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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165658
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】アウトリガ張出支援装置
(51)【国際特許分類】
   B66C 23/78 20060101AFI20221025BHJP
   B66C 13/00 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
B66C23/78 H
B66C13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071086
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100145229
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100201352
【弁理士】
【氏名又は名称】豊田 朝子
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(72)【発明者】
【氏名】神田 真輔
【テーマコード(参考)】
3F205
【Fターム(参考)】
3F205AA05
3F205FA10
(57)【要約】
【課題】揚重装置においてオペレータのアウトリガ張出作業を支援する。
【解決手段】アウトリガ張出支援装置10は、アウトリガ20を備える揚重装置のカメラ30から、アウトリガ20の移動範囲を含む画像を取得する画像取得部1と、アウトリガ20の張出量を取得する張出量取得部2と、張出量から画像の中の、揚重装置に応じたアウトリガ20が張り出す認識範囲を設定する認識範囲設定部3と、画像および張出量からアウトリガ張出の危険度を算出する危険度算出部4と、危険度算出部4が算出した危険度が閾値以上の場合に警告を表示する報知部5と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウトリガを備える揚重装置の周辺監視カメラから、前記アウトリガの移動範囲を含む画像を取得する画像取得部と、
前記アウトリガの張出量を取得する張出量取得部と、
前記張出量から前記画像の中の、前記揚重装置に応じた前記アウトリガが張り出す認識範囲を設定する認識範囲設定部と、
前記画像および前記張出量からアウトリガ張出の危険度を算出する危険度算出部と、
前記危険度算出部が算出した前記危険度が閾値以上の場合に警告を表示する報知部と、
を備えるアウトリガ張出支援装置。
【請求項2】
前記危険度算出部は、前記アウトリガがスライド動作するときの他の物体と干渉する確率を算出して、前記干渉する確率から干渉危険度を算出し、
前記報知部は、前記干渉危険度が第1閾値以上の場合に警告を表示する、
請求項1に記載のアウトリガ張出支援装置。
【請求項3】
前記危険度算出部は、前記アウトリガがスライド動作するときの他の物体と干渉する確率を算出するニューラルネットワークの第1学習済モデルを含み、前記第1学習済モデルが算出した干渉する確率から干渉危険度を算出する、請求項2に記載のアウトリガ張出支援装置。
【請求項4】
前記危険度算出部は、前記アウトリガのフロートが接地する位置の地面の崩壊確率を算出するニューラルネットワークの第2学習済モデルを含み、前記崩壊確率から崩壊危険度を算出し、
前記報知部は、前記崩壊危険度が第2閾値以上の場合に警告を表示する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のアウトリガ張出支援装置。
【請求項5】
前記アウトリガのフロートを作動するジャッキ圧、および、前記フロートの変位量を取得する動作入力部を備え、
前記危険度算出部は、前記ジャッキ圧および前記変位量から前記フロートが接触している地面の耐力危険度を算出し、
前記報知部は、前記耐力危険度が第3閾値以上の場合に警告を表示する、
請求項1から4のいずれか1項に記載のアウトリガ張出支援装置。
【請求項6】
前記報知部が前記警告を表示する場合に、前記アウトリガを作動する制御装置に停止指令を出力する停止指令部を備える、請求項1から5のいずれか1項に記載のアウトリガ張出支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚重装置のアウトリガ張出作業を支援するアウトリガ張出支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラッククレーン、ラフテレーンクレーン、オールテレーンクレーン等の陸上を車輪で走行するクレーンは一般に、クレーン作業中の機体の安定を保つためにアウトリガが装備されている。これらの揚重装置では、横に張り出したアウトリガのフロートを地面に接地させて機体をつり上げ、機体を水平に保ってクレーン作業を行う。移動式クレーンを設置する時は、機体および吊荷の重量によってアウトリガが沈下しないように地面の性質や地盤の強度(地耐力) を確認する必要がある。
【0003】
クレーンでは、オペレータが周囲の状況を視認するために、周辺監視カメラを備えていることが多い。例えば、特許文献1には、揚重装置に備えられるカメラの画像を用いて、吊荷を移動させる作業がより安全に遂行されるように支援する作業支援装置が記載されている。特許文献1の作業支援装置は、揚重装置のブームにおけるブーム先端部の下方が撮影された画像上に、前記ブーム先端部に設けられ吊荷を支持する支点の下方に位置する揚重点に対応させて前記吊荷の揚重に係る作業員の安全性判定のための範囲を、前記吊荷の揚重状態の安全確認が実施される所定の高さに前記吊荷が吊揚げられるまでの段階に決定する範囲調整部と、前記支点の下方の画像に基づいて、前記範囲内における人員の有無を検出する対象者検出部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-080054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クレーンのアウトリガを接地するときは、地盤の強度不足や埋設物の破損等により、機体が転倒する恐れがある箇所を避ける必要がある。また、アウトリガを張り出すときに、他の物体との干渉を避ける必要がある。これらの安全確認は、クレーンのオペレータに任されているが、アウトリガ張出作業の安全性を確保するためにオペレータを支援するものはなかった。
【0006】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたもので、揚重装置においてオペレータのアウトリガ張出作業を支援することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の観点に係るアウトリガ張出支援装置は、
アウトリガを備える揚重装置の周辺監視カメラから、前記アウトリガの移動範囲を含む画像を取得する画像取得部と、
前記アウトリガの張出量を取得する張出量取得部と、
前記張出量から前記画像の中の、前記揚重装置に応じた前記アウトリガが張り出す認識範囲を設定する認識範囲設定部と、
前記画像および前記張出量からアウトリガ張出の危険度を算出する危険度算出部と、
前記危険度算出部が算出した前記危険度が閾値以上の場合に警告を表示する報知部と、
を備える。
【0008】
好ましくは、
前記危険度算出部は、前記アウトリガがスライド動作するときの他の物体と干渉する確率を算出して、前記干渉する確率から干渉危険度を算出し、
前記報知部は、前記干渉危険度が第1閾値以上の場合に警告を表示する。
【0009】
好ましくは、
前記危険度算出部は、前記アウトリガがスライド動作するときの他の物体と干渉する確率を算出するニューラルネットワークの第1学習済モデルを含み、前記第1学習済モデルが算出した干渉する確率から干渉危険度を算出する。
【0010】
好ましくは、
前記危険度算出部は、前記アウトリガのフロートが接地する位置の地面の崩壊確率を算出するニューラルネットワークの第2学習済モデルを含み、前記崩壊確率から崩壊危険度を算出し、
前記報知部は、前記崩壊危険度が第2閾値以上の場合に警告を表示する。
【0011】
好ましくは、アウトリガ張出支援装置は、
前記アウトリガのフロートを作動するジャッキ圧、および、前記フロートの変位量を取得する動作入力部を備え、
前記危険度算出部は、前記ジャッキ圧および前記変位量から前記フロートが接触している地面の耐力危険度を算出し、
前記報知部は、前記耐力危険度が第3閾値以上の場合に警告を表示する。
【0012】
好ましくは、アウトリガ張出支援装置は、
前記報知部が前記警告を表示する場合に、前記アウトリガを作動する制御装置に停止指令を出力する停止指令部を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アウトリガの移動範囲を含む画像および張出量からアウトリガ張出の危険度を算出し、危険度が閾値以上の場合に警告を表示するので、アウトリガ張出作業を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態1に係るアウトリガ張出支援装置の構成を示すブロック図
図2】実施の形態1に係る危険度算出部の機能構成を示すブロック図
図3】実施の形態1に係るニューラルネットワークの例を示す図
図4】実施の形態1に係る画像の認識範囲の例を示す図
図5】実施の形態1に係るアウトリガ張出支援の動作の一例を示すフローチャート
図6】アウトリガ張出支援の動作の異なる例を示すフローチャート
図7】実施の形態2に係るアウトリガ張出支援装置の構成を示すブロック図
図8】実施の形態2に係る危険度算出部の機能構成を示すブロック図
図9】実施の形態2に係るアウトリガ張出支援の動作の一例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。
【0016】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るアウトリガ張出支援装置の構成を示すブロック図である。アウトリガ張出支援装置10(以下、単に支援装置10という場合がある)は、カメラ30からアウトリガ20の移動範囲を含む画像を取得し、アウトリガ張出の危険度を算出して、危険度が閾値以上の場合に警告を表示する。
【0017】
図1には1つのアウトリガ20しか示されていないが、アウトリガ20は、図示しないクレーンに複数備えられる。アウトリガ20は、クレーンの走行時はビーム21を縮めて下部走行体に寄せられている。クレーン作業を行う時には、ビーム21をスライドして伸ばし、フロート22を接地させてアウトリガ20で機体をつり上げ、機体を水平に保つ。
【0018】
1台以上のカメラ30は、クレーンの周辺監視カメラであって、アウトリガ20それぞれの移動範囲を含む領域を撮像して画像を出力する。クレーンには、アウトリガ20と同数のカメラ30が備えられてもよいし、1台のカメラ30で2以上のアウトリガ20の移動範囲を含む画像を出力してもよい。
【0019】
支援装置10はまた、クレーン制御装置50からアウトリガ20の張出量を取得して、画像の中の、クレーンに応じたアウトリガ20が張り出す認識範囲を設定する。アウトリガ20は最大限に張り出すことが基本であるが、アウトリガ20を最大限に張り出すことができない場合で、クレーンに掛かる荷重が張出幅に応じた定格荷重を確実に下回ると見込まれる時は、張出量を最大より小さくする場合がある。クレーン制御装置50は、設定されたアウトリガ20の張出量に応じて、吊り荷の最大重量と移動範囲を設定する。
【0020】
支援装置10は、画像取得部1、張出量取得部2、認識範囲設定部3、危険度算出部4、報知部5、および、停止指令部6を備える。画像取得部1は、カメラ30からアウトリガ20の移動範囲を含む画像を取得する。張出量取得部2は、クレーン制御装置50から、アウトリガ20の張出量を取得する。張出量は、支援装置10に直接入力されてもよい。その場合、クレーン制御装置50にも張出量が入力されるか、アウトリガ張出幅検出装置を備えて、張出量を自動的に検出する。アウトリガ張出幅検出装置を備える場合、張出量取得部2は実際に張出操作されたアウトリガの張出量をクレーン制御装置50から取得してもよい。
【0021】
認識範囲設定部3は、画像の中のクレーンに応じたアウトリガ20が張り出す認識範囲を設定する。カメラ30の位置と撮像範囲はアウトリガ20の最大張出量の範囲を含むように決められているので、認識範囲は張出量に応じて画像の座標で表すことができる。張出量取得部2が実際に張出操作されたアウトリガの張出量をクレーン制御装置50から取得する場合、操作された張出量に最大張出量以下の範囲で追加張出量を加算した想定張出量を設定された張出量として、認識範囲を設定してもよい。
【0022】
危険度算出部4は、画像および張出量からアウトリガ張出の危険度を算出する。すなわち、画像の中の認識範囲の画素から、アウトリガ張出の危険度を算出する。アウトリガ張出の危険度は、アウトリガ20がスライド動作するときに他の物体と干渉する干渉危険度、アウトリガ20のフロート22が接地する位置の地面の崩壊危険度、および、フロート22が接触している地面の耐力危険度、の少なくとも1つを含む。
【0023】
崩壊危険度は、接地面の種類、接地面の傾斜・変動などで決まる、接地面の崩落および滑りの危険度である。接地面の種類は例えば、砂利、側溝、傾斜面、敷鉄板など地表面に表れている性質である。耐力危険度は、フロート22が接地する地盤の強度が、安全率を考慮した許容支持力を満たさない可能性をいう。実施の形態1では、危険度算出部4は干渉危険度および崩壊危険度を算出する。
【0024】
報知部5は、危険度算出部4が算出した危険度が閾値以上の場合に警告を表示する。実施の形態1では、干渉危険度が第1閾値以上の場合に警告を表示し、また崩壊危険度が第2閾値以上の場合に警告を表示する。警告を表示するには、例えば、ブザーを鳴動させたり、スピーカから警告音を発生させたりする。また、ランプを点灯させたり、オペレータが監視する画面に警告のアイコンや画像を表示させたりする。警告には、音響表示と視覚表示を併用することができる。
【0025】
報知部5は、危険度に応じた警告の種類によって、表示の種類を変えてもよい。例えば、干渉危険度が第1閾値以上の場合と、崩壊危険度が第2閾値以上の場合とで、鳴動のパターンを変えたり、警告音の種類を変えたりする。また、点灯するランプまたはランプの点滅パターンを変えることができる。
【0026】
停止指令部6は、報知部5が警告を表示する場合に、アウトリガ20を作動するクレーン制御装置50に停止指令を出力する。停止指令を受けたクレーン制御装置50は、作動中のアウトリガ張出動作を停止し、または、作動させようとしていたアウトリガ張出動作を行わない。クレーン制御装置50は、停止指令を受けた場合でも、オペレータの操作によって停止を解除できるようにしてもよい。
【0027】
図2は、実施の形態1に係る危険度算出部の機能構成を示すブロック図である。実施の形態1では、危険度算出部4はニューラルネットワークの学習済モデル41と、危険度演算部43を備える。
【0028】
学習済モデル41は、画像の認識範囲から、アウトリガ20がスライド動作するときの他の物体との干渉と非干渉の2状態に分類するニューラルネットワーク、および、フロート22が接地する位置の地面の崩壊と非崩壊の2状態に分類するニューラルネットワーク、の2つのニューラルネットワークを含む。
【0029】
図3は、実施の形態1に係るニューラルネットワークの例を示す図である。干渉と非干渉を分類するニューラルネットワークと、崩壊と非崩壊を分類するニューラルネットワークは、分類ニューラルネットワークとして類似の構造を有し、どちらも図3の構造で表される。
【0030】
ニューラルネットワーク45は、それぞれ人工ニューロン(以下、単にニューロンという)から構成されるノードを含む入力層、中間層および出力層、ならびに、互いに隣接する層の間でノードを相互に接続するエッジから構成される。中間層は、1層以上のn層を含む。入力層の各ノードi(i=1...k)には、画像の認識範囲のそれぞれの画素値xiが入力される。中間層では、それぞれ前の層の出力が結合され活性化関数で演算された結果が後の層に伝達されて、最終的に出力層に出力される。中間層で、畳み込み層とプーリング層を繰り返すことにより、認識範囲の画像データを干渉と非干渉、または、崩壊と非崩壊に分類する。出力層は、干渉と非干渉、または、崩壊と非崩壊のノードを有し、ノードj(j=1、2)はそれぞれ、画像データが状態jに分類される確率pjを出力する。
【0031】
ニューラルネットワーク45には、干渉および非干渉、あるいは、崩壊および非崩壊に分類されている複数の画像データを入力し、画像データが分類されている状態と、ニューラルネットワーク45の出力との差をバックプロパゲーションして各パラメータを調整することで、機械学習させておく。機械学習させる画像データは、少なくとも、干渉する場合の画像データと干渉しない場合の画像データ、あるいは、崩壊する場合の画像データと崩壊しない場合の画像データを含む。
【0032】
図4は、実施の形態1に係る画像の認識範囲の例を示す図である。図4は、カメラ30で撮像される画像における認識範囲を示す。カメラ30の画像には、クレーンの機体の一部25が写っている。画像の中で、張り出されるアウトリガ20が二点鎖線の領域26で示されている。また、接地する位置のフロート22が領域27で示されている。
【0033】
アウトリガ20のスライド動作する領域26を含む点線で囲まれる範囲が、干渉の有無を認識するための認識範囲31である。また、フロート22の接地位置の領域27を含む破線で囲まれる範囲が、崩壊の可能性を認識するための認識範囲32である。図4には他に、フロート22の接地位置の領域27の近傍の一点鎖線で囲まれる範囲が、地面の耐力危険度を認識するための認識範囲33として示されている。認識範囲32は、敷板の大きさと位置を認識するために、認識範囲33より広い範囲になっている。
【0034】
危険度算出部4は、例えば、認識範囲31の画像データを干渉と非干渉とを分類するニューラルネットワーク45に入力し、認識範囲32の画像データを崩壊と非崩壊とを分類するニューラルネットワークに入力する。実施の形態1では、認識範囲33について考慮しない。
【0035】
図2に示す危険度算出部4は、学習済モデル41の2つのニューラルネットワーク45それぞれに認識範囲31、32の画像データを入力し、干渉と非干渉、および、崩壊と非崩壊のそれぞれの場合の確率を、危険度演算部43に出力する。危険度演算部43は、干渉と非干渉の確率から干渉危険度を算出し、崩壊と非崩壊の確率から崩壊危険度を算出する。例えば、干渉の確率を干渉危険度とし、崩壊の確率を崩壊危険度とする。または、干渉の確率および崩壊の確率にそれぞれ安全係数を乗じて、干渉危険度および崩壊危険度とする。あるいは、干渉と非干渉の確率の差、または、干渉と非干渉の確率の比を干渉危険度とし、崩壊と非崩壊の確率の差、または、崩壊と非崩壊の確率の比を崩壊危険度としてもよい。危険度算出部4は、危険度演算部43で算出した干渉危険度および崩壊危険度を、図1に示す報知部5に出力する。
【0036】
報知部5は、干渉危険度が第1閾値以上の場合に、アウトリガ20のスライド動作が他の物体と干渉する危険があることの警告を表示する。報知部5は、崩壊危険度が第2閾値以上の場合に、フロート22が接地する位置の地面が崩壊する危険があることの警告を表示する。報知部5は、警告を表示する場合に停止指令部6に警告を通知する。停止指令部6は、報知部5から警告を受けると、クレーン制御装置50に停止指令を出力する。報知部5から警告が表示された場合、オペレータはクレーンを移動したり、敷板の大きさまたは位置を変えたりするなどして、再度、アウトリガ張出を行うことができる。
【0037】
図5は、実施の形態1に係るアウトリガ張出支援の動作の一例を示すフローチャートである。アウトリガ張出支援は、アウトリガ張出を開始すると起動される。例えば、オペレータがクレーン制御装置50にアウトリガ張出の操作を入力すると起動される。
【0038】
アウトリガ張出支援装置10の画像取得部1はカメラ30からアウトリガ20の移動範囲を含む画像を取得し(ステップS10)、張出量取得部2は、張出量を取得する(ステップS11)。認識範囲設定部3は、張出量から画像の中の、クレーンに応じたアウトリガ20が張り出す認識範囲を設定する(ステップS12)。危険度算出部4は、画像と認識範囲から、アウトリガ20がスライド動作するときの他の物体と干渉する干渉危険度を算出する(ステップS13)。
【0039】
報知部5は、干渉危険度が第1閾値以上の場合に(ステップS14;Y)、警告を表示する(ステップS18)。干渉危険度が第1閾値以上でなければ(ステップS14;N)、危険度算出部4は、フロート22が接地する位置の地面の崩壊危険度を算出する(ステップS15)。報知部5は、崩壊危険度が第2閾値以上の場合に(ステップS16;Y)、警告を表示する(ステップS18)。干渉危険度が第1閾値以上の場合(ステップS14;Y)と、崩壊危険度が第2閾値以上の場合(ステップS16;Y)とで、ともにステップS18の警告表示としているが、表示する警告の種類は異なっている。
【0040】
報知部5は警告を表示すると(ステップS18)、停止指令部6に警告を伝えるので、停止指令部6はクレーン制御装置50に停止指令を出力する(ステップS19)。干渉危険度が第1閾値以上でなく、崩壊危険度が第2閾値以上でなければ(ステップS16;N)、アウトリガ20のスライド動作が行われ(ステップS17)、続いてジャッキ動作が行われる(ステップS20)。
【0041】
図5のアウトリガ張出支援の動作では、オペレータがクレーン制御装置50または支援装置10に張出量を入力することを想定している。前述のとおり、アウトリガ張出幅検出装置を備え、張出量取得部2は実際に張出操作されたアウトリガの張出量をクレーン制御装置50から取得してもよい。
【0042】
図6は、アウトリガ張出支援の動作の異なる例を示すフローチャートである。図6のアウトリガ張出支援の動作では、オペレータがアウトリガの張出操作を行っている間に、操作された張出量に応じて繰り返し干渉危険度および崩壊危険度を算出する。
【0043】
アウトリガ張出支援装置10の画像取得部1はカメラ30からアウトリガ20の最大張出量の移動範囲を含む画像を取得し(ステップS10)、張出量取得部2は、クレーン制御装置50から操作された張出量を取得する(ステップS21)。認識範囲設定部3は、操作された張出量に最大張出量以下の範囲で追加張出量を加算した想定張出量を設定された張出量として、張出量から画像の中の、クレーンに応じたアウトリガ20が張り出す認識範囲を設定する(ステップS22)。
【0044】
図6のフローチャートでステップS13、ステップS14、およびステップS18からステップS19は、図5のステップS13、ステップS14、およびステップS18からステップS19と同じである。すなわち危険度算出部4は、操作された張出量に最大張出量以下の範囲で追加張出量を加算した想定張出量を設定された張出量とした認識範囲から、アウトリガ20がスライド動作するときの他の物体と干渉する干渉危険度を算出する(ステップS13)。
【0045】
干渉危険度が第1閾値以上でなければ(ステップS14;N)、アウトリガ20の1ステップのスライド移動が行われる(ステップS23)。支援装置10は張出動作が終了したか否かを判定する(ステップS24)。張出動作が終了していなければ(ステップS24;N)、ステップS10に戻って画像取得から繰り返す。張出動作が終了した場合には(ステップS24;Y)、フロート22が接地する位置の地面の崩壊危険度を算出する(ステップS15)。図6の動作では、フロート22の位置は最後に取得した画像から1ステップスライド移動しているので、危険度算出部4は、画像から1ステップ、スライド移動した位置での崩壊危険度を算出する。
【0046】
崩壊危険度が第2閾値以上でなければ(ステップS16;N)、ジャッキ動作が行われ(ステップS20)、アウトリガ張出支援の動作を終了する。崩壊危険度が第2閾値以上の場合(ステップS16;Y)、報知部5は警告を表示し(ステップS18)、停止指令部6はクレーン制御装置50に停止指令を出力して(ステップS19)、アウトリガ張出支援の動作を終了する。
【0047】
実施の形態1のアウトリガ張出支援装置10によれば、アウトリガ20の移動範囲を含む画像の張出量に応じた認識範囲から、スライド動作するときの他の物体との干渉危険度、および、フロート22が接地する位置の地面の崩壊危険度を算出して、危険度が閾値以上の場合に警告を表示するので、オペレータのアウトリガ張出作業を支援することができる。
【0048】
実施の形態1では、認識範囲31の画像データを干渉と非干渉とを分類するニューラルネットワーク45の学習済モデル41に入力して、干渉と非干渉の確率を算出している。アウトリガ20の干渉危険度を算出するのに、ニューラルネットワーク45を用いなくてもよい。例えば、認識範囲31の画像データから画像認識で物体を検出して、アウトリガ20の移動範囲と交差する物体があるか否かで、干渉と非干渉の確率を算出してもよい。その場合、画像の二値化とエッジ検出のフィルタについていくつかのパターンで画像認識して、干渉と非干渉とが検出されるパターンの割合で、干渉と非干渉の確率とすることができる。または、検出した物体とアウトリガ20の移動範囲とのクリアランスの大きさを加味して干渉と非干渉の確率を算出してもよい。
【0049】
実施の形態1では、支援装置10が停止指令部6を備える場合を説明した。停止指令部6を省略して、自動的にアウトリガ張出を停止しなくてもよい。停止指令部6がない場合でも、オペレータは警告を認識してアウトリガ張出を中止し、アウトリガ張出作業をやり直すことができる。
【0050】
実施の形態1では、危険度算出部4が干渉危険度および崩壊危険度の両方を算出している。危険度算出部4が干渉危険度または崩壊危険度の一方しか算出しない場合でも、アウトリガ張出支援装置10はアウトリガ張出作業を支援するといえる。
【0051】
実施の形態2.
図7は、実施の形態2に係るアウトリガ張出支援装置の構成を示すブロック図である。実施の形態2のアウトリガ張出支援装置10は、動作入力部7をさらに備え、危険度算出部4は、干渉危険度および崩壊危険度に加えて、フロート22が接触している地面の耐力危険度を算出する。報知部5は、耐力危険度が第3閾値以上の場合にも警告を表示する。その他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0052】
アウトリガ20のフロート22を接地させてクレーンの機体をつり上げるときに、動作入力部7はクレーン制御装置50から、フロート22を作動するジャッキ圧およびフロート22の変位量を取得する。危険度算出部4は、ジャッキ圧およびフロート22の変位量からフロート22が接触している地面の耐力危険度を算出する。
【0053】
図8は、実施の形態2に係る危険度算出部の機能構成を示すブロック図である。実施の形態2では、危険度算出部4は、学習済モデル41に加えて、地面耐力算出部42を備える。学習済モデル41は、実施の形態1と同様である。地面耐力算出部42は、例えば、フロート22が接地する地盤の強度が、安全率を考慮した許容支持力を満たす場合と満たさない場合のそれぞれの確率を算出する。
【0054】
アウトリガ20の接地動作では、フロート22を接地させてからクレーンの機体をつり上げるにつれて、下部走行体のサスペンションのばねが伸び、ジャッキ圧は増加していく。地盤が十分に強固で地盤の強度が許容支持力を満たす場合、フロート22の変位に対してサスペンションのばね係数の程度でジャッキ圧は単調に増加する。
【0055】
地盤の強度が不十分な場合は、フロート22の変位に対して、ジャッキ圧の変化が小さかったり、単調に増加せずに変動したりする。そこで、フロート22の変位に対するジャッキ圧を観測することによって、許容支持力を満たす場合と満たさない場合に分類することができる。
【0056】
地面耐力算出部42は、地盤の強度が許容支持力を満たす場合のジャッキ圧が変化する曲線からの、動作入力部7で取得したジャッキ圧の偏差の程度で、許容支持力を満たす場合と満たさない場合に分類する。地面耐力算出部42は、例えば、フロート22の変位に対するジャッキ圧とジャッキ圧の変化率が許容範囲に入るか否かを判定するプログラムである。または、ジャッキ圧の変動パターンで許容支持力を満たすか否かを判定するプログラムとすることができる。
【0057】
地面耐力算出部42は、あるいは、ジャッキ圧とフロート22の変位の時系列データを入力とする分類ニューラルネットワークの学習済モデルである。分類ニューラルネットワークの場合、図4に示す地面の耐力危険度を認識するための認識範囲33の画像データを入力に含めてもよい。
【0058】
地面耐力算出部42は、地盤の強度が、許容支持力を満たす場合と満たさない場合のそれぞれの確率を算出して、危険度演算部43に出力する。干渉危険度および崩壊危険度に加えて、危険度演算部43は、許容支持力を満たす場合と満たさない場合の確率から、耐力危険度を算出する。例えば、許容支持力を満たさない場合の確率を耐力危険度とする。または、許容支持力を満たさない場合の確率に安全係数を乗じて耐力危険度とする。あるいは、許容支持力を満たさない場合と満たす場合との差、または、許容支持力を満たさない場合と満たす場合の比を耐力危険度としてもよい。危険度算出部4は、危険度演算部43で算出した耐力危険度を、図7に示す報知部5に出力する。
【0059】
報知部5は、耐力危険度が第3閾値以上の場合に、フロート22が接触している地盤の強度が、許容支持力を満たさない危険があることの警告を表示する。警告を表示する方法は実施の形態1と同様であるが、耐力危険度の警告の表示を、干渉危険度および崩壊危険度の警告の表示と区別することが望ましい。
【0060】
報知部5は、警告を表示する場合に停止指令部6に警告を通知する。停止指令部6は、報知部5から警告を受けると、クレーン制御装置50に停止指令を出力する。報知部5から警告が表示された場合、オペレータはクレーンを移動したり、敷板を変えたりするなどして、再度、アウトリガ張出を行うことができる。
【0061】
図9は、実施の形態2に係るアウトリガ張出支援の動作の一例を示すフローチャートである。図9のフローチャートでステップS10、ステップS13からステップS16、およびステップS21からステップS24までは、図6のフローチャートと同じである。干渉危険度が第1閾値以上の場合(ステップS14;Y)と、崩壊危険度が第2閾値以上の場合(ステップS16;Y)とに関して、ステップS32とステップS33は、図6のステップS18およびステップS19と同様である。
【0062】
干渉危険度が第1閾値以上でなく、崩壊危険度が第2閾値以上でなければ(ステップS16;N)、ジャッキ動作が行われる(ステップS28)。図7の動作入力部7は、ジャッキ動作中にフロート22を作動するジャッキ圧およびフロート22の変位量を取得し、危険度算出部4は、それまでのジャッキ圧および変位量からフロート22が接触している地面の耐力危険度を算出する(ステップS29)。地面耐力算出部42が地面の耐力危険度を認識するための認識範囲33の画像データを入力に含める場合、画像のフロート22の位置から1ステップ、スライド移動した位置に認識範囲33を設定する。
【0063】
報知部5は、耐力危険度が第3閾値以上の場合に(ステップS30;Y)、地盤の強度が許容支持力を満たさない危険があることの警告を表示する(ステップS32)。そして、停止指令部6はクレーン制御装置50に停止指令を出力する(ステップS33)。
【0064】
耐力危険度が第3閾値以上でなければ(ステップS30;N)、ジャッキ動作が完了したか否かを判定し(ステップS31)、ジャッキ動作が完了していなければ(ステップS31;N)、ジャッキ動作を継続してステップS28から繰り返す。ジャッキ動作が完了していれば(ステップS31;Y)、動作を終了する。
【0065】
実施の形態2でも、張出量取得部2は設定されたアウトリガの張出量をクレーン制御装置50から、または支援装置10に直接入力されることで取得してもよい。その場合の動作は、図9のステップS10、ステップS13からステップS16、およびステップS21からステップS24を、図5のステップS10からステップS16に置き換えたフローチャートで表される。
【0066】
実施の形態2のアウトリガ張出支援装置10によれば、アウトリガ20のジャッキ動作中に、ジャッキ圧とフロート22の変位量から耐力危険度を算出し、耐力危険度が第3閾値以上の場合に警告を表示するので、オペレータは地面強度不足によるクレーンの転倒事故を未然に防止することができる。
【0067】
実施の形態1で説明したように、実施の形態2でも停止指令部6を省略して、自動的にアウトリガ張出を停止しなくてもよい。停止指令部6がない場合でも、オペレータは警告を認識してアウトリガ張出を中止し、アウトリガ張出作業をやり直すことができる。
【0068】
実施の形態2では、危険度算出部4が干渉危険度、崩壊危険度および耐力危険度を算出している。危険度算出部4は、耐力危険度のみ算出する場合でも、アウトリガ張出支援装置10はアウトリガ張出作業を支援するといえる。
【0069】
図1および図7では、アウトリガ張出支援装置10がクレーン制御装置50とは別の独立した装置のように示されているが、アウトリガ張出支援装置10は、クレーン制御装置50に組み込まれていてもよい。また、アウトリガ張出支援装置10がクレーン制御装置50の機能として、実現されていてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 画像取得部
2 張出量取得部
3 認識範囲設定部
4 危険度算出部
5 報知部
6 停止指令部
7 動作入力部
10 アウトリガ張出支援装置
20 アウトリガ
21 ビーム
22 フロート
26、27 領域
30 カメラ
31、32、33 認識範囲
41 学習済モデル
42 地面耐力算出部
43 危険度演算部
45 ニューラルネットワーク
50 クレーン制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9