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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165615
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】スロープ搭載車両
(51)【国際特許分類】
   B60R 3/00 20060101AFI20221025BHJP
   B60R 1/00 20220101ALI20221025BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
B60R3/00
B60R1/00 Z
B60R11/02 S
B60R11/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071023
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 純也
(72)【発明者】
【氏名】大矢 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】本田 勲
(72)【発明者】
【氏名】石田 直也
(72)【発明者】
【氏名】伊達 智啓
(72)【発明者】
【氏名】西 佑司
(72)【発明者】
【氏名】錦邉 健
【テーマコード(参考)】
3D020
3D022
【Fターム(参考)】
3D020BA10
3D020BA20
3D020BC16
3D020BD05
3D020BE03
3D022AA02
3D022AD02
3D022AE08
3D022AE11
(57)【要約】
【課題】車体側部から車体外方へ展開中のスロープが、それに接近してくる移動体に近づくことを抑制する。
【解決手段】スロープ搭載車両10は、車体側部から車体外方に展開可能に設けられたスロープと、スロープの展開動作を制御する制御装置と、スロープの展開領域46から車両前方に離れた一定領域62Aと車両後方に離れた一定領域62Bとの少なくとも一方に位置する移動体86,88,89を検知するセンサ60A,60Bとを備える。制御装置は、センサ60A,60Bの検知結果に基づいて、スロープの展開領域46に対する接近移動体86,89を検出すると共に、その移動速度を検出し、スロープの展開動作を開始させた後に、その動作中に接近移動体86,89がスロープの展開領域46に到達する可能性がある予め定められた基準速度、以上の移動速度を有する接近移動体89を検出した際には、スロープの展開動作を停止させる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側部から車体外方に展開可能に設けられたスロープと、
前記スロープの展開動作を制御する制御装置と、
前記スロープの展開領域から、車両前方に離れた一定領域と車両後方に離れた一定領域との少なくとも一方に位置する移動体を検知するセンサと、を備え、
前記制御装置は、
前記センサの検知結果に基づいて、前記スロープの前記展開領域に対する接近移動体を検出すると共に、その移動速度を検出し、
前記スロープの前記展開動作を開始させた後に、その動作中に前記接近移動体が前記スロープの前記展開領域に到達する可能性がある予め定められた基準速度、以上の移動速度を有する前記接近移動体を検出した際には、前記スロープの前記展開動作を停止させる、
ことを特徴とするスロープ搭載車両。
【請求項2】
請求項1に記載のスロープ搭載車両において、
前記制御装置は、
前記スロープの格納動作をさらに制御し、
前記スロープを展開させている間に、前記基準速度よりも速い速度である予め定められた別の基準速度以上の移動速度を有する前記接近移動体を検出した際には、前記スロープの前記展開動作を停止させた後に、前記スロープの前記格納動作を開始させる、
ことを特徴とするスロープ搭載車両。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスロープ搭載車両において、
前記スロープの前記展開領域から、車両前方に離れた前記一定領域と車両後方に離れた前記一定領域との少なくとも一方に向けて音を出力するように、車体外面に配置されたスピーカー、をさらに備え、
前記制御装置は、
前記スロープを展開させている間に、前記基準速度以上の移動速度を有する前記接近移動体を検出した際には、前記スピーカーから警告音を発生させる、
ことを特徴とするスロープ搭載車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロープ搭載車両に関し、特に、車体側部から車体外方に展開するスロープを有するスロープ搭載車両に関する。
【背景技術】
【0002】
スロープ搭載車両は、歩道、道路等から車椅子、ベビーカー、大型キャリーカート等が車両内へ容易に乗り入れできるように、車両から歩道、道路等に展開するスロープを有している。スロープは、例えば、車体側部の乗降口の下側から車体外方へ展開する。
【0003】
特許文献1には、車両のドアに接近する移動体が検知されている場合に、車両内の乗員によるドアの開操作に基づくドアの開動作を制限するドア装置が開示されている。同文献のドア装置は、ドアの開動作が制限される状態において、乗員により、予め定められた複数回のドア開操作がされた際には、ドアの開動作を許可することで、安全性を確保しつつ、乗員の利便性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-69769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スロープ搭載車両が、道路上で停止して、車体側部から車体外方に向かってスロープを展開させている間に、スロープが展開されている側の車体側方を、移動体が通り抜ける可能性がある。その場合、展開動作中のスロープが、それに接近してくる移動体に近づいてしまう虞がある。
【0006】
本発明の目的は、車体側部から車体外方に展開動作中のスロープが、それに接近してくる移動体に近づくことを抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るスロープ搭載車両は、車体側部から車体外方に展開可能に設けられたスロープと、前記スロープの展開動作を制御する制御装置と、前記スロープの展開領域から、車両前方に離れた一定領域と車両後方に離れた一定領域との少なくとも一方に位置する移動体を検知するセンサと、を備え、前記制御装置は、前記センサの検知結果に基づいて、前記スロープの前記展開領域に対する接近移動体を検出すると共に、その移動速度を検出し、前記スロープの前記展開動作を開始させた後に、その動作中に前記接近移動体が前記スロープの前記展開領域に到達する可能性がある予め定められた基準速度、以上の移動速度を有する前記接近移動体を検出した際には、前記スロープの前記展開動作を停止させる、ことを特徴とする。
【0008】
本発明に係るスロープ搭載車両において、前記制御装置は、前記スロープの格納動作をさらに制御し、前記スロープを展開させている間に、前記基準速度よりも速い速度である予め定められた別の基準速度以上の移動速度を有する前記接近移動体を検出した際には、前記スロープの前記展開動作を停止させた後に、前記スロープの前記格納動作を開始させる、としてもよい。
【0009】
本発明に係るスロープ搭載車両において、前記スロープの前記展開領域から、車両前方に離れた前記一定領域と車両後方に離れた前記一定領域との少なくとも一方に向けて音を出力するように、車体外面に配置されたスピーカー、をさらに備え、前記制御装置は、前記スロープを展開させている間に、前記基準速度以上の移動速度を有する前記接近移動体を検出した際には、前記スピーカーから警告音を発生させる、としてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スロープの展開動作中にその展開領域に到達する可能性がある移動体を検出した際には、スロープの展開動作を停止するので、その展開動作を継続した場合に比べて、スロープが、それに接近してくる移動体に近づくことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る車両の斜視図である。
図2】車両のドアが開くと共にスロープが展開した状態を示す斜視図である。
図3】車両の車室内の乗降口付近を示す図である。
図4】車両とその周辺を上から見た模式図である。
図5】車両のスロープ制御システムの機能ブロック図である。
図6】制御装置によるスロープ制御とスピーカー制御を説明するための図である。
図7】低速の接近移動体を検出した際のスロープ動作を説明するための図である。
図8】中速の接近移動体を検出した際のスロープ動作を説明するための図である。
図9】高速の接近移動体を検出した際のスロープ動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。以下で述べる構成は、説明のための例示であって、車両の仕様等に合わせて適宜変更が可能である。また、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて用いることは当初から想定されている。全ての図面において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下の説明において、特段の断りがない限り、前後左右上下等の方向および向きを表す語句は、車両に関する方向および向きを表す。各図において、矢印FRの向きが前方、矢印UPの向きが上方、矢印LHの向きが左方を表す。
【0013】
図1は、実施形態に係る車両10の斜視図であり、図2は、車両10のドア36が開くと共にスロープ42が展開した状態を示す斜視図であり、図3は、車両10の車室内の乗降口15付近を示す図である。なお、図2、3には、車室内が簡略化して描かれている。
【0014】
図1に示すように、車両10は、略直方体の電気自動車であって、自動運転可能な車両である。具体的には、車両10は、自動運転モード及び手動運転モードを含む複数の運転モードで運転することが可能となっている。
【0015】
車両10は、不特定多数の乗員が乗り合うバスとして利用される。ただし、車両10の利用形態は、適宜、変更可能である。例えば、車両10は、各種商品を陳列販売する小売店、飲食物を調理提供する飲食店等の店舗として用いられてもよい。また、車両10は、事務作業又は顧客との打ち合わせ等を行うためのオフィスとして用いられてもよい。また、車両10は、顧客又は荷物を輸送するタクシー、運送用車両等として用いられてもよい。車両10の利用シーンは、ビジネスに限らず、例えば、個人の移動手段として用いられてもよい。
【0016】
車両10は、車体下部の骨格を形成するベースフレーム11と、ベースフレーム11に取り付けられた車両駆動ユニット12と、ベースフレーム11の上側に設けられて、車室の床を形成するフロアパネル13(図2参照)と、車体上部の外郭を形成するボデー14とを備える。車体の左側部には、乗降口15が形成されている。乗降口15は、前後方向の略中央にあり、車両走行時はドア36により閉じられている。また、車両10は、乗降口15の下側から車体外方に展開するスロープ42(図2参照)を備える。スロープ42は、格納状態では、ベースフレーム11とフロアパネル13の間の隙間に位置する。
【0017】
なお、本実施形態では、車体の左側部に乗降口15が形成されているが、乗降口15は、車体の右側部、または、左右の両側部に形成されていてもよい。また、スロープ42は、乗降口15の位置に合わせて、車体の右側部、または、左右の両側部から車体外方に展開可能に設けられていてもよい。
【0018】
ドア36は、スライドドアであり、車体外面のドア・ボタン20、ドアスロープ・ボタン30、又は車室内のドア・ボタン22(図3参照)の操作により、前方側ドア36が前方に移動すると共に、後方側ドア36が後方に移動することで、乗降口15が開かれる。
【0019】
スロープ42は、図2に示すように、例えば3つのスロープ板42A、42B、42Cを含む。車体外面のドアスロープ・ボタン30又は車室内のスロープ・ボタン32(図3参照)の操作により、スロープ42が車体外方に展開する。具体的には、ドアスロープ・ボタン30又はスロープ・ボタン32が押下された際には、まず、スロープ板42Aが繰り出され、次にスロープ板42Bが、繰り出し済みのスロープ板42Aにガイドされながら繰り出され、さらにスロープ板42Cが、繰り出し済みのスロープ板42Bにガイドされながら繰り出される。そして、スロープ板42Cの先端が歩道、道路などに接すると、スロープ42の展開動作が完了する。
【0020】
図3に示すように、フロアパネル13の下側であって乗降口15の手前側(車両左側)には、スロープ42を格納する格納部45が設けられている。スロープ42は、展開時には、格納部45から車体外方に展開され、格納時には、車体外方から格納部45に戻るようになっている。
【0021】
車両10は、2つのドア・ボタン20,22と、1つのドアスロープ・ボタン30と、1つのスロープ・ボタン32とを備える。これらのボタンは、人の指等により押されることでスイッチが閉じられ、または、開かれて、ボタン操作が検出される形式のボタン(押しボタン)である。図1に示すように、ドア・ボタン20は、ドア36の外面に設けられており、ドアスロープ・ボタン30は、乗降口15よりも後側の車体側面に設けられている。なお、ドアスロープ・ボタン30は、乗降口15よりも前側の車体側面に設けられていてもよい。また、図3に示すように、ドア・ボタン22とスロープ・ボタン32は、車室内のドア36近傍の壁に設けられている。
【0022】
ドア36の閉状態において、ドア・ボタン20,22のいずれか1つが押下されることで、ドア36が開くようになっており、ドア36の開状態において、ドア・ボタン20,22のいずれか1つが押下されることで、ドア36が閉まるようになっている。
【0023】
また、ドア36の閉状態、かつ、スロープ42の格納状態において、ドアスロープ・ボタン30が押下されることで、ドア36が開くと共にスロープ42が展開するようになっており、ドア36の開状態、かつ、スロープ42の展開状態において、ドアスロープ・ボタン30が押下されることで、ドア36が閉まると共にスロープ42が格納されるようになっている。
【0024】
また、スロープ42の格納状態において、スロープ・ボタン32が押下されることで、スロープ42が展開するようになっており、スロープ42の展開状態において、スロープ・ボタン32が押下されることで、スロープ42が格納されるようになっている。
【0025】
車両外にいる、スロープ42の使用を望む乗客は、ドアスロープ・ボタン30を押下して、ドア36を開けるとともにスロープ42を展開させることで、車椅子、ベビーカー、大型キャリーカート等とともに車両10内に乗り込むことになる。また、車室内にいる、スロープ42の使用を望む乗客は、ドア・ボタン22とスロープ・ボタン32の両方を押下して、ドア36を開けるとともにスロープ42を展開させることで、車椅子、ベビーカー、大型キャリーカート等とともに車両10から降りることになる。
【0026】
ここで、図1に示すように、車両10は、車体前面の左端部に、物体検知センサ60Aとスピーカー70Aを備えている。物体検知センサ60Aとスピーカー70Aは、上下に並べられて配置されており、それらは、車体の比較的低い位置に配置されている。
【0027】
図4は、道路80に停止している車両10とその周辺を上から見た模式図である。同図には、車両10が、歩道82に向かってスロープを展開しようとしている様子が示されており、スロープ42が展開される領域46(以下、スロープの展開領域46と言う)が示されている。車両10は、車体後面の左端部にも、物体検知センサ60Bとスピーカー70Bを備えている。車体後面の物体検知センサ60Bとスピーカー70Bは、車体前面のそれらと同様に、上下に並べられて配置されており、車体の比較的低い位置に配置されている。なお、図4では、図示の都合上、物体検知センサ60A,60Bのそれぞれに対して、スピーカー70A,70Bの位置が車両前後方向にずらされている。
【0028】
物体検知センサ60Aは、スロープの展開領域46から前方に離れた一定領域62A(図4において破線62Aで囲まれた領域)に位置する物体を検知するセンサである。物体検知センサ60Bは、スロープの展開領域46から後方に離れた一定領域62B(図4において破線62Bで囲まれた領域)に位置する物体を検知するセンサである。本実施形態では、物体検知センサ60A,60Bは、それぞれ、一定領域62A,62Bに位置する移動体を検知する。移動体は、例えば歩行者86、ランナー87、自転車88、モーターサイクル(オートバイ)89等である。以下では、一定領域62A,62Bのそれぞれを検知領域62A,62Bとも言う。
【0029】
物体検知センサ60Aの検知領域62Aは、スロープの展開領域46の前方であって、車体前面から距離L1だけ離れた位置までの領域であり、距離L1は例えば5~20mである。また、物体検知センサ60Bの検知領域62Bは、スロープの展開領域46の後方であって、車体後面から距離L2だけ離れた位置までの領域であり、距離L2も例えば5~20mである。なお、距離L1,L2は、同じであっても、異なっていてもよい。図4では、図示の都合上、車両10の全長に対して、検知領域62A,62Bの長さL1,L2が若干短めに描かれている。
【0030】
物体検知センサ60A,60Bは、例えば、カメラ(ステレオカメラを含む)、ライダ(Lidar)、ミリ波レーダ、超音波センサ等のいずれか1つにより、または、それらを2つ以上組み合わせて構成される。なお、物体検知センサ60A,60Bは、ここで列挙したセンサに限定されるものではない。以下、物体検知センサ60Aを、単にセンサ60Aまたは前方側センサ60Aと言い、物体検知センサ60Bを、単にセンサ60Bまたは後方側センサ60Bと言う。
【0031】
以下で説明するように、本実施形態では、制御装置が、センサ60A,60Bの検知結果(移動体の位置)に基づいて、スロープの展開領域46に接近する移動体(接近移動体と言う)を検出する。
【0032】
スピーカー70Aは、スロープの展開領域46から、前方に離れた一定領域62Aに位置する移動体に向けて音を出力する装置であり、スピーカー70Bは、スロープの展開領域46から、後方に離れた一定領域62Bに位置する移動体に向けて音を出力する装置である。以下、スピーカー70Aを、前方側スピーカー70Aとも言い、スピーカー70Bを、後方側スピーカー70Bとも言う。
【0033】
図5は、車両のスロープ制御システム90の機能ブロック図である。車両10は、スロープ制御システム90とスロープ装置40を備える。
【0034】
スロープ制御システム90は、ドアスロープ・ボタン30と、スロープ・ボタン32と、制御装置50(コントローラ)と、前方側センサ60Aと、後方側センサ60Bと、前方側スピーカー70Aと、後方側スピーカー70Bとを備える。
【0035】
制御装置50は、CPUを有するプロセッサ52と、制御プログラム、制御データ等を記憶したメモリ54とを含む。メモリ54は、例えばRAM、ROM、フラッシュメモリ等である。プロセッサ52は、メモリ54に記憶された制御プログラムに従って動作することで、スロープ装置40の制御、接近移動体とその移動速度の検出、およびスピーカー70A,70Bの制御を行う。なお、プロセッサ52は、CPUに代えて、またはそれとともにASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を含んでもよい。また、制御装置50は、物理的に分離された複数のプロセッサを含んでもよい。また、制御装置50は、物理的に分離された、スロープの制御部(スロープ装置40を制御するコントローラ)、接近移動体の検出部(接近移動体とその移動速度を検出するコンピュータ)、およびスピーカーの制御部(スピーカー70A,70Bを制御するコントローラ)を組み合わせて構成されてもよい。
【0036】
スロープ装置40は、スロープ42と、スロープ42を展開及び格納させるアクチュエータであるスロープ展開格納機構41とを含む。
【0037】
制御装置50には、ドアスロープ・ボタン30と、スロープ・ボタン32と、スロープ装置40のスロープ展開格納機構41と、前方側センサ60Aと、後方側センサ60Bと、前方側スピーカー70Aと、後方側スピーカー70Bとが電気的に接続されている。
【0038】
ここから、制御装置50による、スロープ42の制御、接近移動体の検出、およびスピーカー70A,70Bの制御について説明する。制御装置50は、スロープ42の格納状態において、ドアスロープ・ボタン30またはスロープ・ボタン32の押下によるスロープ展開指令を受けた際には、スロープ展開格納機構41を制御して、スロープ42を車両外方に展開させる。また、制御装置50は、スロープ42の展開状態において、ドアスロープ・ボタン30またはスロープ・ボタン32の押下によるスロープ格納指令を受けた際には、スロープ展開格納機構41を制御して、スロープ42を車体内に格納させる。
【0039】
制御装置50は、スロープ展開指令によりスロープ42の展開動作を開始した直後から、その展開領域46に対する接近移動体と、その移動速度を検出する。具体的には、制御装置50は、図4に示すように、センサ60Bから、その検知領域62B内に存在する移動体89の位置P1と、t秒後の同一の移動体89の位置P2とを取得して、検知領域62B内の移動体89における2つの位置P1,P2から、移動体89がスロープの展開領域46に近づいているか否かを検出する。具体的には、制御装置50は、図4に示す移動体89のように、位置P1に対して位置P2がスロープの展開領域46側にあれば、移動体89を接近移動体であると認識する。一方、制御装置50は、位置P1に対して位置P2がスロープの展開領域46(車両10)から離れる側にあれば、移動体を接近移動体ではないと認識する。なお、制御装置50は、検知領域62B内に複数の移動体が位置する場合には、それらの各移動体について、接近移動体であるか否かを検出する。
【0040】
これは、センサ60Aの検知領域62A内に存在する移動体についても同じである。すなわち、制御装置50は、センサ60Aから、その検知領域62A内に存在する各移動体86,88の位置P1(不図示)と、t秒後の同一の各移動体86,88の位置P2(不図示)とを取得して、検知領域62A内の各移動体86,88における2つの位置P1,P2から、各移動体86,88がスロープの展開領域46に近づいているか否か(各移動体86,88が接近移動体であるか否か)を検出する。図4に示す例では、制御装置50は、移動体86,89を接近移動体であると認識し、移動体88を接近移動体ではないと認識する。
【0041】
次に、制御装置50は、各接近移動体の移動速度mvを検出する。具体的には、制御装置50は、図4に示すように、接近移動体89の位置P1,P2の間の距離LM(移動量LM)を時間tで除算することにより、接近移動体89の移動速度mvを検出する。図4に示す例では、制御装置50は、2つの接近移動体86,89のそれぞれの移動速度mvを検出する。
【0042】
次に、制御装置50は、接近移動体の移動速度mvに基づいて、スロープ42の展開動作と、スピーカー70A,70Bを制御する。なお、図4に示す例のように、複数の接近移動体86,89が検出された際には、制御装置50は、最も速度mvが速い接近移動体(同図では例えばモーターサイクル89)の移動速度mvに基づいて、スロープ42の展開動作と、スピーカー70A,70Bを制御する。
【0043】
図6は、制御装置50が行う、接近移動体の移動速度mvに基づく、スロープ42の展開動作の制御と、スピーカー70A,70Bの制御について示す表である。制御装置50は、接近移動体の移動速度mvが、予め定められた基準速度V1よりも低い場合(図6のNo.1、低速の場合)には、スロープ42の展開動作を継続し、スピーカー70A,70Bから警告音を発生させない。これは、図7に示すように、接近移動体として、例えば歩行者86Aが検出された場合である。同図には、スロープ42が展開される側の車体側方(車体左側)を通り抜けようとする歩行者86Aと、それに対して、展開動作が継続されて、その動作が完了したスロープ42が示されている。
【0044】
ここで、予め定められた基準速度V1は、スロープ42の展開動作中に、検出された接近移動体がスロープの展開領域に到達する可能性がある速度である。V1は、例えば、スロープ42の展開動作が開始されたタイミングで、検知領域62Bの車両前後方向の中央位置にいる接近移動体が、速度V1(基準速度)で継続して移動した際に、その接近移動体が、スロープ42の展開動作が完了するタイミングで、スロープの展開領域に到達する速度である。V1は、例えば時速7km程度であるが、それに限定されるものではない。
【0045】
図7に示すように、接近移動体86Aの移動速度mvが、基準速度V1より低い場合(低速である場合)には、その接近移動体86Aが、スロープ42の展開動作中にその展開領域に到達しない、または、到達したとしても、接近移動体86Aが低速であるため、スロープ42に近づくことを回避しやすい。そのため、制御装置50は、スロープ42の展開動作を優先させる。これにより、後述するようなスロープ42の展開動作の停止がなく、スロープ42の使用を望む乗客(車体外面のドアスロープ・ボタン30、または、車室内のスロープ・ボタン32を押下した乗客等)は、スロープ42を迅速に使用することができる。
【0046】
一方、制御装置50は、接近移動体の移動速度mvが、予め定められた基準速度V1以上、かつ、予め定められた別の基準速度V2未満の場合(図6のNo.2、中速の場合)には、スロープ42の展開動作を停止させ、スピーカー70A,70Bから警告音を発生させる。なお、この場合の警告音は、後述する、接近移動体の移動速度mvがV2以上の場合(高速の場合)の警告音よりも小音量の音である。これは、図8に示すように、接近移動体として、例えば自転車88Aが検出された場合である。同図には、スロープ42が展開される側の車体側方(車体左側)を通り抜けようとする自転車88Aと、それに対して、展開動作が停止されたスロープ42が示されている。なお、V2は、例えば、時速20km程度であるが、それに限定されるものではない。
【0047】
図8に示すように、接近移動体88Aの移動速度mvが、V1以上、かつ、V2未満の場合(中速である場合)には、その接近移動体88Aが、スロープ42の展開動作中にスロープの展開領域に到達する可能性が高い。そのため、制御装置50が、スロープ42の展開動作を停止することで、その動作を継続した場合に比べて、スロープ42が、その展開領域に到達する接近移動体88Aに近づくことを抑制することができる。また、この際、制御装置50がスピーカー70A,70Bから警告音を発生させることで、接近移動体88Aに、スロープ42が展開動作中であることを気づかせることができる。そのため、接近移動体88Aは、積極的にブレーキをかける機会を得ることができ、スロープの展開領域に近づくことを抑制することができる。
【0048】
なお、警告音については、例えば、制御装置50のメモリ54に警告音の音データを格納しておき、プロセッサ52が、メモリ54からその音データを読み出して再生することで、スピーカー70A,70Bからそれを出力する。これは、以下で説明する接近移動体が高速である場合も同じである。
【0049】
また、制御装置50は、接近移動体の移動速度mvが、V2以上の場合(図6のNo.3、高速の場合)には、スロープ42の展開動作を停止させた後、スロープ42の格納動作を開始する。また、制御装置50は、スピーカー70A,70Bから警告音を発生させる。なお、この場合の警告音は、前述した、接近移動体の移動速度mvが中速の場合における警告音よりも大音量の音である。これは、図9に示すように、接近移動体として、例えばモーターサイクル89Aが検出された場合である。同図には、スロープ42が展開される側の車体側方(車体左側)を通り抜けようとするモーターサイクル89Aと、それに対して、展開動作が停止され、その後、格納動作が開始されてわずかな時間が経った後のスロープ42が示されている。
【0050】
図9に示すように、接近移動体89Aの移動速度mvが、V2以上の場合(高速である場合)には、その接近移動体89Aが、スロープ42の展開動作中にスロープの展開領域に比較的速い速度で到達する可能性がある。そのため、制御装置50が、スロープ42の展開動作を停止させた後、格納動作を開始することで、その格納動作を開始しない場合に比べて、スロープ42が、その展開領域に到達する接近移動体89Aに近づくことを抑制することができる。また、制御装置50がスピーカー70A,70Bから比較的、大音量で警告音を発生させることで、高速で移動する接近移動体89Aに、スロープ42が展開動作中であることを気づかせることができる。そのため、接近移動体89Aは、積極的にブレーキをかける機会を得ることができ、スロープの展開領域に近づくことを抑制することができる。
【0051】
以上説明した本実施形態のスロープ制御システム90によれば、中速の接近移動体が検出された際には、スロープ42の展開動作を停止し、さらに、高速の接近移動体が検出された際には、スロープ42の展開動作を停止した後、格納動作を開始することで、スロープ42が、中速または高速の接近移動体に近づくことを抑制することができる。また、中速または高速の接近移動体に対して警告音を発するため、その接近移動体が、スロープの展開領域に近づくことも抑制することができる。一方、低速の接近移動体に対しては、スロープ42の展開動作を継続するので、車両10の乗客等が、スロープ42を迅速に使用することができる。
【0052】
次に、変形例について説明する。
【0053】
制御装置50は、センサ60A,60Bから、同一の接近移動体の位置を時間間隔をあけて3回以上取得することで、複数回、同一の接近移動体の移動速度を検出し、それらに基づいて、スロープ42の制御を行ってもよい。例えば、制御装置50は、同一の接近移動体について、1回目の速度検出では移動速度mvが、V2以上(高速)であったが、2回目の速度検出では移動速度mvが、V1以上かつV2未満(中速)になった際には、スロープ42の展開動作を停止するのみ(格納動作を行わない)としてもよい。さらに、制御装置50は、3回目の速度検出において、その接近移動体の移動速度mvがV1未満(低速)になった際には、スロープ42の展開動作を停止させない(展開動作を継続する)としてもよい。このようにすることで、接近移動体がブレーキをかけた際などに、過剰にスロープ42の展開動作を制限することを避けることができる。
【0054】
また、例えば、制御装置50は、同一の接近移動体について、1回目の速度検出では移動速度mvが、V1未満(低速)であったが、2回目の速度検出では移動速度mvが、V1以上かつV2未満(中速)になった際には、スロープ42の展開動作を停止させてもよい。さらに、制御装置50は、3回目の速度検出において、その接近移動体の速度mvがV2以上(高速)になった際には、スロープ42の展開動作を停止させた後、格納動作を開始させてもよい。このようにすることで、接近移動体が加速してきた際に、スロープ42が接近移動体に近づくことを的確に抑制することができる。
【0055】
また、以上説明した実施形態では、車両前部と車両後部の両方に、センサ60A,60Bを配置していた。しかし、車両前部と車両後部のいずれか一方のみにセンサ60A(または60B)を配置してもよい。同様に、車両前部と車両後部のいずれか一方のみにスピーカー70A(または70B)を配置してもよい。
【0056】
また、スピーカー60A,60Bから出力する警告音は、例えば、スロープの展開動作が行われていることを知らせる音声であってもよい。例えば、音声データを、制御装置50のメモリ53に格納しておき、プロセッサ52が、メモリ53から音声データを読み出して再生することで、その音声をスピーカー70A,70Bから出力する。
【0057】
また、制御装置50は、スピーカー70Aとスピーカー70Bを独立して制御してもよい。すなわち、制御装置50は、前方側センサ70Aの検知領域62Aに位置する接近移動体(複数の接近移動体がいる場合にはそれらの中の最も速い接近移動体)の移動速度mv(図6における低速、中速、または高速)に応じて、前方側スピーカー70Aの警告音の有無、音量を制御してもよい。同様に、制御装置50は、後方側センサ70Bの検知領域62Bに位置する接近移動体(複数の接近移動体がいる場合にはそれらの中の最も速い接近移動体)の移動速度mv(図6における低速、中速、または高速)に応じて、後方側スピーカー70Bの警告音の有無、音量を制御してもよい。
【0058】
また、乗降口15近傍の車体外面と、車室内の乗降口15近傍の内壁との少なくとも一方に、スピーカーを設置してもよい。接近移動体に起因して、スロープ42の展開動作の停止、又は、格納が行われる際に、このスピーカーから、それを伝える音声を流すようにする。これにより、乗員等は、スロープ42の展開動作の停止、又は、格納が行われること、および、その理由を知ることができる。
【符号の説明】
【0059】
10 車両(スロープ搭載車両)、11 ベースフレーム、12 車両駆動ユニット、13 フロアパネル、14 ボデー、15 乗降口(車両乗降口)、20,22 ドア・ボタン、30 ドアスロープ・ボタン、32 スロープ・ボタン、36 ドア(スライドドア)、40 スロープ装置、41 スロープ展開格納機構、42 スロープ、42A,42B,42C スロープ板、45 格納部、46 領域(スロープの展開領域)、50 制御装置(コントローラ)、52 プロセッサ、54 メモリ、60A 前方側センサ(センサ,物体検知センサ)、60B 後方側センサ(センサ,物体検知センサ)、62A,62B 破線(検知領域,一定領域)、70A 前方側スピーカー、70B 後方側スピーカー、80 道路、82 歩道、86,86A 歩行者(移動体,接近移動体)、87 ランナー(移動体)、88 自転車(移動体)、88A 自転車(移動体,接近移動体)、89,89A モーターサイクル(移動体,接近移動体)、90 スロープ制御システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9