(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165714
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】異物回収装置
(51)【国際特許分類】
B63H 21/38 20060101AFI20221025BHJP
B63H 20/28 20060101ALI20221025BHJP
B63H 11/01 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
B63H21/38 A
B63H20/28 100
B63H11/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071177
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】金原 匡利
(57)【要約】
【課題】船舶推進機の動力性能を犠牲にすることなく、水中の細かな異物を回収する。
【解決手段】異物回収装置は、船体に推進力を与える船舶推進機に設けられている。異物回収装置は、水平方向に広がるアンチベンチレーションプレート(41)と、アンチベンチレーションプレートに設けられた回収部(51)と、を備えている。アンチベンチレーションプレート内に取水口(47)から排水口(48)に向かう流路(49)が形成され、回収部に流路内の水流から細粒状の異物を回収可能なフィルタが設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に推進力を与える船舶推進機に設けられた異物回収装置であって、
水平方向に広がるアンチベンチレーションプレートと、
前記アンチベンチレーションプレートに設けられた回収部と、を備え、
前記アンチベンチレーションプレート内に取水口から排水口に向かう流路が形成され、
前記回収部に前記流路内の水流から細粒状の異物を回収可能なフィルタが設けられていることを特徴とする異物回収装置。
【請求項2】
前記アンチベンチレーションプレートの後部に前記回収部が設けられ、
前記アンチベンチレーションプレートの前部に前記取水口が形成され、前記アンチベンチレーションプレートの後部に前記回収部に連なる前記排水口が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の異物回収装置。
【請求項3】
前記アンチベンチレーションプレートが平板状に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の異物回収装置。
【請求項4】
前記アンチベンチレーションプレートの流路には、前記取水口から前記回収部までの間に逆流防止構造が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の異物回収装置。
【請求項5】
前記回収部はカートリッジ式であり、前記フィルタは目の細かさが異なる多層構造の濾過部材であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の異物回収装置。
【請求項6】
前記アンチベンチレーションプレートが前記船舶推進機に一体的に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の異物回収装置。
【請求項7】
前記アンチベンチレーションプレートが前記船舶推進機に着脱可能に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の異物回収装置。
【請求項8】
前記アンチベンチレーションプレートに整流装置が着脱可能なことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の異物回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴミによる海、湖、河川等の汚染が深刻な環境破壊問題になっている。特に、マイクロプラスチックと呼ばれる微細なプラスチック片による汚染が注目されている。マイクロプラスチック等の細かな異物は水中生物への影響も大きいため、これら異物の積極的な回収対策が望まれている。水中から動力源の冷却水を取り込む船外機の例ではあるが、冷却水の流路にストレーナ等が設けられたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の船舶推進機では、ストレーナのメッシュをすり抜ける微細な異物は回収されずに水中に排出される。
【0003】
また、船舶推進機に後付けされた異物回収装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の異物回収装置は、船舶推進機のアンチベンチレーションプレートの上方に取り付けられている。異物回収装置のケース本体には前面の取水口から後面の排水口に向かって流路が形成されており、この流路の途中に細かな異物を捕捉可能なフィルタが配置されている。走行中に取水口から流路内に水が流れ込み、フィルタによって水中の細かな異物が取り除かれて排水口から水が排出されている。高速走行時には水面から異物回収装置が露出して走行抵抗が減少される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-184198号公報
【特許文献2】特開2021-008199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の異物回収装置が中・大型の船舶推進機を対象にした大型の装置であり、小型の船舶推進機に対して、このような異物回収装置を追加する構成は現実的ではない。また、高速走行時には異物回収装置による走行抵抗が減らされるが、通常走行時には異物回収装置によって走行抵抗が増加するという問題がある。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、船舶推進機の動力性能を犠牲にすることなく、水中の細かな異物を回収可能な異物回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の異物回収装置は、船体に推進力を与える船舶推進機に設けられた異物回収装置であって、水平方向に広がるアンチベンチレーションプレートと、前記アンチベンチレーションプレートに設けられた回収部と、を備え、前記アンチベンチレーションプレート内に取水口から排水口に向かう流路が形成され、前記回収部に前記流路内の水流から細粒状の異物を回収可能なフィルタが設けられていることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様の異物回収装置によれば、アンチベンチレーションプレートの流路内の水流がフィルタを通過することで、水流からマイクロプラスチック等の細粒状の異物が取り除かれて船舶の走行中に異物の回収対策が実施される。また、アンチベンチレーションプレートに回収部が設けられているため、通常走行時及び高速走行時のいずれにおいても、走行抵抗が大きくなることが少なく船舶推進機の動力性能が犠牲になることがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本実施例の異物回収装置周辺の斜視図である。
【
図5】本実施例の
図4の回収部をA-A線に沿って切断した断面図である。
【
図6】本実施例の船舶の前進走行時の水の流れを示す図である。
【
図7】本実施例の船舶の後進走行時の水の流れを示す図である。
【
図8】変形例の船外機の異物回収装置周辺の右側面図である。
【
図9】他の変形例の船外機の異物回収装置周辺の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一態様の異物回収装置は、船体に推進力を与える船舶推進機に設けられている。異物回収装置は、水平方向に広がるアンチベンチレーションプレートと、アンチベンチレーションプレートに設けられた回収部と、を備えている。アンチベンチレーションプレート内には取水口から排水口に向かう流路が形成され、回収部に流路内の水流から細粒状の異物を回収可能なフィルタが設けられている。アンチベンチレーションプレートの流路内の水流がフィルタを通過することで、水流からマイクロプラスチック等の細粒状の異物が取り除かれて船舶の走行中に異物の回収対策が実施される。また、アンチベンチレーションプレートに回収部が設けられているため、通常走行時及び高速走行時のいずれにおいても、走行抵抗が抑えられて船舶推進機の動力性能が犠牲になることがない。
【実施例0011】
以下、添付図面を参照して、本実施例の異物回収装置が適用された船外機(アウトボードドライブ)について説明する。本実施例では船舶推進機として船外機を例示して説明するが、異物回収装置は船内外機(インボードエンジン・アウトボードドライブ)等の他の船舶推進機にも適用可能である。
図1は本実施例の船外機の右側面図である。また、以下の図では、矢印FRは前方、矢印REは後方、矢印Lは左方、矢印Rは右方をそれぞれ示している。
【0012】
図1に示すように、船外機1は、電動モータ12を動力源とした電動式船外機である。船外機1は船尾のトランサムボード2に取り付けられ、電動モータ12の駆動力をプロペラ34に伝えて船舶に推進力を発生させている。船外機1の上部にはモータカバー11が設けられている。モータカバー11の内側には、電動モータ12、インバータ(不図示)、ポンプ(不図示)等が収容されている。モータカバー11の前方には操船用のハンドル13が設けられている。ハンドル13の基端部はハンドル軸14を介してアタッチメント15に連結され、アタッチメント15はシャフトハウジング21の上端部に接続されている。
【0013】
シャフトハウジング21はモータカバー11から下方に延びている。シャフトハウジング21の内側には、電動モータ12に連結したドライブシャフト22が縦向き状態で収容されている。シャフトハウジング21の上半部の周囲にはスイベルブラケット23が設けられ、スイベルブラケット23によってシャフトハウジング21が回転可能に支持されている。スイベルブラケット23にはチルト軸24を介して左右一対のクランプブラケット25が設けられている。各クランプブラケット25によってトランサムボード2がクランプされ、チルト軸24を中心にしてスイベルブラケット23がチルト方向に動かされる。
【0014】
シャフトハウジング21の下部には前後方向に幅広なヒートシンク26が形成されている。モータカバー11及びシャフトハウジング21には、ヒートシンク26とモータカバー11内のポンプの間で冷却水を循環させる冷却水路が形成されている。モータカバー11内で暖められた冷却水は冷却水路を通じてヒートシンク26によって冷却されている。ヒートシンク26の下部にはギアケース31が設けられている。ギアケース31の内側にはシャフトハウジング21から下方に突き出したドライブシャフト22が収容されている。ギアケース31の下部には整流板として機能するスケグ32が形成されている。
【0015】
ギアケース31の内側にはドライブシャフト22に連結したプロペラシャフト33が横向き状態で収容されている。プロペラシャフト33はギアケース31から後方に突出しており、プロペラシャフト33の突出部分にプロペラ34が取り付けられている。ドライブシャフト22とプロペラシャフト33がベベルギアを介して連結されることで、ドライブシャフト22の回転がプロペラシャフト33の回転に変換されて、電動モータ12の動力が船舶の推進力に変換される。ギアケース31とヒートシンク26の境界付近には、水面からのプロペラ34への空気の流入を抑えるアンチベンチレーションプレート41が設けられている。
【0016】
ところで、環境対策として、海、湖、河川等からマイクロプラスチック等の細粒状の異物を回収することが望まれている。アンチベンチレーションプレート41に後付けで異物の回収装置を設けることが可能であるが、アンチベンチレーションプレート41に後付けするための加工をユーザに委ねなければならない。また、回収装置の追加によって走行抵抗が大きくなって船外機1の動力性能が低下するおそれがある。そこで、本実施例の船外機1には、アンチベンチレーションプレート41の内部に異物回収流路を形成した異物回収装置40が設けられている。
【0017】
以下、
図2から
図5を参照して、異物回収装置の詳細構成について説明する。
図2は本実施例の異物回収装置周辺の斜視図である。
図3は本実施例の異物回収装置の斜視図である。
図4は本実施例の回収部の斜視図である。
図5は本実施例の
図4の回収部をA-A線に沿って切断した断面図である。
【0018】
図2に示すように、ヒートシンク26に異物回収装置40が取り付けられている。異物回収装置40の外殻はアンチベンチレーションプレート41によって形成されている。アンチベンチレーションプレート41は、プロペラ34を上方から覆うように、ヒートシンク26の外周面の後側から水平方向に広がっている。船舶の滑走時(高速走行時)にアンチベンチレーションプレート41が水面に略平行になるように船外機1(
図1参照)のチルト角が調整されている。アンチベンチレーションプレート41は、前側の一部をヒートシンク26の外周面に沿って切り欠いた上面視略楕円状に形成されている。
【0019】
アンチベンチレーションプレート41は、下面を開放したプレートケース42とプレートケース42の下面を覆うプレートカバー43とによって、所定の厚み(例えば、25[mm])を持った平板状に形成されている。アンチベンチレーションプレート41が平板状に形成されることで、アンチベンチレーションプレート41による走行抵抗の増加が抑えられている。プレートカバー43の上面から取付部44が突き出しており、取付部44が一対のボルト45によってヒートシンク26に取り付けられている。このように、アンチベンチレーションプレート41がヒートシンク26に着脱可能に取り付けられている。
【0020】
アンチベンチレーションプレート41の後部にはカートリッジ式の回収部51が取り付けられている。回収部51はアンチベンチレーションプレート41に後方から挿し込まれており、蝶ネジ46によって回収部51がプレートケース42に固定されている。回収部51の後面にはアーチ状の摘み53が設けられており、プレートカバー43から蝶ネジ46を取り外して摘み53を引き抜くことでアンチベンチレーションプレート41から回収部51が取り出される。回収部51がカートリッジ式であるため、回収部51に設けられた後述するフィルタ62(
図4参照)の交換作業が簡略化されている。
【0021】
図3(A)及び
図3(B)に示すように、プレートケース42に対してプレートカバー43が複数個所でネジ止めされている。アンチベンチレーションプレート41の前部には一対の取水口47が形成され、アンチベンチレーションプレート41の後部には一対の排水口48が形成されている。より詳細には、プレートケース42の前側は左右に分かれており、この分岐部分の先端に一対の取水口47が形成されている。アンチベンチレーションプレート41の下面の後部、すなわちプレートカバー43の後部には回収部51に連なる一対の排水口48が形成されている。
【0022】
アンチベンチレーションプレート41の内側には、一対の取水口47から一対の排水口48に向かう一対の流路49が形成されている。各流路49には、各取水口47から回収部51までの間に逆流防止構造が形成されている。本実施例では、逆流防止構造として複数の分岐流路から成る、所謂テスラバルブが採用されている。各取水口47から各排水口48への流れは分岐流路の集合箇所で強められ、各排水口48から各取水口47への流れは分岐流路の集合箇所で弱められるように形成されている。なお、逆流防止構造としては水路の途中に機械的な逆止弁が設けられていてもよい。
【0023】
船舶の前進走行時には各取水口47から水が取り込まれて、各流路49を通じて各取水口47から各排水口48に向かって流れが生じる。船舶の後進走行時には流路49の逆流防止構造によって各排水口48から各取水口47への逆流が抑えられている。各取水口47には、小石や藻等を捕捉するストレーナ(不図示)等が配置されている。このため、各流路49の水流からは小石や藻等の異物が取り除かれている。各取水口47にはストレーナが配置されていなくてもよいが、各取水口47が多数の小孔によって形成されることで流路49を詰まらせる異物が取り込まれないにしてもよい。
【0024】
図4及び
図5に示すように、回収部51は、アンチベンチレーションプレート41(
図3(A)参照)から引き出し可能に上面視略長方形状に形成されている。回収部51の後半部は摘み53が付いた回収部本体52になっており、回収部51の前半部はフィルタ62を保持した上面視矩形枠状のホルダ61になっている。回収部本体52の後面はアンチベンチレーションプレート41の外周面に沿って形成され、この回収部本体52の後面からアーチ状の摘み53が突き出している。回収部本体52の上面から下面に向かって貫通穴54が形成されており、貫通穴54には蝶ネジ46(
図3(B)参照)のネジ部が挿し込まれる。
【0025】
回収部本体52の内側には、前方に向かって開口した一対の空洞55が形成されている。回収部本体52の両側壁には一対の開口56が形成されており、各開口56を通じて各空洞55と各流路49(
図3(A)参照)が連なっている。回収部本体52から前方に隔壁57が突き出しており、隔壁57によってホルダ61の内側が左右に仕切られている。隔壁57の先端には左右方向に広い前壁58が形成されており、前壁58はホルダ61の前枠66にフィルタ62を押し付けている。回収部本体52の両側壁から前方にスナップフィット式の一対の爪部59が突き出しており、一対の爪部59によってホルダ61の後端の一対の凸部63が掛け止めされている。
【0026】
ホルダ61の後枠は上梁64と下梁65によって形成されており、上梁64と下梁65の間の開口を通じてホルダ61の内側と回収部本体52の一対の空洞55が連なっている。ホルダ61と回収部本体52によってフィルタ62が取り付けられている。具体的には、ホルダ61の上梁64と回収部本体52の上壁の間、ホルダ61の前枠66と回収部本体52の前壁58の間、ホルダ61の下梁65と回収部本体52の下壁の間にフィルタ62が挟み込まれている。このため、回収部本体52からホルダ61を取り外すことで、回収部51からフィルタ62だけを交換することが可能になっている。
【0027】
フィルタ62は目の細かさが異なる多層構造の濾過部材であり、フィルタ62によって水流からマイクロプラスチック等の細粒状の異物が回収可能に形成されている。例えば、フィルタ62として網を用いる場合には目の粗さが異なる複数の網を組み合わせて使用される。フィルタ62によって回収する異物の目標サイズは、少なくとも目視可能な大きさ(例えば、直径0.1[mm]以上-直径0.2[mm]以上)である。このように、船舶の前進走行によって取水口47からアンチベンチレーションプレート41内に水が取り込まれ、排水口48付近でフィルタ62によって細粒状の異物が取り除かれている。
【0028】
フィルタ62に捕捉された異物は、フィルタ62の交換によってアンチベンチレーションプレート41から取り出される。アンチベンチレーションプレート41からカートリッジ式の回収部51が引き出されて、回収部51ごとフィルタ62が交換されてもよいし、回収部51からフィルタ62が取り外されて、フィルタ62だけが交換されてもよい。なお、フィルタ62が目詰まりしても各流路49の流れが滞るだけで、アンチベンチレーションプレート41の本来の機能を果たすことができ走行性能に与える影響は少ない。このため、フィルタ62の交換はユーザの任意のタイミングで実施可能である。
【0029】
図6及び
図7を参照して、アンチベンチレーションプレートの水の流れについて説明する。
図6は本実施例の船舶の前進走行時の水の流れを示す図である。
図7は本実施例の船舶の後進走行時の水の流れを示す図である。
【0030】
図6(A)に示すように、船舶の前進走行時には、アンチベンチレーションプレート41の前部の一対の取水口47から一対の流路49に水が流れ込む。このとき、各取水口47のストレーナによって小石等の大きめの異物が取り除かれる。各取水口47から回収部本体52に向かって、流路49の複数の分岐流路によって分岐と集合を繰り返しながら水が流れている。複数の分岐流路の集合箇所(複数の矢印F1が集まる箇所)で水の流れが強められてスムーズに水が流れている。そして、回収部本体52の各空洞55からホルダ61の内側を通り、アンチベンチレーションプレート41の下面の各排水口48から水が排出される。
【0031】
図6(B)に示すように、回収部本体52の各空洞55からホルダ61に水が流れ込み、フィルタ62によって細粒状の異物Cが取り除かれて各排水口48から排水される。このとき、回収部51の各空洞55から前方に向かう水流の影響によって、ホルダ61の前半部分に異物Cが堆積され易くなっている。各排水口48はホルダ61の後半部分に位置しているため、各排水口48付近でフィルタ62が異物Cによって目詰まりし難くなっている。このように、各取水口47から取り込まれた水がフィルタ62に濾過されることで、船舶の通常運転中に細粒状の異物Cが回収されて環境対策が実施される。
【0032】
図7(A)に示すように、船舶の後進走行時には、回収部本体52から各取水口47に向かって、流路49の複数の分岐流路によって分岐と集合を繰り返しながら水が流れている。複数の分岐流路の集合箇所(複数の矢印F2が集まる箇所)で水の流れが弱められて逆流が抑えられている。また、アンチベンチレーションプレート41の外周面に沿った流れが、アンチベンチレーションプレート41の前側で剥離してカルマン渦等の後流F3が生じている。後流F3によって各取水口47からの排水が抑えられて、流路49における逆流が抑えられている。
【0033】
図7(B)に示すように、アンチベンチレーションプレート41の下面に各排水口48が形成されているため、後進走行時の水の流れの向きと各排水口48の向きが交差して各排水口48から水が流れ込み難くなっている。また、各排水口48付近で逆流してフィルタ62に水圧が作用しても、フィルタ62が上方に膨らむことによって、ホルダ61の前半部分に堆積した異物Cが閉じ込められる。このように、ホルダ61には多少の弛みを持った状態でフィルタ62が保持されている。各排水口48から各取水口47への逆流が抑えられることで、フィルタ62から異物Cが流れ出し難くなっている。
【0034】
以上、本実施例によれば、アンチベンチレーションプレート41の流路49内の水流がフィルタ62を通過することで、水流からマイクロプラスチック等の細粒状の異物が取り除かれて船舶の走行中に異物の回収対策が実施される。また、アンチベンチレーションプレート41に回収部51が設けられているため、通常走行時及び高速走行時のいずれにおいても、走行抵抗が大きくなることがなく船外機1の動力性能が犠牲になることがない。
【0035】
なお、本実施例では、アンチベンチレーションプレートが船外機に着脱可能に設けられているが、
図8に示すように、アンチベンチレーションプレート71が船外機1に一体的に設けられていてもよい。これにより、アンチベンチレーションプレート71の取付作業を省略することができる。
【0036】
また、本実施例では、アンチベンチレーションプレートに整流装置が設けられていないが、
図9に示すように、アンチベンチレーションプレート41に整流装置としてコースキーパー76が着脱可能に設けられていてもよい。また、整流装置としてはスタビライザやプロペラガードが設けられていてもよい。これにより、整流装置の取付作業を容易にして、整流装置のメンテナンスを簡略化することができる。
【0037】
また、本実施例では、船外機に対してアンチベンチレーションプレートが着脱可能に設けられているため、シングルプロペラとデュアルプロペラ(二重反転プロペラ)で前後長が異なるアンチベンチレーションプレートが使い分けられてもよい。これにより、シングルプロペラとデュアルプロペラでギアケースやヒートシンクを兼用することができる。また、アンチベンチレーションプレートが別体で製造されるため、ギアケースやヒートシンクの製造時には金型サイズが大きくなることがない。
【0038】
また、本実施例では、船外機のヒートシンクにアンチベンチレーションプレートが取り付けられたが、アンチベンチレーションプレートの取付位置は特に限定されない。例えば、船外機のギアケースにアンチベンチレーションプレートが取り付けられてもよい。
【0039】
また、本実施例では、アンチベンチレーションプレートがヒートシンクから水平方向に広がっているが、水平方向とは鉛直方向に対して完全に直交する方向に限らず、鉛直方向に対して実質的に直交と見なせる程度に僅かに傾斜する方向を含んでいる。
【0040】
また、本実施例では、アンチベンチレーションプレートが平板状に形成されたが、アンチベンチレーションの機能を果たせばアンチベンチレーションプレートの形状は特に限定されない。
【0041】
また、本実施例では、マイクロプラスチック等の異物の除去を目的としているが、養殖業者にとってはマイクロプラスチックの他に餌の残り等をフィルタで効果的に取り除いて海洋汚染の防止に貢献することができる。
【0042】
また、アンチベンチレーションプレートは、ベンチレーションプレート、アンチキャビテーションプレート、キャビテーションプレートと呼ばれていてもよい。
【0043】
また、本実施例では、回収部がカートリッジ式に形成されているが、回収部はカートリッジ式に限定されない。回収部からフィルタのみが交換可能に形成されていてもよい。
【0044】
また、本実施例では、多層構造のフィルタが用いられているが、細粒状の異物を捕捉可能であれば、単層構造のフィルタが用いられてもよい。
【0045】
また、本実施例では、流路に逆流防止構造が形成されているが、流路には逆流防止構造が形成されていなくてもよい。カルマン渦等の後流や排水口の位置等によっても逆流を防止することができる。
【0046】
また、本実施例では、排水口付近にフィルタが設けられているが、取水口から排水口までの間であれば、どの位置にフィルタが設けられていてもよい。
【0047】
以上の通り、本実施例の異物回収装置(40)は、船体に推進力を与える船舶推進機(船外機1)に設けられた異物回収装置であって、水平方向に広がるアンチベンチレーションプレート(41)と、アンチベンチレーションプレートに設けられた回収部(51)と、を備え、アンチベンチレーションプレート内に取水口(47)から排水口(48)に向かう流路(49)が形成され、回収部に流路内の水流から細粒状の異物を回収可能なフィルタ(62)が設けられている。この構成によれば、アンチベンチレーションプレートの流路内の水流がフィルタを通過することで、水流からマイクロプラスチック等の細粒状の異物が取り除かれて船舶の走行中に異物の回収対策が実施される。また、アンチベンチレーションプレートに回収部が設けられているため、通常走行時及び高速走行時のいずれにおいても、走行抵抗が大きくなることがなく船舶推進機の動力性能が犠牲になることがない。
【0048】
本実施例の異物回収装置において、アンチベンチレーションプレートの後部に回収部が設けられ、アンチベンチレーションプレートの前部に取水口が形成され、アンチベンチレーションプレートの後部に回収部に連なる排水口が形成されている。この構成によれば、船舶の前進走行によって取水口からアンチベンチレーションプレート内に水を取り込み、排水口付近で水流から細粒状の異物を取り除くことができる。
【0049】
本実施例の異物回収装置において、アンチベンチレーションプレートが平板状に形成されている。この構成によれば、アンチベンチレーションによる走行抵抗の増加を抑えることができる。
【0050】
本実施例の異物回収装置において、アンチベンチレーションプレートの流路には、取水口から回収部までの間に逆流防止構造が形成されている。この構成によれば、流路の逆流防止構造によって船舶の後進走行時に排水口から取水口への逆流が抑えられている。
【0051】
本実施例の異物回収装置において、回収部はカートリッジ式であり、フィルタは目の細かさが異なる多層構造の濾過部材である。この構成によれば、フィルタによって水流から細粒状の異物を効果的に取り除くことができる。また、回収部がカートリッジ式であるため、フィルタの交換作業を簡略化することができる。
【0052】
本実施例の異物回収装置において、アンチベンチレーションプレートが船舶推進機に一体的に設けられている。この構成によれば、アンチベンチレーションプレートの取付作業を省略することができる。
【0053】
本実施例の異物回収装置において、アンチベンチレーションプレートが船舶推進機に着脱可能に設けられている。この構成によれば、シングルプロペラとデュアルプロペラでギアケースやヒートシンクを兼用することができる。また、ギアケースやヒートシンクの製造時に金型サイズが大きくなることがない。
【0054】
本実施例の異物回収装置において、アンチベンチレーションプレートに整流装置(コースキーパー76)が着脱可能である。この構成によれば、整流装置の取付作業を容易にして、整流装置のメンテナンスが容易になる。
【0055】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0056】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。