材1の母材10と同一厚さの板状ワークの表面にレーザ積層造形を施すと、ワークの体積が小さくレーザの入熱量が大きい場合、ワークが高温になって変形が発生したり、内部が高温となるためワークの組織が変質したり、焼きなましのような状態になることがある。あるいは、形成されるべき硬化層の冷却が不充分となり、理想の硬さが得られないことがある。その影響を防ぐため、金属部材1を製造するワーク12としては、最終製品である金属部材1の母材10よりも肉厚が大きくて体積が大きい板状のものを用いる。換言すれば、ワーク12の厚み方向の一部に、金属部材1の母材10となる本体部13を設け,同じく厚み方向の残部に余肉部である温度上昇抑制部14を設けておき、後述するレーザ積層造形を施す際の入熱によるワーク12の温度上昇を抑制する(
図1(a)参照)。本体部13の上面(本体部13における温度上昇抑制部14が設けられる側とは反対側の表面)がレーザビーム照射部であり、温度上昇抑制部14はレーザビーム照射部の近傍に設けられている。
【0022】
ついで、レーザビーム照射部にレーザビームを照射し、温度上昇抑制部14の働きによって入熱によるワーク12の温度上昇を抑制しつつ、ワーク12の本体部13の上面にレーザ積層造形を施し、レーザ加工部である硬化層11を形成する(
図1(b)参照)。
【0023】
その後、ワーク12の温度上昇抑制部14を除去するとともに(
図1(c)参照)、硬化層11の表面を含む全体に仕上げ加工を施す(
図1(d)参照)。
【0024】
こうして、金属部材1が製造される。
実施形態2
この実施形態は
図2に示すものであって、丸棒状母材の表面に異種金属からなる硬化層が形成された金属部材を製造するワークの加工方法である。
【0025】
丸棒状母材20の長手方向一端側の半部の外周面および長手方向一端側の端面に、レーザ積層造形により異種金属からなる硬化層21,22が形成された金属部材2(
図2(d)参照)を製造する場合、最終製品である金属部材2の母材20と同一直径および同一長さの丸棒状ワークの長手方向一端側の半部の外周面および長手方向一端側の端面にレーザ積層造形を施すと、ワークに対して外周からの入熱が連続的に発生するとともに、熱の拡散方向が限られるためワークが加熱されやすく、加工中にワークが高温状態になって軟化したり、得られた硬化層21,22の表面の硬度上昇が得られない可能性がある。その影響を防ぐため、ワーク23としては、母材20と同一直径でかつ長尺である体積の大きいものを用いる。換言すれば、ワーク23の長手方向の一部に、金属部材2の母材20となる本体部24を設け,同じく長手方向の残部に余肉部である温度上昇抑制部25を設けておき、後述するレーザ積層造形を施す際の入熱によるワーク23の温度上昇を抑制する(
図2(a)参照)。本体部24の外周面における温度上昇抑制部25側の一定長さ部分がレーザビーム照射部であり、温度上昇抑制部25はレーザビーム照射部の近傍に設けられている。
【0026】
ついで、レーザビーム照射部にレーザビームを照射し、熱を温度上昇抑制部25に逃がすことによって入熱によるワーク23の温度上昇を抑制しつつ、ワーク23の本体部24における温度上昇抑制部25側の一定長さ部分の外周面にレーザ積層造形を施し、レーザ加工部である硬化層21を形成する(
図2(b)参照)。
【0027】
ついで、ワーク23の温度上昇抑制部25を除去する(
図2(c)参照)。
【0028】
その後、温度上昇抑制部25を除去することにより露出した端面にレーザビームを照射してレーザ積層造形を施し、レーザ加工部である硬化層22を形成し、さらに硬化層21,22の表面を含む全体に仕上げ加工を施す(
図2(d)参照)。
【0029】
こうして、金属部材2が製造される。
【0030】
上述した実施形態1および2ではレーザ積層造形について説明したが、板状ワークや丸棒状ワークにレーザ焼入れや他の溶接等の熱を加えるレーザ加工に対しても適用可能である。
実施形態3
この実施形態は
図3に示すものであって、パイプ状母材の外周面に焼入れ部が形成された金属部材を製造するワークの加工方法である。
【0031】
パイプ状母材30の外周面に、レーザ焼入れ法により焼入れ部31が形成された金属部材3(
図3(d)参照)を製造する場合、金属部材3の母材30と同一外径および同一肉厚を有するパイプ状ワークの外周面にレーザ焼入れを施すと、ワークが高温になってレーザビーム照射部の自己冷却作用が弱まり、得られた焼入れ部31の表面の硬度上昇が得られない可能性がある。その影響を防ぐため、ワーク32としては、外径が母材30と同一でかつ周壁の肉厚が母材30よりも厚くて体積の大きいものを用いる。換言すれば、ワーク32の周壁の厚み方向の外側部分に、金属部材3の母材30となる本体部33を設け,同じく厚み方向の内側部分に余肉部である温度上昇抑制部34を設けておき、後述するレーザ焼入れ加工を施す際の入熱によるワーク32の温度上昇を抑制する(
図3(a)参照)。本体部33の外周面がレーザビーム照射部であり、温度上昇抑制部34はレーザビーム照射部の近傍に設けられている。
【0032】
ついで、レーザビーム照射部にレーザビームを照射し、熱を温度上昇抑制部34に逃がすことによって入熱によるワーク32の温度上昇を抑制しつつ、ワーク32の本体部33の外周面にレーザ焼入れ加工を施してレーザ加工部である焼入れ部31を形成する(
図3(b)参照)。
【0033】
ついで、ワーク32の温度上昇抑制部34を除去するとともに(
図3(c)参照)、全体に仕上げ加工を施す(
図3(d)参照)。
【0034】
こうして、金属部材3が製造される。
【0035】
上述した実施形態3ではレーザ焼入れ加工について説明したが、パイプ状ワークにレーザ積層造形や他の溶接等の熱を加えるレーザ加工に対しても適用可能である。
【0036】
上述した3つの実施形態においては、ワークに設けた温度上昇抑制部は、金属部材の母材となる本体部に対して体積が大きくなった部分であるが、これに代えて、ワークの本体部に放熱性を有するヒートシンクを設けてもよい。放熱性を有するヒートシンクとしては、公知のように、ピン状フィンや薄板状フィンやコルゲート状フィンが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明によるワークの加工方法は、母材および母材の表面に形成された硬化層や焼入れ部などのレーザ加工部を有する金属部材の製造に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0038】
1:金属部材、10:母材、11:硬化層、12:ワーク、13:本体部、14:温度上昇抑制部、2:金属部材、20:母材、21,22:硬化層、23:ワーク、24:本体部、25:温度上昇抑制部、3:金属部材、30:母材、31:硬化層、32:ワーク、33:本体部、34:温度上昇抑制部