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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165689
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ラチェット型クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/12 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
F16D41/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071130
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】特許業務法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】岩野 彰
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 大
(72)【発明者】
【氏名】石神 翔馬
(57)【要約】

【課題】 爪部材収容部の形状が複雑化しても、加工性、組み立て性の簡易化を図ることができるラチェット型クラッチを提供すること。
【解決手段】 第1の爪部材31は、外輪3に固定された保持器20に設けられた第1突出部26と、第1突出部26に隣接する外輪3の内周面の第1部分82とによって外輪3に支持され、第2の爪部材37は、保持器20に設けられた第2突出部28と、第2突出部28に隣接する外輪3の内周面の第2部分84とによって外輪3に支持されていることを特徴とするラチェット型クラッチ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の環状部材と、
前記第1の環状部材と同軸に且つ相対回転可能に配置された第2の環状部材と、
トルク伝達可能に前記第1の環状部材と前記第2の環状部材とを係合可能なラチェット機構と、
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材とにおけるトルク伝達方向を切り替え可能な切り替え機構とを有し、
前記ラチェット機構は、前記第1の環状部材に設けられた歯部と、
前記第2の環状部材に設けられ、前記歯部と噛み合うことにより前記第2の環状部材に対する前記第1の環状部材の第1の回転方向への相対回転をロックする第1の爪部材と、
前記第2の環状部材に設けられ、前記第1の爪部材と対をなし、前記歯部と噛み合うことにより前記第2の環状部材に対する前記第1の環状部材の第2の回転方向への相対回転をロックする第2の爪部材とを備え、
前記第1の爪部材は、前記第2の環状部材に固定された保持器に設けられた第1の支持部と、前記第1の支持部に隣接する前記第2の環状部材の第1の部分とによって前記第2環状部に支持され、
前記第2の爪部材は、前記保持器に設けられた第2の支持部と、前記第2の支持部に隣接する前記第2の環状部材の第2の部分とによって前記第2環状部に支持されていることを特徴とするラチェット型クラッチ。
【請求項2】
前記第1の爪部材は、前記第2の環状部材の軸方向に延在する第1の柱部と、前記第1の柱部から突出し前記歯部と係合する第1の爪部とを有し、
前記第1の支持部および前記第1の部分はそれぞれ、前記第1の柱部を回動可能に支持する内周面形状を有し、
前記第2の爪部材は、前記第2の環状部材の軸方向に延在する第2の柱部と、前記第2の柱部から突出し前記歯部と係合する第2の爪部とを有し、
前記第2の支持部および前記第2の部分はそれぞれ、前記第2の柱部を回動可能に支持する内周面形状を有していることを特徴とする請求項1に記載のラチェット型クラッチ。
【請求項3】
前記第1の支持部の前記内周面形状は、前記第1の柱部の第1部分を支持する第1内周面形状部と、前記第1の柱部の第2部分を支持する第2内周面形状部とを有し、
前記第2の支持部の前記内周面形状は、前記第2の柱部の第1部分を支持する第3内周面形状部と、前記第2の柱部の第2部分を支持する第4内周面形状部とを有し、
前記第2内周面形状部と前記第4内周面形状部とは、前記第1の柱部と前記第2の柱部との間に配置された前記保持器の部分に設けられていることを特徴とする請求項2に記載のラチェット型クラッチ。
【請求項4】
前記保持器は前記第2の環状部材と同軸の環状部材であり、前記第2の環状部材の内周部または外周部に係合する係合部を複数有し、
前記係合部は、前記第2の環状部材に係合する際、弾性変形することを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のラチェット型クラッチ。
【請求項5】
前記係合部は、前記第2の環状部の端面と係合する爪部を有することを特徴とする請求項4に記載のラチェット型クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両や産業機械等においてトルク伝達用の装置として用いられるトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラチェット機構を用いたクラッチであって、外輪部材に対する内輪部材或いは内輪部材に対する外輪部材の回転方向に関し、一方向または反対方向の何れかの回転方向への回転のみをロックする状態と、一方向および反対方向の両方の回転方向への回転を同時にロックする状態と、一方向および反対方向の何れの回転方向への回転もロックしない状態とを切り替えることにより、トルク伝達方向を切り替えることができるものがある。
【0003】
このようなラチェット機構を用いたクラッチにおいて、近年の車両電動化の発達に伴う動力の高回転化に適応するために、爪部材の安定挙動の確保が要求されている。特許文献1および2には、爪部材の形状および外輪に設けられた爪部材収容部の形状を改良することによって爪部材の挙動を安定させ、爪部材とノッチとの噛み合いの安定化を図ったラチェット型クラッチが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-224744号公報
【特許文献2】特開2017-110707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ラチェット型クラッチの挙動の安定性を確保し、さらにこれを向上させるために爪部材収容部の形状が複雑になると、構成部品の加工における工数の増加およびコストの増加が懸念される。更に、ラチェット型クラッチ自体の組み立てにおける工数の増加の懸念もある。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、爪部材収容部の形状が複雑化しても、加工性、組み立て性の簡易化を図ることができるラチェット型クラッチを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係るラチェット型クラッチは、
第1の環状部材と、
前記第1の環状部材と同軸に且つ相対回転可能に配置された第2の環状部材と、
トルク伝達可能に前記第1の環状部材と前記第2の環状部材とを係合可能なラチェット機構と、
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材とにおけるトルク伝達方向を切り替え可能な切り替え機構とを有し、
前記ラチェット機構は、前記第1の環状部材に設けられた歯部と、
前記第2の環状部材に設けられ、前記歯部と噛み合うことにより前記第2の環状部材に対する前記第1の環状部材の第1の回転方向への相対回転をロックする第1の爪部材と、
前記第2の環状部材に設けられ、前記第1の爪部材と対をなし、前記歯部と噛み合うことにより前記第2の環状部材に対する前記第1の環状部材の第2の回転方向への相対回転をロックする第2の爪部材とを備え、
前記第1の爪部材は、前記第2の環状部材に固定された保持器に設けられた第1の支持部と、前記第1の支持部に隣接する前記第2の環状部材の第1の部分とによって前記第2環状部に支持され、
前記第2の爪部材は、前記保持器に設けられた第2の支持部と、前記第2の支持部に隣接する前記第2の環状部材の第2の部分とによって前記第2環状部に支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、爪部材収容部の形状が複雑化しても、加工性、組み立て性の簡易化を図ることができるラチェット型クラッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は実施形態に係るトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチを軸方向一方側から見た正面図であり、一部を切り欠いて示している。
図2図2図1の2-2線矢視断面図である。
図3図3は保持器を軸方向一方側から見た正面図である。
図4図4図3の4-4線矢視断面図である。
図5図5図1の部分拡大図であり、爪機構部とその周辺部を示している。
図6図6はトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチの部分拡大断面図であり、保持器の係合部とその周辺部を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチを、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明においては、トルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチを「ラチェット型クラッチ」と略記する場合がある。
【0011】
まず、本実施形態におけるトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチに係る方向について定義する。本実施形態において、「中心軸線C」とはラチェット型クラッチの中心軸線すなわち外輪および内輪の中心軸線のことをいい、軸方向、径方向、周方向とは、中心軸線Cに関する軸方向、径方向、周方向のことをいう。また、軸方向について、図1図3および図5においては紙面手前方向を軸方向一方とし、紙面奥方向を軸方向他方とし、図2図4および図6においては紙面左方を軸方向一方とし、紙面右方を軸方向他方とする。周方向について、図1図3および図5において、紙面に向かって時計回りに回転する方向を周方向一方とし、紙面に向かって反時計回りに回転する方向を周方向他方とする。
【0012】
なお、ラチェット型クラッチの回転方向については、説明の便宜上、外輪に対する内輪の回転方向について説明するが、外輪の回転と内輪の回転とは相対的なものである。例えば、内輪が時計回りに回転可能な場合、外輪も反時計回りに回転可能であり、また、内輪と外輪とが同方向に回転する場合であっても、外輪と内輪との回転速度が異なれば、外輪と内輪とは相対的にいずれかの方向に回転していると言える。
【0013】
図1は実施形態に係るトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチを軸方向一方側から見た正面図であり、一部を切り欠いて示している。
図2図1の2-2線矢視断面図である。
【0014】
本実施形態に係るトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチ1は、環状の外輪3と、外輪3に対して径方向内方に離間し、外輪3の中心軸線Cと同軸に且つ外輪3と相対回転可能に配置された環状の内輪5と、外輪3と内輪5との間でトルク伝達を可能とするトルク伝達機構と、を有している。本実施形態におけるトルク伝達機構は、ラチェット機構である。
【0015】
外輪3は軸方向に所定の長さを有する円筒状の部材であり、外輪3の内周部には後述する複数の爪機構部が保持される。外輪3の外周面には、径方向外方に突出し軸方向に延在する凸部21が周方向所定間隔に複数設けられている。これら凸部21が図示しない外側部材の嵌合部に嵌合することにより、外輪3は外側部材に対して相対回転不能に固定されている。
【0016】
図1に示すように、外輪3の内周部には、第1の爪部材31と、第1の爪部材31の周方向一方側に隣接し、第1の爪部材31と対をなす第2の爪部材37とが設けられている。第1の爪部材31と第2の爪部材37とで爪機構部を構成している。すなわち、外輪3の内周部には、軸方向一方側から見て、周方向他方側から周方向一方側に向かって順に並んで対をなす第1の爪部材31と第2の爪部材37とを含む爪機構部が設けられている。外輪3にはこのような爪機構部が、周方向に所定間隔で複数設けられている。第1の爪部材31は、中心軸線C方向に延在する円柱部27と、円柱部27から周方向他方側に向かって延在する爪部29とを有している。第2の爪部材37は、中心軸線C方向に延在する円柱部33と、円柱部33から周方向一方側に向かって延在する爪部35とを有する。なお、本実施形態においては、3つの爪機構部が周方向等間隔に設けられているが、図1においては1つの爪機構部のみを示している。
【0017】
内輪5は外輪3の径方向内方に配置されている。内輪5の外周部には、多数の歯部13が全周に亘って等間隔に形成されている。各歯部13は径方向外方に突出し、中心軸線C方向に延在している。外輪3の内周面と内輪5の外周部すなわち歯部13とは、所定の空間を介して径方向に対向している。歯部13は、第1の爪部材31および第2の爪部材37が噛み合うラチェット歯を構成している。具体的には、各歯部13の周方向一方側の側面は第1の爪部材31と噛み合う第1の噛み合い部13aを構成し、各歯部13の周方向他方側の側面は第2の爪部材37と噛み合う第2の噛み合い部13bを構成している。
【0018】
内輪5の内周面には、スプライン11が全周に亘って設けられている。内輪5の内周側には、スプライン11を介して出力用或いは入力用の図示しない軸部材がスプライン嵌合される。
【0019】
本実施形態においては、第1の爪部材31および第2の爪部材37は、保持器20を介して外輪3に保持されている。例えば、保持器20は樹脂を用いると、射出成形によって形成することができる。
図3は保持器を軸方向一方側から見た正面図である。
図4図3の4-4線矢視断面図である。
図5図1の部分拡大図であり、爪機構部とその周辺部を示している。
【0020】
図1および図3に示すように、保持器20は、環状部22と、環状部22の軸方向他方側端面から軸方向他方に向けて突出する複数の部分円筒部24とを有している。環状部22は外輪3と同軸上に配置される。複数の部分円筒部24はそれぞれ同じ形状を有し、中心軸線Cを中心とする同一円周上に周方向等間隔に設けられている。本実施形態においては、3つの部分円筒部24が設けられている。部分円筒部24は、環状部22の軸方向他方側端面の内径側縁部から軸方向他方および径方向内方に延在している。すなわち、環状部22の軸方向他方側端面の内径側縁部と部分円筒部24の軸方向一方側端面の外径側縁部とが連続して、環状部22と部分円筒部24とが一体となっている。
【0021】
部分円筒部24の周方向一方側の端部は、周方向一方且つ径方向外方に向けて突出する第1突出部26を構成している。第1突出部26は、軸方向一方側端部が環状部22の軸方向他方側端面と連続し、環状部22と一体に形成されている。部分円筒部24の周方向他方側の端部は、周方向他方且つ径方向外方に向けて突出する第2突出部28を構成している。第2突出部28は、軸方向一方側端部が環状部22の軸方向他方側端面と連続し、環状部2と一体に形成されている。周方向に隣り合う部分円筒部24の周方向に対向する第1突出部26と第2突出部28とは対をなし、図1図5に示すように、対をなす第1の爪部材31と第2の爪部材37とをそれぞれ支持する第1爪部材支持部30と第2爪部材支持部32とを構成している。
【0022】
第1突出部26の先端部は、第1の爪部材31の円柱部27の外周面に対応する曲率半径を有する第1部分円筒内周面34となっている。図3に示すように、環状部22の内周部には軸方向一方側および径方向内方側に開口する第1凹部38が形成され、第1凹部38の内周面は第1部分円筒内周面34と軸方向に連続している。また、第1部分円筒内周面34と連続する第1突出部26の内径側の面36は、第1の爪部材31が径方向外方に揺動した状態において第1の爪部材31の爪部29を収容可能な径方向位置に形成されている。第1突出部26の内径側の面36には、第1の爪部材31の爪部29を径方向内方すなわち内輪5の外周面に向けて常に付勢している、例えば、コイル状のスプリング41が設けられている。
【0023】
第1突出部26と同様に、第2突出部28の先端部は、第2の爪部材37の円柱部33の外周面に対応する曲率半径を有する第2部分円筒内周面40となっている。図3に示すように、環状部22の内周部には軸方向一方側および径方向内方側に開口する第2凹部44が形成され、第2凹部44の内周面は第2部分円筒内周面40と軸方向に連続している。また、第2部分円筒内周面40と連続する第2突出部28の内径側の面42は、第2の爪部材37が径方向外方に揺動した状態において第2の爪部材37の爪部35を収容可能な径方向位置に形成されている。第2突出部28の内径側の面42には、第2の爪部材37の爪部35を内輪5の外周面に向けて常に付勢している、例えば、コイル状のスプリング45が設けられている。
【0024】
対をなす第1突出部26と第2突出部28とは、軸方向他方側端部同士が連結部46によって周方向に一体に連結されている。連結部46は、径方向および周方向に延在する略円弧形状のプレートである。連結部46の内周面は部分円筒部24の内周面と同じ曲率半径を有し、軸方向一方側から見て、周方向に隣り合う部分円筒部24の内周面と同一円周上に配置されている。
【0025】
連結部46の外周側の面の周方向他方側端部は、第1突出部26の先端の第1部分円筒内周面34と同じ曲率半径を有する第1円弧形状48に形成され、且つ軸方向一方側から見て、第1部分円筒内周面34と同一円周上で第1部分円筒内周面34の周方向一方端と連続するように形成されている。第1円弧形状48の周方向一方端は、部分円筒部24の外周面と略同一円周上の径方向位置に位置している。同様に、連結部46の外周側の面の周方向一方側端部は、第2突出部28の先端の第2部分円筒内周面40と同じ曲率半径を有する第2円弧形状50に形成され、且つ軸方向一方側から見て、第2部分円筒内周面40と同一円周上で第2部分円筒内周面40の周方向他方端と連続するように形成されている。第2円弧形状50の周方向他方端は、部分円筒部24の外周面と略同一円周上の径方向位置に位置している。
【0026】
連結部46の外周側の面の第1円弧形状48と第2円弧形状50との間の部分は、第1円弧形状48の周方向一方端と第2円弧形状50の周方向他方端とを結ぶ円弧形状部52の中間部に径方向外方に突出する凸部54が形成された略凸字状に形成されている。第1円弧形状48の周方向一方端と第2円弧形状50の周方向他方端とを結ぶ円弧形状部52は、部分円筒部24の外周面と略同じ曲率半径を有している。
【0027】
連結部46の軸方向一方側の面には、軸方向一方に向けて突出する柱部56が連結部46と一体に形成されている。柱部56の外周側の面の周方向幅は、円弧形状部52の周方向幅に対応している。柱部56の内周側の面は、連結部46の内周面と同じ曲率半径を有し、連結部46の内周面から軸方向一方向けて連続して延在している。柱部56の内周側の面の周方向幅は、柱部56の外周側の面の周方向幅よりも大きく形成されている。
【0028】
柱部56の周方向他方側の側面は、連結部46の第1円弧形状48と同じ曲率半径を有する第3部分円筒内周面62となっており、軸方向一方側から見て、第1突出部26の第1部分円筒内周面34および連結部46の第1円弧形状48と同一円周上で、第1円弧形状48の周方向一方端と連続するように形成されている。柱部56の第3部分円筒内周面62の周方向一方端は、第1突出部26の第1部分円筒内周面34および第1円弧形状48と同一円周の中心に関して、第1突出部26の第1部分円筒内周面34の周方向一方端と略対向している。
【0029】
同様に、柱部56の周方向一方側の側面は、連結部46の第2円弧形状50と同じ曲率半径を有する第4部分円筒内周面64となっており、軸方向一方側から見て、第2突出部28の第2部分円筒内周面40および連結部46の第2円弧形状50と同一円周上で、第2円弧形状50の周方向他方端と連続するように形成されている。柱部56の第4部分円筒内周面64の周方向他方端は、第2突出部28の第2部分円筒内周面40および第2円弧形状50と同一円周の中心に関して、第2突出部28の第2部分円筒内周面40の周方向他方端と略対向している。このような構成により、柱部56は軸方向一方側端面の形状は、略台形状となっている。
【0030】
図1に示すように、保持器20は、外輪3の内周側に配置されている。外輪3の内周面は、保持器20の部分円筒部24の外周面、第1突出部26の外周面、第2突出部28の外周面、および連結部46の外周側の面に対応する形状すなわちこれらの部分の外周面に接触する形状に形成されている。詳細には、外輪3の内周面は、断面形状がそれぞれ保持器20の部分円筒部24の外周面、第1突出部26の外周面、第2突出部28の外周面、および連結部46の外周側の面に対応する形状で、軸方向に延在する面が形成されている。保持器20は、部分円筒部24の外周面、第1突出部26の外周面、第2突出部28の外周面、および連結部46の外径側の面が、それぞれ外輪3の内周面の対応する形状部に嵌め込まれるように、外輪3の軸方向一方側から軸方向他方側に向けて、外輪3の内周部に差し込まれる。
【0031】
保持器20の部分円筒部24の周方向中間部には、保持器20を外輪3の内周部に差し込み、且つ差し込まれた保持器20を外輪3の内周側に保持するための係合部66が形成されている。
図6はトルク伝達方向切り替え式のラチェット型クラッチの部分拡大断面図であり、保持器の係合部とその周辺部を示している。
【0032】
図3および図6に示すように、保持器20の部分円筒部24の周方向中間部には、径方向外方および軸方向他方に開口する凹部68が形成されている。凹部68の、中心軸線Cと直交する方向に延在する径方向底面70には、軸方向他方に向けて突出する突出片72が径方向底面70と一体に形成されている。突出片72の内周側の面は、中心軸線C方向に延在する凹部68の軸方向底面74と隙間を介して径方向に対向している。突出片72の軸方向他方の端部は、突出片72の外周面よりも径方向外方に突出し、軸方向他方に向かうに従い中心軸線Cに近づく方向に傾斜する傾斜面76を有する爪部78となっている。爪部78は、環状部22の軸方向他方側の面と対向する軸方向一方側の面80を有している。このような爪部78を有する突出片72が、保持器20の係合部66を構成している。
【0033】
保持器20は、外輪3の内周側に軸方向一方側から軸方向他方に向けて差し込まれる際、外輪3の内径側縁部と爪部78の傾斜面76とが接触することにより、突出片72が径方向内方に弾性変形し、爪部78の外径側縁部が外輪3の内周面を軸方向に摺動する。そして爪部78が外輪3の軸方向他方側に抜けると、突出片72は弾性復帰し、爪部78の軸方向一方側の面80が外輪3の軸方向他方側端面に係合する。この時保持器20は、環状部22の軸方向他方側の面が外輪3の軸方向一方側端面に接触する。このように、保持器20は、係合部66すなわち突出片72の爪部78と環状部22とによって外輪3に対する軸方向移動が規制される。また、保持器20は、凸部54の側面54a、54bが、それぞれ外輪3の内周面の対応する形状に接触することにより、外輪3に対する相対回転が規制される。
【0034】
第1の爪部材31の円柱部27は、保持器20の部分円筒部24の第1突出部26の第1部分円筒内周面34と、柱部56の第3部分円筒内周面62と、外輪3の内周面の第1部分82とによって回動可能に支持される。ここで外輪3の内周面の第1部分82は、保持器20の連結部46の第1円弧形状48に対応する外輪3の内周面の部分である。すなわち、保持器20の第1突出部26の第1部分円筒内周面34と、柱部56の第3部分円筒内周面62と、外輪3の内周面の第1部分82とによって、第1爪部材支持部30が構成されている。同様に、第2の爪部材37の円柱部33は、保持器20の部分円筒部24の第2突出部28の第2部分円筒内周面40と、柱部56の第4部分円筒内周面64と、外輪3の内周面の第2部分84とによって回動可能に支持される。ここで外輪3の内周面の第2部分84は、保持器20の連結部46の第2円弧形状50に対応する外輪3の内周面の部分である。すなわち、保持器20の第2突出部28の第2部分円筒内周面40と、柱部56の第4部分円筒内周面64と、外輪3の内周面の第2部分84とによって、第2爪部材支持部32が構成されている。
【0035】
図1図2に示すように、内輪5は保持器20の内周側に配置されている。例えば、図1において、内輪5が時計回りに回転すると、第1の爪部材31の爪部29は内輪5の歯部13の第1の噛み合い部13aと噛み合う。一方、内輪5が反時計回りに回転すると、第1の爪部材31の爪部29は、スプリング41の付勢力に抗して内輪5の歯部13によって径方向外側へ押され、内輪5の回転を許す。これにより、第1の爪部材31は、内輪5の周方向一方の回転をロックし、内輪5の周方向他方の回転を可能としている。
【0036】
また、例えば、図1において、内輪5が反時計回りに回転すると、第2の爪部材37の爪部35は内輪5の歯部13の第2の噛み合い部13bと噛み合う。一方、内輪5が時計回りに回転すると、第2の爪部材37の爪部35は、スプリング45の付勢力に抗して内輪5の歯部13によって径方向外側へ押され、内輪5の回転を許す。これにより、第2の爪部材37は、内輪5の周方向他方の回転をロックし、内輪5の周方向一方の回転を可能としている。
このように、保持器20に保持された第1の爪部材31および第2の爪部材37と、スプリング41、45と、歯部13が形成された内輪5とで、ラチェット機構が構成されている。
【0037】
本実施形態のラチェット型クラッチ1においては、上述したように、対をなす第1の爪部材31および第2の爪部材37は、保持器20と外輪3の内周部とによって外輪3に保持されている。具体的には、上述したように、第1の爪部材31の回動支点である円柱部27を、保持器20の第1突出部26の第1部分円筒内周面34と、柱部56の第3部分円筒内周面62と、外輪3の内周面の第1部分82とによって支持している。同様に、第2の爪部材37の回動支点である円柱部33を、保持器20の第2突出部28の第2部分円筒内周面40と、柱部56の第4部分円筒内周面64と、外輪3の内周面の第2部分84とによって支持している。本実施形態によれば、第1の爪部材31および第2の爪部材37の挙動の安定化を図るために円柱部27および円柱部33の支持部が複雑な形状になっても、保持器20は、例えば樹脂を用いれば射出成形で形成されるので、十分に対応が可能である。その結果、ラチェット型クラッチ1における爪部材収容部形状を司る構成部品の加工工数および製造コストの削減を図ることができる。
【0038】
次に、ラチェット型クラッチ1のトルク伝達方向切り替え機構について説明する。
保持器20の軸方向一方側端部の内周側には、外輪3と同軸上に環状プレート51が配置されている。環状プレート51は、外輪3の軸方向一方側端面、複数の対をなす第1および第2の爪部材31、37の軸方向一方側端面、および内輪5の軸方向一方側端部と、軸方向に対向している。環状プレート51は、中心軸線Cを中心に、外輪3および内輪5と相対回転可能に、保持器20内に保持されている。環状プレート51の軸方向一方側に隣接する保持器20の内周面の部分には、周方向溝53が形成されている。周方向溝53には止め輪55が嵌め込まれている。環状プレート51は、外輪3の軸方向一方側端面と止め輪55とによって軸方向の移動が規制されている。
【0039】
環状プレート51の内径側部分には、軸方向他方側に突出する厚肉部57が全周に亘って形成されている。厚肉部57は、保持器20の径方向内方すなわち対をなす第1および第2の爪部材31、37の径方向内方に位置している。また、厚肉部57は、第1および第2の爪部材31、37の軸方向中間部に対応する軸方向位置まで、軸方向他方側に突出している。厚肉部57の軸方向他方側の端面は、内輪5の軸方向一方側の端部と軸方向に対向している。このような構成により、厚肉部57の外周面は、保持器20の部分円筒部24の内周面の軸方向一方側部分、第1の爪部材31の内径側の面の軸方向一方側部分、および第2の爪部材37の内径側の面の軸方向一方側部分と、所定の空間を介して径方向に対向している。
【0040】
厚肉部57の外周面には、図1に示すように、径方向外方に突出し、周方向に所定範囲に亘って延在する凸部59が周方向所定間隔に複数設けられている。本実施形態においては、爪機構部と対応して3つの凸部59が周方向に等間隔で設けられている。凸部59の頂部は、内輪3の歯部13の頂部よりも僅かに径方向外方に位置し、保持器20の部分円筒部24の内周面に沿って延在し、部分円筒部24の内周面とは僅かな隙間を介して径方向に対向している。すなわち凸部59の頂部は部分円筒部24の内周面とは非接触である。凸部59の頂部の周方向両端部は、それぞれ斜面61を介して厚肉部57の外周面と滑らかに連続している。この構成により、第1の爪部材31および第2の爪部材37は、環状プレート51の回転によって厚肉部57の外周面から凸部59の頂部へと滑らかに押し上げられる。
【0041】
凸部59の頂部は、環状プレート51の回転によって第1の爪部材31の内径側に位置すると、第1の爪部材31の内径側の面に接触し、第1の爪部材31の内径側の面を内輪5の歯部13よりも外径側に押上げ保持する。これにより凸部59は第1の爪部材31と歯部13との噛み合いを制限する。同様に、凸部59の頂部は、第2の爪部材37の内径側に位置すると、第2の爪部材37の内径側の面に接触し、第2の爪部材37の内径側の面を内輪5の歯部13よりも外径側に押上げ保持し、これにより凸部59は第2の爪部材37と歯部13との噛み合いを制限する。
【0042】
環状プレート51は、周方向一方または周方向他方へ回転することによって、爪機構部に対する厚肉部57の凸部59の周方向位置を変更する。これにより、爪機構部すなわち対をなす第1の爪部材31と第2の爪部材37とに対する凸部59の接触または非接触の組み合わせ状態を変更する。具体的には、環状プレート51は、爪機構部に対する凸部59の接触または非接触の4つの組み合わせ状態を切り替え、これよりラチェット型クラッチ1のトルク伝達方向を切り替えている。すなわち環状プレート51は、トルク伝達方向切り替え機構を構成している。これら4つの組み合わせ状態およびラチェット型クラッチ1のトルク伝達方向については後述する。
【0043】
環状プレート51は、ラチェット型クラッチ1が組み込まれる図示しない変速装置内の図示しない駆動機構に接続され、当該駆動機構によって回転駆動されている。ここで環状プレート51が接続される変速装置内の駆動機構とは、例えば、直動機構、回転機構、或いは直動機構と回転機構とを組み合わせた機構等を用いることができる。このような駆動機構は、例えば、変速装置内のギヤを切り替えるためのウォームギヤ(図示省略)とすることができる。環状プレート51の軸方向一方側端面には、図1に示すように、プレート固定用穴63が複数設けられ、例えばウォームギヤ(図示省略)のウォームホイール(図示省略)がこれらのプレート固定用穴63を用いて環状プレート51に接続されている。すなわち、ウォームホイール(図示省略)に環状プレート51が同心に固定されている。このように、環状プレート51は、変速装置内の例えばウォームギヤ(図示省略)と連動して回転させる制御とすることができる。
【0044】
このように、環状プレート51は、ラチェット型クラッチ1が組み込まれる図示しない変速装置内の図示しない回転機構に接続され、当該回転機構によって駆動制御されるため、環状プレート51を駆動するための装置を変速装置の外部に別途設ける必要がない。
【0045】
次に、ラチェット型クラッチ1の作動について説明する。
なお、以下の説明は1つの爪機構部についてのものであるが、他の爪機構部についても同様である。
【0046】
ラチェット型クラッチ1の第1の状態、すなわち爪機構部に対する環状プレート51の径方向凸部59の接触または非接触の第1の組み合わせ状態は、図1に示すように、凸部59は第1の爪部材31と第2の爪部材37との何れにも接触せず、保持器20の部分円筒部24の内周面に対向している状態である。言い換えると、第1の爪部材31と第2の爪部材37とは、周方向に隣り合う凸部59の間に位置し、環状プレート51の厚肉部57の外周面と径方向に対向している。図1においては、凸部59の周方向一方側端部の斜面61が、第2の爪部材37の爪部35の先端の周方向他方側近傍に位置している。この状態において第1の爪部材31および第2の爪部材37は、それぞれスプリング41および45の付勢力によって内輪5の歯部13に噛み合っている。したがってこの状態において、内輪5は外輪3に対して周方向一方および周方向他方の何れの方向への回転もロックされた状態である。すなわち、内輪5を入力側とすると、内輪5は外輪3に対して周方向一方および周方向他方の両方向に対して係止状態である。
【0047】
図1に示す第1の状態から環状プレート51が周方向一方に所定角度回転すると、第1の爪部材31の爪部29は、凸部59の周方向一方側の斜面61を経由して凸部59の頂部に乗り上げ、凸部59の頂部と径方向に対向する状態となり、ラチェット型クラッチ1は第2の状態に切り替わる。
【0048】
ラチェット型クラッチ1の第2の状態、すなわち爪機構部に対する凸部59の接触または非接触の第2の組み合わせ状態は、凸部59は第1の爪部材31の内径側の面に接触し、第2の爪部材37には接触していない状態である。この状態においては、凸部59の周方向一方側端部の斜面61は、対をなす第1の爪部材31と第2の爪部材37との中間部に位置している。この状態において、径方向凸部59は、第1の爪部材31に対してスプリング41を圧縮した状態で接触し、第1の爪部材31の内径側の面を内輪5の歯部13よりも外径側に押上げ保持し、第1の爪部材31と内輪5の歯部13との噛み合いを制限する。一方、第2の爪部材37は、スプリング45の付勢力によって内輪5の歯部13に噛み合っている。したがってこの状態において、内輪5は外輪3に対して周方向一方への回転が可能であり、周方向他方への回転がロックされた状態である。すなわち、内輪5を入力側とすると、内輪5から外輪3へは周方向他方へのトルク伝達がなされ、周方向一方へのトルク伝達はなされない。
【0049】
第2の状態から環状プレート51が周方向一方に所定角度回転すると、第1の爪部材31の爪部29に加えて、第2の爪部材37の爪部35が凸部59の周方向一方側の斜面61を経由して凸部59の頂部に乗り上げ、凸部59の頂部と径方向に対向する状態となり、ラチェット型クラッチ1は第3の状態に切り替わる。
【0050】
ラチェット型クラッチ1の第3の状態、すなわち爪機構部に対する凸部59の接触または非接触の第3の組み合わせ状態は、凸部59は第1の爪部材31の内径側の面および第2の爪部材37の内径側の面に接触している状態である。この状態においては、凸部59の周方向一方側端部の斜面61は、第2の爪部材37の爪部35の先端よりも周方向一方側に位置し、凸部59の周方向他方側端部の斜面61は、第1の爪部材31の爪部29の先端よりも周方向他方側に位置している。このように凸部59の頂部は、爪機構部の周方向長さすなわち第1の爪部材31の周方向他方端から対をなす第2の爪部材37の周方向一方端までの周方向長さ、詳細には第1の爪部材31の爪部29の先端から対をなす第2の爪部材37の爪部35の先端までの周方向長さよりも、長い周方向長さを有している。
【0051】
この状態において、凸部59は、第1の爪部材31に対してスプリング41を圧縮した状態で接触し、第1の爪部材31の内径側の面を内輪5の歯部13よりも外径側に押上げ保持し、第1の爪部材31と内輪5の歯部13との噛み合いを制限すると共に、第2の爪部材37に対してスプリング45を圧縮した状態で接触し、第2の爪部材37の内径側の面を内輪5の歯部13よりも外径側に押上げ保持し、第2の爪部材37と内輪5の歯部13との噛み合いを制限する。したがってこの状態において、内輪5は外輪3に対して周方向一方への回転も周方向他方への回転もロックされておらず、周方向一方と周方向他方の何れの方向への回転も可能である。すなわち、内輪5を入力側とすると、内輪5から外輪3へは周方向一方と周方向他方の何れの方向へもトルク伝達はなされない。
【0052】
第3の状態から環状プレート51が周方向一方に所定角度回転すると、第1の爪部材31の爪部29は、凸部59の頂部と径方向に対向する位置から、凸部59の周方向他方側の斜面61を経由して厚肉部57の外周面と径方向に対向する位置へと変位し、ラチェット型クラッチ1は第4の状態に切り替わる。
【0053】
ラチェット型クラッチ1の第4の状態、すなわち爪機構部に対する凸部59の接触または非接触の第4の組み合わせ状態は、凸部59は第2の爪部材37の内径側の面に接触し、対をなす第1の爪部材31には接触していない状態である。この状態においては、凸部59の周方向他方側端部の斜面61は、対をなす第1の爪部材31と第2の爪部材37との中間部に位置している。この状態において、凸部59は、第2の爪部材37に対してスプリング45を圧縮した状態で接触し、第1の爪部材31の内径側の面を内輪5の歯部13よりも外径側に押上げ保持し、第2の爪部材37と内輪5の歯部13との噛み合いを制限する。一方、第1の爪部材31は、スプリング41の付勢力によって内輪5の歯部13に噛み合っている。したがってこの状態において、内輪5は外輪3に対して周方向他方への回転が可能であり、周方向一方への回転がロックされた状態である。すなわち、内輪5を入力側とすると、内輪5から外輪3へは周方向一方へのトルク伝達がなされ、周方向他方へのトルク伝達はなされない。
【0054】
このように、本実施形態のラチェット型クラッチ1は、環状プレート51が周方向一方に所定角度回転するごとに、上記第1の状態から第4の状態へと順次切り替わってゆく。すなわちラチェット型クラッチ1のトルク伝達方向が切り替わってゆく。更に第4の状態から同一の周方向一方へ所定角度回転すると第1の状態へ復帰する。つまり環状プレート51は従来の周方向一方及び他方の回転の繰り返しのみではなく、周方向一方のみの回転も可能であることから、トルク伝達方向の切り替えを任意に設定できるようになる。そして本実施形態のラチェット型クラッチ1においては、上述したように、環状プレート51はラチェット型クラッチ1が組み込まれる変速装置内の回転機構(図示省略)によって駆動制御されるため、環状プレート51を駆動するための装置を変速装置の外部に別途設ける必要がない。したがって本実施形態によれば、ラチェット型クラッチ1が構成部品として組み込まれる装置全体の重量の増大および当該装置の配置スペースの増大を抑制することができる。本実施形態のようにラチェット型クラッチ1が構成部品として組み込まれる装置が車両の変速装置であれば、変速装置全体の重量の増大および車両への搭載スペースの増大を抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態のラチェット型クラッチ1は、前述したように、対をなす第1の爪部材31および第2の爪部材37は、保持器20と外輪3の内周部とによって外輪3に保持されている。したがって第1の爪部材31および第2の爪部材37の挙動の安定化を図るために第1の爪部材31の円柱部27および第2の爪部材37の円柱部33の支持部が複雑な形状になっても、保持器20は、例えば樹脂で形成されるので、十分に対応が可能である。その結果、ラチェット型クラッチ1における爪部材収容部形状を司る構成部品の加工工数および製造コストの削減を図ることができる。
【0056】
また、本実施形態のラチェット型クラッチ1においては、保持器20に係合部66が設けられている。この構成により、保持器20を外輪3の内周部に差し込むことによって保持器20を外輪3の内周部に簡易に配置することができると共に、係合部66の爪部78により、保持器20を外輪3の内周部に固定することができる。従来、ラチェット型クラッチに保持器を固定するためには、外輪または内輪を一対の環状部材で軸方向に挟み込むことにより固定していた。これに対し、本実施形態によれば、簡易に外輪または内輪に固定することができるので、加工工数およびコストの削減図ることができると共に、部品点数の削減を図ることができる。
【0057】
なお、本発明のラチェット型クラッチ1は、上記実施形態に限定されず、変形が可能である。例えば、爪機構部を内輪側に設け、爪機構部と噛み合う歯部を外輪の内周面に設ける構成としても良い。この場合、保持器は内輪の外周部に固定されると共に、トルク伝達方向切り替え機構である環状プレートは、爪機構部の径方向外方に配置される内周面を有し、爪機構部の爪部材と歯部との噛み合いを制限する凸部は環状プレートの当該内周面に設けられることとなる。また、上記実施形態は爪機構部を3つ設けたが、伝達するトルク容量により爪機構部の数は適宜変更が可能である。さらに、複数の爪機構部は、周方向に等間隔に設けても良いし等間隔に設けなくても良い。
【符号の説明】
【0058】
1 ラチェット型クラッチ
3 外輪
5 内輪
20 保持器
22 環状部
24 部分円筒部
30 第1爪部材支持部
31 第1の爪部材
32 第2爪部材支持部
37 第2の爪部材
51 環状プレート
56 柱部
59 凸部
66 係合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6