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特開2022-165713薄型フィルム、転写シート、および、薄型フィルムの使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165713
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】薄型フィルム、転写シート、および、薄型フィルムの使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/70 20060101AFI20221025BHJP
   A61L 15/20 20060101ALI20221025BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20221025BHJP
【FI】
A61K9/70 401
A61L15/20 100
B32B7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071176
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】宮内 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 優一郎
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4F100
【Fターム(参考)】
4C076AA73
4C076AA76
4C076BB31
4C076EE24A
4C076FF34
4C076FF68
4C081AA03
4C081BB06
4C081CA161
4C081DA02
4F100AK03B
4F100AK41A
4F100AK42B
4F100AT00B
4F100BA02
4F100DG02B
4F100DG15B
4F100EC04A
4F100EH46A
4F100EJ91B
4F100JC00
4F100JL14B
4F100JM02A
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】水分や薬剤の浸透促進と、被着体における炎症等の異常の発生の抑制とを可能とした薄型フィルム、転写シート、および、薄型フィルムの使用方法を提供する。
【解決手段】薄型フィルム10は、0.1g/m以上5.0g/m以下の単位面積当たり質量を有する。薄型フィルム10が配置された箇所での、ヒトの体温と等しい温度を有する水の蒸散量を、薄型フィルム10が配置されていない場合の蒸散量に対して抑える割合である閉塞率は、5%以上70%以下である。温度40℃相対湿度60%の環境に薄型フィルム10を配置して5時間経過させたとき、薄型フィルム10における破断強度の変化率が、-35%以上-5%以下である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1g/m以上5.0g/m以下の単位面積当たり質量を有する薄型フィルムであって、
前記薄型フィルムが配置された箇所での、ヒトの体温と等しい温度を有する水の蒸散量を、前記薄型フィルムが配置されていない場合の蒸散量に対して抑える割合である閉塞率が、5%以上70%以下であり、
温度40℃相対湿度60%の環境に前記薄型フィルムを配置して5時間経過させたとき、前記薄型フィルムにおける破断強度の変化率が、-35%以上-5%以下である
薄型フィルム。
【請求項2】
前記薄型フィルムは、閉鎖密封法に用いられる
請求項1に記載の薄型フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の薄型フィルムと、
前記薄型フィルムを支持する支持基材と、を備える
転写シート。
【請求項4】
請求項1または2に記載の薄型フィルムを、生体である被着体に貼り付ける貼付工程を含む
薄型フィルムの使用方法。
【請求項5】
前記被着体は生体の皮膚であり、
前記被着体に、経皮吸収を目的とする有効成分を含む薬剤を塗布する塗布工程を含み、
前記貼付工程では、前記薬剤を塗布した領域を覆うように、前記被着体に前記薄型フィルムを貼り付ける
請求項4に記載の薄型フィルムの使用方法。
【請求項6】
前記薄型フィルムが前記被着体に貼り付けられた状態を保ち、前記薬剤を前記被着体に浸透させる浸透工程を含む
請求項5に記載の薄型フィルムの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型フィルム、転写シート、および、薄型フィルムの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数μm以下の厚さを有する薄型フィルムは、生体の皮膚等である被着体の表面形状に対する高い追従性を有するため、接着剤や粘着剤を用いずとも被着体に密着する。そこで、こうした薄型フィルムの種々の用途が提案されている。例えば、特許文献1や非特許文献1には、薄型フィルムを、スキンケアやメイクアップ等の美容用途や、創傷の治癒等の医療用途に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-19116号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T.Fujie et al.,Adv.Funct.Mater.,2009年,19巻,2560-2568頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から、被着体の保湿や閉鎖密封法(ODT:occlusive dressing technique)のように、被着体とフィルムとの間に水分や薬剤を保持する用途には、数十μm以上の厚さを有する厚型フィルムが用いられることが一般的であった。上記用途に薄型フィルムを用いることができれば、当該用途において被着体とフィルムとの間の密着性が高められるため好ましい。
【0006】
上記用途に用いられるフィルムには、被着体の表面付近とフィルムとの間に水分や薬剤を閉じ込めて、水分や薬剤の被着体への浸透を促進させることが可能であることが求められる。一方で、水分の閉じ込めが過剰であると、汗等の体液や分泌物が被着体とフィルムとの間に長時間にわたって滞留することに起因して、炎症等の異常が被着体に生じる虞がある。したがって、水分や薬剤の閉じ込めに関して上記用途により適した特性を有する薄型フィルムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための薄型フィルムは、0.1g/m以上5.0g/m以下の単位面積当たり質量を有する薄型フィルムであって、前記薄型フィルムが配置された箇所での、ヒトの体温と等しい温度を有する水の蒸散量を、前記薄型フィルムが配置されていない場合の蒸散量に対して抑える割合である閉塞率が、5%以上70%以下であり、温度40℃相対湿度60%の環境に前記薄型フィルムを配置して5時間経過させたとき、前記薄型フィルムにおける破断強度の変化率が、-35%以上-5%以下である。
【0008】
上記構成によれば、薄型フィルムの貼付箇所で、水分や薬剤の放散が抑えられるとともに、水分が過剰に滞留することが抑えられる。そして、これらの効果が、薄型フィルムの貼付の時間経過後にも得られる。したがって、水分や薬剤の浸透促進と、被着体における炎症等の異常の発生の抑制との両立が可能である。また、薬剤の塗布領域上でのべたつきも抑えられるため、高い実用性が得られる。
【0009】
上記構成において、前記薄型フィルムは、閉鎖密封法に用いられてもよい。
従来から閉鎖密封法に用いられてきた厚型フィルムでは、被着体とフィルムとの間での水分の閉じ込めが過剰であった。これに対し、上記薄型フィルムを閉鎖密封法に用いることで、浸透促進効果を得つつ、被着体における炎症等の異常の発生を好適に抑制できる。
【0010】
上記課題を解決する転写シートは、薄型フィルムと、前記薄型フィルムを支持する支持基材と、を備える。
上記構成によれば、薄型フィルムが支持基材に支持されていることにより、薄型フィルムの変形が抑えられるとともに、薄型フィルムが取り扱いやすくなる。
【0011】
上記課題を解決する薄型フィルムの使用方法は、上記薄型フィルムを、生体である被着体に貼り付ける貼付工程を含む。
上記方法によれば、薄型フィルムの貼付箇所で、水分や薬剤の放散が抑えられるとともに、水分が過剰に滞留することが抑えられる。そして、これらの効果が、薄型フィルムの貼付の時間経過後にも得られる。したがって、水分や薬剤の浸透促進と、被着体における炎症等の異常の発生の抑制との両立が可能である。また、薬剤の塗布領域上でのべたつきも抑えられるため、高い実用性が得られる。
【0012】
上記方法において、前記被着体は生体の皮膚であり、前記被着体に、経皮吸収を目的とする有効成分を含む薬剤を塗布する塗布工程を含み、前記貼付工程では、前記薬剤を塗布した領域を覆うように、前記被着体に前記薄型フィルムを貼り付けてもよい。
【0013】
上記方法によれば、薬剤の浸透促進効果を好適に得つつ、被着体における炎症等の異常の発生を抑制できる。
【0014】
上記方法において、前記薄型フィルムが前記被着体に貼り付けられた状態を保ち、前記薬剤を前記被着体に浸透させる浸透工程を含んでもよい。
上記方法によれば、薬剤の浸透促進効果を好適に得つつ、被着体における炎症等の異常の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、薄型フィルムの貼付箇所において、水分や薬剤の浸透促進と、被着体における炎症等の異常の発生の抑制とが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態の薄型フィルムの断面構造を示す図。
図2】一実施形態の転写シートの断面構造を示す図。
図3】一実施形態の薄型フィルム収容体の斜視構造を示す図。
図4】一実施形態の薄型フィルムの使用方法において、薬剤の塗布工程を示す図。
図5】一実施形態の薄型フィルムの使用方法において、薄型フィルムの配置工程を示す図。
図6】一実施形態の薄型フィルムの使用方法において、薄型フィルムの配置工程を示す図。
図7】蛍光試薬の浸透試験について、比較例1の蛍光画像および明視野画像を示す図。
図8】蛍光試薬の浸透試験について、実施例4の蛍光画像および明視野画像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照して、薄型フィルム、転写シート、および、薄型フィルムの使用方法の一実施形態を説明する。本実施形態の薄型フィルムが貼り付けられる対象である被着体は、皮膚や臓器等の生体組織である。特に、本実施形態の薄型フィルムは、生体の皮膚を被着体とする場合に好適に用いられる。
【0018】
[薄型フィルムの構成]
図1が示すように、薄型フィルム10は、第1面11Fと、第1面11Fとは反対側の面である第2面11Rとを有している。薄型フィルム10が被着体に貼り付けられたとき、第1面11Fは被着体に接し、第2面11Rは、被着体とは反対側に位置する最外面となる。
【0019】
薄型フィルム10は、薄型フィルム10単独で被着体に対する接着性を発現する程度に薄い。言い換えれば、上記接着性を発現する程度に、薄型フィルム10の単位面積当たりの質量が小さい。具体的には、薄型フィルム10の単位面積当たり質量は、5.0g/m以下である。単位面積当たり質量が5.0g/m以下であれば、被着体の表面形状に対する薄型フィルム10の追従性が良好に得られるため、薄型フィルム10と被着体との間の密着性が高められる。また、被着体の表面形状に対する薄型フィルム10の追従性が高められていることにより、被着体が皮膚のように曲面を有していたり弾性を有していたりする場合であっても、薄型フィルム10が被着体の表面の微細な形状に追従する。それゆえ、薄型フィルム10のみが被着体上を移動することが抑えられるため、被着体への薄型フィルム10の貼付の失敗が生じにくい。
【0020】
また、薄型フィルム10の単位面積当たり質量は、0.1g/m以上である。単位面積当たり質量が0.1g/m以上であれば、薄型フィルム10の強度が良好に得られるため、薄型フィルム10に破れ等の欠陥が発生しにくくなる。また、単位面積当たり質量が0.1g/m以上であれば、連続した膜状に薄型フィルム10を形成することが容易である。
【0021】
なお、上記単位面積当たり質量は、平面視にて1mの面積を有する部分あたりに換算した薄型フィルム10の質量である。単位面積当たり質量は、例えば、複数の測定領域で測定された質量の平均値から換算すること、あるいは、薄型フィルム10の膜厚の平均値に薄型フィルム10の密度を掛けることによって求められる。薄型フィルム10の密度は、例えば、1g/cm以上3g/cm以下である。
【0022】
薄型フィルム10の材料には、高分子材料が好適に用いられる。薄型フィルム10の材料の高分子材料は、上述した範囲の単位面積当たり質量に薄型フィルム10を形成可能な材料であればよい。被着体が皮膚である場合には、高分子材料は、毒性、皮膚刺激性、および、皮膚感作性の低い生体適合性材料であることが好ましい。
【0023】
生体適合性を有する高分子材料としては、公知の材料が用いられる。高分子材料は、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリシロキサン類、セルロースやキチンやキトサン等の多糖類、カゼイン等の各種のタンパク質、ゴム、これらの高分子化合物の誘導体、変性体、共重合体、混合物である。
【0024】
薄型フィルム10には、上述した高分子材料のうちの1種類のみが含まれてもよいし、複数種類が含まれてもよい。また、薄型フィルム10が含む高分子材料における分子量の制限は特になく、薄型フィルム10は、所定の平均分子量を有する1種類の高分子材料を含んでいてもよいし、互いに異なる平均分子量を有する複数種類の高分子材料を含んでいてもよい。
【0025】
薄型フィルム10は、各種の添加剤を含有していてもよい。添加剤は、例えば、薄型フィルム10の光学特性を調整するための高屈折率材料、低屈折率材料、光吸収剤、色素や、薄型フィルム10の濡れ性を調整するための改質剤や、導電性材料、化粧料、美容成分、薬効成分、薄型フィルム10に賦香を付与できる香料、薄型フィルム10に抗菌効果を付与できる抗菌剤である。薄型フィルム10に含有させる添加剤は、薄型フィルム10にて発現が望まれる機能に応じて選択されればよい。
【0026】
薄型フィルム10は、粘着層を介さずに被着体に貼り付けられるため、薄型フィルム10が、美白やシミ対策やシワ対策のための成分のように、被着体への作用を目的とする成分を含有する場合に、こうした成分の作用が被着体に及びやすい。したがって、薄型フィルム10が含有する成分をより有効に機能させることができる。
【0027】
薄型フィルム10は、単一の膜であってもよいし、複数の膜の積層体であってもよい。薄型フィルム10が複数の膜の積層体である場合、各膜の組成は同一であってもよいし、異なってもよい。さらに、複数の膜の一部が添加剤を含んでいてもよいし、複数の膜の各々が添加剤を含んでいてもよい。
【0028】
薄型フィルム10の閉塞率Brは、薄型フィルム10における気体の透過性の低さを示すパラメータである。詳細には、閉塞率Brは、薄型フィルム10が配置された箇所での、ヒトの体温と等しい温度を有する水の蒸散量を、薄型フィルム10が配置されていない場合の蒸散量に対して抑える割合である。閉塞率Brが高いことは、薄型フィルム10内に気体分子の透過可能な経路が少ないことを意味する。すなわち、閉塞率Brが高いほど、被着体の表面付近の水分や薬剤が気化して薄型フィルム10を透過することが起こりにくく、言い換えれば、薄型フィルム10の貼付箇所にて水分や薬剤の被着体外への放散が起こりにくくなる。
【0029】
閉塞率Brは、以下の方法で測定される。
(1)37℃に加熱および保温したウォーターバスの温水をタイトボックス内に循環させる。タイトボックスにガラスサンプル瓶を入れ、ガラスサンプル瓶に、ガラスサンプル瓶の開口から垂直方向に4cm離れる位置まで、37℃の温水を入れる。
【0030】
(2)上記(1)におけるガラスサンプル瓶の開口に、直径10mmの穴をあけたプラスチック板を置き、上記穴に、PTFEメンブレンフィルター(メルクミリポア社製、孔径:10μm、直径:25mm、白色無地)を被せて、5分間、放置する。
【0031】
(3)経皮水分蒸散量測定器(ASCH JAPAN社製:VAPO SCAN AS-VT100RS)を用い、プローブを直径10mmに合わせて、上記(2)の操作後のプラスチック板の穴の位置での水分蒸散量を、メンブレンフィルター上にて測定する。測定した水分蒸散量を基準蒸散量とする。基準蒸散量は、薄型フィルム10が配置されない場合の水分蒸散量に相当する。
【0032】
(4)上記(2)におけるメンブレンフィルター上に、薄型フィルム10を貼り付ける。すなわち、薄型フィルム10を備える転写シートをメンブレンフィルター上に乗せて指で転写シートを押さえることにより、メンブレンフィルターに薄型フィルム10を貼り付け、薄型フィルム10から転写シートの支持基材を剥がす。その後、5分間、放置する。
【0033】
(5)上記経皮水分蒸散量計測器を用い、上記(3)と同様に、上記(4)の操作後のプラスチック板の穴の位置での水分蒸散量を、薄型フィルム10上にて測定し、測定した値を対象蒸散量とする。対象蒸散量は、薄型フィルム10が配置されている場合の水分蒸散量に相当する。そして閉塞率Brを、下記(式1)により算出する。
閉塞率Br(%)=(基準蒸散量-対象蒸散量)/基準蒸散量×100 ・・・(式1)
【0034】
本実施形態の薄型フィルム10において、閉塞率Brは、5%以上70%以下である。閉塞率Brが5%以上であれば、薄型フィルム10の貼付箇所にて水分や薬剤の放散が抑えられ、被着体の表面付近と薄型フィルム10との間に水分や薬剤が閉じ込められる。その結果、被着体への水分や薬剤の浸透が促進される。また、閉塞率Brが70%以下であれば、水分の閉じ込めが過剰にならないため、汗等の体液や分泌物が被着体と薄型10フィルムとの間に滞留することが抑えられる。その結果、炎症等の異常が被着体に生じることが抑えられる。
【0035】
閉塞率Brは、薄型フィルム10の単位面積当たり質量や材料によって調整できる。例えば、単位面積当たり質量が大きいほど、閉塞率Brは高くなり、薄型フィルム10の材料である高分子材料の分子量が大きいほど、閉塞率Brは高くなる。また、薄型フィルム10が局所的に薄い部分を有していると、閉塞率Brは低くなる。こうした局所的に薄い部分は、例えば、薄型フィルム10の表面に凹凸を付与することにより形成することができる。すなわち、薄型フィルム10の表面粗さが大きいほど、閉塞率Brは低くなりやすい。
【0036】
ここで、水分や薬剤を被着体に浸透させる用途に薄型フィルム10が用いられる場合、薄型フィルム10が被着体に貼り付けられている時間は、数時間以上に及ぶことが多い。したがって、薄型フィルム10が被着体に貼り付けられてから数時間が経過した後にも、水分や薬剤の浸透促進効果と、炎症等の被着体の異常を抑える効果とが持続することが好ましい。
【0037】
本実施形態の薄型フィルム10においては、破断強度の変化率Srを所定範囲とすることで、こうした効果の持続性を得ている。
薄型フィルム10の破断強度は、薄型フィルム10の破断に要する最小の圧縮荷重の大きさである。破断強度の変化率Srは、疑似使用試験前の破断強度に対する疑似使用試験後の破断強度の変化量の割合である。疑似使用試験では、疑似的な薄型フィルム10の使用環境である、温度40℃相対湿度60%の環境に、薄型フィルム10が5時間配置される。
【0038】
疑似使用試験前の薄型フィルム10の破断強度を初期破断強度、疑似使用試験後の薄型フィルム10の破断強度を試験後破断強度とするとき、変化率Srは、下記(式2)により算出される。なお、初期破断強度は、例えば、50mN以上1200mN以下であると、強度が適度に得られることにより薄型フィルム10の製造や取り扱いが容易となるため好ましい。
変化率Sr(%)=(試験後破断強度-初期破断強度)/初期破断強度×100 ・・・(式2)
【0039】
本実施形態の薄型フィルム10において、破断強度の変化率Srは、-35%以上-5%以下である。すなわち、まず、疑似使用試験後の破断強度は、疑似使用試験前の破断強度よりも小さくなる。そして、破断強度の変化率Srは、破断強度の低下が最も大きい場合で-35%である。薄型フィルム10の破断強度が低下すると、被着体の生体の動き等に起因して、薄型フィルム10に亀裂や孔が形成されやすくなるため、薄型フィルム10における水分や薬剤を閉じ込める機能が弱くなる。その結果、水分や薬剤の浸透促進効果が弱くなる。変化率Srが-35%以上であることにより、薄型フィルム10が被着体に貼り付けられてから時間が経過した後にも、薄型フィルム10の破断強度が過度に低下することが抑えられる。したがって、浸透促進効果の持続性が高められる。また、薄型フィルム10の破断強度の低下が抑えられることから、使用後の薄型フィルム10を被着体から剥がす際に薄型フィルム10が破れることも抑えられるため、薄型フィルム10の剥離が容易である。
【0040】
一方で、薄型フィルム10が被着体に貼り付けられてから時間が経過した後には、被着体と薄型フィルム10との間において、被着体への浸透により薬剤等は減少していることに対し、炎症等の被着体の異常に繋がる汗等の物質は増加している。そのため、薄型フィルム10における水分の放散機能は、上述の浸透促進効果が得られる範囲内において、薄型フィルム10の貼付の初期よりも強くなっていることが好ましい。破断強度の変化率Srが-5%以下であること、すなわち、破断強度の低下が最も小さい場合でも-5%の変化率Srが得られていることにより、被着体への貼付から時間が経過した後には、初期と比較して薄型フィルム10における水分を閉じ込める機能が弱くなるため、汗等が滞留しにくくなる。したがって、炎症等の被着体の異常を抑える効果が好適に得られる。
【0041】
破断強度の変化率Srは、薄型フィルム10の材料によって調整できる。例えば、薄型フィルム10の材料の高分子材料が加水分解しやすい材料であるほど、疑似使用試験後の破断強度の低下が大きくなる。また、薄型フィルム10の材料が、室温以上の温度や湿気に対する耐性の低い材料であると、疑似使用試験後の破断強度の低下が大きくなる。
【0042】
また、破断強度の変化率Srは、薄型フィルム10の表面粗さ、厚さ、材料の分子量によっても調整できる。例えば、薄型フィルム10の表面粗さが大きいほど、空気中の水分と接触する表面積が薄型フィルム10において増加するため、破断強度が低下しやすい。また、薄型フィルム10の厚さが小さいほど、言い換えれば、薄型フィルム10の単位面積当たり質量が小さいほど、空気中の水分が薄型フィルム10を透過しやすいため、破断強度が低下しやすい。また、薄型フィルム10の材料である高分子材料の分子量が小さいほど、加水分解による分子の切断の影響が大きいため、破断強度が低下しやすい。
【0043】
なお、薄型フィルム10の材料の分子量、単位面積当たり質量、表面粗さの各因子は、いずれも、閉塞率Brと破断強度の変化率Srとの双方に影響を与える。ただし、閉塞率Brと破断強度の変化率Srとで、各因子の作用の強さは以下のように異なる。
【0044】
閉塞率Brは、疑似使用試験が未実施である薄型フィルム10に対して測定されるパラメータであり、閉塞率Brの大きさには、薄型フィルム10の表面粗さよりも、材料の分子量および単位面積当たり質量の方が強く作用する。
【0045】
一方、破断強度の変化率Srは、疑似使用試験によって破断強度がどの程度変化するかを示すパラメータであり、疑似使用試験における破断強度の低下には、薄型フィルム10の材料の分子量および単位面積当たり質量よりも、表面粗さの方が強く作用する。これは、表面粗さの増大に起因した水分との接触面積の増大によって薄型フィルム10を構成する高分子の加水分解が促進されることが、破断強度の低下の大きな要因となるためである。
【0046】
以上のように、被着体への薄型フィルム10の貼付の初期と時間経過後とのいずれにおいても、水分や薬剤の浸透促進効果と、炎症等の被着体の異常を抑える効果との双方が得られることが好ましく、かつ、時間経過後においては初期よりも被着体の異常を抑える効果が強く得られることが好ましい。本実施形態の薄型フィルム10においては、閉塞率Brと破断強度の変化率Srとを規定することで、薄型フィルム10の貼付の初期から時間経過後まで、上記2つの効果を適切なバランスで得ることができる。
【0047】
なお、閉塞率Brが低いほど、初期の浸透促進機能が弱くなるため、浸透促進効果の維持のために、経時による破断強度の低下は小さいことが好ましい。反対に、閉塞率Brが高いほど、初期の水分の放散機能が弱くなるため、汗等の長期の滞留を抑えるために、経時による破断強度の低下は大きいことが好ましい。こうした観点からは、閉塞率Brが5%以上50%未満のとき、破断強度の変化率Srは、-10%より大きく-5%以下であることが好ましい。また、閉塞率Brが50%以上70%以下のとき、破断強度の変化率Srは、-35%以上-10%以下であることが好ましい。
【0048】
[転写シートの構成]
転写シートは、薄型フィルム10を被着体に貼り付ける場合に用いられる。図2が示すように、転写シート20は、薄型フィルム10と、薄型フィルム10を支持する支持基材21とを備えている。支持基材21には、薄型フィルム10の第2面11Rが接する。
【0049】
支持基材21は、薄型フィルム10の保管時や、薄型フィルム10の使用に際して被着体上まで薄型フィルム10を移動させるときに、薄型フィルム10の変形を抑える機能を有する。支持基材21に支持されていることにより、薄型フィルム10が取り扱いやすくなる。
【0050】
支持基材21の材料は特に限定されない。支持基材21は、例えば、高分子フィルム、織物、編物、不織布、および、紙のいずれかであることが好ましい。
支持基材21に用いられる高分子フィルムの材料は、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリシロキサン類、セルロース、カゼイン等の各種のたんぱく質、ゴム、これらの高分子化合物の誘導体、変性体、共重合体、混合物である。支持基材21として用いられる高分子フィルムは、エンボス加工、穴あけ加工、発泡等による多孔質化等の加工が施されたフィルムであってもよい。
【0051】
支持基材21に用いられる織物、編物、および、不織布は、天然繊維もしくは化学繊維から構成される。天然繊維としては、綿、麻、パルプ、毛、絹等を用いることができる。化学繊維としては、ポリエステル、ポリオレフィン、キュプラ、レーヨン、リヨセル、アセテート、ジアセテート、ナイロン、アラミド、アクリル等からなる繊維を用いることができる。また、支持基材21は、天然繊維と化学繊維とが混合された繊維材料から構成されていてもよい。こうした繊維材料からなる支持基材21には、エンボス加工、穴あけ加工、発泡等による繊維の多孔質化等の加工が施されていてもよい。
【0052】
支持基材21が繊維材料からなる場合、支持基材21の目付けは、3g/m以上200g/m以下であることが好ましく、10g/m以上100g/m以下であることがより好ましい。支持基材21の目付けが上記下限値以上であれば、静電気や気流に起因して縒れ等の変形が生じ難くなる程度の剛性を支持基材21が有するため、薄型フィルム10が取り扱いやすくなる。また、支持基材21の目付けが上記上限値以下であれば、支持基材21において繊維が詰まりすぎないため、転写シート20の使用に際して支持基材21を湿潤させて薄型フィルム10から剥離する場合に、支持基材21の吸液が円滑に進む。したがって、支持基材21の剥離が容易であり、支持基材21から被着体への薄型フィルム10の転写を好適に行うことができる。
【0053】
支持基材21が繊維材料からなる場合、繊維材料の製造方法は特に限定されない。例えば、湿式、もしくは、乾式で、スパンボンド法、メルトブローン法、エアレイド法、フラッシュ紡糸法等によって作製したウェブに対して、スパンレース法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法等を用いることにより製造された繊維材料を適宜選択して用いることができる。
【0054】
また、転写シート20は、薄型フィルム10の第1面11Fを覆う保護層を備えていてもよい。保護層を備えることにより、薄型フィルム10の保管時において、薄型フィルム10が保護される。保護層としては、支持基材21として例示した上述の各種の基材を用いることができる。保護層と支持基材21との材料は一致していてもよいし、異なっていてもよい。
【0055】
なお、平面視における薄型フィルム10および転写シート20の外形形状は、特に限定されない。薄型フィルム10および転写シート20の外形形状は、例えば、矩形等の多角形形状、円形状、楕円形状、これら以外の直線や曲線で囲まれた形状等である。平面視にて、薄型フィルム10と支持基材21の形状は一致していてもよいし、支持基材21は薄型フィルム10よりも大きくてもよい。
【0056】
[薄型フィルム収容体の構成]
図3は、薄型フィルム10が収容された収容体を示す。薄型フィルム収容体30は、保護層を備える転写シート20と、転写シート20を収容する包装体31とを備える。包装体31は、密封可能に構成されていることが好ましい。
【0057】
包装体31は、例えば、高分子フィルムから形成された袋状を有する。高分子フィルムとしては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ナイロン等からなる単層または複数の層からなるフィルムが用いられる。さらに、包装体31においては、高分子フィルムに有機物および無機物の少なくとも一方からなるガスバリア層が積層されていてもよい。ガスバリア層が設けられることによって、薄型フィルム10が外気における湿気等の影響を受けることが抑えられるため、薄型フィルム10の劣化が抑えられる。
【0058】
[薄型フィルムおよび転写シートの製造方法]
薄型フィルム10は、公知の薄膜形成方法によって形成される。例えば、薄型フィルム10の材料を含む塗液を薄膜状に基材に塗布した後に溶媒を蒸発させる溶液キャスト法や、溶融した材料を押し出して薄膜状に成形する溶融押出法を用いることができる。このうち、溶液キャスト法が好適に用いられる。
【0059】
溶液キャスト法では、薄型フィルム10の材料を溶媒に溶解もしくは分散させることにより塗液を生成する。塗液が成膜用基材の表面に塗布されることにより塗膜が形成され、塗膜が乾燥されることによって、薄型フィルム10が形成される。成膜用基材としては、例えば、樹脂フィルムが用いられる。薄型フィルム10が複数の層を備える場合には、層ごとに塗液が生成され、塗膜の形成と乾燥とが繰り返されることによって、薄型フィルム10が形成される。
【0060】
塗液の溶媒は、薄型フィルム10の材料の特性に応じて選択されればよい。溶媒は、例えば、水、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、エチルメチルケトン、アセトン、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、ヘキサン等である。
【0061】
塗液の塗布方法は、所望の厚さに塗膜を形成可能な方法であれば特に限定されない。塗布方法としては、例えば、ダイレクトグラビア、リバースグラビア、小径リバースグラビア、マイヤーコート、ダイ、カーテン、スプレー、スピンコート、スクリーン印刷、コンマ、ナイフ、グラビアオフセット、ロールコート等の各種のコーティング方法が使用可能である。
【0062】
転写シート20は、例えば、成膜用基材上に形成された薄型フィルム10が支持基材21上に転写されることによって形成される。成膜用基材から支持基材21への薄型フィルム10の転写方法としては、吸引による剥離を利用する方法や犠牲膜を利用する方法等、公知の転写方法が用いられればよい。あるいは、成膜用基材が支持基材21として用いられてもよい。すなわち、成膜用基材としての支持基材21上に薄型フィルム10が成膜されることにより、転写シート20が形成されてもよい。
保護層を設ける場合には、支持基材21上に配置された薄型フィルム10の表面に、保護層が重ねられる。
【0063】
[薄型フィルムの使用方法]
図4図6を参照して、薄型フィルム10の使用方法を説明する。以下では、閉鎖密封法に薄型フィルム10を用いる場合を説明する。
【0064】
図4が示すように、まず、生体の皮膚である被着体Sk上に薬剤Dgを塗布する塗布工程が実施される。薬剤Dgは、経皮吸収を目的とする有効成分を含んでいる。有効成分は、薬効成分であってもよいし、美容成分であってもよい。薬効成分は、例えば、ステロイド等の炎症を抑える作用を有する成分である。美容成分は、例えば、美白のための成分、シミやシワを改善する作用を有する成分、保湿剤、浸透促進剤である。言い換えれば、薬剤Dgは、医薬品であってもよいし、美容用の製剤であってもよい。薬剤Dgは、被着体Sk上に塗布することが可能であれば、液状であってもよいし、クリームや軟膏のような半固形状であってもよい。
【0065】
図5が示すように、続いて、薄型フィルム10の貼付工程が行われる。貼付工程では、薬剤Dgの塗布領域とその周囲の被着体Sk表面とに薄型フィルム10の第1面11Fが接するように、被着体Sk上に転写シート20が配置される。これにより、薬剤Dgの塗布領域は薄型フィルム10で覆われる。
【0066】
図6が示すように、薄型フィルム10から支持基材21が剥離される。これにより、薄型フィルム10が支持基材21から被着体Skに転写され、貼付工程が完了する。支持基材21の剥離の前に、支持基材21に水やローション等の液体が供給されてもよい。この場合、支持基材21に液体が浸透して支持基材21の体積や繊維径が変化することにより、薄型フィルム10と支持基材21との剥離が促進される。
【0067】
その後、薬剤Dgを被着体Skに浸透させる浸透工程が行われる。浸透工程では、薄型フィルム10が被着体Skに貼り付けられた状態が、所定の期間、保たれる。これにより、被着体Skの表面付近と薄型フィルム10との間に閉じ込められた薬剤Dgが、被着体Skの内部へと浸透していく。上記所定の期間は、薬剤Dgの塗布量や有効成分の種類に応じて設定されればよい。
【0068】
被着体Skと薄型フィルム10とが直接に接している部分では、皮膚の表面の凹凸であるキメ等、被着体Skの細かな表面形状に薄型フィルム10が追従するため、被着体Skと薄型フィルム10との高い密着性が得られる。したがって、薬剤Dgを浸透させている期間に薄型フィルム10が剥がれてしまうことが抑えられる。薬剤Dgの浸透が進み、被着体Skと薄型フィルム10との間の薬剤Dgの量が減少するに連れて、薬剤Dgの塗布領域でも、被着体Skに薄型フィルム10が密着していく。
【0069】
薄型フィルム10においては、薬剤Dgの透過が抑えられているため、薬剤Dgが薄型フィルム10の第2面11Rにまで染み出して薄型フィルム10の貼付箇所がべたつくことが抑えられる。さらに、薄型フィルム10は極めて薄いため、薄型フィルム10の貼付箇所の外観や触感の違和感を低減できる。したがって、薄型フィルム10を使用者の皮膚である被着体Skに長時間貼り付けておく場合にも、使用者が不快感や違和感を抱くことが抑えられる。
【0070】
従来のように、ポリエチレンやポリ塩化ビニリデン等からなる厚型フィルムを閉鎖密封法に用いる場合には、薬剤Dgの浸透促進効果は得られるものの、過度な密封によって汗等が皮膚の表面に長時間にわたって滞留するために、皮膚に炎症等の異常が生じやすい。これに対し、本実施形態の薄型フィルム10においては、閉塞率Brと破断強度の変化率Srとが制御されていることにより、薬剤Dgの浸透促進効果を得つつ、過度な水分の滞留に起因した異常が皮膚に生じることを抑えることが可能である。
【0071】
また、薄型フィルム10は、粘着層を用いずに被着体Skに貼り付けられるため、粘着層によって貼り付けられるフィルムと比較して、被着体Skからの剥離が容易である。したがって、薄型フィルム10の剥離に際して被着体Skが受けるダメージを低減可能であり、また、粘着層が含む成分に起因した被着体Skの荒れも抑えられる。それゆえ、閉鎖密封法を皮膚の炎症の治療に用いる場合のように、皮膚が弱っている領域に薄型フィルム10を貼り付ける場合にも、薄型フィルム10の貼付や剥離による負担が皮膚にかかることを抑えることができる。
【0072】
また、被着体Skの保湿に薄型フィルム10が用いられてもよい。この場合、薄型フィルム10の貼付前に被着体Skへの薬剤Dgの塗布は行われなくてもよい。薬剤Dgが塗布されない場合でも、薄型フィルム10の貼付によって、被着体Skの表面付近に予め存在している水分の放散が抑えられることにより、被着体Skの保湿が可能である。また、薄型フィルム10の貼付前に、薬剤Dgに代えて、有効成分を含まない水等の液体が被着体Skに塗布されてもよい。
【0073】
薄型フィルム10の貼付箇所では、良好な水分蒸散量が得られる。良好な水分蒸散量とは、健康であって肌荒れの可能性が低い前腕内側部における水分蒸散量と同等の量を意味する。水分蒸散量が良好であれば、過剰な保湿による蒸れの発生が避けられる。水分蒸散量が適正に保たれることにより、角層水分量等の皮膚内の水分量が適正に保たれる。その結果、皮膚のバリア機能等が正常に機能しやすくなり、皮膚の恒常性が正常に保たれやすくなる。
【0074】
また、薄型フィルム10はフィルム状であるため、従来のクリーム状や液状の保湿用の製品と比較して、製品の使用箇所のべたつきや衣服等への成分の付着も抑えられる。また、クリーム状や液状の保湿用の製品を薬剤Dgとして用いれば、べたつきを抑えつつ、保湿効果を高く得られる。
【0075】
さらに、薄型フィルム10は、薬剤Dgの浸透および保湿の両方の目的で用いられてもよい。一例は、加齢に伴う変形が原因のシワの改善である。シワには、表皮上に生じる浅いシワと、真皮の変形により生じる深いシワとの2つの種類がある。浅いシワの原因は、乾燥であり、浅いシワは、肌の保湿やターンオーバーによって改善する。深いシワの原因は、真皮に存在している膠原線維や弾性線維が経年変化および光老化により減少することである。減少した繊維は、真皮への有効成分の浸透によって、回復が可能である。本実施形態の薄型フィルム10を用いることで、薬剤Dgが含む有効成分の浸透により深いシワを目立たなくし、かつ、保湿により浅いシワを改善することが可能である。
【0076】
なお、薄型フィルム10の用途は、上述した閉鎖密封法や保湿に限らず、被着体と薄型フィルム10との間に水分および薬剤の少なくとも一方を保持する用途であればよい。例えば、湿潤によって創傷治癒環境を改善する湿潤療法に薄型フィルム10を用いてもよい。薄型フィルム10を用いることで、被着体の表面に湿潤環境を好適に形成することができる。湿潤療法における被着体は皮膚に限らず、臓器であってもよい。
【0077】
[実施例]
上述した薄型フィルムについて、具体的な実施例および比較例を用いて説明する。
(実施例1)
ポリ-DL-乳酸(武蔵野化学研究所社製)を、酢酸ブチルに溶解して、薄型フィルムの形成のための塗液を作製した。ポリ-DL-乳酸の平均分子量は10万である。塗液中における溶質成分の質量割合は10%である。その後、成膜用基材としてのPETシートに、ワイヤーバーを用いて上記塗液を塗布し、塗膜を形成した。成膜用基材の算術平均粗さRaは0.12μmである。塗膜は、乾燥後の膜の単位面積当たり質量が0.6g/mになるように、形成した。そして、塗膜を80℃の循環オーブンにて乾燥させることにより、薄型フィルムを形成した。
【0078】
続いて、成膜用基材上の薄型フィルムの上に、支持基材として不織布(フタムラ化学社製)を積層し、成膜用基材を剥離して、薄型フィルムを成膜用基材から支持基材に転写した。支持基材に用いた不織布の主成分はパルプを原料とするセルロースであり、不織布の目付けは20g/mである。これにより、支持基材と薄型フィルムとを備える実施例1の転写シートを得た。
【0079】
(実施例2)
成膜用基材を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例2の転写シートを得た。実施例2の成膜用基材であるPETシートの算術平均粗さRaは0.03μmである。
【0080】
(実施例3)
ポリ-DL-乳酸の平均分子量、薄型フィルムの単位面積当たり質量、および、成膜用基材を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例3の転写シートを得た。実施例3で用いたポリ-DL-乳酸の平均分子量は40万であり、薄型フィルムの単位面積当たり質量は1.2g/mである。実施例3の成膜用基材であるPETシートの算術平均粗さRaは0.36μmである。
【0081】
(実施例4)
ポリ-DL-乳酸の平均分子量、薄型フィルムの単位面積当たり質量、および、成膜用基材を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例4の転写シートを得た。実施例4で用いたポリ-DL-乳酸の平均分子量は40万であり、薄型フィルムの単位面積当たり質量は、2.4g/mである。実施例4の成膜用基材であるPETシートの算術平均粗さRaは0.43μmである。
【0082】
(比較例1)
比較例1として、被着体にフィルムを貼り付けずに、各試験を行った。すなわち、比較例1では、被着体における薬剤の塗布領域がフィルムで覆われずに露出される。
【0083】
(比較例2)
成膜用基材を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、比較例2の転写シートを得た。比較例2の成膜用基材であるPETシートの算術平均粗さRaは0.43μmである。
【0084】
(比較例3)
ポリ-DL-乳酸の平均分子量、薄型フィルムの単位面積当たり質量、および、成膜用基材を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、比較例3の転写シートを得た。比較例3で用いたポリ-DL-乳酸の平均分子量は40万であり、薄型フィルムの単位面積当たり質量は、2.4g/mである。比較例3の成膜用基材であるPETシートの算術平均粗さRaは0.03μmである。
【0085】
(比較例4)
従来の密封療法で使用されているポリエチレンフィルム(ポリラップR:宇部フィルム社製)を、比較例4のフィルムとした。比較例4のフィルムの厚さは、約0.01mmである。
【0086】
(閉塞率Br)
実施例1~4、比較例2~4のフィルムについて、上記実施形態に記載した手順に沿って蒸散量を測定し、(式1)に従って閉塞率Brを算出した。
【0087】
(破断強度の変化率Sr)
実施例1~4、比較例2~4のフィルムに対し、疑似使用試験の前後における破断強度を測定することにより、上記実施形態に記載の(式2)に従って、破断強度の変化率Srを算出した。疑似使用試験および破断強度の測定は、下記のように行った。
【0088】
<試験片の作製>
実施例1~4、比較例2,3について、一辺が10mmの正方形状の穴を有する厚紙に、両面テープ(ナイスタックTM一般タイプ:ニチバン社製)を貼り付けた後、両面テープに転写シートを貼り付け、支持基材を剥離した。これにより、上記正方形状の領域に単独の薄型フィルムが配置された試験片が作製された。比較例4については、一辺が10mmの正方形状の穴を有する厚紙に、両面テープ(ナイスタックTM一般タイプ:ニチバン社製)を貼り付けた後、両面テープにフィルムを貼り付けることにより、試験片を作製した。
【0089】
<疑似使用試験>
疑似使用試験として、試験片を、温度40℃、相対湿度60%に設定されたチャンバー内に配置して、5時間経過させた。チャンバー内の環境は、ヒトの皮膚に薄型フィルムが貼り付けられた場合の薄型フィルムの周囲の環境を疑似的に形成したものである。
【0090】
<破断強度の測定>
疑似使用試験が未実施である試験片と、疑似使用試験が実施された後の試験片とに対し、下記の方法で、破断強度を測定した。
【0091】
(1)試験片を、卓上圧縮・引張試験機(島津製作所社製:EZ-Test、ロードセル:100N、型番:130825200255)に設置した。
(2)試験片におけるフィルムが配置された正方形領域に対し、直径3mmの円柱状を有する測定圧子を、圧縮速度10mm/minで差し込み、フィルムが破断したときの荷重(mN)を測定した。測定された荷重を破断強度とした。
【0092】
表1に、実施例1~4および比較例2~4についての、疑似使用試験の前後における破断強度の測定結果と、破断強度の変化率Srとを示す。比較例3については、疑似試験後に破断強度が増加しているが、増加量は僅かであり、実質的な破断強度の変化率Srは0%と同等と言える。比較例4については、疑似試験後の破断強度の減少量が僅かであり、実質的な破断強度の変化率Srは0%と同等と言える。
【0093】
【表1】
【0094】
(べたつきの評価)
各実施例および各比較例について、薬剤の塗布領域上のべたつきの程度を、下記の方法で評価した。
【0095】
(1)一辺が5cmの正方形状を有する人工皮革に対し、ワセリンを全面に塗り広げる。
(2)上記ワセリンが塗布された人工皮革の全面を覆うように、実施例および比較例ごとにフィルムを人工皮革に貼付する。比較例1については、フィルムを人工皮革上に貼り付けず、ワセリンの塗布領域が露出した状態とする。
【0096】
(3)上記(2)の操作後の人工皮革上に、2mmの直径を有するビーズを約3g振りかける。この際、人工皮革上でビーズ同士が重なり合わないように注意する。振りかけたビーズの正確な重さを測定して、使用ビーズ重量とする。
【0097】
(4)上記(3)の操作後の人工皮革を垂直な壁面に沿って立てかけ、重力によってビーズの落下を促す。落下したビーズの重さを測定して、落下ビーズ重量とする。
(5)使用ビーズ重量と落下ビーズ重量との差を算出し、人工皮革上に残存したビーズの重量である付着ビーズ重量とする。使用ビーズ重量に対する付着ビーズ重量の割合を、べたつきの程度を示す評価値とした。当該評価値が小さいほど、人工皮革上に残存したビーズの割合が少なく、すなわち、薬剤の塗布領域上のべたつきが少ないことを示す。
【0098】
(浸透促進効果の評価)
各実施例および各比較例について、下記の方法で、表皮モデルにおける蛍光試薬の浸透の程度を確認することによって、薬剤の浸透促進効果を評価した。
【0099】
(1)表皮モデル(EpiSkin:NIKODERM RESEARCH社製)をアッセイ培地中に配置し、37℃で一晩培養する。
(2)12ウェルプレートの各ウェルに2mLのハンクス液(HBSS(+))を添加し、各ウェル内に、PBS(-)を用いてアッセイ培地を洗浄した表皮モデルを配置する。
【0100】
(3)上記(2)の操作後の各ウェルに、表皮モデルの角層側から、0.5%カルセインナトリウムを含有するPBS(-)を150mL添加する。30分静置した後、添加した液体を各ウェルから除去する。
【0101】
(4)各ウェルに対し、1分間隔で、表皮モデルの角層側から、0.5%カルセインナトリウムを含有するPBS(-)を50mL添加する。
(5)実施例1~4、比較例2,3については、表皮モデルの角層側表面に転写シートを貼り付け、支持基材を剥離する。このとき、カルセインナトリウムを含む余分な液体を支持基材に吸収させることで除去する。比較例1については、表皮モデルの角層側表面に不織布を配置して、カルセインナトリウムを含む余分な液体を不織布に吸収させた後、不織布を除去する。比較例4については、表皮モデルの角層側表面に比較例4のフィルムを配置し、その上に不織布を重ね、カルセインナトリウムを含む余分な液体を不織布に吸収させた後、不織布を除去する。
【0102】
(6)上記(5)の操作の5時間後に、表皮モデルを回収してPBS(-)で十分に洗浄した後、表皮モデルを1/2のサイズに分割する。
(7)凍結組織切片作製用包埋剤(OCTコンパウンド:サクラファインテックジャパン社製)を用いて、上記(6)の操作後の表皮モデルを包埋した試料を作製し、液体窒素を用いて試料を凍結する。
【0103】
(8)クライオスタット(ライカマイクロシステムズ社製)を用いて、試料を5.0μmの厚さにスライスして切片を作製する。
(9)蛍光顕微鏡を用いて切片を観察し、表皮モデルの断面にて、カルセインナトリウムの蛍光が観察される深さを計測する。
【0104】
図7および図8に、切片の画像の一例を示す。図7は、比較例1の画像であり、図8は、実施例4の画像である。各図について、上の画像は蛍光画像であり、白く見える部分が蛍光の観察される部分である。下の画像は、上の画像に対応する部分の明視野画像である。図7図8とを比較すると、図8の方が深さ方向への蛍光の広がりが大きい。すなわち、実施例4では、比較例1よりもカルセインナトリウムの浸透が促進されている。このように、フィルムを配置しない比較例1を比較対象とすることで、各実施例および各比較例における浸透促進効果を評価した。
【0105】
(炎症の有無の評価)
実施例1~4、比較例2,3について、転写シートを、30mmの直径を有する円形状に切り抜いた試験片を作製した。そして、被験者の前腕内側に試験箇所を選定し、試験箇所を水で湿らせたウエスで拭った後に、薄型フィルムが試験箇所の皮膚に接触するように試験片を配置し、支持基材を端から剥離した。これにより、皮膚上に薄型フィルムが残り、薄型フィルムの貼り付けが完了した。貼付から5時間経過後に、薄型フィルムを剥がして試験箇所の皮膚の色味を観察し、赤みの発生の有無を確認した。
【0106】
また、比較例4について、フィルムを30mmの直径を有する円形状に切り抜いて試験片を作製した。そして、被験者の前腕内側に試験箇所を選定し、試験箇所を水で湿らせたウエスで拭った後に、試験箇所に試験片を配置した。貼付から5時間経過後に、フィルムを剥がして試験箇所の皮膚の色味を観察し、赤みの発生の有無を確認した。
【0107】
また、比較例1について、被験者の前腕内側に試験箇所を選定して、試験箇所を水で湿らせたウエスで拭い、そのまま放置した。5時間経過後に、試験箇所の皮膚の色味を観察し、赤みの発生の有無を確認した。
各試験箇所について、赤みが確認された場合を、炎症有と判定した。
【0108】
(結果)
表2に、各実施例および各比較例について、閉塞率Br、破断強度の変化率Sr、べたつきの評価値、浸透促進効果の評価結果、炎症有無の判定結果、および、総合評価を示す。浸透促進効果の評価結果については、カルセインナトリウムの蛍光が観察される深さが、比較例1よりも大きい場合を「○」とし、比較例1と同等もしくは比較例1よりも小さい場合を「×」とした。総合評価では、浸透促進効果の評価結果が「○」であり、かつ、炎症有無の判定結果が「無」である場合を「○」とし、それ以外を「×」とした。
【0109】
【表2】
【0110】
表2が示すように、閉塞率Brが5%以上70%以下であり、かつ、破断強度の変化率Srが-35%以上-5%以下である実施例1~4では、浸透促進効果が良好に得られるとともに、炎症の発生が抑えられることが確認された。
【0111】
これに対し、比較例2では、炎症の発生は抑えられているものの、浸透促進効果が不十分である。比較例2では、閉塞率Brが低いために、薬剤の放散を抑える効果が十分でないことに加え、破断強度の低下が大きいことにより、時間経過とともにさらに薬剤の放散が進んだために、浸透促進効果が得られなかったと考えられる。
【0112】
一方、比較例3では、浸透促進効果は得られたものの、炎症の発生が確認された。比較例3では、閉塞率Brが高いために、被着体と薄型フィルムとの間に過剰に水分が留められ、さらに、破断強度の低下が小さいことにより、汗を含む水分が長期に滞留した結果、炎症が発生したと考えられる。
【0113】
また、厚型フィルムである比較例4でも、浸透促進効果は得られたものの、炎症の発生が確認された。比較例4では、閉塞率Brが高く、かつ、破断強度の低下が小さい。このように、従来から閉鎖密封法に用いられてきた厚型フィルムでは、被着体とフィルムとの間での水分の閉じ込めが過剰であることが確認された。
【0114】
また、べたつきの評価について、実施例1~4では、フィルムを配置しない比較例1と比べて、薬剤の塗布領域上のべたつきが顕著に抑えられることが確認された。特に、閉塞率Brが30%以上であると、べたつきが全くないと言える結果が得られた。
【0115】
以上、実施形態および実施例にて説明したように、上記薄型フィルム、転写シート、および、薄型フィルムの使用方法によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)薄型フィルム10の閉塞率Brが5%以上70%以下であり、かつ、破断強度の変化率Srが-35%以上-5%以下である。これにより、薄型フィルム10の貼付箇所で、水分や薬剤の放散が抑えられるとともに、水分が過剰に滞留することが抑えられる。そして、これらの効果が、薄型フィルム10の貼付の時間経過後にも得られる。したがって、水分や薬剤の浸透促進と、被着体における炎症等の異常の発生の抑制との両立が可能である。また、薬剤の塗布領域上でのべたつきも抑えられるため、高い実用性が得られる。
【0116】
(2)従来から閉鎖密封法に用いられてきた厚型フィルムでは、被着体とフィルムとの間での水分の閉じ込めが過剰であることに対し、薄型フィルム10を閉鎖密封法に用いることで、浸透促進効果を得つつ、被着体における炎症等の異常の発生を好適に抑制できる。
【0117】
(3)転写シート20において、薄型フィルム10が支持基材21に支持されていることにより、薄型フィルム10の変形が抑えられるとともに、薄型フィルム10が取り扱いやすくなる。
【符号の説明】
【0118】
Sk…被着体
Dg…薬剤
10…薄型フィルム
11F…第1面
11R…第2面
20…転写シート
21…支持基材
30…薄型フィルム収容体
31…包装体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8