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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165650
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】塔状建造物の転倒方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/08 20060101AFI20221025BHJP
   F03D 13/20 20160101ALI20221025BHJP
【FI】
E04G23/08 J
F03D13/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071076
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 英夫
(72)【発明者】
【氏名】下田 利男
(72)【発明者】
【氏名】金 浩昭
【テーマコード(参考)】
2E176
3H178
【Fターム(参考)】
2E176AA11
2E176DD21
2E176DD61
3H178AA02
3H178AA22
3H178BB41
3H178BB77
3H178CC22
3H178DD67X
(57)【要約】
【課題】高所作業が不要で施工コストと作業手間を低減できるとともに、転倒方向を正確に制御できる塔状建造物の転倒方法を提供する。
【解決手段】基礎部6に支持された塔状建造物(発電用風車1)の転倒方法であって、塔状建造物の転倒方向とは反対側において基礎部近傍に第一切断部20を形成する第一切断部形成工程と、塔状建造物の転倒方向側において基礎部近傍に第二切断部25を形成する第二切断部形成工程と、塔状建造物の下部に転倒方向を制御する転倒方向制御装置30を設ける転倒方向制御装置設置工程と、転倒方向制御装置30で転倒方向を制御しながら塔状建造物を転倒させる転倒工程と、を備えたことを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎部に支持された塔状建造物の転倒方法であって、
前記塔状建造物の転倒方向とは反対側において前記基礎部近傍に第一切断部を形成する第一切断部形成工程と、
前記塔状建造物の転倒方向側において前記基礎部近傍に第二切断部を形成する第二切断部形成工程と、
前記塔状建造物の下部に前記転倒方向を制御する転倒方向制御装置を設ける転倒方向制御装置設置工程と、
前記転倒方向制御装置で前記転倒方向を制御しながら前記塔状建造物を転倒させる転倒工程と、を備えた
ことを特徴とする塔状建造物の転倒方法。
【請求項2】
前記転倒方向制御装置設置工程では、前記第一切断部に複数の押上手段を配置し、
前記転倒工程では、前記押上手段で前記塔状建造物を押し上げて前記塔状建造物を転倒させ、複数の前記押上手段による前記第一切断部の押上量を調整することで前記塔状建造物の転倒方向を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の塔状建造物の転倒方法。
【請求項3】
前記転倒方向制御装置設置工程では、偶数個の前記押上手段を、前記転倒方向に沿った線を中心に線対称形状に配置する
ことを特徴とする請求項2に記載の塔状建造物の転倒方法。
【請求項4】
前記転倒方向制御装置設置工程では、前記第一切断部の下縁部を跨ぐ架台を前記第一切断部の下部に設け、前記架台の上に前記押上手段を設置する
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の塔状建造物の転倒方法。
【請求項5】
前記押上手段は、上方に向けて進出するロッドを備えたジャッキであり、
前記転倒方向制御装置設置工程では、前記ジャッキの上端に前記第一切断部の上縁部に当接する球面座金を設ける
ことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の塔状建造物の転倒方法。
【請求項6】
前記転倒方向制御装置設置工程では、転倒時に転倒方向の左右いずれかに偏座屈が生じた場合に偏座屈の進行が進んだ側の第二切断部25の上縁部を瞬間的に支える偏座屈抑制部材を複数設け、それ以上の偏座屈発生側への転倒を瞬間的に抑制し、前記塔状建造物の転倒方向を左右方向へ修正することで制御する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の塔状建造物の転倒方法。
【請求項7】
前記転倒方向制御装置設置工程では、前記塔状建造物の転倒方向側に縦方向に延在するスリットを設けるとともに、前記スリットに挿通される方向誘導板を前記転倒方向に沿って立設し、
前記転倒工程では、前記スリットに前記方向誘導板が挿通された状態を維持しながら前記塔状建造物を転倒させることで前記塔状建造物の転倒方向を制御する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の塔状建造物の転倒方法。
【請求項8】
前記転倒方向制御装置設置工程では、前記塔状建造物の左右両側で、所定距離離れた位置に重しをそれぞれ載置するとともに、前記重しに接続された方向制御ワイヤーを、前記塔状建造物の上端部に接続する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の塔状建造物の転倒方法。
【請求項9】
前記塔状建造物は、タワーとナセルとブレードとを備えた発電用風車であり、
前記塔状建造物が転倒した際に前記ナセルが着地する設置面を掘り下げるとともに、前記タワーの上端部が転倒する部分に盛土を施す整地工程を、さらに備えた
ことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の塔状建造物の転倒方法。
【請求項10】
転倒作業中に想定される外力を考慮したFEM解析を行い、前記第一切断部と前記第二切断部の形状を、前記外力を受けても転倒しないように設定する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の塔状建造物の転倒方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塔状建造物の転倒方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塔状建造物を転倒させる方法としては、例えば、特許文献1や特許文献2に示すものがあった。特許文献1には、発電用風車の倒し方法が開示されている。かかる倒し方法は、塔の途中高さ位置を折り曲げるための折曲位置として設定する折曲位置設定工程と、塔の上端部に第1のワイヤの一端を固定し、第1のワイヤを折曲位置の近傍に設けられた中継部を通して下方に導いて取り付ける紐状体取付け工程と、塔の折曲位置で且つ曲げ方向とは反対側に切断部を形成する切断部形成工程と、塔の折曲位置より上部に対して曲げ方向に力を加えて折り曲げる動作を第2のワイヤを下方に引っ張りつつ行う曲げ工程と、を有し、曲げ工程をナセル及びブレードが所定の低位置に至るまで継続することを特徴とする。これにより、発電用風車の迅速かつ簡単な解体が行われている。
特許文献2には、基礎部を活用した塔状建造物の倒し方法が開示されている。かかる倒し方法は、基礎部を略水平方向に切断して基礎部を上部基礎と下部基礎とに分割する基礎部分割工程と、上部基礎を上方から略水平面まで縦方向に切断し、上部基礎を支持基礎部と分離基礎部とに分割する上部基礎分割工程と、分離基礎部を除去する除去工程と、支持基礎部の縦方向切断面の下端辺を転倒軸として、塔状建造物を支持基礎部と一緒に倒す倒し工程と、を有する方法であり、重心よりも塔状建造物の倒れ方向側に転倒軸が位置する。これにより、頑丈な基礎部の転倒軸がそのまま転倒支点となることから、座屈荷重の集中によっても基礎部が損壊する虞は無く、意図する方向へと塔状建造物を倒すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/092609号
【特許文献2】国際公開第2018/189852号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の倒し方法では、クレーンなどの揚重機で塔の上端部にワイヤを固定する高所作業が発生する。発電用風車においては、大型クレーンが必要となり、コストが高くなるとともに、設置、解体作業等の段取りに多くの手間を要する。
特許文献2の倒し方法では、ジャッキによる押し上げ作業により塔を倒す方向の制御が困難である。作業中の強風により、切込み個所から亀裂が進展し、想定外の方向へ倒れる恐れがある。
このような観点から、本発明は、高所作業が不要で施工コストと作業手間を低減できるとともに、転倒方向を正確に制御できる塔状建造物の転倒方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決するための本発明は、基礎部に支持された塔状建造物の転倒方法である。かかる塔状建造物の転倒方法は、前記塔状建造物の転倒方向とは反対側において前記基礎部近傍に第一切断部を形成する第一切断部形成工程と、前記塔状建造物の転倒方向側において前記基礎部近傍に第二切断部を形成する第二切断部形成工程と、前記塔状建造物の下部に前記転倒方向を制御する転倒方向制御装置を設ける転倒方向制御装置設置工程と、前記転倒方向制御装置で前記転倒方向を制御しながら前記塔状建造物を転倒させる転倒工程と、を備えたことを特徴とする。
本発明に係る塔状建造物の転倒方法によれば、塔状建造物の下部に転倒方向制御装置を設け、この転倒方向制御装置で転倒方法を制御するので、高所作業が不要となり、施工コストと作業手間を低減させることができるとともに、転倒方向を正確に制御することができる。
【0006】
本発明の塔状建造物の転倒方法において、前記転倒方向制御装置設置工程では、前記第一切断部に複数の押上手段を配置し、前記転倒工程では、前記押上手段で前記塔状建造物を押し上げて前記塔状建造物を転倒させ、複数の前記押上手段による前記第一切断部の押上量を調整することで前記塔状建造物の転倒方向を制御することが好ましい。切断部の押上量は、押上手段による押上速さ、押上長さ、または押上圧力を適宜変更することで調整する。このような方法によれば、簡単な作業で転倒方向を正確に制御することができる。
【0007】
本発明の塔状建造物の転倒方法において、前記転倒方向制御装置設置工程では、偶数個の前記押上手段を、前記転倒方向に沿った線を中心に線対称形状に配置することが好ましい。このような方法によれば、押上手段が左右対称になるので、押上量の制御が容易になる。
【0008】
本発明の塔状建造物の転倒方法において、前記転倒方向制御装置設置工程では、前記第一切断部の下縁部を跨ぐ架台を前記第一切断部の下部に設け、前記架台の上に前記押上手段を設置することが好ましい。このような方法によれば、フランジ及びアンカーボルトに干渉することなく押上手段を設置することができる。
【0009】
本発明の塔状建造物の転倒方法において、前記押上手段は、上方に向けて進出するロッドを備えたジャッキであり、前記転倒方向制御装置設置工程では、前記ジャッキの上端に前記第一切断部の上縁部に当接する球面座金を設けることが好ましい。このような方法によれば、塔状建造物が転倒する際に、塔状建造物の転倒角度に追従して球面座金が回動するので、第一切断部の上縁部を面で押圧することができる。
【0010】
本発明の塔状建造物の転倒方法において、前記転倒方向制御装置設置工程では、転倒時に転倒方向の左右いずれかに偏座屈が生じた場合に偏座屈の進行が進んだ側の第二切断部25の上縁部を瞬間的に支える偏座屈抑制部材を複数設け、それ以上の偏座屈発生側への転倒を瞬間的に抑制し、前記塔状建造物の転倒方向を左右方向へ修正することで制御することが好ましい。このような方法によれば、第二切断部の上縁部を支えることで、容易に塔状建造物の転倒方向を制御することができる。
【0011】
本発明の塔状建造物の転倒方法において、前記転倒方向制御装置設置工程では、前記塔状建造物の転倒方向側に縦方向に延在するスリットを設けるとともに、前記スリットに挿通される方向誘導板を前記転倒方向に沿って立設し、前記転倒工程では、前記スリットに前記方向誘導板が挿通された状態を維持しながら前記塔状建造物を転倒させることで前記塔状建造物の転倒方向を制御することが好ましい。このような方法によれば、スリットが方向誘導板に沿って移動することで、容易に塔状建造物の転倒方向を制御することができる。
【0012】
本発明の塔状建造物の転倒方法において、前記転倒方向制御装置設置工程では、前記塔状建造物の左右両側で所定距離離れた位置に重しをそれぞれ載置するとともに、前記重しに接続された方向制御ワイヤーを、前記塔状建造物の上端部に接続することが好ましい。このような方法によれば、塔状建造物に転倒方向とは異なる方向への応力が作用しようとすると、異なる方向とは反対側の方向制御ワイヤーが塔状建造物を支えるので、想定外の方向への転倒を防止できる。
【0013】
本発明の塔状建造物の転倒方法において、前記塔状建造物は、タワーとナセルとブレードとを備えた発電用風車であり、前記塔状建造物が転倒した際に前記ナセルが着地する設置面を掘り下げるとともに、前記タワーの上端部が転倒する部分に盛土を施す整地工程を、さらに備えたことが好ましい。このような方法によれば、塔状建造物の転倒時の衝撃を分散して地盤に伝達することができるので、塔状建造物の局部的な破損を抑制できる。
【0014】
本発明の塔状建造物の転倒方法において、転倒作業中に想定される外力を考慮したFEM解析を行い、前記第一切断部と前記第二切断部の形状を、前記外力を受けても転倒しないように設定することが好ましい。このような方法によれば、想定される外力を受けた場合での塔状建造物の転倒を防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の塔状建造物の転倒方法によれば、高所作業が不要で施工コストと作業手間を低減できるとともに、転倒方向を正確に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】塔状建造物の転倒状態を示した側面図である。
図2】塔状建造物の転倒状態を示した平面図である。
図3】本発明の第一の実施形態に係る塔状建造物の転倒方法における塔状建造物の下端部を示した図であって、(a)は断面図、(b)は側面図である。
図4】本発明の第一の実施形態に係る塔状建造物の転倒方法における塔状建造物の下端部を示した斜視図である。
図5】本発明の第一の実施形態に係る塔状建造物の転倒方法における押出手段を示した断面図である。
図6】本発明の第二の実施形態に係る塔状建造物の転倒方法における塔状建造物の下端部を示した斜視図である。
図7】本発明の第二の実施形態に係る塔状建造物の転倒方法における塔状建造物の下端部を示した断面図である。
図8】本発明の第三の実施形態に係る塔状建造物の転倒方法を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第一の実施形態に係る塔状建造物の転倒方法について、添付した図面を参照しながら説明する。かかる塔状建造物の転倒方法は、工場等の塔状建造物を転倒させる方法である。図1は、塔状建造物の転倒状態を示した側面図、図2は平面図である。本実施形態では、図1および図2に示すように、発電用風車を解体する際に転倒させる場合を例に挙げて、塔状建造物の転倒方法を説明する。
発電用風車1は、タワー2とナセル3とブレード4とを備えている。タワー2は、例えば鋼管にて構成された筒状の塔体であり、地盤5に固設された基礎部6に固定支持されている。基礎部6にはアンカーボルト7が植設されており、タワー2の下端部には、アンカーボルト7に固定されるタワーフランジ8が形成されている(図3および図4参照)。タワーフランジ8は、円形のリング状を呈しており、複数のアンカーボルト7,7が挿通されている。アンカーボルト7には、ナット9が螺合されている。ナセル3は、ブレード4の回転を利用して発電する装置であり、タワー2の上端部に設置されている。ナセル3は、ケーシング3aの内部に、動力回転軸と増速機とブレーキ装置と発電機とを備えて構成されている。ケーシング3aは、タワー2の上端部で、回転軸方向に沿って前後に突出している。増速機は、動力回転軸の回転数を増やす装置であって、複数のギヤを組み合わせて設けられている。ブレーキ装置は、メンテナンス時等に動力回転軸の回転を停止させる装置である。ブレード4は、ナセル3の前端部に設けられたハブに複数本(例えば3本)設けられ、ハブを中心に放射状に配置されている。
【0018】
本実施形態に係る塔状建造物の転倒方法は、発電用風車(塔状建造物)1を所望の方向へ転倒させる方法である。発電用風車1を転倒させる方向は、電線など障害物がなく、地上での二次解体が可能な平場がある方向で、且つ、着地時のブレード4の破壊を抑制するためにブレード4の回転面に対して正対する方向である。塔状建造物の転倒方法は、整地工程と、第一切断部形成工程と、第二切断部形成工程と、転倒方向制御装置設置工程と、転倒工程と、を備えている。
【0019】
整地工程は、図1および図2に示すように、発電用風車1が転倒する位置の地盤を発電用風車1の形状に合わせて整地する工程である。具体的には、発電用風車1が転倒した際にナセル3の先端部に設けられたハブ(ブレード4が取り付けられた回転中心となる部材)が着地する設置面を掘り下げて凹部10を形成するとともに、タワー2の上端部が転倒する部分に盛土を施して凸部11を形成する。凹部10は、ナセル3の先端部で、ブレード4よりも突出した距離と同等の深さを備えており(図1参照)、ブレード4の配置形状に沿って平面視で三方向に放射状に形成されている(図3参照)。凸部11は、タワー2の先端部(上端部)から基端部に向けて所定長さ(側面視でブレード4が存在する長さ)で形成されている。凸部11は、ナセル3の先端部のハブが凹部10の底面に接地した際に、タワー2の転倒下側縁部に当接する高さを備えている。
【0020】
第一切断部形成工程は、図3および図4に示すように、発電用風車1の転倒方向とは反対側において、基礎部6近傍(タワー2の下端部)に第一切断部20を形成する工程である。以下、方向を示す際に、転倒方向を「前側」と称し、転倒方向とは反対側を「後側」と称する場合がある。第一切断部20は、木材の伐採において追口に相当する開口(切欠き)部分であって、発電用風車1が転倒する際に拡開する。第一切断部20は、水平部21と、ジャッキ部22とを備えている。
水平部21は、タワー2の鋼管の後端部から、前側に向かって水平に延在するスリット状に形成される。水平部21の前端は、鋼管の前後方向中間部に位置している。ジャッキ部22は、水平部21の下部に、後記する押上手段31となるジャッキを設置するためのスペースであって、水平部21の下端部から所定幅で下方に広がる側面視矩形の切欠き部である。水平部21とジャッキ部22は、左右両側にそれぞれ設けられており、転倒方向に沿った線を中心に線対称形状に形成されている。左右の第一切断部20,20の間の鋼管は、切除されずそのまま残置されている(以下、連結部23と称する)。連結部23は、第一切断部形成工程の切断中の転倒を防止するために、鋼管の後端部に残されており、転倒工程において最終的に切断される部分である。
【0021】
第二切断部形成工程は、発電用風車1の転倒方向側(前側)において、基礎部6近傍(タワー2の下端部)に第二切断部25を形成する工程である。第二切断部25は、木材の伐採において受口に相当する開口(切欠き)部分であって、発電用風車1が転倒する際に閉口する。第二切断部25は、側面視で水平辺部26と斜辺部27とを備えた楔状に形成される。水平辺部26は、第二切断部25の上縁部に位置し、第一切断部20の水平部21の上縁部と同じ高さに形成される。斜辺部27は、第二切断部25の下縁部に位置し、前端から後端に向かって高くなっている。第二切断部25の後端部は、鋼管の前後方向中間部で第一切断部20の前端部との間に間隔をあけた部分に位置しており、第一切断部20と第二切断部25との間の左右両側には、切残し部29が残されている。切残し部29は、木材の伐採においてツルに相当する部分であって、転倒工程で発電用風車1が転倒する際に変形して破断する。切残り部29の長さは、第一切断部形成工程および第二切断部形成工程において、切断時の風圧や地震力により切断作業中に倒れない寸法とする。具体的には、風車の重心軸に対する切断面の断面係数を求め、自重及び風圧や地震時の転倒モーメントに対して抵抗できるように線形計算で求める。ここで第二切断部25が楔状の形状であり後端部が鋭角状に切断されているのは、転倒中の局部座屈をここに集中させるためである。仮に後端部が矩形あるいは円形であると、局部座屈が左右対称の高さに発生しない可能性が大きくなる。
本実施形態では、第二切断部25の前端に、最終切断部28(図3および図4参照)が設けられている。最終切断部28は、第二切断部形成工程の切断中の転倒を防止するために、鋼管の前端部に残されており、転倒工程において最終的に切断される部分である。最終切断部28は、水平辺部26の前端部と斜辺部27の前端部との間に掛け渡された断面円弧状の板部である。発電用風車1に風圧などによって曲げ荷重が作用した場合、後方の最終切断部である連結部23のみであれば、連結部23に対して圧縮側の荷重が作用した場合、座屈を生じる恐れがある。本実施形態では、前記荷重に対しては最終切断部28が引張力を負担するため、連結部23の座屈の恐れを解消できる。逆に最終切断部28に圧縮、連結部23に引張が作用する場合も同様の作用効果が得られる。なお、最終切断部28は、必要に応じて形成すればよく、最終切断部28がなくても鋼管の強度が確保できるのであれば、設けなくてもよい。
第一切断部20と第二切断部25の形状は、転倒作業中に風圧や地震力等の想定される外力を考慮したFEM解析によって、外力を受けても転倒しないように予め決定しておく。図3では、第二切断部25の水平辺部26が上縁に位置するとともに斜辺部27が下縁に位置し、水平辺部26が第一切断部20の水平部21の上縁部と同じ高さに形成している状態を説明したが、第二切断部25の水平辺部26と斜辺部27は上下逆でも良いし、ジャッキ(押上手段31)の押上げによる第二切断部25の後端部の局部座屈が発生する範囲であれば、第一切断部20の水平部21の上縁部と同じ高さでなくとも良い。これらはFEM解析によって効率的な切断配置をあらかじめ決定しておく。
【0022】
転倒方向制御装置設置工程は、発電用風車1の下部に転倒方向を制御する転倒方向制御装置30を設ける工程である。転倒方向制御装置30は、第一切断部20に設けられた押上手段31と、第二切断部25に設けられた偏座屈抑制部材32とを備えている。
押上手段31は、タワー2の下端部を押し上げるものであって、複数個(本実施形態では2個)設けられている。押上手段31は、転倒方向に沿った線(タワー2の中心を通る前後方向の線)を中心に左右両側に線対称形状に配置されている。複数の押上手段31,31によるタワー2の押上量を調整することで、発電用風車1の転倒方向を制御する。押上手段31は、上方に向けて進出するロッド31bを備えたジャッキであり、例えば油圧にて作動する。ジャッキは、シリンダ31aが下側に配置され、シリンダ31aに対してロッド31bが上方向に進出するように構成されている。ロッド31bの上端には、球面座金33が設けられており、押上手段31は、球面座金33を介して第一切断部20の上縁部に当接する。このような構成によれば、発電用風車1が転倒する際に、発電用風車1の転倒角度に追従して球面座金33が回動するので、第一切断部20の上縁部を面で押圧することができる。球面座金33の上面には、タワー2の鋼管に接続される補強リブ34が立設されている。補強リブ34は、鋼管の内側に取り付けられる内側リブと、外側に取り付けられる外側リブとからなる。内側リブと外側リブは、鋼管の径方向に沿って同一面上に配置されている。内側リブと外側リブとからなる補強リブ34は、球面座金33上に2組設けられている。2組の補強リブ34は、鋼管の径方向に沿って放射状に配置されている。補強リブ34は、FEM解析によって、タワー2のジャッキ支圧箇所の局部座屈を発生させないように設計されている。
【0023】
押上手段31の下部には、押上手段31を設置する架台35が設けられている。架台35は、アンカーボルト7、タワーフランジ8およびナット9が、押上手段31と干渉しないようにするためのものである。架台35は、脚部と台座部とを有し、第一切断部20の下縁部とタワーフランジ8を跨ぐように配置されている。架台35と押上手段31は、第一切断部20のジャッキ部22に配置されている。
【0024】
偏座屈抑制部材32は、転倒時に転倒方向の左右いずれかに偏座屈が生じた場合に、偏座屈の進行が進んだ側の第二切断部25の上縁部を瞬間的に支える部材であって、門型形状を呈した鋼材にて構成されている。偏座屈抑制部材32は、第二切断部25の下端縁の斜辺部27を上方から覆うように配置されている。座屈抑制部材32は、タワー2の側壁およびタワーフランジ8に溶接されている。偏座屈抑制部材32は、2個設けられており、転倒方向に沿った線を中心に左右両側に線対称形状に配置されている。このような構成の偏座屈抑制部材32によれば、発電用風車1の転倒方向が左にずれようとすると、左側の偏座屈抑制部材32が第二切断部25の左側の水平辺部26と衝突し、それ以上の左側への転倒(左側の偏座屈)を瞬間的に抑制し、タワー2の転倒方向を右方向へ修正しようとする。これによって、発電用風車1の転倒方向が左右にずれないように制御できる。なお、偏座屈抑制部材32は、押上手段31による転倒方向の制御を補助する役目を果たすものであって、必要に応じて設ければよく、設けない場合もある。
【0025】
転倒方向制御装置設置工程では、第一切断部20側において、架台35を設置した後に、予め球面座金33を取り付けておいた押上手段31を固定する。そして、第一切断部20の上縁部に補強リブ34を設置してタワー2の鋼管に溶接する。さらに、球面座金33を第一切断部20の上縁部と補強リブ34に当接させる。一方、第二切断部25側において、門型の偏座屈抑制部材32を第二切断部25の斜辺部27を覆うように設置して、下端部をタワーフランジ8の表面に溶接する。
【0026】
転倒工程は、転倒方向制御装置30で転倒方向を所望の方向に制御しながら発電用風車1を転倒させる工程である。転倒工程では、まず、第一切断部20の中間部に位置する連結部23を溶断する。なお、設計上は、この段階でも発電用風車1は倒れることはない。次に、押上手段31のジャッキでタワー2のジャッキアップを開始する。転倒工程では、転倒方向制御装置30で転倒方向を所望の方向に制御しながら発電用風車1を転倒させる。具体的には、左右の押上手段31,31を同等に伸長させながら、例えば右側の局部座屈が大きくなったら、右側の押上手段31のジャッキを伸長させるといった操作をし、第一切断部20の押上量を調整しながら、転倒方向を確実に第二切断部25の切断面方向に制御する。なお、ジャッキの伸長操作は、遠隔操作にて行う左右のジャッキの伸長は、各々に作用する油圧およびストロークの伸長が分かるようにスケールと共にカメラ撮影し、遠隔操作所で両者を監視しながら、油圧(荷重)を調整する。
発電用風車1が転倒した際には、ナセル3の先端部に設けられたハブが凹部10の底に着地するとともに、タワー2の上端部は同じタイミングで凸部11に着地するので、発電用風車1の転倒時の衝撃を分散して地盤に伝達することができる。これによって、発電用風車1の局部的な破損および部材の飛散を抑制することができる。転倒工程が終了した後は、通常の作業のように、クレーンや解体重機を用いて地上で解体作業を行う。
【0027】
以上のような塔状建造物の転倒方向によれば、高所作業が不要となり、大型クレーンを利用しなくて済むので、施工コストと作業手間を低減させることができる。また、転倒工程は、遠隔作業で行うので、作業環境がより一層良好になる。
さらに、本実施形態では、転倒方向制御装置30が押上手段31であり、押上手段31による第一切断部20の押上量を調整することで発電用風車1の転倒方向を制御しているので、簡単な作業で転倒方向を正確に制御することができる。また、押上手段31は、転倒方向に沿った線を中心に左右対称に配置されているので、押上量の制御をバランス良く容易に行うことができる。
また、本実施形態では、タワーフランジ8を跨ぐ架台35を設け、架台35の上に押上手段31を設置しているので、押上手段31を、タワーフランジ8及びアンカーボルト7に干渉することなく安定した状態で設置することができる。
【0028】
本実施形態では、押上手段31のジャッキの上端に、球面座金33を設けているので、発電用風車1が転倒する際に、発電用風車1の転倒角度に追従して球面座金33が回動する。これによって、第一切断部20の上縁部を常時、面で押圧することができるので、鋼管への局所的な応力集中を抑制できる。
本実施形態では、第二切断部25に偏座屈抑制部材32を設けているので、簡単な構成で且つ操作を行うことなく、発電用風車1の想定外の方向への転倒を防止できる。また、偏座屈抑制部材32は、押上手段31による転倒方向の制御を補助する役目を果たすので、押上手段31の作動操作を低減することができる。
本実施形態では、第一切断部と第二切断部の形状を、転倒作業中に想定される外力を考慮したFEM解析によって、外力を受けても転倒しないように設定しているので、発電用風車1の予期せぬ転倒を防止できる。よって、安全性が高く作業環境がより一層良好となる。
【0029】
次に、第二実施形態に係る塔状建造物の転倒方法について、図6および図7を参照しながら説明する。図6および図7に示すように、第二実施形態では、第一実施形態の転倒方向制御装置30の偏座屈抑制部材32に代えて、方向誘導板50が設けられている。方向誘導板50は、発電用風車1の転倒方向を誘導するものであって、転倒方法に沿って配置されている。方向誘導板50は、タワーフランジ8の前端縁部から前方に延出する支持フランジ52に立設されている。すなわち、方向誘導板50は、タワー2の前縁部において立設されており、タワー2の鋼板の内側から、前方に向かって延在している。方向誘導板50は、扇形状を呈した鋼板にて構成されており、円弧部分が前側上方に向いて配置されている。支持フランジ52は、基礎部6に新設したアンカーボルト7aが挿通される挿通孔(図示せず)を有し、アンカーボルト7aにナット9aが螺合することで、基礎部6に固定されている。方向誘導板50の左右両面と支持フランジ52の上面には、補強リブ53が掛け渡されている。
タワー2の第二切断部25には、方向誘導板50を挿通するスリット51が形成されている。スリット51は、第二切断部25の上縁部の水平辺部26から上方の鉛直方向に延在する上部スリット51aと、第二切断部25の下縁部の斜辺部27から下方の鉛直方向に延在する下部スリット51bとを備えている。上部スリット51aと下部スリット51bとは、転倒方向に沿う鉛直面上に配置されている。上部スリット51aの左右両側には、補強部材54が設けられている。補強部材54は、タワー2の表面に沿って湾曲した棒状部材にて構成されており、第二切断部25と同等の周方向長さを備えている。補強部材54は、タワー2の外側表面に溶接されている。補強部材54は、上下に間隔をあけて二段設けられている。このような構成によれば、発電用風車1が転倒する際に、スリット51が、方向誘導板50に沿って移動する。つまり、方向誘導板50が転倒方向のガイドとなり、転倒方向を正確に制御することができる。なお、その他の構成については、第一実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0030】
第二実施形態の塔状建造物の転倒方法における転倒方向制御装置設置工程では、押上手段31と方向誘導板50を設置する。具体的には、タワー2の下端部にスリット51を形成した後に、支持フランジ52と一体化された方向誘導板50を立設する。
第二実施形態によれば、第二切断部25にスリット51を形成して、方向誘導板50をしたことで、第一実施形態の偏座屈抑制部材32と同様に、簡単な構成で且つ別途の操作を行うことなく、発電用風車1の想定外の方向への転倒を防止できる。また、方向誘導板50は、押上手段31による転倒方向の制御を補助する役目を果たすので、押上手段31の作動操作を低減することができる。
【0031】
次に、第三実施形態に係る塔状建造物の転倒方法について、図8を参照しながら説明する。図8に示すように、第三実施形態では、第一実施形態の転倒方向制御装置30の偏座屈抑制部材32に代えて、方向制御ワイヤー60と重し61とが設けられている。方向制御ワイヤー60は、発電用風車1のタワー2の上端部がら左右両側に張られた一対のワイヤーにて構成されている。方向制御ワイヤー2の上端部は、タワー2の上端部に係止され、下端部は、発電用風車1の左右に所定距離離して配置された重し61に接続されている。方向制御ワイヤー2は、左右対称に張られており、二等辺三角形の斜辺を構成している。重し61は、本実施形態では、コンクリートブロックにて構成されており、タワー2の左右両側でタワー2から所定距離離れた地上に載置されている。方向制御ワイヤー60の傾斜角度や強度と、重し61の重量は、転倒の作業中止基準に相当する風圧に対して抵抗可能な数値に設定されている。なお、重し61は、コンクリートブロックに限定されるものではない。敷き鉄板を重ねて重し61としてもよいし、杭を形成して重し61としてもよい。
【0032】
第三実施形態の塔状建造物の転倒方法における転倒方向制御装置設置工程では、タワー2の左右両側でタワー2から所定距離離れた地上に重し61をそれぞれ載置するとともに、重し61に接続された方向制御ワイヤー60を、タワー2上端部に係止する。
第三実施形態によれば、発電用風車1に転倒方向とは異なる方向への応力が作用しようとすると、異なる方向とは反対側の方向制御ワイヤー60が発電用風車1を支えるので、想定外の方向への転倒を防止できる。また、方向制御ワイヤー60は、押上手段31による転倒方向の制御を補助する役目を果たすので、押上手段31の作動操作を低減することができる。
以下に、重し61を、コンクリートブロックまたは敷き鉄板にした場合と、杭にした場合とを比較する。重し61を杭にすると、発電用風車1が目標方向に転倒しない場合は方向制御ワイヤー60に大きな引張力が作用し、ワイヤーの破断、杭の破損等が想定される。重し61をコンクリートブロックまたは敷き鉄板にすると、発電用風車1に設計力以上の力が作用された場合、重し61は方向制御ワイヤー60に引っ張られて滑動するため、方向制御ワイヤー60の破断や重し61の破損等の可能性は低減される。
【0033】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定する趣旨ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。たとえば、前記実施形態では、押上手段31は偶数個(2個)設けられ、左右対称に配置されているが、これに限定されるものではない。押上手段31を奇数個設け、一つを左右の中間部に配置し、残りを左右対称に配置してもよい。
また、前記実施形態では、押上手段31でタワー2をジャッキアップして転倒させるようにしているが、これに限定されるものではない。例えば、方向誘導板50を設けておいて、発電用風車1の後方から通常のクレーンを用いて転倒させるようにしてもよい。このような転倒方法においても、高所作業が不要となり、大型クレーンを利用しなくて済むので、施工コストと作業手間を低減させることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 発電用風車(塔状建造物)
2 タワー
3 ナセル
4 ブレード
5 地盤
6 基礎部
7 アンカーボルト
8 タワーフランジ
10 凹部
11 凸部
20 第一切断部
25 第二切断部
30 転倒方向制御装置
31 押上手段
32 偏座屈抑制部材
33 球面座金
35 架台
50 方向誘導板
51 スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8